シェアリング・エコノミーpweb.sophia.ac.jp/amikura/thesis/2016/kanbara.pdf3 【第1章...

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1 平成28年度上智大学経済学部 網倉ゼミ 卒業論文 シェアリング・エコノミー なぜ Uber は短期間に大成長をとげたのか、そしてそれは今後も続くのか A1241769 神原和史 2016 1 15

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平成28年度上智大学経済学部

網倉ゼミ 卒業論文

シェアリング・エコノミー なぜ Uberは短期間に大成長をとげたのか、そしてそれは今後も続くのか

A1241769

神原和史 2016年 1月 15日

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【目次】 第1章 はじめに

第2章 基本情報 2−1 シェアリング・エコノミーの定義 2−2 シェアリング・エコノミーの詳細

2−3 Uberの事例

第3章 疑問: なぜ Uberは短期間に大成長をとげたのか、そしてそれは今後も続くのか

仮説と検証 3−1 仮説 検証・考察

3−2 仮説 検証・考察 3−3 仮説

検証・考察

結論

第4章 終わりに

参考文献

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【第1章 はじめに】

私は 2013年の春よりホテルでドアマンのアルバイトをしてきました。アルバイトを開始し

たばかりの時に比べて、お客様に大きな変化があったと考えます。それは Uberを利用する

お客様が圧倒的に増えたということであります。いままでなかったサービスが急激に発展

してきました。そして Uberだけでなく、airbnbなど様々なシェアリング・エコノミーの

サービスが誕生しました。これらのサービスに共通する点は、自分で所有するのではなく、

他者が所有するもの・もしくは他者と共同で所有するものをお金はらって利用するという

点です。これにより借り手はモノを自己所有するのに比べ、安く利用することが可能にな

ります。そして貸し手は使っていない資産を貸し出すことにより収入を手に入れることが

出来るようになります。

シェアリング・エコノミーは、一見すると貸し手・借り手の双方にとって win-winの関係

であるように見えます。では、これが本当にそうなのか、この論文のなかで考えていきた

いと考えます。

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【第2章 基本情報】

2−1 シェアリング・エコノミーの定義

総務省の発表する平成27年版情報通信白書によれば、

「シェアリング・エコノミー」とは、典型的には個人が保有する遊休資産(スキル

のような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービスであり、貸主は遊休資産

の活用による収入、借主は所有することなく利用ができるというメリットがある。

貸し借りが成立するためには信頼関係の担保が必要であるが、そのためにソーシャ

ルメディアの特性である情報交換に基づく緩やかなコミュニティの機能を活用する

ことができる。シェアリング・エコノミーはシリコンバレーを起点にグローバルに

成長してきた。PwCによると、2013年に約 150億ドルの市場規模が 2025年に

は約 3,350億ドル規模に成長する見込みである

とある。

これには大きく2つの軸があると考えます。1つ目は、個人(法人も含める)が保有する

休遊資産の貸し出しを仲介するというものです。そして2つ目は、これらのサービスの多

くはインターネットを介するものであるということです。この2つの軸をもって、この論

文での、シェアリング・エコノミーとして定義する。

2−2 シェアリング・エコノミーの詳細

シェアリング・エコノミーの市場規模は 2013年時点で 150億ドルとみられていた。そ

れから10年後の 2025年には、3350億ドルになると予測されている。ちなみに国内の現

在の市場規模は 230億円以上とも言われている。

次の表は主なシェアリング・エコノミーの例である。

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PwC「 The sharing economy」より

・多くが 2010年以降サービス開始され、急速に発展してきた。

Airbnbや Uberなどが急速に広がり、現在世界各国でサービスを提供しており、これ

らはシェアリング・エコノミーの代表例として広く知られている。急速の発展のうらには、

既存事業者や業界団体の強い反発、法制度などによる強い制約など様々な課題もある。例

をあげれば、欧州でおこったタクシードライバーが高速道路を封鎖し行った抗議活動など

があげられる。

・シェアリング・エコノミーの特徴として、関係者の形態を考えてみたい。

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大きくわけてこの3種類になると考えます。

N:Nの関係、つまり C to Cのビジネスの発展が著しい。

この論文では、著しい発展を遂げる C to Cビジネスのなかで、シェアリング・エコノミー

のなかでも Uberに注目して話をすすめていたい。

2−3 Uberの事例 先ほどから何度も Uberというサービスの名前が出てきているが、ここで具体的にどのよう

なサービスを行っているのか? Uberのビジネスモデルを具体的な図にしたものは次のよ

うなものである。

スマートフォンの位置情報などを利用して、移動ニーズのある利用者とドライバーをマッ

チングさせるサービスである。具体的な仕組みは、利用者は、あらかじめ登録しておいた

スマートフォンアプリを通じて、配車予約を行う。配車予約があれば、アプリを通じて、

近くのドライバーに配車依頼がある。決済は予め登録したクレジットカードの決済となる。

現在 250の都市でサービスを提供しており、時価総額は約 412億 USDにものぼる。こ

の額はあまり想像つかないが、アメリカのユナイテッド航空やデルタ航空の時価総額を上

回る。どのようにして、アメリカのメが企業を上回る規模である。

なぜ Uberは急成長を遂げることが出来たのか。そしてこの成長を続けることが可能であ

るのかという疑問をたてた。それに対して、以下のような3つの仮説をたてた。

