ネットプロモーター の経済学:クチコミの影響力...

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NPS ホワイトペーパー 1 ネットプロモーター®の経済学:クチコミの影響力 ワイヤレス業界におけるネットプロモーターとクチコミの関係を探る Vince Nowinski

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ネットプロモーター®の経済学:クチコミの影響力 ワイヤレス業界におけるネットプロモーターとクチコミの関係を探る

Vince Nowinski著

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目次 1. ネットプロモーターを活用して顧客ロイヤルティを測定する 2. ネットプロモーターの経済学 3. 手法 3.1. データ収集 3.2. 分析 4. 結果:ワイヤレスプロバイダ 4.1. 業界概要 4.2. ネットプロモーター実績 4.3. ネットプロモーターと購買価値 4.4. ネットプロモーターと顧客の李テンション 4.5. 購買価値および解約 4.6. ネットプロモーターとクチコミ換算価値 5. ネットプロモーターと全体的な顧客価値 5.2. ベライゾン vs. スプリント・ネクステル:ネットプロモーター実績の比較 5.3. ベライゾン vs. スプリント・ネクステル:購買価値の比較 5.4. ベライゾン vs. スプリント・ネクステル:リテンションの比較 5.5. ベライゾン vs. スプリント・ネクステル:クチコミ換算価値の比較 5.6. ベライゾン vs. スプリント・ネクステル:トータルな顧客価値の比較 6. ワイヤレス業界で顧客ロイヤルティを促進するものは何か? 6.1. ベライゾン vs. スプリント・ネクステル:経営戦略とその実行力の比較 7. ネットプロモーターはあなたのビジネスにも役立つのか?

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ネットプロモーター®の経済学:クチコミの影響力 ワイヤレス業界におけるネットプロモーターとクチコミの関係を探る

Vince Nowinski著 企業の成功には、明快で効果的な成長戦略を持つこと、それを実行すること、そして時間をかけながら改善を進めることが重要です。こう言うのは簡単ですが、長期にわたり持続可能な成長を達成することは難しいものです。経済状況や、特定の業種における競争環境など、業績に影響を与える要因は多数ありますが、これらの要因は予測不可能でコントロールできないことがほとんどです。企業がコントロールできるのは、自社で立てる戦略とプロセスだけであり、これには製品とサービスの品質、営業効率とマーケティング努力、そして「顧客ロイヤルティ」がどう形成されるのかということへの理解とそれを強化するための投資などが含まれます。 多くの企業は顧客ロイヤルティの概念を取り入れています。しかしその大半が、簡単でわかりやすい測定方法をなかなか見つけられず、また顧客ロイヤルティの測定結果とそれがもたらす事業への影響、すなわち財務結果を結びつけられないがために、顧客体験の最適化に向けた投資に踏み切れずにいます。「満足した顧客は企業の成長を促進する」という「顧客ロイヤルティの法則」は、それに関しての論文も多く出され確固たるものとなっています。(例:Heskett, Sasser & Schlesinger 1997年、Ittner & Larcker 1998年、Marsden & Upton 2005年、Reichheld 2003年)一方で、どのような顧客の行動が、企業の収益性や成長に影響を与えるのかについての実践的な研究は今日までほとんどなされてきませんでした。 この白書は、通信分野、特にB2C(企業-消費者間)のワイヤレスサービスという特定の業種セグメントに焦点を当てて調査を行い、業績向上にインパクトを与える顧客ロイヤルティと顧客行動の関係をより深く理解しようとしたものです。「良かった」、または「悪かった」というようなブランド体験を他人に伝えようとするクチコミ行動を調べることで顧客ロイヤルティと業績向上への関係付けを行い、また数値化を試みました。

1. ネットプロモーターを活用して顧客ロイヤルティを測定する サトメトリックス社とフレッド・ライクヘルド氏が共同開発したネットプロモーター®は、顧客ロイヤルティを測定し、その改善に対して実効性のあるアプローチを提供するものです。NPSは企業の顧客母集団における「推奨者」(企業や製品を薦める可能性が高い人)の数と「批判者」(企業や製品を薦める可能性が低い人)の数を比較することで顧客ロイヤルティを測り、また企業の長期的成長の可能性をも測る指標です。1

ネットプロモーターの考え方は大変シンプルで、裏付けとなる研究も充実しているため、短期間で、幅広い業界に採用されてきました。アップル、ゼネラル・エレクトリック、チャールズ・シュワブ、インテュイットなどの世界的企業がネットプロモーターの考え方を支持し、ネットプロモータープロ

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グラムを実践しています。フォレスターの会長兼CEOのジョージ・F・クルーニーは、業界が急速に採用を進めている様子を「ネットプロモーターは各企業における原動力となりつつある」とコメントしています。(フォレスター・マーケティング・フォーラム 2007年)

2. ネットプロモーターの経済学 ネットプロモーターを採用する企業が増え、その活用が進む中、ネットプロモーターと業績向上には関連があるということが広く認知され、その信頼性はますます高まっています。しかし、関連性があるということと、それを証明することは同じではありません。ネットプロモーターと財務的な業績向上の関係をより深く理解するために、サトメトリックスは特定の顧客行動が顧客ロイヤルティに与える影響について独自の調査を行いました。その結果、ネットプロモーターは業績予測の先行指標となりうること、また業績向上を促進するものでもあることが判りました。 図1-1は、ネットプロモーターがもたらすクチコミ効果のフレームワークを表しています。この図からネットプロモーターが業績に影響を与える指標であることがわかります。ネットプロモーターは、顧客が友人や同僚にその企業を推奨するかどうかを尋ねた結果から導き出す指標です。単純にクチコミの影響を測定する指標ではありません。

図 1-1.ネットプロモーターがもたらすクチコミ効果のフレームワーク NPSは、企業と顧客の交流が深まるにつれ高まっていきます。顧客体験の良し悪しの累積が、企業に対して感じるロイヤルティの度合いになるということです。顧客は非常によい体験をすると、より高いロイヤルティを感じます。ロイヤルティが最も高い顧客は「推奨者」、最も低い顧客は「批判者」、その間の顧客は「中立者」と分類されます。

