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データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える影響の評価方法に 関する研究 追手門学院大学大学院 経営学研究科 経営学専攻 博士後期課程 河内 淳子

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Page 1: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

データ・ローカライゼーション要求政策

が自国経済に与える影響の評価方法に

関する研究

追手門学院大学大学院

経営学研究科 経営学専攻 博士後期課程

河内 淳子

Page 2: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

1

目次

はじめに .................................................................5

第1章 データ・ローカライゼーション要求政策とは ............. 9

第1節 保護主義的通商政策とは .................................... 9

第2節 GATT と WTO について ...................................... 11

第3節 ICT 産業における保護主義政策である現地化要求政策とデータ・

ローカライゼーション要求政策について ..................... 14

第4節 環太平洋経済連携協定(TPP)におけるデータの現地化要求禁止に

ついて................................................... 17

第5節 まとめ ................................................... 19

第2章 各国におけるデータ・ローカライゼーション要求政

策の状況 .................................................................................................. 21

第1節 各国におけるデータ・ローカライゼーション要求政策について.. 21

第2節 プライバシー保護とデータセキュリティの確保 ............... 29

第3節 国内産業・経済成長促進のためのデータ・ローカライゼーション要求

政策 ................................... ..................30

Page 3: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

2

第4節 日本の産業界と政府の対応 ................................. 31

第5節 まとめ ................................................... 32

第3章 海外への直接投資先決定におけるデータ・ローカラ

イゼーション要求政策の与える影響について ........... 35

第1節 海外への直接投資先を決定する要因とデータ・ローカライゼー

ション要求政策について ................................... 35

第2節 アジアへの投資・ビジネス展開に関するオンライン調査 ....... 41

第3節 日本から海外への直接投資先または進出先を決定する要因について

......................................................... 48

第4節 まとめ ................................................... 52

第4章 データ・ローカライゼーション要求政策の日本での

影響:データの保存場所についてのオンライン調査

結果の分析 ............................................................................................. 55

第1節 データの保存場所についてのオンライン調査 ................. 55

第2節 データの保存場所に関する考察:データの保存場所に関するオンラ

イン調査結果からわかる日本人のプライベートクラウド志向 ... 66

第3節 まとめ ................................................... 67

Page 4: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

3

第5章 越境データ移転についての規制とビジネスへの影

響 ................................................................................................................... 69

第1節 越境データ移転を阻害する規制について ..................... 69

第2節 越境データ流通に関する規制についてのオンライン調査 ....... 79

第3節 オンライン調査結果とその考察 ............................. 85

第4節 データ流通量と規制意識との関連性 ........................ 104

第5節 まとめ .................................................. 110

第6章 データ・ローカライゼーション要求政策が自国経済

に与える影響を適切に評価するための方法:ビジネ

スへの影響を考慮した調査・分析方法 ......................... 113

第1節 適切に評価するための調査方法 ............................ 114

第2節 適切に評価するための調査結果の分析方法 .................. 116

第3節 まとめ .................................................. 118

第7章 総括 ........................................................................................................... 119

用語集 ................................................................123

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4

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5

はじめに

テクノロジーとネットワークが飛躍的に進歩し、クラウドコンピューティン

グ、ビッグデータ、IoT などの新しいビジネスの普及により、デジタル・トラン

スフォーメーションがグローバルに進展しつつある。これに伴い、世界中を流れ

るデータは急速に増加し、その流通量は、2005 年には毎秒 4.7 テラバイトだっ

たものが、わずか 9 年後の 2014 年には、毎秒 211.3 テラバイトと、約 45 倍に

も増加している1。

また、日本から出入りする越境データ流通も、国内から国外へも、国外から国

内へも、ともに大きく増加している2。特に国外から国内へのデータの流入は、

2004 年から 2016 年までに約 50 倍に増えている3。

平成 28 年1月 22 日に閣議決定された第 5 期科学技術基本計画4のなかで明記

されている Society 5.0 の推進には、データの流通・利活用がカギとなってい

る。国内のみならず、グローバルなデータを収集・活用することで新たな価値を

創出することが可能であり、それによって国際競争力の強化と課題の解決につ

なげることができる。国境を越えた自由なデータの流通、つまり自由な越境デー

タ流通を確保することが今後さらに重要となると言える。

しかし、プライバシーの保護やセキュリティの確保、また国内産業の保護等を

名目として、越境データの流通を妨げる様々な規制が世界各国で進展しつつあ

る。そのうちの一つが、データ・ローカライゼーション要求政策である。

2015 年 10 月に大筋で合意された環太平洋経済連携協定(TPP)の電子取引に

関する条文「第 14 章・13 条 コンピュータ関連設備の設置」において、「2.い

ずれの締結国も、自国の領域に於いて事業を遂行するための条件として、対象者

1 McKinsey Global Institute “Digital Globalization: The New Era of Global Flows” (March 2016) 2 総務省「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計・試算」 3 脚注 2 と同じ 4 内閣府 第 5 期科学技術基本計画

http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/index5.html

Page 7: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

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に対し、当該領域においてコンピュータ関連設備を利用し、又は設置することを

要求してはならない。」と規定されている5。つまり、サーバーなどのコンピュー

タ関連設備の現地化(自国内設置)要求を禁止する、データ・ローカライゼーシ

ョン要求政策を禁止している。ロシア、ベトナム、中国、インドネシアなどにお

いては、データ・ローカライゼーション要求政策がすでに施行もしくは提案され

ており、韓国などでも部分的ではあるが同様の規則がある6。

関税に代表される保護貿易は、かねてより様々な産業でとられている自国産

業を守るための通商政策である。その他にも、特殊な国内規格への適合の強制、

外資参入規制、自国製品への補助金交付などが保護貿易政策としてあげられる

が、 近では新たに、前述のような、外資系企業を含む国内でのすべての事業者

にサーバーの国内設置義務を課す、データ・ローカライゼーション要求政策をと

る国が増えつつある。

「データ・ローカライゼーション」は、日本語の直訳では「データの現地化」

であり、広義では、古典的な保護主義的通商政策である特殊な国内規格への適合

の強制や外資規制なども含まれると考えることもできる。しかし、 近では、狭

義の意味である、サーバーの国内設置要求政策のことをデータ・ローカライゼー

ション要求政策と呼ぶことが多い7。

このデータ・ローカライゼーション要求政策をとる理由として、国民の個人情

報を保護するためとか、国家のセキュリティの確保のためとか、または国内の未

成熟な産業の保護のため、などが挙げられることが多い。しかし、そのような目

的はこの政策をとることにより本当に達成できるのだろうか。その上、自由な越

境データ流通がカギとなる Society 5.0 に向けた今後の産業発展を阻害し、結

果として逆に自国の経済成長にマイナスの影響を及ぼす可能性があるのではな

いだろうか。

ヨーロッパ国際政策経済機関(ECIPE)が 2014 年 3 月に発表した ECIPE

5 内閣官房 TPP 政府対策本部「TPP 協定の暫定仮約 第 14 章」 http://www.cas.go.jp/jp/tpp/naiyou/pdf/zanteikariyaku/160107_zanteikariyaku14.pdf 6 「データ・ローカライゼーション要求政策に関わるグローバルな議論と日本のとるべき立場についての考察」河内淳子(2015.2.追手門学院大学 経営論集) 7 ITI Data Localization https://www.itic.org/policy/forced-localization/data-localization

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7

Occasional Paper No.3/20148によると、データ・ローカライゼーション要求政

策はその国の経済にマイナスの影響を与えるという試算結果となっている。こ

のレポートでは、データ・ローカライゼーション要求政策が自国の経済に与える

影響を、各国の産業連関表や国際連合の統計表をもとに作成された応用一般均

衡モデルである GTAP モデルを使って GDP の増減率を計算している。

しかし、データ・ローカライゼーション要求政策がその国の経済に与える影響

をより適切に評価するためには、GTAP モデルのベースとなっている実際の輸出

入額や各国の市場規模のような客観的なデータのみではなく、それ以外の要素

も考慮しなければ正しい評価はできないのではないか。

海外への直接投資を考えるとき、その国の市場の将来性や特徴だけでなく、そ

の国に対する個人的な感情や外交関係などは、多少なりとも影響するのではな

いか。また、個人や業務での大切なデータを保存するサーバーが、世界中のどこ

にあってどのように保管されているのか、全く気にならない人は、多くないので

はないだろうか。実際のビジネスには、客観的な要素のみではなく、主観的な要

素も含め、様々な要因が影響するといえる。実際のビジネスへの影響を評価する

ことが、経済への影響を適切に評価するためには必要なのではないか。

本論文では、データ・ローカライゼーション要求政策が自国の経済に与える影

響をより適切に評価することを目的として、まず、先行研究である ECIPE のレ

ポートでは考慮されていない要素の重要性について議論する。その上で、それら

の要因も考慮して評価するための方法を提案し、実際にその方法によって調査

を行い、調査結果を分析する。 後に、提案した評価方法についての今後の課題

について考える。

第 1 章では、データ・ローカライゼーション要求政策の考え方の基となる、保

護主義的通商政策の歴史的な経緯と、近年の ICT 産業における保護主義政策に

ついて確認する。

第 2 章では、世界各国におけるデータ・ローカライゼーション要求政策の状

況について、国ごとに、どのような政策がとられていてどのような議論があるの

か、概説する。

8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional Paper No.3/2014 by Matthisa Bauer, Hosuk Lee-Makiyama, Erik van der Marel, Bert Verschelde

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第 3 章では、海外の直接投資先やビジネスの展開先を決定する際、どのよう

な要因が影響を与えるのか、市場規模や法・税制などの客観的な条件だけでなく、

歴史、文化、個人的な感情など様々な要因がどのように影響するのか、調査を行

い、考察する。

第 4 章では、日本においてデータ・ローカライゼーション要求政策がとられ

た場合の影響を評価するため、データをどこに保存したいと考えているのか、同

じく調査を行い、その結果を考察する。

第 5 章では、第 3,4章での調査結果の考察と議論を踏まえ、より適切な評価

をするための方法として、実際に越境データ流通にかかわるビジネスをしてい

るアジア・オセアニア地域の事業者に、関連する規制がビジネスにどのような影

響があると感じているかについて調査を行い、その結果を分析する。

第 6 章では、実際のビジネスへの影響を評価することのできる方法として第 5

章で行った調査・分析方法を見直し、データ・ローカライゼーション要求政策が

自国の経済に与える影響について適切に評価するための手法として提案する。

後に、第 7 章では、この論文の総括と今後の課題について考えることとす

る。

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9

第1章 データ・ローカライゼーション要求政策

とは

第1節 保護主義的通商政策とは

現代の経済学の基礎の多くは、近代経済学の父と呼ばれるアダム・スミスが

1776 年に著した『国富論』にあると言われる。アダム・スミスはこの本で、輸

出を奨励し、輸入を制限する、重商主義政策を批判している9。重商主義を信奉

する人たちは、「輸出はよいが輸入は困る」と考える。輸出をすれば外貨を稼げ

るが、輸入が行われれば国内市場が打撃を受けると考えるからだ。重商主義は保

護主義の典型であるといえる。

それから 250 年以上たっているが、世の中で展開されている議論には、あま

り大きな違いは見られない。

貿易の自由化がどのような利益を生み出すかについて、自由主義論者は、①自

由化により企業は世界市場に参入できる、②原料、部品、労働力等の資源を自由

化以前よりも利用することができ、生産費用の低下につながる、③企業の地理的

な競争範囲を拡大させることにより、企業の競争意識を増加させ、生産性を増加

させることができる、④輸入を受け入れる国の現地メーカーにとって、貿易自由

化は浪費の極小化、生産技術の改善、製品の競争力を高める技術革新を目指した

研究開発の活用などを通じて、業績の向上を図る強力な誘因となる、と主張して

いる10。

一方、保護貿易とは、国内産業を保護、育成するための国の政策に基づいて行

われる貿易のことで、自由貿易と相対するものである。特に発展途上国において、

市場における競争力が弱い自国の産業の保護のため、保護主義貿易政策がとら

9 小沼宗一「アダム・スミスの経済思想」 http://www.tohoku-gakuin.ac.jp/research/journal/bk2013/pdf/no06_02.pdf 10 清水 隆裕「貿易自由化の理論的価値と現実経済への影響」 香川大学 経済政策研究 第 4 号(2008 年 3 月) p. 85

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れることが多い。保護貿易には、関税をかけて輸入量を制限する手法と、海外企

業に不利な国内基準や規格等を設けて輸入量を規制し、または自国製品に政府

が補助金を出して保護するような非関税障壁の手法がある。

保護貿易論者は、「各国それぞれが反映を謳歌するためには、自国で生産でき

るものはすべて自国で生産するべきである」と主張している11。

保護貿易がなぜ必要なのかについて、主なものとして以下の3つが

あげられる12。

(1) 幼稚産業の保護・育成…幼稚産業、とくに発展途上国の産業は自

由貿易では先進国との競争に勝てないので、関税等によって輸入

品との競争から保護する必要がある。

(2) 雇用増大のための保護…雇用水準を維持し、増大するためには、

関税等によって国内の需要を輸入品から国産品に転換させる必

要がある。

(3) 国際収支改善のための保護…国際収支を改善するために関税等

による輸入の抑制や、補助金等による輸出の促進の必要がある。

これらのうち、代表的なものは幼稚産業保護論で、米国のA・ハミル

トンにより主張され、ドイツのF・リストにより体系化されている。

第一次世界大戦後、1929 年の世界大恐慌の後、不況になった各国は関税の引

き上げや国内産業保護政策などの保護貿易政策をとった。この世界全体の保護

貿易化により、国家間の対立が激しくなり、結果として第 2 次世界大戦の一因

になったと言われている13。

そのため、第 2 次世界大戦のような世界的な戦争が再び起こることを回避す

11 ヘンリー・ジョージ「保護貿易か自由貿易か:関税問題の特に労働者の利益に関する検

討」日本経済評論社、1990 年 12 金融用語辞典「保護貿易」http://money.infobank.co.jp/contents/H500106.htm 13 脚注 12 と同じ

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るためには、世界中の皆が経済的に繁栄し、雇用され、生活水準が向上すること

が必要であり、そのための世界的な貿易機関を作る必要がある、とアメリカが考

え、1945 年に国際連合の下に国際貿易機関(ITO)を設立するすることを提案し

た。

その後、1948 年には、関税、貿易制限、補助金、雇用などの国際貿易に関す

るすべてにおいて各国の基準となるべき原則を規定した、国際貿易機関憲章

(ITO 憲章、バハナ憲章)が調印されたが、規定がかなり厳しかったため、世界

各国どころか、提唱者であったアメリカまでもが批准せず、結局、この ITO は設

立に至らなかった。

第2節 GATT と WTO について

アメリカは、このバハナ憲章の提案と同時に各国間の関税率を下げることを

提唱し、1947 年に 23 か国間での関税交渉が行われた。この交渉の結果、関税の

相互引き下げを確保するために必要な諸規定を 1 つの条約としてまとめたもの

が、「関税及び貿易に関する一般協定」(GATT)である。

前節のような経緯でバハナ憲章が発効しなくなり、GATT はその代わりとなっ

たが、GATT は ITO のような国際機関ではなく、一つの協定として存在していた。

GATT は、「関税及び貿易に関する一般協定」で、関税や非関税障壁を軽減し、

通商の特別待遇を廃止することを目的としている。また、WTO は世界貿易機関で、

貿易の自由化をさらに発展させるため 1995 年に設立された。WTO は GATT の 後

の交渉であるウルグアイ・ラウンド締結時に設置が決定され、GATT は協定とし

て WTO の中に組み込まれた。

GATT は 1947 年から 1994 年までに 8回の多角的交渉(ラウンド)を行ったが、

そのうちの 初の 5回は主に関税の引き下げ交渉であり、参加国も 38 か国以下

とあまり多くなかった。

第 6 回目からの交渉は貿易交渉と言われ、非関税貿易措置(関税以外の貿易

措置)や新しいルールなども交渉の範囲に加えられた。特に第 8 回のウルグア

イ・ラウンドでは、世界貿易を扱う新しい「機関」である WTO を設置することが

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合意された。

WTO と GATT は、無差別待遇原則、透明性の原則、互恵主義の原則という 3 つ

の原則がある。無差別待遇原則とは、加盟国間、もしくは加盟国と自国の間での

貿易に関して差別をしないというものである。同種の産品について、他のすべて

の加盟国に対して、他の国の産品に与えている も有利な待遇と同等の待遇を

与えなければならないというのが、 恵国待遇である。また、ある輸入産品それ

と同種であるか直接的に競争、または代替可能な国内生産物の保護につながる

ような税および国内規則を定めることにより、輸入産品が不利になってはいけ

ない、という規則が、内国民待遇である。なお、内国民待遇には例外があり、政

府調達に関しては優先的に国内産品を使用していいこと、開発途上国の場合は

国内幼稚産業の育成の措置が許されている。

透明性の原則とは、貿易交渉に透明性を追求するための原則で、交渉を有利に

進める目的で自国の事情を隠すというようなことを禁止するため、関税率や貿

易規則を公表したり他国からの意見を聴くことが求められる。

互恵主義の原則とは、貿易交渉においては、関係国すべてがその交渉の結果か

ら利益を得られなければならないという原則である。

1980 年代以降、情報通信技術が発展し、国を越えたサービスの提供や知的財

産権の保護が重要な問題となりつつある。これに対処するため、「サービス貿易

に関する一般協定(GATS)」と「貿易関連の側面に関する知的所有権協定(TRIPS)」

の二つを追加し、「関税及び貿易に関する一般協定(GATT)」とあわせた 3つの協

定を三大協定とした14。

WTO が設立された後、活発な交渉が進められてきたが、2006 年 7 月に 5 年間

続けられてきたドーハ・ラウンドにおける交渉が決裂し、ドーハ・ラウンド自体

が無期限の凍結となった。このドーハ・ラウンドの凍結は、世界の貿易自由化の

推進にとって大きな障害となったが、その後、それに代わる貿易交渉として、自

由貿易協定(FTA)の活用が増加している。FTA は、2から数か国間のみで関税や

貿易障害を排除し、1つの経済圏を作る取り決めである。

FTA は特定国間のみでの協定であり、その域内国を優遇するが、第三国に対し

14 高瀬保「WTO と FTA」(東信堂、2003 年) p42-52

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ては差別的な貿易上の待遇を強いることになる。そのため、上記で説明したよう

な、無差別に自由で多角主義を詠う WTO 体制において、地域貿易の取り決めは、

「 恵国待遇原則」の例外として位置づけられてきた。現在では世界中で 300 以

上の FTA が存在している15。2 国間での FTA だけでなく、ヨーロッパ地域の欧州

連合(EU)、アメリカ・カナダ・メキシコからなる北米自由貿易協定(NAFTA)、

東アジアにおける東南アジア諸国連合(ASEAN)など、地域内経済統合が進むも

のもある。

そして、それぞれの地域間をつなぐ架け橋として、アジアと米州の間にはアジ

ア太平洋経済協力(APEC)があり、アジアと欧州の間にはアジア欧州会合(ASEM)

がある。このような地域間をつなぐ枠組みにより、それぞれの地域が孤立したり、

内向き志向が強まって排他的で敵対的になって、第 2 次世界大戦前のようなブ

ロック経済に陥らないように、一種の「安全装置」としての機能を持っていると

言える16。

近では、経済連携協定(EPA)、環太平洋経済連携協定(TPP)など、さらに

様々な形態で貿易に関係する協定等が結ばれるようになってきている。図 1 の

ように、日本は、すでに 20 か国と 16 の経済連携協定(EPA)を結んでいるが、

EPA 発行済・署名済相手国との貿易が貿易総額に占める割合は 40%であり、欧

米などの他の先進諸国と比較すると、まだ低い水準となっている。現在、交渉中

である EU との EPA が発効すると 51.9%、またそれ以外の交渉中の EPA の相手国

を含めれば、85.5%にまで増加する見込みである。

次節では、ICT 産業にかかわる保護主義政策について、どのようなものがある

のか、また、そのなかの一つとしてのデータ・ローカライゼーション要求政策に

ついて、その概要を確認することとする。

15 「FTA の潮流と日本」日本貿易振興機構(JETRO)

https://www.jetro.go.jp/theme/wto-fta/basic.html 16 渡邊頼純「忍び寄る「新保護主義」と国際通商体制―WTO、FTA/EPA、そして TPP の

役割―」経済研究所年報 第 24 号(2011】p103

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14

資料:外務省

図 1 日本の経済連携協定(EPA)の取り組み

第3節 ICT 産業における保護主義政策である現地化要求

政策とデータ・ローカライゼーション要求政策につい

近年では一般的に、幼稚産業保護の目的で、発展途上国が先進国に対抗するた

めに保護主義政策をとることが多いが、 近では先進国でも様々な国内事情か

らこの方策をとることが多くなってきている。

この節では、ICT 産業における従来からある保護主義政策について、また、技

術やネットワークの進歩により、クラウドコンピューティングやビッグデータ

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15

ビジネスが普及し、国境を超えたデータの送受信が飛躍的に増えた結果、近年増

えている、データ・ローカライゼーション要求政策について述べる。

1.ICT 産業における保護主義政策

まず、ICT 産業における保護主義政策として従来から採られてきた政策には、

下記のようなものがあげられる17。

(1) 国内事業者に有利になるような、特殊なセキュリティ・安全標準等の採

用、評価・認証プログラム、海外の暗号化製品への規制

(2) 国内製品の優遇、輸入制限、政府調達への入札に関する外国事業者への

差別

(3) ソースコード等機微な設計情報の強制開示、技術移転要求

(4) 越境データ移転規制(データセンターの設置義務、データの現地保管義

務など)、コンテンツや部品等の現地調達要求

これらの保護主義的政策は、Forced Localization Measures(現地化強制政

策)と呼ばれ、ICT 産業のグローバル化を阻害するだけではなく、経済全体にマ

イナスの影響を及ぼす可能性があるといえる。

2.現地化強制政策の拡大を防ぐための取り組み

日本の ICT 産業の業界団体である(一社)電子情報技術産業協会(JEITA)で

は、アメリカの業界団体である米国情報技術工業協議会(ITI)ならびにヨーロ

ッパの業界団体である Digital Europe と連携し、その拡大を防ぐための活動を

行っている。2013 年 9 月に、上記三団体による第 1 回会合をブリュッセルで開

催し、今後の国際協調について合意された。

17 日本経済団体連合会「日 EU 規制協力に関する提言 -経済連携協定(EPA)締結後の将

来を見据えて-」 https://www.keidanren.or.jp/policy/2015/024_honbun.html

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16

第 2回会合は 2014 年 10 月 8日に東京で開催された。この東京での会合には、

日米欧より、産業界、政府、関係団体から約 80 名が参加し、今後も日米欧の産

業界で政府も交えて対話と協力を推進し、Forced Localization Measures の課

題に対して協調して取り組み、その解決に向けた 三極政府の取り組みを支 援

すべく政府と産業界の連携を密にすることとした。とりわけ、サーバーの自国内

設置・データの現地保管の義務づけ(データ・ローカライゼーション)について

は、世界経済に深刻な影響を及ぼす可能性が高いとして、三団体の連名で”The

Tokyo Resolution on Combatting Data Localization Requirements”(「デー

タ・ローカライゼーション要求に対抗する東京決議」)という声明を発表した。

この中では、自由な越境データ流通は世界経済の発展にとって必要不可欠であ

り、データ・ローカライゼーション要求政策はそれを阻害する重大な問題である

ことがあらためて強調されている。そして、世界経済の発展に大きな障害となり

うるデータ・ローカライゼーション要求政策の問題点について、世界中の多くの

人々に知ってもらい、その経済へマイナスの影響について警鐘を鳴らし、新しい

技術やビジネスを阻害しないような政策についての情報交換を政府間で進める

べきであると提唱している18。

また、2015 年 3 月に日本経済団体連合会が発表した、「日 EU 規制協力に関す

る提言-経済連携協定(EPA)締結後の将来を見据えて-」においても、ICT 分

野における規制協力の方向性の一つである「現地化を強制する措置への対応」と

して、新興国を中心に広がりを見せている保護主義的なデータの現地化を強制

する措置(Forced Localization Measures)は、「情報サービスのグローバル化

を阻害、ひいては全ての産業にマイナスの影響を及ぼしかねない状況にある」た

め、「データの自由な流通に関しては、日 EU 間、日米間の政策対話など既存の枠

組みに加えて、日 EU 間の経済連携協定(EPA)や国際電気通信連合(ITU)、OECD、

APEC 等も活用しながら、各国・地域の制度の国際的な整合性の確保に努めてい

く」と述べられている19。

18 (一社)電子情報技術産業協会「Forced Localization Measures に関する第 2 回日米

欧会合の開催」http://www.jeita.or.jp/japanese/letter/pdf/vol11/07.pdf 19 脚注 17 と同じ

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17

第4節 環太平洋経済連携協定(TPP)におけるデータの現

地化要求禁止について

1.環太平洋経済連携協定(TPP)とは

TPP は 2004 年にブルネイ、シンガポール、ニュージーランド、チリの 4 か国

が締結した FTA がもととなっており、当初は太平洋 Pacific を取り巻く 4 か国

ということで、P4 と呼ばれていた。その後、2008 年にアメリカが参加を表明す

ると、続いてオーストラリア、ペルー、ベトナムが加わり P8 に、またマレーシ

アも加わって P9 となった。日本は、国内における TPP 参加に関する大きな論争

の末、2013 年に正式に参加を表明した。

TPP は、モノの貿易ならびにサービス貿易の自由化だけでなく、政府調達や競

争政策、投資の自由化、貿易の円滑化などを含んでいるほか、知的財産、電子商

取引、国有企業の規律、環境など、広い分野で 21 世紀型のルールを構築するも

ので、WTO を超える広範囲な取り決めとなっている。

2.環太平洋経済連携協定(TPP)第 14 章 電子商取引について

2015 年 10 月に大筋で合意され、翌年 2016 年 2 月に当時参加国 12 か国で署名

された環太平洋経済連携協定(TPP)の第 14 章では、インターネット技術を用い

たコンピュータネットワークを介して行う商取引である電子商取引の安全性と

信頼性を確保するためのルールが定められている20。これは、WTO の規定にはな

く、また我が国が締結済みの EPA の電子商取引章と比較しても、包括的かつ高

いレベルの内容が達成されているといえる。具体的には、以下の内容が規定され

ている21。

20 内閣官房 TPP 政府対策本部「TPP 協定の暫定仮約 第 14 章」

http://www.cas.go.jp/jp/tpp/naiyou/pdf/zanteikariyaku/160107_zanteikariyaku14.pdf 21 内閣官房 TPP 政府対策本部

http://www.cas.go.jp/jp/tpp/naiyou/pdf/chapters/ch14_1.pdf

Page 19: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

18

(1)締約国間における電子的な送信に対して関税を賦課してはならない。

(2)他の締約国において生産等されたデジタル・プロダクト(コンピュータ・

プログラム等、デジタル式に符号化され、商業的販売又は流通のために生

産さ れ、電子的に送信されることができるもの)に対し、同種のデジタ

ル・プロダクトに与える待遇よりも不利な待遇を与えてはならない。

(3)企業等のビジネスの遂行のためである場合には、電子的手段による国境

を越える情報(個人情報を含む。)の移転を認める。(注)

