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20 第2章 アプリケーション 2.1 次期YSSに向けたガイダンス 2.1.1 概説 1 平成22年度の出水期から実施される、市町村を対 象とした気象警報等の発表作業は、次期予報作業支 援システム(以下、次期YSSと呼ぶ)において行わ れる。次期YSSにおいて、気象警報・注意報及び天 気予報等のプロダクトの土台となる量的予測値(防 災時系列)は、5km格子単位で取り扱われるため、 数値予報課はこれに対応した形式のガイダンスの 開発を進めてきた。次期YSS運用開始時にGSM及び MSMから作成するガイダンスを表2.1.1に示す。現 行のガイダンスからの変更点は、①大雨警報・注意 報等の基礎資料となる最大降水量ガイダンスを二 次細分区単位から格子単位とする、②降雪量時系列 の元となるガイダンスを雪水比ガイダンスに代え て最大降雪量ガイダンスとし、③これに伴い降水種 1 國次 雅司 別ガイダンスを作成する等である。 平成217月から平成221月まで、各官署で次期 YSSにおける警報・注意報発表作業を確認するため の慣熟が行われている。これに資するため、新しい ガイダンスを含めたガイダンスデータの配信を平 219月上旬に開始した。 本節は上記慣熟、引き続く天気予報を含めた総合 的な予報作業確認のための慣熟及び運用開始にあ たり、新しいガイダンスの作成手法を理解していた だくことを目的としている。第2.1.2, 2.1.3項では、 今回の主要な変更事項である最大降水量ガイダン ス、最大降雪量ガイダンス及び降水種別ガイダンス の作成手法、精度について記述する。これらのガイ ダンスは運用に向けて最適化を行う予定であり、本 稿では現時点における最新の検証結果を提供する。 2.1.4項では平成2177日に改良を行った、発雷 確率ガイダンスの作成手法とその精度について述 べる。第2.1.5項で は、上記以外に新 規に開発したガ イダンスの作成 手法について、従 来のガイダンス (新規MSMガイ ダンスに対して 現行 GSM ガイダ ンスなど)との相 違点等を解説す る。 新しいガイダ ンスの予報作業 での利用にあた り、本節の内容を 役立てていただ ければ幸いであ る。また、本節に 掲載されないガ イダンスの作成 手法・特性につい ては、平成19 20 年度数値予報研 修テキスト等を 参照していただ きたい。 2.1.1 GSM 及び MSM から作成するガイダンス 太字網掛けは新規、太字は変更を表す。 最小湿度及び(日)最高・(日)最低気温の最大予報期間は、日本時で初期時刻からみた日 にちを示す。予報時間間隔の各日は、1 日のうち限られた時間が予報対象となっていること を示す。廃止または新たに開発を行うものは現ガイダンスの仕様を記述。 予報時 間間隔 最大予報 期間 作成対象 予報時 間間隔 最大予報 期間 作成対象 1時間最大降水量 3h FT33 5km格子 3h FT84 20km格子 3時間最大降水量 3h FT33 5km格子 3h FT84 20km格子 3時間平均降水量 3h FT33 5km格子 3h FT84 20km格子 24時間最大降水量 3h FT33 5km格子 3h FT84 20km格子 降水種別 3h FT33 5km格子 3h FT84 5km格子 3時間最大降雪量 3h FT33 5km格子 3h FT84 5km格子 6時間最大降雪量 3h FT33 5km格子 3h FT84 5km格子 12時間最大降雪量 3h FT33 5km格子 3h FT84 5km格子 24時間最大降雪量 3h FT33 5km格子 3h FT84 5km格子 地点12時間降雪量 12h FT72 アメダス地点 12h FT72 アメダス地点 3h FT33 アメダス地点 3h FT84 アメダス地点 1h FT33 アメダス地点 3h FT84 アメダス地点 3h FT33 5km格子 3h FT84 20km格子 気温 1h FT33 アメダス地点 1h FT84 アメダス地点 最高・最低気温 各日 翌日 アメダス地点 各日 3日後 アメダス地点 明後日日最高・日最低気温 - 3日後 アメダス地点 6h FT33 5km格子 6h FT84 20km格子 24h 明日 気象官署 24h 3日後 気象官署 3h FT33 5km格子 3h FT84 20km格子 3h FT33 5km格子 3h FT84 20km格子 3h FT84 20km格子 3h FT33 三次細分区 ・新たに開発を行い利用を検討するもの 3h FT84 二次細分区 3時間大雨確率 最大風速・風向 定時の風速・風向 日照率 ・廃止するもの MSM GSM 発雷確率 MSM/降短最大降水量 天気 雪水比 降水確率 最小湿度

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20

第2章 アプリケーション

2.1 次期YSSに向けたガイダンス

2.1.1 概説1

平成22年度の出水期から実施される、市町村を対

象とした気象警報等の発表作業は、次期予報作業支

援システム(以下、次期YSSと呼ぶ)において行わ

れる。次期YSSにおいて、気象警報・注意報及び天

気予報等のプロダクトの土台となる量的予測値(防

災時系列)は、5km格子単位で取り扱われるため、

数値予報課はこれに対応した形式のガイダンスの

開発を進めてきた。次期YSS運用開始時にGSM及び

MSMから作成するガイダンスを表2.1.1に示す。現

行のガイダンスからの変更点は、①大雨警報・注意

報等の基礎資料となる最大降水量ガイダンスを二

次細分区単位から格子単位とする、②降雪量時系列

の元となるガイダンスを雪水比ガイダンスに代え

て最大降雪量ガイダンスとし、③これに伴い降水種

1 國次 雅司

別ガイダンスを作成する等である。 平成21年7月から平成22年1月まで、各官署で次期

YSSにおける警報・注意報発表作業を確認するため

の慣熟が行われている。これに資するため、新しい

ガイダンスを含めたガイダンスデータの配信を平

成21年9月上旬に開始した。 本節は上記慣熟、引き続く天気予報を含めた総合

的な予報作業確認のための慣熟及び運用開始にあ

たり、新しいガイダンスの作成手法を理解していた

だくことを目的としている。第2.1.2, 2.1.3項では、

今回の主要な変更事項である最大降水量ガイダン

ス、最大降雪量ガイダンス及び降水種別ガイダンス

の作成手法、精度について記述する。これらのガイ

ダンスは運用に向けて最適化を行う予定であり、本

稿では現時点における最新の検証結果を提供する。

第2.1.4項では平成21年7月7日に改良を行った、発雷

確率ガイダンスの作成手法とその精度について述

べる。第2.1.5項で

は、上記以外に新

規に開発したガ

イダンスの作成

手法について、従

来のガイダンス

(新規MSMガイ

ダンスに対して

現行GSMガイダ

ンスなど)との相

違点等を解説す

る。 新しいガイダ

ンスの予報作業

での利用にあた

り、本節の内容を

役立てていただ

ければ幸いであ

る。また、本節に

掲載されないガ

イダンスの作成

手法・特性につい

ては、平成19・20年度数値予報研

修テキスト等を

参照していただ

きたい。

表 2.1.1 GSM 及び MSM から作成するガイダンス 太字網掛けは新規、太字は変更を表す。

最小湿度及び(日)最高・(日)最低気温の最大予報期間は、日本時で初期時刻からみた日

にちを示す。予報時間間隔の各日は、1 日のうち限られた時間が予報対象となっていること

を示す。廃止または新たに開発を行うものは現ガイダンスの仕様を記述。

予報時間間隔

最大予報期間

作成対象予報時間間隔

最大予報期間

作成対象

1時間最大降水量 3h FT33 5km格子 3h FT84 20km格子

3時間最大降水量 3h FT33 5km格子 3h FT84 20km格子

3時間平均降水量 3h FT33 5km格子 3h FT84 20km格子

24時間最大降水量 3h FT33 5km格子 3h FT84 20km格子

降水種別 3h FT33 5km格子 3h FT84 5km格子

3時間最大降雪量 3h FT33 5km格子 3h FT84 5km格子

6時間最大降雪量 3h FT33 5km格子 3h FT84 5km格子

12時間最大降雪量 3h FT33 5km格子 3h FT84 5km格子

24時間最大降雪量 3h FT33 5km格子 3h FT84 5km格子

地点12時間降雪量 12h FT72 アメダス地点 12h FT72 アメダス地点

3h FT33 アメダス地点 3h FT84 アメダス地点

1h FT33 アメダス地点 3h FT84 アメダス地点

3h FT33 5km格子 3h FT84 20km格子

気温 1h FT33 アメダス地点 1h FT84 アメダス地点

最高・最低気温 各日 翌日 アメダス地点 各日 3日後 アメダス地点

明後日日最高・日最低気温 - 3日後 アメダス地点

6h FT33 5km格子 6h FT84 20km格子

24h 明日 気象官署 24h 3日後 気象官署

3h FT33 5km格子 3h FT84 20km格子

3h FT33 5km格子 3h FT84 20km格子

3h FT84 20km格子

3h FT33 三次細分区

・新たに開発を行い利用を検討するもの

3h FT84 二次細分区3時間大雨確率

最大風速・風向

定時の風速・風向

日照率

・廃止するもの

MSM GSM

発雷確率

気温

MSM/降短最大降水量

天気

雪水比

降水確率

最小湿度

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2.1.2 最大降水量ガイダンス1

(1)はじめに

次期YSSでは、市町村を対象とする気象警報等の

発表作業が行われる。これに対応するため、 大降

水量ガイダンス(MAXP)は、予報対象領域が二次

細分区域から格子単位となる(表2.1.2)。MSMの対

象領域は5km格子となっているが、MAXPは20km格子の 大降水量を目的変数として作成し、(2)に

示す手法で5km格子に配分している。本項では、格

子単位のガイダンスの作成手法について解説し、次

期YSS慣熟運用向けの配信開始時点(2009年9月)

における各ガイダンスの検証結果を示す。なお、検

証したガイダンスは開発途中のものであるため、今

後、精度が変わることが考えられるので留意してい

ただきたい。 本文中では平均降水量ガイダンスを「MRR」と記

述し、各モデルを利用したガイダンスは、モデル名

と要素名を組み合わせ、要素名を略した形式で

「GSM-MRR」のように記述する。検証で使用して

いる指標については付録Bを参照願いたい。 (2)作成手法

・GSM 大降水量ガイダンス GSM-MAXPの係数は、日本の陸地を中心とする

約2300格子で作成し、格子間隔は20kmである。海

上の格子は次期YSSでは使用しないため、MAXPは作成していない。MAXPの基本的な作成手法に変更

はなく、格子ごとに平均降水量と 大降水量の比率

を求め、その比率をMRRに乗じて作成している(安

藤 2007)。 ・MSM 大降水量ガイダンス MSM-MAXPは、まず20km格子でMAXPを作成

(20kmMAXP)し、それを5km格子で作成した

MRR(第2.1.5節(1)参照)の分布に合わせて配分

1 小泉 友延

し、5km格子のMAXPとしている。MSM-MAXPの係数はGSM-MAXPと同じものを使用する。作成の

手順は次の通りである。 ①20kmMAXPを作成する。説明変数は20km格子に

GPVを内挿して作成する。MRRは20km格子の中心

から東西南北それぞれ10km以内に存在する16個の

5km格子のMRRの平均を使用する。 ②20km格子にMRRを与えた16個のMRRの 大値

と20kmMAXPとの比率を求める。MRRの 大値が

20kmMAXPを上回った場合は比率を1.0とする。 ③20km格子にMRRを与えた16個のMRRそれぞれ

に②で求めた比率を乗じて、5km格子のMAXPを作

成する。ただし、5km格子のMAXPは20kmMAXPを上限とする。 (3)予報特性と精度

1時間 大降水量(MAXP1)、3時間 大降水量

(MAXP3)、24時間 大降水量(MAXP24)につい

て検証を行った。検証期間は2008年8月から2009年7月までの1年間である。 (a)20km 格子単位の検証

ガイダンスの特性を見るため20km格子単位で検

証した。 ・検証方法 日本付近の陸を含む格子を対象とし、MAXPと解

析雨量から求めた 大降水量を比較する。閾値以上

の降水の有無で分割表を作成し、エクイタブルスレ

ットスコア(ETS)、バイアススコア(BI)を求め

る。MSM-MAXPは20kmMAXPを予報値とする。 ・検証結果 図2.1.1にMAXP1、図2.1.2にMAXP3、図2.1.3にMAXP24の20km格子単位で検証した閾値別の検証

