タイ高床式住居にみる集落空間の変容と持続性-水系集落hua wiang...

2
第一章 序論 1.1 研究目的と背景 1.2 既往研究との位置づけ 1.2.1 半透明空間の定義 1.2.2 半透明空間を形成する要素 1.2.3 半透明空間の性質 1.2.4 既往研究と本研究 過去の半透明空間の研究から 過去のタイ高床式住居の研究から 第二章 タイ高床式住居について 2.1 アジアの高床式住居 2.2 タイの伝統的高床式住居 2.2.1 地域毎にみたタイ農村部の伝統住居特性 2.2.2 タイ農村部の集落形成 2.3 タイ中部伝統的高床式住居と集落形成 2.3.1 タイ中部の気候風土環境 2.3.2 タイ中部の伝統的高床式住居 2.4 タイ中部における近代化と高床式住居の変容 2.4.1 水辺から陸地へ、近代化による住環境変化 2.4.2 タイ中部の伝統的高床式住居の変容 2.5 都市の変容と洪水被害 第三章 調査地概要 3.1 調査対象地と選定理由 3.2 調査対象集落について 3.2.1 HuaWiang 基礎情報 3.2.2 Hua Wiang データ資料 3.2.3 Hua Wiang 洪水被害資料 第四章 調査内容と結果 4.1 調査対象住居と選定理由 4.2 調査内容 4.3 調査結果 4.4 データシート 配置図 連続断面図 平面図 立・断面図 魚眼写真 パノラマ写真 アンケート 風速・風向 温湿度 第五章 増改築を繰り返す集落形態と自然環境に関する 考察 5.1 材料悉皆調査 5.1.1 材料悉皆調査分析・考察 5.1.2 ジャッキアップ型増改築分析・考察 5.1.3 住居スペース型増改築分析・考察 5.2 アンケート分析 5.2.1 アンケート結果分析データシート 5.2.2 アンケート分析結果からの考察 5.2.3 洪水関連項目重ね合わせによる分析・考察 5.2.4 増改築関連項目重ね合わせによる分析・考 5.2.5 風環境・コミュニティ関連項目重ね合わせ による分析・考察 5.3 風環境と集落配置 5.3.1 風解析分析結果データシート 5.3.2 風環境 CFD 解析分析・考察 5.4 温湿度環境分析 5.5 まとめ 第六章 建築形態とコミュニティに関する考察 6.1 調査対象住居と選定理由 6.2 住居配置と大きさからみる空間特性 6.3 ものの溢れ出しから見る空間構成 6.4 平面構成からみる空間特性 6.4.1 半屋外部分配置関係に関する分析・考察 6.4.2 平面構成分析・考察 6.5 風環境と住居形態 6.5.1 風環境と住居形態分析・考察 6.5.2 風環境と平面構成分析・考察 6.6 まとめ  第七章 建築形態と視覚領域に関する考察 7.1 魚眼写真分析 7.1.1 分析結果データシート 7.1.2 考察 7.2 パノラマ写真分析 7.2.1 分析結果データシート 7.2.2 考察 7.3 まとめ  第八章 結論 参考文献 謝辞 ■目次 ■研究背景と目的 ■調査内容 ■調査結果 人間の住まい方は自然環境と切り離すことは出来ない。 生活と自然環境を隔てている現代都市において深刻化した問題は近年世界中で明らかになって いる。 タイではその気候風土によって毎年洪水が発生しているが、変容を繰り返しながら本来の住 環境を継承している集落が多くある。 日常的な洪水被害がありながらも集落が持続し続けているタイ Hua Wiang 村において、居 住空間、周辺環境が変化するなかでいかに集落空間の持続と変容のバランスを保ち、自然とと もに住むことを可能にしているかを明らかにすることを目的とする。 タイの高床式住居では相続問題や家族の増減という理由から住居の増改築が繰り返されてき た。増改築が各住居で恒常的に繰り返されることによって集落全体も変容を遂げてきた。その 変容のプロセスや結果はそれぞれの地域や文化の特性に起因する。 