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平成 27 年度 エネルギー需給緩和型インフラ・システム普及等促進事業 (中華人民共和国における統一的 EV 充電網の普及実現可能性調査) 調査報告書 2016 3 経済産業省 製造産業局 自動車課

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平成 27 年度 エネルギー需給緩和型インフラ・システム普及等促進事業

(中華人民共和国における統一的EV充電網の普及実現可能性調査)

調査報告書

2016 年 3 月

経済産業省 製造産業局 自動車課

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<目次>

第 1 章 調査結果要約 .............................................................. 1 政策法規にかかる調査 ........................................................ 1 1.1 充電インフラ普及に向けたロードマップの策定 .................................. 1 1.2 充電器と EV との接続性・互換性の確認及び問題点の総洗い出し ................... 2 1.3 充電器普及のための充電インフラ事業ビジネスモデル ............................ 3 1.4

第 2 章 調査概要 .................................................................. 4 本調査の対象および背景 ...................................................... 4 2.1

本調査の対象(中国における次世代自動車の定義) .......................... 4 2.1.1 背景① 中国における自動車販売台数の状況 ................................ 5 2.1.2 背景② 中国における環境対策での自動車関連の規制 ........................ 7 2.1.3 背景③ 中国における EV 普及の進捗状況 .................................. 8 2.1.4 背景④ 次世代自動車普及に向けた日中間での協力 ......................... 10 2.1.5

本調査の目的・調査内容 ..................................................... 11 2.2 目的 ................................................................... 11 2.2.1 各調査の概略 ........................................................... 11 2.2.2

第 3 章 調査方法 ................................................................. 13 調査方法 ................................................................... 13 3.1

調査① 政策法規にかかる調査 ........................................... 13 3.1.1 調査② 充電インフラ普及に向けたロードマップの策定 ..................... 13 3.1.2 調査③ 充電器と EV との接続性・互換性の確認及び問題点の洗い出し ........ 14 3.1.3 調査④ 充電器普及のための充電インフラ事業ビジネスモデル ............... 14 3.1.4 調査体制 ............................................................... 16 3.1.5

文献調査 ................................................................... 17 3.2 対象文献 ............................................................... 17 3.2.1

第 4 章 政策法規にかかる調査 ..................................................... 18 中国の次世代自動車関連政策の形成と特徴 ..................................... 18 4.1

中国の次世代自動車関連政策に関する 4 つの発展段階とその共通点 ........... 18 4.1.1 ①研究開発準備期(1999 年~2008 年) ................................... 18 4.1.2 ②市場化応用実験期(2009 年~2012 年) ................................. 19 4.1.3 ③広域実験普及期(2013 年~2015 年) ................................... 21 4.1.4 ④成長模索期(2016 年~2020 年) ....................................... 27 4.1.5 政策分析と課題整理 ..................................................... 28 4.1.6

日本の次世代自動車関連政策 ................................................. 31 4.2 日本における充電インフラ普及に関する取り組み ........................... 31 4.2.1 車両の購入促進に関する補助金制度 ....................................... 32 4.2.2

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蓄電池に関する研究開発 ................................................. 33 4.2.3 自動車関連税の減税 ..................................................... 35 4.2.4 次世代自動車充電インフラ整備促進事業 ................................... 35 4.2.5 リチウムイオン電池に関する研究開発 ..................................... 37 4.2.6 充電器設置にかかる規制緩和 ............................................. 39 4.2.7 「日本再興戦略」における次世代自動車に関する目標 ....................... 40 4.2.8 日本充電サービス社の発足 ............................................... 40 4.2.9

我が国における次世代自動車普及のための支援策 ......................... 42 4.2.10 中国の現状と日本の状況を踏まえた比較・考察 ................................. 45 4.3

次世代自動車分野に関する中国と日本の相違 ............................... 45 4.3.1 比較考察 ............................................................... 46 4.3.2

第 5 章 充電インフラ普及に向けたロードマップの策定 ............................... 49 電動自動車の充電インフラ発展に関するガイドライン(2015-2020 年) ........... 49 5.1

充電インフラ発展に関するガイドラインの概観 ............................. 49 5.1.1 ガイドラインの内容 ..................................................... 49 5.1.2

EV 充電技術動向の要点 ...................................................... 54 5.2 日本における EV 充電関連標準の現状と今後の予想.......................... 54 5.2.1 EV における充電池の最適容量、最適航続距離の動向 ........................ 55 5.2.2 世界における大容量充電に関する動向と課題 ............................... 56 5.2.3 中国における EV 充電関連標準の標準化作業の状況と見込み .................. 57 5.2.4 中国百人会による EV 普及活動 ........................................... 58 5.2.5

充電インフラ普及に向けたロードマップの策定に関する調査結果.................. 59 5.3 調査結果 ............................................................... 59 5.3.1

第 6 章 充電器と EV との接続性・互換性の確認及び問題点の総洗い出し ................ 60 互換性確認試験の意義および実施に向けた調整 ................................. 60 6.1

互換性確認試験の意義 ................................................... 60 6.1.1 CATARC との互換性確認試験共同実施に関する調整 ........................ 61 6.1.2 中国における互換性確認試験実施に対する課題 ............................. 63 6.1.3

中国における互換性確認試験の実施 ........................................... 66 6.2 AC 普通充電の互換性確認試験 ............................................ 66 6.2.1 DC 急速充電の互換性確認試験 ............................................ 71 6.2.2

互換性確認試験結果の課題整理および提言案の検討 ............................. 75 6.3 AC 普通充電 ............................................................ 75 6.3.1 DC 急速充電 ............................................................ 78 6.3.2

今後の取り組み ............................................................. 79 6.4 今後の取り組み ......................................................... 79 6.4.1

第 7 章 充電器普及のための充電インフラ事業ビジネスモデル ......................... 80

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ビジネスモデル検討の前提 ................................................... 80 7.1 現地調査 ................................................................... 81 7.2

北京 ................................................................... 81 7.2.1 青島 ................................................................... 89 7.2.2 常州 ................................................................... 96 7.2.3 深圳 .................................................................. 100 7.2.4 示唆のまとめ .......................................................... 109 7.2.5

充電インフラに関する充電需要の予測 ........................................ 110 7.3 調査分析の概略 ........................................................ 110 7.3.1 実施内容 .............................................................. 110 7.3.2 本調査分析で使用する EV 交通シミュレータの概要......................... 111 7.3.3 EV 交通シミュレータの中国への紹介と適用可能性検討 ..................... 114 7.3.4 EV 交通シミュレータを用いた中国での充電需要の評価 ..................... 116 7.3.5 シミュレーションに関するまとめ ........................................ 124 7.3.6

中国充電インフラビジネスモデルの収益性分析 ................................ 126 7.4 深圳市の充電需要予測 .................................................. 126 7.4.1 収益性の分析 .......................................................... 127 7.4.2

ビジネスモデルのあり方の考察 .............................................. 131 7.5 収益面からの考察 ...................................................... 131 7.5.1 参入に適すると目される業態 ............................................ 132 7.5.2 充電インフラ事業が産む新たな付加価値 .................................. 133 7.5.3 車種別の充電インフラの在り方 .......................................... 133 7.5.4 課題とその対策 ........................................................ 136 7.5.5

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第1章 調査結果要約

政策法規にかかる調査 1.1中国における次世代自動車関連の政策の展開過程において、主に①研究開発準備期(1999 年~

2009 年)、②市場化応用実験期(2009 年~2012 年)、③広域実験普及期(2013 年~2015 年)、

④成長模索期(2016 年~2020 年)という 4 つの発展段階に分けて考察してみた。それぞれの発

展段階毎に、政策の推進主体(行政機関)や、政策の趣旨目標、施行手段等は異なっているが、

中国次世代自動車産業に係るマスタープラン、研究開発計画、産業政策、利用促進拡大策、イン

フラ整備推進など数多く政策が発表され、次世代自動車の発展促進に大きな役割を果たしたと見

られる。そのなかで「省エネ・新エネ自動車産業発展企画(2012~2020)」、「新エネルギー車

の普及応用をより一層効率よく行うことに関する通知」、「電気自動車の充電インフラの発展ガ

イドライン(2015~2020)」という 3 本の政策はもっとも重要であると考えられる。 第 4 章にて説明している通り、2009 年の次世代自動車における産業化実験開始以来、2015 年

まで中央政府が発表した次世代自動車産業発展促進関連政策は約 70 本あり、業界規制強化と共に、

財政補助金給付によるインセンティブ手段が大きな効果を収めている。従って、これまでの中国

の次世代自動車発展の共通的な特徴は、中央政府及び地方による政策誘導に大きく依存してきた

と言える。一方、今後に関しては、2020 年までに次世代自動車の保有量 500 万台の目標を実現す

るために、現行の政策体系を基に新たな政策の発動と、政策調整が注目される。

充電インフラ普及に向けたロードマップの策定 1.2 中国では政策的な後押しもあり、ここ数年で爆発的な勢いで電気自動車(以下、「EV」)、プ

ラグインハイブリッド車(以下、「PHEV」)の普及が進んでいる。それに応じて、充電インフ

ラの普及も推し進めていく必要がある。 そこで、中国における充電インフラ普及に向けたロードマップの提案にあたり、日本における

これまでの充電インフラ普及に関する取り組みや統一規格である EV 充電関連標準の現状等を調

査した。また、中国における同様の取り組みを調査し、それらを踏まえ今後中国においても必要

となる取り組みについて検討を行った。 中国における充電インフラ普及に関する情報として、中国が国家として策定する「電動自動車

の充電インフラの発展に関するガイドライン(2015-2020 年)」を昨年 11 月に公表しており、こ

の中で充電インフラ普及目標として単に設置数だけでなく、普及のあり方にも関わる地域別・場

所別・用途別での具体的な数値目標を掲げられている。また、充電関連標準については、重点任

務として「充電の標準化作業の加速推進」が掲げられ、その中で「基準・規範体系を確立し、設

備の互換性の問題を重点的に解決し、…」と述べられており、その主軸となる標準として 5 つの

標準が 2015 年 12 月に改訂発行され、検定制度に係る 2 つの標準が策定作業中であることもわか

り、その内容は IEC 等の国際標準を踏襲するものであることもわかった。 一方、技術面での将来の充電インフラについては、同ガイドラインには重点任務として「新た

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なタイプの充電・交換技術および設備の研究開発を加速」を挙げ、具体的には、充電インフラと

スマートグリッド、分散型再生可能エネルギー、高度道路交通システムとの融合・発展を模索す

るとされており、日本や欧米の検討状況と同様の視点で議論が行われていることも伺えた。なお、

充電インフラそのものの技術面での将来について大容量充電などに関する言及は見られなかった。 したがって、中国における充電インフラ普及に向けたロードマップについては、既に中国で決

められた目標、普及のあり方に対する取り組みが進めはじめられており、その対象領域について

も国際社会での議論と乖離するものではないため、特に新たな提言を必要とするものではないと

考えられる。 しかし、充電インフラの重要な柱となる充電関連標準の整備については、これまで IEC 等の国

際標準活動への中国の参加は必ずしも充分とは言えず、日本としても積極的に参加を呼びかけ、

中国との意見交換の場作りが必要であると考える。

充電器と EV との接続性・互換性の確認及び問題点の総洗い出し 1.3 中国においては、これまでに各地で設置が進められてきた充電器は十分な統一規格が存在して

いないまま製造されており、結果として「使えない充電スタンド(使用しづらい立地にある、も

しくは充電コネクタ、充電プロトコル等の不一致により使用できない等)」が散見される状況に

ある。これは、2000 年以降、EV および充電器に対する基礎的な標準(GB 規格、GB/T 規格)が

用意されていたものの、それ以外の部分は自動車メーカーが独自の仕様で製造し、それに応じた

充電器がメーカー所在地の周辺で整備されてきたためであり、充電関連標準の完成度に課題があ

るとされてきた。 そこで本調査では、中国における AC 充電(普通充電)および DC 充電(急速充電)の双方に

ついて、日中両国の自動車メーカーの EV と中国の充電器メーカーの充電器を一堂に会した、集

合方式による充電器の互換性確認試験を実施し、物理的な形状、通信プロトコル、充電に係る電

気的な条件など EV 及び充電器の互換性にかかる不具合事象の確認を行った。その結果、充電シ

ステム関連標準の未準拠に係るものや商品としての追加機能に係るものなど、不具合事象が散見

された。 現在中国国内では 2015 年 12 月末に充電システム関連の基本標準 5 件が改訂発行されており、

充電器の検定に係る標準 2 件の審議が最終段階にある。中国電気自動車充電インフラ促進連盟の

サブリーダーである中国電力企業連合会はその活動の中で、日中共同研究で日本側が提案した互

換性確認試験の結果を反映して上記 2 件の標準を完成する計画である。また 3 月中旬には連盟と

しての課題集約会合が開かれる予定で、今回日本側で日本メーカー車両をベースに抽出した結果

および別途中国側でも抽出した日本車以外での問題点とも突き合わせて、反映事項を中国充電器

連盟に提出する計画であり中電連側でも期待している。 中国では 2018 年中に正式に充電器検定制度の立ち上げを予定しており、システム関連標準未

準拠に係るものについては、この中で対応することになる。また、製品としての追加機能に関す

る不具合についてもほとんどが審議中の検定関連標準への反映が可能と考えており、本調査の中

で行われた一連の活動の中で互換性問題については一定の歯止めが可能になると考える。

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充電器普及のための充電インフラ事業ビジネスモデル 1.4充電事業の収益性が低いのは日中両国とも共通している。これは事業運営においては、販売対

象である電力価格がガソリンに比べて安価であること、充電に要する時間は従来車の燃料給油時

間に比べて 10 倍程度長いことから顧客の回転率が低いこと、充電サービス料金を別途徴収するに

してもおのずと限度があることなどに起因しており、従来のガソリンスタンド型のビジネスモデ

ルを充電事業に適用しても採算確保は難しい。 現地調査による現状把握及び収集データを基にして 2020 年に中国の政府目標が達成された場

合の充電需要の予測を行い、それを用いて深圳市を例にした収益性の分析を行った。これは深圳

市の充電事業を一社で行う事を想定した充電事業の単純なモデルを想定しその収益性を分析した

ものである。その結果は投資の回収には 2031 年までかかるというものであった。 現地調査の結果から、中国には様々な充電事業のビジネスモデルの採用が試みられている。充電

事業に参入した各社は確固たるビジネスモデルと呼べるまで確立したものではないにしても、そ

れぞれ独自の工夫を凝らしながらビジネスチャンスの獲得を狙っている。 これらを比較分析した結果、中国における充電事業に参入可能な企業は主として、広範な事業

領域を持つ企業、充電設備製造に関係する企業、国有中央企業という 3 つの範疇に属しているこ

とがわかった。充電インフラ事業を継続的に運営するためにはこれらの他にインターネットを活

用した付加価値の向上、ビッグデータの活用等により収益力を増加させることが必要である。事

業戦略では対象顧客の絞込み、具体的には商用車、公共部門を主な対象として早期に囲い込みを

図ることが効率化の推進と早期の投資回収につながると考えられる。これらを包括した新たなビ

ジネスモデルの構築が求められている。

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第2章 調査概要

本調査の対象および背景 2.1

本調査の対象(中国における次世代自動車の定義) 2.1.12010 年 9 月、中国政府は次世代自動車(中国では新エネ車と呼ぶ)を 7 大戦略的新興産業の 1

つと位置付けた。次世代自動車には、高い環境基準、省エネ基準をクリアした従来型の標準車、

PHEV、EV、HV、燃料電池自動車(FCV)といった種類がある。我が国では既に一般化してい

る HV をはじめ、これらの次世代自動車の普及が促進されようとしているが、中国では HV、燃

料電池車(以下、「FCV」)は次世代自動車には含まれず、PHEV および EV が次世代自動車と

の定義となっている(図表 2-1)。特に、中国政府は EV の推進に力を注いでおり、普及に向けた

政策を強力に推し進めようとしている状況である。また中国では図表 2-1 に示す通り、乗用車の

みならず、公共交通のひとつであるバスの次世代自動車への転換が推進されている点も特徴であ

る(図表 2-2)。 本調査では中国における次世代自動車の定義に従い、PHEV および EV を調査対象とし、特に

EV に重点を置いて調査を進めることとする。

図表 2-1:中国が定義する次世代自動車

中国が定義する次世代自動車

1) 省エネ自動車(全力促進)

従来型の標準車

ハイブリッド車【乗用車、公共交通】

2) PHEV(急速に産業化)

PHEV【乗用車、公共交通】

航続距離延長型ハイブリッド車

【乗用車、公共交通】

3) EV(急速に産業化)

EV【乗用車、公共交通、専用車】

4) 燃料電池自動車(研究開発試行)

(中国政府)省エネ・新エネ自動車戦略を促進

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図表 2-2:中国における次世代自動車の売り上げシェア等

次世代自動車の売上シェア (2014 年 1 月~2015 年 6 月)

EV バスと PHV バスの割合 (2014 年 1 月~2015 年 6 月)

出所:中国自動車工業協会、科学技術部、発展改革委員会、財政部、及び EVHUI.COM より大

和総研作成

背景① 中国における自動車販売台数の状況 2.1.2我が国自動車産業は、高度な製造技術をベースに世界主要市場に対する積極的なグローバル展

開を実践し、現在は世界市場の約 3 割超を占める状態である。他方、世界最大規模の販売マーケ

ットを有する中国では、我が国のシェアは 2015 年実績で 16%程度に留まっており(図表 2-3 参

照)、世界全体のシェアと比較すれば、十分にマーケットを獲得できているとは言い難い。中国

における自動車メーカー別販売台数ではドイツ VW 社が圧倒的な販売台数を誇っている。2014年実績で 271 万台と独走しており、中国国内販売台数の 10%以上のシェアを握っている。日系メ

ーカーではトヨタ、日産、ホンダの 3 社で 262 万台であり、3 社合計で独 VW 社と同等の規模と

なっている。一方で EV 社の販売状況であるが、2014 年の年間販売台数 2,350 万台のうち、EVは 4.5 万台、PHV は 3.0 万台であり、新エネ車の市場シェアは 1%にも満たない状況である。

そもそも中国では環境汚染対策、燃料消費抑制が喫緊の課題とされており、2012 年に中国政府

は「省エネルギー・新エネルギー自動車産業発展計画(2012~2020 年)」を発表し、自動車メ

ーカーに対する厳しい燃費基準の目標設定を行うとともに、EV、PHEV、FCV といった新エネ

自動車の普及を進めてきている。 さらに 2014 年には「新エネルギー自動車の普及実用の促進

に関する指導意見」を発表し、充電インフラ整備のための技術基準の策定や、充電インフラ設置

支援策を示し、新エネ自動車の普及をより一層推し進めようとしている段階にある。世界的な新

エネ車普及の潮流に加え環境対策が喫緊の課題となっている中国では、新エネ車の普及は待った

なしの状況といえ、今後の市場拡大が見込まれる。

乗用

車 45%

バス 50%

その

他 5%

EVバス 57%

PHVバス 43%

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図表 2-3:中国における自動車販売台数ベースでの国別シェア

出所: 中国汽車工業協会発表、各種報道より大和総研作成

図表 2-4:ブランド別販売台数(2014 年 単位:万台)

出所:中国汽車工業協会発表、各種報道より大和総研作成

中国国内系 873.76万台, 41.32%

独系 399.82万台, 18.91%

日系 336.43万台, 15.91%

米国系 259.57万台, 12.27%

韓国系 167.88万台, 7.94%

仏系 72.93万台, 3.45%

2015年

2,110万台

271

140

11298 96 92 86 80 80 77

62 56 51 48 44

70

50

100

150

200

250

300

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背景② 中国における環境対策での自動車関連の規制 2.1.3中国の経済・産業の急速な発展に伴い、深刻な大気汚染が国家レベルでの課題になっているこ

とは周知の通りである。中国では環境改善対策の柱の一つとして、車両に関する燃費規制、排ガ

ス規制を施策として打ち出している。 燃費規制については、2015 年末までに企業平均での数値を 100 ㎞あたり 6.9 リットルとし、更

には 2020 年までにこの値を 100 ㎞あたり 5 リットルにするよう計画されている。2020 年の

100km あたり 5 リットルは非常に高い基準であり、自動車メーカーにとっては厳しいものとなっ

ている。 排ガス規制については、汚染物質排出基準の制定に際し欧州を参考としている。各 5 段階の基準

制定の時期を中国、欧州双方で比較すると、Ⅰ基準では 9 年の差であったものの、Ⅴ基準ではそ

の差が縮まり 4 年となっており、徐々に先進国並みの基準に近づきつつある。 環境改善に資する自動車技術に関しては我が国自動車メーカーが得意とするところであり、当

該技術をもって中国市場シェアを今後更に拡大していくことができる潜在力を十分に有している

と考えられる。

図表 2-5:中国における自動車燃料消費基準に関する政策一覧

発布時期 政策名称 内容 2011年 12 月 乗用車燃費消費量評価

法および指標 乗用車の車両モデルの燃料消費量の目標値と自動

車メーカーに対する指標達成要求を規定

2012 年 6 月 省エネルギー・新エネ

ルギー自動車産業発展

計画(2012年-2020年)

2015 年までにその年に生産された乗用車の平均燃

料消費量を現在の 100km/7.38 リットルから

100km/6.9 リットルまで低減する。 2020 年までにその年に生産された乗用車の平均燃

料消費量を現在の 100km/6.9 リットルから

100km/5.0 リットルまで低減する

2013 年 3 月 乗用車企業平均燃料消

費量査定弁法 乗用車メーカーが報告する燃料消費量に対して査

定、公示、監督および管理を実施

2014 年 12 月 乗用車燃料消費量閾値 2020 年までの乗用車平均燃料消費量を 5L/100kmとし、二酸化炭素排出量は約 120g/km とする

出所:中国華東地域自動車産業調査報告書(JETRO)、各種資料より作成

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図表 2-6:中国と欧州の自動車排ガス基準施行時期の比較

出所:各種情報を基に大和総研作成

背景③ 中国における EV 普及の進捗状況 2.1.4中国政府が強力に推進しようとしている EV については、産学官連携の第三者機関として「中

国電気自動車百人会」が設立され、今後の普及のための施策検討が実施されている。中国国家能

源局でも電動汽車充電基礎施設規画を策定するなど、中国国内において、官民による普及のため

の検討が進められているところである。 中国政府は 2014 年第 2 四半期(4 月~6 月)より新エネルギー車の普及促進に関する新政策を

相次ぎ発表した。自己申請を原則として、全国で 39 地域合計 88 都市をモデル都市に認定。認定

都市には中央政府から相応の財政支援を行うこととなっている。中央及び地方政府による一の連

促進政策の影響で、新エネルギー車の販売台数は従来の自動車と比べて桁違いの伸び率で市場拡

大している。しかしながら、2015 年 8 月まで時点の累計販売台数は、18.3 万台で、2015 年末ま

での 33.6 万台の公約目標に比べて、達成率は 54.6%に留まり、最終目標達成は困難な状況にある

と見られる。 目標達成を妨げる主な要因には、①充電インフラ整備の遅れによる受電サービスが不備、②一

部分の地方政府による地方保護主義、③消費者から新エネルギー車に対する理解と信頼不足など

が挙げられる。中でも充電インフラ整備については重要である。中国ではこれまでに各地で設置

が進められてきた充電器は十分な統一規格が存在していないもとで製造されており、結果として

「使えない充電スタンド(充電コネクタ、充電プロトコル等の不一致により使用できない、もし

くは使用しづらい立地にある、等)」が散見される状況にある。これは、2000 年以降、EV およ

び充電器に対する基礎的な標準(GB 規格、GB/T 規格)が用意されていたものの、それ以外の部

分は自動車メーカーが独自の仕様で製造し、それに応じた充電器がメーカー所在地の周辺で整備

されてきたためであり、充電関連標準の完成度に課題があるとされてきた。中国政府としても EVの普及に合わせ、標準化の重要性が高まったことを受けて、関係標準の改訂など整備を現在進行

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形で進めている状況にある。中国における今後の EV の普及拡大にあたっては、いかなる EV と

充電器の組み合わせにおいても、トラブルが発生することなく安全・安心な充電環境を構築する

必要がある。そのためには、充電器と EV との接続性・互換性が確保された充電インフラの整備

が大きな鍵となり、EV と充電器の互換性確認試験を実施することが肝要となる。

図表 2-7:普及推進モデル地域における推進状況

普及推進モデル地域数 全国 39 地域合計 88 都市

綜合支援政策発表した都市(2015 年 5 月まで) 57 都市による 160 項政策発表

各地方が公約する推進目標台数(2015 年末まで) 33.6 万台(100%)

目標達成度(2015 年 8 月) 18.3 万台(54.6%)

普及台数上位 5 都市 上海、北京、深圳、合肥、杭州

上位販売台数自動車メーカー BYD、上海汽車、北京汽車、奇瑞、江淮

図表 2-8:電子自動車産業の国際競争力比較

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10

背景④ 次世代自動車普及に向けた日中間での協力 2.1.52014 年 12 月、経済産業省および中国国家発展改革委員会の指導のもと、日本自動車研究所

(JARI)と中国汽車技術研究中心(CATARC)が次世代自動車関連インフラ普及にかかる共同研

究の実施について合意した。まさに、日中両国間で次世代自動車普及に向けた相互協力の機運が

高まっているところである。 本共同研究は、日中省エネ環境総合フォーラムの政府協力の枠組みの下に位置づけられており、

「政策法規の研究」「充電路線図の研究」「次世代自動車の実証実験」「ビジネスモデルの研究」

の 4 テーマで構成されている。経済産業省と中国国家発展改革委員会、中国国家能源局の指導の

下、日中両国の関連機関や関連企業が共同で参加・実施することとなっている。

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11

本調査の目的・調査内容 2.2

目的 2.2.1上記の背景等に鑑み、今次調査事業では、日本国内における EV 普及のための取り組みや経験

が、中国においても有効であることを確認することと、中国の特定地域において、日本側の提案

する充電規格による充電網普及の可能性を確認するとともに、広く中国全体に統一規格の充電器

を普及させるための「充電器検定制度」の導入を提案することを目的とする。

各調査の概略 2.2.2本調査では次の 4 分野に関し、それぞれ調査、ロードマップ策定、実証実験等を行った。

- 調査① 政策法規にかかる調査 次世代自動車普及にかかる関連法規、ガイドライン、補助金制度等について、日中双方の

制度、関連規定を調査する。時系列で整理の上、両国における次世代自動車の普及発展を政

策面から概観し、「調査④充電器普及のための充電インフラ事業ビジネスモデル」の参照とす

る。 ⇒ 調査方法: 第 3 章(3.1.1) ⇒ 調査結果: 第 4 章

- 調査② 充電インフラ普及に向けたロードマップの策定

充電インフラには「充電時間の長さ」「航続距離の短さ」という課題に加え、中国において

は「充電システム標準の完成度の不足」という課題もある。本調査では、それぞれの課題の

特性を踏まえ、充電インフラ普及に向けたロードマップを策定する。本パートでは、充電イ

ンフラの普及のあり方に関する日中両国のこれまでの取り組みを参考にするだけでなく、本

調査の他テーマである充電器の互換性確認に関する取り組みや、充電技術に関する結果も踏

まえ取りまとめる。 ⇒ 調査方法: 第 3 章(3.1.2) ⇒ 調査結果: 第 5 章

- 調査③ 充電器と EV との接続性・互換性の確認及び問題点の洗い出し

今後、EV の普及拡大にあたっては、いかなる EV と充電器の組み合わせにおいても、トラ

ブルが発生することなく安全・安心な充電環境を確保する必要がある。そのためには、充電

器と EV との接続性・互換性が確保された充電インフラの構築が大きな鍵となる。 そこで、市場に流通するまたは近い将来販売が予定される EV や充電器に対し、日中両国

の充電器メーカーの充電器と自動車メーカーの EV を一堂に会した集合方式による充電器の

『互換性確認会』を実施し、接続性・互換性に関する問題点の洗い出しを行う。

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12

⇒ 調査方法: 第 3 章(3.1.3) ⇒ 調査結果: 第 6 章

- 調査④ 充電器普及のための充電インフラ事業ビジネスモデル

中国で発表された「電気自動車の充電インフラの発展に関するガイドライン(2015-2020年)」における EV 普及台数の目標値を念頭に置き、充電インフラ整備事業に既に取り組んで

いる事業者の現状把握を目的に、充電事業として特徴がある 4 都市を選択して現地訪問し、

現地の充電事業運営者の実態を調査する。また、充電インフラ事業の収益性を検証するため

に、ヒアリング等によって得た数値を使用して収益シミュレーションを行う。以上 2 点を基

に、中国での充電インフラ事業におけるビジネスモデルの在り方に関する考察を行う。 ⇒ 調査方法: 第 3 章(3.1.4) ⇒ 調査結果: 第 7 章

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13

第3章 調査方法

調査方法 3.1

調査① 政策法規にかかる調査 3.1.1 本パートでは、日中双方の次世代自動車普及に向けた政策法規に関する調査を実施する。 中国における次世代自動車普及政策は 1999 年を出発点として、

① 研究開発準備期(1999 年~2009 年) ② 市場化応用実験期(2009 年~2012 年) ③ 広域実験普及期(2013 年~2015 年) ④ 質が伴う成長の模索期(2016 年~2020 年)

の 4 つの発展段階に分けて整理することができる。そこで、これらの期毎に具体的な政策法規の

内容とそのポイントを取りまとめる。調査対象とする政策法規は、「Ⅰ. マクロ・産業政策」「Ⅱ. 新エネルギー車の普及応用に関連する政策」「Ⅲ. 標準化推進」「Ⅳ. 優遇税制」「Ⅴ. インフラ

政策」とする。 一方で、我が国の次世代自動車に関する政策は、1996 年の電気自動車等普及整備事業から開始

され、現在に至るまでに多くの政策が実施されている。その中でも、2009 年のエコカー減税によ

り我が国では急速に HV が普及し始め、その流れに合わせて近年次世代自動車普及に向けた各種

政策が実施されている。そこで、次世代自動車普及のための政策を時系列で俯瞰しつつ、近年の

一連の主要な政策について詳細を調査する。具体的には、「減税政策」「補助金制度」「充電イ

ンフラ整備促進」「次世代自動車に関する研究開発」「充電器設置に関する規制緩和」といった

分野について調査整理する。

⇒ 調査結果: 第 4 章

調査② 充電インフラ普及に向けたロードマップの策定 3.1.2中国では政策的な後押しもあり、近年爆発的な勢いで EV、PHEV の普及が進んでいる。それ

に応じて、充電インフラの普及も推し進めていく必要がある。EV や PHEV は、充電行為によっ

て推進エネルギーを蓄える必要があるため、従来のガソリン車におけるガソリンスタンド同様に

外出先での充電設備はもとより、自宅や外出目的地での充電設備のインフラ整備も重要な課題と

なる。 このような課題認識の下、2015 年 11 月 19 日に中国国家発展改革委員会、国家能源局等 4 部

門が共同で「電動自動車の充電インフラ発展に関するガイドライン(2015-2020 年)」(以下、

「ガイドライン」)を発表した。また、中国国家能源局はガイドラインの内容を踏まえ、同年 11月 29 日に開催された日中省エネルギー・環境総合フォーラムにて、「電気自動車の充電インフラ

発展政策」を発表した。当該ガイドラインでは、充電ステーションや充電ポール設置の具体的な

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数値目標、重点的なタスクテーマ等が明記されており、充電インフラ普及に向けたロードマップ

に類似した性格のものとなっている。そこで、中国における充電インフラ普及に向けたロードマ

ップの提案に資する、中国の取り組みの情報として、両資料を調査する。尚、本パートでは当該

ガイドラインの内容を俯瞰すると同時に、充電インフラ整備において重要なキーファクターとな

る充電技術動向、充電関連標準化動向について、併せて整理する。

⇒ 調査結果: 第 5 章

調査③ 充電器と EV との接続性・互換性の確認及び問題点の洗い出し 3.1.3 本調査では、実物の EV と充電器の互換性を確認する試験を実施する。互換性確認試験とは、

市場に流通するまたは近い将来販売が予定される EV や充電器に対し、いかなる EV と充電器の

組合せにおいても安全かつトラブルなく充電が行われるかを確認する試験である。EV や充電器

は各種標準(規格)に基づいて設計・製作されることで互換性が担保された製品が市場に流通す

るが、実際には以下の問題点が考えられる。 問題点 1)標準に互換性を確保するための規定が不足していることがある。 問題点 2)標準に規定はあるものの、メーカーが遵守せずに製品化することがある。 そこで本調査では、中国の主要地域において、AC 充電(普通充電)および DC 充電(急速充

電)の双方について、日中両国の自動車メーカーの EV と中国の充電器メーカーの充電器を一堂

に会した、集合方式による充電器の互換性確認試験を実施し、物理的な形状、通信プロトコル、

充電に係る電気的な条件など EV 及び充電器の互換性にかかる不具合事象を確認する。その上で、

もし不具合事象が発生した場合には、その発生原因の解明および解決策を検討することで、標準

または製品へ改善点をフィードバックすることとし、標準および製品の完成度の向上を目指す。 さらに、中国における統一規格の充電器を普及させるため、それが統一規格に基づいて製造さ

