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Curators exchange programme

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参加者 [五十音順]

荒木夏実 森美術館

植松由佳 国立国際美術館

遠藤水城 インディペンデントキュレーター

北出智恵子 金沢21世紀美術館

木村絵理子 横浜美術館

坂本顕子 熊本市現代美術館

鈴木勝雄 東京国立近代美術館

高橋しげみ 青森県立美術館

プログラム

5月10日|ロンドン

Tate Britain Gasworks

5月11日|ロンドン

Chisenhale The Approach

Zoo Art Enterprises Whitechapel Gallery

5月12日|ロンドン

British Art Show 7 White Cube

5月13日|グラスゴー

The Modern Institute The Common Guild

Mary Mary

5月14日|ニューカッスル・ゲーツヘッド

Workplace Gallery Locus +

BALTIC

Arts Council England (North East)

5月17日|ノッティンガム

Nottingham Contemporary

Moot Gallery

ブリティッシュ・カウンシルは、日英の美術館やキュレー

ターの交流を促進し、英国の現代アートシーンを幅広く紹介

することを目的に、日本のキュレーターの方々を英国へ招聘

し、現地の美術館やギャラリーなどを訪問する交流プログ

ラムを2010年5月9日―19日に実施しました。

今回の交流プログラムには日本各地で活躍するキュレー

ターの方々8名が参加。ロンドン、グラスゴー、ニューカッス

ル、ノッティンガムの各都市の美術館やギャラリー、オルタ

ナティブスペースなどを訪問し、現地のキュレーターやアー

ト関係者とともに日英両国のアートシーンの現状について

情報交換したほか、経済危機や政権交代など文化を取り巻

く環境がめまぐるしく変化する中、アートや芸術機関の役割

などについてディスカッションを行いました。The Modern Institute, Glasgow

Japan Foundation, London Nottingham Contemporary, Nottingham

1 2

参加者 [五十音順]

荒木夏実 森美術館

植松由佳 国立国際美術館

遠藤水城 インディペンデントキュレーター

北出智恵子 金沢21世紀美術館

木村絵理子 横浜美術館

坂本顕子 熊本市現代美術館

鈴木勝雄 東京国立近代美術館

高橋しげみ 青森県立美術館

プログラム

5月10日|ロンドン

Tate Britain Gasworks

5月11日|ロンドン

Chisenhale The Approach

Zoo Art Enterprises Whitechapel Gallery

5月12日|ロンドン

British Art Show 7 White Cube

5月13日|グラスゴー

The Modern Institute The Common Guild

Mary Mary

5月14日|ニューカッスル・ゲーツヘッド

Workplace Gallery Locus +

BALTIC

Arts Council England (North East)

