¨h 'v ¤8× æ fûfôfôfö -...

22
- 123 - ~平成 25 年度自立活動だよりを中心に~ 本校は,『肢体不自由特別支援学校として,個々の児童生徒の障害の実態に応じた教育を行 い,豊かな人間性及び,自立し社会参加するための「生きる力」を育む。』という目標を掲げていま す。その中でも大きな位置を占めているのは食に関する指導です。 本校の児童生徒には,障害によって咀嚼 そしゃく (噛み砕くこと)嚥下 えんげ (飲み込むこと)の能力が未発達 で,摂食嚥下に関わる障害を抱えている児童生徒も少なくありません。 また,口から食事を摂るのではなく,経管(チューブを使って栄養剤を直接,胃や腸に注入する) で栄養を摂っている児童生徒も多くいます。さらには,嘔吐,胃の内容物の逆流,下痢,便秘,食 物アレルギー,肥満,痩身,偏食,こだわり・・・といったような様々な実態があります。 この章では,主に本校の自立活動だよりで取り扱かった「摂食指導」の号を中心に摂食につい てまとめています。 食べること(摂食)の意義 「嚥下障害」について 摂食姿勢について 過敏の除去 形態食とは 本校の形態食(学校給食)について 水分管理について 栄養管理について 給食の時間の指導内容 10 摂食指導実践例 参考資料: 形態食選定フローチャート(試案 V1.4) 第7章 摂食指導について

Upload: vokiet

Post on 06-Feb-2018

220 views

Category:

Documents


2 download

TRANSCRIPT

Page 1: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 123 -

~平成 25年度自立活動だよりを中心に~

本校は,『肢体不自由特別支援学校として,個々の児童生徒の障害の実態に応じた教育を行

い,豊かな人間性及び,自立し社会参加するための「生きる力」を育む。』という目標を掲げていま

す。その中でも大きな位置を占めているのは食に関する指導です。

本校の児童生徒には,障害によって咀嚼そしゃく

(噛み砕くこと)や嚥下え ん げ

(飲み込むこと)の能力が未発達

で,摂食嚥下に関わる障害を抱えている児童生徒も少なくありません。

また,口から食事を摂るのではなく,経管(チューブを使って栄養剤を直接,胃や腸に注入する)

で栄養を摂っている児童生徒も多くいます。さらには,嘔吐,胃の内容物の逆流,下痢,便秘,食

物アレルギー,肥満,痩身,偏食,こだわり・・・といったような様々な実態があります。

この章では,主に本校の自立活動だよりで取り扱かった「摂食指導」の号を中心に摂食につい

てまとめています。

1 食べること(摂食)の意義

2 「嚥下障害」について

3 摂食姿勢について

4 過敏の除去

5 形態食とは

6 本校の形態食(学校給食)について

7 水分管理について

8 栄養管理について

9 給食の時間の指導内容

10 摂食指導実践例

参考資料: 形態食選定フローチャート(試案 V1.4)

第7章 摂食指導について

Page 2: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 124 -

1 食べること(摂食)の意義

(1) 生命の維持・成長に必要な栄養・水分の摂取をすること

摂食とは,人間が生命を維持し活動し成長をするために必要な栄養素を摂ることで,特に成

長期の子供にとって食事はとても大切な位置を占めています。重度・重複障害者の多くは,自力

での摂食に困難さを抱えており,適切な栄養・水分管理が常に必要となります。

(2) 生活のリズムをつくること

規則正しい食事は生活のリズムを形成するうえで,最も基本的なことのひと

つとなります。ここから睡眠や排泄のリズムが形成されていきます。

(3) 豊富な五感への刺激があり,脳が活性化すること

食べることで視覚・嗅覚・聴覚・触覚・味覚等の五感へ豊富な刺激が与えられ,認知発達や興味・関心の増大,

コミュニケーション能力の向上といった発達・教育的効果があります。

(4) 日々の生活を豊かにし,生きる意欲が高まること

満足感・充足感や,喜びを実感することができます。

→QOLが向上する

(5) 生理機能の維持,発達が促進されること

口腔機能,咽頭機能,消化器官等の生理機能の発達,維持が期待できます。

コラム 飲み込むこと(嚥下え ん げ

)のメカニズム 普段私たちは食事の最中に,今自分がどのように噛んでいるのか,飲み込んで(嚥下)いるのかを意識すること

はほとんど無いと思います。「さあ食べよう!」と思っても,「さあ噛もう,さあ飲み込もう!」とは思うことは少ないでし

ょう。食事は一日数回ですが,合間に水分補給も必要でしょう。さらに口の中にあふれ出てきた唾液は無意識のう

ちに飲み込んでいます。このように飲み込むこと(嚥下)は,ほとんど意識されることのない生理現象です。

では,私たちは一日どのくらい飲み込む(嚥下)という行為を繰り返しているのでしょうか?

その回数は,実に一日あたり平均して,なんと 1200~2400 回といわれています。個人差は大きく,1 時間の読

書の間に 400回も嚥下した例もあるそうです。

飲み込むこと(嚥下)自体は,意識して繰り返すことができる随意の運動ですが,こんなにも多くの回数を意識し

て繰り返すことは到底不可能なことです。実はそこには反射というメカニズムが大きく影響しています。反射とは,

特定のある刺激に対して無意識に起こる反応をいいます。よく知られた反射としては,膝の下をゴムハンマーで軽

く叩くと,足が跳ね上がる腱反射があります。食べ物が喉の奥あたりに触れることで起きる反応を嚥下反射と呼

び,これは飲み込むこと(嚥下)が無意識でも可能になるための反応です。

また,飲み込むときに喉仏(のどぼとけ)が上下に大きく動いていることに気付かれていますか?指を喉仏に軽く

乗せて唾液を飲み込んでみましょう,喉仏が軽々と指を乗り越えて上に動いていることに驚かれると思います。こ

の動きによって,飲み込むときには肺へ飲食物が入らないように気管の入り口にフタをしています。そして,これら

一連の動きは,喉の複数の筋肉の協調的で複雑な動きの賜物です。

つまり,嚥下反射によって,無意識のうちに喉の複数の筋肉が協調して動くという高度なメカニズムにより,私た

ちは飲み込む(嚥下)ことができているのです。

図 飲食物を飲み込んでいる様子

クオリティ・オブ・ライフ(Quality of Life,略語:QOL)は,一般に人の生活の質と表される。すなわちある人が,どれだけ人間らしい望み通りの生活を送ることができているかを計るための尺度として働く概念である。