本節では対象集落でも同様の増改築がなされているか、調査時 (2012 年 ) の断面で見た集落の 住居形態、外観を明らかにし、集落全体の変容のプロセス、結果を考察し、対象集落の特性を 明らかにすることを目的とする。 既往研究から、ジャッキアップを行うことはタイの伝統住居において長く行われてきたこと がわかっており、その主な要因は経済的理由、解体・組立てが簡易なこと、元々の敷地の直ぐ 近くに立て直すことなどがあげられる。調査地で見られた再生型ジャッキアップは構造として の住居形態が形骸化していること、伝統形式の屋根を選択していることから美観や伝統住居形 式を保存、継承しようとするモチベーションが住民にあることを示唆している。 A. 周辺環境に関する調査 ・アンケート / ヒアリング ・風向 / 風速調査 ・温湿度調査 A. 周辺環境に関する調査 1. アンケート/ヒアリング 集落全体を対象としたアンケート調査、 ヒアリング ・居住者について ・住居について ・増改築について ・居住環境について ・コミュニティについて *チュラロンコン大学の協力を得て合計 50/111 軒に実施。同集落内、商業エリア、 行政関係エリアの 36 軒は対象外とした。 B. 居住形態に関する調査 実測図面類 C. 視覚領域に関する調査 1. 8mm 魚眼写真 2. パノラマ写真 2. 材料悉皆調査 集落全体を対象。合計 127 軒に実施。 3. 風向風速計測 集落全体を対象。合計 252 回実施。 4. 温湿度計測 集落全体を対象。合計 118 回実施。 住居内の各地点、集落内の各地点、部材毎の 表面温度を計測 B. 居住形態に関する調査 ・実測調査 配置図 一階平面図 ものの溢れ出し 二階平面図 立面図、断面図 C. 視覚領域に関する調査 ・8mm 魚眼レンズ写真 ・パノラマ写真 ■カウンターパート: チュラロンコン大学 Terdsak 研究室 テーシャギットカチョン タード サック チュラロンコン大学教授 2005 年まで神戸大学重村・山崎研 究室在籍 チャオプラヤ-川流域に関する研究 やデルタ地域における持続的農村社 会に関する研究等。現在は Hua Wiang 等の水系農村集落に関しての フィールドワークを行う。 タイ伝統住居は海外からの文化の流入や社会環境の変化の中で失われつつあり、残り続けた ものに関しても増改築を繰り返し行い、現代の生活へ適応した物へとその姿を変えてきている。 増築方法にも変化が見られる。タイ中部の住宅の特徴として、子供が結婚するなどして家族 が増える場合、既存部分に部屋を増築することが多く、この繰り返しによって親族が集まって 住んでいる事がめずらしくない。伝統的な手法では、チャーンを用いて既存部分と増築部分が 接続された。これはかつての住宅の建てられる場所が水上あるいは水際が多く、陸上であって も湿地で地盤が不確実であったためと思われる。しかし、都市の陸上化や洪水の心配の低減な どによって、親族が集まって住むという形は変わらなくても、各部を接続するためとしての チャーンは不要になり、現在ではほとんど見られることがなくなった。また、洪水被害の減少 により床下空間を居室化するものもみられるようになった。 本研究では、タイ、アユタヤ 県 Sena 区の集落である Hua Wiang 村を調査対象地として 選定した。 タイには自然環境と呼応す る伝統的住居が数多くある が、両生都市として栄えたア ユタヤ、ノイ河沿いには現在 でも伝統的高床式住居が多く 残されている。なかでも、 Hua Wiang は 60 年近く前ま で水上マーケットの要所とし て賑わいを見せた。Hua Wiang 村はタイの伝統集落の 中でも伝統的な住居が数多く残りつつも、洪 水被害対策や生活スタイルの変化によってそ れらが変容していった住居が混ざり合ってい る希有な例である。 