仮想インラインシステムによるledヘッド 生産改革活動 - oki34...

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34 OKI テクニカルレビュー 2016 年 5 月/第 227 号 Vol.83 No.1 仮想インラインシステムによる LED ヘッド 生産改革活動 新井  保明   登  正治 近年、インダストリー4.0などIoTを含むICT(情報通 信技術)を駆使した生産改革が活発化している。OKIデ ジタルイメージングでは、これに先駆け、2010年より、 自社開発の工程管理システムの導入および、IoTを活用 した装置連携でLEDヘッド製造の見える化と生産改革 を実践してきた。LEDヘッド生産拠点は、日本、タイ (アユタヤ、ランプーン)、中国と分散している。以前 は各生産拠点独自にデータ管理を行っており、各拠点 で集計基準が異なる場合もあり、拠点間を跨いでの解 析が困難であった。また、手集計によるミス、タイム ラグなどの問題があった。 これらの問題を解決するため、各生産拠点の基準を 統一し、LED生産拠点を一つの拠点と見なし、データ で拠点間を繋ぐ「仮想インライン化」することで、生 産改革を行った。 本稿では、IoTによる各生産拠点の改革および、仮想 インライン化による拠点を跨いた生産改革について紹 介する。 写真1に示すLEDヘッドは、電子写真方式プリンター の書き込み光源である。LEDヘッドは、 図1に示すよう に、複数のLEDが直線状に配置され、印刷信号に応じて それぞれのLEDが点滅動作することで、印刷を実現して いる。OKIデジタルイメージングでは、LEDと、LEDを駆 動するICをエピフィルムボンディング(EFB)技術で一体 化したデバイス(エピフィルムLEDアレイ)を開発し、 LEDプリントヘッドに採用している 1)、2) 。LEDプリント ヘッドは、プリント基板上に複数のエピフィルムLED アレイをA4、A3などの印刷幅に実装したCOB(chip on board)と、LEDの放射光を感光ドラム上に結像さ せるロッドレンズアレイで構成されている。たとえば、 1200dpi(dot per inch)A4サイズのヘッドでは、 9,984ドットのLEDが直線状に配置され、印刷のデータ に応じて各LEDが発光/消灯し、感光ドラムに2次元画 像を書き込む。 LEDチップ生産では、 図2のように、発光部となる LEDウェハから剥離したLED薄膜(エピフィルム)を駆 動ICウェハ上に接合し、その後半導体製造工程で個別 のLED素子と配線等を形成して製造している。 LEDヘッドとは IoTを活用した生産改革 図 2 LED チップの製造工程概略 写真 1 モノクロ・カラープリンター用 A4/A3 ヘッド 図 1 LED ヘッドの構造 窬筁箐稕嫗隘 碤窂窊硇䇮 LED 碤窂窊硇䇮 LED 砬筕硪 䆿箐稊硇箐磾筦硪笪 筹䅈稛筕箐禕砬筕硪 LED砬筕硪0畑 噴f嫗隘COB 碤窂窊硇䇮LED砬筕硪 LEDェ稛筿硪穟IC滝鉄稊穟硪祲 COB 粳膝稛筿 筿 膝稛 稛筿 筹䅈稛筕箐禕砬筕硪 LED碊碤穜 橑岬IC碊碤穜 EFB LED橑岬 IC嗜(噴f LED碊碤穜 橑岬IC碊碤穜 窬筹篔穵箐磾 COB滿8癮 碤窂窊硇䇮瘨乏邉 碤窂窊硇䇮瘨乏邉 LED 橑岬IC碊碔穜 藜5噴f 秌硪䄅箐磾 秌硪䄅箐磾 碤窂窊硇䇮瘨藜倫 碤窂窊硇䇮瘨藜倫

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  • 34 OKI テクニカルレビュー 2016 年 5月/第 227 号 Vol.83 No.1

    仮想インラインシステムによるLEDヘッド生産改革活動

    新井  保明   登  正治

     近年、インダストリー4.0などIoTを含むICT(情報通信技術)を駆使した生産改革が活発化している。OKIデジタルイメージングでは、これに先駆け、2010年より、自社開発の工程管理システムの導入および、IoTを活用した装置連携でLEDヘッド製造の見える化と生産改革を実践してきた。LEDヘッド生産拠点は、日本、タイ(アユタヤ、ランプーン)、中国と分散している。以前は各生産拠点独自にデータ管理を行っており、各拠点で集計基準が異なる場合もあり、拠点間を跨いでの解析が困難であった。また、手集計によるミス、タイムラグなどの問題があった。 これらの問題を解決するため、各生産拠点の基準を統一し、LED生産拠点を一つの拠点と見なし、データで拠点間を繋ぐ「仮想インライン化」することで、生産改革を行った。 本稿では、IoTによる各生産拠点の改革および、仮想インライン化による拠点を跨いた生産改革について紹介する。

