ロシア: サウス・ストリーム計画の撤回とロシアの …...開始、第2 線、3...

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– 1 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 更新日:2014/12/19 調査部:本村眞澄 公開可 ロシア: サウス・ストリーム計画の撤回とロシアの天然ガスパイプライン網の再編 12 1 日、アンカラを訪問したプーチン大統領は、サウス・ストリームの計画撤回とトルコ向けの 630 m 3 / 年のガス供給計画を突然発表し、事業パートナーや関係者を驚かせた。 12 15 日にブルガリア沿岸から始まる予定であったサウス・ストリームのパイプ敷設工事は、EU の指 示でブルガリア政府が建設許可しなかったために中止を余儀なくされた、またこれは欧州の経済的利益 に反すると、プーチン大統領は EU を非難した。 EU はサウス・ストリーム計画が第3エネルギー・パッケージに違反しているとの判断から建設に反対し て来た。ロシアは EU の政策との整合性を求めて長らく話し合いを続けて来たが、今回の決定は EU 見限り、非 EU 世界へのシフトを加速したもので、ロシアのガス市場戦略の大きな転換と言える。 ・トルコ・ギリシャ国境向けとするガス・パイプライン計画はギリシャ=バルカン市場を依然目指しており、 EU 市場を断念したという事ではない。むしろ、ウクライナ迂回を貫徹させる政策である。 ・但し、トルコ=ギリシャ・ハブから先の欧州市場へ向かうパイプラインの建設主体の出現をこれから待た ねばならず、計画の見通しが十分立っているとは言い難い。今後の展開を注視する必要がある。 ・本計画は当初から経済性の点で難があるとされていたことから、昨今の油価の下落に起因するガス価 格下落が、プロジェクトの経済性を更に低下させた可能性があるが、特段の説明はなされていない。 ・黒海海底区間に 4 列計画されていたパイプの内、2 列分は既に発注されていたが、これはトルコ向け 海底区間に使用される予定であり、経済的な損失は最小限とする努力がなされている。 2007 年に構想が発表されたサウス・ストリームは、「ナブッコ」に対抗すること目的であったが、ウクライ ナ迂回のみならず、トルコ迂回をも意図した計画であった。しかし、2003 年に発生したブルー・ストリー ムにおける Take or Pay 条項を巡る露土間の紛争で、ロシアはトルコに対して警戒する様になってい た。今回の決定は両国間に十分な信頼が醸成された証である。 1.サウス・ストリーム計画の撤回宣言 (1)ロシアによるサウス・ストリーム計画の撤回発言 South Stream 計画は、ロシアから年間630 m3 のガスをBulgaria, Serbia, Hungary, Austria に送るもので、支線が Bosnia-Herzegovia Croatia に伸びる。黒海を通る第 1 線は 2015 年稼働 開始、第 2 線、3 線は 2016 年暮れ、第 4 線は 2017 年暮れという計画である。工事は 2014 年に 開始とされていた。但し、EU 2009 年の第3エネルギー・パッケージの策定以降、この計画に

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– 1 – Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