近年では降雨量の増加とダムからの計画放水 によって年々水位が上昇し、Hua Wiang にお いても洪水被害が増加している。 第一章 序論 第四章 調査内容と結果 ■材料悉皆調査分析 前節材料悉皆調査の分析から、調査地では長い期間をかけて増改築が繰り返されてきたこと が明らかになった。本節では各住居のより詳細な情報、および住人の情報を得るために行った アンケートを分析し、集落・住居の変容の過程やゾーン毎に異なる性質の実情、要因を明らか にする。 5 つの観点から行ったアンケートそれぞれの項目の分析結果を洪水系、増改築系、風環境・ コミュニティ系の 3 つに分類し更に分析を行った。 洪水被害のために床高を高くした結果、副次的に出来た床下空間をコミュニティの場として 利用している。 毎年の洪水被害に対する増改築によって副次的に快適な自然環境を獲得し、ゾーン毎に異な るアクティヴィティ、コミュニティの性質が形成されてきたことが明らかになった。 ■アンケート結果分析 第五章 増改築を繰り返す集落形態と自然環境に関する考察 ■タイ高床式住居の変容 第二章 タイ高床式住居について 第三章 調査地概要 2011 年 洪水被害時 航空写真 Hua Wiang 村の位置 ヒアリング実施時写真 住居二階平面図実測 各住居床下魚眼写真 各住居床下パノラマ写真 調査協力者との集合写真 変容型ジャッキアップ 再生型ジャッキアップ タイ高床式住居にみる集落空間の変容と持続性 -水系集落 Hua Wiang を事例として- 半透明空間研究 古谷誠章研究室 1X09A102-4 髙橋京平 1X09A156-1 福岡あかり ○屋根形状の変容 ○床上の変容 ○床下の変容 ○柱形状の変容 ○伝統屋根写真 ○変容型屋根写真 ○柱写真 一階柱:木 一階梁:木 二階壁:木 一階柱:RC 一階梁:木 二階壁:木 一階柱:木 一階梁:木 二階壁:木 一階柱:RC 一階梁:RC 二階壁:木 一階部分の構造を建設中 ■考察 ■考察 0 10 30 50 100 B-3 洪 水 被 害  +  浸水域(2011)+  *床高(m) 洪水被害を免れる:     13軒 洪水被害がある:      28軒 どちらでもない: 9軒 -o e -zon Y e 4.5 4 5.5 5.5 5 5 5.5 4.5 4.5 4.5 6 4.5 2.5 3.5 4.5 5.5 3 4.5 3 4 4 2.5 2.5 2 4 4 4.5 5 4 4 4.5 4 4 5 4 5 6 5 4 4 4 4 3 4 5 4.5 4.5 5 5 4.5 3.5 3 4 *床高:平常時の川面からの二階床までの高さ B-3 洪水被害+ 浸水域(2011) + *床高(m) + 一階部分居室化 洪水被害を免れる:     13軒 洪水被害がある:      28軒 どちらでもない: 9軒 4.5 4 5.5 5.5 5 5 5.5 4.5 4.5 4.5 6 4.5 2.5 3.5 4.5 5.5 3 4.5 3 4 4 2.5 2.5 2 4 4 4.55 4 4 4.5 4 4 5 4 5 6 5 4 4 4 4 3 4 5 4.5 4.5 5 5 4.5 3.5 3 4 100%居室化: 50%以上居室化: X-zon X -zon X B-2 住居満足度 満足: 47軒 どちらでもない: 3軒 不満: 3軒 + 浸水域(2011) + C - 5  引越しをしたいか 引越しをしたい:  3軒 どちらでもない: 4軒 ● B-3 洪水被害+浸水域(2011)+床高 ●住居満足度+浸水域+引越し願望 ● B-3 洪水被害+浸水域(2011)+床高+一階部分居室化 92% 8% 31% 69% 40% 60% 親戚が集落内に住んでいるか 空調設備の有無 空調機を欲しいか 引越しをしたいか

