クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸...

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クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸問題 演奏と指導のためのリファレンスー 阿立音楽大学大学院研究年報第-1-1|鮒抜刷 平成10年3月3111発行

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クロードドビュッシー『前奏曲第1集』のテキストに関する諸問題

演奏と指導のためのリファレンスー

今 井 顕

音 樂 研 究阿立音楽大学大学院研究年報第-1-1|鮒抜刷

平成10年3月3111発行

クロードドビュッシー『前奏曲第1集』のテキストに関する諸問題

lt演奏と指導のためのリファレンス>

今 井 顕

クロードアシルドビュッシー(1)が1909年から1910年にかけて作曲した『前奏曲第1集』は12曲の小品によって構成されている引き続き1910年より1913年にかけて作曲された同じく12曲の小品によって構成されている「前奏曲第2集』とならびこれらの作品はドビュッシーの創作したピアノ作品の中で最も円熟し重要なもののひとつとなっている『前奏曲集」は演奏技巧上からも極度に困難な作品は少なく特に第1集

の作品は近代フランス印象派の音響への導入題材としてピアノ教育現場でも使用される頻度が高いしかしこれらの作品を学習するにあたって不可欠な楽譜に関し問題点が存在する本稿では特に『前奏曲第1集」に限定してこの問題にふれていく以下「作曲と出版の経緯」「オリジナルエディション以外の市販楽譜」「タイトルの背景」「市販楽譜のテキスト内容に関する諸問題(メトロノームの指示ドビュッシー特有の記号原典と市販楽譜の相違点)」「ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」「各市販楽譜の評価」の順で論じていきたい

作曲と出版の経緯

12曲のうち9曲(1~6811および12曲目)の手稿にはドビユツシーの筆跡による日付が鉛筆で記されておりそれらは1909年12月7日から翌1910年2月4日までとなってい製残りの79および10曲目も同時期に作曲された可能性が大きい3段の大譜表が多用されている第2集と異なり第1集はすべて2段の大

二七一

-176-

譜表としてまとめられ個別のタイトルはそれぞれの作品の冒頭ではなく後尾に括弧に入れて表示されているタイトルが演奏者の自由な想像力のさまたげにならないようにというトヒュッシーの配慮だと言われる製これらのタイトルは作品の内容を理解するための重要な鍵となるものである1910年2月5日にドビュッシーからジャックデユラン(4)へ「前奏曲が仕上がったLesPrludessonttermings」との手銀5)がしたためられ初版はデュラン社から早くも1910年4月14日に刊行されているデュラン社から刊行された前奏曲集初版の校正はドビュッシー自身によって行われたその際ドビュッシーは手稿を底本にして制作された校正刷に多くの表情記号や強弱指示などを加筆しそれらをあらためて手稿に書き戻すという作業を行っている当初手稿に記載されていなかった100箇所以上のテンポやニュアンスに関する指示および400箇所近くの強弱に関する指示がこの段階で校正刷に書き加えられているシャープやフラットあるいはナチュラルなどの臨時記号も例外ではない楽曲の創作活動とは異質の不毛な編集作業はドビュッシーの得意とするところではなく校正済みとして完成した楽譜の中には依然として細かいミスが残されたままになっているこれらは演奏や指導の際に考慮されなければならないドビュッシーによって校正刷の時点で新たに書き加えられ手稿に書き戻

されそして実際に印刷された事項は正真正銘の作曲家の指示として扱うべきだが「追加事項が書き戻された手稿に存在しないのに楽譜に印刷されているものすなわちドビュッシーが校正刷に加筆した検証が得られないもの」あるいは「手稿に記載されているにもかかわらず出版された楽譜で抜け落ちているもの」などはこれが単に不注意によるミスなのかあるいはドビュッシーが指示した般終的な変更事項なのかの判断は微妙である1910年4月14日に発行された初版第1刷に含まれるミスプリントを校訂した初版の校言剛は1913年に発行されているここまでの編集作業にはドピュッシー自身も関わっているがその後1930年前後に再度行われた校訂はドビュッシー没後のことでありその意図および信想性が不明瞭なものも含まれているしかしこれだけの校訂作業を経ても臨時記号の抜け落ちなどがいまだに

へ一

八L 一 ダ

- 1 7 5 -

散見されるのが現状である今日広く愛用されているデュラン社のオリジナルエディション(6)は作曲家が直接編集に関わった正統なる楽譜とはいえ内容の過信は禁物である

オリジナルエディション以外の市販楽譜

この現状をふまえ公開されている既存資料をもとに新しく編集された楽譜が出版されるようになった上記オリジナルエディション以外に本稿で扱うものを以下に列挙する

l)Pノ包zjdes(uvresCompletesdeClaudeDebussyS6rieIVolume5Durand-CostallatParis1985)オリジナルエディションを出版しているDurandSA社から1985年に刊行され詳しい解説と出典ソースを明示した原典版エディシオンーコスタラEdition-Costallatのシリーズ編纂寅任者はフランソワルジュールFrangoisLesureo編集資料として「手稿」「スケッチ」「印刷用校正譜」「初版楽譜」「初版楽譜の校訂版」「ヒアノロールにおけるトヒュッシーの演奏7jその他を網羅している学術研究を主眼に編纂されたもので指使いなど作曲家のオリシナルでない補足事項は原則として記入されていない(81

2)PノゼIzJdesPノゼzielwe(HenleNr383Mtinchen1986)原典版の出版については定評のあるドイツヘンレ社の楽譜エルンストーギュンターハイネマンBrnstGiinterHeinemannによって編纂された序文はフランソワルジュールFraneoisLesure指使いはハンスーマルテインテオポルトHans=MartinTheopoldによる編纂用資料は手稿と1910年に刊行された初版の楽譜

二九一

3)PF創凹desErstesHat(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)ミヒャエルシュテーゲマンMichaelStegemannが編纂しミシェル

ベロフMichelBgroffが指使いと演奏へのアドバイスをキ日当しているヘ

- 1 7 4 -

ンレ版と同じく後発の原典版で手稿と1910年に発行された製版番号7686の

初版譜)を中心に精密な編纂が行われているヒアノロールから得られる情報も編纂用資料のひとつとして列挙されているがその影響はほとんど見受けられない

4)PFJudesZerUre(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)ドビュッシーの全ピアノ作品をレコードに録音しているイエルクデーム

スJ6rgDemusの編纂による楽譜編集用資料の提示や注解はないメインテキストの内容はデュラン社のオリジナルエディションとほぼ同等であるしたがってこの楽譜が提供するメリットはデームスの指使いとなる

5)PrIdesIerLjure(DebussyKlavierwerkeBandllEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)旧東ドイツのライプツィヒペータース社が刊行したドビュッシー全集の第2巻エベルハルトクレムEberhardtKlemmの編纂による編纂用資料は1910年刊行の初版楽譜および1964年にモスクワのムジカMusyka社より刊行されたドビュッシー全集に含まれている前奏曲集特に「原典版」とは標傍していない『帆』および『パックの踊り」において部分的ではあるが悲意的に3段の大譜表に書き換えられているところがある

6)『前奏曲第1集』(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)日本におけるフランス音楽の大家安川加壽子の編纂による楽譜安川女史の考えによるヘタル使用法がメインテキストに印刷されている01またドビユッシーが使用したフランス語の楽語がすべて適切な日本語に邦訳されており初心者にとっては大きな助けとなるが原典版としての価値は薄いメインテキストは一部の変更11)をのぞきデュラン社のオリジナルエディションに準拠している

三ー

7)『ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷

-173-

春秋社1996)日本のピアノ音楽教育界でその刊行(1961)以来広く使用されてきた井

口基成編集校訂の楽譜原典版としての価値は薄いが日本国内ではいまだに愛用者が多い楽譜である

タイトルの背景

前奏曲にはトヒュッシーによってつけられたタイトルが明示されていざツそれぞれの作品の最後に括弧つきで印刷されているもののこれらのタイトルが何を意味しドビュッシーがそこにどのようなイメージを投影していたかを知ることは学習者また指導者にとって不可欠であるこれらの作品にアプローチする際のイメージについて考えてみたい

l)デルフイの踊り子DαseusesdeDeiesデルフィはギリシャの古都の名で太陽音楽言葉健康その他のネII1であるアポロの神託で有名である大きな柱の装飾として彫られた3人のバッカスの女祭司の祭礼の踊りの彫刻がパリのルーブル美術館に展示されていた神に仕える3人の女性がハープシストルム(3とフルートのゆるやかなリズムにのって踊る様子が印象的なこの彫刻そのものあるいはその複製大きな写真またはエッチングよりドビュッシーが受けたイメージが音に変換されている「神に捧げられた芳香が重々しく霞のように漂う新田の神秘な物陰に運命を夢見る瞑想的な髪が目には見えないものの現(うつつ)に憩うてい』1「その響きはやわらかく宗教的緊張感をもつものでしたそこからほうふつする浮彫りの像は舞い姫よりもむしろ巫女を思わせるものがありまし勘というドビュッシーと直接の親交があったピアニストアルフレッド

(1カルトー(19とマルグリットロンのメッセージを引用しておく

(一一一一)2)帆VOes 一 一 一 一 一 一 一 一 - 一 一 一 一

フランス語の題名『Voiles」は『帆』と邦訳されているコルトーの伝え

- 1 7 2 -

る「明るく輝く港に休息しているいく艘かの小舟その帆がやわらかにはためき帆をはらませる微風に導かれて白い翼をひろげ愛撫する海の上を日の沈む水平線の方へと遁走する11あるいはロンによる「これは海に浮かぶ数隻の小舟の非物質的イメージなのですい」というメッセージもその正当性を裏付けているしかし「ヴオワール」という単語の意味にはもうひとつ「ヴェール」という意味があることも見逃してはならないトヒュッシーの友人であったコルトーの従兄弟エドガーヴァレーズEdgardVareseが作曲者自身から聞きだしたところによるとこの小品のイメージはパリで成功をおさめたアメリカ生れの女性ダンサーロイーフラー(ロワフュレール)LoieFullerが踊る際にまとった透きとおったヴェールのひるがえる様子がもとになっているという(2)いずれにも共通しているのは「空気の流れによってゆれ動く布地」のイメージである船の帆は風に「ハタハタと」なびくものでありドビュッシーの音楽によって表現されているような動き方はしないだろうその意味で「ダンサーのヴェール」のほうがより適切と思われる

3)野をわたる風LeUetfhmsI(zpme8世紀にハリで活躍した詩人台本作家シャルルシモンファウァ_Wの楽劇「宮廷のニネットNinettealacour」の第2幕第8景にあるニネットのアリエッタの冒頭の一節「hellipleventdanslaplainesuspendsonhaleine」の一節が題名に用いられているこのテキストはポールヴェルレーヌ例の詩『やるせない夢心地Cestlextaselangoureusejのもとになったものですでに1883年3月ドビュッシーの歌曲集『忘れられた歌Ariettesoubliees』第1曲として作曲されているここで表現されている風は「こっそりと逃れるようにそして素早く短く

刈った草の上を滑り潅木の茂みにまといからまり生垣の髪を乱し時折は朝方の若々しい情熱を含んだ雰囲気の中にもっと荒々しい息吹でもって萌え出てきた小麦を長大な潮騒のようになびきそよがせ劉風であり「収稚と風になびく草を〈中略〉《牡山羊のような突き上げ》のような紺

(一一一一一)

-171-

であるヨーロッパの乾燥した大気と大地とが感じられる

4)音と香りは夕暮れの大気にただようLeSSOrlSetleSP(Wi7zStOlet 一 一 I Ⅱ 4 ー ー I 一 一 一 q 一 一 一 一 一 - - 1 1 ー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 - 1 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

dαsj(zirdusoirアジアのマレー(マライ)Malay燭にその源を発する「パントウムスタ

鰯イルformedepantoum」と呼ばれる作詩法にほぼ準じた形で創作されたシャルルボードレールの詩集『悪の華Fleursdumal」に含まれる『夕べのしらべHarmoniedusoirj3行目のテキストが題名となっているドビュッシーの音楽は特にパントウムスタイルになっていないこのボードレールの詩は1889年1月ドビュッシーによって歌曲『ボードレールの五つの詩CinqpobmesdeBaudelairej2曲目として作曲されている「これは夕暮れの悩ましい心の動揺である匂いは大気の愛撫の中に漂い

雑多な振動音を更けゆく穏やかな夜が寄せ集めそしてボードレールの詩句の意味するところ倒にとどまるとすれば《物憂い眩量(めまい)》なのでありそこではゆえもなく心うらぶれる剛「ホートレール的苦悩がみちている官能でふくらんだ贈物のようなものです夜の高鳴りの心を乱す魅力この世の束の間の幸福のものうさ明日なき陶酔への渇望なのです(31という官能的な雰囲気に満ちた作品である

5)アナカプリの丘Leco伽sdAαcqprjアナカプリはナポリの近くの島カプリ島にある町の名前であるロンによると「ドビュッシーがイタリアへ旅行した際の思い出が音楽となっておりナホリをめぐる様々な雰囲気が音楽になっているlsquo1というのだが作品が生れる上で直接のインスピレーションとなった事柄は不明であるアナカプリ産ワインのボトルのラベルに印刷されていた絵がそのきっかけになったという説もある一方アクセルムンタ(ミュント)AxelMuntheの小説『アナカプリ』を読んでの印象であるという考察も存在する「タランテラの活気づいたリズムが民衆的なメロディーのリフレインの悠

長さに巻きつき恋の叙情的旋律(カンティレーナ)の甘美でありきたりなノスタルジアが素早いフルートの疲れを知らない鋭い活気によって傷つけ

(一一一一一一)

-170-

ldquoられるあまりにも青い空の振動に激しく溶け合う」「タランテラ舞曲が網の目のように交錯してく中略>その踊りは悪魔のように熱狂し僧院の錨の呼び声は辛辣に響きそのときまさに糖霊のようにのんびりと恋を歌うすばらしい素朴な民謡が湧き上がってくるのです吋6)雪の上の足跡Despqss[jqejge

一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 』 B 一 一 一 一 一 一 一 ー ー ー ー ー

ドビュッシーがどこからこの作品で表現されているイメージを得たかは不明であるモーリスルブラン岡の同名の探偵小説(37)がその題材であるという説からアンリボルドー(30の小説『足跡の上の雪Laneigesurlespasj

がそれにあたるなど諸説がいりみだれている作品がかもし出すイメージは明確でドビュッシー自身も楽譜に「このリズムは凍りついた悲哀のこもった風景のような感じを出さねばならないCerythmedoitavoirlavaleursonoredunfonddepaysagetristeetglacg」「愛情のこもったかなしい哀悼のようにCommeuntendreettristeregret」との指示を書いている「もはや存在しない幸福の想い出を悩ましげに喚ぴさます《lというもの悲しい響きの作品である7)西風の見たものαqIJqUILIeUentdOuest- 一 面『 -ハンスクリステイアンアンデルセンの物語『天国の庭Lejardindu

paradis」の中で西風が自分の見たものを語る場面が基本になっていると考えられる一方ドビュッシーはパーシーシェリー倒作の『西風への頌詩OdetotheWestWind』のフェリックスラップF61ixRabbeによる仏語訳『LodeauVentdOuest』も読んでいた模様であるヨーロッパに住む人間にとっての「西風」とは大西洋からの季節風であり強大な風力を伴って吹き荒れるいわば嵐の風でありその様子が音の怒涛となって表現されている

三四一 三

8)亜麻色の髪の少女L(zFieauclieUede

賦墓夛蒟瓢賑盲蕨カョラー意ホーテーリーカ閲の『古代詩集Pomesantiques」に収録されている『シャンソンエコセーズChansonsgcossaises」一

- 1 69 -

の4番目の詩がもとになっているドビュッシーはまだ20歳の頃(1882)この詩を歌曲として作曲し親交のあったマリーーブランシュヴァニエ夫人に献呈しているが歌曲と前奏曲の間に音楽的な関連は見られない前奏曲第1集の初版楽譜は1910年4月14日に刊行されているがこの曲のみ単独でルフイガロLeFigaro誌の付録として初版刊行よりわずか2週間後の4月30日に再刊行されたその際のタイトルは『LaFilleauxYeuxdeLin亜麻色の瞳の少女」となっているがフランス語で「髪」は「cheveux」「瞳(目)」は「yeuX」(共に複数形)と似ておりこれが単なる誤植かあるいはドビュッシーの意思によるものかどうかは不明であるところで亜麻色とはどんな色なのだろうか亜麻は植物の一種でこの繊維を使ってアサ布地やリネンが作られる染色前の色はオフホワイトからベージュにかけてのものだろうこの色の髪とは淡い金髪淡黄色あるいは茶色でも明るい色調のものを指すラテン系の血が流れるフランス人の毛髪は比較的濃い一般にブルネットといわれている色(濃い栗色)が普通である「亜麻色の髪の少女」とはラテン系ではないアングロサクソン系一スコットランドあたりの可憐で清純な俗世間に毒されていない少女をイメージしたものといえるだろうロンがその著書の中で「ドビュッシーがルコントドリルの『スコットランドのシャンソン」を音楽になおしたもので打と述べているがトヒュッシーとの会話中何らかの形で「スコットランド」に触れられたと想像できる他方亜麻色とはやはり亜麻を原料として作られるアマニ油の色つまり茶色であるという説も存在するこちらの説に従えば「亜麻色の瞳の少女」も可能性として充分考えられる範鴫にはいる

9)さえぎられたセレナードLassectrsectαdejterrompue穐言弱二赫兀稽薬万謝江そ箙葱斯シの雰囲気がここ

でも多分に感じられるがその原点となるべき事柄の由来は不明であるコルトーによると「これはゴヤの絵にある夜のいたずらっぽい幻想であって一人のフィアンセriovioの臆病な情熱閉ざされた窓の下で彼が歌う愛の歌その歌をさえぎる常ならぬ音や隣の小路を通り過ぎる学生の群におび

三打一

- 1 6 8 -

えたり憤慨したりする感情のときめきをいらだったスペイン風のそり身な線をもったキターのリスムに乗せて表現しているlsquo3というマヌエルデファリャ脚の説によるとここには花で飾られた窓の奥に隠れている美しい女性の好意を得ようとギターを持って対時する二人の男性歌手の様子だという6110)沈める寺Lαの城をd『qleegloutie

副惹7r-房ず編醜葬蒔亮の想い出Souvenirsdenfanceetdejeunesse」(1883)に含まれているフランスブルターニュ地方の伝説がもとになっているその内容は「波の下に呪われた眠りをまどろむイスYsの町倒にある寺院がときおり霧の深い朝に朝日と共に透明な大洋の底そして長い年月の奥底から徐々に浮かび出てくる鐘が鳴り司祭たちの歌が聞こえるついでその幻影はあらためて静穏な海の下に消え去る」というものである

1l)パックの踊りLaDαsedePuch - 例 -ウイリアムシェークスピアの『真夏の夜の夢AMidsummerNights

Dream」第2幕第1場に『パックの踊り』のシーンがあるドビュッシーはシェークスピアに惹かれ「お気に召すままAsYouLikelt」や『リア王TrueChronicleHistoryoftheLifeandDeathofKingRear」なども音楽の題材として扱っているが1908年に出版された本の中にあるアーサー(アルテュール)ラッカムArthurRackhamが描いた挿絵に刺激を与えられたらしいラディアード(リュディアール)キプリングRudyardKipling作の物語『ハック』がこの楽曲のもとになったという説も存在するlsquo1「パック」は妖箱の名前だがそのユーモアに富んだ軽々とした動きや

妖精の王オベロンの角笛の響きが音楽で表現されている

(一二一ハ) 12)ミンストレルMistreJs『辻音楽師』と邦訳されることもあるミンストレルとは街から街へと楽

器を弾きながら日銭を稼ぐ道化師のグループのことである白人が身振りも

-167 -

真似ながら黒人の音楽を演奏するのが芸のひとつだったドビュッシーは『子供の領分ChildrensCornerj(1908)でも同様な音

楽『ゴリウオーグのケークウオークGolliwoggsCakewalk」を創作しているがケークウオークとは北米の黒人奴隷の踊る伝統的なダンスであるこのリズムはジャズの先駆として1900年頃ヨーロッパに伝わりミュージックホールの雰囲気とあいまってパリでも大流行したドビュッシーが1905年の夏を過ごしたドーバー海峡に面したイギリスの町イーストボーンEastbourneのグランドホテル前でのアトラクションの印象がこの作品のもとになっているという説もある

市販楽譜のテキスト内容に関する諸問題

今日ではデュラン社から引き続き刊行されているオリジナルエディション以外にも各種の市販楽譜を購入できる初版楽譜と手稿との間に存在する多くの相違点は編纂者の考えるランキングに沿って選別され「メインテキスト内で反映されるもの」「メインテキストの脚注として印刷されるもの」あるいは「注解として一覧掲載されるもの」にまとめられるなお原典版の楽譜でも指使いその他を付加して制作する場合が多いがこれら作曲家のオリジナルではないものは視覚的にオリジナルのものと区別できるように工夫されている旬ドビュッシーの前奏曲第1集における手稿とオリジナルエディションとの

相違は微細なものまで含めると数量的にもかなりなものとなるまた手稿オリジナルエディションどちらにも準拠しないエラーも散見される本稿ではあくまでも「演奏と指導のためのリファレンス」という見地から中でも重要度が高いと思われるものを中心に考察を進めていきたい

メトロノームの指示第1集全12曲のうち8曲田にドビュッシーによるメトロノーム指示があるのに比較して第2集ではただ1曲『ヒースの茂る荒地』のみにつけられている1915年10月9日にドビュッシーがジャックデュランにあてた手紙の

三七L一=

- 1 66 -

中で「メトロノーム指示は書いたところでどうせ[初めの]1小節にしか効果がないVoussavezmonopinionsurlesmouvementsmetronomiquesilssontjustespendantunemesure」と述べていることからも彼自身こういったメトロノーム指定の効力と拘束力をあまり信じていなかったようだ

ドビユッシー特有の記号ドビュッシーの作品を演奏する上でドビュッシー特有の記譜上の特徴を

知ることも大切であるたとえば「hellip」というマークは(Cgdezhelliphellipなど)アゴーギクの変化一リタルダンドあるいはアッチェレランドその他一一が終結する場所を示すのみで「」が同時にブレスや一時休止を意味することはないブレスが必要な場合にはドビュッシーは「」「」その他の記号を使用している

原典と市販楽譜の相違点市販楽譜を比較してみるとその内容にはかなりの相違があるそれらのうち音楽的にも重要で違いを知っておくべきと思われるものを以下に掲載する表の中でグレーの表示になっているところは楽譜のメインテキスト内(いわゆる「譜面」のこと)で適正な処理がされているものである「注解」あるいはそれに準ずる編纂情報はデュランーコスタラ版ヘンレ版ウィーン原典版およびペータース版にしか掲載されていない御なお音名はドイツ音名を使用するしたがってBbは日本音名の変ロ音

Hhはロ音を意味する音の高さの表示については下図を参照されたい

SubkOnlmKOnlmigrOSScKlcincCingCSlriChCnciZlvcigcSIxiChcncidrigCSiliChCnC c昼

に一就一一騨岬翫耀管Ⅵ8 immgcsmchcnc

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一鬘〆彗豊ン篁管一一 一 一 i ( 4 1 o ) i

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80lsquo回ldquo幻α一口z C 1 H C 1 H 1 C 蹄 c h c U h 8 ザ I F ザ 鼎 c 』 h 4 1 c S

三八一

- 1 65 -

l)デルフイの踊り子第5小節最後の和音は四分音符それに対して第10小節では二分音符となっているが第10小節の二分音符はドビュッシーの手稿では第5小節と同じく四分音符であるしかし手稿の第10小節と11小節の間の小節線上方に自筆で(34)と記載されていることからドビュッシーは第9~10小節を44として創作したと思われるよって二分音符が妥当だろうしかし第4~6小節と第9~l1小節の流れは酷似しており第10小節が34として処理される可能性(最後の和音を四分音符として処理する)も皆無ではない

(1)第10小節最後の和音の音価- - - - - - - ー - - - メインテキスト

二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は四分音符

辿軸薊なし

第16小節4拍目上声部の和音(後打ちの八分音符)は手稿ではc2_d2_c3だが市販楽譜でC2_C3になっているものがあるd2が加筆されるべきだろうなおこの和音に関しては後述「ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項も参照されたい

(2)第16小節4拍目上声部の和音一 一 三 一 注解のコメント-

キC{c{CCCC

-ナー2-2一一一一

ン唖一C-CCCC

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

鋤一型鋤 1

なし

三九hellip手稿はc2_d2-cミウイーン原典版に関しては別の不備がある

ウィーン原典版ではこの和音にドビュッシーが初版校正の際に追記した左手cl-dの音が欠落している

- 1 6 4 -

2)帆(ヴェール)第4小節の最後三つの16分音符には第13小節と同じくスラーに加えてスタッカート(ポルタート)が必要である手稿に記載されている

(3)第4小節のポルタートー ー 一 一 一 一 一 ー - - -

メインテキストなしありありありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

鋤一剛訊なし

手稿の第33小節冒頭に「aTempo」が記載されている追記されるべきである

(4)第33小節のaTempo- - - - - - - - - -

メインテキストなしありなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

副一札一鋤なし

第41小節のバスlBおよび第40小節の同音との間にかけられているタイは手稿になくミスプリントと思われる初版の楽譜で第41小節から新しい段になっているのが原因で校正の際に見落とされたと思われる当初は第41小節にこの不要な二分音符のバスがタイなしで印刷されていたが後日行われた版の組替え時に小節の割り付けが変更されその際にこの音が削除されるのではなく出版社の独断で第40小節からのタイが加筆されてしまった(四)

- 1 63 -

(5)第40小節41小節のタイとバス音- - 注解のコメントメインテキスト

未削除削除すみ未削除削除すみ

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

鋤一鋤訊未削除一

未削除 なし未削除一

未削除

第62小節後半右手のリズムには市販楽譜でかなりの相違が見られる手稿に記されているリズム<譜例1Agtが計算に合わないのがその原因であるいずれにせよ第26小節にあるリズムと区別し後尾の三連音符はより軽く弾かれるべきだろう記譜の正確さという点ではく譜例lBgtlt譜例lCgtどちらかになるが実際の演奏は必ずしもこれらと一致しない

8〈譜例Agtj_m8〈譜例Bgtj_3〈譜例1Cgt」届

(6)第62小節のリズム- - 注解のコメントメインテキスト

譜例1A譜例1C譜例1B譜例1A譜例1A譜例1B譜例1A譜例1A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例1Agtの形になっている

副一釧一社なし へ

um二

第62小節冒頭のペダル記号と第64小節にあるペダルをキャンセルする記-162-

号はドビュッシーにより初版校正の際に初めて加筆された第64小節のキャンセル記号はオリジナルエディションの1930年頃の版から消滅している理由は不明だがドビュッシー死後の事であり作曲者の指示でないことは確実であるペダルをキャンセルする記号は第64小節の冒頭ではなく小節のほぼ中央

下に瞥かれている第63小節で最後の和音c-eが第64小節にはいった時点でペダルも踏みかえ左手の休符を尊重する演奏をよく耳にするがこれが果たして作曲者ドビュッシーの意図した奏法かどうかは不明である

(7)第62小節64小節のペダル指示メインテキスト62小節のみ6264小節6264小節なし

62小節のみなし

(6264小節)(6264小節)

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

幽礼別なし

手稿にはないがドビュッシーによって初版楽譜に加筆された音楽之友社版と春秋社版ではここに限らずオリジナルではないペダルが常時印刷されているが春秋社版には特に脚注が添えられている

3)野をわたる風初版校正稿の第53小節4拍目にはドビュッシーによって=(デイミヌエンド)が書き加えられたが印刷には至らなかった第51小節の=(クレシェンド)と対応する重要な強弱記号だが印刷工の見落としか追加すべきである

(8)第53小節のディミヌエンド---一一一一一-三三二メインテキスト注解のコメントオ リ ジ ナ ル エ デ ィ シ ョ ン な しデ ュ ラ ン ー コ ス タ ラ 版 あ り あ り

ヘ ン レ 版 な し な しウ ィ ー ン 原 典 版 な し な しリ コ ル デ ィ 版 な しペ ー タ ー ス 版 な し な し音 楽 之 友 社 版 な し春 秋 社 版 な し

ドビュッシーによって初版校正の際に加筆された

三 一 =

四一

-161-

4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 2: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

クロードドビュッシー『前奏曲第1集』のテキストに関する諸問題

lt演奏と指導のためのリファレンス>

今 井 顕

クロードアシルドビュッシー(1)が1909年から1910年にかけて作曲した『前奏曲第1集』は12曲の小品によって構成されている引き続き1910年より1913年にかけて作曲された同じく12曲の小品によって構成されている「前奏曲第2集』とならびこれらの作品はドビュッシーの創作したピアノ作品の中で最も円熟し重要なもののひとつとなっている『前奏曲集」は演奏技巧上からも極度に困難な作品は少なく特に第1集

の作品は近代フランス印象派の音響への導入題材としてピアノ教育現場でも使用される頻度が高いしかしこれらの作品を学習するにあたって不可欠な楽譜に関し問題点が存在する本稿では特に『前奏曲第1集」に限定してこの問題にふれていく以下「作曲と出版の経緯」「オリジナルエディション以外の市販楽譜」「タイトルの背景」「市販楽譜のテキスト内容に関する諸問題(メトロノームの指示ドビュッシー特有の記号原典と市販楽譜の相違点)」「ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」「各市販楽譜の評価」の順で論じていきたい

作曲と出版の経緯

12曲のうち9曲(1~6811および12曲目)の手稿にはドビユツシーの筆跡による日付が鉛筆で記されておりそれらは1909年12月7日から翌1910年2月4日までとなってい製残りの79および10曲目も同時期に作曲された可能性が大きい3段の大譜表が多用されている第2集と異なり第1集はすべて2段の大

二七一

-176-

譜表としてまとめられ個別のタイトルはそれぞれの作品の冒頭ではなく後尾に括弧に入れて表示されているタイトルが演奏者の自由な想像力のさまたげにならないようにというトヒュッシーの配慮だと言われる製これらのタイトルは作品の内容を理解するための重要な鍵となるものである1910年2月5日にドビュッシーからジャックデユラン(4)へ「前奏曲が仕上がったLesPrludessonttermings」との手銀5)がしたためられ初版はデュラン社から早くも1910年4月14日に刊行されているデュラン社から刊行された前奏曲集初版の校正はドビュッシー自身によって行われたその際ドビュッシーは手稿を底本にして制作された校正刷に多くの表情記号や強弱指示などを加筆しそれらをあらためて手稿に書き戻すという作業を行っている当初手稿に記載されていなかった100箇所以上のテンポやニュアンスに関する指示および400箇所近くの強弱に関する指示がこの段階で校正刷に書き加えられているシャープやフラットあるいはナチュラルなどの臨時記号も例外ではない楽曲の創作活動とは異質の不毛な編集作業はドビュッシーの得意とするところではなく校正済みとして完成した楽譜の中には依然として細かいミスが残されたままになっているこれらは演奏や指導の際に考慮されなければならないドビュッシーによって校正刷の時点で新たに書き加えられ手稿に書き戻

されそして実際に印刷された事項は正真正銘の作曲家の指示として扱うべきだが「追加事項が書き戻された手稿に存在しないのに楽譜に印刷されているものすなわちドビュッシーが校正刷に加筆した検証が得られないもの」あるいは「手稿に記載されているにもかかわらず出版された楽譜で抜け落ちているもの」などはこれが単に不注意によるミスなのかあるいはドビュッシーが指示した般終的な変更事項なのかの判断は微妙である1910年4月14日に発行された初版第1刷に含まれるミスプリントを校訂した初版の校言剛は1913年に発行されているここまでの編集作業にはドピュッシー自身も関わっているがその後1930年前後に再度行われた校訂はドビュッシー没後のことでありその意図および信想性が不明瞭なものも含まれているしかしこれだけの校訂作業を経ても臨時記号の抜け落ちなどがいまだに

へ一

八L 一 ダ

- 1 7 5 -

散見されるのが現状である今日広く愛用されているデュラン社のオリジナルエディション(6)は作曲家が直接編集に関わった正統なる楽譜とはいえ内容の過信は禁物である

オリジナルエディション以外の市販楽譜

この現状をふまえ公開されている既存資料をもとに新しく編集された楽譜が出版されるようになった上記オリジナルエディション以外に本稿で扱うものを以下に列挙する

l)Pノ包zjdes(uvresCompletesdeClaudeDebussyS6rieIVolume5Durand-CostallatParis1985)オリジナルエディションを出版しているDurandSA社から1985年に刊行され詳しい解説と出典ソースを明示した原典版エディシオンーコスタラEdition-Costallatのシリーズ編纂寅任者はフランソワルジュールFrangoisLesureo編集資料として「手稿」「スケッチ」「印刷用校正譜」「初版楽譜」「初版楽譜の校訂版」「ヒアノロールにおけるトヒュッシーの演奏7jその他を網羅している学術研究を主眼に編纂されたもので指使いなど作曲家のオリシナルでない補足事項は原則として記入されていない(81

2)PノゼIzJdesPノゼzielwe(HenleNr383Mtinchen1986)原典版の出版については定評のあるドイツヘンレ社の楽譜エルンストーギュンターハイネマンBrnstGiinterHeinemannによって編纂された序文はフランソワルジュールFraneoisLesure指使いはハンスーマルテインテオポルトHans=MartinTheopoldによる編纂用資料は手稿と1910年に刊行された初版の楽譜

二九一

3)PF創凹desErstesHat(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)ミヒャエルシュテーゲマンMichaelStegemannが編纂しミシェル

ベロフMichelBgroffが指使いと演奏へのアドバイスをキ日当しているヘ

- 1 7 4 -

ンレ版と同じく後発の原典版で手稿と1910年に発行された製版番号7686の

初版譜)を中心に精密な編纂が行われているヒアノロールから得られる情報も編纂用資料のひとつとして列挙されているがその影響はほとんど見受けられない

4)PFJudesZerUre(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)ドビュッシーの全ピアノ作品をレコードに録音しているイエルクデーム

スJ6rgDemusの編纂による楽譜編集用資料の提示や注解はないメインテキストの内容はデュラン社のオリジナルエディションとほぼ同等であるしたがってこの楽譜が提供するメリットはデームスの指使いとなる

5)PrIdesIerLjure(DebussyKlavierwerkeBandllEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)旧東ドイツのライプツィヒペータース社が刊行したドビュッシー全集の第2巻エベルハルトクレムEberhardtKlemmの編纂による編纂用資料は1910年刊行の初版楽譜および1964年にモスクワのムジカMusyka社より刊行されたドビュッシー全集に含まれている前奏曲集特に「原典版」とは標傍していない『帆』および『パックの踊り」において部分的ではあるが悲意的に3段の大譜表に書き換えられているところがある

6)『前奏曲第1集』(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)日本におけるフランス音楽の大家安川加壽子の編纂による楽譜安川女史の考えによるヘタル使用法がメインテキストに印刷されている01またドビユッシーが使用したフランス語の楽語がすべて適切な日本語に邦訳されており初心者にとっては大きな助けとなるが原典版としての価値は薄いメインテキストは一部の変更11)をのぞきデュラン社のオリジナルエディションに準拠している

三ー

7)『ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷

-173-

春秋社1996)日本のピアノ音楽教育界でその刊行(1961)以来広く使用されてきた井

口基成編集校訂の楽譜原典版としての価値は薄いが日本国内ではいまだに愛用者が多い楽譜である

タイトルの背景

前奏曲にはトヒュッシーによってつけられたタイトルが明示されていざツそれぞれの作品の最後に括弧つきで印刷されているもののこれらのタイトルが何を意味しドビュッシーがそこにどのようなイメージを投影していたかを知ることは学習者また指導者にとって不可欠であるこれらの作品にアプローチする際のイメージについて考えてみたい

l)デルフイの踊り子DαseusesdeDeiesデルフィはギリシャの古都の名で太陽音楽言葉健康その他のネII1であるアポロの神託で有名である大きな柱の装飾として彫られた3人のバッカスの女祭司の祭礼の踊りの彫刻がパリのルーブル美術館に展示されていた神に仕える3人の女性がハープシストルム(3とフルートのゆるやかなリズムにのって踊る様子が印象的なこの彫刻そのものあるいはその複製大きな写真またはエッチングよりドビュッシーが受けたイメージが音に変換されている「神に捧げられた芳香が重々しく霞のように漂う新田の神秘な物陰に運命を夢見る瞑想的な髪が目には見えないものの現(うつつ)に憩うてい』1「その響きはやわらかく宗教的緊張感をもつものでしたそこからほうふつする浮彫りの像は舞い姫よりもむしろ巫女を思わせるものがありまし勘というドビュッシーと直接の親交があったピアニストアルフレッド