れているかどうかをチェックする仕組みとして、充電器検定制度を構築することが必要である。

日本においても、AC普通充電器に対してはJARI認証制度、DC急速充電器に対してはCHAdeMO検定制度が運用されており、そういった充電器検定制度の導入に資するべく、検定プロセスや検

定に必要な仕様の検討、検定制度の推進体制構築の必要性に関する提言をとりまとめる。

⇒ 調査結果: 第 6 章

調査④ 充電器普及のための充電インフラ事業ビジネスモデル 3.1.4中国政府より 2015 年 11 月に「電気自動車の充電インフラの発展に関するガイドライン

(2015-2020 年)」が発表され、そこでは 2020 年には EV の普及台数 500 万台と、これらの充

電需要を満たす充電インフラ整備として集中型充電・交換ステーション 1.2、万箇所、分散型充電

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ポール 480 万基の設置が謳われている。 電気自動車の普及のために欠かせない充電インフラの整備事業が成立するためには、①都市の

特徴や現状等を踏まえ、充電インフラ事業における諸課題が解決されていること、及び②事業者

が収益性を確保できること、或いは解決に向けた対策が講じられようとしていることが重要であ

る。そこで、本章では①に対するアプローチとして、充電インフラ整備事業に既に取り組んでい

る事業者の現状把握を目的に、充電事業として特徴がある 4 都市を選択して現地訪問し、各地方

政府の取り組み状況及び充電設備の整備状況を確認の上、現地の充電事業運営者の実態を調査し

た。各都市毎に調査結果を整理分析し、それぞれの都市の現状を基に、充電インフラ整備事業に

おける要点や示唆を明確化する。具体的な 4 都市および取材先とその目的は、図表 3-X に示す通

りである。 続いて、②に対するアプローチとして、上述のガイドラインで掲げられた目標数値が 2020 年

に達成されたとの仮定を置き、充電事業の収益性を定量的に把握、検証すべく、具体的な数値シ

ミュレーションを行う。尚、シミュレーションにあたりインプットするパラメータ値に関しては、

各都市での取材を通じて取得したデータを用い、対象都市における将来の充電需要の予測を行う。

これについては我が国において充電インフラの設置に関して多くの知見を有する株式会社構造計

画研究所に依頼し、同社のシミュレーションモデルを活用する。また、充電インフラビジネスモ

デルの収益性については、深圳市を例にとりあげ分析を行う。 以上を踏まえ、本パートでは中国における充電インフラ事業のビジネスモデルの在り方に関す

る考察を行う。具体的には、①シミュレーション結果を基にした収益性に関する考察、② 参 入

に適すると目される業態、③充電インフラ事業が産む新たな付加価値、④車種別の充電インフラ

の在り方、⑤課題とその対策、といった観点に基づい考察アプローチをとる。

⇒ 調査結果: 第 7 章

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図表 3-1:現地訪問企業一覧 場所 取材先 取材の目的

北京市

北京市新能源汽車発展促進中心 北京市の取り組み確認、EV 及び充電

インフラ現状把握 中国電力企業連合会 標準化管理センター 国営企業の取り組みヒアリング 中国普天新能源(北京)有限公司 個社の取り組みヒアリング 中国電動汽車百人会 活動及び研究開発の内容把握 北汽特来電(北京)新能源科技有限公司 個社の取り組みヒアリング 北京高威科電気技術股份有限公司 北京沢誠匯通投資諮詢有限公司 北京博通瑞能機電設備有限公司

常州市 常州市経済和信息化委員会 常州市の取り組み確認、EV 及び充電

インフラ現状把握 EV 現状把握 星星充電 個社の取り組みヒアリング

青島市 青島市科学技術局 青島市取り組み確認、EV 及び充電イ

ンフラ現状把握 青島特来電新能源有限公司 個社の取り組みヒアリング

深圳市

深圳市発展改革委員会 深圳市取り組み確認、EV 及び充電イ

ンフラ現状把握 中国普天新能源(深圳)有限公司 国営企業の取り組みヒアリング 深圳市科陸新能源技術有限公司 個社の取り組みヒアリング 深圳市沃特瑪電池有限公司 深圳市中能能源管理有限公司 巴斯巴集団 中興新能源汽車有限責任公司

調査体制 3.1.5

本調査の遂行にあたっては、株式会社大和総研を総括として、中国現地での 14 年の勤務経験を

有し、調査経験が豊富な寺谷宣夫シニアコンサルタントが担当した。また中国語の政策文書、報

告書、報道など幅広い情報の中から効率的に情報収集を行うため、中国人シニアコンサルタント

である張暁光と、次世代自動車及び充電インフラの市場調査に知見を有する江藤哲寛が本調査に

従事した。 さらには、日本自動車研究所の木戸彰彦、山田豊、矢野勝、西村直人が「2) 充電インフラ普

及に向けたロードマップの策定」及び「3) 充電器と EV との接続性・互換性の確認及び問題点

の洗い出し」を担当し、構造計画研究所の志村泰知、藤垣洋平が「4) 充電器普及のための充電

インフラ事業ビジネスモデル」の充電需要シミュレーションを担当した。

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文献調査 3.2

対象文献 3.2.1参考文献は巻末参照

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第4章 政策法規にかかる調査

中国の次世代自動車関連政策の形成と特徴 4.1

中国の次世代自動車関連政策に関する 4 つの発展段階とその共通点 4.1.1中国における次世代自動車関連の政策の歴史的な過程を整理すると、①研究開発準備期(1999

年~2009 年)、②市場化応用実験期(2009 年~2012 年)、③広域実験普及期(2013 年~2015年)、④成長模索期(2016 年~2020 年)の 4 つの発展段階に分けて整理することができる。そ

れぞれの発展段階毎に、政策の推進主体(行政機関)や、政策の趣旨目標、施行手段等は異なっ

ている一方、4 つの発展段階には次の共通点が見られる。 1) 政策の発動と施行は終始一貫して中央政府による主導推進方式で進められ、各地方政府に対

する施策手段は補助金による利益誘導とトップダウンの組み合わせ方式が基本となっている。 2) 政策の立案計画は、中国の各「経済社会発展 5 ヵ年計画」に組み込まれ、高い計画経済性が

見られるが、政策の施行目的(例えば①エネルギー構造転換;②大気汚染軽減による環境保

護;③新規自動車産業の育成)について、中央官庁間及び地方政府において各担当部門のニ

ーズにばらつきが見られる。 3) 政策面で次世代自動車産業に対する参入ハードルは当初高かったため、大手自動車メーカー

による参入意欲は低く、結果として中堅、中小メーカーが市場のメインプレーヤーになって

いる。これは各メーカー所在地の地方政府による強力的なバックアップが大きく寄与してい

る。

①研究開発準備期(1999 年~2008 年) 4.1.2この期間、主導的な役割を担った機関は国家科学技術部(以下、「科技部」)と国家発展改革

委員会(以下、「発改委」)である。国家国民経済五ヵ年計画の計画枠に国家“863”プロジェクト

という政策を組み入れ、約 10 年間を費やして、次世代自動車に係る基礎理論、コア技術、共通応

用技術に関する分野、開発構造などに関する研究開発を行い、中国の次世代自動車産業化の土台

を築いた。また次世代自動車産業発展のロードマップの雛形も策定した。

国家“863”プロジェクト(電気自動車関連プロジェクト)1 1)1999 年、科技部主導のもと「大気浄化プロジェクト“クリーン自動車”」という行動計画がスタ

ートしたことをきっかけに、環境対策に関する多くのプロジェクトが開始された。特に 2001 年 9月に科技部主導の「863 電気自動車プロジェクト」に関する F/S 調査の結果、中国の次世代自動

車産業に関する“三縦三横”(三縦:HV、EV、FCV;三横:蓄電池、電気モーター、電気制御システ

1 「国家 863 計画」:正式名称は「国家ハイテク研究発展計画」。英文では Program 863と言われ、中国の国家ハイテク発展計

画である。1986年 3 月に発表されたので、そう呼ばれている。「863 電気自動車プロジェクト」は 2001年にスタートし、初代

総責任者は万鋼・科学技術大臣であり、2006年より清華大学自動車工学専攻の教授陣が中心になり推進してきている。

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ム)の産業研究開発構造をはじめて確定し、国家レベルで正式に EV の研究開発に取り込む活動

が開始された。

次世代自動車産業発展のロードマップ雛形の策定 上述の科技部主導による国家”863”プロジェクトの目的が大気環境対策であるのに対し、発改委

はエネルギー構造転換を政策目的とした、節能与新能源汽車技術政策研究(省エネ・新エネ自動

車に関する技術政策研究)プロジェクトの研究を 2007 年後半~2009 年上半まで行った。このプ

ロジェクトにおいて、エネルギー構造転換に資する次世代自動車産業のロードマップ案が取りま

とめられた。基本的な内容は①省エネ自動車政策(例:燃費改善)、②新エネ自動車政策(例:

EV)、③代替エネ自動車政策(例:NG、LPG)の 3 本柱での構成されている。このロードマッ

プは以降数年間の試行錯誤を経て、2012 年に最終版が確定された。

②市場化応用実験期(2009 年~2012 年) 4.1.3この期間において、国務院及び科技部、発改委、工信部、財政部などの中央官庁により次世代

自動車の産業化、試験応用、利用補助金を巡って、13 の関連政策が打ち出された。その後の影響

度からみると、最も重要となるのが以下 3 つの政策であろう。 1) 自動車産業調整・振興計画(以下、「調整・振興計画」) 2) 省エネ・新エネ自動車産業発展企画(2012~2020 年)(以下、「発展計画(2012~2020 年)」) 3) 省エネ・新エネ自動車のモデル地域応用実験に関する通達(以下、「Ⅰ期モデル実験通達」)

自動車産業発展ロードマップの明確化 1)2009 年、世界がリーマンショックに喘ぐなか、中国は自動車の生産台数(1379.10 万台)と販

売台数(1364.48 台)(CAA 中国自動車工業協会より)の両部門で初めて世界一となった。この

タイミングで中国政府は次世代自動車産業発展に関する「自動車産業調整・振興計画」を打ち出

した。その内容は、既存の生産施設を改造し、合計 50 万台規模の EV、PHEV、HV の生産能力

を有する設備を構築し、新車販売シェアのうち 5%をそれらの次世代自動車とすることを目標に

掲げたものであった。この自動車産業調整・振興計画の位置付けは、中国における次世代自動車

産業を、自動車産業の規模拡大、生産技術・生産能力向上の突破口にすることであった。世界金

融危機のさなかに打ち出されたこの政策は、従来のエネルギー構造転換や大気環境対策とは一線

を画し、もっぱら自動車産業育成に力点をおかれたことがうかがえる。また結果としてその後の

中国次世代自動車産業の産業化、市場化促進に大きく影響を与えている。 一方、「調整・振興計画」実施 2 年後に発表された「発展計画(2012~2020)」は、中国の次

世代自動車に関する異なる意見の集大成として、前期発改委ロードマップが基となった、中国次

世代自動車の発展に関する本格的なロードマップである。「発展計画(2012~2020)」では、次

世代自動車産業に関する産業化、技術方向、裾野分野、政策制度の 4 分野における発展目標が定

められた。

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図表 4-1:省エネ・新エネ自動車産業発展企画(2012~2020 年)概要(2012 年 6 月国務院発布)

技術方向 ・ EV 純電気自動車を次世代自動車と内燃機自動車産業構造調整の戦略方向とし

て、当面 EV と PHEV を産業化の重点項目として取り組む。 ・ 上記重点分野に合わせて、エコカー、HV、エコ内燃機自動車も支援。

発展目標

・ 産業化推進:EV、PHEV の国内累計保有量は、2015 年 50 万台、2020 年 500万台。生産規模は 2020 年 200 万台水準。

・ 技術水準:次世代完成車、車用電池及び重要部品関連技術は国際水準に到達。 ・ 裾野産業育成:重要部品の技術水準及びを産規模は国内需要に満たすこと。充電

インフラ施設も次世代自動車の需要に満たすこと。 ・ 制度規範:補助制度、市場販売、アフター・サービス及び電池リサイクルの制度

化、体系化を図り、健全な技術規格体系と制度規範体系を形成。

推進計画 ・ 産業育成期:2015 年までに、政府主導と支援のもと、基礎研究開発、産業化、

モデル事業、市場化による手段で、次世代自動車産業を育成。 ・ 産業発展期:2020 年までに、市場主導原則で、次世代自動車の市場普及を図る。

戦略措置

・ 次世代自動車用電池などの重要技術に関する研究開発の推進。 ・ 産業構造の合理化推進、電池産業、重要部品産業の生産能力のアップ。 ・ 充電インフラ整備を推進、充電マスタープラン、充電ビジネスモデルの検討。 ・ 電池の総合利用推進。

出所:国務院「節能与新能源汽車産業発展规划(2012~2020 年)」より大和総研作成

「十城千車」プロジェクト 2)前述の通り、次世代自動車に関する基礎研究開発と産業化の準備完了後、中央政府は次世代自

動車の実用化、市場化を推進する政策を発動した。具体的には、先ず 2009 年 1 月に財政部、科

技部、工信部、発改委共同で、「省エネ・新エネ自動車のモデル地域応用実験に関する通達」(以

下、「Ⅰ期モデル実験通達」)を発布した。これは「十城千車」というプロジェクト名で呼ばれ

ており、2009 年 1 月より約 5 年かけて、全国から毎年モデル都市として 10 都市を選出して政府

補助金を配布し、各都市に公共用省エネ・新エネ自動車 1,000 台規模を常時利用する計画であっ

た。その後、追加政策として更に全国で個人向けの省エネ・新エネ自動車のモデル 6 都市を確定

した。しかし、プロジェクト実験終了時の 2013 年上半期の時点で、公共用車両実験参加都市は

25 都市にとどまり、そのなかで実際に 1,000 台以上を運営する都市は深圳と北京のみであった。

達成台数は、公共用自動車分野では当初目標である 50,000 の 60%であり、個人用車分野では当

初目標である 100,000 台の 10%にも及ばなかった。 Ⅰ期モデル実験は、実績台数の観点で総じて芳しくない結果となった。その直接的な理由は個

人向け用省エネ・新エネ自動車の実績販売台数が極めて少なかったことと認識されており、その

要因は、自動車製品の完成度不足、関連法規の不備、地方による縄張り行政等によって引き起こ

されていると考えられる。しかしながら、これらに対する検証結果は以降の大規模普及に係る政

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策策定に繋がったため、本プロジェクトは結果的に有意義であったと考えられる。

③広域実験普及期(2013 年~2015 年) 4.1.4前記 2 段階における模索発展期を経て、中央政府は次世代自動車発展に関する多数の政策を相

次ぎ発布した。政策がプラスに作用したこともあり、2014 年は中国の次世代自動車元年と呼ばれ

るほど盛り上がるムードが急速に高まった年となった。そのような流れの中で、次世代自動車の

販売量は空前の勢いで拡大しており、2015 年末までに累計販売量が約 45 万台に達した。 これは「発展計画」(2012~2020)に掲げられた“2015 年までに 50 万台”という販売目標には

約 5 万台足りないが、短期間におけるキャッチアップによって世界最大の生産量と販売量を実現

できたことは、同期間に打ち出された諸政策が功を奏したと考えられる。 この期間政府によって打ち出された一連の政策の分野は、経済産業マスタープラン関連 9 本、

次世代自動車産業発展政策関連 8 本、利用促進関連 9 本、減税・補助金関連 4 本、研究開発関連

3 本、充電インフラ整備関連 9 本という構成であった。これらの政策は前期に適用された政策に

対する一部修正と補足的な目的がある。更に「省エネ・新エネ自動車産業発展企画」の期限に間

に合わせるための見切り発射の側面も否定できない。 前期と比較した場合、広域実験普及期の政策的な特徴点は下記の 3 点と考えられる。

1) これまで以上に高い権威性と包括性政策の推進 この期間に発布された約 30 数本の政策を主体別に見ると、中央専管機構による共同発布と国務

院名義による政策発布分で全体の約 70%を占めている。中央政府指導層による旗振り的な政治イ

ベントによって、産官学界において次世代自動車普及に関する意識が高揚された。また内容面で

は、分野には偏ることなくエネルギー、環境保護、産業育成など広範囲に亘る包括性の高い政策

となっており、次世代自動車産業発展をめぐる公共政策、社会政策、産業・経済政策の面を含め

た総合政策体系の雛形が形成されている。 2) 利用実験モデル地域の拡大 この期間の政策重点は次世代自動車の利用促進に関する実験地域の拡大である。施行された数

本の政策のなかでは、「新エネルギー車の応用普及を加速する指導意見」(以下、「指導意見」)

が最もインパクトがあった。「指導意見」は中国の次世代自動車の発展戦略の推進実施版の位置

付けで、約 30 項目の具体施策が盛り込まれている。最も重要なポイントは、地方自治体による縄

張り意識と参入障壁の一掃、政府部門など公共セクターにおける次世代自動車利用範囲の拡大、

利用環境改善に係る総合政策の拡充などである。 上記のような流れのなかで、2014 年より全国におけるモデル実験地は 39 行政区(88 都市)ま

で拡大した。各対象都市は「指導意見」に合わせて、2014 年より相次ぎ地方版政策を公布した。

中国の次世代自動車発展事業は中央政府主導から地方政府主導にシフトし始めていると見られる。

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3) ハード・ソフト面におけるインフラ整備の重視

2014 年以降、次世代自動車の台数増加に伴い、充電インフラの整備不足が大きな次世代自動車

利用のボトルネックとして注目されてきている。中央政府および政府指導下にある国営電力会社

である国家電網は、充電インフラ整備に照準した 3 本の政策を策定して、2020 年までの整備計画

を公表した。加えて明確な数値目標に対して規範的な実施計画を策定した。 一方ソフト面では、次世代自動車に関する基準規格を確定させる政策の意向が強くなっている。

2014 年 6 月~2015 年末の間に工信部、自動車標準化技術委員会によって発布された次世代自動

車標準化項目は 78 項あった。更に 2015 年 12 月「中国電気自動車標準化ロードマップ」(2015~2025)が完成し、2016 年 1 月 11 日に確定となった。ロードマップでは中国電気自動車産業標

準化に係る 4 大分野の 78 項目が盛り込まれ、2025 年まで 4 段階に分けて実施されることになっ

ている。

図表 4-2:年間次世代自動車販売量と政策発布数

出所:各種報道より大和総研作成

18.0 12.8 17.6

74.8

331.1

13 11

6

16

20

0

5

10

15

20

25

30

35

0

50

100

150

200

250

300

350

2009~2011年 2012年 2013年 2014年 2015年

(1,000台)

年間販売台数(左目盛り)

年次政策発布数(右目盛り)

(件)

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23

図表 4-3:新エネルギー車関連政策およびポイント

時期 政策名/主なポイント 政策分類

2013 年

2013/1 『エネルギー発展の「第 12 次五ヵ年」計画を発布する国務院の通

知』(国務院) ・ 「第 12 次五ヵ年」計画期間末に、石油対外依存度を 61%以内

に抑える。 ・ スマート電気網と新エネルギー車インフラを発展の重点とし、

エネルギーの生産および利用方式の変革を推進する。 ・ 新エネルギー車インフラ建設において、プラグインハイブリッ

ド、純電気など新エネルギー車の発展ニーズに応じて、北京、

上海、重慶など新エネルギー車重点普及都市において充電施設

(充電スポット、充電ステーションなどを含む)の建設を普及

させ、2015 年までに 50 万台の EV に対応する充電インフラ体

系を形成する。 ・ 高性能の動力電池とエネルギー貯蔵施設を研究開発し、新エネ

ルギー車のエネルギー供給設備の製造、認証、検査及び関連基

準体系を構築する。

Ⅰ. マクロ・産業

政策

2013/9 『大気汚染防止退治行動計画の発布に関する国務院の通知』(国

務院) ・ 公共交通、環境衛生など業界と政府機関は率先して新エネルギ

ー車を使用し、ナンバープレートの非競売や財政補助など措置

をとって個人による購入を奨励する。 ・ 北京、上海、広州など都市において毎年新規増加または更新す

るバスにおける新エネルギーとクリーン燃料車の割合は 60%以上になるべき。

Ⅰ. マクロ・産業

政策

『新エネルギー車の普及応用を引き続き展開することに関する通

知』(財政部、科技部、工業・情報化部、国家発展改革委員会) ・ 特大都市(特大都市および大気汚染が厳重な地区を重点地域と

する)を拠点に新エネルギー車を普及させる。 ・ 2015 年までに、各特大都市および重点地域における累計普及

台数は 1 万台を下回らず、その他都市および地域は 5,000 台

を下回らない水準とする。そのうち、非地元ブランドの占める

割合が 30%を下回らない水準とする。 ・ 公共サービス分野に対する要求:新規増加または更新するバ

Ⅱ. 新エネルギ

ー車の普及応用

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24

ス、公務車、物流車、環境衛生車両のおける新エネルギー車の

占める割合は 30%を下回らない水準とする。 ・ 車種と規格、用途に合わせて補助金を与える。 ・ 充電施設の整備に対し財政補助を提供する。

2014 年

2014/1 『新エネルギー車の普及応用をより一層効率よく行うことに関す

る通知』(財政部、科技部、工業・情報化部、国家発展改革委員

会) ・ 補助金政策が 2015 年 12 月 31 日に満期した後、中央財政は引

き続き補助金政策を実施する。 ・ 純電気乗用車、プラグインハイブリッド(レンジエクステンダ

ー型を含む)乗用車、純電気専用車、燃料電池自動車の 2014年度の補助削減基準を従来の 10%から 5%に調整し、2015 年

度の補助削減基準を従来の 20%から 10%に調整する。

Ⅰ. マクロ・産業

政策

2014/5 『分布型電源の電気網への接続サービスを効率よく行うことに関

する意見(改正版)』『電気自動車充電・電池交換施設用電気の

申請・取付サービスを効率よく行うことに関する意見』(国家電

網) ・ 分布型電源の適用範囲を拡大し、民間資本による分布型電源の

電気網への接続プロジェクトへの投資を積極的に支援する。 ・ 民間資本による普通充電と急速充電など各種の EV 充電・電池

交換施設市場への参入を支援する。 ・ 国家電網は自己負担で充電・電池交換施設整備に係る公共電気

網の改造を担う。 ・ 個人および住宅団地の充電・電池交換施設の使う電気は生活電

気価格を実施し、その他は国の規定した従量電気価格を実施す

る。

Ⅴ. インフラ政

2014/7 『关于加快新能源汽车推广应用的指导意见』(国務院) 前期の「発展計画」の実施細則版として、アクション 30 条を

公布し、推進プラン、充電インフラ整備、ビジネスモデルの検

討、公共分野の拡充、地方保護主義の排除、イノベーションな

どに関わる政策の整理と調整。

Ⅱ. 新エネルギ

ー車の普及応用

2014/8 『关于免征新能源汽车车辆购置税的公告』(财政部、国家税务总

局、工信部) ・ 2014 年 9 月 1 日~2017 年 12 月 31 日期間、次世代自動車購

入に“購置税”を免除する。

Ⅳ. 優遇税制

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25

・ 対象車種は、航続距離、コア部品リスト、適用登録車種リスト

に適合する。

2014/12 『乗用車燃料消費量閾値」(GB19578-2014)、乗用車燃料消費量

評価方法及び指標(GB27999-2014)』(工信部) ・ 2020 年まで乗用車平均燃料消費量は 5L/100km;二酸化酸素

(CO2)の排出量は約 120g/km。 ・ 「GB27999」は 2016 年 1 月 1 日より施行 ・ 「GB19578」は、新規登録車種は 2016 年より施行、既存車種

は 2018 年 1 月より適用

Ⅰ. マクロ・産業

政策

2015 年

2015/4 『2016~2020 年新エネルギー自動車普及財政支援政策に関する

通達』(財政部、科技部、工信部、発改委) EV、PHV、FCV を対象に補助期間を 2020 年まで延長、 EV の航続距離を 80km から 100km に引上げ、補助比率年次

縮小

Ⅳ. 優遇税制

2015/5 『メイド・イン・チャイナ 2025(中国製造 2025)』(国務院) ・ 30 年かけて次世代自動車産業を含む製造業十大重点分野の産

業水準を世界製造強国の上位に入る。 ・ 次世代自動車産業に係る発展目標、重点開発製品、重要基盤技

術を策定

Ⅰ. マクロ・産業

政策

2015/10 『電気自動車の充電インフラ建設の加速化に関する指導意見』(国

務院) 2020 年まで 500 万台の EV 充電に満たすための充電インフラ

を整備する。 新規住宅及び大型物件施設の駐車場に比例按分の EV 充電専

用駐車場を確保する。 ・ 2,000 台の EV に 1 つの充電ステーションを確保する。

Ⅳ. 優遇税制

『電気自動車の充電インフラの発展ガイドライン(2015-2020)』

(発改委、能源局、工信部、住建部 2015 年 10 月 9 日発布) ・ 2020 年までに、集中式充電・電池交換ステーション 1.2 万基

以上、分散式充電ポールを 480 万本以上新規設置する。 ・ 公共バス充電・電池交換ステーションを 3850 基、タクシー用

2,500 基を新規設置する。

Ⅴ. インフラ政

2015/12 『中国電気自動車標準化ロードマップ(2015~2025)』(工信部、

国家標準化管理委員会) ・ 2015 年 12 月、ロードマップ完成、2016 年 1 月 11 日認定確

Ⅲ. 標準化推進

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26

定。 ・ EV産業標準化に係る 4大分野の 78項目が盛り込まれており、

2025 年までに 4 段階に分けて実施される。

2016 年

2016/1 『第13次五ヵ年計画の新エネ車充電インフラの奨励政策及び新エ

ネ車の普及実用の加速化に関する通知』(財政部、科技部、工信

部、発改委、能源局) ・ 2016~2020 年期間、次世代自動車の充電インフラ整備に対す

る奨励補助金を引き続き付与する。 ・ 地域を分けて、2016 年~2020 年までの次世代自動車保有量の

年次逓増目標を確定する。大気汚染深刻省、市に 3 万台より 7万台まで増加させる。

・ 中部地域において、1.8 万台より 5 万台まで増加させる。 ・ 上記目標達成に応じて、国から地方政府に奨励金に支給する。

Ⅴ. インフラ政

出所:各種資料より大和総研作成

図表 4-4:前回と今回の普及応用都市と都市群リスト 都市 北京、天津、太原、晋城、大連、上海、寧波、合肥、蕪湖、青島、鄭州、新

郷、武漢、襄陽、広州、深圳、海口、成都、重慶、西安、蘭州、瀋陽、長春、

ハルビン、淄博、臨沂、濰坊、聊城、瀘州 湖南省都市群 長株潭(長沙・株州・湘潭)地区 河北省都市群 石家荘(辛集を含む)、唐山、邯郸、保定(定州を含む)、邢台、廊坊、衡水、

滄州、承徳、張家口 浙江省都市群 杭州、金華、紹興、湖州 福建省都市群 福州、アモイ、漳州、泉州、三明、莆田、南平、竜岩、寧徳、平潭 江西省都市群 南昌、九江、撫州、宜春、萍郷、上饒、贛州 広東省都市群 佛山、東莞、中山、珠海、恵州、江門、肇慶

内モングル都市群 フフホト、包頭 江蘇省都市群 南京、常州、蘇州、南通、塩城、揚州 貴州省都市群 貴陽、遵義、畢節、安順、六盤水、黔東南州 雲南省都市群 昆明、麗江、玉渓、大理

*昆明市は個別試行都市として前回(2009~2012 年)の都市リストに入った後、今回(2013~2015 年)雲南省都市群に入れられた。重複を避けるために、本表では昆明を雲南省都市群に入れ

ている。

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27

④成長模索期(2016 年~2020 年) 4.1.52016 年に入り中国の次世代自動車産業は新たな発展段階を迎えることになる。中国の次世代自

動車保有量は 2015 年末に 45 万台となり、「省エネ・新エネ自動車産業発展企画(2012~2020年)」の第 1 段階目標の 50 万台には僅かに届かなかったものの、近い水準まで達した。これから、

発展計画の第 2 段階の目標である 2020 年までの保有量 500 万台に向かって、更なる成長発展の

模索をし始めている。しかしながら、残りの 5 年間においては、これまでに支給していた補助金

を減額しながら、更に 10 倍にまで次世代自動車の保有量を増やすことは、大きなチャレンジにな

ると言えよう。この目標を達成するために、従来の政策のみならずより効果の高い追加政策が求

められることになると思われる。今後 5 年間に亘る主要政策の構成は下記の 3 点が予想される。 従来政策の維持と政策の調整 1)2012 年に発布された政策である次世代自動車の発展計画(例「省エネ・新エネ自動車産業発展

企画(2012~2020 年)」は、恐らく継続的に維持されると思われる。一方で、補助金分野にお

いては支給額の基準が今後大きく調整される予定である。まず 2016 年を起点として、2017 年か

ら段階的に低減し、2020 年以降は廃止となる見込みである。また、支給方式は、場合によって補

助金方式から奨励金方式に切り替えられたり、生産者補助から消費者補助にシフトする可能性も

否定できない。

重要な新規政策の開始 2)2016 年より次世代自動車に係るいくつかの政策が施行される予定であり、そのなかで次の政策

が重要視されている。 ① 「中国電気自動車標準化ロードマップ」(2015~2025)が施行。(2016 年 1 月 11 日認定)。 ② 工信部第四阶段油耗法规が実施(2016 年 1 月 1 日より)。 ③ 「第 13 次五ヵ年計画の新エネ車充電インフラの奨励政策及び新エネ車の普及実用の加速化

に関する通知」の実施。 ※詳細内容は上述の「新エネルギー車関連政策およびポイント」を参照のこと

新たに発布された追加政策への期待 3)2020 年まで次世代自動車の保有量を 500 万台まで増加させるには、既存の政策のみではやや力

不足の感がある。普及状況に合わせて、新たな政策の発動も必要であろう。既に 2016 年では下

記の重要な政策が発表された。 ■次世代自動車産業発展をより支援するための 5 大措置(国務院常務会議 2016 年 2 月 24 日)の

主要内容は下記 5点である。

① 車用電池の産業高度化を促進 ② 充電インフラ整備を加速し、民間資本の参入を奨励 ③ 次世代自動車の公共利用比率を高める(30%→50%)

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④ 完成車の質を高めるために、産業参入、経過監督体制を強化 ⑤ 財政補助政策の有効性と健全化を図り、地方保護主義を排除 ■Internet plus スマートエネルギーの発展を促進する指導意見(発改委、能源局、工信部が共同

発布 2016 年 2 月 29 日) 主要内容は下記 4 点である。

① 蓄電と EV 電力利用の新モデルを育成 ② 蓄電のネットワーク運営管理の新モデルを創出 ③ IoT 方式によるスマート充電モデルを創出 ④ 新エネルギー+次世代自動車の運営モデルを発展

上記 4 分野は二段階に分けて推進される計画となっている。第 1 段階(2016 年~2018 年)は

上記分野に関するモデルの施行と基礎研究開発の推進であり、第 2 段階(2019 年~2025 年)は

Internet plus エネルギー産業と市場体系の形成である。

政策分析と課題整理 4.1.6 1)政府主導に偏重しすぎる産業発展メカニズム 中国の次世代自動車の産業育成と利用拡大において、政府による政策支援と積極的な行政主導

方式は大きな促進役割を発揮していると見られる。1999 年~2015 年の約 16 年間をわたる次世代

自動車販売量と政策発布数の相関関係を観察する限り、その依存関係ははっきり表れていると言

って良いであろう(図表 4-2「次世代自動車販売量と政策発布数」を参照)。また上記一連の政

策実施手段は補助金方式である。しかし、十数年間の発展を経て、中国の次世代自動車産業の発

展基盤の大枠が確立し、今後更なる発展と拡張において、従来通りの政府主導発展方式の転換が

求められている。その理由は後述する課題や問題点にも関連し、補助金による政府財政(特に地

方政府財政)の負荷も懸念されている。市場原理に基づく自助努力の発展に資する政策支援が求

められている。 2)産業高度化の停滞感

次世代自動車の 2015 年までの累計販売台数は世界 1 位若しくは 2 位まで急増したこととは対

照的に、次世代自動車産業の国際競争力は世界水準には遠い状況にある。その原因は以下 3 点と

考える。①次世代自動車産業における大手自動車メーカーの存在感は依然弱く、メインプレーヤ

ーは中堅、中小メーカーによって構成されている。そのなかには補助金を目当てに零細多数の業

者参入と一部の不法業者による粗末な製品が混じり込むことによって産業水準の低下につながっ

ている。②政策支援による補助金の給付基準(①乗用車は航続距離基準、②公共用車は車体の長

さが基準、③補助金の受給者は消費者ではなく、生産者)は簡易であり、不法業者に便乗される

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可能性があり、公平な競争と産業秩序を損ねている。③次世代自動車の活用拡大実験対象地とな