Upload: yuki-nemoto

Post on 30-Mar-2016

216 views

Category:

Documents


2 download

DESCRIPTION

人間の住まい方は自然環境と切り離すことは出来ない。生活と自然環境を隔てている現代都市において深刻化した問題は近年世界中で明らかになっている。タイではその気候風土によって毎年洪水が発生しているが、変容を繰り返しながら本来の住環境を継承している集落が多くある。 日常的な洪水被害がありながらも集落が持続し続けているタイHua Wiang 村において、居住空間、周辺環境が変化するなかでいかに集落空間の持続と変容のバランスを保ち、自然とともに住むことを可能にしているかを明らかにすることを目的とする。

TRANSCRIPT

第一章 序論 1.1 研究目的と背景 1.2 既往研究との位置づけ  1.2.1 半透明空間の定義  1.2.2 半透明空間を形成する要素  1.2.3 半透明空間の性質  1.2.4 既往研究と本研究      過去の半透明空間の研究から      過去のタイ高床式住居の研究から     第二章 タイ高床式住居について 2.1 アジアの高床式住居 2.2 タイの伝統的高床式住居  2.2.1 地域毎にみたタイ農村部の伝統住居特性  2.2.2 タイ農村部の集落形成 2.3 タイ中部伝統的高床式住居と集落形成  2.3.1 タイ中部の気候風土環境  2.3.2 タイ中部の伝統的高床式住居 2.4 タイ中部における近代化と高床式住居の変容  2.4.1 水辺から陸地へ、近代化による住環境変化  2.4.2 タイ中部の伝統的高床式住居の変容 2.5 都市の変容と洪水被害

第三章 調査地概要 3.1 調査対象地と選定理由 3.2 調査対象集落について  3.2.1 HuaWiang 基礎情報  3.2.2 Hua Wiang データ資料  3.2.3 Hua Wiang 洪水被害資料

第四章 調査内容と結果 4.1 調査対象住居と選定理由 4.2 調査内容 4.3 調査結果 4.4 データシート     配置図     連続断面図     平面図     立・断面図     魚眼写真     パノラマ写真     アンケート     風速・風向     温湿度

第五章 増改築を繰り返す集落形態と自然環境に関する考察 5.1 材料悉皆調査  5.1.1 材料悉皆調査分析・考察  5.1.2 ジャッキアップ型増改築分析・考察  5.1.3 住居スペース型増改築分析・考察 5.2 アンケート分析  5.2.1 アンケート結果分析データシート  5.2.2 アンケート分析結果からの考察  5.2.3 洪水関連項目重ね合わせによる分析・考察  5.2.4 増改築関連項目重ね合わせによる分析・考察  5.2.5 風環境・コミュニティ関連項目重ね合わせによる分析・考察 5.3 風環境と集落配置  5.3.1 風解析分析結果データシート  5.3.2 風環境 CFD解析分析・考察 5.4 温湿度環境分析 5.5 まとめ

第六章 建築形態とコミュニティに関する考察 6.1 調査対象住居と選定理由 6.2 住居配置と大きさからみる空間特性 6.3 ものの溢れ出しから見る空間構成 6.4 平面構成からみる空間特性  6.4.1 半屋外部分配置関係に関する分析・考察  6.4.2 平面構成分析・考察 6.5 風環境と住居形態  6.5.1 風環境と住居形態分析・考察  6.5.2 風環境と平面構成分析・考察 6.6 まとめ 

第七章 建築形態と視覚領域に関する考察 7.1 魚眼写真分析  7.1.1 分析結果データシート  7.1.2 考察 7.2 パノラマ写真分析  7.2.1 分析結果データシート  7.2.2 考察 7.3 まとめ 

第八章 結論 参考文献謝辞

■目次

■研究背景と目的 ■調査内容

■調査結果

 人間の住まい方は自然環境と切り離すことは出来ない。

生活と自然環境を隔てている現代都市において深刻化した問題は近年世界中で明らかになって

いる。

 タイではその気候風土によって毎年洪水が発生しているが、変容を繰り返しながら本来の住

環境を継承している集落が多くある。

 日常的な洪水被害がありながらも集落が持続し続けているタイHua Wiang 村において、居

住空間、周辺環境が変化するなかでいかに集落空間の持続と変容のバランスを保ち、自然とと

もに住むことを可能にしているかを明らかにすることを目的とする。

 タイの高床式住居では相続問題や家族の増減という理由から住居の増改築が繰り返されてき

た。増改築が各住居で恒常的に繰り返されることによって集落全体も変容を遂げてきた。その

変容のプロセスや結果はそれぞれの地域や文化の特性に起因する。

本節では対象集落でも同様の増改築がなされているか、調査時 (2012 年 ) の断面で見た集落の

住居形態、外観を明らかにし、集落全体の変容のプロセス、結果を考察し、対象集落の特性を

明らかにすることを目的とする。

 既往研究から、ジャッキアップを行うことはタイの伝統住居において長く行われてきたこと

がわかっており、その主な要因は経済的理由、解体・組立てが簡易なこと、元々の敷地の直ぐ

近くに立て直すことなどがあげられる。調査地で見られた再生型ジャッキアップは構造として

の住居形態が形骸化していること、伝統形式の屋根を選択していることから美観や伝統住居形

式を保存、継承しようとするモチベーションが住民にあることを示唆している。

A. 周辺環境に関する調査 ・アンケート /ヒアリング ・風向 /風速調査 ・温湿度調査

A. 周辺環境に関する調査 1. アンケート/ヒアリング集落全体を対象としたアンケート調査、ヒアリング ・居住者について ・住居について ・増改築について ・居住環境について ・コミュニティについて*チュラロンコン大学の協力を得て合計50/111軒に実施。同集落内、商業エリア、行政関係エリアの 36軒は対象外とした。

