想い出をつなぐiphoneアルバムスキャナ 「omoidori」開発 · pfu tech. rev., 27,...

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PFU Tech. Rev., 27, 1,pp.1-9 (10,2016) 1 想い出をつなぐ iPhone アルバムスキャナ 「Omoidori」開発 Omoidori - an iPhone Album Scanner Developed for Cherishing Your Memories - PFU は,オフィスに代表される既存のスキャナ市場でシェアを拡大してきたが,スキャナの新しい市場と新し い価値の創造を目指して,iPhone アルバムスキャナ「Omoidori(おもいどり)」を開発した. Omoidoriは,単なる道具ではなく写真のもたらす幸せや喜びを感じてもらえる製品にすべく開発に取り組んだ. 本論文では,Omoidori のコンセプト,採用した技術を紹介するとともに,お客様のニーズに応える製品を開 発するために実践したブランディングデザインについて述べる. In addition to expanding our share of the existing scanner market such as offices, PFU has developed the "Omoidori" which is an iPhone Album Scanner with an aim to create a new scanner market as well as new merits for scanner users. PFU's vision during the development of the Omoidori was to make this product not just a tool but an item which brings users happiness and joy. This article introduces the concept of the Omoidori and the technology that was employed as well as explains the branding design that was implemented to develop this product so that it meets customer needs. 1 まえがき 「書類を電子化する」という要求を実現するため, PFU はドキュメントスキャナを進化させてきた.そこ で培った技術を発展させて「写真を簡単に読み取る」こ とを実現させた製品が Omoidori(おもいどり)であ 参1) Omoidori は,製品全体のイメージに統一感を持た せ他の製品との差異化を図るためにトータルブランディ ングを行い,ブランドコンセプトに沿って開発や取り組 みを行った. 2 トータルブランディングへの取り組み Omoidori には 2014 年に一度製品化の手前まで検 討した試作機が存在する.しかし,当時の試作機は,製 品名やロゴデザイン,本体デザイン,アプリデザインな どが,「ブランド」としての統一感が感じられるものに 仕上がっていなかった.そのまま新ブランドを立ち上げ 発売しても,製品のコンセプトをお客様に伝えていくの は難しいということに気づいた.そこで,製品全体のイ メージに統一感を持たせ他の製品との差異化を図るため に,外部のブランディングデザイナー(株式会社エイト ブランディングデザイン)の専門的視点からの協力をい ただき,商品性を一から見直した. 統一感あるデザインに仕上げるため,商品企画,開発, 販売まで一気通貫した少数精鋭の推進チームを立ち上 北川康彦 * Yasuhiko Kitagawa 三浦 唯 ** Yui Miura 佐藤菜摘 *** Natsumi Sato 林 諒 * Ryo Hayashi 高橋章文 **** Akifumi Takahashi 高木真吾 **** Shingo Takagi * ドキュメントイメージビジネスユニット イメージプロダクト事業部 第二技術部 ** ドキュメントイメージビジネスユニット 海外営業統括部 商品企画部 *** ドキュメントイメージビジネスユニット 国内営業統括部 パーソナルビジネス営業 **** ドキュメントイメージビジネスユニット ドキュメントソリューション事業部 第一開発部

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Page 1: 想い出をつなぐiPhoneアルバムスキャナ 「Omoidori」開発 · PFU Tech. Rev., 27, 1,pp.1-9 (10,2016) 1 想い出をつなぐiPhoneアルバムスキャナ 「Omoidori」開発

PFU Tech. Rev., 27, 1,pp.1-9 (10,2016) 1

想い出をつなぐ iPhone アルバムスキャナ「Omoidori」開発

Omoidori - an iPhone Album Scanner Developed for Cherishing Your Memories -

PFU は,オフィスに代表される既存のスキャナ市場でシェアを拡大してきたが,スキャナの新しい市場と新し

い価値の創造を目指して,iPhone アルバムスキャナ「Omoidori(おもいどり)」を開発した.

Omoidoriは,単なる道具ではなく写真のもたらす幸せや喜びを感じてもらえる製品にすべく開発に取り組んだ.