る地方政府において、2015 年末までの保有量のノルマを達成するために、質よりも量優先の政策

傾向が強くなり、客観的に粗放的な拡張を助長することが否めないと思われる。次世代自動車産

業は数量的に急拡張しながら、産業水準は依然道半ばの状態にあると思われる。 3)利用環境と市場化の不足

次世代自動車の利用環境としてもっとも重要となるポイントは充電インフラの整備である。

2013 年 9 月に四部委共同発布した『新エネルギー車の普及応用を引き続き展開することに関する

通知』において、充電インフラ網の整備が言及されており、その後当該分野にフォーカスした政

策も複数発表されたにもかかわらず、進展状況は順調とは言い難い。その原因を探ってみると、3つのポイントが認識される。まず、充電インフラの整備は、中国の都市構造、土地、電力行政、

民生、市政など多岐分野に関連しており、総括的な調整メカニズムが欠如している。次に、現状

の主なプレーヤーは非自動車分野の出身が多く、直接利益を享受する自動車メーカーは充電イン

フラ整備の分野において進出は消極的である。さらに、現状における充電サービスビジネスは、

充電サービスのみでは収益を上げることが難しく、確たる充電ビジネスモデルが確立していない

ことから、民間業者による充電サービス事業参入を阻害している。

図表 4-5:次世代自動車発展促進政策推移

出所:各種報道より大和総研作成

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図表 4-6:機関分野別発布政策構成

出所:各種報道より大和総研作成

23

21

8

5 4 1 1 1

官庁共同発布

国務院

科学技術部

発展改革委員会

発布総数

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日本の次世代自動車関連政策 4.2

日本における充電インフラ普及に関する取り組み 4.2.1我が国では、環境問題に対する国民の意識向上に伴い、EV、PHEV などの次世代自動車を普及

させるための各種政策等が 2002 年頃から実施されている。政府による関連支援制度は車両購入

補助金や電池に関連した研究開発の他、充電インフラの普及にも力が注がれている。その支援の

もと、2010 年頃から EV、PHEV の保有台数が急速に増加しており、2014 年度末で保有台数は

約 11 万 4,000 台 2 となっている。充電インフラの面においては、2013 年 3 月より従来の充電器

本体に係る購入費補助に加え、設置工事費まで補助範囲が拡大されたこともあり、DC 急速充電

器は 2015 年末時点で約 6,000 基 3 が、AC 普通充電器は約 13,000 基 4 が設置されている。 日本は制度立案・予算案計画の仕組み上、5 ヵ年計画を策定し支援策を実行する中国のそれと

は異なり、各年度の予算毎に制度が策定される。以降は次世代自動車に関連する主要な制度につ

いて主だったものを時系列順に触れる。

図表 4-7:EV・PHEV 及び急速充電器の台数推移

出所:経済産業省資料より

2 一般社団法人次世代自動車振興センターホームページ 3 CHAdeMO 協議会ホームページ 4 電動車両用電力供給システム協議会(EVPOSSA)ホームページ

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車両の購入促進に関する補助金制度 4.2.2経済産業省は「クリーンエネルギー自動車等導入促進対策費補助事業(CEV 補助金)」を 2003

年度に導入した。同制度は、以降も継続されており、各自動車メーカーより発売された一定条件

を満たした新車を消費者が購入する際に補助金が交付されるものである。車両購入に係る負担軽

減による初期需要の創出を図り、量産効果による生産コスト低減を促進し、世界に先駆けて国内

の自立的な市場を確立することを目的としている。また、自動車を含む運輸全体によって我が国

の CO2 排出量の 2 割が産出されているため、需要創出のみならず環境・エネルギー面への対応の

観点からも、EV 等の次世代自動車を普及することが重要とされている。本制度の要点を以下に

まとめる。 1) 2013 年度時点における CEV 補助金の事業目的・概要 環境・エネルギー制約の対応の観点から、我が国の CO2 排出量の 2 割を占める運輸部門にお

いて、EV 等の次世代自動車が普及することは重要である。 また、次世代自動車は、今後の成長が期待される分野であり、各国メーカーが次々と参入を

予定するなど、国際競争が激化している。 加えて、エネルギーセキュリティを高める観点から、多様なエネルギー源としての水素や電

気を利用する燃料電池自動車や EV 等の役割についても期待が高まっている。 一方、現時点では導入初期段階にあり、コストが高い等の課題を抱えている。 このため、車両に対する負担軽減による初期需要の創出を図り、量産効果による価格低減を

促進し、世界に先駆けて国内の自律的な市場を確立する。 2) 成果目標 「日本再興戦略」における、2030 年までに新車販売に占める次世代自動車の割合を 5~7 割

とする目標の実現に向けて、次世代自動車の普及を加速させる。 3) 直近の予算 2013 年度:300 億円 2014 年度:300 億円 2014 年度補正:100 億円 2015 年度:200 億円 2016 年度要求:150 億円

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図表 4-8:クリーンエネルギー自動車等導入促進対策非補助金

出所:経済産業省資料より

蓄電池に関する研究開発 4.2.3蓄電池に関する能力向上もまた、次世代自動車では欠かせない研究開発分野である。我が国で

は蓄電池に関する研究事業として、「革新型蓄電池先端科学基盤基礎研究事業」が 2009 年より

開始されている。我が国の次世代自動車用蓄電池に関する産業は他国よりも技術的な優位性が高

いと目されており、今後も世界トップレベルの維持が重要と思われる技術分野である。本事業は、

EV 向けの高性能・低コストな蓄電池開発を目的としており、2030 年には途中充電なしで 500kmの連続走行距離の実現と、2008年比での 1/40の低コストの実現を目指すために実施されている。

欧米や新興国の参入による国際競争の激化に対応するため、2030 年の革新型蓄電池の実用化に向

けた基礎的研究や、実用化に必要な素材の革新、先端解析技術を駆使した電池の基礎的な反応原

理・反応メカニズムの解明を行っている。 1) 事業目的・概要 電池の基礎的な高速充放電などに関する反応メカニズムを解明することによって、既存の蓄

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電池の更なる安全性等の信頼性向上、並びにガソリン車並の走行性能を有する本格的 EV 用

の蓄電池(革新型蓄電池)の実現に向けた基礎技術を確立することを目的として研究開発を

行う。 2) 成果目標 リチウムイオン電池の革新のために開発した現象解析の新技術を用いて、蓄電池の不安定反

応・現象(寿命劣化・不安全など)のメカニズムを解明し、その解決を図る 2009 年度から 2015 年度までの 7 年間の事業であり、本事業を通じて 2030 年にエネルギー

密度 500Wh/kg を見通すことのできる 300Wh/kg の蓄電池を検証することを目指す 3) 予算 2015 年度予算額は 31 億円

図表 4-9:革新型蓄電池先端科学基盤基礎研究事業について

出所:経済産業省資料より

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自動車関連税の減税 4.2.4環境性能に優れた次世代自動車を対象に、自動車取得税や重量税などに関する減税を適用する

制度として、2009 年よりエコカー減税が実施されている。エコカー減税は 2009 年 6 月から現在

において実施されており、新車購入時にかかる「自動車取得税」、購入時と車検時にかかる「自

動車重量税」が、次世代自動車については免税となる(図表 4-10)。本制度の導入当初は、次世

代自動車の中でもとりわけプリウスやインサイトなどの HV を普及させるための枠組みであった

が、この減税が起爆剤となり、以降のエコカー販売台数の増加につながった。

図表 4-10:次世代自動車に減税(2015 年度版)

自動車取得税 自動車重量税 自動車税 電気自動車 プラグインハイブリッド車 燃料電池車 クリーンディーゼル車 天然ガス自動車(平成 21 年排ガス規

制 NOx10%以上低減)

新車免税 免税 概ね 75%軽減

次世代自動車充電インフラ整備促進事業 4.2.5我が国政府は「電欠なき日本」を目指し、日本中に隅々まで充電器を整備するため、2012 年度

補正予算で「次世代自動車充電インフラ整備促進事業」を立ち上げた。この補助制度では、充電

器設置者に対して、充電器購入費及び工事費の最大 2/3 の補助が実施される(図表 4-12)。この

補助金の特徴は、「地方自治体等のビジョンに基づく充電器の設置(第 1 の事業)」に対して、

補助金を手厚くしている点である。ビジョンとは、充電インフラを計画的に配備するために、適

切な設置箇所等を自治体等が示すものであり、設置者は、このビジョンに基づいて充電器を設置

した場合、有利な補助率により政府から機器購入費及び設置工事費の補助が受けられる。 1) 事業目的 EV・PHEV に必要な充電インフラの整備を加速することにより、次世代自動車のさらなる普

及を促進し、運用部門における二酸化炭素の排出抑制や石油依存度の低減を図る。 具体的には、充電器等の購入費及び工事費を補助することにより、①目的地への途中で充電

可能な「経路充電」の充実(高速道路 SA/PA、道の駅、コンビニ等)、②目的地における「目

的地充電」の充実(ショッピングセンター等)、③マンション・月極駐車場及び従業員駐車場

等の充電施設(「基礎充電」)の充実、④自律的なインフラ整備を促進するため、充電器課金

装置の整備加速を図る。

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2) 成果目標 「日本再興戦略改定 2014」における、2030 年までに新車販売に占める次世代自動車の割合

を 5~7 割とする目標の実現に向けて、普及に不可欠な充電インフラの倍増を目指す。 3) 予算 2012 年度補正:1,005 億円(平成 26 年度まで継続) 2014 年度補正予算:300 億円 2015 年度:300 億円 2016 年度要求:25 億円

図表 4-11:次世代自動車充電インフラ整備促進事業

出所:経済産業省資料より

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図表 4-12:充電インフラ整備への日本国の補助制度

事業名 概要 補助対象 補助率

第 1 の事業 自治体等が策定する充電器設置のためのビジョ

ンに基づき、かつ公共性※を有する充電設備の

設置

充電器購入費、 設置工事費

2/3

第 2 の事業 ビジョンには基づかないものの、公共性※を有

する充電設備の設置 充電器購入費、 設置工事費

1/2 第 3 の事業 共同住宅の駐車場および月極駐車場等へ設置す

る充電設備の設置 充電器の購入費、 設置工事費

第 4 の事業 上記以外の充電設備の設置 充電器購入費

※「公共性」とは、以下の全ての要件を満たす必要あり<第 1 の事業及び第 2 の事業が対象> ① 充電設備が公道に面した入口から誰もが自由に出入りできる場所にあること ② 充電器の利用を他のサービス(飲食等)の利用を条件としていないこと ③ 利用者を限定していないこと(但し、その場で料金を支払うことで充電器を利用できるので

あれば、条件を満たすものとする。) 出所:次世代自動車振興センター資料より作成

リチウムイオン電池に関する研究開発 4.2.6経済産業省・資源エネルギー庁は車載用蓄電池の性能向上に向け、2012 年度から「リチウムイオ

ン電池応用・実用化先端技術開発事業」を開始した。運輸部門における石油依存の脱却や CO2 排

出量の削減のため、EV や PHEV 等の次世代自動車の普及拡大が期待されており、その開発・実

用化の国際競争が激化している。本事業では、次世代自動車の動力であるリチウムイオン電池の

性能を限界まで追求するためのトップランナー型の技術開発を行っている。 ① 事業目的・概要 本事業で開発されるリチウムイオン電池の仕様を織り込んだ、安全性・寿命・性能に係る試

験法の共通基盤の研究開発等を実施。 これらの取り組みを通じて、次世代自動車の普及促進と我が国自動車・蓄電池関連産業の国

際競争力の強化を図る。 ② 成果目標 2012 年から 2016 年までの 5 年間の事業であり、EV 用途としてエネルギー密度 250Wh/kg、

出力密度 1500W/kg、PHEV 用途としてエネルギー密度 200Wh/kg、出力密度 2500W/kg、

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38

コストは両用途ともに 2 万円/kWh の電池パックを 2020 年代で実現することを目指す。 国際規格・基準に反映される安全性及び寿命に係る試験法の開発を目指す。 ③ 予算 2015 年度予算額は 25 億円。 2016 年度予算案額は 14.5 億円(25 億円)

図表 4-13:リチウムイオン電池応用・実用化先端技術開発事業について

出所:経済産業省資料より

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充電器設置にかかる規制緩和 4.2.7我が国の電気事業法の解釈では、1 需要場所に対する電力線の引き込み数は 1 つに制限されて

いる。このため、1 つの構内に EV 向け充電器を設置する場合、1 つの電力契約で電気を供する必

要がある。さらに、50kW 以上の電力供給は、6kV での受電が原則となっている。 一方急速充電器は、急速に充電するため電気容量が大きく、標準的な急速充電器は約 30kW~

50kW の容量となっている。このため、例えば既存の電力契約が 10~40kW 程度の電気容量の構

内に充電器を設置する場合、必要電気容量が 50kW を超えることとなり、6kV受電が必要となる。

6kV 受電を行う場合、新たに 6kV 受電設備の設置が必要となり、充電設備本体の費用に加え、受

電設備増設のための費用が必要となる。このため、充電設備設置に意欲のある低圧電力契約の商

業施設等の敷地内への充電器導入の障壁となり、充電器設置を断念するケースが多くあるという

課題があった。 これに対して、経済産業省は、2012 年 3 月 28 日に、急速充電器については、一定の条件を満

たせば同一敷地内であっても、別引き込みによる電気供給契約が可能となる特例措置を実施した。

これにより、多くの商業施設等での充電器設置意欲の向上が図られ、充電器設置拡大につながっ

てきている。さらには、経済産業省は 2015 年 12 月 15 日に、EV 及び PHEV のさらなる普及促

進促進に向け、充電器の設置に関する規制緩和を行うことを公表している(図表 4-14)。現行の

電気事業法施行規則では、急速充電器に併設して普通充電器を設置する場合、急速充電器用の受

電設備から給電することは出来ず、元の電気の契約場所から受電する必要がある。そのため、今

般の規制緩和では、産業競争力強化法に基づく「企業実証特例制度」を活用し、EV 専用急速充

電器用に設置されている受電設備から、併設する普通充電器への給電を可能とする方向で、2015年度中に公布するとしている。

図表 4-14:電力供給約款における需給契約の考え方

出所:経済産業省資料より

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「日本再興戦略」における次世代自動車に関する目標 4.2.8次世代自動車に関する我が国の政策上のテーマは「環境負荷の低減」「エネルギーセキュリテ

ィの向上」「成長産業の創出」である。2013 年 6 月に閣議決定された「日本再興戦略」では、

EV に関し「充電インフラの整備促進」「量産効果創出と価格低減促進のための車両購入補助」

「航続距離延長や低コスト化のための研究開発支援」などが挙げられている。その翌年の 2014年 6 月に閣議決定された「日本再興戦略」改訂 2014 では、2030 年までに新車販売に占める次世

代自動車の比率を 5~7 割とすることを目指すとされており(図表 4-15)、我が国においても次

世代自動車の普及は中国と同様に必須となっている。 このように、我が国の経済産業再興戦略において、次世代自動車が重要な要素の一つと位置付

けられている。

図表 4-15:次世代自動車の普及目標(乗用車新車販売に占める割合)

2020 年 2030 年

従来車 50~80% 30~50% 次世代自動車 20~50% 50~70%

ハイブリッド車 20~30% 30~40% 電気自動車

15~20% 20~30% プラグインハイブリッド車 燃料電池自動車 ~1% ~3% クリーンディーゼル自動車 ~5% 5~10% 出所:経済産業省「自動車産業戦略 2014」より作成

日本再興戦略を基に策定された次世代自動車に関する主な取り組みとしては以下の 3 点に集約

される。 1. 車両の購入促進に関する補助金制度 (クリーンエネルギー自動車等導入促進対策費補助金) 2. 充電インフラの整備 (次世代自動車充電インフラ整備促進事業) 3. 研究開発(革新型蓄電池先端科学基盤基礎研究事業、リチウムイオン電池応用・実用化先端

技術開発事業)

日本充電サービス社の発足 4.2.9日本充電サービス(NCS)は、次世代エネルギー対策の重要な牽引役を担う電動車両の普及を

目的とし、その礎となる充電ネットワークの拡充を図ることを目的に 2014 年 5 月 26 日に設立さ

れた。トヨタ自動車株式会社、日産自動車株式会社、本田技研工業株式会社、三菱自動車工業株

式会社、株式会社日本政策投資銀行、東京電力株式会社、中部電力株式会社の 7 社が合計 1 億円

を出資している。なお、NCS はプロジェクトファイナンスのスキームを用い、DBJ、横浜銀行、

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京都銀行、七十七銀行、中国銀行、百五銀行が総額 89 億円のシンジケート・ローンを組成してい

ることも特徴的である。 NCSは充電器設置者から8年間の独占利用権を得る仕組みを採用している。充電を行う顧客は、

NCS へ充電カードの発行を依頼し、そのカードを用いて都度充電を行う。充電に関する料金プラ

ン体系は図表 4-16 の通りである。

図表 4-16:NCS が展開している充電インフラネットワークサービスのビジネスモデル

出所:NCS へのヒアリングより大和総研作成

図表 4-17:日本充電サービスが発行する NCS カードの料金プラン表

出所:NCS ウェブサイト(http://www.nippon-juden.co.jp/cd/)より作成

EVユーザー

日本充電

サービス(NCS)

会費・都度課金等¥

カード充電カード発行

会費・都度課金等

カード充電カード発行

充電器の利用

¥利用権購入

利用権

利用権の提供利用権対価(※1)

利用権取得

充電器設置者充電器

自動車メーカー

充電器設置者側の負担軽減利用者への利便性提供/チャネルの拡大

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我が国における次世代自動車普及のための支援策 4.2.10我が国における次世代自動車普及支援のための制度・戦略等の概要は以下となる。

図表 4-18:我が国における次世代自動車に関する支援対策(時系列順)

時期 制度名 概要

1996 年 電気自動車等普及

整備事業

アメリカ・カリフォルニア州の ZEV(Zero Emission Vehicle)法が改定された 1996 年に、日本では電気自動車等普及整備事

業が開始される。 1998 年

~ 2003 年

クリーンエネルギ

ー自動車普及事業

クリーンエネルギー自動車の普及促進のため、導入しようとす

る者に対し、EV・HV・天然ガス車などの車両の購入及び燃料

供給設備の整備に対する定額補助を実施。 1990 年代

後半 ~ 現在

電気自動車等に係

る自動車取得税に

係る税率の特例措

新車購入の際に自動車取得税を非課税とする特例措置を実施。

2000 年頃 ~ 現在

低公害車用燃料等

供給設備に係る税

率の特例措置

燃料電池自動車及び天然ガス自動車の燃料等供給設備につい

て、固定資産税の課税標準を最初の 3 年間に限り 2/3 の額とす

る。

2003 年 ~ 現在

エコカー減税

国土交通省が定める排出ガスと燃費の基準値をクリアした、環

境性能に優れた車に対する優遇制度。新車を取得する際に適用

対象車を選び基準を満たせば、自動車取得税と自動車重量税の

優遇を受けることができる。

2007 年 次世代自動車・燃

料イニシアティブ

エネルギー安全保障、環境問題、国際競争力強化を解決するた

め、2007 年 5 月に経済産業省、自動車業界、石油業界の 3 者

で合意した自動車・燃料の環境エネルギー戦略。同イニシアテ

ィブでは、上記の運輸部門の石油依存度低減目標のほか、2030年までに少なくとも 30%の効率改善という省エネルギー目標

の実現に向けた取り組みの一環として、バイオ燃料のほか、バ

ッテリー、クリーンディーゼル、水素・燃料電池、世界一優し

いクルマ社会構想の 5 つの戦略を掲げている。

2008 年 7月

低炭素社会づくり

行動計画

2008 年 7 月 28 日に地球温暖化防止の国内対策を盛った「低炭

素社会づくり行動計画」を閣議決定。我が国の CO2 排出量の

約 2 割を占める運輸部門の大幅削減につなげるため、次世代自

動車が 2020 年までに新車販売のうち 2 台に 1 台の割合を占め

ることを目指すとしている。 2009 年度 EV・PHV タウン構 「低炭素社会づくり行動計画」の取り組み方針にも位置付けら

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~2013 年

度 想 れている、EV やPHVの本格普及に向けた実証実験のための

モデル事業で、次世代自動車の初期需要を創出するためには、

充電インフラ整備や普及啓発などを集中的に行う必要がある

ことから、モデル地域を選定し、自治体、地域企業等とも連携

して①EV・PHEV の初期需要の創出、②充電インフラの整備、

③EV・PHEV の普及啓発、④効果評価・改善の 4 つの基本方

針に基づき事業を実施。

2009 年 5月

次世代自動車普及

戦略

環境省は、2050 年の自動車社会を見据え、各種の次世代自動

車の技術的・経済的特性や世界的なエネルギー市場の動向も踏

まえつつ、次世代自動車普及のシナリオを検討し取りまとめ

た。同戦略では EV を 2020 年に 207 万台、2030 年に 590 万

台と試算している。

2010 年 3月

環境対応車普及戦

環境省は、環境対応車に関する今後の市場動向、技術開発の動

向を踏まえた普及目標及び普及拡大に向けた取り組み方針で

ある「環境対応車普及戦略」を公表。同戦略は、環境対応車の

普及目標、これを進めるための各種の措置及びロードマップ等

を示している。

2010 年 4月 12 日

次世代自動車戦略

2010

経済産業省は、次世代自動車が国内新車販売に占める比率を

2020 年に最大 50%とする普及目標を設定。次世代車の購入補

助など積極的な導入支援を進めると同時に、充電インフラ整備

も積極化することとした。次世代自動車の普及に向けて、2020年に全国で普通充電器を 200 万基、急速充電器を 5 千基設置す

る目標も掲げている。また、現在の日本仕様の電池を国際標準

規格にする戦略なども含めている。

2010 年 6月 8 日

エネルギー基本計

経済産業省は、国のエネルギー政策の指針になる「エネルギー

基本計画」を推進することで 2030 年のCO2 排出量を 1990年比で約 30%減らせるとの試算を公表。運輸部門では新車の

最大 7 割を次世代自動車に切り替えることなどで 29%の削減

につなげる計画としている。

2012 年度 ~ 現在

次世代自動車充電

インフラ整備促進

事業

次世代自動車向け充電インフラの整備に充てられる補助事業

で、2012 年度の補正予算として 1,005 億円が計上された。2015年度予算において追加で 300 億円が計上されている。 【補助額の推移】 2012 年度補正:1,005 億円(平成 26 年度まで継続) 2014 年度補正予算:300 億円 2015 年度:300 億円

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2016 年度要求:25 億円

2013 年度 ~ 現在

クリーンエネルギ

ー自動車等導入促

進対策費補助事業

(CEV 補助金)

経済産業省は、次世代自動車の価格低下を自動車メーカーに促

す仕組みを 2013 年度に導入した。2013 年度の補助額は 300億円を計上しており、補助は段階的に縮小し、2016 年度以降

は補助なしで消費者が比較的手ごろな値段でエコカーに手が

届くようにして、本格普及につなげることを目指すとしてい

る。 【補助額の推移】 2013 年度:300 億円 2014 年度:300 億円 2014 年度補正:100 億円 2015 年度:200 億円 2016 年度要求:150 億円

2013 年度 ~ 現在

燃料電池自動車用

水素供給設備設置

補助事業

FCV 向け水素ステーションの建設のために導入された補助金

で、当初は中規模水素ステーション(300Nm3-H2/h 以上)で

1ヵ所あたり 1.9億円~2.5億円、小規模水素ステーション(100~300Nm3-H2/h)で 1 ヵ所あたり 1.3 億円~1.6 億円の規模で

設定されている。その後 2014 年度には 1 ヵ所あたりの補助額

も増額されると共に、水素製造設備などにも補助が出ることと

なっている。 【補助額の推移】 2013 年度:46 億円 2014 年度:72 億円 2014 年度補正:96 億円

2013 年 6月

日本再興戦略 2010 2030 年までに次世代自動車の新車販売に占める割合を 5 割か

ら 7 割とすることを目指し、初期需要の創出、性能向上のため

の研究開発支援、効率的なインフラ整備を進めるとしている。 出所:経済産業省・環境省・国土交通省・次世代自動車振興センター等資料より大和総研作成

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中国の現状と日本の状況を踏まえた比較・考察 4.3

次世代自動車分野に関する中国と日本の相違 4.3.1 4.1 および 4.2 を踏まえ、次世代自動車分野に関し中国と日本の相違点を明確化する。比較分野

は大きく、A.政策推進の特徴、B.産業構造、C.充電インフラ整備、D.補助金とし、それぞれ図表

4-19 に示す項目毎に中国と日本の取り組み内容を対比する。

図表 4-19:次世代自動車分野における中国と日本の相違点

野 項目 中国 日本

A.政

政策 指向

・エネルギー対策 ・新規産業育成対策 ・大気汚染環境対策

・環境配慮 ・エネルギー安全対策

実施 手段

中央政府と地方政府による協力体

制及び補助金のインセンティブ方

式で推進。強力な行政主導と補助金

方式が特徴。

官民協同で多くの方法により推進

B.産

次世代自動車

の車種

EV、PHEV(レンジステンダーを

含む)、FCV 自動車 EV、PHEV、HV、FCV、クリーン

ディーゼル自動車及び原付自動車

主な次世代自

動車のプレー

ヤー

大手自動車メーカーよりも中堅メ

ーカーが主なプレーヤーとなる。

大手自動車メーカーが主役を担う。

次世代自動車

産業の水準

・ 重要部品の国産化と高度化が不

足。電池産業の水準は遅れてい

る。 ・ EV、PHEV の生産数と保有量が

世界でトップクラス(2015 年/40数万台)

・ 完成車分野と部品分野とも世界ト

ップ水準にある。 ・ HV の保有量が世界トップ、EV、

PHEV は、保有量は緩やかに増加

(2015 年/12 万台強)

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C.充

インフラ整備

分野

当面、EV・PHEV 向けの充電、換

電(電池交換)施設が急務。FCVは皆無

・ EV、PHEV 向けの充電施設整備 FCV 向けの充填施設を急速に整

充電利用方式

当面は目的地充電を重視し、今後

徐々に基礎充電にシフトすると予

日本は従来から基礎充電を主としつ

つ、目的地充電や経路充電を整備

充電インフラ

整備

インフラ参入業者は主に以下数の

タイプ: ① 国有大手変電企業 ② 電機・通信設備関連企業 ③ 自動車ディーラー

自動車大手メーカーによる共同連合

体(NCS)

D.補

補助金の拠出

中央政府財政からの国家補助金 地方政府財政から比例相応する

補助金(取得税免税含む)

中央政府財政から一本化される補助

金(取得税、重量税免税含む)

補助金適用車

両基準

乗用車は EV、PHEV、FCV 分

野別の航続距離基準。 バスなどの公共用車は EV、

PHEV、FCV 分野別に車体の長

さが基準。 原付は対象外。

登録車種ごとに補助金給付基準が決

定される

補助金給付先 生産者に対する補助方式で、自動車

の販売価格から差し引き 消費者に対する補助方式で、エンドユ

ーザーに直接還付

比較考察 4.3.2次世代自動車産業及び関連分野における中国と日本の比較を通じ、両国の相違点を以下の通り

整理する。 A. 政策推進の特徴 当該分野における我が国では、経済産業省が主導的に政策を推進している。一方で中国の場合、

推進体制は中央政府と地方政府の協同体制である。中央政府においては少なくとも科技部、財

政部、発改委、工信部など 4 つの部門が関与する。これに地方政府による政策も加わるため、

政策時期によって優先度が変わるという特徴がある。特に地方政府の政策は産業政策中心とな

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る。 推進手段について言えば、中国では、最初段階から行政主導の色が強く、政策の実施効果は地

方政府の協力に大きく依存している。場合によっては地方政府による地域保護主義の影響で、

参入障害が生じることもある。また、補助金方式がメインである点も特徴である。 我が国の場合は、官民協同による多様な推進方法がとられており、中国とは異なって行政主導

と補助金に対する依存度が相対的に低い傾向であるように思われる。 B. 産業構造 我が国における次世代自動車の範囲は中国より広く、市場拡大と共に車種の種類が多様化して

いる。市場に初めて投入された車種は HV であり、その後 HV+EV・PHEV、そして近年 FCVが投入されている。その他クリーンディーゼル車も含まれている。一方、中国では現行の次世

代自動車関連の政策支援対象車種が EV、PHEV(レンジエクステンダーを含む)、FCV の 3車種に限られており、実勢商品化されたのは EV、PHEV(レンジエクステンダーを含む)の

みといった現状である。 次世代自動車に関する業界のプレーヤーは、我が国の場合大手自動車メーカー主導であるが、

中国では大手よりも中堅メーカーが主である。 あくまでも自動車メーカーは組み立てがメインであるため、部品を外部の部品メーカーからの

調達に依存しているが、中国国内において重要部品の国産化が進行していない点が課題である。

一方で我が国の部品分野は世界トップクラスである。 EV、PHEV に関しては中国が世界一の生産台数、保有台数を誇っている。 C. 充電インフラ整備 中国では、自動車の購入に係る駐車場証明制度がない。加えて、既存マンションに駐車場が少

なく、建築構造上、充電施設の設置は困難である。2016 年以降、新築マンションの駐車場に

100%充電機能設置が義務付けられているものの、現状、基礎充電に関するインフラ整備は大

きく期待できない。一方で我が国の場合は、基礎充電をベースとしつつ、経路充電、目的地充

電が充電インフラ整備に関する各種政策等により、徐々に整備されつつある。 充電インフラ整備事業への参入企業について、我が国では次世代自動車の販売台数を伸ばした

い自動車メーカーが主導的に整備事業に参画しているが、中国の場合、自動車メーカーによる

参入事例はない。中国の次世代自動車の市場シェアは中堅メーカーの存在感が大きく、大手自

動車メーカーは次世代自動車にいまのところ距離を置いている点がその要因であると想定さ

れる。結果的に電力、通信、電機といった事業者が充電インフラ整備のメインプレーヤーとな

っている。中国の大手自動車メーカーは、次世代自動車の産業集積度が伝統自動車産業ほど高

くないと読み解いている可能性もある。 D. 補助金 我が国では、中央政府財政をもとに一本化された補助金(取得税、重量税免税含む)となっ

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ている。一方中国の場合は、中央政府財政からの国家補助金、及び地方政府財政から比例相

応する補助金(取得税免税含む)となっており、後者は中央政府の補助金を基準に比率を決

定されるが、地域ごとに異なるという特徴がある。

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第5章 充電インフラ普及に向けたロードマップの策定

電動自動車の充電インフラ発展に関するガイドライン(2015-2020 年) 5.1

充電インフラ発展に関するガイドラインの概観 5.1.13.1.2 で述べたように、2015 年 11 月 19 日、中国国家発展改革委員会、国家能源局等 4 部門に

よる共同で「電動自動車の充電インフラ発展に関するガイドライン(2015-2020 年)」(以下、

「ガイドライン」)が発表された。また本ガイドラインの内容を踏まえ、同年 11 月 29 日に開催

された日中省エネルギー・環境総合フォーラムにおいて、中国国家能源局により「電気自動車の

充電インフラ発展政策」が発表された。 この発展政策ではガイドラインの要約として(1)背景状況、(2)発展目標、(3)重点任務、

(4)保障措置 に区分して説明されており、中国における 2020 年の EV500 万台を支える充電

インフラとして具体的な数値目標を掲げているが、単に設置数だけでなく、普及のあり方にも関

わる地域別・場所別・用途別での具体的な数値目標を掲げている。 一方、技術面での将来の充電インフラについては、(3)重点任務において「新たなタイプの充

電・交換技術および設備の研究開発を加速」と述べ、具体的には、充電インフラとスマートグリ

ッド、分散型再生可能エネルギー、高度道路交通システムとの融合・発展を模索すると述べられ

ている。充電インフラそのものの技術面での将来については、大容量充電など言及は見られなか

った。

ガイドラインの内容 5.1.2 以下、当該ガイドラインの内容について整理する。 1) ガイドライン発表の背景 A.中国における充電インフラの発展の現状 「充電インフラの建設を推進することは、新エネルギー自動車産業の発展を図る上での重要な

保障であり、EV の充電をめぐる困難という問題の打破に役立つだけでなく、「大衆創業・万衆

創新」(大衆による起業及び万人によるイノベーション)、公共財、公共サービスの増加という

『2 つのエンジン』を作るうえでも積極的な意義を持つ。」とされた。 続いて、現状の充電・交換ステーションや充電ポールの数が紹介されている。 B.充電インフラの発展に存在する問題 問題点として以下の 6 項目が紹介されている。

①EV 及びその充電技術の不確定性が大きい。 ②充電インフラと EV の発展の歩調が合わない。

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③充電インフラの建設難度がやや高い。 ④充電サービスの成熟したビジネスモデルが未だ形成されていない。 ⑤充電インフラの基準・規範体系を整備する必要がある。 ⑥関連サポート政策について、依然として強化する必要がある。