(1カルトー(19とマルグリットロンのメッセージを引用しておく

(一一一一)2)帆VOes 一 一 一 一 一 一 一 一 - 一 一 一 一

フランス語の題名『Voiles」は『帆』と邦訳されているコルトーの伝え

- 1 7 2 -

る「明るく輝く港に休息しているいく艘かの小舟その帆がやわらかにはためき帆をはらませる微風に導かれて白い翼をひろげ愛撫する海の上を日の沈む水平線の方へと遁走する11あるいはロンによる「これは海に浮かぶ数隻の小舟の非物質的イメージなのですい」というメッセージもその正当性を裏付けているしかし「ヴオワール」という単語の意味にはもうひとつ「ヴェール」という意味があることも見逃してはならないトヒュッシーの友人であったコルトーの従兄弟エドガーヴァレーズEdgardVareseが作曲者自身から聞きだしたところによるとこの小品のイメージはパリで成功をおさめたアメリカ生れの女性ダンサーロイーフラー(ロワフュレール)LoieFullerが踊る際にまとった透きとおったヴェールのひるがえる様子がもとになっているという(2)いずれにも共通しているのは「空気の流れによってゆれ動く布地」のイメージである船の帆は風に「ハタハタと」なびくものでありドビュッシーの音楽によって表現されているような動き方はしないだろうその意味で「ダンサーのヴェール」のほうがより適切と思われる

3)野をわたる風LeUetfhmsI(zpme8世紀にハリで活躍した詩人台本作家シャルルシモンファウァ_Wの楽劇「宮廷のニネットNinettealacour」の第2幕第8景にあるニネットのアリエッタの冒頭の一節「hellipleventdanslaplainesuspendsonhaleine」の一節が題名に用いられているこのテキストはポールヴェルレーヌ例の詩『やるせない夢心地Cestlextaselangoureusejのもとになったものですでに1883年3月ドビュッシーの歌曲集『忘れられた歌Ariettesoubliees』第1曲として作曲されているここで表現されている風は「こっそりと逃れるようにそして素早く短く

刈った草の上を滑り潅木の茂みにまといからまり生垣の髪を乱し時折は朝方の若々しい情熱を含んだ雰囲気の中にもっと荒々しい息吹でもって萌え出てきた小麦を長大な潮騒のようになびきそよがせ劉風であり「収稚と風になびく草を〈中略〉《牡山羊のような突き上げ》のような紺

(一一一一一)

-171-

であるヨーロッパの乾燥した大気と大地とが感じられる

4)音と香りは夕暮れの大気にただようLeSSOrlSetleSP(Wi7zStOlet 一 一 I Ⅱ 4 ー ー I 一 一 一 q 一 一 一 一 一 - - 1 1 ー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 - 1 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

dαsj(zirdusoirアジアのマレー(マライ)Malay燭にその源を発する「パントウムスタ

鰯イルformedepantoum」と呼ばれる作詩法にほぼ準じた形で創作されたシャルルボードレールの詩集『悪の華Fleursdumal」に含まれる『夕べのしらべHarmoniedusoirj3行目のテキストが題名となっているドビュッシーの音楽は特にパントウムスタイルになっていないこのボードレールの詩は1889年1月ドビュッシーによって歌曲『ボードレールの五つの詩CinqpobmesdeBaudelairej2曲目として作曲されている「これは夕暮れの悩ましい心の動揺である匂いは大気の愛撫の中に漂い

雑多な振動音を更けゆく穏やかな夜が寄せ集めそしてボードレールの詩句の意味するところ倒にとどまるとすれば《物憂い眩量(めまい)》なのでありそこではゆえもなく心うらぶれる剛「ホートレール的苦悩がみちている官能でふくらんだ贈物のようなものです夜の高鳴りの心を乱す魅力この世の束の間の幸福のものうさ明日なき陶酔への渇望なのです(31という官能的な雰囲気に満ちた作品である

5)アナカプリの丘Leco伽sdAαcqprjアナカプリはナポリの近くの島カプリ島にある町の名前であるロンによると「ドビュッシーがイタリアへ旅行した際の思い出が音楽となっておりナホリをめぐる様々な雰囲気が音楽になっているlsquo1というのだが作品が生れる上で直接のインスピレーションとなった事柄は不明であるアナカプリ産ワインのボトルのラベルに印刷されていた絵がそのきっかけになったという説もある一方アクセルムンタ(ミュント)AxelMuntheの小説『アナカプリ』を読んでの印象であるという考察も存在する「タランテラの活気づいたリズムが民衆的なメロディーのリフレインの悠

長さに巻きつき恋の叙情的旋律(カンティレーナ)の甘美でありきたりなノスタルジアが素早いフルートの疲れを知らない鋭い活気によって傷つけ

(一一一一一一)

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ldquoられるあまりにも青い空の振動に激しく溶け合う」「タランテラ舞曲が網の目のように交錯してく中略>その踊りは悪魔のように熱狂し僧院の錨の呼び声は辛辣に響きそのときまさに糖霊のようにのんびりと恋を歌うすばらしい素朴な民謡が湧き上がってくるのです吋6)雪の上の足跡Despqss[jqejge

一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 』 B 一 一 一 一 一 一 一 ー ー ー ー ー

ドビュッシーがどこからこの作品で表現されているイメージを得たかは不明であるモーリスルブラン岡の同名の探偵小説(37)がその題材であるという説からアンリボルドー(30の小説『足跡の上の雪Laneigesurlespasj

がそれにあたるなど諸説がいりみだれている作品がかもし出すイメージは明確でドビュッシー自身も楽譜に「このリズムは凍りついた悲哀のこもった風景のような感じを出さねばならないCerythmedoitavoirlavaleursonoredunfonddepaysagetristeetglacg」「愛情のこもったかなしい哀悼のようにCommeuntendreettristeregret」との指示を書いている「もはや存在しない幸福の想い出を悩ましげに喚ぴさます《lというもの悲しい響きの作品である7)西風の見たものαqIJqUILIeUentdOuest- 一 面『 -ハンスクリステイアンアンデルセンの物語『天国の庭Lejardindu

paradis」の中で西風が自分の見たものを語る場面が基本になっていると考えられる一方ドビュッシーはパーシーシェリー倒作の『西風への頌詩OdetotheWestWind』のフェリックスラップF61ixRabbeによる仏語訳『LodeauVentdOuest』も読んでいた模様であるヨーロッパに住む人間にとっての「西風」とは大西洋からの季節風であり強大な風力を伴って吹き荒れるいわば嵐の風でありその様子が音の怒涛となって表現されている

三四一 三

8)亜麻色の髪の少女L(zFieauclieUede

賦墓夛蒟瓢賑盲蕨カョラー意ホーテーリーカ閲の『古代詩集Pomesantiques」に収録されている『シャンソンエコセーズChansonsgcossaises」一

- 1 69 -

の4番目の詩がもとになっているドビュッシーはまだ20歳の頃(1882)この詩を歌曲として作曲し親交のあったマリーーブランシュヴァニエ夫人に献呈しているが歌曲と前奏曲の間に音楽的な関連は見られない前奏曲第1集の初版楽譜は1910年4月14日に刊行されているがこの曲のみ単独でルフイガロLeFigaro誌の付録として初版刊行よりわずか2週間後の4月30日に再刊行されたその際のタイトルは『LaFilleauxYeuxdeLin亜麻色の瞳の少女」となっているがフランス語で「髪」は「cheveux」「瞳(目)」は「yeuX」(共に複数形)と似ておりこれが単なる誤植かあるいはドビュッシーの意思によるものかどうかは不明であるところで亜麻色とはどんな色なのだろうか亜麻は植物の一種でこの繊維を使ってアサ布地やリネンが作られる染色前の色はオフホワイトからベージュにかけてのものだろうこの色の髪とは淡い金髪淡黄色あるいは茶色でも明るい色調のものを指すラテン系の血が流れるフランス人の毛髪は比較的濃い一般にブルネットといわれている色(濃い栗色)が普通である「亜麻色の髪の少女」とはラテン系ではないアングロサクソン系一スコットランドあたりの可憐で清純な俗世間に毒されていない少女をイメージしたものといえるだろうロンがその著書の中で「ドビュッシーがルコントドリルの『スコットランドのシャンソン」を音楽になおしたもので打と述べているがトヒュッシーとの会話中何らかの形で「スコットランド」に触れられたと想像できる他方亜麻色とはやはり亜麻を原料として作られるアマニ油の色つまり茶色であるという説も存在するこちらの説に従えば「亜麻色の瞳の少女」も可能性として充分考えられる範鴫にはいる

9)さえぎられたセレナードLassectrsectαdejterrompue穐言弱二赫兀稽薬万謝江そ箙葱斯シの雰囲気がここ

でも多分に感じられるがその原点となるべき事柄の由来は不明であるコルトーによると「これはゴヤの絵にある夜のいたずらっぽい幻想であって一人のフィアンセriovioの臆病な情熱閉ざされた窓の下で彼が歌う愛の歌その歌をさえぎる常ならぬ音や隣の小路を通り過ぎる学生の群におび

三打一

- 1 6 8 -

えたり憤慨したりする感情のときめきをいらだったスペイン風のそり身な線をもったキターのリスムに乗せて表現しているlsquo3というマヌエルデファリャ脚の説によるとここには花で飾られた窓の奥に隠れている美しい女性の好意を得ようとギターを持って対時する二人の男性歌手の様子だという6110)沈める寺Lαの城をd『qleegloutie

副惹7r-房ず編醜葬蒔亮の想い出Souvenirsdenfanceetdejeunesse」(1883)に含まれているフランスブルターニュ地方の伝説がもとになっているその内容は「波の下に呪われた眠りをまどろむイスYsの町倒にある寺院がときおり霧の深い朝に朝日と共に透明な大洋の底そして長い年月の奥底から徐々に浮かび出てくる鐘が鳴り司祭たちの歌が聞こえるついでその幻影はあらためて静穏な海の下に消え去る」というものである

1l)パックの踊りLaDαsedePuch - 例 -ウイリアムシェークスピアの『真夏の夜の夢AMidsummerNights

Dream」第2幕第1場に『パックの踊り』のシーンがあるドビュッシーはシェークスピアに惹かれ「お気に召すままAsYouLikelt」や『リア王TrueChronicleHistoryoftheLifeandDeathofKingRear」なども音楽の題材として扱っているが1908年に出版された本の中にあるアーサー(アルテュール)ラッカムArthurRackhamが描いた挿絵に刺激を与えられたらしいラディアード(リュディアール)キプリングRudyardKipling作の物語『ハック』がこの楽曲のもとになったという説も存在するlsquo1「パック」は妖箱の名前だがそのユーモアに富んだ軽々とした動きや

妖精の王オベロンの角笛の響きが音楽で表現されている

(一二一ハ) 12)ミンストレルMistreJs『辻音楽師』と邦訳されることもあるミンストレルとは街から街へと楽

器を弾きながら日銭を稼ぐ道化師のグループのことである白人が身振りも

-167 -

真似ながら黒人の音楽を演奏するのが芸のひとつだったドビュッシーは『子供の領分ChildrensCornerj(1908)でも同様な音

楽『ゴリウオーグのケークウオークGolliwoggsCakewalk」を創作しているがケークウオークとは北米の黒人奴隷の踊る伝統的なダンスであるこのリズムはジャズの先駆として1900年頃ヨーロッパに伝わりミュージックホールの雰囲気とあいまってパリでも大流行したドビュッシーが1905年の夏を過ごしたドーバー海峡に面したイギリスの町イーストボーンEastbourneのグランドホテル前でのアトラクションの印象がこの作品のもとになっているという説もある

市販楽譜のテキスト内容に関する諸問題

今日ではデュラン社から引き続き刊行されているオリジナルエディション以外にも各種の市販楽譜を購入できる初版楽譜と手稿との間に存在する多くの相違点は編纂者の考えるランキングに沿って選別され「メインテキスト内で反映されるもの」「メインテキストの脚注として印刷されるもの」あるいは「注解として一覧掲載されるもの」にまとめられるなお原典版の楽譜でも指使いその他を付加して制作する場合が多いがこれら作曲家のオリジナルではないものは視覚的にオリジナルのものと区別できるように工夫されている旬ドビュッシーの前奏曲第1集における手稿とオリジナルエディションとの

相違は微細なものまで含めると数量的にもかなりなものとなるまた手稿オリジナルエディションどちらにも準拠しないエラーも散見される本稿ではあくまでも「演奏と指導のためのリファレンス」という見地から中でも重要度が高いと思われるものを中心に考察を進めていきたい

メトロノームの指示第1集全12曲のうち8曲田にドビュッシーによるメトロノーム指示があるのに比較して第2集ではただ1曲『ヒースの茂る荒地』のみにつけられている1915年10月9日にドビュッシーがジャックデュランにあてた手紙の

三七L一=

- 1 66 -

中で「メトロノーム指示は書いたところでどうせ[初めの]1小節にしか効果がないVoussavezmonopinionsurlesmouvementsmetronomiquesilssontjustespendantunemesure」と述べていることからも彼自身こういったメトロノーム指定の効力と拘束力をあまり信じていなかったようだ

ドビユッシー特有の記号ドビュッシーの作品を演奏する上でドビュッシー特有の記譜上の特徴を

知ることも大切であるたとえば「hellip」というマークは(Cgdezhelliphellipなど)アゴーギクの変化一リタルダンドあるいはアッチェレランドその他一一が終結する場所を示すのみで「」が同時にブレスや一時休止を意味することはないブレスが必要な場合にはドビュッシーは「」「」その他の記号を使用している

原典と市販楽譜の相違点市販楽譜を比較してみるとその内容にはかなりの相違があるそれらのうち音楽的にも重要で違いを知っておくべきと思われるものを以下に掲載する表の中でグレーの表示になっているところは楽譜のメインテキスト内(いわゆる「譜面」のこと)で適正な処理がされているものである「注解」あるいはそれに準ずる編纂情報はデュランーコスタラ版ヘンレ版ウィーン原典版およびペータース版にしか掲載されていない御なお音名はドイツ音名を使用するしたがってBbは日本音名の変ロ音

Hhはロ音を意味する音の高さの表示については下図を参照されたい

SubkOnlmKOnlmigrOSScKlcincCingCSlriChCnciZlvcigcSIxiChcncidrigCSiliChCnC c昼

に一就一一騨岬翫耀管Ⅵ8 immgcsmchcnc

D一rーーlsquo一の一口ロ一色lsquo-

一鬘〆彗豊ン篁管一一 一 一 i ( 4 1 o ) i

曇== 一

謬篶戸Iざ6

80lsquo回ldquo幻α一口z C 1 H C 1 H 1 C 蹄 c h c U h 8 ザ I F ザ 鼎 c 』 h 4 1 c S

三八一

- 1 65 -

l)デルフイの踊り子第5小節最後の和音は四分音符それに対して第10小節では二分音符となっているが第10小節の二分音符はドビュッシーの手稿では第5小節と同じく四分音符であるしかし手稿の第10小節と11小節の間の小節線上方に自筆で(34)と記載されていることからドビュッシーは第9~10小節を44として創作したと思われるよって二分音符が妥当だろうしかし第4~6小節と第9~l1小節の流れは酷似しており第10小節が34として処理される可能性(最後の和音を四分音符として処理する)も皆無ではない

(1)第10小節最後の和音の音価- - - - - - - ー - - - メインテキスト

二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は四分音符

辿軸薊なし

第16小節4拍目上声部の和音(後打ちの八分音符)は手稿ではc2_d2_c3だが市販楽譜でC2_C3になっているものがあるd2が加筆されるべきだろうなおこの和音に関しては後述「ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項も参照されたい

(2)第16小節4拍目上声部の和音一 一 三 一 注解のコメント-

キC{c{CCCC

-ナー2-2一一一一

ン唖一C-CCCC

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

鋤一型鋤 1

なし

三九hellip手稿はc2_d2-cミウイーン原典版に関しては別の不備がある

ウィーン原典版ではこの和音にドビュッシーが初版校正の際に追記した左手cl-dの音が欠落している

- 1 6 4 -

2)帆(ヴェール)第4小節の最後三つの16分音符には第13小節と同じくスラーに加えてスタッカート(ポルタート)が必要である手稿に記載されている

(3)第4小節のポルタートー ー 一 一 一 一 一 ー - - -

メインテキストなしありありありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

鋤一剛訊なし

手稿の第33小節冒頭に「aTempo」が記載されている追記されるべきである

(4)第33小節のaTempo- - - - - - - - - -

メインテキストなしありなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

副一札一鋤なし

第41小節のバスlBおよび第40小節の同音との間にかけられているタイは手稿になくミスプリントと思われる初版の楽譜で第41小節から新しい段になっているのが原因で校正の際に見落とされたと思われる当初は第41小節にこの不要な二分音符のバスがタイなしで印刷されていたが後日行われた版の組替え時に小節の割り付けが変更されその際にこの音が削除されるのではなく出版社の独断で第40小節からのタイが加筆されてしまった(四)

- 1 63 -

(5)第40小節41小節のタイとバス音- - 注解のコメントメインテキスト

未削除削除すみ未削除削除すみ

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

鋤一鋤訊未削除一

未削除 なし未削除一

未削除

第62小節後半右手のリズムには市販楽譜でかなりの相違が見られる手稿に記されているリズム<譜例1Agtが計算に合わないのがその原因であるいずれにせよ第26小節にあるリズムと区別し後尾の三連音符はより軽く弾かれるべきだろう記譜の正確さという点ではく譜例lBgtlt譜例lCgtどちらかになるが実際の演奏は必ずしもこれらと一致しない

8〈譜例Agtj_m8〈譜例Bgtj_3〈譜例1Cgt」届

(6)第62小節のリズム- - 注解のコメントメインテキスト

譜例1A譜例1C譜例1B譜例1A譜例1A譜例1B譜例1A譜例1A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例1Agtの形になっている

副一釧一社なし へ

um二

第62小節冒頭のペダル記号と第64小節にあるペダルをキャンセルする記-162-

号はドビュッシーにより初版校正の際に初めて加筆された第64小節のキャンセル記号はオリジナルエディションの1930年頃の版から消滅している理由は不明だがドビュッシー死後の事であり作曲者の指示でないことは確実であるペダルをキャンセルする記号は第64小節の冒頭ではなく小節のほぼ中央

下に瞥かれている第63小節で最後の和音c-eが第64小節にはいった時点でペダルも踏みかえ左手の休符を尊重する演奏をよく耳にするがこれが果たして作曲者ドビュッシーの意図した奏法かどうかは不明である

(7)第62小節64小節のペダル指示メインテキスト62小節のみ6264小節6264小節なし

62小節のみなし

(6264小節)(6264小節)

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

幽礼別なし

手稿にはないがドビュッシーによって初版楽譜に加筆された音楽之友社版と春秋社版ではここに限らずオリジナルではないペダルが常時印刷されているが春秋社版には特に脚注が添えられている

3)野をわたる風初版校正稿の第53小節4拍目にはドビュッシーによって=(デイミヌエンド)が書き加えられたが印刷には至らなかった第51小節の=(クレシェンド)と対応する重要な強弱記号だが印刷工の見落としか追加すべきである

(8)第53小節のディミヌエンド---一一一一一-三三二メインテキスト注解のコメントオ リ ジ ナ ル エ デ ィ シ ョ ン な しデ ュ ラ ン ー コ ス タ ラ 版 あ り あ り

ヘ ン レ 版 な し な しウ ィ ー ン 原 典 版 な し な しリ コ ル デ ィ 版 な しペ ー タ ー ス 版 な し な し音 楽 之 友 社 版 な し春 秋 社 版 な し

ドビュッシーによって初版校正の際に加筆された

三 一 =

四一

-161-

4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

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Page 3: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

譜表としてまとめられ個別のタイトルはそれぞれの作品の冒頭ではなく後尾に括弧に入れて表示されているタイトルが演奏者の自由な想像力のさまたげにならないようにというトヒュッシーの配慮だと言われる製これらのタイトルは作品の内容を理解するための重要な鍵となるものである1910年2月5日にドビュッシーからジャックデユラン(4)へ「前奏曲が仕上がったLesPrludessonttermings」との手銀5)がしたためられ初版はデュラン社から早くも1910年4月14日に刊行されているデュラン社から刊行された前奏曲集初版の校正はドビュッシー自身によって行われたその際ドビュッシーは手稿を底本にして制作された校正刷に多くの表情記号や強弱指示などを加筆しそれらをあらためて手稿に書き戻すという作業を行っている当初手稿に記載されていなかった100箇所以上のテンポやニュアンスに関する指示および400箇所近くの強弱に関する指示がこの段階で校正刷に書き加えられているシャープやフラットあるいはナチュラルなどの臨時記号も例外ではない楽曲の創作活動とは異質の不毛な編集作業はドビュッシーの得意とするところではなく校正済みとして完成した楽譜の中には依然として細かいミスが残されたままになっているこれらは演奏や指導の際に考慮されなければならないドビュッシーによって校正刷の時点で新たに書き加えられ手稿に書き戻

されそして実際に印刷された事項は正真正銘の作曲家の指示として扱うべきだが「追加事項が書き戻された手稿に存在しないのに楽譜に印刷されているものすなわちドビュッシーが校正刷に加筆した検証が得られないもの」あるいは「手稿に記載されているにもかかわらず出版された楽譜で抜け落ちているもの」などはこれが単に不注意によるミスなのかあるいはドビュッシーが指示した般終的な変更事項なのかの判断は微妙である1910年4月14日に発行された初版第1刷に含まれるミスプリントを校訂した初版の校言剛は1913年に発行されているここまでの編集作業にはドピュッシー自身も関わっているがその後1930年前後に再度行われた校訂はドビュッシー没後のことでありその意図および信想性が不明瞭なものも含まれているしかしこれだけの校訂作業を経ても臨時記号の抜け落ちなどがいまだに

へ一

八L 一 ダ

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散見されるのが現状である今日広く愛用されているデュラン社のオリジナルエディション(6)は作曲家が直接編集に関わった正統なる楽譜とはいえ内容の過信は禁物である

オリジナルエディション以外の市販楽譜

この現状をふまえ公開されている既存資料をもとに新しく編集された楽譜が出版されるようになった上記オリジナルエディション以外に本稿で扱うものを以下に列挙する

l)Pノ包zjdes(uvresCompletesdeClaudeDebussyS6rieIVolume5Durand-CostallatParis1985)オリジナルエディションを出版しているDurandSA社から1985年に刊行され詳しい解説と出典ソースを明示した原典版エディシオンーコスタラEdition-Costallatのシリーズ編纂寅任者はフランソワルジュールFrangoisLesureo編集資料として「手稿」「スケッチ」「印刷用校正譜」「初版楽譜」「初版楽譜の校訂版」「ヒアノロールにおけるトヒュッシーの演奏7jその他を網羅している学術研究を主眼に編纂されたもので指使いなど作曲家のオリシナルでない補足事項は原則として記入されていない(81

2)PノゼIzJdesPノゼzielwe(HenleNr383Mtinchen1986)原典版の出版については定評のあるドイツヘンレ社の楽譜エルンストーギュンターハイネマンBrnstGiinterHeinemannによって編纂された序文はフランソワルジュールFraneoisLesure指使いはハンスーマルテインテオポルトHans=MartinTheopoldによる編纂用資料は手稿と1910年に刊行された初版の楽譜

二九一

3)PF創凹desErstesHat(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)ミヒャエルシュテーゲマンMichaelStegemannが編纂しミシェル

ベロフMichelBgroffが指使いと演奏へのアドバイスをキ日当しているヘ

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ンレ版と同じく後発の原典版で手稿と1910年に発行された製版番号7686の

初版譜)を中心に精密な編纂が行われているヒアノロールから得られる情報も編纂用資料のひとつとして列挙されているがその影響はほとんど見受けられない

4)PFJudesZerUre(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)ドビュッシーの全ピアノ作品をレコードに録音しているイエルクデーム

スJ6rgDemusの編纂による楽譜編集用資料の提示や注解はないメインテキストの内容はデュラン社のオリジナルエディションとほぼ同等であるしたがってこの楽譜が提供するメリットはデームスの指使いとなる

5)PrIdesIerLjure(DebussyKlavierwerkeBandllEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)旧東ドイツのライプツィヒペータース社が刊行したドビュッシー全集の第2巻エベルハルトクレムEberhardtKlemmの編纂による編纂用資料は1910年刊行の初版楽譜および1964年にモスクワのムジカMusyka社より刊行されたドビュッシー全集に含まれている前奏曲集特に「原典版」とは標傍していない『帆』および『パックの踊り」において部分的ではあるが悲意的に3段の大譜表に書き換えられているところがある

6)『前奏曲第1集』(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)日本におけるフランス音楽の大家安川加壽子の編纂による楽譜安川女史の考えによるヘタル使用法がメインテキストに印刷されている01またドビユッシーが使用したフランス語の楽語がすべて適切な日本語に邦訳されており初心者にとっては大きな助けとなるが原典版としての価値は薄いメインテキストは一部の変更11)をのぞきデュラン社のオリジナルエディションに準拠している

三ー

7)『ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷

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春秋社1996)日本のピアノ音楽教育界でその刊行(1961)以来広く使用されてきた井

口基成編集校訂の楽譜原典版としての価値は薄いが日本国内ではいまだに愛用者が多い楽譜である

タイトルの背景

前奏曲にはトヒュッシーによってつけられたタイトルが明示されていざツそれぞれの作品の最後に括弧つきで印刷されているもののこれらのタイトルが何を意味しドビュッシーがそこにどのようなイメージを投影していたかを知ることは学習者また指導者にとって不可欠であるこれらの作品にアプローチする際のイメージについて考えてみたい

l)デルフイの踊り子DαseusesdeDeiesデルフィはギリシャの古都の名で太陽音楽言葉健康その他のネII1であるアポロの神託で有名である大きな柱の装飾として彫られた3人のバッカスの女祭司の祭礼の踊りの彫刻がパリのルーブル美術館に展示されていた神に仕える3人の女性がハープシストルム(3とフルートのゆるやかなリズムにのって踊る様子が印象的なこの彫刻そのものあるいはその複製大きな写真またはエッチングよりドビュッシーが受けたイメージが音に変換されている「神に捧げられた芳香が重々しく霞のように漂う新田の神秘な物陰に運命を夢見る瞑想的な髪が目には見えないものの現(うつつ)に憩うてい』1「その響きはやわらかく宗教的緊張感をもつものでしたそこからほうふつする浮彫りの像は舞い姫よりもむしろ巫女を思わせるものがありまし勘というドビュッシーと直接の親交があったピアニストアルフレッド

(1カルトー(19とマルグリットロンのメッセージを引用しておく

(一一一一)2)帆VOes 一 一 一 一 一 一 一 一 - 一 一 一 一

フランス語の題名『Voiles」は『帆』と邦訳されているコルトーの伝え

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る「明るく輝く港に休息しているいく艘かの小舟その帆がやわらかにはためき帆をはらませる微風に導かれて白い翼をひろげ愛撫する海の上を日の沈む水平線の方へと遁走する11あるいはロンによる「これは海に浮かぶ数隻の小舟の非物質的イメージなのですい」というメッセージもその正当性を裏付けているしかし「ヴオワール」という単語の意味にはもうひとつ「ヴェール」という意味があることも見逃してはならないトヒュッシーの友人であったコルトーの従兄弟エドガーヴァレーズEdgardVareseが作曲者自身から聞きだしたところによるとこの小品のイメージはパリで成功をおさめたアメリカ生れの女性ダンサーロイーフラー(ロワフュレール)LoieFullerが踊る際にまとった透きとおったヴェールのひるがえる様子がもとになっているという(2)いずれにも共通しているのは「空気の流れによってゆれ動く布地」のイメージである船の帆は風に「ハタハタと」なびくものでありドビュッシーの音楽によって表現されているような動き方はしないだろうその意味で「ダンサーのヴェール」のほうがより適切と思われる

3)野をわたる風LeUetfhmsI(zpme8世紀にハリで活躍した詩人台本作家シャルルシモンファウァ_Wの楽劇「宮廷のニネットNinettealacour」の第2幕第8景にあるニネットのアリエッタの冒頭の一節「hellipleventdanslaplainesuspendsonhaleine」の一節が題名に用いられているこのテキストはポールヴェルレーヌ例の詩『やるせない夢心地Cestlextaselangoureusejのもとになったものですでに1883年3月ドビュッシーの歌曲集『忘れられた歌Ariettesoubliees』第1曲として作曲されているここで表現されている風は「こっそりと逃れるようにそして素早く短く

刈った草の上を滑り潅木の茂みにまといからまり生垣の髪を乱し時折は朝方の若々しい情熱を含んだ雰囲気の中にもっと荒々しい息吹でもって萌え出てきた小麦を長大な潮騒のようになびきそよがせ劉風であり「収稚と風になびく草を〈中略〉《牡山羊のような突き上げ》のような紺

(一一一一一)

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であるヨーロッパの乾燥した大気と大地とが感じられる

4)音と香りは夕暮れの大気にただようLeSSOrlSetleSP(Wi7zStOlet 一 一 I Ⅱ 4 ー ー I 一 一 一 q 一 一 一 一 一 - - 1 1 ー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 - 1 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

dαsj(zirdusoirアジアのマレー(マライ)Malay燭にその源を発する「パントウムスタ

鰯イルformedepantoum」と呼ばれる作詩法にほぼ準じた形で創作されたシャルルボードレールの詩集『悪の華Fleursdumal」に含まれる『夕べのしらべHarmoniedusoirj3行目のテキストが題名となっているドビュッシーの音楽は特にパントウムスタイルになっていないこのボードレールの詩は1889年1月ドビュッシーによって歌曲『ボードレールの五つの詩CinqpobmesdeBaudelairej2曲目として作曲されている「これは夕暮れの悩ましい心の動揺である匂いは大気の愛撫の中に漂い

雑多な振動音を更けゆく穏やかな夜が寄せ集めそしてボードレールの詩句の意味するところ倒にとどまるとすれば《物憂い眩量(めまい)》なのでありそこではゆえもなく心うらぶれる剛「ホートレール的苦悩がみちている官能でふくらんだ贈物のようなものです夜の高鳴りの心を乱す魅力この世の束の間の幸福のものうさ明日なき陶酔への渇望なのです(31という官能的な雰囲気に満ちた作品である

5)アナカプリの丘Leco伽sdAαcqprjアナカプリはナポリの近くの島カプリ島にある町の名前であるロンによると「ドビュッシーがイタリアへ旅行した際の思い出が音楽となっておりナホリをめぐる様々な雰囲気が音楽になっているlsquo1というのだが作品が生れる上で直接のインスピレーションとなった事柄は不明であるアナカプリ産ワインのボトルのラベルに印刷されていた絵がそのきっかけになったという説もある一方アクセルムンタ(ミュント)AxelMuntheの小説『アナカプリ』を読んでの印象であるという考察も存在する「タランテラの活気づいたリズムが民衆的なメロディーのリフレインの悠

長さに巻きつき恋の叙情的旋律(カンティレーナ)の甘美でありきたりなノスタルジアが素早いフルートの疲れを知らない鋭い活気によって傷つけ

(一一一一一一)

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ldquoられるあまりにも青い空の振動に激しく溶け合う」「タランテラ舞曲が網の目のように交錯してく中略>その踊りは悪魔のように熱狂し僧院の錨の呼び声は辛辣に響きそのときまさに糖霊のようにのんびりと恋を歌うすばらしい素朴な民謡が湧き上がってくるのです吋6)雪の上の足跡Despqss[jqejge

一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 』 B 一 一 一 一 一 一 一 ー ー ー ー ー

ドビュッシーがどこからこの作品で表現されているイメージを得たかは不明であるモーリスルブラン岡の同名の探偵小説(37)がその題材であるという説からアンリボルドー(30の小説『足跡の上の雪Laneigesurlespasj

がそれにあたるなど諸説がいりみだれている作品がかもし出すイメージは明確でドビュッシー自身も楽譜に「このリズムは凍りついた悲哀のこもった風景のような感じを出さねばならないCerythmedoitavoirlavaleursonoredunfonddepaysagetristeetglacg」「愛情のこもったかなしい哀悼のようにCommeuntendreettristeregret」との指示を書いている「もはや存在しない幸福の想い出を悩ましげに喚ぴさます《lというもの悲しい響きの作品である7)西風の見たものαqIJqUILIeUentdOuest- 一 面『 -ハンスクリステイアンアンデルセンの物語『天国の庭Lejardindu

paradis」の中で西風が自分の見たものを語る場面が基本になっていると考えられる一方ドビュッシーはパーシーシェリー倒作の『西風への頌詩OdetotheWestWind』のフェリックスラップF61ixRabbeによる仏語訳『LodeauVentdOuest』も読んでいた模様であるヨーロッパに住む人間にとっての「西風」とは大西洋からの季節風であり強大な風力を伴って吹き荒れるいわば嵐の風でありその様子が音の怒涛となって表現されている

三四一 三

8)亜麻色の髪の少女L(zFieauclieUede

賦墓夛蒟瓢賑盲蕨カョラー意ホーテーリーカ閲の『古代詩集Pomesantiques」に収録されている『シャンソンエコセーズChansonsgcossaises」一

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の4番目の詩がもとになっているドビュッシーはまだ20歳の頃(1882)この詩を歌曲として作曲し親交のあったマリーーブランシュヴァニエ夫人に献呈しているが歌曲と前奏曲の間に音楽的な関連は見られない前奏曲第1集の初版楽譜は1910年4月14日に刊行されているがこの曲のみ単独でルフイガロLeFigaro誌の付録として初版刊行よりわずか2週間後の4月30日に再刊行されたその際のタイトルは『LaFilleauxYeuxdeLin亜麻色の瞳の少女」となっているがフランス語で「髪」は「cheveux」「瞳(目)」は「yeuX」(共に複数形)と似ておりこれが単なる誤植かあるいはドビュッシーの意思によるものかどうかは不明であるところで亜麻色とはどんな色なのだろうか亜麻は植物の一種でこの繊維を使ってアサ布地やリネンが作られる染色前の色はオフホワイトからベージュにかけてのものだろうこの色の髪とは淡い金髪淡黄色あるいは茶色でも明るい色調のものを指すラテン系の血が流れるフランス人の毛髪は比較的濃い一般にブルネットといわれている色(濃い栗色)が普通である「亜麻色の髪の少女」とはラテン系ではないアングロサクソン系一スコットランドあたりの可憐で清純な俗世間に毒されていない少女をイメージしたものといえるだろうロンがその著書の中で「ドビュッシーがルコントドリルの『スコットランドのシャンソン」を音楽になおしたもので打と述べているがトヒュッシーとの会話中何らかの形で「スコットランド」に触れられたと想像できる他方亜麻色とはやはり亜麻を原料として作られるアマニ油の色つまり茶色であるという説も存在するこちらの説に従えば「亜麻色の瞳の少女」も可能性として充分考えられる範鴫にはいる

9)さえぎられたセレナードLassectrsectαdejterrompue穐言弱二赫兀稽薬万謝江そ箙葱斯シの雰囲気がここ

でも多分に感じられるがその原点となるべき事柄の由来は不明であるコルトーによると「これはゴヤの絵にある夜のいたずらっぽい幻想であって一人のフィアンセriovioの臆病な情熱閉ざされた窓の下で彼が歌う愛の歌その歌をさえぎる常ならぬ音や隣の小路を通り過ぎる学生の群におび

三打一

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えたり憤慨したりする感情のときめきをいらだったスペイン風のそり身な線をもったキターのリスムに乗せて表現しているlsquo3というマヌエルデファリャ脚の説によるとここには花で飾られた窓の奥に隠れている美しい女性の好意を得ようとギターを持って対時する二人の男性歌手の様子だという6110)沈める寺Lαの城をd『qleegloutie

副惹7r-房ず編醜葬蒔亮の想い出Souvenirsdenfanceetdejeunesse」(1883)に含まれているフランスブルターニュ地方の伝説がもとになっているその内容は「波の下に呪われた眠りをまどろむイスYsの町倒にある寺院がときおり霧の深い朝に朝日と共に透明な大洋の底そして長い年月の奥底から徐々に浮かび出てくる鐘が鳴り司祭たちの歌が聞こえるついでその幻影はあらためて静穏な海の下に消え去る」というものである