(4)企業等が自国の領域内でビジネスを遂行するための条件として、コンピ

ュータ関連設備を自国の領域内に設置すること等を要求してはならない。

(注)

(5)他の締約国の者が所有する大量販売用ソフトウェアのソースコードの移

転又は当該ソースコードへのアクセスを原則として要求してはならない。

(注:(3)及び(4)の義務に関しては、「締約国が正当な公共政策の目的を達

成するため、これに適合しない措置を採用し、又は維持することを妨げない」こ

とが確認されている。)

同時に、電子商取引利用者及びオンライン消費者の保護に関する規律が定め

られるなど、消費者が電子商取引を安心して利用できる環境の整備も図られて

いる。

この「(4)企業等が自国の領域内でビジネスを遂行するための条件として、コ

ンピュータ関連設備を自国の領域内に設置すること等を要求してはならない。」

に関しては、「第 14 章・13 条 コンピュータ関連設備の設置」に、「2.いずれ

の締結国も、自国の領域に於いて事業を遂行するための条件として、対象者に対

し、当該領域においてコンピュータ関連設備を利用し、又は設置することを要求

してはならない。」と規定されている22。この規定は、正当な公共政策の目的を達

成するために当該規定に適合しない措置を採用することも可能ではあるが、目

的の達成のために必要である以上の制限を課さない等の一定の要件を満たすこ

とが必要となる。

22 脚注 20 と同じ

Page 20: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

19

現地におけるコンピュータ関連設備(サーバー)の設置を事業の条件とされる

と、多額の投資や現地拠点設置をしなくても海外の消費者や企業と直接取引で

きるという、電子商取引の大きな利点が失われることになる。TPP 加盟各国にお

いて、そのような利点を不当に阻害することがなくなることを目的とした規定

である。

このコンピュータ関連設備の自国内への設置要求(データ・ローカライゼーシ

ョン)を禁止する規定は、現時点で発効している日本と外国との間の経済連携協

定(Economic Partnership Agreement)/自由貿易協定(Free Trade Agreement)

のいずれにも入っておらず、TPP の条文にはじめて明記されたもので、非常に画

期的であると評価することができる。

言いかえれば、世界に広がりつつあるデータ・ローカライゼーション要求政策

が、グローバル経済の発展にとって、今後、大きな障害となることが予期される

と考えられているといえるだろう。

第5節 まとめ

パソコンやモバイル機器をはじめとする電子機器だけではなく、世の中のす

べてのものがグローバルなネットワークでつながっていく IoT 時代の社会経済

活動においては、自由な越境データ移転(Free Flow of Data)は阻害されては

ならない原則である。

これまでも、自国産業を保護するために、輸入品に高関税をかけたり、自国製

品等を優遇したり、様々な保護貿易通商政策がとられ、問題となってきた。第二

次世界大戦は、保護主義的な通商政策による排他的なブロック経済が招いた

悪の結果ともいえる。

そのような 悪の事態が二度と起こらないよう、戦後の国際社会では GATT

や WTO などの自由貿易を推進する取り組みが進められてきた。しかし、包括

的・多角的で多くの国が参加する交渉は非常に難しく、WTO ドーハ・ラウンド

は暗礁に乗り上げ、結果として、容易な FTA や EPA が増加している。

WTO にもなかった電子商取引に関する規定のひとつとしてデータ・ローカラ

Page 21: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

20

イゼーション要求政策の禁止の規定が盛り込まれた画期的な環太平洋経済連携

協定(TPP)も、署名まで進んだにもかかわらず、アメリカの政権交代で発効に

至らず、現在ではアメリカを除いた残り 11 か国での発効を目指している。

電子商取引市場は急成長しており、今後も拡大が見込まれる。多額の投資や拠

点 設置を伴わずに海外の消費者や企業と直接取引できる電子商取引は、中小企

業が国際展開を図るに当たっても有効な手段である。TPP 協定において、電子

商取引に関する先進的かつ包括的なルールを構築したことによって、今後、域内

において電子商取引が安定的かつ信頼感をもって行われる環境が整備されるこ

とが期待される。

これからのグローバル市場において、自由な越境データ移転を制限すること

は、従来の保護主義政策よりもさらに大きな問題となるといえるだろう。

Page 22: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

21

第2章 各国におけるデータ・ローカライゼー

ション要求政策の状況

第1節 各国におけるデータ・ローカライゼーション要求政策

について

前章で述べたように、データ・ローカライゼーション要求政策をはじめとする

様々な保護主義貿易政策は、以前より良く行われてきた。また、封建的な国が、

国内における情報をコントロールし、自国内の市民の行動を監視するのに効果

的な方法であるとして、かねてより厳しく批判されてきた。2011 年に EU は、統

一された安全なサイバー空間で違法なウェブサイトなどを効果的にブロックす

ることを目的に、「仮想シェンゲン圏」の設置を提案した。しかし、これは、表

現の自由の著しい侵害だという大きな批判が起こり、実際には実現はしなかっ

た23。

2013 年、元米国家安全保障局(NSA)外部契約社員のエドワード・スノーデン

が、NSA がテロ対策のために極秘に大量の個人情報を収集していたことを暴露し、

世界的に大きな問題となった。これがプリズム事件と呼ばれるが、その事件後、

多くの国が、アメリカに自国民の情報を収集されないように、プライバシー保護、

自国のセキュリティの確保を表面的な理由にして、データ・ローカライゼーショ

ン要求政策を導入し始めた。

しかし、それは建前に過ぎず、実は、批判が大きく難しい、国内の情報のコン

トロールや市民の反政府的行動を監視するための手段となっているケースが多

23 “The impact of forced data localisation on fundamental rights” 4 June 2014, Access Blog by Alexander Plaum https://www.accessnow.org/blog/2014/06/04/the-impact-of-forced-data-localisation-on-fundamental-rights

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22

い。または、アメリカに自国のセキュリティ情報や極秘情報を収集されないよう

にするための手段として、民主主義国家でさえも、このような政策をすでに導入

したり、または導入を検討している国が年々増加している。

図 2 に示されている通り、世界中で、データ・ローカライゼーション要求政策

を実際に採用している国は多数あることがわかる。特に規制の強い国としては、

ブルネイ、中国、インドネシア、ナイジェリア、ロシア、ベトナムが挙げられて

いる。次に規制が強いのは EU となっている。

Page 24: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

23

資料:”DATA LOCALIZATION A CHALLENGE TO GLOBAL COMMERCE AND THE FREE FLOW OF INFORMATION,” Albright Stonebridge Group (2015 年 9 月)

図 2 データ・ローカライゼーション要求政策の世界的な広がり

Page 25: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

24

データ・ローカライゼーション要求政策の具体的な内容は様々である。情報を

国外に送ってはいけない、という規則から、国外へ情報を送る際に事前の同意を

必要とする規則、情報のコピーを国内に保存することを要求する規則、またデー

タを輸出するのに税金をかけるケースもある。

以下に、データ・ローカライゼーション要求政策を導入しているいくつかの国

の政策の概要について個別に検証する。

1. ロシア

ロシアでは、プリズム事件後の 2013 年夏、”Digital Sovereignty(インター

ネットなどのデジタル情報に関する独立主権)”の強化を宣言し、電子メールサ

ービスや SNS 提供企業に、ロシア人の顧客のデータは国内法が適用できる国内

のサーバーに保存することを義務づける法律を制定した24。企業等が取得した個

人データをロシア国内にあるサーバーで保管し処理すること(データ・ローカラ

イゼーション)を義務付ける法律(2014 年 7 月 21 日付連邦法第 242-FZ 号「情

報・電子通信ネットワークにおける個人情報の処理手続きの適正化に関する一

部のロシア連邦法の改正について」)は、ロシア個人情報保護法を含む 3つの連

邦法の改正法として、2015 年 9 月 1 日に施行された。同改正法では、ロシア国

内の事業者(外資系企業の現法、支店および駐在員事務所を含む)および海外の

事業者であっても、ロシア国内向けのウェブサイトを通じて個人情報を収集す

る者(オペレーター)は、ロシア国民の個人情報をロシア国内で保存、管理しな

ければならない。また、オペレーターは、個人情報(ロシア国民のものであるか

否かを問わない)を処理するサーバーの場所を含む通知を通信・情報技術・マス

コミ監督庁(Roskomnadzor)に提出しなければならない場合もある25。

当初は 2016 年 9 月 1 日に法律の発効が予定されていたが、2014 年 12 月末に

法律発効日が 1年前倒しされ、2015 年 9 月 1 日に施行されることになった26。

24 Hogan Lovells Chronicle of Data Protection “Russia Enacts Data Localization Requirement; New Rules Restricting Online Content Come into Effect” July 18, 2013 http://www.hldataprotection.com/2014/07/articles/international-eu-privacy/russia-enacts-new-online-data-laws/ 25 JETRO 「外資に関する規制」

https://www.jetro.go.jp/world/russia_cis/ru/invest_02.html 26 Hogan Lovells Chronicle of Data Protection “Russia Changes Effective Date of Data

Page 26: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

25

2. ベトナム

ベトナムでは、2013 年 9 月に「インターネットサービスとオンライン情報コ

ンテンツの管理、提供、使用に関する法令27」を制定し、政府批判、国家の治安

や社会秩序を乱すような目的でのインターネットの使用を禁止するとともに、

インターネットサービスプロバイダーは、当局が必要な場合はいつでもそのデ

ータにアクセスできるように、いかなるデータもすべてコピーを国内のサーバ

ーに保存することを義務づけている。この法令は、一般のウェブサイト、SNS、

モバイルネットワーク、ゲームサービスなどのプロバイダーすべてに適用され

る。

ベトナムにおける法令の特徴は、他国とは違い、当局の情報統制という目的が

明確な点であるといえる。

3. インドネシア

2014 年 1 月、インドネシア政府は、他国よりも一歩踏み込んだデータ・ロー

カライゼーションの規則案を提案した28。この規則案では、自然災害対策として、

情報技術を使ってサービスを提供する会社、機関などはすべて、国内のデータセ

ンターに情報を置かなければならず、Google や Yahoo などのインターネットサ

ービス企業だけでなく、ホテル、銀行、航空会社などのユーザー企業も含まれる、

とされている。

Localization Law to September 2015” January 2, 2015 http://www.hldataprotection.com/2015/01/articles/international-eu-privacy/russia-changes-effective-date-of-data-localization-law-to-september-2015/ 27 Decree on Management, Provision and Use of Internet Services and Online Information, No. 72/2013/ND-CP (July 15, 2013) (Vietnam), http://www.moit.gov.vn/Images/FileVanBan/_ND72-2013-CPEng.pdf 28 Rancangan Peraturan Menteri (RPM) tentang Pedoman Teknis Pusat Data [Draft Regulation Concerning the Technical Guidelines for Data Centers] (2013) http://web.kominfo.go.id/sites/default/files/RPM%20PEDOMAN%20PUSAT%20DATA.pdf

Page 27: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

26

前節の図 2でも示されている通り、インドネシアは、データ・ローカライゼー

ション要求政策の規制がかなり強い国であると言われてる。インドネシアは人

口が多く、これから大きな成長が見込まれる新興市場を持っており、データ・ロ

ーカライゼーション要求政策の導入は、大きな問題であると言える。

4. ブラジル

ブラジルでは、2009 年より”Marco Civil da Internet” と呼ばれる、ブラ

ジルのインターネットユーザーの権利を守るための法律が検討されており、プ

リズム事件の前の法案は、インターネットユーザーの権利を守るための法案と

なっていた29。ところが、プリズム事件後、この法案を拡大し、ブラジル人に関

するデータのコピーを国内のサーバーに置くことを義務づけることを含めるべ

きだという意見が出された。この法案の動きは世界中で大きな議論となった。

終的に 2014 年 4 月 23 日にこの法律が正式にブラジル大統領によって署名

された時、 も問題となっていたデータの国内サーバーへの保存義務に関する

条項は削除されていたものの、一つだけ問題となる条項が残っていた。その条項

11 が規定しているのは、ブラジルの法律は、ブラジルのユーザーに関わる世界

中のすべてのインターネットサービス、データに効力を及ぼすことができる、と

いうものである30。

この条項によるビジネス上のリスクは大きく、ブラジルとビジネスをする多

国籍企業、特にアメリカの大手インターネットサービス企業にとって、アメリカ

に次いでユーザーの多い市場であるブラジルとのビジネスから撤退することも

できず、大きな問題となっている。

29 Emily Barabas, “Brazil’s Internet Bill of Rights Regains Momentum in Congress,” Center for Democracy and Technology, Global Internet Policy, 27 March 2014 https://cdt.org/blog/brazils-internet-bill-of-rights-regains-momentum-in-congress/ 30 Marco Civil Internet Bill of Rights (English version), Art. 11. “ In any operation of collection, storage, retention and treating of personal data or communications data by connection providers and internet applications providers where, at least, one of these acts takes place in the national territory, the Brazilian law must be mandatorily respected, including in regard the rights to privacy, to protection of personal data, and to secrecy of private communications and of logs.”

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27

5. インド

インド国家安全諮問委員会(NSC)は、プリズム事件後、データ・ローカライ

ゼーションを重要な政策として検討しており、2014 年 2 月にインドの主要英字

紙である Hindi は、内部的な覚え書きとして、NSC が提案しているデータ・ロー

カライゼーション政策の内容を公表した31。それによると、すべての電子メール

サービス提供者は、インド国内で作成されたデータはすべてインド国内にある

サーバーに保存しなければならない、と義務づけている32。

また、2014 年 5 月にモディ首相の新政権を発足させたインド人民党(BJP)は、

選挙活動中より、インドはデータ・ローカライゼーション政策を推進し、特にア

メリカのインターネット企業にインドの法律が適用できるようにするべき、と

主張していた33。しかし 2014 年 6 月、NSA がモディ首相を含むインド人民党の上

級党員の通信記録を 2014 年春の選挙前に傍受していたことが暴露された。これ

に対するインド人民党の反発は強く、インド外務省のスポークスマン、Syed

Akbaruddin 氏は「非常に遺憾だ」と当惑して述べている34。

この事件により、インド政府内のデータ・ローカライゼーション政策に反対す

る勢力は弱くなった。しかし、すでに多くの米国企業がインドに拠点を持ち、オ

フショア開発やバックオフィス業務を行っているが、米企業がインドでビジネ

スをしにくくなることは、インドの産業界にとっても大きな痛手となる可能性

が高い。インドがデータ・ローカライゼーション要求政策を導入するかどうかに

ついては、まだ議論が続くと考えられる。

31 Thomas K. Thomas, “National Security Council proposes 3-pronged plan to protect Internet users,” The Hindu, 13 February 2014 http://www.thehindubusinessline.com/features/smartbuy/national-security-council-proposes-3pronged-plan-to-protect-internet-users/article5685794.ece 32 脚注31と同じ 33 Indu Nandakumar and Neha Alaadhi, “BJP plans to lure Facebook, Google, Yahoo if it comes to power,” Economic Times, Apr. 24, 2014 http://economictimes.indiatimes.com/news/politics-and-nation/bjp-plans-to-lure-facebookgoogle-yahoo-if-it-comes-to-power/articleshow/34131445.cms 34 Whitney Eulich,”India recoils at reported NSA spying on its Hindu nationalist party,” Christian Science Monitor, 2 July 2014 http://www.csmonitor.com/World/Security-Watch/terrorism-security/2014/0702/India-recoils-at-reported-NSA-spying-on-its-Hindu-nationalist-party

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6. 韓国

韓国の金融サービス委員会は、保険会社やその他の金融機関は、社内の金融関

連データを国内に保存し、国外への移転を制限する規則を検討している35。もし

この規則が制定されると、アメリカの金融会社やそのデータを保存している企

業にとっては大きな負担になることが予想される。

7. ドイツ

ドイツ 大のインターネット・携帯電話サービス企業であり、EU 域内で 大

のテレコム企業であるドイツテレコムは、ドイツの主要電子メールサービス企

業である GMX と連携し、「ドイツ生まれの電子メール」という、ドイツ国内の電

子メールは国外には絶対に出さないことを約束するサービスの提供を開始した36。また、ヨーロッパのイギリスを含まない 26 カ国のみをつなぐ「シェンゲン

圏ルーティング」を作ることをドイツテレコムは提案した37。

これは、インターネット上のデータの送り主と受け取り主がドイツにいる場

合は、データは他国を経由しないで送られるということである。ドイツテレコム

のスポークスマンである Philipp Blank 氏は「疑問は簡単だ。ボンからベルリ

ンへ送る電子メールがどうしてニューヨークやロンドンを経由しなければなら

ないのか、ということだ。」と述べている38。

35 Jonah Force Hill “THE GROWTH OF DATA LOCALIZATION POST-SNOWDEN: ANALYSIS AND RECOMMENDATIONS FOR U.S. POLICYMAKERS AND INDUSTRY LEADERS” Lawfare Research Paper Series July 21, 2014 http://www.lawfareblog.com/wp-content/uploads/2014/07/Lawfare-Research-Paper-Series-Vol2No3.pdf 36 Amar Toor, “Brazil and Germany make moves to protection online privacy, but experts see a troubling trend towards Balkanization.” The Verge, 8 November 2013 http://www.theverge.com/2013/11/8/5080554/nsa-backlash-brazil-germany-raises-fears-ofinternet-balkanization 37 Alison Smale, “Merkel Backs Plan to Keep European Data in Europe.” The New York Times, 16 February 2014 http://www.nytimes.com/2014/02/17/world/europe/merkel-backs-plan-to-keep-europeandata-in-europe.html?hp&_r=0 38 Luisa Schaeter (interviewer), “Deusche Telekon: Internet data made in Germany should stay in Germany,” Deutsche Welle, 18 October 2013

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29

第2節 プライバシー保護とデータセキュリティの確保

データ・ローカライゼーション要求政策を実施する際、その目的として国民の

プライバシー保護とデータのセキュリティ確保があげられることがよくある。

それは本当に可能なのか。

まず、自国内にデータを保存したところで、個人情報などのデータが本当に誰

からも見られないかというと、そんなことはない。NSA などの 先端技術を持

つ国家組織が、何かの情報を探そうとすれば、 先端技術を駆使し、ありとあら

ゆる手段を使って、データが地球上のどこにあろうが、かならず見つけることが

できるだろう。また、自分の電子メールアカウントに関する情報がたとえ自国内

のみに保存されていたとしても、他の国の誰かに一度でもメールを送れば、ほと

んどの場合はアメリカを経由する光学ファイバーケーブルを通るため、その際

に NSA などの組織によってチェックされ、あなたの電子メールアカウントに関

わる情報を収集されてしまう可能性は非常に高い。

あるセキュリティの専門家によれば「NSA に情報を知られないようにする唯

一の方法は、インターネットにつながないことだ。」39ということで、インター

ネットを使っている限り、たとえ国内のサーバーにデータを保存しても、プライ

バシーが完全に保護できるとはいえない。

さらに、自国内のサーバーのみにデータを保存していて自然災害などでその

サーバーが被害を受けた場合、他の国など、地理的に分散したところにあるサー

バーにバックアップがないと、データは完全に失われてしまう恐れがある。

また、分散せずに一カ所にデータを集約することは、ハッカーなどの犯罪者が

http://www.dw.de/deutsche-telekom-internet-data-made-in-germany-should-stay-ingermany/a-17165891 39 Jon Swartz, NSA Surveillance Hurting Tech Firms' Business, USA TODAY (Feb. 28, 2014) (quoting Domingo Guerra), http://www.usatoday.com/story/tech/2014/02/27/nsa-resistant-products-obama-techcompanies-encryption-overseas/5290553/

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30

ターゲットにしやすい40。また、データ・ローカライゼーション要求政策によっ

て保護された国内のプロバイダーは、日々進化するサイバー犯罪から身を守っ

て競争力を上げるための努力を怠り、グローバル競争力が低下する可能性もあ

る。

つまり、データ・ローカライゼーション政策によって国民のプライバシー保護

やデータのセキュリティを確保する、という目的を達成するのは難しいといえ

る。

第3節 国内産業・経済成長促進のためのデータ・ローカライ

ゼーション要求政策

データ・ローカライゼーション要求政策によって、データを国内のサーバーに

置くことを義務づけるだけでなく、国内のプロバイダーを使うことになり、国内

のサーバーや通信インフラの発展や国内 IT 関連企業のビジネス推進につながり、

ひいては自国経済の促進につながるという考え方もある。確かに、国内のプロバ

イダーやサーバーを使えば、インフラや関連ビジネスへの投資や利益が増え、国

内産業の発展に一時的にはなるかもしれない。

しかし、それは、国内ユーザーや新興企業のグローバル市場への自由なアクセ

スを阻害し、またグローバルな 新技術を海外から取り入れることさえも阻害

するかもしれない。情報化の時代において、グローバルなデータの流通は世界経

済の血液ともいえるほど重要である。

欧州においても、データを欧州域外に出すべきではないという意見が強い一

方で、ヨーロッパ委員会では、やはり特に大西洋を囲む国々の経済にとって自由

なデータ流通は非常に重要であると認識しているようである41。

40 Daniel Castro, INFO. TECH. & INNOVATION FOUND., THE FALSE PROMISE OF DATA NATIONALISM 1 (2013), http://www2.itif.org/2013-false-promise-data-nationalism.pdf 41 Commission Communication to the European Parliament and the Council on the Functioning of the Safe Harbour from the Perspective of EU Citizens and Companies

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31

第4節 日本の産業界と政府の対応

第 1 節において、海外のいくつかの国で採用されているデータ・ローカライ

ゼーション要求政策の概要について検証した。では、日本の産業界や政府はデー

タ・ローカライゼーションに関してどのように対応しているのか。また、本当に

それでいいのだろうか。

2014 年 10 月 8 日、日本の主な大手 IT 関連企業をメンバーとする(一社)電

子情報技術産業協会(JEITA、日本)42は、米国情報技術産業カウンシル(ITI、米

国)およびデジタル・ヨーロッパ(DE、欧州)と、それぞれの政府関係者も交え

た日米欧 3 極での会合を東京で開催し、Forced Localization Measures(保護主

義的な通商政策)に関する意見交換を行った43。特に、データ・ローカライゼー

ション要求政策については、世界経済の成長に深刻な影響を及ぼす問題である

として、”The Tokyo Resolution on Combatting Data Localization Requirements”

を作成して公表した44。

この Tokyo Resolution では、データ・ローカライゼーション要求政策は、イン

フラのリソースを有効活用するインターネットの特性である、データの自由な

流通を阻害するもので、セキュリティやプライバシーを確保するどころか、海外

の市場を狙う国内の中小企業のビジネスの障害となるなど、逆効果になりうる

と説明している45。

つまり、日本の産業界と政府は、データ・ローカライゼーション要求政策には

反対の立場を取っている。

Established in the EU, at 3, COM (2013) 847 final (Nov. 27, 2013) 42 (一社)電子情報技術産業協会 http://www.jeita.or.jp/ 43 (一社)電子情報技術産業協会「Forced Localization Measures に関する第 2 回日米

欧会合開催」 http://www.jeita.or.jp/japanese/letter/pdf/vol11/07.pdf 44 脚注 43 と同じ 45 脚注 43 と同じ

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32

第5節 まとめ

本章の第 2 節では、各国におけるデータ・ローカライゼーション要求政策の概

要や議論の状況について検証し、第 3 節および第 4 節では、政策導入の目的と

してのセキュリティ確保、プライバシー保護、国内産業・インフラの促進などの

妥当性について述べた。

また、第 5 節では、日本の産業界と政府は、データ・ローカライゼーション要

求政策に反対する立場を表明していることを紹介した。

しかし、日本の取るべき立場は本当に「反対」でいいのだろうか。日本の企業

にとって、グローバルに自由なデータの流通の確保はどれほど重要なものなの

だろうか。

日本におけるクラウド・コンピューティング・ビジネスには欧米とは異なる特

徴がある。日本の企業ユーザーは、データがどこにあるのかわからず、自分達で

コントロールできないパブリッククラウドではなく、コストが高くても自分達

でシステムやセキュリティをカスタマイズ、コントロールできるプライベート

クラウドを選ぶことが多く、現在においても、また今後数年間の市場予測でも、

プライベートクラウドの方がパブリッククラウドよりもずっと多い46。

よって、たとえ、データ・ローカライゼーション要求政策によって、日本のデ

ータを日本国内に置かなければならなくなっても、プライベートクラウドサー

バーを国内に置けば、海外とのデータフローは必要なく、それほど大きな問題は

無いのではないか。

また、世界中にリソースを持ち、パブリッククラウドサービスをグローバルに

提供するアマゾン、グーグル、マイクロソフトなどの米国の大手企業は日本国内

でも着実にプレゼンスを高めつつあり、日本の IT サービスベンダーにとって手

強いライバルとなっている47。データ・ローカライゼーション要求政策によって、

46 情報サービス産業白書 2015 図表 2-5-4-4 「国内のクラウドサービス市場予測」 47 MM 総研 国内クラウド需要動向 2013 年 8 月

http://www.m2ri.jp/newsreleases/main.php?id=010120130828500

Page 34: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

33

日本国内に進出している米国大手プロバイダーが海外のサーバーを使えなくな

り、日本市場でビジネスができなくなれば、手強いライバルがいなくなって、日

本のクラウドサービスプロバイダーにとっては好都合なのではないか。

そこで、データ・ローカライゼーション要求政策が、越境データ流通にかかわ

るビジネスにどのような影響があるのか、次章以降において、オンライン調査を

行った結果の考察と議論を行い、その影響の大きさと重要性をよく検討したう

えで、日本が今後どうするべきか、議論することとしたい。

Page 35: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

34

Page 36: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

35

第3章 海外への直接投資先決定におけるデ

ータ・ローカライゼーション要求政策

の与える影響について

第1節 海外への直接投資先を決定する要因とデータ・ロー

カライゼーション要求政策について

前章において、いくつかの国において実際に施行され、または検討されている

データ・ローカライゼーション要求政策について概略を説明した。ロシアにおい

ては、データ・ローカライゼーションを要求する法律が 2015 年 9 月 1 日に施行

され、ブラジルでは、インターネットユーザーの権利を保護する法律であ

る”Marco Civil da Internet”が 2014 年 4 月に可決され、7 月には施行されている48。また、韓国では、金融機関のデータを海外へ移転することを禁止する規則が