5月17日|ノッティンガム

Nottingham Contemporary

Moot Gallery

ブリティッシュ・カウンシルは、日英の美術館やキュレー

ターの交流を促進し、英国の現代アートシーンを幅広く紹介

することを目的に、日本のキュレーターの方々を英国へ招聘

し、現地の美術館やギャラリーなどを訪問する交流プログ

ラムを2010年5月9日―19日に実施しました。

今回の交流プログラムには日本各地で活躍するキュレー

ターの方々8名が参加。ロンドン、グラスゴー、ニューカッス

ル、ノッティンガムの各都市の美術館やギャラリー、オルタ

ナティブスペースなどを訪問し、現地のキュレーターやアー

ト関係者とともに日英両国のアートシーンの現状について

情報交換したほか、経済危機や政権交代など文化を取り巻

く環境がめまぐるしく変化する中、アートや芸術機関の役割

などについてディスカッションを行いました。The Modern Institute, Glasgow

Japan Foundation, London Nottingham Contemporary, Nottingham

1 2

London|ロンドン

British Art Show 7  ブリティッシュ・アート・ショー7

http://www.britishartshow.co.uk/

ヘイワード・ギャラリーが企画する5年に一度の国内巡回展。英国美術の

「今」を概観する展示として評価が高く、ターナー賞への登竜門としても

知られる。2010年秋から始まる第7回展は、ノッティンガムを皮切りにロ

ンドン、グラスゴー、プリマスへと巡回する。本編から展示の方向性が従

来のサーベイ展からキュレーション展へと変わり、「彗星の時代」を展示

タイトルに、ロジャー・ヒオンズ以下39名が彗星をモチーフや概念に取り

入れた作品を発表する。

Chisenhale  チセンヘール

64 Chisenhale Road, London E3 5QZ

http://www.chisenhale.org.uk/

ロンドン東部の現代アートに特化したギャラリーで、展覧会、パフォーマ

ンス、フィルム・スクリーニングなど様々なプログラムを実施している。

アーティストのキャリアの初期の段階で個展をコミッションすることで

定評があり、これまでにレイチェル・ホワイトリード、サム・テイラーウッ

ド、ウォルフガング・ティルマンスなど名だたるアーティストがチセンヘー

ルで個展を開催している。また地域コミュニティーや学校向けプログラ

ムにも力を入れており、一般の人々のアートへのアクセス向上に寄与する

ことを目指している。

Gasworks  ガスワークス

155 Vauxhall Street, London SE11 5RH

http://www.gasworks.org.uk/

南ロンドンに位置する現代アートスペース。アーティストにスタジオス

ペースを提供するほか、海外のアーティストを対象とした国際レジデン

シープログラムや、展覧会、地域コミュニティーのためのプロジェクトな

どを展開。アーティストやアート組織の国際的なネットワーク作りを目的

としたトライアングル・アーツ・トラストに加盟しており、毎年6~8名の英

国人アーティストをキューバ、中国、南アフリカなどで行われる海外のレ

ジデンシープログラムに派遣する事業も手がけている。

Glasgow|グラスゴー

Mary Mary  メリー・メリー

Suite 2/1, 6 Dixon Street, Glasgow

http://www.marymarygallery.co.uk/

グラスゴー市街にあるコマーシャルギャラリー。ディレクターのハナ・ロ

ビンソンを含むグラスゴー・スクール・オブ・アートの卒業生3名による、

自宅を使った即席のプロジェクト・スペースとして2004年に発足。2006

年に現在の場所に移転し、ロビンソン単独のギャラリーとして再出発。

2011年のヴェネツイア・ビエンナーレ、スコットランド館代表に決定して

いるカーラ・ブラックを筆頭に気鋭な若手を抱え、開廊後わずかながら

も、今後のグラスゴーアートを牽引するギャラリーとして注目されている。

The Common Guild  ザ・コモン・ギルド

21 Woodlands Terrace, Glasgow G3 6DF

http://www.thecommonguild.org.uk/

グラスゴー市内西部に2006年に設立された現代アートスペース。国際水

準の展示プログラムやイベントの企画のほか、グラスゴーのギャラリー・

オブ・モダン・アートと共同で市のために現代アートのコレクションを構

築したり、現代アートフェスティバル「グラスゴー・インターナショナル」の

企画も担当するなど活動内容が広範。また、キュレーターを対象にグ

ループ・ディスカッションを月例で実施し、情報交換とネットワークづく

りの場を提供するなど、キュレーション環境の向上を図る活動も目立つ。

The Modern Institute  ザ・モダン・インスティテュート

14—20 Osborne Street, Glasgow G1 5QN

http://www.themoderninstitute.com/

グラスゴー市街オズボーン通りにあるコマーシャルギャラリー。12年間構

えた旧スペースから2010年春に現在地に移転。ジェレミー・デラーやサ

イモン・スターリングなどポストYBA世代の主要な美術家を数多く抱え、

グラスゴーの現代アートを国際的に広めた中心的存在と評価されてい

る。また、レジデンシープログラムの導入やゲストキュレーターの起用、

オフサイトイベントの企画など非商業的な活動も多く、新タイプのギャラ

リーの成功例として後進のギャラリーに大きな影響を与えている。

Tate Britain  テート・ブリテン

Millbank, London SW1P 4RG

http://www.tate.org.uk/britain/

国内4箇所にある美術館「テート」の一館にあたり、ロンドン中心部ミル

バンクに位置する。常設展示の中心はテート・ギャラリー時代から受け

継いだ16世紀以降の伝統絵画になるが、フランシス・ベーコンなど近現

代の作品も充実。企画展もロマン派からクリス・オフィリまでと幅が広

い。また、「ターナー賞」のホスト・ギャラリーを務める一方で、「テート・

トリエンナーレ」「デュビーンズ・コミッション」など英国の現代美術の動

向を検証する重要な展示も多数企画している。

The Approach  ザ・アプローチ

47 Approach Road, Bethnal Green, London E2 9LY

http://www.theapproach.co.uk/

ロンドン東部ベスナル・グリーン界隈、パブの二階にスペースを構えるコ

マーシャルギャラリー。1997年にアーティスト・ラン・スペースとして発足

したが、ディレクターのジェイク・ミラーの指揮のもと優れた若手を多数

輩出し、数年内には市を代表するギャラリーへと成長。2006年にはホク

ストン界隈に第二号店を、翌年には市内中心部に第三号店を開廊し、ロ

ンドンのアートシーンを牽引(共に現在は存在しない)。契約作家には、

ギャリー・ウェブやデイヴ・ミュラーら国内外の作家20余名が控える。