食塊

食道

気道

喉こう

頭 蓋とうがい

Page 3: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 125 -

2 『嚥下障害』について・・・飲み込むことが難しいこと

嚥下とは,水分や食べ物を口の中に取り込んで,咽頭を経由してから食道⇒胃へと送り込むことです。一般的には

食べ物を見て認知し,口に運び咀嚼して唾液と混ぜ合わせることで適当な大きさの一塊の食塊を口の中で作り,それ

をゴクンと飲み込んでいます。これらの過程の中で,飲み込むこと(嚥下)全般にかかわる機能の障害のことを総称し

て嚥下障害といいます。

(1) 嚥下障害の要因は・・・様々の複合的な原因が考えられます

○ 口や喉の筋肉の協調運動の問題

食べるときには,口から食物を取り込み(捕食),口の中で食物を移動(口腔内移動),噛み砕く(咀嚼),食物の

塊を作る(食塊形成),嚥下(飲み込むこと)等の,口腔や咽頭の様々な運動が関わっています。摂食に関するそれ

ぞれの筋肉の動きが機能していかないと,複数の筋肉の協調運動によって成り立っている“食べる”・“飲み込む”と

いう一連の複雑な運動が困難になります。

○ 全身状態に関わること

・ 筋肉の状態・・・・高い筋緊張による嚥下の妨げ,腹圧ふくあつ

の亢進こ うしん

(度合いが高まること)による逆流,あるいは低緊張に

より食事姿勢の保持が難しく,咀嚼や嚥下に関わる筋肉の動きが弱い場合等,両面に困難さがあ

ります。

・ 呼吸の状態・・・・鼻呼吸が難しく口呼吸に依存する多くの場合,飲食物と空気が同時に口の中に入る状況になり

がちです。実際にはそれぞれを食道と気管に分けて飲み込まなければならないため,より困難さ

が増します。

・ 胃食道逆流・・・・姿勢や緊張,胃の形状や入り口(噴門ふんもん

)の“ゆるみ”などにより,胃酸を含んだ内容物が喉に逆流

します。胃酸の影響で大量の痰や喉の痛み,また嘔吐が誘発されます。

喉の奥,咽頭から下の部分では,

食べ物の通り道(食道)と空気の通り

道(気道)の二つに分かれています。

通常食物は,飲み込むときに,こ

のように喉頭蓋(こうとうがい)が倒れ

こんで気管の入り口をふさぎ,気管

に入ることなく胃袋に運ばれていき

ます。

嚥下障害の中で多くを占める障害が『誤嚥』です。誤嚥とは食塊が,食

道ではなく,誤って気管に入り,肺に流れ込んでしまうことを意味します。

上の嚥下障害の図では,喉頭蓋(こうとうがい)の倒れ込みが充分では

ないため,気管の入り口をふさぐ役割を果たしておらず,食塊が気管内

に流れ込んでいます。⇒ 誤嚥性肺炎の原因となります。このように嚥下

と呼吸のメカニズムには様々な筋肉の動きと協調が必要になってきます。

Page 4: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 126 -

○ 過敏と鈍麻・・・・感覚の問題

・ 過敏・・・・感覚が敏感なため,顔や口の周囲に触れられると,とても嫌がって急に泣き出したり,ひどいときには身

体全体に痙攣のような反応が生じたりすることがあります。

・ 鈍麻・・・・感覚が鈍いため,食物が口に入ってきた感覚に乏しく,食物量の把握,口腔内に留めておくことや,咀嚼

によって食べ物の塊(食塊)を作ること,喉の奥に移送させることが難しい場合があります。

○ 食事環境に関わること

・ 食物形態の不適合・・・・噛み砕くこと(咀嚼)と食べ物の塊を作ること(食塊形成),喉の奥に移動させること(口

腔内移動)や飲み込むこと(嚥下)などに障害がある場合は,通常の調理した食物で

は,食べることをさらに困難にさせます。

・ 摂食姿勢・・・・摂食の際は姿勢がとても重要となります。姿勢によって全身の緊張の状態が変化し,また頸部の角

度が変わることで,喉の筋肉の動きやすさが変わり,その結果,複数の筋肉の協調運動による嚥下

運動が大きく影響を受けます。また姿勢は,食べる前(先行期)の情報(種類や量)の認知のしやす

さにも影響し,食べる意欲に深くかかわっています。

・ 摂食用具・・・・金属製や硬い樹脂製のスプーンなどの刺激の強い用具は,過敏を亢進させます。また噛みこ

むことで割れや,怪我の危険もあります。

○ 生活リズムにかかわること

個人差はありますが,睡眠,食事間隔,便秘,服薬からの影響も大きくあります。食事の時間にしっかり覚醒してい

ることが重要になります。

(2) 安全においしく食べるためには・・・様々な視点からの摂食指導が必要です

※様々な摂食・嚥下障害の要因を一つでも改善し,摂食機能の向上を目指します。

食べる意欲の向上

知覚認知支援(食べ物がよくわかるように)

過敏の除去,鈍麻への配慮 心理・行動

食物形態の適正化

栄養・水分必要量の把握と管理

実態に応じた適切な用具(シリコンスプーン,カットコップ) 食形態・用具

誤嚥防止の安全な姿勢が基本

可能であれば抗重力姿勢を促す

頭部の保持と頸部の角度管理

姿勢

異常動作の抑制訓練(舌突出,丸飲み込み等)

正常発達の促進(口唇閉鎖,成人嚥下,咀嚼等)

直接嚥下訓練(ゼリー,プリン等の嚥下訓練)

直接訓練

歯肉マッサージ(ガムラビング)

バンゲート法(口筋訓練)

その他(アイスマッサージ等)

間接訓練

摂食指導

先行期とは・・・

摂食・嚥下機能の最初の段階で,食べる前に食

物を認識し口腔に取り込むまでの行動を指す。

Page 5: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 127 -

3 摂食姿勢について

(1) 身体を起こせば食べやすくなる!