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顧客ロイヤルティはさまざまな形で現れます。この白書においては、企業の収益性と成長に最も関係する3つの顧客行動、すなわち「購買額」、「契約期間」、「クチコミ換算価値」に焦点をあてました。「購買額」は、ある期間中に顧客が企業に対していくら支出したかを把握するものです。「契約期間」は、購買額の価値を長期的に把握するものです。「クチコミ換算価値」は、クチコミ情報により得られる、または失われる取引の量を把握するものです。顧客がよい体験をし、ロイヤルティが高い場合、平均的により多くの支出をし、また良いクチコミは新たな取引を生むことが予測できます。反対に顧客がひどい体験をし、ロイヤルティが低い場合、購買額は低くなり(ブランド変更もあり得る)、クチコミによる新規取引機会の損失も予想されます。 ネットプロモーターがもたらすクチコミ効果のフレームワークは、NPSが企業の業績に大きな影響を与える指標であることを明らかにしました。推奨者と批判者を把握すること、それ自体も大いに有益ですが、顧客の購買行動およびクチコミ行動が事業の行く末にいかに影響を与えるかを理解することは大変重要です。 以降の章では、NPSと顧客行動の関係の数量化を試みていきます。ネットプロモーターがもたらすクチコミ効果のフレームワークをB2Cのワイヤレス業界に適用し、推奨者と批判者それぞれの購買価値とクチコミ換算価値を算出してその経済効果をNPSに関連付けました。加えて、成功事例の紹介と、実際に企業が適用した場合に留意すべき点についても詳しく説明していきます。

3. 手法 3.1. データ収集 本白書の調査では、サトメトリックスの「ネットプロモーターベンチマークデータベース」からのデータを使用しています。以下に挙げるように、主に米国の2つの市場、4つの業界、14のセグメントにおいて、顧客からのアンケート回答を継続的にオプトイン方式で収集しています。 ネットプロモーターベンチマークデータベース: 市場

B2B(企業―企業間) B2C(企業―消費者間)

業界 金融サービス ハイテクノロジー インターネット 通信

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セグメント 金融サービス- 銀行、証券、クレジットカード ハイテクノロジ―- ハードウェア、ソフトウェア/ASP、ネットワークおよび周辺機器 インターネット- eコマース、ウェブ情報サービス、インターネットサービスプロバイダ 通信- 総合、ケーブル、ワイヤレス、地域/長距離電話、通信機器プロバイダ

調査に参加した回答者は、評価したい業種と企業を自分で選択します。例えば、最初に通信サービスを選び、次にワイヤレスを選択し、そして最後にベライゾンという特定の企業を選択し評価します。主な評価基準には、ネットプロモーター、その他の業界標準のロイヤルティ指標、自己申告ベースでのサービスへの支出額・クチコミ行動・製品全般へのフィードバック、コストパフォーマンス、評判、取引のしやすさ等に関する満足度が含まれます。ネットプロモーターベンチマークデータベースは、7年間以上にわたり約285,000名から回答を収集している充実したデータソースであり、業界の状況、競合の状況についてのレポートと分析を提供しています。

3.2. 分析 はじめに、企業への推奨度合いから顧客を推奨者と批判者に分類しました。次に推奨者と批判者の購買価値とクチコミ換算価値を割り出し、推奨者と批判者の価値を定量化しました。 顧客からの自己申告データを活用し、推奨者と批判者の平均年間購買額から、それぞれの購買価値を計算しました。図2-1が示すように、平均的な顧客に比べ、推奨者はより多く支出をする傾向にあり、批判者はあまり支出しない傾向にあるという仮説が立てられました。事業の内容や価格構造によっては、どのような顧客タイプでも購買額があまり変わらない場合があることも想定されるので、すべてに当てはまるとは言えないものの、顧客のロイヤルティが購買額に影響を与えるであろうということを仮説に入れました。

図 2-1.顧客価値の合計

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また、推奨者のポジティブなクチコミ行動は新しい取引を生むので、推奨者のトータルな顧客価値は大きいだろうということ、逆に、ネガティブなクチコミ行動は取引機会の損失となるため、批判者のトータルな顧客価値は小さいだろうということを予測しました。 推奨者のクチコミ換算価値を算出するために、過去12カ月にポジティブなクチコミをした推奨者の割合に、その人たちが行ったポジティブなクチコミの平均回数を掛けました。次にこの値に、コンバージョン率(クチコミをきっかけに顧客に転じた見込み客の率)を掛け、推奨者が創出する新しい顧客数の概算値を求めました。更に、推奨者1人が創出する顧客数概算値に全顧客の平均購買額を乗じ、ポジティブなクチコミが生み出す経済価値であるクチコミ換算額を求めました。2

図 2-2.推奨者のクチコミ換算価値の計算 批判者のクチコミ換算価値の算出にも同様のアプローチを使用しました。ただし、批判者のコンバージョン率を求めるためには、ネガティブなクチコミの影響がなければ実際に企業の顧客となっていたであろう人の数を特定する必要があります。しかし、この算出は不可能であるため、他の方法を用い推測する必要がありました。コンバージョン率、つまりネガティブなクチコミを聞いた結果、他のプロバイダに乗り換えた見込客の数を算出するために、それに関連する多くの文献と複数の業界調査結果をレビューしました。その結果ネガティブへのコンバージョン率は、ポジティブへのコンバージョン率の4倍にもなるという結果を得ました。3

図 2-3.批判者のクチコミ換算価値の計算

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4. 結果:ワイヤレスサービスプロバイダ 4.1. 業界概要 ワイヤレス業界は、通信サービス業界の1セグメントです。ワイヤレス業界は比較的新しく、1990年代のハイテクブームのときに驚くほどの成長を遂げました。初めは数多くのプロバイダが存在しましたが、現在では4社の大手プロバイダ(AT&T、オールテル(最近ベライゾンが買収)、スプリント・ネクステル、T-モバイル、ベライゾン)が市場を独占しています。 ワイヤレス業界における成長の原動力は技術革新で、急速なペースで新しいデバイスや機能が市場に投入されています。ワイヤレスプロバイダが提供するサービス範囲も、通話から、テキスト・メッセージ、ウェブ閲覧、GPSまでどんどん拡大しています。さらに、多くのワイヤレスプロバイダは、販売促進のための特別割引や加入者を増やすための端末割引により、顧客獲得に多額のコストを費やしています。そして市場が成熟した結果、顧客獲得コストは更に上昇しています。顧客の獲得は主に競合プロバイダから顧客を奪うことでしか達成されないからです。 ワイヤレス業界全般の成長率は近年減速しています。従来、成長率は経済全体の状況と、新規顧客獲得の成否に影響されてきました。しかし、市場は次の段階に入り、今は競合企業と比べ、いかに成功を収められるかは、どの程度既存顧客からの収入をあげられるかとサービス加入期間をどれくらい長くできるかで決まります。そのため既存顧客のリテンションは軽視できない課題です。ワイヤレスプロバイダは新規顧客獲得に平均300ドルを費やしています。それに対して顧客リテンションにかかる平均金額は25ドルです。(Brown 2004年、Bolton & Bronkhorst 1995年)。既存顧客のリテンション(そしてその阻害要因、顧客離れ)は成長への鍵となるのです。それにも関わらずワイヤレスプロバイダは、インセンティブにものを言わせるようなキャンペーン施策の展開ばかりを行い、顧客ロイヤルティを向上し顧客自らに選択されることこそがリテンションにつながるということをあまり理解していません。

