ヘッドスペース-gc-ms/msによる o m267 - shimadzu18 ブロモジクロロメタン 6.34...

水道水や環境水中の揮発性有機化合物(VOCs)は,ヘッ ドスペース- GC/MS 法やパージ・トラップ- GC/MS 法に より分析されます。これらの VOCs の多くは水に対する溶解 性が低く揮散しやすいため,採水後,速やかに分析する必要 があります。 そのため,一度に分析する検体数が多い場合は,分析時間 をできるだけ短くすることが望まれます。しかし,分析時間 を短縮化していくと,一部の対象成分や内部標準物質が GC で分離できず,しかも,シングル MS でも選択的に検出でき ないため,たとえば,ヘッドスペース- GC-MS 法では,1 時間当たりの処理検体数は 5 検体が限界となります。 そこで,MS に比べ選択性の高いトリプル四重極型質量分 析計 MS/MS を用いて検討しました。その結果,分析時間を 短縮でき,1時間当たりの処理検体数を 8 検体にすることが できました。 T. Kondo 標準液の調製 26 種 VOCs の標準試料は,25 種揮発性有機化合物混合標 準液(コード No. 224-01581,和光純薬工業),塩化ビニル 標準液(コード No. 515-01081,和光純薬工業)および 1,4- ジオキサン標準液(コード No. 049-28791,和光純薬工業) を使用しました。また,4 種内部標準物質については,塩化 ビニル -d3 標準液(コード No. 512-36141,和光純薬工業), p- ブロモフルオロベンゼン-フルオロベンゼン混合標準液 (コード No. 029-15021,和光純薬工業)および 1,4- ジオキ サン -d8 標準液(コード No. 042-29021,和光純薬工業)を 使用しました。 検量線作成用 26 種 VOCs 混合標準液は,0.5, 2.5, 5, 25, 50 µg/mL(1,4- ジオキサンのみ 10 倍量)で調製し,4 種混 合内部標準液は塩化ビニル -d3 が 1 µg/mL,p- ブロモフル オロベンゼンとフルオロベンゼンが 0.5 µg/mL,1,4- ジオキ サン -d8 が 5 µg/mL となるように調製しました。 標準試料の調製 市販のォー ー10 mL 300˚ C 処理した塩化ナトリウム 3 g を加え,検量線作成用 26 種VOCs 混合標準液をそれぞれ 2 µL 添加し,0.1, 0.5, 1, 5, 10 µg/L(1,4- ジオキサンのみ 10 倍量)で調製し,4 種混 合内部標準液を 40 µL 添加し , すべての検量線標準試料系 列で塩化ビニル -d3 4 µg/L, p - ブロモフルオロベンゼ ンとフルオロベンゼンが 2 µg/L, 1,4- ジオキサン -d8 20 µg/L となるように調製しました。 ヘッドスペースガスサンプラー : HS-20 トリプル四重極型ガスクロマトグラフ質量分析計: GCMS-TQ8030 HS モード : ループ(容量 1 mL) オーブン温度 : 70 ℃ サンプルライン温度 : 200 ℃ トランスファーライン温度 : 200 ℃ バイアル加圧用ガス圧力 : 50 kPa バイアル保温時間 : 30 min バイアル加圧時間 : 0.5 min 加圧平衡化時間 : 0.05 min ロード時間 : 0.25 min ロード平衡化時間 : 0.05 min 注入時間 : 0.1 min ニードルフラッシュ時間 : 2 min GC カラム : Rxi – 624SilMS (20 m × 0.18 mm I.D., 1 µm) 注入モード : スプリット スプリット比 : 30 制御モード : 線速度 (50 cm/秒) オーブン温度 70 ℃ → 40 ℃/min → 220 ℃ (0.5 min) MS イオン源温度 : 200 ℃ インターフェース温度 : 230 ℃ チューニングモード : 高感度 測定モード : MRM モード ループタイム : 0.15 秒 標準試料の調製 Preparation of Standard Solution 分析条件 Analytical Conditions 分析サイクル バイアル加温 30 min サンプリング 1 min 7 min 7 min 7 min カラムオーブン冷却 1.5 min 測定 4.25 min Application News No. M267 ヘッドスペース- GC-MS/MS による 水中の揮発性有機化合物の超高速分析 Ultra Fast Analysis of Volatile Organic Compounds in Water Using Headspace – GC-MS/MS ガスクロマトグラフィー質量分析 Gas Chromatography Mass Spectrometry LAAN-A-MS050

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Page 1: ヘッドスペース-GC-MS/MSによる o M267 - SHIMADZU18 ブロモジクロロメタン 6.34 0.9996 19 シス-1,3-ジクロロプロペン 4.51 0.9995 20 トルエン 7.21 0.9996

水道水や環境水中の揮発性有機化合物(VOCs)は,ヘッドスペース- GC/MS 法やパージ・トラップ- GC/MS 法により分析されます。これらの VOCs の多くは水に対する溶解性が低く揮散しやすいため,採水後,速やかに分析する必要があります。