更新日:2014/12/19

調査部:本村眞澄

公開可

ロシア: サウス・ストリーム計画の撤回とロシアの天然ガスパイプライン網の再編

・12月1日、アンカラを訪問したプーチン大統領は、サウス・ストリームの計画撤回とトルコ向けの630億

m3/年のガス供給計画を突然発表し、事業パートナーや関係者を驚かせた。

・12月15日にブルガリア沿岸から始まる予定であったサウス・ストリームのパイプ敷設工事は、EUの指

示でブルガリア政府が建設許可しなかったために中止を余儀なくされた、またこれは欧州の経済的利益

に反すると、プーチン大統領はEUを非難した。

・EU はサウス・ストリーム計画が第3エネルギー・パッケージに違反しているとの判断から建設に反対し

て来た。ロシアは EUの政策との整合性を求めて長らく話し合いを続けて来たが、今回の決定は EUを

見限り、非EU世界へのシフトを加速したもので、ロシアのガス市場戦略の大きな転換と言える。

・トルコ・ギリシャ国境向けとするガス・パイプライン計画はギリシャ=バルカン市場を依然目指しており、

EU市場を断念したという事ではない。むしろ、ウクライナ迂回を貫徹させる政策である。

・但し、トルコ=ギリシャ・ハブから先の欧州市場へ向かうパイプラインの建設主体の出現をこれから待た

ねばならず、計画の見通しが十分立っているとは言い難い。今後の展開を注視する必要がある。

・本計画は当初から経済性の点で難があるとされていたことから、昨今の油価の下落に起因するガス価

格下落が、プロジェクトの経済性を更に低下させた可能性があるが、特段の説明はなされていない。

・黒海海底区間に 4 列計画されていたパイプの内、2 列分は既に発注されていたが、これはトルコ向け

海底区間に使用される予定であり、経済的な損失は最小限とする努力がなされている。

・2007 年に構想が発表されたサウス・ストリームは、「ナブッコ」に対抗すること目的であったが、ウクライ

ナ迂回のみならず、トルコ迂回をも意図した計画であった。しかし、2003 年に発生したブルー・ストリー

ムにおける Take or Pay 条項を巡る露土間の紛争で、ロシアはトルコに対して警戒する様になってい

た。今回の決定は両国間に十分な信頼が醸成された証である。

1.サウス・ストリーム計画の撤回宣言

(1)ロシアによるサウス・ストリーム計画の撤回発言

South Stream計画は、ロシアから年間630億m3のガスをBulgaria, Serbia, Hungary, Austria

に送るもので、支線がBosnia-HerzegoviaとCroatiaに伸びる。黒海を通る第1線は2015年稼働

開始、第 2線、3線は 2016年暮れ、第 4線は 2017年暮れという計画である。工事は 2014年に

開始とされていた。但し、EUは 2009年の第3エネルギー・パッケージの策定以降、この計画に

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

反対して来た(後述)。

11月 26日、ロシアのAlexei Ulyukayev経済発展相は、「もしもEUが天然ガスのウクライナ

通過のリスクを軽減させる気がないのであれば、ロシアはSouth Streamを建設する気はない」と

述べた。これはロシア側高官が事業の中止を示唆した初めての例である。これ自体は、ブラフの類

と見られていたが、11月27日付けのArgus FSU Energy誌は、これを重大な政策変更の可能性

があると指摘した1。

但し、一方で黒海におけるサウス・ストリームのラインパイプの発注は4列の内、2列分が完了

していた2。工事開始のためのSeipem(伊)のパイプ敷設船”Castro Sei”は現場に向かっており、

GazpromのMarkov取締役は、黒海海底区間の建設工事は当初予定から1か月遅れて12月15日

着工の予定であると述べ3、Ulyukayev経済発展相の発言をどう捉えるべきか、議論が分かれた。

12月1日、トルコの首都アンカラ(Ankara)でレジェプ・タイップ・エルドアン(Recep Tayyip

Erdogan)トルコ大統領と共同記者会見に臨んだプーチン大統領は、欧州委員会(EC)がブルガ

リアに対し、同国の領水内での作業を中止するよう強制したため同パイプラインの建設ができなく

なったと指摘し、「ブルガリアからの許可がいまだに出ていない以上、現状ではロシアはこの計画

の実現を目指していくことはできないと判断した」と述べた。この決定は、晴天の霹靂とも言うべ

きもので、多くの関係者は突如対応に追われることとなった。

プーチン大統領は続けて、ロシアは新規市場を開拓していく意向だと述べ、今後はトルコが天然

ガス拠点として重要な役割を果たしていくはずだとした4。一方、EU に対してはブルガリアの主

権を否定したとして非難し、プロジェクトを妨害することはロシアからの天然ガス供給量が減る恐

れがあり「欧州の経済的利益に反する」との見方を示した。また来年のトルコ向けロシア産ガス価

格については、6%値引きするとした5。

(2)ガスプロムの対応

プーチン大統領と共にトルコを訪問したロシアの国営天然ガス会社Gazromのミレル社長は、

トルコのBotas Petroleum Pipeline Corp.のMehmek Konuk会長と、ロシアから黒海を経由して

1 Argus FSU Energy, 2014/11/27 2 海底区間に関する2014年1月の1列目の入札では独Europipe(50%), 露OMK(35%), 露Severstal(15%)、

2列目の入札では日本の伊藤忠丸紅鉄鋼/新日鉄住金/住友商事(40%), OMK(35%), Severstal(25%)が落札。 3 RBK, Daily, 2014/11/25 4 AFP, 2014/12/02 5 Reuters, 2014/12/01

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れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

トルコに至るパイプラインの敷設事業に関する覚書(MOU)を、両大統領立会いの下、交わした

(写真1参照)。同パイプイランは黒海に面したKrasnodar地方のRusskaya加圧ステーションを

起点とするもので、通ガス量は630億m3、トルコ向けに140億m3、トルコ経由の輸出用で約500

億 m3 という内訳であり、後者はギリシャ国境に至る6。但し、この覚書には法的な拘束力はない

と言われている7。

写真1 GazrpomとBotasの調印式の様子(Gazpromのwebsiteによる)8

同じ12月1日、Miller社長はアンカラで記者団に対して、サウス・ストリームは「なくなった」

と明言した9。

その後の12月6日、出演したロシアのテレビ番組Rossiya-1で、Miller社長は「わが社は、予

測不可能なEU高官らの決定により、South Stream パイプライン事業の実現性に自信が持てなく

なったことから、この事業を再開するつもりはない。これは最終的な決定であり、当該事業は終了

した。EU議会は2014年4月17日にこの事業を禁止する採決を行っている。また欧州委員会は6

月に、ブルガリアに書簡で指示を送った。おそらくロシアとの事業に関わることについて同国に指

示を出し、罰する内容だったと思われる。このため、同事業は過去半年間にわたり中断していた」

と述べた10。

更に、Miller社長は以下のように続けた。

6 Gazpromのwebsite(2014/12/02):http://www.gazprom.com/press/news/2014/december/article208505/ 7 Kommersant, 2014/12/05 8 Gazpromのwebsite(2014/12/02):http://www.gazprom.com/press/news/2014/december/article208505/ 9 Reuters, 2014/12/01 10 Interfax, 2014/12/06

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「欧州委員会によるSouth Stream事業の阻止は、結果的にトルコを経済的および政治的に利する