4.2. ネットプロモーター実績 2007年のワイヤレスプロバイダ業界全体のNPSは14でした。これは他のセグメント、とりわけNPS27を記録したコンピュータ・ハードウェア業界と比較するととても低い数字ですが、2005年にはわずか5と低調であったことと比較すると、業界としては着実に成長をしていることがわかります。 調査対象者の41%が推奨者で、32%が中立者、27%が批判者でした。より広範な通信業界(ケーブル、ワイヤレス、固定地域電話および遠距離電話、通信機器プロバイダを含む)と比較し、ワイヤレスプロバイダのNPSはとても高く、しかも毎年驚くほど上がっています。

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※注:B2C通信業界は以下のセグメントで構成されている。総合、ケーブル、携帯電話、地域/遠距離

電話、通信機器プロバイダ。 図 3-1.通信業界におけるネットプロモータースコア

4.3. ネットプロモーターと購買価値 他の業界とは対照的に、ワイヤレス業界では、顧客が推奨者、中立者、批判者のどれであろうと平均支出額に違いは見られませんでした。顧客の申告ベースで見ると、昨年度のワイヤレスプロバイダに対する平均支出額は1,144ドルです。4

図 3-2.推奨者と批判者の購買価値

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なぜワイヤレス業界では、購買額と顧客ロイヤルティが比例するという一般的な傾向が当てはまらないのでしょうか?一つの大きな理由として考えられるのは、ワイヤレス業界が打ち出している通話プランです。ワイヤレス業界では、顧客は通常、月額基本使用契約を結びます。この月額基本使用料を支払うことにより、決められた時間量やデータ量を上限としてワイヤレスネットワークに無制限でアクセスできたり、テキストデータが送受信できたりするようになります。月額基本使用料とそのサービスレベルは、プロバイダとの契約時に確定します。契約者が購買額を変えられるのは通話プランの選択時とアップグレード時ですが、これは頻繁に起きることではありません。他の商品やサービスと比較した場合、この通話プランによって、ロイヤルティが高い顧客でも支出額を増やす機会があまりないのだろうと考えられます。 このため、契約後は顧客の支出金額に見合う価値を提供することがロイヤルティの鍵となります。超過料金、サービス料、追加コンテンツ料金、ウェブおよびデータアクセスの上限超えなどの追加料金の発生は、顧客との関係を損ねる原因になってしまうことがあります。追加料金は顧客が必要不可欠な場合に発生することが多いのですが(例:ネットワーク外からの自宅への通話)、予想外または異常な追加料金があると、通話プランに入っていることもあり、顧客は腹立たしさをおぼえイライラします。これは「ロイヤルティの高い顧客はより多く支出する」とする、従来の顧客ロイヤルティモデルと大きく異なります。

4.4. ネットプロモーターと顧客のリテンション ワイヤレスサービスにおいては、購買額とネットプロモーターのカテゴリ間(推奨者、批判者等)で相関が見られないのは、ワイヤレスサービスプロバイダにとって顧客ロイヤルティは収入に影響を与えるものではない、と示唆しているわけではありません。実際、顧客のサービス加入期間に関するデータを見直すと、ロイヤルティとの関連性がわかります。サービス加入期間は、ワイヤレスプロバイダが気にするべき重要な指標です。ワイヤレス市場が飽和状態に近づく中で、新規顧客の獲得には高いインセンティブが必要になりました。そのコストを考えると、ワイヤレスプロバイダにとって事業の収益性を維持するためには、リテンションに力を注ぐことがますます重要になっています。

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図3-3.推奨者と批判者のサービス加入期間の差異

4.5. 購買価値および解約 米国人口の80%以上が今やワイヤレスサービスの利用者です。携帯電話が広く浸透したため、新規加入者となりうる潜在的顧客数は急速に減少しています。 市場の90%近くが全米キャリア4社(AT&T、オールテル(最近ベライゾンが買収)、スプリント・ネクステル、 T-モバイル、ベライゾン)で占められており、キャリア間の競争は激しく、従来の顧客獲得コストは急騰しています。市場シェアの獲得は、競合他社からの顧客流入がほとんどです。(ヤンキーグループは、現在は新規加入者の約70%が他のプロバイダからの流入であるが、2010年には、この数が84%に上昇すると予測しています)。この結果、ワイヤレスプロバイダは、流出する恐れがある加入者の割合と、競合他社から流入するチャンスがある加入者の割合に気を配っています。顧客ロイヤルティを向上させ解約率を抑えることは、今後の業績向上にとって重要な要因となっています。 報告書によると、業界の月間解約率は平均1-3%です。この数字は小さいように見えますが、解約率をわずかでも減少させることができれば企業の収益に大きな影響を与えます。解約率2.5%の企業と1%の企業を比較してみましょう。 まず平均月間解約率が2.5%のワイヤレスプロバイダを見てみます。この数字から年間解約率全体は30%と単純計算できます。現在の企業の加入者数が2,000万人だと仮定し、年間解約率が30%であると、1年に600万人の加入者を失うことになります。業界の加入者一人あたりの月間売上高(ARPU)が50ドルですので、毎年、顧客を600万人失うということは、30億ドルの減収になります。そして、この減収分の大半が競合他社の増収分となるのです。

