in cell analyzer 1000 アプリケーションノー …...spotfire decisionsite statistics(...

4
Application Note Vol.5 IN Cell Analyzer 1000 Key Word:●定量イメージング解析 ●内臓脂肪 VAC01 細胞 ●脂肪滴 IN Cell Analyzer 1000 はじめに 糖尿病をはじめとした高脂血症、高血圧症、動脈硬化症などの 生活習慣病発症の主要因は、食生活の欧米化に伴う「内臓脂肪」 の過剰蓄積であることが、臨床レベルで解明されています。しかし、 これまで内臓脂肪細胞の分化誘導系がなく、そのメカニズムは 不明な点が多くありました。 ここでは、High Content Analysis を目的として開発されたIN Cell Analyzer 1000 を用い、脂肪の蓄積を阻害すると考えられ る数種の薬剤を投与した際、VAC01 細胞 の脂肪蓄積にどのよ うな影響を及ぼすか解析しました。 VAC01 内臓脂肪細胞培養キット プライマリーセル社(http://www.primarycell.com/)が独自に開発した内臓脂肪細胞の文化誘導 系キットです。Indomethacin, dexamethason, PPAR- agonistsなどの分化誘導因子を必要と せず、天然の脂質を添加するだけで、80%以上の細胞が内臓脂肪細胞へと分化します。 実験内容 使用した製品 IN Cell Analyzer 1000 IN Cell Investigator Software Spotfire DecisionSite Statistics TIBCO*アップグレードが必要です。 試薬 VAC01 細胞(プライマリーセル社) 脂溶性蛍光色素  BODIPY 493/503Invitrogen D-3922Hoechst 33258Invitrogen H-3569 Packard View Plate Perkin Elmer 6005182Compound X ※評価対象化合物 Troglitazone :インスリン抵抗性改善薬として販売されていたが、 現在は販売中止。 Intrafat(日本製薬):ダイズ油注射液。各種疾患や術前後など に対する栄養補給に用いる滋養強壮薬。糖尿病患者への投与は 禁止されている。 実験操作 1 参照) 1. 凍結状態のVAC01 細胞 2. 37℃温浴で解凍 3. 細胞を2 回遠心洗浄 4. 内臓脂肪分化培地に細胞を懸濁し、コラーゲンでコーティン グした96 well プレートに細胞を播種 10,000 cells/well2 日に1 回の頻度で培地交換 5-1. 培養 3 日目に10 μM TroglitazoneCompound X0.1% v/vIntrafat および Control として溶媒を培養液中に添 加し、培養を続ける 5-2. 培養 6 日目に培養を終了し、一晩ホルマリン固定 5-3. 固定した細胞をPBS 2 回 洗 浄し、10 μg/ml BODIPY 493/503Invitrogen 社:D-3922)で20 分間染色 5-4. BODIPY を除去し、10 μM Hoechst 33258 15 分間染色 5-5. IN Cell Analyzer 1000 による画像取り込みおよび画像解析 Quantitative Imaging Analysis of Visceral-fat Cells using the technology of High Content Analysis High Content Analysis 技術を用いた内臓脂肪細胞の多量イメージング解析 71-2861-12 1. 内臓脂肪細胞に蓄積した脂肪の解析スキーム

Upload: others

Post on 09-Jul-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: IN Cell Analyzer 1000 アプリケーションノー …...Spotfire DecisionSite Statistics( TIBCO)* *アップグレードが必要です。試薬 VAC01細胞(プライマリーセル社)

Application Note Vol.5 IN Cell Analyzer 1000

Key Word:●定量イメージング解析 ●内臓脂肪 ●VAC01 細胞 ●脂肪滴 ● IN Cell Analyzer 1000

はじめに

糖尿病をはじめとした高脂血症、高血圧症、動脈硬化症などの

生活習慣病発症の主要因は、食生活の欧米化に伴う「内臓脂肪」

の過剰蓄積であることが、臨床レベルで解明されています。しかし、

これまで内臓脂肪細胞の分化誘導系がなく、そのメカニズムは

不明な点が多くありました。

ここでは、High Content Analysisを目的として開発された IN Cell Analyzer 1000を用い、脂肪の蓄積を阻害すると考えられる数種の薬剤を投与した際、VAC01細胞* の脂肪蓄積にどのよ

