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ISO 15189 認定を取得して 九州がんセンター 臨床検査科  中 村 洸 太  【はじめに】 ISO 15189(以下 ISO)は、ISO/IEC 17025 及び ISO 9001 をベースとし、臨床検査室の品質マネジメント システム(QMS)と技術的能力に関する要求事項を提供するものとして ISO(International Organization for Standardization:国際標準機構)が策定した国際規格です。第 1 版が 2003 年に制定され、2007 年に第 2 版、 2012 年に第 3 版へと改訂され公益財団法人日本適合性認定協会(Japan Accreditation Board:JAB)による認 定審査が執り行われています。当院臨床検査科・病理診断科は 2017 年 12 月に検体検査・微生物学的検査・病 理学的検査・生理学的検査の分野について「ISO 15189:2012」の認定を受けました。認定取得から 4 ヶ月が経ち、 改めて認定取得は品質マネジメントシステム(QMS)の維持活動のスタート地点であると実感しているところです。 キックオフ当時は何から始めてよいか見当もつかず、ISO 認定施設を見学させていただくなどして情報を 集めてまいりました。そのような経験を踏まえ、参考までに私が担当しています当院生理検査室の環境管理 や文書、精度管理について述べさせていただきたいと思います。 【ISO 認定審査受審の経緯と経過】 当 科 は 2015 年 に 病院側へ ISO 認定審 査受審申請希望を提 出 し、2016 年 に 承 認を得ました。以降 2016 年 6 月 を キ ッ クオフとしてQMS 整備を開始し、試行 錯 誤 を 経 て 2017 年 4 月に認定審査を申 請、6 月に予備訪問、 9 月に初回現地審査 を受審し、是正処置 完 了 後 の 2017 年 12 月に ISO 認定を取得 することができまし た。認定取得後も当 院のがんゲノム医療 連携病院指定、また、検査の品質・精度を確保するための明確な手順を求める法改正の動き等への対応に際 して、検査室への要求について比較的スムーズに理解できるなど、今回の ISO 認定に向けた体制整備はよ り一層価値あるものとなっています。 【生理検査室の環境について】 生理検査の環境管理は整理整頓をはじめ、温度湿度管理・患者情報漏洩対策や安全装置の設置等を行って います。生理検査室は心・血管エコー室(超音波ブース 2 カ所)、心電図室、肺機能室、聴力検査室を管理 しており、計 5 カ所に温度湿度計を設置しています。特に超音波ブースでは患者の頭部近くで温度管理でき - 16 -

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ISO 15189 認定を取得して

九州がんセンター 臨床検査科 中 村 洸 太 

【はじめに】ISO 15189(以下 ISO)は、ISO/IEC 17025 及び ISO 9001をベースとし、臨床検査室の品質マネジメント

システム(QMS)と技術的能力に関する要求事項を提供するものとして ISO(International Organization for Standardization:国際標準機構)が策定した国際規格です。第 1 版が 2003 年に制定され、2007 年に第 2 版、2012 年に第 3 版へと改訂され公益財団法人日本適合性認定協会(Japan Accreditation Board:JAB)による認定審査が執り行われています。当院臨床検査科・病理診断科は 2017 年 12 月に検体検査・微生物学的検査・病理学的検査・生理学的検査の分野について「ISO 15189:2012」の認定を受けました。認定取得から 4 ヶ月が経ち、改めて認定取得は品質マネジメントシステム(QMS)の維持活動のスタート地点であると実感しているところです。

キックオフ当時は何から始めてよいか見当もつかず、ISO 認定施設を見学させていただくなどして情報を集めてまいりました。そのような経験を踏まえ、参考までに私が担当しています当院生理検査室の環境管理や文書、精度管理について述べさせていただきたいと思います。

【ISO 認定審査受審の経緯と経過】当 科 は 2015 年 に

病院側へ ISO 認定審査受審申請希望を提出 し、2016 年 に 承認を得ました。以降2016 年 6 月 を キ ックオフとして QMS整備を開始し、試行錯誤を経て 2017 年4 月に認定審査を申請、6 月に予備訪問、9 月に初回現地審査を受審し、是正処置完了後の 2017 年 12月に ISO 認定を取得することができました。認定取得後も当院のがんゲノム医療連携病院指定、また、検査の品質・精度を確保するための明確な手順を求める法改正の動き等への対応に際して、検査室への要求について比較的スムーズに理解できるなど、今回の ISO 認定に向けた体制整備はより一層価値あるものとなっています。

【生理検査室の環境について】生理検査の環境管理は整理整頓をはじめ、温度湿度管理・患者情報漏洩対策や安全装置の設置等を行って

います。生理検査室は心・血管エコー室(超音波ブース 2 カ所)、心電図室、肺機能室、聴力検査室を管理しており、計 5 カ所に温度湿度計を設置しています。特に超音波ブースでは患者の頭部近くで温度管理でき