本論文では,Omoidori のコンセプト,採用した技術を紹介するとともに,お客様のニーズに応える製品を開

発するために実践したブランディングデザインについて述べる.

In addition to expanding our share of the existing scanner market such as offices, PFU has

developed the "Omoidori" which is an iPhone Album Scanner with an aim to create a new

scanner market as well as new merits for scanner users.

PFU's vision during the development of the Omoidori was to make this product not just a

tool but an item which brings users happiness and joy.

This article introduces the concept of the Omoidori and the technology that was employed

as well as explains the branding design that was implemented to develop this product so that it

meets customer needs.

1 まえがき「書類を電子化する」という要求を実現するため,

PFU はドキュメントスキャナを進化させてきた.そこ

で培った技術を発展させて「写真を簡単に読み取る」こ

とを実現させた製品が Omoidori(おもいどり)であ

る参1).

Omoidori は,製品全体のイメージに統一感を持た

せ他の製品との差異化を図るためにトータルブランディ

ングを行い,ブランドコンセプトに沿って開発や取り組

みを行った.

2 トータルブランディングへの取り組みOmoidori には 2014 年に一度製品化の手前まで検

討した試作機が存在する.しかし,当時の試作機は,製

品名やロゴデザイン,本体デザイン,アプリデザインな

どが,「ブランド」としての統一感が感じられるものに

仕上がっていなかった.そのまま新ブランドを立ち上げ

発売しても,製品のコンセプトをお客様に伝えていくの

は難しいということに気づいた.そこで,製品全体のイ

メージに統一感を持たせ他の製品との差異化を図るため

に,外部のブランディングデザイナー(株式会社エイト

ブランディングデザイン)の専門的視点からの協力をい

ただき,商品性を一から見直した.

統一感あるデザインに仕上げるため,商品企画,開発,

販売まで一気通貫した少数精鋭の推進チームを立ち上

北川康彦 *Yasuhiko Kitagawa

三浦 唯 **Yui Miura

佐藤菜摘 ***Natsumi Sato

林 諒 *Ryo Hayashi

高橋章文 ****Akifumi Takahashi

高木真吾 ****Shingo Takagi

* ドキュメントイメージビジネスユニット イメージプロダクト事業部 第二技術部** ドキュメントイメージビジネスユニット 海外営業統括部 商品企画部*** ドキュメントイメージビジネスユニット 国内営業統括部 パーソナルビジネス営業**** ドキュメントイメージビジネスユニット ドキュメントソリューション事業部 第一開発部

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想い出をつなぐ iPhone アルバムスキャナ「Omoidori」開発

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げ,すべてをディレクションする体制で開発をスタート

した.そして,外部デザイナーと推進チームにて製品特

長の整理やターゲット選定,ブランドコンセプトなどブ

ランドのコアになる要素を決め製品開発を行った.以下

にトータルブランディングで実践したことを説明する.

2.1 製品特長の整理「何でもできる」製品は,ある意味では特長がなく,「ブ

ランディング=差異化」の観点から Omoidori が世の

中の既存製品と差異化できるポイントを整理した.

これまでアルバムに貼られた写真をデジタル化する作

業は,とても大変であった.アルバムのフィルムに照明

が反射してテカリが発生したり,台紙から無理に剥がし

て写真を傷つけたりと,困り事が多くデジタル化が困難

だった(図-1参照).

Omoidori のアイデアは,暗室状態が作れる箱形の

形状で,アルバムのフィルムを剥がさなくても写真をテ

カリなくスキャンでき,また,スキャンは大切な写真を

傷めないよう非接触でできる製品というものだった.

これは既存の方法と差異化する大きなポイントであ

る.よって,製品の特長は「アルバムに貼られた大切な

写真を傷つけず,照明の反射によるテカリもなく手軽に

スキャンができること」と定めた.