B. 居住形態に関する調査 実測図面類

C. 視覚領域に関する調査 1. 8mm魚眼写真 2. パノラマ写真

 2. 材料悉皆調査集落全体を対象。合計 127 軒に実施。

 3. 風向風速計測集落全体を対象。合計 252 回実施。

 4. 温湿度計測集落全体を対象。合計 118 回実施。住居内の各地点、集落内の各地点、部材毎の表面温度を計測

B. 居住形態に関する調査 ・実測調査   配置図   一階平面図   ものの溢れ出し   二階平面図   立面図、断面図

C. 視覚領域に関する調査 ・8mm魚眼レンズ写真 ・パノラマ写真

■カウンターパート:チュラロンコン大学 Terdsak研究室テーシャギットカチョン タードサックチュラロンコン大学教授2005 年まで神戸大学重村・山崎研究室在籍チャオプラヤ-川流域に関する研究やデルタ地域における持続的農村社会に関する研究等。現在はHua Wiang 等の水系農村集落に関してのフィールドワークを行う。

 タイ伝統住居は海外からの文化の流入や社会環境の変化の中で失われつつあり、残り続けた

ものに関しても増改築を繰り返し行い、現代の生活へ適応した物へとその姿を変えてきている。

 増築方法にも変化が見られる。タイ中部の住宅の特徴として、子供が結婚するなどして家族

が増える場合、既存部分に部屋を増築することが多く、この繰り返しによって親族が集まって

住んでいる事がめずらしくない。伝統的な手法では、チャーンを用いて既存部分と増築部分が

接続された。これはかつての住宅の建てられる場所が水上あるいは水際が多く、陸上であって

も湿地で地盤が不確実であったためと思われる。しかし、都市の陸上化や洪水の心配の低減な

どによって、親族が集まって住むという形は変わらなくても、各部を接続するためとしての

チャーンは不要になり、現在ではほとんど見られることがなくなった。また、洪水被害の減少

により床下空間を居室化するものもみられるようになった。

本研究では、タイ、アユタヤ

県 Sena 区の集落であるHua

Wiang 村を調査対象地として

選定した。

 タイには自然環境と呼応す

る伝統的住居が数多くある

が、両生都市として栄えたア

ユタヤ、ノイ河沿いには現在

でも伝統的高床式住居が多く

残されている。なかでも、

Hua Wiang は 60 年近く前ま

で水上マーケットの要所とし

て賑わいを見せた。Hua

Wiang 村はタイの伝統集落の

中でも伝統的な住居が数多く残りつつも、洪

水被害対策や生活スタイルの変化によってそ

れらが変容していった住居が混ざり合ってい

る希有な例である。

近年では降雨量の増加とダムからの計画放水

によって年々水位が上昇し、Hua Wiang にお

いても洪水被害が増加している。

第一章 序論 第四章 調査内容と結果■材料悉皆調査分析

 前節材料悉皆調査の分析から、調査地では長い期間をかけて増改築が繰り返されてきたこと

が明らかになった。本節では各住居のより詳細な情報、および住人の情報を得るために行った

アンケートを分析し、集落・住居の変容の過程やゾーン毎に異なる性質の実情、要因を明らか

にする。

 5つの観点から行ったアンケートそれぞれの項目の分析結果を洪水系、増改築系、風環境・

コミュニティ系の 3つに分類し更に分析を行った。

 洪水被害のために床高を高くした結果、副次的に出来た床下空間をコミュニティの場として

利用している。

 毎年の洪水被害に対する増改築によって副次的に快適な自然環境を獲得し、ゾーン毎に異な

るアクティヴィティ、コミュニティの性質が形成されてきたことが明らかになった。

■アンケート結果分析

第五章 増改築を繰り返す集落形態と自然環境に関する考察

■タイ高床式住居の変容

第二章 タイ高床式住居について

第三章 調査地概要

2011 年 洪水被害時 航空写真

Hua Wiang 村の位置

ヒアリング実施時写真

住居二階平面図実測 各住居床下魚眼写真

各住居床下パノラマ写真

調査協力者との集合写真

変容型ジャッキアップ 再生型ジャッキアップ

タイ高床式住居にみる集落空間の変容と持続性 -水系集落Hua Wiang を事例として-半透明空間研究 古谷誠章研究室

1X09A102-4 髙橋京平