結果を示す。ETSはGSM、MSMともに全てのガイ

ダンスで閾値が大きくなるほど小さくなっている。

ガイダンス名 要素 対象領域 予報期間 予報間隔 運用回数

1時間 大降水量 (MAXP1) 5km格子 3時間 大降水量 (MAXP3) 5km格子

FT=3~33 8回/日MSM 大降水量

24時間 大降水量 (MAXP24) 5km格子 FT=24~33

3時間

4回/日

1時間 大降水量 (MAXP1) 20km格子 3時間 大降水量 (MAXP3) 20km格子

FT=6~84 GSM 大降水量

24時間 大降水量 (MAXP24) 20km格子 FT=27~84

3時間 4回/日

表のMSMガイダンスの予報時間は03,09,15,21UTC初期値による予報時間。00,06,12,18UTC初期値ではFT=15までとなり、MAXP24は作成しない。 二次細分区域を対象とした3時間平均降水量(MEAN3)、24時間平均降水量(MEAN24)は廃止。

表2.1.2 大降水量ガイダンスの予報要素、領域及び運用回数

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BIはMAXP1、MAXP3では、GSMとMSMは同じよ

うな傾向が見られる。MAXP1のBIは閾値5mm/hから40mm/hまでは1を上回り、閾値30mm/hで 大と

なっている。閾値30mm/hからは閾値が大きくなる

につれてBIは減少し、閾値60mm/hで1を下回る。

GSMは閾値70mm/hでほぼ0になるがMSMは0.5を上回っている。MAXP3のBIも同様に閾値60mm/3hまでは1を上回り、閾値40mm/3hで 大、それ以降

はBIが減じている。閾値100mm/3h以上になると

GSMはほぼ0となるが、MSMは1に近くなっている。

MAXP24ではGSMとMSMでBIの傾向が大きく異

なる。GSMのBIは閾値200mm/24hまでは1を上回り、

閾値100mm/24hで 大、それ以降は減じている。

MSMは閾値20mm/24hでBIが1に近いが、閾値が大

きくなるに連れてBIは大きくなり、GSMのように減

じる傾向は見られない。 (b)二次細分区域単位の検証

次期YSSでは 大降水量ガイダンスは格子間隔

5kmの防災時系列格子に配分され、基本パターンや

二次細分区域等の領域の値として扱われる。ここで

は、実際に現業で使用されることを想定し、二次細

図2.1.1 MAXP1の閾値別のETSとBI(20km格子単

位)。上段は GSM-MAXP1の00,06,12,18UTC初期

値のFT=15~48までのスコア。下段はMSM-MAXP1の03,09,15,21UTC初期値のFT=12~33までのスコ

ア。縦軸は左軸がETS、右軸がBIで横軸は閾値

(mm/h)。

図2.1.2 MAXP3の閾値別のETSとBI(20km格子単

位)。上段は GSM-MAXP3の00,06,12,18UTC初期

値のFT=15~48までのスコア。下段はMSM-MAXP3の03,09,15,21UTC初期値のFT=12~33までのスコ

ア。縦軸は左軸がETS、右軸がBIで横軸は閾値

(mm/3h)。

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分区域単位で検証する。 ・検証方法 ①次期YSSの防災時系列格子にMAXPを代入する。

MSM-MAXPは防災時系列格子と同じ格子系である

ため、そのまま代入する。20km格子のGSM-MAXPは格子中心から東西南北10km以内に存在する16格子に同じ値を代入する。この代入方法は次期YSSと同じ手法である。 ②防災時系列格子のMAXPから二次細分区域の

大降水量を作成する。次期YSSの防災時系列格子と

二次細分区域の対応テーブルを元に、二次細分区域

に含まれる格子のMAXPの 大値を予報値とする。 ③解析雨量から二次細分区域の実況値を作成する。

予報部予報課で作成している解析雨量格子と二次細

分区域の対応テーブルを元に、二次細分区域の解析

雨量の 大値を実況値とする。 ④②と③で求めた予報値と実況値から二次細分区域

毎に閾値以上の降水の有無で分割表を作成し、ETS、BIを求める。 ・検証結果 図2.1.4にMAXP1、図2.1.5にMAXP3、図2.1.6にMAXP24の二次細分区域単位で検証した閾値別の

検証結果を示す。図には20km格子単位の結果を併

せて表示している。ETSはGSM、MSMともに全て

のガイダンスで閾値が大きくなるほど小さくなって

いる。また、全ての閾値で二次細分区域のETSは20km格子単位のETSを上回っている。BIはMAXP1、MAXP3ではGSM、MSMともに小さい閾値では1を上回り、大きい閾値では1を下回る。また、GSMは

小さい閾値では二次細分区域単位のBIが20km格子

単位のBIを上回るが、MSMは二次細分区域単位と

20km格子単位との差がほとんどない。大きい閾値

ではGSM、MSMともに二次細分区域単位のBIが20km格子単位のBIを下回っている。MAXP24もMAXP1やMAXP3と同様の傾向が見られる。20km格子単位との比較では、MSM-MAXP24は二次細分

区域単位のBIは20km格子単位のBIと異なり、閾値

が150mm/24hより大きくなるとBIが減じている。 ・考察 次期YSSで利用する 大降水量ガイダンスの特性

は、現ガイダンスの特性(小泉 2008)と大きく異

なっている。現ガイダンスでは強雨の予報頻度がほ

とんどなく見逃しが多かったが、新ガイダンスは

MAXP1 で は 閾 値 40mm/h 、 MAXP3 で は 閾 値

60mm/3h程度までは予報頻度が増加し、実況の頻度

よりも多くなっている。 強雨の予報頻度が増加することは、予報対象領域

が二次細分区域から20km格子となったことが原因

のひとつと考えられる。MAXPはMRRに比率を乗じ

て作成しているが、現ガイダンスでは元になるMRRは二次細分区域に含まれる格子のMRRを平均した

ものである。このため、ある格子で強雨が予想され

ていてもその領域が狭ければ、二次細分区域でMRRを平均したときに強雨の予想が打ち消されてしまう。

新ガイダンスではそのようなことは起こらないので、

強雨の予報の頻度が増加すると考えられる。逆に

MRRが周囲に比べて大きい格子があるとその格子

だけ突出したMAXPが予想されることもある。 大きい閾値で予報頻度が少ないことについては、

MAXPの元となるMRRの特性の影響が大きいと考

図2.1.3 MAXP24の閾値別のETSとBI(20km格子単

位)。上段 はGSM-MAXP24の00,06,12,18UTC初

期 値 の FT=27 ~ 60 ま で の ス コ ア 。 下 段 は

MSM-MAXP24の03,09,15,21UTC初期値のFT=24~33までのスコア。縦軸は左軸がETS、右軸がBIで横軸は閾値(mm/24h)。

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えられる。新ガイダンスのMAXPは20km格子の

MRRを元に作成されるので、MAXPの予報頻度は

MRRの予報頻度に依存する。図2.1.7に20km格子単

位で検証した新ガイダンスと現ガイダンスの

GSM-MRR3の閾値別のBIを示す。新ガイダンスの

BIは、現ガイダンスとほぼ同じような傾向となって

おり、閾値5-10mm/3hのBIは1.1を超えて予報が過

多となっている。このことが、小さい閾値でMAXPのBIが1を上回る原因のひとつと考えられる。また、

別の原因としてMAXPの係数に学習時と運用時で

不整合がある点が考えられる。MAXPの係数は、十

分な学習期間を確保するため、1996年から2006年ま

でのモデルのGPVと解析雨量を使って作成してい

る。現在、解析雨量は1kmの解像度となっているが、

MAXPの係数を作成した期間は、解析雨量の解像度

が2.5km、5kmであった。このため、学習期間と現

在とでは平均降水量と 大降水量の比率が異なって

いる可能性が高い。また、係数作成に使用するモデ

ルは現在運用を終了している領域モデル(RSM)で

あり、 新のGSMやMSMと説明変数の特性が異な

図2.1.5 MAXP3の閾値別のETSとBI。「_area」は二

次細分区域単位、「_20km」は20km格子単位のス

コ ア を 表 す 。 上 段 は GSM-MAXP3 の

00,06,12,18UTC初期値のFT=15~48までのスコ

ア。下段はMSM-MAXP3の03,09,15,21UTC初期値

のFT=12~33までのスコア。縦軸は左軸がETS、右軸がBIで横軸は閾値(mm/3h)。

図2.1.4 MAXP1の閾値別のETSとBI。「_area」は二

次細分区域単位、「_20km」は20km格子単位のス

コ ア を 表 す 。 上 段 は GSM-MAXP1 の

00,06,12,18UTC初期値のFT=15~48までのスコ

ア。下段はMSM-MAXP1の03,09,15,21UTC初期値

のFT=12~33までのスコア。縦軸は左軸がETS、右軸がBIで横軸は閾値(mm/h)。

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っていることが考えられる。 二次細分区域単位の検証結果と20km格子単位の

検証結果を比較すると、GSM、MSMともに二次細

分区域単位の方が良い精度であった。このことは、

予報値を格子の値として捉えるより、ある程度広い

範囲のポテンシャルとして捉える方が精度がよいこ

とを裏付けている。MSM-MAXP24は二次細分区域

単位のBIと20km格子単位のBIの傾向が大きく異な

っている。MSM-MAXPはMRRの分布に合わせて防

災時系列格子に分配された値であるため、このよう

な違いが出たと考えられる。 (4)利用上の留意点

・新ガイダンスは、現ガイダンスと異なり、MAXP1では閾値40mm/h、MAXP3では閾値60mm/3h程度

までは予報頻度が増加し、実況の頻度よりも多くな

っている。この特性はMRRの特性を反映しているた

め、予報対象領域において適正な予報であるかどう

かを判断する場合はMRRの分布も参考にしていた

だきたい。 ・次期YSSでは、20km格子で作成したMAXPを格

子間隔5kmの防災時系列格子に配分しているため、

防災時系列格子上では隣り合う格子で値が大きく異

なることがある。 ・MAXPは、格子の値として捉えるよりも、領域の

値として捉える方が精度がよい。格子の値にとらわ

れず、広い視野で強雨のポテンシャルの把握に利用

していただきたい。 ・MRRが周囲の格子より大きい格子では、突出した

MAXPが予想される場合がある。このような場合は

MRRの分布を確認し、周辺の格子などと比較して妥

当な予想であるか確認しながら利用していただきた

い。 ・予報対象領域の境界をまたぐ20km格子に強雨の

予想がある場合は、複数の地域に強雨の予想が出る

こととなる。このような場合は、地形などの地域特

性を考慮して適正な予報であるか判断すべきと考え

る。

図2.1.7 GSM-MRR3の閾値別のBI。testは新ガイ

ダ ン ス 、 cntl は 現 ガ イ ダ ン ス を 表 す 。

00,06,12,18UTC初期値のFT=15~48までのスコ

ア。横軸は閾値(mm/3h)。

図2.1.6 MAXP24の閾値別のETSとBI。「_area」は

二次細分区域単位、「_20km」は20km格子単位の

ス コ ア を 表 す 。 上 段 は GSM-MAXP24 の

00,06,12,18UTC初期値のFT=27~60までのスコ

ア。下段はMSM-MAXP24の03,09,15,21UTC初期

値のFT=24~33までのスコア。縦軸は左軸がETS、右軸がBIで横軸は閾値(mm/h)。

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(5)今後の課題

・MRRの改善 新ガイダンスのMRRには閾値5-10mm/3hの予報

頻度がやや多く、閾値30mm/3h以上の予報頻度は少

なくなる特性がある(図2.1.7)。その特性はMAXPにも反映されている。MAXPの特性はMRRの特性に

依存するため、MAXPの精度を改善するためには

MRRの精度を改善することが重要である。特に強い

降水が予想されない特性は防災業務に関わる問題で

あるので、頻度バイアス補正のパラメータを 適化

するなどにより強雨の精度の向上を図りたい。 ・係数の更新 MAXP の係数には、前述した通り、解析雨量の解

像度と説明変数となるモデルが学習期間と運用期間

で不整合となっている。この不整合を解消するには

解析雨量の解像度が1km化された期間で 新のモ

デルを用いて係数を作成することが必要である。係

数は格子毎に作成するため、大雨の事例数も多く必

要で、学習期間は長ければ長いほど良いが、観測デ

ータも20kmに高解像度化されたGSMの予報値も十

分な期間が確保できていない状況である。今後はデ

ータの蓄積を待ち、解像度1kmの解析雨量と 新の

モデルを使って係数を作成する予定である。学習期

間を延長しながら定期的に係数を入れ替え、精度が

向上するように努めたい。 参考文献

安藤昭芳, 2007:降水確率、平均降水量、 大降水量

ガイダンス. 平成19年度数値予報研修テキスト,

気象庁予報部, 50-59.

小泉友延, 2008:降水確率、平均降水量、 大降水量

ガイダンス. 平成20年度数値予報研修テキスト,

気象庁予報部, 62-67.