Whitechapel Gallery  ホワイトチャペル・ギャラリー

77-82 Whitechapel High Street, London, E1 7QX

http://www.whitechapelgallery.org/

ロンドン東部にある美術館。1901年に当時にしては珍しい収蔵品を持た

ぬ展示施設として開館。以来、ピカソ、ポロック、ロスコ、フリーダ・カーロ

など各時代の主要な作家を率先して英国に紹介。数年の改築期間を経

て、約二倍のスペースとなって2009年春に再オープンしてからは、コミッ

ションワークやワークショップ、リサーチ用の施設が一層充実。国際性

を保ちつつも地元民のための公募展があるなど、地域コミュニティーに

根付いた活動でも知られる。

White Cube  ホワイト・キューブ

25-26 Mason's Yard, London SW1Y 6BU

48 Hoxton Square, London N1 6PB

http://www.whitecube.com/

市内中心部と東部に拠点を置くロンドンを代表するコマーシャルギャラ

リーのひとつ。93年の開廊以来、オーナーのジェイ・ジョップリンの手腕

のもと、デミアン・ハーストやトレイシー・エミンなど多くの「ヤング・ブリ

ティッシュ・アーティスト」を世に排出し、90年代の現代アートブームの

火付け役となる。ギャラリーの移転と拡張が続いた2000年以降は、美し

い展示室、質の高い展示、作家のスター性と三拍子揃った戦略で、ロンド

ンアート界の頂点に立つ。その影響は今もなお計り知れない。

Zoo Art Enterprises  ズー・アート・エンタープライズ

http://www.zooartenterprises.com/

2004年に発足した「ズー・アート・フェア」の運営団体。公的資金に加え、

ギャラリー、コレクター、美術関係企業からの資金援助をもとに活動をし

ている。大手ギャラリー対象の「フリーズ・アート・フェア」に対し、同フェ

アは開廊まもない若手ギャラリーやアーティスト集団、キュレーター・グ

ループなどで構成。美術館との連携も多く、販売と展示と教育の場がひ

とつに融合した新モデルのフェアとして評価を受けている。近年、名称か

ら「Art Fair」の文字が削除されるなど、商業性がより薄まっている。

Tate Britain, London The Approach, London Mary Mary, Glasgow

3 4

London|ロンドン

British Art Show 7  ブリティッシュ・アート・ショー7

http://www.britishartshow.co.uk/

ヘイワード・ギャラリーが企画する5年に一度の国内巡回展。英国美術の

「今」を概観する展示として評価が高く、ターナー賞への登竜門としても

知られる。2010年秋から始まる第7回展は、ノッティンガムを皮切りにロ

ンドン、グラスゴー、プリマスへと巡回する。本編から展示の方向性が従

来のサーベイ展からキュレーション展へと変わり、「彗星の時代」を展示

タイトルに、ロジャー・ヒオンズ以下39名が彗星をモチーフや概念に取り

入れた作品を発表する。

Chisenhale  チセンヘール

64 Chisenhale Road, London E3 5QZ

http://www.chisenhale.org.uk/

ロンドン東部の現代アートに特化したギャラリーで、展覧会、パフォーマ

ンス、フィルム・スクリーニングなど様々なプログラムを実施している。

アーティストのキャリアの初期の段階で個展をコミッションすることで

定評があり、これまでにレイチェル・ホワイトリード、サム・テイラーウッ

ド、ウォルフガング・ティルマンスなど名だたるアーティストがチセンヘー

ルで個展を開催している。また地域コミュニティーや学校向けプログラ

ムにも力を入れており、一般の人々のアートへのアクセス向上に寄与する

ことを目指している。

Gasworks  ガスワークス

155 Vauxhall Street, London SE11 5RH

http://www.gasworks.org.uk/

南ロンドンに位置する現代アートスペース。アーティストにスタジオス

ペースを提供するほか、海外のアーティストを対象とした国際レジデン

シープログラムや、展覧会、地域コミュニティーのためのプロジェクトな

どを展開。アーティストやアート組織の国際的なネットワーク作りを目的

としたトライアングル・アーツ・トラストに加盟しており、毎年6~8名の英

国人アーティストをキューバ、中国、南アフリカなどで行われる海外のレ

ジデンシープログラムに派遣する事業も手がけている。

Glasgow|グラスゴー

Mary Mary  メリー・メリー

Suite 2/1, 6 Dixon Street, Glasgow

http://www.marymarygallery.co.uk/

グラスゴー市街にあるコマーシャルギャラリー。ディレクターのハナ・ロ

ビンソンを含むグラスゴー・スクール・オブ・アートの卒業生3名による、

自宅を使った即席のプロジェクト・スペースとして2004年に発足。2006

年に現在の場所に移転し、ロビンソン単独のギャラリーとして再出発。

2011年のヴェネツイア・ビエンナーレ、スコットランド館代表に決定して

いるカーラ・ブラックを筆頭に気鋭な若手を抱え、開廊後わずかながら

も、今後のグラスゴーアートを牽引するギャラリーとして注目されている。

The Common Guild  ザ・コモン・ギルド

21 Woodlands Terrace, Glasgow G3 6DF

http://www.thecommonguild.org.uk/

グラスゴー市内西部に2006年に設立された現代アートスペース。国際水

準の展示プログラムやイベントの企画のほか、グラスゴーのギャラリー・

オブ・モダン・アートと共同で市のために現代アートのコレクションを構

築したり、現代アートフェスティバル「グラスゴー・インターナショナル」の

企画も担当するなど活動内容が広範。また、キュレーターを対象にグ

ループ・ディスカッションを月例で実施し、情報交換とネットワークづく

りの場を提供するなど、キュレーション環境の向上を図る活動も目立つ。

The Modern Institute  ザ・モダン・インスティテュート

14—20 Osborne Street, Glasgow G1 5QN

http://www.themoderninstitute.com/

グラスゴー市街オズボーン通りにあるコマーシャルギャラリー。12年間構

えた旧スペースから2010年春に現在地に移転。ジェレミー・デラーやサ

イモン・スターリングなどポストYBA世代の主要な美術家を数多く抱え、

グラスゴーの現代アートを国際的に広めた中心的存在と評価されてい

る。また、レジデンシープログラムの導入やゲストキュレーターの起用、

オフサイトイベントの企画など非商業的な活動も多く、新タイプのギャラ

リーの成功例として後進のギャラリーに大きな影響を与えている。

Tate Britain  テート・ブリテン

Millbank, London SW1P 4RG

http://www.tate.org.uk/britain/

国内4箇所にある美術館「テート」の一館にあたり、ロンドン中心部ミル