ことになる。ブルガリアは、トルコ向けのガスパイプラインの建設事業を実施しないことによる不

利益のみならず、直接的な損失を被るであろう。ブルガリアは、30億ユーロ超の投資、6,000人の

新規雇用、およびトルコ、マケドニア、およびギリシャへに 180 億㎥のガスを供給するトランジ

ット国としての地位を失うであろう。トルコ方面の海底ガス・パイプライン事業が実行に移されれ

ば、これら全てのガスがブルガリア経由ではなく、トルコを経由していく予定だ。わが社は、ガス

ビジネスにおいて新しい戦略的パートナーを得た。欧州北部でドイツがガスのハブであるように、

トルコは欧州南部でのガス分配ハブになるであろう。ウクナイナのトランジット国としての役割は

終わった」11

(3)計画変更の影響

このような唐突な計画変更は、経済的にも様々な悪影響をもたらしている。

当初4列で計画されていた黒海海底区間のパイプの内、既に2列分が発注済みで、黒海のロシア

領及びブルガリア領沿岸に保管されていた。これは、最大水深2,200mに対応できる肉厚のもので

ある。当初計画における黒海のRusskaya-Varna間は、902kmある。これを仮に、最大水深2,150m

のBlue Streamの脇に4列並走としての転用は可能で、630億m3の輸送量は確保できるが、こ

の海底区間は396kmであり、既発注分はなお220km分のパイプの余りが出てしまう。

一方、計画変更の影響に関して、Miller社長は先のTV番組で以下の通り述べ、事態を楽観視し

ている。「GazpromがSouth Streamパイプライン事業を中断したことは、いかなる財務上の損失

ももたらしていない。わが社はこれまで、クラスノダール地方にガスを供給するための”South

Corridor”、および Russkaya 加圧ステーションといったロシア領内のガス輸送インフラの建設に

約 40億ユーロ、ロシア国外で$47億を投資した。これらのインフラへは、トルコへ向けた海洋ガ

ス・パイプラインの敷設事業で必要とされるであろう」12

また、新ルートに関しては、①Krasnodar 地方の Dzhuhga からトルコの Samsun 至る Blue

Streamにほぼ並走させるもの、②Krasnodar地方のRusskaya加圧ステーションからブルガリア

領海に入った後、トルコ=ギリシャ国境に至るもの、の2案が検討されている13。②の場合は、か

なり既往計画に近いもので、既に発注済みのラインパイプに関して余りが出ない様、考慮されてい

11 Interfax, 2014/12/06 12 Interfax, 2014/12/06 13 Argus FSU Energy, 2014/12/11

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る。

(4)欧州側の反応

12 月 2 日、ブルガリアのルカルスキ経済相は「公式声明があるまで、サウス・ストリーム計画

が中止されたと見做さない」と述べた。セルビアのブチッチ首相も「大国間の争いの代償を払わさ

れた」と述べ、バルカン半島では財政が苦しい国も多く、通過手数料を得られなくなることが痛手

であることを示している。南ルートの計画中止は経済制裁でロシアに圧力をかけてきたEUの外交

的成果という一面はあるが、ロイター通信はEUにとっても「悩みの種」だと報じている。ハンガ

リーはこれまでも制裁反対を主張するなどしており、EU全体の協調に影響を及ぼしている14。

12 月 4 日、プーチン大統領が同国産天然ガスを欧州に運ぶ新パイプライン「サウス・ストリー

ム」計画を中止する考えを示したことについて、欧州委員会のユンケル(Jean-Claude Juncker)委

員長は、計画実施はなお可能との認識を示した。ユンケル委員長はこの日、「サウス・ストリーム」

が経由する予定だったブルガリアのBorisov首相と会談した。ユンケル委員長は会談後に記者団に

対して、パイプラインをめぐる問題は克服不可能なものではないとし、問題解決に向けてブルガリ

アと協議している、と述べた。ロシア政府は1日、「サウス・ストリーム」の敷設計画撤回を発表

する際、競争上の理由からEUが反対したと説明した。委員長は、ロシアが計画中止の理由にEU

の競争政策を指摘したことに反発し、「対ロ関係改善に向けあらゆる措置をとる方針だが、欧州側

の努力だけではどうにもならない。双方の歩み寄りが必要だ」と反論した15。

フィナンシャル・タイムス紙は社説で、プーチン大統領が長い時間をかけた計画が断念に追い込

まれたものでロシアにとっては戦略上の失敗であると断じている。また、建設中止が欧州の損失で

トルコの利益であるというプーチン発言に対しては「浅はかな演出」だとし、EUが一度は断念し

た「ナブッコ・パイプライン」を再検討すべきと提案している16。この社説の執筆者は「ナブッコ」

に供給すべきガスが TANAP-TAP パイプラインで運ばれることになったという基本的な事実関係

すら理解していないことを示しており、欧州の主要なメディアが事態を産業の問題ではなく政治闘

争と捉えていることを、端無くも露呈した結果となっている17。

14 産経, 2014/12/05 15 Reuters, 2014/12/04 16 FT, 2014/12/03

17 「ナブッコ」の経緯に関しては拙稿『TANAP-TAPパイプラインがカスピ海のガスを欧州に運ぶ-アンバ

ンドリング政策に翻弄された「Nabucco」パイプライン計画-』(石油天然ガス・レビュー、2014年3月号

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(5)Saipemとの契約

事業現場に向かっていたパイプ敷設会社Saipem(Eniの関連会社)は、報道ベースで事業の停

止を知り、当然ながら大きな驚きをもって受け止めた。同社は 12 月 9 日の段階で、「ロシア政権

とGazprom社長がメディアに対して発したステートメントに関しては承知しているが、何ら正式

の契約の停止連絡は受けていない」と丁重な(tersely)コメントを行ったが、11 日の段階で漸く

海洋区間での「事業の停止通知(notification of suspension)」を受け取ったと発表した18。ただし、

このことは事業からの撤退ではなく、別の形で開始するまでの一時的な停止を示しているものと思

われる。写真2は、海底パイプラインの敷設の様子で、1本 10mのパイプを 4本溶接して、ステ

ィンガーから海底に降ろして行く様子を示したものである。

写真2 Saipemによる海底パイプラインの敷設の様子(Gazpromのwebsiteによる)19

http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=201403_019a%2epdf&id=5226)を参照

18 IOD, 2014/12/12

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図1 2011年までの欧州ガス・パイプライン計画(JOGMEC作成)

2.ロシアとブルガリアのサウス・ストリームを巡る確執

今回のロシア側のとった措置は、ある意味でロシアによる「ブルガリア懲罰」といった性格を持

つ。これまでもブルガリアの対応がサウス・ストリームの推進に大きな影を落としており、ロシア

側の不満も限界に来ていたと言える。

ブルガリアのサウス・ストリームに対する姿勢は終始揺れ動いていた。2009年 7月に就任した

Boyko Borisov首相(2014年11月から再就任)は、前職のソフィア市長時代からサウス・ストリ

ームに関するブルガリアの契約の見直しを迫るなど、ロシア離れの姿勢は明確で、2009年7月13

日にはナブッコの政府間合意に調印した。翌日には、南イタリア向けの ITGIパイプラインへの参

加で合意した(図1参照)。

Gazprom 側は、2010 年 2 月にパイプラインの上陸地点(landfall)をルーマニアに移すべく、同

国のRamgazとJVを立ち上げる覚書を交して揺さぶりを掛けると、ブルガリア政府は7月16日

に、サウス・ストリーム建設に関する政府間合意に調印した。このように、当時からロシア側は

19 Gazpromのwebsite(2014/11/13):http://www.gazprom.com/press/news/2014/november/article206398/

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Borisov政権には手を焼いていた。

2014 年になって、2 月 10 日、ブルガリア環境水利省は最高環境専門家会議(Supreme Expert

Environmental Council)の行ったSouth Streamの環境影響評価を承認した20。 こうして波乱は

あったものの、サウス・ストリーム建設に向けての環境は整いつつあった(図2参照)。

しかし 6 月 2 日、欧州委員会(EC)は書面で、ブルガリアに対して契約がなされる際に、EU

規則に違反していないか確認されるまで、South Streamの工事を差し止める様、要請した。ブル

ガリア区間を担当するSouth Stream Bulgariaがパイプラインの設計、ファイナンス、建設、操

業の契約を行う際に、透明性、競争性のある適正な手続きを踏んでいるかを懸念してのものである。

同社はその前の週に、Stroytransgaz(露)とGasprokt Jug(ブ)とパイプラインの詳細設計と建設

の契約を結んだばかりであった。

6月3日のEC報道官Antoine Colombaniはブルガリアとロシアの政府間合意に下請け企業を

使うに当たって EU 官報に掲載した入札を経ないでなされており、EU 規則違反である旨述べた。

ロシアは、WTOに対してEUによるロシアのガスインフラ事業に対する差別的扱いであるとして

提訴した21。

6月8日、EUが建設に係る契約についてEU法に抵触しないかの調査を継続している中、ブル

ガリアのPlamen Oresharsi首相(当時)は、6月から始まる予定であったSouth Streamの建設

工事を差し止めた。これはブルガリアの政府高官が米共和党のアリゾナ州選出のJohn McCain上

院議員を団長とするミッションと会談した後、明らかにされたものである。EUエネルギーコミッ

ショナーGunther Oettingerの報道官Sabine Bergerはこの決定を歓迎する旨の声明を出したが、

ブルガリアのDragomir Stoynevエネルギー相は、最終的に事業は推進されると述べた22。

一方、国営ブルガリア通信によると「EUが示しているすべての懸念が払拭された後、計画は続

行されるだろう」とブルガリア政府も述べたと報じた23。

この一連の動きに対して6月9日、ロシアのEU公使はブルガリアがSouth Streamの工事を中

止したことを、「なし崩し(creeping)」制裁だとして批判した24。 ブルガリア政府部内において、

様々な勢力が影響力を行使し合い、サウス・ストリーム計画は迷走を続けた。

20 IOD, 2014/2/11 21 PON, 2014/6/4 22 FT, 2014/6/10 23 読売, 2014/6/10 24 PON, 2014/6/10

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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

図2.2013年時点で固まった欧州向け天然ガス・パイプライン計画(JOGMEC作成)

