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目次 1.問題設定………………………………………………………………………………………5 2.先行研究………………………………………………………………………………………7 3.理論枠組み……………………………………………………………………………………8 4.データ ………………………………………………………………………………………10 5.育児ネットワークのかたち …………………………………………………………………11 (以下次号) 6.育児ネットワークと母親のwell-being 7.育児ネットワークの形成要因 8.結論と考察 要旨 ①個人が取り結んでいる家族、親族、非親族の人的関係をインフォーマル・ネットワークという。それは自 助と共助の原理にもとづくシステムであり、人々の福祉を増進するためには公共/民間のフォーマルな サービスの充実に加えて、これらのネットワークからのサポートが不可欠である。しかし、その研究、理 論化はいまだ発展途上である。本稿の目的は、このネットワークが発揮するサポート力を実証的に解 明して、福祉の担い手として再評価を促すことである。今号と次号で研究結果を報告する。 ②実証研究で取り上げるのは育児の領域におけるインフォーマル・ネットワークである。育児をする母親 に直接・間接の育児支援を行っている者を<育児ネットワーク>と定義して分析した。分析に使用し たデータは、都内の保育園・幼稚園に子どもを通わせている母親に対するアンケート調査データであ る。分析内容は多岐にわたるが、主な分析課題は、育児ネットワークの実態、育児ネットワークが母親 のwell-being(心理的安寧)へ与えるサポート効果、育児ネットワークの形成要因、の3点である。 ③分析から明らかになった育児ネットワークの実態は次のとおりである。現代社会では母親を父親のみ ならず、親族や非親族がサポートするなかで育児が行われている。親族ネットワークの数は母親方/父 親方それぞれ平均1名であり、双方の祖母がネットワークの中心である。また非親族ネットワークは、そ の多くが同じ年ごろの子どもを持つ母親同士で、子どもを通じて知り合った、いわゆる<子育て仲間 のネットワーク>である。父親は評価的なサポート、親族は手段的なサポート、非親族は情報的・情緒 的なサポートを多く提供している。すなわち父親、親族、非親族のサポート内容は互いに補完的であ る。ここから母親が多様なサポートを受けるためには、父親、親族、非親族それぞれのネットワークを 充実させることが必要であるという視点が導き出される。 キーワード:育児ネットワーク、ソーシャル・サポート、well-being インフォーマル・ネットワークとwell-being (上) -育児におけるネットワークのサポート効果- 研究開発部 松田 茂樹 MONTHLY REPORT 4 LDI REPORT 2001. 7

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目次1.問題設定………………………………………………………………………………………5

2.先行研究………………………………………………………………………………………7

3.理論枠組み……………………………………………………………………………………8

4.データ ………………………………………………………………………………………10

5.育児ネットワークのかたち…………………………………………………………………11

(以下次号)

6.育児ネットワークと母親のwell-being

7.育児ネットワークの形成要因

8.結論と考察

要旨①個人が取り結んでいる家族、親族、非親族の人的関係をインフォーマル・ネットワークという。それは自助と共助の原理にもとづくシステムであり、人々の福祉を増進するためには公共/民間のフォーマルなサービスの充実に加えて、これらのネットワークからのサポートが不可欠である。しかし、その研究、理論化はいまだ発展途上である。本稿の目的は、このネットワークが発揮するサポート力を実証的に解明して、福祉の担い手として再評価を促すことである。今号と次号で研究結果を報告する。

②実証研究で取り上げるのは育児の領域におけるインフォーマル・ネットワークである。育児をする母親に直接・間接の育児支援を行っている者を<育児ネットワーク>と定義して分析した。分析に使用したデータは、都内の保育園・幼稚園に子どもを通わせている母親に対するアンケート調査データである。分析内容は多岐にわたるが、主な分析課題は、育児ネットワークの実態、育児ネットワークが母親のwell-being(心理的安寧)へ与えるサポート効果、育児ネットワークの形成要因、の3点である。

③分析から明らかになった育児ネットワークの実態は次のとおりである。現代社会では母親を父親のみならず、親族や非親族がサポートするなかで育児が行われている。親族ネットワークの数は母親方/父親方それぞれ平均1名であり、双方の祖母がネットワークの中心である。また非親族ネットワークは、その多くが同じ年ごろの子どもを持つ母親同士で、子どもを通じて知り合った、いわゆる<子育て仲間のネットワーク>である。父親は評価的なサポート、親族は手段的なサポート、非親族は情報的・情緒的なサポートを多く提供している。すなわち父親、親族、非親族のサポート内容は互いに補完的である。ここから母親が多様なサポートを受けるためには、父親、親族、非親族それぞれのネットワークを充実させることが必要であるという視点が導き出される。

