・第4回 dual bia研究会 抄録集 - convention...

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11 セッション S1-1 肥満症・メタボリックシンドローム(MetS)は、糖尿病・高血圧・脂質代謝異常を伴いやすく、心血 管病や慢性腎臓病の高リスク群であり、早期予防・診断が肝要である。肥満・MetSの病態・合併症の進 展には、脂肪組織由来のアディポサイトカインの分泌異常が大きく関与しており、内臓脂肪蓄積が MetSの病態に重要な役割を担っている。日本のMetS診断基準では内臓脂肪蓄積が必須項目であり、 その評価の標準値は臍高部のCT検査における内臓脂肪面積100cm 2 、それに対応する判定値としてウ エスト周囲長(男性85cm; 女性90cm)を用いる。ウエスト周囲長は簡便な指標であるが、測定者間 の測定誤差が大きい。また、CT検査は被曝や簡便性に問題がある。そこで、放射線被曝がなく簡便な 測定手法のデュアルインピーダンス法(Dual Bioelectrical Impedance Analysis; Dual-BIA法)を 用いた内臓脂肪測定装置(DUALSCAN)が注目されている。当院の肥満外来においても、肥満症に おける減量治療前後のDual-BIAによる脂肪面積(絶対量・変化量)とCTによる脂肪面積とを本邦初にて 比較検討した。登録時または6 ヵ月の減量治療による変化量ともに、CTに対し、Dual-BIAはウエスト 周囲長よりも強く相関し(Dual-BIA: r = 0.743, ウエスト周囲長: r = 0.596)、減量治療による変化 量もウエスト周囲長に比し鋭敏であることを報告してきた(Yamakage H, Satoh-Asahara N et al. Endcr J, 2014)。 今年、改訂された肥満症診療ガイドライン2016においては、食事療法は肥満症の治療の基本であり、 食事療法の目的は、脂肪量(とくに内臓脂肪)を減少させ、肥満に伴う種々の健康障害を改善すること にあり、減量には摂取エネルギー量を制限することが最も有効で確立された方法であると記載されてい る。肥満症への食事指導の重要なポイントは、これまで食生活を始めとした生活習慣が不規則であった 肥満症患者が、適切な食事摂取エネルギーと食物・栄養素を理解し選択できるように指導することであ り、その為にはセルフモニタリングとライフスタイルの変容をサポートすることが重要となる。 当院では、MetS対策におけるチーム医療の一環として、栄養士とメタボ外来スタッフが考案したメ タボリックシンドローム対策ランチ(通称スマートランチ)を2009年より院内食堂で提供している。 これは、外来で指導されても正しい基準食(量・内容)がわからない場合やなかなか減量入院できない 患者が、実際に適正な食事を体感する為に開始されたものである。このスマートランチは、低エネルギ ー(約500kcal、炭水化物55 ~ 60%)、低脂質、塩分約3g、食物繊維・ポリフェノールが豊富をコ ンセプトとしている。スマートランチは、入院しなくても塩分・脂質制限の程度・低エネルギー食が体 感でき、食習慣の是正の動機付けにも役立っている。レシピは外来での配布や、病院のHPに掲載し、 患者自身が自宅で作ることができるようにしている。また2014年には、これら500kcalのランチ・ 弁当・作りおきのレシピを書籍にまとめ、外来通院患者とともに地域・社会における肥満症に対しても 肥満症治療食を啓蒙している。この様なツールの提供は、肥満症患者の日々の食事管理力の向上に非常 に効果的である。実際、肥満外来でこのレシピを毎日実践された20歳男性は、4ヶ月で14kg減量でき、 内臓脂肪面積も41cm 2 の減少を認めた。更に、糖尿病(HbA1c:7.1→5.2%、メトホルミン薬の中止) や脂肪肝も劇的に改善し、併存していたうつも抗うつ薬の使用が中止できるほどに改善することができた。 今回は、我々の構築している国立病院機構多施設共同前向き肥満コホートにおけるデータベースを基 盤とし、メタボ対策レシピ本というツールを有効活用した食事指導による減量、特に内臓脂肪量の減少 効果について検討結果を報告する。更に、短期間でも頻回測定が可能なDual-BIAによる、内臓脂肪の 経時的変化追跡による減量治療動機付け効果も交えて、今後の肥満減量治療と合併症予防のための効果 的な食事・栄養指導のアプローチについて概説し、提案をする。 浅原 哲子 1) 、山陰 一 1) 、島津 章 2) 1)国立病院機構京都医療センター臨床研究センター内分泌代謝高血圧研究部、2)国立病院機構京都医療センター チーム医療による効果的な食事療法のアプローチ ―メタボ対策レシピからの学習―