2.2 ユーザーの利用シーン検討とターゲット選定ターゲットを選定するにあたり,写真をデジタル化し

たい人は誰で,目的は何だろうか ? と考えた.そこで

市場調査を実施した.まず,フィルムカメラ,デジタル

カメラの普及率から紙焼き写真を多く所有している年代

を予測した.次に,アルバムや写真を送るとスキャンを

代行してくれるサービスを利用するユーザーの年齢層や

性別,目的を調べた.また,アルバムは誰もが所有して

いることから,被験者(20 代から 50 代の男女 30 名

程度)を募り写真のデジタル化への関心などヒアリング

を実施した.これらの調査を通して,Omoidori の利

用シーンを具体化させた.さらに妥当性の検証を行い,

Omoidori のターゲットを明確化させた.

2.3 ブランドコンセプトの決定ブランドコンセプトはとても重要である.ブランドコ

ンセプトは,製品名,ロゴデザイン,プロダクトデザイ

ン,アプリデザインなど様々な要素を,ぶれずに統一感

ある製品にするための 1 本の軸になるからである.

2.3.1 ブランドコンセプトと製品名に込めた思いブランドコンセプトと製品名は案出しからスタートさ

せた.推進メンバーとデザイナー各々が製品に対する思

い,イメージする世界観から連想される案を持ち寄り検

討を進めた.

その中で,「想い出」,「大切なもの」,「アルバムは 1

冊しかない,取り替えのきかないもの」などの各々の写

真に対するイメージを共有していき,この製品で伝えた

いポイントが以下の 2 点であることを明確にした.

1) 簡便性「簡単,キレイに写真をデジタル化できる」

2) 情緒「デジタル化することで得られる幸せな体験」

そして,それらを表現したコンセプトと製品名を選定

した.

(1) コンセプト「世界に 1 冊の想い出を,手のひらに」

アルバムは世界に 1 冊しかない大切なものであるこ

とに気づいてもらい,想い出を手のひら(iPhone)に

おさめることで,いつでも見返したり,大切な人と共有

したり,というこの製品の存在意義を情緒をもって伝え

るコンセプトとした.

(2) 製品名「Omoidori」

「想いを撮る」に由来する.大切な人との想いがつまっ

た写真を残す楽しみや,振り返る喜びを,この製品を通

して感じてほしい.そんな想いを込めた製品名とした.

2.3.2 ロゴデザインの示す意味図-2に示すロゴデザインは,コンセプトや製品名に

込めた思いを表すデザインであり,その上で視認性が良

いデザインであるという観点から決定した.図-3に示

すロゴマークの「O(オー)」の形状は,大切な写真や

想い出を守る象徴として,母鳥が大切な卵を包み込み

守っている姿を表現した.◆図 -1 これまでのデジタル化の困り事の例◆

(Fig.1-Examplesofthedifficultiesofdigitalizing

thatcustomersencountered)

照明が反射して写真がテカってしまう 台紙から剥がそうとして写真を傷つけてしまう

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2.4 デザインと使いやすい製品への取り組みプロダクトデザイン,アプリデザインを考えるにあた

り,Omoidori の世界観を表現し,その上で使う時の

利便性が良いデザインであるという 2 点から検討した.

2.4.1 プロダクトデザインOmoidori の世界観(情緒)を表現し,さらに

iPhone との親和性を考えたデザインとした(図-4参

照).さらに,ユーザーの利便性を良くするポイントと

して以下を重視した.

1) スキャンする時のハンドリングを良くするため

に片手で持てる装置サイズ,重量とした.

2) 収納,持ち運びに便利な折り畳み機構を搭載した

(図-5参照).

3) 開閉時に手で持つ部分が直感的に認識できるよ

うなデザインとした(図 - 5参照).

4) シンプルなデザインを崩さずに,一つのパーツ

(iPhone 取り出しレバー)で簡単に iPhone の固

定と取り外しができるようにした(図-6参照).

2.4.2 アプリデザイン図-7のとおり,アプリ画面のデザインでは,ブラン

ドカラーであるエメラルドグリーンを使用し,スキャン

ボタンにロゴマークを使用するなど(図 - 7の③参照),

Omoidori の世界観を演出したデザインに仕上げた.