キーワード:育児ネットワーク、ソーシャル・サポート、well-being

インフォーマル・ネットワークとwell-being(上)-育児におけるネットワークのサポート効果-

研究開発部 松田 茂樹

MONTHLY REPORT

4 LDI REPORT2001. 7

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1.問題設定

(1)潜在的資源としてのインフォーマ

ル・ネットワーク

インフォーマル・ネットワークとは、個人が

取り結んでいる人的関係のことであり、家

族、親族、非親族の関係がこれに該当す

る*1。われわれは親族、友人、近隣、同僚

などから、物質、情報、さらには行動や業

績の評価といったさまざまな面に関するサ

ポートを日常的に受けている。市場メカニ

ズムや公的サービスが高度に発展した今日

においても、人々は社会生活における多く

のニーズをこれらのネットワークからのサポ

ートで充足させていることが指摘されてい

る(Wellman and Gulia,1999)。

インフォーマル・ネットワークは広義の意

味での人々の福祉(welfare)を増進させる

役割を担っており、社会福祉の供給システ

ムのひとつである。「福祉ミックス論」(丸尾,

1998)によると、効果的・効率的に福祉政策

を展開するためには図表1にあげるように、

①経済システム、②政治システム、③インフ

ォーマル・システムの各々の長所を生かし

た政策の組み合わせを行うことが必要であ

ると指摘されている。このうちインフォーマ

ル・システムは連帯と統合、社会的交換に

よる「共助」と、自らの力で課題を処理して

いく「自助」を行動原理とするものである。

ここには非営利組織のほかに、本稿でとり

あげるインフォーマル・ネットワークが含ま

れる。その役割は、福祉供給における「市

場の失敗」と「政府の失敗」を補完し、かつ

前二者にはない<人間的な>サービスを

提供することとされる。

しかし、日常生活の中で果たしている役

割が大きいとみられるインフォーマル・ネッ

トワークであるが、それは文字どおり<イ

ンフォーマル>であったために、これまで

研究が遅れてきた分野である。それは、と

もすれば見過ごされ、過小評価されてきた

潜在的資源といえるだろう。これを福祉供

給のシステムと考えるのであれば、人々の

welfareをどの程度維持・向上させる効果が

あるのかという点の解明は不可欠である。

MONTHLY REPORT

5LDI REPORT2001. 7

図表1 社会の3つのシステムの機能と主体�

システム名�

市場メカニズム�

需給の自動的均衡、資源の最適配分�

議会制民主主義�

多数決と合意�

連帯と統合�

互酬性と社会的交換�

自助�

機能と秩序維持�

企業�

政府、国�

地方自治体�

その他の公的機関�

家族、親族�

友人・仲間�

ボランティア�

非営利非公式組織�

行動主体�

経済システム�

政治システム�

社会システム�

(インフォーマル・システム)�

注:丸尾(1998)を一部変更。網掛け部分が、本稿でいうインフォーマル・ネットワークである。�

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特にSimmel(1922)以来続く、どのようなネッ

トワークの構造が効果的にサポートを生み

出すのかという未解決の問いの解明が求め

られている(Wellman and Gulia,1999)。

本稿の目的は、この資源が発揮するサポ

ート効果を、ネットワーク構造の観点から明

らかにすることにある。現代社会において

インフォーマル・ネットワークは1種類であら

ゆるニーズにこたえるものではなく、ニー

ズごとに特化した専門的なネットワークとな

っている(Wellman,1999)。個人はそれぞ

れの専門的なネットワークから異なる影響

を及ぼされているため、構造とそれが発揮

するサポートとの関係を明らかにするため

には、分析者が特定のネットワークを抽出し

て実証研究を行うことになる(安田,1997)。

(2)育児ネットワークと母親のwel l -

being

育児という領域は最もインフォーマル・ネ

ットワークのサポートが求められており、か

つそのサポート効果の解明が急務の分野

である。現在、母親の育児不安やストレス

が高まっていることが指摘されており(厚生

省,1998)、母親の心理面のwell-being(心

理的安寧)の維持・向上が社会的な課題と

なっている。母親のwell-beingの維持・向

上は次の3つの点から求められる。第一に

は母親自身の福祉の向上のために求めら

れるというものであり、第二には母親の

well-beingが子どもの心身の発達へ影響す

ることが懸念されているためである(厚生

省,1998)。第三には社会全体への影響で

あり、母親の育児不安が少子化というマク

ロな社会状況の要因として指摘されている

(人口問題審議会,1998)。

そして母親のwell-beingの維持・向上の

かぎを握るのが父親、親族、非親族の育児

ネットワークである。現代社会では育児の

遂行やその責任の多くを母親が引き受ける

傾向がある*2。父親、親族、非親族の支援

が脆弱であれば、彼女たちは孤立して問題

を抱え込み、大きな心理的負担を抱えてし

まう危険性が高い。そのため母親のwell-

beingを維持・向上させるためには、父親の

育児参加といった家族内での育児形態の

変革に加えて、世帯外の親族、近隣、友人

などとの育児へのかかわりを高めること、

すなわち育児ネットワーク全体の再編成を

行うことが必要であると指摘されている(落

合,1994;渡辺,1999)。

以上の点をふまえて、本稿では育児とい

う特定の領域を切り出して、その領域のイ

ンフォーマル・ネットワーク(育児ネットワー

ク)のサポート効果を実証的に解明する。

特に焦点を当てるのは、育児ネットワーク

の構造とそのサポート効果との関係及び構

造の形成要因である。拙稿(松田,2000)

で示したとおり、これらの点を解明するた

めにネットワーク分析のアプローチを導入

することが有効である。通常の分析が個人

属性にかかわるデータをもっぱら扱うが、

ネットワーク分析は個人属性に還元されな

い個人間の関係に関するデータに注目する

(Scott,1991;野沢,1999)。本稿の例でい

えば、母親のwell-beingの程度を母親個人

あるいは当該家族の属性からではなく、母

親をとりまくネットワークから解明しようとす

る。このアプローチが特に注目するものが、

ネットワーク構造が創発する効果である。

育児ネットワーク構造のあり方によっては高

いサポート効果が発揮されwell-beingが改

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善することもあれば、構造によってはむしろ

逆の効果を及ぼすこともあることになる。

ここにインフォーマル・ネットワークとしての

育児ネットワーク活用の条件を考える上で

のかぎがあると考えられる。効果的にサポ

ートを創発することができるようなネットワー

ク構造を構築できるかに、この潜在的資源

の活用の成否がかかっている。

(3)目的と章構成

以上の問題意識をふまえて、本稿では育

児ネットワークが母親のwell-beingに与える

影響について実証研究を行う。ここでは

well-beingを母親の心理面の安寧を包括し

て表す理論的な上位概念とし、具体的な実

証分析を行う際にはその特定の次元を抽

出して操作化(尺度化)して、それをもとに

議論をすることにしたい*3。

実証分析の項目は多岐にわたるが、分析

で明らかにしたいことは以下の点である。

①育児ネットワークは母親のwell-beingを

維持・向上させる効果があるのか?