1l)パックの踊りLaDαsedePuch - 例 -ウイリアムシェークスピアの『真夏の夜の夢AMidsummerNights

Dream」第2幕第1場に『パックの踊り』のシーンがあるドビュッシーはシェークスピアに惹かれ「お気に召すままAsYouLikelt」や『リア王TrueChronicleHistoryoftheLifeandDeathofKingRear」なども音楽の題材として扱っているが1908年に出版された本の中にあるアーサー(アルテュール)ラッカムArthurRackhamが描いた挿絵に刺激を与えられたらしいラディアード(リュディアール)キプリングRudyardKipling作の物語『ハック』がこの楽曲のもとになったという説も存在するlsquo1「パック」は妖箱の名前だがそのユーモアに富んだ軽々とした動きや

妖精の王オベロンの角笛の響きが音楽で表現されている

(一二一ハ) 12)ミンストレルMistreJs『辻音楽師』と邦訳されることもあるミンストレルとは街から街へと楽

器を弾きながら日銭を稼ぐ道化師のグループのことである白人が身振りも

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真似ながら黒人の音楽を演奏するのが芸のひとつだったドビュッシーは『子供の領分ChildrensCornerj(1908)でも同様な音

楽『ゴリウオーグのケークウオークGolliwoggsCakewalk」を創作しているがケークウオークとは北米の黒人奴隷の踊る伝統的なダンスであるこのリズムはジャズの先駆として1900年頃ヨーロッパに伝わりミュージックホールの雰囲気とあいまってパリでも大流行したドビュッシーが1905年の夏を過ごしたドーバー海峡に面したイギリスの町イーストボーンEastbourneのグランドホテル前でのアトラクションの印象がこの作品のもとになっているという説もある

市販楽譜のテキスト内容に関する諸問題

今日ではデュラン社から引き続き刊行されているオリジナルエディション以外にも各種の市販楽譜を購入できる初版楽譜と手稿との間に存在する多くの相違点は編纂者の考えるランキングに沿って選別され「メインテキスト内で反映されるもの」「メインテキストの脚注として印刷されるもの」あるいは「注解として一覧掲載されるもの」にまとめられるなお原典版の楽譜でも指使いその他を付加して制作する場合が多いがこれら作曲家のオリジナルではないものは視覚的にオリジナルのものと区別できるように工夫されている旬ドビュッシーの前奏曲第1集における手稿とオリジナルエディションとの

相違は微細なものまで含めると数量的にもかなりなものとなるまた手稿オリジナルエディションどちらにも準拠しないエラーも散見される本稿ではあくまでも「演奏と指導のためのリファレンス」という見地から中でも重要度が高いと思われるものを中心に考察を進めていきたい

メトロノームの指示第1集全12曲のうち8曲田にドビュッシーによるメトロノーム指示があるのに比較して第2集ではただ1曲『ヒースの茂る荒地』のみにつけられている1915年10月9日にドビュッシーがジャックデュランにあてた手紙の

三七L一=

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中で「メトロノーム指示は書いたところでどうせ[初めの]1小節にしか効果がないVoussavezmonopinionsurlesmouvementsmetronomiquesilssontjustespendantunemesure」と述べていることからも彼自身こういったメトロノーム指定の効力と拘束力をあまり信じていなかったようだ

ドビユッシー特有の記号ドビュッシーの作品を演奏する上でドビュッシー特有の記譜上の特徴を

知ることも大切であるたとえば「hellip」というマークは(Cgdezhelliphellipなど)アゴーギクの変化一リタルダンドあるいはアッチェレランドその他一一が終結する場所を示すのみで「」が同時にブレスや一時休止を意味することはないブレスが必要な場合にはドビュッシーは「」「」その他の記号を使用している

原典と市販楽譜の相違点市販楽譜を比較してみるとその内容にはかなりの相違があるそれらのうち音楽的にも重要で違いを知っておくべきと思われるものを以下に掲載する表の中でグレーの表示になっているところは楽譜のメインテキスト内(いわゆる「譜面」のこと)で適正な処理がされているものである「注解」あるいはそれに準ずる編纂情報はデュランーコスタラ版ヘンレ版ウィーン原典版およびペータース版にしか掲載されていない御なお音名はドイツ音名を使用するしたがってBbは日本音名の変ロ音

Hhはロ音を意味する音の高さの表示については下図を参照されたい

SubkOnlmKOnlmigrOSScKlcincCingCSlriChCnciZlvcigcSIxiChcncidrigCSiliChCnC c昼

に一就一一騨岬翫耀管Ⅵ8 immgcsmchcnc

D一rーーlsquo一の一口ロ一色lsquo-

一鬘〆彗豊ン篁管一一 一 一 i ( 4 1 o ) i

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80lsquo回ldquo幻α一口z C 1 H C 1 H 1 C 蹄 c h c U h 8 ザ I F ザ 鼎 c 』 h 4 1 c S

三八一

- 1 65 -

l)デルフイの踊り子第5小節最後の和音は四分音符それに対して第10小節では二分音符となっているが第10小節の二分音符はドビュッシーの手稿では第5小節と同じく四分音符であるしかし手稿の第10小節と11小節の間の小節線上方に自筆で(34)と記載されていることからドビュッシーは第9~10小節を44として創作したと思われるよって二分音符が妥当だろうしかし第4~6小節と第9~l1小節の流れは酷似しており第10小節が34として処理される可能性(最後の和音を四分音符として処理する)も皆無ではない

(1)第10小節最後の和音の音価- - - - - - - ー - - - メインテキスト

二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は四分音符

辿軸薊なし

第16小節4拍目上声部の和音(後打ちの八分音符)は手稿ではc2_d2_c3だが市販楽譜でC2_C3になっているものがあるd2が加筆されるべきだろうなおこの和音に関しては後述「ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項も参照されたい

(2)第16小節4拍目上声部の和音一 一 三 一 注解のコメント-

キC{c{CCCC

-ナー2-2一一一一

ン唖一C-CCCC

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

鋤一型鋤 1

なし

三九hellip手稿はc2_d2-cミウイーン原典版に関しては別の不備がある

ウィーン原典版ではこの和音にドビュッシーが初版校正の際に追記した左手cl-dの音が欠落している

- 1 6 4 -

2)帆(ヴェール)第4小節の最後三つの16分音符には第13小節と同じくスラーに加えてスタッカート(ポルタート)が必要である手稿に記載されている

(3)第4小節のポルタートー ー 一 一 一 一 一 ー - - -

メインテキストなしありありありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

鋤一剛訊なし

手稿の第33小節冒頭に「aTempo」が記載されている追記されるべきである

(4)第33小節のaTempo- - - - - - - - - -

メインテキストなしありなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

副一札一鋤なし

第41小節のバスlBおよび第40小節の同音との間にかけられているタイは手稿になくミスプリントと思われる初版の楽譜で第41小節から新しい段になっているのが原因で校正の際に見落とされたと思われる当初は第41小節にこの不要な二分音符のバスがタイなしで印刷されていたが後日行われた版の組替え時に小節の割り付けが変更されその際にこの音が削除されるのではなく出版社の独断で第40小節からのタイが加筆されてしまった(四)

- 1 63 -

(5)第40小節41小節のタイとバス音- - 注解のコメントメインテキスト

未削除削除すみ未削除削除すみ

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

鋤一鋤訊未削除一

未削除 なし未削除一

未削除

第62小節後半右手のリズムには市販楽譜でかなりの相違が見られる手稿に記されているリズム<譜例1Agtが計算に合わないのがその原因であるいずれにせよ第26小節にあるリズムと区別し後尾の三連音符はより軽く弾かれるべきだろう記譜の正確さという点ではく譜例lBgtlt譜例lCgtどちらかになるが実際の演奏は必ずしもこれらと一致しない

8〈譜例Agtj_m8〈譜例Bgtj_3〈譜例1Cgt」届

(6)第62小節のリズム- - 注解のコメントメインテキスト

譜例1A譜例1C譜例1B譜例1A譜例1A譜例1B譜例1A譜例1A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例1Agtの形になっている

副一釧一社なし へ

um二

第62小節冒頭のペダル記号と第64小節にあるペダルをキャンセルする記-162-

号はドビュッシーにより初版校正の際に初めて加筆された第64小節のキャンセル記号はオリジナルエディションの1930年頃の版から消滅している理由は不明だがドビュッシー死後の事であり作曲者の指示でないことは確実であるペダルをキャンセルする記号は第64小節の冒頭ではなく小節のほぼ中央

下に瞥かれている第63小節で最後の和音c-eが第64小節にはいった時点でペダルも踏みかえ左手の休符を尊重する演奏をよく耳にするがこれが果たして作曲者ドビュッシーの意図した奏法かどうかは不明である

(7)第62小節64小節のペダル指示メインテキスト62小節のみ6264小節6264小節なし

62小節のみなし

(6264小節)(6264小節)

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

幽礼別なし

手稿にはないがドビュッシーによって初版楽譜に加筆された音楽之友社版と春秋社版ではここに限らずオリジナルではないペダルが常時印刷されているが春秋社版には特に脚注が添えられている

3)野をわたる風初版校正稿の第53小節4拍目にはドビュッシーによって=(デイミヌエンド)が書き加えられたが印刷には至らなかった第51小節の=(クレシェンド)と対応する重要な強弱記号だが印刷工の見落としか追加すべきである

(8)第53小節のディミヌエンド---一一一一一-三三二メインテキスト注解のコメントオ リ ジ ナ ル エ デ ィ シ ョ ン な しデ ュ ラ ン ー コ ス タ ラ 版 あ り あ り

ヘ ン レ 版 な し な しウ ィ ー ン 原 典 版 な し な しリ コ ル デ ィ 版 な しペ ー タ ー ス 版 な し な し音 楽 之 友 社 版 な し春 秋 社 版 な し

ドビュッシーによって初版校正の際に加筆された

三 一 =

四一

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4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 4: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

散見されるのが現状である今日広く愛用されているデュラン社のオリジナルエディション(6)は作曲家が直接編集に関わった正統なる楽譜とはいえ内容の過信は禁物である

オリジナルエディション以外の市販楽譜

この現状をふまえ公開されている既存資料をもとに新しく編集された楽譜が出版されるようになった上記オリジナルエディション以外に本稿で扱うものを以下に列挙する

l)Pノ包zjdes(uvresCompletesdeClaudeDebussyS6rieIVolume5Durand-CostallatParis1985)オリジナルエディションを出版しているDurandSA社から1985年に刊行され詳しい解説と出典ソースを明示した原典版エディシオンーコスタラEdition-Costallatのシリーズ編纂寅任者はフランソワルジュールFrangoisLesureo編集資料として「手稿」「スケッチ」「印刷用校正譜」「初版楽譜」「初版楽譜の校訂版」「ヒアノロールにおけるトヒュッシーの演奏7jその他を網羅している学術研究を主眼に編纂されたもので指使いなど作曲家のオリシナルでない補足事項は原則として記入されていない(81

2)PノゼIzJdesPノゼzielwe(HenleNr383Mtinchen1986)原典版の出版については定評のあるドイツヘンレ社の楽譜エルンストーギュンターハイネマンBrnstGiinterHeinemannによって編纂された序文はフランソワルジュールFraneoisLesure指使いはハンスーマルテインテオポルトHans=MartinTheopoldによる編纂用資料は手稿と1910年に刊行された初版の楽譜

二九一

3)PF創凹desErstesHat(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)ミヒャエルシュテーゲマンMichaelStegemannが編纂しミシェル

ベロフMichelBgroffが指使いと演奏へのアドバイスをキ日当しているヘ

- 1 7 4 -

ンレ版と同じく後発の原典版で手稿と1910年に発行された製版番号7686の

初版譜)を中心に精密な編纂が行われているヒアノロールから得られる情報も編纂用資料のひとつとして列挙されているがその影響はほとんど見受けられない

4)PFJudesZerUre(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)ドビュッシーの全ピアノ作品をレコードに録音しているイエルクデーム

スJ6rgDemusの編纂による楽譜編集用資料の提示や注解はないメインテキストの内容はデュラン社のオリジナルエディションとほぼ同等であるしたがってこの楽譜が提供するメリットはデームスの指使いとなる

5)PrIdesIerLjure(DebussyKlavierwerkeBandllEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)旧東ドイツのライプツィヒペータース社が刊行したドビュッシー全集の第2巻エベルハルトクレムEberhardtKlemmの編纂による編纂用資料は1910年刊行の初版楽譜および1964年にモスクワのムジカMusyka社より刊行されたドビュッシー全集に含まれている前奏曲集特に「原典版」とは標傍していない『帆』および『パックの踊り」において部分的ではあるが悲意的に3段の大譜表に書き換えられているところがある

6)『前奏曲第1集』(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)日本におけるフランス音楽の大家安川加壽子の編纂による楽譜安川女史の考えによるヘタル使用法がメインテキストに印刷されている01またドビユッシーが使用したフランス語の楽語がすべて適切な日本語に邦訳されており初心者にとっては大きな助けとなるが原典版としての価値は薄いメインテキストは一部の変更11)をのぞきデュラン社のオリジナルエディションに準拠している

三ー

7)『ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷

-173-

春秋社1996)日本のピアノ音楽教育界でその刊行(1961)以来広く使用されてきた井

口基成編集校訂の楽譜原典版としての価値は薄いが日本国内ではいまだに愛用者が多い楽譜である

タイトルの背景

前奏曲にはトヒュッシーによってつけられたタイトルが明示されていざツそれぞれの作品の最後に括弧つきで印刷されているもののこれらのタイトルが何を意味しドビュッシーがそこにどのようなイメージを投影していたかを知ることは学習者また指導者にとって不可欠であるこれらの作品にアプローチする際のイメージについて考えてみたい

l)デルフイの踊り子DαseusesdeDeiesデルフィはギリシャの古都の名で太陽音楽言葉健康その他のネII1であるアポロの神託で有名である大きな柱の装飾として彫られた3人のバッカスの女祭司の祭礼の踊りの彫刻がパリのルーブル美術館に展示されていた神に仕える3人の女性がハープシストルム(3とフルートのゆるやかなリズムにのって踊る様子が印象的なこの彫刻そのものあるいはその複製大きな写真またはエッチングよりドビュッシーが受けたイメージが音に変換されている「神に捧げられた芳香が重々しく霞のように漂う新田の神秘な物陰に運命を夢見る瞑想的な髪が目には見えないものの現(うつつ)に憩うてい』1「その響きはやわらかく宗教的緊張感をもつものでしたそこからほうふつする浮彫りの像は舞い姫よりもむしろ巫女を思わせるものがありまし勘というドビュッシーと直接の親交があったピアニストアルフレッド

(1カルトー(19とマルグリットロンのメッセージを引用しておく

(一一一一)2)帆VOes 一 一 一 一 一 一 一 一 - 一 一 一 一

フランス語の題名『Voiles」は『帆』と邦訳されているコルトーの伝え

- 1 7 2 -

る「明るく輝く港に休息しているいく艘かの小舟その帆がやわらかにはためき帆をはらませる微風に導かれて白い翼をひろげ愛撫する海の上を日の沈む水平線の方へと遁走する11あるいはロンによる「これは海に浮かぶ数隻の小舟の非物質的イメージなのですい」というメッセージもその正当性を裏付けているしかし「ヴオワール」という単語の意味にはもうひとつ「ヴェール」という意味があることも見逃してはならないトヒュッシーの友人であったコルトーの従兄弟エドガーヴァレーズEdgardVareseが作曲者自身から聞きだしたところによるとこの小品のイメージはパリで成功をおさめたアメリカ生れの女性ダンサーロイーフラー(ロワフュレール)LoieFullerが踊る際にまとった透きとおったヴェールのひるがえる様子がもとになっているという(2)いずれにも共通しているのは「空気の流れによってゆれ動く布地」のイメージである船の帆は風に「ハタハタと」なびくものでありドビュッシーの音楽によって表現されているような動き方はしないだろうその意味で「ダンサーのヴェール」のほうがより適切と思われる

3)野をわたる風LeUetfhmsI(zpme8世紀にハリで活躍した詩人台本作家シャルルシモンファウァ_Wの楽劇「宮廷のニネットNinettealacour」の第2幕第8景にあるニネットのアリエッタの冒頭の一節「hellipleventdanslaplainesuspendsonhaleine」の一節が題名に用いられているこのテキストはポールヴェルレーヌ例の詩『やるせない夢心地Cestlextaselangoureusejのもとになったものですでに1883年3月ドビュッシーの歌曲集『忘れられた歌Ariettesoubliees』第1曲として作曲されているここで表現されている風は「こっそりと逃れるようにそして素早く短く

刈った草の上を滑り潅木の茂みにまといからまり生垣の髪を乱し時折は朝方の若々しい情熱を含んだ雰囲気の中にもっと荒々しい息吹でもって萌え出てきた小麦を長大な潮騒のようになびきそよがせ劉風であり「収稚と風になびく草を〈中略〉《牡山羊のような突き上げ》のような紺

(一一一一一)

-171-

であるヨーロッパの乾燥した大気と大地とが感じられる

4)音と香りは夕暮れの大気にただようLeSSOrlSetleSP(Wi7zStOlet 一 一 I Ⅱ 4 ー ー I 一 一 一 q 一 一 一 一 一 - - 1 1 ー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 - 1 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

dαsj(zirdusoirアジアのマレー(マライ)Malay燭にその源を発する「パントウムスタ

鰯イルformedepantoum」と呼ばれる作詩法にほぼ準じた形で創作されたシャルルボードレールの詩集『悪の華Fleursdumal」に含まれる『夕べのしらべHarmoniedusoirj3行目のテキストが題名となっているドビュッシーの音楽は特にパントウムスタイルになっていないこのボードレールの詩は1889年1月ドビュッシーによって歌曲『ボードレールの五つの詩CinqpobmesdeBaudelairej2曲目として作曲されている「これは夕暮れの悩ましい心の動揺である匂いは大気の愛撫の中に漂い

雑多な振動音を更けゆく穏やかな夜が寄せ集めそしてボードレールの詩句の意味するところ倒にとどまるとすれば《物憂い眩量(めまい)》なのでありそこではゆえもなく心うらぶれる剛「ホートレール的苦悩がみちている官能でふくらんだ贈物のようなものです夜の高鳴りの心を乱す魅力この世の束の間の幸福のものうさ明日なき陶酔への渇望なのです(31という官能的な雰囲気に満ちた作品である

5)アナカプリの丘Leco伽sdAαcqprjアナカプリはナポリの近くの島カプリ島にある町の名前であるロンによると「ドビュッシーがイタリアへ旅行した際の思い出が音楽となっておりナホリをめぐる様々な雰囲気が音楽になっているlsquo1というのだが作品が生れる上で直接のインスピレーションとなった事柄は不明であるアナカプリ産ワインのボトルのラベルに印刷されていた絵がそのきっかけになったという説もある一方アクセルムンタ(ミュント)AxelMuntheの小説『アナカプリ』を読んでの印象であるという考察も存在する「タランテラの活気づいたリズムが民衆的なメロディーのリフレインの悠

長さに巻きつき恋の叙情的旋律(カンティレーナ)の甘美でありきたりなノスタルジアが素早いフルートの疲れを知らない鋭い活気によって傷つけ

(一一一一一一)

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ldquoられるあまりにも青い空の振動に激しく溶け合う」「タランテラ舞曲が網の目のように交錯してく中略>その踊りは悪魔のように熱狂し僧院の錨の呼び声は辛辣に響きそのときまさに糖霊のようにのんびりと恋を歌うすばらしい素朴な民謡が湧き上がってくるのです吋6)雪の上の足跡Despqss[jqejge

一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 』 B 一 一 一 一 一 一 一 ー ー ー ー ー

ドビュッシーがどこからこの作品で表現されているイメージを得たかは不明であるモーリスルブラン岡の同名の探偵小説(37)がその題材であるという説からアンリボルドー(30の小説『足跡の上の雪Laneigesurlespasj

がそれにあたるなど諸説がいりみだれている作品がかもし出すイメージは明確でドビュッシー自身も楽譜に「このリズムは凍りついた悲哀のこもった風景のような感じを出さねばならないCerythmedoitavoirlavaleursonoredunfonddepaysagetristeetglacg」「愛情のこもったかなしい哀悼のようにCommeuntendreettristeregret」との指示を書いている「もはや存在しない幸福の想い出を悩ましげに喚ぴさます《lというもの悲しい響きの作品である7)西風の見たものαqIJqUILIeUentdOuest- 一 面『 -ハンスクリステイアンアンデルセンの物語『天国の庭Lejardindu

paradis」の中で西風が自分の見たものを語る場面が基本になっていると考えられる一方ドビュッシーはパーシーシェリー倒作の『西風への頌詩OdetotheWestWind』のフェリックスラップF61ixRabbeによる仏語訳『LodeauVentdOuest』も読んでいた模様であるヨーロッパに住む人間にとっての「西風」とは大西洋からの季節風であり強大な風力を伴って吹き荒れるいわば嵐の風でありその様子が音の怒涛となって表現されている

三四一 三

8)亜麻色の髪の少女L(zFieauclieUede

賦墓夛蒟瓢賑盲蕨カョラー意ホーテーリーカ閲の『古代詩集Pomesantiques」に収録されている『シャンソンエコセーズChansonsgcossaises」一

- 1 69 -

の4番目の詩がもとになっているドビュッシーはまだ20歳の頃(1882)この詩を歌曲として作曲し親交のあったマリーーブランシュヴァニエ夫人に献呈しているが歌曲と前奏曲の間に音楽的な関連は見られない前奏曲第1集の初版楽譜は1910年4月14日に刊行されているがこの曲のみ単独でルフイガロLeFigaro誌の付録として初版刊行よりわずか2週間後の4月30日に再刊行されたその際のタイトルは『LaFilleauxYeuxdeLin亜麻色の瞳の少女」となっているがフランス語で「髪」は「cheveux」「瞳(目)」は「yeuX」(共に複数形)と似ておりこれが単なる誤植かあるいはドビュッシーの意思によるものかどうかは不明であるところで亜麻色とはどんな色なのだろうか亜麻は植物の一種でこの繊維を使ってアサ布地やリネンが作られる染色前の色はオフホワイトからベージュにかけてのものだろうこの色の髪とは淡い金髪淡黄色あるいは茶色でも明るい色調のものを指すラテン系の血が流れるフランス人の毛髪は比較的濃い一般にブルネットといわれている色(濃い栗色)が普通である「亜麻色の髪の少女」とはラテン系ではないアングロサクソン系一スコットランドあたりの可憐で清純な俗世間に毒されていない少女をイメージしたものといえるだろうロンがその著書の中で「ドビュッシーがルコントドリルの『スコットランドのシャンソン」を音楽になおしたもので打と述べているがトヒュッシーとの会話中何らかの形で「スコットランド」に触れられたと想像できる他方亜麻色とはやはり亜麻を原料として作られるアマニ油の色つまり茶色であるという説も存在するこちらの説に従えば「亜麻色の瞳の少女」も可能性として充分考えられる範鴫にはいる

9)さえぎられたセレナードLassectrsectαdejterrompue穐言弱二赫兀稽薬万謝江そ箙葱斯シの雰囲気がここ

でも多分に感じられるがその原点となるべき事柄の由来は不明であるコルトーによると「これはゴヤの絵にある夜のいたずらっぽい幻想であって一人のフィアンセriovioの臆病な情熱閉ざされた窓の下で彼が歌う愛の歌その歌をさえぎる常ならぬ音や隣の小路を通り過ぎる学生の群におび

三打一

- 1 6 8 -

えたり憤慨したりする感情のときめきをいらだったスペイン風のそり身な線をもったキターのリスムに乗せて表現しているlsquo3というマヌエルデファリャ脚の説によるとここには花で飾られた窓の奥に隠れている美しい女性の好意を得ようとギターを持って対時する二人の男性歌手の様子だという6110)沈める寺Lαの城をd『qleegloutie

副惹7r-房ず編醜葬蒔亮の想い出Souvenirsdenfanceetdejeunesse」(1883)に含まれているフランスブルターニュ地方の伝説がもとになっているその内容は「波の下に呪われた眠りをまどろむイスYsの町倒にある寺院がときおり霧の深い朝に朝日と共に透明な大洋の底そして長い年月の奥底から徐々に浮かび出てくる鐘が鳴り司祭たちの歌が聞こえるついでその幻影はあらためて静穏な海の下に消え去る」というものである

1l)パックの踊りLaDαsedePuch - 例 -ウイリアムシェークスピアの『真夏の夜の夢AMidsummerNights

Dream」第2幕第1場に『パックの踊り』のシーンがあるドビュッシーはシェークスピアに惹かれ「お気に召すままAsYouLikelt」や『リア王TrueChronicleHistoryoftheLifeandDeathofKingRear」なども音楽の題材として扱っているが1908年に出版された本の中にあるアーサー(アルテュール)ラッカムArthurRackhamが描いた挿絵に刺激を与えられたらしいラディアード(リュディアール)キプリングRudyardKipling作の物語『ハック』がこの楽曲のもとになったという説も存在するlsquo1「パック」は妖箱の名前だがそのユーモアに富んだ軽々とした動きや

妖精の王オベロンの角笛の響きが音楽で表現されている

(一二一ハ) 12)ミンストレルMistreJs『辻音楽師』と邦訳されることもあるミンストレルとは街から街へと楽

器を弾きながら日銭を稼ぐ道化師のグループのことである白人が身振りも

-167 -

真似ながら黒人の音楽を演奏するのが芸のひとつだったドビュッシーは『子供の領分ChildrensCornerj(1908)でも同様な音

楽『ゴリウオーグのケークウオークGolliwoggsCakewalk」を創作しているがケークウオークとは北米の黒人奴隷の踊る伝統的なダンスであるこのリズムはジャズの先駆として1900年頃ヨーロッパに伝わりミュージックホールの雰囲気とあいまってパリでも大流行したドビュッシーが1905年の夏を過ごしたドーバー海峡に面したイギリスの町イーストボーンEastbourneのグランドホテル前でのアトラクションの印象がこの作品のもとになっているという説もある

市販楽譜のテキスト内容に関する諸問題

今日ではデュラン社から引き続き刊行されているオリジナルエディション以外にも各種の市販楽譜を購入できる初版楽譜と手稿との間に存在する多くの相違点は編纂者の考えるランキングに沿って選別され「メインテキスト内で反映されるもの」「メインテキストの脚注として印刷されるもの」あるいは「注解として一覧掲載されるもの」にまとめられるなお原典版の楽譜でも指使いその他を付加して制作する場合が多いがこれら作曲家のオリジナルではないものは視覚的にオリジナルのものと区別できるように工夫されている旬ドビュッシーの前奏曲第1集における手稿とオリジナルエディションとの

相違は微細なものまで含めると数量的にもかなりなものとなるまた手稿オリジナルエディションどちらにも準拠しないエラーも散見される本稿ではあくまでも「演奏と指導のためのリファレンス」という見地から中でも重要度が高いと思われるものを中心に考察を進めていきたい

メトロノームの指示第1集全12曲のうち8曲田にドビュッシーによるメトロノーム指示があるのに比較して第2集ではただ1曲『ヒースの茂る荒地』のみにつけられている1915年10月9日にドビュッシーがジャックデュランにあてた手紙の

三七L一=

- 1 66 -

中で「メトロノーム指示は書いたところでどうせ[初めの]1小節にしか効果がないVoussavezmonopinionsurlesmouvementsmetronomiquesilssontjustespendantunemesure」と述べていることからも彼自身こういったメトロノーム指定の効力と拘束力をあまり信じていなかったようだ

ドビユッシー特有の記号ドビュッシーの作品を演奏する上でドビュッシー特有の記譜上の特徴を

知ることも大切であるたとえば「hellip」というマークは(Cgdezhelliphellipなど)アゴーギクの変化一リタルダンドあるいはアッチェレランドその他一一が終結する場所を示すのみで「」が同時にブレスや一時休止を意味することはないブレスが必要な場合にはドビュッシーは「」「」その他の記号を使用している

原典と市販楽譜の相違点市販楽譜を比較してみるとその内容にはかなりの相違があるそれらのうち音楽的にも重要で違いを知っておくべきと思われるものを以下に掲載する表の中でグレーの表示になっているところは楽譜のメインテキスト内(いわゆる「譜面」のこと)で適正な処理がされているものである「注解」あるいはそれに準ずる編纂情報はデュランーコスタラ版ヘンレ版ウィーン原典版およびペータース版にしか掲載されていない御なお音名はドイツ音名を使用するしたがってBbは日本音名の変ロ音

Hhはロ音を意味する音の高さの表示については下図を参照されたい

SubkOnlmKOnlmigrOSScKlcincCingCSlriChCnciZlvcigcSIxiChcncidrigCSiliChCnC c昼

に一就一一騨岬翫耀管Ⅵ8 immgcsmchcnc

D一rーーlsquo一の一口ロ一色lsquo-

一鬘〆彗豊ン篁管一一 一 一 i ( 4 1 o ) i

曇== 一

謬篶戸Iざ6

80lsquo回ldquo幻α一口z C 1 H C 1 H 1 C 蹄 c h c U h 8 ザ I F ザ 鼎 c 』 h 4 1 c S

三八一

- 1 65 -

l)デルフイの踊り子第5小節最後の和音は四分音符それに対して第10小節では二分音符となっているが第10小節の二分音符はドビュッシーの手稿では第5小節と同じく四分音符であるしかし手稿の第10小節と11小節の間の小節線上方に自筆で(34)と記載されていることからドビュッシーは第9~10小節を44として創作したと思われるよって二分音符が妥当だろうしかし第4~6小節と第9~l1小節の流れは酷似しており第10小節が34として処理される可能性(最後の和音を四分音符として処理する)も皆無ではない

(1)第10小節最後の和音の音価- - - - - - - ー - - - メインテキスト

二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は四分音符

辿軸薊なし

第16小節4拍目上声部の和音(後打ちの八分音符)は手稿ではc2_d2_c3だが市販楽譜でC2_C3になっているものがあるd2が加筆されるべきだろうなおこの和音に関しては後述「ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項も参照されたい

(2)第16小節4拍目上声部の和音一 一 三 一 注解のコメント-

キC{c{CCCC

-ナー2-2一一一一

ン唖一C-CCCC

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

鋤一型鋤 1

なし

三九hellip手稿はc2_d2-cミウイーン原典版に関しては別の不備がある

ウィーン原典版ではこの和音にドビュッシーが初版校正の際に追記した左手cl-dの音が欠落している

- 1 6 4 -

2)帆(ヴェール)第4小節の最後三つの16分音符には第13小節と同じくスラーに加えてスタッカート(ポルタート)が必要である手稿に記載されている

(3)第4小節のポルタートー ー 一 一 一 一 一 ー - - -

メインテキストなしありありありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

鋤一剛訊なし

手稿の第33小節冒頭に「aTempo」が記載されている追記されるべきである

(4)第33小節のaTempo- - - - - - - - - -

メインテキストなしありなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

副一札一鋤なし

第41小節のバスlBおよび第40小節の同音との間にかけられているタイは手稿になくミスプリントと思われる初版の楽譜で第41小節から新しい段になっているのが原因で校正の際に見落とされたと思われる当初は第41小節にこの不要な二分音符のバスがタイなしで印刷されていたが後日行われた版の組替え時に小節の割り付けが変更されその際にこの音が削除されるのではなく出版社の独断で第40小節からのタイが加筆されてしまった(四)

- 1 63 -

(5)第40小節41小節のタイとバス音- - 注解のコメントメインテキスト

未削除削除すみ未削除削除すみ

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

鋤一鋤訊未削除一

未削除 なし未削除一

未削除

第62小節後半右手のリズムには市販楽譜でかなりの相違が見られる手稿に記されているリズム<譜例1Agtが計算に合わないのがその原因であるいずれにせよ第26小節にあるリズムと区別し後尾の三連音符はより軽く弾かれるべきだろう記譜の正確さという点ではく譜例lBgtlt譜例lCgtどちらかになるが実際の演奏は必ずしもこれらと一致しない

8〈譜例Agtj_m8〈譜例Bgtj_3〈譜例1Cgt」届

(6)第62小節のリズム- - 注解のコメントメインテキスト

譜例1A譜例1C譜例1B譜例1A譜例1A譜例1B譜例1A譜例1A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例1Agtの形になっている

副一釧一社なし へ

um二

第62小節冒頭のペダル記号と第64小節にあるペダルをキャンセルする記-162-

号はドビュッシーにより初版校正の際に初めて加筆された第64小節のキャンセル記号はオリジナルエディションの1930年頃の版から消滅している理由は不明だがドビュッシー死後の事であり作曲者の指示でないことは確実であるペダルをキャンセルする記号は第64小節の冒頭ではなく小節のほぼ中央

下に瞥かれている第63小節で最後の和音c-eが第64小節にはいった時点でペダルも踏みかえ左手の休符を尊重する演奏をよく耳にするがこれが果たして作曲者ドビュッシーの意図した奏法かどうかは不明である

(7)第62小節64小節のペダル指示メインテキスト62小節のみ6264小節6264小節なし

62小節のみなし

(6264小節)(6264小節)

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

幽礼別なし

手稿にはないがドビュッシーによって初版楽譜に加筆された音楽之友社版と春秋社版ではここに限らずオリジナルではないペダルが常時印刷されているが春秋社版には特に脚注が添えられている

3)野をわたる風初版校正稿の第53小節4拍目にはドビュッシーによって=(デイミヌエンド)が書き加えられたが印刷には至らなかった第51小節の=(クレシェンド)と対応する重要な強弱記号だが印刷工の見落としか追加すべきである

(8)第53小節のディミヌエンド---一一一一一-三三二メインテキスト注解のコメントオ リ ジ ナ ル エ デ ィ シ ョ ン な しデ ュ ラ ン ー コ ス タ ラ 版 あ り あ り

ヘ ン レ 版 な し な しウ ィ ー ン 原 典 版 な し な しリ コ ル デ ィ 版 な しペ ー タ ー ス 版 な し な し音 楽 之 友 社 版 な し春 秋 社 版 な し

ドビュッシーによって初版校正の際に加筆された

三 一 =

四一

-161-

4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 5: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

ンレ版と同じく後発の原典版で手稿と1910年に発行された製版番号7686の

初版譜)を中心に精密な編纂が行われているヒアノロールから得られる情報も編纂用資料のひとつとして列挙されているがその影響はほとんど見受けられない

4)PFJudesZerUre(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)ドビュッシーの全ピアノ作品をレコードに録音しているイエルクデーム

スJ6rgDemusの編纂による楽譜編集用資料の提示や注解はないメインテキストの内容はデュラン社のオリジナルエディションとほぼ同等であるしたがってこの楽譜が提供するメリットはデームスの指使いとなる

5)PrIdesIerLjure(DebussyKlavierwerkeBandllEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)旧東ドイツのライプツィヒペータース社が刊行したドビュッシー全集の第2巻エベルハルトクレムEberhardtKlemmの編纂による編纂用資料は1910年刊行の初版楽譜および1964年にモスクワのムジカMusyka社より刊行されたドビュッシー全集に含まれている前奏曲集特に「原典版」とは標傍していない『帆』および『パックの踊り」において部分的ではあるが悲意的に3段の大譜表に書き換えられているところがある

6)『前奏曲第1集』(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)日本におけるフランス音楽の大家安川加壽子の編纂による楽譜安川女史の考えによるヘタル使用法がメインテキストに印刷されている01またドビユッシーが使用したフランス語の楽語がすべて適切な日本語に邦訳されており初心者にとっては大きな助けとなるが原典版としての価値は薄いメインテキストは一部の変更11)をのぞきデュラン社のオリジナルエディションに準拠している