これら問題点の中で技術的にわが国が手始めとして支援できる項目は④、⑤であると考えられ

る。④については、第 7 章にて報告を行う。 2) 発展目標 A.上位目標 2020 年までに、集中型充電・交換ステーション 1.2 万箇所、分散型充電ポール 480 万基を設置

し、中国における 500 万台の EV の充電需要を満たす、と述べられている。この内訳としては、

公共バス充電ステーション 3850 箇所、タクシー充電ステーション 2500 箇所、清掃車・物流など

の専用車の充電ステーションを 2450 箇所、公用及び家庭用の電気乗用車の専用充電ポール 430万基、都市の公共充電ステーションを 2400 箇所、都市間の急速充電ステーションを 800 箇所、

分散式の公共充電ポールを 50 万基を設置する必要があると予測された。 B.地域別目標 地域別目標は全体目標を実現するために全国を「発展加速エリア」(東部)、「モデル普及エ

リア」(中西部の多く)、「積極推進エリア」(青海省等)に分け、各地域の充電インフラ整備

の数値目標が設定された。例えば「発展加速エリア」では 7400 箇所の充電ステーション、250万基の充電ポールの設置を設定している。また「モデル普及エリア」は 4300 箇所の充電ステー

ション、220 万基の充電ポールの設置を、「積極推進エリア」では 400 箇所の充電ステーション、

10 万基の充電ポールの設置を設定している。 C.場所別目標 次に充電器を設置する場所を 4 区分し、それぞれの目標数を設定した。 ①公共サービス分野の専用駐車場 ・ 路線バスの充電・交換ステーション 3,850 箇所以上 ・ タクシーの充電・交換ステーション 2,500 箇所以上 ・ 環境衛生物流などの専用車両の充電ステーション 2450 箇所以上 ②住宅地区 ・ ユーザー専用充電ポールを 280 万基以上 ③機関・組織内部の駐車場 ・ 公共機関、企業・事業所、オフィスビル、工業団地などにユーザー専用ポールを 150 万基以

上。条件を備えた一般大衆への開放を奨励する。 ④都市の公共駐車場

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・ 交通拠点、大型文化・スポーツ施設、都市の緑地、大規模建築物の付帯設備として設置さ

れた駐車場、路上のパーキングエリアなどに、都市公共充電ステーション 2400 箇所と、

分散型公共充電ポール 50 万基。 ⑤都市間高速道路サービスエリア

・ 四縦四横の都市間スピード充電網を形成し、都市スピード充電ステーションを 1,000 箇所

以上。 ・ 四縦四横:四縦は沈海(瀋陽~海口)、京滬(北京~上海)、京台(北京~台北)」、京港澳

(北京~香港~マカオ)。四横は青銀(青海~銀川)、連霍(大連~霍爾果斯)、滬蓉(上

海~成都)、滬昆(上海~昆明)。 3) 重点任務 A.充電インフラ体系の構築推進 適度に先進的で、配置が合理的な、機能が整った充電インフラ体系の構築を加速する。 ①専用場所に設置する充電インフラ ・ ユーザー居住地のパーキングエリア ・ 機関組織内部の駐車場 ・ 路線バス及びタクシーなどの専用の場所に付帯施設として設置する充電インフラ ②公共場所に設置する充電インフラ ・ 都市の公共建築物に付帯する駐車場 ・ 社会の公共駐車場 ・ 路上の臨時パーキングエリアに付帯設備として設置する公共充電インフラ ③独立して土地を占用する充電インフラ ・ 都市のスピード充電ステーション ・ 電池交換ステーション ・ 高速道路ののサービスエリアに設置する都市間スピード充電ステーション

B.付属電力網の保障能力の強化

①付属電力網の建設強化 ・ 各省・市は充電インフラの付属電力網の建設・改造プロジェクトを現地の配電の特別計画

に組み込む。その他関連計画との調整を図る。 ・ 電力会社は充電インフラの付属電力網の建設と改造を強化し充電インフラのバリアフリー

接続を保障する。 ②電気供給サービスの整備 ・ 電力会社は充電インフラの電力網への接続に便利な条件を提供し。迅速かつ安全で簡便な

ルートを開設する。 ・ 財産権の境界点から電力網の付帯・接続工事まで、電力会社は建設と運営、メンテナンス

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の責任を負い、相応のコストを許容コストに算入する。 C.基準の整備と技術革新の加速

①充電の標準化作業の加速推進 ・基準・規範体系を確立し、設備の互換性の問題を重点的に解決。 ・充電インフラの計量・料金計算・決済などの運営サービス管理規範を整備。 ・充電インフラをめぐる道路交通標識体系の構築を加速。 ②カギとなる技術の研究開発・応用に対する積極的なサポート ・企業を拠り所として、新たなタイプの充電・交換技術および設備の研究開発を加速。 ・モデルプロジェクトを拠り所として、充電インフラとスマートグリッド、分散型再生可能エ

ネルギー、高度道路交通システムとが融合・発展した技術プランを積極的に模索する。 D.持続可能なビジネスモデルの探求

①社会資本の積極的な導入 ・地方政府は路線バス、タクシーの乗り場、駐車場、社会の公共駐車場などの各種公共資源の

整合化を図り、官民パートナーシップ(PPP)などの方式を通じて市場主体を育成し社会資

本の算入に向けて条件を創造する。 ②革新モデルの奨励 ・充電サービス企業を拠り所として商業施設、自動車の販売・アフターサービスなどの分野と

の提携を積極的に模索し、クラウドファンディング、オンラインとオフラインの相互結合な

ど、「インターネット+」の新興のビジネスモデルを導入し、スマート充放電、電子商取引、

広告などの付加価値サービスなど、さまざまな方式を開拓してビジネスモデルの革新を進め、

企業の収益力を高める。 E.関連モデル提示活動の展開

①建設・運営モデルの提示 ・新エネルギー自動車の普及・応用をめぐる需要と結び付け、充電インフラの発展をめぐる重

点と難点に焦点を合わせ、都市と区・県の充電インフラ体系の構築、住宅地と機関・組織の

付帯施設としての充電施設の建設、都市間のスピード充電網の構築などの方面から建設・運

営モデルの提示を積極的に展開する。 ②モデル提示をめぐる経験の総括と交流・普及の強化 ・マルチレベルの充電インフラのモデル提示をめぐる経験の交流・普及メカニズムを構築し、

さまざまな形式を通じて、モデル活動をめぐる経験の交流を展開しモデル効果を高め、牽引

効果を発揮する。 4) 保障措置 保障措置として以下の 10 項目が提唱されている。

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①計画指導の強化 ②土地の利用をめぐるサポートの強化 ③建設計画の審査・許可の簡略化 ④安全管理の強化 ⑤不動産分野の協力度の向上 ⑥電力の供給・仕様に対する監督管理の強化 ⑦財政価格政策の整備 ⑧金融サービスサポートの強化 ⑨各当事者の職責の明確化 ⑩相互につながり、通じ合い、促進するメカニズムの構築

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EV 充電技術動向の要点 5.2

日本における EV 充電関連標準の現状と今後の予想 5.2.1 充電技術の進歩は、充電インフラ整備の方針に大きな影響を与える。そこで、先ずは EV 充電

関連技術の標準化に関する我が国の現状について述べたい。日本におけるEV充電関連標準は IECや ISO といった国際標準を準拠しているが、それらの標準作成に日本は主導的な役割を果たして

きており、基本的な標準については整備が完了している。一部の標準については改訂作業が進め

られているが、それについても日本が主体的に関与している。図表 5-3 に EV の充電関連国際標

準を示す。 なお、充電器の検定制度としては、AC 普通充電器に対しては JARI 認証制度、DC 急速充電器

に対しては CHAdeMO 検定制度がすでに運用されているが、いずれも日本が先行して検定制度を

構築し、これらの国際標準にも反映している。

図表 5-1:EV の充電関連国際標準

No. 分類 項目 関連規格等の番号

現状(NP/WD/CD/CDV/FDIS/IS、改訂予定年、改訂

中などの情報)

1 充電システム コンダクティブDC充電ステーション要件 IEC 61851-23 Ed.1/IS, Ed.2/WD

2 充電システム コンダクティブDC充電制御通信 IEC 61851-24 Ed.1/IS, Ed.2/WD

3充電インタフェース

コンダクティブDC充電用車両カプラ寸法互換性 IEC 62196-3 Ed.1/IS, Amd/Ed.2検討

4充電インタフェース

コンダクティブAC充電用車両カプラ等寸法互換性 IEC 62196-2 Ed.1/IS, Ed.2/CDV

5 充電システム コンダクティブ充電システム一般要件 IEC 61851-1 Ed.2/IS, Ed.3/CDV

6 充電システム コンダクティブ充電システムEMC要件(車載充電器、オフボード充電器)IEC 61851-21-1IEC 61851-21-2

Ed.1/CDVEd.1/3rd CD

7充電インタフェース

コンダクティブ充電用車両カプラ等一般要件 IEC 62196-1 Ed.3/IS, Amd.

8 充電通信 V2G通信インタフェース:一般情報とユースケース定義 ISO 15118-1 Ed.1/IS, Ed.2/WD

9 充電通信 V2G通信インタフェース:ネットワークとアプリケーション・プロトコル要件 ISO 15118-2 Ed.1/IS, Ed.2/WD

10 充電通信 V2G通信インタフェース:物理層・データリンク層要件 ISO 15118-3 Ed.1/IS

11 充電通信V2G通信インタフェース:ネットワーク・アプリケーションプロトコル適合性試験

ISO 15118-4 Ed.1/CD

12 充電通信 V2G通信インタフェース:物理層・データリンク層適合性試験 ISO 15118-5 Ed.1/CD

13 充電通信 V2G通信インタフェース:ワイヤレス通信の物理層とデータリンク層要件 ISO 15118-8 Ed.1/CD

14 充電システム 非接触給電:一般要件 IEC 61980-1 Ed.1/IS

15 充電システム 非接触給電:通信 IEC 61980-2 Ed.1/CD

16 充電システム 非接触給電:磁界電力伝送 IEC 61980-3 Ed.1/CD

17充電時車両要件

コンダクティブ充電:車両側安全要件 ISO/IEC 17409 Ed.1/IS

18充電時車両要件

非接触給電:車両側安全要件・相互運用性 ISO/PAS 19363 Ed.1/WD

19 充電システムLEVコンダクティブ充電 (3-1:一般要件、3-2:DC充電システム、3-3:電池交換システム、3-4~3-7:通信)

IEC/TS 61851-3-1~3-7

Ed. 1/CD

20充電インタフェース

LEV充電用車両カプラ寸法互換性 IEC/TS 62196-4 Ed. 1/CD

21 充電システム 電池交換システム(パート1:一般要件、パート2:安全要件)IEC/TS 62840-1

IEC 62840-2Ed. 1/CD

Ed. 1/CDV

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また、これらの国際標準のほか、新たな次世代の充電技術についても日本、欧州、米国を中心

として国際標準の協議が進められている。その状況を図表 5-4 に示す。なお、V2X システムにつ

いては、V2G(Vehicle to Grid)や V2H(Vehicle to Home)などいくつかの利用形態があり、国際

的にもさまざまな機関で議論がなされており、現時点では方向性が定まっていない状況にある。

一方、大容量充電については、主要国における検討状況が形になり始めており、次項にて述べる。

図表 5-2:充電に関する国際標準の審議領域の概略と今後の予想※ (※IEC/TC69、ISO/TC/22/SC37 国内審議事務局 JARI 想定)

EV における充電池の最適容量、最適航続距離の動向 5.2.2 日本において現在市販されている主な EV の電池容量と航続距離の関係を図表 5-5に示す。 現

在、EV は技術的にはある程度確立されているものの、ガソリン車並みの利便性が求められてお

り、「航続距離の延長」と「充電時間の短縮」が大きな課題とされている。航続距離については、

一部の高級外車では電池を多く搭載することによりガソリン車に近い航続距離を持つ EV もある

が、日本製を含む多くの EV では電池容量 30kWh 以下、航続距離が 300km 以下であり、100kmあたりの電力量消費率で示すと 10kWh/100km のあたりにデータが集中している。 これは、現状の蓄電池の性能や重量、価格の面から、車体寸法や車体価格、商品性等を考慮し、

さらには車両の軽量化等さまざまな効率化努力がなされ、蓄電池性能を最大限に引き出す結果と

して、この電池容量と航続距離の関係が実現できているものと考えられる。 EV の航続距離を伸ばすことは一般ユーザーの自然の要求であるが、電池性能の飛躍的向上が

システム、プロトコル、カプラ等

関連規格

適合性試験、双方向給電、デュアル充電器他DC

充電

( 今後EMC 、カプラ)?

充電基礎規格

AC充電含

システム、プロトコル、カプラ等小型EV充電

(今後 V2Xシステム関連、大容量充電?)協議中の領域

認証試験要件整備等

非接触充電

2014 2015 2016 2017 2018 2019

初版

審議中

改定

審議中

新規

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実現し、またモーターのさらなる高効率化を実現することなしには航続距離の向上はなしえない

ことは明らかであり、日々の研究が進められている段階である。 今後、蓄電池性能の向上や価格の低下により、航続距離の延長が期待されるが、EV に対する

ユーザーの利用ニーズや価格ニーズに応じて、EV 車種の多様性や最適な航続距離、電池容量の

議論が深まるものと考えられる。

図表 5-3:市販の主な EV の電池容量と航続距離の関係

出所:各メーカーカタログより作成

世界における大容量充電に関する動向と課題 5.2.3 前項で述べた航続距離の延長について、将来、500km、600km とガソリン車並みの航続距離が

実現できる背景には、EV における電力消費の抜本的な高効率化とともに、電池容量の増大が必

要不可欠である。電池容量が増大すれば、現状の充電インフラでは充電時間のさらなる延長につ

ながることが容易に想定される。 そこで、EV のもう一方の課題である「充電時間の短縮」に対する動向として、大容量充電に

関する調査を行った。 まず、ドイツでは現状の充電インターフェースを用いて、充電時のインターフェースの温度を

モニターしながら大充電電流を流して急速充電を行うシステムが検討されている。また、米国で

はコネクタ寸法は変更せず、充電ケーブルの大径化などによる放熱性向上によって充電電流を引

き上げることが検討されている。日本においても、既存インフラとの互換性を重視した大電流化

による大容量充電の検討が行われている。 米国においては充電ケーブルの仕様変更も考慮した大容量充電の検討が行われているようであ

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

0 100 200 300 400 500 600

航続距離(km)

電池容量(kW

h

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るが、EV の普及が始まり既存の充電インフラが構築されるようになってからあまり年月が経っ

ておらず、基本的には既存インフラを利用できる範疇での大容量化の検討が進められている程度

である。 また、大容量充電については、数 10kW もの電力供給が行われるため、配電系統への影響を検

討する必要がある。充電ステーションなど複数の大容量充電器が設置され、複数の充電器が同時

に充電を開始した場合など一度に大きな電力が必要となり、近隣配電系統へ電圧降下という電力

品質上の影響を与える可能性がある。製造業などの需要家においては、配電系統の電圧降下によ

り生産ラインが不調となり製品不良などに至ることがあるため、大容量充電のインフラの設置に

際しては、充電ステーション側に一度に大電力を供給することがないように負荷平準化のための

対策を行うか、または、配電系統側に電圧降下を防止する対策が必要となると考えられる。 現在、日本において急速充電器を設置する場合には、電力会社への申込みが必要であるが、将

来大容量充電が実用化され、それを設置する場合には、電力会社に対し大容量充電器の設置可否

も含めて綿密な調整を行うことが必要になると考えられる。

中国における EV 充電関連標準の標準化作業の状況と見込み 5.2.4 また、昨年 11 月の日中フォーラムにて中国国家能源局が発表の「中国の電気自動車充電インフ

ラ発展政策」では、(1)背景状況で、充電インフラの発展に存在する問題として「充電インフラ

の基準・規範体系を整備する必要がある」と述べられ、(3)重点任務において「充電の標準化作

業の加速推進」が掲げられ、その中で「基準・規範体系を確立し、設備の互換性の問題を重点的

に解決し、…」と述べられている。 現在、中国における EV および EV 充電関連標準に関しては図表 5-7 の通り、7 つの国家標準が

策定済み、または策定作業中である。1~5 の標準は、充電システムに関する規格であり、2015年 12 月に 2015 年版として改訂発行され、6,7 の標準は充電システムの検定に関する規格となっ

ており、現在制定に向けて審議中であるが、その内容は、IEC 等の国際標準を踏襲する内容であ

ることがわかった。 また、これらの標準の制改訂の動向からは、現行の充電インフラに対する標準の充実化が進め

られており、新たな充電技術による充電インフラの検討が進められている様子は見られなかった。

特に発展政策の(3)重点課題で述べられている「新たなタイプの充電・交換技術および設備の研

究開発を加速」については、充電時間の短縮という課題を意識したものと考えられるが、それに

対する大容量充電や電池交換方式という技術に関しては、今後、世界の充電インフラの開発動向

も見据えつつ検討が進められるものと考えられる。

図表 5-4:中国における EV 充電関連標準

No. タイトル 番号 1 電動汽車伝導充電システム 第 1 部分:通用要求 GB/T 18487.1-2015 2 電動汽車伝導充電用連接装置 第 1 部分:通用要求 GB/T 20234.1-2015

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3 電動汽車伝導充電用連接装置 第 2 部分:交流充電接口 GB/T 20234.2-2015 4 電動汽車伝導充電用連接装置 第 3 部分:直流充電接口 GB/T 20234.3-2015 5 電動汽車非車載伝導式充電機与電池管理系統之間的通信協議 GB/T 27930-2015 6 電動汽車伝導充電互操作性測試規範 GB/T XXXX

7 電動汽車非車載伝導式充電機与電池管理系統之間的通信協議

一致性測試 GB/T XXXX

中国百人会による EV 普及活動 5.2.5 中国では、EV の普及のための施策検討を行う団体として「中国電気自動車百人会」が知られ

ている。 中国電気自動車百人会は、2014 年 5 月に国務院や科学技術部などの政府機関の提議によって設

立された非政府・非営利の政策・学術研究機関であり、EV の発展を促進し、産業・学科・所有

制・部門の境界線を打破し、研究と交流により多分野の融合、コラボレーティブ•イノベーション

を促すことを目標としている。国家の EV 業界の第 3 者シンクタンクとして、主に EV 業界の発

展の重大課題の研究や各種シンポジウム等の活動を行っている。 中国電気自動車百人会には、政府や地方政府の EV 関連関係者、EV 関連企業、大学、研究機関

から人員が参加しており、特に清華大学の王賀武(Wang Hewu)教授が活動の中心を担っている。

日本における新エネ車戦略や自動車メーカーの EV に関する取り組み、インフラ整備状況等の調

査のため、事務局が来日している。

図表 5-5:中国 EV 百人会メンバー

出所:中国 EV 百人会ホームページより

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充電インフラ普及に向けたロードマップの策定に関する調査結果 5.3

調査結果 5.3.1中国政府が発表した「電動自動車の充電インフラの発展に関するガイドライン(2015-2020 年)」

では、充電インフラ普及目標として単に設置数だけでなく、普及のあり方にも関わる地域別・場

所別・用途別での具体的な数値目標を掲げられていることがわかった。また、充電関連標準につ

いては、重点任務として「充電の標準化作業の加速推進」が掲げられ、その中で「基準・規範体

系を確立し、設備の互換性の問題を重点的に解決し、…」と述べられており、その主軸となる標

準として 5 つの標準が 2015 年 12 月に改訂発行され、検定制度に係る 2 つの標準が策定作業中で

あることもわかり、その内容は IEC 等の国際標準を踏襲するものであることもわかった。 一方、技術面での将来の充電インフラについては、重点任務として「新たなタイプの充電・交

換技術および設備の研究開発を加速」と述べ、具体的には、充電インフラとスマートグリッド、

分散型再生可能エネルギー、高度道路交通システムとの融合・発展を模索すると述べられており、

日本や欧米の検討状況と同様の視点で議論が行われていることも伺えた。なお、充電インフラそ

のものの技術面での将来について大容量充電などに関する言及は見られなかった。 従って、中国における充電インフラ普及に向けたロードマップについては、既に中国で決めら

れた目標、普及のあり方に対する取り組みがはじめられており、その対象領域についても国際社

会での議論と乖離するものではないため、特に新たな提言を必要とするものではないと考えられ

る。しかし、充電インフラの重要な柱となる充電関連標準の整備については、これまで IEC 等の

国際標準活動への中国の参加は必ずしも充分とは言えず、日本としても積極的に参加を呼びかけ、

中国との意見交換の場作りが必要であると考える。また、標準の整備を進めるだけでなく、充電

インフラが標準どおりに製造されているかを確認するための「充電器検定制度」を導入すること

も重要である 5。

5 本稿の第 6 章にて説明

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第6章 充電器と EV との接続性・互換性の確認及び問題点の総洗い出し

互換性確認試験の意義および実施に向けた調整 6.1

互換性確認試験の意義 6.1.1中国においては、これまでに各地で設置が進められてきた充電器は十分な統一規格が存在して

いないもとで製造されており、結果として「使えない充電スタンド(充電コネクタ、充電プロト

コル等の不一致により使用できない、もしくは使用しづらい立地にある、等)」が散見される状

況にある。これは、2000年以降、EVおよび充電器に対する基礎的な標準(GB規格、GB/T規格)

が用意されていたものの、それ以外の部分は自動車メーカーが独自の仕様で製造し、それに応じ

た充電器がメーカー所在地の周辺で整備されてきたためであり、充電関連標準の完成度に課題が

あるとされてきた。 中国政府としてもEVの普及に合わせ、標準化の重要性が高まったことを受けて、第5章でも述

べたように関係標準の改訂など整備を現在進行形で進めている状況にある。 中国における今後のEVの普及拡大にあたっては、いかなるEVと充電器の組み合わせにおいて

も、トラブルが発生することなく安全・安心な充電環境を構築する必要がある。そのためには、

充電器とEVとの接続性・互換性が確保された充電インフラの整備が大きな鍵となり、EVと充電

器の互換性確認試験を実施することが肝要となる。 EV と充電器の互換性確認試験とは、市場に流通するまたは近い将来販売が予定される EV や充

電器に対し、いかなる EV と充電器の組合せにおいても安全かつトラブルなく充電が行われるか

を確認する試験である。EV や充電器は各種標準(規格)に基づいて設計・製作されることで互

換性が担保された製品が市場に流通するが、実際には以下の問題点が考えられる。 問題点 1)標準に互換性を確保するための規定が不足していることがある。 問題点 2)標準に規定はあるものの、メーカーが遵守せずに製品化することがある。 そこで本調査では、中国の主要地域において、AC 充電(普通充電)および DC 充電(急速充

電)の双方について、日中両国の自動車メーカーの EV と中国の充電器メーカーの充電器を一堂

に会した、集合方式による充電器の互換性確認試験を実施し、物理的な形状、通信プロトコル、

充電に係る電気的な条件など EV 及び充電器の互換性にかかる不具合事象を確認する。その上で、

もし不具合事象が発生した場合には、その発生原因の解明および解決策を検討することで、標準

または製品へ改善点をフィードバックすることとし、標準および製品の完成度の向上を目指す。 さらに、中国における統一規格の充電器を普及させるため、それが統一規格に基づいて製造さ

れているかどうかをチェックする仕組みとして、充電器検定制度を構築することが必要である。

日本においても、AC普通充電器に対してはJARI認証制度、DC急速充電器に対してはCHAdeMO検定制度が運用されており、そういった充電器検定制度の導入に資するべく、検定プロセスや検

定に必要な仕様の検討、検定制度の推進体制構築の必要性に関する提言をとりまとめる。

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CATARC との互換性確認試験共同実施に関する調整 6.1.2 中国における EV と充電器の互換性確認試験の実施にあたり、中国側の自動車メーカー、充電

器メーカーとの協議や、試験会場の手配、準備等の観点から、日中共同研究の共同実施者である

CATARC と共同で各種の準備を進めた。 3 月 2 日、3 日には、日中共同研究のキックオフミーティングとして、北京にて CATARC 北京

工作部と会合を実施。日中共同研究での具体的取り組み事項として、日本でも経験があり、中国

でも顕在化している充電器の互換性の問題に関して協議を行った。添付資料 6-1 4 月 17 日の電話会議では、日本側より互換性確認試験の必要性について説明し、CATARC 側

としても互換性に関し知見を蓄積することは有意義であるとして、互換性確認試験を実施する方

向で合意した。添付資料 6-2 5 月 29 日の電話会議では、日本側より互換性確認試験および互換性確認試験と合わせて取り組

むべき事項として、充電器互換性確保に向けた検定制度(認証制度)の導入の必要性について説

明し、CATARC 側としても日本側提案に基づく互換性確認試験を行うことで合意。また、日本側

より互換性確認試験の実施場所として電源環境が充実し広大な敷地を有しているという観点から、

CATARC 天津の試験所を提案し、CATARC 側より前向きに協力する旨の回答があった。添付資料 6-3 7 月 29 日、30 日、北京にて会合を実施。特に 30 日には中国側から国家発展改革委員会の李鋼

処長、日本側は経済産業省の村上企画官といった政府関係者も参集のもと会合を行った。中国に

おける互換性確認試験の実施方法、スケジュール等について協議。互換性確認試験の実施場所は

CATARC 天津の試験所とすることで正式に合意した。また、充電器検定制度の導入についても説

明を行い、李鋼処長より、充電器検定制度の構築に向けた日中共同研究の取り組みに期待する旨

の発言があった。添付資料 6-4 9 月 10 日の電話会議では、互換性確認試験の具体的な実施方法として、JARI が 2013 年 10 月

に JARI つくば研究所にて日本国内の EV メーカーおよび主だった充電器メーカーを集めて実施

した際の実施要領書やスケジュール等を CATARC に提供し説明を行った。添付資料 6-5 10 月 29 日、30 日には、互換性確認試験の実施会場となる CATARC 天津の試験所を訪問。

CATARC 天津のスタッフも交えて、互換性確認試験の具体的な実施方法や試験項目、実施するに

あたっての懸案事項(試験電源、スペース等)について協議を行った。添付資料 6-6 11 月 9 日~13 日には、海外産業人材育成協会の専門家招聘プログラムを活用し、中国におけ

る EV 普及や充電関連標準に関与する各種機関の専門家(発展改革委員会、国家エネルギー局、

中国電力企業連合会(以下、「中電連」)のほか、CATARC 北京、CATARC 天津のスタッフも

参加)を日本へ招聘し、日本における充電器の検定制度や互換性確認試験の実施状況、EV や充

電インフラに対する補助金制度などの紹介を行った。添付資料 6-7 12 月 11 日、再度北京にて、中電連、CATARC 北京、CATARC 天津のスタッフを交えて、

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図表 6-1:7 月北京会合の様子(中国側関係者)

図表 6-2:7 月北京会合の様子(日本側関係者)

互換性確認試験の実施方法等について協議。試験の具体的な実施日程について合意した。さらに

後日電話会議も実施し、互換性確認試験の実施体制(主催者、EV メーカー、充電器メーカーの

それぞれの役割)および試験結果の取りまとめ作業について協議を行った。それらの結果を踏ま

えて、12 月 25 日、CATARC より中国における互換性確認試験の実施について通知が行われた。

添付資料 6-8~6-12 1 月 7 日と 12 日には、電話会議にて AC 普通充電の互換性確認試験の実施に向け、試験要領や

資機材の確認など実務的な協議を実施。ようやく、中国側のニーズも踏まえた互換性確認試験の

実施計画を明確にすることができた。そして、1 月 19 日から 21 日の 3 日間で CATARC 天津に

おいて AC 普通充電の互換性確認試験を実施した。添付資料 6-13,6-14 さらに 2 月、2 日と 18 日に DC 急速充電の互換性確認試験の実施に向け、試験要領や資機材の

確認など実務的な協議を実施。そして、2 月 24 日から 26 日の 3 日間で CATARC 天津において

DC 急速充電の互換性確認試験を実施した。添付資料 6-15,6-16

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中国における互換性確認試験実施に対する課題 6.1.3 前述のように、CATARC と互換性確認試験の実施に向けて調整を進める中で、以下の課題が浮

上した。 課題① 互換性確認に対する中国側の認識、具体的ノウハウの不足 課題② 互換性確認に関する中国内の複数の活動 1) 課題① 互換性確認に対する中国側の認識、具体的ノウハウの不足 日中共同研究の具体的取り組みを調整する中で、CATARC としても中国国内において互換性の

問題が顕在化してきていることの認識は持っており、それに対し、充電関連標準を充実させるこ

とで対応を進めているとの話があった。添付資料 6-1,6-2 しかしながら、本章の冒頭でも述べたように、標準の整備だけでは以下の問題点を確認するこ

とはできない。 問題点 1)標準に互換性を確保するための規定が不足していることがある。 問題点 2)標準に規定はあるものの、メーカーが遵守せずに製品化することがある。 そこで、実機の EV と充電器を実際に接続して行う互換性確認試験の重要性および充電器検定

制度の必要性を、日本の経験を踏まえながら何度も説明を行った。その結果、中国側の理解が得

られ、中国における互換性確認試験を実施するに至ることができた。 さらに、1 月に実施した互換性確認試験の前日には、後述する「中国電気自動車充電インフラ

促進連盟」に係るワーキング会合が開催され、JARI からも EV と充電器の互換性の重要性に関す

る講演を行う機会を得ることができた。当会合はワーキングのキックオフ会議と見られ、自動車

や充電器のメーカーなど約 50 名が参加し、充電インフラ整備の重要性などの基調講演などが行わ

れた。JARI の講演では互換性確認試験の重要性の説明を行った。具体的には、2013 年に JARIで実施した互換性体験会を例に、互換性確認試験が標準の規定内容の欠落を抽出する重要なイベ

ントであること、検定機関主導ではなく EV メーカー、充電器メーカーの 3 者が対等な立場で協

力して問題を抽出することが肝要であることを説いた。また、標準の改訂には相当の時間を要す

るため、標準を補完する手段としてガイドライン等の作成し、それにより適宜関連メーカーに最

新情報を周知しておくことの必要性についても強調して説明を行った。 上記に係る説明資料を巻末に添付する。添付資料 6-17~6-24 2) 課題② 互換性確認に関する中国内の複数の活動 同じく日中共同研究の具体的取り組みを調整する中で、日中共同研究に協力をいただく日本の

自動車メーカーから、CATARC 天津が主催する「電気自動車充電システム評価連盟」が 8 月 18日に立ち上げられたことについて情報提供があった。このキックオフシンポジウムの挨拶の中で

「国際電気自動車充電システムと国際電気自動車の互換性について試験評価を行い、国産新エネ

車の海外販売を目標としたプラットフォームづくりを…」ということが述べられ、まさに日中共

同研究と重複すると思われる内容が含まれていることが判明した。添付資料 6-25

そこで、9 月の電話会議にて CATARC 北京工作部に同評価連盟について確認を行ったが明確な

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情報はなく、調査して連絡をいただくことにするも連絡はなかったため、10 月末の CATARC 天

津での会合において、CATARC 天津のスタッフに対し、同評価連盟について確認したところ、下

記の情報があった。 10 月 19 日に国家能源局がリーダーとなって「中国電気自動車充電インフラ促進連盟(以

下、「中国充電器連盟」)」が設立された。CATARC は副理事として参加。8 月に CATARCがキックオフシンポジウムを開催した連盟については、中国充電器連盟に吸収され、「測

定ワーキング」という 1 ワーキンググループとなった。 測定ワーキングにおいては互換性確認だけでなく、安全性や EV と電力網との関係、将来

の充電技術の検討など様々な検討を行う。 中電連も、中国充電器連盟の下に別のワーキンググループとして参加。 中電連では現行の充電関連標準の改訂作業を進めており、そのワーキングでは今後公表し

ようとしている改訂版の標準に基づいて製作された充電器の互換性確認を行い、改訂版標

準の項目がそれでよいかの検証を行う。 改訂版標準の審査会が本日開かれており、審査会での修正意見を踏まえた後、申請。申請

から 3~6 ヵ月で公表。公表後すぐに施行ではなく、最終的には申請から 1 年程度を経て

から施行となる。 したがって、CATARC だけでなく、中電連とも互換性確認に関する情報交換が必要となり、次

項で述べる専門家招聘ワークショップにおいて、互換性確認試験に関する取り組みについて意見

交換を行うこととした。 3) 課題への対応:専門家招聘ワークショップ 前項の課題 2 への対応として、専門家招聘ワークショップのディスカッション時間を利用して、

中国における互換性確認の取り組みについて確認を行った結果、関連する機関である国家エネル

ギー局(能源局)、中電連、CATARC から以下の情報があった。 【能源局】10 月 19 日に中国充電器連盟を設立。日本の JARI や CHAdeMO 協議会と同