食べやすい摂食姿勢を体幹の角度で示すと,自力摂食が可能な場合は 90 度程度の座位で,介

助者が介助する場合は 30 度程度の仰臥位が良いといわれています。多くの場合は,身体を起こし

た状態のほうが子供にとっても楽であると同時に,正しい機能が発揮しやすいのです。具体的には,

体幹を床面に対して 30~45度起こしてあげれば,能動的な食物処理や嚥下がしやすくなります。

ただし,実際には個の実態は大きく異なるため,柔軟に考えることも重要です。例えば,普段ほとんどの時間を横に

なった状態(仰臥位)で生活している場合は,最初は 10~15度くらいの角度から少しずつ慣らしていき,何ヶ月かかけ

て 45度くらいまで起こしていく必要があります。当然,身体各部の筋ストレッチや緊張の軽減,関節稼動域の拡大など

に日々取り組むことが不可欠です。

個々の状態にもよりますが,食事のときだけ身体を起こすのではなく,普段の生活の中で体幹を起こす時間を少し

ずつ長くしていくことや,食事の始まる 30分前には起こした状態に慣らしておく等,配慮が必要です。

(2) 食事中の首の角度に注意しましょう

身体全体を起こして食べてはいるけど・・・そればかりに気をとられて頭が後ろに反り返ってはいません

か?食事にかかわる筋肉の動きを考えた場合,配慮が必要になる部位は,口の周囲にある筋肉だけではなく,

首や肩の筋肉までひろがっています。頭を後方に反らせると,その周辺の筋肉が緊張してスムーズな咀嚼や

嚥下が困難になります。まずは自分が食事をするときの姿勢を思い浮かべてみましょう。

*リラックスして食事をするには・・・

○首・体幹・腰がねじれないようにまっすぐ向いて

○首の筋肉がリラックスするように頭を少し前かがみに

《正しい介助》 介助者の腕を子どもの後頭部に回し,頸

部を上方に軽く伸ばすように支えると,頭

が後方に反り返りにくい。

《誤った介助》 介助者の腕が子どもの首や頭の

下に回りこんでいると,頭が後方

に反り返りやすい。

Page 6: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 128 -

4 過敏の除去・・・触覚過敏は摂食に大きく影響します 口腔周辺の触覚過敏が強いと,食事の際に介助者の手や,用具,食物が触れるだけで驚いたりする等,何かが触

れる度に大きく反応してしまい,その影響でスムーズに食べることが難しくなります。

過敏を取り除くために

過敏へのアプローチは身体の外側から徐々に中心に向かって行うのが基本となります。

手の先端 → 腕 → 肩 → 首 → 顔 → 口の周辺 → 最後は口の中

弱い刺激を,刺激部位を動かさずに安定して長時間与え続けることが大切となります。介助者の手の平全体を肌に

しっかりと圧迫するように当て,子供が嫌がって逃げようとしても,手をずらしたり離したりしないようにしましょう。しばら

く当てていると子供が落ち着いてくるので,しっかり褒めて,ゆっくり手を離します。このような取組を繰り返し行ってい

きましょう。

《注意点》

子供の肌に触れるとき,触れる場所を短時間ですぐに変えたり,くすぐったくなるような軽い触れ方をしたりしないよう

にしましょう。このような触れ方は,皮膚表面に対する刺激が強く,逆に過敏を悪化させてしまう可能性があります。局

所的な刺激ではなく,やさしく全体を包み込むような圧迫刺激が有効です。

5 形態食とは※・・・摂食機能に応じてあらかじめ加工された食事

(1)食べやすい食事とは,どのようなものでしょうか?

従来から,食べやすい食事を目指して,ミキサーなどで砕きトロミ剤を加えるなど様々な加工がされてきました。では,

なぜこのようにペースト状にしたり,粘性を上げたりすることが必要なのでしょうか?

それは,食物が口腔内でどのように処理されて飲み込まれているのかを考えると,理解しやすくなります。

○咀嚼(噛み砕くこと)→咀嚼能力に応じて,カッター食,ペースト食のようにあらかじめ砕いておくと,咀嚼が少なく

てすみます。さらにひとまとまりの食塊を形成する前準備もできています。

○食塊形成→口の中で食塊を形成するには,舌の複雑な動きが必要になります。口腔内でばらけ難く,まとまった

食塊のままで,喉の奥に移送させるため,トロミ剤を加え適度な粘性にします。

食事の形態を改善していく際には,重要なポイントがあります。それは食べ物の,“かたさ”,“まとまりやすさ”,“くっ

つきやすさ”です。これらを形態食の三要素といいます。一般的に思い浮かべる“大きさ”が含まれていないことがポイ

ントで,これら三要素を機能に応じて適切に調節したものが,安全で食べやすい食べ物となります。

・ か た さ・・・・かたいと咀嚼しにくく喉越しも悪くなり,

飲み込みにくくなります。咀嚼能力に応じ

てこまめに調節することが必要です。

・ 凝集性ぎょうしゅうせい

・・・・口腔内でまとまりのある食塊の状態を維持

する性質です。小さく刻んだだけでは,す

ぐに口の中でバラバラになってしまい食塊

を形成できません。

・ 付 着 性ふちゃ くせい

・・・・口腔内にはりつかない程度が好ましい。こ

の付着性が高くなり過ぎるとベタつき,か

えって口の中に残りやすく,また,喉に引

っかかりやすくなります。

形態食の三要素

「食べる機能の障害-その考え方とリハビリテーションー」 金子芳洋・向井美恵・尾本和彦―著 医歯薬出版株式会社より参照

(まとまりやすさ)

(くっつきやすさ)

※他にも嚥下食・介護食・段階食・摂食回復支援食という呼び方があります。

Page 7: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 129 -

一般的には,以下のような特徴を備えたものが望ましいとされています。

• 食材や食物自体がある程度柔らかいもの → 咀嚼しやすい

• 適度な粘度があるもの(密度,性状が均一であるもの) → 口腔内でまとまりやすい

• べたついていない → 口腔内の粘膜にくっつきにくい

• 食塊の表面がなめらかになっている → 飲み込みやすい

<安全に食べやすいものの例>

例)テリーヌ,ムース,あんかけ,とろろかけ,まぐろのたたき,卵豆腐,茶碗蒸し,ゼラチンゼリー

(2)実態に合わせた形態食の調整・選定について

形態食を段階的に整理すると次のようになります。下段ほど普通食に近くなります。

段 階 嚥下食の特徴 ~嚥下食の食物条件

開始食

1)密度が均一であること

2)適当な粘度があってバラバラになりにくいこと

3)口腔や咽頭を通過するときに変形しやすいこと

4)ベタつかず粘膜にくっつきにくいもの

*ゼラチン 1.6%のゼリー

嚥下食Ⅰ

1)密度が均一であること

2)適当な粘度があってバラバラになりにくいこと

3)口腔咽頭通過するときに変形しやすいこと

4)ベタつかず粘膜にくっつきにくいもの

*スープ,ジュースなどをゼラチンで固めたもの,具なし茶碗蒸しなどの繊維の少ないもの

嚥下食Ⅱ

1)密度が均一であること

2)適当な粘度があってバラバラになりにくいこと

3)口腔や咽頭を通過するときに変形しやすいこと

*嚥下Ⅰに比べ,多少ベタつき,ざらつきがあり,粘膜への付着性が増しているもの

*野菜や魚の煮物をミキサーにかけ,ゼラチンで固めたものなど

嚥下食Ⅲ

1)密度が均一であること

2)適当な粘度があってバラバラになりにくいこと

*やや粘性が高く,食塊の形成が容易なピューレ状であるもの

移行食 細かすぎず,パサパサするものを除外し,柔らかく煮,水分を比較的多く含むもの

マヨネーズを加え

てなめらかにす

る(凝集性下げ

る)

離水に関与(高

野豆腐など)

重複障害者の多くは,日々の体調・全身状態・意識レベル・食欲・服薬によって,摂食能力が大きく変動することに留意し対応することが求められる。

物性調整・・・トロミを付ける,マヨネーズやおかゆ,パン等を加え,形態食の三要素を調節する。

温度調整・・・温めたり冷やしたりする。(冷めるとかたくなる・ゼリーは室温で溶け出す)

味の調整・・・好みの味にする。塩分糖分等に配慮し味を調節する。温度も風味に影響する。

一口量の調整・・・3g~4gが飲込みやすい,1gの少量や6g以上はかえって飲み込みにくい。

食事量の調整・・・1時間以内で摂食可能な量,長時間になると疲労し食べることが難しくなる。

安全においしく食べてもらうためには・・・個の実態に応じた丁寧な調整が必要

Page 8: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 130 -

6 本校の形態食(学校給食)について

(1) 形態食の種類について 主食(パン・ご飯)