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Ⅰ ITの急速な発展とスマホ普及率の上昇

Ⅱ ENTREPRENEUR

Ⅲ 意識の変化

この3つの仮説を3章以降で検証・考察していきたいと考えます。

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【第3章 仮説・検証・考察】

疑問:なぜ Uberは短期間に大成長をとげたのか、そしてそれは今後も続くのか

仮説Ⅰ: ITの急速な発展とスマホ普及率の上昇

Uberは先述のように、スマートフォンを経由して予約を行う。逆に言えば、スマートフォ

ンがなければ予約することが出来ない。スマートフォンの登場は果たしの感覚では、2010

年前後だと考える。これにより詳細な位置情報、リアルタイムでの空き状況を共有するこ

とが可能になり、サービスの急成長につながった。

検証・考察Ⅰ

下の図はグーグル・トレンドで Uberを検索したものである。

2013年の後半から徐々に数値が上がっていき、以降右肩上がりに上昇している。

一方で次の図はスマートフォンの普及率である。

博報堂 DYメディアパートナーズのメディア環境研究所より

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この二つは同じような動きをしており、スマートフォンの普及がすすむにつれ、Uberが成

長してきたのではないかと考えられる。

では、具体的にはスマートフォンがどのようにして Uberの成長につながるのだろうか。

スマートフォンなどタブレット端末の登場により可能になったことが大きくわけて二つあ

ると考える。1つ目は位置情報を正確に利用できるようになったこと、そして2つ目は、

オンライン決済が手軽に出来るようになったことである。位置情報を利用し、車を正確に

配車することが可能になったことが、 も重要な点であると考える。またその位置情報を

利用して、目的地までの時間、おおよその運賃を配車前に知ることが出来る。これは意外

に大きなポイントであると考えます。これがあることで、わざと遠回りによるオーバーチ

ャージされることを防ぐことができ、利用者の安心につながる。しかしそれだけではない。

2つ目のオンライン決済が重要であると考えます。自分の国でクレジットカードを登録し

ておけば、全世界で配車サービスをキャッシュレスで使える。海外に行った際など、その

国の通過で支払いをすることは煩わしいが、その煩わしさがなくなる。

Uberをはじめとして、多くのシェアリング・エコノミーのサービスでは、相互レーティ

ングシステムを導入している。これにより利用者はサービスを利用する前にモノ・サービ

スの評価を確認することが出来る。つまり、Uberであれば、配車される車のドライバーの

評価を事前に確認することが出来る。また、同時にドライバー側も利用者の評価を確認で

き、サービス提供をするかどうかを決めることが出来る。これにより、評価の低い人は、

いずれ誰からもサービスを提供してもらえなくなり、サービスを利用できなくなる。この

相互レーティングシステムによりサービス水準を確保している。ITがこれらを可能にし、

スマートフォン普及とともに多くの人に広がっていったということは、シェアリング・エ

コノミーの発展の要因の1つだと考えます。

仮説Ⅱ:ENTREPRENEUR

ENTREPRENEURという言葉がある。もともとはフランス語であったらしいが、英国でも

広く使われていた。実際に英国にいた時、この言葉を数多く耳にした。辞書には、高い経

済的なリスクをとって、一発逆転をかけ起業する人々のことであるとある。英国にいたと

きのノートを見返してみると、その定義について、”people who have special idea for

new businesses and try to make it true, but don’t have enough money for it”とか

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いていた。ここでは、後者の意味で ENTREPRENEURを考えたい。

考察・検証

シェアリング・エコノミーのサービスの多くは、既存サービスと似通っているものがある。

例えば Uberであれば、タクシー業界に似ているし、airbnbだとホテル業に似ている。し

かし、既存業界に対して不満があることを創立者は気づき、新たなサービスを解説した。

先にも述べたが、タクシーを例にとっても数多くのトラブルを、ホテルのドアマンとして

見てきた。世界的にみてもしっかりしていると言われる東京のタクシードライバー立ちで

さえである。目的地とは違った所に連れて行かれたり、遠回りされたというクレームをお

客様によくもらう。全体的なタクシードライバーのサービスの質の低下に対し、今までは

代替的な手段があまりなかった。タクシーを使わない場合、多くの場合、代替となる選択

肢は電車、バス、徒歩くらいである。これらは、人によってはあまり実用的でない。時間

のあまりないサラリーマンの人々や海外旅行者にとってはなおさらである。つまり EXITが

できなかった。そこに、自分たちの不満をカバーする新しいサービスが生まれた。利用者

としては、そのサービスを利用しないわけがない。ここでの 大のポイントは既存業界の

抵抗や反対にも関わらず資金を確保し、成長させ続けている点である。TOYOTAやグーグ

ルといった世界的な企業が将来性を見据え、出資を行っている。これに加えて、

ENTRREPRENEURをバックアップする保険の誕生や、海外では税の軽減なども行われて

いる。しかし、フランスなど欧州の国では、Uberがあまりにも人気をはくし、タクシード

ライバーが高速道路を封鎖するなどのデモ活動が広がっている。またマカオでは Uberは白

タクと見なされており、摘発の対象とされている。

仮説Ⅲ:意識の変化

いままでモノによって幸せを感じる人が多かったと考える。ステータスとして、男性はス

ポーツカーに憧れたり、女性は高級ブランド品を欲しいと思うことが多かった。しかし現

在は安くても良いものを購入したいと考える人が増えているように感じる。サービスに関

しても、よりよいサービスをよりリーゾナブルに利用したいと考える人が増えているので

はないか。

検証・考察

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プルデンシャル ジブラルタル ファイナンシャル生命保険株式界社のシェアリングに関

