水中ジェットポンプの動作特性1 水中ジェットポンプの動作特性 鈴木...

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1 水中ジェットポンプの動作特性 鈴木 勝晴、 田中 皓基、 桜木 俊一 概要:近年、ジェットポンプの応用技術として、汚染の進んだ湖沼や河川の底層部にジェットポンプを 設置し、澱んだ水中空間をジェット水流により撹拌することにより、汚染物質を除去し水質浄化を促進 する技術が注目されている (1) 。これは、大流量噴流で底層部の水を撹拌することにより、水中酸素の混合 が促進され、水中バクテリアの活動が活性化されて汚染物質の分解除去が行われることに起因する。本 研究は、消費動力が少なく、大流量の噴流の発生が可能なジェットポンプの構造と運転特性を追求する ことを目的とする。大型水槽の底部に 1 次ノズルと流量増幅用 2 次ノズルからなる実験用ジェットポン プを設置し、 2 次ノズルから噴出される流速分布を測定することにより 2 次ノズルからの流出流量が決定 され、1 次ノズルの噴出流量との比である流量増幅率が計算可能となる。本研究では、1 次ノズルと 2 ノズルの相対位置を変化させた場合や、異なる内径の 2 次ノズルを使用した場合の流量増幅率の変化を 実験的に求め最も運転効率の高い形状パラメータを決定した。さらに、実験機を CFD モデル化し、ジェ ットポンプの流れの構造をコンピュータシミュレーションにより比較検証した。 キーワード:ジェットポンプ、水質浄化、動作特性、流量増幅率、消費動力、CFD 解析 1. 本研究では、水質浄化装置として利用される水 中ジェットポンプの動作特性をを検討した。1. にジェットポンプの設置概念図を示す。 汚染された河川や湖沼の底層部にジェットポン プを設置し、大流量噴流で底層部の水を撹拌する ことにより、水中酸素の混合が促進され、水中バ クテリアの活動が活性化されて汚染物質の分解除 去が進展する。この研究では、消費動力が少なく、 大流量の噴流の発生が可能なジェットポンプの構 造と運転特性を追求するために、大型水槽中に実 験用ジェットポンプを設置し、様々な運転条件で の噴流の速度分布を測定した。 この速度分布の結 1. 水中ジェットポンプの設置概念図 果から、2 次ノズルからの流出流量が計算可能と なり 1 次ノズルの噴出流量との比である流量増幅 率が求まる。この流量増幅率はジェットポンプの 動作効率を表す重要な指標であるため、この値の 変化を調べることによりジェットポンプの構成部 材の最適形状を知ることが出来る。 2. ジェットポンプの 1 次元基礎理論 1 次元流体力学の基礎方程式 (2) を利用しジェッ トポンプの動作特性を解析する。2.に示す解析 モデルを使用すると次の方程式群が得られる。 ・単位時間に検査体積から流出した運動量: ・・・① 2. ジェットポンプの 1 次元解析モデル V 1 V 0 V 2 p 1 p 2 φd φD 検査体積 1次ノズル 2次ノズル 流体密度 ρ 2 2 2 4 V D 平成 27 年度 日本技術士会中部本部 研究業績発表会 講演論文集 3 2016

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Page 1: 水中ジェットポンプの動作特性1 水中ジェットポンプの動作特性 鈴木 勝晴、 田中 皓基、 桜木 俊一 概要:近年、ジェットポンプの応用技術として、汚染の進んだ湖沼や河川の底層部にジェットポンプを