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次に解約率1%のプロバイダを見てみましょう。月間解約率1%であれば、年間解約率全体は12%と単純計算できます。ここでも加入者数が2,000万人、加入者一人あたりの月間売上高(ARPU)を50ドルとすると、年間解約率12%は、毎年240万人の顧客流出、14億ドルの減収につながり、この影響度は年間解約率30%の場合と比較すると半分以下となります。 上記の例では、既存顧客のリテンションコストと比べ、新規顧客獲得コストが非常に高くなることついては何も言及していません。例えば、平均月間解約率2.5%のプロバイダであれば、40カ月、4年もかからないうちにすべての顧客が入れ替わる計算になります。加入者数規模を維持するには、顧客の平均加入期間がほぼ2倍(8年以上)である競合他社と比べると、新規顧客獲得に相当なリソースを投下しなくてはなりません。

ワイヤレス業界では、推奨者、批判者などの分類が購買価格ではなくサービスへの加入期間で決まっ

てくることがわかりました。顧客価値を一時のことではなく、ライフタイムバリューとして捕らえる

考え方は、従来のモデルには含まれていませんでしたので、これは大変興味深いことです。顧客ロイ

ヤルティにおいてリーダーシップをとっている企業にとっては、キャンペーンで一時的に顧客を獲得

するコストよりも解約を減らす方が確実に優位です。解約とNPSの関係性は重要な事項なので、この

後の事例でも見ていきたいと思います。

4.6. ネットプロモーターとクチコミ換算価値 購買額はネットプロモーターのカテゴリ別に違いはありませんでしたが、「推奨者」、「中立者」、「批判者」といったカテゴリはクチコミ行動に強く影響を与えます。4分の3の推奨者が過去12カ月の間に友人や同僚に自分のワイヤレスプロバイダについてポジティブなクチコミをしたと報告しています。更に、推奨者は平均3名以上にポジティブなコメントを共有しています。 これに反して、批判者は推奨者と比べあまりクチコミをしていません。ネガティブな体験をした顧客の約3分の1しか、自分が選んだプロバイダとの取引をしないよう、積極的に他の人を説得していませんでした。これは推奨者がポジティブなクチコミを行う割合の約半分です。一方、批判者がネガティブなクチコミをする場合、推奨者よりも多くの人に言いふらす傾向にありました。推奨者は3.24名に話したのに対し、批判者は4.33名に好ましくない体験を共有していました。5 これらの調査結果から、推奨者と批判者の平均クチコミ換算価値を算出することができ、また各グループのトータル顧客価値が算定できました。 下の図3-4-1にあるように、推奨者一人当たりのポジティブなクチコミは、約0.5名以上の顧客増に貢献しました。言い換えると推奨者のポジティブなクチコ拡散で、毎年推奨者2人から約1名の新規顧客を獲得することができるということです。

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図3-4-1.推奨者のクチコミ換算価値 図3-4-2が示すように批判者一人当たりのクチコミ換算価値は見込客1.28名を失うことに値しました。6 つまり批判者は、自身の購買価値が低いだけでなく、そのネガティブなクチコミ拡散で顧客を0.28人追加するのと同等なコストを生じさせていました。ネガティブなクチコミが行われる頻度は低いですが、ネガティブなクチコミの効果により批判者が与えるダメージは大きいといえます。7

図 3-4-2.批判者のクチコミ換算価値

5. ネットプロモーターと全体的な顧客価値 推奨者と批判者に関する購買価値とクチコミ換算価値を組み合わせることで、ワイヤレスプロバイダに対する経済的影響がよりはっきりとわかりました。 推奨者の主な経済的価値は、直接的なものにはサービス加入期間の延長から得られる追加収入が、間接的なものにはポジティブなクチコミによる新規顧客獲得の追加収入があります。また我々のモデルから、間接的な価値のほうが大きいということがわかりました。顧客の自己申告から、推奨者のトータルな顧客価値は1,700ドルを超えると算定しました。

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推奨者と批判者を比較すると、購買額には大きな違いはありませんでしたが、興味深いことがわかりました。批判者は解約リスクが高く、また批判者のネガティブなクチコミは潜在的な追加コストであるということです。批判者の購買額から、ネガティブなクチコミが原因で失った機会損失額を差引くと、批判者一人当たり、なんとマイナス300ドルを超える損失を生み出していることがわかりました。推奨者と比較すると、批判者の顧客価値の合計は平均で2,000ドルも低かったのです。更に、勧誘の際にかかったコストとサポートコストを含めるとこの差は拡大し、批判者は利益に大きな悪影響を与えていることが判明しました。

図3-5. 購買価値+クチコミ換算価値=全体的な顧客価値

5.1. 事例:ベライゾン vs スプリント・ネクステル ワイヤレスサービス業界を見ると、時間とともに顧客ロイヤルティに明らかな違いが現れてきたことがわかります。ベライゾンは以前からこのセグメントにおけるロイヤルティリーダーで、長年にわたりT-モバイルが最大のライバルでした。ベライゾンのスコアはほとんど変化がなく、2003年から2005年に徐々に上昇した後、2006年には横ばいになっています。 AT&Tシンギュラー(2005年以前のスコアはのちに2社が合併したことを反映し合算されている)とオールテルは、顧客ロイヤルティの面では二番手グループで、2007年のネットプロモータースコアはわずかにプラスという状態でした。スプリント・ネクステルは大変興味深い事例です。2003年から2005年にかけて、スプリント・ネクステルの顧客は他の二番手グループのプロバイダと似たようなコメントをしていましたが、その後、2005年にスコアが急落しています。それ以来、スプリント・ネクステルはネットプロモータースコアに関しては常に後塵を拝しています。

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図 4-1.ワイヤレスプロバイダ トップ 5の NPS経年比較

5.2. ベライゾン vs. スプリント・ネクステル:ネットプロモーター実績の比較 ベライゾンの顧客のNPSは25で、これに対しスプリント・ネクステルのNPSは-18と(図4-2参照)、その差は非常に大きいものとなっています。各社の中立者の割合は近いことから(約30%)、2社の大きな違いは、推奨者と批判者の割合によるものであることがわかります。 ベライゾンが常にスプリント・ネクステルよりも優れた業績を残している中、スプリント・ネクステルの実績は2005年にスプリントがネクステルを350億ドルで買収した後、大幅に悪化しました。2003年から2005年のスコアはネクステルの加入者により押し上げられたため、NPSのトレンドはやや誤解を招きやすいものとなっています(2005年の合併を反映するために、これ以前のスコアは合算してあります)。合併前は、ネクステルのネットプロモータースコアはおよそプラスでしたが、スプリントのスコアは常にマイナスでした。合併後、元ネクステルの顧客は、スプリントの以前からの顧客と同じようにネガティブな感覚を持つようになっていきました。合併の複雑さ、互換性がない2つのネットワークが引き続き使用されたこと、サポートとサービスのつまずき(スプリント・ネクステルは何度もJDパワーの顧客サービス評価で最下位となっています)といった要素が混じりあい、顧客のロイヤルティは悪化しました。