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るように温度湿度計の壁掛け設置を行い、超音波機器の排熱による室温上昇を監視するなど、患者が体感する検査環境の維持を行っています。患者情報漏洩対策としては、電子カルテ端末に覗き見防止フィルターを設置し、患者の視野に電子カルテ情報が入らないようにしており、また、業者など部外者の入退室は入退室者管理記録をとり管理しています。管理区域の中で聴力検査室のみが離れた場所に位置していますが、緊急時にいつでも対応できるよう呼び鈴を安全装置として設置管理しています。その他、患者リスクに配慮した配線整理や棚の耐震対策などを行っており、生理検査室では患者視点の環境整備が特に重要と思われます。

【文書について】生理検査室の文書管理は、標準操作手順書(Standard Operation Procedures: 以下 SOP)が 15 種類、機

材操作手順書が 10 種類、生理検査運用手順書 1 種類、患者対応マニュアル 1 種類で合計 27 種類の文書を策定・管理しています。SOP 作成に関する ISO 要求事項“5.5.3 検査手順の文書化”は検体検査を前提としているため、「d) サンプル(試料)の種類(例 血漿,血清,尿)」や「l)干渉(例 乳び,溶血,ビリルビン,薬物)及び交差反応」などの記載事項が並びます。しかし、生理検査ではこれらの要求事項について検体を患者に置き換えて手順を検討し、「サンプルの種類」には「胸部・四肢」など主に検査する部位を、「干渉及び交差反応」には筋電図混入や交流障害(心電図例)などのアーチファクト関連事項を記載することで実際の業務に対応させました。SOP は、日常業務での曖昧な点の解消やスタッフのローテーション、新人教育での説明と指導について大変役立っています。また、ISO 要求事項「b)検査に用いられる手順の原理及び測定法」の項目は、できる限り最新の情報を取り入れ、教科書的に理解しやすいように詳しく記載するようにしています。患者対応マニュアルは、患者の転倒防止や感染対策、患者誤認防止などについての手順を記載しており、車椅子や杖を使用している患者の対応などを細かく設定することで生理検査室での患者対応を統一しています。SOP を作成する際は文書管理された関連文書を用いて文言の出典を明確に記載し、他の手順書との間に矛盾が生じないように丁寧に作成していくことが必要です。

【精度管理について】生理検査の精度管理頻度・内容などは各施設様々です。2015 年より ISO 認定範囲分類に新たに追加され

るなど、これまで検査者間での技術・技量の差が大きいため精度管理として論じられる機会も少なく、検体検査と比較して標準化に遅れをとっていることも懸念されます。方法に関しては今後さらなる検討が必要ですが、当院生理検査室では校正機器などを用いた機材の点検、検査者間での技量を管理する目的も含めた実施者間差、検査結果の解釈としてカルテレビューを精度管理として行っています。

心電計では疑似波形装置を用いて波形を記録し、内部精度管理として収集しています。また、心電計は複数台あるため、異なる機種の性能差(機種間差)や同一機種間での性能差(機器間差)の有無も同時に管理しています。心電計の精度管理頻度は当初、月に 1 回行っていましたが、検査の品質維持の為に必要な頻度・方法の検討結果に基づいた独自のルール・手順をつくり、半年に 1 回の頻度で行っています。

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超音波機器はファントムを用いて精度管理を行っています。ファントムには距離分解能・方位分解能・その他多数の計測項目がありますが、現状ではどの計測を行うべきか明確な基準がなく、上記の心電計の場合同様の検討結果に基づき、半年に 1 回の頻度ですべての機材、すべての探触子を用い精度管理を行っています。

肺機能検査は校正された 3L シリンジを用いて行っており、VCは毎日精度管理を行い、その他FVC、FRC、DLco、CV は 月 一回の頻度で精度管理を行っています。校正シリンジは定期的なメーカーによる校正が必要ですが、こちらも検討及び経済面考慮により、シリンジの校正頻度は 2 年に 1 回と設定しています。

心電図検査、超音波検査の実施者間差は正常被験者で検査を行い、検査の手順、電極の装着位置や計測値をスタッフ一人ずつ観察し、SOP と一致しているかの確認や力量の格差を少なくするために技術面の精度管理として行っています。

検査結果の解釈の統一を図るため、年 1 回のフォトサーベイとともに、「カルテレビュー」として生理検査室が報告した検査結果と医師の記載した診断が合致しているかの確認・教育を含めたスタッフの理解度の確認を月 1 回の頻度で行っています。

【まとめ】ISO 15189 認定審査を経験して、QMS 整備活動以前は患者の苦情処理や臨床へのアドバイスサービスな

どその他諸々の対応が不十分であったと痛感しました。認定取得後はこれらの改善だけでなく、危機管理としてシステムダウン時や災害時にどのように患者を誘導するかなどの対応手順設定及び定期的なシュミレーション実施など、リスクを抽出することにより格段に生理検査室の品質が向上していくものと思います。精度管理など、まだまだ検討の余地も残されていますが、さらに最適を目指し PDCA サイクル(計画〔Plan〕→実行〔Do〕→効果の確認〔Check〕→改善〔Action〕→ 見直し〔Plan〕…)を繰り返しながら、より一層の患者や臨床側へのサービス向上へ繋げ、検査品質維持にも努めていきたいと思います。

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