質の団体。設立されたばかりで、関連制度は現在検討中。中国充電器連盟には 4 つの分科

会があり、中電連、CATARC、中国汽車工業協会(CAAM)、充電器ネットワークの運営

会社が各分科会を担当。 【中電連】現在、中国では EV と充電器の互換性は非常に大きな問題。自動車メーカーも

充電器メーカーも数が多く、日本とはかなり状況が異なっている。中電連で実施している

互換性確認は企業 42 社、50 製品、検査機関は 8 社が参加し、標準の検証も兼ねた試験を

実施。日本と異なるのは、試験対象に EV も充電器も含まれていること。この試験の目的

は、今後、検査機関、検定の方法、規定、検定合格の際のラベル、などといったものを整

備していくためのものである。 【CATARC】CATARC では、車両と充電器コネクタのインターフェースの試験を行って

いる中で様々な問題にぶつかった。また、中電連でも試験を行っていて問題に直面してい

る。中電連での問題と CATARC での問題で共通の部分もあり、連携して試験を行うこと

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とした。 【能源局】中電連の取り組みでの問題、CATARC の取り組みでの問題、そういった点在

する問題に連携して対応するため、中国充電器連盟を設立した。 【CATARC】日本では DC は CHAdeMO、AC は JARI と分業されているが、CATARC

では DC も AC も両方とも実施する。JARI の互換性確認試験では標準よりも厳しい条件

で試験をされたと理解するが、中国では標準に合っているかどうかの試験をし、標準以外

の試験も行う予定である。 【CATARC】これまで中国では、EV 充電システムの標準は強制ではなかったが、2014

年末に中央政府によりそれらの標準は強制のものに政策が変わった。そこで、自動車メー

カー、充電器メーカーともに標準に基づいて対応しなければならなくなったが、標準に対

する理解がまだあまり深まっていない状況にある。まずは標準に適合しているかどうかと

いう試験を行わなければならない。 【中電連・CATARC】これまでの試験で明らかになった問題点を標準にフィードバックし

ている。標準の改定作業は現在進めているところであり、その改定作業が終われば一応標

準の完成ということになるが、一度で完璧なものができあがるものではないので、今後も

何度か改定作業が必要になってくると考えている。 そこで、日本側より、中国側で進められている互換性確認の取り組みと日中共同研究で進めて

いる互換性確認試験を共同で実施することを提案し、中電連および CATARC より合意の回答が

あった。 なお、専門家招聘ワークショップでは、日本における充電器の検定制度や互換性確認試験の実

施状況の紹介も行っており、前述の課題 1 の対応として、中国側の理解をより深めることができ

た。

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中国における互換性確認試験の実施 6.2

AC 普通充電の互換性確認試験 6.2.11) 参加メーカー EV:(日本)トヨタ/プリウス PHV、日産/ベヌーシア E30、三菱/アウトランダーPHEV (海外)北京汽車、北京現代、BYD、テスラ/モデル S 充電器:①能科股份、②特鋭徳(TGOOD)、③挚达、④広天川、⑤天津圣納、⑥特変電工、 ⑦上海一電、⑧BYD、⑨巴斯巴、⑩嘉荣科技、⑪⑫恵众新能源(2 機種参加) 2) 試験方法および試験項目 CATARC より 1 月の電話会議にて、添付資料 6-26 の実施要領書の提供があった。 試験室における車両の配置を図表 6-3 に、試験組合せスケジュールを図表 6-4 に示す。確認試

験では車両を 4 箇所に定位置を取り、充電器 1 機種に 2 時間を目処に、4 時間の間に 2 社の充電

器に対する試験を実施することとされた。(試験以外の充電器メーカーは待つことになるが、実

際には試験の進捗に応じ順次待機中の充電器メーカーに声をかけて試験を実施するなど臨機応変

に対応した。) 参加 EV メーカーは 7 社あったが、試験室のスペースから 4 台しか配置できないため、トヨタ、

日産、三菱、北京現代を先行で 1 月 19 日から 21 日で試験を実施し、残りの 3 社は後日試験を実

施することとされた。確認試験の主導は EV メーカーが行った。 CATARC は EV と充電器の間に接続して、CPLT(通信信号)、AC 電圧、AC 電流を測定でき

る中継ボックスおよび計測装置を用意。中継ボックスでは各種配線の断線を模擬できる機能もあ

り、それらの操作も EV メーカーが実施した。図表 6-5 に互換性確認試験における中継ボックス

等の接続イメージ図を示す。 JARI は日本 EV メーカーのフォローに入り、外国 EV メーカーは CATARC 天津がフォローを

担当した。 試験項目は 2013 年 10 月に JARI にて実施した互換性確認試験の内容をベースに CATARC ニ

ーズの各種配線の断線挙動(勘合検出線(CC)、通信線(CP)、保護アース)の確認であり、

添付資料 6-27 のとおりである。

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図表 6-3:試験室内の車両等の配置

図表 6-4:試験組合せスケジュール (⑨~⑫の充電器は当日になって参加)

図表 6-5:各種装置の接続イメージ

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3) 実施状況 互換性確認試験の実施状況を図表 6-6~図表 6-9 に示す。

図表 6-6:確認試験会場と参加 EV

(左より、テスラ/モデル S、トヨタ/プリウス PHV、三菱/アウトランダーPHEV、北京汽車、

日産/ベヌーシア E30、北京現代、BYD)

図表 6-7:会場横断幕

(上段「電動自動車伝導充電互換性測定試験活動第 3 ステップ」、下段「中日新エネ自動車と充

電器の互換性測定試験」の意味であり、上段は中国充電器連盟、下段は日中共同研究の取り組み

を示す。)

図表 6-8:互換性確認試験の様子

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図表 6-9:参加した普通充電器の一部

4) AC 普通充電の互換性確認試験の結果 12 機種の各充電器に対する試験結果の概要を図表 6-10 に示す。また、詳細を添付資料 6-28 に

示す。 図表 6-10 に示すとおり、試験を行った 12 機種のうち、7 機種に標準違反が確認された。主な

違反の内容としては、下記のように集約される。 ・充電シーケンス(CPLT 信号の発振/停止や AC 電圧印加/停止のタイミング)が標準どお

りに進展しない。 ・充電コネクタが EV に取り付けられていない状態で、充電コネクタ端子に AC 電圧が印加さ

れた状態になっていることがある(感電の危険性がある)。

図表 6-10:AC 普通充電の互換性確認試験結果概要 充電器

No 試験結果の主な不具合概要 判定

① 充電器でカード認証後、充電コネクタを車両に接続する前か

ら、コネクタ端子に AC 電圧 220V が印加される。 カード認証で充電停止後、コネクタ端子に AC 電圧 220V が

印加されたままである。

標準違反

② 車両側で充電待機タイマー設定をしているにもかかわらず、

充電器側で充電停止してしまう。 標準違反ではな

いが、仕様のミ

スマッチ ③ 充電器でカード認証後、充電コネクタを車両に接続する前か

ら、コネクタ端子に AC 電圧 220V が印加される。 充電中にコネクタを抜いた後、、100 ミリ秒以内に AC 電圧が

オフにならない。 充電コネクタが、標準に準拠していない。

標準違反

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④ 車両側で充電待機タイマー設定をしているにもかかわらず、

充電器側で充電停止してしまう。 標準違反ではな

いが、仕様のミ

スマッチ ⑤ 試験上の問題は特になかったが、試験開始前に製品として完

成されておらず、現場にて改修(リプログラミング)が行わ

れた。

⑥ 問題なし - ⑦ 充電準備中に充電コネクタの抜き挿しした後、充電停止に移

行したにもかかわらず、コネクタ端子に AC 電圧 220V が印

加される。 車両側で充電待機タイマー設定をしているにもかかわらず、

充電器側で充電停止してしまう。

標準違反 標準違反ではな

いが、仕様のミ

スマッチ ⑧ 問題なし - ⑨ 充電中に充電コネクタの抜き挿し後の充電再開に際し、

CPLT 信号よりも先に、コネクタ端子に AC 電圧 220V が印

加される。 CPLT 信号のマイナス側電圧が-1.5V と標準どおり(-12V)

ではない。

標準違反

⑩ 充電準備中または充電中に、充電コネクタを抜いた後、100ミリ秒以内に AC 電圧がオフにならない。

標準違反

⑪ 充電準備中または充電中に、充電コネクタを抜いた後、100ミリ秒以内に AC 電圧がオフにならない。

標準違反

⑫ 充電準備中または充電中に、充電コネクタを抜いた後、100ミリ秒以内に AC 電圧がオフにならない。

標準違反

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DC 急速充電の互換性確認試験 6.2.2 1) 参加メーカー EV:(日本)日産/ベヌーシア E30、トヨタ/車両模擬器にて参加 (海外)北京現代、騰勢(DENZA)、BYD、北汽新能源 充電器:①天津圣納、②特来電(TGOOD)、③特変電工、④先控捷联電気、⑤能科股份

2) 試験方法および試験項目 試験項目は、2 月の電話会議にて日本から CATARC に提案したものが実際の試験項目として

CATARC に取り上げられた。添付資料 6-29 に試験項目表を示す。 試験室における機器の配置は、試験室内にある大容量の配電盤に応じて図表 6-11 に示すように

充電器の配置が決まり、それに応じて、EV を配置して確認試験を行った。なお、充電器、EV の

配置は試験の進行に応じて、適宜変更を行った。また、試験組合せスケジュールを図表 6-12 に示

す。スケジュールは AC 充電の確認試験と同様に、充電器 1 機種に 2 時間を目処に 4 時間~5 時

間の間に 2 社の充電器に対する試験を実施することとされた。(実際には、機材の搬入日とした

24 日の午後から試験を行い、試験の進捗に応じ順次待機中の充電器メーカーに声をかけて試験を

実施するなど臨機応変に対応した。また、6 機種めの充電器はなかった。) 参加 EV メーカーは 6 社あったが、試験室のスペースから 4 台しか配置できないため、日産、

トヨタ、北京現代、騰勢を先行で 2 月 24 日から 26 日で試験を実施し、残りの 3 社は後日試験を

実施することとされた。確認試験の主導は EV メーカーが行った。 CATARC は EV と充電器の間に接続して、CAN(通信信号)、DC 電圧、DC 電流等を測定で

きる中継ボックスおよび計測装置を用意。中継ボックスでは各種配線の断線を模擬できる機能も

あり、それらの操作も EV メーカーが実施した。 図表 6-11:試験室内の配電盤、充電器、車両の配置

配電盤

配電盤

充電器

充電器

充電器

車両1

車両2 車両3

車両入口

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図表 6-12:試験組合せスケジュール

车辆

充电桩和测试时间

2-25 2-26

9:00-14:00 14:00-18:00 8:30-12:00 13:00-17:00

1#:日产 ① ③ ⑤

② ④ ⑥

2#:丰田 ③ ⑤ ①

④ ⑥ ②

3#:比亜迪 ⑤ ① ③

⑥ ④ ⑤

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3) 実施状況 互換性確認試験の実施状況を図表 6-13~図表 6-14 に示す。

図表 6-13:互換性確認試験の様子

(左手前:日産/ベヌーシア E30、中央:北京現代、左奥:騰勢)

図表 6-14:参加した普通充電器の一部

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4) DC 急速充電の互換性確認試験の結果 5 機種の各充電器に対する試験結果の概要を図表 6-15 に示す。図表 6-15 に示すとおり、試験

を行った 5 機種ともに標準違反が確認された。5 者 5 様に不具合が確認されたが、大きなポイン

トとしては、下記のように集約される。 ・充電停止すべきときに充電停止しない。 ・下位互換性がない(旧標準対応車両、新標準対応車両、どちらにも対応すべきとされている

にもかかわらず、新標準対応車両にしか充電できない。) ・CAN(通信信号)の順序、発信の有無等が標準に準拠していない。

図表 6-15:DC 普通充電の互換性確認試験結果概要 充電器

No 試験結果の主な不具合概要 判定

① 下位互換性なし(GB/T の 2015 年版対応車両のみに対応

し、2011 年版対応車両に対応せず) 停電試験にて、停電後 1 秒以内にコネクタ端子電圧が 60V

以下にならず。

標準違反

② 下位互換性なし(GB/T の 2015 年版対応車両のみに対応

し、2011 年版対応車両に対応せず) 標準違反

③ 充電中に車両側で充電停止操作するも充電停止せず。 停電試験にて、停電後 1 秒以内にコネクタ端子電圧が 60V

以下にならず。

標準違反

④ バッテリー電圧に応じた充電電圧設定ができない。(充電開

始時にバッテリー電圧よりも大きな電圧が出力され、突入

電流が流れる。)

標準違反

⑤ 下位互換性なし(GB/T の 2015 年版対応車両のみに対応

し、2011 年版対応車両に対応せず) 充電終了時に、充電器から EV へ充電終了の信号を発信し

ない。(そのため、EV は充電終了できない。) 充電中に、コネクタのロックリリースボタンを押しても充

電を停止しない。(充電中にコネクタを外すことができてし

まう。感電の危険性。)

標準違反

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互換性確認試験結果の課題整理および提言案の検討 6.3

AC 普通充電 6.3.1 AC 普通充電の互換性確認試験により確認された標準違反に係る不具合事象を要約すると、以

下のように整理される。 ・充電シーケンス(CPLT 信号の発振/停止や AC 電圧印加/停止のタイミング)が標準どお

りに進展しない。 ・充電コネクタが EV に取り付けられていない状態で、充電コネクタ端子に AC 電圧が印加さ

れた状態になっていることがある(感電の危険性がある)。 これは、充電器 12 機種中 11 機種がカードまたは暗証番号による認証システム付きであったこ

と、並びに、標準において充電器の認証システムを考慮した充電シーケンスが明記されていない

ことが、充電器メーカーの設計上の誤解を生んだ要因と考えられる。 そこで、充電器メーカーが同様のミスをしないようにするため、充電システム関連標準

GB/T18487.1-2015 に対し、これらの内容を次回の標準改訂時に反映することを目指す。さらに、

充電器の検定制度の面からは、制定に向けて審議中の標準に検定項目として追加するなどの提案

を行い、反映を図っていく。 具体的には、図表 6-16~図表 6-19 に示すとおり、充電器の仕様を考慮した推奨シーケンスを

提示する。

図表 6-16:認証システム付き AC 充電器 推奨シーケンス① 充電開始時:充電コネクタを接続してから認証を行う場合

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図表 6-17:認証システム付き AC 充電器 推奨シーケンス② 充電停止時:認証してから充電コネクタを抜く場合

図表 6-18:認証システム付き AC 充電器 推奨シーケンス③ 充電開始時:認証してから充電コネクタを接続する場合

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図表 6-19:認証システム付き AC 充電器 推奨シーケンス④ 充電停止時:充電中にユーザーが充電コネクタを抜いてしまう場合

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DC 急速充電 6.3.2 DC 急速充電の互換性確認試験により確認された標準違反に係る不具合事象の大きなポイント

としては、以下のように整理される。 ・充電停止すべきときに充電停止しない。 ・下位互換性がない(旧標準対応車両、新標準対応車両、どちらにも対応すべきとされている

にもかかわらず、新標準対応車両にしか充電できない。) ・CAN(通信信号)の順序、発信の有無等が標準に準拠していない。 いずれも、充電システム関連の標準には記載されている事項であり、充電器メーカーがしっか

りと標準を理解する事が求められる。また、これらのような標準を満足しない充電器が市場に流

通しないようにするため、早期の充電器の検定制度の導入が求められる。その充電器検定制度が

しっかりと機能するためには、現在審議中の検定に係る標準に対し、必要な反映を検討していく。

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今後の取り組み 6.4

今後の取り組み 6.4.1 本調査では、中国における AC 普通充電および DC 急速充電の互換性確認試験を実施し、不具

合事象の有無の確認を行った。その結果、充電システム関連標準の未準拠に係るものや商品とし

ての追加機能に係るものなど、不具合事象が散見された。 現在中国国内では 2015 年 12 月末に充電システム関連の基本標準 5 件が改訂発行されており、

充電器の検定に係る標準 2 件の審議が最終段階にある。中国充電器連盟のサブリーダーである中

電連はその活動の中で、日中共同研究で日本側が提案した互換性確認試験の結果を反映し上記 2件の標準を完成する計画である。また 3 月中旬には中国充電器連盟としての課題集約会合が開か

れる予定で、今回日本側で日本メーカー車両をベースに抽出した結果および別途中国側でも抽出

した日本車以外での問題点とも突き合わせて、反映事項を中国充電器連盟に提出する計画であり

中電連としても期待をしている。 中国では 2018 年中に正式に充電器検定制度の立ち上げを予定しており、システム関連標準未

準拠に係るものの内 AC 充電については検定標準にも記載されており、この制度の中で対応する

ことになる。一方、DC 充電のシステム関連標準未準拠の不具合については検定標準においても

規定の記載漏れがあり、また製品としての追加機能に係る不具合の対策とも併せて、審議中の検

定関連標準への反映が必要であり CATARC を通じて中国充電器連盟の審議に挙げていく。 本調査の中で行われた一連の活動の中で抽出された充電器の互換性問題については一定の歯止

めが可能になると考えており、今後も検定標準への織り込み状況をフォローしていく。

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第7章 充電器普及のための充電インフラ事業ビジネスモデル

ビジネスモデル検討の前提 7.1 第 4 章の「政策法規に係る調査」、第 5 章の「充電インフラ普及に向けたロードマップの策定」

において触れたとおり、2015 年 11 月に「電気自動車の充電インフラの発展に関するガイドライ

ン(2015-2020 年)」が発表され、そこでは 2020 年には EV の普及台数 500 万台と、これらの

充電需要を満たす充電インフラ整備として集中型充電・交換ステーション 12,000 箇所、分散型充

電ポール 480 万基の設置が謳われている。 電気自動車の普及のために欠かせない充電インフラの整備事業が成立するためには、①都市の

特徴や現状等を踏まえ、充電インフラ事業における諸課題が解決されていること、及び②事業者

が収益性を確保できること、或いは解決に向けた対策が講じられようとしていることが重要であ

る。そこで、本章では①に対するアプローチとして、充電インフラ整備事業に既に取り組んでい

る事業者の現状把握を目的に、充電事業として特徴がある 4 都市を選択して現地訪問し、各地方

政府の取り組み状況及び充電設備の整備状況を確認の上、現地の充電事業運営者の実態を調査し

た。各都市毎に調査結果を整理分析し、それぞれの都市の現状を基に、充電インフラ整備事業に

おける要点や示唆を明確化する(7.2)。 続いて、②に対するアプローチとして、上述のガイドラインで掲げられた目標数値が 2020 年

に達成されたとの仮定を置き、充電事業の収益性を定量的に把握、検証すべく、具体的な数値シ

ミュレーションを行う(7.3、7.4)。尚、シミュレーションにあたりインプットするパラメータ

値に関しては、各都市での取材を通じて取得したデータを用い、対象都市における将来の充電需

要の予測を行った。これについては我が国において充電インフラの設置に関して多くの知見を有

する株式会社構造計画研究所に依頼し、同社のシミュレーションモデルを活用した。また、充電

インフラビジネスモデルの収益性については、深圳市を例にとりあげ分析を行った。

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現地調査 7.2 以下 2015 年 11 月~2016 年 1 月にかけて中国の北京、青島、常州、深圳の 4 都市においてそ

れぞれ 2 回ずつ行った現地でのヒアリング調査に基づいた把握状況について記述する。

北京 7.2.1 日程 2015 年 12 月 21 日~22 日、2016 年 1 月 12 日~13 日 訪問先 1. 北京市新能源汽車発展促進中心

2. 普天新能源(北京)有限公司 3. 北汽特来電(北京)新能源科技有限公司 4. 北京高威科電気技術服務股分有限公司 5. 深圳市科陸新能源技術有限公司 6. 北京沢誠匯通投資諮詢有限公司 7. 北京博通瑞能機電設備有限公司 8. 金石財策(北京)顧問有限公司 9. 中国電動汽車百人会 10. 中国電力企業連合会

1) 新エネ車普及に関する取り組みの現状 以下は、北京市新能源汽車発展促進中心へのヒアリング調査によるものである。 (ア) 新エネ車の増加数 北京の 2015 年末の新エネ車普及台数は 30,000 台であり、直近 1 ヵ月では月 10,000 台のペー

スで売れている。2016 年は保守的に見積もって年間 60,000 台の販売を予想している。 (イ) 充電ポールの設置 充電ポール設置では建設主体が多様化しており、中央企業、地方企業、国有企業、民間企業が

参入している。北京の充電ポールは北京市内で 1 万本以上設置されており、会社用、個人用、公

共バス用などがある。現在、北京市内に公共の急速充電ポールは 3,000 本以上設置されている。

北京市としては、充電器の容量を拡大することで充電時間の短縮を求めることを考えている。な

お、急速充電器の容量は 37.5kW が基本であり、充電設備の価格は 1W 当たり 1.2~1.5 元である。

急速充電ポールの 1 台当たりの設置費用は電力容量の増加が不要の場合であれば 10 万元以内(約

200 万円)に収まる。急速充電ポールの 1日の売上は 100~200kWh であり、サービス料金は 1kWh当たり 0.8 元を上限としている。

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(ウ) 規格の統一化と充電時間短縮が課題 多くの企業が充電事業に参入することにより、充電設備の普及速度が速いことがメリットであ

るが、充電規格が未統一であることが課題と認識している。また、場所によっては充電待ち状態

が発生しており、充電ポール本体の機能を拡張し、充電容量を増加させ充電時間の短縮を図りた

いと考えている。急速充電は車両や電池に負担がかかるが、それは車両側で解決してもらいたい。

充電待ち状態の発生が問題であり、使用者ニーズに応えることが重要であると考える。 (エ) 収益化は可能

中国の充電事業は日本よりも儲かる可能性が高いと考えている。中国は EV ユーザーの絶対数

が多いことが特徴的である。充電ビジネスの収益構造は、電力料金とサービス料の 2 つから構成 6されている。 (オ) 年間売上

1 日当たりの電力の販売量は充電ポール 1 本につき 100kWh〜200kWh である。充電サービス

料は 1kWh 当たり 0.8 元であるので、北京市内では年間売上(充電サービス料収入)が 1 本あた

り 3~5 万元(60 万円〜100 万円)となり、2 年間で投資回収できる計算となる。これは逆算す

ると、毎日 10 台くらい EV が来た場合の計算となる(1 台につき 20kWh の充電を想定している

模様)。 (カ) 充電設備価格

1W 当たり 1.2~1.5 元である。標準的な急速充電設備の設備容量は 37.5kW であるので 4 万元

(80 万円)程度である(高圧電線や増量工事が不要の場合を想定)。 (キ) 立地が重要

初期投資、維持管理費など重要な要素は固定的であることから、充電インフラ事業の収益性は

ひとえに充電ポールの設置場所とその稼働率にかかっている。良い場所に設置していると、それ

だけ投資回収が早いといえる。 (ク) 充電設備の設置費用

電線設備の増量が必要ではないという前提のもとで、1 台あたりの設置費用は 10 万元以内(200万円)である。 (ケ) 高い公共充電施設への依存度 北京では車両購入時に固定的な駐車スペースの確保が義務付けられていないことから、自動車

保有者の半数は駐車場を持っていない状況 7である。従って、基礎充電がそもそも期待できない

6 電力料金は電力購入コストをそのまま EV ユーザーへ転嫁することから充電サービス料部分が充電事業者の儲けとなる。 7 550万台の車両保有台数に対し駐車スペースは 250万台とのことである。

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ことから、公共充電ポールへの依存度が日本よりも高いことが特徴といえる。ビジネスモデル検

討ではこの点を留意すべきであり、公共用に頼らざるを得ないということは、中国では充電イン

フラ投資で儲かる可能性が大きいと言える。

北京市新能源汽車発展促進中心では北京を代表する複数の充電事業者が集まり議論を深めた

2) 充電サービス企業の取り組み 以下は各企業との面談に基づくものである。 ①北汽特来電(北京)新能源科技有限公司 (ア) 事業概要

同社は青島の特来電と北京汽車により 2015 年 3 月設立された合弁会社で、北京市内に 2,200本の充電器を有する。このうち急速充電器は半数で、主要設置場所はショッピングモール等の商

業施設である。北京市では「公用車改革(政府保有の公用車を減らして純電動車のリース車両へ

転換する政策)」が進行中で、政府機関に充電ポールの設置需要があることから商機があると捉

えている。同様に、住宅地にも充電器の設置需要があるとみている。 (イ) 補助金

補助金は設備代金、設置費用、電力増容費の合計を補助対象とし、その 30%が地方政府から支

給される。現在充電ポールの稼働率は平均 10%程度(24 時間ベース)で、儲けを出すには 40~50%の稼働率が必要といえる。充電事業単独での利益創出は困難であり、インターネット技術の

活用による収益機会の拡大を狙っている。モバイルアプリを活用のうえビッグデータを収集し、

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自動車保険販売、EV 車両販売、EV 部品販売、メンテナンスなどの付加価値サービスの提供を狙

っている。 (ウ) 用地確保

充電器設置場所の用地確保は、駐車場経営者との連携によるが、充電器の設置は当社が行って

いる。建設費、設備費、電気代は当社が負担し、駐車場側は充電設備の不撤去を約束し、充電収

入の一部(最大 20%程度)を駐車場側へ戻す契約内容としている。 (エ) 稼働率

電気の購入コストは駐車場が属する土地の属性により決まり、充電ポールの稼働率は設置場所

の立地に依存する。無料駐車場での充電器の稼働率は高く、有料駐車場では低いという傾向があ

る。稼働率の高いポールは 70%程度、低いポールは 2~3%程度である。北京市の自動車保有台

数は 550 万台だが、駐車場は 250 万台分しかなく、残りは走行中か路上駐車の状態である。従来

型車両が充電ステーションの充電スペースに駐車することがあり、これは充電器の稼働率の低下

につながる。問題の解決には政府のサポートが必要である。

EV の充電用駐車場には多くのガソリン車が停められており

EV ユーザーが充電できないことが多いという

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②北汽特来電の充電器設置現場 (ア) 概要 北汽特来電の協力を得て、北京市西城区阜外大街 27 号敦煌大廈の地上平置き駐車場に設置さ

れた充電器設置現場を訪問した。急速充電器(30kW)1 本、普通充電器(7kW)4 本が設置され

ており、食事や仕事のついでの充電が多く、経路充電と目的地充電の両方の役割を果たしている

とのことである。 (イ) 地主からの要請

ビルオーナーからは、充電器の稼働率向上の為、充電中の車からの離席禁止が要請されている

とのことであった。2016 年第一四半期に新しい国家標準が発表予定であり、これによりデータ共

有が可能となる。また既存ポールの改造・更新には 1 本当たり 3,000 元の補助金が支給されると

のことであった。

充電器と EV と充電管理室

③普天新能源(北京)有限公司 (ア) 事業概要

2009 年から充電設備事業に参入し、全国に 4,000 本以上の充電ポールと 100 箇所以上の充電

ステーションを有する。北京市内には地主と設置契約済みの充電ポールが 1,100 本あり、2015 年

末には使用可能な充電ポールは 700 本に、また 2016 年末には 3,000 本になる予定とのこと。全

国に 9 つの小会社を持ち、北京と深圳を重要市場と認識している。付加価値の提供が重要と考え、

EV ユーザーだけでなく EV メーカーも巻き込んだデータ共有の仕組みづくりを検討中である。

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(イ) 事業展開構想 現在の事業モデルでの採算確保は困難であり、EV の普及台数が 100 万台規模になれば商機が

あると認識している。地方政府(区や県)と連携の上、特許権付与による地域独占形態での充電

ポールを建設し、運営を行うという官民連携の PPP モデルを検討中。地域内では EV ディーラー

と連携し、手数料等のキックバックなどの仕組みを取り入れたいと考えている。土地を賃借して

大規模ショッピングモールを建設し、集中充電設備を建設したい考えている。EV の保守修理に

ついては、現時点ではユーザーニーズに応え切れていない面があるので、商機があると考えてい

る。通信キャリアと連携し、充電ポールに通信基地局を設置するというアイデアもある。他には、

BMW から同社専用の普通充電ポールの建設を請け負っている。e コマースへの参入は得意分野

ではないので現時点では検討していない。 ④深圳市新能源技術有限公司

1996 年設立の電力設備メーカーで、充電事業は中国南部に集中するも最近北京へ進出した。公

共バス向けを中心に展開中。

⑤北京自動車博物館 (ア) 投資額

北京自動車博物館に設置されている急速充電器 7 本(40kW)と普通充電器 3 本(7kW)の設

置現場を確認した。普天新能源(北京)の担当者の説明によれば認証、決済は普天のプリペイド

カードのみが対応する仕組みで、当ステーションへの投資額は 200 万元(約 4,000 万円)である。 (イ) 電力料金

電気料金は、大工業向けの電気料金が適用されているため基本料金はない。電気料金は、7、8月の夏季特別ピーク価格(夏季特別ピーク時間帯は 7、8 月の 11~13 時、16~17 時)が 1.0941元/kWh であり、それ以外の時期のピーク価格(ピーク時間帯は 10~15 時、18~21 時)は 1.004元/KWh である。また平常時間帯(7~10 時、15~18 時、21~23 時)の料金は 0.695 元/kWh で

あり、谷間時間帯(23~翌朝 7 時)の料金は 0.3946 元/kWh である。電気料金とは別に充電サー

ビス料金を徴収しており、充電サービス料金は 0.8 元/kWh である。

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写真左:北京汽車博物館にある充電ステーション

写真右:同ステーションにある中国普天の充電ポール

3) 特徴

北京市の特徴としては、自動車購入前のナンバープレートの交付規制、ナンバープレートの末

尾の数値と曜日による走行規制、が挙げられる。 (ア) ナンバープレートの交付制限 北京市ではナンバープレートの交付を制限しているが、新エネ車は優遇されている。2016 年 1

月 7 日付け北京本地宝報の報道によれば、北京市政府は 2016 年の乗用車のナンバープレートの

新規発行の枚数を全体で 15 万枚とし、このうち従来型乗用車へは 9 万枚、新エネ車は 6 万枚を

割り当てる旨発表している 8。新エネ車に関しては抽選を行わずに先着順で割り当てるものとし、

全体枠の 6 万枚を超過した場合には、翌年度に持ち越して先着順による優先割り当てを行う、と

している。北京市では 2 ヵ月に一度偶数月にナンバー交付の抽選が行われるが、2016 年 2 月のナ

ンバー交付に係る抽選での基準当選倍率は 665 人に一人 9であり、従来車でのナンバー交付の希

望者にとっては当選の可能性が非常に低い状態である。

8 従来型乗用車の割り当て枠の内訳は個人へ 90%、企業へ 6%、営業車へ 4%であり、新エネ車の割り当て枠の内訳は個人へ 85%、

企業へ 5%、営業車へ 10%である。北京市小客車指標調控管理弁公室「関于 2016年小客車指標総量和配置比例的通告」(2016

年 1 月 7 日) 9 2016年 3 月 7日付けの「人民網」によれば、北京市において 2016年 2 月 26日実施された普通小型乗用車ナンバー抽選につい

て、申請者は予定交付ナンバー数 13,700枚に対して 2,589,995人であり、抽選参加回数 6 回毎にグループ分けをして当選率を

上昇させる制度であることから割当て基準数が 9,786枚として標準当選率が計算された結果、基準当選率は 665人に 1人の割合

であった。また新エネ乗用車の個人への割り当て枚数は年間 51,000枚であり今回は無抽選で個人及び企業に割当られた。うち

個人へは 12,214枚が割り当てられ通年枠の四分の一が使われた。

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(イ) ナンバープレートの末尾数値と曜日による走行規制 北京ではナンバープレートの末尾数値と曜日とを対応させ、一定期間、対応関係を入れ替えな

がら、常に全体の保有車両の 5 分の 1 が走行規制を受ける仕組みが導入されているが、新エネ車

に関しては、2015 年 6 月から 2016 年 4 月までの期限付きでこの走行規制が撤廃されている 10。

2016 年 4 月以降の制度運用については今後の情勢により決定される。 4) 現地調査で得られた示唆 個人の自家用車部門への普及が課題である。政府の政策ではナンバー交付の規制、ナンバーに

よる走行規制において新エネ車を優遇することにより、国民へ新エネ車購入へと誘導しているが、

購入意欲が高まったとしても個人の力では解決しづらい障害が若干残されおり、これらの障害の

除去が課題である。 具体的には、既存の共同住宅の駐車場における自家用充電設備の設置の困難さである。共同住

宅を管理する不動産管理会社及び共同住宅の所有者組合(日本のマンション管理組合に相当)の

同意の取り付けが困難である。関係者間の利害調整に当たっては、行政によるガイドラインの策

定などによる調整が求められている。

10 2015 年 5月 31日付け「車質網」より

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青島 7.2.2 日程 2015 年 11 月 25 日、26 日、2016 年 1 月 14 日、15 日 訪問先 1. 青島市科学技術局、