     写真1に示すLEDヘッドは、電子写真方式プリンターの書き込み光源である。LEDヘッドは、図 1に示すように、複数のLEDが直線状に配置され、印刷信号に応じてそれぞれのLEDが点滅動作することで、印刷を実現している。OKIデジタルイメージングでは、LEDと、LEDを駆動するICをエピフィルムボンディング(EFB)技術で一体化したデバイス(エピフィルムLEDアレイ)を開発し、LEDプリントヘッドに採用している1)、2)。LEDプリントヘッドは、プリント基板上に複数のエピフィルムLEDアレイをA4、A3などの印刷幅に実装したCOB(chip on board)と、LEDの放射光を感光ドラム上に結像させるロッドレンズアレイで構成されている。たとえば、1200dp i(dot pe r i n ch)A4サイズのヘッドでは、9,984ドットのLEDが直線状に配置され、印刷のデータに応じて各LEDが発光/消灯し、感光ドラムに2次元画像を書き込む。

     LEDチップ生産では、図 2のように、発光部となるLEDウェハから剥離したLED薄膜(エピフィルム)を駆動ICウェハ上に接合し、その後半導体製造工程で個別のLED素子と配線等を形成して製造している。

    LEDヘッドとは IoTを活用した生産改革

    図 2 LEDチップの製造工程概略

    写真 1 モノクロ・カラープリンター用A4/A3 ヘッド

    図 1 LEDヘッドの構造

    LED

    LEDLED

    COB

    LEDLED IC

    COB

    LED IC

    EFB

    LEDIC

    LED IC

    COB

    LEDIC

  • 35 OKI テクニカルレビュー2016 年 5月/第 227 号 Vol.83 No.1

     この製造工程で、工程順の間違い、装置の設定条件間違いによる人的ミスが発生していた。このようなミスが発生した場合、製品の加工に不具合が生じ、不良が発生する。これらを改善するため、2010年より、LEDチップ生産における工程管理システムを開発/導入した。その結果人的ミスが減少したが、工程管理するための作業時間の増加が問題となった。この工程管理に費やす作業時間を減少させるため、LEDチップ生産装置を改造し、生産装置が工程管理システムで設定された条件と工程順序に従って動作するようにすることで、作業者の負担を低減し、製品の加工ミスや不良の増加防止につなげている。 図3に仮想インラインシステム(以下、本システム)の工程管理の概略を示す。装置はPLC(Programmable Logic Controller)を使用して制御し、工程管理で指示のあった工程条件に沿って、自動的に処理する。そのため、工程管理システムと装置が連動し、作業者は作業条件を入力すること無く、生産できる。また、工程指示の出ていない装置は動作できないため、工程順間違い等の作業ミスを防止できる。 また、工程内の加工不良等の問題発生時に対応するため、工程フローを組み替えられる。さらに組み替えを行った工程フローは、次のひな形として再利用を可能とした。工程管理で収集したデータをリアルタイムで収集/見える化することで、不具合の早期発見と早期対応を図っている。 図 4は、LEDチップ生産における、品質の見える化を活用した不具合解析の例である。装置、部材、作業者等の情報を収集し、見える化を実現している。LEDチップウェハの面内の不良箇所が可視化され、さらに

    加工条件等の変化点も分析できる。これにより、品質の解析が容易になり、迅速に品質トラブルに対応できるようになった。また、解析時間の短縮により、後工程への不良流出の拡大を防いでいる。

     本システムはバーコードにより工程管理している。COB生産工程では、写真2で示すように、装置の内製改造によりバーコード自動入力化を実現した。その結果、バーコード入力に伴う工数増を抑え、確実な工程管理を実現している。さらに自動入力化により、作業者が製品を触る頻度が減少し、作業者のミスによる製品へのダメージ発生を抑える効果も生み出している。

    図3 仮想インラインシステム工程管理の概略

    PLC

    1

    PLC PC

    2

    PCPLC

    3

    PLC

    4

    PLC

    3

    I/FI/F

    写真2 バーコード入力の自動化

    図 4 見える化による不具合解析事例

  • 36 OKI テクニカルレビュー 2016 年 5月/第 227 号 Vol.83 No.1

    作る必要があった。 これらの課題を解決すべく、工程管理システムと装置が連動するシステム、および、すべての生産拠点をデータで繋ぎ、LEDヘッド生産拠点を一つの工場と見なす、すなわち仮想インライン化した「仮想インライン工場」に取り組んだ。「仮想インライン化」することにより、製品のトレーサビリティー、生産ネックの把握、仕掛かり在庫の低減を図る等の改善ができる。 生産装置をネットワークに繋ぎ、工程管理と連動して生産を行うシステムを独自に開発し、このノウハウをLEDヘッド生産拠点すべてに展開し、各生産拠点での自動化および工程の見える化を実現した。

     ここでは拠点を跨いだ生産改革について述べる。 本システムは 図 6で示すとおり、LEDヘッド生産拠点すべてをネットワークで繋ぎ、データベースを共有している。そのため、今までは拠点内のデータのみ解析してきたが、拠点を跨いだデータが解析できる。 このように本システムで、LEDチップ部材情報からプリンターまでの生産データを繋ぎ、トレーサビリティーを確保した。各拠点はすべてのデータを互いに参照できる。自拠点のみならず、他拠点データを相互参照し、解析することで、複数拠点に跨がるLEDヘッド生産工程での生産改革につなげた。一例として、仕損については各拠点の不良の定義を統一し、この統一した定義情報を元に自動的に分類し、見える化を行っている。LEDヘッド生産拠点で不良情報を共有し、さら