②もしそうであれば、どのような構造でサ

ポート効果が最も発揮されるのか?

③育児ネットワークのサポート効果は、ど

の程度の力があるのか? それは専門

的な保育サービスのサポート効果と比

較して高いのか、低いのか?

④育児ネットワークの形成のための条件

は何か?

本稿の構成としては、まず育児ネットワー

クに関する先行研究をレビューし、その後

育児ネットワークと母親のwell-beingとの関

係をとらえる理論枠組みを作成する。続い

て乳幼児を抱える母親を対象としたアンケ

ート調査データによる実証分析を行う。最

後に結果をふまえて、インフォーマル・ネット

ワーク活用の条件などについて考察を行い

たい。

2.先行研究

育児ネットワークとは、現代社会において

育児の主な担い手となっている母親に対し

て、直接・間接に育児の援助を行う者であ

る(落合,1989:1993;関井ほか,1991)。

育児ネットワーク研究は「新分野であり研究

の層はまだ薄い」(山根,2000:34)といわ

れるが、その実態やサポート効果に関する

実証研究からは次のことが明らかになって

いる。先行研究では、主として子どもの世

話をする手段的サポート、育児に関する相

談にのったりする情緒的サポートについて

調査分析がなされている。

最初の包括的な調査研究としては落合

(1989)があげられる。兵庫県での調査の

結果、現代の育児が重層化した種々の育児

ネットワークからの援助に支えられて成り立

っており、決して母親ひとりで担われている

のではないことが指摘されている。育児援

助の与え手、別にみると祖父母からは育児

労働そのものを担う手段的なサポート、た

だし母親方の祖父母からは情緒的サポート

についても、また地域コミュニティからは負

担の小さい手段的サポートおよび情緒的サ

ポート、夫からは情緒的サポートやできる

範囲の手段的サポートが中心となってい

る。

また「全国家庭動向調査」(厚生省人口問

題研究所,1996)では、出産・育児の援助

はサービス機関よりも人的サポート、それも

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夫や親族を核としたネットワークが中心に

なされていることが示されている。中でも

夫からのサポートは、育児の相談や妻が病

気のときの世話において最も重要である。

親族についてみると、母親が働きに出てい

るときの子どもの世話など日常的な育児に

ついては父親方の親からのサポートが多い

が、出産時の母親と他の子どもの世話や、

困ったときの相談は母親側の親やきょうだ

いが多いとされる。

育児ネットワークのサポート効果にかか

わるものとしては、牧野の育児不安研究が

あげられる。育児不安とは「いわゆる健康

な育児行動を阻害するような一種の“負荷

事象”を主観的に表明したもの」(牧野,

1982:35)で、育児遂行に伴う一種の過労

状態のことである。牧野の一連の研究によ

ると、夫の育児への協力が多いことや、母

親本人が職業をもっていること、母親が近

隣や地域活動などで広い人間関係をもって

いることなどが育児の不安を軽減させるこ

とが明らかになっている(牧野,1981:

1982;牧野・中西,1985)。

その他育児ネットワークのサポート効果

そのものではないが、稲葉(1999a:1999b)