三ー

7)『ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷

-173-

春秋社1996)日本のピアノ音楽教育界でその刊行(1961)以来広く使用されてきた井

口基成編集校訂の楽譜原典版としての価値は薄いが日本国内ではいまだに愛用者が多い楽譜である

タイトルの背景

前奏曲にはトヒュッシーによってつけられたタイトルが明示されていざツそれぞれの作品の最後に括弧つきで印刷されているもののこれらのタイトルが何を意味しドビュッシーがそこにどのようなイメージを投影していたかを知ることは学習者また指導者にとって不可欠であるこれらの作品にアプローチする際のイメージについて考えてみたい

l)デルフイの踊り子DαseusesdeDeiesデルフィはギリシャの古都の名で太陽音楽言葉健康その他のネII1であるアポロの神託で有名である大きな柱の装飾として彫られた3人のバッカスの女祭司の祭礼の踊りの彫刻がパリのルーブル美術館に展示されていた神に仕える3人の女性がハープシストルム(3とフルートのゆるやかなリズムにのって踊る様子が印象的なこの彫刻そのものあるいはその複製大きな写真またはエッチングよりドビュッシーが受けたイメージが音に変換されている「神に捧げられた芳香が重々しく霞のように漂う新田の神秘な物陰に運命を夢見る瞑想的な髪が目には見えないものの現(うつつ)に憩うてい』1「その響きはやわらかく宗教的緊張感をもつものでしたそこからほうふつする浮彫りの像は舞い姫よりもむしろ巫女を思わせるものがありまし勘というドビュッシーと直接の親交があったピアニストアルフレッド

(1カルトー(19とマルグリットロンのメッセージを引用しておく

(一一一一)2)帆VOes 一 一 一 一 一 一 一 一 - 一 一 一 一

フランス語の題名『Voiles」は『帆』と邦訳されているコルトーの伝え

- 1 7 2 -

る「明るく輝く港に休息しているいく艘かの小舟その帆がやわらかにはためき帆をはらませる微風に導かれて白い翼をひろげ愛撫する海の上を日の沈む水平線の方へと遁走する11あるいはロンによる「これは海に浮かぶ数隻の小舟の非物質的イメージなのですい」というメッセージもその正当性を裏付けているしかし「ヴオワール」という単語の意味にはもうひとつ「ヴェール」という意味があることも見逃してはならないトヒュッシーの友人であったコルトーの従兄弟エドガーヴァレーズEdgardVareseが作曲者自身から聞きだしたところによるとこの小品のイメージはパリで成功をおさめたアメリカ生れの女性ダンサーロイーフラー(ロワフュレール)LoieFullerが踊る際にまとった透きとおったヴェールのひるがえる様子がもとになっているという(2)いずれにも共通しているのは「空気の流れによってゆれ動く布地」のイメージである船の帆は風に「ハタハタと」なびくものでありドビュッシーの音楽によって表現されているような動き方はしないだろうその意味で「ダンサーのヴェール」のほうがより適切と思われる

3)野をわたる風LeUetfhmsI(zpme8世紀にハリで活躍した詩人台本作家シャルルシモンファウァ_Wの楽劇「宮廷のニネットNinettealacour」の第2幕第8景にあるニネットのアリエッタの冒頭の一節「hellipleventdanslaplainesuspendsonhaleine」の一節が題名に用いられているこのテキストはポールヴェルレーヌ例の詩『やるせない夢心地Cestlextaselangoureusejのもとになったものですでに1883年3月ドビュッシーの歌曲集『忘れられた歌Ariettesoubliees』第1曲として作曲されているここで表現されている風は「こっそりと逃れるようにそして素早く短く

刈った草の上を滑り潅木の茂みにまといからまり生垣の髪を乱し時折は朝方の若々しい情熱を含んだ雰囲気の中にもっと荒々しい息吹でもって萌え出てきた小麦を長大な潮騒のようになびきそよがせ劉風であり「収稚と風になびく草を〈中略〉《牡山羊のような突き上げ》のような紺

(一一一一一)

-171-

であるヨーロッパの乾燥した大気と大地とが感じられる

4)音と香りは夕暮れの大気にただようLeSSOrlSetleSP(Wi7zStOlet 一 一 I Ⅱ 4 ー ー I 一 一 一 q 一 一 一 一 一 - - 1 1 ー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 - 1 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

dαsj(zirdusoirアジアのマレー(マライ)Malay燭にその源を発する「パントウムスタ

鰯イルformedepantoum」と呼ばれる作詩法にほぼ準じた形で創作されたシャルルボードレールの詩集『悪の華Fleursdumal」に含まれる『夕べのしらべHarmoniedusoirj3行目のテキストが題名となっているドビュッシーの音楽は特にパントウムスタイルになっていないこのボードレールの詩は1889年1月ドビュッシーによって歌曲『ボードレールの五つの詩CinqpobmesdeBaudelairej2曲目として作曲されている「これは夕暮れの悩ましい心の動揺である匂いは大気の愛撫の中に漂い

雑多な振動音を更けゆく穏やかな夜が寄せ集めそしてボードレールの詩句の意味するところ倒にとどまるとすれば《物憂い眩量(めまい)》なのでありそこではゆえもなく心うらぶれる剛「ホートレール的苦悩がみちている官能でふくらんだ贈物のようなものです夜の高鳴りの心を乱す魅力この世の束の間の幸福のものうさ明日なき陶酔への渇望なのです(31という官能的な雰囲気に満ちた作品である

5)アナカプリの丘Leco伽sdAαcqprjアナカプリはナポリの近くの島カプリ島にある町の名前であるロンによると「ドビュッシーがイタリアへ旅行した際の思い出が音楽となっておりナホリをめぐる様々な雰囲気が音楽になっているlsquo1というのだが作品が生れる上で直接のインスピレーションとなった事柄は不明であるアナカプリ産ワインのボトルのラベルに印刷されていた絵がそのきっかけになったという説もある一方アクセルムンタ(ミュント)AxelMuntheの小説『アナカプリ』を読んでの印象であるという考察も存在する「タランテラの活気づいたリズムが民衆的なメロディーのリフレインの悠

長さに巻きつき恋の叙情的旋律(カンティレーナ)の甘美でありきたりなノスタルジアが素早いフルートの疲れを知らない鋭い活気によって傷つけ

(一一一一一一)

-170-

ldquoられるあまりにも青い空の振動に激しく溶け合う」「タランテラ舞曲が網の目のように交錯してく中略>その踊りは悪魔のように熱狂し僧院の錨の呼び声は辛辣に響きそのときまさに糖霊のようにのんびりと恋を歌うすばらしい素朴な民謡が湧き上がってくるのです吋6)雪の上の足跡Despqss[jqejge

一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 』 B 一 一 一 一 一 一 一 ー ー ー ー ー

ドビュッシーがどこからこの作品で表現されているイメージを得たかは不明であるモーリスルブラン岡の同名の探偵小説(37)がその題材であるという説からアンリボルドー(30の小説『足跡の上の雪Laneigesurlespasj

がそれにあたるなど諸説がいりみだれている作品がかもし出すイメージは明確でドビュッシー自身も楽譜に「このリズムは凍りついた悲哀のこもった風景のような感じを出さねばならないCerythmedoitavoirlavaleursonoredunfonddepaysagetristeetglacg」「愛情のこもったかなしい哀悼のようにCommeuntendreettristeregret」との指示を書いている「もはや存在しない幸福の想い出を悩ましげに喚ぴさます《lというもの悲しい響きの作品である7)西風の見たものαqIJqUILIeUentdOuest- 一 面『 -ハンスクリステイアンアンデルセンの物語『天国の庭Lejardindu

paradis」の中で西風が自分の見たものを語る場面が基本になっていると考えられる一方ドビュッシーはパーシーシェリー倒作の『西風への頌詩OdetotheWestWind』のフェリックスラップF61ixRabbeによる仏語訳『LodeauVentdOuest』も読んでいた模様であるヨーロッパに住む人間にとっての「西風」とは大西洋からの季節風であり強大な風力を伴って吹き荒れるいわば嵐の風でありその様子が音の怒涛となって表現されている

三四一 三

8)亜麻色の髪の少女L(zFieauclieUede

賦墓夛蒟瓢賑盲蕨カョラー意ホーテーリーカ閲の『古代詩集Pomesantiques」に収録されている『シャンソンエコセーズChansonsgcossaises」一

- 1 69 -

の4番目の詩がもとになっているドビュッシーはまだ20歳の頃(1882)この詩を歌曲として作曲し親交のあったマリーーブランシュヴァニエ夫人に献呈しているが歌曲と前奏曲の間に音楽的な関連は見られない前奏曲第1集の初版楽譜は1910年4月14日に刊行されているがこの曲のみ単独でルフイガロLeFigaro誌の付録として初版刊行よりわずか2週間後の4月30日に再刊行されたその際のタイトルは『LaFilleauxYeuxdeLin亜麻色の瞳の少女」となっているがフランス語で「髪」は「cheveux」「瞳(目)」は「yeuX」(共に複数形)と似ておりこれが単なる誤植かあるいはドビュッシーの意思によるものかどうかは不明であるところで亜麻色とはどんな色なのだろうか亜麻は植物の一種でこの繊維を使ってアサ布地やリネンが作られる染色前の色はオフホワイトからベージュにかけてのものだろうこの色の髪とは淡い金髪淡黄色あるいは茶色でも明るい色調のものを指すラテン系の血が流れるフランス人の毛髪は比較的濃い一般にブルネットといわれている色(濃い栗色)が普通である「亜麻色の髪の少女」とはラテン系ではないアングロサクソン系一スコットランドあたりの可憐で清純な俗世間に毒されていない少女をイメージしたものといえるだろうロンがその著書の中で「ドビュッシーがルコントドリルの『スコットランドのシャンソン」を音楽になおしたもので打と述べているがトヒュッシーとの会話中何らかの形で「スコットランド」に触れられたと想像できる他方亜麻色とはやはり亜麻を原料として作られるアマニ油の色つまり茶色であるという説も存在するこちらの説に従えば「亜麻色の瞳の少女」も可能性として充分考えられる範鴫にはいる

9)さえぎられたセレナードLassectrsectαdejterrompue穐言弱二赫兀稽薬万謝江そ箙葱斯シの雰囲気がここ

でも多分に感じられるがその原点となるべき事柄の由来は不明であるコルトーによると「これはゴヤの絵にある夜のいたずらっぽい幻想であって一人のフィアンセriovioの臆病な情熱閉ざされた窓の下で彼が歌う愛の歌その歌をさえぎる常ならぬ音や隣の小路を通り過ぎる学生の群におび

三打一

- 1 6 8 -

えたり憤慨したりする感情のときめきをいらだったスペイン風のそり身な線をもったキターのリスムに乗せて表現しているlsquo3というマヌエルデファリャ脚の説によるとここには花で飾られた窓の奥に隠れている美しい女性の好意を得ようとギターを持って対時する二人の男性歌手の様子だという6110)沈める寺Lαの城をd『qleegloutie

副惹7r-房ず編醜葬蒔亮の想い出Souvenirsdenfanceetdejeunesse」(1883)に含まれているフランスブルターニュ地方の伝説がもとになっているその内容は「波の下に呪われた眠りをまどろむイスYsの町倒にある寺院がときおり霧の深い朝に朝日と共に透明な大洋の底そして長い年月の奥底から徐々に浮かび出てくる鐘が鳴り司祭たちの歌が聞こえるついでその幻影はあらためて静穏な海の下に消え去る」というものである

1l)パックの踊りLaDαsedePuch - 例 -ウイリアムシェークスピアの『真夏の夜の夢AMidsummerNights

Dream」第2幕第1場に『パックの踊り』のシーンがあるドビュッシーはシェークスピアに惹かれ「お気に召すままAsYouLikelt」や『リア王TrueChronicleHistoryoftheLifeandDeathofKingRear」なども音楽の題材として扱っているが1908年に出版された本の中にあるアーサー(アルテュール)ラッカムArthurRackhamが描いた挿絵に刺激を与えられたらしいラディアード(リュディアール)キプリングRudyardKipling作の物語『ハック』がこの楽曲のもとになったという説も存在するlsquo1「パック」は妖箱の名前だがそのユーモアに富んだ軽々とした動きや

妖精の王オベロンの角笛の響きが音楽で表現されている

(一二一ハ) 12)ミンストレルMistreJs『辻音楽師』と邦訳されることもあるミンストレルとは街から街へと楽

器を弾きながら日銭を稼ぐ道化師のグループのことである白人が身振りも

-167 -

真似ながら黒人の音楽を演奏するのが芸のひとつだったドビュッシーは『子供の領分ChildrensCornerj(1908)でも同様な音

楽『ゴリウオーグのケークウオークGolliwoggsCakewalk」を創作しているがケークウオークとは北米の黒人奴隷の踊る伝統的なダンスであるこのリズムはジャズの先駆として1900年頃ヨーロッパに伝わりミュージックホールの雰囲気とあいまってパリでも大流行したドビュッシーが1905年の夏を過ごしたドーバー海峡に面したイギリスの町イーストボーンEastbourneのグランドホテル前でのアトラクションの印象がこの作品のもとになっているという説もある

市販楽譜のテキスト内容に関する諸問題

今日ではデュラン社から引き続き刊行されているオリジナルエディション以外にも各種の市販楽譜を購入できる初版楽譜と手稿との間に存在する多くの相違点は編纂者の考えるランキングに沿って選別され「メインテキスト内で反映されるもの」「メインテキストの脚注として印刷されるもの」あるいは「注解として一覧掲載されるもの」にまとめられるなお原典版の楽譜でも指使いその他を付加して制作する場合が多いがこれら作曲家のオリジナルではないものは視覚的にオリジナルのものと区別できるように工夫されている旬ドビュッシーの前奏曲第1集における手稿とオリジナルエディションとの

相違は微細なものまで含めると数量的にもかなりなものとなるまた手稿オリジナルエディションどちらにも準拠しないエラーも散見される本稿ではあくまでも「演奏と指導のためのリファレンス」という見地から中でも重要度が高いと思われるものを中心に考察を進めていきたい

メトロノームの指示第1集全12曲のうち8曲田にドビュッシーによるメトロノーム指示があるのに比較して第2集ではただ1曲『ヒースの茂る荒地』のみにつけられている1915年10月9日にドビュッシーがジャックデュランにあてた手紙の

三七L一=

- 1 66 -

中で「メトロノーム指示は書いたところでどうせ[初めの]1小節にしか効果がないVoussavezmonopinionsurlesmouvementsmetronomiquesilssontjustespendantunemesure」と述べていることからも彼自身こういったメトロノーム指定の効力と拘束力をあまり信じていなかったようだ

ドビユッシー特有の記号ドビュッシーの作品を演奏する上でドビュッシー特有の記譜上の特徴を

知ることも大切であるたとえば「hellip」というマークは(Cgdezhelliphellipなど)アゴーギクの変化一リタルダンドあるいはアッチェレランドその他一一が終結する場所を示すのみで「」が同時にブレスや一時休止を意味することはないブレスが必要な場合にはドビュッシーは「」「」その他の記号を使用している

原典と市販楽譜の相違点市販楽譜を比較してみるとその内容にはかなりの相違があるそれらのうち音楽的にも重要で違いを知っておくべきと思われるものを以下に掲載する表の中でグレーの表示になっているところは楽譜のメインテキスト内(いわゆる「譜面」のこと)で適正な処理がされているものである「注解」あるいはそれに準ずる編纂情報はデュランーコスタラ版ヘンレ版ウィーン原典版およびペータース版にしか掲載されていない御なお音名はドイツ音名を使用するしたがってBbは日本音名の変ロ音

Hhはロ音を意味する音の高さの表示については下図を参照されたい

SubkOnlmKOnlmigrOSScKlcincCingCSlriChCnciZlvcigcSIxiChcncidrigCSiliChCnC c昼

に一就一一騨岬翫耀管Ⅵ8 immgcsmchcnc

D一rーーlsquo一の一口ロ一色lsquo-

一鬘〆彗豊ン篁管一一 一 一 i ( 4 1 o ) i

曇== 一

謬篶戸Iざ6

80lsquo回ldquo幻α一口z C 1 H C 1 H 1 C 蹄 c h c U h 8 ザ I F ザ 鼎 c 』 h 4 1 c S

三八一

- 1 65 -

l)デルフイの踊り子第5小節最後の和音は四分音符それに対して第10小節では二分音符となっているが第10小節の二分音符はドビュッシーの手稿では第5小節と同じく四分音符であるしかし手稿の第10小節と11小節の間の小節線上方に自筆で(34)と記載されていることからドビュッシーは第9~10小節を44として創作したと思われるよって二分音符が妥当だろうしかし第4~6小節と第9~l1小節の流れは酷似しており第10小節が34として処理される可能性(最後の和音を四分音符として処理する)も皆無ではない

(1)第10小節最後の和音の音価- - - - - - - ー - - - メインテキスト

二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は四分音符

辿軸薊なし

第16小節4拍目上声部の和音(後打ちの八分音符)は手稿ではc2_d2_c3だが市販楽譜でC2_C3になっているものがあるd2が加筆されるべきだろうなおこの和音に関しては後述「ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項も参照されたい

(2)第16小節4拍目上声部の和音一 一 三 一 注解のコメント-

キC{c{CCCC

-ナー2-2一一一一

ン唖一C-CCCC

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

鋤一型鋤 1

なし

三九hellip手稿はc2_d2-cミウイーン原典版に関しては別の不備がある

ウィーン原典版ではこの和音にドビュッシーが初版校正の際に追記した左手cl-dの音が欠落している

- 1 6 4 -

2)帆(ヴェール)第4小節の最後三つの16分音符には第13小節と同じくスラーに加えてスタッカート(ポルタート)が必要である手稿に記載されている

(3)第4小節のポルタートー ー 一 一 一 一 一 ー - - -

メインテキストなしありありありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

鋤一剛訊なし

手稿の第33小節冒頭に「aTempo」が記載されている追記されるべきである

(4)第33小節のaTempo- - - - - - - - - -

メインテキストなしありなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

副一札一鋤なし

第41小節のバスlBおよび第40小節の同音との間にかけられているタイは手稿になくミスプリントと思われる初版の楽譜で第41小節から新しい段になっているのが原因で校正の際に見落とされたと思われる当初は第41小節にこの不要な二分音符のバスがタイなしで印刷されていたが後日行われた版の組替え時に小節の割り付けが変更されその際にこの音が削除されるのではなく出版社の独断で第40小節からのタイが加筆されてしまった(四)

- 1 63 -

(5)第40小節41小節のタイとバス音- - 注解のコメントメインテキスト

未削除削除すみ未削除削除すみ

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

鋤一鋤訊未削除一

未削除 なし未削除一

未削除

第62小節後半右手のリズムには市販楽譜でかなりの相違が見られる手稿に記されているリズム<譜例1Agtが計算に合わないのがその原因であるいずれにせよ第26小節にあるリズムと区別し後尾の三連音符はより軽く弾かれるべきだろう記譜の正確さという点ではく譜例lBgtlt譜例lCgtどちらかになるが実際の演奏は必ずしもこれらと一致しない

8〈譜例Agtj_m8〈譜例Bgtj_3〈譜例1Cgt」届

(6)第62小節のリズム- - 注解のコメントメインテキスト

譜例1A譜例1C譜例1B譜例1A譜例1A譜例1B譜例1A譜例1A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例1Agtの形になっている

副一釧一社なし へ

um二

第62小節冒頭のペダル記号と第64小節にあるペダルをキャンセルする記-162-

号はドビュッシーにより初版校正の際に初めて加筆された第64小節のキャンセル記号はオリジナルエディションの1930年頃の版から消滅している理由は不明だがドビュッシー死後の事であり作曲者の指示でないことは確実であるペダルをキャンセルする記号は第64小節の冒頭ではなく小節のほぼ中央

下に瞥かれている第63小節で最後の和音c-eが第64小節にはいった時点でペダルも踏みかえ左手の休符を尊重する演奏をよく耳にするがこれが果たして作曲者ドビュッシーの意図した奏法かどうかは不明である

(7)第62小節64小節のペダル指示メインテキスト62小節のみ6264小節6264小節なし

62小節のみなし

(6264小節)(6264小節)

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

幽礼別なし

手稿にはないがドビュッシーによって初版楽譜に加筆された音楽之友社版と春秋社版ではここに限らずオリジナルではないペダルが常時印刷されているが春秋社版には特に脚注が添えられている

3)野をわたる風初版校正稿の第53小節4拍目にはドビュッシーによって=(デイミヌエンド)が書き加えられたが印刷には至らなかった第51小節の=(クレシェンド)と対応する重要な強弱記号だが印刷工の見落としか追加すべきである

(8)第53小節のディミヌエンド---一一一一一-三三二メインテキスト注解のコメントオ リ ジ ナ ル エ デ ィ シ ョ ン な しデ ュ ラ ン ー コ ス タ ラ 版 あ り あ り

ヘ ン レ 版 な し な しウ ィ ー ン 原 典 版 な し な しリ コ ル デ ィ 版 な しペ ー タ ー ス 版 な し な し音 楽 之 友 社 版 な し春 秋 社 版 な し

ドビュッシーによって初版校正の際に加筆された

三 一 =

四一

-161-

4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

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手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

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手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

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手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

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校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

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手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

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手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

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ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 6: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

春秋社1996)日本のピアノ音楽教育界でその刊行(1961)以来広く使用されてきた井

口基成編集校訂の楽譜原典版としての価値は薄いが日本国内ではいまだに愛用者が多い楽譜である

タイトルの背景

前奏曲にはトヒュッシーによってつけられたタイトルが明示されていざツそれぞれの作品の最後に括弧つきで印刷されているもののこれらのタイトルが何を意味しドビュッシーがそこにどのようなイメージを投影していたかを知ることは学習者また指導者にとって不可欠であるこれらの作品にアプローチする際のイメージについて考えてみたい

l)デルフイの踊り子DαseusesdeDeiesデルフィはギリシャの古都の名で太陽音楽言葉健康その他のネII1であるアポロの神託で有名である大きな柱の装飾として彫られた3人のバッカスの女祭司の祭礼の踊りの彫刻がパリのルーブル美術館に展示されていた神に仕える3人の女性がハープシストルム(3とフルートのゆるやかなリズムにのって踊る様子が印象的なこの彫刻そのものあるいはその複製大きな写真またはエッチングよりドビュッシーが受けたイメージが音に変換されている「神に捧げられた芳香が重々しく霞のように漂う新田の神秘な物陰に運命を夢見る瞑想的な髪が目には見えないものの現(うつつ)に憩うてい』1「その響きはやわらかく宗教的緊張感をもつものでしたそこからほうふつする浮彫りの像は舞い姫よりもむしろ巫女を思わせるものがありまし勘というドビュッシーと直接の親交があったピアニストアルフレッド

(1カルトー(19とマルグリットロンのメッセージを引用しておく

(一一一一)2)帆VOes 一 一 一 一 一 一 一 一 - 一 一 一 一

フランス語の題名『Voiles」は『帆』と邦訳されているコルトーの伝え

- 1 7 2 -

る「明るく輝く港に休息しているいく艘かの小舟その帆がやわらかにはためき帆をはらませる微風に導かれて白い翼をひろげ愛撫する海の上を日の沈む水平線の方へと遁走する11あるいはロンによる「これは海に浮かぶ数隻の小舟の非物質的イメージなのですい」というメッセージもその正当性を裏付けているしかし「ヴオワール」という単語の意味にはもうひとつ「ヴェール」という意味があることも見逃してはならないトヒュッシーの友人であったコルトーの従兄弟エドガーヴァレーズEdgardVareseが作曲者自身から聞きだしたところによるとこの小品のイメージはパリで成功をおさめたアメリカ生れの女性ダンサーロイーフラー(ロワフュレール)LoieFullerが踊る際にまとった透きとおったヴェールのひるがえる様子がもとになっているという(2)いずれにも共通しているのは「空気の流れによってゆれ動く布地」のイメージである船の帆は風に「ハタハタと」なびくものでありドビュッシーの音楽によって表現されているような動き方はしないだろうその意味で「ダンサーのヴェール」のほうがより適切と思われる

3)野をわたる風LeUetfhmsI(zpme8世紀にハリで活躍した詩人台本作家シャルルシモンファウァ_Wの楽劇「宮廷のニネットNinettealacour」の第2幕第8景にあるニネットのアリエッタの冒頭の一節「hellipleventdanslaplainesuspendsonhaleine」の一節が題名に用いられているこのテキストはポールヴェルレーヌ例の詩『やるせない夢心地Cestlextaselangoureusejのもとになったものですでに1883年3月ドビュッシーの歌曲集『忘れられた歌Ariettesoubliees』第1曲として作曲されているここで表現されている風は「こっそりと逃れるようにそして素早く短く

刈った草の上を滑り潅木の茂みにまといからまり生垣の髪を乱し時折は朝方の若々しい情熱を含んだ雰囲気の中にもっと荒々しい息吹でもって萌え出てきた小麦を長大な潮騒のようになびきそよがせ劉風であり「収稚と風になびく草を〈中略〉《牡山羊のような突き上げ》のような紺

(一一一一一)

-171-

であるヨーロッパの乾燥した大気と大地とが感じられる

4)音と香りは夕暮れの大気にただようLeSSOrlSetleSP(Wi7zStOlet 一 一 I Ⅱ 4 ー ー I 一 一 一 q 一 一 一 一 一 - - 1 1 ー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 - 1 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

dαsj(zirdusoirアジアのマレー(マライ)Malay燭にその源を発する「パントウムスタ

鰯イルformedepantoum」と呼ばれる作詩法にほぼ準じた形で創作されたシャルルボードレールの詩集『悪の華Fleursdumal」に含まれる『夕べのしらべHarmoniedusoirj3行目のテキストが題名となっているドビュッシーの音楽は特にパントウムスタイルになっていないこのボードレールの詩は1889年1月ドビュッシーによって歌曲『ボードレールの五つの詩CinqpobmesdeBaudelairej2曲目として作曲されている「これは夕暮れの悩ましい心の動揺である匂いは大気の愛撫の中に漂い

雑多な振動音を更けゆく穏やかな夜が寄せ集めそしてボードレールの詩句の意味するところ倒にとどまるとすれば《物憂い眩量(めまい)》なのでありそこではゆえもなく心うらぶれる剛「ホートレール的苦悩がみちている官能でふくらんだ贈物のようなものです夜の高鳴りの心を乱す魅力この世の束の間の幸福のものうさ明日なき陶酔への渇望なのです(31という官能的な雰囲気に満ちた作品である

5)アナカプリの丘Leco伽sdAαcqprjアナカプリはナポリの近くの島カプリ島にある町の名前であるロンによると「ドビュッシーがイタリアへ旅行した際の思い出が音楽となっておりナホリをめぐる様々な雰囲気が音楽になっているlsquo1というのだが作品が生れる上で直接のインスピレーションとなった事柄は不明であるアナカプリ産ワインのボトルのラベルに印刷されていた絵がそのきっかけになったという説もある一方アクセルムンタ(ミュント)AxelMuntheの小説『アナカプリ』を読んでの印象であるという考察も存在する「タランテラの活気づいたリズムが民衆的なメロディーのリフレインの悠

長さに巻きつき恋の叙情的旋律(カンティレーナ)の甘美でありきたりなノスタルジアが素早いフルートの疲れを知らない鋭い活気によって傷つけ

(一一一一一一)

-170-

ldquoられるあまりにも青い空の振動に激しく溶け合う」「タランテラ舞曲が網の目のように交錯してく中略>その踊りは悪魔のように熱狂し僧院の錨の呼び声は辛辣に響きそのときまさに糖霊のようにのんびりと恋を歌うすばらしい素朴な民謡が湧き上がってくるのです吋6)雪の上の足跡Despqss[jqejge

一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 』 B 一 一 一 一 一 一 一 ー ー ー ー ー

ドビュッシーがどこからこの作品で表現されているイメージを得たかは不明であるモーリスルブラン岡の同名の探偵小説(37)がその題材であるという説からアンリボルドー(30の小説『足跡の上の雪Laneigesurlespasj

がそれにあたるなど諸説がいりみだれている作品がかもし出すイメージは明確でドビュッシー自身も楽譜に「このリズムは凍りついた悲哀のこもった風景のような感じを出さねばならないCerythmedoitavoirlavaleursonoredunfonddepaysagetristeetglacg」「愛情のこもったかなしい哀悼のようにCommeuntendreettristeregret」との指示を書いている「もはや存在しない幸福の想い出を悩ましげに喚ぴさます《lというもの悲しい響きの作品である7)西風の見たものαqIJqUILIeUentdOuest- 一 面『 -ハンスクリステイアンアンデルセンの物語『天国の庭Lejardindu

paradis」の中で西風が自分の見たものを語る場面が基本になっていると考えられる一方ドビュッシーはパーシーシェリー倒作の『西風への頌詩OdetotheWestWind』のフェリックスラップF61ixRabbeによる仏語訳『LodeauVentdOuest』も読んでいた模様であるヨーロッパに住む人間にとっての「西風」とは大西洋からの季節風であり強大な風力を伴って吹き荒れるいわば嵐の風でありその様子が音の怒涛となって表現されている

三四一 三

8)亜麻色の髪の少女L(zFieauclieUede

賦墓夛蒟瓢賑盲蕨カョラー意ホーテーリーカ閲の『古代詩集Pomesantiques」に収録されている『シャンソンエコセーズChansonsgcossaises」一

- 1 69 -

の4番目の詩がもとになっているドビュッシーはまだ20歳の頃(1882)この詩を歌曲として作曲し親交のあったマリーーブランシュヴァニエ夫人に献呈しているが歌曲と前奏曲の間に音楽的な関連は見られない前奏曲第1集の初版楽譜は1910年4月14日に刊行されているがこの曲のみ単独でルフイガロLeFigaro誌の付録として初版刊行よりわずか2週間後の4月30日に再刊行されたその際のタイトルは『LaFilleauxYeuxdeLin亜麻色の瞳の少女」となっているがフランス語で「髪」は「cheveux」「瞳(目)」は「yeuX」(共に複数形)と似ておりこれが単なる誤植かあるいはドビュッシーの意思によるものかどうかは不明であるところで亜麻色とはどんな色なのだろうか亜麻は植物の一種でこの繊維を使ってアサ布地やリネンが作られる染色前の色はオフホワイトからベージュにかけてのものだろうこの色の髪とは淡い金髪淡黄色あるいは茶色でも明るい色調のものを指すラテン系の血が流れるフランス人の毛髪は比較的濃い一般にブルネットといわれている色(濃い栗色)が普通である「亜麻色の髪の少女」とはラテン系ではないアングロサクソン系一スコットランドあたりの可憐で清純な俗世間に毒されていない少女をイメージしたものといえるだろうロンがその著書の中で「ドビュッシーがルコントドリルの『スコットランドのシャンソン」を音楽になおしたもので打と述べているがトヒュッシーとの会話中何らかの形で「スコットランド」に触れられたと想像できる他方亜麻色とはやはり亜麻を原料として作られるアマニ油の色つまり茶色であるという説も存在するこちらの説に従えば「亜麻色の瞳の少女」も可能性として充分考えられる範鴫にはいる

9)さえぎられたセレナードLassectrsectαdejterrompue穐言弱二赫兀稽薬万謝江そ箙葱斯シの雰囲気がここ

でも多分に感じられるがその原点となるべき事柄の由来は不明であるコルトーによると「これはゴヤの絵にある夜のいたずらっぽい幻想であって一人のフィアンセriovioの臆病な情熱閉ざされた窓の下で彼が歌う愛の歌その歌をさえぎる常ならぬ音や隣の小路を通り過ぎる学生の群におび

三打一

- 1 6 8 -

えたり憤慨したりする感情のときめきをいらだったスペイン風のそり身な線をもったキターのリスムに乗せて表現しているlsquo3というマヌエルデファリャ脚の説によるとここには花で飾られた窓の奥に隠れている美しい女性の好意を得ようとギターを持って対時する二人の男性歌手の様子だという6110)沈める寺Lαの城をd『qleegloutie

副惹7r-房ず編醜葬蒔亮の想い出Souvenirsdenfanceetdejeunesse」(1883)に含まれているフランスブルターニュ地方の伝説がもとになっているその内容は「波の下に呪われた眠りをまどろむイスYsの町倒にある寺院がときおり霧の深い朝に朝日と共に透明な大洋の底そして長い年月の奥底から徐々に浮かび出てくる鐘が鳴り司祭たちの歌が聞こえるついでその幻影はあらためて静穏な海の下に消え去る」というものである

1l)パックの踊りLaDαsedePuch - 例 -ウイリアムシェークスピアの『真夏の夜の夢AMidsummerNights

Dream」第2幕第1場に『パックの踊り』のシーンがあるドビュッシーはシェークスピアに惹かれ「お気に召すままAsYouLikelt」や『リア王TrueChronicleHistoryoftheLifeandDeathofKingRear」なども音楽の題材として扱っているが1908年に出版された本の中にあるアーサー(アルテュール)ラッカムArthurRackhamが描いた挿絵に刺激を与えられたらしいラディアード(リュディアール)キプリングRudyardKipling作の物語『ハック』がこの楽曲のもとになったという説も存在するlsquo1「パック」は妖箱の名前だがそのユーモアに富んだ軽々とした動きや

妖精の王オベロンの角笛の響きが音楽で表現されている

(一二一ハ) 12)ミンストレルMistreJs『辻音楽師』と邦訳されることもあるミンストレルとは街から街へと楽

器を弾きながら日銭を稼ぐ道化師のグループのことである白人が身振りも

-167 -

真似ながら黒人の音楽を演奏するのが芸のひとつだったドビュッシーは『子供の領分ChildrensCornerj(1908)でも同様な音

楽『ゴリウオーグのケークウオークGolliwoggsCakewalk」を創作しているがケークウオークとは北米の黒人奴隷の踊る伝統的なダンスであるこのリズムはジャズの先駆として1900年頃ヨーロッパに伝わりミュージックホールの雰囲気とあいまってパリでも大流行したドビュッシーが1905年の夏を過ごしたドーバー海峡に面したイギリスの町イーストボーンEastbourneのグランドホテル前でのアトラクションの印象がこの作品のもとになっているという説もある

市販楽譜のテキスト内容に関する諸問題

今日ではデュラン社から引き続き刊行されているオリジナルエディション以外にも各種の市販楽譜を購入できる初版楽譜と手稿との間に存在する多くの相違点は編纂者の考えるランキングに沿って選別され「メインテキスト内で反映されるもの」「メインテキストの脚注として印刷されるもの」あるいは「注解として一覧掲載されるもの」にまとめられるなお原典版の楽譜でも指使いその他を付加して制作する場合が多いがこれら作曲家のオリジナルではないものは視覚的にオリジナルのものと区別できるように工夫されている旬ドビュッシーの前奏曲第1集における手稿とオリジナルエディションとの

相違は微細なものまで含めると数量的にもかなりなものとなるまた手稿オリジナルエディションどちらにも準拠しないエラーも散見される本稿ではあくまでも「演奏と指導のためのリファレンス」という見地から中でも重要度が高いと思われるものを中心に考察を進めていきたい

メトロノームの指示第1集全12曲のうち8曲田にドビュッシーによるメトロノーム指示があるのに比較して第2集ではただ1曲『ヒースの茂る荒地』のみにつけられている1915年10月9日にドビュッシーがジャックデュランにあてた手紙の

三七L一=

- 1 66 -

中で「メトロノーム指示は書いたところでどうせ[初めの]1小節にしか効果がないVoussavezmonopinionsurlesmouvementsmetronomiquesilssontjustespendantunemesure」と述べていることからも彼自身こういったメトロノーム指定の効力と拘束力をあまり信じていなかったようだ

ドビユッシー特有の記号ドビュッシーの作品を演奏する上でドビュッシー特有の記譜上の特徴を

知ることも大切であるたとえば「hellip」というマークは(Cgdezhelliphellipなど)アゴーギクの変化一リタルダンドあるいはアッチェレランドその他一一が終結する場所を示すのみで「」が同時にブレスや一時休止を意味することはないブレスが必要な場合にはドビュッシーは「」「」その他の記号を使用している

原典と市販楽譜の相違点市販楽譜を比較してみるとその内容にはかなりの相違があるそれらのうち音楽的にも重要で違いを知っておくべきと思われるものを以下に掲載する表の中でグレーの表示になっているところは楽譜のメインテキスト内(いわゆる「譜面」のこと)で適正な処理がされているものである「注解」あるいはそれに準ずる編纂情報はデュランーコスタラ版ヘンレ版ウィーン原典版およびペータース版にしか掲載されていない御なお音名はドイツ音名を使用するしたがってBbは日本音名の変ロ音