バンクに位置する。常設展示の中心はテート・ギャラリー時代から受け

継いだ16世紀以降の伝統絵画になるが、フランシス・ベーコンなど近現

代の作品も充実。企画展もロマン派からクリス・オフィリまでと幅が広

い。また、「ターナー賞」のホスト・ギャラリーを務める一方で、「テート・

トリエンナーレ」「デュビーンズ・コミッション」など英国の現代美術の動

向を検証する重要な展示も多数企画している。

The Approach  ザ・アプローチ

47 Approach Road, Bethnal Green, London E2 9LY

http://www.theapproach.co.uk/

ロンドン東部ベスナル・グリーン界隈、パブの二階にスペースを構えるコ

マーシャルギャラリー。1997年にアーティスト・ラン・スペースとして発足

したが、ディレクターのジェイク・ミラーの指揮のもと優れた若手を多数

輩出し、数年内には市を代表するギャラリーへと成長。2006年にはホク

ストン界隈に第二号店を、翌年には市内中心部に第三号店を開廊し、ロ

ンドンのアートシーンを牽引(共に現在は存在しない)。契約作家には、

ギャリー・ウェブやデイヴ・ミュラーら国内外の作家20余名が控える。

Whitechapel Gallery  ホワイトチャペル・ギャラリー

77-82 Whitechapel High Street, London, E1 7QX

http://www.whitechapelgallery.org/

ロンドン東部にある美術館。1901年に当時にしては珍しい収蔵品を持た

ぬ展示施設として開館。以来、ピカソ、ポロック、ロスコ、フリーダ・カーロ

など各時代の主要な作家を率先して英国に紹介。数年の改築期間を経

て、約二倍のスペースとなって2009年春に再オープンしてからは、コミッ

ションワークやワークショップ、リサーチ用の施設が一層充実。国際性

を保ちつつも地元民のための公募展があるなど、地域コミュニティーに

根付いた活動でも知られる。

White Cube  ホワイト・キューブ

25-26 Mason's Yard, London SW1Y 6BU

48 Hoxton Square, London N1 6PB

http://www.whitecube.com/

市内中心部と東部に拠点を置くロンドンを代表するコマーシャルギャラ

リーのひとつ。93年の開廊以来、オーナーのジェイ・ジョップリンの手腕

のもと、デミアン・ハーストやトレイシー・エミンなど多くの「ヤング・ブリ

ティッシュ・アーティスト」を世に排出し、90年代の現代アートブームの

火付け役となる。ギャラリーの移転と拡張が続いた2000年以降は、美し

い展示室、質の高い展示、作家のスター性と三拍子揃った戦略で、ロンド

ンアート界の頂点に立つ。その影響は今もなお計り知れない。

Zoo Art Enterprises  ズー・アート・エンタープライズ

http://www.zooartenterprises.com/

2004年に発足した「ズー・アート・フェア」の運営団体。公的資金に加え、

ギャラリー、コレクター、美術関係企業からの資金援助をもとに活動をし

ている。大手ギャラリー対象の「フリーズ・アート・フェア」に対し、同フェ

アは開廊まもない若手ギャラリーやアーティスト集団、キュレーター・グ

ループなどで構成。美術館との連携も多く、販売と展示と教育の場がひ

とつに融合した新モデルのフェアとして評価を受けている。近年、名称か

ら「Art Fair」の文字が削除されるなど、商業性がより薄まっている。

Tate Britain, London The Approach, London Mary Mary, Glasgow

3 4

Newcastle, Gateshead|ニューカッスル・ゲーツヘッド

Arts Council England  アーツ・カウンシル・イングランド

http://www.artscouncil.org.uk/

イングランドにおける公的な芸術支援機関。文化・メディア・スポーツ省

からの予算や国営宝くじ基金を運用し、美術、演劇、音楽、写真、工芸な

ど広範な芸術団体やプロジェクトに対して助成を行う。若手アーティスト

の育成や芸術団体の発展にも力を注ぎ、イングランドの芸術文化の振興

を目指している。“アームズ・レングス”の法則に基づいて政府からは独

立して運営され、英国内でイングランド、ウェールズ、北アイルランドの4

つの地域にそれぞれ個別のアーツカウンシルが置かれている。

BALTIC  バルチック

Gateshead Quays, South Shore Road, Gateshead, NE8 3BA, UK

http://www.balticmill.com/

ゲーツヘッドにある英国北部最大の現代アートセンター。開館は2002年

7月。建物はタイン川に臨む50年代の旧製粉所をギャラリーとして転用し

たもの。独自のコレクションを持たずに、6階建ての館内に配された5つ

の展示室を用いて、年間20に上る企画展示を常時開催。国際的に活躍す

る中堅以上の美術家を意欲的に紹介する一方で、若手対象のレジデン

シープログラムや地域コミュニティーに的を絞った教育プログラムにも

力を入れている。

Locus +  ローカス・プラス

Room 17, 3rd Floor, Wards Bldg, 31/39 High Bridge, Newcastle Upon Tyne, NE1, 1EW

http://www.locusplus.org.uk/

ニューカッスルに拠点を置く現代アートのコミッションに特化した団体。

ローカス・プラスとしての設立は1993年だが、ベースメント・グループと

して1979年に発足。公園や広場などの公共空間に社会的問題意識に根

付いた期間限定のパブリックアートを設置するという、地域社会とアー

トとの融合を促す独特のアプローチを取っている。過去のプロジェクト

は50件以上にのぼり、マーク・ウォリンジャーら著名な作家が名を連ね

る。出版物やマルティプルの発行も行っている。

Workplace Gallery  ワークプレイス・ギャラリー

The Old Post Office, 19/21 West Street, Gateshead, Tyne & Wear, NE8 1AD

http://www.workplacegallery.co.uk/

ゲーツヘッドにあるアーティスト・ラン・スペース。ニューカッスル大学の

卒業生二人、マイルス・サーロウとポール・モスにより2005年に設立。以

来、ロンドンに移らなくても活動可能な基盤作りを目標に、世界各地の

アートフェアに参加し、作家陣を国際舞台に向けて紹介。2008年に現在

のスペースに移転。マーカス・コーツやマット・ストークスなどの気鋭な

若手を数多く抱え、キュレーターとの実験的な共同企画も多く、次世代

の英国美術の担い手として期待されている。

Nottingham|ノッティンガム

Moot Gallery  ムート・ギャラリー

1 Thoresby Street, Nottingham, NG1 1AJ

http://www.mootgallery.org/

ノッティンガムにあるアーティスト・ラン・スペース。ノッティンガム・トレ