によると、大都市近郊部ではフルタイム就労

の母親については、父親の情緒的サポート

や非同居親族の育児サポートの可能性(緊

急時に子どもを預けられること)が家族生

活のストレーン(生活上経験する問題や困

難)を軽減する効果があることや、専業主

婦の母親については父親の情緒的サポー

トや非同居の親族の育児サポートの可能性

がディストレス(抑うつ・不安などの症状)を

軽減する効果が確認されている。ただし、

非親族の育児ネットワークのサポート効果

は総じて検出されていない。また地方都市

の母親を対象にした松岡(1999)の研究で

は、父親の情緒的サポートや世帯外の手段

的・情緒的なサポートがあると母親のディ

ストレスが低くなっていた。

以上にあげた結果から、母親に対する育

児サポートは、第一に夫からは情緒的なサ

ポートと比較的軽度の手段的サポートが多

いこと、第二に近い親族、特に同居親族か

らは子どもの世話をする手段的なサポート

が多いが、母親側の親族からは情緒的な

サポートも多いこと、第三に世帯外の親族

や非親族からも子どもの遊び相手や世話を

してもらったり、情緒的サポートを受けるこ

とが明らかになっている。また育児ネットワ

ークのサポート効果については、研究蓄積

が少ない上、分析によっては若干異なる結

果が検出されている。ただし先行研究結果

からは、父親の育児参加や情緒面のサポー

トは母親の育児不安や家族生活のストレー

ン、ディストレスなどを軽減させたり、親族

や非親族といった育児ネットワークがあるこ

とが育児不安やディストレスを軽減させる

可能性が高いと考えられる。

3.理論枠組み

先行研究では育児という行為がさまざま

なネットワークに支えられて遂行されている

ことなどが明らかになっているが、育児ネ

ットワークとwell-beingとを接合した研究は

みられない。また先行研究では社会的ネッ

トワーク研究やソーシャル・サポート研究の

蓄積が十分生かされてきたとは言い難い。

本稿では、これらの社会的ネットワーク研究

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やソーシャル・サポート研究の知見を生か

すかたちで、育児ネットワークとwell-being

との関係をとらえる理論枠組みを構築し

た。

育児ネットワークと母親のwell-beingの関

係をとらえる枠組みを作成すると図表2にな

る。まず育児にかかわる人々、すなわち社

会的ネットワークの構造はパーソナル要因

と環境要因によって形成される。具体的に

は、パーソナル要因としては親の年齢、学

歴や子どもの年齢、数などが、環境要因と

しては保育サービスの利用や居住環境など

が該当する。育児にかかわる人々の構造

は「規模」「構成」「密度」などのネットワーク

分析に共通する指標によって把握すること

ができる。そして社会的ネットワークが、実

行されたサポートを供給する。さらにネット

ワーク構造は母親のwell-beingに影響を与

える。ただしこのwell-beingはネットワーク

構造のみの影響を受けるのではなく、ネッ

トワーク構造の形成要因ともなるパーソナ

ル要因や環境要因の影響も受ける関係に

ある。

この図はネットワークを一般化してとらえ

ているため、父親のサポートの扱いには注

意する必要がある。父親は程度の多少こそ

あれ何らかのかたちで育児にかかわってい

る存在であるため、父親がいることが社会

的ネットワークがあることとほぼ同義にな

る。そのため父親のサポートを考える際に

は、社会的ネットワークとしてのサポートの

部分を省いて、具体的に実行されたサポー

ト内容としてとらえ、分析することが適当で

あると考えられる。

またCohen and Wills(1985)、稲葉ほか

(1987)、稲葉(1998)を参考にすると、育児

ネットワークのサポート・メカニズムは次の

段階に分けてとらえられる。はじめに育児

ネットワークがあることがさまざまな問題の

発生自体を低減する。そしてひと度問題が

発生したときには、育児ネットワークがサポ

ートすることで母親の心理面のwell-beingを

MONTHLY REPORT

9LDI REPORT2001. 7

図表2 育児ネットワークとwell-beingとの関係�

注:Hall and Wellman(1985)を参考に筆者が作成。�

パーソナル要因�

<育児ネットワーク構造>�<形成要因>� <well-being>�

母親の�well-being

環境要因�

社会的ネットワークの構造�(育児にかかわる人々の�規模、構成、密度等)�

実行された�サポート・ネットワーク�(手段・情緒・情報)�

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維持・向上させる。その際には、育児ネッ

トワークが単に育児の問題・課題を処理す

るだけではなく、育児ネットワークがあるこ

とで母親のself-esteem(自己尊重感)やself-

efficacy(自己効力感)が向上して、本人に

よる問題・課題への処理が促進されるとい

う効果が発揮される。育児ネットワークが

あることは、決して母親が自らの育児の責

任を放棄して<他人任せ>で育児をしてい

るのではなく、自らが育児の諸問題・課題

に対応する力(自助)を得るためのものでも

あると考えられる。

以上が本稿における理論枠組みである。

後章では、これを用いて、育児ネットワーク

がwell-beingに与える影響についての実証

分析を行う。

4.データ

分析に使用したデータは、2000年11月に

実施した「子育てに関するアンケート」の個

票データであり、調査概要は以下のとおり

である。

回答者の主な属性は図表4のとおりであ

る。後章の分析では、本調査データのうち、

配偶者と同居している者391人を分析対象

としている。

MONTHLY REPORT