画面の動線は iPhone ユーザーが使うアプリである

ことを考慮して検討した.iPhone のカメラアプリやカ

メラロール,編集画面などを参考に,直感的な操作がで

きるシンプルな動線とした.

◆図 -2 ロゴデザイン◆

(Fig.2-Logodesign)

◆図 -3 ロゴマーク◆

(Fig.3-Logomark)

◆図 -4 プロダクトデザイン◆

(Fig.4-Productdesign)

◆図 -5 折り畳み機構と開閉操作◆

(Fig.5-Foldingmechanismandtheopening/closing

operations)

◆図 -6 Omoidori の各部名称◆

(Fig.6-PartnamesoftheOmoidori)

開閉用グリップ

iPhone取り出しレバー

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2.5 スキャン後の楽しみ方を伝えるOmoidori ではスキャンした後の楽しみ方をユー

ザーに知ってもらう,実際に楽しんでもらうための仕組

みづくりにも注力した.

(1) スキャンした想い出を,アプリから直接プレゼン

トできるサービスを導入

Omoidori のアプリからオンラインで簡単にフォト

ブックやプリント注文ができるサービスと連携している

(図 - 7の⑤参照).このサービスを使うことで,世界

に 1 枚しかない写真を集めて大切な人に贈ったり,お

気に入りの写真集を作ったりと Omoidori でデジタル

化したからこそ得られる幸せな体験ができる(図-8参

照).

(2) 活用方法をアプリから「ワンクリック」で知るこ

とができる入り口を準備

図-9に示すアプリのトップ画面左上の「i」のアイ

コンをタップすると,ワンクリックで Web サイトの活

用紹介ページに遷移するようにした.これにより,ユー

ザーは,スキャンした後の活用に困った時にわざわざイ

ンターネットで調べなくても,アプリから簡単に知るこ

とができる.

◆図 -7 アプリ画面◆

(Fig.7-Appscreens)

① iPhone画面 ② アプリ起動画面 ③ スキャン画面

④ 一覧画面 ⑤ プリント注文画面 ⑥ 編集画面

スキャンボタン

◆図 -8 フォトブックの利用イメージ◆

(Fig.8-Exampleofaphotobook)

◆図 -9 活用紹介ページへの動線◆

(Fig.9-Accessingapagetoviewusageexamples)

このアイコンをタップ

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想い出をつなぐ iPhone アルバムスキャナ「Omoidori」開発

3 製品特長Omoidori の主な機能である「テカリなしスキャン」,

「トリミング」,「日付認識」,「正立補正」について説明

する.なお,Omoidori 本体とアプリの仕様について

は表-1を参照のこと.

3.1 テカリなしスキャンOmoidori の一番の苦労点は,これまでアルバムに

貼られた写真をデジタル化する際のボトルネックになっ

ていたアルバムのフィルムに照明が写り込んでテカるの

を防止することだった(図-10参照).

2 年以上の実験及び試行錯誤の結果,Omoidori 本

体で写真を覆い,周囲の光の影響を遮断し,内蔵され

た左右の LED フラッシュを時間差で 2 方向から点灯

させそれぞれスキャンし,LED フラッシュの反射して

いない部分を合成することでテカリのないキレイな画

像を生成する「テカリなしスキャン」にたどり着いた

(図-11参照).

この技術で,アルバムに貼られている写真を,フィル

ムをめくり台紙から剥がすことなくスキャンできるよう

になり,誰もが簡単・キレイにスキャンできることを実

現した.