ント大学の卒業生4名により2005年秋に設立、2008年に現在地に移

転。既存の商業枠に収まりにくい若手への展示支援と、地元の美術シー

ンの活性化を二本柱に活動。販売などの商業面については無関与で、む

しろ展示を通じて作家と画廊や美術館をつなぐ媒介になることを重視し

ている。活動歴はまだ5年と浅いが、ここをモデルにした後続の美術団

体が出現するなど大きな影響力を持つ。

Nottingham Contemporary  ノッティンガム・コンテンポラリー

Weekday Cross, Nottingham, NG1 2GB

http://www.nottinghamcontemporary.org/

2009年11月に開館したノッティンガムのレース・マーケット地区にある

現代アートセンター。この都市のレース編み産業に敬意を払い、編み目

模様が刻まれた建物の外観が特徴。3000平米を越えるフロアスペース

は国内最大級で、展示室4つと映像やパフォーマンス用の劇場、教育用

のスペース、カフェなどが完備。イングランド中部を代表する美術施設と

して注目されており、2010年秋には「ブリティッシュ・アート・ショー 7」

のホストギャラリーを務める。

Workplace Gallery, Newcastle, Gateshead Moot Gallery, Nottingham

Nottingham Contemporary, NottinghamLocus +, Newcastle, Gateshead

5 6

Newcastle, Gateshead|ニューカッスル・ゲーツヘッド

Arts Council England  アーツ・カウンシル・イングランド

http://www.artscouncil.org.uk/

イングランドにおける公的な芸術支援機関。文化・メディア・スポーツ省

からの予算や国営宝くじ基金を運用し、美術、演劇、音楽、写真、工芸な

ど広範な芸術団体やプロジェクトに対して助成を行う。若手アーティスト

の育成や芸術団体の発展にも力を注ぎ、イングランドの芸術文化の振興

を目指している。“アームズ・レングス”の法則に基づいて政府からは独

立して運営され、英国内でイングランド、ウェールズ、北アイルランドの4

つの地域にそれぞれ個別のアーツカウンシルが置かれている。

BALTIC  バルチック

Gateshead Quays, South Shore Road, Gateshead, NE8 3BA, UK

http://www.balticmill.com/

ゲーツヘッドにある英国北部最大の現代アートセンター。開館は2002年

7月。建物はタイン川に臨む50年代の旧製粉所をギャラリーとして転用し

たもの。独自のコレクションを持たずに、6階建ての館内に配された5つ

の展示室を用いて、年間20に上る企画展示を常時開催。国際的に活躍す

る中堅以上の美術家を意欲的に紹介する一方で、若手対象のレジデン

シープログラムや地域コミュニティーに的を絞った教育プログラムにも

力を入れている。

Locus +  ローカス・プラス

Room 17, 3rd Floor, Wards Bldg, 31/39 High Bridge, Newcastle Upon Tyne, NE1, 1EW

http://www.locusplus.org.uk/

ニューカッスルに拠点を置く現代アートのコミッションに特化した団体。

ローカス・プラスとしての設立は1993年だが、ベースメント・グループと

して1979年に発足。公園や広場などの公共空間に社会的問題意識に根

付いた期間限定のパブリックアートを設置するという、地域社会とアー

トとの融合を促す独特のアプローチを取っている。過去のプロジェクト

は50件以上にのぼり、マーク・ウォリンジャーら著名な作家が名を連ね

る。出版物やマルティプルの発行も行っている。

Workplace Gallery  ワークプレイス・ギャラリー

The Old Post Office, 19/21 West Street, Gateshead, Tyne & Wear, NE8 1AD

http://www.workplacegallery.co.uk/

ゲーツヘッドにあるアーティスト・ラン・スペース。ニューカッスル大学の

卒業生二人、マイルス・サーロウとポール・モスにより2005年に設立。以

来、ロンドンに移らなくても活動可能な基盤作りを目標に、世界各地の

アートフェアに参加し、作家陣を国際舞台に向けて紹介。2008年に現在

のスペースに移転。マーカス・コーツやマット・ストークスなどの気鋭な

若手を数多く抱え、キュレーターとの実験的な共同企画も多く、次世代

の英国美術の担い手として期待されている。

Nottingham|ノッティンガム

Moot Gallery  ムート・ギャラリー

1 Thoresby Street, Nottingham, NG1 1AJ

http://www.mootgallery.org/

ノッティンガムにあるアーティスト・ラン・スペース。ノッティンガム・トレ

ント大学の卒業生4名により2005年秋に設立、2008年に現在地に移

転。既存の商業枠に収まりにくい若手への展示支援と、地元の美術シー

ンの活性化を二本柱に活動。販売などの商業面については無関与で、む

しろ展示を通じて作家と画廊や美術館をつなぐ媒介になることを重視し

ている。活動歴はまだ5年と浅いが、ここをモデルにした後続の美術団

体が出現するなど大きな影響力を持つ。

Nottingham Contemporary  ノッティンガム・コンテンポラリー

Weekday Cross, Nottingham, NG1 2GB

http://www.nottinghamcontemporary.org/

2009年11月に開館したノッティンガムのレース・マーケット地区にある

現代アートセンター。この都市のレース編み産業に敬意を払い、編み目

模様が刻まれた建物の外観が特徴。3000平米を越えるフロアスペース

は国内最大級で、展示室4つと映像やパフォーマンス用の劇場、教育用

のスペース、カフェなどが完備。イングランド中部を代表する美術施設と

して注目されており、2010年秋には「ブリティッシュ・アート・ショー 7」

のホストギャラリーを務める。

Workplace Gallery, Newcastle, Gateshead Moot Gallery, Nottingham

Nottingham Contemporary, NottinghamLocus +, Newcastle, Gateshead

5 6

Tate Britain, LondonChisenhale, London

Chisenhale, London

Gasworks, London Workplace Gallery, Newcastle, GatesheadThe Glasgow School of Art, Glasgow

7 8

Tate Britain, LondonChisenhale, London

Chisenhale, London

Gasworks, London Workplace Gallery, Newcastle, GatesheadThe Glasgow School of Art, Glasgow