3.サウス・ストリーム計画撤回の各国への影響

(1)トルコ

トルコは、当初はともかく、近年ではサウス・ストリームに対しては前向きな対応に終始してい

たと言える。7月24日、トルコの環境都市化省は、同国黒海海底を通過するSouth Streamがト

ルコ領での漁業海洋環境に重大な影響を及ぼさないとして承認を与えた25。

サウス・ストリーム計画の撤回が表明された後の12月11日、Taner Yildizエネルギー天然資源

相は、露土両国は 12月 10日に、二国間を結ぶ新たなガスパイプライン建設に関する第 1回目の

交渉を行ったと述べた。DJ によれば、最終交渉は 2020 年まで続く可能性があるとしている。同

相はまた、この新プロジェクトが、サウスストリームに替わるとのゴーサインを得るかどうかを明

25 IOD, 2014/7/25

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

らかにするには時期尚早と述べた26。

但し、専門紙の報道ではトルコの姿勢はこれよりも若干前向きである。翌 12 月 11 日の記者会

見で、Yildizエネ相は、すべてが検討段階にあると断りながらも、ロシアから提案されたパイプラ

インを“Turkish Stream”と呼び、建設が2019-2020年にも完了すると述べた(図3)。更に、ト

ルコ欧州部のThraceにLNG輸出ターミナルを作る計画まで含まれるとした。一方で、Yildiz大

臣はTANAPの310億m3/年の輸送の実現もコミットしていると付けくわえた27。これは、この6

月に Socarが、TANAPは 2018年稼働開始(TAPは 2019年)、その容量は 2023年には 240億

m3、2026年には310億m3となる、と述べたことを踏まえていると思われる28。但し、この生産

計画がShah Denizガス田のパートナーと共有されているのかは確認できない。

表1 トルコのガス需要見通しと供給計画(出典:Botas、Adams(2001)等を取りまとめ)

ガス需要見通し 2000 2005 2010 2015 2020

政府見通し 46.4 55.2 67.0 82.7

Adams見通し (2001) 23-28 38-45 - -

実績及び予測 14.6 26.9 (36) (40) (44)

ガスの供給契約 契約時期 供給開始

Russia (Bulgaria経由) 1986, Feb. 1987, Jun. 6.0 6.0 6.0 6.0 6.0

Algeria LNG 1988, Apr. 1994, Jul. 4.0 4.0 4.0 4.0 4.0

Nigeria LNG 1995, Nov. 1999, Oct. 1.2 1.2 1.2 1.2 1.2

Iran 1996, Aug. 2001 0 3.0 3.0 10.0 10.0

Russia (Bulgaria経由追加) 1996, Dec. 1997 0 8.0 8.0 8.0 8.0

Russia (Blue Stream経由) 1997, Dec. 2002 0 5.0 16.0 16.0 24.0

Turkmenistan 1999, May 見送り - - - - -

Azerbaijan (Shah Deniz) 2006 0 3.0 6.6 6.6 22.6

ガス輸入の合計 11.2 30.2 44.8 51.8 75.8

ナブッコでの輸出可能量 9 12 32

表1はやや古いデータであるが、トルコ政府による2020年までのガス需要見通しと、アゼルバ

イジャンのACGプロジェクトの当時の責任者Terry Adamsが2001年に行った予測、そしてトル

コによるパイプライン、LNG による輸入計画の一覧である。当初のトルコ政府のやや強気の予測

に対して、ACG プロジェクト関係者は懐疑的であったが、その通り 2003 年のトルコの経済危機

26 イスタンブールDJ, 2014/12/11 27 PON, 2014/12/15 28 PON, 2014/6/04

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で、ガス需要は政府見通しを大きく下回った。但し、現状は良好なトルコ経済を反映して、需要見

通しは当初想定のものに近づいている。

表1の下部に見る通り、ロシアからウクライナ-ブルガリア経由で黒海の西側沿いにトルコにガ

スを輸出するパイプラインは“Transbalkan import line”と呼ばれ、1987年から60億m3/年、1997

年から80億m3/年、合計140億m3/年が供給されている。ロシア側の意図は、ウクライナ経由の

ガスをゼロにすることであり、このブルガリア経由のラインも稼働しなくするというものである。

図3 South Streamに替わりトルコ向けTurkish Streamとなるロシアからのガスパイプライン

(JOGMEC作成)

(2)ウクライナの対応

ウクライナ政府のコメントは特段報道されていないが、ヤツェニュク首相は、これまでも度々議

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会でサウス・ストリームの実現阻止を訴えるなど、極めて政治性の強い対応をとって来た。これは、

ウクライナ迂回パイプラインがウクライナのガス通過料、そして対ロシアでの影響力の喪失に繋が

ることを念頭に置いてのものと思われる。その意味では、ウクライナ迂回を目的として来たサウス

ストリーム計画の撤回は一定の成果と言う見方も出来るが、あくまで計画の見直しであり、ウクラ

イナが今後もロシア産ガスのトランジットを続けられる保証はない。

12月1日、ウクイラナ政府は欧州投資銀行(EIB)から、国内パイプラインの改修のために1.50

億 Eur( $1.85 億)の融資を受けることで合意した。改修の対象となるのは、

Urengoy-Pomary-Uzhgorod(UPU)パイプラインの120km、及び2か所の加圧ステーションで

ある29。これは、ウクライナが完全な敵対国となっているロシアからのガスについて、今後もトラ

ンジット国としての地位を守る意思を示したものであり、欧州投資銀行もその実現性を疑っていな

いということになる。

12月に入って、Naftogaz Ukrainyは既に 1.02億~1.08億m3のガスを備蓄分から使用し始め

るようになり、ウクライナ・エネルギー省は12月6日、10億m3のロシア産ガスを買い付けるべ

く、$3億7800万を送金した30。入金を確認したGazpromからは9日からガスが送られ始めた。

(3)セルビアの対応

2013年11月24日、セルビアではSouth Streamの起工式が執り行われた。セルビアはEUに

加盟しておらず、EUの第3エネルギー・パッケージの適用を受けないことから問題なく実施され

たが、これはあくまでシンボリックなもので本体工事の開始ではなかった。

2014年に入り、セルビアの Zorana Mihajlovic副首相は、6月 9日付けの新聞紙上で、South

Streamの計画はEUとホスト国、そしてEUとロシアとの関係に影響されるとして、国内での事

業を停止すると述べた。これに対して、Aleksandar Vucic 首相は、すべては計画通り遂行すると

真っ向から反論した31。これは、セルビアの政権内にも、様々影響力が行使されていることの表れ

と思われる。

6月17日、ロシアとセルビアの外相会談で、7月にセルビア区間で着工することを確認した32。

7月8日、GazpromとセルビアのSerbijagasのJV South Stream d.o.o.から、Gazpromの子

29 IOD, 2013/12/03 30 日経, 2014/12/06 31 IOD, 2014/6/10 32 日経,2014/7/09

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会社Centrgazが設計、資材調達、職員訓練に関する入札で落札した33。

