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1 2018 年 1 月 15 日 グリーンピース・東アジアおよびグリーンピース・ジャパン発行 石油タンカーの衝突事故に関する概況報告書 ________________________________________________________________ 現在、災害から生存者がもはや見つかる見込みはないとされており、グリーンピースは犠牲者の 皆様に深く哀悼の意を表すとともに、ご家族やお知り合いの方々に心よりお見舞い申し上げます。 地図:6 日から 15 日にかけての「Sanchi」の位置と動き 最新の VIIRS の画像と中国政府の情報(注 1)によると、Sanchi は 1 月 14 日北京時間 15:00 に、28°22'30 "N、125°56'30" E に沈没しました。 沈没の場所は上海から 530km、寧波から 450km、那覇から 310km、水深は 115 メートルです。 1 月 15 日午前 1 時 30 分時点の光点の 大きさは、海面で続く火災を示しています。1 月 15 日正午の中国テレビ(CCTV)の報道(注 2) によると、海面の火災は同日午前 9:58 分に消え、燃焼領域周辺では、長さ 18.5km、幅 1.85〜 7.4km の油漏れゾーンが確認されています。昨日報告された流出から数倍に拡大しています。 出所:Sentinel 3A、OLCI センサー。 北京時間 1 月 14 日 10:20 の衛星画像は 沈没する数時間前にタンカーはまだ燃え ていたことを示しています。 黒い煙のプルームは約 50km の長さで 北東に向かっていました。

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2018 年 1 月 15 日

グリーンピース・東アジアおよびグリーンピース・ジャパン発行

石油タンカーの衝突事故に関する概況報告書

________________________________________________________________

現在、災害から生存者がもはや見つかる見込みはないとされており、グリーンピースは犠牲者の

皆様に深く哀悼の意を表すとともに、ご家族やお知り合いの方々に心よりお見舞い申し上げます。

地図:6 日から 15 日にかけての「Sanchi」の位置と動き

最新の VIIRS の画像と中国政府の情報(注 1)によると、Sanchi は 1 月 14 日北京時間 15:00

に、28°22'30 "N、125°56'30" E に沈没しました。 沈没の場所は上海から 530km、寧波から

450km、那覇から 310km、水深は 115 メートルです。 1 月 15 日午前 1 時 30 分時点の光点の

大きさは、海面で続く火災を示しています。1 月 15 日正午の中国テレビ(CCTV)の報道(注 2)

によると、海面の火災は同日午前 9:58 分に消え、燃焼領域周辺では、長さ 18.5km、幅 1.85〜

7.4km の油漏れゾーンが確認されています。昨日報告された流出から数倍に拡大しています。

出所:Sentinel 3A、OLCI センサー。

北京時間 1 月 14 日 10:20 の衛星画像は

沈没する数時間前にタンカーはまだ燃え

ていたことを示しています。

黒い煙のプルームは約 50km の長さで

北東に向かっていました。

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■ 「Sanchi」沈没の潜在的な環境影響の初期評価(北京時間 1 月 14 日 15:00 時点)

グリーンピース・インターナショナル サイエンスユニット ポール・ジョンストン博士(英国エクセター大学)

• 作業の焦点は今後、救助と復旧活動から事故影響の評価に移行されるべきです。

最も重要なことは、(水面にコンデンセートの特徴である)光沢があるかどうかにかかわ

らず、海水にどのくらいのコンデンセートが流れ込んでしまったか、そして汚染地域の評価を行うことです。

• 燃料油が流出する可能性もあります。 この種の船舶の燃料タンクがエンジンルームの近くにあることを考えれ

ば、1 月 6 日の最初の衝突以来、燃料タンクはそのままになっている可能性が高いと考えられます。燃料油が冷

えるにつれて、粘性が増すので、 漏れを遅らせたり、防ぐことさえできます。 このシナリオでは、海底で一定期

間にわたって長期的な少量の漏れが見られる可能性があります。 影響は比較的局所的です。

• 潜在的な環境への影響の程度を理解し、救助と復旧の観点から適切な次のステップを決定するには、当局によ

る監視と評価が不可欠です。

■ 海洋環境と食用魚種への潜在的なリスクについて

グリーンピース東アジアおよびグリーンピース・ジャパン

1 月 14 日の「Sanchi」の爆発と沈没は、ウマヅラハギやケンサキイカなどの多くの商業的な魚種にとって重要な産卵場所

で発生しました。 この時期、同地域では、タチウオ、キグチ、マサバおよびワタリガニなどの一般的な食用種が越冬地と

して利用しています。 この地域はまた、ザトウクジラ、セミクジラ、コククジラなど、多くの海洋哺乳類の移動経路です。

■ 背景

2018 年 1 月 6 日夜、軽質原油コンデンセート 13 万 6000 トンをイランから韓国に輸送していた石油タンカー「Sanchi」が中

国の東海岸の沖合 160 カイリ(約 300 キロ)の海域で、貨物船「 CF Crystal 」と衝突しました。翌 1 月 7 日、中国の交通

運輸省は声明(注 3)を出し、衝突の位置、事故に関わる船、輸送中の石油の量と性質、そして行方不明の乗組員の数と

国籍に関する情報を伝えました。

約 100 万バレルに相当するコンデンセートは、韓国の企業ハンファトタルが購入し、テサン港へ向けて運ばれていました。

現場を撮影した映像(注 4)と以下の衛星画像から火災の規模と激しさが分かります。

1 月 8 日、乗組員一人の遺体を海から回収。

1 月 13 日、中国の海岸警備隊は「Sanchi」に乗り込み、さらに 2 つの遺体を回収。

1 月 14 日、上海のイラン救助隊のスポークスパーソンは、まだ発見されていない 29 人のうち生存者が見つかる希望はな

いと述べる。

1 月 13 日、中国沿岸警備隊は「Sanchi」のブラックボックスを回収。

1 月 14 日、正午頃に「Sanchi」で爆発が発生、15:00 頃に沈没。

■ 関係した船

炎上したのは 8 万 5000 トンのパナマ船籍のタンカーで、Bright Shipping 社が所有し、イラン国営タンカー会社によって貸

し出されたものです。タンカー「Sanchi」は 2008 年に建造された全長 274 メートルの石油タンカーです(注 5)。

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画像:6 日から 15 日にかけての「Sanchi」の動き