7 8

という。なるほど、格調高き流儀がありお国訛りが差別されるロ

ンドンの排他性を克服するよりも、一足飛びにグローバル・マー

ケットにアクセスするほうがメリットが大きいのだろう。良いもの

を発信していく力があれば、地方にも大きな可能性が広がる時

代になったのだ。

 大英帝国の遺産を誇る大きな美術館からフットワークの軽い

小規模の機関まで、芸術活動を支えるあらゆる手段をもつ英国

の懐の深さに改めて感心させられた。この層の厚さ、多様なアプ

ローチの方法こそが、したたかに、しなやかに、芸術活動を存続

させる秘訣なのだろう。アーツ・カウンシルが、大小に関わらず実

にさまざまな活動に資金援助をしていることもこのことを裏付け

ている。他国と同様に現在厳しい財政難に苦しむ英国が、それで

も日本人の私の目からすると驚くほど芸術支援に手厚いのは、芸

術が外交や政治、経済にとっていかに有効であるかを、この国が

熟知しているからだろう。

 歴史も価値観も異なる英国の「戦略」に圧倒され、我が身を嘆

いても仕方ない。しかし美術畑で働く者として何となく羨ましさ

と悔しさが残るのは否めない。では日本の美術館には今後どのよ

うな可能性があるのだろう。老練な英国の戦略から盗めるところ

はないのか。

 1980年代から90年代にかけて、自治体主導で雨後の筍のよう

に日本全国に建てられた文化ホールや美術館は、明らかに需給

のバランスを欠くものであった。現在多くの施設で事業の縮小が

余儀なくされている。しかし、このような経済的にも厳しい時代

だからこそ、芸術機関はその真価を問われているのだ。毎年税金

から自動的に予算が計上されてきた習慣から脱却し、イギリスの

多くの機関がしのぎを削って主張しているような「存在意義」に

ついて、他とは異なる特性について、公設私設に関わらずそれぞ

れの美術館が考え抜く必要があるだろう。

 また、コミュニティーへの働きかけとして、美術館教育に本気

で取り組むことも必要である。10年、20年のスパンを見据えて未

来のアート・ファンを育成することは、一過性の展覧会以上に意

義のあることだ。今、美術館の教育プログラムに参加する子供は

10年後にアーティストになるかもしれないし、コレクターになっ

ているかもしれない。まだ見ぬオーデェエンスを開拓し、将来に

向かっても種をまく仕事を戦略的に行うことは、アートと社会を

しっかりとつなげるために重要だ。

 最後に、美術館ももっと政治的、経済的に社会に向かって働き

かけを行っていく必要があるだろう。英国のYBAブームは、ある

傾向をもつアーティストたちの活動を文脈化し、ブランド化して

国際的に売り出す文化戦略として結果的に機能した。社会や

マーケットの動向を敏感にキャッチしながらムーブネントを作っ

ていくこと。商業主義とは一線を画しながらも、アートを社会か

ら孤立させないためにより多くの試みがなされてもよいだろう。

そして行政や社会に対して美術館も堂々と発言していくべきだ。

それを館長や役人に任せるのでなく、若い現役の美術館人が声

を上げること。リスクを承知で反論し、提言していくこと。美術館

も甘えから脱して行動しなければいけない。そんなことを、43歳

の首相が誕生したばかりのイギリスで考えていた。

 今回の英国スタディー・ツアーでは、美術館以外の多彩な機関

や地方都市を訪問したことで、多くの新たな発見があった。

 まず初めに印象的だったのは、各機関のもつ明確な存在意義

への意識だ。イギリスには大きな美術館だけではなく、小規模の

アートスペースが数多くあるが、それぞれが独自の目的をもって

活動している。例えばサウス・ロンドンのガス・ワークスは、アー

ティスト・イン・レジデンスやワークショップを通じてアーティス

トの国際交流の橋渡しをすることを目的の主眼とする。チゼン

ヘール・ギャラリーは、有望なアーティストの初期の活動をサ

ポートすることに力を入れており、実際に著名なアーティストの

初個展を数多く実施してきた経験をもつ。アートスペースが多い

ことは現代美術の環境としては恵まれているが、資金調達などの

面で当然競争が起こってくる。施設の存続のために、各機関は他

との差別化をはかり、個性を主張しあう。また、地域の支持を得

るために家族向けのワークショップ、レクチャー、レジデンス見

学会など、教育普及活動に力を入れていることも印象に残った。

 グラスゴーでは、ロンドンとは異なる人情味あふれる雰囲気

と、作家と地域との強いつながりを感じた。モダン・インスティ

チュートではジム・ランビーの大規模な新作展が開催されてい

た。グラスゴー出身の国際アーティストとして世界中を飛び回っ

ているランビーだが、地元のギャラリーでの個展では決して手を

抜くことなく新たな挑戦を続けている。ユニークな活動を行うコ

モン・ギルドのスペースは、ダグラス・ゴードンが自宅を提供した

ものだという。美術の名門グラスゴー美術学校の存在、その出身

者であるスター・アーティストの地域への貢献は、後進のアー

ティストたちにとって大きな刺激となっているはずだ。

 IT技術の発達やグローバル・マーケットの動向もまた、地域に

新たな可能性を与えている要因のようだ。ニューカッスルのワー

クプレイス・ギャラリーを運営するマイルス・サーロウは、ホーム

ページを通して情報を発信できることの意義を強く感じるとい

う。また彼はバーゼルやマイアミの国際アートフェアに出品して

いるが、ロンドンよりもむしろ海外の方が心理的距離が近いのだ

英国の芸術戦略から学べること―荒木夏実|森美術館

「揺れ」のようなものを注意深く扱う人たちの姿勢を感受するこ

とができたからだ。それは社交的な言葉や公的な概要説明では

わからないのだけれども、そこに取り組んでいる人はみな、その

不安と喜びを隠せないようなところがあり、それはなんだか微笑

ましいと同時に、自分を勇気づけられるようなものでもあった。

 とりわけグラスゴーで考えたのは、従来の「近代的」な美術館

制度とも「後期資本主義的」なアートセンター/アートプロジェク

ト/アートフェスティバルとも違う、アートシステムの可能性につ

いてだった。それは小さな動きが相互に有機的に結びついたエコ

ロジカルなシステムだ。グラスゴーの街の規模がそれを規定して

いるのかもしれないが、そこでは良く節制されたエコノミーとお

互い顔が見える距離での気持ちのよいコミュニケーションが感じ

られた。あるいは大きな資本を必要としない創造性の創発と交

歓。フェリックスガタリに「3つのエコロジー」という本があるが、

そこで彼が提起した、自然や環境だけではない芸術や社会も含

んだ「エコロジー」という概念のことを少し思い出した。グラス

ゴーでのリサーチの成果を仕組みとして「輸入」するのではなく

て、「共感の連鎖」として僕がいる周りで発生させることができた

らいいな。この思いが明確になったことが僕にとっての一番の成

果であり、この成果を個人的な思いにとどめることなくきちんと

展開しなきゃいけないんだろうな、と最近はぼんやり考えている。

美術館やギャラリーの白い壁の中に作品がある。

という見慣れた風景の裏側にはさまざまな仕組みがある。

 アートの仕事をするようになって、美術館やギャラリーやオル

タナティヴスペースやアーティストインレジデンスやアートフェス

ティバルなどの裏側をみることが多くなり、自分自身もそのなか

で仕事をしているわけだけれども、たまにふと「これって別のや

り方があるんじゃないだろうか」、「これを前提にしてるけど、それ

を外した場合どうなるんだろう」、「いっつもこれで苦労するんだ

けど他の人はどうやってんのかなあ」などと、思うことがある。

もっともっと別のやり方。もっともっとアートの在り方に沿ったや

り方。そんなことをいつもないものねだりで思ったりしている。し

かし、自分は企画を主に担当しており、仕組み自体を作り替える

能力があるわけでも、それを任されているわけでもない。なの

で、その仕組み自体を問うことは少ないし、変えたりすることもな

く、自分のことだけをやる。役割分担。それぞれの日常的業務の

維持。