27

2.1.3 最大降雪量ガイダンス1

(1) はじめに

本項では 大降雪量ガイダンス及び降水種別ガ

イダンスについて解説する。次期YSSでは雪水比ガ

イダンスに替わり、 大降雪量ガイダンス、降水種

別ガイダンスを用いて降雪量の予報作業を行うこ

とになる。現YSSでは雪水比ガイダンスから得られ

た雪水比2を基に、予報担当者が適宜雪水比を修正し、

その値に降水量を乗じることによって降雪量を予

報している。しかし、この方法では予報要素である

降雪量を決定するために、まず、予報要素ではない

雪水比を修正する必要がある。雪水比は気温や降水

量に強く依存することがわかっており、気温のわず

かな変化でも雪水比は大きく変わる。この変化が大

きい雪水比を気象状況に応じて修正し、なおかつ降

水量も同時に修正して目的の降雪量を適切な値に

することは非常に困難である。次期YSSではこの問

題点が改善され、予報担当者が直接降雪量を修正で

きるようになる。これに資するため数値予報課では

降雪量を直接予報する 大降雪量ガイダンス及び

天気の雨雪判別に用いる降水種別ガイダンスの開

発を行ってきた。なお、雪水比ガイダンスは次期YSSの本運用後に廃止される予定である。

以下では、(2)に降水種別ガイダンス、(3)に

大降雪量ガイダンス、(4)に降水種別ガイダンス及

び 大降雪量ガイダンスの作成の際に使用する格

子形式気温ガイダンス3について解説する。

(2) 降水種別ガイダンス

(2.1) 概要

表2.1.3に降水種別ガイダンスの仕様を示す。予報

要素は、3時間降水種別4(PTYP3)とする。GSM降水種別ガイダンス、MSM降水種別ガイダンスと

もに、予報対象領域は図2.1.8に示した領域とし、格

子間隔は5kmとした。作成手法は統計的な方法では

なく、モデルや格子形式気温ガイダンスの予報値を

用いた診断的な方法を採用した。これは降水種別は

気温に強く依存するため、ガイダンスの主目的であ

るモデルバイアスを取り除く部分を気温ガイダン

スに任せることによって、予報精度を確保できると

考えたためである。これにより、新規に5km格子形

式気温ガイダンスを開発し、降水種別の予報に使用

する。予報期間はGSM降水種別ガイダンスがFT=6からFT=84まで3時間間隔、MSM降水種別ガイダン

ス が FT=3 か ら FT=33 ま で 3 時 間 間 隔

(00,06,12,18UTC初期値はFT=15まで)である。

1 (1)(2)(3)古市 豊、(4)松澤 直也 2 雪水比(cm/mm)= 降雪量(cm)/ 降水量(mm)。 3 中間製品のため配信はしない。 4 「雨」、「雨か雪」、「雪か雨」、「雪」の 4 カテゴリ。

なお、降水種別ガイダンスは降水の有無に関わらず

全格子で降水種別を予報する。すなわち、同様な気

象状況で降水現象が起こった場合、どのような降水

種別になるかを予報する。

表 2.1.3 降水種別ガイダンスの仕様

予報要素 3 時間降水種別(「雨」「雨か雪」「雪か

雨」「雪」の 4 カテゴリ)

作成対象 5km 格子(GSM,MSM)

作成方法

地上相対湿度(モデル予報値)及び地上気

温(格子形式気温ガイダンス予報値)を用

いた診断的な方法。

予報期間

GSM:FT=6 から FT=84 まで 3 時間間隔

MSM:FT=3 から FT=33 まで

(00,06,12,18UTC 初期値は FT=15 ま

で)3 時間間隔

逐次学習 なし

層別化 なし

備考 降水の有無に関わらず降水種別を予報す

る。

図 2.1.8 降水種別ガイダンス、 大降雪量ガイダンスの

予報対象領域及び 5km 格子点。10 格子毎に描画して

いる。

28

(2.2) 降水種別の判別方法 雨雪判別については過去に多くの研究が行われ

ており、いくつかの手法が提案されている。Matsuo et al.(1981)は雪片の融解過程の理論的研究及び

輪島、松本、日光の観測結果から、地上気温と地上

相対湿度を用いた降水の相変化図を提案している。

Sugaya(2005)は湿球温度を用いた雨雪判別の推

定方法を提案している。この他にも、柳野(1995)は全国51官署の4年分の観測結果に基づいてニュー

ラルネットワークを用いて雨雪境界線を作成し、雨

雪判別を行っている。この方法は現在の天気ガイダ

ンスの雨雪判別にも用いられている5。また、お天気

マップには瀬上(1992)のアルゴリズムを改良した

雨雪判別アルゴリズムが使用されている(萬納寺 1994)。このようにいくつかの手法が提案されてい

る中で、 も適している手法を以下のように決定し

た。 まず、降水種別ガイダンスの予報要素である「雨」、

「雨か雪」、「雪か雨」、「雪」の定義を、雨の出現確

率を基に表2.1.4のように決める。

5 次期YSSでは降水種別ガイダンスの予報値が天気ガイ

ダンスの雨雪判別に用いられる。

次に、地上気象官署(特別地域気象観測所は除く)

の地上気象観測原簿を用いて降水種別、地上気温、

地上相対湿度の関係を調べた。調査期間は2004年か ら2008年の5年間の冬季6、調査地点は約80地点、雨

のサンプル数は34002個、雪のサンプル数は28631個を使用した。その結果、柳野(1995)の雨雪境界

線の形状が も実況の雨(雪)の出現確率7(図2.1.9(c)の青線)に近いことがわかった。この方法を基

にして、実際の雨(雪)の出現確率に近いように雨

雪境界線を修正したもの(図2.1.9の赤線)を降水種

別判別図として使用する(図2.1.9)。各境界線は以

下の式で表される。 「雨」と「雨か雪」を分ける境界線 「雨か雪」と「雪か雨」を分ける境界線 「雪か雨」と「雪」を分ける境界線 RH:地上相対湿度(%) T:地上気温(℃)

6 冬季とは12月~翌年3月までのこと。 7 出現確率とは気温を0.2℃毎、相対湿度を2.5%毎に区切

った領域内での降水事例数に対する雨(雪)の割合のこと。

表 2.1.4 降水種別ガイダンスの予報要素の定義 予報要素 雨の出現確率

雨 0.95 以上

雨か雪 0.5 以上 0.95 未満

雪か雨 0.05 以上 0.5 未満

雪 0.05 未満

図 2.1.9 降水種別判別図及び雨雪の散布図を示す。(a)降水種別判別図及び雪の実況値、(b)降

水種別判別図及び雨の実況値、(c)雨の等出現確率線(青線)及び雨雪境界線(赤線)。赤線:

左:「雪」と「雪か雨」の境界線、中:「雪か雨」と「雨か雪」の境界線、右:「雨か雪」と「雨」

の境界線。青線:左:雨の出現確率が 0.05、中:雨の出現確率が 0.5、右:雨の出現確率が 0.95。

(a) (b) (c)

( )5.109

100−×⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛−= TRH

( )75.99

100−×⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛−= TRH

( )75.89

100−×⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛−= TRH

29

(2.3) 作成手順

降水種別ガイダンスの作成手順を以下に示す。 ① 地上面予報値を用いて降水種別を判別する。 格子形式気温ガイダンスの1時間値及びモデル

の地上相対湿度の1時間値を入力として、降水種

別判別図を用いて5km格子毎に、1時間降水種別

(PTYP1)を決める。 ② 850hPaの気温の予報値を用いて降水種別を

補正する。 ①の方法のみでは、地上付近に逆転層が形成さ

れる場合(放射冷却時等)に「雨」を「雪」と誤

って判別をする可能性が高い。そのため、850hPa面の気温(モデル予報値)が+1℃以上かつ、5km格子の地形(標高)が1500m以下の格子について

は、降水種別を「雨」とする。 ③ 3時間降水種別(PTYP3)を作成する。 ②で求めた1時間降水種別毎に、以下のように

雨の出現確率に相当する値を割り振る。

「雨」:1 「雨か雪」:0.75 「雪か雨」:0.25 「雪」:0 これを3時間平均して、表2.1.4に示した閾値を基

に3時間降水種別を決定する。

(2.4) 検証

検証は2008年12月1日から2009年3月31日を対象

期間として、地上気象官署(特別地域気象観測所を

含む)147地点で観測された天気を基に行った。

GSM降水種別ガイダンスは00UTC初期値のFT=6からFT=48、MSM降水種別ガイダンスは03UTC初

期値のFT=3からFT=33までをすべてまとめて検証

スコアを算出した。また、地上気温(観測値)が-

3℃以上5℃以下かつ降水が観測されている8場合の

みを検証対象とし、この条件を満たす全サンプル数

は19951個であった。予報値は格子点形式のため、

検証地点の 近接の格子をその検証対象地点の予

8 天気が雨、雪(みぞれ、あられ等は除く)のとき。

図 2.1.10 GSM 降水種別ガイダンスの地域別検証スコア。左:エクイタブルスレットスコア(ETS)右:雪のバイアススコア(BI)を示す。

エクイタブルスレットスコア(GSM降水種別G)

0.00

0.10

0.20

0.30

0.40

0.50

0.60

0.70

0.80

日本日本 北海道 東北関東・甲信・東海 北陸 近畿・中国・四国九州

雪のバイアススコア(GSM降水種別G)

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

日本 北海道 東北関東・甲信・東海 北陸 近畿・中国・四国九州

エクイタブルスレットスコア(雪水比G)

0.00

0.10

0.20

0.30

0.40

0.50

0.60

0.70

0.80

日本 北海道 東北関東・甲信・東海 北陸 近畿・中国・四国九州

図 2.1.11 雪水比ガイダンス(降水種別)の地域別検証スコア。左:エクイタブルスレットスコア(ETS)右:雪のバイアススコア(BI)を示す。

雪のバイアススコア(雪水比G)

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

日本 北海道 東北関東・甲信・東海 北陸 近畿・中国・四国九州

30

報値と見なして使用した。その他、予報値には「雨

か雪」、「雪か雨」のカテゴリがあるが、観測値には

ない。そのため、予報値が「雨か雪」のときは、観

測値が「雨」の場合を適中、「雪」の場合を空振り

とし、予報値が「雪か雨」のときは、観測値が「雪」

の場合を適中、「雨」を空振りとした。 GSM降水種別ガイダンスのエクイタブルスレッ

トスコア(ETS)、雪のバイアススコア(BI)を図

2.1.10に示す。また、比較のために現YSSで利用さ

れている雪水比ガイダンスを使った降水種別の判

別方法9の検証結果を図2.1.11に示す。まず、全検証

地点(日本)で比較すると、ETSは、GSM降水種別

ガイダンスが雪水比ガイダンス(降水種別)を大き

く上回っており、予報精度は改善している。また、

GSM降水種別ガイダンスは雪水比ガイダンス(降水

種別)に比べてBIが1に近く、予報頻度が観測頻度

9 現 YSS の雨雪判別方法に合わせるために、雪水比

が 0.1 未満「雨」、0.1 以上 0.3 未満「雨か雪」、0.3 以上

0.5 未満「雪か雨」、0.5 以上「雪」とした。

に近い。雪水比ガイダンス(降水種別)は「雪」を

多く予報する傾向があるが、GSM降水種別ガイダン

スはその傾向は見られず、大きく改善している。地

域別では、北海道地方、東北地方、関東・甲信・東

海地方のETSが高く、九州地方で低い。この理由と

して、九州地方では降水時の地上気温や地上相対湿

度の予報精度が他の地域に比べて悪いことが考え

られる。また、九州地方を中心にBIが1よりも小さ

く、雪の見逃しがやや多くなっていることに注意す

る必要がある。 図2.1.12に2009年3月6日から7日にかけて、発達

した低気圧が北日本を通過したときの事例を示す。 この事例では、平野部の多くの地点で雨が観測され

ているにも関わらず、雪水比ガイダンスは全域「雪」

を予報している(図2.1.12(b)の赤破線で囲んだ領

域)。一方、降水種別ガイダンスは標高の高い地域

を除けば「雨」と予報しており(図2.1.12(a)の赤

破線で囲んだ領域)、概ね観測と一致している。 図2.1.13にMSM降水種別ガイダンスの検証結果

図 2.1.12 発達した低気圧が北日本を通過したときの事例(2009 年 3 月 6 日)。(a)GSM 降水種別ガイダンス

(2009 年 3 月 6 日 00UTC 初期値の FT=12)緑:雨、青:雨か雪、水色:雪か雨、白:雪 (b)雪水比ガ

イダンス(降水種別)(2009 年 3 月 6 日 00UTC 初期値の FT=12) 白:雨、紫:雨か雪、水色:雪か雨、青:

雪(c)降水種別の観測値(2009 年 3 月 6 日 12UTC) 緑印:雨、白印:雪、灰色印:降水なし。地形デー

タは GTOPO30(米国地質調査所(USGS)による 30 秒メッシュの標高データ)を使用。(d)地上天気図(2009年 3 月 7 日 00UTC)。

(a) (b)

(c) (d)

31

を示す。地域別にみると、GSM降水種別ガイダンス

と同様に、北海道地方、東北地方、関東・甲信・東

海地方でETSが高く、北陸地方、九州地方で低い。

一方、BIは関東・甲信・東海地方や北陸地方、近畿・

中国・四国地方で1をやや上回っており、雪の予報

頻度が観測頻度に比べて高い。これはMSMの地上

相対湿度に負のバイアスがある(長澤 2008)こと

が理由の一つと考えられる。

(2.5) 利用上の留意点

降水種別ガイダンスの予報特性はGSM,MSMで

異なっており、GSM降水種別ガイダンスは全国的に

雪の予報頻度がやや低く、雪の見逃しがやや多い。

一方、MSM降水種別ガイダンスは雪の予報頻度が

やや高くなっていることに注意する必要がある。 また、降水種別は地上気温及び地上相対湿度の予

報値を用いて決めているため、地上気温や地上相対

湿度の予報値が適切ならば、降水種別を修正する必

要はないが、地上気温、地上相対湿度の予報値が不

適切と判断した場合には、降水種別も修正する必要

がある。

(2.6) 今後の改良事項

降水種別ガイダンスは、地上気温、地上相対湿度

の予報値にバイアスがないことを前提に作られて

いるが、実際には地上相対湿度はモデルの予報値を

そのまま利用しているためにバイアスが存在する。

これについては、今後開発予定の露点温度ガイダン

スを入力値等にすることによって、地上相対湿度の

バイアスを軽減することを検討している。また、降

水種別の補正には、850hPaの気温のみしか使用し

ていない。今後は他の気圧面予報値等を用いて降水

種別の判別精度を上げる予定である。

(3) 最大降雪量ガイダンス

(3.1) 概要

大降雪量ガイダンスの仕様を表2.1.5に示す。予

報要素は前3時間 大降雪量(MAXS3)、前6時間

大降雪量( MAXS6 )、前 12 時間 大降雪量

(MAXS12)、前24時間 大降雪量(MAXS24)と

する。予報領域は降水種別ガイダンスと同様に図

2.1.8に示した領域である。作成方法は西日本のよう

な雪の観測頻度が少ない地域も含めて、全国一様に

格子点形式で予報する必要があるため、平均降水量

に雪水比を乗じる雪水変換法を採用する。しかし、

GSMガイダンスのように格子間隔が大きくなると、

その格子の平均的な降雪量を予報することになる。

降雪量は地上気温や降水量に強く依存することが

観測結果からわかっており、地形による気温の効果

を加味することにより詳細な降雪量分布を予測で

きると考えられる。そこで、5km格子の気温ガイダ

ンスを用いて、GSM 大降雪量ガイダンス、MSM大降雪量ガイダンスともに5km格子で予報する。

表 2.1.5 大降雪量ガイダンスの仕様 予報要素 前 3,6,12,24 時間最大降雪量(MAXS)

作成対象 5km 格子(GSM,MSM)

作成方法 雪水変換法

予報期間

・GSM ガイダンス

MAXS3 は FT=6 から FT=84 まで

MAXS6 は FT=9 から FT=84 まで

MAXS12 は FT=15 から FT=84 まで

MAXS24 は FT=27 から FT=84 まで

・MSM ガイダンス

MAXS3 は FT=3 から FT=33 まで

MAXS6 は FT=6 から FT=33 まで

MAXS12 は FT=12 から FT=33 まで

MAXS24 は FT=24 から FT=33 まで

(00,06,12,18UTC 初期値は FT=15 まで、

MAXS24 は作成しない。)

すべて 3 時間間隔

逐次学習 なし

層別化 降水量

備考 なし

エクイタブルスレットスコア(MSM降水種別G)

0.00

0.10

0.20

0.30

0.40

0.50

0.60

0.70

0.80

日本 北海道 東北関東・甲信・東海 北陸 近畿・中国・四国九州

雪のバイアススコア(MSM降水種別G)

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

日本 北海道 東北関東・甲信・東海 北陸 近畿・中国・四国九州

図 2.1.13 MSM 降水種別ガイダンスの地域別検証スコア。左:エクイタブルスレットスコア

(ETS)右:雪のバイアススコア(BI)を示す。

32

(3.2) 雪水比の作成方法

観測値から雪水比を正確に算出するためには、正

確な降水量及び降雪量が必要となる。しかし、降雪

量及び雪の降水量の観測においては、雨量計の捕捉

率の問題、雪の吹き払いの問題、圧密・沈降の問題

等により正確に観測を行うことは非常に難しく、雪

水比には他の要素以上に多くの観測誤差が含まれ

ている。雪水比ガイダンスは3層階層型ニューラル

ネットワークで複数の説明変数を用いて、多くの観

測誤差が含まれる雪水比を目的変数としているた

め、予報精度が低くなる可能性がある。そこで、予

め雪水比と関係が深い気温と降水量を用いて回帰

式を作成しておき、その回帰式を用いて雪水比を予

報することにする。回帰式はByun et al.(2008)の

方法を用いて、ロジスティック回帰分析10で決める。

以下に回帰式を示す。 SWR:雪水比(cm/mm)

10 確率型ガイダンスで使われているロジスティック回帰

とは異なりロジスティック関数を使った非線形回帰。

a,b,c:回帰係数 T:気温(℃) 回帰係数は、2004年から2008年冬季に地上気象官

署(特別地域気象観測所を含む)147地点で観測さ

れた降雪量、降水量、気温、天気を基にいくつかの

条件をつけて算出した。抽出条件は、天気が雪かつ

気温が+2.5℃以下の事例のみとし、抽出条件を満た

したサンプル数は24148個である。 図2.1.14に雪水比と降水量、地上気温との関係を

示す。気温が氷点下の条件下では、雪水比は降水量

に強く依存していることがわかる。これは降水量が

多いほど、積雪の圧密・沈降が促進されることや新

積雪密度が大きくなる(梶川ほか 2004)ことに関

係していると考えられる。そこで、回帰式を降水量

毎に層別化し、降水量、地上気温の効果を雪水比に

反映させる。表2.1.6に降水量別に層別化した回帰係

数を示す。回帰係数aは、気温がおおよそ-2℃以下

の雪水比を表しており、降水量が多くなるにつれて

小さくなる傾向がある。回帰係数bは、雪水比がa/2になるときの気温を表している。なお、3時間降水

量が6.0mm/3h以下の階級では、回帰係数bと回帰係

図 2.1.14 雪水比と 3 時間降水量、地上気温との関係。(a)気温が 0℃以下での雪水比(cm/mm)と 3 時間降水

量(mm/3h)の散布図。(b)地上気温(℃)と雪水比(cm/mm)の散布図(3 時間降水量 3.0-6.0mm/3h)。(c)地上気温(℃)と雪水比(cm/mm)の散布図(3 時間降水量 6.0-9.0mm/3h)。(d)地上気温(℃)と雪水比(cm/mm)

の散布図(3 時間降水量 12.0-15.0mm/3h)。赤線:ロジスティック回帰曲線。

(b)

(c) (d)

(a)

( ){ }cbTaSWR−+

=exp1

33

数cがそれぞれ一定の値となっている。これは、降水

量の測定間隔が0.5mm毎、降雪量の測定間隔が1cm毎になっているため、例えば、降水量が0.5mm/3hの場合は、雪水比は0を除くと2以上の値となり、3時間降水量が少ない階級では、雪水比を過大に評価

する可能性があること、かつ気温が0~2℃の範囲で

は雪水比が0に近づくため、より雪水比を過大評価

していることを考慮し、3時間降水量が3.0mm/3h以下の階級の回帰係数b,cは、それぞれ3.0-6.0mm/3hの階級で算出されたものを使用したことによる。

(3.3) 作成手順

大降雪量ガイダンスの作成手順を以下に示す。

① 1時間平均降水量を作成する。 次期YSS平均降水量ガイダンスで作成された

20km格子の3時間平均降水量(MRR3)を時間・空

間方向に線形内挿し、5km格子の1時間平均降水量

を作成する。

② 1時間雪水比を作成する。 ①で求めた1時間平均降水量及び格子形式気温ガ

イダンスの1時間値を入力として、(3.2)で求めた回

帰式を用いて5km格子の1時間雪水比を作成する。

なお、降水種別ガイダンスとの整合を取るために、

降水種別が「雨」の格子では雪水比を0とする。ま

た、気温が+2℃以上の格子でも雪水比を0とする。 ③ 1時間 大降雪量を作成する。

②で求めた1時間雪水比に1時間平均降水量を乗

じることによって、5km格子毎に1時間 大降雪量

を作成する。なお、降雪量が0.1cm/h以下のような

弱い降雪域の広がりを防ぐために、1時間平均降水

量が 0.02mm/h 未満の場合は、平均降水量を

0.0mm/hとして扱う。

④ 3,6,12,24時間 大降雪量を作成する。 ③で求めた1時間 大降雪量を積算することによ

り、3,6,12,24時間 大降雪量を作成する。

(3.4) 統計検証

検証は2008年12月1日から2009年3月31日を対象

期間として、アメダスの積雪深計設置地点(297地点)で観測された積雪深を用いて行った。検証要素

は前3,6,12,24時間降雪量とし、降雪量は積雪深差の

正のみを足し合わせることによって算出した。予報

値は格子点から検証地点に線形4点内挿することに

よって求めた。検証スコアは、GSM 大降雪量ガイ

ダンスは00UTC初期値、MSM 大降雪量ガイダン

スは03UTC初期値のみとし、予報時間は各検証要素

の初期値からGSM 大降雪量ガイダンスはFT=48まで、MSM 大降雪量ガイダンスはFT=33までを

すべてまとめて算出した。 図2.1.15にGSM 大降雪量ガイダンス、MSM

大降雪量ガイダンス及び雪水比ガイダンス(降雪

量)11の検証スコアを示す。まず、GSM 大降雪量

ガイダンスの12時間 大降雪量についてみていく。

ETSはすべての閾値において、GSM 大降雪量ガイ

ダンスが雪水比ガイダンス(降雪量)を上回ってお

り、予報精度は概ね改善している。また、雪水比ガ

イダンスは閾値が大きくなるにつれてBIが1を大幅

に超えており、強い降雪の予報頻度が観測頻度に比

べて非常に高い。一方、GSM 大降雪量ガイダンス

では、閾値の大きなところでもBIが1に近く、予報

頻度が観測頻度に近い。次に、24時間 大降雪量に

ついてみていく。12時間 大降雪量と同様の傾向で

はあるが、GSM 大降雪量ガイダンスのBIが閾値

の大きいところで1を越えており、予報頻度が観測

頻度よりもやや高くなっている。これは、積雪の圧

密・沈降効果を考慮していないため、降雪量の積算

時間が長くなるにつれて、降雪量を過大に予測して

しまうためである。MSM 大降雪量ガイダンスに

も同様の傾向が見られる。

(3.5) 事例検証

① 強い冬型による大雪事例(2009年1月2日) 2008年12月31日~2009年1月4日にかけて日本付

近は冬型の気圧配置が続き、北日本~西日本の日本

海側を中心に広い範囲で大雪になった。図2.1.16に2009年1月1日00UTCを初期値としたGSM 大降

雪量ガイダンス(FT=30)、降雪量の観測値及び地

上天気図を示す。実況では群馬県北部地方や新潟県

中越地方山沿いを中心に30~40cm/24hの大雪にな

っている(図2.1.16の青破線で囲まれた領域)。GSM

11 雪水比ガイダンスから得られた雪水比を、現在の平均

降水量ガイダンス(MRR3)に乗じたもの。ただし、ここで

は現YSSの降雪量の計算方法に合わせるために、MRR3は

0.5mm単位切り捨てを行っている。

表 2.1.6 回帰式(ロジスティック関数)に用いる 回帰係数

3 時間

降水量(mm) 回帰係数 a 回帰係数b 回帰係数 c

0.0-1.0 2.250 0.413 0.814 1.0-3.0 2.042 0.413 0.814 3.0-6.0 1.571 0.413 0.814 6.0-9.0 1.396 0.242 0.603

9.0-12.0 1.319 0.191 0.571 12.0-15.0 1.178 0.157 0.730

15.0- 1.126 0.127 0.495

34

エクイタブルスレットスコア(MAXS3)

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0 5 10 15

降雪量(cm/3h)

GSM最大降雪量G 雪水比GMSM最大降雪量G

バイアススコア(MAXS3)

0

1

2

3

4

5

6

0 5 10 15

降雪量(cm/3h)