そのため,一度に分析する検体数が多い場合は,分析時間をできるだけ短くすることが望まれます。しかし,分析時間を短縮化していくと,一部の対象成分や内部標準物質が GCで分離できず,しかも,シングル MS でも選択的に検出できないため,たとえば,ヘッドスペース- GC-MS 法では,1時間当たりの処理検体数は 5 検体が限界となります。

そこで,MS に比べ選択性の高いトリプル四重極型質量分析計 MS/MS を用いて検討しました。その結果,分析時間を短縮でき,1時間当たりの処理検体数を 8 検体にすることができました。

T. Kondo

標準液の調製26 種 VOCs の標準試料は,25 種揮発性有機化合物混合標

準液(コード No. 224-01581,和光純薬工業),塩化ビニル標準液(コード No. 515-01081,和光純薬工業)および 1,4-ジオキサン標準液(コード No. 049-28791,和光純薬工業)を使用しました。また,4 種内部標準物質については,塩化ビニル -d3 標準液(コード No. 512-36141,和光純薬工業),p- ブロモフルオロベンゼン-フルオロベンゼン混合標準液

(コード No. 029-15021,和光純薬工業)および 1,4- ジオキサン -d8 標準液(コード No. 042-29021,和光純薬工業)を使用しました。

検 量 線 作 成 用 26 種 VOCs 混 合 標 準 液 は,0.5, 2.5, 5, 25, 50 µg/mL(1,4- ジオキサンのみ 10 倍量)で調製し,4 種混合内部標準液は塩化ビニル -d3 が 1 µg/mL,p- ブロモフルオロベンゼンとフルオロベンゼンが 0.5 µg/mL, 1,4- ジオキサン -d8 が 5 µg/mL となるように調製しました。

標準試料の調製市販のミ ネ ラ ル ウ ォー タ ー10 mL に 300C̊ で 加 熱

処 理 し た 塩 化 ナ ト リ ウ ム 3 g を 加 え , 検 量 線 作 成 用 2 6種 VOCs 混合標準液をそれぞれ 2 µL 添加し,0.1, 0.5, 1, 5, 10 µg/L(1,4- ジオキサンのみ 10 倍量)で調製し,4 種混合内部標準液を 40 µL 添加し , すべての検量線標準試料系列で塩化ビニル -d3 が 4 µg/L, p- ブロモフルオロベンゼンとフルオロベンゼンが 2 µg/L, 1,4- ジオキサン -d8 が20 µg/L となるように調製しました。

ヘッドスペースガスサンプラー : HS-20トリプル四重極型ガスクロマトグラフ質量分析計 : GCMS-TQ8030

HSモード : ループ(容量 1 mL)オーブン温度 : 70 ℃サンプルライン温度 : 200 ℃トランスファーライン温度 : 200 ℃バイアル加圧用ガス圧力 : 50 kPaバイアル保温時間 : 30 minバイアル加圧時間 : 0.5 min加圧平衡化時間 : 0.05 minロード時間 : 0.25 minロード平衡化時間 : 0.05 min注入時間 : 0.1 minニードルフラッシュ時間 : 2 min

GCカラム : Rxi – 624SilMS (20 m × 0.18 mm I.D., 1 µm)注入モード : スプリットスプリット比 : 30制御モード : 線速度 (50 cm/秒)オーブン温度 : 70 ℃ → 40 ℃/min →

220 ℃ (0.5 min)

MSイオン源温度 : 200 ℃インターフェース温度 : 230 ℃チューニングモード : 高感度測定モード : MRM モードループタイム : 0.15 秒

■標準試料の調製Preparation of Standard Solution

■分析条件Analytical Conditions

分析サイクル

バイアル加温30 min

サンプリング 1 min

7 min 7 min 7 min

カラムオーブン冷却 1.5 min測定4.25 min

ApplicationNews

No.M267ヘッドスペース- GC-MS/MS による 水中の揮発性有機化合物の超高速分析Ultra Fast Analysis of Volatile Organic Compounds in Water Using Headspace – GC-MS/MS

ガスクロマトグラフィー質量分析Gas Chromatography Mass Spectrometry

LAAN-A-MS050

Page 2: ヘッドスペース-GC-MS/MSによる o M267 - SHIMADZU18 ブロモジクロロメタン 6.34 0.9996 19 シス-1,3-ジクロロプロペン 4.51 0.9995 20 トルエン 7.21 0.9996

分析計測事業部グローバルアプリケーション開発センター

※本資料は発行時の情報に基づいて作成されており、予告なく改訂することがあります。 改訂版は下記の会員制 Web Solutions Navigator で閲覧できます。

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No.