3.2 トリミング「テカリなしスキャン」を搭載した Omoidori の開発

を進める中で,従来の技術を利用しただけでは対応でき

ない問題が発生した.それはアルバムからスキャンした

◆表 -1 製品仕様◆

品名(型名) Omoidori(PD-AS02)

本体 対応機種※1 iPhone7,6s,6,SE,5s,5

本体サイズ(W×D×H)

使用時 112mm×158mm×142mm

折り畳み時 112mm×32mm×152mm

本体重量 310g(電池搭載時)

専用光源 白色 LED× 4ユニット

スキャン範囲 L判写真(89mm×127mm)~2L判写真(127mm×178mm)※2

電源 単4電池×2本(推奨:アルカリ電池)※3

アプリケーション 対応OS iOS8.0 以降

出力ファイル JPEG※4

自動補正機能 トリミング,正立補正(顔向き検出),2L判合成,赤目補正,日付認識

編集機能 回転,トリミング,赤目補正ON/OFF,日付認識(自動/手動)

その他の機能 写真プリント注文,フォトブック注文

※1 iPhoneSE,5s,5は,付属のアタッチメントで対応可能.※2 合成時.※3 約 1,000枚連続スキャン(当社試験条件による).※4 解像度:450dpi ~ 600dpi 程度(条件により異なる).

◆図 -10 アルバムのフィルムによるテカリの例◆

(Fig.10-Exampleoflightreflectingofffilmsheets

inanalbum)

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写真だけを切り取る「トリミング」である.

PFU の既存のドキュメントスキャナのトリミング

では原稿外の背景色は白色又は黒色で一定であるが,

Omoidori でスキャンするアルバムには様々な台紙の

色が存在するため,写真と台紙の色が近い場合には境界

の検出が困難であった(図-12参照).

その問題に対し,写真と台紙の色を判断して最適な

エッジ強調処理を自動的に選択する技術を開発すること

で対応した(図-13参照).

この技術により,様々な色の台紙のアルバムでもトリ

ミングできるようになり,更に簡単・キレイなスキャン

を可能とした.

3.3 日付認識Omoidori では,お客様の写真整理に関する手間を

軽減するために,写真に印字された日付を自動で認識す

る「日付認識」に取り組んだ.

しかし,ここでも従来の OCR 技術では対応できない

相反する二つの問題が発生した.

左側LEDフラッシュ 右側LEDフラッシュ

右側LEDフラッシュでのスキャン

反射していない部分を合成

左側LEDフラッシュでのスキャン

◆図 -11 テカリなしスキャンの仕組み◆

(Fig.11-Scanningmechanismtoeliminatethe

reflectionoflights)

◆図 -12 写真と台紙の境界が検出困難な例◆

(Fig.12-Exampleofthedifficultyofdetecting

boundariesbetweenthephotoandthe

cardboard)

◆図 -13 最適なエッジ強調処理による境界検出◆

(Fig.13-Detectingboundariesbyoptimally

emphasizingtheedgelines)

写真と台紙の色が近い

最適なエッジ強調処理を自動選択することで境界検出

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1) 日付認識精度の課題

写真の背景によって日付認識精度が大きく低下

する.

2) 処理速度の課題

認識精度を上げるためにアルゴリズムを複雑化さ

せていくとモバイル端末では日付認識処理に時間がか

かる.

3.3.1 日付認識精度向上と処理速度向上の両立への取り組み

日付認識精度の向上に対しては,日付を抽出し認識す

る処理の認識アルゴリズムを複数種実行(多重化)する

ことで結果の確からしさを検証し,最も多く認識できた

数字を日付として採用することで認識精度を向上させて

いる.

これらのアルゴリズムの複数種実行(多重化)と処理

速度の向上を両立させるために画像サイズの低減に取り

組んだ.画像サイズを小さくすれば,処理する画素数が

少なくなるため,処理速度は向上する.認識する画像か

ら日付の位置を特定し,数字の上下に存在する不要な部

分を削除するように工夫した(図-14参照).これに

より画像サイズを 1/3 程度に削減し,日付認識の処理

時間を大幅に短縮することに成功した.

また,この処理により日付認識時のノイズ成分が低減

し認識精度を更に向上させることができた.

日付認識によりお客様の写真整理に関する手間を軽減

することができた.

3.4 正立補正Omoidori では,写真の正立(正しい向き)を自動

で認識することが可能である.

写真内の顔を認識し,その顔の向きに合わせて写真の

正立補正を行うというもので,以下の流れで行う.

① 顔の特定

画像の向きを回転させて,すべての向きに対して

顔認識処理を行う.

② 認識処理

認識できる顔が多い画像の向きを正しい向きと

判断する.