GSM最大降雪量G 雪水比GMSM最大降雪量G

エクイタブルスレットスコア(MAXS6)

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0 5 10 15 20 25 30

降雪量(cm/6h)

GSM最大降雪量G 雪水比GMSM最大降雪量G

バイアススコア(MAXS6)

0

1

2

3

4

5

6

0 5 10 15 20 25 30

降雪量(cm/6h)

GSM最大降雪量G 雪水比GMSM最大降雪量G

エクイタブルスレットスコア(MAXS12)

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0 10 20 30 40 50

降雪量(cm/12h)

GSM最大降雪量G 雪水比GMSM最大降雪量G

バイアススコア(MAXS12)

0

1

2

3

4

5

6

0 10 20 30 40 50

降雪量(cm/12h)

GSM最大降雪量G 雪水比GMSM最大降雪量G

エクイタブルスレットスコア(MAXS24)

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0 10 20 30 40 50

降雪量(cm/24h)

GSM最大降雪量G 雪水比GMSM最大降雪量G

バイアススコア(MAXS24)

0

1

2

3

4

5

6

0 10 20 30 40 50

降雪量(cm/24h)

GSM最大降雪量G 雪水比GMSM最大降雪量G

図 2.1.15 大降雪量ガイダンス、雪水比ガイダンス(降雪量)の検証スコア。左:エクイタブルス

レットスコア(ETS)右:バイアススコア(BS)。上から 3 時間 大降雪量(MAXS3)、6 時間

大降雪量(MAXS6)、12 時間 大降雪量(MAXS12)、24 時間 大降雪量(MAXS24)。青:

GSM 大降雪量ガイダンス、黄色:MSM 大降雪量ガイダンス、ピンク:雪水比ガイダンス。

35

大降雪量ガイダンスも同様の地域に大雪を予想

しているが、予測降雪量が50~60cm/24hと実況よ

りも多い。これは実況では積雪の圧密・沈降効果が

働いているが、GSM 大降雪量ガイダンスにはその

効果が入っていないためである。この傾向は北陸地

方や関東・甲信・東海地方の山沿いで顕著になって

いる。 一方、北海道地方や中国地方では予測降雪量が少

なくなる傾向がある。これは、平均降水量ガイダン

スの予測値がやや少ないためであると思われる。 ② 南岸低気圧の事例(2009年3月3日)

2009年3月3日~4日かけて、関東地方の南を低気

圧が通過し、関東地方から東北地方に降雪をもたら

した。図 2.1.17にGSM 大降雪量ガイダンス

(FT=39)、降雪量の観測値及び地上天気図を示す。

GSM 大降雪量ガイダンスは関東地方平野部に1~

3cm/24h程度の降雪を予測しており、概ね実況に近

い(図2.1.17の赤破線で囲まれた領域)。一方、河口

湖周辺では30cm/24h前後の降雪を予測しているが、

実況では5~10cm/24hとなり、GSM降雪量ガイダン

スの予報は過大であった。これは、平均降水量ガイ

ダンスの予報値が実況よりも過大であったことや、

積雪の圧密・沈降効果を考慮していないことが原因

と考えられる。

(3.6) 利用上の留意点

大降雪量ガイダンスは、平均降水量ガイダンス

や格子形式気温ガイダンスを用いて作成している

ため、まず、平均降水量及び気温の予報値が妥当か

を検討し、どちらかを修正する場合は同時に 大降

雪量ガイダンスも修正する必要がある。また、 大

降雪量ガイダンスには(3.4)(3.5)で示した予報特

性があるため、その特性を考慮しながら適宜予報値

図 2.1.17 南岸低気圧の事例(2009 年 3 月 3 日)。(a)GSM 大降雪量ガイダンス(2009 年 3 月 2日 00UTC 初期値の FT=39 前 24 時間降雪量(cm/24h)) (b) 前 24 時間降雪量の観測値(cm/24h)

(c)地上天気図(2009 年 3 月 4 日 00UTC)

(a) (b) (c)

図 2.1.16 強い冬型による大雪事例(2009 年 1 月 2 日)。(a)GSM 大降雪量ガイダンス(2009 年

1 月 1 日 00UTC 初期値の FT=30 前 24 時間降雪量(cm/24h))(b)前 24 時間降雪量の観測値

(cm/24h)。(c)地上天気図(2009 年 1 月 2 日 00UTC)

(a) (b) (c)

36

を修正する必要がある。その他、地形による気温の

効果を取り入れているため、標高の変化が激しい地

域では格子毎に降雪量が大きく変わることに留意

する必要がある。

(3.7) 今後の改良事項

前3,6,12,24時間 大降雪量は、1時間 大降雪量

を積算して求めているため、積算時間が長くなるに

つれて、積雪の圧密・沈降効果や融解の影響で降雪

量を過大に予報してしまうことになる。今後は圧

密・沈降効果を取り入れることによって、予報精度

を改善していく予定である。 (4) 格子形式気温ガイダンス

格子形式気温ガイダンスは、5km格子で1時間毎

の気温を予報し、その予報値は 大降雪量ガイダン

スや降水種別ガイダンスの入力値として利用され

る。GSM及びMSM格子形式気温ガイダンスの仕様

を表2.1.7に示す。以下、格子形式気温ガイダンスの

作成手法を解説し、事例を通じて予報特性を紹介す

る。

(4.1) 作成方法

格子形式気温ガイダンスの作成には以下の①~

③のステップを踏む。 ①アメダス地点で係数を作成 ②係数と説明変数を5km格子点に配置 ③5km格子点でガイダンス値を計算

①5km格子点に配置する基となる係数を、アメダ

ス地点毎に作成する。係数作成には、従来から運用

している地点形式気温ガイダンス(小泉 2007; 松澤 2008)と同じ手法を用いるが、係数学習のため

のアメダス気温観測値を、アメダス地点におけるモ

デル格子高度に高度補正した値を使用するように

変更している。実際の地形とモデル地形との違いに

伴う標高差により、地点形式気温ガイダンスの係数

には一定の高度に関するモデル予測値のバイアス

が含まれており、これを取りのぞいた上で、5km格

子点に係数を配置するための処理である。なお、こ

のガイダンスは先に述べた通り、 大降雪量及び降

水種別ガイダンスで使用することから、湿潤時を想

定して高度補正には気温減率5.0℃/kmを採用した。 ②係数と説明変数を5km格子点に配置する処理

を行う。係数は5km格子点に隣接する4つのアメダ

ス地点係数の単純平均値、説明変数は5km格子点を

囲むモデル4格子の線形内挿値を配置している。 ③5km格子点に配置された係数と説明変数を用

いて計算処理を行う。ここで計算された値は、モデ

ル格子高度における気温予報値となっているため、

5km格子点実高度に補正(高度補正は①と同じく

5.0℃/kmを採用)を行い、これが 終製品として格

子形式気温ガイダンスとなる。 (4.2) 事例で見る特性

次に、事例を通じて格子形式気温ガイダンスの予

報特性を紹介する。以下で紹介する事例は前項の降

水種別ガイダンス、 大降雪量ガイダンスで取り上

げたものと同じであり、天気図等の詳細については、

図2.1.12、図2.1.16、図2.1.17を適宜参照願いたい。 図2.1.18の上段左から、2009年3月6日15UTCのア

メダスによる気温観測値(以下、アメダス気温)、

2009年3月6日00UTC初期値FT=15のGSM格子形

式気温ガイダンス予報値、5km格子点実高度分布を

示す。この事例は図2.1.12で示したとおり、北日本

を低気圧が通過して北海道東部を中心に雨が観測

され、降水種別ガイダンスでも同地域で概ね雨を予

報していた。同地域の気温を見ると(赤線内の領域)、

GSM格子形式気温ガイダンスはアメダス気温に近

い値を予報している。このため、降水種別ガイダン

スにおいても概ね観測と一致した予報ができたも

のと考えられる。また、北海道西部や内陸部でGSM格子形式気温ガイダンスの予報値が周囲のアメダ

ス気温よりも低温な領域が広がっている(ピンク線

表2.1.7 格子形式気温ガイダンスの仕様 ガイダンス名 GSM格子形式気温ガイダンス

初期時刻(UTC) 00,06,12,18 00,06,12,18 03,09,15,21利用モデル GSM予報時間 FT=03,04,…,83,84 FT=01,02,…,14,15 FT=01,02,…,32,33対象領域

説明変数

係数5km格子点に隣接するアメダス4地点平均値

(地点形式気温ガイダンスと同じ手法でアメダス地点毎、説明変数毎に作成)

5km格子点を囲むモデル4格子の線形内挿値(説明変数の種類は地点形式気温ガイダンスと同じ)

MSM格子形式気温ガイダンス

MSM

5km格子

37

内の領域)。この領域では図2.1.18上段右の5km格子

点実高度分布に示したとおり、標高1000m以上の

5km格子点が多数存在し、高度補正がこれら格子点

で特に強く効いているためである。他にも東北、中

部、中国、四国、九州各地方の内陸部においても同

様に出現している。このように、格子形式気温ガイ

ダンスでは、5km格子点が高い高度に存在する地域

では常に周囲に比べて低温となることに留意願い

たい。 図2.1.18の中段左から、2009年1月2日00UTCのア

メダス気温、2009年1月1日00UTC初期値FT=24のGSM格子形式気温ガイダンス予報値、2009年1月1日03UTC初期値FT=21のMSM格子形式気温ガイダ

ンス予報値を示す。この事例は図2.1.16で示したと

おり強い冬型の気圧配置で関東甲信越の山沿いを

中心に雪が観測され、図は省略するが降水種別ガイ

ダンスにおいても同地域で雪を予報していた。同地

域の気温を見ると(赤線内の領域)、GSM、MSM格

子形式ガイダンスともにアメダス気温に近い値を

予報している。この結果、降水種別ガイダンスにお

いても観測と同じく雪を予報できたものと考えら

れる。一方、関東地方の気温を見ると(ピンク線内

の領域)、MSM格子形式ガイダンスでは概ねアメダ

ス気温に近い値を予報しているが、GSM格子形式気

温ガイダンスはアメダス気温よりもやや低い値を

予報している。図は省略するが、同じ時刻において

関東地方の多くのGSM地点形式気温ガイダンスが、

アメダス気温に比べて低温を予想していた。これら

低温を予想する地点形式気温ガイダンスの係数が

周囲の5km格子点に配置された結果、低温を予想す

る5km格子点が多くなり、結果として関東地方にア

メダス気温よりも低温な領域が広がったと考えら

れる。このように、格子形式気温ガイダンスは地点

形式気温ガイダンスの係数を用いていることから、

地点形式気温ガイダンスの精度に大きく左右され

るという特性がある。地点形式気温ガイダンスの精

度は、MSMの方がGSMよりも良い(松澤 2008)ため、MSM格子形式気温ガイダンスの方がGSM格

子形式気温ガイダンスに比べてアメダス気温に近

い分布を表現する場合が多い。 図2.1.18下段左から、2009年3月3日03UTCのアメ

ダス気温、2009年3月2日00UTC初期値FT=27のGSM格子形式気温ガイダンス予報値、5km格子点実

高度分布を示す。この事例は図2.1.17で示したとお

り、関東地方の南を低気圧が通過して関東甲信地方

では多くの地点で雪が観測された。図は省略するが、

降水種別ガイダンスにおいても同地方で雪を予報

していた。同地方の気温を見ると、GSM格子形式気

温ガイダンスは概ねアメダス気温に近い値を予報

しており、結果として降水種別ガイダンスにおいて

も観測と一致する予報ができたものと考えられる。

また同地方では所々で周囲のアメダス気温よりも

低温となっているが(赤線内の領域)、この領域で

は図2.1.18下段右の5km格子点実高度分布に示した

とおり、標高1000m以上の5km格子点が多数存在し

ている。このため、図2.1.18上段の例で述べた高度

補正の効果が同様に利いているものと考えられる。

(4.3) 今後の課題

格子形式及び地点形式ガイダンスで使用してい

る係数は、年間データを用いて各種パラメータを

適化したものである。今後は、本ガイダンスの目的

を踏まえ、冬期の湿潤時に特化した係数のパラメー

タ調整を行うなど、ガイダンスの精度向上に努めて

いきたい。 参考文献

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象要素を考慮した新積雪密度の推定式. 雪氷,66,

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ルを側面境界とするメソ数値予報モデルの統計検

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Forms in Japan Based on Wet-bulb Temperature. J.

Agric. Meteor., 60, 733-736.