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図4-2.ベライゾン vs. スプリント・ネクステル:ネットプロモーター実績比較

5.3. ベライゾン vs. スプリント・ネクステル:購買価値の比較 他の業種とは異なり、ワイヤレス業界では、「推奨者」「中立者」「批判者」というNPSのロイヤルティカテゴリ別での、サービス購買額の違いは認められませんでした。この事例で取り上げているプロバイダ2社についても同様な傾向が見られました。推奨者のサービス購買額は平均的な顧客の購買額とほとんど同じで、一方、批判者のサービス購買額は平均をわずかに上回りました。この違いは各プロバイダで200ドル以内とわずかでしたが、この調査結果によって、ワイヤレス業界ではロイヤルティはサービス購買額増にはつながらないということがさらに明らかになりました。それどころか、サービス購買額が平均を超えた顧客は、損をしたような気持ちになり、その結果、プロバイダに対するロイヤルティをなくしたようです。 このため、ベライゾンは顧客ロイヤルティのリーダー企業でありましたが、プロバイダの中でNPSが最下位であったスプリント・ネクステルと比較しても、平均サービス購買額がわずかに高かったことを除いては、顧客カテゴリ別の購買額ではほとんど差がありませんでした。

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図 4-3. ベライゾン VS.スプリント・ネクステル:ネットプロモーター購買価値の比較

5.4. ベライゾン vs.スプリント・ネクステル:リテンションの比較 購買額に関する限り、ベライゾンはロイヤルティリーダーであることが売上向上につながったとは言えません。そのため、前述の通り、顧客ロイヤルティと購買額の関係は、解約が原因で既存収入が失われる可能性の観点から重視されるべきです。顧客が自己申告したサービス加入期間の違いのデータから、NPSと解約には相関関係があることが予見されました。(上記図3-3を参照)。更にその関係を調べるため次のような調査を行いました。 ネットプロモーターデータベースにある両社の年間NPSと、年次報告書にある平均解約数を比較してみました。どの年においても、経営の良し悪しでNPSと解約率は上下動することから、更に一歩進んで、解約率をNPSよりも1年分遅らせ比較したところ、NPSは解約の先行指標となることが判りました。NPSが低い年の後には解約が高くなることが予測されました。図4.4と図4.5はベライゾンとスプリント・ネクステルの2社のNPSと、その後の顧客の解約率の関係を示したものです。

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図4-4. ベライゾンのNPSと解約率

図4-5. スプリント・ネクステルのNPSと解約率 調査期間中、ベライゾンは高い水準のNPSを記録しただけでなく、解約率についても低水準のよいレベル(平均解約率1.3%)でした。一方、スプリント・ネクステルの解約率(平均2.6%)は非常に高いものでした。ここで重要なのは、両社のロイヤルティと解約率の間に負の相関関係が見られたことです。つまり、NPSが上昇すると、翌年の解約率は下がり、NPSが下降すると、解約率が上がるということです。わずか0.1%の解約率の変化が、数百万ドル分の収入を左右するので、この負の相関関係を考えると、ワイヤレスプロバイダは積極的に顧客ロイヤルティをモニターし、管理することが必要であることがわかります。この考え方は、これまでこの業界が、技術革新と新規顧客獲得のためのインセンティブ施策キャンペーンを重視してきたこととはまったく対照的です。

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5.5. ベライゾンvs.スプリント・ネクステル:クチコミ換算価値の比較 ワイヤレス業界では、ネットプロモーターは、クチコミ換算価値においても強力な指標となっています。ベライゾンは、加入者数が多く、推奨者の比率も高くなっています。これは結果としてベライゾンでは好意的なクチコミが広まりやすいということを示しています。さらに、ベライゾンの推奨者はとても活発です。過去12カ月に1人以上にクチコミをした数は推奨者の報告によると、ベライゾンが78%、スプリント・ネクステルは64%でした。このような傾向は他の業界のロイヤルティリーダーにも見られます。(例:『ネットプロモーター®の経済学 クチコミの影響力 コンピューターハードウェア業界編)』のアップルの推奨者の優位性の記述を参照のこと) 下記の図4-6が示すように、ベライゾンは推奨者の高いクチコミ率のおかげで、推奨者一人あたりのクチコミ換算価値は新規顧客0.61人分、一方のスプリント・ネクステルは0.52人分に当たる(図4-7参照)と試算されました。

図 4-6.ベライゾンの推奨者のクチコミ換算価値

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図 4-7.スプリント・ネクステルの推奨者のクチコミ換算価値 スプリント・ネクステルと比較し、ベライゾンはポジティブなクチコミのお陰で明らかに優位にありました。そして、これに加え顧客価値に大きな差を与えていたのは、ベライゾンのでは批判者の割合が低かったということです。ベライゾンの批判者の割合は21%で、スプリント・ネクステルの半分以下でした。さらにベライゾンの批判者は、スプリント・ネクステルの批判者と比較し、友人や同僚にネガティブなコメントをすることが少なかったのです。図4-8が示すように、ベライゾンでは批判者の3分の1弱しか積極的に友人や同僚に対して同社への加入をやめさせようとしていません。一方スプリント・ネクステルは、ほぼ半分の批判者が積極的に友人や同僚に対して同社との取引をやめさせようとしています。(図4-9参照)。 この結果、ベライゾンは自社の顧客基盤の中で、批判者一人あたり約1名の新規潜在顧客(1:1の比率)を失い、スプリント・ネクステルは批判者一人あたり約2名の新規潜在顧客(1:2の比率)を失っていました。