3100-12302-525-IK2013.12

初版発行:2013年12月

HS-20 - GCMS-TQ8030 の MRM モードの条件を最適化することで,感度および分離を損なわず,さらに分析サイクルを 7 分まで短縮することができ,1 時間当たり 8 検体を処理することができました。本手法は,充分な分析精度を確保できました。

■結果Results

■結論Conclusions

ヘッドスペース- GC-MS で 5 µg/L の標準試料を測定して得られたトータルイオンカレントクロマトグラムを Fig. 1 に示します。複数のピークで重なりが認められましたが,適切な m/z を選択することによって分離することができました。しかし,Fig. 2(上)に示すように内部標準物質として使用した 1,4- ジオキサン -d8 と対象成分である 1,2- ジクロロプロパンは,適切な m/z がなく分離することが困難でした。また,水や空気などとほぼ同じ時間に溶出する塩化ビニルおよび塩化ビニル -d3 はベースラインが変動しました。これらの

成分について GC-MS/MS の MRM モードを用いて測定した結果を Fig. 2(下)に示します。1,4- ジオキサン -d8 と 1,2-ジクロロプロパンは選択的に検出でき,また,塩化ビニルおよび -d3 は安定したベースラインになりました。MRM モードでの定量性を確認するために,繰り返し分析精度と検量線の直線性(相関係数 : R)を Table 1 に示します。検量線の直線性は,全ての成分について 0.999 以上でした。また,繰り返し分析精度は 10.6 %(ブロモホルム)以下と良好な結果が得られました。

Fig. 2 SIM クロマトグラム(上)および MRM クロマトグラム(下)SIM Chromatogram (Top) and MRM Chromatogram (Bottom)

Fig. 1 トータルイオンカレントクロマトグラムTotal Ion Current Chromatogram

Table 1 繰り返し分析精度および検量線の直線性(0.1 µg/L, 1,4- ジオキサン : 5 µg/L)Repeatability and Linearity of Calibration Graph (0.1 µg/L, 1,4-Dioxane: 5 µg/L

1, 2 3 4

5, 6 7 8

9 10 13

11, 12

14

15, 16, 17

18 19

20

21 22

23

24

25

26

27 28

29

(×1,000,000)2.5

2.0

1.5

1.0

0.5

0.75 1.00 1.25 1.50 1.75 2.00 2.25 2.50 2.75 3.00

0.7 0.8 0.9 1.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0(×10,000)

65.0067.00

0.7 0.8 0.9 1.0

2.5

5.0

(×10,000)

62.0064.00

1.5 1.6 1.7

0.25

0.50

0.75

1.00

1.25

1.50

1.75(×10,000)

64.0096.00

0.7 0.8 0.9

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5(×100,000)

67.00>30.0065.00>30.00

0.7 0.8 0.9

1.0

2.0

3.0

(×100,000)

64.00>27.0062.00>27.00

1.5 1.6 1.7

0.25

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0.75

1.00

1.25

(×10,000)

64.00>32.0096.00>64.00

GC-MSSIMモード

GC-MS/MSMRMモード

塩化ビニル-d3 塩化ビニル 1,4-ジオキサン-d8

1.5 1.6 1.7

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

(×10,000)

63.0062.00

1.5 1.6 1.7

0.5

1.0

1.5

2.0

(×100,000)63.00>27.0062.00>27.00

1,2-ジクロロプロパン

ピーク No. 化合物名 %RSD 相関係数 : R1 塩化ビニル -d3 (ISTD) ― ―2 塩化ビニル 2.13 0.99973 1,1- ジクロロエチレン 4.28 0.99984 ジクロロメタン 5.57 0.99975 メチル -t- ブチルエーテル 5.02 0.99976 トランス -1,2- ジクロロエチレン 5.53 0.99967 シス -1,2- ジクロロエチレン 5.17 0.99968 クロロホルム 9.47 0.99959 1,1,1- トリクロロエタン 3.63 0.9995

10 四塩化炭素 1.32 0.999711 1,2- ジクロロエタン 8.71 0.999312 ベンゼン 6.13 0.999613 フルオロベンゼン (ISTD) ― ―14 トリクロロエチレン 3.81 0.999615 1,4- ジオキサン -d8 (ISTD) ― ―

ピーク No. 化合物名 %RSD 相関係数 : R16 1,2- ジクロロプロパン 6.77 0.999717 1,4- ジオキサン 9.71 0.999918 ブロモジクロロメタン 6.34 0.999619 シス -1,3- ジクロロプロペン 4.51 0.999520 トルエン 7.21 0.999621 トランス -1,3- ジクロロプロペン 4.23 0.999422 1,1,2- トリクロロエタン 4.91 0.999423 テトラクロロエチレン 5.36 0.999624 ジブロモクロロメタン 8.08 0.999625 m,p- キシレン 4.06 0.999726 o- キシレン 2.76 0.999727 ブロモホルム 10.6 0.999628 4- ブロモフルオロベンゼン (ISTD) ― ―29 1,4- ジクロロベンゼン 1.22 0.9998

注)GC-MS/MS を用いた VOCs 分析は,公定法には採用されていません。

M267