38

図 2.1.18 2009 年 3 月 6 日 15UTC(上段)、2009 年 1 月 2 日 00UTC(中段)、2009 年 3 月 3 日 03UTC(下段)のアメダスによる気温観測値(左から 1 列目)、GSM 格子形式気温ガイダンス(同 2 列目)に

よる気温予報値、MSM 格子形式気温ガイダンスによる気温予報値(中段左から 3 列目)、5km 格子点実

高度分布(上、下段左から 3 列目)。

39

2.1.4 発雷確率ガイダンス1

(1)はじめに

平成 21(2009)年 7 月 7 日 00UTC 初期値から、

GSM 発雷確率ガイダンス(以下 GSM-PoT)および

MSM 発雷確率ガイダンス(以下 MSM-PoT)を改

良し、両者の予測手法を一致させた。ここでは、新

ガイダンスの仕様および検証結果、利用上の留意点

について述べる。 旧 GSM-PoTは 2001年 3月に運用開始されたが、

以下のような問題があった。 ・ 関東中部領域の発雷で予測式が作成されている

ため、全国的な雷の特性に合っておらず、特に

北日本や沖縄で問題が見られた。 ・ 抑止条件(SSI2・対流抑止エネルギー・気温が

-10℃となる高度がある条件を満たすと強制的

に 0%とする)により、問題となる事例があっ

た。 ・ RSM(2007 年 11 月廃止)で作成された予測式

をそのまま GSM に対して利用していた。 一方、旧MSM-PoTは2007年5月16日に航空用と

して運用開始し(高田 2007)、2008年5月27日に一

部改良した(松澤ほか 2008)。これによって

GSM-PoTが抱えていた問題点を修正し、より高い

精度となったが、高確率において空振りが多く、確

率の信頼度に問題点があった。 今回の変更では、旧MSM-PoTの予測手法を基に

し、その問題点を改善することにより、精度、特に

確率の信頼度を向上させた。 (2)仕様

付録 A.2.5 に新ガイダンスの仕様を示す。以下に

主な特徴を述べるが、1と 2に関しては旧MSM-PoTからの変更はない。3~5 は旧 MSM-PoT から変更

した点であり、これによって確率の信頼度が向上し

た。 1. 全国をカバーする雷監視システム(LIDEN)

の標定データを目的変数とした。 2. 統計手法として、2 値データ(現象の有無)

の予測に適したロジスティック回帰を採用

した。 3. 説明変数として新規にモデル降水量を採用

し、大気安定度の指標として CAPE3、SSIの 2 つに限った。これら 3 つの説明変数は重

要であるため、必ず選択するようにした。 4. 格子ごとの予測式ではなく、日本付近の全格

1 高田 伸一 2 SSI:Showalter’s Stability Index 3 CAPE:Convective Available Potential Energy

子を 35 区域に分割し、区域ごとに予測式を

作成した。これは、サンプル数を増やすこと

によって精度の高い回帰式を作成し、かつ各

地方の発雷特性にも対応させるためである。 5. 予報時間で予測式(の係数)を替え、予報時

間と共に低下する数値予報の精度に応じ、次

第に高確率が出にくくなるようにした。 新ガイダンスの予測式を作成するために利用した

数値予報は、GSMは2007年11月21日から運用開始

された20kmGSMで、MSMは2007年5月16日から運

用開始された33時間予報MSMである。性能評価期

間及び準ルーチン運用期間のデータも含め、GSM、

MSM共に2009年3月までの約2年間の予測値を使っ

ている。 上記で日本付近を35区域に分けて予測式を作成し

ていることを述べたが、図2.1.19にその区域分けを

示す。区域分けは、以下のように3段階で行った。 ① 格子単位の予測式(ロジスティック回帰式)

を作成する4。 ② ①の予測式を用いて発雷確率の格子点値を1

年分作成する。 ③ ②の格子点値を階層型クラスター分析の1

手法であるウォード法を使ってクラスター

分けし、35クラスターとなる階層で分割する。 なお、区域ごとに予測式を変えた場合、境界で予

4 格子ごとの予測式が出来ればそれで十分とも言えるが、

サンプル数が少ないため、格子ごとの予測式の精度は区域

ごとの予測式の精度より低いことを確かめている。

図 2.1.19 発雷確率ガイダンスの予測式の作成区分。35 区

域(1-9,a-z)ごとに予測式を作成している。

40

図 2.1.22 MSM-PoT の予報時間別の信頼度曲線。上

は旧 MSM-PoT、下は新 MSM-PoT。その他は図

2.1.20 に同じ。

測値が急に変化する可能性がある。これを緩和する

ために、境界に接する格子では周辺8格子の予測式

も使って予測し、平均して 終的な格子点値として

いる。 新ガイダンスは格子点予測値であるが、現YSS用

にGSM-PoTの二次細分区域の予測値5も配信してい

る。ただし、次期YSSでは、格子点値をそのまま配

信し、二次細分区域の予測値は廃止する。また、航

空用のガイダンスとして、MSM-PoTの空港の格子

点値(空港を囲む4格子点値の線形内挿値)を配信

する。

(3)統計検証

統計検証は、ガイダンスの性能をより正しく評価

できるように交差検定で行った。ここで利用した交

差検定は、2008年度のうち各月のデータを除いて予

測式を作成し、除いた月で検証する方法である。予

測式を12回作成する必要があるが、まるごと1ヶ月

間のデータを除くため、実際の性能に近い評価が可

能と考えられる。 図2.1.20に新旧GSM-PoT、新旧MSM-PoTの月別

ブライアスキルスコア(BSS)を示した。BSSは気

候値予報が0%、完全予報が100%となるスコアであ

る。GSM-PoTは00,06,12,18UTC初期値のFT=9-36の予測、MSM-PoTは 03,09,15,21UTC初期値の

FT=6-33の予測とし、両者の対象時刻を一致させて

検証している。検証は図2.1.19の全格子で行ってい

る。なお、旧GSM-PoTの目的変数は他のPoTと異な

るため、旧GSM-PoTのBSSは実際より低めになっ

ていることに留意願いたい。図からわかるように、

年間を通して新GSM/MSM-PoTは旧GSM/MSM-

5 二次細分区域の中心位置の格子点値(中心を囲む 4 格子

点の線形内挿値)としている。

PoTのスコアを上回っていることがわかる。また、

新GSM-PoTと新MSM-PoTを比べると、7-8月は新

MSM-PoTの精度が高く、10-12月では新GSM-PoTの精度が高いことがわかる。 図2.1.21はFT別BSSである。図2.1.20と同じく

GSM-PoTとMSM-PoTの初期時刻には3時間の差が

あるが、FT=36までは対象時刻を合わせて検証して

0

5

10

15

20

25

30

4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3月

旧GSM-PoT

新GSM-PoT

旧MSM-PoT

新MSM-PoT

図 2.1.20 2008 年度における、新旧 GSM-PoT、新旧

MSM-PoT の月別ブライアスキルスコア(%)。図 2.1.19の全格子における検証。

図 2.1.21 新旧 GSM-PoT、新旧 MSM-PoT の予報時

間別ブライアスキルスコア(%)。その他は図 2.1.20に同じ。予報時間は GSM のものを示す。

41

いる。図から、予報時間を通じて新PoTは旧PoTを上回っていること、旧MSM-PoTは予報時間による

精度低下が大きかったが新MSM-PoTは小さいこと

がわかる。新PoT同士を比べると、新MSM-PoTの方が高い精度であるが、 FT=30 以降では新

GSM-PoTとほぼ同程度となっている。また、新

GSM-PoTは、FT=84においてもBSSが5%以上とな

っており、3日後まで気候値予測を上回っている。 図2.1.22に新旧MSM-PoTのFT別信頼度曲線を示

す。新MSM-PoT(下)は傾き45°の直線に近く、

高い信頼度であることがわかる。また旧MSM-PoT(上)は予報時間と共に確率の信頼度は低下してい

たが、新MSM-PoTは予報時間による信頼度の低下

が小さい。なお、図は省略するが、GSM-PoTにお

いても同様で、新GSM-PoTは信頼度が向上し、か

つ予報時間による信頼度の低下も小さい。

図2.1.23は確率からカテゴリー予報へ変換した際

の精度、つまり各確率値を閾値として発雷の有無を

予測した場合のスレットスコア(TS)を示している。

発雷予想を行っている全国64空港において検証し

た結果であり、実況として各空港から20km以内の

発雷を使っている6。図から、旧GSM-PoTの精度は

低く、新MSM-PoT・新GSM-PoT・旧MSM-PoTの3つに大きな差がないことがわかる。旧MSM-PoTが高確率でTSが高いのは、高確率の頻度が多いためで

あり、実際の精度はTSのピーク値で見る必要がある。

ま た 、 図 か ら は も 高 い TS と す る に は 新

GSM/MSM-PoTの20-25%以上で発雷を予測した場

合であることがわかる。ただし、確率の定義からは

6 目的変数(60km 四方の発雷の有無。付録 A.2.5 参照)

とは異なり、発雷の有無を決める範囲が狭いことに注意願

いたい。

20%で発雷ありとした場合、5回の内1回のみ適中し、

4回が空振りとなることに注意が必要である。また

50%で発雷ありとした場合には、適中と空振りの数

が同じになるが、図からはその時のスレットスコア

は0.1程度とかなり低い。これは50%以上で発雷あり

とした場合には、雷の捕捉率が低くなることを意味

する。

(4)事例検証

まず新 PoT の夏の特徴的な事例を示すことによ

り、その予報特性を見る。図 2.1.24 は 2008 年 7 月

21 日 21UTC 初期値の FT=33 の予測で、上段に新

旧 MSM-PoT と発雷実況、下段に説明変数として使

われている FRR3(前 3 時間降水量の 20km 四方内

の 大値)、CAPE(1/1000 単位)、SSI を示してい

る。旧 MSM-PoT は 50%以上の高確率が東日本に広

がっているが、新 MSM-PoT では 50%以上の区域は

東北南部~関東北部~北陸と狭くなっている。実況

も東北南部~関東北部で発雷している程度である。

説明変数である SSI、CAPE を見ると、東日本では

広い範囲で大気不安定が予測されているが、FRR3は東北南部~関東北部~北陸に限られている。新

MSM-PoT は大気安定度だけでなく FRR3 も説明変

数に加えているため、高確率の区域を狭くしている

ことがわかる。一方、青森県東部の発雷においては、

旧 MSM-PoT は 40%であるにもかかわらず新

MSM-PoT は 10-30%と低くなっている。図を見る

と、この地域では安定度が悪いものの FRR3 はほと

んど予想されていないため、新 MSM-PoT は低い確

率に留まっている。このように FRR3 を説明変数と

して用いていない旧 MSM-PoT と異なり、新

MSM-PoT は大気安定度が悪く、かつ FRR3 が予測

されている区域に高確率を予測するといった特徴が

あることに留意願いたい。当然ながら「FRR3 が予

想され、かつ大気安定度が悪い区域」=「発雷域」

とは必ずしもならないため、目先では高層観測や収

束域なども参考にして判断することが精度向上に繋

がるであろう。なお、ここでは新 MSM-PoT の結果

を示したが、新 GSM-PoT についても同じく、FRR3と大気安定度に大きく左右される。 次に、予報時間によって確率が変化する例を示す。

図 2.1.25 は関東平野の広い範囲で発雷となった

2008 年 8 月 4 日 09UTC に対する、過去 4 初期値の

新旧 GSM-PoT の予測を示している。この日はかな

り以前から大気不安定が予測されており、旧

GSM-PoT は関東平野において FT=81(3 日以上前)

から 80%を超える高い確率を予測している。しかし、

FT=81 の段階で場所・時間を特定して不安定を予測

するのはかなり難しく、確率が高すぎると思われる。

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0.14

0.16

0.18

0.2

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80

旧GSM-PoT

新GSM-PoT

旧MSM-PoT

新MSM-PoT

図 2.1.23 各確率(横軸:0-80%)を閾値として発雷を予

測した場合のスレットスコア。発雷予測を行ってい

る全国 64 空港での検証結果。検証期間は 2008 年度

の 1 年間。

42

一方、新 GSM-PoT は予報時間で予測式(の係数)

を替えているため、FT=81 の段階では高確率が抑え

られているが、対象時刻が近づき予報時間が短くな

るにつれ、関東付近では次第に確率値が上がってい

くことがわかる。予報時間が短くなり GSM の精度

が上がるにつれて、同じ不安定度でも次第に確率が

高くなるのは当然の結果と言える。一方、九州では

逆に次第に確率が下がっており、実況でも佐賀県の

一部を除き発雷していない。この例では新しい予報

になるにつれ、発雷しにくい予測に変わったためで

ある。 図 2.1.26は冬季雷の例で、 2008年 12月 24日

00UTC初期値FT=30の新旧GSM-PoT、同日03UTC初期値FT=27の新MSM-PoT、および実況と説明変

数である。図2.1.20に示したように新PoTは晩秋~

初冬の雷に対する精度が高く、この例でも発雷実況

とほぼ同じ区域に高確率を予測している。FRR3、CAPEを見ると、やはりFRR3とCAPEが予測されて

いる所に高確率が予測されている。旧GSM-PoTも日本海側の発雷はある程度予測しているが、冬には

図 2.1.24 2008 年 7 月 21 日 21UTC 初期値 FT=33 の新旧 MSM-PoT の予測と実況(上)、MSM-PoT の説明変数 である FRR3、CAPE、SSI(下)。FRR3 は MSM3 時間降水量(20km 内の 大)で、CAPE は 1/1000 してある。