検討されているといわれている49。世界中の多くの国でデータ・ローカライゼー

ション要求政策が検討され始めている。

そして、その政策をとる理由として挙げられているのは、国民の個人情報保護

の問題や、国家のセキュリティの問題、また、国内産業の保護であり、その信憑

性や効果についても議論を行った。

48 Marco Civil Internet Bill of Rights (English version), Art. 11. “In any operation of collection, storage, retention and treating of personal data or communications data by connection providers and internet applications providers where, at least, one of these acts takes place in the national territory, the Brazilian law must be mandatorily respected, including in regard the rights to privacy, to protection of personal data and to secrecy of private communications and of logs.” 49 Jonah Force Hill “THE GROWTH OF DATA LOCALIZATION POST-SNOWDEN: ANALYSIS AND RECOMMENDATIONS FOR U.S. POLICYMAKERS AND INDUSTRY LEADERS” Lawfare Research Paper Series July 21, 2014 http://www.lawfareblog.com/wp-content/uploads/2014/07/Lawfare-Research-Paper-Series-Vol2No3.pdf

Page 37: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

36

ヨーロッパ国際政策経済機関(ECIPE)が 2014 年 3 月に発表したレポートに

よると、データ・ローカライゼーション要求政策はその国の経済にマイナスの影

響を与えるという試算結果となっている50。つまり、データ・ローカライゼーシ

ョン要求政策により、国内市場での海外企業の経済活動が著しく制限されるた

め、海外企業が国内の市場へ参入しにくくなることにより、海外からの直接投資

が困難になり、その結果として、自国の経済にマイナスの影響がでることになる

ということである。

出典: ECIPE Occasional Paper No.3/2014

図 3 GTAP モデルを使った試算によるデータ・ローカライゼーション要求政策

の各国の GDP への影響

ECIPE の調査結果である図 3 からわかるように、特にベトナムでのデータ・ロ

ーカライゼーション要求政策の経済へのダメージは、中国におけるダメージよ

りも大きいという結果となっている51。

しかし、一方で、日本の IT ソフトウェア・サービス産業の業界団体である(一

50 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional Paper No.3/2014 by Matthisa Bauer, Hosuk Lee-Makiyama, Erik van der Marel, Bert Verschelde 51 脚注 50 と同じ

Page 38: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

37

社)情報サービス産業協会(JISA)の国際委員会グローバルビジネス部会が 2012

年と 2014年にメンバー企業を対象にグローバルビジネスに関する調査を行った。

出典:(一社)情報サービス産業協会 グローバルビジネスに関する調査

図 4 JISA グローバルビジネスに関する調査:ターゲットとなる市場

その調査結果である図4に示されているように、ベトナムとインドネシアが、

将来的に も魅力的なマーケットであり、直接投資先であるという結果となっ

ており、中国を上回っていることがわかる52。

しかも、データ・ローカライゼーション要求政策をはじめとする海外企業をタ

ーゲットにした中国政府の政策は、中国市場で海外企業がビジネスをする上で

大きな障害となっている、という意見が多い一方、ベトナム政府の政策は大きな

障害にはなっていない、という意見が多い53。これは上述の ECIPE の調査結果と

52 Global Business Survey conducted by JISA Global Business Committee in 2012 & 2014 http://goglobal.jisa.or.jp/home//tabid/75/pdid/183/catid/5/Default.aspx 53 脚注 52 と同じ

Page 39: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

38

は異なる結果となっている。

また、みずほ総合研究所が 2016 年 11 月 15 日に発表した「みずほインサイト」

によると、日本企業の対アジア直接投資は、2014 年下期以降回復していた中国

向けが、2015 年下期以降再び減少に転じ、ベトナムとインドネシアを含む ASEAN

5 は高水準を維持している、と報告している54。

出典:みずほ総合研究所 みずほインサイト 2016 年 11 月 15 日

図 5 日本の対アジア直接投資

日本貿易振興機構(JETRO)の発表している日本から海外への直接投資統計で

も、2011 年から 2016 年までの中国、ベトナム、インドネシアへの投資額の推移

は、図 6 の通り、中国向けはかなり減少しているが、ベトナムとインドネシア向

けはほぼ横ばいとなっている結果とも一致している55。

54 みずほ総合研究所 みずほインサイト 2016 年 11 月 15 日 https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/as161115.pdf 55 日本貿易振興機構 直接投資統計 https://www.jetro.go.jp/world/japan/stats/fdi.html

Page 40: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

39

資料:JETRO 直接投資統計

図 6 日本から中国、インドネシア、ベトナムへの直接投資額推移

しかし、図 7の A.T. Kearney が 2015 年に発表した海外直接投資信頼度指数の

結果によれば、2013 年から 2015 年まで 3年連続で、中国はアメリカに次いで第

2 位となっている56。ベトナムとインドネシアはランキング外である。中国は、

国土も大きく、人口も多く、今後、市場や経済が大きく成長する可能性が高いと

考えられていることがわかる。つまり、海外直接投資先として、中国は非常に魅

力的な市場であり、ベトナムやインドネシアよりずっと重視されているという

ことである。これは、上述した、図の JISA グローバルビジネス部会での調査結

果ある、中国よりベトナムやインドネシアの市場の方が魅力的であるという結

果や、図 5および図 6の実際の投資額の統計とは食い違う結果となっている。

このように、投資家から見て、海外への直接投資先を決定する要因は、市場の

大きさや成長見込みなどをはじめとする市場環境や、その国における政策、法律、

税制、など、また、それ以外の様々な要因が影響すると考えられる。

この章では、海外直接投資において、どのような要因がどのような影響を与え

るのか、について考察するため、日本人がアジアへの直接投資先またはビジネス

56 A.T. Kearney Foreign Direct Investment Confidence Index 2015 https://www.atkearney.com/research-studies/foreign-direct-investment-confidence-index/2015

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

2011 2012 2013 2014 2015 2016

中国

インドネシア

ベトナム

(百万ドル)

Page 41: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

40

展開先をどのように決定するのか、特に、中国、ベトナム、インドネシアなどの

国々について、どのように考えているのか、についてオンライン調査を行い、そ

の結果を分析することとする。

図 7 A.T. Kearney 海外直接投資信頼度指数 2015

Page 42: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

41

第2節 アジアへの投資・ビジネス展開に関するオンライン調

1. 調査概要

(1) 調査名: アジアへの直接投資またはビジネス展開に関するオンラ

インアンケート調査

(2) 調査期間: 2015 年 5 月 21-24 日

(3) 調査の目的:

① 日本人がどのようにして海外投資先・ビジネス展開先を決定す

るのか、調査する。

② 中国、ベトナム、インドネシアは、日本からの直接投資先やビジ

ネス展開先としてどのように考えられているのか、調査する。

③ 中国、ベトナム、インドネシアについて、日本人がどのような感

情を持っているのか、調査する。

(4)調査対象: アジアにおいて、直截投資またはビジネス展開をしたこと

のある日本人

(4) 回答数: 300

2. 調査結果

(1) 市場規模・将来の成長予測をもとにした海外直接投資先としての評価に

ついて

Page 43: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

42

Q1. 投資先の国を「市場の大きさ(人口、国土)、成長性、市場の戦略的位置

づけ」で考えた場合、中国、ベトナム、インドネシアのそれぞれの国の評価

を 1(投資先として非常に悪い)~5(投資先として非常に良い)で評価して

ください。

この設問では、中国、ベトナム、インドネシアについて、その国の市場規模や

将来の成長予測をもとに、海外直接投資先として評価してもらった。その結果が

図 8である。

中国については、半数以上の 57.3%が投資先として「非常に悪い」または

「悪い」のどちらかで回答しており、「非常に良い」と「良い」はわずか 12%

となっている。それに比べ、ベトナムとインドネシアについては正反対で、

「非常に良い」または「良い」がいずれも半数以上、「非常に悪い」と「悪

い」はわずか 10%前後となっている。

出典:日本からアジアへの海外直接投資に関する調査(2015.5)

図 8 Q1. 投資先の国を「市場の大きさ(人口、国土)、成長性、市場の戦略的

位置づけ」で考えた場合、中国、ベトナム、インドネシアのそれぞれの国

の評価を 1(投資先として非常に悪い)~5(投資先として非常に良い)

で評価してください。

市場規模・将来の成長予測をもとにした海外直接投資先としての評価この結

果は、中国は国土も大きく人口が多いので市場も大きい、という一般的な考え

方とは全く異なった結果となっている。前項で紹介した、図 7の 2015 年

1(投資先として非常に悪い)

27.3

2.3

3.0

2

30.0

6.7

8.0

3

30.7

32.7

33.3

4

9.3

41.0

39.0

5(投資先として最も良い)

2.7

17.3

16.7

1. 中国

2. ベトナム

3. インドネシア

Page 44: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

43

A.T.Kearney 海外直接投資信頼度指数57で示されているように、3年連続で中国

がアメリカについて世界第 2位となっている結果とも一致しない。

(2) 海外直接投資にかかわる法・税制度、外資優遇措置について

Q2. 投資先の国を「法・税制度、外資優遇措置」で考えた場合、中国、ベ

トナム、インドネシアのそれぞれの国の評価を 1(投資先として非常に悪

い)~5(投資先として非常に良い)で評価してください。

図 9の結果を見てわかるように、海外直接投資にかかわる法・税制度、外資

優遇措置についても、中国は投資先として望ましくない、という結果となって

いる。「非常に悪い」、「悪い」の合計は 63.7%に対し、「非常に良い」、「良い」

の合計はわずか 7.6%となっている。

一方、ベトナムとインドネシアについては、いずれも半数近くが「非常に良

い」または「良い」と回答し、「非常に悪い」と「悪い」は合計しても 10%強

に過ぎない結果となっている。

これは、前項で紹介した、ECIPE Occasional Paper No. 3/201458で指摘され

ている、ベトナムのデータ・ローカライゼーション要求政策が大きな問題であ

るということとは異なった結果となっている。

57 A.T. Kearney Foreign Direct Investment Confidence Index 2015 https://www.atkearney.com/research-studies/foreign-direct-investment-confidence-index/2015 58 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional Paper No.3/2014 by Matthisa Bauer, Hosuk Lee-Makiyama, Erik van der Marel, Bert Verschelde

Page 45: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

44

出典:日本からアジアへの海外直接投資に関する調査(2015.5)

図 9 Q2. 投資先の国を「法・税制度、外資優遇措置」で考えた場合、中国、ベ

トナム、インドネシアのそれぞれの国の評価を 1(投資先として非常に悪

い)~5(投資先として非常に良い)で評価してください。

(3) 人材確保、人件費の上昇リスクについて

Q3. 投資先の国を「人材確保・人件費上昇リスク」で考えた場合、中国、ベ

トナム、インドネシアのそれぞれの国の評価を 1(投資先として非常に悪

い)~5(投資先として非常に良い)で評価してください。

近年、中国では人件費が急上昇していることが大きな問題となっている。チ

ャイナ・ビジネス・レビューによると、「中国国内のエグゼクティブたちは、

近年の人件費の急上昇が国内における も深刻な問題であると述べている」と

伝えている59。

図 10 の結果をみても、中国については 72%が投資先として良くない、と回

答しており、ベトナムやインドネシアと大きな違いがあることが明確である。

やはり中国の人件費の上昇は、海外直接投資や事業展開上、大きな問題として

とらえられていることがわかる。

59 China Business Review July 1, 2012 http://www.chinabusinessreview.com/chinas-rising-costs/

1(投資先として非常に悪い)

32.7

2.7

2

31.0

9.7

10.7

3

28.7

41.7

40.3

4

5.3

34.7

37.3

5(投資先として最も良い)

2.3

11.3

10.0

1. 中国

2. ベトナム

3. インドネシア

Page 46: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

45

出典:日本からアジアへの海外直接投資に関する調査(2015.5)

図 10 Q3. 投資先の国を「人材確保・人件費上昇リスク」で考えた場合、中国、

ベトナム、インドネシアのそれぞれの国の評価を 1(投資先として非常

に悪い)~5(投資先として非常に良い)で評価してください。

(4) 歴史、外交、政治、経済的な要因の与える影響

Q4. 投資先の国を「その国と日本の外交関係、政治的、経済的、外交的リス

ク、近隣諸国との関係」で考えた場合、中国、ベトナム、インドネシアのそ

れぞれの国の評価を 1(投資先として非常に悪い)~5(投資先として非常

に良い)で評価してください。

Q5. 投資先の国を「日本とその国の歴史的な出来事、関係」で考えた場合、

中国、ベトナム、インドネシアのそれぞれの国の評価を 1(投資先として非

常に悪い)~5(投資先として非常に良い)で評価してください。

1(投資先として非常に悪い)

39.0

2.3

2.0

2

33.0

10.3

9.0

3

21.0

35.0

40.3

4

5.0

39.0

38.0

5(投資先として最も良い)

2.0

13.3

10.7

1. 中国

2. ベトナム

3. インドネシア

Page 47: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

46

出典:日本からアジアへの海外直接投資に関する調査(2015.5)

図 11 Q4. 投資先の国を「その国と日本の外交関係、政治的、経済的、外交的

リスク、近隣諸国との関係」で考えた場合、中国、ベトナム、インドネ

シアのそれぞれの国の評価を 1(投資先として非常に悪い)~5(投資先

として非常に良い)で評価してください。

出典:日本からアジアへの海外直接投資に関する調査(2015.5)

図 12 Q5. 投資先の国を「日本とその国の歴史的な出来事、関係」で考えた場

合、中国、ベトナム、インドネシアのそれぞれの国の評価を 1(投資先と

して非常に悪い)~5(投資先として非常に良い)で評価してください。

1(投資先として非常に悪い)

47.3

2

27.0

5.7

5.3

3

17.3

35.3

36.0

4

6.7

40.3

42.7

5(投資先として最も良い)

17.3

14.7

1. 中国

2. ベトナム

3. インドネシア

1(投資先として非常に悪い)

50.7

2

26.7

4.3

5.7

3

15.3

34.7

36.0

4

5.7

40.7

39.0

5(投資先として最も良い)

19.3

18.3

1. 中国

2. ベトナム

3. インドネシア

Page 48: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

47

今度は、投資先の国を「その国と日本の外交関係、政治的、経済的、外交的

リスク、近隣諸国との関係」また「日本とその国の歴史的な出来事、関係」を

考えて評価した結果を見てみる。図 11、図 12 をみてわかるように、どちらの

場合も、中国は、ベトナムやインドネシアと比べてかなり投資先として良くな

い、という結果となっているのがわかる。特に Q5 の「日本とその国との歴史

的な出来事、関係」で考えた場合には、76.7%が中国は投資先として良くない

と回答している一方、ベトナムは 5.3%、インドネシアは 6.7%とかなり大き

な違いがある。

Q4 の「その国と日本の外交関係、政治的、経済的、外交的リスク、近隣諸

国との関係」で考えた場合も Q5 の結果と全く同じ傾向となっている。

(5) その国に対する個人的な感情による影響

Q6. 投資先の国を「投資の意思決定をする個人(自分)のその国に対する感

情」で考えた場合、中国、ベトナム、インドネシアのそれぞれの国の評価を

1(投資先として非常に悪い)~5(投資先として非常に良い)で評価してく

ださい。

Q6 では、意思決定者の個人的な感情がどのように影響するか、について調査

した。図 13 の結果を見ると、また、投資先として中国は良くないと考える回答

が 65.3%と非常に多くなっている。逆にベトナムとインドネシアはどちらでも

ない、という回答がどちらも 40%近くいるものの、投資先として良いと考える

回答が半数を超え、良くないという回答はどちらも 6-7%と 1 割未満となって

いる。

Page 49: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

48

出典:日本からアジアへの海外直接投資に関する調査(2015.5)

図 13 Q6. 投資先の国を「投資の意思決定をする個人(自分)のその国に対す

る感情」で考えた場合、中国、ベトナム、インドネシアのそれぞれの国

の評価を 1(投資先として非常に悪い)~5(投資先として非常に良い)

で評価してください。

第3節 日本から海外への直接投資先または進出先を決定

する要因について

前節で紹介したように、オンライン調査を行った結果、市場規模、法・税制度、

人材確保・人件費、外交関係、歴史的出来事、個人的な感情、について、どの設

問においても、中国は投資先として良くない、という結果となっている。

日本貿易振興機構(JETRO)が発表している日本から海外への直接投資に関す

る統計60を見ると、2011 年には中国はアメリカとイギリスに次いで第 3位、2012

60 日本貿易振興機構(JETRO) 海外への直接投資に関する統計 http://www.jetro.go.jp/world/japan/stats/fdi.html

1(投資先として非常に悪い)

37.3

2.0

2

28.0

4.0

5.3

3

23.7

38.3

37.7

4

7.7

35.3

35.0

5(投資先として最も良い)

3.3

20.3

20.3

1. 中国

2. ベトナム

3. インドネシア

Page 50: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

49

年にはイギリスを抜いて第 2 位の投資先となっていた。しかし、2013 年になる

と、アメリカ、イギリス、タイに次ぐ第 4位に後退してしまっている。

図 14 を見るとわかるように、日本から中国への直接投資額は、2012 年までは

年々増加していたが、その後、減少に転じている。一方、日本からベトナムへの

投資は、金額的にはまだそれほど大きくないものの、2013 年以降も着実に増加

を続けている。

出典:JETRO 日本からの海外直接投資額統計を使って作成

図 14 日本から中国、ベトナム、インドネシアへの直接投資額の推移

前項で紹介したように、A.T.Kearney の発表している 2015 年海外直接投資信

頼度指数61によれば、中国はアメリカに次いで、3 年連続で 2 位の投資先となっ

ている。つまり、2013 年に、日本以外の国から中国への投資は減っていないに

もかかわらず、日本から中国への投資は減っているということである。これはな

ぜなのか?

次項において、日本から中国への投資や海外展開に大きな影響を与えたと考

えられる 2つの要因について検証する。

61 A.T. Kearney Foreign Direct Investment Confidence Index 2015 https://www.atkearney.com/research-studies/foreign-direct-investment-confidence-index/2015

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

2009 2010 2011 2012 2013

日本からの直接投資額

中国

インドネシア

ベトナム

百万米ドル

Page 51: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

50

1.尖閣諸島をめぐる日中間の領土問題

日本と中国の間で以前より問題となっていた、尖閣諸島をめぐる領土争い

は、2012 年 9 月に もエスカレートした。尖閣諸島問題とは、日本が実質支配

している尖閣諸島を 1970 年代から中国と台湾が領有権を主張している問題で

ある。それまで、私有地であった尖閣諸島の 3島を 2012 年 9 月に日本国が購

入し、国有化されたことに中国国民が大きく反発し、中国各地で大規模な反日

デモや暴力的な抗議行動が行われたほか、中国政府も、日本からの輸入品の通

関手続きを遅らせたり、書店から日本の書籍を引き揚げさせたりするなど、日

本に抗議する報復措置をとった。

この時、中国各地で起こった反日デモにおいて、日系のデパートや商店など

が襲撃されて破壊されたり、日本製の自動車が壊されたり焼かれるなど、激し

い抗議活動の映像がテレビなどのメディアを通じて日本で報道された。また、

多数の中国船が尖閣諸島近辺を航行し、日本の漁船の安全を脅かす映像も見ら

れた。これらの映像は、非常にショッキングなものであった。この結果、多く

の日本人が中国に対して反感を持ったことは否めない。

図 15 は、中国、ベトナム、インドネシアに対する印象を聞いた結果を示し

ている。中国に対しては、67.7%が「好きではない」または「あまり好きでは

ない」と回答しており、「とても好きである」または「まあまあ好きである」

という回答は 13%に過ぎない。

2012 年 9 月の尖閣諸島の日本国有化に反対する中国でのショッキングな反日

行動の映像によって、日本から中国への直接投資やビジネスには、今回のよう

なことがまた起きる可能性が高く、リスクが大きいと判断する結果につながっ

たと言える。

また、すでに中国でのビジネスを行っている企業は、このようなことが起き

て中国における事業を継続することができなくなった場合のリスクヘッジとし

て、東南アジアの別の国にも展開する、チャイナ・プラスワンを検討すること

もあった。

Page 52: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

51

出典:日本からアジアへの海外直接投資に関する調査(2015.5)

図 15 Q8. 以下の国に対する、あなたの個人的な印象を 5 段階でお答えくださ

い。

2. 中国でのビジネスの難しさ

中国への直接投資が減りはじめたもう一つの重要な理由として考えられるの

は、中国ですでにビジネスを始めている日本人が難しいと感じていることでは

ないか。

図 16 は中国、ベトナム、インドネシアに対して、現地でのビジネス展開や

投資を行なったことがあるかどうかについて聞いた回答結果である。中国につ

いては、すでに投資やビジネスをしたことがあるという回答が 71.7%もあり、

ベトナムの 41%、インドネシアの 43.7%を大きく上回っている。しかし、そ

のうち、すでに撤退している回答が 25%と、中国に進出したことがある回答者

数のうちの約 35%がすでに撤退していることがわかる。

前項でも述べたが、中国においては、図 7のように、海外からの直接投資に

関する法・税制度が外資系企業にとっては望ましくないことが多かったり、ま

た、図 8からわかるように、人件費が高騰しており、低コストでの人材確保に

関する問題が大きいことも、中国でのビジネスを難しくしている要因であると

言えるだろう。

1(好きではない)

46.7

2

20.3

5.3

6.7

3

20.0

33.3

33.0

4

8.7

40.3

41.3

5(とても好きである)

4.3

19.3

17.3

1. 中国

2. ベトナム

3. インドネシア

Page 53: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

52

出典:日本からアジアへの海外直接投資に関する調査(2015.5)

図 16 Q SC2. 中国、ベトナム、インドネシアに対して、現地でのビジネス展

開や投資を行なったことがありますか。今後の展望も含めてお聞かせく

ださい。

第4節 まとめ

海外への直接投資先やビジネス展開先の決定に影響を与える要因はたくさん

ある。もし、市場の大きさや成長見込みだけを考えて投資先を決定するなら、

日本からはもっと中国に投資し続けていたはずである。もし、法・税制度が海

外直接投資に望ましいかどうか、という理由だけで投資先を決定するなら、デ

ータ・ローカライゼーション要求政策の影響が大きいと ECIPE Occasional

Paper No.3/201462が報告しているベトナムへの投資は増えないし、JISA のグロ

ーバルビジネスに関する調査結果のように、ベトナムに注目する企業が も多

くなることはあまり考えられない。

2012 年に尖閣諸島問題がエスカレートした際、中国における一部の過激な反

62 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional Paper No.3/2014 by Matthisa Bauer, Hosuk Lee-Makiyama, Erik van der Marel, Bert Verschelde

以前したことがあるがすでに

撤退した

25.0

7.7

8.0

すでにしており、現在も継続

46.7

33.3

35.7

将来しようと考えている

11.3

42.0

39.0

いままでしたこともないし今

後も計画はない

17.0

17.0

17.3

1. 中国

2. ベトナム

3. インドネシア

Page 54: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

53

日行動がメディアを通して日本で広く報道され、その結果として多くの日本人

が中国に対して反感を持った。日本から中国への直接投資が減少した も重要

な理由はこのためであると考えられる。

もう一つの理由は、すでに中国へ投資もしくはビジネスをしたことのある日

本人の多くが、中国でのビジネスが様々な理由で難しいと認識し、中国をやめ

てベトナムやインドネシアへ移りつつあるということが考えられる。

本章では、オンライン調査を行った結果を検証したが、市場の大きさや法

律・税制度などの客観的な要因よりも、その国に対する印象や好き嫌いなどの

主観的な要素の方が、海外の直接投資先・進出先の決定において大きな影響を

及ぼす可能性が高いことがわかった。

ECIPE Occasional Paper No.3/201463では、GTAP モデル64を使って GDP への影

響を計算しているが、データ・ローカライゼーションを含む越境データ移転に

関する規制がその国の経済に与える影響を考えるとき、そのような客観的な要

素だけでは本当の影響度を計算することは難しいのではないか。

次章以降で、より適した評価方法について考えていくこととする。

63 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional Paper No.3/2014 by Matthisa Bauer, Hosuk Lee-Makiyama, Erik van der Marel, Bert Verschelde 64 「GTAP モデルとは、アメリカのパデュー大学のハーテル教授を中心として、国際貿易

の自由化が世界各国に与える影響を評価する目的で 1992 年に設立された、「国際貿易分析

プロジェクト(The Global Trade Analysis Project)」によって開発されたものである。

GTAP モデルに用いられるデータベースは、30 の国と地域について 37 の産業部門の分類

し、国内及び国際間の産業部門間取引を網羅したものであり、WTO や世界銀行などの国

際機関においても利用されている。分析では、30 の国・地域及 37 産業部門のデータベー

スを、目的に応じて集計している。モデルは、各市場における財の需要と供給行動が、企

業や家計の 適化行動に基づいて定式化されており、需要と供給が一致するように価格が

決定される。関税などは、輸入財の供給価格に上乗せされる歪みとして定式化される。」 (内閣府経済社会研究所 経済分析第 156 号 「応用一般均衡モデルによる貿易・投資自

由化と環境政策の評価」1998 年 3 月)

Page 55: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

54

Page 56: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

55

第4章 データ・ローカライゼーション要求政

策の日本での影響:データの保存場所

についてのオンライン調査結果の分

第1節 データの保存場所についてのオンライン調査

前章では、海外への直接投資先や進出先を決定する要因は、市場環境やデー

タ・ローカライゼーション要求政策を含む法律・税制度だけではないことを述べ

た。つまり、越境データ移転にかかわる規制の影響度を考える場合、客観的な要

因だけでは説明ができない。

もし日本政府がデータ・ローカライゼーション要求政策を採用したら、日本の

産業界や経済にどのような影響が出るのか?データ・ローカライゼーション要

求政策をとる理由の一つとしてよく言われる、国内のデータセンター産業や ICT

企業を保護する、という効果は本当にあるのか?