うな影響を及ぼすか解析しました。

*VAC01内臓脂肪細胞培養キットプライマリーセル社(http://www.primarycell.com/)が独自に開発した内臓脂肪細胞の文化誘導系キットです。Indomethacin, dexamethason, PPAR- agonistsなどの分化誘導因子を必要とせず、天然の脂質を添加するだけで、80%以上の細胞が内臓脂肪細胞へと分化します。

実験内容

使用した製品

IN Cell Analyzer 1000 IN Cell Investigator SoftwareSpotfire DecisionSite Statistics (TIBCO)*

*アップグレードが必要です。

試薬

VAC01細胞(プライマリーセル社)脂溶性蛍光色素 BODIPY 493/503 (Invitrogen D-3922)Hoechst 33258 (Invitrogen H-3569 )Packard View Plate (Perkin Elmer 6005182) Compound X ※評価対象化合物

Troglitazone:インスリン抵抗性改善薬として販売されていたが、現在は販売中止。

Intrafat(日本製薬):ダイズ油注射液。各種疾患や術前後などに対する栄養補給に用いる滋養強壮薬。糖尿病患者への投与は

禁止されている。

実験操作(図1参照)1. 凍結状態のVAC01細胞2. 37℃温浴で解凍3. 細胞を2回遠心洗浄4. 内臓脂肪分化培地に細胞を懸濁し、コラーゲンでコーティン

グした96 wellプレートに細胞を播種 (10,000 cells/well) ※2日に1回の頻度で培地交換5-1. 培養3日目に10 µM Troglitazone、Compound X、0.1%

(v/v)Intrafatおよび Control として溶媒を培養液中に添加し、培養を続ける

5-2. 培養6日目に培養を終了し、一晩ホルマリン固定5-3. 固定した細胞をPBSで2回洗浄し、10 µg/mlのBODIPY

493/503(Invitrogen社:D-3922)で20分間染色5-4. BODIPYを除去し、10 µM Hoechst 33258 で15分間染色5-5. IN Cell Analyzer 1000による画像取り込みおよび画像解析

Quantitative Imaging Analysis of Visceral-fat Cells using the technology of High Content Analysis

High Content Analysis技術を用いた内臓脂肪細胞の多量イメージング解析

71-2861-12

図1. 内臓脂肪細胞に蓄積した脂肪の解析スキーム

Page 2: IN Cell Analyzer 1000 アプリケーションノー …...Spotfire DecisionSite Statistics( TIBCO)* *アップグレードが必要です。試薬 VAC01細胞(プライマリーセル社)

● 2 Application Note 71-2861-12

図2. IN Cell Analyzer で取得した画像

透過光画像(左)と蛍光画像(右)を示します。

青:核(Hoechst染色) 緑:脂肪滴(BODIPY 493/503染色)

項目 算出パラメーター

細胞数 Cell Count (Sum)細胞あたりの脂肪滴数 Oil Count (Mean)脂肪滴の平均面積 Oil Mean Area (Mean)細胞あたりの脂肪滴総面積 Oil Sum Area (Mean)脂肪滴の蛍光強度(ピクセルあたりの平均強度) Oil Intensity (Mean)細胞あたり総脂肪滴蛍光強度 Oil Sum DxA (Mean)脂肪滴あたりの総蛍光強度 Oil Mean DxA (Mean)核の平均面積 Nuclei Area (Mean)核の真円率 /1 Nuclei form (Mean)核の周囲長 Nuclei perimeter (Mean)核の蛍光強度(ピクセルあたりの平均強度) Nuclei intensity (Mean)

表1. IN Cell Investigator で算出した評価パラメーター

解析パラメーター

細胞核はHoechst 33528による染色、脂肪滴は脂溶性蛍光色素であるBODIPY 493/503を取り込ませ検出しました。画像解析

結果

表現系の変化について

IN Cell Analyzer 1000 で取り込んだ脂肪細胞の透過光画像および蛍光画像を示します(図2)。ソフトウェアによる画像認識で各

パラメーターを数値化し(図3)、薬剤処理サンプルとコントロールで比較を行いました。

ソフトウェア IN Cell Investigator により各パラメーターを算出し評価を行いました(表1)。

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

透過光画像 蛍光画像 コントロールと大きく異なった点

・脂肪滴数の減少

・細胞核の真円化と面積減少

(細胞毒性)