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図 4-8.ベライゾンの批判者のクチコミ換算価値

図 4-9.スプリント・ネクステルの批判者のクチコミ換算価値 この2社間で、なぜ批判者のネガティブなクチコミに違いが生じるかは不明です。他の企業や業界と比べても、スプリント・ネクステルの批判者は、ネガティブなクチコミを共有することにとても積極的です。その結果、ベライゾンがロイヤルティリーダーであることによる効果よりも、スプリント・ネクステルの批判者が他人が自分と同じ経験をしないようにという思いから強い不満を表す、その影響が2社の違いに大きい影響をもたらしているのではないかと考えられます。「推奨度」の二次分析から、スプリント・ネクステルでは不満が非常に強いということが判りました。スプリント・ネクステルの批判者の23%が「推奨度」について0-10の中から「0」を選んでいます。これに対してベライゾンの批判者はわずか9%だけが「0」を選択しました。スプリント・ネクステルはどういうわけか同社のワイヤレスサービスを推奨することは「ありえない」という顧客の割合が高いのです。不満を抱えた顧客

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の割合が高いということは、スプリント・ネクステルの批判者が非常に多くのネガティブなクチコミを流布しているということを説明しているようなものです。

5.6. ベライゾンvs.スプリント・ネクステル:トータルな顧客価値の比較 ベライゾンにおける推奨者の顧客価値の合計はスプリント・ネクステルより約230ドル高くなっています。しかしスプリント・ネクステルにとってもっとも痛いのは、その批判者がもたらす悪影響(解約とネガティブなクチコミ)です。スプリント・ネクステルの批判者のコスト合計は、ベライゾンと比較すると1.3倍です。そしてスプリント・ネクステルの批判者の数がベライゾンの2倍であることを考えると、将来的な業績向上は期待できないと考えざるを得ません。

図 4-10.ベライゾン vs.スプリント・ネクステル:

購買価値+クチコミ換算価値=顧客価値の合計

6. ワイヤレス業界で顧客ロイヤルティを促進するものは何か? それではワイヤレス業界の企業はどうしたら顧客の心をつかむことができるのでしょうか?サトメトリックスのネットプロモーターデータベースには、この問題に答えるための通信分野に特化した満足度についての質問が数多くあります。 それらを活用し、顧客ロイヤルティを促進する一番の要因を特定するために、満足度と推奨度の相関関係の強さを分析しました。 ワイヤレス業界において顧客ロイヤルティを促進するトップ要因(相関係数が0.60以上のもの)は、「製品全般」、「信頼性」、「全体的な価値」、「取引のしやすさ」、「顧客サービス/サポート」についての満足の度合いでした。図4-11に、これらの重要な要素に関するベライゾンとスプリント・ネクステルの比較を示しています。

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図 4-11.ベライゾンとスプリント・ネクステルのワイヤレス業界におけるトップドライバー分析 全社NPS同様に、ここでもベライゾンは高い評価を得ています。顧客が重要視する項目全てにおいてスプリント・ネクステルを上回りました。ベライゾンは特に「信頼性」の評価が高く、スプリント・ネクステルと比較すると平均ポイントが1ポイント以上も上がっています。「信頼性」に続いては、「顧客サービス/サポート」、「取引のしやすさ」、「製品全般」が挙げられました。2社間の差が最も少なかったものは、「全体的な価値」に対する評価でした。

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6.1. ベライゾン vs. スプリント・ネクステル:経営戦略とその実行力の比較 ベライゾンの経営戦略のどのような点が、これのような強さに貢献しているのでしょうか?ベライゾンとスプリント・ネクステルは、同じ市場におり、要求される基本的なニーズも同じです。そのため、この2社の違いは主として、経営戦略とその実行力、加えて顧客体験とその結果である顧客ロイヤルティが果たす役割によると考えられます。上記の調査から導き出された業績向上に向けての成功要因である「信頼性」、「企業価値」、「顧客サービス」といった分野での評価が高いのは、ベライゾンの以下のような経営哲学を見るとうなずけるところがあります。

ネットワークの信頼性 ベライゾンがトップであり続けられる理由は何でしょうか?簡単に言えば、顧客はベライゾンが「米国で最も信頼できるネットワークである」と思っているからです。同社のバリュープロポジションは昔からシンプルで直接的です。ネットワークとインフラの信頼性、それによって顧客が得られる利益を強く訴求しています。またこのマーケティングメッセージが必ず顧客の実体験と一致するように、ベライゾンはネットワークに対して常に投資を行い、最善の状態を維持しています。2007年だけでも、ベライゾンは60億ドルを投じてアルカテル・ルーセントとパートナーシップを結び、ネットワークを更改しました。こうした努力の結果、競合他社よりも絶対的な優位性を保っています。(顧客ロイヤルティの主な推進要因に対する平均満足度は0.5ポイントも高くなっています)。2008年はこの優位性を不動のものとするため、米国内でのネットワークエリアの拡張を目的にオールテルを買収しました。これは同時に、それまでネットワークの信頼性スコアにおいてベライゾンと唯一競っていた企業を吸収したことにもなりました。(ベライゾン8.0 vs.アルカテル8.05) ベライゾンのネットワークに対する高い評判は、ネットワークの信頼性が顧客の最大の懸念事項であると繰り返し言われてきたスプリント・ネクステル(データ対象企業の中で最下位の平均スコア6.8)とはまったく対照的です。スプリントは2005年にネクステルと合併した後、旧ネクステルの顧客流入によるデータ容量の増加を低品質の圧縮技術で処理しようと、ネットワークにより多くのユーザーを詰め込んだ結果、通話品質が標準以下となってしまいました。もう一つの問題が800Mhz周辺のネットワーク障害です。緊急用通話(消防署、救急車、警察への発信など)を干渉してさえいました。スプリント・ネクステルはネットワーク、特に高度EVDOネットワークを経由した業界有数の帯域幅におけるデータ転送に投資をしましたが、接続品質やその他の基本的品質の問題により、顧客満足度を上げることはできませんでした。

全体的な価値 ワイヤレスプロバイダ業界では、先端技術に重点を置いていますが、顧客が新しいプロバイダを選択する際、重要に思うのは依然としてコストと価値(コストパフォーマンス)です。全体的な価値とは、顧客が支払う金額と比べた際のサービス内容、品質とのバランスと考えるのがよいでしょう。ベライゾンとスプリント・ネクステルを比較すると、平均年間支出額は基本的に2社でほぼ同じですが、顧客の優先事項に対する平均満足度は、常にベライゾンが勝っています。