10 LDI REPORT2001. 7

調 査 対 象 ��

保育園・幼稚園����

調 査 方 法 ��

サンプル数�

:東京の保育園・幼稚園に通う当該年度に満4~6歳になる子をもつ母親。�

:東京23区内(足立区・葛飾区・杉並区・豊島区)と郊外部(八王子市・西多摩郡)から7保育園、4幼稚園を抽出。各園のおおよその抽出地点は図表3を参照。�

:保育園・幼稚園の先生から母親へ調査票を配布し、回収は郵送で実施。�

:発送数1,004 有効回収数407�(有効回収率40.5%)�

図表3 保育園・幼稚園の抽出地点(地図は東京都)�

保育園�

幼稚園�

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5.育児ネットワークのかたち

(1)育児ネットワークの測定

本稿では父親、親族、非親族の3者につ

いて、育児ネットワーク構造と実行された

サポートの両面をとらえる。ただし、アンケ

ート調査の対象や調査票の制約から、本稿

でとらえる育児ネットワークは図表5に示し

た個所である*4。

父親から実行されたサポート:「子どもの

遊び相手になって、いっしょに遊ぶ」(軽度

の手段的サポート)、「身の回りの世話をす

る」(重度の手段的サポート)、「助言やアド

バイスをしてくれる」(情報的サポート)、「心

配事や悩みを聞いてくれる」(情緒的サポー

ト)、「努力を高く評価してくれる」(評価的

サポート)の5種類について、サポートの頻

MONTHLY REPORT

11LDI REPORT2001. 7

図表4 回答者の主な属性�

(単位:%)�

5人�

0.5�

4歳�

23.0

5歳�

16.8�

6歳�

6.9

40歳代�

10.1�

4人�

3.4�

3歳�

18.5

30歳代後半�

39.8�

3人�

16.2�

2歳�

12.6�

離死別�

3.4

30歳代前半�

39.1�

2人�

54.6�

1歳�

12.4�

別居�

0.5

20歳代�

11.1�

1人�

25.3�

0歳�

9.9�

同居�

96.1

①母親の年齢�

②子ども数�

③末子年齢�

④父親の同別居�

図表5 本稿でとらえる育児ネットワーク�

構造�

実行されたサポート�

規模�

構成�

密度�

父親�

○�

親族�

○�

○�

○�

非親族�

○�

○�

○�

○�

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度を4件法で尋ねた*5。各項目の選定にあ

たっては、加藤ほか(1999)、関井ほか

(1991)の調査項目等を参考にした。

親族ネットワーク:母親方/父親方それ

ぞれの祖父母ときょうだい(きょうだいは最

も交流がある者1名)で、何らかの育児サポ

ートを行っている者の数を調査しており、こ

れをもとに親族ネットワークの「規模」を算出

した。「規模」は母親方/父親方別に算出

することができ、母親方/父親方の区分が

「構成」に該当する。ある親族が育児サポ

ートを行っている者か否かの判別は、①何

らかの育児サポート(実行されたサポートで

示す項目)を行っており、かつ、②月に1回

以上交流がある者、であることを基準に行

った。

非親族ネットワーク:米国General Social

Surveyの方法(Burt,1984)を用いて、育児

サポートを行っている人を4名まであげても

らい、その属性や相互の交流の有無を測

定することによって、非親族ネットワークの

構造を測る変数を作成した。ネットワーク

の「規模」は上記の4名以外に育児にかか

わっている人がいればそれも加えて数を算

出した。上記4名については、知り合った

きっかけ、性別、子どもの有無、職業を尋

ねており、ここから非親族ネットワークの

「構成」が把握できる。また上記4名相互の

紐帯の数を、それらがとりうる紐帯の数の

最大値で割ったものをネットワークの「密度」

とした。

(2)育児ネットワークの構造と実行され

たサポート

①父親から実行されたサポート(父親の育

児参加)

父親から実行されたサポートの現状は図

表6のとおりである。手段的サポートとその

他のサポートとでは尋ね方が若干異なるた

め断定はできないが、父親から実行された

サポートの特徴としては、まず手段的サポ

ートでは「遊ぶ」といった軽度のサポートを

実施する割合(「いつもしている」+「時 し々

ている」)は約85%と高いが、「身の回りの

MONTHLY REPORT

12 LDI REPORT2001. 7

図表6 父親から実行されたサポート�

あてはまる�どちらかと�いえば�あてはまる�

どちらかと�いえば�

あてはまらない�あてはまらない�

いつもしている� 時 し々ている� あまり�していない�

ほとんど�していない�

①手段的サポート�

②情報・情緒・評価的サポート�

子どもの遊び相手になって、いっしょに遊ぶ(手段)�

子どもの身の回りの世話をする(手段)�

 �

子育てについて助言やアドバイスをしてくれる(情報)�

子育てについての心配事や悩みを聞いてくれる(情緒)�

あなたの子育ての努力を高く評価してくれる(評価)�

37.9�

23.5�

 �

34.0�

50.9�

35.0

47.3�

40.7�

 �

34.8�

29.2�

37.3

11.5�

19.9�

 �

20.2�

15.6�

18.9

3.3�

15.9�

 �

11.0�

4.3�

8.7

(単位:%)�

Page 10: インフォーマル・ネットワークとwell-beinggroup.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/report/rp0107a.pdf · ズごとに特化した専門的なネットワークとな っている(Wellman,1999)。個人はそれぞ