今回の計画撤回に関して、セルビア政府からの公式コメントは特に報じられていない。

(4)イタリアの対応

イタリアのEniはSouth Streamの最初の提唱企業であり、現在も20%のシェアを持つ、最も

中核となる欧州側の企業であった。

ロシアがクリミアの併合を行った2014年3月、EniのScaloni CEO(当時)は、South Stream

の将来を悲観する立場を表明し、議会で「イタリアにとってロシア産ガスは 30%でしかなく、ロ

シアからのガスがなくとも生きて行ける。TAP によりアゼルバイジャンのガスが入る」と発言し

た。但し、この発言の背景には対露交渉を有利にしようとしているのでは、との憶測もなされてい

た34。

3月27日には、Federica Guidi産業相は、ロシアのクリミア併合でSouth Streamの建設は危

機に晒されていると述べた35。

2014 年 5 月、G7 エネルギー相会議の後の記者会見で、議長を務めた Guidi 産業相は、South

Streamについて「事業を全面的に支持しており、欧州の多くの国々にとっても政策的に重要だ」

と言い切った36。どうやら、閣内でも揺れ動いている状況と思われる。

一方で、5月にはEni傘下のEPCコントラクターであるSaipemが、South Streamの海底区

間第2線の建設サポート業務を、事業主体のSouth Stream Transportから受注した。受注金額は

4億ユーロで、2016年完成を目指すとした。なお、Saipemは第1線の建設を20億ユーロで受注

している。海底区間の最大水深は2,200m以上、総延長は931kmである37。

プーチン大統領が計画撤回を決めた翌日、イタリアのRenzi首相はアルジェリアのAbdekmalek

Sellal大統領と、天然ガスにおける関係強化について話し合し、ガスソースを「東から南」へと転

換させる方針を示した。同首相は2月に政権を組織して以来、“Pivot to Africa”という方針を掲げ

ている38。ベルルスコーニ時代、イタリアはドイツと並んでロシアとの協調路線をとっていたが、

政権交代とともに、その関係は希薄化しつつある。

33 IOD, 2014/7/09 34 Vedomositi, 2014/3/24 35 IOD, 2014/3/28) 36 読売, 2014/5/08 37 East & West Reort, 2014/5/12 38 FT, 2014/12/06

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(5)オーストリアの対応

2013年 6月、ナブッコ計画が消滅したことを受け、South Streamの最終目的地をオーストリ

アとすることで両国の思惑が一致した。2014年4月29日、OMVはモスクワでGazpromとオー

ストリア国内でのSouth Steamの建設計画を進める協定を締結した。また、同国のBaumgarten

中継基地を中欧の天然ガス供給拠点とすることとした39。

6 月 24 日、ウクライナ問題後の初めての公式訪問としてオーストリアを訪れたプーチン大統領

は、同国フィッシャー大統領と会談した。並行してGazpromとオーストリアのOMVは、South

Streamの総延長 2,446kmの内、オーストリア国内分の約 50kmのパイプラインを約 2億ユーロ

で建設する契約に署名した。フィッシャー大統領は「契約は有益なもの」と説明したが、一方在墺

米大使館は不快感を表明した40。

6月27日、Miller社長はSouth Streamはオーストリアを終点とするものであり、イタリアと

スロベニアにまで延伸はしないと述べた41。

オーストリアは本来はSouth Stream計画の発足時から、同国のBaumgartenを終点とする案

であったのが、計画が二転三転するに従い、むしろナブッコに近い立場をとって来た。しかし、ナ

ブッコ計画が頓挫した後は、South Stream寄りの立場となっていた。

12 月 9 日、ロシアのプーチン大統領はオーストリアのヴェルネル首相と電話会談を行ったと、

クレムリン報道部が発表した。両者はエネルギー部門の協力、具体的には「サウスストリーム」計

画の中止をめぐる問題について話し合った42。

(6)ドイツの対応

3月、South Streamの15%を保有するWintershallのジーレ会長は「ウクライナでの出来事は

South Streamのような代替の供給ルートの必要性を示している」と発言した43。

4月 10日には、続いてWintershallの親会社であるBASFがGazpromが信頼できる供給元で

あるとして、South Streamを支援する立場を明らかにした44。

現状、対露制裁を巡ってメルケル首相は非常に厳しい立場を堅持する一方で、Steinmeier 外相

39 読売、2014/5/06) 40 毎日, 2014/6/25夕 41 Argus FSUEnergy, 2014/7/03 42 ロシア通信, 2014/12/09 43 Vedomositi, 2014/3/24 44 East & West Report, 2014/4/14

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はその着地点を探るなど、政権内部での乖離が目立つ。Steinmeier 外相の方が、よりドイツ産業

界に近い立場と言える。

(7)フランスの対応

12 月 6 日、フランスのオランド大統領は、カザフスタンへの外遊の帰途にモスクワを訪問し、

ロシアのプーチン大統領と会談した。両首脳はウクライナ東部の早期停戦に向けた働きかけを強め

ることで一致したと報じられているが45、これは急遽予定を変更しての訪問であり、South Stream

の15%をフランス企業のEdFが保有していることから、South Streamに関する協議も含まれて

いたものと思われるが、この部分は完全に秘匿される。

(8)その他の国の対応

12月9日、EUエネルギー担当副首相Maros Sefcovicによる「中東欧におけるガス市場統合の

ためのアクションプラン」がAustria, Bulgaria, Croatia, Greece, Italy, Romania, Sloveniaとの

間で結ばれた。これは、トルコ経由のパイプライン構想に対抗するものであろう。親露路線を取る

Hungaryはこれには調印しなかった。

同じ12月9日、ギリシャのエネルギー相Yiannis ManiatisはBulgaria, Romaniaと、南欧州

において幹線ガスパイプラインを横断的に繋げる“Vertical Gas Corridor”の共同宣言に署名した。

これにより50億m3の新規の供給ルートが生まれ、双方向輸送が可能となり、カスピ海からの『南

回廊(Southern Gas Corridor)』を拡充するという計画である。これは、生産地と消費地を結ぶ

パイプライン同士を繋ぐ横道パイプライン構想ではあるが、大本のガスはロシア産によっている。

提案されている IGB(Interconnector Greek-Bulgaria)がこの重要な部分を構成する。建設費はEur

2億($2.48億)。一方、Cyprus, Isreal, GreeceはEast Mediterranean gas pipelineの実現のため

にEUの支援を求めている46。

4.サウス・ストリーム計画とEU第3エネルギー・パッケージ

(1)EUの法的な問題に関する動き

EUは従来から、サウス・ストリームが、①エネルギー輸送インフラにおける50%の第3者アク

セスを認めていない、②資源供給者と輸送インフラ所有者の分離(unbandling)がなされていない、

との2つの理由からこれに反対する立場であった。一方、ロシア側はEU法はロシアによるガス供

45 日経, 2014/12/07

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給に悪影響があり、新規のパイプラインの建設を阻害するものであると批判していた(詳細は付録