Hhはロ音を意味する音の高さの表示については下図を参照されたい

SubkOnlmKOnlmigrOSScKlcincCingCSlriChCnciZlvcigcSIxiChcncidrigCSiliChCnC c昼

に一就一一騨岬翫耀管Ⅵ8 immgcsmchcnc

D一rーーlsquo一の一口ロ一色lsquo-

一鬘〆彗豊ン篁管一一 一 一 i ( 4 1 o ) i

曇== 一

謬篶戸Iざ6

80lsquo回ldquo幻α一口z C 1 H C 1 H 1 C 蹄 c h c U h 8 ザ I F ザ 鼎 c 』 h 4 1 c S

三八一

- 1 65 -

l)デルフイの踊り子第5小節最後の和音は四分音符それに対して第10小節では二分音符となっているが第10小節の二分音符はドビュッシーの手稿では第5小節と同じく四分音符であるしかし手稿の第10小節と11小節の間の小節線上方に自筆で(34)と記載されていることからドビュッシーは第9~10小節を44として創作したと思われるよって二分音符が妥当だろうしかし第4~6小節と第9~l1小節の流れは酷似しており第10小節が34として処理される可能性(最後の和音を四分音符として処理する)も皆無ではない

(1)第10小節最後の和音の音価- - - - - - - ー - - - メインテキスト

二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は四分音符

辿軸薊なし

第16小節4拍目上声部の和音(後打ちの八分音符)は手稿ではc2_d2_c3だが市販楽譜でC2_C3になっているものがあるd2が加筆されるべきだろうなおこの和音に関しては後述「ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項も参照されたい

(2)第16小節4拍目上声部の和音一 一 三 一 注解のコメント-

キC{c{CCCC

-ナー2-2一一一一

ン唖一C-CCCC

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

鋤一型鋤 1

なし

三九hellip手稿はc2_d2-cミウイーン原典版に関しては別の不備がある

ウィーン原典版ではこの和音にドビュッシーが初版校正の際に追記した左手cl-dの音が欠落している

- 1 6 4 -

2)帆(ヴェール)第4小節の最後三つの16分音符には第13小節と同じくスラーに加えてスタッカート(ポルタート)が必要である手稿に記載されている

(3)第4小節のポルタートー ー 一 一 一 一 一 ー - - -

メインテキストなしありありありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

鋤一剛訊なし

手稿の第33小節冒頭に「aTempo」が記載されている追記されるべきである

(4)第33小節のaTempo- - - - - - - - - -

メインテキストなしありなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

副一札一鋤なし

第41小節のバスlBおよび第40小節の同音との間にかけられているタイは手稿になくミスプリントと思われる初版の楽譜で第41小節から新しい段になっているのが原因で校正の際に見落とされたと思われる当初は第41小節にこの不要な二分音符のバスがタイなしで印刷されていたが後日行われた版の組替え時に小節の割り付けが変更されその際にこの音が削除されるのではなく出版社の独断で第40小節からのタイが加筆されてしまった(四)

- 1 63 -

(5)第40小節41小節のタイとバス音- - 注解のコメントメインテキスト

未削除削除すみ未削除削除すみ

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

鋤一鋤訊未削除一

未削除 なし未削除一

未削除

第62小節後半右手のリズムには市販楽譜でかなりの相違が見られる手稿に記されているリズム<譜例1Agtが計算に合わないのがその原因であるいずれにせよ第26小節にあるリズムと区別し後尾の三連音符はより軽く弾かれるべきだろう記譜の正確さという点ではく譜例lBgtlt譜例lCgtどちらかになるが実際の演奏は必ずしもこれらと一致しない

8〈譜例Agtj_m8〈譜例Bgtj_3〈譜例1Cgt」届

(6)第62小節のリズム- - 注解のコメントメインテキスト

譜例1A譜例1C譜例1B譜例1A譜例1A譜例1B譜例1A譜例1A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例1Agtの形になっている

副一釧一社なし へ

um二

第62小節冒頭のペダル記号と第64小節にあるペダルをキャンセルする記-162-

号はドビュッシーにより初版校正の際に初めて加筆された第64小節のキャンセル記号はオリジナルエディションの1930年頃の版から消滅している理由は不明だがドビュッシー死後の事であり作曲者の指示でないことは確実であるペダルをキャンセルする記号は第64小節の冒頭ではなく小節のほぼ中央

下に瞥かれている第63小節で最後の和音c-eが第64小節にはいった時点でペダルも踏みかえ左手の休符を尊重する演奏をよく耳にするがこれが果たして作曲者ドビュッシーの意図した奏法かどうかは不明である

(7)第62小節64小節のペダル指示メインテキスト62小節のみ6264小節6264小節なし

62小節のみなし

(6264小節)(6264小節)

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

幽礼別なし

手稿にはないがドビュッシーによって初版楽譜に加筆された音楽之友社版と春秋社版ではここに限らずオリジナルではないペダルが常時印刷されているが春秋社版には特に脚注が添えられている

3)野をわたる風初版校正稿の第53小節4拍目にはドビュッシーによって=(デイミヌエンド)が書き加えられたが印刷には至らなかった第51小節の=(クレシェンド)と対応する重要な強弱記号だが印刷工の見落としか追加すべきである

(8)第53小節のディミヌエンド---一一一一一-三三二メインテキスト注解のコメントオ リ ジ ナ ル エ デ ィ シ ョ ン な しデ ュ ラ ン ー コ ス タ ラ 版 あ り あ り

ヘ ン レ 版 な し な しウ ィ ー ン 原 典 版 な し な しリ コ ル デ ィ 版 な しペ ー タ ー ス 版 な し な し音 楽 之 友 社 版 な し春 秋 社 版 な し

ドビュッシーによって初版校正の際に加筆された

三 一 =

四一

-161-

4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 7: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

る「明るく輝く港に休息しているいく艘かの小舟その帆がやわらかにはためき帆をはらませる微風に導かれて白い翼をひろげ愛撫する海の上を日の沈む水平線の方へと遁走する11あるいはロンによる「これは海に浮かぶ数隻の小舟の非物質的イメージなのですい」というメッセージもその正当性を裏付けているしかし「ヴオワール」という単語の意味にはもうひとつ「ヴェール」という意味があることも見逃してはならないトヒュッシーの友人であったコルトーの従兄弟エドガーヴァレーズEdgardVareseが作曲者自身から聞きだしたところによるとこの小品のイメージはパリで成功をおさめたアメリカ生れの女性ダンサーロイーフラー(ロワフュレール)LoieFullerが踊る際にまとった透きとおったヴェールのひるがえる様子がもとになっているという(2)いずれにも共通しているのは「空気の流れによってゆれ動く布地」のイメージである船の帆は風に「ハタハタと」なびくものでありドビュッシーの音楽によって表現されているような動き方はしないだろうその意味で「ダンサーのヴェール」のほうがより適切と思われる

3)野をわたる風LeUetfhmsI(zpme8世紀にハリで活躍した詩人台本作家シャルルシモンファウァ_Wの楽劇「宮廷のニネットNinettealacour」の第2幕第8景にあるニネットのアリエッタの冒頭の一節「hellipleventdanslaplainesuspendsonhaleine」の一節が題名に用いられているこのテキストはポールヴェルレーヌ例の詩『やるせない夢心地Cestlextaselangoureusejのもとになったものですでに1883年3月ドビュッシーの歌曲集『忘れられた歌Ariettesoubliees』第1曲として作曲されているここで表現されている風は「こっそりと逃れるようにそして素早く短く

刈った草の上を滑り潅木の茂みにまといからまり生垣の髪を乱し時折は朝方の若々しい情熱を含んだ雰囲気の中にもっと荒々しい息吹でもって萌え出てきた小麦を長大な潮騒のようになびきそよがせ劉風であり「収稚と風になびく草を〈中略〉《牡山羊のような突き上げ》のような紺

(一一一一一)

-171-

であるヨーロッパの乾燥した大気と大地とが感じられる

4)音と香りは夕暮れの大気にただようLeSSOrlSetleSP(Wi7zStOlet 一 一 I Ⅱ 4 ー ー I 一 一 一 q 一 一 一 一 一 - - 1 1 ー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 - 1 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

dαsj(zirdusoirアジアのマレー(マライ)Malay燭にその源を発する「パントウムスタ

鰯イルformedepantoum」と呼ばれる作詩法にほぼ準じた形で創作されたシャルルボードレールの詩集『悪の華Fleursdumal」に含まれる『夕べのしらべHarmoniedusoirj3行目のテキストが題名となっているドビュッシーの音楽は特にパントウムスタイルになっていないこのボードレールの詩は1889年1月ドビュッシーによって歌曲『ボードレールの五つの詩CinqpobmesdeBaudelairej2曲目として作曲されている「これは夕暮れの悩ましい心の動揺である匂いは大気の愛撫の中に漂い

雑多な振動音を更けゆく穏やかな夜が寄せ集めそしてボードレールの詩句の意味するところ倒にとどまるとすれば《物憂い眩量(めまい)》なのでありそこではゆえもなく心うらぶれる剛「ホートレール的苦悩がみちている官能でふくらんだ贈物のようなものです夜の高鳴りの心を乱す魅力この世の束の間の幸福のものうさ明日なき陶酔への渇望なのです(31という官能的な雰囲気に満ちた作品である

5)アナカプリの丘Leco伽sdAαcqprjアナカプリはナポリの近くの島カプリ島にある町の名前であるロンによると「ドビュッシーがイタリアへ旅行した際の思い出が音楽となっておりナホリをめぐる様々な雰囲気が音楽になっているlsquo1というのだが作品が生れる上で直接のインスピレーションとなった事柄は不明であるアナカプリ産ワインのボトルのラベルに印刷されていた絵がそのきっかけになったという説もある一方アクセルムンタ(ミュント)AxelMuntheの小説『アナカプリ』を読んでの印象であるという考察も存在する「タランテラの活気づいたリズムが民衆的なメロディーのリフレインの悠

長さに巻きつき恋の叙情的旋律(カンティレーナ)の甘美でありきたりなノスタルジアが素早いフルートの疲れを知らない鋭い活気によって傷つけ

(一一一一一一)

-170-

ldquoられるあまりにも青い空の振動に激しく溶け合う」「タランテラ舞曲が網の目のように交錯してく中略>その踊りは悪魔のように熱狂し僧院の錨の呼び声は辛辣に響きそのときまさに糖霊のようにのんびりと恋を歌うすばらしい素朴な民謡が湧き上がってくるのです吋6)雪の上の足跡Despqss[jqejge

一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 』 B 一 一 一 一 一 一 一 ー ー ー ー ー

ドビュッシーがどこからこの作品で表現されているイメージを得たかは不明であるモーリスルブラン岡の同名の探偵小説(37)がその題材であるという説からアンリボルドー(30の小説『足跡の上の雪Laneigesurlespasj

がそれにあたるなど諸説がいりみだれている作品がかもし出すイメージは明確でドビュッシー自身も楽譜に「このリズムは凍りついた悲哀のこもった風景のような感じを出さねばならないCerythmedoitavoirlavaleursonoredunfonddepaysagetristeetglacg」「愛情のこもったかなしい哀悼のようにCommeuntendreettristeregret」との指示を書いている「もはや存在しない幸福の想い出を悩ましげに喚ぴさます《lというもの悲しい響きの作品である7)西風の見たものαqIJqUILIeUentdOuest- 一 面『 -ハンスクリステイアンアンデルセンの物語『天国の庭Lejardindu

paradis」の中で西風が自分の見たものを語る場面が基本になっていると考えられる一方ドビュッシーはパーシーシェリー倒作の『西風への頌詩OdetotheWestWind』のフェリックスラップF61ixRabbeによる仏語訳『LodeauVentdOuest』も読んでいた模様であるヨーロッパに住む人間にとっての「西風」とは大西洋からの季節風であり強大な風力を伴って吹き荒れるいわば嵐の風でありその様子が音の怒涛となって表現されている

三四一 三

8)亜麻色の髪の少女L(zFieauclieUede

賦墓夛蒟瓢賑盲蕨カョラー意ホーテーリーカ閲の『古代詩集Pomesantiques」に収録されている『シャンソンエコセーズChansonsgcossaises」一

- 1 69 -

の4番目の詩がもとになっているドビュッシーはまだ20歳の頃(1882)この詩を歌曲として作曲し親交のあったマリーーブランシュヴァニエ夫人に献呈しているが歌曲と前奏曲の間に音楽的な関連は見られない前奏曲第1集の初版楽譜は1910年4月14日に刊行されているがこの曲のみ単独でルフイガロLeFigaro誌の付録として初版刊行よりわずか2週間後の4月30日に再刊行されたその際のタイトルは『LaFilleauxYeuxdeLin亜麻色の瞳の少女」となっているがフランス語で「髪」は「cheveux」「瞳(目)」は「yeuX」(共に複数形)と似ておりこれが単なる誤植かあるいはドビュッシーの意思によるものかどうかは不明であるところで亜麻色とはどんな色なのだろうか亜麻は植物の一種でこの繊維を使ってアサ布地やリネンが作られる染色前の色はオフホワイトからベージュにかけてのものだろうこの色の髪とは淡い金髪淡黄色あるいは茶色でも明るい色調のものを指すラテン系の血が流れるフランス人の毛髪は比較的濃い一般にブルネットといわれている色(濃い栗色)が普通である「亜麻色の髪の少女」とはラテン系ではないアングロサクソン系一スコットランドあたりの可憐で清純な俗世間に毒されていない少女をイメージしたものといえるだろうロンがその著書の中で「ドビュッシーがルコントドリルの『スコットランドのシャンソン」を音楽になおしたもので打と述べているがトヒュッシーとの会話中何らかの形で「スコットランド」に触れられたと想像できる他方亜麻色とはやはり亜麻を原料として作られるアマニ油の色つまり茶色であるという説も存在するこちらの説に従えば「亜麻色の瞳の少女」も可能性として充分考えられる範鴫にはいる

9)さえぎられたセレナードLassectrsectαdejterrompue穐言弱二赫兀稽薬万謝江そ箙葱斯シの雰囲気がここ

でも多分に感じられるがその原点となるべき事柄の由来は不明であるコルトーによると「これはゴヤの絵にある夜のいたずらっぽい幻想であって一人のフィアンセriovioの臆病な情熱閉ざされた窓の下で彼が歌う愛の歌その歌をさえぎる常ならぬ音や隣の小路を通り過ぎる学生の群におび

三打一

- 1 6 8 -

えたり憤慨したりする感情のときめきをいらだったスペイン風のそり身な線をもったキターのリスムに乗せて表現しているlsquo3というマヌエルデファリャ脚の説によるとここには花で飾られた窓の奥に隠れている美しい女性の好意を得ようとギターを持って対時する二人の男性歌手の様子だという6110)沈める寺Lαの城をd『qleegloutie

副惹7r-房ず編醜葬蒔亮の想い出Souvenirsdenfanceetdejeunesse」(1883)に含まれているフランスブルターニュ地方の伝説がもとになっているその内容は「波の下に呪われた眠りをまどろむイスYsの町倒にある寺院がときおり霧の深い朝に朝日と共に透明な大洋の底そして長い年月の奥底から徐々に浮かび出てくる鐘が鳴り司祭たちの歌が聞こえるついでその幻影はあらためて静穏な海の下に消え去る」というものである

1l)パックの踊りLaDαsedePuch - 例 -ウイリアムシェークスピアの『真夏の夜の夢AMidsummerNights

Dream」第2幕第1場に『パックの踊り』のシーンがあるドビュッシーはシェークスピアに惹かれ「お気に召すままAsYouLikelt」や『リア王TrueChronicleHistoryoftheLifeandDeathofKingRear」なども音楽の題材として扱っているが1908年に出版された本の中にあるアーサー(アルテュール)ラッカムArthurRackhamが描いた挿絵に刺激を与えられたらしいラディアード(リュディアール)キプリングRudyardKipling作の物語『ハック』がこの楽曲のもとになったという説も存在するlsquo1「パック」は妖箱の名前だがそのユーモアに富んだ軽々とした動きや

妖精の王オベロンの角笛の響きが音楽で表現されている

(一二一ハ) 12)ミンストレルMistreJs『辻音楽師』と邦訳されることもあるミンストレルとは街から街へと楽

器を弾きながら日銭を稼ぐ道化師のグループのことである白人が身振りも

-167 -

真似ながら黒人の音楽を演奏するのが芸のひとつだったドビュッシーは『子供の領分ChildrensCornerj(1908)でも同様な音

楽『ゴリウオーグのケークウオークGolliwoggsCakewalk」を創作しているがケークウオークとは北米の黒人奴隷の踊る伝統的なダンスであるこのリズムはジャズの先駆として1900年頃ヨーロッパに伝わりミュージックホールの雰囲気とあいまってパリでも大流行したドビュッシーが1905年の夏を過ごしたドーバー海峡に面したイギリスの町イーストボーンEastbourneのグランドホテル前でのアトラクションの印象がこの作品のもとになっているという説もある

市販楽譜のテキスト内容に関する諸問題

今日ではデュラン社から引き続き刊行されているオリジナルエディション以外にも各種の市販楽譜を購入できる初版楽譜と手稿との間に存在する多くの相違点は編纂者の考えるランキングに沿って選別され「メインテキスト内で反映されるもの」「メインテキストの脚注として印刷されるもの」あるいは「注解として一覧掲載されるもの」にまとめられるなお原典版の楽譜でも指使いその他を付加して制作する場合が多いがこれら作曲家のオリジナルではないものは視覚的にオリジナルのものと区別できるように工夫されている旬ドビュッシーの前奏曲第1集における手稿とオリジナルエディションとの

相違は微細なものまで含めると数量的にもかなりなものとなるまた手稿オリジナルエディションどちらにも準拠しないエラーも散見される本稿ではあくまでも「演奏と指導のためのリファレンス」という見地から中でも重要度が高いと思われるものを中心に考察を進めていきたい

メトロノームの指示第1集全12曲のうち8曲田にドビュッシーによるメトロノーム指示があるのに比較して第2集ではただ1曲『ヒースの茂る荒地』のみにつけられている1915年10月9日にドビュッシーがジャックデュランにあてた手紙の

三七L一=

- 1 66 -

中で「メトロノーム指示は書いたところでどうせ[初めの]1小節にしか効果がないVoussavezmonopinionsurlesmouvementsmetronomiquesilssontjustespendantunemesure」と述べていることからも彼自身こういったメトロノーム指定の効力と拘束力をあまり信じていなかったようだ

ドビユッシー特有の記号ドビュッシーの作品を演奏する上でドビュッシー特有の記譜上の特徴を

知ることも大切であるたとえば「hellip」というマークは(Cgdezhelliphellipなど)アゴーギクの変化一リタルダンドあるいはアッチェレランドその他一一が終結する場所を示すのみで「」が同時にブレスや一時休止を意味することはないブレスが必要な場合にはドビュッシーは「」「」その他の記号を使用している

原典と市販楽譜の相違点市販楽譜を比較してみるとその内容にはかなりの相違があるそれらのうち音楽的にも重要で違いを知っておくべきと思われるものを以下に掲載する表の中でグレーの表示になっているところは楽譜のメインテキスト内(いわゆる「譜面」のこと)で適正な処理がされているものである「注解」あるいはそれに準ずる編纂情報はデュランーコスタラ版ヘンレ版ウィーン原典版およびペータース版にしか掲載されていない御なお音名はドイツ音名を使用するしたがってBbは日本音名の変ロ音

Hhはロ音を意味する音の高さの表示については下図を参照されたい

SubkOnlmKOnlmigrOSScKlcincCingCSlriChCnciZlvcigcSIxiChcncidrigCSiliChCnC c昼

に一就一一騨岬翫耀管Ⅵ8 immgcsmchcnc

D一rーーlsquo一の一口ロ一色lsquo-

一鬘〆彗豊ン篁管一一 一 一 i ( 4 1 o ) i

曇== 一

謬篶戸Iざ6

80lsquo回ldquo幻α一口z C 1 H C 1 H 1 C 蹄 c h c U h 8 ザ I F ザ 鼎 c 』 h 4 1 c S

三八一

- 1 65 -

l)デルフイの踊り子第5小節最後の和音は四分音符それに対して第10小節では二分音符となっているが第10小節の二分音符はドビュッシーの手稿では第5小節と同じく四分音符であるしかし手稿の第10小節と11小節の間の小節線上方に自筆で(34)と記載されていることからドビュッシーは第9~10小節を44として創作したと思われるよって二分音符が妥当だろうしかし第4~6小節と第9~l1小節の流れは酷似しており第10小節が34として処理される可能性(最後の和音を四分音符として処理する)も皆無ではない

(1)第10小節最後の和音の音価- - - - - - - ー - - - メインテキスト

二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は四分音符

辿軸薊なし

第16小節4拍目上声部の和音(後打ちの八分音符)は手稿ではc2_d2_c3だが市販楽譜でC2_C3になっているものがあるd2が加筆されるべきだろうなおこの和音に関しては後述「ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項も参照されたい

(2)第16小節4拍目上声部の和音一 一 三 一 注解のコメント-

キC{c{CCCC

-ナー2-2一一一一

ン唖一C-CCCC

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

鋤一型鋤 1

なし

三九hellip手稿はc2_d2-cミウイーン原典版に関しては別の不備がある

ウィーン原典版ではこの和音にドビュッシーが初版校正の際に追記した左手cl-dの音が欠落している

- 1 6 4 -

2)帆(ヴェール)第4小節の最後三つの16分音符には第13小節と同じくスラーに加えてスタッカート(ポルタート)が必要である手稿に記載されている

(3)第4小節のポルタートー ー 一 一 一 一 一 ー - - -

メインテキストなしありありありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

鋤一剛訊なし

手稿の第33小節冒頭に「aTempo」が記載されている追記されるべきである

(4)第33小節のaTempo- - - - - - - - - -

メインテキストなしありなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

副一札一鋤なし

第41小節のバスlBおよび第40小節の同音との間にかけられているタイは手稿になくミスプリントと思われる初版の楽譜で第41小節から新しい段になっているのが原因で校正の際に見落とされたと思われる当初は第41小節にこの不要な二分音符のバスがタイなしで印刷されていたが後日行われた版の組替え時に小節の割り付けが変更されその際にこの音が削除されるのではなく出版社の独断で第40小節からのタイが加筆されてしまった(四)

- 1 63 -

(5)第40小節41小節のタイとバス音- - 注解のコメントメインテキスト

未削除削除すみ未削除削除すみ

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

鋤一鋤訊未削除一

未削除 なし未削除一

未削除

第62小節後半右手のリズムには市販楽譜でかなりの相違が見られる手稿に記されているリズム<譜例1Agtが計算に合わないのがその原因であるいずれにせよ第26小節にあるリズムと区別し後尾の三連音符はより軽く弾かれるべきだろう記譜の正確さという点ではく譜例lBgtlt譜例lCgtどちらかになるが実際の演奏は必ずしもこれらと一致しない

8〈譜例Agtj_m8〈譜例Bgtj_3〈譜例1Cgt」届

(6)第62小節のリズム- - 注解のコメントメインテキスト

譜例1A譜例1C譜例1B譜例1A譜例1A譜例1B譜例1A譜例1A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例1Agtの形になっている

副一釧一社なし へ

um二

第62小節冒頭のペダル記号と第64小節にあるペダルをキャンセルする記-162-

号はドビュッシーにより初版校正の際に初めて加筆された第64小節のキャンセル記号はオリジナルエディションの1930年頃の版から消滅している理由は不明だがドビュッシー死後の事であり作曲者の指示でないことは確実であるペダルをキャンセルする記号は第64小節の冒頭ではなく小節のほぼ中央

下に瞥かれている第63小節で最後の和音c-eが第64小節にはいった時点でペダルも踏みかえ左手の休符を尊重する演奏をよく耳にするがこれが果たして作曲者ドビュッシーの意図した奏法かどうかは不明である

(7)第62小節64小節のペダル指示メインテキスト62小節のみ6264小節6264小節なし

62小節のみなし

(6264小節)(6264小節)

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

幽礼別なし

手稿にはないがドビュッシーによって初版楽譜に加筆された音楽之友社版と春秋社版ではここに限らずオリジナルではないペダルが常時印刷されているが春秋社版には特に脚注が添えられている

3)野をわたる風初版校正稿の第53小節4拍目にはドビュッシーによって=(デイミヌエンド)が書き加えられたが印刷には至らなかった第51小節の=(クレシェンド)と対応する重要な強弱記号だが印刷工の見落としか追加すべきである

(8)第53小節のディミヌエンド---一一一一一-三三二メインテキスト注解のコメントオ リ ジ ナ ル エ デ ィ シ ョ ン な しデ ュ ラ ン ー コ ス タ ラ 版 あ り あ り

ヘ ン レ 版 な し な しウ ィ ー ン 原 典 版 な し な しリ コ ル デ ィ 版 な しペ ー タ ー ス 版 な し な し音 楽 之 友 社 版 な し春 秋 社 版 な し

ドビュッシーによって初版校正の際に加筆された

三 一 =

四一

-161-

4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 8: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

であるヨーロッパの乾燥した大気と大地とが感じられる

4)音と香りは夕暮れの大気にただようLeSSOrlSetleSP(Wi7zStOlet 一 一 I Ⅱ 4 ー ー I 一 一 一 q 一 一 一 一 一 - - 1 1 ー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 - 1 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

dαsj(zirdusoirアジアのマレー(マライ)Malay燭にその源を発する「パントウムスタ

鰯イルformedepantoum」と呼ばれる作詩法にほぼ準じた形で創作されたシャルルボードレールの詩集『悪の華Fleursdumal」に含まれる『夕べのしらべHarmoniedusoirj3行目のテキストが題名となっているドビュッシーの音楽は特にパントウムスタイルになっていないこのボードレールの詩は1889年1月ドビュッシーによって歌曲『ボードレールの五つの詩CinqpobmesdeBaudelairej2曲目として作曲されている「これは夕暮れの悩ましい心の動揺である匂いは大気の愛撫の中に漂い

雑多な振動音を更けゆく穏やかな夜が寄せ集めそしてボードレールの詩句の意味するところ倒にとどまるとすれば《物憂い眩量(めまい)》なのでありそこではゆえもなく心うらぶれる剛「ホートレール的苦悩がみちている官能でふくらんだ贈物のようなものです夜の高鳴りの心を乱す魅力この世の束の間の幸福のものうさ明日なき陶酔への渇望なのです(31という官能的な雰囲気に満ちた作品である

5)アナカプリの丘Leco伽sdAαcqprjアナカプリはナポリの近くの島カプリ島にある町の名前であるロンによると「ドビュッシーがイタリアへ旅行した際の思い出が音楽となっておりナホリをめぐる様々な雰囲気が音楽になっているlsquo1というのだが作品が生れる上で直接のインスピレーションとなった事柄は不明であるアナカプリ産ワインのボトルのラベルに印刷されていた絵がそのきっかけになったという説もある一方アクセルムンタ(ミュント)AxelMuntheの小説『アナカプリ』を読んでの印象であるという考察も存在する「タランテラの活気づいたリズムが民衆的なメロディーのリフレインの悠

長さに巻きつき恋の叙情的旋律(カンティレーナ)の甘美でありきたりなノスタルジアが素早いフルートの疲れを知らない鋭い活気によって傷つけ

(一一一一一一)

-170-

ldquoられるあまりにも青い空の振動に激しく溶け合う」「タランテラ舞曲が網の目のように交錯してく中略>その踊りは悪魔のように熱狂し僧院の錨の呼び声は辛辣に響きそのときまさに糖霊のようにのんびりと恋を歌うすばらしい素朴な民謡が湧き上がってくるのです吋6)雪の上の足跡Despqss[jqejge

一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 』 B 一 一 一 一 一 一 一 ー ー ー ー ー

ドビュッシーがどこからこの作品で表現されているイメージを得たかは不明であるモーリスルブラン岡の同名の探偵小説(37)がその題材であるという説からアンリボルドー(30の小説『足跡の上の雪Laneigesurlespasj

がそれにあたるなど諸説がいりみだれている作品がかもし出すイメージは明確でドビュッシー自身も楽譜に「このリズムは凍りついた悲哀のこもった風景のような感じを出さねばならないCerythmedoitavoirlavaleursonoredunfonddepaysagetristeetglacg」「愛情のこもったかなしい哀悼のようにCommeuntendreettristeregret」との指示を書いている「もはや存在しない幸福の想い出を悩ましげに喚ぴさます《lというもの悲しい響きの作品である7)西風の見たものαqIJqUILIeUentdOuest- 一 面『 -ハンスクリステイアンアンデルセンの物語『天国の庭Lejardindu

paradis」の中で西風が自分の見たものを語る場面が基本になっていると考えられる一方ドビュッシーはパーシーシェリー倒作の『西風への頌詩OdetotheWestWind』のフェリックスラップF61ixRabbeによる仏語訳『LodeauVentdOuest』も読んでいた模様であるヨーロッパに住む人間にとっての「西風」とは大西洋からの季節風であり強大な風力を伴って吹き荒れるいわば嵐の風でありその様子が音の怒涛となって表現されている

三四一 三

8)亜麻色の髪の少女L(zFieauclieUede

賦墓夛蒟瓢賑盲蕨カョラー意ホーテーリーカ閲の『古代詩集Pomesantiques」に収録されている『シャンソンエコセーズChansonsgcossaises」一

- 1 69 -

の4番目の詩がもとになっているドビュッシーはまだ20歳の頃(1882)この詩を歌曲として作曲し親交のあったマリーーブランシュヴァニエ夫人に献呈しているが歌曲と前奏曲の間に音楽的な関連は見られない前奏曲第1集の初版楽譜は1910年4月14日に刊行されているがこの曲のみ単独でルフイガロLeFigaro誌の付録として初版刊行よりわずか2週間後の4月30日に再刊行されたその際のタイトルは『LaFilleauxYeuxdeLin亜麻色の瞳の少女」となっているがフランス語で「髪」は「cheveux」「瞳(目)」は「yeuX」(共に複数形)と似ておりこれが単なる誤植かあるいはドビュッシーの意思によるものかどうかは不明であるところで亜麻色とはどんな色なのだろうか亜麻は植物の一種でこの繊維を使ってアサ布地やリネンが作られる染色前の色はオフホワイトからベージュにかけてのものだろうこの色の髪とは淡い金髪淡黄色あるいは茶色でも明るい色調のものを指すラテン系の血が流れるフランス人の毛髪は比較的濃い一般にブルネットといわれている色(濃い栗色)が普通である「亜麻色の髪の少女」とはラテン系ではないアングロサクソン系一スコットランドあたりの可憐で清純な俗世間に毒されていない少女をイメージしたものといえるだろうロンがその著書の中で「ドビュッシーがルコントドリルの『スコットランドのシャンソン」を音楽になおしたもので打と述べているがトヒュッシーとの会話中何らかの形で「スコットランド」に触れられたと想像できる他方亜麻色とはやはり亜麻を原料として作られるアマニ油の色つまり茶色であるという説も存在するこちらの説に従えば「亜麻色の瞳の少女」も可能性として充分考えられる範鴫にはいる

9)さえぎられたセレナードLassectrsectαdejterrompue穐言弱二赫兀稽薬万謝江そ箙葱斯シの雰囲気がここ

でも多分に感じられるがその原点となるべき事柄の由来は不明であるコルトーによると「これはゴヤの絵にある夜のいたずらっぽい幻想であって一人のフィアンセriovioの臆病な情熱閉ざされた窓の下で彼が歌う愛の歌その歌をさえぎる常ならぬ音や隣の小路を通り過ぎる学生の群におび

三打一

- 1 6 8 -

えたり憤慨したりする感情のときめきをいらだったスペイン風のそり身な線をもったキターのリスムに乗せて表現しているlsquo3というマヌエルデファリャ脚の説によるとここには花で飾られた窓の奥に隠れている美しい女性の好意を得ようとギターを持って対時する二人の男性歌手の様子だという6110)沈める寺Lαの城をd『qleegloutie

副惹7r-房ず編醜葬蒔亮の想い出Souvenirsdenfanceetdejeunesse」(1883)に含まれているフランスブルターニュ地方の伝説がもとになっているその内容は「波の下に呪われた眠りをまどろむイスYsの町倒にある寺院がときおり霧の深い朝に朝日と共に透明な大洋の底そして長い年月の奥底から徐々に浮かび出てくる鐘が鳴り司祭たちの歌が聞こえるついでその幻影はあらためて静穏な海の下に消え去る」というものである

1l)パックの踊りLaDαsedePuch - 例 -ウイリアムシェークスピアの『真夏の夜の夢AMidsummerNights

Dream」第2幕第1場に『パックの踊り』のシーンがあるドビュッシーはシェークスピアに惹かれ「お気に召すままAsYouLikelt」や『リア王TrueChronicleHistoryoftheLifeandDeathofKingRear」なども音楽の題材として扱っているが1908年に出版された本の中にあるアーサー(アルテュール)ラッカムArthurRackhamが描いた挿絵に刺激を与えられたらしいラディアード(リュディアール)キプリングRudyardKipling作の物語『ハック』がこの楽曲のもとになったという説も存在するlsquo1「パック」は妖箱の名前だがそのユーモアに富んだ軽々とした動きや

妖精の王オベロンの角笛の響きが音楽で表現されている

(一二一ハ) 12)ミンストレルMistreJs『辻音楽師』と邦訳されることもあるミンストレルとは街から街へと楽

器を弾きながら日銭を稼ぐ道化師のグループのことである白人が身振りも

-167 -

真似ながら黒人の音楽を演奏するのが芸のひとつだったドビュッシーは『子供の領分ChildrensCornerj(1908)でも同様な音

楽『ゴリウオーグのケークウオークGolliwoggsCakewalk」を創作しているがケークウオークとは北米の黒人奴隷の踊る伝統的なダンスであるこのリズムはジャズの先駆として1900年頃ヨーロッパに伝わりミュージックホールの雰囲気とあいまってパリでも大流行したドビュッシーが1905年の夏を過ごしたドーバー海峡に面したイギリスの町イーストボーンEastbourneのグランドホテル前でのアトラクションの印象がこの作品のもとになっているという説もある

市販楽譜のテキスト内容に関する諸問題

今日ではデュラン社から引き続き刊行されているオリジナルエディション以外にも各種の市販楽譜を購入できる初版楽譜と手稿との間に存在する多くの相違点は編纂者の考えるランキングに沿って選別され「メインテキスト内で反映されるもの」「メインテキストの脚注として印刷されるもの」あるいは「注解として一覧掲載されるもの」にまとめられるなお原典版の楽譜でも指使いその他を付加して制作する場合が多いがこれら作曲家のオリジナルではないものは視覚的にオリジナルのものと区別できるように工夫されている旬ドビュッシーの前奏曲第1集における手稿とオリジナルエディションとの

相違は微細なものまで含めると数量的にもかなりなものとなるまた手稿オリジナルエディションどちらにも準拠しないエラーも散見される本稿ではあくまでも「演奏と指導のためのリファレンス」という見地から中でも重要度が高いと思われるものを中心に考察を進めていきたい

メトロノームの指示第1集全12曲のうち8曲田にドビュッシーによるメトロノーム指示があるのに比較して第2集ではただ1曲『ヒースの茂る荒地』のみにつけられている1915年10月9日にドビュッシーがジャックデュランにあてた手紙の

三七L一=

- 1 66 -

中で「メトロノーム指示は書いたところでどうせ[初めの]1小節にしか効果がないVoussavezmonopinionsurlesmouvementsmetronomiquesilssontjustespendantunemesure」と述べていることからも彼自身こういったメトロノーム指定の効力と拘束力をあまり信じていなかったようだ

ドビユッシー特有の記号ドビュッシーの作品を演奏する上でドビュッシー特有の記譜上の特徴を

知ることも大切であるたとえば「hellip」というマークは(Cgdezhelliphellipなど)アゴーギクの変化一リタルダンドあるいはアッチェレランドその他一一が終結する場所を示すのみで「」が同時にブレスや一時休止を意味することはないブレスが必要な場合にはドビュッシーは「」「」その他の記号を使用している

原典と市販楽譜の相違点市販楽譜を比較してみるとその内容にはかなりの相違があるそれらのうち音楽的にも重要で違いを知っておくべきと思われるものを以下に掲載する表の中でグレーの表示になっているところは楽譜のメインテキスト内(いわゆる「譜面」のこと)で適正な処理がされているものである「注解」あるいはそれに準ずる編纂情報はデュランーコスタラ版ヘンレ版ウィーン原典版およびペータース版にしか掲載されていない御なお音名はドイツ音名を使用するしたがってBbは日本音名の変ロ音