種類 形態別 特徴

パン

普通パン そのまま

カッターパン フードプロセッサーで細かくする

ペーストパン パンがゆ(牛乳と白湯で煮る)を作りペースト状に加工する

ご飯

ごはん 米:水=1:1.5

硬がゆ 米:水=1:3.5

全がゆ 米:水=1:5

ペーストがゆ 米:水=1:3.5 硬がゆを作り,フードプロセッサーでペーストにする

全がゆ(1:5)

硬がゆ

(1:3.5)

ペーストがゆ(1:3.5)

フードプロセッ

サーにかけて

ペーストにする

米:水の割合は重量

〈ごはん食〉

〈パン食〉カッターパン

〈牛乳+白湯〉の中へ パンがゆ

ペーストパン

セサミパンの時 ペーストは食パン使用

ペーストパン

ペーストがゆ

(1:3.5)

フードプロセッサーで細かく

Page 9: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 131 -

(2) 形態食の種類について 副食等(副食・果物・牛乳)

種類 形態別 特徴

副食

普通食(一口大食) 教室にて一口大にカットする

きざみ食(カッター食) フードプロセッサーで小さくカットする

テリーヌ食 肉魚の揚げ物や焼き物は,生でペーストにし,蒸す

ペースト食 フードプロセッサーで水分を加えペーストにする

果物 ゼリー食 ペースト食は,ゼリーパーフェクトを使って寒天ゼリーに加工

牛乳 紙パックで提供 必要に応じてトロミ剤等でトロミを教室でつける

開始食 ゼリー食 高ビタミン・高ミネラルゼリー(12gで約 14kcal)

主にペースト食が全量食べられない児童生徒及び,ごく少量の摂取,経口摂取を

始めようとしている児童生徒に対して摂食指導の開始食として導入している

〈焼物〉 カッター,ペースト食

普通食とカッター食 普通食

生の状態でペーストに 蒸す

テリーヌ食

カッター食 フードプロセッサー

にかけて

ペースト食

〈揚物〉 テリーヌ食

魚は皮をとる

下処理用のフードプロセッサー

テリーヌ食材の準備

蒸してテリーヌ食 ペースト食

フードプロセッサー

にかけて

里芋とコーンスターチ 食材を合わせ生の状態でペースト状に

Page 10: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 132 -

〈野菜類〉

ペースト食

カッター食

白湯を加え味の調整をする

レーズン入りのサラダの場合

レーズンは 50分位煮る

〈汁物〉 煮物・炒め物等

ネギは入れない(ペースト困難)

青梗菜等は入れる

具と汁を分ける

フードプロセッサーにかけ,カッター食分を取る

汁を配食

ペースト食

〈果物〉 トマト(トマトゼリー)

湯むきにする (ゼリーパーフェクト

以外の人)

ゼリーパーフェクトは介護食用に改良された寒天です

ゼリーパーフェクト形はしっかり,でもすぐに崩れる,優れものです

トマトジュースと混ぜて型に流し入れ 冷まして固める

普通食

カッター食

汁を足して さらにかける

Page 11: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 133 -

(3) 本校の給食の特徴について

重度・重複障害を併せ有する児童生徒を指導する際は,食べる機能におけるさまざまな摂食・嚥下障害の

要因を少なくし,摂食機能の改善につなげていくことが求められる。

本校では摂食機能が不充分である児童生徒に対して,それぞれの児童生徒にあった形態の食事(形態食)を実施

しています。 参考資料章末 形態食選定フローチャート(試案 V1.4)

形態の基本は①普通食,②カッター食,③ペースト食とし,実態によっては,④カッター食+ペースト食,⑤カッ

ター食+テリーヌ食のように複数の形態を組み合わせて提供する場合もあります。また,給食を十分に摂る

ことが困難であっても,嚥下機能の維持・向上を目的として,初期開始食である⑥ゼリー食も実施しています。

学校での食事(給食)の教育的位置づけ 自立活動

①普通食 ②カッター食 ③ペースト食

⑥ゼリー食

児童生徒によっては,液体は

飲み込みにくいので,教室で

各自がとろみ剤等でとろみ

をつけて調節しています。

④カッター食+ペースト食 ⑤カッター食+テリーヌ食

テリーヌ食は肉魚の焼物揚

物を生の状態でペーストに

して蒸したものです。

水分補給用ゼリーを,摂食訓練用の開始食として使用しています。 体液に近い電解質バランスで,無果汁でほどよい甘みがあります。

Page 12: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 134 -

7 水分管理について

水分摂取は,健康な身体を維持するために大変重要です。季節や体調の変化に合わせて,適宜水分補給をする

ことで呼吸状態や体温の維持に配慮しています。また,水分の必要量も,年齢,体重,運動量,健康状態によって変

わってきます。年齢が低いほど水分の身体への出入りが激しいため,体重あたりの水分必要量は多くなります。

(1) 体内での水の働き ・細胞や血液の成分となる ・消化吸収された栄養素の運搬 ・体温の調節 ・老廃物の運搬

(2) 1日に必要な水分摂取量

体重1kg 当たり 50~90ml /一日 (学童:50~90ml/㎏ 成人:50ml/㎏)

(例) 10 歳(学童)体重:20 ㎏の場合 水分摂取量:1000ml~1800ml

(3) 重症心身障害児の 1日の水分量の目安 ( 摂取エネルギーから )

(4)水分摂取の留意事項

☆基本的には,水・お茶・薄めのイオン飲料水が望ましい。

☆水分摂取の工夫

・起床時,就寝時,入浴前後などに摂る。

・水分を料理の一品として利用し,補給する。(例:スープ,みそ汁,ゼリーなど)

☆水分を多く摂るケース

① 「よだれ」や「痰」などの気道分泌物が多い場合

② 発汗の多い夏の時期

③ 気管切開を施行している場合

④ 風邪等で高熱が出たとき

⑤ 下痢をしたとき

☆水分不足の観察点として

・皮膚の張り具合 ・口唇や口の中,眼の乾き具合 ・尿量

8 栄養管理について

栄養管理は,水分補給とともに重度重複障害を持つ児童生徒の健康の維持や改善のために重要な基盤となって

います。本校の給食では,さまざまな形態食を提供するとともに,体重の記録などを基に,栄養状態の改善にも取り組

んでいます。

(1)形態食別の摂取カロリーの違い

学部学年 重量 ごはん 硬がゆ 全がゆ ペースト ペーストパン

米:水=1:1.5 米:水=1:3.5 米:水=1:5 米:水=1:3.5 パン:牛乳:白湯=2:5:3

100gあたり 100g 160kcal 82.5kcal 62.5kcal 82.5kcal 125kcal

小 1・2・3 基準 140g 220kcal 115kcal 85kcal 115kcal 155kcal

小 4・5・6 基準 170g 270kcal 140kcal 105kcal 140kcal 190kcal

中高基準 200g 320kcal 165kcal 125kcal 165kcal 220kcal

エネルギー 1000kcal 1200kcal 1400kcal 1600kcal

料理から 800cc 900cc 1000cc 1100cc

飲料として 600~800cc

Page 13: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 135 -

普通食(kcal) カッター食(kcal) ペースト食(kcal)