する調査によれば、69%もの人が所有することよりも体験することにお金を使いたいと考

えていることがわかった。

また、多くモノを所有することが幸せにつながるか?と言う質問に対して、YESと答えた

割合は 37.3%そう思わないは 62.8%になった。つまり人々は自分自身でモノを所有する

ことに価値を見いださずに、それを利用したり、様々な体験することに価値をおいている。

この図は所有することにこだわらないものを聞いたアンケートである。

http://www.pgf-life.co.jp/is/news/NB300.do?NID=1346

意外なのはベビー用品までシェアするのかということであったが、実に様々なものに対し

てシェアしたいと考えている人が多い。この人々の意識の変化はシェアリング・エコノミ

ーの発展に寄与してきたと考えます。

これら3つの仮説・検証から世界的にみて、Uberは既存事業の抵抗にあうも、成長してき

たたしかな理由があると考える。しかし、日本においてこの成長を今後続けることは難し

いと考える。

12月、私はある Uberドライバーの方にお話をお伺いした。その方はあるタクシー会社で

ドライバーを 20年してきた。この度その会社が Uberに新たに登録するかどうか判断する

際に、実証的な実験としてデータをとるために Uberに登録した方であった。この実証実験

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で収益が上がれば今後 15台の Uberの車両をその会社は導入するらしい。そのドライバー

の方のお話はつぎのようなものであった。

・ 1日あたりの売上はタクシーに比べ Uberのほうが圧倒的に良い

・ Uberの2割の手数料が思いのほか大きい

・ タクシーより高級車を利用しているために、維持費・購入費用がかかりすぎる

・ 利用者の7〜8割は海外からの人

・ 知名度がまだまだ国内では低い

国内の低い知名度により、少ない需要と少ない供給のなかでうまくやっている印象とのこ

とであった。日本では法律のより、Uberはタクシー会社やハイヤー会社にサービスを委託

している。初期費用・維持費がかかるため、多くの会社はそれに踏み出せないでおり、国

内ではサービス拡大に戸惑っているのではないかと考えます。結果サービスの拡大の勢い

が衰えていると考える。

Uberの近年の成長についてまとめると次のようになる。

1 ITの利用など、技術の進歩が Uberの発展に寄与した

2 ENTREPRENEURを取り巻く環境が改善した

3 人々の意識が変化してきた

⇔ 国内では、Uberの知名度は低く、日本人にはあまり受け入れられてない。

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【第4章】

Uberはとても便利ではあるものの、現在日本において苦戦している。Uberを含め、シェ

アリング・エコノミーのサービスは法律による規制と隣り合わせであり、その規制によっ

て大きく収益が左右される。法整備が今後のシェアリング・エコノミー成長の鍵になると

考える。現在民泊を解禁するという話が紙面をにぎわしていた。ホテル業界は戦々恐々と

しているが、利用者にとってみれば新たな選択肢が増えることで、既存ホテル業界のサー

ビス低下などへの牽制になる。全く同じことが Uberにもおこっている。

先日香港のゼミ旅行の際、香港のタクシーと香港の Uberだと格段に後者の方が快適であ

った。海外から日本に来ているホテルゲストに聞いても、日本のタクシーよりも Uberの方

が良かったという人の方が圧倒的に多かった。このような”便利な”サービスが広く受け入れ

られる。このような利用者にとって新たな選択肢となるものがあまり普及しないのは個人

的に少しもったいないなと感じる。

Uberに限らず、もっと広まれば良いと思うサービスは数多くある。

https://www.pwc.com/sg/en/publications/assets/the-sharing-economy-jp.pdf

今の自分の生活を考えてみた時、自分の周りには数多くの休遊資産であふれていると感じ

た。それをシェアすることで、自分の人生はもっと豊かになるかもしれない。もっと知ら

ないことに挑戦するチャンスを得ることが出来るかもしれない。今後はそのようなモノを

楽しむ人間でありたいところ研究を通して思うようになった。

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参考文献

総務省 H27年版 情報通信白書

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc242110.ht

ml

PwC シェアリングエコノミー-PwC

https://www.pwc.com/sg/en/publications/assets/the-sharing-economy-jp.pdf

PGF生命 シェアリングエコノミーと所有に関する意識調査 2016

http://www.pgf-life.co.jp/is/news/NB300.do?NID=1346

UBER

https://www.uber.com/ja-JP/cities/tokyo/