Hhはロ音を意味する音の高さの表示については下図を参照されたい

SubkOnlmKOnlmigrOSScKlcincCingCSlriChCnciZlvcigcSIxiChcncidrigCSiliChCnC c昼

に一就一一騨岬翫耀管Ⅵ8 immgcsmchcnc

D一rーーlsquo一の一口ロ一色lsquo-

一鬘〆彗豊ン篁管一一 一 一 i ( 4 1 o ) i

曇== 一

謬篶戸Iざ6

80lsquo回ldquo幻α一口z C 1 H C 1 H 1 C 蹄 c h c U h 8 ザ I F ザ 鼎 c 』 h 4 1 c S

三八一

- 1 65 -

l)デルフイの踊り子第5小節最後の和音は四分音符それに対して第10小節では二分音符となっているが第10小節の二分音符はドビュッシーの手稿では第5小節と同じく四分音符であるしかし手稿の第10小節と11小節の間の小節線上方に自筆で(34)と記載されていることからドビュッシーは第9~10小節を44として創作したと思われるよって二分音符が妥当だろうしかし第4~6小節と第9~l1小節の流れは酷似しており第10小節が34として処理される可能性(最後の和音を四分音符として処理する)も皆無ではない

(1)第10小節最後の和音の音価- - - - - - - ー - - - メインテキスト

二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は四分音符

辿軸薊なし

第16小節4拍目上声部の和音(後打ちの八分音符)は手稿ではc2_d2_c3だが市販楽譜でC2_C3になっているものがあるd2が加筆されるべきだろうなおこの和音に関しては後述「ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項も参照されたい

(2)第16小節4拍目上声部の和音一 一 三 一 注解のコメント-

キC{c{CCCC

-ナー2-2一一一一

ン唖一C-CCCC

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

鋤一型鋤 1

なし

三九hellip手稿はc2_d2-cミウイーン原典版に関しては別の不備がある

ウィーン原典版ではこの和音にドビュッシーが初版校正の際に追記した左手cl-dの音が欠落している

- 1 6 4 -

2)帆(ヴェール)第4小節の最後三つの16分音符には第13小節と同じくスラーに加えてスタッカート(ポルタート)が必要である手稿に記載されている

(3)第4小節のポルタートー ー 一 一 一 一 一 ー - - -

メインテキストなしありありありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

鋤一剛訊なし

手稿の第33小節冒頭に「aTempo」が記載されている追記されるべきである

(4)第33小節のaTempo- - - - - - - - - -

メインテキストなしありなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

副一札一鋤なし

第41小節のバスlBおよび第40小節の同音との間にかけられているタイは手稿になくミスプリントと思われる初版の楽譜で第41小節から新しい段になっているのが原因で校正の際に見落とされたと思われる当初は第41小節にこの不要な二分音符のバスがタイなしで印刷されていたが後日行われた版の組替え時に小節の割り付けが変更されその際にこの音が削除されるのではなく出版社の独断で第40小節からのタイが加筆されてしまった(四)

- 1 63 -

(5)第40小節41小節のタイとバス音- - 注解のコメントメインテキスト

未削除削除すみ未削除削除すみ

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

鋤一鋤訊未削除一

未削除 なし未削除一

未削除

第62小節後半右手のリズムには市販楽譜でかなりの相違が見られる手稿に記されているリズム<譜例1Agtが計算に合わないのがその原因であるいずれにせよ第26小節にあるリズムと区別し後尾の三連音符はより軽く弾かれるべきだろう記譜の正確さという点ではく譜例lBgtlt譜例lCgtどちらかになるが実際の演奏は必ずしもこれらと一致しない

8〈譜例Agtj_m8〈譜例Bgtj_3〈譜例1Cgt」届

(6)第62小節のリズム- - 注解のコメントメインテキスト

譜例1A譜例1C譜例1B譜例1A譜例1A譜例1B譜例1A譜例1A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例1Agtの形になっている

副一釧一社なし へ

um二

第62小節冒頭のペダル記号と第64小節にあるペダルをキャンセルする記-162-

号はドビュッシーにより初版校正の際に初めて加筆された第64小節のキャンセル記号はオリジナルエディションの1930年頃の版から消滅している理由は不明だがドビュッシー死後の事であり作曲者の指示でないことは確実であるペダルをキャンセルする記号は第64小節の冒頭ではなく小節のほぼ中央

下に瞥かれている第63小節で最後の和音c-eが第64小節にはいった時点でペダルも踏みかえ左手の休符を尊重する演奏をよく耳にするがこれが果たして作曲者ドビュッシーの意図した奏法かどうかは不明である

(7)第62小節64小節のペダル指示メインテキスト62小節のみ6264小節6264小節なし

62小節のみなし

(6264小節)(6264小節)

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

幽礼別なし

手稿にはないがドビュッシーによって初版楽譜に加筆された音楽之友社版と春秋社版ではここに限らずオリジナルではないペダルが常時印刷されているが春秋社版には特に脚注が添えられている

3)野をわたる風初版校正稿の第53小節4拍目にはドビュッシーによって=(デイミヌエンド)が書き加えられたが印刷には至らなかった第51小節の=(クレシェンド)と対応する重要な強弱記号だが印刷工の見落としか追加すべきである

(8)第53小節のディミヌエンド---一一一一一-三三二メインテキスト注解のコメントオ リ ジ ナ ル エ デ ィ シ ョ ン な しデ ュ ラ ン ー コ ス タ ラ 版 あ り あ り

ヘ ン レ 版 な し な しウ ィ ー ン 原 典 版 な し な しリ コ ル デ ィ 版 な しペ ー タ ー ス 版 な し な し音 楽 之 友 社 版 な し春 秋 社 版 な し

ドビュッシーによって初版校正の際に加筆された

三 一 =

四一

-161-

4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 9: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

ldquoられるあまりにも青い空の振動に激しく溶け合う」「タランテラ舞曲が網の目のように交錯してく中略>その踊りは悪魔のように熱狂し僧院の錨の呼び声は辛辣に響きそのときまさに糖霊のようにのんびりと恋を歌うすばらしい素朴な民謡が湧き上がってくるのです吋6)雪の上の足跡Despqss[jqejge

一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 』 B 一 一 一 一 一 一 一 ー ー ー ー ー

ドビュッシーがどこからこの作品で表現されているイメージを得たかは不明であるモーリスルブラン岡の同名の探偵小説(37)がその題材であるという説からアンリボルドー(30の小説『足跡の上の雪Laneigesurlespasj

がそれにあたるなど諸説がいりみだれている作品がかもし出すイメージは明確でドビュッシー自身も楽譜に「このリズムは凍りついた悲哀のこもった風景のような感じを出さねばならないCerythmedoitavoirlavaleursonoredunfonddepaysagetristeetglacg」「愛情のこもったかなしい哀悼のようにCommeuntendreettristeregret」との指示を書いている「もはや存在しない幸福の想い出を悩ましげに喚ぴさます《lというもの悲しい響きの作品である7)西風の見たものαqIJqUILIeUentdOuest- 一 面『 -ハンスクリステイアンアンデルセンの物語『天国の庭Lejardindu

paradis」の中で西風が自分の見たものを語る場面が基本になっていると考えられる一方ドビュッシーはパーシーシェリー倒作の『西風への頌詩OdetotheWestWind』のフェリックスラップF61ixRabbeによる仏語訳『LodeauVentdOuest』も読んでいた模様であるヨーロッパに住む人間にとっての「西風」とは大西洋からの季節風であり強大な風力を伴って吹き荒れるいわば嵐の風でありその様子が音の怒涛となって表現されている

三四一 三

8)亜麻色の髪の少女L(zFieauclieUede

賦墓夛蒟瓢賑盲蕨カョラー意ホーテーリーカ閲の『古代詩集Pomesantiques」に収録されている『シャンソンエコセーズChansonsgcossaises」一

- 1 69 -

の4番目の詩がもとになっているドビュッシーはまだ20歳の頃(1882)この詩を歌曲として作曲し親交のあったマリーーブランシュヴァニエ夫人に献呈しているが歌曲と前奏曲の間に音楽的な関連は見られない前奏曲第1集の初版楽譜は1910年4月14日に刊行されているがこの曲のみ単独でルフイガロLeFigaro誌の付録として初版刊行よりわずか2週間後の4月30日に再刊行されたその際のタイトルは『LaFilleauxYeuxdeLin亜麻色の瞳の少女」となっているがフランス語で「髪」は「cheveux」「瞳(目)」は「yeuX」(共に複数形)と似ておりこれが単なる誤植かあるいはドビュッシーの意思によるものかどうかは不明であるところで亜麻色とはどんな色なのだろうか亜麻は植物の一種でこの繊維を使ってアサ布地やリネンが作られる染色前の色はオフホワイトからベージュにかけてのものだろうこの色の髪とは淡い金髪淡黄色あるいは茶色でも明るい色調のものを指すラテン系の血が流れるフランス人の毛髪は比較的濃い一般にブルネットといわれている色(濃い栗色)が普通である「亜麻色の髪の少女」とはラテン系ではないアングロサクソン系一スコットランドあたりの可憐で清純な俗世間に毒されていない少女をイメージしたものといえるだろうロンがその著書の中で「ドビュッシーがルコントドリルの『スコットランドのシャンソン」を音楽になおしたもので打と述べているがトヒュッシーとの会話中何らかの形で「スコットランド」に触れられたと想像できる他方亜麻色とはやはり亜麻を原料として作られるアマニ油の色つまり茶色であるという説も存在するこちらの説に従えば「亜麻色の瞳の少女」も可能性として充分考えられる範鴫にはいる

9)さえぎられたセレナードLassectrsectαdejterrompue穐言弱二赫兀稽薬万謝江そ箙葱斯シの雰囲気がここ

でも多分に感じられるがその原点となるべき事柄の由来は不明であるコルトーによると「これはゴヤの絵にある夜のいたずらっぽい幻想であって一人のフィアンセriovioの臆病な情熱閉ざされた窓の下で彼が歌う愛の歌その歌をさえぎる常ならぬ音や隣の小路を通り過ぎる学生の群におび

三打一

- 1 6 8 -

えたり憤慨したりする感情のときめきをいらだったスペイン風のそり身な線をもったキターのリスムに乗せて表現しているlsquo3というマヌエルデファリャ脚の説によるとここには花で飾られた窓の奥に隠れている美しい女性の好意を得ようとギターを持って対時する二人の男性歌手の様子だという6110)沈める寺Lαの城をd『qleegloutie

副惹7r-房ず編醜葬蒔亮の想い出Souvenirsdenfanceetdejeunesse」(1883)に含まれているフランスブルターニュ地方の伝説がもとになっているその内容は「波の下に呪われた眠りをまどろむイスYsの町倒にある寺院がときおり霧の深い朝に朝日と共に透明な大洋の底そして長い年月の奥底から徐々に浮かび出てくる鐘が鳴り司祭たちの歌が聞こえるついでその幻影はあらためて静穏な海の下に消え去る」というものである

1l)パックの踊りLaDαsedePuch - 例 -ウイリアムシェークスピアの『真夏の夜の夢AMidsummerNights

Dream」第2幕第1場に『パックの踊り』のシーンがあるドビュッシーはシェークスピアに惹かれ「お気に召すままAsYouLikelt」や『リア王TrueChronicleHistoryoftheLifeandDeathofKingRear」なども音楽の題材として扱っているが1908年に出版された本の中にあるアーサー(アルテュール)ラッカムArthurRackhamが描いた挿絵に刺激を与えられたらしいラディアード(リュディアール)キプリングRudyardKipling作の物語『ハック』がこの楽曲のもとになったという説も存在するlsquo1「パック」は妖箱の名前だがそのユーモアに富んだ軽々とした動きや

妖精の王オベロンの角笛の響きが音楽で表現されている

(一二一ハ) 12)ミンストレルMistreJs『辻音楽師』と邦訳されることもあるミンストレルとは街から街へと楽

器を弾きながら日銭を稼ぐ道化師のグループのことである白人が身振りも

-167 -

真似ながら黒人の音楽を演奏するのが芸のひとつだったドビュッシーは『子供の領分ChildrensCornerj(1908)でも同様な音

楽『ゴリウオーグのケークウオークGolliwoggsCakewalk」を創作しているがケークウオークとは北米の黒人奴隷の踊る伝統的なダンスであるこのリズムはジャズの先駆として1900年頃ヨーロッパに伝わりミュージックホールの雰囲気とあいまってパリでも大流行したドビュッシーが1905年の夏を過ごしたドーバー海峡に面したイギリスの町イーストボーンEastbourneのグランドホテル前でのアトラクションの印象がこの作品のもとになっているという説もある

市販楽譜のテキスト内容に関する諸問題

今日ではデュラン社から引き続き刊行されているオリジナルエディション以外にも各種の市販楽譜を購入できる初版楽譜と手稿との間に存在する多くの相違点は編纂者の考えるランキングに沿って選別され「メインテキスト内で反映されるもの」「メインテキストの脚注として印刷されるもの」あるいは「注解として一覧掲載されるもの」にまとめられるなお原典版の楽譜でも指使いその他を付加して制作する場合が多いがこれら作曲家のオリジナルではないものは視覚的にオリジナルのものと区別できるように工夫されている旬ドビュッシーの前奏曲第1集における手稿とオリジナルエディションとの

相違は微細なものまで含めると数量的にもかなりなものとなるまた手稿オリジナルエディションどちらにも準拠しないエラーも散見される本稿ではあくまでも「演奏と指導のためのリファレンス」という見地から中でも重要度が高いと思われるものを中心に考察を進めていきたい

メトロノームの指示第1集全12曲のうち8曲田にドビュッシーによるメトロノーム指示があるのに比較して第2集ではただ1曲『ヒースの茂る荒地』のみにつけられている1915年10月9日にドビュッシーがジャックデュランにあてた手紙の

三七L一=

- 1 66 -

中で「メトロノーム指示は書いたところでどうせ[初めの]1小節にしか効果がないVoussavezmonopinionsurlesmouvementsmetronomiquesilssontjustespendantunemesure」と述べていることからも彼自身こういったメトロノーム指定の効力と拘束力をあまり信じていなかったようだ

ドビユッシー特有の記号ドビュッシーの作品を演奏する上でドビュッシー特有の記譜上の特徴を

知ることも大切であるたとえば「hellip」というマークは(Cgdezhelliphellipなど)アゴーギクの変化一リタルダンドあるいはアッチェレランドその他一一が終結する場所を示すのみで「」が同時にブレスや一時休止を意味することはないブレスが必要な場合にはドビュッシーは「」「」その他の記号を使用している

原典と市販楽譜の相違点市販楽譜を比較してみるとその内容にはかなりの相違があるそれらのうち音楽的にも重要で違いを知っておくべきと思われるものを以下に掲載する表の中でグレーの表示になっているところは楽譜のメインテキスト内(いわゆる「譜面」のこと)で適正な処理がされているものである「注解」あるいはそれに準ずる編纂情報はデュランーコスタラ版ヘンレ版ウィーン原典版およびペータース版にしか掲載されていない御なお音名はドイツ音名を使用するしたがってBbは日本音名の変ロ音

Hhはロ音を意味する音の高さの表示については下図を参照されたい

SubkOnlmKOnlmigrOSScKlcincCingCSlriChCnciZlvcigcSIxiChcncidrigCSiliChCnC c昼

に一就一一騨岬翫耀管Ⅵ8 immgcsmchcnc

D一rーーlsquo一の一口ロ一色lsquo-

一鬘〆彗豊ン篁管一一 一 一 i ( 4 1 o ) i

曇== 一

謬篶戸Iざ6

80lsquo回ldquo幻α一口z C 1 H C 1 H 1 C 蹄 c h c U h 8 ザ I F ザ 鼎 c 』 h 4 1 c S

三八一

- 1 65 -

l)デルフイの踊り子第5小節最後の和音は四分音符それに対して第10小節では二分音符となっているが第10小節の二分音符はドビュッシーの手稿では第5小節と同じく四分音符であるしかし手稿の第10小節と11小節の間の小節線上方に自筆で(34)と記載されていることからドビュッシーは第9~10小節を44として創作したと思われるよって二分音符が妥当だろうしかし第4~6小節と第9~l1小節の流れは酷似しており第10小節が34として処理される可能性(最後の和音を四分音符として処理する)も皆無ではない

(1)第10小節最後の和音の音価- - - - - - - ー - - - メインテキスト

二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は四分音符

辿軸薊なし

第16小節4拍目上声部の和音(後打ちの八分音符)は手稿ではc2_d2_c3だが市販楽譜でC2_C3になっているものがあるd2が加筆されるべきだろうなおこの和音に関しては後述「ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項も参照されたい

(2)第16小節4拍目上声部の和音一 一 三 一 注解のコメント-

キC{c{CCCC

-ナー2-2一一一一

ン唖一C-CCCC

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

鋤一型鋤 1

なし

三九hellip手稿はc2_d2-cミウイーン原典版に関しては別の不備がある

ウィーン原典版ではこの和音にドビュッシーが初版校正の際に追記した左手cl-dの音が欠落している

- 1 6 4 -

2)帆(ヴェール)第4小節の最後三つの16分音符には第13小節と同じくスラーに加えてスタッカート(ポルタート)が必要である手稿に記載されている

(3)第4小節のポルタートー ー 一 一 一 一 一 ー - - -

メインテキストなしありありありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

鋤一剛訊なし

手稿の第33小節冒頭に「aTempo」が記載されている追記されるべきである

(4)第33小節のaTempo- - - - - - - - - -

メインテキストなしありなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

副一札一鋤なし

第41小節のバスlBおよび第40小節の同音との間にかけられているタイは手稿になくミスプリントと思われる初版の楽譜で第41小節から新しい段になっているのが原因で校正の際に見落とされたと思われる当初は第41小節にこの不要な二分音符のバスがタイなしで印刷されていたが後日行われた版の組替え時に小節の割り付けが変更されその際にこの音が削除されるのではなく出版社の独断で第40小節からのタイが加筆されてしまった(四)

- 1 63 -

(5)第40小節41小節のタイとバス音- - 注解のコメントメインテキスト

未削除削除すみ未削除削除すみ

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

鋤一鋤訊未削除一

未削除 なし未削除一

未削除

第62小節後半右手のリズムには市販楽譜でかなりの相違が見られる手稿に記されているリズム<譜例1Agtが計算に合わないのがその原因であるいずれにせよ第26小節にあるリズムと区別し後尾の三連音符はより軽く弾かれるべきだろう記譜の正確さという点ではく譜例lBgtlt譜例lCgtどちらかになるが実際の演奏は必ずしもこれらと一致しない

8〈譜例Agtj_m8〈譜例Bgtj_3〈譜例1Cgt」届

(6)第62小節のリズム- - 注解のコメントメインテキスト

譜例1A譜例1C譜例1B譜例1A譜例1A譜例1B譜例1A譜例1A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例1Agtの形になっている

副一釧一社なし へ

um二

第62小節冒頭のペダル記号と第64小節にあるペダルをキャンセルする記-162-

号はドビュッシーにより初版校正の際に初めて加筆された第64小節のキャンセル記号はオリジナルエディションの1930年頃の版から消滅している理由は不明だがドビュッシー死後の事であり作曲者の指示でないことは確実であるペダルをキャンセルする記号は第64小節の冒頭ではなく小節のほぼ中央

下に瞥かれている第63小節で最後の和音c-eが第64小節にはいった時点でペダルも踏みかえ左手の休符を尊重する演奏をよく耳にするがこれが果たして作曲者ドビュッシーの意図した奏法かどうかは不明である

(7)第62小節64小節のペダル指示メインテキスト62小節のみ6264小節6264小節なし

62小節のみなし

(6264小節)(6264小節)

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

幽礼別なし

手稿にはないがドビュッシーによって初版楽譜に加筆された音楽之友社版と春秋社版ではここに限らずオリジナルではないペダルが常時印刷されているが春秋社版には特に脚注が添えられている

3)野をわたる風初版校正稿の第53小節4拍目にはドビュッシーによって=(デイミヌエンド)が書き加えられたが印刷には至らなかった第51小節の=(クレシェンド)と対応する重要な強弱記号だが印刷工の見落としか追加すべきである

(8)第53小節のディミヌエンド---一一一一一-三三二メインテキスト注解のコメントオ リ ジ ナ ル エ デ ィ シ ョ ン な しデ ュ ラ ン ー コ ス タ ラ 版 あ り あ り

ヘ ン レ 版 な し な しウ ィ ー ン 原 典 版 な し な しリ コ ル デ ィ 版 な しペ ー タ ー ス 版 な し な し音 楽 之 友 社 版 な し春 秋 社 版 な し

ドビュッシーによって初版校正の際に加筆された

三 一 =

四一

-161-

4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 10: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

の4番目の詩がもとになっているドビュッシーはまだ20歳の頃(1882)この詩を歌曲として作曲し親交のあったマリーーブランシュヴァニエ夫人に献呈しているが歌曲と前奏曲の間に音楽的な関連は見られない前奏曲第1集の初版楽譜は1910年4月14日に刊行されているがこの曲のみ単独でルフイガロLeFigaro誌の付録として初版刊行よりわずか2週間後の4月30日に再刊行されたその際のタイトルは『LaFilleauxYeuxdeLin亜麻色の瞳の少女」となっているがフランス語で「髪」は「cheveux」「瞳(目)」は「yeuX」(共に複数形)と似ておりこれが単なる誤植かあるいはドビュッシーの意思によるものかどうかは不明であるところで亜麻色とはどんな色なのだろうか亜麻は植物の一種でこの繊維を使ってアサ布地やリネンが作られる染色前の色はオフホワイトからベージュにかけてのものだろうこの色の髪とは淡い金髪淡黄色あるいは茶色でも明るい色調のものを指すラテン系の血が流れるフランス人の毛髪は比較的濃い一般にブルネットといわれている色(濃い栗色)が普通である「亜麻色の髪の少女」とはラテン系ではないアングロサクソン系一スコットランドあたりの可憐で清純な俗世間に毒されていない少女をイメージしたものといえるだろうロンがその著書の中で「ドビュッシーがルコントドリルの『スコットランドのシャンソン」を音楽になおしたもので打と述べているがトヒュッシーとの会話中何らかの形で「スコットランド」に触れられたと想像できる他方亜麻色とはやはり亜麻を原料として作られるアマニ油の色つまり茶色であるという説も存在するこちらの説に従えば「亜麻色の瞳の少女」も可能性として充分考えられる範鴫にはいる

9)さえぎられたセレナードLassectrsectαdejterrompue穐言弱二赫兀稽薬万謝江そ箙葱斯シの雰囲気がここ

でも多分に感じられるがその原点となるべき事柄の由来は不明であるコルトーによると「これはゴヤの絵にある夜のいたずらっぽい幻想であって一人のフィアンセriovioの臆病な情熱閉ざされた窓の下で彼が歌う愛の歌その歌をさえぎる常ならぬ音や隣の小路を通り過ぎる学生の群におび

三打一

- 1 6 8 -

えたり憤慨したりする感情のときめきをいらだったスペイン風のそり身な線をもったキターのリスムに乗せて表現しているlsquo3というマヌエルデファリャ脚の説によるとここには花で飾られた窓の奥に隠れている美しい女性の好意を得ようとギターを持って対時する二人の男性歌手の様子だという6110)沈める寺Lαの城をd『qleegloutie

副惹7r-房ず編醜葬蒔亮の想い出Souvenirsdenfanceetdejeunesse」(1883)に含まれているフランスブルターニュ地方の伝説がもとになっているその内容は「波の下に呪われた眠りをまどろむイスYsの町倒にある寺院がときおり霧の深い朝に朝日と共に透明な大洋の底そして長い年月の奥底から徐々に浮かび出てくる鐘が鳴り司祭たちの歌が聞こえるついでその幻影はあらためて静穏な海の下に消え去る」というものである

1l)パックの踊りLaDαsedePuch - 例 -ウイリアムシェークスピアの『真夏の夜の夢AMidsummerNights

Dream」第2幕第1場に『パックの踊り』のシーンがあるドビュッシーはシェークスピアに惹かれ「お気に召すままAsYouLikelt」や『リア王TrueChronicleHistoryoftheLifeandDeathofKingRear」なども音楽の題材として扱っているが1908年に出版された本の中にあるアーサー(アルテュール)ラッカムArthurRackhamが描いた挿絵に刺激を与えられたらしいラディアード(リュディアール)キプリングRudyardKipling作の物語『ハック』がこの楽曲のもとになったという説も存在するlsquo1「パック」は妖箱の名前だがそのユーモアに富んだ軽々とした動きや

妖精の王オベロンの角笛の響きが音楽で表現されている

(一二一ハ) 12)ミンストレルMistreJs『辻音楽師』と邦訳されることもあるミンストレルとは街から街へと楽

器を弾きながら日銭を稼ぐ道化師のグループのことである白人が身振りも

-167 -

真似ながら黒人の音楽を演奏するのが芸のひとつだったドビュッシーは『子供の領分ChildrensCornerj(1908)でも同様な音

楽『ゴリウオーグのケークウオークGolliwoggsCakewalk」を創作しているがケークウオークとは北米の黒人奴隷の踊る伝統的なダンスであるこのリズムはジャズの先駆として1900年頃ヨーロッパに伝わりミュージックホールの雰囲気とあいまってパリでも大流行したドビュッシーが1905年の夏を過ごしたドーバー海峡に面したイギリスの町イーストボーンEastbourneのグランドホテル前でのアトラクションの印象がこの作品のもとになっているという説もある

市販楽譜のテキスト内容に関する諸問題

今日ではデュラン社から引き続き刊行されているオリジナルエディション以外にも各種の市販楽譜を購入できる初版楽譜と手稿との間に存在する多くの相違点は編纂者の考えるランキングに沿って選別され「メインテキスト内で反映されるもの」「メインテキストの脚注として印刷されるもの」あるいは「注解として一覧掲載されるもの」にまとめられるなお原典版の楽譜でも指使いその他を付加して制作する場合が多いがこれら作曲家のオリジナルではないものは視覚的にオリジナルのものと区別できるように工夫されている旬ドビュッシーの前奏曲第1集における手稿とオリジナルエディションとの

相違は微細なものまで含めると数量的にもかなりなものとなるまた手稿オリジナルエディションどちらにも準拠しないエラーも散見される本稿ではあくまでも「演奏と指導のためのリファレンス」という見地から中でも重要度が高いと思われるものを中心に考察を進めていきたい

メトロノームの指示第1集全12曲のうち8曲田にドビュッシーによるメトロノーム指示があるのに比較して第2集ではただ1曲『ヒースの茂る荒地』のみにつけられている1915年10月9日にドビュッシーがジャックデュランにあてた手紙の

三七L一=

- 1 66 -

中で「メトロノーム指示は書いたところでどうせ[初めの]1小節にしか効果がないVoussavezmonopinionsurlesmouvementsmetronomiquesilssontjustespendantunemesure」と述べていることからも彼自身こういったメトロノーム指定の効力と拘束力をあまり信じていなかったようだ

ドビユッシー特有の記号ドビュッシーの作品を演奏する上でドビュッシー特有の記譜上の特徴を

知ることも大切であるたとえば「hellip」というマークは(Cgdezhelliphellipなど)アゴーギクの変化一リタルダンドあるいはアッチェレランドその他一一が終結する場所を示すのみで「」が同時にブレスや一時休止を意味することはないブレスが必要な場合にはドビュッシーは「」「」その他の記号を使用している

原典と市販楽譜の相違点市販楽譜を比較してみるとその内容にはかなりの相違があるそれらのうち音楽的にも重要で違いを知っておくべきと思われるものを以下に掲載する表の中でグレーの表示になっているところは楽譜のメインテキスト内(いわゆる「譜面」のこと)で適正な処理がされているものである「注解」あるいはそれに準ずる編纂情報はデュランーコスタラ版ヘンレ版ウィーン原典版およびペータース版にしか掲載されていない御なお音名はドイツ音名を使用するしたがってBbは日本音名の変ロ音

Hhはロ音を意味する音の高さの表示については下図を参照されたい

SubkOnlmKOnlmigrOSScKlcincCingCSlriChCnciZlvcigcSIxiChcncidrigCSiliChCnC c昼

に一就一一騨岬翫耀管Ⅵ8 immgcsmchcnc

D一rーーlsquo一の一口ロ一色lsquo-

一鬘〆彗豊ン篁管一一 一 一 i ( 4 1 o ) i

曇== 一

謬篶戸Iざ6

80lsquo回ldquo幻α一口z C 1 H C 1 H 1 C 蹄 c h c U h 8 ザ I F ザ 鼎 c 』 h 4 1 c S

三八一

- 1 65 -

l)デルフイの踊り子第5小節最後の和音は四分音符それに対して第10小節では二分音符となっているが第10小節の二分音符はドビュッシーの手稿では第5小節と同じく四分音符であるしかし手稿の第10小節と11小節の間の小節線上方に自筆で(34)と記載されていることからドビュッシーは第9~10小節を44として創作したと思われるよって二分音符が妥当だろうしかし第4~6小節と第9~l1小節の流れは酷似しており第10小節が34として処理される可能性(最後の和音を四分音符として処理する)も皆無ではない

(1)第10小節最後の和音の音価- - - - - - - ー - - - メインテキスト

二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は四分音符

辿軸薊なし

第16小節4拍目上声部の和音(後打ちの八分音符)は手稿ではc2_d2_c3だが市販楽譜でC2_C3になっているものがあるd2が加筆されるべきだろうなおこの和音に関しては後述「ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項も参照されたい

(2)第16小節4拍目上声部の和音一 一 三 一 注解のコメント-

キC{c{CCCC

-ナー2-2一一一一

ン唖一C-CCCC

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

鋤一型鋤 1

なし

三九hellip手稿はc2_d2-cミウイーン原典版に関しては別の不備がある

ウィーン原典版ではこの和音にドビュッシーが初版校正の際に追記した左手cl-dの音が欠落している

- 1 6 4 -

2)帆(ヴェール)第4小節の最後三つの16分音符には第13小節と同じくスラーに加えてスタッカート(ポルタート)が必要である手稿に記載されている

(3)第4小節のポルタートー ー 一 一 一 一 一 ー - - -

メインテキストなしありありありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

鋤一剛訊なし

手稿の第33小節冒頭に「aTempo」が記載されている追記されるべきである

(4)第33小節のaTempo- - - - - - - - - -

メインテキストなしありなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

副一札一鋤なし

第41小節のバスlBおよび第40小節の同音との間にかけられているタイは手稿になくミスプリントと思われる初版の楽譜で第41小節から新しい段になっているのが原因で校正の際に見落とされたと思われる当初は第41小節にこの不要な二分音符のバスがタイなしで印刷されていたが後日行われた版の組替え時に小節の割り付けが変更されその際にこの音が削除されるのではなく出版社の独断で第40小節からのタイが加筆されてしまった(四)

- 1 63 -

(5)第40小節41小節のタイとバス音- - 注解のコメントメインテキスト

未削除削除すみ未削除削除すみ

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

鋤一鋤訊未削除一

未削除 なし未削除一

未削除

第62小節後半右手のリズムには市販楽譜でかなりの相違が見られる手稿に記されているリズム<譜例1Agtが計算に合わないのがその原因であるいずれにせよ第26小節にあるリズムと区別し後尾の三連音符はより軽く弾かれるべきだろう記譜の正確さという点ではく譜例lBgtlt譜例lCgtどちらかになるが実際の演奏は必ずしもこれらと一致しない

8〈譜例Agtj_m8〈譜例Bgtj_3〈譜例1Cgt」届

(6)第62小節のリズム- - 注解のコメントメインテキスト

譜例1A譜例1C譜例1B譜例1A譜例1A譜例1B譜例1A譜例1A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例1Agtの形になっている

副一釧一社なし へ

um二

第62小節冒頭のペダル記号と第64小節にあるペダルをキャンセルする記-162-

号はドビュッシーにより初版校正の際に初めて加筆された第64小節のキャンセル記号はオリジナルエディションの1930年頃の版から消滅している理由は不明だがドビュッシー死後の事であり作曲者の指示でないことは確実であるペダルをキャンセルする記号は第64小節の冒頭ではなく小節のほぼ中央

下に瞥かれている第63小節で最後の和音c-eが第64小節にはいった時点でペダルも踏みかえ左手の休符を尊重する演奏をよく耳にするがこれが果たして作曲者ドビュッシーの意図した奏法かどうかは不明である

(7)第62小節64小節のペダル指示メインテキスト62小節のみ6264小節6264小節なし

62小節のみなし

(6264小節)(6264小節)

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

幽礼別なし

手稿にはないがドビュッシーによって初版楽譜に加筆された音楽之友社版と春秋社版ではここに限らずオリジナルではないペダルが常時印刷されているが春秋社版には特に脚注が添えられている

3)野をわたる風初版校正稿の第53小節4拍目にはドビュッシーによって=(デイミヌエンド)が書き加えられたが印刷には至らなかった第51小節の=(クレシェンド)と対応する重要な強弱記号だが印刷工の見落としか追加すべきである

(8)第53小節のディミヌエンド---一一一一一-三三二メインテキスト注解のコメントオ リ ジ ナ ル エ デ ィ シ ョ ン な しデ ュ ラ ン ー コ ス タ ラ 版 あ り あ り

ヘ ン レ 版 な し な しウ ィ ー ン 原 典 版 な し な しリ コ ル デ ィ 版 な しペ ー タ ー ス 版 な し な し音 楽 之 友 社 版 な し春 秋 社 版 な し

ドビュッシーによって初版校正の際に加筆された

三 一 =

四一

-161-

4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 11: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

えたり憤慨したりする感情のときめきをいらだったスペイン風のそり身な線をもったキターのリスムに乗せて表現しているlsquo3というマヌエルデファリャ脚の説によるとここには花で飾られた窓の奥に隠れている美しい女性の好意を得ようとギターを持って対時する二人の男性歌手の様子だという6110)沈める寺Lαの城をd『qleegloutie

副惹7r-房ず編醜葬蒔亮の想い出Souvenirsdenfanceetdejeunesse」(1883)に含まれているフランスブルターニュ地方の伝説がもとになっているその内容は「波の下に呪われた眠りをまどろむイスYsの町倒にある寺院がときおり霧の深い朝に朝日と共に透明な大洋の底そして長い年月の奥底から徐々に浮かび出てくる鐘が鳴り司祭たちの歌が聞こえるついでその幻影はあらためて静穏な海の下に消え去る」というものである

1l)パックの踊りLaDαsedePuch - 例 -ウイリアムシェークスピアの『真夏の夜の夢AMidsummerNights

Dream」第2幕第1場に『パックの踊り』のシーンがあるドビュッシーはシェークスピアに惹かれ「お気に召すままAsYouLikelt」や『リア王TrueChronicleHistoryoftheLifeandDeathofKingRear」なども音楽の題材として扱っているが1908年に出版された本の中にあるアーサー(アルテュール)ラッカムArthurRackhamが描いた挿絵に刺激を与えられたらしいラディアード(リュディアール)キプリングRudyardKipling作の物語『ハック』がこの楽曲のもとになったという説も存在するlsquo1「パック」は妖箱の名前だがそのユーモアに富んだ軽々とした動きや

妖精の王オベロンの角笛の響きが音楽で表現されている

(一二一ハ) 12)ミンストレルMistreJs『辻音楽師』と邦訳されることもあるミンストレルとは街から街へと楽

器を弾きながら日銭を稼ぐ道化師のグループのことである白人が身振りも

-167 -

真似ながら黒人の音楽を演奏するのが芸のひとつだったドビュッシーは『子供の領分ChildrensCornerj(1908)でも同様な音

楽『ゴリウオーグのケークウオークGolliwoggsCakewalk」を創作しているがケークウオークとは北米の黒人奴隷の踊る伝統的なダンスであるこのリズムはジャズの先駆として1900年頃ヨーロッパに伝わりミュージックホールの雰囲気とあいまってパリでも大流行したドビュッシーが1905年の夏を過ごしたドーバー海峡に面したイギリスの町イーストボーンEastbourneのグランドホテル前でのアトラクションの印象がこの作品のもとになっているという説もある

市販楽譜のテキスト内容に関する諸問題

今日ではデュラン社から引き続き刊行されているオリジナルエディション以外にも各種の市販楽譜を購入できる初版楽譜と手稿との間に存在する多くの相違点は編纂者の考えるランキングに沿って選別され「メインテキスト内で反映されるもの」「メインテキストの脚注として印刷されるもの」あるいは「注解として一覧掲載されるもの」にまとめられるなお原典版の楽譜でも指使いその他を付加して制作する場合が多いがこれら作曲家のオリジナルではないものは視覚的にオリジナルのものと区別できるように工夫されている旬ドビュッシーの前奏曲第1集における手稿とオリジナルエディションとの

相違は微細なものまで含めると数量的にもかなりなものとなるまた手稿オリジナルエディションどちらにも準拠しないエラーも散見される本稿ではあくまでも「演奏と指導のためのリファレンス」という見地から中でも重要度が高いと思われるものを中心に考察を進めていきたい