中・高 小 中・高 小 中・高 小

牛乳 138 138 138 138 138 138

副食 282 212 268 197 240 169

小計 420 350 406 335 378 307

主食パン 320 222 320 222 250 180

計 740 572 726 557 628 487

主食米 320 200 200 160 160 140

計 740 550 606 495 538 447

平均 740 561 666 526 583 467

エネルギー 中高の 76% 普通食の約 90% 普通食の約 80%

(2)本校における栄養摂取基準(エネルギー量について) 本校における栄養摂取基準は,児童生徒の体格や運動量などを考慮して,中・高等部のエネルギー量を740kcal

と定めています。必要なエネルギー量は児童生徒の状態により差がありますが,本校の学校給食では,児童生徒の 1

日に必要な栄養素の約1/3,また,家庭で摂りにくいカルシウムやビタミン類は,約1/2が摂れるようになっています。

また,小学部では,中・高等部の76%程度のエネルギー量としています。一日に必要な栄養量の約1/3量,また,

家庭で摂取しにくいビタミンやカルシウム類は約1/2量を摂取できるようになっています。

区分

1 日必要量 (推定平均必要量)

本校基準 *0.9 *0.8

食事摂取基準 (12-14)歳 男

(普通食中高) (カッター食中高) (ペースト食中高)

エネルギー(kcal) 2200 740 666 592

たんぱく質(g)範囲 45 27 24.3 21.6

脂質(%) 48~73

20%以上 30%未満 22.5(27%)

20.25 本校基準 Eの 24.6%

18 本校基準 Eの 21.8%

ナトリウム(g) (食塩相当量)

(9.0 未満) 2.7 2.43 2.16

カルシウム(mg) 800 370 333 296

鉄(mg) 8 3.6 3.24 2.88

ビタミン A(μg RE) 550 270 243 216

ビタミンB1 (mg) 1.1 0.45 0.405 0.36

ビタミンB2 (mg) 1.3 0.54 0.486 0.432

ビタミンC (mg) 85 32 28.8 25.6

食物繊維 (g ) (19 以上) 5.9 ※ ※

Page 14: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 136 -

(3)重度・重複障害児(者)に不足しがちな栄養

食物の中に含まれるのはごく少量ですが,身体にとって重要な働きをしている物質を微量元素といいます。この微量元素やビタミン類がバランスよく摂取できるためには,人工的な食品や栄養剤よりも天然の食物の方が良いといわれ,天然の食物を摂取することが再認識されています。 経口摂取のみで生活できている子供では,食事内容の大きな偏りがない限り,微量元素やビタミンなどの欠乏が

生じる可能性は低いと思われます。しかし,食べる量が少ない等,欠乏症状が疑われる場合には,必要に応じて補充を行うことが必要です。 経管栄養の場合,たんぱく質,脂質,電解質,ビタミン,食物繊維,微量金属等が不足する恐れがあります。

(表1)欠乏しやすい微量元素と欠乏症状

微量元素 欠乏症状 含む食品

鉄 鉄欠乏性貧血,作業能力の低下 ひじき,豚レバー,煮干し,しじみ

亜鉛

経腸栄養剤や加工食品の摂取による欠乏症状

を招きやすい

褥瘡の悪化,成長障害,食欲不振,味覚障害,

易感染性,下痢,脱毛

牡蠣,かたくちいわし,ピュアココア,

きな粉,豆類,ごま,小麦胚芽,味噌

汁,脱脂粉乳,亜鉛を強化した経管栄

養剤

銅 成長障害,貧血,易感染性,骨変化 ピュアココア,きな粉,牛・豚レバー,

牡蠣,オレンジジュース,ごま,豆類

(4)栄養状態を見るポイント ・身長・体重の変化(成長曲線) ・髪の毛(色が薄い,細い,抜けやすい等) ・爪(二枚爪,さじ状爪,割れやすい,薄い,等) ・肌のつや(かさかさしやすい,等) ・便の状態(下痢をしていないか,消化不良がないか) ・元気があるかどうか

※別表 栄養の障害別特徴と類型(体脂肪量の検討からの推論)

麻痺のタイプ アテトーゼ主体型 痙直主体型

筋肉量 非アテトーゼ型に比較して多い 委縮して少ない傾向

エネルギーの 消費量

不随意運動や筋肉内の消費のために多い 運動量が少なく筋肉内の消費も少ないため少ない

エネルギー の予備

脂肪として蓄積されるエネルギーが少なく,栄養不良の場合ストレス時に急変する可能性がある

通常は脂肪として蓄積できると考えられる

動脈硬化などの 成人病

脂肪が蓄積する血管性の成人病は発生しにくいであろう

体脂肪率の高い症例では,加齢とともに動脈硬化による成人病の発生もありうる

微量元素 投与エネルギー量が多くなる傾向のため,通常は不足しにくい

投与エネルギーが少なくて体重が維持できるため,不足しがちである

タンパク 投与エネルギー量が多くなる傾向のため,通常は不足しにくい,筋肉にも貯蔵される

低タンパクになりやすい,筋肉内にも予備が少なく,免疫として動員されるタンパクが不足しやすく,感染症を合併しやすい

栄養の課題 消費エネルギーが多いことを考慮して投与エネルギー量を多めに設定し,十分な脂肪やたんぱく質を補給する

総エネルギー投与量は少なめに設定し,脂肪の過剰蓄積を防ぐ一方で,タンパクや微量元素は十分に補給しておく

○エネルギー量が多く必要な場合

・るいそう(やせ)が顕著

・努力性の呼吸,咳き込みが多い

・呼吸状態が悪く頻回に吸引が必要

・刺激に対する反応性が高い

・筋緊張の変動が激しい

・筋肉量が多い

・活動量が多い(不随意運動あり)

・アテトーゼ型脳性まひ

○エネルギーが少なくても良い場合

・皮下脂肪が厚い。 ・気管切開,人工呼吸器をしている ・呼吸の状態が安定している。 ・刺激に対する反応性が低い ・筋緊張の変動が少ない ・筋肉量が少ない ・活動量が少ない(不随意運動なし) ・失調型,痙直型脳性まひ等

咳一回あたりの消費カロリ

ーは2kcalといわれていま

す。もし 100 回咳き込んだ

ら,牛乳 1 本分のカロリー

が消費されてしまいます。

Page 15: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 137 -

9 給食の時間の指導内容

口から食べることは生きていく楽しみの一つです。口から食べることは医学的な面からもQOLの面からも重要です。

また,食事は子供とのコミュニケーションの場でもあります。本校では,給食時間は自立活動の授業となっており,本校

での給食時間の指導内容について紹介します。

(1) 障害のある子供たちにとって,食べること,飲むことに関係した課題とは?