この章では、個人や業務上のデータをどこのデータセンターに保存したいか、

オンライン調査を行い、その結果について分析し、データ・ローカライゼーショ

ン要求政策の日本でのビジネスへの影響を議論することとする。

1. 調査概要

Page 57: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

56

2. 調査結果

<業務上のデータ:電子メール、顧客情報、売上データ、プレゼン資料等、業務

にかかわるデータの場合>

(1) 自分のデータの所在について

Q1. あなたの業務にかかわるデータ(顧客情報、統計データ、参考資料、作

成資料などのすべての電子的な情報)について、そのデータがどこにあるサ

ーバーに保存されているか知っていますか。

図 17 に示されている通り、自分の業務上のデータは日本国内にあると知って

いる人は 68%いた。また、海外にあると知っている人は、わずか 0.7%であっ

た。

一方で、31.3%の人はデータが国内か国外か、どこにあるか知らないという回

答であった。

(1) 調査名: データの保存場所に関するオンライン調査

(2) 調査期間: 2016 年 5 月 29-30 日

(3) 調査の目的:日本人が業務上・個人のデータを国内外のどこに保存し

たいと考えているか、調査する。

(4)調査対象: 日本で仕事をしている日本人

(5)回答数: 300

Page 58: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

57

出典:データの保存場所に関するオンライン調査(2016.5)

図 17 Q1. あなたの業務にかかわるデータ(顧客情報、統計データ、参考資料、

作成資料などのすべての電子的な情報)について、そのデータがどこに

あるサーバーに保存されているか知っていますか。

(2) 自分のデータをどこに保管したいか

Q2.あなたの業務にかかわるデータについて、データは国内のサーバーに置

きたいですか。

図 18 の通り、88.3%が業務上のデータは日本国内に保存したいと回答して

いる。一方で、国外でも構わないと回答しているのは、11.7%に過ぎず、国内

に保存したいと回答している人を大きく下回っていることがわかる。

出典:データの保存場所に関するオンライン調査(2016.5)

図 18 Q2.あなたの業務にかかわるデータについて、データは国内のサーバー

に置きたいですか。

68.0 31.3

0% 20% 40% 60% 80% 100% 国内にある

国外にある

知らない

88.3 11.7

0% 20% 40% 60% 80% 100%

国内に置きたい

国外でもいい

Page 59: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

58

(3)業務データを保存してもいいと思う国

Q3.あなたの業務にかかわるデータについて、データが国外に保存されてい

てもいいと考える場合、どこの国がいいですか。(いくつでも)

また、国外でも構わないと答えた 11.7%の 35 人に、どこの国であればデー

タを保存してもいいかという質問をした。その結果は、図 19 の通り、アメリ

カが 34.3%、ヨーロッパが 25.7%と多かった。中国は 2.9%と非常に少ない結

果となった。

出典:データの保存場所に関するオンライン調査(2016.5)

図 19 Q3.あなたの業務にかかわるデータについて、データが国外に保存され

ていてもいいと考える場合、どこの国がいいですか。(いくつでも)

34.3

25.7

2.9

8.6

8.6

5.7

51.4

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0

アメリカ

ヨーロッパ

中国

ベトナム

アフリカ

その他の国 国名:

どこでもいい

業務上のデータを保存してもいいと思う国(n=35、複数回答)

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59

(4)業務データを国内に保存したいと考える理由

Q4.あなたの業務にかかわるデータについて、データを国内に置きたいと考

える場合、その理由は何ですか。(いくつでも)

業務にかかわるデータを国内に置きたいと考える場合、その理由は何なの

か、という設問に対する回答結果を図 20 に示した。43%が日本国外でのデー

タの漏洩や遺失を心配しており、20%の人は、国外にデータがあると必要な時

にすぐにデータにアクセスできないかもしれない、ということを心配してい

る。また、23%の人は、海外の政府が勝手に自分のデータにアクセスすること

に懸念を持っているようである。

全般的な回答として、60%がはっきりとした確証はないものの、自分のデー

タが海外で保存されることに対し、「何となく不安」と回答している。

出典:データの保存場所に関するオンライン調査(2016.5)

図 20 Q4.あなたの業務にかかわるデータについて、データを国内に置きたい

と考える場合、その理由は何ですか。(いくつでも)

43.0

20.0

23.0

59.2

1.9

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0

国外だとデータ管理が確保できない(漏洩、損失等

が心配)

データにアクセスしたいときにすぐにできるかわか

らない

その国の政府等に閲覧等される可能性がある

なんとなく海外だと不安

その他:

データを日本国内に置きたいと考える理由

Page 61: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

60

(5)日本の国内と国外にデータを保存するコストの違いによる影響

Q5. あなたの業務にかかわるデータについて、データを国内に置いた場

合、どこに置くかわからない場合と比べてコストが高い場合、それでも国

内に置きたいですか。

図 21 は、データを国内に保存する場合、国外に保存した場合よりコストが

高くなる場合、どちらにデータを保存したいか、という設問に対する回答を示

したものである。

国内に保存した方が海外より 2割高の場合だと 91.7%が、また 2倍のコスト

がかかる場合でも、73.2%が日本国内の方がいいと回答している。さらに、3

倍でも 50%、5倍のコストがかかる場合でもまだ、41.1%の人が、国内に保存

したいと回答している。

出典:データの保存場所に関するオンライン調査(2016.5)

図 21 Q5. あなたの業務にかかわるデータについて、データを国内に置いた場

合、どこに置くかわからない場合と比べてコストが高い場合、それでも

国内に置きたいですか。

国内に置きたい

91.7

73.2

50.2

41.1

国外でいい

8.3

26.8

49.8

58.9

1.国内に置くコストが海外に置く場合の1.2倍

(n=265)

2.国内に置くコストが海外に置く場合の2倍

(n=265)

3.国内に置くコストが海外に置く場合の3倍

(n=265)

4.国内に置くコストが海外に置く場合の5倍

(n=265)

Page 62: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

61

<個人的なデータ:プライベートな写真、ビデオ、電子メールなど>

(6) プライベートなデータの所在について

Q6. あなたの個人的なデータ(私的なメール、写真等)について、データ

がどこにあるサーバーに保存されているか知っていますか。

出典:データの保存場所に関するオンライン調査(2016.5)

図 22 Q6. あなたの個人的なデータ(私的なメール、写真等)について、デー

タがどこにあるサーバーに保存されているか知っていますか。

ここからは、業務上のデータではなく、自分のプライベートなデータの場合

についての設問となっている。

図 22 からわかるように、自分のプライベートなデータは、日本国内に保存

されているはず、と半数近くの 49.3%が回答している。この割合いは、図 15

で示した、業務上のデータの保管場所が日本国内であると知っているという回

答よりずっと少ない。

では、プライベートなデータはどこに保存したいのか、を聞いたのが次の設

問である。

49.3 7.7 43.0

0% 20% 40% 60% 80% 100%

国内にある

国外にある

知らない

Page 63: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

62

(7)個人のデータの保存場所について

Q7.あなたの個人的なデータについて、データは国内のサーバーに保存した

いですか。

出典:データの保存場所に関するオンライン調査(2016.5)

図 23 Q7.あなたの個人的なデータについて、データは国内のサーバーに保存

したいですか。

80%以上が日本国内に保存したいと回答しており、国外でもいいと回答した

のは 2割に満たない結果となっている。業務データの場合と同じく、日本国内

に保存したいと考える人が多いことがわかる。

(8)プライベートデータを国外に保存してもいい場合、どこならいいのか

では、国外でも構わない、と回答した 19.7%(回答数 59)はどこの国なら

自分のプライベートなデータを保管してもいいと考えているのか。その回答結

果を示したのが図 24 である。

Q8.あなたの個人的なデータについて、データが国外に保存されていてもい

いと考える場合、どこの国がいいですか。(いくつでも)

業務上のデータの時と同じように、アメリカ(37.3%)やヨーロッパ

80.3 19.7

0% 20% 40% 60% 80% 100%

国内に置きたい

国外でもいい

Page 64: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

63

(32.2%)は比較的多いが、やはり中国は 3.4%と少ない回答となっている。一

方、半数以上の 50.8%がどこでもいいと回答している。これは業務上のデータ

の時とほぼ同じ結果である。

出典:データの保存場所に関するオンライン調査(2016.5)

図 24 Q8.あなたの個人的なデータについて、データが国外に保存されていて

もいいと考える場合、どこの国がいいですか。(いくつでも)

(9)日本国内にプライベートデータを保存したい理由

次に、前述の Q7 で、プライベートデータを日本国内に保存したいと答えた

80.3%(回答数 241)の人たちは、なぜ、日本に保存したいのか、理由を聞い

た。

Q9.あなたの個人的なデータについて、データを国内に保存したいと考える

場合、その理由は何ですか。(いくつでも)

図 25 が示しているように、約半数の 50.2%が、日本国外だとデータの管理が

信頼できず、データが漏れたりなくなったりするのを心配している。また、

37.3

32.2

3.4

11.9

6.8

5.1

50.8

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60%

アメリカ

ヨーロッパ

中国

ベトナム

アフリカ

その他の国

どこでもいい

プライベートデータを保存してもいいと思う国

(n=59、複数回答)

Page 65: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

64

22.4%がデータのアクセスしたいときにすぐできない可能性があることを、ま

た 24.9%は外国政府などが許可なく自分のプライベートデータにアクセスした

りすることを懸念している。

しかし、 も多かったのは、57.3%が、「海外だとなんとなく不安」であると

回答していることがわかる。「なんとなく」という言葉に表されているのは、

理由が明確ではないものの、海外は自分から遠く、日本とは違って、現地の状

況が良くわからないことが多いため、不安に感じるということであると考えら

れる。

出典:データの保存場所に関するオンライン調査(2016.5)

図 25 Q9.あなたの個人的なデータについて、データを国内に保存したいと考

える場合、その理由は何ですか。(いくつでも)

(10)保存するコストが日本国内とどこかわからない場合と違う場合

Q10.あなたの個人的なデータについて、データを国内に保存する場合、

どこに保存するかわからない場合と比べてコストが高い場合、それでも国

内に保存したいですか。

50.2

22.4

24.9

57.3

0.8

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60%

国外だとデータ管理が確保できない(漏洩、損

失等が心配)

データのアクセスしたいときにすぐにできるか

どうかわからない

その国の政府等に閲覧等される可能性がある

なんとなく海外だと不安

その他:

データを国内に保存したい理由

(n=241、複数回答)

Page 66: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

65

プライベートデータを日本国内に保存する場合と、どこに保存するかわから

ない場合と、コストが違う場合について質問を行った。

図 26 の通り、日本国内に保存するとコストが 20%高い場合、89.6%がそれ

でも国内に保存したいと回答している。そしてコストが 2倍の場合は 73%、3

倍の場合でもまだ半数以上である 53%が日本国内に保存したいと回答してい

る。さらに、コストが 5倍になっても、48.1%が国内の方がいいと回答してお

り、この割合は Q5 で質問した業務データの場合に比べて、プライベートデー

タの方が、コストが高くなっても日本国内に保存したいと回答している比率が

大きいことがわかる。

出典:データの保存場所に関するオンライン調査(2016.5)

図 26 Q10.あなたの個人的なデータについて、データを国内に保存する場合、

どこに保存するかわからない場合と比べてコストが高い場合、それでも

国内に保存したいですか。

国内に保存したい

89.6

73.0

56.0

48.1

国外でいい

10.4

27.0

44.0

51.9

1.国内に置くコストが海外に置く場合の1.2倍(n=241)

2.国内に置くコストが海外に置く場合の2倍(n=241)

3.国内に置くコストが海外に置く場合の3倍(n=241)

4.国内に置くコストが海外に置く場合の5倍(n=241)

Page 67: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

66

第2節 データの保存場所に関する考察:データの保存場所

に関するオンライン調査結果からわかる日本人のプ

ライベートクラウド志向

前項で各設問とその回答結果を紹介したように、日本では業務上のデータで

も、個人のデータでも、日本国内に保存したいと考えているようである。これ

は、データを日本国外に保存するとプライバシーやセキュリティを確保できな

いと考えている日本人が多いためであると考えられる。コストが 2 倍や 3 倍に

なったとしても、それでも国内に保存したいと考える人が半数以上であること

からも、この点に関する懸念が非常に強いことがうかがえる。

出典:MM 総研 国内クラウドサービス市場規模 実績・予測(2016 年 12 月)

図 27 国内のクラウドサービス市場規模とその内訳

言い換えれば、日本国外にデータセンターを持ち、コストがずっと安いクラ

ウドサービスなどは、できれば使いたくない、と考える日本人が多いというこ

とである。このことは、国内のクラウド市場規模について MM 総研が発表して

いる図 2765にも明確に示されている。

65 MM 総研「国内クラウドサービス市場規模 実績・予測」(2016 年 12 月) https://www.m2ri.jp/news/detail.html?id=212

Page 68: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

67

国内のクラウド市場全体は年々増加するものの、そのパブリッククラウドと

プライベートクラウドの内訳を見てみると、2015 年度の実績の場合、プライベ

ートクラウドが 7,352 億円に対し、パブリッククラウドは 2,756 億円と、パブ

リッククラウドは約 27%と全体の 3割に満たない。この比率は、今後、さらに

少なくなると予測されており、2020 年にはパブリッククラウドがクラウドサー

ビス全体に占める比率は約 18%まで減る見込みとなっている。要するに、今後

の日本におけるクラウドサービス市場規模は、パブリッククラウドよりもプラ

イベートクラウドの方がずっと大きく成長するという予測である。

プライベートクラウドとは、クラウド技術を用いて、一つの企業や組織のた

めだけのコンピューティング環境を提供するサービスで、パブリッククラウド

と異なり、独自でサーバーを所有するか、クラウドサービスプロバイダーの特

定のサーバーを使うことが多く、ソフトウェアや回線なども独自にコントロー

ルすることが可能である。そのため、セキュリティやサービスの仕様を独自に

管理しコントロールできる。日本ではこのプライベートクラウドを好む企業が

圧倒的に多い。

第3節 まとめ

政府が、自国の市場において、自国民のデータを扱う企業に対し、国内にサ

ーバーを置くことを要求するのが、データ・ローカライゼーション要求政策で

ある。第 2章で紹介したように、ロシアやブラジルなど、この政策をすでにと

っている国もあり、さらにその数は増えつつある。この政策をとる理由の一つ

として挙げられているのが、未熟な国内の関連産業の保護である。つまり、国

内でクラウドサービスなどを行う海外企業に、国内にサーバーを設置するよう

義務づけることにより、余計な事業コストを負担させてコストを上げ、サービ

スの競争力を低下させたり、国内のデータセンターを活用させて国内企業の利

益になるように仕向けることである。

前項で検証した、データの保存場所に関するオンライン調査結果からわかる

ように、日本においては、コストが 2倍や 3倍高かったとしても、プライバシ

ー保護やセキュリティ管理が確保できない海外でなく、管理やコントロールが

可能な日本国内のサーバーにできれば保存したいと考えるケースが多い。つま

Page 69: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

68

り、日本の場合、海外にデータを保存したくないケースが多いので、あえてデ

ータ・ローカライゼーション要求政策によって国内にサーバーを置くことを義

務付けなくても、国内のサーバーを使うことが多いということである。言い換

えれば、データ・ローカライゼーション要求政策がその国の産業や経済に与え

る影響は、国によって違うので、一概に判断できないということになる。

前章では、海外への直接投資先やビジネス展開先を決定する要因には、市場

環境や法・税制度だけでなく、様々な要因が影響するため、ECIPE Occasional

Paper66がデータ・ローカライゼーション要求政策による経済への影響度を試算

するために採用している GTAP モデルのみでの試算は、必ずしも正しくないの

ではないか、ということを述べた。

この章ではさらに、データ・ローカライゼーション要求政策としてのサーバ

ーの国内設置義務が及ぼす影響は、国によって違うため、そのような違いには

影響されない方法で評価する必要があると考える。

そこで、次章では、データ・ローカライゼーション要求政策が経済に与える

影響をより適切に評価するため、データ・ローカライゼーション要求政策をは

じめとする越境データ流通にかかわる規制が、自分のビジネスにどのような影

響があるかについて調査を行い、その回答結果を分析することとする。

66 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional Paper No.3/2014 by Matthisa Bauer, Hosuk Lee-Makiyama, Erik van der Marel, Bert Verschelde

Page 70: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

69

第5章 越境データ移転についての規制とビジ

ネスへの影響

第1節 越境データ移転を阻害する規制について

第 4 次産業革命ともいわれるほど、社会経済全体への影響が大きいと考えら

れている新しいデジタルビジネスは、データの自由な流通ができることが大前

提となっている。ICT の進歩によってデジタル経済が多くの可能性を生み出して

おり、データの自由な流通は今後さらに重要な意味を持つと言える。

特に、国境を越えたデータの移転については、国ごとに規制がばらばらであり、

国によっては、データ・ローカライゼーション要求政策だけでなく、個人情報の

保護を理由に自由なデータの移転を規制したり、国外への移転を制限したりす

ることもある。

アジア・オセアニア地域には、中国、インド、マレーシア、インドネシアなど、

今後の大きな成長が見込まれる新興国が多くあり、ICT 産業の成長も著しい。一

方、未熟な国内産業の保護や言論統制などの目的で、データの移転に関し、様々

な規制がある国もある。

デジタルビジネスにとって、データが自由に流通することは必要不可欠な環境

であり、データの自由な流通がないとデジタルビジネスは不可能と言っても過

言ではない。つまり、データの流通を阻害する規制は、デジタルビジネスにとっ

て致命的であると言える。

データの流通を阻害する規制の代表的なものとして、データ・ローカライゼー

ション要求政策(データの現地化要求)、ソースコードの開示要求、国家による

ネットワーク主権の主張、個人情報保護規制があげられる。そこで、アジアの情

報サービス事業者を対象にして、これらの規制がビジネスに与える影響につい

ての意識調査を行うこととした。

Page 71: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

70

まず、その調査を行う前に、自由な越境データ流通を制限する上記の規制が具

体的にどのようなものなのか把握する必要がある。以下にデータ流通を阻害す

る規制について一つずつ具体的に説明することとする。

1. データ・ローカライゼーション要求政策

データ・ローカライゼーション要求政策、つまりデータの現地化要求と呼ばれ

る規制については、第 2章で詳しく述べているが、「コンピュータサーバの国内

設置要求」と表現されることもある。ロシアなどの一部の国ですでに法制化され

施行されているが、自国内で収集されたデータは自国内のサーバーに保存する

ことなどを義務づけている。企業などが自国の領域内で事業を実施する条件と

して、その自国領域内においてサーバー等のコンピュータ関連設備を利用又は

設置し、そこでデータを管理・処理するよう要求するということである。

一部の国がこのような措置を要求とする代表的な理由としては、国民の情報

を国内のサーバーに保管することで国民のプライバシーが他国に侵されないよ

うにするため、ということがよくある。しかし、国民のプライバシー保護という

のは表向きの理由であり、実は、国が言論統制を行ったり、機密情報を国外へ出

さないようにすることが目的であることもある。この点については、上述の筆者

の論文中でも議論している67。

また、海外の有力企業に比べて競争力の弱い自国の ICT 産業を保護するため

に海外企業にとって負担となる措置を強制したり、自国内にデータセンターを

設立することによるインフラの整備や雇用の創出なども理由とされることもあ

る。この点については、筆者が 2016 年 6 月に発表した、“Study on the Effect

of Data Localization Requirement Policy to Protect Local Data Center

Industry” において議論している68が、国外の企業には、データセンターや拠

点の新たな設置のため、多額の投資が必要となるため、国内の消費者や事業者に

とっても、より低コストで海外の消費者や企業と直接取引できるという電子商

67 「データ・ローカライゼーション要求政策にかかわるグローバルな議論と日本のとるべ

き立場についての考察」 河内淳子(2015.2.追手門学院大学 経営論集) 68 “Study on the Effect of Data Localization Requirement Policy to Protect Local Data Center Industry” 河内淳子(2016 年 6 月、ITS Taiwan)

Page 72: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

71

取引のメリットが失われることになる。データ・ローカライゼーション要求政策

で不利益を被らないのは、国内に限って事業展開している企業のみであり、それ

も自国産業の保護という短期的な効果はともかく、長期的には外国投資の減少

を引き起こす可能性も高く、このような規制が本当に経済成長のプラスにつな

がるのかあるいは逆効果なのではないかという議論が活発になってきている。

2016 年 2 月に批准された TPP では、自国内にサーバー設置を要求すること、い

わゆるデータ・ローカライゼーション要求政策を禁じている。このような規制に

よる自国経済へのプラスの効果が本当にあるのかどうか、といったことには未

だに明確な答えは出ていないと言えよう。

現在、データ・ローカライゼーション要求政策を実施しているとされる主な国

は図 28 の通りである69。

出典:“Data Localization: A Challenge to Global Commerce and the Free Flow

of Information” Albright Stonebridge Group(2015)

図 28 データ・ローカライゼーション要求政策の分布

69 “Data Localization: A Challenge to Global Commerce and the Free Flow of Information” Albright Stonebridge Group(2015)

Page 73: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

72

データ・ローカライゼーション要求政策が実施された具体的な例として、第 2

章でも述べたように、ロシアでは、「データ・ローカライゼーション法」がロシ

ア個人情報保護法を含む 3つの連邦法の改正法として 2015 年 9月 1日に施行さ

れている70。同改正法では、ロシア国内の事業者および海外の事業者であっても、

ロシア国内向けのウェブサイトを通じて個人情報を収集する者は、ロシア国民

の個人情報をロシア国内のサーバー等で保存、保管しなければならないこと、な

らびに、ロシア国内の事業者は、個人情報を処理するサーバーの場所を通信・情

報技術・マスコミュニケーション監督庁に通知しなければならないことなどが

定められている71。

Google は、法の執行に備え、図 29 の様にサーバーをロシア国内に移したこと

が報じられている72。

70 Chronicle of Data Protection, July 18th, 2014, Hogan Lovells http://www.hldataprotection.com/2014/07/articles/international-eu-privacy/russia-enacts-new-online-data-laws/ 71 JETRO ロシア 外資に関する規制

https://www.jetro.go.jp/world/russia_cis/ru/invest_02.html 72 “Google Moves Some Servers to Russian Data Centers” April 10, 2015, Wall Street Journal https://www.wsj.com/articles/google-moves-some-servers-to-russian-data-centers-1428680491

Page 74: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

73

出典:川合智大「越境データ流通規制に関する研究」(2017)

図 29 Google に対するロシアのサーバー設置要求

2. ソースコードの開示

もう一つの重要な規制として、「ソースコード開示要求」がある。自国内市場

に参入する民間企業に対して、ソフトウェアの販売や利用の条件として、ソフト

ウェアの機密情報であるソースコードの移転やアクセスを要求するというもの

である。

これを実施する目的としては、データ・ローカライゼーション要求政策のサー

バー設置要求と同じように、自国のセキュリティ確保や産業の保護などが考え

られる。自国内で使われるソフトウェアのソースコードにアクセス可能とする

ことで、国家の安全を脅かすような諜報活動を阻止しようとするだけでなく、優

れたソフトウェアの情報を横取りすることも可能である。

ソフトウェアの開発企業にとって、ソースコードは機密情報そのものである。

ソースコードの開示は、機密情報の流出のみならず、模倣品が作成されたり、ス

パイ活動に利用できる脆弱性を見つけられたりする可能性があり、大きな問題

となる。この規制についても、TPP や G7 などでは禁止する方向性であり、世界

Page 75: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

74

経済にとってマイナスの要因となることが危惧されている。

具体的な実施例としては、Microsoft は 2003 年、中国とその他の一部の国の

政府に対し、業務ソフトウェア「Office」のソースコードへのアクセスを認める

ことで合意したと報じられている73。これを図 30 に示す。中国当局はその際、

「ソースコードの開示により中国はソフトウェアの安全性を確認でき、マイク

ロソフトが米国のスパイのためのバックドアプログラムをインストールしてい

ないことを確実にできる」と述べたとされている74。また、中国当局は、政府調

達において、セキュリティソフトウエア製品の中国強制認証(CCC)の取得を義

務付けており、この中国強制認証をとるのはソースコード開示が必要となって

いる75。

出典:川合智大「越境データ流通規制に関する研究」(2017)

図 30 Microsoft に対する中国のソースコード開示要求

73 「米ハイテク企業、中国のソースコード開示要求に対抗」The Wall Street Journal 2015 年 2 月 6 日

http://jp.wsj.com/articles/SB12052756172436844285404580445172196455474 74 脚注 73 と同じ 75 「中国ソースコード強制開示 延期になったが大丈夫?」ASCII ビジネス 2009 年 4月 30 日 http://ascii.jp/elem/000/000/413/413922/

Page 76: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

75

一方、Apple は中国政府からソースコードの開示要求を受けたことがあるが、

これを拒否したと発表している76。

色 インターネット検閲の強さ

広範かつ強力な検閲が実施されている。

実質的に検閲が実施されている。

選択的な検閲が実施されている。

検閲状況が変化している。

検閲が、ほとんどまたは全く実施されていない。

不明。 出典:“Enemies of the Internet 2014: Entities at the heart of censorship and surveillance”

国境なき記者団(2014)

図 31 インターネット検閲の分布

3. ネットワーク主権

越境データ移転にかかわる別の規制の問題として、「ネットワーク主権」があ

る。これは、政府が自国内のネットワークの主権を主張し、支配下に置くことに

より、ネットワーク上の情報操作、言論統制、資源管理などを実施することであ

76 「アップル、中国のソースコード開示要請を拒否」ロイター 2016 年 4 月 20 日 https://jp.reuters.com/article/apple-encryption-idJPKCN0XG32D

Page 77: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

76

る。本論文では、政府機関が検閲し不適切と判断した Web サイトや SNS の利用

やインターネットへの接続自体を規制・遮断することを指すこととする。図 31

に示されている国と状況は、はインターネットの検閲を行っている一例である77。

世界のいくつかの国においてこのような規制等が課される理由としては、

2010 年から 2011 年にかけてアラブ世界において発生した「アラブの春」と呼

ばれる反政府運動などがネットワークを介して拡大することを阻止するための

という目的が大きいと考えられる。「アラブの春」とは、2010 年から 2011 年に

かけてアラブ世界において発生した民主化運動の総称であり、2010 年 12 月に

チュニジアではじまった「ジャスミン革命」から、エジプト、リビア、イエメ

ンなどのアラブ世界に波及した78。Facebook や YouTube をはじめとした SNS に

抗議デモなどの様子がアップロードされたほか、Twitter に関連コメントが大

量に投稿されるなど、反政府運動の関する情報が急速に拡散し、周辺地域に短

期間で運動が拡大した。

この時、抗議活動への参加の呼びかけの多くは、主として Facebook を使っ

て行われており、主たるプラットフォームとして使われた Facebook が、運動

を拡大した重要な要因の一つであることは否定できない。また、これをきっか

けに、アラブ世界における Facebook 利用者が急激に増加したとみられている79。当時、こうしたデモの拡大や混乱を鎮圧するために、一部の国の政府機関

が Facebook や Twitter などをブロックした上、インターネット接続の遮断を

実行するまでに至った80。いくつかの国では、現在でも、このような事態の再

発を防ぐため、情報の拡散に長けた SNS などについて、検閲や規制を行ってい

ると考えられる。

ネットワーク主権に関わる規制が行われているもう一つの重要な例として、

中国におけるインターネット情報検閲システム「金盾」がある。これは、

「Great Firewall」と呼ばれる、ファイアウォール機能によって中国国内のイ

77 “Enemies of the Internet 2014: Entities at the heart of censorship and surveillance” 国境なき記者団(2014) 78 総務省「情報通信産業・サービスの動向・国際比較に関する調査研究」平成 24 年 3 月