参照)。但し、この点に関しては、2011 年以来、ロシア側と EU のエネルギー・コミッショナー

Gunther Oettingerは精力的な会合を持って、両者の考えを擦り合わせる努力を重ねていた。

しかし、このような協調姿勢も、ウクライナ問題により雲散霧消した感がある。2014年3月11

日にサウス・ストリームに関するロシアとEC代表団との協議が予定されていたが、ECの代表団

はモスクワ訪問を取りやめ、以降両者の会議は開かれていない47。

4 月 17 日、欧州議会は「エネルギー調達先の多角化をはかるべき」として、サウス・ストリー

ムの建設中止を求める決議を行った。これは、一方的な通告に等しいもので、両者の議論の積み重

ねは、振り出しに戻った感があった。

EUのこの決議には、通過ルートとなるブルガリアも反発し、ブルガリアのコバチエフ欧州議会

議員は「計画を中止するならば、EUは損害賠償をするべきである」と詰め寄り、同国のストイネ

フ・エネルギー相は「建設計画は対露制裁の犠牲になりつつあるが国益のために抵抗する」と発言

した48。欧州南部には、ガスの手当て手段として、少なからずサウス・ストリームに期待する国々

があったが、ブリュッセルではこれらは政治案件として、EU構成国の利益よりもロシアと対決を

優先すべきとして処理された模様である。

7月2日には、ハンガリー、セルビア、ブルガリアの3国はウィーンで会合を開き、サウス・ス

トリームに関する交渉力を高めるためのフォーラムを設立することで合意した。この3国は、度々

EUのエネルギー政策に対して疑問を呈しており、EUの足元では不協和音が目立つ状況である49。

なお、Miller は 6 月 27 日、1969 年に締結された「条約の法に関するウィーン協定(Vienna

Convention on the Law of Treaties)」において、「政府間合意は国内法やその後に創設された貿易

連合に関する法に優先する」との規定があることから、サウス・ストリームに関する政府間合意は

EUのエネルギー市場規則(EU第3エネルギー・パッケージ)に優先すると主張している50。

これに関する EU 側の反論はまだない。現状は、全てがあまりに政治化(politicize)されて議

論されており、資源輸出国、消費国双方の全体利益という視点が抜けている。

(2)TANAP-TAPパイプラインは新サウス・ストリームと競争関係になるのか?

46 PON, 2014/12/11 47 IOD, 2014/3/12 48 読売、2014/5/06 49 IOD, 2014/7/04 50 Argus FSUEnergy, 2014/7/03

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トルコ国内を通るTANAP(Trans-Anatolian Pipeline)は容量160億m3で、この内60億m3

はトルコの内需向けである。これを経てギリシャ、アルバニア経由で南イタリアに入る TAP

(Trans-Adratic Pipeline)は容量 100億m3であり、決して大きな規模ではない。前述の通り、

Yildiz 大臣は TANAPの 310 億m3/年の輸送の実現にコミットしていると述べており、前述の通

りTANAPの容量は2023年には240億m3、2026年には 310億m3となる、とアゼルバイジャ

ン国営石油(SOCAR)が述べたことを踏まえていると思われる51。先行計画は当然尊重される。

新規トルコ向けラインに関しては陸揚げ地点がはっきりしてからの議論となるが、かりに陸揚げ地

点がトルコ=ギリシャ国境近くとなれば、両者は全く別のガス・フローとして機能することになる。

米国は、このTANAPの能力を最大限拡張したい意向と思われる。6月3日、Bakuで開催され

た第21回 ”Caspian Oil and Gas”で、南回廊の始動によるEUのエネルギー安全保障の進展を米

国が支援する旨のオバマ大統領の書簡をRichard Morningstar駐アゼルバイジャン大使が読み上

げた。EC のGunther Oettinger コミッショナーは南回廊が欧州需要の 10%~20%、即ち 550 億

m3~1,100億m3を送るべきとし、Trans-Caspian Pipelineの可能性に関してトルクメニスタン、

アゼルバイジャンと協議中であると述べた52。年間1,100億m3をアゼルバイジャンから確保する

のは不可能で、トルクメニスタンが期待されることになる。

(3)Shah Denizガス田開発に問題はないのか?

2014年5月31日、Totalがアゼルバイジャン領カスピ海のShah Denizガス田(現行生産量90

億m3/年)で保有する 10%の権益を、トルコの TPAOに$1.5Bで売却した。その前の 2013年末

には、Statoilが保有する同ガス田権益25.5%の内、10%を$1.45BでSocarに6.7%、BPに3.3%

売却した。両社はコスト増による収支の悪化を避けるべく、資産の整理を進めていると言われる。

Total は 2011 年に発見された、同じくアゼルバイジャン領カスピ海の Absheron ガス田開発に注

力し、Statoilは北海の油田に投資を集める53。 また、同ガス田に9%の権益を保有するE.On(独)

もポートフォリオ組み換えのために売却を検討していると伝えられる54。Shah Denizのフェーズ

2(Shah Deniz-2)は、最大水深500mで、既往のShah Deniz-1に比べて当然開発コストが高

くなる。今後予想されるコスト増と、西側企業の相次ぐ撤退と関係があるのか現在のところ不明で

51 PON, 2014/6/04 52 IOD, 2014/6/04 53 IOD, 2014/6/02 54 PON, 2014/6/04

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ある。但し、現時点では、ガス田開発は計画通り進められることになっている。

一方、アゼルバイジャンのNatig Alievエネルギー相は、Shah Denizガス田は、昨年暮れの最

終投資決定(FID)において、第2期に250億m3/年を生産するとしていたが、1.2兆m3という

埋蔵量から判断して300-350億m3/年可能と述べた55。FIDを終えてから楽観的な発言をするとい

うものは、いささか奇異な印象がある。

(4)ギリシャから先の欧州向けガス供給はどうするのか?

ロシア側の提示しているトルコ=ギシリャ国境のハブまでロシアがガス・パイプラインを敷設す

るという案に関して、Kommersant 紙は、「問題はギリシャ、トルコ以外の輸入業者が新たなハ

ブ地点でどのような形でガスを受け取るのかが不明な点である」と疑問を呈している56。ハンガリ

ー、オーストリア、スロバキアへの輸送には、年間 200 億 m3 の輸送能力を持つ大規模なガス・

パイプラインを新たに敷設する必要があるとされるが、そのような事業に名乗りを上げる企業が出

る保証は全くない。ロシア・トルコ以外の事業者の動きに期待するのであれば、計画は画餅に終わ

る可能性が高いということになる。

5.サウス・ストリーム計画撤回で変わるユーラシアのガス・フロー

(1)ロシアのガス輸出の東方シフト

ロシアの石油・ガス輸出の東方シフトは、2004年のプーチン大統領の 2期目の教書で述べてい

るところであり、既に10年間掲げられている政策である。何ら目新しいものではない。これは主

に対中国への石油・ガス輸出を増やすというもので、中国市場の拡大基調という背景があり、当時

もロシアとして必然性のある政策と受け止められていた。

石油では、すんなりと ESPO(東シベリア-太平洋)パイプラインが建設され、東方シフトが現

実化したが、天然ガスは価格問題もあり、実現に時間がかかっている。

今般、欧州市場を諦めた訳ではないにせよ、トルコを主要な通過ルートに選んだことは、10 年

前から続くこの政策を更に推し進めたものと言えよう。

(2)「西ルート」ガスパイプラインでの合意

対中国では、5月21日の「東ルート」の合意に続いて、「西ルート」が引き続き協議され、基本

合意を見た。

55 PON, 2014/6/05

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– 19 – Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