1X09A156-1 福岡あかり

○屋根形状の変容 ○床上の変容 ○床下の変容○柱形状の変容 ○伝統屋根写真

○変容型屋根写真

○柱写真

一階柱:木一階梁:木二階壁:木

一階柱:RC一階梁:木二階壁:木

一階柱:木一階梁:木二階壁:木

一階柱:RC一階梁:RC二階壁:木

一階部分の構造を建設中

■考察

■考察

0 10 30 50 100

B-3 洪水被害 +  浸水域(2011)+  *床高(m)

洪水被害を免れる:     13軒

洪水被害がある:      28軒

どちらでもない:            9軒

X-zone

YY-zonYY e

4.5

4

5.5

5.55

5

5.54.5

4.5

4.5

64.5

2.53.5

4.5

5.5

3

4.5

34

42.52.5

2

4

44.55

44

4.54

4

5 4

56

5

4

44

4

34

54.5

4.5

5

5

4.53.5

34

*床高:平常時の川面からの二階床までの高さ

0 10 30 50 100

B-3 洪水被害 + 浸水域(2011) + *床高(m) + 一階部分居室化

洪水被害を免れる:     13軒

洪水被害がある:      28軒

どちらでもない:            9軒

4.5

4

5.5

5.55

5

5.54.5

4.5

4.5

64.5

2.53.5

4.5

5.5

3

4.5

34

42.52.5

2

4

44.55

44

4.54

4

5 4

56

5

4

44

4

34

54.5

4.5

5

5

4.53.5

34

*床高:平常時の川面からの二階床までの高さ

100%居室化:

50%以上居室化:

X-zon

0 10 30 50 100

X-zonX

B-2 住居満足度

満足:           47軒

どちらでもない:     3軒

不満:          3軒

+ 浸水域(2011) + C - 5 引越しをしたいか

引越しをしたい:  3軒

どちらでもない:   4軒

● B-3 洪水被害+浸水域(2011)+床高

●住居満足度+浸水域+引越し願望● B-3 洪水被害+浸水域(2011)+床高+一階部分居室化

92%

8%

31%

69%

40%

60%

親戚が集落内に住んでいるか

空調設備の有無

空調機を欲しいか

引越しをしたいか

■考察

テ ラ ス

G L + 6 5 0

物 置

G L +1000 * 今 は 使 わ れて い な い

W . C.

C H : 3 1 0 0C H : 7 0 0

0

RIVER

Y-ZONE BLOC PLANGround Level

0 1 3 5 10R

00

テ ラ ス

G L + 6 5

5

I-6

K-5,6

K-3,4

K-7

K-10

C H : 3 1 0 0C H : 2 8 0 0

H = 2 4 0 0

C H : 3 1 0 0C H : 2 1 0 0

C H : 3 1 0 0C H : 2 1 0 0

RIVER

X-ZONE BLOC PLANGround Level

0 1 3 5 10R

RIVERR

C-4

C-5

C-11

C-6

C-10

第七章 建築形態と視覚領域に関する考察

第八章 結論

展望

第六章 建築形態とコミュニティに関する考察

本節では床下中心部からのパノラマ撮影により、自分の家の床下から他人の家に至るまで何によって領域が分断され、またどの方角に連続性を持つかを分析する。下の表は視線の高さ(GL+140-160cm)で 360°の景色を切り取り、視界を遮断する要素の割合を示したものである。

・床下空間が積極的に利用されているX zone では Yzone に比べ他者の家へ視線がよく通る。・Y zone では X zone に比べ床下に多くの物がおかれ、床下の所有物により視界が遮られる傾向にある。・床下空間から見える植物についてもX zone の方が高い割合を示し、緑により視野が分断がされている。・X zone では Y zone に比べ、塀等の障壁物が多い。