2. 青島特来電新能源公司

1) 新エネ車普及に関する取り組みの現状 以下は青島市科学技術局との面談に基づくものである。 (ア) EV 及び充電ポールの普及目標値

中国の新エネ車が普及し始めたのは 2010 年からである。中央政府が 2010 年に打ち出した最初

の十城千輌計画(十の都市にそれぞれ千台ずつ EV を普及)では、青島市は選ばれなかったが、

第二期目の 2013 年に選ばれた。青島市が掲げた 2013~2015 年における EV 普及台数目標値は、

累計 5,200 台としていた。また、青島市では充電ポールの建設目標はないが、EV1 台あたり 1.3台の充電ポールを設置する考えがあるとしている。これによると、充電ポールは 7,000 本程度の

数字になる。 (イ) EV 販売実績と充電ポール設置実績

2015 年 10 月末の EV 販売実績は 3,000 台強である。そのうち 1,300 台は公共の電池交換型の

EV バスで、EV 乗用車は 2,000 台である。これは目標値まで 2,000 台弱の乖離があるが、最近の

伸びは前月比で倍増しており、残りの 2 ヵ月で不足分を突破できるというコメントがあった。青

島市内で運営している充電ポールは 2,000 本である。そして建設中のものは 6,000 本ある。2015年末までに 7,000 本~8,000 本になるが実際に稼動できるのは 3,000 本~4,000 本の見込みとのこ

と。 (ウ) 補助金政策

EV 購入の場合中央政府及び地方政府から補助金が出される。地方政府の方が中央政府より

10%程度手厚い。中央政府の補助金は年度の経過とともに逓減する仕組みであり、他の地方都市

も同様に逓減させるところが多いが、青島市では年度が経過しても逓減しない政策を取っている。

物流など商用 EV についてはその逆で、中央政府の方が地方政府より手厚く、地方政府分は中央

政府の補助額の 20%程度である。地方政府としては、EV 乗用車の普及に焦点を絞っている。 公共性のある充電ポールに対しても補助金が出される仕組みがある。充電ポールは設備代金に

対して 30%の補助金を出す。補助対象は設備代金のみであり建設にかかる設置費用等は対象外と

なっている。また個人用と企業用の充電ポールは補助金の対象外である。 (エ) 充電インフラの推進方針

青島市では充電ポールの建設を EV 普及に先行させることを目指している。また集合住宅が多

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いため、集合住宅を 1 つのコミュニティとして捉え、コミュニティごとに充電施設を整備するこ

とが合理的と考えている。理由は電力負荷と電力供給の観点から充電システムのコントロールの

仕組みが不可欠であると考えている。2014 年初にこの視点から方針を決定し、集中型充電を実施

する企業を公募したところ、配電機械製造業者 1 社が応募してため、グループ充電システムの導

入を許可するに至った。 (オ) 充電サービス料金

1kWh あたりのサービス料は 0.65 元である。 2) 充電サービス企業の取り組みの現状 以下は青島特来電新能源有限公司との面談に基づくものである。 ①青島特来電新能源有限公司 同社の母体は電気設備メーカーである。変電設備の視点から、充電ビジネスが成長のドライバ

ーになると見据えて充電サービス事業に参入している。 (ア) 集中充電の仕組み 集中管理方式は、設備の初期投資、据え付け費用に関しては従来式とあまり変わらないが、機

器のメンテナンスとアップグレード時の省力化が可能であることがメリットである。同社の充電

器はモジュール単位(ティッシュ箱程度の大きさ)で製造しており、故障時には集中管理ボック

ス内モジュール部分のみの交換で済むことから人件費の削減、保守管理時間の短縮に繋がる。機

器のアップグレード時も、伝統式充電ポールでは 1 本ずつ交換せねばならず、場合によっては取

り壊しも必要となる。

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集中充電式充電器。各モジュールが独立していることが見て取れる。

(イ) 充電プラットフォーム

青島特来電新能源有限公司ではクラウドインターネットの要素を取り入れて充電インフラ事業

を行っていることが特徴的である。インターネットのプラットフォームを用いて多くの参入者を

囲い込むことを目標としている。そのプラットフォーム上では、EV への充電サービスを経由し

てビッグデータを収集している。そのビッグデータを用いて、EV の販売・修理・レンタル・リ

ース・e コマース・金融・売電など派生的な業務を展開する予定である。これはプラットフォー

ムを使用した付加価値サービスの提供である。充電事業自体は投資が先行し回収が難しい。大き

な資産を持たなければならず、投下回収に時間がかかると同社は認識している。

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同社のビジネスモデル図その 1

図表 7-1:青島特来電新能源有限公司の事業領域

出所:青島特来電新能源有限公司へのヒアリングより大和総研作成

(ウ) 電力自由化後の電力売買

将来の電力売買を想定している点に特徴がある。2016 年 1 月現在においては中国では電力の供

給が国家電網と南方電網の 2 社に独占されているが、将来は電力の売買も自由化される見込みで

あり、青島特来電新能源有限公司は EV の電力を電力供給側に売却できることも重要なビジネス

モデルと考えている。V2G(ヴィークルトゥーグリッド)に加えて電力貯蔵システムを組み込み

昼・夜間の電力料金の価格差を利用した裁定取引を行う事業モデルを検討しており、将来的には

国同士で電力を融通しあうことも考えられるという。

充電インフラプラットフォーム

eコマース

売電

EV修理

車両リース

車両レンタル

EV販売

金融

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売電に当たっては EV の動力電池内に蓄電されている電力を直流から交流に変換する必要があ

るが、従来の単独設置の充電ポールの場合は 1 本 1 本に個別で対応する必要があるのに対して、

同社の場合は集中して行うことができるので優位性があるという。

同社のビジネスモデル図その 2

(エ) 公共 EV バス

充電サービスの中では公共 EV バスにニッチマーケットが存在している。青島市には 1,300 台

の公共 EV バスがあり全て電池交換式である。公共 EV バスは走行距離が長く電力消費量も多い

ため、充電サービス事業単独で儲かる可能性があるとしている。 (オ) データ収集

顧客が EV 車両へ充電する際に、車両情報を取得する仕組みとしており、この情報からは当該

車両の走行状況、電池の状況が分かる。顧客は EV の健康状態をスマホアプリで確認できる。そ

のレポートを基に EV の修理の実施を判断することになり、修理ビジネスに繋がる。 (カ) e コマース

同社では既に EC サイト上で北京汽車などの EV 車両を購入できる仕組みを構築している。通

常 EV を販売する場合はディーラーの開設が必要であるが、同社は EC サイトのみで事業を行っ

ている。2016 年 1 月現在、EV メーカーが提供する標準仕様車のみの購入が可能であるが、将来

的には EV メーカーと連携し、顧客が好み通りにオーダーメイドで EV を購入できるようにする

ことを検討している。EC サイトでは将来的に自動車保険の代理店として保険販売を検討してい

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る。 (キ) カーシェアリング

青島市の工業団地に EV の導入及び充電施設の配置を同時に行う計画を持っており、カーシェ

アリング事業者を募集している。同社の充電プラットフォームを利用して貰う予定であり、工業

団地へ進出する企業に対して提案している。このプラットフォームは 2016 年 3 月には稼働予定

である。

同社のビジネスモデル図その 2

(ク) ファイナンス・リース

公共の EV バスに対する補助金は高いがそれぞれの地方政府で意見や積極性が異なっている。

一部のバス会社は自前で充電設備を購入し自家用充電施設を構えるが、これに対しては特来電は

設備のサプライヤーの立場で関わる。またはファイナンス・リースの形態でバス会社へ設備を納

入しリース料をもらう形態もある。この他バス会社が設備の建設に自らは関与せず、専門業者に

建設させその業者の提供するサービスに対して利用料を支払うというパターンもある。各地のバ

ス会社との協議で決めることが多い。 (ケ) 電力設計院 2014 年 7 月に国務院弁公庁から発表された「新エネ車の普及実用の加速に関する指導意見」では

地方ごとに充電設備の計画があり、地方の電力設計院が 5 か年計画を策定に関与している。電力

設計院は 2015年 11月から 2016年 3月まで地方政府の計画策定 11を支援することとなっており、

11 2016年 1 月 11日付で、財政部、科学技術部、工業信息部、発展改革委員会、能源局の 5 部署の連名で、「第 13 次五か年計

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計画で充電設備数や仕様、電池の種類などが決められる。電力設計院は都市の電力規格や充電装

置も担当しており政府の補助金に対する提案権を持っている。また電力設計院は電力の充電施設

の規格にも関与しており充電施設に関するコンサルティングを発展改革委員会に行っているが、

EV に関する知見がないため特来電の知見を活用している。特来電は EV のニーズに合わせたデ

ザインなど詳細について電力設計院に対してコンサルティングを行っている。

特徴 3)青島は中規模都市であり充電インフラの整備も進みつつある。地元に電力設備関連の大企業が

あることから、同社と中心に独自の集中充電方式による充電事業を展開中である。資金力に余裕

があることから長期的で且つ周辺事業を巻き込んだ事業展開を狙っている。

現地調査で得られた示唆 4)青島特来電は豊富な資金力を有して長期的な事業戦略のもとで事業を展開している。集中充電

システムの優位性をどこまで発揮できるか、インターネットの有効活用ができるかどうか、独自

のプラットフォームがどこまで差別化できるか、市場拡大が思惑通りに展開するかどうか、先行

投資が収益に結びつくかどうかが課題である。

画の新エネ車充電インフラの建設奨励政策及び新エネ車の普及実用を加速させることに関する通知(財建[2016]7号」が発表さ

れ、各地方政府に対して 2016 年 4月までに、各地方の「新エネ車普及実用実施政策)と「充電インフラ建設運営管理弁法)を

策定の上、中央政府へ届け出るように求めている。

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常州 7.2.3 日程 2015 年 11 月 24 日、2016 年 1 月 20 日 訪問先 1. 常州市経済信息化委員会、

2. 万幇助充電設備有限公司(星星充電)

1) 常州市の新エネ車に関する取り組みの現状 常州市は常州市経済和信息化委員会が新エネ政策を担当している。常州市では 2014 年の 9 月

に新エネ車の普及活動を開始し、2014 年末の 4 ヵ月間で 1,329 台を達成した。2015 年の目標値

は累計 1,100 台であり実績値は 2,106 台(含む PHEV)であった。常州市内の自動車の保有量は

120 万台だが新エネ車の比率は 1%未満。充電施設は、充電設備は 2015 年に 800 本の建設を目標

としていたが、実績は充電ステーション 1 箇所と充電ポール 2,208 本であった。2016 年の目標値

は 400〜500 本の新設としている。常州市では、充電施設建設の許認可に関して 3 つの視点を重

要視している。1 つは公共的資源の再分配であり、公平性の確保が大切である点。それから 2 つ

目は公共の安全性を確保し、事故ゼロの体制を確立するという点。3 つ目は事業の透明性及びビ

ジネスモデルの明確化である。新エネ車の充電に関する充電サービス料は、2016 年 2 月現在では

北京は 0.8 元、青島は 0.65 元、深圳では 0.45 元だが、常州では電力代と充電サービス料を含め

て 1.52 元である。 2) 常州市における充電サービス企業の取り組みの現状 ① 万幇グループ (ア) 事業概要

万幇グループは自動車販売業を主力事業とし 60 店舗を有する。主にメルセデスベンツのほか、

他メーカー14 ブランドを取扱っている。2014 年のグループ全体の売り上げは 202 億元(約 4,040億円)。中国の自動車ディーラーランキングでは 13 位であり、2014 年から次世代自動車の販売に

参入した。次世代自動車関連事業としてはグループ内に以下の 4 社①充電ポールの製造会社、②

充電ビジネス会社、③EV のディーラー会社、④充電ポールの設置会社を持っている。充電ビジ

ネス事業は小会社である万幇充電設備有限公司が星星充電ブランドで展開している。 (イ) 星星充電の事業概要 親会社の万幇グループが自動車ディーラーであることから顧客目線での EV 販売(主に北京汽

車)が可能である。充電ポール設備の開発にも参入している。直近では常州市内に充電設備を 100個所強設置しており、それぞれの拠点に十数本の充電ポールがあることから、全体で 2,000 本程

度の充電ポールを保有している。

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(ウ) クラウドファンディング 星星充電はビジネスモデルとして「クラウドファンディング」を掲げているが、これは一般的

に米国や日本で言われている資金調達の意味でのクラウドファンディングではなく、土地調達・

資材調達も含めて広く大衆から調達するという意味で使用されており、対象物が資金とは限らな

い。土地の提供で事業に参画するもよし、資金の提供で事業に参画するもよし、という仕組みで、

広く大衆からリソースの提供を受けて、充電事業に参画してもらう構造を取り入れている。 充電設備事業の運営には場所の確保が必要となるが、一般の人が土地を拠出して自ら充電事業

を行うことには、手続の煩雑さから事業参画を躊躇する人が多い。星星充電では、「クラウドフ

ァンディング」の名の下に、土地の保有者に対して一定のフィーを払い用地のみの提供を受け、

その他の手続きや事業運営については土地保有者の手を煩わせない事業構造としている。また資

金提供のみの投資家からの資金も受け入れている。充電設備に関する資金は別に手当てしている。

当社は今後、北京、上海、広州、武漢などの 20 都市以上に事業展開する予定である。 (エ) 収益と投資の回収 充電ビジネスの課題は世界のどこでも同じで、投資額が大きく投資回収が長期にわたる事であ

り、中国も例外ではない。中国での充電事業での資金源は 3 つあり、1 つは国からの補助金、2つ目は充電収入、3 つ目は付加価値である。同社では最後の付加価値の手段として EV の販売を

行っている。充電施設が完備されると EV も普及する。充電施設を作って EV を販売すれば、投

資も回収できると考えている。 (オ) 充電プラットフォーム

同社の充電設備は、インターネットを用いて遠隔操作で設備をコントロールし、料金決済(銀

聯、WeChat、AliPay)も可能にしている。充電ポールが 1 台あれば、EV ユーザーはアプリケー

ションをスマートフォンにダウンロードしてすぐ使える仕組みである。充電カードは不要である

ことから充電ポールに液晶画面やボタン等を搭載する必要がなく、その分メンテナンス負担が減

少する仕組みである。

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同社の充電プラットフォーム管理システム

(カ) 収益の源泉

同社の利益の源泉は充電事業ではなく充電設備の販売にある。土地提供者は原則とし充電設備

を購入するシステムになっており、充電設備の販売代金が星星充電に入る仕組みである。EV ユ

ーザーがスマホアプリを使って EV を充電し、決済すると、翌日には充電ポールを設置した投資

家の下に入金される仕組みになっている。充電に係る料金体系は地方毎にそれぞれの規制はある

ことから、投資家がその規制の範囲内で価格を自由に設定し同社は関与しないこととしている。

同社ではプラットフォーム使用料を無料にして開放しているところが重要であると認識してい

る。同社は 2015 年中のみ充電ポールの充電料金を無料にして利用者へのシステムの浸透を図っ

ている。充電料金が一旦は引き落されるが後で同額を払い戻すという方式であるが、2016 年から

有料化される予定。

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大和総研調査団及び CATARC 担当者と星星充電社長を交えて撮影

3) 特徴

常州は中小都市であり、特徴としては人口が少なく面積が小さい、車両台数が少なく交通渋滞

がない、車両の走行規制が少ない、大気汚染問題が目立たない、という点が挙げられる。同市に

はクラウドファンディングを通じて全国規模で充電事業を展開しようとしている事業者がおり、

今後の展開状況が注目される。 4) 現地調査で得られた示唆

クラウドファンディングを標榜する事業家が積極的に事業展開を試みているが、これは充電事

業の事業リスクを投資家に一部負担させるものであり、リスクテイクをする投資家への勧誘がう

まくできるかどうか、投資家が負担するリスクの大きさについて適切な情報開示ができるのかど

うか、EV 普及に伴う充電事業の市場が想定どおりに拡大するかどうか、などが課題である。

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深圳 7.2.4 日程 2015 年 12 月 23 日、24 日、2016 年 1 月 18 日 訪問先 1. 深圳市人民政府発展改革委員会能源処

2. 普天新能源(深圳)有限公司 3. 深圳市沃特瑪電池有限公司 4. 深圳市中能能源管理有限公司 5. 巴斯巴集団 6. 中興新能源汽車有限公司

1) 深圳市の新エネ車に関する取り組みの現状 以下は深圳市人民政府発展改革委員会能源処へのヒアリング調査によるものである。 (ア) ナンバープレートの抽選

2015 年の後半には新エネ車の枠に余剰があったことから新エネ車の申請すべてを認めた。2016年のナンバープレート交付には 2 案が検討中であり一つは新エネ車についてはナンバープレート

交付に一切制限を設けないという案。もう一つは年間で従来車と新エネ車の合計を 10 万台、毎月

の割り当てを約 8 千台ずつと決めて置き、従来車と新エネ車の比率を事前に決めておく方法と、

または比率を決めずに新エネ車に対して優先して割り当て、残りの枠を従来車に割り当てる、と

いう仕組みが検討されている。 (イ) EV 普及台数

2015 年の EV 普及台数の目標である 3 万 5 千台は達成できた。2016 年からの第 13 次五ヵ年計

画では 9 万台弱の増加目標である。深圳の自動車の保有量は 300 万台以上で、そのうち新エネ車

は 3 万台である。公共交通・物流・観光・乗用車で EV 化されているところが多い。全体の 1%が新エネ車となっており、1%は深圳市にとって重要なマイルストーンである。 (ウ) 充電ポール数

充電ポール数は 2015 年末で普通充電 2 万本弱、急速充電 4500 本である。2020 年までのポー

ルの増加数は目標では普通充電 12 万本、急速充電 5 千本を予定している。2020 年末には最終的

に普通充電ポールが 14~15 万本、急速充電が 1 万本弱となる見込み。 (エ) 充電サービス料金 充電サービス料金の上限を現行の 0.45 元から 1 元へと引き上げることを検討中である。

(オ) 公共交通の EV 化

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深圳市の公共交通ではバスが 15,000 万台、タクシーが 15,000 万台で合計 30,000 台であり、バ

スは 3,050 台がすでに EV 化、2015 年末までには 6,600 台が EV化される。またタクシーは 15,000台のうち 1,000台以上EV化しており、2015年末までに 3,000台がEV化される。公共バスは 2017年末に、タクシーは 2020 年末にすべて EV 化させる。物流車は 2015 年には 8,000 台を EV 化し

たものの全体で 7~8 万台あるので EV 化にはまだ時間がかかる。 (カ) 自家用車

自家用車は全車両の 80%以上を自家用車が占めているので、政府としてはコントロールが難し

く、できるだけ PHEV や燃料自動車ではなくて純電動 EV の方向に誘導したい。 (キ) EV 発展戦略の歴史

深圳は中国の次世代自動車において先駆者であり地元の産業を促進することにも繋がっている。

元々重工業が少なく来料加工中心の地域であったが、2004 年から重工業を発展させる思いから自

動車産業を選択、2003 年から自家用車普及が始まっていたことも背景にあり、BYD、ハルピン航

空機工業、トラックメーカーの五龍州を誘致した。自動車産業の基盤がなく、上海等と比較して

一般車の製造技術が弱かったため、2005 年に競争優位性の観点から新エネ車に重点をおくことに

した。電子産業がある程度発達していたため、新エネ車製造の土台は揃っていたが 2005 年当初

はまだ新エネ車に対する注目は低かった。中国では 2009 年から発展改革委員会、工信部、科学

技術部と財政部の 4 部署から新エネ車を大きく推進するという政策が出され第 1 期は 2009 年か

ら 12 年までで、第 2 期は 2013 年から 2015 年まで行われた。第 2 期がそろそろ終わるが、2016年から 2020 年の第 3 期はこれから始まる。 (ク) 深圳市の充電インフラ整備 充電インフラの今後の普及の対象は営業用と非営業用の二分野に分け、営業用車両に対しては

急速充電を、非営業車に対しては普通充電で対応する。急速充電に対して技術基準及び建設基準

も作った。建設基準は国土管理部門が都市計画の中に用地計画を組み込んだ上、新規のマンショ

ンや駐車場には充電器を 100%の割合での設置を義務づけた。普通充電の出力容量は 3.3kW とし

ている。充電設備に関してはメーター、スイッチ、ソケットを後付ければすぐに利用できる状態

を確保するようにしている。据え付け費用は 1,000 元程度(2 万円)かかるが、EV ユーザーが利

用するハードルは低減される。 (ケ)既存住宅の駐車場

既存の住宅の駐車場については駐車台数の少なくとも 5%以上の割合で、既存の普通の駐車場

については 10%以上の割合で、充電器の配置を義務付けられている。充電設備の設置事業主体は

元々駐車スペースを管理している立場でありることから、マンションは不動産管理業者が担うこ

とが良いと考えている。 深圳市の充電サービス料は 0.45 元/1kWh であり、30kWh の電力を充電すると収入は 13.5 元

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(270 円)程度になる。充電設備管理もあるし安全保護措置も取る必要があるが投資回収は 1 年

半程度で可能とみている。既存のマンション内では電力増容の必要性はないと考える。深圳は新

しい都市であり電力ネットワークは新しく、10%の割合での充電設備の設置率であれば現状のま

まで対応可能である。また新設マンションでは 100%の割合での充電設備の設置が義務化されて

いるが、マンションの建設設計時点で電気容量を確保しているので問題ない。 (コ) 16 社が充電インフラ事業に参入

12 月現在、急速充電事業は 16 社が承認され、4 社は申請中のステータスである。投資家は充

電インフラの魅力を認め深圳に進出している。BYD の e6 という EV タクシーを 2015 年までに

800 台導入した。 (サ) 収益の概算

深圳市政府側による収益性の概算の説明によれば、e6 は 100km の走行で 25~26kWh の電力

を消耗するので年間で 5 万 kWh 程度を消費するが、800 台を年間で計算すると 4,000 万 kWh を

消費する。インフラ投資は 8,000 万元(16 億円)を投資しても、電力の充電サービス料収入は 1600万元程度(3.2 億円)であり、施設を 10 年間で償却する場合の減価償却は年間 800 万元。その他

の費用を考慮して 1,000 万元程度とみておけばよい。1,600 元の収入があれば、6 年~7 年程度で

投資を回収できるのでビジネスモデルとしては成り立つと考えている。また将来は充電のサービ

ス料金の上昇は間違いなく、また規模の経済効果によって投資コストが下がることから、企業利

益の拡大が予測される。深圳市は 1:3 の比率で充電インフラを整備しており、過去に約 270 本の

急速充電ポールの建設に 8,000 万元のインフラ投資を行っている。 (シ) 電力網への接続

2015 年から国の新たな政策により、2015 年から 2020 年まで電力網への接続コスト(変電所か

ら充電ステーションまでの増容等のコスト)を電力会社側が負担することになった為、それによ

り投資コストが 1/3 程度下がる。また充電設備の設置に対しては据え付け料・初期調整料・監視

管理料を対象として政府が 30%の補助金を出しており(但し土木建設工事費は除外)、更に投資

コストが下がっている。2014 年までの投資コストと比較すると 2/3 は削減される計算になる。投

資家にとっては、全てのタクシーが EV 化されることに魅力を感じている。 (ス) 初期需要の創設 政府は EV の初期需要を創出すると同時にインフラを整備して好循環を生み出す考えであり、

まずバス、タクシーを EV 化し、その後に物流車を EV 化する。充電会社はタクシー会社と連携

して充電料金の割引をするなどして安定的な収入が期待できる。充電ビジネスをやりながら周辺

事業での収入も期待できる。例えば充電ステーションで喫茶店などを行うこともひとつだ。物流

関係車両も EV 化させる。

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(セ) 移動充電 移動式の充電会社が中古電池を移動式充電設備の電源として使用することに問題はなく、市の

中心部では土地が限られており、固定式充電施設建設には用地確保面が難しいことがあり、中古

電池を活用した移動式充電設備も便利であろう。夜間の安価な電力(0.36 元)を蓄電し、昼間に

ピーク時価格(1.06 元)で売ると利益がでる。 2) 深圳市における充電サービス企業の現状 ①深圳市沃特瑪電池有限公司 (ア)公共交通へ注力

公共交通への充電事業に注力。公共バス。路線、時間が固定されており、充電事業建設運営面

で予測可能性が高く、収益計算が容易。まずは商用車部門から入り、知見を高め、技術の成熟を

待って乗用車部門へ参入する。 (イ)固定式充電

固定式充電設備の建設を優先。固定式の建設には、変電所から近距離、敷地の確保、という 2要件の充足が必要でこの 2 要件が充足できれば固定式で建設する。 (ウ)移動式充電 固定式が設置不可能な場所については、移動式充電設備で対応する。都市部では半径 5~10km

に変電所があるが、このほかに劇場、体育館、文化施設、娯楽施設などに配電設備があり、そこ

から移動式充電設備に受電する。移動式充電設備とは、大型トラックに電気の貯蔵システムと充

電システムを備え付けたものである。1kWh 当たりの投資は、およそ 3,500 元。500kWh の貯電

の場合、170 万元(3,400 万円)程度である。現在移動式トラックはディーゼルエンジン車であ

るが、将来は EV 化する。 (エ)採算性 充電サービス料の上限は現在のところ 1kWh 当たり 0.45 元。交流充電器なら採算が取れるが、

直流急速充電器の場合は整流器が必要となり、採算割れ。固定式充電ポールは 2015 年に 120 本

設置。移動式充電車両は 50 台保有。バス向けの固定式設備は利益がでている。一本のポールで 8台のバスに対応。EV バスは一日に 250kWh 充電が必要であり、一日に売上高が一本につき

2,000kWh 程度。稼動時間も 8~10 時間であり儲かっている。乗用車への展開にはあと 3~5 年

はかかると見ている。広告等検討中。

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同社の移動式充電用トラック。後部に大量のバッテリーを積んでいる。

同社前には社員専用の充電器が整備されている。

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②天新能源(深圳)有限公司 (ア) 油電代価方式での EV バス導入 同社はバス会社に対して「油電代価」方式を採用して純電動バスを導入した。「油電代価」と

はバス会社が電池なしの電動バス車両を購入のうえ従来のディーゼル燃料である軽油代金相当額

を負担し、普天側は動力電池代金、電気料金、メンテナンス料金を負担するという仕組みである。 (イ) 電池交換がネック バス会社にとっては初期投資負担が軽減されることから、この方式によるバス会社への純電動

バスの導入が進んだものの、電池の保証期間が 4 年間であり電池の保証期間の終了後に保守維持

管理料が嵩み普天側の負担が予想外に多額となり問題となった。電池容量が 80%を下回ると交換

が義務付けられており、4 年経過後には電池容量の低下により電池交換となるケースが多発した

からである。電池交換では一台当たり 100 万元(約 2,000 万円)の費用がかかるものの政府補助

金は支給されないのがネックである。油電代価方式により 2011 年に 200 台、2013 年に 1,000 台

の EV バスが導入された。深圳における充電料金の上限は乗用車に対しては 0.45 元であるが、商

用車に対しては明確な規定が定められていない。 (ウ) 充電ポールの建設 普天新能源は深圳で 6,000 本の充電ポールを建設中であり近々運用が開まる予定であるが大部

分は普通充電である。深圳ではマンションの駐車場は公共用との扱いであり、個人に対する固定

的スペースの割り当てが認められない。不動産管理会社が車庫を管理しているが、6,000 本の充

電ポール設置については、政府のガイドラインに基づいて、一つ一つの駐車場と交渉して設置し

ている。2016 年については交流の充電ポールを 5~6,000 本程度、また公共バスを中心に 100kWの急速充電ポールを 1,000 本設置の予定である。タクシーについては 40~50kW の急速充電ポー

ルを 1,000~2,000 本設置予定である。普天はすべて自己投資で行っている。 (エ) 社員の EV 購入例 普天の社員の EV 購入例としては吉利社製の EV パンダを最近購入した例がある。会社では無

料充電でき、自宅マンション駐車場にも充電器が設置されているものの稼動には至っておらず、

臨時に設置された充電器を利用して充電している。パンダ車は定価 15 万元であるが、国から 4.5万元、深圳市から 5 万元の補助金がディーラーに支給され、さらに個人に対して 1.5 万元の補助

があり、更に取得税が免除、車両価格の割引の結果、自己負担は 3 万元程度で購入できたとのこ

とである。パンダの航続距離は 150km で、電費は 100km 当たり 12 から 13kWh である。電気

代は 1kWh 当たり 0.1 元程度、電池容量は 21kWh である。深圳の公共駐車場では EV は最初の

1 時間は駐車料金が無料となる。

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③深圳金宏威技術有限公司 同社は福建中能集団に属し、電力設備ビジネスの一環として充電事業を展開している。河北省

邯鄲市にて公共バス用の充電ステーション 7 箇所のうちの 3 箇所について経営(残り 4 箇所はバ

ス会社が経営)。邯鄲市とはバス一台につき年間 39,200 元のサービス料を徴収(金額固定)。1ステーションにつき最低 40 台の契約であり、年間約 160 万元のサービス料を確保している。 北京では駐車場運営会社と商談中で 20 箇所の建設を目指している。第五環状道路内で用地を選

定するが直感に頼って選定していることから、構造計画研究所のシミュレーションモデルは大変

参考になる。北京では交流でも直流でも一日 3 時間の稼動で採算が取れる状況にある。北京では

EV には規制の対象外であり、二台目の車の購入に当たっては EV を選択する人が増えている。 同社は連結ベースで売上 25 億元、従業員 2,000 人。単体では売上 12 億間、従業員 800 人で、ほ

とんどは技術開発要員。 ④ 士巴集団 同社は機械加工会社であったが 2008 年のリーマンショックを契機に高圧大電流の部品製造業

へと転換し、EV 事業を展開中である。BMW の充電接続口やケーブルの製造を受託している。

EV 関係の主要部品を製造しているがモーターは手がけていない。貴州省に産業基地を設立、自

社が中心となり EV 製造に関連する部品メーカーを誘致し、EV 完成車組立について瀋陽の華曟

汽車(ブリリアントチャイナ)の工場誘致が内定している。2015 年に深圳市政府は充電ポール

1,800 本の設置を企業に要請したが当社は 200 箇所について土地の無償使用の承諾を得た。貴州

省の卒節市では 2020 年までに EV6,000 台の導入と 6,000 本の充電ポール設置、41 箇所の充電ス

テーション設置という目標があったが、当社はこれに対して同市に対してバス路線の新設と 20年にわたる経営権の付与と補助金支給を要請し、その結果市政府が 10%出資ことになり官民共同

プロジェクトとなった。

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⑤中興新能源汽車有限責任公司(ZTEV) (ア) 経緯

当社は EV の無線充電技術を有しており、通信機器事業を始祖とする会社である。類似会社に

は Nokia、サムソン、モトローラ、シーメンスなどがある。携帯電話の無線充電のために開発し

た技術であるが携帯電話への用途があまりなかったことから同技術の自動車への転用を試みたも

のである。無線充電は分散型目的地充電に分類されバス停での充電などがある。 (イ) 無線充電技術

当社のプラットフォームではナビゲーションシステム、プラットフォーム管理、バックエンド

管理を行っており、EV の充電の状態、充電ポールの位置情報などが含まれている。充電業務で

必要な要素は充電ポール、自動車側の充電対応機材、用地の 3 つである。当社の事業モデルは PPPモデルも含む柔軟性に富んだモデルであり、許認可と補助金、資金回収の要素が絡んでくる。公

共の大型バスは一台の電池容量が 250kWh であり、これに対応する無線充電器は 7kW、30kW、

60kW の 3 種類ある。固定充電ポール事業の参入障壁は低く誰でも参入可能であるのに対し、当

社の無線充電事業の参入障壁は非常に高い。深圳では公共部門の充電事業は BYD と普天の 2 社

に寡占されているからことから、当社は非公共部門を対象として 20 箇所に無線充電器を設置し

ている。当社はオープンプラットフォームを構築し、異なる充電運営会社でも利用可能なシステ

ムにしている。深圳では充電運営会社の間で共通の交通カードである「深圳通」を作ろうとして

いる。 (ウ) 後付可能なモジュール

当社の無線充電システムは既存の EV にモジュールを後付けすることで使用可能であり、自動

車メーカーのオプション設定に含まれている。大型バスへは簡単に付けられる。バス 1 路線に 2箇所、無線充電器を設置した。深圳では公共バスに部門へはほとんど参入できていないが、他都

市では公共バス部門に参入して無線事業事業を展開している。成都、仏山、恵州市では当社は公

共交通部門での充電事業に参入できている。バスの保有台数が 20 台の場合には 4〜5 箇所に無線

充電器を設置している。無線充電器は降雨時でも安全であり、危険性はないが、建設コストは固

定式充電ポールとほぼ同じである。バスの無線充電器と充電器同士の誤差の許容範囲は左右で

5cm、前後で 15cm である。 我々の業界は効率、容量、充電器との距離という 3 つの基準を追求している。非接触充電方式

で路面に長距離にわたり無線充電設備が敷設されている例は広西省にある(道路に一定の距離に

敷き詰められている)。無線充電器は現在手作業で製造しており大量生産体制にはない。当社の

事業モデルは 2 種類あり、1 つは建設、運営、回収というモデルであり、2 つめは設備販売であ

る。 (エ) 深圳での事業

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深圳の充電事業運営会社は認可を受けると 1 年間に 8,000kW の設備容量を建設する義務がある。