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下記の数字は、顧客の自己申告から得た一年間の両社のサービス購買額です。(より信頼できるワイヤレスサービス支出が必要であれば、各企業の財務報告書を参考にしてください。)2005年、2006年、2007年のスプリント・ネクステルの加入者一人あたりの月間売上高(ARPU)はそれぞれ、62.50ドル、61.25ドル、59.00ドルでした(年次報告書の各年の四半期平均を使用)。一方、2005年、2006年、2007年のベライゾンのARPUはそれぞれ、50.11ドル、50.44ドル、51.57ドルでした。 2つのプロバイダを比べると、顧客が支払っている額の差はほとんどありません。、正確にはベライゾンへの支払い額(ARPU)の方が低く、この結果、バリュープロポジションの観点から、2社へのクチコミはベライゾンの方が一貫して有利です。スプリント・ネクステルと比較し、ベライゾンのコストパフォーマンスは優れている上に、顧客体験のすべての重要な点において常に大きな優位性を維持しています。ベライゾンは自らを低価格が売りのリーダーとは位置づけていません。同社が業界でトップである理由が低価格ではないことは明らかです。ベライゾンの顧客は自分が受け取る価値に十分に満足しているので、解約率は業界の最低レベルとなっています。実際のところ、ベライゾンは徐々にARPUを上げながら、解約率を下げてきたことが、データから明らかです。これは、優れたバリュープロポジションを持つ企業であったからこそ達成できたことです。

顧客重視の姿勢 ベライゾンは全社的に顧客体験を重視しています。業界内でも、早期からこの姿勢を取り入れた結果、長期的な顧客ロイヤルティに良い影響をもたらしました。1999年、ベライゾンは解約数を減らすために「解約防止タスクフォース」を立ち上げました。「解約防止タスクフォース」のメンバーは、顧客個々人のニーズにいかに対応するか、顧客リテンションの本質を学び、怒っている顧客に対応するストレスの処理の仕方を学び、リテンションにあたって課題となる障害を克服するためのトレーニングを受けました。顧客が抱える課題を把握し、改善しようとする社全体の試みは、顧客満足度を向上させ、解約率を下げることにつながりました。 最近では、ベライゾンはNPSを、不満を持つ顧客をサポートする仕組みとして使うだけでなく、顧客ロイヤルティと満足度を向上させる要因を特定するものとして活用し、企業文化の中に取り込んでいます。その結果、顧客が料金プランを変更した場合(金額が増えた場合も含む)の自動契約更新の廃止や、一定期間における段階的な早期解約手数料の引き下げなどの方針を変更しました。同社の方針は顧客に優しいものになっています。ワイヤレス業界は長い間、顧客に手数料や金銭的ペナルティを課し、0を延長するように迫るという、実際には顧客ロイヤルティを損なうような解約防止戦術を採ってきました。しかしベライゾンは顧客が満足していれば解約はしないということを理解し、なんとしても長期契約で顧客を囲い込むというような施策をとることをやめました。 またNPSの採用は、ベライゾンのカスタマーサービス担当が顧客に丁寧な対応をするための、推進要因となっています。それぞれの部門で、現場レベルでもNPSを使用し、優れたカスタマーサービスを行った従業員を表彰しています。現場スタッフは次々にNPSを取り入れ始め、「批判者」は、ファンに転向させることができる「推奨者予備軍」であると捉えるようにさえなりました。このことはサー

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ビス満足度に対して好影響を与えており、業界の外部評価においても、ベライゾンの競争優位性は他社よりも高まっています。 スプリント・ネクステルも、顧客ロイヤルティの大切さに注目しはじめているようです。同社では、競合他社に長年遅れをとっているものの、カスタマーサービスやその改善に積極的に対応をしはじめました。例えば、最近就任したCEOのダン・ヘッセは顧客を取り込み、維持するためには、カスタマーサービスは最重要優先事項であると発言しました。そしてカスタマーサービスへの投資を始め、カスタマーコールセンターにおける従来の管理運営方針を変更しています。こうした試みの一つが、スタッフが顧客に携帯端末とサービスを完全に説明できるようトレーニングする”Ready Now”プログラムです。業界の外部評価によると、こうした取り組みによってスプリント・ネクステルのカスタマーサービスは飛躍的に改善しはじめているようです。このような新たな試みが継続するかどうか、そして顧客ロイヤルティを向上させ、顧客流出の流れを変えるのに十分かどうかは時間が経てば明らかになるでしょう。

7. ネットプロモーターはあなたのビジネスにも役立つのか? B2Cワイヤレス業界におけるネットプロモータースコアと顧客価値の関係を調査することで、その間に強い相関関係があることが明らかになりました。ネットプロモーターによるクチコミ経済効果のフレームワークは、推奨者と批判者が、それぞれビジネスにどのように影響を与えているか、そして顧客ロイヤルティを向上させるための施策は、収益にどのような影響を与えるかを予測する助けとなります。 ネットプロモータースコアを知ることは最初の一歩であり、スコア自体が最終的な解でないことを覚えておくことは重要です。企業が成功するには、どのような行動をとれば、推奨者が増え、批判者が減り、すべての顧客のロイヤルティを上げることができるかを理解する必要があります。 変化を起こすためにはどのような行動をとるかを決め、そして社員全員が変化に向けた行動に一歩を踏み出すと、顧客ロイヤルティ向上と事業の成長への良い影響が出始めるでしょう。 そしてこれは物事の始まりに過ぎません。企業が顧客の声に真摯に耳を傾け、顧客のために行動するようになると、顧客と共有している絆を強化する別の機会も発見できるようになります。クチコミがブランド評価や購入決定に与える影響が非常に大きいことを考慮すると、企業にとって推奨者は大きな資産です。企業がネットプロモーターから学び、とるべき次のステップは、自然発生するクチコミ行動を促進するツールの提供、コミュニティやソーシャルメディアを通じたクチコミメッセージの拡大による紹介プログラムといった推奨者を活用する方法です。

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注 1. ネットプロモーターは一つのシンプルな質問、「どれくらい友人や同僚に薦めたい

か?」に基づいた指標です。11段階(0-10)のスケールで推奨度を表します。ネットプロモータースコアを算出するには、推奨者(9または10をつけた人)である顧客の割合を算出し、批判者(0から6をつけた人)の割合を差し引きます。

2. コンバージョン率を算出するために、サンプル全体の各回答者に対して、友人か同僚の薦めでそ

のプロバイダに加入したかどうかを質問しました。紹介でプロバイダに加入した顧客数を合計し、ポジティブなクチコミの合計数で割りました。そして得られた割合からポジティブなクチコミの影響を試算しました。

