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ITUジャーナル Vol. 46 No. 12(2016, 12) 27 1.はじめに 日本のアナログテレビ終了に伴いVHF帯に新たに導入 された「V-Lowマルチメディア放送」は、コミュニケーショ ンネーム「i-dio」(アイディオ)として2016年3月に東京・ 大阪・福岡でプレ放送を開始し、同7月には東海地域(愛知、 岐阜、三重の一部)をエリアに加え、グランドオープンを 迎えた。ここでは、i-dioの関東・甲信越地区における認定 基幹放送事業者である東京マルチメディア放送(株)に 所属する筆者から、そのサービスの内容についてご紹介す る。なお、i-dioの制度やインフラ面についてはITUジャー ナル2015年1月号(New Breeze 2015年冬号)で解説され ているので、あわせてご参照いただきたい。 2.事業会社の構造について i-dioはハード・ソフト分離型の制度となっており、全国 への放送設備の設置と運用、受信環境の整備をハード事 業者である(株)VIPが、編成・帯域管理などの機能をソ フト事業者であるマルチメディア放送会社6社が放送ブロッ ク別に担当している。実際の放送コンテンツの制作は、マル チメディア放送会社と帯域使用契約を締結したコンテンツプ ロバイダ(CP)各社が行う。現在はTOKYO SMARTCAST (株)(TS社)と(株)アマネク・テレマティクスデザイン (Amanek社)が全国にコンテンツを供給するCPとして参 入しており、今後も地域別・全国ともにCPが追加参入予 定である。 現在の放送エリアは東京近郊、大阪近郊、福岡近郊、 東海(愛知・岐阜・三重・静岡の一部)の4地域となって i-dio(V-Lowマルチメディア放送) 放送開始について ふじ だいすけ 東京マルチメディア放送株式会社 CP事業部 図1.事業会社の役割と構造

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Page 1: i-dio(V-Lowマルチメディア放送) 放送開始について...ITUジャーナル Vol. 46 No. 12(2016, 12) 27 1.はじめに 日本のアナログテレビ終了に伴いVHF帯に新たに導入

ITUジャーナル Vol. 46 No. 12(2016, 12) 27

1.はじめに 日本のアナログテレビ終了に伴いVHF帯に新たに導入された「V-Lowマルチメディア放送」は、コミュニケーションネーム「i-dio」(アイディオ)として2016年3月に東京・大阪・福岡でプレ放送を開始し、同7月には東海地域(愛知、岐阜、三重の一部)をエリアに加え、グランドオープンを迎えた。ここでは、i-dioの関東・甲信越地区における認定基幹放送事業者である東京マルチメディア放送(株)に所属する筆者から、そのサービスの内容についてご紹介する。なお、i-dioの制度やインフラ面についてはITUジャーナル2015年1月号(New Breeze 2015年冬号)で解説されているので、あわせてご参照いただきたい。

2.事業会社の構造について i-dioはハード・ソフト分離型の制度となっており、全国への放送設備の設置と運用、受信環境の整備をハード事業者である(株)VIPが、編成・帯域管理などの機能をソフト事業者であるマルチメディア放送会社6社が放送ブロック別に担当している。実際の放送コンテンツの制作は、マルチメディア放送会社と帯域使用契約を締結したコンテンツプロバイダ(CP)各社が行う。現在はTOKYO SMARTCAST

(株)(TS社)と(株)アマネク・テレマティクスデザイン(Amanek社)が全国にコンテンツを供給するCPとして参入しており、今後も地域別・全国ともにCPが追加参入予定である。 現在の放送エリアは東京近郊、大阪近郊、福岡近郊、東海(愛知・岐阜・三重・静岡の一部)の4地域となって

i-dio(V-Lowマルチメディア放送)放送開始について

藤ふじ

井い

 大だいすけ

輔東京マルチメディア放送株式会社 CP事業部

■図1.事業会社の役割と構造

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いるが、(株)VIPは2019年までに全国に置局を完了する計画である。

3.進化する放送を実現するためのインフラと受信環境 i-dioはこれまでの放送と異なり、音声や映像に限らず、多様なコンテンツを放送波で送ることができるプラットフォームである。また、コンテンツプロバイダも様々な用途を計画し、放送以外の異業種から参入するケースがある。そのため、放送設備や受信環境も、あらかじめ高い柔軟性が担保されている。