当社は深圳では固定ポールで事業を行っており、既に数百本建設した。深圳空港には 300 本保有

している。将来は固定ポールを無線充電器に改造するつもりである。駐車場と提携して事業を進

めるが、場所の選定は経験により判断する。決定要因では自動車の通行量の占める割合が大きい。

ただし現在の段階では場所の選定はデータ自体が少ないことから、粗々で良いと考えている。デ

ータよりも経験知を重要視する。日本の関係メーカーと提携できれば良いが広州日産とはライバ

ル関係にある。 3) 特徴

深圳の特徴は、新規のナンバープレートの発行制限及び新エネ車に対する優遇が挙げられる。 公共部門への EV の導入が進んでいる。共同住宅に付随する駐車場の扱いが公共扱いであり個人

への固定的な駐車スペースの割り当てができない点、北京と異なる。 政府部門による積極的な初期需要の創造で充電ポールの建設が進みつつある。民間企業の参入

を促す政策をとっている。補助金の投入、電力部門との間での費用負担の明確化が行われている

ことから充電インフラの建設費用は低下している。多数の民間企業が充電事業に参入しているが、

今後競争の中で急速に建設が進むと思われる。 4) 現地調査で得られた示唆

政府部門による需要が一段落したあと、台数の 8 割を占める個人自家用車部門への EV の普及

が課題である。個人に対しては政策を強要することはできず誘導のみが可能である。EV、充電器

側の技術水準の向上により、ネックとなっている航続距離が不足する点、充電インフラの個数が

少ない点を早急に解決しつつ、国民に対する啓発活動を通じた環境意識の高まりと正確な知識の

伝播、自家用充電器設置に伴う諸々の手続き面の障害を早急に取り除くことが課題である。

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示唆のまとめ 7.2.5 現地調査で得られた示唆をまとめると以下のようになる。 今後の EV の普及は個人自家用車部門に拡大の余地が大きいが、共同住宅の駐車場への充電

器の設置は容易ではない。駐車場の駐車スペースの権利の帰属、個人への権利の割り当てを

認めるかどうか、など制度面の整理が必要である。 クラウドファンディングによる事業展開が行われているが、充電事業推進にとって相性がよ

いかは一概には言えない。 集中充電方式の採用については、各地方のそれぞれの特性を考慮して適応すべきかどうかを

決めるのがよい。 民間企業の参入が促されている。現在参入している充電企業は、良好な立地を先取りする戦

略に基づき先行投資を実施できる体力がある会社である。 公共部門の充電サービスを取り込むことが事業運営上有利。 移動充電は都市部での用地不足を補うので、対象顧客をうまくつかめれば商機はある。

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充電インフラに関する充電需要の予測 7.3

調査分析の概略 7.3.1充電インフラの安定的な整備および運営のためには、安定的に採算が取れるような充電インフ

ラ事業のビジネスモデルが成立していることが重要である。ビジネスモデルの検討においては、

充電設備における充電需要が充電インフラ事業の収入・支出の双方に影響するため、充電需要の

定量的な推計結果はビジネスモデルの評価において重要な参考材料となり得る。また、充電器の

配置パターンは、EV 利用者の利便性と、充電インフラ事業の収益性の双方に大きな影響を与え

得る。 充電需要の評価や適切な配置パターンの検討を、定量的なデータをもとに実施する技術として

は、日本国内では EV 交通シミュレータ「EV-OLYENTOR」が電力中央研究所と構造計画研究所

により開発され、国内における評価検討に用いられてきている。EV-OLYENTOR では、EV の移

動と充電行動をシミュレーションし、急速充電ステーション配置案の策定や、充電需要の評価を

行うことができる。一方で中国では、充電インフラの整備がある程度進んでいるものの、充電イ

ンフラ整備時の需要を定量的に評価し、また充電設備の適切な空間的な配置パターンを検討する

技術については、十分に整備されていないと考えられる。 そこで本調査分析業務では、中国における充電インフラ整備の検討に EV 交通シミュレータが

活用できる可能性を確認することを目的として、EV 交通シミュレータの紹介や情報収集を通し

た、EV 交通シミュレータの中国での活用方法案の検討を実施した。さらに、中国における充電

インフラ事業ビジネスモデルの定量的な評価の材料となる「充電需要」を推計することを目的と

して、EV 交通シミュレータ「EV-OLYENTOR」を用いて中国の都市を対象とした分析を実施し

た。

実施内容 7.3.21) 分析手法の中国への紹介と適用可能性検討 中国における充電器配置計画の改善のために適用できる可能性のある、充電器配置計画の評価

分析手法の紹介を行うとともに、中国側からの情報をもとに適用可能性や活用方法案の検討を実

施した。 2) 簡易的な充電需要評価

将来の充電設備の需要を、EV 交通シミュレータ「EV-OLYENTOR」を用いて、対象都市の人

口等の統計データや、EV 普及状況を入力した上で推計した。具体的には、中国の深圳市を対象

にしたシミュレーションを、深圳市の道路データや統計データ等を用いて実施し、自宅や目的地

での充電設備普及状況に応じた、急速充電ステーションでの充電需要の評価を行った。さらに、

その結果と各都市での想定普及台数をもとにして、深圳市、北京市、常州市、青島市での充電需

要の概略推計を行った。

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本調査分析で使用する EV 交通シミュレータの概要 7.3.3 本章では、本調査分析の中で中国での活用可能性を検討すると共に、中国を対象とした充電需

要分析に使用した EV 交通シミュレータ「EV-OLYENTOR」の機能と活用実績について述べる。

EV 交通シミュレータ「EV-OLYENTOR」の機能 1)

① EV-OLYENTOR の概要 本調査分析業務において使用する EV 交通シミュレータ「EV-OLYENTOR」は、一般財団法

人電力中央研究所と、株式会社構造計画研究所が開発した EV 充電インフラ評価検討のためのシ

ミュレータである。「EV-OLYENTOR」は、マルチエージェントシミュレーションのアプローチ

を採用したシミュレータであり、EV1 台ずつの動きをシミュレーション内で考慮した上で、充電

需要や電池切れリスクを評価することができる。シミュレーションにおいては、各種統計データ

や地理データを入力することにより、対象地域の特性を考慮したシミュレーションを実施するこ

とができる。地理的な側面としては、道路ネットワークや勾配を考慮したシミュレーションが可

能である。また、統計データとして人口や就業者数を考慮したシミュレーションが可能である。

図表 7-2:EV-OLYENTOR の実行画面の例

出所:EV-OLYENTOR の実行画面より構造計画研究所が作成

なお、EV-OLYENTOR の詳細については、電力中央研究所報告(参考文献 1)を参照されたい。

以下では、EV-OLYENTOR におけるシミュレーション方法の概要について説明する。 ② 移動パターンの生成方法 まずは、EV 所有者の自宅の設定方法と、1 日の中での移動パターンの生成方法について述べる。

EV 所有者の自宅の位置は、人口および就業者数の空間的な分布を用いて決定される。シミュレ

ーション内の EV は、自宅と勤務地を往復する通勤に用いられる「通勤 EV」と、通勤以外の買い

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112

物等に用いられる「非通勤 EV」の 2 種類に分けられる。「通勤 EV」は、自宅と勤務地を 1 日に

1 往復する移動を行う。「非通勤 EV」は、自宅を出発して 1 つ以上の目的地を回り、自宅に戻る

という行動を取る。非通勤 EV の 1 日の移動回数は、シミュレーションに入力する移動パターン

データをもとに設定される。EV の目的地は、入力データである移動距離分布と、従業者数分布

をもとにして決定される。また、EV の 1 日の出発時刻は入力データである移動時刻分布をもと

に決定されるため、実際の移動時刻分布のデータがあれば、その分布を考慮したシミュレーショ

ンが可能である。 ③ 移動中の充電行動 続いて、移動中の EV の走行パターンについて述べる。EV は、先述の通り各種統計データや移

動パターンデータをもとに決定した目的地へ向けて移動する際に、まずは最短経路を計算して経

路を決定する。目的地へ向かう途中に、電池残量がある一定の閾値(警告灯点灯閾値と呼ぶ)を

下回った場合に、充電ステーションへの立寄りを検討する。この際に、充電ステーションと目的

地の距離を比較し、充電ステーションの方が近ければ、充電ステーションへ立寄るように経路を

変更する。充電ステーションに到着後は、一定の電池残量(通常は 80%)になるまで充電を行っ

た上で、再度目的地に向けての走行を開始する。

図表 7-3:EV の行動フロー

出所:構造計画研究所作成

④ 勾配およびアクセサリ消費量の考慮 EV-OLYENTOR では、電力の消費量に大きな影響を与える道路勾配や、冷暖房などのアクセ

起点・終点の設定

経路の設定

起点や充電STから終点へ向け出発

走行中の電池残量が閾値以下

充電STが終点より近い

終点へ到着

充電STへ経路を設定し、充電STへ向かい充電する

yes

yes

No

No

充電STから終点への経路を設定

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113

サリ消費量の影響を考慮することができる。 EV の電力消費量は、一般に道路勾配により変化する。上り勾配の場合には、同じ速度を維持

して平坦な道路を走行する場合よりも電力を消費する傾向があり、一方で下り勾配の場合には回

生ブレーキ機能により発電を行い、電池残量を回復させることができる場合もある。

EV-OLYENTOR では標高データを道路データに対応付けることにより、このような勾配の影響

を考慮している。具体的には、図表 7-4 に示すように、道路の構成点毎に与えられた標高データ

をもとにして、個々の道路区間の勾配を計算し、それをもとに電力の消費量を計算している。 冷暖房などのアクセサリの消費電力は、シミュレーションの入力パラメータの一つとして入力

することにより考慮できるようになっている。

図表 7-4:道路勾配の考慮の方法

出所:構造計画研究所作成

⑤ 適正配置アルゴリズム

EV-OLYENTOR には、シミュレーションの結果を用いて、特定のアルゴリズムを用いて望ま

しいと考えられる位置に充電ステーションを自動配置する機能(適正配置機能)がある。今回の

分析で用いた適正配置アルゴリズムでは、設置対象道路上の全ての道路の構成点を候補地として、

以下の式で算出した評価値が高い場所から優先的に配置するように設定している。 (評価値)=(最寄りの充電ステーションまでの距離)-(燃費×平均 SOC)

国内での活用実績 2) EV-OLYENTOR は、国内の充電設備の配置検討において用いられた実績がある。ここでは、

その代表的な例として、H24 年度 充電ステーション最適配置に関する解析調査報告書(参考文献 2)

について紹介する。 当該解析調査においては、「日本国内のでの EV 普及拡大を想定した充電ステーションに資す

ることを目的として、既設の充電ステーションの設置効果ならびに、電池切れ発生数や電池切れ

に対する不安を最小化する最適な充電ステーション配置を解析し、今後の充電ステーション設置

FROM_HEIGHT

TO_HEIGHT

道路勾配 = (TO_HEIGHT― FROM_HEIGHT ) ÷ Distance

Distance

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方針を提案」(参考文献 2,p1)している。具体的には、「岡山県・鳥取県」「大阪府」「愛知県・岐阜

県」「東京都・神奈川県・静岡県」「栃木県」「青森県」の 6 地域を対象としたシミュレーショ

ンを実施し、各地域における既設充電ステーションがある場合と無い場合での電池切れ発生状況

を確認するとともに、適正配置アルゴリズムを用いた充電ステーションの追加配置を行い、地域

特性ごとの望ましい配置パターンに関する分析と考察を行っている。 上記の解析調査業務の他にも、国内の多くの地域を対象とした充電インフラ整備に関する検討

に、EV-OLYENTOR が用いられた実績がある。

EV 交通シミュレータの中国への紹介と適用可能性検討 7.3.4 本項では、中国における充電器配置計画の改善のために適用できる可能性のある充電器配置計

画の評価分析手法を紹介するために実施した取り組みについて述べる。その上で、中国側からの

情報をもとに、活用方法案を検討した結果について述べる。

中国関係者への EV 交通シミュレータの紹介 1) 中国の EV 普及関連の政策や技術的な検討を実施する機関の関係者を対象として、

EV-OLYENTOR の紹介と活用可能性に関する議論を行うワークショップを、以下のとおり開催

した。 【ワークショップの実施概要】 日時:2015 年 11 月 11 日(水) 9 時 30 分~12 時 場所:一般財団法人海外産業人材育成協会 東京研修センター 中国側参加者の所属機関:

国家発展改革委員会 国家能源局 天津市発展改革委員会 CATARC 自動車標準化研究所(天津) CATARC 自動車テストセンター(北京) CATARC 北京工作部 中国電力企業連合会

当日の実施内容を図表 7-5 に示す。シミュレータが活用できるような中国が持つ課題や、デー

タの入手可能性を確認することを目的として、シミュレータの実演を含めた詳細な説明を行った

上で、議論を行った。

図表 7-5:中国関係者への EV 交通シミュレータ紹介ワークショップの実施内容 講義 1. 概要と全体の流れ

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(約 60 分程度) ※適宜質疑応答

2. 入力データの詳細 3. EV エージェントの行動ルール 4. 出力データの詳細 5. 適正配置アルゴリズム 6. 分析結果の活用方法

実演 (約 30 分程度)

1. 台数や電池容量を変えた場合の変化 2. 移動パターンデータを変えた場合の変化 3. 適正配置の例

質疑応答と議論 (約 50 分程度)

・中国への適用可能性について意見交換を実施 ・リクエストに応じて可能な範囲でパラメータを変えての実演を実施

議論においては、中国におけるデータの入手可能性についての質問や意見交換が多くなされた。

中国では、日本のように移動実態に関する調査が充実していない状況であるため、容易に入手で

きるデータがあるわけではないが、一方で EV の走行ログデータ等を集めることによって、シミ

ュレーションに活用できる可能性がある。また、電力供給側への影響を考慮したシミュレーショ

ンが有用ではないかという意見があった。これは、中国では日本に比べて、既存の電力網におい

て対応できる電力需要が限られているために、EV の充電によって電力需要が急増すると、電力

供給側もそれに対応できるよう電力網の増強策を取る必要があるためだと考えられる。

中国へのシミュレータ適用可能性 2) ① シミュレータ活用の方向性

先述のワークショップや、現地調査の結果をもとに、シミュレータの活用可能性について検討

を行った。シミュレータの活用の方向性としては、適正配置の検討や、電池切れリスク評価、充

電需要評価などの方向性があるが、その中でも特に充電需要評価の必要性が高いのではないかと

考えられる。以下に、そのように考えられる理由を述べる。 中国の大都市では、充電設備を高密度に配置する計画を策定している都市が少なくない。例え

ば深圳市では、2020 年までに充電ポールを 1 万本設置する計画がある。この計画が実現した場合

に、充電ポールが深圳市(面積約 2,000 平方キロメートル)の市内に均等に配置されたと仮定す

ると、0.2 平方キロメートルに 1 本、つまり約 500m 四方に 1 本程度の充電ポールが設置される

ことなる。現実には、都市部に充電ポールが集中する可能性があり、また 10 本程度の充電ポール

が 1 つの充電ステーションにまとめて配置されるなどの状況になることも考えられるが、それで

も 2,3 キロメートル程度の間隔で充電ステーションを配置することが可能であると考えられるた

め、電池切れのリスクはきわめて低くなると考えられる。そのような背景から、電池切れリスク

を限られた充電ステーション数で抑制するための充電ステーションの適正配置をシミュレーショ

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ンで実施することは、中国の多くの都市において必要性が低いと考えられる。 一方、充電ステーションが高密度に設置されるために、多数の充電設備を安定的に維持管理で

きるようなビジネスモデルの検討が課題となりうる。料金設定や他事業との連携なども含めたビ

ジネスモデルの検討においては、事業の基礎的な収益に影響する充電需要を適切に把握すること

が重要だと思われる。また、充電需要は EV の走行距離や自宅・目的地での充電可否によって大

きく変化するため、そのような環境の変化に対する充電需要の変化を考慮することが、ビジネス

モデルの成否と EV 利用状況の関係を把握する上では必要である。 以上のような背景から、中国においては「充電需要」の定量的な評価と、それに基づくビジネ

スモデルの検討が重要であり、そのような充電需要評価にシミュレータを活用することが有効な

のではないかと思われる。また、EV-OLYENTOR では、走行距離や自宅・目的地での充電可否

を考慮したシミュレーションが可能であるため、そのような EV の利用状況が変化した場合の解

析にも活用できると考えられる。さらに、充電需要の評価結果は、電力の供給側において必要な

対応を検討するための材料としても活用できる可能性がある。

② データの入手可能性 シミュレーションを実施するために必要なデータの入手可能性について確認した。道路データ

や人口データについては、公開されているデータからシミュレーションに必要な入力データを作

成できることが確認できている。一方で移動パターンデータについては、中国において実施され

ている、十分な規模の調査データが確認できていないため、中国の各都市での車両の移動パター

ンを考慮したシミュレーションを実施するためには、中国の関係者と連携して、中国の対象都市

における移動パターンデータを取得する必要がある。

EV 交通シミュレータを用いた中国での充電需要の評価 7.3.5 本項では、EV 交通シミュレータ「EV-OLYENTOR」を用いた中国での充電需要評価の方法と、

その結果について述べる。まず(1)1)節において評価方法の全体像を述べた上で、(2)節にお

いて評価シナリオについて、(3)節において入力データの作成の方法について述べる。その上で、

(4)節にてシミュレーションの結果を述べる。最後に、(5)節にてシミュレーション結果を用

いた充電サービス料収入の推計結果を示す。

評価方法 1) 本調査分析においては、まず EV-OLYENTOR を用いて深圳市を対象とした詳細なシミュレー

ションを実施し、自宅・目的地充電設備普及率や移動パターンの違いによる、1 台当たり充電需

要の変化を把握した。その上で、シミュレーション結果から得られた代表都市における一台あた

りの充電需要と、各都市における想定普及台数と充電サービス料単価を用いて、深圳市・北京市・

常州市・青島市の 4 都市での、充電需要および充電サービス料収入を推計した。

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また、既設の充電ステーション配置でのシミュレーションを行うのではなく、設置目標が達成

された場合の状況をシミュレーション対象とした。深圳市では 2020 年までに高密度に充電ステ

ーションを配置する計画があり、急速に設置が進んでいる。電池切れ発生が低くなるような高密

度な配置状況は、適正配置アルゴリズムで模擬することが可能だと考えられるため、適正配置ア

ルゴリズムを用いて配置することで、各都市で十分な数の充電ステーションを、需要に合わせて

配置できた場合に、どの程度の充電需要が見込まれるかを検討する。

シミュレーションの実施シナリオ 2)深圳市を対象に実施したシミュレーションにおいては、以下のように自宅・目的地での充電設

備普及率および移動パターンが異なる 32 通りのシナリオを実施した。 【実施シナリオ】 目的地での充電設備普及率: 0%, 25%, 50%, 100% の 4 通り 自宅での充電設備普及率:0%, 25%, 50%, 100% の 4 通り 移動パターン:以下の 2 通り

日本のガソリン車を含む車両全体の移動距離分布(以下「一般移動パターン」とする) 日本の現状での EV の移動距離分布の場合(以下「EV 移動パターン」とする)

上記の、3 条件の組み合わせにより、合計 32 通りを実施し、移動パターンと、自宅や目的地充

電が可能な割合による変化を把握した。 また、評価内容としては、「充電ステーションでの充電需要」および「自宅および目的地での

充電需要」を評価した。使用データについては、人口データ、就業者数データ、事業所数データ

は統計年鑑のものを使用し、道路データは幹線道路データを使用した。また、移動パターンデー

タは、今回の分析では国内での分析事例(参考分析 2)において用いられている日本の車両の移動パタ

ーンデータを用いて分析を行っている。日本の現状での EV の移動距離分布は、同分析事例の報

告書(参考分析 2)にて公開されている移動距離分布を使用した。 なお、シミュレーション内での走行台数は 1,0000 台として実施している。シミュレーションか

ら 1 台あたりの充電需要を求めた上で、想定普及台数を掛けることで都市全体での需要の推計を

実施した。 EV や充電設備の性能等のパラメータは、共通で下記のように設定して実施した。 搭載電池容量:16kWh 警告灯点灯閾値:8kWh(搭載電池容量の 50%) アクセサリ消費電力:3kW 目的地充電時電力:3kW 自宅充電時電力:1.5kW 充電ステーション充電時電力:50kW

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入力データの整備 3) ① 道路データ 道路データとしては、 “GEOFABRIK”(参考 URL1)からダウンロードすることができる、

OpenStreetMap の道路データを使用している。今回のシミュレーションでは、深圳市内の道路だ

けを切り出してシミュレーションで使用している。また、住宅地の区画道路なども含む詳細な道

路ネットワークが当該データには含まれているが、今回の解析においては、データに付属してい

る道路属性をもとにして、幹線道路のみを抽出して使用している。

図表 7-6:使用した道路ネットワーク(橙色の部分を使用)

出展:OpenStreetMap のデータおよび地図画像をもとに、構造計画研究所が作成 OpenStreetMap のデータは Open Data Commons Open Database License (ODbL)の下にライセンスされて

おり、地図タイルは Creative Commons Attribution-ShareAlike 2.0 (CC BY-SA 2.0)の下にライセンスされて

いる。

② 統計データ 人口、就業者数、従業者数のデータは、深圳統計年鑑 2014(参考資料 3)に掲載されている数

値を用いている。シミュレータ内で用いる人口としては、統計年鑑の「常住人口」を用いている。

また、通勤者の地域分布に反映する就業者数については、人口に占める通勤者の割合は全地域で

同一であると仮定し、通勤 EV、非通勤 EV の自宅の分布は共に、各区の人口比率に従うよう設定

している。また、目的地選択に影響する「従業者数」については、産業別の雇用者数データを用

いている。

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③ 道路混雑データ EV-OLYENTOR では、道路毎に平均走行速度を指定することにより渋滞を考慮することができ

る。今回のシミュレーションでは、baidu 地図(参考 URL2)が提供している道路混雑情報を参

考に設定した。具体的には、2015 年 1 月 14 日時点で参照した、月曜日の夜 19 時時点での平均

値を参考に、渋滞が発生している区域を考慮して設定している。混雑が見られる地区内の走行速

度は一律時速 30km、他は時速 50km と仮定した。

シミュレーション結果 4) ① 充電ステーション適正配置

まず、充電量評価を行う際の充電ステーションの配置を決定するために、EV-OLYENTOR の

適正配置アルゴリズムを用いて充電ステーション 1,000 箇所の適正配置を実施した。なお、2020年の設置目標が充電ポール 1,0000 本であるため、10 本が 1 箇所にあると仮定して、配置箇所数

を 1,000 箇所としている。結果を図表 7-7 に示す。概ね 1~2km 程度毎に充電ステーションが配

置されており、電池切れの心配は無いと考えられる。充電量の推計は、この充電ステーション配

置にて実施した。

図表 7-7:充電ステーションの適正配置結果

※図中の緑色の五角形が配置された充電ステーションを示す 出所:OpenStreetMap のデータおよび地図画像と、シミュレーション結果をもとに、構造計画研

究所が作成 OpenStreetMap のデータは Open Data Commons Open Database License (ODbL)の下にライセンスされて

おり、地図タイルは Creative Commons Attribution-ShareAlike 2.0 (CC BY-SA 2.0)の下にライセンスされて

OpenStreetMap ContributorsC

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いる。 ② 一般移動パターンの場合の充電量評価 適正配置された 1,000 箇所の充電ステーション配置のもとでの、充電ステーション、自宅、目的

地での充電需要評価を行った。まずは、一般移動パターンの場合の、1 日の 1 台当たりの充電ス

テーション、自宅、目的地での平均充電量を、図表 7-8、図表 7-9、図表 7-10X にそれぞれ示す。

なお、充電量の評価に当たっては、3 日間のシミュレーションを行った上で、2 日目と 3 日目の充

電量を平均して算出している。これは、1 日目は自宅を満充電で出発するために、充電需要が 2日目以降に比べて過小評価になってしまうためである。2 日目と 3 日目の充電量は大きくは異な

らないことを確認している。 充電ステーションでの充電量は、目的地および自宅での充電設備普及率が上昇するほど減少する

傾向がある。自宅・目的地双方で 100%充電できる場合の充電量は、双方で全く充電できない場

合の充電量の 5 分の 1 程度になり、また、自宅・目的地双方で 50%充電できる場合の充電量は、

全く充電できない場合の充電量の半分程度になるという結果となっている。

図表 7-8:充電ステーションでの 1 台あたり充電量(kWh)(一般移動パターン)

図表 7-9:自宅での 1 台あたり充電量(kWh)(一般移動パターン)

図表 7-10:目的地での 1 台あたり充電量(kWh)(一般移動パターン)

自宅0% 自宅25% 自宅50% 自宅100%目的地0% 12.7 10.9 9.4 6.2目的地25% 10.2 8.9 7.6 5.2目的地50% 8.1 7.2 6.2 4.1目的地100% 4.9 4.2 3.7 2.6

自宅0% 自宅25% 自宅50% 自宅100%目的地0% 0.0 1.1 2.2 4.2目的地25% 0.0 1.0 1.9 3.9目的地50% 0.0 0.9 1.8 3.6目的地100% 0.0 0.7 1.4 3.0

自宅0% 自宅25% 自宅50% 自宅100%目的地0% 0.0 0.0 0.0 0.0目的地25% 1.6 1.4 1.3 1.0目的地50% 2.9 2.6 2.4 1.9目的地100% 5.0 4.6 4.2 3.4

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③ EV 移動パターンの場合の充電量評価 続いて、EV の移動パターンの場合での充電需要を同様に評価した結果を、図表 7-11、図表 7-12 、

図表 7-13 に示す。基本的な傾向は一般移動パターンの場合と同様であるが、全体として充電量が

比較的小さくなっている。特に、その傾向は自宅や目的地での充電設備普及率が大きいほど顕著

になっており、自宅・目的地で 50%の割合で充電できる場合の充電量は、自宅・目的地ともに充

電できない場合の三分の一以下になっている。

図表 7-11:充電ステーションでの 1 台あたり充電量(kWh)(EV 移動パターン)

図表 7-12:自宅での 1 台あたり充電量(kWh)(EV 移動パターン)

図表 7-13:目的地での 1 台あたり充電量(kWh)(EV 移動パターン)

自宅0% 自宅25% 自宅50% 自宅100%目的地0% 7.8 6.6 5.3 2.7目的地25% 5.5 4.6 3.6 1.9目的地50% 3.6 3.1 2.3 1.2目的地100% 1.3 1.0 0.8 0.4

自宅0% 自宅25% 自宅50% 自宅100%目的地0% 0.0 1.0 1.9 3.8目的地25% 0.0 0.9 1.7 3.4目的地50% 0.0 0.7 1.5 2.9目的地100% 0.0 0.6 1.1 2.2

自宅0% 自宅25% 自宅50% 自宅100%目的地0% 0.0 0.0 0.0 0.0目的地25% 1.6 1.4 1.2 0.9目的地50% 2.8 2.6 2.2 1.7目的地100% 4.4 4.0 3.6 2.8

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④ 充電サービス料収入の概略推計 シミュレーションの結果として得られた 1 台あたり充電量をもとにして、各都市での充電サービ

ス料の年間収入の概算値を推定した。推定の際には、以下の図表 7-14 に示すとおりの想定普及台

数および充電サービス料の単価を用いている。結果を図表 7-15 から図表 7-22 に示す。

図表 7-14:収入の推計で使用した台数および単価 都市 想定普及台数 充電サービス料単価

(CNY/kWh) 深圳市 14 万台 0.45 北京市 12 万台 0.80 常州市 0.8 万台 0.86 青島市 2 万台 0.65

【深圳市】 図表 7-15:深圳市での充電サービス料収入推計値(一般移動パターン)

図表 7-16:深圳市での充電サービス料収入推計値(EV 移動パターン)

自宅0% 自宅25% 自宅50% 自宅100%目的地0% CNY 291,612,242 CNY 251,045,728 CNY 216,179,329 CNY 143,384,403目的地25% CNY 235,429,938 CNY 203,748,002 CNY 173,980,400 CNY 118,869,778目的地50% CNY 185,434,439 CNY 164,898,065 CNY 141,868,227 CNY 94,941,561目的地100% CNY 111,749,859 CNY 96,072,317 CNY 84,048,657 CNY 58,814,185

自宅0% 自宅25% 自宅50% 自宅100%目的地0% CNY 179,624,983 CNY 150,801,440 CNY 120,764,106 CNY 62,872,619目的地25% CNY 125,770,233 CNY 105,103,787 CNY 83,012,433 CNY 44,802,550目的地50% CNY 83,871,354 CNY 70,507,959 CNY 53,999,607 CNY 28,377,934目的地100% CNY 28,970,734 CNY 23,687,253 CNY 18,776,464 CNY 9,705,772

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【北京市】 図表 7-17:北京市での充電サービス料収入推計値(一般移動パターン)

図表 7-18:北京市での充電サービス料収入推計値(EV 移動パターン)

【常州市】

図表 7-19:常州市での充電サービス料収入推計値(一般移動パターン)

図表 7-20:常州市での充電サービス料収入推計値(EV 移動パターン)

自宅0% 自宅25% 自宅50% 自宅100%目的地0% CNY 444,361,512 CNY 382,545,871 CNY 329,416,121 CNY 218,490,518目的地25% CNY 358,750,382 CNY 310,473,146 CNY 265,112,990 CNY 181,134,900目的地50% CNY 282,566,765 CNY 251,273,242 CNY 216,180,156 CNY 144,672,854目的地100% CNY 170,285,500 CNY 146,395,911 CNY 128,074,143 CNY 89,621,615

自宅0% 自宅25% 自宅50% 自宅100%目的地0% CNY 273,714,259 CNY 229,792,670 CNY 184,021,495 CNY 95,805,895目的地25% CNY 191,649,878 CNY 160,158,151 CNY 126,495,136 CNY 68,270,552目的地50% CNY 127,803,967 CNY 107,440,699 CNY 82,285,115 CNY 43,242,566目的地100% CNY 44,145,880 CNY 36,094,862 CNY 28,611,754 CNY 14,789,748

自宅0% 自宅25% 自宅50% 自宅100%目的地0% CNY 31,845,908 CNY 27,415,787 CNY 23,608,155 CNY 15,658,487目的地25% CNY 25,710,444 CNY 22,250,575 CNY 18,999,764 CNY 12,981,335目的地50% CNY 20,250,618 CNY 18,007,916 CNY 15,492,911 CNY 10,368,221目的地100% CNY 12,203,794 CNY 10,491,707 CNY 9,178,647 CNY 6,422,882

自宅0% 自宅25% 自宅50% 自宅100%目的地0% CNY 19,616,189 CNY 16,468,475 CNY 13,188,207 CNY 6,866,089目的地25% CNY 13,734,908 CNY 11,478,001 CNY 9,065,485 CNY 4,892,723目的地50% CNY 9,159,284 CNY 7,699,917 CNY 5,897,100 CNY 3,099,051目的地100% CNY 3,163,788 CNY 2,586,798 CNY 2,050,509 CNY 1,059,932

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124

【青島市】 図表 7-21:青島市での充電サービス料収入推計値(一般移動パターン)

図表 7-22:青島市での充電サービス料収入推計値(EV 移動パターン)

シミュレーションに関するまとめ 7.3.6本調査分析業務では、中国における充電インフラ整備の検討に EV 交通シミュレータが活用で

きる可能性を確認することを目的として、EV 交通シミュレータの紹介や情報収集を通した、中

国での活用方法案の検討を実施した。さらに、中国における充電インフラ事業ビジネスモデルの

定量的な評価の材料となる「充電需要」を推計することを目的として、EV 交通シミュレータ

「EV-OLYENTOR」を用いて中国の都市を対象とした分析を実施した。 EV 交通シミュレーションの紹介としては、中国の関係者向けのワークショップを開催し、技

術の紹介を行うと共に情報交換を行った。また、活用方法案の検討を行い、充電需要の評価に EV交通シミュレータが活用できる可能性を確認でき、中国においても移動パターンデータ等の一部

のデータを仮定すればシミュレーション可能であることが確認できた。 充電需要の評価においては、目的地・自宅での充電設備設置割合と、移動距離データが異なる

32 通りのシナリオを実施し、充電ステーションおよび目的地・自宅での充電需要を評価した。さ

らに、充電需要と充電サービス料単価、および想定普及台数をもとに、都市毎の充電サービス料

収入の推計を行った。充電量、充電サービス料収入共に、目的地・自宅での充電設備設置割合と、

移動距離によって大きく異なるという結果となった。そのため、充電設備のビジネスモデル検討

においては、対象都市における自宅や目的地での充電設備に関する今後の施策を十分に考慮する

必要があるといえる。 なお、今回のシミュレーションにおいては、移動パターンデータは日本のものを使用しており、

中国のものを使用していないという点に留意する必要がある。中国における移動パターンが日本

のものと大きく異なった場合には、充電需要が今回の推計値と大きく変わりうるという点には注

意が必要である。今後、中国の EV やガソリン車の移動実態に関するデータが入手できれば、よ

り現実に即した分析ができると考えられる。

自宅0% 自宅25% 自宅50% 自宅100%目的地0% CNY 60,173,955 CNY 51,803,087 CNY 44,608,433 CNY 29,587,258目的地25% CNY 48,580,781 CNY 42,043,239 CNY 35,900,717 CNY 24,528,684目的地50% CNY 38,264,249 CNY 34,026,585 CNY 29,274,396 CNY 19,591,116目的地100% CNY 23,059,495 CNY 19,824,446 CNY 17,343,374 CNY 12,136,260