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水中ジェットポンプの動作特性

鈴木 勝晴、 田中 皓基、 桜木 俊一

概要:近年、ジェットポンプの応用技術として、汚染の進んだ湖沼や河川の底層部にジェットポンプを

設置し、澱んだ水中空間をジェット水流により撹拌することにより、汚染物質を除去し水質浄化を促進

する技術が注目されている(1)。これは、大流量噴流で底層部の水を撹拌することにより、水中酸素の混合

が促進され、水中バクテリアの活動が活性化されて汚染物質の分解除去が行われることに起因する。本

研究は、消費動力が少なく、大流量の噴流の発生が可能なジェットポンプの構造と運転特性を追求する

ことを目的とする。大型水槽の底部に 1 次ノズルと流量増幅用 2 次ノズルからなる実験用ジェットポン

プを設置し、2次ノズルから噴出される流速分布を測定することにより 2次ノズルからの流出流量が決定

され、1次ノズルの噴出流量との比である流量増幅率が計算可能となる。本研究では、1次ノズルと 2次

ノズルの相対位置を変化させた場合や、異なる内径の 2 次ノズルを使用した場合の流量増幅率の変化を

実験的に求め最も運転効率の高い形状パラメータを決定した。さらに、実験機を CFDモデル化し、ジェ

ットポンプの流れの構造をコンピュータシミュレーションにより比較検証した。

キーワード:ジェットポンプ、水質浄化、動作特性、流量増幅率、消費動力、CFD解析

1. 緒 言

本研究では、水質浄化装置として利用される水

中ジェットポンプの動作特性をを検討した。図 1.

にジェットポンプの設置概念図を示す。

汚染された河川や湖沼の底層部にジェットポン

プを設置し、大流量噴流で底層部の水を撹拌する

ことにより、水中酸素の混合が促進され、水中バ

クテリアの活動が活性化されて汚染物質の分解除

去が進展する。この研究では、消費動力が少なく、

大流量の噴流の発生が可能なジェットポンプの構

造と運転特性を追求するために、大型水槽中に実

験用ジェットポンプを設置し、様々な運転条件で

の噴流の速度分布を測定した。 この速度分布の結

図 1. 水中ジェットポンプの設置概念図

果から、2 次ノズルからの流出流量が計算可能と

なり 1 次ノズルの噴出流量との比である流量増幅

率が求まる。この流量増幅率はジェットポンプの

動作効率を表す重要な指標であるため、この値の

変化を調べることによりジェットポンプの構成部

材の最適形状を知ることが出来る。

2. ジェットポンプの 1次元基礎理論

1 次元流体力学の基礎方程式(2)を利用しジェッ

トポンプの動作特性を解析する。図 2.に示す解析

モデルを使用すると次の方程式群が得られる。

・単位時間に検査体積から流出した運動量:

・・・①

図 2. ジェットポンプの 1次元解析モデル

V1

V0

V2

p1p2

φd φD

検査体積

1次ノズル

2次ノズル

流体密度 ρ

2

2

2

4V

D

平成 27年度 日本技術士会中部本部 研究業績発表会 講演論文集 第 3巻 2016

Page 2: 水中ジェットポンプの動作特性1 水中ジェットポンプの動作特性 鈴木 勝晴、 田中 皓基、 桜木 俊一 概要:近年、ジェットポンプの応用技術として、汚染の進んだ湖沼や河川の底層部にジェットポンプを

2

・単位時間に検査体積に流入した運動量:

・・・②

・検査体積内の流体に作用する力:

・・・③

1 次元流体力学の「運動量の法則」は、上記の①

~③式を用いて次のように書ける。

③ = ① - ②

この関係式と、検査体積内に流入および流出する

流量に対する連続の式、すなわち

・・・④

を連立して解くことにより、ジェットポンプの 1

次元モデルに関する以下の関係式を得る。

・・・⑤

この式は、P2 - P1 が常に正の値であることを示し

ている。すなわち、流れの上流側圧力 P1よりも高

い下流側圧力 P2に逆らってジェットポンプが水を

送り出し、ポンプとして機能していることを表し

ている。さらに⑤式より、流速差(V0 - V1 )の 2

乗に比例して圧力差が大きくなる(吐出量が増大

する)こと、および、d/D すなわち1次ノズルの

口径と2次ノズルの口径比が性能を左右する重要

なパラメータであることが分かる。

3. 実験装置とデータ解析手法

3.1 実験装置

図 3.に本研究で実施した大型水槽(1800mm×900

mm×深さ 900mm)による実験計測システムの概略図

を示す。1次ノズルはステンレス製で長さ 100 mm、

外径 10 mm、内径 6 mm である。2次ノズルは透

明アクリル製で長さ200 mmで内径は30 mm、45 mm、

図 3. 水槽実験システムの概略

図 4. 水中ジェットポンプ 図 5. 流速計測点

60 mm の 3 種類を用意した。2次ノズルの肉厚は

すべて 2.5 mmである。1次ノズルと2次ノズルの

端部は周囲流体の滑らかな流れを妨げないように

C面加工、R面加工を施してある。また、1次ノズ

ルと 2次ノズルの相対位置 ΔX(負の値は 1次ノズ

ルが 2 次ノズルの外側にある場合)が調整可能な

構造となっている。さらに、1次ノズルには高揚

程ポンプ(最大揚程:23m、定格出力:0.4kW)に

より水槽内の水が供給される。ポンプを駆動する

モータはインバータにより回転速度制御が行われ、

吐出流量を任意に調整することができる。

2次ノズルから放出される噴流の速度分布は、

流れの全圧測定プローブを使用して計測した。こ

のプローブは3軸駆動ステージに固定されており

精密な位置設定が可能である。図 4.は水槽に設置

されたジェットポンプの写真である。

3.2データ解析手法

2次ノズル出口面から中心軸方向に 2 mm下流方

向に離れた面上で、ノズル直径を等間隔に分割し

た計測点に全圧プローブを移動させ流速測定を実

施した。図 5.に流速計測点を示す。各計測点で測

定された流れの全圧値を P0とし、プローブの水深

を h、水の密度を 、重力加速度を gとしてベルヌ

ーイの定理を適用すると速度 Vは次式で表される。

さらに、2次ノズルから噴出される流量 Qは、ノ

ズル面積を複数の環状領域に分割し,其々の環状

領域の平均流量 Qnを合計することで得られる。

すなわち、図 5.を参照して

21

2

4PP

D

2

0

22

1

22

44VdVdD

2

2

0

2

1

22

444VDVdVdD

2102

22

2

2

12 VVD

dD

D

dPP

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さらに、1次ノズルの噴出流量を とすれば、流量

増幅率 η は η で定義される。

4. 実験結果と CFD解析結果

ジェットポンプの流れ場の詳細な 3 次元速度分

布を知るためには、前述の 1 次元理論では不十分

であり、3 次元の運動方程式であるナビエ・スト

ークス方程式と質量保存式を連立して解を求める

必要がある。本研究で使用した CFD 解析ソフト

PHOENICSでは次の基礎方程式を採用している(3)。

質量保存式(連続の式)

運動方程式:(N・S方程式)

ここで、 は速度ベクトル、 は流体密度、 は粘性

係数、 は圧力、 は重力などの外力項である。

図 6.は、本実験で使用したジェットポンプ形状

をモデル化した計算結果である。

図 6. ジェットポンプの速度分布計算結果

図 7. 速度分布の実測値と計算値の比較

図 8. 供給流量と増幅流量

図 9. 供給流量と流量増幅率

図 7.は、速度分布の実測値と PHOENICSによ

る計算結果を比較したもので、2次ノズル出口面

から 202mm 下流の水平中心軸上の速度分布を表

す。定性的には良い一致が見られる。

図 8.は、供給流量(1 次ノズル流量)と発生す

る循環流量(2 次ノズル流量)の測定結果を示し

たものである。3 種類の 2 次ノズル口径のいずれ

の場合も、供給流量の増加とともに循環流量は増

加する。2 次ノズルの口径が大きいほど循環流量

も多くなる。

図 9.は、図 8.に示した実測結果から流量増幅率

を計算したものである。同図より、供給流量の増

加に伴い流量増幅率の低下が見られる。これは、

循環流量の増加が 2 次ノズルを通過する流速を増

大させ、2 次ノズル内で発生する流体せん断応力

の増大に伴うエネルギー損失を増加させることに

よると考えられる。

1次ノズル流量:24 L/M

2次ノズル内径:60 mm

ΔX:-20 mm, 流量増幅率:8.2

0

50

100

150

200

250

300

0 5 10 15 20 25 30

循環流量

(L/m

in)

供給流量 (L/min)