全て発雷確率を計算している領域のみ描画している。

図 2.1.25 2008 年 8 月 4 日 09UTC の実況とその時刻を予測した過去 4 初期値分の新旧 GSM-PoT の予測。

43

ほとんど発雷のない北海道東部で高確率となってい

る。これは、旧GSM-PoTは関東中部地方の雷で予

測式を作成しているためであり、冬には北陸の冬季

雷の予測式が北海道に適用されていることに起因し

ている。新PoTは全国35区域に分けて予測式を作成

しているため、冬に発雷がほとんどない北海道では

高確率を予測することがない。一方、発雷している

岩手県の太平洋沿岸でも、冬にはほとんど発雷が観

測されないため、この発雷は特異事例とみなされ、

FRRはある程度予測されているものの、新PoTは

10%以下と低くなっている。

(5)まとめと利用上の留意点

新 GSM-PoT は旧 GSM-PoT の欠点を修正し、大

きく精度を向上させた。しかしながら、図 2.1.23 で

示したように、確率を閾値として発雷の有無を決め

た場合の平均的なスレットスコアは 0.2 程度であり、

依然目先での修正が必要である。新 MSM-PoT は旧

MSM-PoT の「高確率の信頼度が低い」という欠点

を改良し(図 2.1.22)、高確率の空振りが大きく減

った。ただし、図 2.1.23 で示したように発雷の有無

の精度においては旧MSM-PoTを大きく改善したわ

けではない。 後に利用上の留意点を述べる。

・ 新GSM-PoTと新MSM-PoTは同じ予測手法とな

った。よって両ガイダンスに大きな差がある場合

は、モデルの予測をチェックして、どちらが良い

かを判断して頂きたい。場合によっては両ガイダ

ンスの平均的な予測とすることも意味がある。な

お、統計的精度検証では 7-8 月は新 MSM-PoT の

方が、10-12 月は逆に新 GSM-PoT の方が高い精

度であった。 ・ 説明変数で主に効いているのは FRR3 と CAPE、

SSI であり、FRR3 が予測され大気安定度が悪い

場合は高い確率となる。新 PoT で高確率が出た場

合には、主にモデル降水と大気安定度をチェック

し、モデルの予測値の妥当性を考慮した上で新

PoT の適用を判断願いたい。 ・ 熱雷の予測は難しく、数値予報モデルで大気安定

度が悪く降水も予測されていたとしても、発雷に

至らない例が時々みられ、逆に降水が予想されて

いない所でも発雷となる場合がある。一方、晩秋

~初冬の雷に対しては精度が高い。 ・ 新 MSM-PoT は確率の信頼度は向上するが、高確

率の頻度が減るため、図 2.1.23 で示したように、

確率から発雷の有無を予測する場合には、今まで

より閾値を下げる必要がある。 ・ 統計手法を用いているため、通常発雷しない時期

に発雷するような特異現象に対しては高確率が出

にくい。例えば冬の北日本に季節外れの暖気が入

り発雷となることがあるが、このような場合には

高確率は出にくい。 ・ 2-4 月に強い寒気が南下した場合に、日本海側で

は-10℃高度が 3km未満になる冬季雷の予測式が

適用されて高確率が出る場合がある。しかし、こ

の時期は初冬と同じ寒気が流入しても大規模な発

雷になることは少なく、空振りする例が見られる7。 参考文献

高田伸一, 2007:航空気象予報ガイダンス. 平成19年度数値予報研修テキスト, 気象庁予報部, 87-93.

松澤直也,藤枝鋼,高田伸一,古市豊, 2008:航空気象予

報ガイダンスの検証. 平成 20年度数値予報研修テ

キスト,気象庁予報部, 82-90

7 2-4 月は海面水温が低く、初冬に比べて海面からの上向

き顕・潜熱フラックスが少ない。これにより、電荷を生成

する固形降水の量が少なくなるためと考えている。

図 2.1.26 2008 年 12 月 24 日 00UTC 初期値 FT=30の新旧 GSM-PoT、03UTC 初期値 FT=27 の新

MSM-PoT、および実況と説明変数である FRR3と CAPE(共に MSM の予測)。図のスケール等

は図 2.1.24 に同じ。

44

2.1.5 その他のガイダンス1 (1) 平均降水量、降水確率ガイダンス

次期 YSS のガイダンスでは、平均降水量、降水確

率ともに、ガイダンスの作成手法(安藤 2007)に

変更はないが、以下の点を変更する予定としている。 ・GSM ガイダンス、MSM ガイダンスともに、カル

マンフィルターの係数をモデルの初期時刻で層別化

する。 ・GSM ガイダンスでは、カルマンフィルターの係

数の予報時間による層別化を 12 時間から 6 時間に

細分化する。 ・MSM ガイダンスでは、予報の解像度を 20km 格

子から 5km 格子に高解像度化する。 現在のガイダンスにおいては、カルマンフィルタ

ーの係数は全初期時刻で共通で、GSM ガイダンス

では予報時間 12 時間単位で層別化されている

(MSM ガイダンスは 6 時間単位)。同じ係数が全初

期時刻で使用されるため、00UTC 初期値において

03 から 15UTC までの降水を求める係数と 12UTC初期値において15から03UTCまでの降水を求める

係数が同じになるなど、係数の学習に降水特性の日

変化が反映されにくくなっている(MSM ガイダン

スでも同様のことが起こる)。係数を初期時刻で層別

化することにより、学習の機会が 1 日 2 回から 1 回

へ減ることになるが、常に同じ時刻の降水を用いて

係数を計算、学習するようになるため、降水特性の

日変化を反映しやすくなると考えられる。また、

GSM ガイダンスにおいては、予報時間による層別

化を 12 時間単位から 6 時間単位に細分化すること

により、降水特性の日変化をより細かく学習できる

ようになる。 MSM ガイダンスは、平均降水量、降水確率とも

に解像度を 20km 格子から 5km 格子に高解像度化

する。予報する 5km 格子は次期 YSS で使用される

防災時系列格子と同一のもので、日本の陸上を中心

とした約 24000 格子について係数を作成し、海上は

これらの係数を外挿して利用する。 (2) 明後日の日最高、最低気温ガイダンス

週間予報用に明後日の日最高、最低気温を予報す

るガイダンス(以下、明後日最高最低気温ガイダン

ス)を、GSM気温ガイダンスに追加する。 明後日最高最低気温ガイダンスは、週間予報作業

に使用するため、目的変数である最高、最低気温の

予報対象時刻を00~24JSTに設定している。各初期

時刻における予報時間は表2.1.8の通りで、例えば

1 (1)小泉 友延、(2)松澤 直也、(3)藤枝 鋼、(4),(5)澤田 康子、(6)蟻坂 隼史

00UTC初期値の明後日最高気温ガイダンスは

FT=39~FT=63の24時間における最高気温を予報

する。なお、従来から運用をしているGSM気温ガイ

ダンス(以下、従来のガイダンス(小泉 2007; 松澤 2008))では、短期予報作業に使用するため、予

報対象時刻を最高気温は09~15JST、最低気温は00~09JSTにそれぞれ設定している。その他の仕様は

従来のガイダンスと同様である。

(3) MSM定時風ガイダンス

大気汚染気象予報を始めとする様々な予報業務に

利用するため、MSM定時風ガイダンスを作成する。 大気汚染気象予報には、大気汚染の発生する可能

性の高い時刻の特定が重要であるため、MSM定時

風ガイダンスの予報時間の間隔は、GSM定時風ガイ

ダンスとは異なり、1時間とする。予報時間は、MSMと同様に15時間または33時間である。MSM定時風

ガイダンスの作成には、GSM定時風ガイダンスの作

成方法(井手 2007)と同様にカルマンフィルター

及び頻度バイアス補正を用いている。 現行の風ガイダンスの特性や仕様については、藤

枝(2008)及び巻末付録A.2.3を参照されたい。 (4) 天気ガイダンス

現在、天気ガイダンスは GSM の平均降水量、日

照率、気温の各ガイダンス及びモデルの降水量

(FRR)、気温、相対湿度を用い、雨雪・晴れ曇り

判別を行うことにより作成している(鎌倉 2007)。次期 YSS では大きく以下の 3 点を変更する。

① 従来は気温と相対湿度を用いて雨雪判別を

行っていたが、5km 格子の降水種別及び降水

量ガイダンスを用いた判別に変更する。雨雪

判別時に用いる降水量の基準値は従来と変

更がない。 ② GSMガイダンスの予報時間を 84時間に延長

する。 ③ MSM についても天気ガイダンスを作成する。 これにより天気ガイダンスの作成手法は次の通り

とする。また、本手法は基本的に次期 YSS での天気

の決定手法と整合している。 GSM、MSM ともに日照率、降水量、降水種別の

各ガイダンスを用いて 5km 格子毎の天気ガイダン

表 2.1.8 明後日最高最低気温ガイダンスの予報時間

初期時刻(UTC) 予報時間

00 FT=39~FT=6306 FT=57~FT=8112 FT=51~FT=7518 FT=45~FT=69

45

スを求める。これを利用して GSM については、

20km 格子毎に天気ガイダンスを作成する。MSMについては 5km 格子の天気ガイダンスを作成する。

5km 格子の天気ガイダンスは以下の条件で決定す

る。 (条件 1)降水種別が「雨」かつ降水量 1.0mm 以上

の場合は「雨」 (条件 2)降水種別が「雨か雪」かつ降水量 1.0mm

以上の場合は「雨か雪」 (条件 3)降水種別が「雪か雨」かつ降水量 0.5mm

以上の場合は「雪か雨」 (条件 4)降水種別が「雪」かつ降水量 0.5mm 以上

の場合は「雪」 (条件 5)条件 1 から 4 のいずれにも該当しない場

合は、5km 格子の日照率ガイダンスに従

い「晴れ」または「曇り」を決定する。 GSM の 20km 格子の天気ガイダンスを求めるにあ

たって、先に求めた 5km 格子の降水の格子数(条

件 1 から 4 に該当)の総和を元に 20km 格子中に占

める割合を求め、降水ありまたは降水なしを判定す

る。降水の格子の占める割合が半分以上の場合は降

水ありとする。降水ありの場合は、5km 格子の天気

に重みを付加して、重みの合計が降水ありの全格子

数に対する割合から 20km 格子の天気を決定する。

重みは「雨」は 1、「雨か雪」は 2/3、「雪か雨」は

1/3、「雪」は 0 とする。求めた割合が 85%を超える

場合は「雨」、85%以下かつ 15%を超える場合は「雨

か雪」、15%以下の場合は「雪」とする。 一方、20km 格子に占める 5km 格子の降水の割合

が半分未満の場合(降水なしに該当)は、20km 格

子の日照率ガイダンスの結果に従い、晴れまたは曇

りを決定する。降水ありの場合と相違し、降水なし

の場合は、5km 格子の条件 5 に該当する天気は利用

しない。従来は、日照率ガイダンスに加えて FRRを用いて判定を行っていたが、FRR の利用を廃止し

日照率ガイダンスのみを用いて晴れ曇りを判定する。

日照率ガイダンスが 0.5 以上の場合を「晴れ」、0.5未満の場合を「曇り」とする。 (5) 日照率ガイダンス

日照率ガイダンスの作成手法については、従来の

ガイダンスと同様である(鎌倉 2007)。なお、日照

率ガイダンスで求める値は曇天率(日照なしの場合

に 100%)である。従来の日照率ガイダンスとの変

更点は以下の通りである。 ① GSM ガイダンスの予報時間を 84 時間に延長

する。 ② MSM についても日照率ガイダンスを作成す

る。

(6) 最小湿度ガイダンス

最小湿度ガイダンスは、地上気象官署における日

最小湿度を予報する地点形式のガイダンスである。 従来は、GSM最小湿度ガイダンスのみを作成してい

た。次期YSSに向け、新たにMSM最小湿度ガイダ

ンスを作成する。 MSM最小湿度ガイダンスの作成手法は、GSM最

小湿度ガイダンスと同じである。詳細は安藤ほか

(2007)を参照されたい。なお、日最小湿度の予報

には00-21JSTのMSM予報値を用いている。予報時

間の制限により、作成初期時刻は03,09,15UTCのみ

である。各初期時刻に対する予報対象時間について、

表2.1.9にまとめる。

参考文献

安藤昭芳, 2007: 降水確率、平均降水量、最大降水量

ガイダンス. 平成19年度数値予報研修テキスト,

気象庁予報部, 50-59.