以上の結果より、床下が共有され積極的に利用されているX zone においては親戚どうしが集まり住むことで、住居単体ではなく集合として領域性を保っていることが示された。一方住居ひとつひとつが大きく住居間距開けている Y zone では住居単体で個々の領域性を持ちながらも、六章において述べられたように半屋外面積が大きくとられることで周辺環境や隣家との関係が築かれていることがわかった。

Hua Wiang 村では、毎年の洪水被害に対する増改築が日常的に集落全体で行われており、副次的に快適な自然環境を獲得している。その変容は、従来からの集落構造によって異なる住環境の快適性を志向し、それぞれの置かれた環境に適応するかたちで建築形態の差異を生んでいる。そして建築形態の差異は、住居の集合として形成される空間構成にまで、視覚領域というかたちで反映されている。自然の力を通して形成される緩やかなコミュニティの空間が集落としての持続性を保っている。

自然環境をコントロールするのではなく、自然と共生し、変化する自然環境とともに変容を続け、新陳代謝していく集落の在り方はアジアのサステナビリティといえる。自然災害の多い日本の現代都市においてもアジア特有のサステナビリティを取り入れることは未来の生活を考える上で必要になるのではないだろうか。

視界が開かれた床下空間においてはより積極的な床下空間の利用が行われ、視界の通りにくい床下空間においては、消極的なもののあふれだしや緑などによって視界が遮られることでより閉鎖的な場となっていることが考えられる。

本節では、住居間密度の異なるX-zoneと Y-zone を抽出し、ゾーン毎に異なるコミュニティーの性質を形成する要因として、建築形態と住居配置の面から考察を深めることを目的とする。現地実測調査から得られた図面類から、ゾーン毎の住居間距離、床高、建築面積を比較する。

X zone においては、床下空間が手入れされ、家具等積極的なものの溢れ出しが多いことから日常的な生活の場となっていることがうかがえた。Y zone においてはもののあふれだしは多いものの、その多くが消極的あふれだしであり、個人の活動の場としての性質があることが考えられる。

・X-zone では、住居面積が小さく密集しているが、床高が高くその床下空間には良好な風環境があり住民の交流の場となっている。・Y-zone では、住居の 40%近くを占めるバルコニー状の半屋外空間を中心とした生活環境が形成されている。

以上の結果より、建築形態の差異が住居群毎に異なる住環境を生み、それぞれの置かれた環境によって独自の空間性を獲得していることが明らかになった。

Y-zone は二階半屋外部分の面積比が非常に大きく、それらを介したコミュニティーの形成がされてきたことが明らかになった。

X-zone では、住居が密集しているが床下部分で良く風が通る。Y-zone では、床下部分で風がよく流れる住居は少ないが、道や小さな広場といった公共空間には良好な風環境がある。

C H : 3 1 0C H : 2 9 0

物 置

G L + 5 5 0

物 置

G L + 6 5 0

H=2547

H=249

1H=2509

H=2533

H=2860

H=2792

H=2808

H=2809

X-ZONE BLOC PLANGround Level

0 1 3 5 10R

X-ZONE BLOC PLANGround Level

0 11 33 55 1100R

C H : 2 9 0

eye level eye level

River sideRiver side

他人の家

塀や柵

自分の家

もののあふれだし

●パノラマ写真からの領域分析

●8mm魚眼レンズによる立体角量分析

●バルコニー(半屋外空間)空間の比較

●床下空間の風環境(実測調査で得られた図面を元にした CFD解析データ)

●居室空間の風環境(実測調査で得られた図面を元にした CFD解析データ)

Ⅰ パノラマ視覚領域分析図

Ⅱ 視覚領域分析図の重ね合わせによる比較

●床下空間のものの溢れだし比較

8mm魚眼レンズで撮影した床下空間  塗り分け後

自分の領域(床面・柱等の構造物、所有物)

親戚の領域(住居、所有物)

他人の領域(住居、所有物)

公共の領域(緑・天空・道・川)

X-zone

X-zone

X-zone

X-zone

Y-zone

Y-zone

Y-zone

Y-zone

X-zone

X-zone

Y-zone

Y-zone

Y-zone

X-zone