① 必要な量と種類の,栄養や水分が摂取できるようにする。

② 安全に摂取できるようにする。 (誤嚥や,食事中の窒息・呼吸困難を防ぐ)

③ 生きる楽しみの一つとしての食事という意味を,尊重し豊かにする。

④ コミュニケーションの場としての食事場面の意味を,大事にする。

⑤ 食べることへの意欲を大事にし,育てる。

⑥ 自分で食べることができる力を伸ばす。

⑦ 介助されて食べる子供の場合は,さまざまな人からの介助で,確実

に安全に摂取できるようにする。 「子どもの摂食嚥下障害 その理解と援助の実際」より

①と②が生きていくための基本となる。③④の課題も,生活や人生を豊かなものにしていくために

大切なものであり,⑤⑥⑦は,そのためにも必要な課題となる。

(2)食べる力の育成にかかわる指導内容 ア.食環境に関わること(心理的配慮,雰囲気,心づかい,食器・食具)

イ.食内容に関わること (食物形態,再調理器具,栄養・水分指導)

ウ.摂食機能に関わること

エ.生活リズム

オ.安全面への配慮

(3)具体的な指導内容例 ア.食環境に関わること(心理的配慮)について

・児童生徒自らが積極的に食事に参加するような食事の流れに沿った言葉掛けをする。

・食物に児童生徒が自ら対処する準備ができるよう,見せてから口に運ぶ手づかみ食べや遊び食べを十分

体感させる。

(4)自立活動の視点を踏まえた具体的な指導内容例

区分 項目

5 身体の動き (1)姿勢と運動・動作の基本技能に関すること

(2)姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関すること

(3)日常生活に必要な基本動作に関すること

(4)身体の移動能力に関すること

(5)作業に必要な動作と円滑な遂行に関すること

(1)姿勢と運動・動作の基本技能に関すること

学校給食を通して,咀嚼・嚥下等の食べる機能を高めるとともに,食事を摂る際の姿勢保持や外界にあるものに手を伸ば

す,物をつかむ,つかんだ物を口に運ぶ等の上肢(手指)の運動・動作の改善及び習得を図る等,日常生活の基本となる体

の動きを促進する。

(3)日常生活に必要な基本動作に関すること

学校給食を通して,安定した座位を確保しながら,上肢を十分に動かせるようにし,食事動作の改善,習得を図る。また,運

動・動作が極めて困難な児童生徒の場合は,食事介助をする際の姿勢を中心に個々の実態に応じて主体的に日常生活を

していくうえで必要とされる基本動作を身に付けるようにする。

Page 16: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 138 -

(5)重複障害のある児童生徒の食に関する指導の留意点

①健康状態の維持・改善に必要な生活リズムの形成

覚醒と睡眠,呼吸,排痰,排泄,清潔,衛生→内容を関連付けて

②食べる機能及び食事動作の向上

食べる機能の発達を把握→食形態を決定 補助具や自助具の活用→主体的な取り組みを促す。

③食行動・食習慣の改善

偏食や異食,肥満傾向等への対応

④コミュニケーションの基礎的能力の向上

温かい人間関係作り→安定した心理状態で食事指導をする。

表情や身振り,各種機器等を用いた意思の表出が行えるような指導をする。

⑤安全な食環境の整備

暖房,照明,湿度等に配慮して,気持ちよく集中できる食環境を整える。

自助食器,特殊食器等を必要に応じて活用し,食環境作りに努める。

大きさ,固さ,とろみ,食材の選定等に留意し,食べやすい献立と調理を工夫する。

姿勢を安定させるための補助用具を活用する。

誤飲や誤嚥を防ぎ,積極的な随意動作を引き出す工夫を行う。

文部科学省HPより抜粋 食に関する指導の手引-第 1 次改訂版-(平成 22 年 3 月)

他の学習活動との関連

「授業を通して摂食機能の向上につながること」(例)

○楽しく活動する・笑う→信頼関係の構築・肺活量の向上・呼吸の調整

○上肢・身体を動かす→姿勢保持の向上・食事動作の向上・空腹感による食欲増進

○手遊び・指遊び・作業的学習→頬筋や舌の動きの発達・口の動きや口唇閉鎖の向上

○視覚,聴覚など五感を使った活動→認知機能の向上

「給食を通して学習できること」(例)

○栄養摂取,繰り返し学習による口腔機能の発達→健康の保持

○安心感を得てリラックスする,食事の楽しさを感じる→心理的な安定

○食べるものを見る,匂いをかぐ,味わう,舌触りを感じる→環境の把握

○姿勢を保持する,目的に合わせて上肢や手指を使う→身体の動き

○会話を楽しむ,要求や拒否の意思表示をする→コミュニケーション

○給食への期待感

○授業へのエネルギー

特別支援学校における摂食指導(給食指導)に関する研究~実態調査と事例研究を通して『福島県養護教育センター研究紀要第22号』参考

授業

給食

(摂食指導)