自宅0% 自宅25% 自宅50% 自宅100%目的地0% CNY 37,065,473 CNY 31,117,757 CNY 24,919,577 CNY 12,973,715目的地25% CNY 25,952,588 CNY 21,688,083 CNY 17,129,550 CNY 9,244,971目的地50% CNY 17,306,787 CNY 14,549,261 CNY 11,142,776 CNY 5,855,764目的地100% CNY 5,978,088 CNY 4,887,846 CNY 3,874,508 CNY 2,002,778

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125

今回の充電需要評価結果をもとにした分析としては、まず 1 箇所あたりの維持管理コストを充

電サービス料収入推計値から引くことで、充電量収入と経費のバランスが把握でき、他のサービ

スとの融合も含めたビジネスモデルの成立可能性評価ができると考えられる。また、目的地での

滞在中の充電需要についてもシミュレーションを用いて推計しているため、商業施設等の目的地

となる施設と連携した充電設備運営のビジネスモデル検討にも、今回実施したシミュレーション

の結果が活用できる可能性がある。

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126

中国充電インフラビジネスモデルの収益性分析 7.4

深圳市の充電需要予測 7.4.17.3.5 に記載した「充電サービス料収入の概略推計」では、2020 年における深圳市全体の充電

需要を試算した。EV 普及台数予測を基にした深圳市全体の充電ステーションの充電量は、基礎

充電及び目的地充電が全く設置されてない場合においては 1,775,417kWh という結果となった。

これを充電量による年間収入として計算すると 291,612,242 元(約 58 億 3,200 円)となる(図表

7-24 参照)。また、基礎充電及び目的地充電が 25%程度普及された場合においては、1,240,474kWhの充電量があると推計され、この収入は 203,748,002 元(約 40 億 7,500 万円)となった。ただし、

深圳市においては充電サービス料の上限を 0.45元から 1元へと引き上げることが検討されている

点と、バッテリー容量は各乗用車によって異なる点に留意が必要である。

図表 7-23:2020 年までの普及台数を考慮した深圳市全体の充電量(kWh)

図表 7-24:2020 年における充電量による年間収入(中国元)

図表 7-25:収入の推計で使用した変数

変数 2020 年想定普及 EV 台数(深圳市) 14 万台

充電サービス料(1kWh) 0.45 元 EV1 台あたりバッテリー容量 16kW

為替レート 1CNY=20 円

充電ステーション(一般移動パターン)自宅0% 自宅25% 自宅50% 自宅100%

目的地0% 1,775,417.0 1,528,436.7 1,316,160.3 872,964.4目的地25% 1,433,363.4 1,240,474.9 1,059,241.4 723,712.5目的地50% 1,128,976.8 1,003,945.6 863,733.5 578,030.8目的地100% 680,364.4 584,915.2 511,711.8 358,077.2

充電ステーション(一般移動パターン)自宅0% 自宅25% 自宅50% 自宅100%

目的地0% CNY 291,612,242 CNY 251,045,728 CNY 216,179,329 CNY 143,384,403目的地25% CNY 235,429,938 CNY 203,748,002 CNY 173,980,400 CNY 118,869,778目的地50% CNY 185,434,439 CNY 164,898,065 CNY 141,868,227 CNY 94,941,561目的地100% CNY 111,749,859 CNY 96,072,317 CNY 84,048,657 CNY 58,814,185

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127

収益性の分析 7.4.27.4.1 において深圳市の 2020 年における充電需要予測を行ったが、この数値を用いて、充電サ

ービス提供事業者の収益分析を行い、以下の結果を得た。尚、深圳市では 2015 年末時点で充電

インフラ事業の営業が許可されている企業は 20 社存在するが、収益性をわかりやすく捕捉するこ

とを目的に、1 社によるサービス提供との前提を置き試算を行った。収益に関連する複数の変数

は、可能な限り中国現地でヒアリングをした数値を用いながら、実態と乖離しないように単純化

し、簡素なモデルで試算した。 投資の部においては、深圳市政府が 2020 年までの充電設備数を急速充電 10,000 本、普通充電

140,000 本を設置することを目標としていることから、本試算では、2016 年から 2020 年までの

間各年均等数の充電ポールを設置するとの仮定を置いた(図表 7-26)。充電ポール設置に関する

投資額はヒアリングベースでの設置コストをもとに、設備設置に関する補助金及び設備工事費及

び土地代等を考慮したうえで、急速充電の設備設置コストを 1 本あたり 75,000 元(約 150 万円)、

普通充電の設備設置コストを 30,000 元(60 万円)とした。その結果、2020 年までの累積投資額

は 49 億 5,000 万元(約 990 億円)となった(図表 7-27)。

図表 7-26:深圳市における 2020 年までの充電ポール設置数

出所:大和総研作成

図表 7-27:深圳市における 2020 年までの充電ポール投資額

出所:大和総研作成

2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 5年間合計

急速充電(40kW/本) 2,000本 2,000本 2,000本 2,000本 2,000本 10,000本

普通充電(3.3kW/本) 28,000本 28,000本 28,000本 28,000本 28,000本 140,000本

合計本数(急速充電及び普通充電) 30,000本 30,000本 30,000本 30,000本 30,000本 150,000本合計kW数 172,400kW 172,400kW 172,400kW 172,400kW 172,400kW 862,000kW

累積投資額 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年

急速充電 150,000,000元 300,000,000元 450,000,000元 600,000,000元 750,000,000元

普通充電 840,000,000元 1,680,000,000元 2,520,000,000元 3,360,000,000元 4,200,000,000元

合計 990,000,000元 1,980,000,000元 2,970,000,000元 3,960,000,000元 4,950,000,000元

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収入の部では、図表 7-28 の仮定に基づいて、充電供給者側から見た最大可能累積収入と充電需

要予測を行った。充電供給者側から見た最大可能累積収入は、各年次における最大充電容量に深

圳市における充電サービス料を 0.45 元とし、充電器稼働率(24 時間ベース)を 3 パターン(50%、

30%、15%)に設定して算出した。 充電需要予測に関しては、2020 年については、深圳市政府の EV 普及台数の目標が達成された

場合を想定して、図表 7-15 で推計した深圳市の充電サービス料収入の推計値に基づいており、そ

の後は毎年 30%ずつ充電需要が増加するという仮定をおいた。 図表 7-29、図表 7-30、図表 7-31 では、7.4.1 で算出した深圳市の 2020 年における充電需要予

測の数値を用い、基礎充電と目的地充電の普及率について 3 通りの組み合わせを設定し、それぞ

れについて充電ステーションにおける充電収入を試算した。基礎充電及び目的地充電がなく、全

て経路充電である場合は図表 7-29 とおりとなった。また、基礎充電及び目的地充電が 25%ずつ

普及している場合は図表 7-30 のとおりとなった。さらには、基礎充電及び目的地充電が 50%ず

つ普及した場合は、図表 7-31 のとおりとなった。 同試算では、保守管理費や人件費等その他支出に関する項目は考慮外であることに加えて、深

圳市では、充電サービス料の上限を現在の 0.45 元から 1 元へと引き上げる検討をしている点につ

いて留意が必要である。 この収益シミュレーションを基にすると、最も楽観的な基礎充電普及率 0%、目的地充電普及

率 0%という組み合わせの図表 7-29 においても、その充電設備の累計投資額 49 億 5,000 万元を

回収できるのは 2031 年になると試算された。

図表 7-28:本試算に用いた変数 変数

急速充電設備設置コスト(1 本あたり、中国元) 75,000 元 普通充電設備設置コスト(1 本あたり、中国元) 30,000 元 2020 年における急速充電の目標設置本数 10,000 本 2020 年における普通充電の目標設置本数 140,000 本 EV 台数(2020 年時点) 140,000 台 EV バッテリー容量 16kW 充電サービス料(1kWh あたり) 0.45 元 充電器稼働率(24 時間ベース) 50%、30%、15% 経路充電比率 100%、75%、50%

出所:大和総研作成

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図表 7-29:深圳市における充電事業収益シミュレーション (基礎充電及び目的地充電の普及率がそれぞれ 0%の場合)

出所:大和総研作成

図表 7-30:深圳市における充電事業収益シミュレーション (基礎充電及び目的地充電の普及率がそれぞれ 25%の場合)

出所:大和総研作成

0元

1,000,000,000元

2,000,000,000元

3,000,000,000元

4,000,000,000元

5,000,000,000元

6,000,000,000元

2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年 2026年 2027年 2028年 2029年 2030年 2031年

累積投資額 急速充電 累積投資額 普通充電

本調査試算による充電需要予測(基礎充電普及率0%, 目的地充電普及率0%) 充電供給者側から見た最大可能累積収入(充電器稼働率50%)

充電供給者側から見た最大可能累積収入(充電器稼働率30%) 充電供給者側から見た最大可能累積収入(充電器稼働率15%)

(累積額:中国元)

0元

1,000,000,000元

2,000,000,000元

3,000,000,000元

4,000,000,000元

5,000,000,000元

6,000,000,000元

2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年 2026年 2027年 2028年 2029年 2030年 2031年

累積投資額 急速充電 累積投資額 普通充電

本調査試算による充電需要予測(基礎充電普及率25%, 目的地充電普及率25%) 充電供給者側から見た最大可能累積収入(充電器稼働率50%)

充電供給者側から見た最大可能累積収入(充電器稼働率30%) 充電供給者側から見た最大可能累積収入(充電器稼働率15%)

(累積額:中国元)

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130

図表 7-31:深圳市における充電事業収益シミュレーション (基礎充電及び目的地充電の普及率がそれぞれ 50%の場合)

出所:大和総研作成

0元

1,000,000,000元

2,000,000,000元

3,000,000,000元

4,000,000,000元

5,000,000,000元

6,000,000,000元

2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年 2026年 2027年 2028年 2029年 2030年 2031年

累積投資額 急速充電 累積投資額 普通充電

本調査試算による充電需要予測(基礎充電普及率50%, 目的地充電普及率50%) 充電供給者側から見た最大可能累積収入(充電器稼働率50%)

充電供給者側から見た最大可能累積収入(充電器稼働率30%) 充電供給者側から見た最大可能累積収入(充電器稼働率15%)

(累積額:中国元)

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ビジネスモデルのあり方の考察 7.5

収益面からの考察 7.5.1 本項では充電インフラ事業の収益性に関する考察を行う。充電インフラ整備のために民間資本

の参入を促すに当たっては、充電インフラ事業が参入事業者にとって魅力ある投資事業でなけら

ばならない。しかしながら、7.4 において行った収益性分析の結果から明らかなように、従来型の

充電事業は初期投資が大きく、かつ投資回収期間が長期間にわたり、投資利回りが低いという特

徴を有している。さらに、7.2 に記載する充電インフラ事業者との面談を通じて、充電インフラ事

業の収益性に影響を与える次の要素が浮かび上がった。

図表 7-32:充電インフラ事業の収益性に影響を与える要素 ポジティブ要素 技術革新、競争、政府の指導等により、事業に必要となる充電設備の調

達代金、工事代金が以前よりも低下していることから期待利回りは以前

よりも改善すると考えられる。

ネガティブ要素 初期投資金額の大きさに対し、相対的に高い収益を期待できないため、

充電インフラ事業の継続には、財務面での忍耐力が必要となる。 充電サービス料のみが収益になるが、政府により上限が規制されている。 期待収益は充電設備の設置場所の立地により大きく左右される。好立地

の土地は有限であり、希少性により利用価格は高くなる。 利用価格が安価な土地は、利便性に欠けるなど立地が悪いことを反映し

ており稼働率が低くなる。

以上のように、ポジティブ要素よりネガティブ要素が多く見られ、充電インフラ事業の収益性

は机上での試算以上に厳しいと予測される。上述の内容を踏まえれば、充電インフラ事業に参入

でき得る企業に求められる属性や能力は次の通りと考えられる。 (1) 本来事業業を他に持ち充電インフラ事業の低い収益性をカバーできる企業 充電インフラが広く整備され、かつ持続的に運営されなければ、次世代自動車の普及は困難に

直面する。従って、充電インフラ事業を専門的に手掛けるのではなく、低い収益性を本業の利益

で補うことができ得る企業、即ち本業を他に持ち十分な財務体力のある企業による参入が望まし

いと思われる。早期に設備を設置し需要低迷期に持ちこたえる財務体力があれば、その後需要が

想定どおりに爆発的に拡大すると、良好な収益を確保できるであろう。 尚、ここで言う本業とは、必ずしも次世代自動車に関する企業に特定されないが、現実的には

次世代自動車関連企業であれば、理論上充電インフラの整備によって本業の収益拡大を期待でき

るであろう。

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(2) 好立地を確保できる企業 充電インフラ事業は、何よりも先ず立地ありきである。先述の通り、期待収益は立地の良し悪

しにより左右される。好立地を確保できれば充電サービス利用者にとって高い利便性を提供でき

るため、利用料金を高く設定可能である。反面、利便性に欠ける土地は稼働率が低くなるため利

用料金も低く抑えざるを得ない。好立地には物理的に限りがあるため、良好な立地を需要拡大に

先駆けて事前に確保するという戦略をとり得る企業が勝者になる。 (3) コストコントロールに長けた企業 収益性を確保するためには費用を極限まで抑えることが必要となる。充電インフラ事業にかか

る初期費用には、充電設備調達代金、設備据付工事費、要員の教育費等がある。ランニング費用

には土地の借地費用(土地取得の場合は初期費用となる)、設備類の保守費用、人件費等がある。

これらの費用を巧みにコントロールし、極力コストを抑えることが求められる。

参入に適すると目される業態 7.5.2 具体的に参入に適する企業の業態は以下の通りと考えられる。 ① 事業領域の広い企業または企業グループ

単体またはグループを問わず、企業規模がある程度大きく、事業範囲が広く、産業の広い領域

をカバーしている企業(企業グループ)が考えられる。充電事業単独での事業採算の確保は当面

期待できないが、周辺領域での事業により収益の補完が可能な企業である。今回の調査対象企業

では常州の星星充電、青島の特来電新能源がこの範疇に入ると考えられる。 ② 充電機器製造販売関連企業

充電設備機器を自ら製造或いは販売している企業である。この範疇の企業は、充電事業単独で

の事業採算の確保は難しいものの、充電設備を自ら調達できることから、技術面で優位性がある、

製造原価でコスト競争力がある、という理由により他企業よりも優位性を発揮できると考えられ

る。調査対象企業では沃特瑪電池がこの範疇に入ると考えられる。 ③ 国有中央企業

中央レベルの国有企業であり、大株主である国の政策の意向を受けて、長期的観点から投資活

動を行う。短期の損益よりも長期での国全体の利益を重視する立場から、インフラ投資での有力

な担い手となる。今回の調査対象企業では普天新能源(北京)や普天新能源(深圳)がこの範疇

に入ると考えられる。

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133

充電インフラ事業が産む新たな付加価値 7.5.3自動車分野では、自動運転や IoT を活用したサービス連携等、これまでにない革新的な展開が

近い将来見込まれている。つまり、次世代自動車は単に動力エネルギーの変革というだけではな

く、ICT を活用した革新的なユニットを搭載する機器へと変貌することを意味している。このよ

うな変革によって、次世代自動車に関する事業を土台に、新たな関連産業の創出が自動車業界、

ICT 業界を中心に期待されているところである。中国は世界一の自動車保有台数を誇るため、次

世代自動車を土台とした新たな関連産業が消費者や業界に与えるインパクトは大きいと推測され

る。充電インフラビジネスを担う事業者にとっても、新たな収益源となる可能性がある。一例を

挙げれば、スマートシティ構想によって形成された都市のなかで、充電インフラ設備は単に次世

代自動車に動力を供給するという役割のみならず、走行データ、運転者の行動パターン等のデー

タ、充電データ等ビッグデータの蓄積、各種商取引に関連した広告、自動車の故障診断等といっ

たものが考えられる。 5.1 で述べたように、電動自動車の充電インフラ発展に関するガイドライン(2015-2020 年)で

は、「持続可能なビジネスモデルの探求」の一部に「革新モデルの奨励」という箇所があり、『充

電サービス企業を拠り所として商業施設、自動車の販売・アフターサービスなどの分野との提携

を積極的に模索し、クラウドファンディング、オンラインとオフラインの相互結合など、「イン

ターネット+」の新興のビジネスモデルを導入し、スマート充放電、電子商取引、広告などの付

加価値サービスなど、さまざまな方式を開拓してビジネスモデルの革新を進め、企業の収益力を

高める。』と記されている。このように、中国政府自身も充電インフラを活用して新たな産業振

興を図ろうとする意図があるように見て取れる。 ※注意: 本項では当該アイデアについて法律、制度、規制面からの課題調査を行っていない点、予めご了

承いただきたい。特にビッグデータについては個人情報保護等が必要となるので、法律、制度、

規制面の精査が必要である。

車種別の充電インフラの在り方 7.5.4中国において充電インフラビジネスを検討する場合、まずは充電インフラを供給する対象(タ

ーゲット)を検討する必要があるだろう。そのターゲットは個人向け・法人向けという分け方も

あれば、大都市向け・中都市向けという分け方も考えうる。以下では中国現地でのヒアリングを

受けて、ターゲットを「車種ごと」に絞り、商用車・乗用車という分け方で検討した。車種ごと

の検討が有用であるとした理由は、中国は日本と違い、バス会社やタクシー会社などはその多く

が公営企業であり、地方政府等の管轄下にあることが多く、この点において日本とは違ったビジ

ネスモデルの検討ができると考えたためである。また、中国の各地方都市では、まずは商用車か

ら EV を普及させることを念頭に政策を策定していることもあり、商用車向けのビジネスモデル

が機能する可能性があると考えたためである。

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1) 商用車 中国で商用車と呼ばれるものは主にバス、タクシー、環境衛生車(ゴミ収集車)、物流車、政

府機関公用車が挙げられる。中国は都市化が急速で、特に商用車のニーズが高かったことから、

都市化をサポートするために商用車用の充電インフラの普及を集中的に促進している。 中国現地で各充電企業に対してヒアリングした中では、EV バスにニッチマーケットが存在し

ているという声が聞かれた。例えば、青島市には 1,300 台の EV バスがあり、このバスは全て電

池交換式となっている。公共バスは一般的に走行距離が長く、電力消費量も多い。バスの電池容

量は約 250kWh であるため、単純計算しても 1 台の満充電ごとに 162.5 元(約 3,250 円)儲かる

計算となる(青島市の充電サービス料は 0.65 元)。仮に青島市の 1,300 台の EV バスを毎日 1 回

充電した場合、211,250 元(約 422 万 5000 円)の収入となり、これを 1 年続けた場合は、77,106,250元(約 15 億 4,200 万円)の計算となる。 企業が事業計画をする際には収益シミュレーションを行うことがあると思われるが、このよう

な公共バスの場合、その収益シミュレーションを算出することは乗用車と比較すると難しくない。

公共バスは乗用車と違い、走行ルート・走行距離・停止場所が決まっており、また走行時間も決

まっていて、充電施設の設置コストなどの定量化が可能なため企業にとって収益の予測性が高い

ことがメリットといえる。 また、深圳市の公共交通はバスが 15,000 台、タクシーが 15,000 台で合計 30,000 台であるとさ

れている(2015 年末現在)。深圳市は 2018 年頃までにこれら全車両を EV 化したいという考え

を持っており、さらには物流配送車両の 10 万台、環境衛生車(ゴミ収集車や散水車)も 3,000台強についても全て EV 化させる考えという。充電事業を行う場合は、充電会社はタクシー会社

やバス会社などとと連携すると安定的な収入が期待できると考えられる。さらには充電ビジネス

を行いながら、充電ステーションで喫茶店などを運営すると周辺事業での収入も期待できる。 2) 乗用車 自家用車は、EV の 80%以上を占めているため、マスを狙うためにはまず検討がなされるター

ゲット候補となる。充電事業の投資回収期間の長短から検討するに、バスや環境衛生車などは需

要変動が少なく、固い需要が予想されるが、自家用車の需要は最も変動が多く、その収益計算は

地域差や外部環境などもあり商用車に比べると難しい。 日産の EV でバッテリー容量が 30kWh あるリーフを例に挙げる。リーフ 1,000 台を対象に青

島市(充電サービス料 0.65 元)で充電ビジネスを手掛けると仮定して、1000 台全てが 1 日あた

り一回、全電池容量に対する満充電を、当該事業者の充電ポールを使用して行った場合は 9,500元(約 39 万円)の収入であり、1 年では 7,117,500 元(約 1 億 4,200 万円)となる。この金額は

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当該事業者が獲得する経路充電及び目的地充電の収益推計値であるが、EV ユーザーが自宅で基

礎充電を自ら行う比率が高まった場合は、収益はこの水準よりも低下すると考えられる。 対象顧客を絞り込むと確実性の高い収益の予想が可能であるが、これらは公共交通セクターと

政府部門であり有限であることから、早期に人よりも早くこのセクターを囲い込んだ者が変動の

少ない安定した収益を獲得できる。

図表 7-33:商用車・乗用車の走行パターンイメージ

走行範囲 走行距離 路線 時間帯 需要変動 商用車 バス 狭い 長い 一定 一定 少ない

タクシー 広い 長い 不特定 不特定 多い 環境衛生車 狭い 長い 一定 一定 少ない 物流車 広い 長い 不特定 不特定 多い 政府機関 公用車

広い 短い 不特定 不特定 多い

乗用車 自家用車 広い 長い 不特定 不特定 多い 出所:大和総研作成

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課題とその対策 7.5.5 1) 啓発活動の推進 政府の強い決意の下で新エネ車の普及、充電インフラ建設が進められているが、政府の影響力

が及びづらい分野として個人の自家用車部門が挙げられる。EV の個人自家用車部門への更なる

普及のためには、国民の環境意識に関する啓発活動の積極推進が必要である。この啓発活動は車

の購入に当たっての選択基準に関して経済性だけではなく環境保護の観点からの EV 選択の重要

性への理解が進むことを含むものである。

2) 阻害要因の除去 個人の EV 購入行動への阻害要因を徹底的に除去すべきである。個人が環境意識を高め EV 購

入に積極的になったとしても、具体的な購入行動に踏み切るにあたり、現実にはいくつかの阻害

要因が存在している。具体的にはマンションなどの共同住宅に居住する個人が EV の購入に伴っ

て必要となる駐車場での充電器設置の困難さが挙げられる。共用となる充電器の設置が共同住宅

の駐車場に可能になること、或いは個人への専用駐車スペースの割り当てが可能となる場合は個

人専用の自家用充電器の設置を可能にすること、が必要である。 これに関しては、共同住宅に居住する個人の駐車場に対する権利の割り当てに関する規則、制

度の整備が必要である。共同住宅の管理業務を受託している不動産管理会社や共同住宅の所有者

委員会(日本のマンションの管理組合に相当)において、EV 普及、充電インフラの整備の必要

性、充電設備の安全性等に関する正しい知識の普及と適切な理解が求められる。 また充電設備の設置に関する電気工事に関連して、政府規定に基づくと電力会社側が負担すべ

き費用が、実際の現場作業においては規定どおりに履行されない事例が生じており、現場での規

則遵守に関して、行政による監視が必要である。 3) 自動車業界における相互協力

例えば、4.2.9 で述ているように我が国ではトヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、三菱自

動車工業、日本政策投資銀行、東京電力、中部電力といった企業が共同で出資する日本充電サー

ビス(NCS)によって、充電インフラが提供されている。特に充電インフラの整備によって恩恵

を受けるのは自動車メーカーであるため、我が国における NCS 社のスキームのように、中国にお

いても自動車メーカーを中心に関連産業が集結し、相互協力の下充電インフラ事業の推進を図る

ことも一案である。

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図表 7-34:本来事業を他に持つ企業による充電インフラ事業への参入イメージ

出所:大和総研作成

本来事業

充電インフラ事業

<事業目標①>

単体での収益性確保(長期目線)

<事業目標①>

本来事業への間接貢献

<事業目標③>

諸データの有効活用 消費者にとって

便利な新サービスへの活用

充電インフラ事業に参入する企業(企業グループ)

周辺企業

<1>技術革新

• EV、PHEV車の製造技術• 蓄電池技術• 自動運転• IoT• スマートシティ• ビッグデータ

<2>法制度整備

• 充電インフラ整備支援• 個人向け購入促進

<4>全国規模での

ムーブメント醸成• 個人向け啓発活動• 環境改善意識の向上

<3>自動車業界の相互協力

• 企業の垣根を越えた連携

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参考 Web サイト/参考文献 参考 Web サイト

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1 「自動車産業戦略 2014」をとり

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2016 年 3 月

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2 EV・PHV 普及に向けた経済産

業省の取り組みについて

経済産業省 製造産業局自動車

課 電池・次世代技術・ITS 推

進室

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2016 年 3 月

17 日現在

3 クリーンエネルギー自動車の購

入を検討されている皆様へ 一般社団法人 次世代自動車

振興センター http://www.cev-pc.or.jp/lp_clean/

2016 年 3 月

17 日現在

4 充電整備をご検討の皆様へ 一般社団法人 次世代自動車

振興センター http://www.cev-pc.or.jp/hojo/hosei_advice.html

2016 年 3 月

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5 急速充電器と EV の普及見通し CHAdeMO 協議会 http://www.chademo.com/wp/japan/role/prospects/

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7 NCS 充電サービスの概要 合同会社日本充電サービス http://www.nippon-juden.co.jp/cu/ 2016 年 3 月

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10 2016 北京小客車指標総量和配

置比例通知全文 本地宝

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2016 年 3 月

9 日現在

11 北京 2016 年第一期小客車揺号

中簽難度猛増約為 665 比 1 人民網

http://bj.people.com.cn/n2/2016/0307/c233086-27882924.html

2016 年 3 月

9 日現在

12 解読北京新能源車不限行到底有

多好? 車質網

http://www.12365auto.com/news/20150531/178255.shtml

2016 年 3 月

17 日現在

13 中国次世代自動車政策集 電車汇 http://www.evhui.com/ 2016 年 3 月

17 日現在

14 中国次世代自動車補助金政策 電車汇 http://www.evhui.com/reportlist 2016 年 3 月

17 日現在

15 充電インフラ整備情報 電車世界 http://www.zhev.com.cn/down/chon

gdianshenbei/

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16 国家能源局电力司副司长童光毅

解读《指导意见》和《发展指南》 国家能源局

http://www.nea.gov.cn/2015-10/12/c

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2016 年 2 月

12 日現在

17 公务用车“新能源化”确定时间表

和路线图 国家能源局

http://www.nea.gov.cn/2014-07/15/c

_133485390.htm

2015 年 9 月

16 日現在

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参考文献

タイトル 出版元・著者 出版日 1 自動車産業戦略 2014 経済産業省 2014 年 11 月 17 日

2 電動自動車の充電インフラ発展に関するガ

イドライン(2015-2020 年) 中国国家発展改革委員会 中国国家能源局 ほか

2015 年 11 月 19 日

3 電動自動車の充電インフラ発展に関するガ

イドライン(2015-2020 年)紹介 みずほ総合研究所 2015 年 12 月 18 日

4 中国の電気自動車充電インフラ発展政策 中国国家能源局(国家エネルギー局) 2015 年 11 月 29 日

5 充電インフラ検討用次世代自動車交通シミ

ュレータの開発 -電気自動車用急速充電ス

テーションの適正配置機能-

日渡良爾,岡野邦彦,池谷知彦,所健一電

力中央研究所 2011 年 7 月

6 H24 年度 充電ステーション最適配置に関す

る解析調査報告書

一般社団法人次世代自動車振興センター,

一般財団法人電力中央研究所,株式会社構

造計画研究所 2013 年 3 月

7 深圳統計年鑑 深圳市統計局 2015 年 3 月

8 中国新能源汽車産業発展報告 社会科学文献出版社 2015 年、2014 年 2013

9 日中省エネルギー・環境総合フォーラム関連

参考資料 同フォーラム事務局

2015 年 11 月、2014 年

12 月

10 中国汽車産業発展報告 社会科学文献出版社 2014 年、2013 年

11 中国次世代自動車市場への参入戦略 日系 BP 社・周磊 2011 年 6 月

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添付資料リスト No. タイトル

6-1 「日中新エネ自動車と充電インフラ共同研究」開始会合議事録(2015 年 3 月 2 日・3 日)

6-2 中国次世代自動車インフラ共同研究に係る CATARC との電話会議 議事メモ(2015 年 4 月 17 日)

4-3 中国次世代自動車インフラ共同研究に係る CATARC との電話会議 議事メモ(2015 年 5 月 29 日)

6-4 「日中新エネ自動車と充電インフラ共同研究」第 2 回北京会合議事録(2015 年 7 月 29 日・30 日)

6-5 「日中新エネ自動車と充電インフラ共同研究」に係る電話会議議事録(2015 年 9 月 10 日)

6-6 「日中新エネ自動車と充電インフラ共同研究」第 1 回天津会合議事録(2015 年 10 月 29 日・30 日)

6-7 中国電気自動車関連制度ワークショップ実施結果報告(2015 年 11 月 10 日~13 日)

6-8 「日中新エネ自動車と充電インフラ共同研究」に係る電話会議議事録(2015 年 12 月 4 日)

6-9 「日中新エネ自動車と充電インフラ共同研究」に係る電話会議議事録(2015 年 12 月 8 日)

6-10 「日中新エネ自動車と充電インフラ共同研究」第 3 回北京会合議事録(2015 年 12 月 11 日)

6-11 「日中新エネ自動車と充電インフラ共同研究」に係る電話会議議事録(2015 年 12 月 24 日)

6-12 关于开展中日新能源汽车车桩互操作性测试的通知(中日新エネルギー自動車・充電器互換性確認試験の展開に

ついての通知)(2015 年 12 月 28 日)

6-13 「日中新エネ自動車と充電インフラ共同研究」に係る電話会議議事録(2016 年 1 月 7 日)

6-14 「日中新エネ自動車と充電インフラ共同研究」に係る電話会議議事録(2016 年 1 月 12 日)

6-15 「日中新エネ自動車と充電インフラ共同研究」に係る電話会議議事録(2016 年 2 月 2 日)

6-16 「日中新エネ自動車と充電インフラ共同研究」に係る電話会議議事録(2016 年 2 月 18 日)

6-17 充電器互換性確保に向けた検定制度(認証制度)導入検討[日産自動車] (2015 年 7 月 29 日)

6-18 AC 充電器の互換性課題検討要領 [JARI](2015 年 12 月 11 日)

6-19 EV・PHEV と普通充電器の互換性試験体験会~普通充電インフラ普及に向けて~(2015 年 12 月 11 日、JARI互換性確認会資料)

6-20 互換性試験体験会申込書(2015 年 12 月 11 日、JARI 互換性確認会資料)

6-21 互換性試験体験会実施要領書(2015 年 12 月 11 日、JARI 互換性確認会資料)

6-22 互換性試験体験会 実施項目および作業スケジュール(2015 年 12 月 11 日、JARI 互換性確認会資料)

6-23 互換性試験体験会 試験結果シート(2015 年 12 月 11 日、JARI 互換性確認会資料)

6-24 ACAC 充电器的兼容性课题研讨(AC 充電器の互換性課題検討)(2016 年 1 月 18 日)

6-25 CATARC との共同研究にかかる国内会議(第 8 回)議事メモ(2015 年 8 月 25 日)

6-26 AC 车-桩匹配互操作性集中测试方案(EV/PHEV と AC 充電スタンドの互換性確認試験計画)(2016 年 1 月

12 日)

6-27 EV/PHEV と AC 充電スタンドの互換性確認試験記録(2016 年 1 月 19 日)

6-28 AC 充電器の互換性確認試験記録(詳細)(2016 年 2 月 5 日)

6-29 互換性試験体験会 試験結果シート(DC 互換性確認試験用)(2016 年 2 月 18 日)

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(様式2)

頁 図表番号9 図表2-820 図表4-158 図表5-5

二次利用未承諾リスト

委託事業名:平成27年度エネルギー需給緩和型インフラ・システム普及等促進事業(中華人民共和国における統一的EV充電網の普及実現可能性調査)

報告書の題名:調査報告書

受注事業者名:株式会社大和総研

タイトル図表2-8:電子自動車産業の国際競争力比較

図表4-1:省エネ・新エネ自動車産業発展企画(2012~2020年)概要(2012年6月国務院発

図表5-5:中国EV百人会メンバー