メトロノームの指示第1集全12曲のうち8曲田にドビュッシーによるメトロノーム指示があるのに比較して第2集ではただ1曲『ヒースの茂る荒地』のみにつけられている1915年10月9日にドビュッシーがジャックデュランにあてた手紙の

三七L一=

- 1 66 -

中で「メトロノーム指示は書いたところでどうせ[初めの]1小節にしか効果がないVoussavezmonopinionsurlesmouvementsmetronomiquesilssontjustespendantunemesure」と述べていることからも彼自身こういったメトロノーム指定の効力と拘束力をあまり信じていなかったようだ

ドビユッシー特有の記号ドビュッシーの作品を演奏する上でドビュッシー特有の記譜上の特徴を

知ることも大切であるたとえば「hellip」というマークは(Cgdezhelliphellipなど)アゴーギクの変化一リタルダンドあるいはアッチェレランドその他一一が終結する場所を示すのみで「」が同時にブレスや一時休止を意味することはないブレスが必要な場合にはドビュッシーは「」「」その他の記号を使用している

原典と市販楽譜の相違点市販楽譜を比較してみるとその内容にはかなりの相違があるそれらのうち音楽的にも重要で違いを知っておくべきと思われるものを以下に掲載する表の中でグレーの表示になっているところは楽譜のメインテキスト内(いわゆる「譜面」のこと)で適正な処理がされているものである「注解」あるいはそれに準ずる編纂情報はデュランーコスタラ版ヘンレ版ウィーン原典版およびペータース版にしか掲載されていない御なお音名はドイツ音名を使用するしたがってBbは日本音名の変ロ音

Hhはロ音を意味する音の高さの表示については下図を参照されたい

SubkOnlmKOnlmigrOSScKlcincCingCSlriChCnciZlvcigcSIxiChcncidrigCSiliChCnC c昼

に一就一一騨岬翫耀管Ⅵ8 immgcsmchcnc

D一rーーlsquo一の一口ロ一色lsquo-

一鬘〆彗豊ン篁管一一 一 一 i ( 4 1 o ) i

曇== 一

謬篶戸Iざ6

80lsquo回ldquo幻α一口z C 1 H C 1 H 1 C 蹄 c h c U h 8 ザ I F ザ 鼎 c 』 h 4 1 c S

三八一

- 1 65 -

l)デルフイの踊り子第5小節最後の和音は四分音符それに対して第10小節では二分音符となっているが第10小節の二分音符はドビュッシーの手稿では第5小節と同じく四分音符であるしかし手稿の第10小節と11小節の間の小節線上方に自筆で(34)と記載されていることからドビュッシーは第9~10小節を44として創作したと思われるよって二分音符が妥当だろうしかし第4~6小節と第9~l1小節の流れは酷似しており第10小節が34として処理される可能性(最後の和音を四分音符として処理する)も皆無ではない

(1)第10小節最後の和音の音価- - - - - - - ー - - - メインテキスト

二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は四分音符

辿軸薊なし

第16小節4拍目上声部の和音(後打ちの八分音符)は手稿ではc2_d2_c3だが市販楽譜でC2_C3になっているものがあるd2が加筆されるべきだろうなおこの和音に関しては後述「ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項も参照されたい

(2)第16小節4拍目上声部の和音一 一 三 一 注解のコメント-

キC{c{CCCC

-ナー2-2一一一一

ン唖一C-CCCC

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

鋤一型鋤 1

なし

三九hellip手稿はc2_d2-cミウイーン原典版に関しては別の不備がある

ウィーン原典版ではこの和音にドビュッシーが初版校正の際に追記した左手cl-dの音が欠落している

- 1 6 4 -

2)帆(ヴェール)第4小節の最後三つの16分音符には第13小節と同じくスラーに加えてスタッカート(ポルタート)が必要である手稿に記載されている

(3)第4小節のポルタートー ー 一 一 一 一 一 ー - - -

メインテキストなしありありありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

鋤一剛訊なし

手稿の第33小節冒頭に「aTempo」が記載されている追記されるべきである

(4)第33小節のaTempo- - - - - - - - - -

メインテキストなしありなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

副一札一鋤なし

第41小節のバスlBおよび第40小節の同音との間にかけられているタイは手稿になくミスプリントと思われる初版の楽譜で第41小節から新しい段になっているのが原因で校正の際に見落とされたと思われる当初は第41小節にこの不要な二分音符のバスがタイなしで印刷されていたが後日行われた版の組替え時に小節の割り付けが変更されその際にこの音が削除されるのではなく出版社の独断で第40小節からのタイが加筆されてしまった(四)

- 1 63 -

(5)第40小節41小節のタイとバス音- - 注解のコメントメインテキスト

未削除削除すみ未削除削除すみ

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

鋤一鋤訊未削除一

未削除 なし未削除一

未削除

第62小節後半右手のリズムには市販楽譜でかなりの相違が見られる手稿に記されているリズム<譜例1Agtが計算に合わないのがその原因であるいずれにせよ第26小節にあるリズムと区別し後尾の三連音符はより軽く弾かれるべきだろう記譜の正確さという点ではく譜例lBgtlt譜例lCgtどちらかになるが実際の演奏は必ずしもこれらと一致しない

8〈譜例Agtj_m8〈譜例Bgtj_3〈譜例1Cgt」届

(6)第62小節のリズム- - 注解のコメントメインテキスト

譜例1A譜例1C譜例1B譜例1A譜例1A譜例1B譜例1A譜例1A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例1Agtの形になっている

副一釧一社なし へ

um二

第62小節冒頭のペダル記号と第64小節にあるペダルをキャンセルする記-162-

号はドビュッシーにより初版校正の際に初めて加筆された第64小節のキャンセル記号はオリジナルエディションの1930年頃の版から消滅している理由は不明だがドビュッシー死後の事であり作曲者の指示でないことは確実であるペダルをキャンセルする記号は第64小節の冒頭ではなく小節のほぼ中央

下に瞥かれている第63小節で最後の和音c-eが第64小節にはいった時点でペダルも踏みかえ左手の休符を尊重する演奏をよく耳にするがこれが果たして作曲者ドビュッシーの意図した奏法かどうかは不明である

(7)第62小節64小節のペダル指示メインテキスト62小節のみ6264小節6264小節なし

62小節のみなし

(6264小節)(6264小節)

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

幽礼別なし

手稿にはないがドビュッシーによって初版楽譜に加筆された音楽之友社版と春秋社版ではここに限らずオリジナルではないペダルが常時印刷されているが春秋社版には特に脚注が添えられている

3)野をわたる風初版校正稿の第53小節4拍目にはドビュッシーによって=(デイミヌエンド)が書き加えられたが印刷には至らなかった第51小節の=(クレシェンド)と対応する重要な強弱記号だが印刷工の見落としか追加すべきである

(8)第53小節のディミヌエンド---一一一一一-三三二メインテキスト注解のコメントオ リ ジ ナ ル エ デ ィ シ ョ ン な しデ ュ ラ ン ー コ ス タ ラ 版 あ り あ り

ヘ ン レ 版 な し な しウ ィ ー ン 原 典 版 な し な しリ コ ル デ ィ 版 な しペ ー タ ー ス 版 な し な し音 楽 之 友 社 版 な し春 秋 社 版 な し

ドビュッシーによって初版校正の際に加筆された

三 一 =

四一

-161-

4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 12: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

真似ながら黒人の音楽を演奏するのが芸のひとつだったドビュッシーは『子供の領分ChildrensCornerj(1908)でも同様な音

楽『ゴリウオーグのケークウオークGolliwoggsCakewalk」を創作しているがケークウオークとは北米の黒人奴隷の踊る伝統的なダンスであるこのリズムはジャズの先駆として1900年頃ヨーロッパに伝わりミュージックホールの雰囲気とあいまってパリでも大流行したドビュッシーが1905年の夏を過ごしたドーバー海峡に面したイギリスの町イーストボーンEastbourneのグランドホテル前でのアトラクションの印象がこの作品のもとになっているという説もある

市販楽譜のテキスト内容に関する諸問題

今日ではデュラン社から引き続き刊行されているオリジナルエディション以外にも各種の市販楽譜を購入できる初版楽譜と手稿との間に存在する多くの相違点は編纂者の考えるランキングに沿って選別され「メインテキスト内で反映されるもの」「メインテキストの脚注として印刷されるもの」あるいは「注解として一覧掲載されるもの」にまとめられるなお原典版の楽譜でも指使いその他を付加して制作する場合が多いがこれら作曲家のオリジナルではないものは視覚的にオリジナルのものと区別できるように工夫されている旬ドビュッシーの前奏曲第1集における手稿とオリジナルエディションとの

相違は微細なものまで含めると数量的にもかなりなものとなるまた手稿オリジナルエディションどちらにも準拠しないエラーも散見される本稿ではあくまでも「演奏と指導のためのリファレンス」という見地から中でも重要度が高いと思われるものを中心に考察を進めていきたい

メトロノームの指示第1集全12曲のうち8曲田にドビュッシーによるメトロノーム指示があるのに比較して第2集ではただ1曲『ヒースの茂る荒地』のみにつけられている1915年10月9日にドビュッシーがジャックデュランにあてた手紙の

三七L一=

- 1 66 -

中で「メトロノーム指示は書いたところでどうせ[初めの]1小節にしか効果がないVoussavezmonopinionsurlesmouvementsmetronomiquesilssontjustespendantunemesure」と述べていることからも彼自身こういったメトロノーム指定の効力と拘束力をあまり信じていなかったようだ

ドビユッシー特有の記号ドビュッシーの作品を演奏する上でドビュッシー特有の記譜上の特徴を

知ることも大切であるたとえば「hellip」というマークは(Cgdezhelliphellipなど)アゴーギクの変化一リタルダンドあるいはアッチェレランドその他一一が終結する場所を示すのみで「」が同時にブレスや一時休止を意味することはないブレスが必要な場合にはドビュッシーは「」「」その他の記号を使用している

原典と市販楽譜の相違点市販楽譜を比較してみるとその内容にはかなりの相違があるそれらのうち音楽的にも重要で違いを知っておくべきと思われるものを以下に掲載する表の中でグレーの表示になっているところは楽譜のメインテキスト内(いわゆる「譜面」のこと)で適正な処理がされているものである「注解」あるいはそれに準ずる編纂情報はデュランーコスタラ版ヘンレ版ウィーン原典版およびペータース版にしか掲載されていない御なお音名はドイツ音名を使用するしたがってBbは日本音名の変ロ音

Hhはロ音を意味する音の高さの表示については下図を参照されたい

SubkOnlmKOnlmigrOSScKlcincCingCSlriChCnciZlvcigcSIxiChcncidrigCSiliChCnC c昼

に一就一一騨岬翫耀管Ⅵ8 immgcsmchcnc

D一rーーlsquo一の一口ロ一色lsquo-

一鬘〆彗豊ン篁管一一 一 一 i ( 4 1 o ) i

曇== 一

謬篶戸Iざ6

80lsquo回ldquo幻α一口z C 1 H C 1 H 1 C 蹄 c h c U h 8 ザ I F ザ 鼎 c 』 h 4 1 c S

三八一

- 1 65 -

l)デルフイの踊り子第5小節最後の和音は四分音符それに対して第10小節では二分音符となっているが第10小節の二分音符はドビュッシーの手稿では第5小節と同じく四分音符であるしかし手稿の第10小節と11小節の間の小節線上方に自筆で(34)と記載されていることからドビュッシーは第9~10小節を44として創作したと思われるよって二分音符が妥当だろうしかし第4~6小節と第9~l1小節の流れは酷似しており第10小節が34として処理される可能性(最後の和音を四分音符として処理する)も皆無ではない

(1)第10小節最後の和音の音価- - - - - - - ー - - - メインテキスト

二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は四分音符

辿軸薊なし

第16小節4拍目上声部の和音(後打ちの八分音符)は手稿ではc2_d2_c3だが市販楽譜でC2_C3になっているものがあるd2が加筆されるべきだろうなおこの和音に関しては後述「ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項も参照されたい

(2)第16小節4拍目上声部の和音一 一 三 一 注解のコメント-

キC{c{CCCC

-ナー2-2一一一一

ン唖一C-CCCC

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

鋤一型鋤 1

なし

三九hellip手稿はc2_d2-cミウイーン原典版に関しては別の不備がある

ウィーン原典版ではこの和音にドビュッシーが初版校正の際に追記した左手cl-dの音が欠落している

- 1 6 4 -

2)帆(ヴェール)第4小節の最後三つの16分音符には第13小節と同じくスラーに加えてスタッカート(ポルタート)が必要である手稿に記載されている

(3)第4小節のポルタートー ー 一 一 一 一 一 ー - - -

メインテキストなしありありありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

鋤一剛訊なし

手稿の第33小節冒頭に「aTempo」が記載されている追記されるべきである

(4)第33小節のaTempo- - - - - - - - - -

メインテキストなしありなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

副一札一鋤なし

第41小節のバスlBおよび第40小節の同音との間にかけられているタイは手稿になくミスプリントと思われる初版の楽譜で第41小節から新しい段になっているのが原因で校正の際に見落とされたと思われる当初は第41小節にこの不要な二分音符のバスがタイなしで印刷されていたが後日行われた版の組替え時に小節の割り付けが変更されその際にこの音が削除されるのではなく出版社の独断で第40小節からのタイが加筆されてしまった(四)

- 1 63 -

(5)第40小節41小節のタイとバス音- - 注解のコメントメインテキスト

未削除削除すみ未削除削除すみ

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

鋤一鋤訊未削除一

未削除 なし未削除一

未削除

第62小節後半右手のリズムには市販楽譜でかなりの相違が見られる手稿に記されているリズム<譜例1Agtが計算に合わないのがその原因であるいずれにせよ第26小節にあるリズムと区別し後尾の三連音符はより軽く弾かれるべきだろう記譜の正確さという点ではく譜例lBgtlt譜例lCgtどちらかになるが実際の演奏は必ずしもこれらと一致しない

8〈譜例Agtj_m8〈譜例Bgtj_3〈譜例1Cgt」届

(6)第62小節のリズム- - 注解のコメントメインテキスト

譜例1A譜例1C譜例1B譜例1A譜例1A譜例1B譜例1A譜例1A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例1Agtの形になっている

副一釧一社なし へ

um二

第62小節冒頭のペダル記号と第64小節にあるペダルをキャンセルする記-162-

号はドビュッシーにより初版校正の際に初めて加筆された第64小節のキャンセル記号はオリジナルエディションの1930年頃の版から消滅している理由は不明だがドビュッシー死後の事であり作曲者の指示でないことは確実であるペダルをキャンセルする記号は第64小節の冒頭ではなく小節のほぼ中央

下に瞥かれている第63小節で最後の和音c-eが第64小節にはいった時点でペダルも踏みかえ左手の休符を尊重する演奏をよく耳にするがこれが果たして作曲者ドビュッシーの意図した奏法かどうかは不明である

(7)第62小節64小節のペダル指示メインテキスト62小節のみ6264小節6264小節なし

62小節のみなし

(6264小節)(6264小節)

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

幽礼別なし

手稿にはないがドビュッシーによって初版楽譜に加筆された音楽之友社版と春秋社版ではここに限らずオリジナルではないペダルが常時印刷されているが春秋社版には特に脚注が添えられている

3)野をわたる風初版校正稿の第53小節4拍目にはドビュッシーによって=(デイミヌエンド)が書き加えられたが印刷には至らなかった第51小節の=(クレシェンド)と対応する重要な強弱記号だが印刷工の見落としか追加すべきである

(8)第53小節のディミヌエンド---一一一一一-三三二メインテキスト注解のコメントオ リ ジ ナ ル エ デ ィ シ ョ ン な しデ ュ ラ ン ー コ ス タ ラ 版 あ り あ り

ヘ ン レ 版 な し な しウ ィ ー ン 原 典 版 な し な しリ コ ル デ ィ 版 な しペ ー タ ー ス 版 な し な し音 楽 之 友 社 版 な し春 秋 社 版 な し

ドビュッシーによって初版校正の際に加筆された

三 一 =

四一

-161-

4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 13: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

中で「メトロノーム指示は書いたところでどうせ[初めの]1小節にしか効果がないVoussavezmonopinionsurlesmouvementsmetronomiquesilssontjustespendantunemesure」と述べていることからも彼自身こういったメトロノーム指定の効力と拘束力をあまり信じていなかったようだ

ドビユッシー特有の記号ドビュッシーの作品を演奏する上でドビュッシー特有の記譜上の特徴を

知ることも大切であるたとえば「hellip」というマークは(Cgdezhelliphellipなど)アゴーギクの変化一リタルダンドあるいはアッチェレランドその他一一が終結する場所を示すのみで「」が同時にブレスや一時休止を意味することはないブレスが必要な場合にはドビュッシーは「」「」その他の記号を使用している

原典と市販楽譜の相違点市販楽譜を比較してみるとその内容にはかなりの相違があるそれらのうち音楽的にも重要で違いを知っておくべきと思われるものを以下に掲載する表の中でグレーの表示になっているところは楽譜のメインテキスト内(いわゆる「譜面」のこと)で適正な処理がされているものである「注解」あるいはそれに準ずる編纂情報はデュランーコスタラ版ヘンレ版ウィーン原典版およびペータース版にしか掲載されていない御なお音名はドイツ音名を使用するしたがってBbは日本音名の変ロ音

Hhはロ音を意味する音の高さの表示については下図を参照されたい

SubkOnlmKOnlmigrOSScKlcincCingCSlriChCnciZlvcigcSIxiChcncidrigCSiliChCnC c昼

に一就一一騨岬翫耀管Ⅵ8 immgcsmchcnc

D一rーーlsquo一の一口ロ一色lsquo-

一鬘〆彗豊ン篁管一一 一 一 i ( 4 1 o ) i

曇== 一

謬篶戸Iざ6

80lsquo回ldquo幻α一口z C 1 H C 1 H 1 C 蹄 c h c U h 8 ザ I F ザ 鼎 c 』 h 4 1 c S

三八一

- 1 65 -

l)デルフイの踊り子第5小節最後の和音は四分音符それに対して第10小節では二分音符となっているが第10小節の二分音符はドビュッシーの手稿では第5小節と同じく四分音符であるしかし手稿の第10小節と11小節の間の小節線上方に自筆で(34)と記載されていることからドビュッシーは第9~10小節を44として創作したと思われるよって二分音符が妥当だろうしかし第4~6小節と第9~l1小節の流れは酷似しており第10小節が34として処理される可能性(最後の和音を四分音符として処理する)も皆無ではない

(1)第10小節最後の和音の音価- - - - - - - ー - - - メインテキスト

二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は四分音符

辿軸薊なし

第16小節4拍目上声部の和音(後打ちの八分音符)は手稿ではc2_d2_c3だが市販楽譜でC2_C3になっているものがあるd2が加筆されるべきだろうなおこの和音に関しては後述「ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項も参照されたい

(2)第16小節4拍目上声部の和音一 一 三 一 注解のコメント-

キC{c{CCCC

-ナー2-2一一一一

ン唖一C-CCCC

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

鋤一型鋤 1

なし

三九hellip手稿はc2_d2-cミウイーン原典版に関しては別の不備がある

ウィーン原典版ではこの和音にドビュッシーが初版校正の際に追記した左手cl-dの音が欠落している

- 1 6 4 -

2)帆(ヴェール)第4小節の最後三つの16分音符には第13小節と同じくスラーに加えてスタッカート(ポルタート)が必要である手稿に記載されている

(3)第4小節のポルタートー ー 一 一 一 一 一 ー - - -

メインテキストなしありありありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

鋤一剛訊なし

手稿の第33小節冒頭に「aTempo」が記載されている追記されるべきである

(4)第33小節のaTempo- - - - - - - - - -

メインテキストなしありなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

副一札一鋤なし

第41小節のバスlBおよび第40小節の同音との間にかけられているタイは手稿になくミスプリントと思われる初版の楽譜で第41小節から新しい段になっているのが原因で校正の際に見落とされたと思われる当初は第41小節にこの不要な二分音符のバスがタイなしで印刷されていたが後日行われた版の組替え時に小節の割り付けが変更されその際にこの音が削除されるのではなく出版社の独断で第40小節からのタイが加筆されてしまった(四)

- 1 63 -

(5)第40小節41小節のタイとバス音- - 注解のコメントメインテキスト

未削除削除すみ未削除削除すみ

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

鋤一鋤訊未削除一

未削除 なし未削除一

未削除

第62小節後半右手のリズムには市販楽譜でかなりの相違が見られる手稿に記されているリズム<譜例1Agtが計算に合わないのがその原因であるいずれにせよ第26小節にあるリズムと区別し後尾の三連音符はより軽く弾かれるべきだろう記譜の正確さという点ではく譜例lBgtlt譜例lCgtどちらかになるが実際の演奏は必ずしもこれらと一致しない

8〈譜例Agtj_m8〈譜例Bgtj_3〈譜例1Cgt」届

(6)第62小節のリズム- - 注解のコメントメインテキスト

譜例1A譜例1C譜例1B譜例1A譜例1A譜例1B譜例1A譜例1A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例1Agtの形になっている

副一釧一社なし へ

um二

第62小節冒頭のペダル記号と第64小節にあるペダルをキャンセルする記-162-

号はドビュッシーにより初版校正の際に初めて加筆された第64小節のキャンセル記号はオリジナルエディションの1930年頃の版から消滅している理由は不明だがドビュッシー死後の事であり作曲者の指示でないことは確実であるペダルをキャンセルする記号は第64小節の冒頭ではなく小節のほぼ中央

下に瞥かれている第63小節で最後の和音c-eが第64小節にはいった時点でペダルも踏みかえ左手の休符を尊重する演奏をよく耳にするがこれが果たして作曲者ドビュッシーの意図した奏法かどうかは不明である

(7)第62小節64小節のペダル指示メインテキスト62小節のみ6264小節6264小節なし

62小節のみなし

(6264小節)(6264小節)

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

幽礼別なし

手稿にはないがドビュッシーによって初版楽譜に加筆された音楽之友社版と春秋社版ではここに限らずオリジナルではないペダルが常時印刷されているが春秋社版には特に脚注が添えられている

3)野をわたる風初版校正稿の第53小節4拍目にはドビュッシーによって=(デイミヌエンド)が書き加えられたが印刷には至らなかった第51小節の=(クレシェンド)と対応する重要な強弱記号だが印刷工の見落としか追加すべきである

(8)第53小節のディミヌエンド---一一一一一-三三二メインテキスト注解のコメントオ リ ジ ナ ル エ デ ィ シ ョ ン な しデ ュ ラ ン ー コ ス タ ラ 版 あ り あ り

ヘ ン レ 版 な し な しウ ィ ー ン 原 典 版 な し な しリ コ ル デ ィ 版 な しペ ー タ ー ス 版 な し な し音 楽 之 友 社 版 な し春 秋 社 版 な し

ドビュッシーによって初版校正の際に加筆された

三 一 =

四一

-161-

4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 14: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

l)デルフイの踊り子第5小節最後の和音は四分音符それに対して第10小節では二分音符となっているが第10小節の二分音符はドビュッシーの手稿では第5小節と同じく四分音符であるしかし手稿の第10小節と11小節の間の小節線上方に自筆で(34)と記載されていることからドビュッシーは第9~10小節を44として創作したと思われるよって二分音符が妥当だろうしかし第4~6小節と第9~l1小節の流れは酷似しており第10小節が34として処理される可能性(最後の和音を四分音符として処理する)も皆無ではない

(1)第10小節最後の和音の音価- - - - - - - ー - - - メインテキスト

二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は四分音符

辿軸薊なし

第16小節4拍目上声部の和音(後打ちの八分音符)は手稿ではc2_d2_c3だが市販楽譜でC2_C3になっているものがあるd2が加筆されるべきだろうなおこの和音に関しては後述「ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項も参照されたい

(2)第16小節4拍目上声部の和音一 一 三 一 注解のコメント-

キC{c{CCCC

-ナー2-2一一一一

ン唖一C-CCCC

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

鋤一型鋤 1

なし

三九hellip手稿はc2_d2-cミウイーン原典版に関しては別の不備がある

ウィーン原典版ではこの和音にドビュッシーが初版校正の際に追記した左手cl-dの音が欠落している

- 1 6 4 -

2)帆(ヴェール)第4小節の最後三つの16分音符には第13小節と同じくスラーに加えてスタッカート(ポルタート)が必要である手稿に記載されている

(3)第4小節のポルタートー ー 一 一 一 一 一 ー - - -

メインテキストなしありありありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

鋤一剛訊なし

手稿の第33小節冒頭に「aTempo」が記載されている追記されるべきである

(4)第33小節のaTempo- - - - - - - - - -

メインテキストなしありなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

副一札一鋤なし

第41小節のバスlBおよび第40小節の同音との間にかけられているタイは手稿になくミスプリントと思われる初版の楽譜で第41小節から新しい段になっているのが原因で校正の際に見落とされたと思われる当初は第41小節にこの不要な二分音符のバスがタイなしで印刷されていたが後日行われた版の組替え時に小節の割り付けが変更されその際にこの音が削除されるのではなく出版社の独断で第40小節からのタイが加筆されてしまった(四)

- 1 63 -

(5)第40小節41小節のタイとバス音- - 注解のコメントメインテキスト

未削除削除すみ未削除削除すみ

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

鋤一鋤訊未削除一

未削除 なし未削除一

未削除

第62小節後半右手のリズムには市販楽譜でかなりの相違が見られる手稿に記されているリズム<譜例1Agtが計算に合わないのがその原因であるいずれにせよ第26小節にあるリズムと区別し後尾の三連音符はより軽く弾かれるべきだろう記譜の正確さという点ではく譜例lBgtlt譜例lCgtどちらかになるが実際の演奏は必ずしもこれらと一致しない

8〈譜例Agtj_m8〈譜例Bgtj_3〈譜例1Cgt」届

(6)第62小節のリズム- - 注解のコメントメインテキスト

譜例1A譜例1C譜例1B譜例1A譜例1A譜例1B譜例1A譜例1A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例1Agtの形になっている

副一釧一社なし へ

um二

第62小節冒頭のペダル記号と第64小節にあるペダルをキャンセルする記-162-

号はドビュッシーにより初版校正の際に初めて加筆された第64小節のキャンセル記号はオリジナルエディションの1930年頃の版から消滅している理由は不明だがドビュッシー死後の事であり作曲者の指示でないことは確実であるペダルをキャンセルする記号は第64小節の冒頭ではなく小節のほぼ中央

下に瞥かれている第63小節で最後の和音c-eが第64小節にはいった時点でペダルも踏みかえ左手の休符を尊重する演奏をよく耳にするがこれが果たして作曲者ドビュッシーの意図した奏法かどうかは不明である

(7)第62小節64小節のペダル指示メインテキスト62小節のみ6264小節6264小節なし

62小節のみなし

(6264小節)(6264小節)

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

幽礼別なし

手稿にはないがドビュッシーによって初版楽譜に加筆された音楽之友社版と春秋社版ではここに限らずオリジナルではないペダルが常時印刷されているが春秋社版には特に脚注が添えられている

3)野をわたる風初版校正稿の第53小節4拍目にはドビュッシーによって=(デイミヌエンド)が書き加えられたが印刷には至らなかった第51小節の=(クレシェンド)と対応する重要な強弱記号だが印刷工の見落としか追加すべきである

(8)第53小節のディミヌエンド---一一一一一-三三二メインテキスト注解のコメントオ リ ジ ナ ル エ デ ィ シ ョ ン な しデ ュ ラ ン ー コ ス タ ラ 版 あ り あ り

ヘ ン レ 版 な し な しウ ィ ー ン 原 典 版 な し な しリ コ ル デ ィ 版 な しペ ー タ ー ス 版 な し な し音 楽 之 友 社 版 な し春 秋 社 版 な し

ドビュッシーによって初版校正の際に加筆された

三 一 =

四一

-161-

4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 15: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

2)帆(ヴェール)第4小節の最後三つの16分音符には第13小節と同じくスラーに加えてスタッカート(ポルタート)が必要である手稿に記載されている

(3)第4小節のポルタートー ー 一 一 一 一 一 ー - - -

メインテキストなしありありありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

鋤一剛訊なし

手稿の第33小節冒頭に「aTempo」が記載されている追記されるべきである

(4)第33小節のaTempo- - - - - - - - - -

メインテキストなしありなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に記載されている

副一札一鋤なし

第41小節のバスlBおよび第40小節の同音との間にかけられているタイは手稿になくミスプリントと思われる初版の楽譜で第41小節から新しい段になっているのが原因で校正の際に見落とされたと思われる当初は第41小節にこの不要な二分音符のバスがタイなしで印刷されていたが後日行われた版の組替え時に小節の割り付けが変更されその際にこの音が削除されるのではなく出版社の独断で第40小節からのタイが加筆されてしまった(四)

- 1 63 -

(5)第40小節41小節のタイとバス音- - 注解のコメントメインテキスト

未削除削除すみ未削除削除すみ

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

鋤一鋤訊未削除一

未削除 なし未削除一

未削除

第62小節後半右手のリズムには市販楽譜でかなりの相違が見られる手稿に記されているリズム<譜例1Agtが計算に合わないのがその原因であるいずれにせよ第26小節にあるリズムと区別し後尾の三連音符はより軽く弾かれるべきだろう記譜の正確さという点ではく譜例lBgtlt譜例lCgtどちらかになるが実際の演奏は必ずしもこれらと一致しない

8〈譜例Agtj_m8〈譜例Bgtj_3〈譜例1Cgt」届

(6)第62小節のリズム- - 注解のコメントメインテキスト

譜例1A譜例1C譜例1B譜例1A譜例1A譜例1B譜例1A譜例1A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例1Agtの形になっている

副一釧一社なし へ

um二

第62小節冒頭のペダル記号と第64小節にあるペダルをキャンセルする記-162-

号はドビュッシーにより初版校正の際に初めて加筆された第64小節のキャンセル記号はオリジナルエディションの1930年頃の版から消滅している理由は不明だがドビュッシー死後の事であり作曲者の指示でないことは確実であるペダルをキャンセルする記号は第64小節の冒頭ではなく小節のほぼ中央

下に瞥かれている第63小節で最後の和音c-eが第64小節にはいった時点でペダルも踏みかえ左手の休符を尊重する演奏をよく耳にするがこれが果たして作曲者ドビュッシーの意図した奏法かどうかは不明である

(7)第62小節64小節のペダル指示メインテキスト62小節のみ6264小節6264小節なし

62小節のみなし

(6264小節)(6264小節)

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

幽礼別なし

手稿にはないがドビュッシーによって初版楽譜に加筆された音楽之友社版と春秋社版ではここに限らずオリジナルではないペダルが常時印刷されているが春秋社版には特に脚注が添えられている

3)野をわたる風初版校正稿の第53小節4拍目にはドビュッシーによって=(デイミヌエンド)が書き加えられたが印刷には至らなかった第51小節の=(クレシェンド)と対応する重要な強弱記号だが印刷工の見落としか追加すべきである

(8)第53小節のディミヌエンド---一一一一一-三三二メインテキスト注解のコメントオ リ ジ ナ ル エ デ ィ シ ョ ン な しデ ュ ラ ン ー コ ス タ ラ 版 あ り あ り

ヘ ン レ 版 な し な しウ ィ ー ン 原 典 版 な し な しリ コ ル デ ィ 版 な しペ ー タ ー ス 版 な し な し音 楽 之 友 社 版 な し春 秋 社 版 な し

ドビュッシーによって初版校正の際に加筆された

三 一 =

四一

-161-

4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 16: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

(5)第40小節41小節のタイとバス音- - 注解のコメントメインテキスト

未削除削除すみ未削除削除すみ

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

鋤一鋤訊未削除一

未削除 なし未削除一

未削除

第62小節後半右手のリズムには市販楽譜でかなりの相違が見られる手稿に記されているリズム<譜例1Agtが計算に合わないのがその原因であるいずれにせよ第26小節にあるリズムと区別し後尾の三連音符はより軽く弾かれるべきだろう記譜の正確さという点ではく譜例lBgtlt譜例lCgtどちらかになるが実際の演奏は必ずしもこれらと一致しない

8〈譜例Agtj_m8〈譜例Bgtj_3〈譜例1Cgt」届

(6)第62小節のリズム- - 注解のコメントメインテキスト

譜例1A譜例1C譜例1B譜例1A譜例1A譜例1B譜例1A譜例1A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例1Agtの形になっている

副一釧一社なし へ

um二

第62小節冒頭のペダル記号と第64小節にあるペダルをキャンセルする記-162-

号はドビュッシーにより初版校正の際に初めて加筆された第64小節のキャンセル記号はオリジナルエディションの1930年頃の版から消滅している理由は不明だがドビュッシー死後の事であり作曲者の指示でないことは確実であるペダルをキャンセルする記号は第64小節の冒頭ではなく小節のほぼ中央

下に瞥かれている第63小節で最後の和音c-eが第64小節にはいった時点でペダルも踏みかえ左手の休符を尊重する演奏をよく耳にするがこれが果たして作曲者ドビュッシーの意図した奏法かどうかは不明である

(7)第62小節64小節のペダル指示メインテキスト62小節のみ6264小節6264小節なし

62小節のみなし

(6264小節)(6264小節)

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

幽礼別なし

手稿にはないがドビュッシーによって初版楽譜に加筆された音楽之友社版と春秋社版ではここに限らずオリジナルではないペダルが常時印刷されているが春秋社版には特に脚注が添えられている

3)野をわたる風初版校正稿の第53小節4拍目にはドビュッシーによって=(デイミヌエンド)が書き加えられたが印刷には至らなかった第51小節の=(クレシェンド)と対応する重要な強弱記号だが印刷工の見落としか追加すべきである

(8)第53小節のディミヌエンド---一一一一一-三三二メインテキスト注解のコメントオ リ ジ ナ ル エ デ ィ シ ョ ン な しデ ュ ラ ン ー コ ス タ ラ 版 あ り あ り

ヘ ン レ 版 な し な しウ ィ ー ン 原 典 版 な し な しリ コ ル デ ィ 版 な しペ ー タ ー ス 版 な し な し音 楽 之 友 社 版 な し春 秋 社 版 な し

ドビュッシーによって初版校正の際に加筆された

三 一 =

四一

-161-

4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 17: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

号はドビュッシーにより初版校正の際に初めて加筆された第64小節のキャンセル記号はオリジナルエディションの1930年頃の版から消滅している理由は不明だがドビュッシー死後の事であり作曲者の指示でないことは確実であるペダルをキャンセルする記号は第64小節の冒頭ではなく小節のほぼ中央

下に瞥かれている第63小節で最後の和音c-eが第64小節にはいった時点でペダルも踏みかえ左手の休符を尊重する演奏をよく耳にするがこれが果たして作曲者ドビュッシーの意図した奏法かどうかは不明である

(7)第62小節64小節のペダル指示メインテキスト62小節のみ6264小節6264小節なし

62小節のみなし

(6264小節)(6264小節)

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

幽礼別なし

手稿にはないがドビュッシーによって初版楽譜に加筆された音楽之友社版と春秋社版ではここに限らずオリジナルではないペダルが常時印刷されているが春秋社版には特に脚注が添えられている

3)野をわたる風初版校正稿の第53小節4拍目にはドビュッシーによって=(デイミヌエンド)が書き加えられたが印刷には至らなかった第51小節の=(クレシェンド)と対応する重要な強弱記号だが印刷工の見落としか追加すべきである

(8)第53小節のディミヌエンド---一一一一一-三三二メインテキスト注解のコメントオ リ ジ ナ ル エ デ ィ シ ョ ン な しデ ュ ラ ン ー コ ス タ ラ 版 あ り あ り

ヘ ン レ 版 な し な しウ ィ ー ン 原 典 版 な し な しリ コ ル デ ィ 版 な しペ ー タ ー ス 版 な し な し音 楽 之 友 社 版 な し春 秋 社 版 な し

ドビュッシーによって初版校正の際に加筆された

三 一 =

四一

-161-

4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 18: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

4)音と香りは夕暮れの大気にただよう第29小節右手五つ目の和音には左手の和音と同様e2に臨時記号hがつく手稿に明確に記入されているにもかかわらず初版制作の際に見落とされた

(9)第29小節のナチュラルー - - - - - - - - - -

注解のコメントメインテキスト不適切なしありありありありありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ベータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