Page 17: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 139 -

① 経鼻経管から経口摂取へと移行した男子児童のケース

(実態) 就学前は食べる経験をしていない,食べることへの興味が少ない。

○水分はゼリーで摂取していた。

○唇に過敏がある,口が開いている。

○味が変わるのを嫌がる。

(支援) ゼリーを口に入れると舌で出すため,スポイドで嚥下練習から始める。

○スプーンでペースト食を食べる,シリンジも並行で使用する。

○唇には直接触れず,タオルで下顎を軽く押さえる。

○「あーん」」と言葉をかけて,口を開けるタイミングを覚えさせる。

○うまく飲み込むことができたときには「おいしかったね」等の共感的な言葉をかける。

(成果) 水分はボトルで飲めるようになった。

○パンは牛乳で柔らかくしたもの,テリーヌ食を完食できるようになった。

○これから舌でつぶせる柔らかい煮物などはカッター食の練習をしていく。

○味の違いがはっきりして,好き嫌いがでてきた。

10 摂食指導実践例 本校で実際に行われている摂食指導例を紹介します。

③ カッター食から普通食への移行に向けた女子生徒のケース

(実態) 首がすわっていない・頭が左側に倒れがちである。

○咀嚼が不十分である。

○食事中に覚醒レベルが下がる。

○視覚・聴覚では情報を取り入れにくい。

○牛乳はコップで飲むことができる。

(支援) 脇の下にクッションを入れ,姿勢を保持する。

○グミ・みかんのつぶ等で咀嚼練習を行なう。

○味を混ぜない。

○匂わせたり,唇に当てたりして,嗅覚,触覚で食欲を刺激する。

○時間をかけすぎないようにする。

(成果) ○簡単な咀嚼が見られるようになった。

○牛乳以外の水分もコップで飲むことができるようになった。

② ペースト食からカッター食への移行に向けた男子児童のケース

(実態) ○吸啜反射で吸い付くように嚥下する。

○咀嚼ができない。

○口からこぼれる量が多い。

○大きな音や衝撃等に過敏反応がある。

○水分は哺乳瓶で摂取していた。

(支援) ○スルメイカで咀嚼練習を行う。

○訓練用ゼリーで,口腔内でまとめる練習を行う。

○「○○食べるよ」,「あーん」等と声掛けをしてから口に入れる。

○水分をカットコップで飲む練習を行う。

(成果) ○全がゆでは,米粒を意識して咀嚼できることがあった。

○口からこぼれる量が少し減った。

○哺乳瓶以外の物(カットコップ,スパウト)で飲めるようになった。

Page 18: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 140 -

④ 食べることにあまり興味が無い女子生徒のケース

(実態) 食事中に頭が下がりやすい・顔が右に向きやすい。

○周りに気が散りやすい。

○覚醒レベルが下がる。

○咀嚼・嚥下機能が不十分である。

○口が開きにくい。

(支援) 教員が正面に立って摂食指導を行い,顔が上がるように仕向ける。

○周りの人や物が見えないような位置で摂食指導をする。

○長い時間は疲れてくるため,時間をかけすぎない。

○食べやすい味・形状のものからテンポよく食べさせる。

○下顎にお皿を沿わして,食事を意識させる。

○食べることを賞賛し,意欲を育む。

(成果) ○目線が上がり,気道も確保できる。

○食事に集中し,完食できるようになった。

⑤ 一度の食事量が少ない男子生徒のケース

(実態) 口を開けない(開きにくい)。

○咀嚼・嚥下機能が不十分で,舌の動きが苦手。

○口の中に入れたものが出てくる。

○咳き込みが多い。

(支援) 軽く傾けた状態で頭の後ろを支える。

○下顎を軽く押さえて,口から出ないようにする。

○カッター食で咀嚼を誘導する。

○目を見て声掛けをする。

○舌の奥側に食べ物をのせる。

(成果) 本人の呼吸(リズム)に合わせることで,食事への意欲が増した。

○完食ではないが,食べる量が増えた。

○口からこぼれる量が減った。

⑥ ゼリーが口から出てしまう生徒のケース

(実態) 集中して食べることを継続しにくい。水分補給ではとろみ剤を利用している。

口の中でばらけてしまう状態のものはむせてしまう。

○舌の動きが前後運動である。

○咀嚼はできていない。 【例:とろみ剤でまとめたゼリー】

(支援) ゼリーを砕いて,とろみ剤でまとめる。

○ゼリーを温めて溶かす。

○とろみ剤を適量入れてまとめる。

(成果) 集中を途切れることなく,食べ続けることができた。

○ゼリーの弾力で口から出ていたものや砕いてばらけていたものを飲み込むことができた。

Page 19: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 141 -

⑦ ゼリーの味が苦手で口から出してしまう生徒のケース

(実態) 柑橘系の味が苦手である。水分補給ではとろみ剤を利用している。

口の中でばらけてしまう状態のものはむせてしまう。

○舌の動きが前後運動である。

○咀嚼はできていない。

(支援) ゼリーを砕く,溶かすなどして,とろみのついた牛乳と混ぜる。

○ゼリーを温めて溶かしたり,小さく砕いたりする。

○とろみのついた牛乳と混ぜる。

○嚥下のようすを見ながら少しずつ食べさせる。

(成果) ○苦手な柑橘系のゼリーを,食べることができた。

○牛乳と混ぜることで,味が苦手で口から出さずに,食べることができるようになった。

参考:摂食支援器具紹介

【参考文献・資料】

1)金子芳洋,尾本和彦:障害児者の摂食・嚥下・呼吸リハビリテーション その基礎と実践(2005) 医歯薬出版

2)日本嚥下障害臨床研究会:嚥下障害の臨床 リハビリテーションの考え方と実際(1998) 医歯薬出版

3)田角 勝,河原 仁志:子どもの摂食指導 - 食べる機能の発達をうながす子育て(2003) 診断と治療社

4)江頭 文江,栢下 淳:嚥下食ピラミッドによる嚥下食レシピ 125(2007).医歯薬出版

5)福山特別支援学校:平成 24年 初任者一般研修資料 学校給食と食育

6)北九州市教育委員会,北九州市立北九州特別支援学校:肢体不自由特別支援学校のための給食指導の手引きと本校

の取組~おいしく,楽しく,安全に食事するために~ 第 47回九州地区肢体不自由教育研究大会 福岡大会 配布資

料(2000)

ストローボトル カットコップ

スパウトカップ シリコンスプーン

市販のポリエチレン製のスパイスボトルに,塩ビ管チューブを差し込んでいます。

Page 20: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 142 -

参考資料:広島県立福山特別支援学校 形態食選定フローチャート(試案 V1.4)

意識レベル判定法

覚醒の程度を6段階で表し,数値が大きいほど意識障害が重いことを示す

覚醒の有無 値 刺激に対する反応

Ⅰ.刺激しないで

も覚醒している

状態

1

2

3

働きかけると笑う。ただし不十分で,声を出して笑わない

関っても笑わないが,視線は合う

介助者と視線が合わない

Ⅱ.刺激すると覚

醒する状態(刺激

をやめると眠る)

10

20

30

呼びかけ・食物を見せると食べようとする・欲しがる。

呼びかけ・ゆさぶると開眼して目を向ける

呼びかけ・揺さぶりを繰り返すと,辛うじて開眼する

①全般的な体調・健康面より

・体重が減少する ・食事量が減った ・食事時間が長くなった ・元気がなくなった,よく眠る ・低栄養,脱水気味である ・食事に興味を示さなくなる ・発熱,肺炎を繰り返す・・・等

いいえ

はい

嚥下障害以外の原因を

探り対処する

はい

②摂食の場面より

・ むせる,咳き込む

・ 湿声(ガラガラ声)になる

・ 痰が増える(摂食中,食後)

・ 喘鳴(ゼイゼイ,ヒューヒュー)がみられる

・ 一口あたりの嚥下量が減る

・緊張が強くなる・・・

嚥下障害以外

の原因が考え

られる

意識レベル

チェック

意識レベル 1~10

意識レベル

20以上

反復唾液

嚥下テスト

空嚥下3回

以上/60 秒

空嚥下 1~2 回

以上/60 秒

空嚥下できない

むせる 嚥下機能検査

水飲み

テスト(5ml)

水飲み

テスト(2ml)

覚醒レベルの改善

嚥下機能精査

基礎訓練

1 回の嚥下で

全量飲水可

複数回の嚥下

で全量飲水可

むせ,湿声あり,

全量飲水不可

1 回の嚥下で全量飲水可

複数回の嚥下で全量飲水可

咀嚼能力 咀嚼困難

咀嚼良好

L0 開始食

L1 嚥下食Ⅰ

L2 嚥下食Ⅱ

L3 嚥下食Ⅲ

L4 介護食

L4 咀嚼食

L5 普通食

全がゆ,ペースト食,寒天ゼリー食

全がゆ,カッターパン,ペースト食

硬がゆ,カッターパン,カッタ―食,テリーヌ

ご飯+硬がゆ,パン(普通),カッタ―食,テリーヌ

主食(ご飯,パン類)普通食,副食 カッター食(一口大)

主食,副食とも普通食

プリン・ゼリー類

嚥下訓練食

嚥下食

介護咀嚼食

普通食

※嚥下テストは,対象者が自然な状態(通常の摂食時の再現)で実施できるように配慮する

(環境を整える,良好・安楽な身体状態,体調,姿勢,意欲等に留意する・・・etc)

唾液嚥下訓練 短冊ゼリー訓練

学校給食(形態食)

嚥下障害の可能性がある

例:メニュー,介助者,環境等外的要因,消化不良,下痢,便秘,薬の影響・・・

ペースト食(全食)