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Page 1: ・第4回 Dual BIA研究会 抄録集 - Convention …おける減量治療前後のDual-BIAによる脂肪面積(絶対量・変化量)とCTによる脂肪面積とを本邦初にて

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セッションS1-1

 肥満症・メタボリックシンドローム(MetS)は、糖尿病・高血圧・脂質代謝異常を伴いやすく、心血管病や慢性腎臓病の高リスク群であり、早期予防・診断が肝要である。肥満・MetSの病態・合併症の進展には、脂肪組織由来のアディポサイトカインの分泌異常が大きく関与しており、内臓脂肪蓄積がMetSの病態に重要な役割を担っている。日本のMetS診断基準では内臓脂肪蓄積が必須項目であり、その評価の標準値は臍高部のCT検査における内臓脂肪面積100cm2、それに対応する判定値としてウエスト周囲長(男性85cm; 女性90cm)を用いる。ウエスト周囲長は簡便な指標であるが、測定者間の測定誤差が大きい。また、CT検査は被曝や簡便性に問題がある。そこで、放射線被曝がなく簡便な測定手法のデュアルインピーダンス法(Dual Bioelectrical Impedance Analysis; Dual-BIA法)を用いた内臓脂肪測定装置(DUALSCAN)が注目されている。当院の肥満外来においても、肥満症における減量治療前後のDual-BIAによる脂肪面積(絶対量・変化量)とCTによる脂肪面積とを本邦初にて比較検討した。登録時または6 ヵ月の減量治療による変化量ともに、CTに対し、Dual-BIAはウエスト周囲長よりも強く相関し(Dual-BIA: r = 0.743, ウエスト周囲長: r = 0.596)、減量治療による変化量もウエスト周囲長に比し鋭敏であることを報告してきた(Yamakage H, Satoh-Asahara N et al. Endcr J, 2014)。 今年、改訂された肥満症診療ガイドライン2016においては、食事療法は肥満症の治療の基本であり、食事療法の目的は、脂肪量(とくに内臓脂肪)を減少させ、肥満に伴う種々の健康障害を改善することにあり、減量には摂取エネルギー量を制限することが最も有効で確立された方法であると記載されている。肥満症への食事指導の重要なポイントは、これまで食生活を始めとした生活習慣が不規則であった肥満症患者が、適切な食事摂取エネルギーと食物・栄養素を理解し選択できるように指導することであり、その為にはセルフモニタリングとライフスタイルの変容をサポートすることが重要となる。 当院では、MetS対策におけるチーム医療の一環として、栄養士とメタボ外来スタッフが考案したメタボリックシンドローム対策ランチ(通称スマートランチ)を2009年より院内食堂で提供している。これは、外来で指導されても正しい基準食(量・内容)がわからない場合やなかなか減量入院できない患者が、実際に適正な食事を体感する為に開始されたものである。このスマートランチは、低エネルギー(約500kcal、炭水化物55 ~ 60%)、低脂質、塩分約3g、食物繊維・ポリフェノールが豊富をコンセプトとしている。スマートランチは、入院しなくても塩分・脂質制限の程度・低エネルギー食が体感でき、食習慣の是正の動機付けにも役立っている。レシピは外来での配布や、病院のHPに掲載し、患者自身が自宅で作ることができるようにしている。また2014年には、これら500kcalのランチ・弁当・作りおきのレシピを書籍にまとめ、外来通院患者とともに地域・社会における肥満症に対しても肥満症治療食を啓蒙している。この様なツールの提供は、肥満症患者の日々の食事管理力の向上に非常に効果的である。実際、肥満外来でこのレシピを毎日実践された20歳男性は、4 ヶ月で14kg減量でき、内臓脂肪面積も41cm2の減少を認めた。更に、糖尿病(HbA1c:7.1→5.2%、メトホルミン薬の中止)や脂肪肝も劇的に改善し、併存していたうつも抗うつ薬の使用が中止できるほどに改善することができた。 今回は、我々の構築している国立病院機構多施設共同前向き肥満コホートにおけるデータベースを基盤とし、メタボ対策レシピ本というツールを有効活用した食事指導による減量、特に内臓脂肪量の減少効果について検討結果を報告する。更に、短期間でも頻回測定が可能なDual-BIAによる、内臓脂肪の経時的変化追跡による減量治療動機付け効果も交えて、今後の肥満減量治療と合併症予防のための効果的な食事・栄養指導のアプローチについて概説し、提案をする。

浅原 哲子1)、山陰 一1)、島津 章2)

1)国立病院機構京都医療センター臨床研究センター内分泌代謝高血圧研究部、2)国立病院機構京都医療センター

チーム医療による効果的な食事療法のアプローチ ―メタボ対策レシピからの学習―