11月 9日、APECで北京を訪問中のロシアのプーチン大統領と、中国の習近平国家主席の同席

の下、ガスプロム Miller 社長と中国石油天然ガス集団(CNPC)周吉平董事長が枠組み合意

(Framework Agreement)に署名した。合意内容は、供給量(300億m3/年×30年)、take-or-pay

条項、引き渡し地(この場合はAltaiでの中露国境)の3点である。ガスの価格は依然として未定

であり、全体の合意内容は2006年3月21日の基本合意を超えるものではない。最終合意は2015

年の見込みである。

図4 ロシアからの天然ガスパイプライン網(2014年12月現在。JOGMEC作成)

供給開始はPLの建設開始から4から6年後で、パイプラインの名称は"Altai"、総延長は2,600km、

56 Kommersant, 2014/12/05

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即ち西シベリア北部のNadym-Pur-Taz地域のガス田地帯からである。但し、供給ガス田について

は、西シベリアの Yuzhno-Russkoye と Zapolyarnoye の2大ガス田であると公表された57。前者

はNord Streamの供給ガス田であり、後者も一部が欧州向けとなっている。即ち、これら主に欧

州向けとされていたガス田が、今後は中国向けに供されることになる訳で、「中国シフト」という

ものが、欧州ユーザーにとって具体的にイメージされる発表となった(図4参照)。

ロシア側からの情報によれば、Altaiパイプラインに関する交渉はスムースに進み、2015年に第

2の 30 年契約が締結されることはほぼ確実であると、CNPC の渉外部長が述べたという。2012

年に CNPC は東ルートのみの契約締結を希望していた。同年、中国では 2020 年までに 600 億

m3~1,000億m3のシェールガスを生産する計画が採択されたが、CNPCの2014年第3四半期報

告書では生産目標は半分の300億m3へ下方修正された。そして11月9日に西ルートに関しても

枠組み合意がなされた。中国側でのガス調達・生産計画に何らかの変更がなされた可能性がある。

9月には、プーチン大統領は、「Altai」は「シベリアの力」よりも早く完成する可能性があると

発言している。Gazprom の幹部によれば、「Altai」は新規ガス田を開発する必要がなく、既往の

パイプラインはAltai共和国のGorno-Altaiskまで建設済みで、ルート全体でも 4~6年で建設可

能であるという。コストが高いのが中国国境までの 500km の高山地域にある最終区間であるが、

ルートに沿って監視道路や電力も整備されている。。コスト見積もりは、2006年の段階でRb3,630

億で、一方「シベリアの力」はRb7,700億と遙かに取り組みやすいルートであった58。

SberbankのアナリストNesterovがコメントするように、ロシアにとっては、Altaiルートの方

が短く、既に開発中の複数の鉱床から供給が行え、少ない投資で済むことから有利であるが、中国

にとっては、東ルート(Sila Sibiri)の方が東北部の石炭の代替となることからより重要である59。

【付 録】サウス・ストリーム計画60の経緯

1.サウス・ストリーム計画の概要

ナブッコ・パイプライン計画に対抗して、2007年6月、ガスプロムとイタリアのENIは、サウス・ストリー

57 IOD, 2014/11/11 58 Vedomosti, 2014/11/19 59 RBK Daily, 2014/11/10 60 参加企業は露ガスプロム(50%), 伊ENI(20%), 仏EdF(15%), 独Wintershall(15%)

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ム(South Stream)パイプラインの建設で合意した61。筆者は、モスクワの MIOGE (Moscow

International Oil and Gas Exhibition) というシンポジウムの場で、この事業についてホットニュース

として飛び入りで発表されるのを聞いた。発表者はENIの人間であった。

当初の計画は、ロシアから黒海海底を西方に 900km延びてブルガリアのブルガス(Burgas)に到るも

ので(図 1)、ブルガリアからは南方へ、ギリシャ経由でイタリアに到る 990km のラインと、西方へ

1,300km 延びてオーストリアに到るというものである。通ガス能力は当初年間 300 億 m3、その後 630

億 m3 まで引き上げられた。これは、ウクライナは勿論、トルコをも迂回するルートでもある。オーストリア

に向かうラインは、正にナブッコと競合していたが、前述の通り Nabucco West が採用されなかったこと

から、現行のバルカン-南欧地域を通るパイプライン計画は South Streamのみとなり、「不戦勝」の状

況となっている(図2)。

ブルガリアとは、ロシアは 2008年 1月に合意しており62、続いて同じ 1月にセルビアが参加63、更に

ハンガリーとも次々と合意した64。その後、セルビアでは 2008 年 5 月の議会選挙を経て、改めて国内

400kmのパイプラインの通過を承認した65。

2009 年 8 月、プーチン首相(当時)のアンカラ訪問で、ロシア側はトルコを南北に横断する

Samsung-Ceyhan石油パイプラインへの協力の見返りに、South Streamの黒海のトルコ領海での敷

設権につき了解を得た。

2010年 4月の段階での政府間合意は、ブルガリア、ギリシャ、セルビア、ハンガリー、クロア

チア、スロベニア、オーストリアの7カ国となり、全通過国がひと通り網羅された。但し、通過ル

ートは再三にわたって変更されており、2009年5月のベルルスコーニ首相(当時)の訪露時には、

通ガス量も当初の 300億m3/年から唐突に 630億m3/年に引き上げられるなど、計画が十分に詰

まっているとは言い難かった。

2010年3月9日、ENIのScaloni CEOがSouth Streamとナブッコの統合を提案した。これ

に対して、3月15日、ロシアのShmatkoエネルギー相(当時)がScaloni提案を正式に拒否する

一方、ロシア・ガス協会Valery Yazev会長は統合案を合理的と評価するなどロシア側の評価も分

61 Interfax, 2007/6/25, FT, 6/26, IOD, 6/28 62 IOD, 2008/1/22 63 共同、2008/1/25 64 IOD, 2008/2/01 65 IOD, 2008/9/10

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かれていた66。このような対応が出て来ること自体、South Streamの計画が十分詰められていな

いことの証である。最終目的地も当初はオーストリアのバウムガルテン(Baumgarten)であったが、

2011 年暮れにスロベニアから直接イタリアに入り、バウムガルテンへは枝線で供給することとし

た(図7)。この時点で、供給開始は2015年から150-200億m3で、2019-2020年には630億m3

に増量する計画となった。総事業費は 155億ユーロ($218億)。他に黒海海底建設費 100億ユー

ロ.である67。

2.サウストリームに関する政治的環境整備

2011年に入り、ナブッコ計画が殆ど進展しない中で、ロシア政府はEUとSouth Streamに関

して精力的に会合を開いた。

2011年2月24日、ブリュッセルでEU首脳とプーチン首相・Shmatkoエネ相(いずれも当時)