3. ポジティブな情報とネガティブな情報の比重に関する心理学的および社会経済に関する文献が数

多くあります。ネガティブな情報とポジティブな情報の影響力が不均衡であるという基本的な発見は、対人関係による判断(例:Anderson 1965年)と消費者のブランド評価や購買決定方法(例: Arndt 1967年、Weinberger & Dillon 1980年、Weinberger、Allen、Dillon 1981年、Mizerski 1982年、Wilson & Peterson 1989年、Herr、Kardes & Kim 1991年、East 2002年)の両方で何度も指摘されています。残念なことに、多くの調査がネガティブなクチコミの方がポジティブなクチコミより影響力があるという説を支持していますが、違いを数量化しようと試みているものはほとんどありません。ひとつの示唆に富んだ発見がKroloff (1988年)によってなされていますが、氏の有名な「メリアムの理論」は、人はネガティブな情報をポジティブな情報のおおよそ4倍の重さで与える傾向にあるという観察から生まれたものです。1つのネガティブな行動は、5つのポジティブな行動により中和されるとした研究者もいます(Richey、Koenigs、Richey、Forgin 1975年)。フレッド・ライクヘルドとサトメトリックスはデルの顧客を調査し、平均して、顧客は1つのネガティブなコメントは5つのポジティブなコメントで相殺されると報告していることを明らかにしました。これらの調査に基づき、ネガティブなクチコミはポジティブなクチコミの4~5倍の影響力があると考えることが妥当です。今回の調査では、より堅めの重みづけを行い、ネガティブなコメントにはポジティブなコメントの4倍の重みづけを行いました。

4. ワイヤレス業界では通常、顧客の支出額は、ARPUすなわち加入者一人あたりの月間売上高を調べ

ます。最近の試算によると、業界のARPUは約50ドル/月、つまり約600ドル/年です。この金額はこの調査の平均額1,144ドルより非常に低いように見えますが、ARPUはひとつの支払世帯にユーザーが複数いることを考慮していません。業界でますます一般的になってきた家族割は、本調査で報告されている平均サービス支出額に影響を与えている可能性があります(つまり、個人が家族割の代表者として年間世帯支出額を報告している可能性があります)。同様に、オプトイン方式では、プロバイダとの関係が強い顧客にアンケート回答を促すことが多いことも影響しています。例えば高額プランの契約者、最近新しい携帯端末を購入した顧客、着信音、データサービス、ウェブ/ビデオサービスなどの付加サービスを活発に利用している顧客などがこれにあたり、こうした人々は業界の試算額よりも、平均サービス支出額を押し上げる傾向にあります。

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5. ポジティブなクチコミとネガティブなクチコミの違いに驚かれるかもしれませんが、本書のネガ

ティブなクチコミ行動に関する調査結果は他の調査によっても裏付けられています。例えば、イースト(2002年 ANZMAC発行)は、ネガティブなクチコミは、ポジティブなクチコミよりも頻度は低いものの、ネガティブな体験を共有する人は、ポジティブなクチコミをする場合とだいたい同じ数の人相手に話をすることを発見しました。同様に、ヴェルデグループとワールトンが行った調査によると、顧客の約30%が1人以上の友人にネガティブな体験を話し、平均では4人の友人に対してネガティブな体験を話しました。同じくマースデン(2005年)は、調査を実施したイギリスの全小売業(モバイルネットワーク、リテールバンク、スーパーマーケット、自動車)での平均のネガティブなクチコミ率は20%から27%であることを明らかにし、リチンズ(1983年)は不満を感じた人は平均約5人(家族3人、同僚または知人2人)に話したことを明らかにしました。

6. 計算に使用するポジティブなコンバージョン率を求めるために、サンプル全体の各回答者に、友

人または同僚にプロバイダを紹介されて加入したかどうかを尋ねました。そして紹介でプロバイダに加入した顧客数を合計し、ポジティブなクチコミの合計数で割りました。これにより、ワイヤレス業界では4つのポジティブな紹介で約1人の新規顧客が獲得でき、コンバージョン率は23%であることが分かりました。計算に使用するネガティブなコンバージョン率を求めるために、23%というポジティブなコンバージョン率に、4倍の重みを掛けて92%という数字を出しました。この数字は大きいように見えますが、ネガティブな情報の大きな影響に関する外部の文献(上記の注3を参照)もこの調査方法を支持しています。私たちが調査したコンピューターハードウェアとコンシューマー向けクレジットカードの2つの業界においては、ネガティブなコンバージョン率は、一般的なコンバージョン率よりも高くなりました。また、数少ない外部ベンチマークのひとつである、ヴェルデグループとペンシルベニア大学ウォートンスクールのベーカー小売イニシアティブの小売業の64%の顧客が、特定の店についてネガティブなクチコミを聞いたら他の店で買物をするという調査結果を超えています。

7. この場合、違いの理由は推奨者と批判者に見られるクチコミ行動のパターンによるものではあり

ません。推奨者と批判者のコミュニケーションの頻度と届く範囲は概して、他の業界の調査結果と似ているものでした。むしろこの違いは、以下の2つの要因によるものです。ひとつは、紹介されて現在のプロバイダに加入したというワイヤレス業界の顧客の割合が比較的に高い点(約35%)と、もうひとつはそのような高い新規取引の割合を獲得するために必要なポジティブな紹介が比較的少ないという点(主に推奨者一人当たり3.24のクチコミを行う推奨者の行動により推進されます)です。つまり、ワイヤレスサービス業界では、潜在顧客が他人の意見から特に影響を受けやすいといえます。

* Net Promoter®、Net Promoter Score®、NPS®はサトメトリックス、ベイン・アンド・カンパニー、フレッドライクヘルドの登録商標です。

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出典:Satmetrix Systems, Inc.(http://www.satmetrix.com/) 本資料はNTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社がサトメトリックス社の許可を得て、翻訳、再配布を行っています。 NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社は、Satmetrix Systems, Inc.との独占提携に基づき、NPSマーケティングクラウド「Satmetrix Pro」を活用した「NPS®ソリューション」を提供しています。 「NPS®ソリューション」に関するお問い合わせ ホームページ :http://www.nttcoms.com/service/nps/ メールアドレス:[email protected] 電話番号 :03-4330-8403