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h24_05_houkoku.pdf 79 脚注 78 と同じ 80 脚注 78 と同じ

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77

ンターネット利用者に対して、中国政府や中国共産党などに不都合な情報にア

クセスできないように情報通信サービスのフィルタリングを行うものである81。中国国内外で行なわれるインターネット通信に対して、接続の規制や遮断

を行う大規模な検閲システムとなっている。この規制によって、図 32 に示す

Facebook や Twitter などの主要な SNS にも中国の国内から接続できないことが

あるようである。

出典:川合智大「越境データ流通規制に関する研究」(2017)

図 32 中国におけるインターネットアクセス制限

4. 個人情報保護

世界各国における個人情報保護関連の法律も、越境データ移転にかかわる重

要な規制の一つとして注意する必要がある。

EU においては、「GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ

保護規則)」が 2018 年 5 月 25 日より施行される。これは、EU 域内在住の個人

情報の保護を目的とした法律・規則集で、2016 年 4 月 14 日に欧州議会で可決

された。GDPR は、20 年以上前に制定された現行法(1995 年の EU データ保

81 「ネット検閲を強化する中国、新兵器「巨砲」で他国のトラフィックも標的に」ZDNet Japan 2015 年 4 月 13 日 https://japan.zdnet.com/article/35063062/

Page 79: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

78

護指令に基づき制定された加盟各国のデータ保護法)が今日のようなデジタル

データの膨大なやり取りを想定していなかったことや、各国がばらばらに解釈・

運用を行っていて非効率であったことなどが背景になっている82。「個人データ

=EU 域内に在住する個人を特定可能な情報」の処理と移転に関する法律であり、

個人データの取り扱いについて、データの主体・所有者である EU 在住の個人

への説明と同意を得る必要があることや EU 域内で取得したプライバシーデー

タを欧州経済圏外に移転することは原則禁止であること、これらへの違反が判

明した場合は重い制裁金が科せられる恐れがあることなどが定められている83。

また日本でも、情報化の進展に伴う環境の変化を踏まえて 2015 年 9 月に個人

情報保護法の改正が行われ、2017 年 5 月よりすでに施行されている。改正の主

なポイントは5つある84。

1 つ目は個人情報の定義の明確化ある。身体的特徴も個人情報に含めるとし、

人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴等の慎重な取り扱いが求められる情

報を「要配慮個人情報」として定めた。2 つ目は、個人が識別できないように、

かつ復元できないようにした「匿名加工情報」の加工方法や取扱い等の規定を設

けたことである。同時に、本人同意を得ない第三者提供の届け出等の厳格化やト

レーサビリティの確保を定めている。3 つ目は、いわゆる名簿屋対策で、個人所

法保護の強化で、第三者提供にかかわる確認および記録の作成義務が設けられ

た。4 つ目は、個人情報の監視監督権限を有する第三者機関として「個人情報保

護委員会」を設置した点である。そして 5 つ目として、個人情報保護のグローバ

ル化で、国境を越えた海外への法の域外適用と、外国にある第三者への個人情報

の提供に関する規定の整備を行った。よって、移転するデータが個人情報にかか

わる場合、改正個人情報保護法により、移転先が適切な個人情報保護を行えない

場合、データの移転はできなくなった。

82 「EU の一般情報保護法制定の動きとその影響」 株式会社オージス総研 水間

丈博 2015 年 12 月 https://www.ogis-ri.co.jp/rad/webmaga/1244406_6728.html 83 脚注 82 と同じ 84 「個人情報保護法改正概要」内閣官房 IT 総合戦略室 平成 27 年 11 月 http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/151117_tf1_s4.pdf

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79

5. 小括

この節では、データ流通を阻害する可能性のある具体的な規制について説明し

た。自国内で事業を実施する企業が自国領域内にサーバーを設置するように制

限するデータ・ローカライゼーション要求政策、自国内市場に参入する民間企業

にソースコードの提出やアクセスを要求するソースコード開示、政府がネット

ワークの接続を操作して情報統制するネットワーク主権、そして個人情報の保

護である。

では、それらの規制がどれほどの影響を実際にビジネスに及ぼすのだろうか。 次の章では、日本の近隣であるアジア地域の情報サービス業事業者に、実際の

ビジネスにどのような影響があると考えているのか、オンライン調査を行い、そ

の結果をまとめる。

第2節 越境データ流通に関する規制についてのオンライン

調査

1. オンライン調査について

アジア・オセアニア地域の 24か国の ICT業界団体で構成されるAsia-Oceania Computing Industry Organization(ASOCIO)のメンバーに協力してもらい、

アジア・オセアニア地域内の情報サービス事業者の、国境を越えたデータの移転

への規制にかかわる意識を調査し、どのような規制がビジネスの障害になると

考えるか、オンライン調査をおこなった。

2. 調査の目的

アジア・オセアニア地域内における越境データ移転への規制について、情報サ

ービス事業者の意識や現状を把握し、データ流通を制限する主要な規制が実際

の情報サービス事業に及ぼす影響を調査する。

Page 81: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

80

3. 調査の概要

アジア・オセアニア地域内の 20 か国の IT 業界団体で構成される Asian-Oceanian Computing Industry Organization (ASOCIO)に所属する各国情報サ

ービス事業者を対象として、オンライン調査を実施した。回答ページのリンクを

メールで協会担当者から不特定多数の関係企業へ転送してもらうという方法で

配布している。リンク先のページに飛んで、回答に関する注意書きを読んでもら

い、メールアドレスや名前などの基本情報を登録してもらった後に、質問項目に

回答してもらう形式である。

調査タイトル:越境データ流通の利用と規制に関する調査

調査方法:「SurveyMonkey」を利用したオンライン調査

調査対象:ASOCIO メンバー協会に所属するの情報サービス事業者

調査期間:2016 年 9 月 6 日〜2017 年 1 月 31 日

有効回答数:82 サンプル

回答者の国別の割合:図 33 の通り

Page 82: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

81

図 33 アンケート回答者の出身国

4.アンケート調査の内容・項目

質問項目は以下のような 6 つの項目から構成されている。1 つ目が越境データ

流通の現状に関する設問で、2項目以降は各種規制項目への認識に関する質問

である。 後の項目は、前述の規制全てを総合して考えた場合についての質問と

なっている。

なお、回答形式は設問 12 までは全て選択式で、設問 13 はオプションでコメ

ントを自由記述できるようにした。

46.3%

11.0%

9.8%

6.1%

6.1%

4.9%

3.7%

3.7%

2.4%

1.2% 1.2%1.2%1.2%

1.2%

シンガポール

ベトナム

韓国

バングラデシュ

台湾

マレーシア

ミャンマー

タイ

スリランカ

オーストラリア

香港

インド

日本

ラオス

Page 83: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

82

(回答者の属性等)

Q1. “Please write your information. (Email address, Name, Company/Organization, Designation) “ Q2. “Choose your country” 項目1:越境データ流通の現状

回答者の国から国外へのデータの送受信をする際に、特に送受信が多い相

手国であると回答者が考える上位 3 ヶ国を選んでもらった。この質問の回答

選択肢としては、ASOCIO 加盟各国に加え北米、中南米、欧州、中東、アフ

リカなどを設置して全世界を網羅し 3 つまで回答してもらう形式である。

Q3. “Please select top 3 foreign countries which are most dominant as destinations of data transfer from your country.” 項目2:ネットワーク主権

ネットワーク主権の問題について 2 つの質問を設けている。 1 問目は、自国における、このタイプの規制に関して、回答者のビジネスに

与える影響の度合いを問うものである。選択肢は、分からない、規制はほとん

どビジネスを妨げない、規制は少しビジネスを妨げる、規制はかなりビジネス

を妨げる、規制はビジネスを実行不能にするという 5 段階から 1 つを選択し

てもらう形である。 2 問目は、他国における、このタイプの規制に関して、回答者のビジネスに

与える影響の度合いを問うものである。選択肢は前問と同様である。

Q4. “Please select regarding the impact of YOUR COUNTRY'S regulations on your business to control activities on the Internet.” Q5. “Please select regarding the impact of regulations in OTHER (your customer's/business partner's) COUNTRIES on your business to control activities on the Internet.”

Page 84: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

83

項目3:データ・ローカライゼーション要求政策

データ・ローカライゼーション要求政策の問題について 2 つの質問を設け

ている。設問内容は「ネットワーク主権」の 2 問と全く同様に、自国あるいは

他国の規制がビジネスへ及ぼす影響を問うものである。

Q6. “Please select regarding the impact of YOUR COUNTRY'S regulations to require locating computing facilities such as data center locally in those countries.” Q7. “Please select regarding the impact of regulations in OTHER (your customer's/business partner's) COUNTRIES to require locating computing facilities such as data center locally in those countries.” 項目4:ソースコード開示

ソースコード開示の問題について 2 つの質問を設けている。設問内容は同

様に、自国あるいは他国の規制がビジネスへ及ぼす影響を問うものである。

Q8. “Please select regarding the impact of YOUR COUNTRY'S regulations to request access to source code as a condition for the import, distribution, sale or use of such software and products containing such software in those countries.” Q9. “Please select regarding the impact of regulations in OTHER (your customer's/business partner's) COUNTRIES to request access to source code as a condition for the import, distribution, sale or use of such software and products containing such software in those countries.” 項目5:個人情報保護

個人情報保護の問題について 2 つの質問を設けている。設問内容は同様に、

自国あるいは他国の規制がビジネスへ及ぼす影響を問うものである。

Page 85: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

84

Q10. “Please select regarding the impact of YOUR COUNTRY'S regulations on Personal Information Protection.” Q11. “Please select regarding the impact of regulations in OTHER (your customer's/business partner's) COUNTRIES on Personal Information Protection.” 項目6:総合的な規制の脅威

大問 2~5 で取り上げた、ネットワーク主権、データ・ローカライゼーショ

ン要求政策、ソースコード開示、個人情報保護に関する全ての規制項目の状況

を総合して捉えた場合に、デジタルビジネスの展開に対して も多くの障害

があると考えられる上位 3 カ国を問うものである。つまり、各々の規制の区

別を無くして総合的に考えてデジタルビジネスの難易度が高い国を選んでも

らうものである。 回答選択肢は、「越境データ流通の現状」で用いたものと同じで、ASOCIO各国だけでなく全世界を網羅したものであり、そこから 3 つまで回答しても

らう形式である。

Q12. “How are regulations of other countries? Regarding question 2-5, please select top 3 foreign countries which have the most interference in digital business development in your mind, like network sovereignty, local data server requirements, disclosure of source code, personal information protection.” オプション

自由記述でコメントを書いてもらう項目を設けた。

Q13. “(Option) Any Comments”

Page 86: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

85

第3節 オンライン調査結果とその考察

1. 越境データ流通関連の各規制による影響度

以下の図 34、図 35 は、ネットワーク主権、データ・ローカライゼーション要

求政策、ソースコード開示、個人情報保護が、越境データの流通に与える影響に

ついての回答結果を示している。自国または他国における上記 4 つの規制が回

答者のビジネスに与える影響に関しての意識を問う設問の回答結果を、自国と

他国に分けてまとめた。これにより、各規制の影響が回答者全体にとってどの程

度の脅威とみなされ、どの規制がより影響があると考えられているのかがわか

る。さらに自国と他国の2つの図を比較することで、自国の規制と他国の規制に

対する回答者の意識の違いも確認できる。

出典:越境データ流通の利用と規制に関するオンライン調査(2016.9)

図 34 自国の規制に対する意識

64.9%

53.5%

48.5%

43.3%

19.5%

16.9%

19.1%

31.3%

6.5%

11.3%

11.8%

13.4%

2.6%

2.8%

5.9%

4.5%

6.5%

15.5%

14.7%

7.5%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

ネットワーク主権

データローカライゼー

ション

ソースコード開示

個人情報保護ほとんど影

響を与えな

少し影響を

与える

深刻な影響

を与える

ビジネスが

実行不可と

なる

分からない

Page 87: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

86

(1)自国の規制について

図 34 の自国の規制に対する意識については、規制項目ごとに多少の認識の違

いがあることが分かる。ネットワーク主権に関しては、「ほとんど影響を与えな

い」という回答がおよそ 65%にまで及んでおり、自国の規制としてはビジネス

にはさほど脅威とみなされていないと理解できる。自国のネットワークに接続

できなくなりビジネスに支障が出るといった状況は想定されていない。

国内へのサーバーの設置を海外事業者に義務づける規制であるデータ・ロー

カライゼーション要求政策については、「分からない」という回答が他に比べて

多くなっている。規制が、国内市場に参入する海外企業に対して適用されるもの

であるため、自国企業への影響を意識する機会が少ないことが要因であると思

われる。

ソースコード開示については、データ・ローカライゼーション要求政策と比べ

るとわずかに影響が大きく、場合によってはビジネスが実行不可になると考え

られているようである。これは、ソースコードの開示要求が、海外企業だけでな

く自国企業も対象になることから、ソースコードを提供することは事業者にと

って甚大な不利益につながるという懸念があることがわかる。

個人情報保護はこれらの規制の中で、自国の事業者に対して も影響あるも

のとする結果が出ている。「少し影響を与える」「深刻な影響を与える」という回

答は 多であり、「ビジネスが実行不可となる」を加えると全体のうち5割近く

にまで及ぶ。このことから、回答者がビジネスを行う上で、自国のデータ関連規

制の中で も注意しているものは個人情報保護に関するものであると判断でき

る。その理由としては、個人情報保護規制は、データ・ローカライゼーション要

求政策のような海外事業者向けの規制ではなく、国内外企業を問わず、また越境

データ流通にかかわらなくても規制の対象になるためであると理解できる。自

国の個人情報保護規制は常に事業者にとって意識せざるを得ず、ビジネスに大

きな影響があることがわかる。

Page 88: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

87

出典:越境データ流通の利用と規制に関するオンライン調査(2016.9)

図 35 他国の規制に対する意識

(2)他国の規制について

次に図 35 の他国の規制に対する意識については、こちらも規制項目ごとに多

少の認識の違いがあることが確認できる。ネットワーク主権に関しては、自国の

規制と同様、「ほとんど影響を与えない」という回答が各規制の中で も多くな

っている。まだあまり実例がないこともあり、他国のネットワークにつながらず、

ビジネスに大きな支障が出るような状況は想定されておらず、脅威としては比

較的小さいと考えられているようである。ただ、「少し影響を与える」という回

答の割合は他の規制と比べても同じくらいであり、必ずしも無視できる影響だ

と意識されているわけではないと言えるだろう。

データ・ローカライゼーション要求政策は、「分からない」という回答が唯一、

2割を超えており、認知度が低いことが考えられる。サーバーの国内設置義務は、

海外にサービスを展開している企業にのみ関係する規制であり、実際にそのよ

うな規則を実施している国はまだ少ないため、一部の回答者にはビジネスへの

影響をイメージするのが難しいのかもしれない。その反面、「少し影響を与える」

「深刻な影響を与える」「ビジネスが実行不可となる」という回答を選択し、他

国のデータ・ローカライゼーション要求政策が影響あると言及した回答者は半

数近くに上っている。このことから、他国にサーバー設置を強制されることが自

身のビジネスを妨げる何らかの効果があると考えている事業者は多いと考えら

42.9%

29.6%

30.9%

35.8%

26.0%

25.4%

22.1%

28.4%

11.7%

16.9%

19.1%

14.9%

2.6%

5.6%

10.3%

4.5%

16.9%

22.5%

17.6%

16.4%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

ネットワーク主権

データローカライゼーション

ソースコード開示

個人情報保護

ほとんど影響を

与えない少し影響を与え

る深刻な影響を与

えるビジネスが実行

不可となる分からない

Page 89: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

88

れる。つまり、規制に関する社会全体の理解はまだ不十分であるが、理解してい

る事業者には、その脅威は高く認識されていると言える。

ソースコード開示要求については、より大きな脅威と捉えられているようで

ある。 も着目したいのは、「ビジネスが実行不可となる」という回答の割合が

1割を超えているという点である。つまり、回答者の1割がこの規制が実施され

ている国では事業展開を行えないと考えているということになる。よって、ソー

スコード開示要求がビジネスにとって重大な問題であると認識されているとい

うことである。加えて、「少し影響を与える」「深刻な影響を与える」「ビジネス

が実行不可となる」という回答を選択し、他国のソースコード開示要求がビジネ

スに影響があると言及した回答者は全体の半数を超えて 多である。データ・ロ

ーカライゼーション要求政策と比べ、ソースコードを開示することがソフトウ

ェアビジネスにとってどれだけ致命的かは明確で想像しやすいということもあ

って、このような結果になったと推察できる。以上から、他国からのソースコー

ド開示要求は、現時点のデータ関連規制の中でも群を抜いて問題視されている

ことがわかる。

後の個人情報保護に関する規制については、「少し影響を与える」「深刻な影

響を与える」「ビジネスが実行不可となる」の合計は全体の半分近くで高い値だ

が、ソースコード開示要求ほどではない。各規制の中でも「少し影響を与える」

が も高い数値を示していることから、ある程度の影響はあるものの、致命的な

ものではないという捉え方が大半のようである。また「分からない」の割合が

も低いのは、多くの国に個人情報保護の役割を持つ規制が整備されており内容

や影響をイメージしやすいという点が大きいだろう。

(3)自国規制と他国規制の比較

自国の規制項目に対する意識と他国の規制項目に対する意識とを比較してみ

ると、全体的に他国の規制に関する設問の回答の方が「分からない」の割合が多

くなっている。自国の規制よりも他国の規制はよく知らないことが多く、「分か

らない」と回答する者が多くなったのは当然のことと言える。さらに、自国に比

べて他国の規制の方が、ビジネスに影響があると答えている傾向があることが

わかる。特にデータ・ローカライゼーション要求政策は海外企業向けで、自国企

業には直接的には関係がないことと、他国の規制は、内容がどのようなもので、

ビジネスにどのような影響があるのかイメージしにくいことが多いため、他国

Page 90: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

89

の規制の方がより問題が大きいと認識されていると考えられる。

個別の規制項目を見ていくと、個人情報保護以外の規制は全て、他国の規制の

方が、「ほとんど影響を与えない」の割合が著しく減少し、「少し影響を与える」

「深刻な影響を与える」「ビジネスが実行不可となる」の占める割合が大きくな

っている。つまり多少なりとも「影響を与える」という結果が出ているとみなす

ことができる。

だが個人情報保護規制に関しては、「少し影響を与える」がむしろ減少してお

り、「少し影響を与える」「深刻な影響を与える」「ビジネスが実行不可となる」

の合計の割合の変化にも乏しい。従って、他国での場合の方が、脅威が大きいと

認識しているとは言えない。つまり、海外事業者をターゲットとしたデータ・ロ

ーカライゼーション要求政策などの規制と比べ、個人情報保護規制については、

越境データビジネスへの障害となる他国における規制としての認識がまだ低い

と言える。

2. 規制別のデータ流通阻害度の比較

前項で述べた規制項目によるデータ流通への影響の違いをよりわかりやすく

示すため、図 36 と図 37 を作成した。

まず自国規制と他国規制に分け、両者から「分からない」という回答を排除す

る。その後、「ほとんど影響を与えない」に1、「少し影響を与える」に2、「深

刻な影響を与える」に3、「ビジネスが実行不可となる」に4というように得点

をつけて合計し、パーセンテージを再計算する。そして、その中から「ほとんど

影響を与えない」を除いた、「少し影響を与える」、「深刻な影響を与える」、「ビ

ジネスが実行不可となる」の合計の全体に対する割合を算出し、それを規制間で

比較するグラフにした。

これにより、「ビジネスが実行不可となる」のような、深刻な影響があるとす

る回答が多いほど割合が大きく上昇するため、より差が顕著になり、規制の影響

度が明確に把握でき、規制間の比較が可能となる。

Page 91: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

90

(1)自国の規制

自国の規制項目の影響度について図 36 を見ると、ネットワーク主権が も

低い 51.5%、データ・ローカライゼーション要求政策、ソースコード開示の順

で上昇し、個人情報保護が も高い 73.6%である。このような順序になること

は前節の内容からも推測できるが、この図 36 からは各規制項目の影響の重大

さも含めた脅威度が読み取れる。具体的には、「ビジネスが実行不可となる」

という 大級の影響を示す選択肢が も多く選ばれたソースコード開示が実際

の差よりも多くのポイントを獲得している点である。前節の図 32 では自国の

ソースコード開示規制と個人情報保護規制の影響度には大きな差が開いた結果

になっていたが、得点を勘案したこの図ではその差が縮まっていることが分か

る。それは、ソースコード開示の方がより甚大な影響を示唆する「実行不可」

の回答が多く、個人情報保護は全体の割合は高くとも「実行不可」という回答

は少なかったことに起因していると考えられる。

主観的な脅威度という意味では、規制項目の影響の重大さを考慮に入れたこ

の図 36 の方がより回答者の感覚を表現しているといえよう。しかし、そのよ

うな重みを考慮しても前節で検討した脅威度の順序に変化はなかったため、自

国規制で も意識を向けられているのはやはり個人情報保護規制であると再確

認できる。

出典:越境データ流通の利用と規制に関するオンライン調査(2016.9)

図 36 自国の規制のビジネスへの影響度

51.5%59.6%

66.7%73.6%

0.0%10.0%20.0%30.0%40.0%50.0%60.0%70.0%80.0%90.0%

ネットワーク主権

データローカライ

ゼーション

ソースコード開示

個人情報保護

Page 92: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

91

出典:越境データ流通の利用と規制に関するオンライン調査(2016.9)

図 37 他国の規制のビジネスへの影響度

(2)他国の規制

次に他国の規制項目についても同様に得点をつけて図37のように影響度を再

比較する。影響度 下位のネットワーク主権が 69.4%であり、前節でも触れたよ

うに自国規制と比べて全体として高水準の脅威度であることが伺える。個人情

報保護規制だけは自国規制と他国規制の脅威度に大きな差は認められないこと

を前節で述べたが、ここでは少し違う傾向がみられる。確かに相対的には4つの

規制の中で3番目に落ちたように見えるが、絶対的な値に着目すると、76.9%で

あり、これは自国における個人情報保護規制の脅威度の 73.6%を上回る数値で

ある。つまり影響度の得点を考慮に入れた場合、他国の個人情報保護規制は自国

のものよりも脅威だと考えられていると解釈できる。これは、他国の個人情報規

制の設問には、高い得点となる「深刻な影響を与える」という回答が多かったか

らである。つまり、個人情報保護規制の影響度は、他の規制と同じく、自国の規

制よりも他国の規制に対しての方がビジネスへの影響度が大きいと考えられて

いると言えるだろう。

そして、割合が 80%を超える規制項目が二つあることについても注意しなけ

ればならない。前述してきたように、これらの規制は海外向けである上にその影

69.4%80.7% 82.2%

76.9%

0.0%10.0%20.0%30.0%40.0%50.0%60.0%70.0%80.0%90.0%

ネットワーク主権

データローカライゼー

ション

ソースコード開示

個人情報保護

Page 93: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

92

響は多くの事業者にとって大きな影響があると認識されているということが分

かる。これら二つの規制は、得点の高い、ビジネスへの大きな影響を意味する回

答が多く選択されており、それが個人情報保護のパーセンテージを超える高い

脅威度の数値に結びついている。ソースコード開示の脅威度が も高いのは前

節の通りであるが、データ・ローカライゼーション要求政策の脅威度もそれに迫

る高さとなっている。つまり、この分析においては「分からない」という回答を

除外しているので、規制の内容と影響を知る者にとっては、データ・ローカライ

ゼーション要求政策は相当高い脅威度があると考えることができる。

3. 各規制に対する各国の意識

次に、各国における規制項目への脅威度を比較するため、回答者の属する国

別に、該当する規制項目の脅威度を問う設問の回答を集計し、図 38 のように

一つの図にまとめた。ただし、自国の規制についての設問の回答は「ほとんど

影響を与えない」が全体的に多すぎて比較する意味があまりないため、他国の

規制についての設問回答のみを利用して分析を行った。これによって、各規制

への意識について、強い危機感を持っている国とそうでない国、というような

比較がしやすくなると考えた。

出典:越境データ流通の利用と規制に関するオンライン調査(2016.9)

図 38 国ごとのネットワーク主権に対する意識

0% 50% 100%

マレーシア

タイ

スリランカ

バングラデシュ

ミャンマー

ベトナム

ラオス

香港

日本

シンガポール

韓国

インド

台湾

オーストラリア

ほとんど影響を与えない

少し影響を与える

深刻な影響を与える

ビジネスが実行不可となる

分からない

Page 94: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

93

(1)ネットワーク主権

まず、図 38 のとおり、ネットワーク主権の結果をみると、大半は「ほとん

ど影響を与えない」と回答しており、続いて「少し影響を与える」という回答

が多い。したがって、この規制については大きな脅威とはみなしていない国が

ほとんどであると言える。しかしながら、マレーシアでは「深刻な影響を与え

る」が7割以上を占め、シンガポールや台湾においては「ビジネスが実行不可

となる」という回答まであることから、このような一部の国の回答者にとって

は現時点においても十分な脅威となっていると解釈できる。おそらく、このよ

うに回答した者は、ネットワークへの接続に関する規制をすでに実施している

国とのデータ流通を実行または検討しており、具体的な規制の影響について憂

慮しているものと推測する。

出典:越境データ流通の利用と規制に関するオンライン調査(2016.9)

図 39 国ごとのデータ・ローカライゼーション要求政策に対する意識

(2)データ・ローカライゼーション要求政策

図 39 のデータ・ローカライゼーション要求政策に対する意識については、

ネットワーク主権に対する意識結果と同様、「ほとんど影響を与えない」が多

いものの、全体的にばらつきがあるという印象を受ける。マレーシアや日本で

は「深刻な影響を与える」という回答が見受けられ、バングラデシュやシンガ

ポール、韓国では「ビジネスが実行不可となる」という回答が出ている。この

0% 20% 40% 60% 80% 100%

マレーシア

タイ

スリランカ

バングラデシュ

ミャンマー

ベトナム

ラオス

香港

日本

シンガポール

韓国

インド

台湾

オーストラリア

ほとんど影響を与えない

少し影響を与える

深刻な影響を与える

ビジネスが実行不可となる

分からない

Page 95: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

94

ような深刻な危機感を持っている国は、海外顧客向けにサービス展開を行うこ

とを考えており、その際に規制から発生する可能性のある様々なコストなどに

ついて問題視していると考えられる。

出典:越境データ流通の利用と規制に関するオンライン調査(2016.9)