しかし,写真によって顔の数や向き,大きさがバラバ

ラであり,顔の検出に時間がかかる問題があった.

3.4.1 正立補正の処理速度向上への取り組み何人も写っている写真では一人だけの顔認識よりも

時間がかかる.そこで,処理速度を向上させるために処

理を減らす取り組みを行った.顔認識で複数人の顔が検

出された場合,正しい向きの確からしさが高いと判断

し,以降の処理を行わないことで処理速度向上を図った

(図-15参照).

Omoidori ではこれらの技術により,お客様の写真

整理の手間を軽減させ,誰もが簡単・キレイにスキャン

できることを実現した.

◆図 -14 不要な部分の削除による画像サイズの低減◆

(Fig.14-Reducingimagesizebyremoving

unnecessaryparts)

◆図 -15 正立補正における処理速度の向上◆

(Fig.15-Improvingthetimeittakestocorrectan

orientation)

0°

90°

180°270°

以降の処理を省略することで処理速度を向上

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4 製品設計のこだわりOmoidori の開発では,2 章で述べたトータルブラ

ンディングに対してその世界観を崩さないために,製品

の質感及び品位に徹底的にこだわって設計を行った.そ

の中でも特に力を入れたのは,お客様が Omoidori を

手に取って最初に触れる折り畳み開閉部の部分である.

具体的なポイントは以下のとおりである.

1) 手で触れた時の横カベの感触に高級感を抱く

こと

2) 開けた時にカチッと横カベが開いてまっすぐに

なること

3) 閉じた時に横カベが綺麗に折り畳まれること

4.1 折り畳み開閉部の横カベの感触折り畳み開閉部でもっとも手に触れる機会の多い横カ

ベにはシリコンゴムに特殊な表面加工を施すことで,触

るとしっとりとした高級感のある感触を実現した.

4.2 折り畳み開閉部を開けた時の操作性設計初期の段階では,本体を開いた時に横カベがまっ

すぐにならないために,横カベの内側を指で押して横

カベをまっすぐにする 2 アクションが必要であった

(図-16参照).しかし,これでは求める質感及び品位

に達しないと考え,開けるだけの 1 アクションとする

見直しを行った.試行錯誤の末,横カベに磁石を使うこ

とで,開けた時にカチッと横カベが開いてまっすぐにな

る操作感を実現させた(図-17参照).

4.3 折り畳み開閉部を閉じた時の操作性さらに閉じた時に横カベが綺麗に折り畳まれること

に徹底的にこだわった.数十種類の試作を行い,横カベ

に折り畳み時の動きを制御する案内形状を付け,閉じる

時にその案内形状に沿って左右のカベが重なり合うよう

格納する形態にたどり着いた(図-18参照).これに

より閉じた時に横カベが綺麗に折り畳まれることを実現

した.

◆図 -16 開発当初の2アクションの開き方◆

(Fig.16-Two-stepopeningmechanism(firststage

ofdevelopment))

◆図 -17 こだわりの1アクションの開き方◆

(Fig.17-Improvedone-stepopeningmechanism)

◆図 -18 こだわりの折り畳み◆

(Fig.18-Thoroughlydevelopedfoldingmechanism)

①①

横カベ

横カベを磁石でまっすぐにする

カチッ!

案内形状

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想い出をつなぐ iPhone アルバムスキャナ「Omoidori」開発

5 むすび今回の Omoidori 開発では,従来の開発プロセスや

体制とは異なるアプローチで進めて,デザイン決定のプ

ロセス及び手法においてはブランディングデザインの考

え方を採用することで統一感ある製品に仕上げることが

できた.さらに,PFUのスキャナ技術との融和によって,

写真を簡単に電子化することに特化し,他社との差異化

を図った製品価値の高い Omoidori を生み出した.

今後も,お客様視点でのデザイン決定や他社との差別

化を図った技術開発に取り組んでいく.

参考文献参1) iPhone アルバムスキャナ Omoidori(おもいどり)製品紹介

ホームページ

http://omoidori.jp/