刎鋤一札なし

そこから類推すると同じ第29小節の右手三つ目の和音にはf2の音にを付加して半音上げ左手gejとの衝突を避けるべきだろう

(10)第29小節のシャープー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

メインテキスト|注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

軸一札 幽鋤一札幽型処紬矼矼あり

第31小節は4拍あるように見えるが譜面通りの音価で計算すると本来3拍でおさまるべき小節である三十二分音符で書かれた七連音符最後の音にタイで連結されている四分音符のバスlASにそろえて最後の拍に見える和音も弾かれるべきなのだがグラフィックのずれから視角上四分音符1拍分の錯覚が生じるこの小節のプロポーションは第33小節や第37小節とは違うのだろうかこの誤解を招きやすい書き方は既に手稿にあるためく譜例2Agt単なるミスプリントとは断定できないバス音lAS上方のスペースに四分休符が書き落とされたのではとも考えられるがそうすると54と34という奇数拍のリズムで統一された作品の流れがこの部分だけ不規則になってしまう

一一

一 三

-160-

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 19: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

ペータース版で試みられているような全く新しい小節の分割方法く譜例2Bgtも原典を反映しているとは言えず感心できない第33小節や第37小節の場合いわゆる「アウフタクト」が直前の小節(第

32あるいは36小節)の3拍目にある問題の第31小節も音楽的には「アウフタクト+34」と考えるのが自然と思われる真相は不明だがドビュッシーによる「Rubato」の指示もありある程度自由な解釈が可能だろう

<譜例2Agt一 一 b 呵 閂 一 一

<譜例2Bgt

S e r r c z - - _ _ R u b a t oCldquoez-

RubMOへ

rsquo齢 = 一 一 = = = = = 畠 封 画 =ー

=ニューリ示峰黙lsquo2

Qj

唾 rdquo

」峰rdquo 7一

l8rj

一一一

一一一一一一一二r 寺

(11)第31小節のリズム二 言 一 メインテキスト

手稿通り34拍に訂正手稿通り[44]と補足手稿通り

く譜例2Bgt参照手稿通り手稿通り

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

副一軸一軸(四四)

あり

- 159 -

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 20: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

5)アナカプリの丘手稿では第6小節直後「Enserrant」のアウフタクトとともに24拍子に移行する小節との間にl小節空白の小節が存在するく譜例3>oここには第6小節よりタイが10本伸びてきているのみで音符は書込まれていない手稿ではこの小節がちょうどその段の最後に位置しているため初版制作の際にこの小節が単なる余剰スペースと誤解されてしまったfl)

<譜例3>IJ IQ )

(12)空白の第7小節が挿入されているか注解のコメント

- - ー ー - - - - - - - - - メインテキストなし挿入なし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

鋤矼而遡軸なし型札矼

第9(+1 )小節 ldquoの強弱記号は=ではなlt=である

1)小節の強弱記号メインテキスト注解のコメントディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しク レ シ ェ ン ド な しディミヌエンドク レ シ ェ ン ド な しクレシェンドクレシェンド

(13) 第9(+1- - - - - - - - - - - - -

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はクレシェンド

(四五)

- 1 5 8 -

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 21: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

第12(+1)小節冒頭右手の八分音符への強弱記号は「p」ではなく「sfz」である手稿に記載されている「sfz」は筆跡が乱雑で注意しないと「p」と読み違えてしまうような形をしている同小節に書かれている言葉は手稿では「dimmoltolegierissimo」となっているオリジナルエディションにある「dimmoltoleggiero」という書き方では「molto」が「dim」あるいは「leggiero」のどちらにかかるのか不明瞭だが手稿の「molto」の後にピリオドが打たれているところおよび「leg[g]1eriSsimo」という最上級が使用されているところを見ると「molto」は「dim」とリンクさせるのが妥当だろうドビュッシーが扱った初版の校正稿には「dimmoltolegiero」と印刷されておりこれを校正した形跡は見あたらない

(14)第12(+1 )小節の表情記号メインテキスト|注解のコメント- -

pdimmoltoleggieroオリジナルエディション

sfZdimmoltoleggierissimoデュランーコスタラ版 あり

pdimmolto leggiero

ヘンレ版 なし

pdimmoltoleggierissimoウィーン原典版 あり

pdimmo l to legg ie roリコルディ版

pdim mo l t o l egg

ペータース版 なし

pdimmoltoleggiero音楽之友社版

pdim mo l to l egg i e ro春秋社版

手稿はsfzおよびdimmoltolegierissimo

第42(+1)~43(+1)小節にまたがって左手のバスfisについているタイは手稿には存在しない初版校正稿でドビュッシーによって加筆されたものだがこれはタイではなく第83(+1)~84(+1)小節と同様のスラーを意図したと思われる

(四六)

-157-

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 22: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

(15)第42(+1)~43(+1)小節のバスはタイかスラーか- - - - - - - - ー 一 一 メインテキスト注解のコメント

タイタ イ あ りス ラ ー な し〈 ス ラ ー ) な しタイス ラ ー な しタイタイ

)に入れた補足事項としてfis-h間に印刷されている

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版のスラーは丸括弧

第94(+1)~95(+1)小節の手稿はく譜例4Agtのように書かれている六十四分音符は特に小さめの音符では書かれておらず「小さな音符で彫版するように」との彫版工への指示も行われていない<譜例4Bgtはオリジナルエディションその他でのレイアウトである

<譜例4Agt

ツ 潅 雲 震LIImTrbsretcnllLM回り鋤

I 1一争 早 早 凸 缶 占

」一一=rsquo 錘 ③ヵFfrr土≧

一一一

一一一鹿

<譜例4Bgt

ツツ蓋≦串悪霊LMm1risrctcm】

内』H

I 継 厚 =IB 一 房ぞ堂堂王rsquo⑨ ③{)rsquo =n邸H

一一一一二一一一一一二= 臣

(四七)

-156-

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 23: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

(16) 第94(+1)~95(+1)小節のレイアウト------|メインテキスト|注解のコメント- - - - - - - - - - - - 卜抱把払いldquo杷州ldquo蝸

壱洲剛測郷諏獅獅識

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版

鋤軸矼ベータ完ス版音楽之友社版

なし

春 秋 社 版 |手稿のレイアウトはく譜例4Agt

6)雪の上の足跡第28小節~29小節にかけて印刷されている「Commeuntendreettristeregret愛情のこもったかなしい哀悼のように」という指示は当初のドビユッシーの手稿では「expressifettendre」のみだが初版校正の際に変更された

7)西風の見たもの第15~18小節までの外声部複付点のリズムと内声部三連音符との時間的位置関係だが外声部の三十二分音符は通常楽譜に印刷されている音符の位置に従って三連音符群の後に演奏されるそれがドビュッシーの意図だと思われるがく譜例5Agtこのリズムに四分音符十複付点八分音符十三十二分音符という組合わせを使用するのは不適当である数学的に位置を調整するとく譜例5Bgtのようになる

<譜例5Agt一 画 一 一 一 一 一 由 一 一

一 合 一 - 一 -

(四八)

- 155 -

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 24: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

<譜例5Bgt

研一333

一雨33

類似の齪濡は第19~20小節に至ってさらに顕著となるこれはドビュッシー

鰯鷲罵鰯糊鴛繍雲鰯艤と識鑑因しているがこの部分の奏法については第15~18小節の場合と異なりいくつかの可能性を提示することができる<譜例6Agtはドビュッシーの手稿<譜例6Bgt以下はオリジナルエディションその他で見受けられるバージョンである<譜例6Agt <譜例6Cgt

Jn』』』JjPJ) 1-洞jjJjjJ)<譜例6Dgt<譜例6Bgt

ノ胴歳=rOj局用汗rj

(17)第19~20小節のレイアウ 卜注解のコメント

一 一 一 一 一 一 一 = 一 一 一メインテキスト譜例6B譜例6C譜例6B譜例6D譜例6B譜例6D譜例6B譜例6B

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例6Agt

副鋤一鋤あり

外声部のリズムが譜例にある「複付点のついた四分音符十十六分音符」のように中庸なものではなく第17~18小節で使用されている鋭いリズムを保持したまま盛りあげられていく可能性も考えられるだろう第15~18小節と第19~20小節の外声部の書き方に差がみられるのは(最後の音が三十二分音符あるいは十六分音符と統一されていない)単に記譜上の繁雑さおよ

(四九)

- 1 5 4 -

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 25: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

ぴ印刷技術上の問題によるものと思われる第19~20小節においてそれまでと同じ形で外声部を書き続けることは特に左手のメロディーにおいてタイその他と内声部が重複してしまい2段の大譜表での表記は現実問題として不可能である

オリジナルエディションの第18小節に印刷されている「RevenirprogressivementaumouvementAnim6アニマートのテンポにだんだんにもどるように」という指示は手稿ではl小節早く第17小節に書かれている

(18)「RevenirprogressivementaumouvementAnime」の位置

- - - - - - - ー - - -

注解のコメントメインテキスト第18小節第17小節第17小節第17小節第18小節第18小節第18小節第18小節

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第17小節

迦副薊なし

第21小節前半のリズムは不明瞭である手稿にあるく譜例7Agtの書法ではリズムのつじつまが合わないここでもいくつかの奏法が考えられ以下に提示する

<譜例7Agt

Irsquo零二季<譜例7Bgt

|(五)一同 n 画

γ 《罐二手(-153-

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 26: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

<譜例7Cgt

四血lsquo

rsquo 擬=予勵珊涛

(19)第21小節前半のリズム処理一 一 一 = = 二 一 一 一 一 一

メインテキスト注解のコメント譜例7A譜例7B あり譜例7A なし譜例7A あり譜例7A譜例7C あり譜例7A譜例7A

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はく譜例7Agt

山第41小節には第37小節にある1Hと2Hのオクターブのバスがない手稿にも校正稿にも存在しない音だがデュランーコスタラ版で提案されているように補充した方が自然に思われる

第53小節のバスは当初双方とも1DISだったがドビユッシー自身によってlDISrarr1EISと進行する形に変更された読譜の際に見落としやすいので注意が必要である

8)亜麻色の髪の少女第16小節のバス音Cにタイで連結されている前打音は手稿では小節線の前に出されている

詞一

- 1 5 2 -

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 27: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

(20)第16小節のバスの前打音の位置

一注解のコメントメインテキスト

第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第15小節最後尾第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭第16小節冒頭

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は第15小節最後尾

幽帥鋤なし

手稿の第19小節には第20小節と同様な=p=が書かれている補充するのが妥当だろう

(21)第19小節の強弱- - - - - ー - - - ー -

メインテキストなしなしなしありなしなしなしなし

注解のコメントオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

塑拠薊なし

第23小節冒頭のpが欠落している楽譜がある補充すべきである

(22)第23小節冒頭のp-一一一一一一=二二二注解のコメントメインテキスト

なしありありありなしありありあり

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

軸一社一軸へ

芥二呈 一 =

なし

-151-

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 28: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

9)さえぎられたセレナード第19小節左手のモティーフのフレージング<譜例8Agtは第41859092小節のものく譜例8Bgtと異なっているがこれはミスプリントではなくドビュッシーの指示通りである< 譜 例 8 A gt lt 譜 例 8 B gt

第37小節~38小節にかけてのクレシェンドがドビユツシーによって初版校正稿に加筆されたがデュランーコスタラ版以外のすべての版で欠落している補充すべきだろう

(23)第37~38小節のクレシェンド- - - - - ー - - - - - メインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

校正稿で加筆された

第59小節右手のメロディーの最初の音flは手稿では四分音符ではなく八分音符十八分休符となっている

(24)第59小節右手冒頭の音の長さ- - - - ー 一 一 一 一 ー -

注解のコメントメインテキスト四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符八分音符十八分休符

四分音符四分音符

八分音符十八分休符八分音符十八分休符

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿は八分音符十八分休符

軸一拠釧なし

許一

第73小節最後の音から第74小節2拍目の右手の和音にかけての点線は手稿

-150-

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

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一-k卵一『す一劃一一審妬

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一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 29: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

になく初版校正稿において初めてドビュッシーによって付加されたただしその点線は第73小節のflの音より74小節三つ目の16分音符asに続いているこれが現在のオリジナルエディションのように上声eslに続く点線になったのは1930年頃ドビュッシーの死後のことである

(25)第73~74小節の点線一一一一二=二二二二注解のコメントメインテキスト

flrarres1flrarrasなしなしfl一歩C1なし獄-しasfl-骸as

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿はflrarras

釧一鋤軸なし

10)沈める寺リズムの扱い方に関して大きな問題が存在するが次章「ドビュッシーが

収録したピアノロールによる演奏との比較検討」を参照されたい

1l)バックの踊り第6小節左手のリズムは手稿でも初版校正稿でもく譜例9>のようになっており第41436991および93小節にある同様の音型のリズムと異なっているこの二つ目の八分音符に付点のない形はリズムとしても不正確で最終的に第41小節以下に合わせて変更されたものと考えられるオリジナルエディションをはじめとする市販楽譜にはすべて訂正されたものが掲載されている

<譜例9>

[一口3

第87小節の「DanslemouvthellipRetenu」は初版校正稿にて手稿通り「DanslemouvtRetenu」すなわち「リテヌートのテンポで(ゆっくりめに)」に訂正するよう指示されたが結局実現されなかった「Danslemouv」「Retenu」と分けてしまっては意味をなさない

(五四)

-149-

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

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rRetenu」の間にかなりのスペースがある

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

rsquo

12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

<譜例10gt

Modfr6(Nerveuxctavechumour)嬬 掬 ≧

ー n =

ldquo ~ hellip =rsquo= - 一 一 一ー

grJIWxタi 『jldquoldquoIldquo卜 一一一 p = - - - - 一 二 = ー

ヨrsquo一一一一P一 申 一 m

サノヨず33

一一一可壽鞠嬬

一-k卵一『す一劃一一審妬

一$rsquo一号侭一

一一三一一膿一一鞠岬届MPrime

一言一蝿少cd zeC

rsquo 一一上些畠==-- ーp 一 一ア

凡八

(五五)

- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 30: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

(26)第87小節の指示- - - - - - - ー - - -

メインテキスト注解のコメント未訂正訂 正 済 み あ り未 訂 正 な し〈 訂 正 済 み ) = hellip な し未訂正未 訂 正 な し未訂正未訂正

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オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

ウィーン原典版ではrMouvt」と

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12)ミンストレル手稿では第267小節右手2拍目最初のfisにテヌートがつけられているこれによってリズムに少しルバートがかかった感じになるのは歓迎すべきことだがデュランーコスタラ版く譜例10gtのみでしか再現されていない

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- 1 4 8 -

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

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(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 31: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

(27)第2 67小節のテヌートメインテキスト注解のコメント

なしあ り あ りな し な しな し な しなしな し な しなしなし一オリジナルエディション

デュランーコスタラ版ヘンレ版

ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在する

手稿では第22345054小節にあるく譜例l1Agtの形の音列全体にスラーおよび最後の音にスタッカートがつけられているとりわけ第54小節では当初書かれたスタッカートを後にスラーに変更した痕跡が認められるく譜例11Bgtここでは当初に書かれたスタッカートの点の上をなぞるようにスラーの線が書かれておりポルタートを意図したと考えるには不自然さが残るなお同じ音型でも第12小節のものにはスラースタッカートどちらもつけられておらず第33小節のものはスタッカートとなっているいずれにせよこの音型はスラーかスタッカートどちらかに類別されるべきものでオリジナルエディション第50小節および多くの楽譜の第54小節で見受けられるポルタートは不適当と考えられる何の指示もつけられていない第12小節は第9小節にある「tresdetach6はっきり切って」という指示に従ってスタッカートで演奏されるので分類上はスタッカートのタイプに属する

<譜例11Agt一 - -

= F

<譜例11Bgt

(五六)

-147-

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 32: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

(28)第22345054小節のスラーメインテキスト注解のコメント第225054小節が不備す べ て ス ラ ー あ り第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第 5 4 小 節 の み 不 備 な し第54小節のみ不備第54小節のみ不備

オリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿ではすべてスラー

あり

ドビュッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討

19世紀末にプレイヤーピアノ(あるいはピアノプレイヤー)という名称のピアノ自動演奏装置が発明され商品化された打鍵に対応する穴があけられたロールペーパーを繰り出しその穴を圧搾空気が通過するかどうかによってピアノの自動演奏が行われるものである当初のモデルは穴の有無によって単に「音が出るか出ないか」だけの比較的単純な装置だったが1904年にドイツのフライブルクFreiburgでエトヴインヴェルテEdwmWelte(1876~1958)によって開発されたヴェルテーミニョンWelte=Mignonはテンポの変化のみならずクレシェンドディミヌエンドそしてスフォルツアートなど強弱の変化も再生でき単なる趣味の世界を越えた演奏の記録装置として多くの音楽家たちにもこぞって使用されたドビュッシーは1913年頃このヴェルテーミニヨンのピアノロールWelte-

Music-Roll2本(No2738とNo2739)に「デルフイの踊り子」「野をわた

測擬熱「悪燃艤鱒艫鰐薦基羅起因とするトラブルが少なくないもっともドピュッシーが演奏を記録する際に使用された楽器も股良の調整状態ではなかった模様であるドビュッシーは人前での演奏を暗譜で行わなかったしたがってピアノロー

ル収録の際にも楽譜それもすでに出版されていたデュラン社のオリジナルエディションを使用したに違いないピアノロールヘの収録は一回限りでありミスタッチなどを編集によって訂正することは基本的に不可能である

(五七)

- 1 4 6 -

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

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rsquo(五九)

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全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

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七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 33: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

ドビュッシーの演奏にもこういった単純なミスタッチと思われるものが含まれているがそうとは考えにくい楽譜が出版された後にドビュッシーが変更したとしか思われないケースが存在する以下にその中でも興味深いものを提示する

l)デルフイの踊り子第8~9小節でドビュッシーはピアノロールでく譜例12gtのように演奏している

<譜例12>

rsquoピアノロールでは第16小節4拍目裏の上声部の和音(後打ちの八分音符)と第17小節の2拍目裏の上声部の和音(四分音符)はc2-d2_c3のかわりにc2-d2-d3と弾かれている前の拍の和音g2_a2_a3あるいは第27~28小節右手の和音g-a-a2と調和させたものと考えられる

第25小節右手最後の和音(八分音符)はピアノロールではrsquoオクターブ上で弾かれている第26小節は楽譜通りである

3)野をわたる風第5~6小節左手にあるそれぞれ後半の音型はピアノロールではく譜例13gt下段のように演奏されている

<譜例13>

建言 寺篝

一 ー

(五八) 第28小節以降にくり返し出てくるフォルテの動機目および33~34小節1拍目まで)の左手はピアノ<譜例14gtに準ずる形で弾かれている

(第28小節と31小節1拍ロールで確認する限り

-145-

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

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参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

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DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

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後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

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七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 34: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

1<譜例14>hellip -

年第43小節後半の右手はドビュッシーがピアノロールに収録している形く譜例15gtが最良だろう

<譜例15>

hellip第59小節冒頭でドビュッシーはペダルを踏みなおし左手のバス音bのみが単音で保持されるように演奏している

10)沈める寺作品冒頭に表示されている64=32という指示は「l小節6拍の四分音符を場所によって3+3あるいは2+2+2で数えよ」という意味でありそれ自体に大きな問題はないどこがどちらの数え方になるかは特に楽譜に記載されていないが注意深く譜面を見れば容易に判断できるだろうすなわち冒頭~第6小節は64第7~12小節は32第13~21小節は64第22~83小節が32第84~85小節が64そして股後の4小節は32となる問題はこの2種類のリズムにおける四分音符あるいは二分音符の長さの相

互関係にある64の四分音符の速さで32のセクションを演奏するとテンポが遅すぎるのであるピアノロールから再生されるドビュッシーの演奏では32のセクションが

64のセクションの二倍の速さで弾かれておりメトロノームで実測すると以下のようになっている

(29)「沈める寺」計測単位四分音符二分音符四分音符四分音符二分音符二分音符二分音符二分音符四分音符二分音符

のテンポ速 度636363

63よりアッチェレランド72

72よりリタルダンド72

72よりリタルダンド63

約50よりリタルダンド

睾雨韮乖罰却蔀や訓韮却

1947971739207426

-

Jノ

rsquo(五九)

-144-

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

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(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

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九一 一

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Page 35: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

全曲を通して64の四分音符と32の二分音符が同じ速さで処理されていることは明白であるまたドビュッシーが楽譜に書き入れたアゴーギクに関する指示が単なる感覚的で自由なものではなくきちんと計算されたものであることも興味深い今日この作品がこのように演奏されることはまれだが作曲家の自演はドビュッシーが意図したプロポーションの証左そのものであり疑いを差しはさむ余地はない

第20~21小節の左手はく譜例16gt下段のように演奏されているドビユッシーが意図的に変更したものだろう<譜例16>

第28小節~41小節までのバス音Cへの「8abasgg」の指示は「書かれている音よりもlオクターヴ低い音で」の意味であり「coll8abHgga」つまり「lオクターヴ低い音とともにオクターブで」ではないことがピアノロールの演奏より確認できる

1l)パックの踊り第28小節後半の右手の内声はピアノロールではく譜例17>の通りである

<譜例17>

f寺ノ

L - ゴ 第37小節左手2拍目の和音のバスはgesであるこの臨時記号しは手稿

初版校正稿初版楽譜のいずれにも見当たらないがピアノロールでもgesの音で演奏されている

-143 -

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

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各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

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(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 36: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

(30)第37小節左手2拍目の臨時記号し- - - - - - - - - ー -

注解のコメントメインテキストなしありありありありありなしあり

rsquoオリジナルエディションデュランーコスタラ版

ヘンレ版ウィーン原典版リコルディ版ペータース版音楽之友社版春秋社版

手稿に存在しない

副軸一札なし

ピアノロールの演奏では第46小節が削除され第47小節左手の十六分音符は2回ともceS2-eSl-CeS(第44小節の音型がそのままlオクターブ下げられた形)となっているもしこれがドビュッシーによる意図的な変更だとすると第38~40小節における3小節ひとまとまりのブロックが第41~43小節でも継続し第44~48小節(第46小節は削除)でふたたび4小節ひとまとまりとなるのだろうか真意は不明である

第95小節四つめの三十二分音符のグループはピアノロールでく譜例18>のように弾かれている

<譜例18>

12)ミンストレル第76小節右手冒頭の和音はピアノロールでく譜例19gtのように弾かれている

<譜例19>

(一ハー)

-142-

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

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参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

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(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

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含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

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Page 37: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

各市販楽譜の評価

以上の考察に沿ってテキストに関する適正処理の有無を一覧表にまとめてみた表1719および29は判断基準が明確でないかあるいはそこで扱われている内容が他と異なるため次頁の一覧表からは除外してあるメインテキストにおいて適切な処理がなされている場合はそうでない場合にはtimesを記入しその総数を集計した結果から述べると一番正確なのはデュランーコスタラ版次にウィーン原典版そしてヘンレ版という順位になったベストであるデュランーコスタラ版は市井の楽譜ショップの店頭にほとんど並んでいない上一般ユーザーが購入するには高価という難点がある通常の市販楽譜から選ぶとすれば編纂情報が幅広く提供されているという観点からウィーン原典版をお薦めしたいヘンレ版はメインテキストの編纂はていねいに行われているもののヘンレ社の方針として注解などは必要最小限に限定されており一歩踏み込んだ情報が欲しい時には不満力職るデュラン社のオリジナルエディションはかなりの不備を残しているがドビュッシー自身も関わった楽譜として他にない魅力と雰囲気がある日本製の楽譜も多くの捨てがたい情報を提供してくれるカミ「ドビュッシー

の筆跡をたどる」見地からは問題が残るペダルをどこでどのように使用するべきかは各個人が自分で創意工夫しながら追求すべきものでこれらは演奏する環境や楽器の状況によっても常に変化し正確に書き留められる性格のものではないこのようなものがはっきり印刷されてしまうと場合によっては演奏者の自由な発想の妨げにもなりかねず注意が必要だろうこれ以外にも楽譜聯入の選択肢は存在するが本稿が前奏曲第1集の演奏と指導の助けになるのであれば幸いである

(一ハーー)

- 1 4 1 -

(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times timestimes times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times times times timestimes times times times times times times times times times times times times timestimes times times times times times timestimes times times times times times timestimes times 223141749810254131023181917

(一ハーニ)

-140-

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

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(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

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(31)メインテキスト内の編纂処理一覧表春秋社版

音楽之友社版

ぺIダース版

リコルディ版

ウィーン原典版

ヘンレ版

デュランⅡコスタラ版

オリジナルエディション

第10小節最後の和音の音価第16小節4拍目上声部の和音第4小節目のポルタート第33小節のaTempo第4041小節のタイとバス音第62小節のリズム第6264小節のペダル指示第53小節のデイミヌエンド第29小節のナチュラル第29小節のシャープ第31小節のリズム空白の第7小節が挿入されているか第9小節の強弱記号第12小節の表情記号第42~43小節のバスはタイかスラーか第94~95小節のレイアウトRevenirhellipの位置第16小節のバスの前打音第19小節の強弱第23小節冒頭のP第37~38小節のクレッシェンド第59小節右手冒頭の音の長さ第73~74小節の点線第87小節の指示第267小節のテヌート第22345054小節のスラー第37小節左手2拍目の臨時記号卜

の総数timesの総数

川面面而而両面同而而面面而而而而両一塑側卿圃耐両面師

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参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

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DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

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後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

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れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

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(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

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含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

- 1 34 -

Page 39: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

参考文献資料一覧

l )書籍ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲」室淳介訳(音楽之友社1969)コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽l」安川定男安川加壽子共訳(音楽之友社1995)同「フランスピアノ音楽上巻j(かんらん社1952)の再版本安川加涛子『フランスのピアノ音楽を語る』(芸術現代社1981)同「私のピアノ演奏を語る』(芸術現代社1971)の再版本平島正郎『ドビュッシー』(大音楽家人と作品12音楽之友社1966)CortotAlfredLamusiqueかαsectαisdepi(z7zoP7emibeSrie(LesnditionsRiederParis1930)DurandJacquesLettresdeCIqudDebusayasoEヒメiteUr(DurandampCie1927)LongMargueriteqtthepiαo砂訪hDebusay(JMDentampSonsLtdLondon1972)原著Azjpjαo(zuecDebusSy(Ren6JulliardParis1963)のSenior-EnisOliveによる英訳本『標準音楽事典』(音楽之友社1974)『ドビュッシー』(作曲家別名曲解説ライブラリー⑩音楽之友社1993)『ニユーグローヴ世界音楽大事典』(講談社1994)DieMus鮠mGescノcノiteIzdGegemt(BarenreiterVerlagKasselundBasel1949~1951)『岩波西洋人名辞典増補版」(岩波書店1981)「広辞苑』新村出編(第3版第6刷岩波書店1988)

2)楽譜DebussyClaudeF7eludesBoohI(TheAutographScoreDoverPublicationsIncNewYork1987)DebussyClaudePr6血des(muvresCompletesdeClaudeDebussy86rielVolume5Durand-CostallatParis1985)DebussyClaudePrludesP虎zierUFe(HenleNr383Mmchen1986)DebussyClaudePF創哩desstesHet(WienerUrtextEditionUT50105Wien1986)DebussyClaudePノsectludesIerLjure(GRicordiampCSpa132196Milano1975Ristanpal983)

(六四)

- 1 39 -

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

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九一 一

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Page 40: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

DebussyClaudePF創以desIerLiu7e(DebussyKlavierwerkeBandIIEditionPetersLeipzigEP9078b製版番号EP124261969)「前奏曲第1集」(ドビユツシーピアノ曲集V第10刷音楽之友社1969)「ドビユツシー集3前奏曲集』(世界音楽全集春秋社版第25刷春秋社1996)

3)録音涛料ヴェルテーミニョンのピアノロールNoTelefunkenGMA65およびGMA79のBadura-SkodaPaul所蔵の資料より作成)

とNo2739を再生収録した(パウルバドゥラースコダ

No2738のコピー

(六五)

- 1 38 -

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

-135-

含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

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九一 一

- 1 34 -

Page 41: クロード・ドビュッシー『前奏曲第1集』 のテキストに関する諸 …atwien.com/mwbhpwp/wp-content/uploads/98Dubussy_Preludes.pdf · クロード・ドビュッシー

後 注

(1)ClaudeAchilleDebussy1862年8月22日生~1918年3月25日没(2)『デルフイの踊り子』は1909年12月7日『帆』は1909年12月12日「野をわた

る剛は1909年12月11日『夕べの空気にただよう音と香り』は1910年1月1日「アナカプリの丘』は1909年12月16日『雪の上の足跡』は1909年12月27日「亜麻色の髪の少女」は1910年1月15日~16日『パックの踊り』は1910年2月4日『ミンストレル」は1910年1月5日(3)「hellip音楽そのものが語っていますから題はなくても良いのですどの曲にもま

るで追って書きのように良心のおもむくままにかならず指示がついていますhellip」ロンマルグリット『ドビュッシーとピアノ曲』室淳介訳(音楽之友社1969)100頁「hellipそれぞれの曲に割り当てられたタイトルをあたかも読者の楽しみは彼が音楽的に描き出す感情を看破することであるのを望んでおりまた正しい感覚の検査から一種の内密な開花が誕生するのを望んでいるかのようにそれぞれ曲の終わりのところにしか記入していないのだがhellip」コルトーアルフレッド『フランスピアノ音楽1』安川定男安川加涛子共訳(音楽之友社1995)36頁(4)DurandJacques1865~1928フランスの作曲家父親の設立した楽譜出版

社デユラン社を経営しドビュッシーが創作した作品の多くを出版した(5)DurandJacquesLeteSdeaa哩deDe6usSyasoEditel(Durandamp

CieParis1927)83頁(6)Pノ昏如desPremie7L加re及o凡OFig加aZe(DurandSAEditions

MusicalesParisDampF7687)(7)後述「ドピユッシーが収録したピアノロールによる演奏との比較検討」の項を参

照(8)Pr創desBemieFLjwe及f地oFzOrigmaleにも指使いは記載されていない

デュランーコスタラでは原典資料での検証ができないものでも明かなミスと思われるものに関しては[]に入れて補足してある(9)現在市販されているデュラン社のオリジナルエディションの製版稀号は7687番で

ある(10)「帆j第62小節~64小節に記載されているドビュッシーの手によるペダルサイン

などがオリジナルとして判別できないその他の短所があるのが惜しまれる(11)『夕べの空気にただよう音と香り』第29小節『アナカプリの丘』第9小節第94

~95小節その他(12)「こうした[タイトルに関する]示唆はエンマ[1905年に誕生した娘クロード=

エンマ]にまかせたりいっしょに決めたりしていました」ロン前掲瞥100頁(13)sistrumo古代エジプトの楽器でラットル(がらがら)の一種エジプトの祭祀

音楽で広く使われ最初はハトホルの祭祀に後になってハトホルの後継者イシスの祭祀に用いられたシストルムの役割は魔除けとして悪霊から身を守ることにあったと考えら

(一ハーハ)

-137-

れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

でノ

七 ー ゴ

-136-

(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

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含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

へ_ r -ノ

九一 一

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れている(14)コルトー前掲沓29頁(15)ロン前掲響101頁(16)CortotAlfred1877~1962スイス生まれのピアニストパリで学びピアニ

ストとして輝かしい活踊をした(17)LongMarguerite1878~1966フランスの代表的ピアニスト(18)コルトー前掲智29頁(19)ロン前掲僻101頁(20)ドビュッシーによる標魑が仮に女性名詞「lavoile」ならば「帆」男性名詞「le

voile」ならば「ヴェール」と特定できるが定冠詞のつかない複数形「voiles」では判定できない(21)P『邸αdes(CEuvresCompletesdeClaudeDebussyS6rielVolume5

Durand-CostallatParis1985)Avant-proposForeword(22)FavartCharles-Simon1710~1772オペラコミック座の監督後に支配

人として活曜した(23)VerlainePaulMarie1844~1896フランスの詩人「詩は音楽に協力を求

め夢幻の如く魅し去るリズムとハーモニーとを尊重し明確な写実を避け奇数脚に新しい律動を与えよ」と主張した(24)コルトー前掲沓29頁(25)ロン前掲沓102頁《牡山羊のような突き上けツとはドビュッシーがロンに語っ

た言葉である(26)マレーシアインドネシアブルネイフィリピン近辺(27)1節目の24行が2節目の13行としてくり返される(28)BaudelaireCharles1821~1867フランスの詩人批評家近代生活の憂愁

退廃的な官能美カトリック的神秘感と反逆的熱情を象徴的な手法音楽的暗示的な詩句で歌い後世の詩人に深い影響を与えた(29)標題として引用されている「音と香りは夕べの空気にただようIessonsetles

Parfurnstournentdanslairdusoir」およびその次行「メランコリックなワルツとやるせない陶酔よノValsem61ancoliqueetlangoureuxvertige」(30)コルトー前掲掛29頁(31)ロン前掲瀞102頁(32)ロン前掲瞥102頁(33)PrZudes前掲密Avant-proposForeword(34)コルトー前掲瞥30頁(35)ロン前掲密102頁(36)LeblancMaurice1864~1941フランスの探偵小説家アルセーヌルバン

ArseneLupinを主人公とする多数の探偵小説を創作した(37)「Leshuitcoupsdelhorloge』の中の『Despassurlaneige」

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七 ー ゴ

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(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

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含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

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(38)BordeauxHenry1870~1963フランスの小説家評論家法律を学び弁護士になったが評論で文学に転じ小説を書いた(39)F7sectludes前掲書Avant-proposForeword(40)コルトー前掲書30頁(41)AndersenHans=Christian1805~1875デンマークの文学者童話作家

作風はロマン主義を基調とする(42)ShelleyPercyBysshe1792~1822イギリスの詩人流動する美しい律動の

叙情詩を創作しイギリスロマン主義を代表する一人(43)R『創IJdes前掲書Avant-proposForeword(44)「荒れに荒れる大洋の台風の身もちぢむ突風」ロン前掲瞥104頁(45)LecontedeLisle1818~1894フランスの詩人高踏派の首領形式を尊重し

主観を排した(46)VasnierMarie=Blanche1848~1923モローサンテイ夫人の声楽塾で伴

奏者ドビュッシーと知り合い裁判所書記の夫とともに親交があった(47)ロン前掲書104頁(48)オーケストラのための作品「映像ImagepourOrchestrejの第2曲「イベリア

Iberiajや「版画Estampsjの第2曲『グラナダの夕暮れLasoireedansGrenRdejその他(49)コルトー前掲瞥30~31頁(50)deFallaManuel1876~194620世紀前半におけるスペイン般高の作曲家(51)StegemannMichaelVbruノoJtzumPlgludesErste凡睡Z(WienerUrtext

EditionUT50105Wien1986)(52)RenanErnest1823~1892フランスの思想家で宗教史家(53)古代ケルトの伝説上の町でイゾルデが生まれた所とされている(54)ShakespeareWilliam1564~1616イギリスの劇作家詩人エリザベス朝

ルネッサンス文学の代表者(55)P76Judes前掲書Avant-proposForeword(56)Pr創哩des前掲書Avant-proposForeword(57)一般的な原典版編纂の国際ルールではオリジナルの指使いはイタリック(斜体)

の数字オリジナルの資料に含まれない編纂者の追記事項はかぎ括弧[]に入れて印刷するのが通例になっている(58)『デルフィの踊り子』四分音符=44『帆』八分音符=88『野をわたる風」四

分音符=126『夕べの空気にただよう音と香り」四分音符=84『アナカプリの丘」八分音符=184『雪の上の足跡」四分音符=44『西風の見たもの」記載なし『亜麻色の髪の少女j四分音符=66「さえぎられたセレナードj記載なし『沈める寺」記載なし「パックの踊り』八分音符=138『ミンストレルMinstrelsj記戦なし(59)Durand前掲書158頁(60)音楽之友社版にある説明は「弾き方について」であり原典資料に関する情報は

(六八)

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含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

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含まれていない(61)このような「音符のみならず休符さえも記入されていない小節」は新しい書法で

ありデュラン社でこの作品の印刷原版制作を受け持った彫版職人シャルルドゥアンCharlesDouinがその音楽的意図を理解し正しく対応できなかったのも無理がない(62)デュランーコスタラ版とウィーン原典版の『アナカプリの丘」はそれ以外の版よ

り1小節多い第6小節へのコメントを参照(63)ドビュッシーはその全作品の中で複付点以上に鋭い付点リズムの書法は使用して

いない(64)TelefunkenGMA65およびGMA791962~1964

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