図 40 国ごとのソースコード開示に対する意識

(3)ソースコード開示

ソースコード開示は、図 40 のとおり、ネットワーク主権やデータ・ローカ

ライゼーションとは違う、特徴的な結果となった。マレーシア、タイ、バング

ラデシュ、ベトナム、シンガポール、韓国の6カ国において「ビジネスが実行

不可となる」という回答があり、その比率も他の規制より高い。これに「深刻

な影響を与える」という回答があったミャンマーと日本を加えると、14 カ国中

8 カ国がこの規制によって、ビジネスが大きな影響を受けることを危惧してい

ると言える。多くの国の企業にとって、自社が保有するソフトウェアのソース

コードを他国に提供することは、ビジネスにとって大きなリスクとなると捉え

られていることがわかる。

(4)個人情報保護

0% 20% 40% 60% 80% 100%

マレーシア

タイ

スリランカ

バングラデシュ

ミャンマー

ベトナム

ラオス

香港

日本

シンガポール

韓国

インド

台湾

オーストラリア

ほとんど影響を与えない

少し影響を与える

深刻な影響を与える

ビジネスが実行不可となる

分からない

Page 96: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

95

後に図 41 の個人情報保護に対する意識の結果について見ると、ネットワ

ーク主権に対する意識結果と同様に「ほとんど影響を与えない」「少し影響を

与える」という回答が大半である。つまり、大きな脅威とみなしていない国が

ほとんどであると言える。一方で、マレーシア、バングラデシュ、シンガポー

ル、韓国ではこの規制に脅威を感じる回答もある。これらの回答者は、近年の

EU や日本での個人情報保護規則の改正によるビジネスへの影響を懸念してい

るものと考えられる。

出典:越境データ流通の利用と規制に関するオンライン調査(2016.9)

図 41 国ごとの個人情報保護に対する意識

4. データ流通の頻度と阻害

次に、データ流通を頻繁に行っている国と、その国の規制によって流通が阻害

されている国とを比較するため、頻繁なデータ流通を行っている国を問う設問 3と、規制が特に障害となると考える国を問う設問 12 の回答結果を分析し、図 42にまとめた。この比較によって、今回のアンケート回答者から見てデータのやり

取りを行いやすい国と行いにくい国の両方が明確になる。流通の数値が規制の

数値よりも大きい場合は、規制もあまりなく、頻繁なデータの流通が行われてい

ると考えられる。また、流通の数値よりも規制の数値の方が大きい場合は、規制

が障害となっていることが予想される。

0% 20% 40% 60% 80% 100%

マレーシア

タイ

スリランカ

バングラデシュ

ミャンマー

ベトナム

ラオス

香港

日本

シンガポール

韓国

インド

台湾

オーストラリア

ほとんど影響を与えない

少し影響を与える

深刻な影響を与える

ビジネスが実行不可となる

分からない

Page 97: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

96

頻繁なデータ流通の相手国として も多く挙げられているのはアメリカであ

り、6割以上の回答者が挙げている。それに続いてシンガポールも4割近くの数

値となっており、その次に日本と EU が並んでいる。一方、規制による流通阻害

があるという回答については、中国を選択した回答が5割を超えており、他国と

比べ圧倒的に多いことがわかる。続いてアメリカ、さらにはヨーロッパとロシア

が比較的高い数値となっている。

(1)データ流通が頻繁な国

ここで注目すべきは、「頻繁なデータの流通」という回答と「規制による阻害

がある」という2つの項目の回答率に顕著な差がある国がいくつか存在してい

ることだろう。

まず、頻繁な流通相手国として一位であるアメリカに着目する。アメリカは、

規制による流通阻害の項目でも3割を超えた高い数値を示しているものの、頻

繁な流通の項目の値と比べるとおよそ半分にとどまっている。このことから、流

通の現状と規制の脅威を相対的に見た場合、アメリカはさほど規制の影響を受

けずにデータ流通を実現しているとみなされていると解釈できる。

これに似た傾向が見られるのが日本である。日本においても、流通の項目と比

べて阻害の項目が大きく下回っており、規制の脅威は感じられていないものと

考えられる。

またシンガポールも、高い数値である流通と比べ、規制の脅威を示す値はその

3分の1に過ぎない。したがって、シンガポールは今回の調査の回答者にとって

自由な越境データ流通という意味で も良い環境の国であり、規制によるビジ

ネスへの影響が も少ない、と考えられていると推察できる。

Page 98: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

97

出典:越境データ流通の利用と規制に関するオンライン調査(2016.9)

図 42 データ流通が頻繁な国と規制が強力な国との比較

0.8%

0.8%

4.1%

5.8%

8.3%

12.4%

0.0%

0.0%

0.0%

1.7%

2.5%

3.3%

0.8%

3.3%

5.8%

16.5%

3.3%

7.4%

13.2%

3.3%

27.3%

39.7%

5.8%

3.3%

27.3%

61.2%

28.9%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

0.0%

1.4%

1.4%

1.4%

1.4%

1.4%

1.4%

2.9%

4.3%

4.3%

5.8%

8.7%

8.7%

8.7%

10.1%

11.6%

13.0%

21.7%

24.6%

24.6%

31.9%

53.6%

0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0%

スリランカ

ニュージーランド

台湾

タイ

カナダ

香港

バングラデシュ

カンボジア

マカオ

ラオス

中南米

フィリピン

ミャンマー

中東・北アフリカ(MENA)

韓国

インド

ベトナム

オーストラリア

マレーシア

インドネシア

日本

シンガポール

該当なし/不明

ロシア

ヨーロッパ

アメリカ

中国

規制によ

る阻害

頻繁な流

Page 99: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

98

(2)規制が大きな障害となっている国

これとは逆に、中国においては規制による阻害があるという回答率が頻繁な

データ流通の回答を大きく上回っている。このことから、流通の現状と規制の脅

威を相対的に見た場合、中国は規制による障害が大きく、越境データ流通に問題

があると考えられる。

同じような傾向が、ロシアの結果についても言える。ロシアとデータ流通を頻

繁にしている国は極めて少ないという結果になっているが、これは今回の調査

がアジアの事業者を対象としたものであることも影響していると思われる。し

かし、回答者がデータ流通を頻繁にはしていないにも関わらず、規制への脅威を

感じるという回答がおよそ 25%もあることから、規制による障害がデータ流通

を大きく阻害している、または将来阻害する恐れがあると考えられていると推

察できる。

この中国とロシアでは、前章でも述べたが、実際にデータ・ローカライゼーシ

ョン要求政策がとられており85、ローカルサーバの設置義務やソースコードの開

示要求などが実施されている。その影響やそれに対する脅威からこのような結

果になったものと理解できる。

また、これらとは異なる傾向として、ヨーロッパについては流通と阻害の2項

目が近い値を示していることも興味深い。これは、前章でも触れた通り、ヨーロ

ッパにおいて一般データ保護規則(GDPR)が 2018 年 5 月に施行され、海外事

業者に対しても個人情報の取り扱い規則が強化されることが予想されており86、

懸念する回答者が一定数存在しているのが要因だと推測できる。

5. 二国間のデータ流通関係

85 「データ・ローカライゼーション要求政策にかかわるグローバルな議論と日本のとるべ

き立場についての考察」 河内淳子(2015.2.追手門学院大学 経営論集) 86 「EU の一般情報保護法制定の動きとその影響」 株式会社オージス総研 水間

丈博 2015 年 12 月 https://www.ogis-ri.co.jp/rad/webmaga/1244406_6728.html

Page 100: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

99

前節で考察した分析結果を、二

国間別の状況として把握するた

め、表 1 を作成した。回答者の属

する国ごとに頻繁な流通と阻害

に関する回答結果を分類し、選択

した相手国の割合を国ごとに再

集計した。頻繁な流通の数値から

阻害の数値を引き、その値が

2.5%以上なら規制による障害は

少なく、活発な越境データ流通が

実現している、-2.5%以下であれ

ば規制によって活発な越境デー

タ流通が阻害されている、と考え、

また、その間の値の場合は、規制

による若干の障害はあるものの、

越境データの流通はそれほど阻

害されていない、と定義した。こ

れによって、どの国から国への越

境データの流通に、規制による障

害が問題となっているのか、また、

逆に、どの二国間では健全なデー

タの流通が行われているのかを

視覚的に判断できるようにした。

出典:越境データ流通の利用と規制に

関するオンライン調査(2016.9)

表 1 二国間国の越境データ流通の度合い

Page 101: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

100

この表1を見ると、多くの国にとって中国及びロシアの規制がデータの流通

にとって脅威となっていることが読み取れる。中国の規制が越境データの流通

を阻害しているという分類結果になった国は、今回の回答者の中では14カ国中、

9カ国にも及び、ロシアについても7カ国が同様の結果になっている。

また、これら 2 カ国に対して活発なデータ流通が実現しているという結果に

なった相手国はどちらも一つも存在しなかった。中国とロシアの規制は自由な

越境データ流通の大きな脅威となっているといえる。

また、ヨーロッパに関しては、5カ国が流通の阻害を示す結果である一方、3

カ国では逆に活発なデータ流通が実現しているという結果になっている。これ

は前節でも述べたとおり、ヨーロッパで新たに施行される GDPR を脅威と捉え

る考え方と、そうでない考え方の両方が存在するということで、考え方にばらつ

きが生じていると思われる。

中国やロシア以外では、東南アジアの国としてはベトナムの規制が比較的デ

ータ流通を阻害するという結果となっている。これは、ベトナムにおいて 2013年 9 月 1 日より施行されている「インターネットサービスおよびオンライン情

報の管理、提供および使用に関する命令」87によるデータ・ローカライゼーショ

ンに起因するものと考えられる。この法令では、ウェブサイトやソーシャルネッ

トワークなどを運営する IT 企業に対して、少なくとも 1 台のサーバーをベトナ

ム国内に設置することが要求されている88。なお、東南アジアのその他の国に関

しては規制を脅威と認識するに顕著な結果は見られなかった。

規制が脅威とみなされておらず、自由な越境データ流通が実現していと考え

られる国としては、前節でも触れたアメリカとシンガポールが有力である。それ

ぞれ8カ国ずつが、活発なデータ流通を行っているという数値が、規制によって

阻害されているという数値を上回っている。これらの国には劣るものの、日本に

ついても、4カ国について同様の結果となっていることから、比較的自由な流通

87 Decree on Management, Provision and Use of Internet Services and Online Information, No. 72/2013/ND-CP (July 15, 2013) (Vietnam), http://www.moit.gov.vn/Images/FileVanBan/_ND72-2013-CPEng.pdf 88 「データ・ローカライゼーション要求政策にかかわるグローバルな議論と日本のとるべ

き立場についての考察」 河内淳子(2015.2.追手門学院大学 経営論集)

Page 102: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

101

が行われていると言えるだろう。

表 1 を見てわかるように、若干の違いはあるものの、越境データ流通をしや

すいと考える国と規制による障害があると感じる国の認識は、ほぼすべての国

の回答に共通していることが多い。つまり、越境データに関する規制は、他のど

の国から見ても明らかに障害となると言える。

6.流通が阻害されている国と阻害されていない国

ここで、越境データ流通に関する規制がなくデータのやり取りがしやすい国

と、規制がありデータ流通が阻害されていると感じる国が、すべての回答者の中

でほぼ共通していることをよりわかりやすく示すため、表 1 で再集計したマレ

ーシア、タイ、シンガポール、ベトナムの回答の中で、対ロシア、中国、EU、

アメリカ、シンガポール、日本との間のデータの流通関係の値を拾い、図 43-46 のようにそれぞれレーダーチャートを作成した。なお、表 1 での集計は、他

の国への越境データ流通についての分析であるため、図 45 のシンガポールのチ

ャートには対シンガポールの値は入っていない。

まず図 43 のマレーシアについてのレーダーチャートをみてみると、マレーシ

アからアメリカへは 0.38、シンガポールへは 0.88、日本へは 0.25 と、プラスの

値となっており、規制により流通が阻害されていると感じている人が少ないこ

とがわかる。一方、中国は-0.63、ロシアと EU に対しては-0.25 と、マイナ

スの値となっており、障害があると感じている人が多いことがわかる。

図 44 のタイからの結果を見ても、同様に、アメリカ 0.50、シンガポール 0.83、日本 0.50 とプラスの値であるが、中国-0.83、ロシア-0.50、EU-0.33 はマ

イナスの値となっている。さらに、図 45 のシンガポールからのデータ流通状況

の数値も、アメリカ 0.19、日本 0.03 とプラスの値、中国-0.10、ロシア-0.26、EU-0.01 はマイナスとなっており、この 3 か国は、ほぼ同じ傾向の結果となっ

ている。

図 46 のベトナムから各国へのデータ流通の状況については、アメリカ、シン

ガポール、日本、EU へのデータ流通の状況の値がすべて 0.28 とプラスの結果

となっており、EU についての結果が他の 3 か国と異なっている。これは上述の

Page 103: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

102

ように、ヨーロッパで今後施行される GDPR などの規制が越境データ流通の障

害となるかどうかについて、現時点ではまだ認識にばらつきがあるためである

と考えられる。

このように、EU については結果に少しばらつきがあるものの、アメリカ、シ

ンガポール、日本、中国、ロシアについては、越境データ流通の相手国としての

認識は共通であることがわかる。つまり、アメリカ、シンガポール、日本へのデ

ータ流通は障害がなく活発に行われており、中国とロシアについては、データ流

通に障害があると感じている国がほとんどであるということがわかる。

出典:越境データ流通の利用と規制に関するオンライン調査(2016.9)

図 43 マレーシアから各国へのデータ流通関係

アメリカ, 0.38

シンガポール, 0.88

ロシア, -0.25

中国, -0.63

EU, -0.25

日本, 0.25

-1.0-0.8-0.6-0.4-0.20.00.20.40.60.81.0アメリカ

シンガポール

ロシア

中国

EU

日本

マレーシア

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103

出典:越境データ流通の利用と規制に関するオンライン調査(2016.9)

図 44 タイから各国へのデータ流通関係

出典:越境データ流通の利用と規制に関するオンライン調査(2016.9)

図 45 シンガポールから各国へのデータ流通関係

アメリカ, 0.50

シンガポール, 0.83

ロシア, -0.50 中国, -0.83 EU, -0.33

日本, 0.50

-1.0-0.8-0.6-0.4-0.20.00.20.40.60.81.0アメリカ

シンガポール

ロシア

中国

EU

日本

タイ

アメリカ, 0.19

ロシア, -0.26

中国, -0.10

EU, -0.01

日本, 0.03

-1.0-0.8-0.6-0.4-0.20.00.20.40.60.81.0アメリカ

シンガポール

ロシア

中国

EU

日本

シンガポール

Page 105: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

104

出典:越境データ流通の利用と規制に関するオンライン調査(2016.9)

図 46 ベトナムから各国へのデータ流通関係

第4節 データ流通量と規制意識との関連性

前節の分析だけでは、国ごとのサンプル数が違う上に、比較する国が多くて割

合のパターンが多すぎたために、国と規制項目との関係について意味のある傾

向が掴みづらい。そこで、国と規制意識との関連性を見いだすために、越境デー

タ流通量と規制項目への意識の関連性を求めることにした。各国の越境データ

流通の規模と、調査結果から得た各国における規制項目の脅威度を変数として

散布図を作成し、各規制項目への意識の傾向を比較した。この時、国ごとの脅威

度は、前節の「2.規制別のデータ流通阻害度の比較」で行ったように、回答に

応じて 1〜4 の得点をつけてそれを同国で平均をとったものを使用した。これに

よって、各国の越境データ流通のレベルと規制項目への意識のレベルに関連性

が存在するのかを検証した。

アメリカ, 0.28

シンガポール, 0.28

ロシア, -0.33

中国, -0.50 EU, 0.28

日本, 0.28

-1.0-0.8-0.6-0.4-0.20.00.20.40.60.81.0アメリカ

シンガポール

ロシア

中国

EU

日本

ベトナム

Page 106: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

105

1. 調査結果を補完するデータ

今回の調査から得たデータは、越境データ流通と規制に関する事業者の認識・

意識を示す主観的データであり、どの国の事業者の越境データ流通が盛んであ

るか、というような客観的なデータはアンケート結果だけからは分からず、分析

に反映できない。そこで、各国の越境データの現状を定量的に表現した客観的な

外部データとして、ITU(International Telecommunication Union:国際電気

通信連合)が公表している 2016 年のレポートに、2015 年の世界各国における

インターネットユーザーあたりの国際インターネット帯域幅(bit/s)がある89。こ

れは、国際的なインターネット帯域幅の総使用容量(Mbit/s)を(bit/s)に変換し、

インターネットユーザー一人の合計数で割って計算したものである。使用され

る国際インターネット帯域幅は、インターネットトラフィックを伝送するため

の全ての国際光ファイバーケーブルおよび無線リンクの対象年12ヶ月間の平均

トラフィック負荷を参照したものである90。

本論文では、これを各国の越境データ流通の量を示すものとして、分析に用い

ることにする。表 2 は、今回対象となった国を抜粋したものである。ただし、香

港とシンガポールに関してはその他の国と比べて桁違いの数値であるため、こ

れを含めてしまうと散布図の形が極めて難解になってしまうため、今回は散布

図から除外することにした。

89 “Measuring the Information Society Report” ITU(2016) http://www.itu.int/en/ITU-D/Statistics/Documents/publications/misr2016/MISR2016-w4.pdf 90 脚注 89 と同じ

Page 107: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

106

国 インターネットユーザーあたりの

国際インターネット帯域幅(bit/s)

香港 4155651

シンガポール 737006

カナダ 135496

ニュージーランド 108506

アメリカ 99017

オーストラリア 81564

タイ 64907

日本 62618

韓国 46764

フィリピン 37409

マレーシア 34119

ロシア 26845

ベトナム 24374

ラオス 16795

スリランカ 13886

インドネシア 6584

中国 6530

バングラデシュ 6181

インド 5725

ミャンマー 3676

出典:川合智大「越境データ流通規制に関する研究」

表 2 各国のユーザーあたりの国際インターネット帯域幅

Page 108: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

107

出典:川合智大「越境データ流通規制に関する研究」

図 47 越境データ流通と規制の脅威度との関係

2. 散布図全体の傾向

散布図は、より視覚的に傾向を把握しやすくするために、規制項目ごとに近似

曲線を引いた。その結果、図 47 のようになった。全ての規制項目が、越境デー

タ流通量との間に正の相関があることがわかる。つまり、越境データ流通量が増

えるほど、各規制項目に対して危機感を募らせるようになるということである。

このことから、越境ビジネスが進んだ国ほどデータ関連規制に対して注意深く

考えるようになると推測できる。

さらに、相関の強弱の程度を比較するためにそれぞれの相関係数を算出した。

すると、ネットワーク主権と越境データ流通量との相関係数は 0.702、データ・

ローカライゼーションは 0.699、ソースコード開示が 0.724、そして個人情報保

護の場合が 0.736 となった。したがって、 も越境データ流通量との相関関係

が強いのは個人情報保護の規制であると判明した。

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

0 50000 100000

規制項目に対する脅威度

インターネットユーザあたりの国際インターネット帯域幅(bit/s)

ネットワーク主権

データローカライゼー

ション

ソースコード開示

個人情報保護

線形 (ネットワーク主権)

線形 (データローカライ

ゼーション)

線形 (ソースコード開示)

線形 (個人情報保護)

Page 109: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

108

また、近似曲線の傾きが も急なのはソースコード開示である。越境データ流

通量が一単位増えるたびに、他の規制項目よりも、ソースコード開示要求の脅威

度は大きく上昇するということである。 次に、個別の規制項目の観点からこの相関関係を検討する。

3. 個人情報保護

越境データ流通規模が大きくなるほど個人情報保護規制への意識が高まる傾

向は非常に強いものだと判断できる。このような結果になった要因としては、個

人情報保護規制は、データ関連規制の中でも世界のあらゆる国で定められてい

る普遍的な規制であることが挙げられる。越境データ流通が増えるほど様々な

国と越境ビジネスを行う機会が増え、その都度新たに現地での個人情報保護規

制に従う羽目になるだろう。その度に個人情報の取り扱いを制限されビジネス

を阻害される危険性を孕んでいると考えられる。国によっては過剰な措置もあ

るだろう。越境データ流通が発達するのに比例して、個人情報保護規制の脅威も

常に増していくのであろう。このような意識を多くの回答者が共通で持ってい

たからこそ、 も高い相関係数となったのだろう。

4. ソースコード開示

個人情報保護に次ぐ相関係数の高さであり、越境データ流通量との相関関係

が強く出ている。越境データ流通量が増えると、ソースコード開示の脅威度は急

激に跳ね上がる。これは、ソースコードを提供しなければならないという行為そ

のものが機密を漏らすも同然だと考えられているがゆえのものだと推察できる。

機密を覗かれ大損害を被るその恐怖から、多くの事業者共通の、規制に対する強

い危機感につながっているのだろう。そして越境ビジネスが進展していくほど、

いつ要求を受けるのかどうすれば良いのかという具合に神経をすり減らしてい

ることだろう。

5. データ・ローカライゼーション要求政策

近似曲線の傾きはソースコード開示に近い。越境データ流通量が増えると、脅

Page 110: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

109

威度は急激に跳ね上がる。他国にサーバー設置を強制されることで発生するコ

ストのイメージが強く、危機感を煽られているのであろう。越境データ流通が増

えるほど様々な国と越境ビジネスを行う機会が増え、その都度新たにサーバー

の設置を要求される危険性を孕んでいる。越境データ流通が発達すればするほ

どそれ以上のペースでデータ・ローカライゼーション要求政策の脅威が大きく

膨張していくようである。

ただし、相関係数は他の規制項目と比べると少し物足りない。回答者ごとに意

識に若干のばらつきがあるのだろう。おそらく、回答者によってはサーバー設置

を強制することの影響を想像しづらかったと思われる。

6. ネットワーク主権

他の規制項目と比べると、相関係数も近似曲線も地味ではあるが確かな正の

相関が見受けられる。越境データ流通が増えるほど様々な国と越境ビジネスを

行う機会が増えるが、その際インターネットへのアクセス制限を行っている国

に対応する必要性も増していくと考えられる。

7. 小括

この節の分析をまとめると次の通りである。4つ全ての規制項目が越境デー

タ流通量との間に正の相関があるとわかった。越境データ流通量が多い国ほど、

規制項目全般に対して危機感を持っているという傾向がある。越境データ流通

を十分に開花させるには、それに見合うだけの理解度や危機感を持って対応に

臨む必要があるというように理解できる。このデータからは因果関係があるか

どうかまでは判断できないので、越境データ流通量と規制への意識のどちらが

原因でどちらが結果なのかまでは言及できない。しかしながら、この二つの間に

関連性があることは十分に考えられる。

Page 111: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

110

第5節 まとめ

デジタルビジネスにとって、自由な越境データ移転は必要不可欠なインフラ

のようなものであり、これを規制することは、デジタルビジネスの健全な成長と

社会全体の経済成長を妨げることになると言っても過言ではない。

本章では、まず、越境データ移転を妨げる代表的な規制である、データ・ロー

カライゼーション要求政策、国家によるネットワーク主権の主張、ソースコード

の開示要求、個人情報保護法について、概要とグローバルな動向について触れた。

その後、これら 4 つの規制について、アジア・オセアニア地域の情報サービス

事業者がどのように考えているか、実際のビジネスにどのような影響があると

考えているか、オンライン意識調査を行った。その結果、中国とロシアの規制が

越境データ流通を阻害しており、またアメリカやシンガポールは、データ流通が

頻繁に行われており規制などによる障害は少ない、という結果となった。

また、越境データ流通量が多い国ほど、規制項目全般に対して危機感を持って

いるという傾向があり、今後、デジタルビジネスがアジア・オセアニア地域全体

に普及してデータ流通が盛んになれば、規制に対する危機感がさらに強くなる

ことは明らかである。

今回の調査では、アジアの事業者の多くが越境データ移転規制についての知

識が少なく、調査の意義を理解していないため、調査への多くの協力を得ること

が難しかった。ソースコードの開示要求を行っている国があること自体を知ら

ない回答者や、サーバーの設置要求(データ・ローカライゼーション要求政策)

の意味が理解できない回答者も多かった。

それにもかかわらず、今回の調査により、おおまかな傾向はその調査結果から

見ることができた。越境データ移転に関する規制の問題点を、より広く多くの事

業者が理解するようになれば、今回のような調査に、より多くの国からより多く

の人に回答してもらうことができる。それにより、さらに重要な調査結果として、

今後の越境データ移転にかかわる規制への対応を考えることができるだろう。

デジタルビジネスの今後の成長の命取りともなりかねない越境データ移転へ

Page 112: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

111

の規制は、世界中で、減る傾向にあるどころか、実は増えつつある91。すでに法

律が施行されているロシア、ベトナム、ブラジルなどに加え、中国でも、2017年 6 月に中国サイバーセキュリティ法が施行され、その中で越境データ移転を

規制する条項が含まれている。

今後のグローバル経済の成長のカギとなるデジタルビジネスの健全な発展の

ため、一部の国や組織だけによる偏った対応ではなく、グローバルな対応が必要

であると言えるだろう。

91 「データ越境移転に関するルールの動向--対応を迫られる GDPR(4)」ZDNet Japan 2017 年 9 月 15 日 https://japan.zdnet.com/article/35107016/

Page 113: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

112

Page 114: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

113

第6章 データ・ローカライゼーション要求政

策が自国経済に与える影響を適切に評

価するための方法:ビジネスへの影響

を考慮した調査・分析方法

前章では、越境データの流通に関する規制の代表的なものである、ネットワー

ク主権、データ・ローカライゼーション、ソースコード開示、個人情報保護の 4

つについて、アジア・オセアニア地域における情報サービス事業者がこれらの 4

つの規制が自分のビジネスにどのような影響があるか、オンライン調査を行っ

た。

その結果、それらの規制がないアメリカやシンガポールの間ではデータの流

通が活発に行われていることがわかり、一方、規制が強い中国やロシアとの間の

データの流通は、どの国からもあまり活発には行われていないという結果とな

った。規制がない国との間ではデータ流通が多くビジネスが活発であり、経済へ

のプラス効果が想定できる。一方、規制が強い国とはデータのやり取りが少なく

ビジネスも少ないということは、経済に及ぼす影響もプラスにはならないとい

うことになる。

第 3 章と第 4 章で議論したように、データ・ローカライゼーション要求政策

が自国経済に及ぼす影響を評価するためには、先行研究である ECIPE

Occasional Paper92が採用した GTAP モデルで使われているような一般的な統計

データによって計算できる影響だけでは十分でないことがわかった。では、GTAP

モデルにかけているものは何か。それは、実際のビジネスには、市場規模や規制

等の有無だけではなく、歴史、文化、外交関係、個人の感情など、様々な要素が

92 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional Paper No.3/2014 by Matthisa Bauer, Hosuk Lee-Makiyama, Erik van der Marel, Bert Verschelde