     図 5に示すように、LEDヘッドはさまざまな国の製造拠点での工程を経て,最終的にプリンター製品に組み込まれる。 OKIデジタルイメージングでは、LEDヘッドの心臓部であるLEDアレイチップの製造している。そのチップをOKI Data Manufacturing Thailand(Lamphun):ODMTタイ・ランプーン工場でプリント基板上へ実装、配線しCOBを製造している。 タイで製造されたCOBは、OKI Data Manufacturing Thai land(Ayutthaya):ODMTタイ・アユタヤ工場、Oki Electric Industry(Shenzhen):OSZ中国・シンセン工場に送られてLEDヘッドに組み立てられる。その後LEDヘッドはODMTタイ・アユタヤ工場、OSZ中国・シンセン工場、OKIデータMES:ODMES日本・福島工場の3箇所でプリンターに組み込まれて製品化される。

     LEDヘッド生産の各拠点では、独自の改善活動により、TATの短縮、仕損の削減、棚卸の削減等の改善してきた。この改善をさらに進めるため、これまでの人間の知恵による改善活動に加え、ICTを活用し、膨大なデータを活用した改善をすすめる生産改革活動が必要となった。 データを活用する上で、拠点間のデータ共有と、データ集計方法の統一が重要となる。生産進捗状況、品質状況、在庫など、拠点を跨いだ情報をLEDヘッド生産全体で、同一のデータで議論するための仕組みを

    LEDヘッド生産における各拠点での役割

    生産拠点での課題

    拠点を跨いだ生産改革

    図 5 拠点別生産工程

    COB

    LED

    LED

    COB

    LEDLED

    LED

    IC

    LED

  • 37 OKI テクニカルレビュー2016 年 5月/第 227 号 Vol.83 No.1

    ダーとも連携し、プリンターのキーパーツデータの情報も収集することで、更なるトレーサビリティーを実現し、一層の品質向上を目指す計画である。現状ではまだ一部ではあるが、図7に示すように、プリンター生産ラインへも本システムを導入し、プリンター生産工程の見える化(生産進捗、ラインバランス、習熟等)による改善活動も加速されている。これにより、タクトタイムが標準化され、生産効率改善が実現している。今後、さらに消耗品工場への展開を予定している。

     また、顧客情報と生産情報の紐付けを行い、使用状況における不具合の発生頻度や、不良内容を分析し、LEDヘッドおよびプリンターの品質向上をも目指している。                    ◆◆

    1)荻原光彦:LEDプリントヘッドの最新動向,沖テクニカルレビュー,208号,Vol .73 No.4,pp.28-31,2006年2)荻原光彦:エピフィルムボンディングによる異種材料融合デバイス,OK Iテクニカルレビュー211号,Vol.74 No.3,pp.98-103,2007年

    新井保明:Yasuaki Arai. 株式会社沖デジタルイメージング 技術部登正治:Masaharu Nobori. 株式会社沖デジタルイメージング 技術部

    に各拠点が相互に連携して解析することにより、不良の早期改善につなげている。他の拠点からの指摘により、工程改善したケースも存在している。このように拠点の垣根を越え、LEDヘッド生産拠点全体で生産改革活動を行い、仕損費低減を図っている。

     従来は、LEDヘッドに不具合が発生した場合、各拠点からデータを収集し、分析していたため、トレースに多大な時間を要していた。本システムにより、各拠点の各種工程情報(処理時間、作業者、材料、装置など)が、一つのデータベースとなり、容易に拠点を跨いでトレースできるようになった。そのデータベースの活用により、データの収集・解析時間を大幅に低減している。 また、仕損費削減と棚卸在庫の削減にも効果を上げている。IoTを活用した装置連携により作業ミスが減少し、各生産拠点内での仕損を低減した。さらにLEDヘッド生産拠点で不具合情報を共有することにより、拠点を跨いだ不具合も解析できる。そのため、不具合部材の後工程への流出が最小限に抑えられ、仕損費低減へとつながっている。OKIデジタルイメージングでは、2015年度上期は、2014年度上期より、約70%の仕損費低減を実現した。 また、各拠点の工程の見える化が実現し、ネック工程、滞留工程の分析により工程改善を行い、TATの短縮にもつながった。このように各拠点の改革および、拠点を跨いだ改革を行うことにより、大きな成果をあげている。

     本システムはまだ発展途上である。今後各種部材ベン

    導入による効果

    今後の展開について

    図 7 プリンター生産ラインでの実施例

    図 6 仮想インラインシステム全体構成

    COB

    LED2

    3 COB

    4

    5

    etc

    LED【駆動ICウェハメーカー】

    1

    メ カ 】

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