安藤昭芳, 鎌倉智之, 北畠淳, 2007: その他の天気予

報、防災気象情報支援ガイダンス. 平成19年度数

値予報研修テキスト, 気象庁予報部, 76-81.

井手和彦, 2007: 風ガイダンス. 平成19年度数値予

報研修テキスト, 気象庁予報部, 67-72.

鎌倉智之, 2007: 天気ガイダンス. 平成19年度数値

予報研修テキスト, 気象庁予報部, 73-75.

小泉友延, 2007: 気温ガイダンス. 平成19年度数値

予報研修テキスト, 気象庁予報部, 60-66.

藤枝鋼, 2008: 風ガイダンス. 平成20年度数値予報

研修テキスト, 気象庁予報部, 69-72, 83-84, 116.

松澤直也, 2008: 気温ガイダンス. 平成20年度数値

予報研修テキスト, 気象庁予報部, 67-69.

表 2.1.9 MSM 最小湿度ガイダンスと予報対象時間 初期時刻 今日 明日

09UTC(前日 18JST) FT=06-30

15UTC(当日 00JST) FT=00-24

03UTC(当日 12JST) FT=12-36

46

2.2 空域支援資料1

2.2.1 国内悪天12時間予想図の改良

国内悪天12時間予想図(FBJP112, 212, 312, 412)は、航空機の運航や国内悪天予想図(FBJP)作成

の支援を目的として、空域に関する悪天要素を4面図で表示した資料である(菊池 1983)。各悪天要素

は、国内航空悪天GPVの12時間予報値を元に算出さ

れている。4面図の中でFBJP112には、乱気流に関

する要素として、ジェット軸、乱気流域(鉛直ウィ

ンドシアー(VWS)が閾値以上の領域)及び、積乱

雲域(積乱雲量が2/8以上である領域)を表示してい

る。これらのうち積乱雲域については、2009年3月に国内航空悪天GPVの積乱雲の予測手法を変更し

たことにより、主に夏季の予測精度が向上した。ま

た乱気流域については、2009年7月にVWSの閾値を

見直したことにより、適切な領域で乱気流域が表示

されるようになった。ここではまず積乱雲予測手法

の改良の概要を述べ、続いてVWSの閾値変更につい

て述べる。積乱雲予測手法の変更についての詳細は

工藤(2009)を参照されたい。 (1)積乱雲予測手法の改良の概要

国内航空悪天GPVでは、MSMの各格子点で診断

的に求めた対流雲頂高度に基づき、積乱雲の雲量と

雲頂高度を算出している。対流雲頂高度の診断は、

MSMのKain-Fritsch対流パラメタリゼーション

(KFスキーム)で用いられている手法に近い方法で

行っているが(工藤 2007a)、異なる部分もあった

ため、MSMの手法に近づけることで予報精度を向

上させることを目的として以下の点を変更した。

従来は最下層付近のみに限っていた対流雲頂高

度の診断に利用する気塊の探索範囲を、地上との

気圧差が300hPaになる高度まで拡張 MSMのKFスキームに2007年5月から導入され

ている相対湿度に関する摂動項の導入 最適化パラメータの調整

また、これらと併せて積乱雲の判別条件の見直しも

行った。 図2.2.1に、雷監視システム(LIDEN)で観測さ

れた対地雷を実況とした、新旧手法での積乱雲予測

の検証結果を示す。図は、積乱雲量の閾値を1/8, 2/8, …,8/8 として積乱雲を予測した場合の、予報面積率

と発雷に対する遭遇率比の関係を表している。予報

面積率は全領域の面積に対する予報領域の面積の割

合を、遭遇率比は全領域での発雷の発生率に対する

1 工藤 淳

予報領域での発雷の発生率の割合を表し、同じ予報

面積率で比較した場合、遭遇率比が大きいほど予測

精度が高いと言える。検証期間は2008年3月から

2009年2月で、図にはFT=1から15までの分割表値を

全て足し合わせて算出したスコアを示している。新

手法は全ての閾値で旧手法を上回っており、積乱雲

量2/8を閾値としているFBJP112の積乱雲予測精度

も向上した。ただしこれは1年間を通した検証結果

であり、季節別に見ると夏季の改善が大きく、その

他の季節ではほぼ同等であった(図略)。

図 2.2.2 MOD および SEV の乱気流に対する、VWS の

閾値(単位は kt/1000ft)別のスキルスコア。FT=0 か

ら 15 までの分割表値を足し合わせてスコアを算出し

た。エラーバーは 95%信頼区間。

図 2.2.1 新手法(NEW)と旧手法(OLD)による積乱

雲量の、発雷に対する遭遇率比(EPR)。横軸は予報面

積率(Volume Rate)。FT=1 から 15 までの分割表値を

足し合わせてスコアを算出した。エラーバーは 95%信

頼区間。

1/8

2/8

3/8 4/8

5/8 6/8 7/88/8

1/8 2/8

3/8 4/8 5/86/87/88/8

47

(2)鉛直ウィンドシアーの閾値の変更

FBJP112では2009年6月まで、並(MOD)の乱

気流に対するVWSの閾値は16kt/1000ft、強(SEV)

の乱気流に対するVWSの閾値は26kt/1000ftとして

いた。これらの閾値は2001年3月のMSMの運用開始

時に決められた値であるが、その後、MSMの大幅

な改良や国内航空悪天GPVでのVWSの算出方法の

変更(工藤 2007b)が行われたことにより、現状で

はMODの乱気流に対してはおよそ12kt/1000ftを閾

値とするのが最適となっている(工藤 2008)。 図2.2.2に、MODおよびSEVの乱気流に対する

VWSの閾値別のスキルスコアを示す。ここでは各航

空機観測通報(C-PIREP、PIREP、ARS)を実況

とし、通報地点に最近接の格子(水平40km、鉛直

2000ft、1時間間隔)のVWSを予報値として検証し

た。VWSは晴天乱気流を予測するための指数である

ため、雲の外から報じられたと推定される通報(工

藤 2005)のみ検証の対象とした。検証期間は2007年12月から2009年4月で、図にはFT=0から15の分

割表値を全て足し合わせて算出したスコアを示して

いる。スキルスコアが最大となるのは、MODではお

よそ12kt/1000ft、SEVではおよそ17kt/1000ftであ

り、これらの値を閾値とするのが現時点では最適で

あると考えられるため、2009年7月に閾値の変更を

行った。ただしSEVについては、MODと比べて頻

度が少ない2現象であり、スキルスコアは小さく、検

証の誤差が大きい結果であることには留意してもら

いたい。 図2.2.3に、閾値の変更前後の例として2008年1月

29日00UTC初期値のFBJP112を、図2.2.4には図

2.2.3の予報対象時刻である2008年1月29日12UTCの前後1時間以内に報じられたMOD以上の乱気流

実況を示す。閾値の変更前は対馬海峡付近にのみフ

ライトレベル3(FL)210からFL240でMODの乱気

流を予想しているが、変更後は黄海から東日本にか

けての広い領域に対してFL210からFL280でMODの乱気流を予想している。実況では、長野の上空で

発生した1つを除いて、西日本から東日本上空の

FL200からFL280でMODの乱気流が通報されてお

り、変更後の予想との対応が良い。 2.2.2 北太平洋航空悪天GPVの検証

福岡 FIR4に対する空域悪天情報作成や北太平洋航

路の運航支援を目的として、2007 年 11 月に北太平

洋航空悪天 GPV の作成を開始した(松下 2007)。

2 検証期間中の SEV の乱気流の頻度は、MOD の頻度の

75 分の 1 以下であった。 3 ICAO 国際標準大気に基づく気圧高度を 100ft 単位で示

した値。FL240 は 24000ft で約 393hPa に相当する。 4 Flight Information Region(飛行情報区)。ICAO によ

り制定された航空機の運航に必要な各種の情報の提供が

行われる空域。

図 2.2.3 VWS の閾値変更前(上)と変更後(下)の

FBJP112 の例(2008 年 1 月 29 日 00UTC 初期値)。破

線で囲まれた領域が MOD の乱気流域を、記号の横の

数値は上限・下限高度(フライトレベル)を表す。

変更後

変更前

図 2.2.4 2008 年 1 月 29 日 12UTC の前後 1 時間内に通

報された MOD 以上の乱気流実況。△は MOD の乱気

流が発生した場所で、図中の数値は乱気流が発生した

高度(フライトレベル)を表す。例えば FL200/240 は

上昇中に FL200 から FL240 で乱気流に遭遇したこと

を示す。△の色は乱気流の中心高度を表す。

FL200/240

FL200/240

FL270/215

FL210/270

FL220/260

FL270/230

FL210/250

FL220/280

FL150/160

48

北太平洋航空悪天 GPV では、水平 0.5 度、鉛直

2000ft 間隔で一般的な気象要素を算出している他

に、航空用の要素として鉛直ウィンドシアー(VWS)、積乱雲頂高度、圏界面と最大風速面での風・気温・

気圧を算出している。積乱雲頂高度は国内航空悪天

GPV と同様に、対流雲頂高度の診断に基づいて算出

している。VWS も国内航空悪天 GPV と同様に、各

鉛直層の上下 1000ft の高度に内挿した風から算出

している。ここでは、晴天乱気流の予測に利用され

ている VWS の検証結果を述べる。 検証は、各航空機観測通報(C-PIREP、PIREP、

ARS)による乱気流の通報を実況とし、乱気流が通

報された地点に最近接の格子(水平 0.5 度、鉛直

2000ft、3 時間間隔)5での VWS を予報値として行

う。VWS は晴天乱気流を予測するための指数であ

るため、雲の外から報じられたと推定される通報(工

藤 2005)のみ検証の対象とする。検証期間は 2007年 12 月から 2009 年 4 月で、ここでは FT=3 から

24 の分割表値を全て足し合わせて算出したスコア

を示す。 図 2.2.5 は、弱(LGT)、弱+(LGTP)、並(MOD)、

強(SEV)の乱気流に対する VWS の閾値別のスキ

ルスコアである。スキルスコアが最大となる閾値は

それぞれ、LGTが5kt/1000ft、LGTPが8kt/1000ft、MOD が 10kt/1000ft、SEV が 15kt/1000ft となって

おり、VWS を用いて晴天乱気流を予測する際には

これらの値が目安となる。 図 2.2.6 は MOD の乱気流に対する高度別・VWS

の閾値別のスキルスコアである。全高度を足し合わ

せた場合には MOD に対してスキルスコアが最大と

なるのは 10kt/1000ft であった(図 2.2.5)が、高度

別に見ると、FL100 以下と FL300 以上ではそれよ

りもやや小さな値となっている。この理由としてこ

れらの高度では、下層での山岳波や上層でのトラン

スバースバンドに伴う乱気流など、VWS に依らな

い乱気流や、数値予報モデルで表現可能な大きなス

ケールでの VWS だけには依らない乱気流が発生し

やすいことが考えられる。 参考文献

菊池正武, 1983: 国内悪天 12(18)時間予想資料の

解説. 航空気象ノート第 27 号, 気象庁総務部, 42-46.

工藤淳, 2005: SK 通報のない C-PIREP に対する晴

れ・曇り判別法. 航空気象ノート第 64 号, 気象庁

総務部, 6-9. 工藤淳, 2007a: 国内航空悪天 GPV の積乱雲予測手

法の開発. 航空気象ノート第 66 号, 気象庁総務部, 11-18.

工藤淳, 2007b: 国内航空悪天GPV. 平成 19年度数値

予報研修テキスト, 気象庁予報部, 82-83. 工藤淳, 2008: 国内航空悪天 GPV. 平成 20 年度数値

予報研修テキスト, 気象庁予報部, 92-98. 工藤淳, 2009: 国内航空悪天 GPV の積乱雲予測手法

の改良. 航空気象ノート第 68 号, 気象庁総務部, 1-8.

松下泰広, 2007: 全球航空悪天GPVおよび北太平洋

航空悪天GPV. 平成19年度数値予報研修テキスト, 気象庁予報部, 84-86.

5 図 2.2.2 で示した結果とは検証格子が異なることに注意

してもらいたい。

図 2.2.5 LGT、LGTP、MOD、SEV の乱気流に対する、

VWS の閾値(単位は kt/1000ft)別のスキルスコア。

FT=3 から 24 までの分割表値を足し合わせてスコアを

算出した。エラーバーは 95%信頼区間。

図 2.2.6 MOD の乱気流に対する、高度別・VWS の閾値

(単位は kt/1000ft)別のスキルスコア。FT=3 から 24までの分割表値を足し合わせてスコアを算出した。エラ

ーバーは 95%信頼区間。