 さて、それじゃいけないんじゃないかなあ、という疑問がやっ

ぱり残る。芸術的な行為はそれを可能にするシステムとの絶えざ

る相互干渉と相互変容を伴っているものだと思うからだ。それは

キュレーションも例外ではなくて、企画をすることは、その企画を

可能にしている枠組みを問うという行為と切り離せないものだと

僕は思う。

 アーカスプロジェクトのディレクター職を辞してから、そんなこ

とをぼんやり考えていたおり、イギリス視察という機会を頂くこ

とができた。結論から言うと、とてもためになったのだが、それは

「やっぱりイギリスの方が進んでいる」とか「日本とは予算規模か

ら違いますよ」とか「アートを支えるシステムがしっかりしていて、

アートを愛している人たちがちゃんと活動している」とか「社会が

アートを必要としている土台から違いますよね」とかいった感慨

を得たからではまったくない。むしろ、内部からゆっくりとじわじ

わと、枠組みを溶かしていくかのように活動する人たちや、軽や

かに領域を横断しながら、アートとその外側の領域との境界の

視察ではなく感受―遠藤水城

Transmission Gallery, Glasgow

9 10

という。なるほど、格調高き流儀がありお国訛りが差別されるロ

ンドンの排他性を克服するよりも、一足飛びにグローバル・マー

ケットにアクセスするほうがメリットが大きいのだろう。良いもの

を発信していく力があれば、地方にも大きな可能性が広がる時

代になったのだ。

 大英帝国の遺産を誇る大きな美術館からフットワークの軽い

小規模の機関まで、芸術活動を支えるあらゆる手段をもつ英国

の懐の深さに改めて感心させられた。この層の厚さ、多様なアプ

ローチの方法こそが、したたかに、しなやかに、芸術活動を存続

させる秘訣なのだろう。アーツ・カウンシルが、大小に関わらず実

にさまざまな活動に資金援助をしていることもこのことを裏付け

ている。他国と同様に現在厳しい財政難に苦しむ英国が、それで

も日本人の私の目からすると驚くほど芸術支援に手厚いのは、芸

術が外交や政治、経済にとっていかに有効であるかを、この国が

熟知しているからだろう。

 歴史も価値観も異なる英国の「戦略」に圧倒され、我が身を嘆

いても仕方ない。しかし美術畑で働く者として何となく羨ましさ

と悔しさが残るのは否めない。では日本の美術館には今後どのよ

うな可能性があるのだろう。老練な英国の戦略から盗めるところ

はないのか。

 1980年代から90年代にかけて、自治体主導で雨後の筍のよう

に日本全国に建てられた文化ホールや美術館は、明らかに需給

のバランスを欠くものであった。現在多くの施設で事業の縮小が

余儀なくされている。しかし、このような経済的にも厳しい時代

だからこそ、芸術機関はその真価を問われているのだ。毎年税金

から自動的に予算が計上されてきた習慣から脱却し、イギリスの

多くの機関がしのぎを削って主張しているような「存在意義」に

ついて、他とは異なる特性について、公設私設に関わらずそれぞ

れの美術館が考え抜く必要があるだろう。

 また、コミュニティーへの働きかけとして、美術館教育に本気

で取り組むことも必要である。10年、20年のスパンを見据えて未

来のアート・ファンを育成することは、一過性の展覧会以上に意

義のあることだ。今、美術館の教育プログラムに参加する子供は

10年後にアーティストになるかもしれないし、コレクターになっ

ているかもしれない。まだ見ぬオーデェエンスを開拓し、将来に

向かっても種をまく仕事を戦略的に行うことは、アートと社会を

しっかりとつなげるために重要だ。

 最後に、美術館ももっと政治的、経済的に社会に向かって働き

かけを行っていく必要があるだろう。英国のYBAブームは、ある

傾向をもつアーティストたちの活動を文脈化し、ブランド化して

国際的に売り出す文化戦略として結果的に機能した。社会や

マーケットの動向を敏感にキャッチしながらムーブネントを作っ

ていくこと。商業主義とは一線を画しながらも、アートを社会か

ら孤立させないためにより多くの試みがなされてもよいだろう。

そして行政や社会に対して美術館も堂々と発言していくべきだ。

それを館長や役人に任せるのでなく、若い現役の美術館人が声

を上げること。リスクを承知で反論し、提言していくこと。美術館

も甘えから脱して行動しなければいけない。そんなことを、43歳

の首相が誕生したばかりのイギリスで考えていた。

 今回の英国スタディー・ツアーでは、美術館以外の多彩な機関

や地方都市を訪問したことで、多くの新たな発見があった。

 まず初めに印象的だったのは、各機関のもつ明確な存在意義

への意識だ。イギリスには大きな美術館だけではなく、小規模の

アートスペースが数多くあるが、それぞれが独自の目的をもって

活動している。例えばサウス・ロンドンのガス・ワークスは、アー

ティスト・イン・レジデンスやワークショップを通じてアーティス

トの国際交流の橋渡しをすることを目的の主眼とする。チゼン

ヘール・ギャラリーは、有望なアーティストの初期の活動をサ

ポートすることに力を入れており、実際に著名なアーティストの

初個展を数多く実施してきた経験をもつ。アートスペースが多い

ことは現代美術の環境としては恵まれているが、資金調達などの

面で当然競争が起こってくる。施設の存続のために、各機関は他

との差別化をはかり、個性を主張しあう。また、地域の支持を得

るために家族向けのワークショップ、レクチャー、レジデンス見

学会など、教育普及活動に力を入れていることも印象に残った。

 グラスゴーでは、ロンドンとは異なる人情味あふれる雰囲気

と、作家と地域との強いつながりを感じた。モダン・インスティ

チュートではジム・ランビーの大規模な新作展が開催されてい

た。グラスゴー出身の国際アーティストとして世界中を飛び回っ

ているランビーだが、地元のギャラリーでの個展では決して手を

抜くことなく新たな挑戦を続けている。ユニークな活動を行うコ

モン・ギルドのスペースは、ダグラス・ゴードンが自宅を提供した

ものだという。美術の名門グラスゴー美術学校の存在、その出身

者であるスター・アーティストの地域への貢献は、後進のアー

ティストたちにとって大きな刺激となっているはずだ。

 IT技術の発達やグローバル・マーケットの動向もまた、地域に

新たな可能性を与えている要因のようだ。ニューカッスルのワー

クプレイス・ギャラリーを運営するマイルス・サーロウは、ホーム

ページを通して情報を発信できることの意義を強く感じるとい

う。また彼はバーゼルやマイアミの国際アートフェアに出品して

いるが、ロンドンよりもむしろ海外の方が心理的距離が近いのだ

英国の芸術戦略から学べること―荒木夏実|森美術館

「揺れ」のようなものを注意深く扱う人たちの姿勢を感受するこ

とができたからだ。それは社交的な言葉や公的な概要説明では

わからないのだけれども、そこに取り組んでいる人はみな、その

不安と喜びを隠せないようなところがあり、それはなんだか微笑

ましいと同時に、自分を勇気づけられるようなものでもあった。

 とりわけグラスゴーで考えたのは、従来の「近代的」な美術館

制度とも「後期資本主義的」なアートセンター/アートプロジェク

ト/アートフェスティバルとも違う、アートシステムの可能性につ

いてだった。それは小さな動きが相互に有機的に結びついたエコ

ロジカルなシステムだ。グラスゴーの街の規模がそれを規定して

いるのかもしれないが、そこでは良く節制されたエコノミーとお

互い顔が見える距離での気持ちのよいコミュニケーションが感じ

られた。あるいは大きな資本を必要としない創造性の創発と交

歓。フェリックスガタリに「3つのエコロジー」という本があるが、

そこで彼が提起した、自然や環境だけではない芸術や社会も含

んだ「エコロジー」という概念のことを少し思い出した。グラス

ゴーでのリサーチの成果を仕組みとして「輸入」するのではなく

て、「共感の連鎖」として僕がいる周りで発生させることができた

らいいな。この思いが明確になったことが僕にとっての一番の成