【参考文献・資料】江頭文江・栢下淳 編著/金谷節子 ほか著(2007) 『嚥下食ピラミッドによる 嚥下食レシピ 125』 医歯薬出版

JCS(Japan Coma Scale)による意識レベル判定法

Page 21: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

- 143 -

コラム 実際の摂取カロリーを測ってみましょう

これまで紹介したように,本校では次のねらいに基づき形態食を導入しています。

無理なく安全に食事ができ,栄養や水分を十分に摂取し,健康を保つ。

食べる機能に応じた食形態により,一人一人が持っている能力を引き出し食べる機能の発達を促す。

このねらいの中で,多くの児童生徒にとって最初に目標としていることは, “栄養や水分を十分に摂取し,健康を

保つ”ことではないでしょうか。「7 水分補給」,「8 栄養管理」で示したように,水分量やエネルギー量は年齢等によ

り,一定の基準となるものが規定されており,本校の給食でも,それに基づいて適切に提供されています。

しかし,実際の摂食指導の場面では,次のような多くの困難さによって,食べる量が十分とはいえない状況が多くあ

り,その結果,摂取エネルギー量も不足しがちとなることが推察されます。

そこで,摂取エネルギー量を簡易に測定する方法を考案し,摂取エネルギー管理の必要な児童生徒の摂食指導に

生かしています。具体的には給食栄養成分一覧を基に表計算ソフトで記録表を作成し,メニューごとに食器に分けた状

態で配膳し,食器込で食前,食後の重量を測定して,表に記入することにより算出されます。次に例をあげています。

摂食カロリー基礎調査票 (    )学部・(    )学年   児童生徒名(           ) 第4.1版(H270309作成)

(           ) 食器種類 重量(g)

月日 プラ茶碗 66牛乳 48 32 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    138 206 74 110 100 210 162 ガラス茶碗 156主食 ごはん(ペースト) 60 28 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    75 160 84 179 66 245 185 ガラス皿 272副食1 牛肉丼の具 27 20 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    152 202 44 59 66 125 98 コップ  100副食2 ばち汁 84 46 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    75 136 76 138 66 204 120 牛乳パック 4副食3 バナナ 33 28 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    43 50 98 114 0 114 81 デザート 2副食4 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    ジャム類 1

副食5 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    その他 0

小計 252 155.3 合計 483 754 376 600 898 646

(           ) 食器の種類 重量(g)

月日 プラ茶碗 66牛乳 38 25 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    138 206 74 110 100 210 172 ガラス茶碗 156主食 コッペパン(ペースト) 21 26 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    175 140 220 176 66 242 221 ガラス皿 272副食1 いちご&マーガリン 15 27 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    27 15 27 15 1 16 1 コップ  100副食2 ベーコンエッグ 31 58 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    108 58 97 52 66 118 87 牛乳パック 4副食3 スパゲティー添え 29 35 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    64 53 68 56 66 122 93 デザート 2副食4 クリーム煮 60 43 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    136 191 127 179 66 245 185 ジャム類 1

副食5 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    その他

小計 194 214.2 合計 648 663 613 588 953 759

(           ) 食器の種類 重量(g)

月日 プラ茶碗 66牛乳 25 17 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    138 206 74 110 100 210 185 ガラス茶碗 156主食 ごはん(ペースト) 48 23 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    75 160 82 174 66 240 192 ガラス皿 272副食1 若鶏のさっぱり煮 38 56 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    173 118 141 96 66 162 124 コップ  100副食2 ポン酢あえ 7 2 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    16 68 12 53 66 119 112 牛乳パック 4副食3 吉野煮 52 45 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    137 158 119 137 66 203 151 デザート 2副食4 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    ジャム類 1

副食5 プラ茶碗・ガラス茶碗・ガラス皿,コップ・その他(    その他

小計 170 141.7 合計 539 710 427 570 934 764

食前重量(g)

食器(g)

3/18

食後重量(g)メニュー

食器(g)

食前重量(g)

食後重量(g)メニュー

基準重量(g)

摂食量(g)

摂取(kcal) 使用食器(○印を記入,右の食器(g)欄からドロップダウンリストで選択,その他も記入可能)

基準エネルギー(kcal)

食前重量(g)

基準エネルギー(kcal)

基準重量(g)

食前エネルギー(kcal)

食前重量(g)

使用食器(○印を記入,右の食器(g)欄からドロップダウンリストで選択,その他も記入可能)

食前エネルギー(kcal)

3/17

メニュー

3/16

摂食量(g)

摂取(kcal)

摂食量(g)

摂取(kcal) 使用食器(○印を記入,右の食器(g)欄からドロップダウンリストで選択,その他も記入可能)

基準エネルギー(kcal)

基準重量(g)

食前エネルギー(kcal)

食前重量(g)

食器(g)

食前重量(g)

食後重量(g)

実際には,口からこぼれたりしたものは含まれていないため,総摂取エネルギー量は更に少なくなります。また,ペ

ースト米飯とペーストパンでは,元々の基準量(kcal),配膳量(kcal)に 100(kcal)以上の差があることがわかります。

この児童の場合,1日の栄養摂取量を 1300(kcal)とすると,これら給食と同等の食事が 6回~8回必要なことになり

ます。一度に食べることのできる量の限界を考えると,1g/1kcalを下回るような食事では必要な栄養の摂取は難しくな

ります。食事内容を工夫して,少量でも栄養価の高いものを多く取り入れることや,オヤツの工夫,ジュースや栄養剤

などの活用も視野に入れて,個々の実態に応じた十分な栄養摂取を目指したいものです。

緊張や可動域制限等のため口が大きく開かず,食物を口腔に取り込むことが難しい。

食物を口腔内に保持することが難しく,口から流れ出てしまう。

顎あご

や舌の動きに制限があり,口腔内で咀嚼や移動,一塊の食塊にすることが難しい。

飲み込むことが難しく,誤嚥して激しく咳き込んだりすることが多い。

一口量が少なく,さらに上記の困難さが複合的に影響を及ぼすことで摂食の時間が長く

なり,給食の時間内で食べきることが難しい。また,児童生徒の疲労感も高い。

ペースト食の総カロリーは普通食に対して 80%に過ぎない。

総摂取エネルギー量(kcal) 基準量(kcal) 配膳量(kcal) 食器ごと測定 (g)して記入する

基準量比

79.2%

基準量比 26.3%

配膳量比 33.2%

Page 22: ¨H 'v ¤8× æ FûFôFÔFö - fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp · PDF file- 125 - h fÄ w7 fÅ fûfôfÔfö hahaha8çg 3¸g fãføfÜ7´fçfÔfãfø wføfÿh È (g 8×g "@g" fþ pfû

自立活動ガイドブック

平成 24 年 3 月 初版 発行

平成 28 年 3 月 5版~実践編~ ~教材・教具編~ 発行

〒720-0841 広島県福山市津之郷町津之郷 280-3

Tel 084-951-1513 Fax 084-951-3864

mail [email protected]

広島県立福山特別支援学校

教育研究部 編