Page 115: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

114

影響を及ぼすということである。

第 5 章で行った調査のように、越境データ移転を伴うビジネスに直接かかわ

っている事業者の回答結果を分析することにより、歴史や文化や個人的な感情

などのバックグラウンドにある要素もすべて含めて、その規制が実際のビジネ

スにどのような影響を与えるのか、という結果が得られる。GTAP モデルのよう

な統計データのみによる紙上の計算結果ではなく、実際のビジネスへの影響を

分析することが、より適切な評価のために必要なのである。

この章では、データ・ローカライゼーション要求政策が自国経済に与える影響

を適切に評価するための調査・分析方法として、実際のビジネスに与える影響を

調査・分析する方法を提案する。

第1節 適切に評価するための調査方法

1. 調査目的

データ・ローカライゼーション要求政策が海外の企業に課されると、越境デー

タの流通がどのような影響を受けるか、また越境データを取り扱う事業者のビ

ジネスにどのような影響が出るかを調査し、その結果を分析することにより、デ

ータ・ローカライゼーション要求政策が自国経済に与える影響を適切に評価す

る。

2. 調査の質問内容

調査では下記の設問に回答してもらう。

(1) 自分が属する国

(2) 事業分野(製造、金融、流通、小売り、IT サービス、そのほかのサービ

ス、官公庁など)

(3) 自分がデータを送受信する頻度が多い相手国として上位 3 か国を回答し

Page 116: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

115

てもらう。

(4) データ・ローカライゼーション要求政策としてのサーバーの国内設置義

務について、自国にそのような規制があるかどうか知っているか。

(5) サーバーの国内設置義務があるほかの国を知っているか?知っていれば

その国名を挙げてもらう。

(6) (5)で挙げてもらった国ごとに、その国のデータ・ローカライゼーショ

ン要求政策が、自分のその国とのビジネスにどのような影響を与えてい

るか、5つの選択肢から回答してもらう。

選択肢は、「規制によりビジネスが実行不能になる」、「規制によりビジネ

スが大きく妨げられる」、「規制によりビジネスが少し妨げられる」、「規制

はビジネスを少し妨げる」、「規制によるビジネスへの影響はほとんどな

い」の 5つとする。

(7) (5)で挙げてもらった国で、データ・ローカライゼーション要求政策が

もしなければ、自分のその国でのビジネスはどのような影響があると思

うか、選択肢の中から選んでもらう。

選択肢は、「規制がなければその国に直接投資、またはビジネス展開をす

ぐ始めた」、「規制がなければその国への直接投資またはビジネス展開を

する決定をした」、「規制がなければその国への直接投資またはビジネス

展開を検討した」、「規制があってもその国への直接投資またはビジネス

展開をしていた」、「規制がなくてもその国への直接投資またはビジネス

展開をしていなかった」の 5つとする。

(8) データ・ローカライゼーション要求政策をとる国のうち、自分のビジネス

が も阻害されていると感じる国として上位 3か国を回答してもらう。

3. 調査対象者

越境データ移転を伴うビジネスを行う事業者を対象として調査を行う。前章

でのアンケート調査はアジア・オセアニア地域内のみで行ったが、越境データ移

転は地域内だけでなくグローバルに進展しており、より広範囲での考査が必要

である。

Page 117: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

116

第2節 適切に評価するための調査結果の分析方法

1. 各国の規制による影響度合いの明確化

まず、第 5章 第 4節の 2で行ったように、回答結果を規制のある相手国ごと

に分類し、その中から、「わからない」という回答を排除する。その後、「ほとん

ど影響を与えない」に 1、「少し影響を与える」に 2、「深刻な影響を与える」に

3、「ビジネスが実行不可能になる」に 4、というように得点を付けて合計する。

そして、「ほとんど影響を与えない」という回答以外の 3つの回答の得点の合計

が、全体の中の何パーセントになるかを計算する。これにより、「ビジネスが不

可能になる」というような深刻な回答が多いほど、パーセンテージが大きくなる

ので、各国の規制の影響度が明確に把握できる。

2. 規制を行う国別の、規制に対する相手国の意識の比較

第5章 第 4節の 3のように、回答者の属する国別に分類し、規制がある国と

して挙げられた上位数か国(中国、ロシアなど)別に、ビジネスへの影響度の回

答の割合を一つの図にまとめる。これにより、規制を行っている国ごとに、多く

の取引相手国がその規制に対してどのように感じているか、共通性があるのか

ないのか、が示される。

3. データ流通が活発な国

どの国とどの国の間のデータ流通が活発かを分析するため、データ流通が頻

繁な相手国を上位 3 か国挙げてもらった結果を回答者の国別に集計し、全体の

うちの割合を算出する。

また、同様に、データ・ローカライゼーション要求政策としてのサーバーの国

内設置義務の規制が、自分のビジネスを阻害していると感じる上位 3 か国につ

いても回答者の国別に集計し、全体のうちの割合を計算する。そして、前章の図

38 のように、頻繁な国である挙げられた比率と、阻害されていると回答された

Page 118: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

117

比率を国別に並べて図にまとめ、比較を行う。

これにより、流通が活発な割合が阻害されている割合よりも大きい国では、規

制のビジネスへの悪影響は少ないと考えることができる。また、規制により阻害

されているという回答の割合が頻繁に流通を行っているという回答の割合より

も大きい国は、規制がビジネスに悪い影響を及ぼしている可能性が高いと考え

ることができるだろう。

4. 二国間のデータ流通関係

頻繁な流通の回答割合と阻害されている回答割合を各二国間別に再集計し、

頻繁な流通の割合から疎外されている回答の割合を引く。その結果の値が一定

上位数以上か、一定下位数以下か、上位数と下位数の間か、それぞれ青、黄色赤

の色で分類し、前章の表 1のようにまとめる。この一定の上位数と下位数は、調

査結果の回答内容状況により、基準値を決定する必要がある。

これにより、青が多い国は規制によるビジネスへの影響が少なく、データの

流通が活発に行われていると考えることができる。また、赤が多い国は、規制

によりデータの流通が阻害され、ビジネスに悪い影響が出ていることが多いと

考えられる。規制がない国とある国の違いを視覚的にわかりやすく示すことが

できる。

5. 国別のレーダーチャートの形による比較

前項で作成した 2国間の流通関係の表からいくつかのケースを取り出し、前

章の図 39-図 42 のようなレーダーチャートを作成する。このレーダーチャー

トは、規制がなくデータ流通が活発であると外側に大きな形となり、規制がデ

ータの流通を阻害しビジネスに悪い影響が出ている場合は中心部に近い小さな

形となる。このレーダーチャートの形により、相手の国別の規制の影響度が視

覚的に把握できる。

国ごとにこのレーダーチャートを作成し、その形を比較することで、規制に

よる 2国間のデータ流通の阻害度とビジネスへの影響度を比較することが容易

となると言える。

Page 119: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

118

第3節 まとめ

この章では、データ・ローカライゼーション要求政策が自国経済の与える影

響を適切に評価するための方法として、越境データを伴うビジネスにどのよう

な影響があるか、実際のビジネスをしている事業者に調査を行い、その結果か

らどう分析するべきか、前章の調査結果と分析を踏まえて提案を行った。

前章のまとめでも述べたように、グローバルな越境データの流通が急速に増

加しつつあるにもかかわらず、その流通を阻害する規制等については、まだあ

まり理解されていないことが多い。越境データ流通の重要性をできるだけ多く

の人に理解してもらうためにも、このような規制がビジネスを阻害するという

ことをわかりやすく示すことのできる、調査分析結果が必要である。

Page 120: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

119

第7章 総括

本論文では、年々増えつつあるデータ・ローカライゼーション要求政策が自国

の経済に与える影響を、どのようにしたら適切に評価できるか、その手法につい

て検討し、適切であると考えられる方法の提案を行った。

まず、第 1 章では、かねてより問題となってきた保護主義的通商政策の経緯

と ICT 産業における保護主義政策について、あらためて確認した。また、日本の

締結している経済連携条約等で初めてデータの現地化要求政策を規定した、環

太平洋経済連携協定(TPP)の電子商取引章についても触れ、その意味について

考察した。

第 2 章では、世界各国におけるデータの現地化要求政策の状況について、そ

の概要を紹介した。ロシアやブラジルではすでに施行されており、その他の国で

も法制化することが検討されている。それぞれの国における議論についても紹

介した。

第 3 章では、海外の直接投資先やビジネスの展開先を決定する際、どのよう

な要因が影響を与えるのか、についてオンライン調査を行い、結果を考察した。

先行研究である ECIPE Occasional Paper93で使われている GTAP モデルのような

客観的な要素だけを考慮した評価では不十分であり、歴史、外交、文化など様々

な要因が影響するため、それらの要因も考慮した方法によって評価する必要が

あることを議論した。

第 4 章では、日本においてデータ・ローカライゼーション要求政策がとられ

た場合の影響度を評価するため、データをどこに保存したいかオンライン調査

を行った。その結果から、日本では、コストがかなり高くてもできれば日本国内

にデータを保存したいと考える人が多いため、データ・ローカライゼーション要

求政策の意味はない、ということがわかった。つまり、データ・ローカライゼー

93 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional Paper No.3/2014 by Matthisa Bauer, Hosuk Lee-Makiyama, Erik van der Marel, Bert Verschelde

Page 121: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

120

ション要求政策の効果や意味は、国や状況によってそれぞれ異なるため、それを

踏まえたうえで、評価が必要という結果となった。

第 5 章では、第 3,4章での議論を踏まえ、実際に越境データ流通にかかわる

ビジネスをしているアジア・オセアニア地域の事業者に、関連する規制がビジネ

スにどのような影響があると感じているか、オンライン調査を行い、その結果に

ついて分析した。

分析結果から、越境データ流通にかかわる規制が、越境データ移転を伴うビジ

ネスに大きな影響を与えていることが明確となった。越境データ移転は、これか

ら大きく成長すると見込まれているクラウドコンピューティング、ビッグデー

タ、どのような IoT 等のビジネスに必要不可欠であり、そのようなビジネスに

悪影響がある規制は、結果として自国の経済にマイナスの影響があると考えざ

るを得ない。つまり、ビジネスへの影響について調査することにより、経済への

影響を適切に評価することが可能であるということを述べた。

第 6 章では、第 5章の結果を踏まえ、データ・ローカライゼーション要求政策

がビジネスに与える影響について調査することにより、自国経済への影響を適

切に評価できる手法として、その調査・分析方法の提案を行った。

今後の課題としては、第 6 章で提案した方法による調査に、できるだけ多く

の国や地域から、できるだけ多くの越境データ移転にかかわるビジネスの事業

者に参加してもらい、その結果を分析することが必要である。そして、できるだ

け多くの人に調査に参加してもらうためには、データ・ローカライゼーション要

求政策がどのようなものなのか、またどのような問題があるのか、そして自由な

越境データ移転の重要性について、より多くの人に知ってもらい、この調査の意

義を理解してもらうことが必要になると考える。

データ・ローカライゼーション要求政策をはじめとする、越境データ流通にか

かわる規制は今後のグローバル経済の発展にとって大きな障害であり、自由な

データの流通を確保することの重要性がまだあまり理解されていない。ある国

によるネットワーク主権の主張によるネットワークの勝手な遮断や、個人情報

保護を理由とした越境データ移転の阻害、また、企業秘密であるソフトウェアの

ソースコードの開示要求など、自由な越境データ

移転や公平な市場競争を阻害するような政策が実際に取られている例は、世界

中に数多くあるのが現状である。

Page 122: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

121

このような規制や政策が、自国の経済にとってメリットにはならず、悪影響が

あるという、適切な分析結果や評価を明確に示すことにより、少しでもそのよう

な規制を減らし、グローバルに自由なデータの流通を確保するような努力が今

後必要である。そのためには、各国政府や産業界などが協力し、そのような調査

を行う必要がある。

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122

Page 124: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

123

用語集

(あ行)

アジア太平

洋協力会議

(APEC)

Asia-Pacific Economic Cooperation(APEC、アジア太平洋経

済協力会議)は、アジア太平洋地域の持続可能な発展を目的

とする地域協力の枠組み(フォーラム)。協力地域の自由貿

易拡大、経済・技術協力、人材開発などを推進。1989 年の設

立時には、日本・アメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュ

ージーランド・韓国・タイ・インドネシア・マレーシア・フ

ィリピン・シンガポール・ブルネイが参加。その後、中国・

台湾・香港(ホンコン)・メキシコ・パプアニューギニア・チ

リ・ロシア・ペルー・ベトナムが加盟した。なお、APEC では

加盟した国や地域をメンバーエコノミーと称する。(デジタ

ル大辞泉)

アメリカ国

家安全保安

局(NSA)

アメリカ国家安全保障局(NSA)。「プリズム事件」参照。

アラブの春

2010 年 12 月にチュニジアで起きた民主化運動(ジャスミン革

命)を発端として、北アフリカ・中東のアラブ諸国に波及し

た民主化要求運動。2011 年 1 月にはエジプトで大規模なデモ

が発生し、約 30 年にわたり長期政権を維持してきたムバラク

大統領が辞任に追い込まれた。また、同年 2月にはリビアで

反政府デモが起こり全土に波及。武力衝突に発展しカダフィ

政権が崩壊した。他にも、アルジェリア・イエメン・サウジ

アラビア・ヨルダン・シリアなど多数のアラブ諸国で政府に

対するデモや抗議活動が連鎖的に発生した。(デジタル大辞

泉)

Page 125: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

124

一般データ

保護規則

(GDPR)

一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection

Regulation)は、2018 年 5 月から施行される、EU における個

人情報・プライバシーに関するデータ処理・管理に関する新

たな枠組みのことで、個人情報(データ)の処理及び個人情

報(データ)を EU 域内から他の地域に移転するために満たす

べき法的要件を規定している。

欧州連合

(EU)

EU(European Union、欧州連合)とは、EC(European

Community、欧州共同体)を基礎に、外交・安全保障政策の共

通化と通貨統合の実現を目的とする統合体。1993 年 11 月、マ

ーストリヒト条約(欧州連合条約)の発効により創設。域内

の多くの国では、出入国や税関の審査が廃止されており、人

や物が自由に移動できる。また、単一通貨ユーロが導入され

ている。2012 年、欧州国家間の平和と和解に貢献したとして

ノーベル平和賞を受賞。本部はベルギーのブリュッセル。

(デジタル大辞泉)

オフショア

開発

オフショア開発とは、情報システムやソフトウェアの開発業

務を海外の事業者や海外子会社に委託・発注すること。営業

や企画、設計、納品、サポートなど顧客に近い業務は本国

で、実装やテストなどを海外で行なうといった形で分業する

ことが多い。先進国の企業が人件費や事業コストの安い新興

国の企業・人材を活用して開発コストを削減するために行な

うもので、当初は英語圏の国の間で盛んに行われ、その後日

本を含む世界へ広まっている。新興国スタッフの人件費は先

進国の数分の一程度のことが多く、うまく行けば大幅なコス

ト削減が可能だが、言葉や商習慣の違いから意思疎通のコス

トが嵩んでコストメリットを打ち消してしまったり、品質や

契約などをめぐる認識の相違からトラブルになるといった事

例も起きている。(IT 用語辞典)

Page 126: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

125

(か行)

改正個人情

報保護法

平成 17 年 4 月に「個人情報の保護に関する法律」(以下「個

人情報保護法」)が施行されたが、その後の情報通信技術の

発展やビジネスのグローバル化などの急激な環境変化に対応

するため、平成 29 年 5 月に一部が改正され施行された。改正

法では、1)個人情報に該当するかどうかの判断が困難な「グ

レーゾーン」の拡大、2)パーソナルデータを含むビッグデー

タの適切な利活用ができる環境の整備の必要性、3)国境を越

えたパーソナルデータの流通等 について 対応されている。

関税及び貿

易に関する

一般協定

(GATT)

General Agreement on Tariffs and Trade(関税及び貿易に

関する一般協定)の略。1948 年に発足し、貿易面から国際経

済を支える枠組みとして機能。我が国は 55 年に加入した。こ

の協定の基本原則は、貿易制限措置の削減、貿易の無差別待

遇( 恵国待遇、内国民待遇)とされている。ガットは正式

な国際機関ではなかったが、これを拡大発展させる形で正式

な国際機関としての WTO(世界貿易機関)が 95 年 1 月に発足

した。94 年時点のガット及びその関連文書は WTO 協定に取り

込まれている。(農林水産関係用語集)

環太平洋経

済連携協定

(TPP)

Trans‐Pacific Partnership(TPP)は、モノの関税だけでな

く、サービス、投資の自由化を進め、さらには知的財産、電

子商取引、国有企業の規律、環境など、広い分野で21世紀

型のルールを構築するもので、環太平洋諸国が締結を目指し

て交渉を行っている広域的な経済連携協定。原則として全品

目の関税を撤廃する。シンガポール・ニュージーランド・チ

リ・ブルネイの 4か国が締結した P4 協定(環太平洋戦略的経

済連携協定)を拡大するもので、オーストラリア・ペルー・

ベトナム・米国・マレーシア・メキシコ・カナダ・日本を加

えた 12 か国が交渉を行っており、日本は 2013 年 7 月から交

渉に参加。2015 年 10 月、米国アトランタで開催された閣僚会

合で大筋合意に至ったが、2017 年 1 月、米国が政権交代に伴

い離脱。米国を除く署名 11 か国での協定発効に向けた検討が

行われている(2017 年 7 月現在)。

Page 127: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

126

金盾(Great

Firewall)

中国政府が運用するインターネット検閲システム。有害情報

へのアクセスを遮断するシステムを構築しており、サーチエ

ンジンの検索ワード、電子メール・ソーシャルメディア・メ

ッセンジャーアプリの送受信記録などを検閲しているとされ

る。金盾工程、グレートファイアウォールとも呼ばれる。

(デジタル大辞泉)

クラウドコ

ンピューテ

ィング

クラウドコンピューティングとは、従来は手元のコンピュータ

で管理・利用していたようなソフトウェアやデータなどを、イ

ンターネットなどのネットワークを通じてサービスの形で必

要に応じて利用する方式。IT 業界ではシステム構成図でネット

ワークの向こう側を雲(cloud:クラウド)のマークで表す慣習

があることから、このように呼ばれる。(IT 用語辞典)

経済協力開

発機構

(OECD)

OECD は「Organisation for Economic Co-operation and

Development:経済協力開発機構」の略で、本部はフランスの

パリに置かれている。第二次大戦後、米国のマーシャル国務

長官は経済的に混乱状態にあった欧州各国を救済すべきとの

提案を行い、「マーシャルプラン」を発表したが、これを契

機として、1948 年 4 月、欧州 16 か国で OEEC(欧州経済協力

機構)が発足し、OECD の前身となった。その後、欧州経済の

復興に伴い 1961 年 9 月、OEEC 加盟国に米国及びカナダが加わ

り新たに OECD(経済協力開発機構)が発足。日本は 1964 年に

OECD 加盟国となっている。(経済産業省ホームページより)

経済連携協

定(EPA)

日本は、FTA を基礎としながら、これに加えて、投資の促進、

知的財産や競争政策等の分野での制度の調和、様々な分野で

の協力などのより幅広い分野を対象として、経済上の連携を

強化することを目的とした協定を推進しており、このような

協定を EPA(Economic Partnership Agreement、経済連携協

定)と呼ぶ。(外務省ホームページより)

Page 128: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

127

現地化強制

政策(FLM)

Forced Localization Measures(FLM)とは、情報セキュリテ

ィ、国家安全保障、製品の安全基準、自国産業の保護育成な

どを名目とする排他的な保護主義政策のことで、国外からの

市場アクセスを阻害する大きな要因となるもののことをい

う。データ・ローカライゼーション、ソースコード開示要

求、国家によるネットワーク主権の主張、個人情報保護等が

挙げられる。

国際電気通

信連合

(ITU)

国際電気通信連合 (ITU : International

Telecommunication Union)は、1865 年にパリで創設された万

国電信連合と、1906 年にベルリンで創設された国際無線電信

連合が、1932 年にマドリッドにおいて合体し、国際電気通信

連合(ITU)として発足した。国際連合(UN)の専門機関の一つ

で、電気通信の改善と合理的利用のための国際協力を増進

し、電気通信業務の能率増進、利用増大と普及、技術的手段

の発達と能率的運用の促進を目的とする。加盟国数は 193 か

国(2017 年 9 月現在)で、本部をスイスのジュネーブにおいて

いる。(ITU 協会ホームページより)

国際貿易機

関(ITO)

国際貿易機構憲章(ITO 憲章、ハバナ憲章ともいう)に規定さ

れている国際貿易を推進するための協力機構。保護主義そし

てブロック経済の形成などによって世界貿易が縮小し、ひい

ては第二次世界大戦に至った歴史の反省に基づき、大戦後の

1945 年 11 月、アメリカ政府によって「世界貿易および雇用の

拡大に関する提案」が発表され、ITO 構想が明らかにされた。

これを基に、47 年 4 月にジュネーブで開かれた国連貿易雇用

会議準備委員会、さらに同年 11 月から翌 48 年 3 月にかけて

キューバのハバナで開かれた国連貿易雇用会議で討議され、

国際貿易機構憲章が参加 53 か国によって採択、調印された。

各国の完全雇用を図ると同時に、自由貿易に基づく均衡のと

れた世界経済の拡大を目ざし、そのための協力機構として ITO

を設立することが考えられていた。

戦後の世界経済再建においては、通貨・金融面では国際通貨

基金(IMF)、国際復興開発銀行(IBRD、別名世界銀行)が、

貿易面では ITO が、それぞれ国際経済協力の中心的役割を果

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128

たす予定であったが、ITO は、その内容があまりに理想的であ

りすぎたため、提案国であるアメリカを含めた諸国の批准が

得られず(リベリアとオーストリアの 2国のみ批准)、その

創設は実現しなかった。しかし、関税と貿易面に関する条項

は、ガット(GATT)に引き継がれて具体化された。その後、

関税と貿易の一般協定にすぎなかったガットは、貿易の自由

化と拡大に重要な役割を担ってきた。そして、1986 年 9 月に

開始され 94 年 4 月に締結されたウルグアイ・ラウンドの合意

を受けて、95 年 1 月 WTO(世界貿易機関)が設立され、ここ

に国際機関として設立されずに終わった ITO は、WTO として発

展的に実現されることとなった。

国際貿易機

関憲章(ITO

憲章)

*国際貿易機関(ITO)参照

個人情報保

護委員会

個人情報の適正な取り扱いを確保するために設置された行政

機関。内閣府の外局。個人情報保護法およびマイナンバー法

に基づいて、特定個人情報の監視・監督、苦情相談、リスク

対策評価の指針作成、個人情報保護に関する基本方針の策

定・推進などを行う。平成 26 年(2014)特定個人情報保護委

員会として設置。平成 28 年(2016)改組、現名称に変更。

(さ行)

シェンゲン

欧州諸国間での人の移動の自由を保障するシェンゲン協定に

基づいて、域内での国境審査を廃止している国々の領域。日

本など第三国からの旅行者も、 初の到着地で入国審査を受

けた後、域内を自由に移動できる。シェンゲン領域。EU 加盟

国のうちオーストリア・ベルギー・デンマーク・フランス・

フィンランド・ドイツ・ギリシャ・イタリア・ルクセンブル

ク・オランダ・ポルトガル・スペイン・スウェーデン・チェ

コ・エストニア・ハンガリー・リトアニア・ラトビア・マル

タ・ポーランド・スロバキア・スロベニアの 22 か国、および

ノルウェー・アイスランド・スイス・リヒテンシュタインの

計 26 か国が含まれる。さらに、ブルガリア・クロアチア・キ

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129

プロス・ルーマニアが加わる予定(2017 年 7 月現在)。 (デ

ジタル大辞泉)

ジャスミン

革命

2010 年 12 月にチュニジアで起きた民主化運動の通称。青年層

を中心にストライキ・デモが拡大し、翌 2011 年 1 月に 23 年

間続いた独裁政権が崩壊した。ジャスミンはチュニジアを代

表する花。

フェースブックやツイッターなどのソーシャルメディアによ

って市民間での情報発信・共有が促進したことが、独裁政権

を崩壊させた要因のひとつとして注目され、民主化要求運動

はエジプトやリビアなど他のアラブ諸国にも波及した(アラ

ブの春)。また、中国でもこの運動に触発されて「中国ジャ

スミン革命」集会を呼びかける動きがインターネットを介し

て広がった。 (デジタル大辞泉)

重商主義

国家が積極的に産業を保護・育成し、輸出を増やして国を富

ませようとする経済思想。16~18 世紀の欧州で盛んだった

が、輸入を厳しく制限する保護主義の弊害も招いた。米ピー

ターソン国際経済研究所のバーグステン所長は、輸出主導の

現在の成長戦略を「新重商主義」と批判した。 (朝日新聞よ

り)

自由貿易協

定(FTA)

FTA(Free Trade Agreement、自由貿易協定)とは、ある国や

地域との間で、関税をなくし、モノやサービスの自由な貿易

を一層進めることを目的とした協定のこと。(外務省ホーム

ページより)

世界貿易機

関(WTO)

WTO(世界貿易機関:World Trade Organization)は、ウルグ

アイ・ラウンド交渉の結果 1994 年に設立が合意され、1995 年

1 月 1 日に設立された国際機関。WTO 協定(WTO 設立協定及び

その附属協定) は、貿易に関連する様々な国際ルールを定め

ている。WTO はこうした協定の実施・運用を行うと同時に新た

な貿易課題への取り組みを行い、多角的貿易体制の中核を担

っている。(外務省ホームページより)

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130

尖閣諸島問

尖閣諸島は東シナ海にあり、魚釣島を中心とする群島。かつ

ては人が住んだ島もあったが、現在はいずれも無人島。日本

政府は 1895 年に閣議決定で領土に編入、沖縄県の一部とし

た。国連アジア極東経済委員会が石油資源の可能性を指摘す

る報告書を出した後の 1970 年代になると、台湾や中国が大陸

棚に対する主権や諸島の領有権を主張し始めた。90 年代以降

は日本の右翼団体が灯台を設置したり、中国の活動家が上陸

して日本の警察に逮捕されたりした例もある。実効支配する

日本政府は「領土問題は存在しない」との立場を取ってい

る。 (朝日新聞より)