・脂肪滴の平均面積の減少

・細胞数の抑制

・脂肪滴数の減少

・脂肪滴面積の増加

コントロール

Troglitazone

Intrafat

Compound X

Page 3: IN Cell Analyzer 1000 アプリケーションノー …...Spotfire DecisionSite Statistics( TIBCO)* *アップグレードが必要です。試薬 VAC01細胞(プライマリーセル社)

3●Application Note 71-2861-12

図3. 画像解析ソフトウェア(IN Cell Investigator)による脂肪細胞認識

透過光シグナルや各蛍光シグナルをもとに認識部位が枠で囲まれます。

しきい値の調製も行えます。

インスリン抵抗薬剤であるTroglitazone処理では、脂肪滴数は減少しましたが、細胞核の真円化と面積減少が認められました。

油成分を含む Intrafat 処理では、脂肪滴数は減少しているものの脂肪滴面積の増加が確認されました。

評価化合物であるCompound X処理では、コントロールに対して脂肪滴の平均面積が減少し、さらに、脂肪細胞の数が抑制さ

れていることが確認されました。

図4は、薬剤処理サンプルとコントロールサンプル間で各パラメーター変動の傾向を比較したヒートマップです。

PCA解析によるパラメーター評価PCA解析により、IN Cell Investigator で算出した11種のパラメーターの評価を行いました(図5a, b, c)。その結果、「細胞あたりの脂肪滴総面積(Oil Sum Area)」と「細胞あたりの脂肪滴数(Oil

Count)」の変量幅が大きく、薬剤評価を行う際に最も重要なファ

クターであることが示されました。反対に、「脂肪滴の平均蛍光

強度」には大きな変化が認められないことがわかりました。

これらから、薬剤が脂肪蓄積に与える影響を評価する場合では、

1細胞あたりに占める脂肪滴の面積および数がスクリーニング評価に適したパラメーターであることがわかりました。

図4. 各種薬剤が脂肪細胞に与える影響 ー各パラメーターのヒートマップー

※ 横軸に示される各パラメーター番号については、表1をご参照ください。

●Control

●Troglitazone

●Compound X

● Intrafat

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

小 大

Page 4: IN Cell Analyzer 1000 アプリケーションノー …...Spotfire DecisionSite Statistics( TIBCO)* *アップグレードが必要です。試薬 VAC01細胞(プライマリーセル社)

■ サンプルデータご提供© 2008 GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社 本書の全部または一部を無断で複写複製することは、著作権法上の例外を除き、禁じられています。

本書に掲載されている製品の名称、仕様などは改良のため予告なく変更される場合があります。

掲載されている社名や製品名は、各社の商標または登録商標です。

取扱店

まとめ

本報で示した IN Cell Analyzer 1000による脂肪蓄積評価では、取得した細胞蛍光画像から複数パラメーターを一度に算出して統

計解析することで、脂肪蓄積の薬効評価に最適なパラメーターを

選ぶことができました。

このように、細胞蛍光画像をもとにしたスクリーニング解析では、

細胞形状や面積などを評価指標とできることが特長です。High Content Analysis を目的として開発された IN Cell Analyzer 1000では、鮮明な蛍光画像を取得するとともに、専用ソフトウェアの IN Cell Investigator、またSpotfire DecisionSite Statistics

図5. PCA解析による変量パラメーターの評価

PCA解析を行った結果、細胞あたりの脂肪滴総面積、細胞あたり総脂肪滴蛍光強度がPC(1)において±0.4以上の値を示し、サンプル間の比較に重要なパラメーターであること、また、脂肪滴の平均蛍光強度はサンプル間の相

違を評価するうえで特に影響がない値であることが示されました。

(a) 11のパラメーターを3軸に展開し、空間距離からサンプル間の変化量を示した3D Plot

(b) 各PC成分の重み付け

(c) 各PCの重要度

21 3 4 5 6 7 8 9 10 11

を用いることで、効率良く精度の高いスクリーニングが実施でき

ます。

※本研究アプリケーションの開発にご協力いただいた、株式会社

プライマリーセル 尾田千佳子様と平敏夫様、日本ティブコソフトウェア株式会社 大石尚孝様に深く感謝いたします。

※ 横軸に示される各パラメーター番号については、表1をご参照ください。

Control

Troglitazone

Compound X

Introfat

-PC (1)-PC (2)-PC (3)