世話」までを実施している者は約64%へと

減少していることがあげられる。また、そ

の他のサポート内容をみると、「心配事や悩

みを聞く」といった情緒的サポートを実施し

ている割合(「あてはまる」+「どちらかとい

えばあてはまる」)が約80%と高いのに対し

て、「助言やアドバイス」といった情報的な

サポートは相対的に低くなっていることが指

摘できる。

②親族ネットワークの構造とサポート

母親方/父親方の親族のどの程度の割

合が育児ネットワークとなっているかをみた

ものが図表7である。この表から、第一に、

父親方よりも母親方の親族の方が育児ネッ

トワークとなっている割合が高いことがわ

かる。特に世帯外の親族についてみた場

合には、その差は顕著になる。父親方の親

族は、同居していれば育児のサポートを行

うが、別居の場合には母親方よりもサポー

トを行う割合が低い。第二には、親族の中

では、母親方/父親方とも祖母がネットワ

ークの中心的な存在となっていることがあ

げられる。

MONTHLY REPORT

13LDI REPORT2001. 7

図表7 母親方/父親方の親族ネットワーク�

母親方�

父親方�

祖母�

祖父�

きょうだい�

祖母�

祖父�

きょうだい�

51.9�

35.3�

26.9�

44.8�

30.7�

18.2

全体�区分�

2.8�

2.0�

0.5�

13.0�

6.9�

0.8

49.1�

33.2�

26.3�

31.7�

23.8�

17.4

うち世帯内� うち世帯外�

(単位:%)�

(%)�

0

10

20

30

40

50(%)�

0

10

20

30

40

50祖母�

祖父�

きょうだい�

図表8 親族ネットワークから実行されたサポート�

父親方親族�

遊び相手�

身の回りの世話�

助言・アドバイス�

悩みを聞く�

努力を評価�

母親方親族�

遊び相手�

身の回りの世話�

助言・アドバイス�

悩みを聞く�

努力を評価�

33.2

24.3

14.8

34.5

15.3

5.9

23.5

7.93.8

21.0

5.9 4.9

18.2

8.7

1.8

40.9

27.6

19.4

42.7

17.913.8

40.7

9.211.3

39.4

7.2

15.6

27.4

11.58.7

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また、親族ネットワークから具体的に実

行されたサポートをみたものが図表8であ

る。母親方の親族から実行されたサポート

の方が、父親方のそれよりも、総じて高くな

っている。特に母親方の祖母は「遊び相手」

から「努力を評価」までの多様なサポートを

多く実施しており、親族ネットワークにおい

て最も重要なサポート源となっている。一

方、祖父のサポートは、母親方/父親方を

問わず「遊び相手」と「身の回りの世話をす

る」という手段的なサポートが主体である。

祖母と祖父を比較すると、情報・情緒・評

価的なサポートの提供者はほぼすべて祖母

の側である。一方、きょうだいからのサポ

ートについてみると、水準は総じて低いも

のの、父親方よりも母親方のきょうだいから

サポートを受けている。さらに母親方きょう

だいのサポートは、祖母と同様に多岐にわ

たったサポートとなっている。

③非親族ネットワークの構造とサポート

非親族ネットワークの構造を規模、構成、

密度の点から概観したい。まず規模の分布

は図表9のとおりであり、「0人」(12.4%)、「1

~2人」(11.6%)などとなっており、平均約6

人の非親族が育児ネットワークとなってい

る。

構成は図表10のとおりである。調査票で

は非親族ネットワークのうち上位4名までを、

育児で手助けしてくれることが多い順にA

~Dと仮称してもらい、その人たちの属性

を尋ねた。Aが最もサポートを提供してい

る者である。「①知り合いの種類」について

みると、幼稚園・保育園を通じて、もしくは

それ以外で子どもを通じて知り合った友人

知人が大半を占めていることがわかる。A

~D別にみても、総じて子どもを通じて知り

合った友人知人が中心であることは変わら

ない。「②性別」はほとんど女性である。A

~Dの「③子ども」の有無についてみると、

各者とも約8割の者が、回答者の子どもと

同じ年の子どもを持っており、2~3割の者

が年長の子どもを持っている。A~Dとも、

子どもが全くいない者はほとんどいない。

また、それらの回答者本人がA~Dの子ど

もの世話をすることがあるか否かを尋ねた

ところ、Aの子については約8割の者が、B

の子については約6割の者で世話をするこ

MONTHLY REPORT

14 LDI REPORT2001. 7

0

10

20

30

40(%)�

(人)�

図表9 非親族ネットワークの規模の分布�

0 1~2 3~5 6~9 10~14 15~�

平均5.9人�

12.4 11.6

20.8

39.1

9.56.6

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とがあると回答している。最後に、A~Dの

就労の有無を尋ねたところ、各々7割前後

の者が非就労(=専業主婦)であった。

密度は規模が3人以上の者についてのみ

算出しているが、分布は「0」(14 .0%)、

「0.17」(15.4%)などとなっており、平均値は

0.47である(図表11)。平均像のイメージと

しては、非親族メンバーの半数同士が交流

のあるネットワークである。なお、密度が0

の場合にはメンバー同士に交流がない疎な

ネットワークであり、密度が1の場合には全

員が全員と交流している密なネットワーク

であり、構造的には集団に近いといえる。

さらに、非親族から実行されたサポート

をみたものが図表12である。育児で手助け

してくれることが多い順にA~Dとしている

MONTHLY REPORT

15LDI REPORT2001. 7

図表10 非親族ネットワークの構成�

A�

B�

C�

D

N�(人)�

①どのような知り合いか�

幼稚園・�保育園を�通じての�友人知人�

1以外で、�子どもを�通じての�友人知人�

近所の�友人知人�

職場の�友人知人�

学生時代の�友人知人�

それ以外�の友人知人� その他� 無回答�

337�

316�

265�

202

43.3�

41.8�

40.0�

42.1

17.2�

19.3�

20.8�

15.8

21.4�

21.5�

19.6�

17.3

5.0�

3.8�

3.8�

5.0

4.7�

6.3�

7.9�

11.9

3.3�

3.5�

4.9�

4.5

3.9�

3.2�

1.9�

3.0

1.2�

0.6�

1.1�

0.5

②性別�

A�

B�

C�

D

N�

337�

316�

265�

202

男性�

0.3�

0.6�

1.9�

1.0

女性�

99.4�

98.4�

95.5�

96.0

無回答�

0.3�

0.9�

2.6�

3.0

③子ども�

A�

B�

C�

D

N�

337�

316�

265�

202

31.5�

29.1�

26.0�

28.2

81.3�

78.5�

80.8�

78.7

14.5�

19.0�

17.0�

19.3

77.6�

62.6�

49.8�

43.6

本人が�子どもの�世話�

④就労�

A�

B�

C�

D

N�

337�

316�

265�

202

就労�

31.2�

24.1�

25.7�

26.7

非就労�

68.8�

75.6�

74.0�

72.8

無回答�

―�

0.3�

0.4�

0.5

(単位:%)�

年長� 同じ年�

子どもの有無�

年少�

注:非親族で育児サポートを受けている人を、サポートが多い順にA~Dとしている。�

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ため、当然のことながらAからDに行くに従

って、いずれのサポートも支援度合いが低

下している。非親族からのサポート内容の

特徴としては、「遊び相手」(手段)、「助言・

アドバイス」(情報)、「悩みを聞く」(情緒)と

いったサポート、中でも情緒的なサポート

の度合いが高いことがあげられる。

(3)父親、親族、非親族からのサポート

の比較:ネットワークの代替性と補

完性

続いて、父親、親族、非親族から実行さ

れた5種類のサポートの程度を比較したも

のが図表13である。それぞれ測定方法が

若干異なるため、各主体からのサポートの

数値については単純には比較できない。そ

こで、ここでは5種類のサポートの形状(図

でいえば、星型のかたち)を比べることで、

各サポートの特徴について述べたい。

父親からのサポートの特徴としては、他

と比較して、5種類のサポートがまんべんな

く提供されていることが指摘できる。ただ

し、「世話をする」といった重度の手段的サ

ポートの提供度合いは他の4種類に比べて

MONTHLY REPORT

16 LDI REPORT2001. 7

0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0(%)�

(密度)�

図表11 非親族ネットワークの密度の分布�

0 0.17 0.33 0.5 0.67 0.83 1

注:規模が3人以上の者についての値である。�

14.015.4

20.3

16.1

11.2

2.8

20.3

平均値0.47

図表12 非親族から実行されたサポート�

A�

B�

C�

D

遊び相手� 身の回りの世話� 助言・アドバイス� 悩みを聞く� 努力を評価�

61.7�

51.6�

42.3�

33.2

51.6�

37.3�

25.6�

18.7

60.0�

52.8�

40.0�

30.5

75.7�

69.5�

54.8�

42.8

46.4�

38.8�

30.0�

20.9

注:非親族で育児サポートを受けている人を、サポートが多い順にA~Dとしている。�

(単位:%)�

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相対的に低い。また親族、非親族からのサ

ポートと比較すると、父親では「努力を評価」

(評価的サポート)が高いことが特徴であ

る。

親族からのサポートの特徴としては、第

一に母親方と父親方とでは、すべてのサポ

ートについて母親方から多く受けているこ

とがあげられる(ただし、父親方の祖父母

と同居している者の場合は、父親方からの

方のサポートが多くなっている)。第二に母

親方と父親方のサポートの形状がほぼ相似

形となっている。両者の違いは、サポート

の程度にあり、情緒や評価といった特定の

サポートが片側の親族のみから提供される

ものではない。第三には父親や非親族の

ネットワークと比較すると、親族は「遊び相

手」や「身の回りの世話」といった手段的な

サポートが中心となっていることがあげら

れる。

また非親族ネットワークからのサポートに

ついてみると、相対的に「助言・アドバイス」

(情報)、「悩みを聞く」(情緒)というサポー

MONTHLY REPORT

17LDI REPORT2001. 7

0.5

0.0

1.0

1.5

2.0

2.5

0.2

0.0

0.4

0.6

0.8

1.0

母方�父方�

0.5

0.0

1.0

1.5

2.0

2.5

図表13 父親、親族、非親族から実行されたサポート�

世話�

助言・アドバイス�悩みを聞く�

努力を評価�

遊び相手�

世話�

助言・アドバイス�悩みを聞く�

努力を評価�

遊び相手�

世話�

助言・アドバイス�悩みを聞く�

努力を評価�

遊び相手�

②親族ネットワーク� ③非親族ネットワーク�

①父親�

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トが多くなっている。

続いて、父親、親族、非親族の間の関係

を相関係数でみると図表14のようになる。

父親については、実行されたサポートの合

計値(5種類のサポートの合計値)を用いた。

核家族世帯では、父親のサポートが多いほ

ど母方親族のネットワーク規模が大きくな

り、母親方親族のネットワーク規模が大きく

なるほど非親族ネットワーク規模も大きくな

る。その他の変数同士の関係についても、

すべて相関係数は正の方向になっている。

このことから核家族世帯では、父親、親族、

非親族のネットワークは互いに代替的な関

係とはなっていないといえる。一方、三世

代世帯では、父親方親族と母親方親族の

ネットワーク規模は負の相関関係(-0.33)に

あり、この部分のみ代替関係になっている。

以上の結果から、父親、親族、非親族の

サポートは互いに一方があれば他方が必要

ないという代替的な関係ではなく、どちら

かといえば<補完的>なものであると考え

られる。

(4)ネットワークの距離とサポート頻度

親族と非親族ネットワークについて、回

答者本人の自宅からの距離とサポート頻度

との関係をみたものが図表15である。距離

は、当該親族の家まで歩いて行った場合に

かかる時間である*6。なお、親族について

は核家族世帯の者を分析対象とし、世帯外

の親族までの距離とサポート頻度との関係

をみている。

ここから、第一に親族よりも非親族の方

が距離的に近いことが指摘できる。非親族

ネットワークの多くは子どもを通じた友人知

人であるが、それらの分布範囲は自宅から

20分以内の近距離圏であり、歩いて行ける

範囲内にいるのが非親族ネットワークの特

徴である。第二には距離とサポート頻度と

の関係であるが、非親族ネットワークの方

が親族よりも距離が近いため、サポート頻

度が高い。また非親族内についてみても、

距離が近い者の方がサポート頻度も高くな

っている。サポートの頻度は距離と密接な

関係があり、近くのネットワークから高頻度

のサポートを受ける関係にあるといえる。

MONTHLY REPORT

18 LDI REPORT2001. 7

図表14 育児ネットワークの変数間の相関係数�

三世代世帯�核家族世帯�

母方親族�ネットワーク規模�

父方親族�ネットワーク規模�

非親族�ネットワーク規模�

父親実行�サポート計�(点)�

母方親族�ネットワーク�規模(人)�

非親族�ネットワーク�規模(人)�

父方親族�ネットワーク�規模(人)�

父親実行�サポート計�(点)�

母方親族�ネットワーク�規模(人)�

非親族�ネットワーク�規模(人)�

父方親族�ネットワーク�規模(人)�

0.13*�

0.06�

0.02

1.00�

0.02�

0.15**

1.00

1.00�

0.06

0.17�

0.03�

0.10

1.00�

0.33**�

0.21+

-

1.00

1.00�

0.10

注:+10%水準、*5%水準、**1%水準で有意。�表中の数値は相関係数である。�

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(5)属性別にみた育児ネットワークの特

育児ネットワークが、母親の属性によって