ソースコー

ソースコードとは、プログラミング言語などの人間が理解・

記述しやすい言語やデータ形式を用いて書き記されたコンピ

ュータプログラムのこと。プログラムに限らず、人工言語や

一定の規約・形式に基づいて記述された複雑なデータ構造の

定義・宣言などのこともソースコードと呼ぶ場合がある。

(IT 用語辞典)

(た行)

チャイナ・

プラスワン

繊維、電気部品、自動車部品などの製造業が、中国のみに工

場を構えるリスクを回避するため、他のアジアの国に製造拠

点を展開すること。1990 年代の円高進展時に、それまでは台

湾、マレーシア、フィリピンなどに生産拠点を展開してきた

企業も、深(しんせん)など中国沿岸部に移転し、量産展開を

中国へ集中させていった。しかし、2010 年(平成 22)に発生

した尖閣(せんかく)諸島中国漁船衝突事件を機に、中国で日

系企業に対する襲撃事件などが頻発。日中の政治情勢により

生産活動が中断するリスクが高まった。また、中国沿岸部の

人件費上昇に伴い中国における生産メリットが減退、さらに

元の相場の切上げに伴い、輸出拠点としての魅力も減じつつ

ある。こうしたことから、多くの企業がチャイナ・プラスワ

ンの動きを加速させた。プラス・ワンの国としてもっとも注

目されたのが、親日で知られるタイであるが、2011 年夏から

Page 132: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

131

秋にかけて大規模な洪水被害が発生。プラス・ワンの生産拠

点を 1国に絞らず、複数国に分散する必要性が指摘されるよ

うになった。繊維関係ではバングラデシュ、カンボジア、ミ

ャンマーなどが人気を集めている。(日本大百科全書)

中国強制認

証制度

(CCC)

CCC 制度(China Compulsory Certificate system、中国製品

安全強制認証制度 ・中国強制製品認証制度 ・ 中国強制認

証)とは、中華人民共和国国内に輸入される製品に対して国

内技術の標準に適合し、輸入が認められるかを中国政府によ

って審査され認証が与えられる制度である。この制度は 2002

年 5 月 1 日から施行されている。

データ・ロ

ーカライゼ

ーション要

求政策

データ・ローカライゼーション要求政策とは、一般的に、企

業等が自国の領域内で事業を行うための条件として、その領

域内においてコンピュー タ関連設備を利用又は設置し、そこ

でデータを管理・処理するよう要求する政策のこと。

新興国がデータ・ローカライゼーションを求める理由として

は、自国のプライバシーやセキュリティを守る目的や、自国

産業を保護し経済成長を促進する目的が挙げられる。

デジタル・

トランスフ

ォーメーシ

ョン

デジタル・トランスフォーメーション(Digital

Transformation)とは、「IT の浸透が、人々の生活をあらゆ

る面でより良い方向に変化させる」という概念である。2004

年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン

教授が提唱したとされる。デジタル化の第 1フェーズは IT 利

用による業務プロセスの強化、第 2フェーズは IT による業務

の置き換え、そして第 3フェーズは業務が IT へ、IT が業務へ

とシームレスに変換される状態である。従来は SF(サイエン

ス・フィクション)の世界であった仕組みが人工知能やロボテ

ィクス等の IT 技術の革新により部分的に実現されるようにな

り、現実世界と仮想世界が区別なく存在する社会へと発展す

るようになった。このような新しい時代を迎えるにあたり、

企業のデジタル化におけるデジタル・トランスフォーメーシ

ョンが注目されるようになった。(Wikipedia)

Page 133: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

132

電子商取引

(EC)

電子商取引(EC、E コマース)とは、インターネットやコンピ

ュータなど電子的な手段を介して行う商取引の総称。狭義に

は、インターネットや通信回線を介して遠隔地間で必要な情

報を送受信して行う商取引を指し、また、より狭義には、Web

サイトなどを通じて企業が消費者に商品を販売するオンライ

ンショップのことを EC と呼ぶこともある。(IT 用語辞典)

(一社)電

子情報技術

産業協会

(JEITA)

一般社団法人 電子情報技術産業協会 (JEITA: Japan

Electronics and Information Technology Industries

Association)は、2000 年 11 月に社団法人日本電子機械工業

会(EIAJ)と社団法人日本電子工業振興協会(JEIDA)が統合

して発足。電子機器、電子部品の健全な生産、貿易及び消費

の増進を図ることにより、電子情報技術産業の総合的な発展

に資し、わが国経済の発展と文化の興隆に寄与することを目

的とした IT・エレクトロニクス分野の業界団体。(JEITA ホ

ームページより)

Page 134: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

133

匿名加工情

「匿名加工情報」とは、個人情報を個人情報の区分に応じて

定められた措置を講じて、特定の個人を識別することができ

ないように加工して得られる個人に関する情報であって、当

該個人情報を復元して特定の個人を再識別することができな

いようにしたものをいう。

「匿名加工情報」に求められる「特定の個人を識別すること

ができない」という要件は、あらゆる手法によって特定する

ことができないよう技術的側面から全ての可能性を排除する

ことまでを求めるものではなく、少なくとも、一般人および

一般的な事業者の能力、手法などを基準として当該情報を個

人情報取扱事業者または匿名加工情報取扱事業者が通常の方

法により特定できないような状態にすることを求めるもので

ある。

また、「当該個人情報を復元することができないようにした

もの」という要件は、あらゆる手法によって復元することが

できないよう技術的側面から全ての可能性を排除することま

でを求めるものではなく、少なくとも、一般人および一般的

な事業者の能力、手法などを基準として当該情報を個人情報

取扱事業者または匿名加工情報取扱事業者が通常の方法によ

り復元できないような状態にすることを求めるものである。

(な行)

日本経済団

体連合会

(経団連)

経団連は、わが国の代表的な企業 1,350 社、製造業やサービ

ス業等の主要な業種別全国団体 109 団体、地方別経済団体 47

団体などから構成されており(いずれも 2017 年 4 月 1 日現

在)、その使命は、総合経済団体として、企業と企業を支える

個人や地域の活力を引き出し、我が国経済の自律的な発展と

国民生活の向上に寄与することにある。(経団連ホームペー

ジより)

Page 135: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

134

独立行政法

人 日本貿

易振興機構

(JETRO)

JETRO は 2003 年 10 月、日本貿易振興機構法に基づき、前身の

日本貿易振興会を引き継いで設立された。その目的は、我が

国の貿易の振興に関する事業を総合的かつ効率的に実施する

こと並びにアジア地域等の経済及びこれに関連する諸事情に

ついて基礎的かつ総合的な調査研究並びにその成果の普及を

行い、もってこれらの地域との貿易の拡大及び経済協力の促

進に寄与することを目的とする。(JETRO ホームページより)

(は行)

バックオフ

ィス業務

企業などの組織において、事務・管理業務などを担当し、顧

客に直接対応するフロントオフィスを支援する部門の業務の

こと。人事・経理・総務・情報システム管理部門などの間接

部門の業務。

パブリック

クラウド

パブリッククラウドとは、データセンター事業者などが、広

く一般の利用者に提供するクラウドコンピューティング環

境。顧客の要望に応じてソフトウェアやハードウェアの利用

権などをネットワーク越しにサービスとして提供するデータ

センターや、その中で運用されているサーバ群などのこと。

(IT 用語辞典)

東アジア地

域包括的経

済連携

(RCEP)

RCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership、東ア

ジア地域包括的経済連携)は、日中韓印豪 NZ の 6 カ国が ASEAN

と持つ 5つの FTA を束ねる広域的な包括的経済連携構想であ

り、2011 年 11 月に ASEAN が提唱した。その後、16 カ国によ

る議論を経て、2012 年 11 月の ASEAN 関連首脳会合において正

式に交渉が立上げられた。RCEP が実現すれば、人口約 34 億人

(世界の約半分)、GDP 約 20 兆ドル(世界全体の約 3割)、

貿易総額 10 兆ドル(世界全体の約 3割)を占める広域経済圏

が出現する。(経済産業省ホームページより)

Page 136: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

135

非関税障壁

関税以外の手段により自由な貿易を妨げる障害の総称。大別

して,(1) 輸入の数量制限,(2) 輸入課徴金や国境税のよう

な疑似関税,(3) その他の狭義の非関税障壁などがある。

(3) の例として輸出自主規制,バイ・アメリカン法,国家貿

易,輸出補助金,制限的商慣行などがある。関税引下げがす

でにかなり進展した半面,近年は非関税障壁が増大している

ため,非関税障壁の撤廃がケネディ・ラウンド以後の関税交

渉の主要問題となった。ウルグアイ・ラウンドでも,輸入数

量制限をはじめとするさまざまな非関税障壁を縮小するため

の交渉が行われている。(ブリタニカ国際大百科事典)

ビッグデー

ビッグデータとは、従来のデータベース管理システムなどで

は記録や保管、解析が難しいような巨大なデータ群。明確な

定義があるわけではなく、企業向け情報システムメーカーの

マーケティング用語として多用されている。(IT 用語辞典)

プライベー

トクラウド

プライベートクラウドとは、企業などが自社内で利用するた

めに構築したクラウドコンピューティング環境。社員や関連

会社、取引先など、内部の限定された利用者に向けて、ソフ

トウェアやハードウェアの利用権などをネットワーク越しに

サービスとして提供するデータセンターや、その中で運用さ

れているサーバー群などのこと。(IT 用語辞典)

プリズム事

PRISM(プリズム)とは、アメリカ国家安全保障局(NSA)が

2007 年から運営する、極秘の通信監視プログラムのコードネ

ームで、マイクロソフトの「So.cl(英語版)」、Google、

Yahoo!、Facebook、Apple、AOL、Skype、YouTube、PalTalk

の、合わせて 9つのウェブサービスを対象に、ユーザーの電

子メールや文書、写真、利用記録、通話など、多岐に渡るメ

タ情報の収集を行うとされている。2013 年 6 月 6 日、ガーデ

ィアンとワシントン・ポスト両紙が、当時 NSA に勤務するエ

ドワード・スノーデンからの内部告発を報道し、この極秘プ

ログラム「プリズム」の存在が明らかとなり、アメリカ合衆

国連邦政府筋もこの機密計画の存在を認めた。

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136

米国情報技

術工業協議

会(ITI)

Information Technology Industry Council(ITI、米国情報

技術工業協議会)は、1916 年に全国事務機器工業協会として

設立。1994 年、CBEMA(計算機事務機械製造工業協会)から改

称。

保護貿易

保護貿易とは、国内産業を保護、育成するために国家の保護

貿易政策あるいは制度のもとで行われる貿易。経済政策に関

する立場としては自由貿易と対立するものである。発展途上

国は幼稚産業の保護をねらって保護主義的政策をとるが、

近では先進国が国内事情からこの方策をとることが多くなっ

てきている。保護貿易のためには、通常は関税政策のほか

種々の貿易管理手段 (輸出入の禁止、許可制、割当など) が

とられるが、これらは国家による外国貿易干渉政策である。

(ブリタニカ国際大百科事典)

(や行)

要配慮個人

情報

「要配慮個人情報」とは、心身の機能障害や健康診断結果、

刑事事件に関する手続きが実施されたことなど、本人に不当

な差別や偏見などが生じないように特に配慮が必要な情報の

こと。具体的には、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、

犯罪の経歴、犯罪被害の事実、などが含まれる。改正個人情

報保護法においては、これ等の情報に関して、通常の個人情

報と異なり、原則、本人の同意が無い場合は取得禁止、また

本人同意を得ないオプトアウトによる第三者提供は禁止され

ている。

ヨーロッパ

国際政策経

済機関

(ECIPE)

ヨーロッパ国際政策経済機関(ECIPE)は、ブリュッセルにあ

る独立した非営利の研究機関で、ヨーロッパの重要な通商政

策や国際経済政策 に関する研究を行っている。2006 年にエコ

ノミストである Fredrik Erixon 氏と Razeen Sally 氏によっ

て設立された。

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137

(A~Z)

APEC

Asia-Pacific Economic Cooperation(APEC、アジア太平洋経

済協力会議)は、アジア太平洋地域の持続可能な発展を目的

とする地域協力の枠組み(フォーラム)。協力地域の自由貿

易拡大、経済・技術協力、人材開発などを推進。1989 年の設

立時には、日本・アメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュ

ージーランド・韓国・タイ・インドネシア・マレーシア・フ

ィリピン・シンガポール・ブルネイが参加。その後、中国・

台湾・香港(ホンコン)・メキシコ・パプアニューギニア・チ

リ・ロシア・ペルー・ベトナムが加盟した。なお、APEC では

加盟した国や地域をメンバーエコノミーと称する。(デジタ

ル大辞泉)

ASOCIO

Asia-Oceania Computing Industry Organization (ASOCIO)

は、アジア・オセアニア地域の IT 業界団体で構成される地域

組織。1984 年に東京で設立された。

CCC

CCC 制度(China Compulsory Certificate system、中国製品

安全強制認証制度 ・中国強制製品認証制度 ・ 中国強制認

証)とは、中華人民共和国国内に輸入される製品に対して国

内技術の標準に適合し、輸入が認められるかを中国政府によ

って審査され認証が与えられる制度である。この制度は 2002

年 5 月 1 日から施行されている。

EC

電子商取引(EC、E コマース)とは、インターネットやコンピ

ュータなど電子的な手段を介して行う商取引の総称。狭義に

は、インターネットや通信回線を介して遠隔地間で必要な情

報を送受信して行う商取引を指し、また、より狭義には、Web

サイトなどを通じて企業が消費者に商品を販売するオンライ

ンショップのことを EC と呼ぶこともある。(IT 用語辞典)

Page 139: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

138

ECIPE

ヨーロッパ国際政策経済機関(ECIPE)は、ブリュッセルにあ

る独立した非営利の研究機関で、ヨーロッパの重要な通商政

策や国際経済政策 に関する研究を行っている。2006 年にエコ

ノミストである Fredrik Erixon 氏と Razeen Sally 氏によっ

て設立された。

EPA

日本は、FTA を基礎としながら、これに加えて、投資の促進、

知的財産や競争政策等の分野での制度の調和、様々な分野で

の協力などのより幅広い分野を対象として、経済上の連携を

強化することを目的とした協定を推進しており、このような

協定を EPA(Economic Partnership Agreement、経済連携協

定)と呼ぶ。(外務省ホームページより)

EU

EU(European Union、欧州連合)とは、EC(European

Community、欧州共同体)を基礎に、外交・安全保障政策の共

通化と通貨統合の実現を目的とする統合体。1993 年 11 月、マ

ーストリヒト条約(欧州連合条約)の発効により創設。域内

の多くの国では、出入国や税関の審査が廃止されており、人

や物が自由に移動できる。また、単一通貨ユーロが導入され

ている。2012 年、欧州国家間の平和と和解に貢献したとして

ノーベル平和賞を受賞。本部はベルギーのブリュッセル。

(デジタル大辞泉)

FLM

Forced Localization Measures(FLM)とは、情報セキュリテ

ィ、国家安全保障、製品の安全基準、自国産業の保護育成な

どを名目とする排他的な保護主義政策のことで、国外からの

市場アクセスを阻害する大きな要因となるもののことをい

う。データ・ローカライゼーション、ソースコード開示要

求、国家によるネットワーク主権の主張、個人情報保護等が

挙げられる。

Page 140: データ・ローカライゼーション要求政策 が自国経済に与える ......8 “The Cost of Data Localization: Friendly Fire on Economic Recovery,” ECIPE Occasional

139

FTA

FTA(Free Trade Agreement、自由貿易協定)とは、ある国や

地域との間で、関税をなくし、モノやサービスの自由な貿易

を一層進めることを目的とした協定のこと。(外務省ホーム

ページより)

G7

Group 7(G7)は、先進7カ国蔵相・中央銀行総裁会議のこと

で、米・英・独・仏・伊・日・加が含まれる。元々、先進国

間の協議の場として生まれたものであるが、 近は先進国と

エマージング諸国との対話の場に変わり始めている。1990 年

代にロシアと先進国との協議が行なわれ、98 年にロシアの主

要国首脳会議への正式参加(G8)が決まった。翌 99 年には

先進国とエマージング諸国の財務相・中銀総裁の協議の場と

してG20(財務相・中銀総裁会議。米・英・独・仏・伊・

日・加・豪州・中国・ロシア・ブラジル・インド・アルゼン

チン・インドネシア・韓国・メキシコ・サウジアラビア・南

ア・トルコ・欧州連合)が創設され、今後も先進国と中国な

どエマージング諸国の協調と対話がますます重要視されてい

る。(FX 用語集)

GATT

General Agreement on Tariffs and Trade(関税及び貿易に

関する一般協定)の略。1948 年に発足し、貿易面から国際経

済を支える枠組みとして機能。我が国は 55 年に加入した。こ

の協定の基本原則は、貿易制限措置の削減、貿易の無差別待

遇( 恵国待遇、内国民待遇)とされている。ガットは正式

な国際機関ではなかったが、これを拡大発展させる形で正式

な国際機関としての WTO(世界貿易機関)が 95 年 1 月に発足

した。94 年時点のガット及びその関連文書は WTO 協定に取り

込まれている。(農林水産関係用語集)

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GDPR

一般データ保護規則(GDPR: General Data Protection

Regulation)は、2018 年 5 月から施行される、EU における個

人情報・プライバシーに関するデータ処理・管理に関する新

たな枠組みのことで、個人情報(データ)の処理及び個人情

報(データ)を EU 域内から他の地域に移転するために満たす

べき法的要件を規定している。

Great

Firewall

中国政府が運用するインターネット検閲システム。有害情報

へのアクセスを遮断するシステムを構築しており、サーチエ

ンジンの検索ワード、電子メール・ソーシャルメディア・メ

ッセンジャーアプリの送受信記録などを検閲しているとされ

る。金盾工程、グレートファイアウォールとも呼ばれる。

(デジタル大辞泉)

GTAP モデル

GTAP モデルは、ウルグアイ・ラウンド交渉、GATT といった各

国間の貿易政策のインパクトを数量的に把握することを目的

にして、1992 年に設立された GTAP(Global Trade Analysis

Project)により構築された応用一般均衡モデルである。

GTAP モデルは、実際のパラメータを用いて一般均衡を達成す

るように作成された一時点のデータベースと主体の行動を規

定するパラメータ(代替の弾力性、需要の所得弾力性、自財

価格弾力性等)から成り立っている。現時点で 新のデータ

ベースは、2004 年時点の各国データをもとに作成された

Version 7 データベースであり、これを用いることで 大 113

ヶ国、57 産業について分析を行うことが可能である。(経済

産業省「通商白書 2003」)

IoT

IoT (Internet of Things : モノのインターネット / インタ

ーネットオブシングス)とは、コンピュータなどの情報・通信

機器だけでなく、世の中に存在する様々な物体(モノ)に通信

機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信する

ことにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うこ

と。(IT 用語辞典)

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ITI

Information Technology Industry Council(ITI、米国情報

技術工業協議会)は、1916 年に全国事務機器工業協会として

設立。1994 年、CBEMA(計算機事務機械製造工業協会)から改

称。

ITO

国際貿易機構憲章(ITO 憲章、ハバナ憲章ともいう)に規定さ

れている国際貿易を推進するための協力機構。保護主義そし

てブロック経済の形成などによって世界貿易が縮小し、ひい

ては第二次世界大戦に至った歴史の反省に基づき、大戦後の

1945 年 11 月、アメリカ政府によって「世界貿易および雇用の

拡大に関する提案」が発表され、ITO 構想が明らかにされた。

これを基に、47 年 4 月にジュネーブで開かれた国連貿易雇用

会議準備委員会、さらに同年 11 月から翌 48 年 3 月にかけて

キューバのハバナで開かれた国連貿易雇用会議で討議され、

国際貿易機構憲章が参加 53 か国によって採択、調印された。

各国の完全雇用を図ると同時に、自由貿易に基づく均衡のと

れた世界経済の拡大を目ざし、そのための協力機構として ITO

を設立することが考えられていた。

戦後の世界経済再建においては、通貨・金融面では国際通貨

基金(IMF)、国際復興開発銀行(IBRD、別名世界銀行)が、

貿易面では ITO が、それぞれ国際経済協力の中心的役割を果

たす予定であったが、ITO は、その内容があまりに理想的であ

りすぎたため、提案国であるアメリカを含めた諸国の批准が

得られず(リベリアとオーストリアの 2国のみ批准)、その

創設は実現しなかった。しかし、関税と貿易面に関する条項

は、ガット(GATT)に引き継がれて具体化された。その後、

関税と貿易の一般協定にすぎなかったガットは、貿易の自由

化と拡大に重要な役割を担ってきた。そして、1986 年 9 月に

開始され 94 年 4 月に締結されたウルグアイ・ラウンドの合意

を受けて、95 年 1 月 WTO(世界貿易機関)が設立され、ここ

に国際機関として設立されずに終わった ITO は、WTO として発

展的に実現されることとなった。

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ITU

国際電気通信連合 (ITU : International

Telecommunication Union)は、1865 年にパリで創設された万

国電信連合と、1906 年にベルリンで創設された国際無線電信

連合が、1932 年にマドリッドにおいて合体し、国際電気通信

連合(ITU)として発足した。国際連合(UN)の専門機関の一つ

で、電気通信の改善と合理的利用のための国際協力を増進

し、電気通信業務の能率増進、利用増大と普及、技術的手段

の発達と能率的運用の促進を目的とする。加盟国数は 193 か

国(2017 年 9 月現在)で、本部をスイスのジュネーブにおいて

いる。(ITU 協会ホームページより)

JEITA

一般社団法人 電子情報技術産業協会 (JEITA: Japan

Electronics and Information Technology Industries

Association)は、2000 年 11 月に社団法人日本電子機械工業

会(EIAJ)と社団法人日本電子工業振興協会(JEIDA)が統合

して発足。電子機器、電子部品の健全な生産、貿易及び消費

の増進を図ることにより、電子情報技術産業の総合的な発展

に資し、わが国経済の発展と文化の興隆に寄与することを目

的とした IT・エレクトロニクス分野の業界団体。(JEITA ホ

ームページより)

JETRO

JETRO は 2003 年 10 月、日本貿易振興機構法に基づき、前身の

日本貿易振興会を引き継いで設立された。その目的は、我が

国の貿易の振興に関する事業を総合的かつ効率的に実施する

こと並びにアジア地域等の経済及びこれに関連する諸事情に

ついて基礎的かつ総合的な調査研究並びにその成果の普及を

行い、もってこれらの地域との貿易の拡大及び経済協力の促

進に寄与することを目的とする。(JETRO ホームページより)

NSA アメリカ国家安全保障局(NSA)。「プリズム事件」参照。

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OECD

OECD は「Organisation for Economic Co-operation and

Development:経済協力開発機構」の略で、本部はフランスの

パリに置かれている。第二次大戦後、米国のマーシャル国務

長官は経済的に混乱状態にあった欧州各国を救済すべきとの

提案を行い、「マーシャルプラン」を発表したが、これを契

機として、1948 年 4 月、欧州 16 か国で OEEC(欧州経済協力

機構)が発足し、OECD の前身となった。その後、欧州経済の

復興に伴い 1961 年 9 月、OEEC 加盟国に米国及びカナダが加わ

り新たに OECD(経済協力開発機構)が発足。日本は 1964 年に

OECD 加盟国となっている。(経済産業省ホームページより)

RCEP

RCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership、東ア

ジア地域包括的経済連携)は、日中韓印豪 NZ の 6 カ国が ASEAN

と持つ 5つの FTA を束ねる広域的な包括的経済連携構想であ

り、2011 年 11 月に ASEAN が提唱した。その後、16 カ国によ

る議論を経て、2012 年 11 月の ASEAN 関連首脳会合において正

式に交渉が立上げられた。RCEP が実現すれば、人口約 34 億人

(世界の約半分)、GDP 約 20 兆ドル(世界全体の約 3割)、

貿易総額 10 兆ドル(世界全体の約 3割)を占める広域経済圏

が出現する。(経済産業省ホームページより)

SNS

SNS(Social Networking Service)とは、人と人との社会的

な繋がりを維持・促進する様々な機能を提供する、会員制の

オンラインサービス。友人・知人間のコミュニケーションを

円滑にする手段や場を提供したり、趣味や嗜好、居住地域、

出身校、あるいは「友人の友人」といった共通点や繋がりを

通じて新たな人間関係を構築する場を提供するサービスで、

Web サイトや専用のスマートフォンアプリなどで閲覧・利用す

ることができる。(IT 用語辞典)

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Society 5.0

Society 5.0 とは、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会

に 続く、サービスやものづくり、社会インフラ、エネルギー

ネットワーク、地球環境など様々な分野でサイバー空間とフ

ィジカル空間が高度に融合された社会のことである。これが

実現されると、人が単純な業務から解放され、全ての人が豊

かな生活を送ることができるようになるという。(内閣府

総合科学技術・イノベーション会議 「第5期科学技術基本

計画」より)

TPP

Trans‐Pacific Partnership(TPP)は、モノの関税だけでな

く、サービス、投資の自由化を進め、さらには知的財産、電

子商取引、国有企業の規律、環境など、広い分野で21世紀

型のルールを構築するもので、環太平洋諸国が締結を目指し

て交渉を行っている広域的な経済連携協定。原則として全品

目の関税を撤廃する。シンガポール・ニュージーランド・チ

リ・ブルネイの 4か国が締結した P4 協定(環太平洋戦略的経

済連携協定)を拡大するもので、オーストラリア・ペルー・

ベトナム・米国・マレーシア・メキシコ・カナダ・日本を加

えた 12 か国が交渉を行っており、日本は 2013 年 7 月から交

渉に参加。2015 年 10 月、米国アトランタで開催された閣僚会

合で大筋合意に至ったが、2017 年 1 月、米国が政権交代に伴

い離脱。米国を除く署名 11 か国での協定発効に向けた検討が

行われている(2017 年 7 月現在)。

WTO

WTO(世界貿易機関:World Trade Organization)は,ウルグ

アイ・ラウンド交渉の結果 1994 年に設立が合意され,1995 年

1 月 1 日に設立された国際機関です。WTO 協定(WTO 設立協定

及びその附属協定) は,貿易に関連する様々な国際ルールを

定めています。WTO はこうした協定の実施・運用を行うと同時

に新たな貿易課題への取り組みを行い,多角的貿易体制の中

核を担っている。(外務省ホームページより)