3.1 放送インフラ

 各ブロックごとに設置されたマスター設備は、音声・映像・データを混在して取り扱うことができる設備となっている。各地のマスター設備はセンター設備とネットワークを構成しており、ネットワーク上ですべての搬入・監視・運用作業が行える構成となっている。CP各社はセンター設備にプライベートネットワークで接続し、日々の放送コンテンツを投入している。センター設備は頻繁にバージョンアップが行われており、放送チャンネルの増加やコンテ

ンツ編成の変更に対応している。

3.2 受信アプリ

 i-dioは移動体向け放送として、専用受信機器のほか、既存のスマートフォンに小型・充電池式の「i-dio Wi-Fiチューナー」を無線接続した受信環境を主体としており、「Wi-Fiチューナー」は開局に前後して、10万台を無料モニター提供した。また、i-dioチューナーが内蔵されたSIMフリースマートフォンも市販化されている。受信に用いるアプリケーションはiOS、Android向けに(株)VIPが無料提供する汎用受信アプリのほか、各CPが独自フォーマットのデータ放送や高度なサービスに対応した専用受信アプリを提供している。 TS社は同社のチャンネルに特化し、楽曲購入などの機能が充実した「TS PLAY」アプリを、Amanek社は自動車内での運転中の聴取に最適化し、音声自動読み上げによる情報提供にも対応した「Amanekチャンネル」アプリを提供している。各社のアプリケーションは自主的にバージョンアップがなされており、放送と共に日夜進化を遂げている。

スポットライト

■図2.TS ONE、Amanekチャンネルアプリ概観

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3.3 IPサイマル補完

 置局が行き渡り、専用受信機が普及するまでの暫定措置として、(株)VIPでは、放送ブロック内で「インターネット受信モード」と呼ばれるIPサイマル補完配信サービスを無料提供している。これにより、受信環境が未整備の地域でも、インターネット経由でサービスを体験いただくことが可能となっている。

4.一般視聴者向けに提供されている放送サービス 現在、一般視聴者向けに提供されている主なサービスは以下のとおりである。いずれの放送も、無料放送として提供されている。

「TS ONE」

 TS社が提供する高音質ラジオチャンネル。全チャンネルで最も高品質な320kbps AAC音源で音楽番組と共にスタジオ写真や楽曲購入情報などをデータ放送で提供し、新しい音楽との出会いを可能とする独自の放送を行っている。高解像度音源(いわゆるハイレゾ)に対する関心が高まる中、音質を生かしたライブ中継番組や環境音などの番組にも高い評価がある。

「Amanekチャンネル」

 Amanek社が提供するドライバー向けデジタルラジオチャンネル。気象・交通・観光などのデータをビッグデータから提供し、受信機がGPSと連動して最適な内容を判断、番組に合わせて受信機が発話(TTS=Test To Speech)することで、きめ細やかなサービスを実現している。受信者により内容が変化する未来のカーラジオとして、自動車業界からも注目を集めている。 そのほか、東京マルチメディア放送ではジャズ、クラシック、洋楽のセレクション音楽チャンネルと、簡易映像による動画チャンネルを全国に提供している。また、各地域の

マルチメディア放送会社では、地元のFM局と連携したローカル音声チャンネルを編成し、広域ブロック別放送の利点を生かして地域情報を提供している。

5.自治体・法人向け放送サービス i-dioの進化はデジタルラジオ的なサービスにとどまらず、多様な形式のデータが全国に放送できる点である。インターネットに接続される機器が爆発的に増加するIoT時代において、枯渇が予想される通信インフラを、輻輳しない放送インフラで強化していくことは我が国のIoTの発展に不可欠であり、大規模災害時における減災の観点からも、過去の経験から重要であると考える。 現在i-dioでは、自治体向けに防災情報を専用防災ラジオに発信し、端末の強制起動も可能な「V-ALERT®」サービスを提供開始しており、採用自治体が増加している。さらに平常時の活用においても、デジタルサイネージへの更新データの配信、車載用機器に向けたファームウェアの放送波伝送などのフィールドテストが、参入予定企業との連携で進められている。

6.今後の展望 i-dioはV-Lowマルチメディア放送の特性を最大限に生かし、輻輳しない放送波を用いてIoT時代のニーズに対応した、柔軟なコンテンツ配信のありかたを常に追求している。例えば、デジタルサイネージ向けに端末によって内容を出し分けるコンテンツ配信を行ったり、災害時にV-ALERT®を用いた詳細地区別の情報提供を行うなどの技術が、既に実用化されている。 ISDB-T方式の地上デジタル放送のノウハウを生かした導入が可能な移動体向け放送の新たな方式として、海外からも注目されている。今後も、世界に類を見ない通信と放送の真の融合モデルとして、進化してまいりたい。