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■ 軽質原油コンデンセート

タンカーが輸送していた 13 万 6 千トンのコンデンセート(約 100 万バレル相当)は、天然ガスの採取の際に凝縮分離した

液状炭化水素です。

コンデンセートは非常に揮発性が高いため、その大部分は炎の中で消費され、海に流失した油は大気中に蒸発していき

ます。したがって、原油漏れの際に見られるような粘り気のある濃密な黒い油とはなりません。

しかし、環境リスクがないというわけではありません。流出した一定量のコンデンセートは海中に溶け、自然に希釈されて

いくまでは毒性を保っていますが、おそらくその過程は非常に短いものでしょう。

コンデンセートが漂う海面はきらめいて見えますが、急速に蒸発、溶解、拡散するために、現在の天候状況でそれを見

極めるのは難しいでしょう。

現時点では、どのくらいのコンデンセートが燃焼または蒸発したかを見積もるのは不可能です。しかしながら、これまでに

行われたあるモデリングテストの推定では、衝突後 5 時間以降も海面に残る量は 1%未満であろうと見られています(注

6)。

1 月 6 日以降に流出した凝縮油の量と、1 月 14 日にタンカーが沈没した後、今後どれくらいの量が海に漏れ続けるかを

確認するために、さらなるモデリングとテストが必要となるでしょう。

■ 環境リスク

現在のところ、海に流出したコンデンセートの正確な量は分

かっておらず、環境リスクの完全な評価はまだできていませ

ん。

風況の分析によると、こぼれたコンデンセートは強い北西風

によって南東に押し出される可能性があります。 1 月 6 日現

在の分析では北東方向への優勢な流れが見られましたが、

1 月 9 日までに、これらは南東に移動し始めました。

中国の国家海洋環境予測センターは 2018 年 1 月 8 日、午後

4 時から 48 時間にわたり、油流出の予測地図を作成してい

ます(注 7)。最初は約 15km 南西に油が広がる可能性があり

ました。 1 月 9 日の午前 10 時以降から、動きのパターンはタ

ンカーの半径 10km 以内へと変化しました。

コンデンセートは軽質、無色、ある程度可溶性であるため、

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濃厚な原油よりも水から分離させることが一層難しくなります。 重大な懸念は、すべてのコンデンセートが燃え尽きる前

に船が沈むと、コンデンセートが海中に漏れ続け、非常に迅速に拡散して分解し、除去作業が著しく複雑になることで

す。

コンデンセートには硫化水素やメルカプタンなどの有毒成分が含まれており、その揮発により大気汚染が引き起こされま

す。 さらに、これらの化学物質の燃焼および分解プロセスにおいて、一酸化窒素、二酸化窒素、窒素酸化物、硫黄酸化

物などの汚染物質が発生し、ヒトが吸入したり皮膚に触れた場合に有毒となる可能性があります(注 8)。

この地域の重要な食用種には、キグチ、サバ、タチウオなどがあります。 大量のコンデンセートの流出により、これらの

魚類を汚染する危険性があります。

■ グリーンピースの提案

• タンカーが沈没してしまったいま、環境への影響を最小限に抑えるために、救助活動および復旧作業から、コン

デンセート流出による潜在的な影響を評価する作業に移行することが重要です。

• どのくらいのコンデンセートが流失したかの分析をできるだけ早く実施し、適切な封じ込めと除去対策を講じる必

要があります。

• 中期的には、開放海域での今回の衝突の原因を究明する綿密な調査を行う必要があります。 乗組員の人命や

環境へのリスクは非常に大きく、この事故から教訓を得なければなりません。

注 1)中国国家海洋局資料 http://www.soa.gov.cn/xw/hyyw_90/201801/t20180114_59953.html

注 2)CCTV の報道 http://m.news.cctv.com/2018/01/15/ARTI4fNtKfOLKP3H4j10ZBaW180115.shtml

火災時の現場の映像 https://www.youtube.com/watch?v=aXhRy2Dujrk

注 3)中国交通運輸省声明

http://www.mot.gov.cn/jiaotongyaowen/201801/t20180107_2969411.html

注 4)火災映像 https://www.youtube.com/watch?v=aXhRy2Dujrk

注 5)石油タンカー「Sanchi」http://vesselregister.dnvgl.com/VesselRegister/vesseldetails.html?vesselid=27100

注 6) 中国交通運輸省声明 http://www.mot.gov.cn/jiaotongyaowen/201801/t20180109_2970903.html

注 8) 油流出の予測地図 http://www.eworldship.com/html/2018/OperatingShip_0110/135481.html

<本件に関するお問い合わせ>

国際環境 NGO グリーンピース・ジャパン 広報担当(土屋、城野) Tel: 03-5338-9800 Email: [email protected]

コンデンセートと環境影響の可能性に関するお問い合わせ

グリーンピース・インターナショナル サイエンスユニット ポール・ジョンストン博士(英国エクセター大学) Email:

[email protected]