が、2011年3月に効力を発するEU法「第3エネルギーパッケージ」(後述)に関して、それぞれ

のエネルギー政策の違いに関して話し合った。論点は、①エネルギー輸送インフラに対する第 3

者アクセス、②資源供給者と輸送インフラ所有者の分離(アンバンドリング)、の2点である。プー

チン首相は、EU法がロシアによるガス供給に悪影響があり、新規ガス・パイプラインの建設を阻

害するものとし、更に第3者がパイプラインにアクセスできると中間業者が介入し欧州市場末端で

のガス価格は上昇すると述べ、EU の考え方を批判した68。また、ガスプロムは、South Stream

に関しても、EUの推すナブッコと同等のTen-E(Trans-European Network)ステータスを要求

した。これが受け入れられると、EUからのソフトローンと早期計画認可の路が開ける。

次いで5月25日には、Shmatkoエネ相が欧州委員会(EC)でSouth Stream計画を説明した。

EUエネルギーコミッショナーのエッティンガー(Gunther Oettinger)は、EU域内に入るパイ

プラインは EU エネルギー市場規則に従う必要があるとの立場から、以下の 3 点を指摘した。①

South Streamは無条件でEU域内のすべてのシッパーにパイプラインの輸送容量を登録分配する

こと、②シッパーに課されるタリフは関係国の規制に委ねられるべきこと、③緊急時にはパイプラ

インの逆走が技術的に実施可能であること69。更に、Oettinger はロシアでのガスプロムによる独

66 Kommersant,2010/3/16 67 IOD, 2011/5/27 68 IOD, 2011/2/25 69 PON, 2011/5/27

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占状態に懸念を示し、パイプラインの運営にロシアで第2位のガス生産量を持つ Novatek のよう

な独立系ガス企業が参加することが望ましいとした70。

このブリュッセルにおける会合に関してWorld Gas Intelligence誌は、EC側がSouth Stream

に関して、初めて計画に邪魔立てしないとの反応を見せた、と評した71。OettingerはSouth Stream

に関して、EUにとって最優先事項ではないが特にロシアが供給路を広げることに価値を見出すと

し、ガスプロムがロシアで活動する独立系ガス会社のアクセスを認めるならば、ルート及び供給ソ

ースの分散化にあたり、EUの分散化努力に貢献しているとした。これはEU側の認識がかなり変

化して来たことを示している。

3.South Stream計画の最終投資決定まで

2011年3月21日、BASF-Wintershall(独)とガスプロムは、20億ユーロ ($28.4.億)を投じて

South Streamの15%の権益を譲渡するMOUを締結した。一方、ENIの50%からは、EdF(仏)

が15%を引き受けた72。

2011 年暮れ、ガスプロムは新規ルートとしてオーストリアを外し、通過国をブルガリア、セル

ビア、ハンガリー、スロべニアとし、イタリアを最終目的地とした。ブルガリアからギリシャへは

支線となり、南イタリア向けは取り下げられる73。これは、北支線が北イタリア経由でイタリア市

場に入ることから、南支線を維持する必要が低下しており、TAP との競合を避ける意味から見送

ったものと思われる。

2012年11月14日、South Streamの黒海海底部分への投資決定がなされた。翌11月15日、

ブルガリアにおける投資決定がなされたのを受けて、ガスプロムはSouth Stream全体の投資を決

定した。通ガス能力は年間 630 億 m3、イタリア北部までの総延長は 2,380km、総工費 Eur160

億である。12月7日着工のセレモニーが挙行された74。

但し、South Streamコンソーシアムは、パイプライン建設は2014年と発言しており、12月7

日の着工式はあくまでシンボリックなものに過ぎない。主要な工事は2014年に開始し、ロシア領

黒海Russkaya(クリミヤ半島に近いAnapaから10km南)から32“(813mm)径のパイプライ

70 IOD, 2011/5/27 71 WGI, 2011/6/01 72 PON, 2011/3/23 73 Argus FSUE, 2011/12/16 74 日経、2012/11/16夕

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ンを地上 2.5km走らせて後、黒海に入り 900kmの海底区間を経て、ブルガリアのVarnaで陸揚

げする。海底区間の始まりであるRusskayaは当初の地点であったDzhubgaから 125kmクリミ

ヤ半島側にある。新しい陸揚げ地点のVarnaは当初のBurgasから 90kmウクライナに近い。こ

のことは、パイプラインルートがウクライナ領海を通過するよう設定され直したことを意味する。

2007年当時と比較してウクライナとの関係改善があったことによるものと思われる。2018年まで

に海底下のパイプを 4 本走らせる計画である75。2,000m 級となる黒海海底での海底パイプライン

敷設技術は、2002年のBlue Streamの建設において実証されおり、技術上の問題は克服されてい

る。

2013年10月2日には、ガスプロムとSouth Streamコンソーシアム(ガスプロム 50%, Eni 20%,

Wintershall 15%, EdF 15%)がShip-or-Pay合意書を結び、10月4日コンソーシアムの事業着手

で合意した。既に 30%の出資金は確保してあり、70%の融資は Credit Agricole Coporate and

Investment(仏), ING(蘭), RPFB Finance(露)により2014年に実行される。建設は2014年開始す

ることで合意し、157.5億m3/年を送る第 1節の稼働開始は 2015年としブルガリアにガスが送ら

れる。他の 3 節は 2019年稼働開始、合計 630億m3/年となる。但し、陸上でのEUからの第 3

者アクセス要請は不明確のままであった76。

4.South Streamの工事着工へ

2013年11月24日、セルビアでSouth Streamの工事が開始された。セルビア区間における輸

送能力は年間400億m3、パイプライン長は420kmとなる77。 この建設費はガスプロムが融資し、

セルビアはパイプラインのタリフ収入から返済する78。セルビアから着工されたのは、同国が EU

に加盟しておらず、EUの第3エネルギーパッケージの適用がないことから問題が生じないとの考

えによる。

しかし、12月 4日になって、ECの域内エネルギー市場部長Klaus-Dieter Borchardは、欧州

議会のSouth Streamに関する審議会で、South Streamのすべての政府間合意はEUの第3エ

ネルギーパッケージに違反しており、パイプラインの運用は認められず、再交渉される必要がある

75 Argus FSU Energy, 2012/11/29 76 Argus FSU Energy, 2013/10/10 77 Novosti, 2013/11/26 78 AP. 2013/11/24

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と述べた。主たる問題点は、生産・輸送分離(アンバンドリング)、第3者アクセス、ガスプロムに

よる輸送タリフ決定方式である。これに対して、ガスプロムのMedvedev副社長は、既にFIDを

通過し、工事開始している段階で、第3パッケージの例外措置を求めるのは遅すぎると反論した79。

(了)

79 PON, 2013/12/05