異なるか否かをみたものが図表16である。

属性別の育児ネットワークの特徴は次のよ

うにまとめられる。末子年齢別にみると、

子どもが0歳とごく小さいうちは父親からの

サポートが多い。しかし、その他のネットワ

ークの構造やサポートの程度は、末子年齢

にかかわらずほぼ一定である。子ども数別

にみても、育児ネットワークの構造とサポー

トに差異はみられない。育児ネットワーク

の差が顕著になるのは、世帯構成、保育

園/幼稚園の利用別、居住地域である。

世帯構成別にみると、三世代世帯の方が同

居親族のサポートを反映して、親族から実

行されたサポートが多くなっている。また

幼稚園利用者では、非親族ネットワークの

規模が大きく、そこからのサポートが多い。

保育園利用者は働いており、かつ帰宅時間

も遅いため、非親族のネットワークを築きに

くくなっていることが推察される。最後に居

住地域別の傾向としては、郊外部の方が非

親族ネットワーク規模が大きいことがあげら

れる。

(6)まとめ:育児ネットワークの現状

以上の結果から、現代社会では母親を

父親のみならず、親族や非親族がサポート

するなかで育児が行われている様子がうか

かえる。親族ネットワークの数は母親方/

父親方それぞれ平均1名であり、双方の祖

母がネットワークの中心である。また非親

族ネットワークは、その多くが同じ年ごろの

MONTHLY REPORT

19LDI REPORT2001. 7

図表15 親族、非親族の距離とサポート頻度�

距離(分)� 頻度(回/週)�

母親方�

父親方�

祖母�

祖父�

きょうだい�

祖母�

祖父�

きょうだい�

非親族A�

非親族B�

非親族C�

非親族D

30.2�

30.0�

30.1�

28.3�

29.0�

29.1�

14.7�

16.8�

18.4�

20.6

2.0�

1.8�

1.3�

1.5�

1.4�

0.9�

3.0�

2.3�

2.2�

2.0

注:親族の集計は、核家族世帯が対象。�非親族で育児サポートを受けている人を、サポートが多い順にA~Dとしている。�

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子どもを持つ者同士で、子どもを通じて知

り合った、いわゆる<子育て仲間のネット

ワーク>である。ほぼ100%の者が母親同

士のネットワークであり、専業主婦が多い。

これらのことから、非親族ネットワークは極

めて均質的な構成であるといえるだろう。

また母親本人と非親族ネットワーク同士は、

一方的に育児サポートを受ける関係にある

のではなく、相互にサポートをし合う<互

恵的な関係>である。

各々から実行されたサポートの具体的な

内容についてみると、父親は先にあげた5

種類のサポートをまんべんなく行う傾向が

あるが、中でも他のネットワークからは提供

されることが少ない評価的サポートを多く

提供している。親族は手段的なサポートを

中心に実施している。そして非親族は情報

的、情緒的なサポートを提供することが多

MONTHLY REPORT

20 LDI REPORT2001. 7

図表16 各種属性別の育児ネットワーク構造�

N�(人)�

父親の�育児�サポート�(点)�

親族�ネットワーク�規模計�(人)�

非親族�ネットワーク�規模(人)�

密度�(非親族�ネットワーク)�

ネットワーク�の親族�割合�(%)�

391�

40�

48�

49�

72�

85�

88�

91�

219�

81�

326�

65�

99�

292�

212�

179

0�

1�

2�

3�

4�

5�

1人�

2人�

3人以上�

核家族�

三世代世帯�

保育園�

幼稚園�

23区�

郊外�

10.1�

11.7�

10.2�

9.8�

9.9�

9.8�

9.9�

10.3�

10.1�

9.7�

10.2�

9.3�

10.8�

9.9�

9.7�

10.5

2.1�

2.3�

2.0�

1.7�

2.3�

2.1�

2.0�

2.2�

2.0�

2.2�

1.9�

2.8�

2.3�

2.0�

2.1�

2.1

6.0�

6.4�

5.5�

6.5�

6.4�

5.9�

5.5�

5.7�

6.1�

5.7�

6.0�

5.9�

4.4�

6.5�

5.7�

6.3

0.47�

0.44�

0.48�

0.48�

0.49�

0.46�

0.49�

0.46�

0.48�

0.47�

0.47�

0.51�

0.42�

0.49�

0.44�

0.51

25.8�

26.6�

27.0�

20.4�

26.4�

26.4�

26.7�

27.7�

24.5�

27.5�

24.5�

32.1�

33.9�

23.8�

26.9�

24.8

全体�

末子年齢��

子ども数�

�世帯構成�

保育園/�

幼稚園�

�居住地域�

うち父親方�うち母親方�

0.9�

1.0�

0.8�

0.7�

1.2�

1.1�

0.8�

1.0�

0.9�

0.9�

0.8�

1.6�

0.9�

1.0�

0.9�

0.9

1.1�

1.3�

1.2�

0.9�

1.1�

1.1�

1.2�

1.1�

1.1�

1.3�

1.1�

1.2�

1.4�

1.1�

1.1�

1.2

注:密度は規模が3人以上の人が対象。�

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くなっている。父親、親族、非親族は互い

に異なった種類のサポートにたけており、

父親が弱い部分を親族や非親族が、親族

が弱い部分を他が、というように補完し合

う関係になっている。結論にかかわること

がらを先取りすると、母親が多様なサポー

トを受けるためには、父親、親族、非親族

それぞれから十分なサポートを受けること

が求められると考えられる。

以上が、育児ネットワークのかたちの現

状である。次回は、このネットワークの形成

要因と、ネットワークが母親のwell-beingに

与えるサポート効果を紹介したい。

(研究開発部 副主任研究員)

MONTHLY REPORT

21LDI REPORT2001. 7

【注釈】

*1 本稿でいうインフォーマル・ネットワークとは、家族研究やコミュニティ研究などで使用

される「パーソナル・ネットワーク」と同義であるが、経済システムや政治システムといっ

たフォーマルなシステムと対比させるためにインフォーマルという点を強調する表現とし

たものである。

*2 母親が育児の多くを一手に引き受けるようになったのは、近代以降の育児にみられる

特徴である。

*3 心理面のwell-beingをこのように扱って研究する本稿の方法は、Acock and Hurlbert

(1993)の実証研究などを参考にしてのものである。

*4 育児ネットワークの構造として父親をとらえるならば父親の有無が指標となるが、分析

対象を父親が同居している者に限定したことにより、父親の有無といった構造変数は

分析からは除かれることになる。また、親族については、規模と構成はとらえているが、

密度は割愛している。

*5 手段的サポートの項目については、「いつもしている」から「ほとんどしていない」まで、

その他については「あてはまる」から「あてはまらない」までの4件法で尋ねている。

*6 調査票では距離を「歩いて5分未満」「5~15分未満」「15~30分未満」「歩いては行けな

い距離」というカテゴリーで尋ね、これを3分、10分、23分、40分と換算した。