ΔX = 20 mm

2次ノズル径60mm

2次ノズル径45mm

2次ノズル径30mm

-100

-50

0

50

100

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

測定位置

(mm

)

流速 (m/s)

1次ノズル流量: 25.7 L/min,

測定場所: 2次ノズル出口面より 202mm 下流

実測値

PHOENICS

Δ X = -20 mm

2次ノズル内径:60mm

0

2

4

6

8

10

12

14

16

0 5 10 15 20 25 30

流量増幅率η

供給流量 (L/min)

ΔX = 20 mm

2次ノズル径60mm

2次ノズル径45mm

2次ノズル径30mm

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図 10. ノズル相対位置と流量増幅率

図 11. ノズル相対位置と流量増幅率(最大流量時)

図 12. ポンプの供給動力と流量増幅率

図 10.は、実施した全ての実験水準の流量増幅率

とノズル相対位置 ΔX との関係を示したものであ

る。供給流量と 2 次ノズル口径をパラメータとし

て表示している。ΔX が 20mm のとき増幅率が高

くなる傾向を示しており、この傾向は供給流量が

少ないほど顕著に現われている。すなわちジェッ

トポンプの吸引効率が最良の状態にあると言える。

図 11.は、供給流量が最大時の実験結果と CFD

解析結果を示す。絶対値としての誤差は大きいが、

定性的挙動は比較的良く一致している。

図 12.は、ポンプの供給動力と流量増幅率の関係

を示したもので、4~90 W程度の少ない消費動力

で大きな循環流量を発生できることが分かる。

5. 結 言

実験用水中ジェットポンプを製作し、その動作

特性を実験計測および CFD解析により調べ、以下

の結論を得た。

(1)1次ノズルの噴射流量(供給流量)にほぼ比例し、

2次ノズルからの噴出流量(循環流量)は増加する。

(2)同じ供給流量では、2 次ノズルの口径がお大き

いほど循環流量は大きくなる。

(3)流量増幅率は供給流量の増加とともに減少す

る傾向を示す。これは供給流量の増加に伴い 2 次

ノズル内部で発生する流体せん断応力の増大によ

るエネルギー損失の増加によるものと推察される。

(4)1次ノズルと 2次ノズルの最適な相対位置は、1

次ノズルの先端が 2次ノズル内へ 2cm程度入り込

んだ状態にあるときと考えられる。

【参考文献】

(1) 例えば、“エビスマリン(株)ホームページ”、

http://ebismarine.com/

(2) 中山泰喜、“改訂版 流体の力学” 養賢堂 1998

pp. 69.

(3) CHAM Ltd. “ PHOENICS の 基 礎 式 ”

PHOENICS Ver.2013 Manual (Japanese),

Vol.1 2014, pp3-16~3-22.

【著者紹介】

鈴木 勝晴

静岡理工科大学 理工学部

機械工学科 4年

田中 皓基

静岡理工科大学 理工学部

機械工学科 4年

桜木 俊一

静岡理工科大学 理工学部

機械工学科 教授

博士(工学)

E-mail: [email protected]

4

5

6

7

8

9

10

-20 0 20 40

流量増幅率η

ノズル相対位置Δ X (mm)

最大流量時のノズル位置と流量増幅率

φ30mm実測値

φ45mm実測値

φ60mm実測値

φ30mm計算値

φ45mm計算値

φ60mm計算値

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

-20 0 20 40

流量増幅率η

ノズル相対位置Δ X (mm)

φ30mm、7.2 L/min

φ30mm、16.5 L/min

φ30mm、24 L/min

φ45mm、7.2 L/min

φ45mm、16.5 L/min

φ45mm、24 L/min

φ60mm、7.2 L/min

φ60mm、16.5 L/min

φ60mm、24 L/min

0

2

4

6

8

10

12

14

16

3.8 28.2 89.8

流量増幅率η

ポンプの供給動力 (W)

ΔX = 20 mm2次ノズル径30mm2次ノズル径45mm2次ノズル径60mm

φ45

φ60

φ30

(供給流量 7.2 L/min) (供給流量 16.5 L/min) (供給流量 24 L/min)