果であり、この成果を個人的な思いにとどめることなくきちんと

展開しなきゃいけないんだろうな、と最近はぼんやり考えている。

美術館やギャラリーの白い壁の中に作品がある。

という見慣れた風景の裏側にはさまざまな仕組みがある。

 アートの仕事をするようになって、美術館やギャラリーやオル

タナティヴスペースやアーティストインレジデンスやアートフェス

ティバルなどの裏側をみることが多くなり、自分自身もそのなか

で仕事をしているわけだけれども、たまにふと「これって別のや

り方があるんじゃないだろうか」、「これを前提にしてるけど、それ

を外した場合どうなるんだろう」、「いっつもこれで苦労するんだ

けど他の人はどうやってんのかなあ」などと、思うことがある。

もっともっと別のやり方。もっともっとアートの在り方に沿ったや

り方。そんなことをいつもないものねだりで思ったりしている。し

かし、自分は企画を主に担当しており、仕組み自体を作り替える

能力があるわけでも、それを任されているわけでもない。なの

で、その仕組み自体を問うことは少ないし、変えたりすることもな

く、自分のことだけをやる。役割分担。それぞれの日常的業務の

維持。

 さて、それじゃいけないんじゃないかなあ、という疑問がやっ

ぱり残る。芸術的な行為はそれを可能にするシステムとの絶えざ

る相互干渉と相互変容を伴っているものだと思うからだ。それは

キュレーションも例外ではなくて、企画をすることは、その企画を

可能にしている枠組みを問うという行為と切り離せないものだと

僕は思う。

 アーカスプロジェクトのディレクター職を辞してから、そんなこ

とをぼんやり考えていたおり、イギリス視察という機会を頂くこ

とができた。結論から言うと、とてもためになったのだが、それは

「やっぱりイギリスの方が進んでいる」とか「日本とは予算規模か

ら違いますよ」とか「アートを支えるシステムがしっかりしていて、

アートを愛している人たちがちゃんと活動している」とか「社会が

アートを必要としている土台から違いますよね」とかいった感慨

を得たからではまったくない。むしろ、内部からゆっくりとじわじ

わと、枠組みを溶かしていくかのように活動する人たちや、軽や

かに領域を横断しながら、アートとその外側の領域との境界の

視察ではなく感受―遠藤水城

Transmission Gallery, Glasgow

9 10

など、誇れる点も多数ある。しかし、今一度、そのミッションとは

何なのか、自分たちの活動を見直し、うまく「強調して」伝える、と

りわけ、指定管理者制度下にある美術館においては、教育活動

をひとつの「武器」として行政にアピールすること重要性を改め

て思い知った。

 それらのイギリスの美術の層の厚さに圧倒される中、ふと思い

立ち、ツアーの合間にロンドン漱石記念館という小さな博物館

を訪ねた。よく知られるように、漱石は当時の勤務先である五高

(現在の熊本大学)から、熊本に妻子を残したまま、約2 年の歳月

をこのロンドンで過ごした。今から110年前のことである。イギリ

スになじめず引きこもり、倹しい暮らしの中で書籍を買い集め、

その後、日本に戻って数々の傑作を残した漱石。その空気の一端

を感じとってみたくなり、熊本在住の大学教授が私財を投じて、

当時の漱石の下宿の向かいのアパートの1室を買いとった、ガイ

ドブックにも載っていない、この小さな空間に足を運んだのだ。

 そこには、シンプルな中にアール・ヌーヴォー調の装飾を施し

た、漱石こだわりの装丁による著作が並んでいた。漱石は、引きこ

もり生活の中でも、テートやダリッジ・ミュージアムに足を運び、

当時のいわば最先端の「現代美術」であったターナーや、ラファ

エル前派などにもよく親しんだ。その後の、『三四郎』『草枕』をは

じめとする代表作にも、イギリスでその一端をつちかったであろ

う美術的な描写がちりばめられている。

 そのように、いわば当時のイギリス美術の紹介者であった漱石

だが、自身の専門である英文学について、外国人である自分がそ

れを語ることの是非について、深い苦悩の中にいた。しかし、そこ

で漱石は「自己本位」という考え方に至る。その考え方とは、自己

が主にして、他者は賓、つまり、他国の文化についてよく学ぶが、

最終的には自分自身の考えがなくては、それは何のためにもなら

ない、ということである。

 果たして、日本の美術館は、漱石が約100年前に身を削るよう

にして到達した「自己本位」に少しは近づけているだろうか。帰国

した漱石が、教師の職を辞して、自らの考えを「小説」というかた

ちで残し、それが今もなお日本で愛読されているように、このイ

ギリスで得た私の体験が、100年後の日本の美術館の活動の中

に、ささやかでも息づくような仕事を残していければと願う。

 このたびの研修を、私は現代のイギリス美術における「教育」

というやや違った角度から眺めながら、10日間を過ごした。ブリ

ティッシュ・カウンシルによってアレンジされた訪問先は、テー

ト・ブリテンのような大美術館から、先鋭的なホワイトチャペル、

バルチック・センター、小規模ながら質の高い企画を行うチセン

ヘール、そして、ホワイトキューブに代表される商業ギャラリー、

また、地域もロンドンに限らず、グラスゴー、ニューカッスル、ノッ

ティンガムと地方都市にわたり、幅広く目配りのきいた選択がな

されていた。最終的には、オフィシャルなものだけでも18ヶ所、個

人的に立ち寄った分も含めると、実に 30ヶ所以上をまわった結

果となり、管見ではあるが、現代のイギリス美術における一定の

パースペクティブを得る事ができたように思う。

 それらを通覧して感じたのは、イギリスの美術館における教育

活動が非常に「戦略的」に行われていた、ということだ。それは、

基本的に美術館が入場無料で、国家/地域の政府をはじめとす

る複数の機関からの助成が、活動資金源となる文化政策にも大

きく関わっている。世界中から観光客が押し寄せるテートは別格

としても、いわゆる観光客の来ないオルタナティヴ・スペースに

対しても継続して助成が行われている点に、「教育」という目に見

えない未来の「富」に対して積極的に資金を提供するイギリスと

いう国の懐の深さを感じた(そのディレクションのあり方、作品の

クオリティ、プログラムの内容に関して、厳しく審査する必要があ

るように感じたが)。他方で、オープンスタジオやアーティスト

トーク、ワークショップ、ティーチャーズ・デーなど、地域に対す

る教育活動は、それらの館やスペースが活動を継続していく生命

線となり、日本よりもはるかに切実に、そして館の活動の重要な

柱として位置づけられている。

 公立美術館中心で、その資金をほぼ100%ひとつの自治体の

税金によってまかなうことが多く、学芸員の分業化が少ない日本

では、「美術文化の振興」「地域おこし」「観光」「入場者数/収

益」「教育」が非常に複合的にあいまいに行われている。もちろ

ん、日本ならではのきめの細やかな運営やプログラムの質の高さ

戦略としての美術館教育

―100年後の「自己本位」のために―坂本顕子|熊本市現代美術館

BALTIC, Newcastle, Gateshead

”Sustainability”(持続可能性)に関する取り組みだけは、とりわ

け異彩を放っていた。それは帰国後耳にした予算カットのニュー

スとも相まって、徐々に私の中でその印象が増していった。

 テートでは現在、作品保護のため一定に保たれている展示室

の温湿度環境について、毎年莫大な金額に上る光熱費を抑える

ため、また、限りあるエネルギー資源を節約して環境に配慮する

という経済・環境両面の目的から、基準を緩めるための取り組み

を行っているという。コレクションを有する美術館では、通常、素

材毎に異なる基準の下、24時間365日、収蔵庫・展示室・輸送中

のトラックの中まで、温度と湿度を一定に保ち、さらに展示下で

は照度についても制限を加え、環境の変化に伴う作品の劣化が

最小限に留められるよう努力している。また、多くの美術館では、

互いの所蔵作品を貸し借りすることによって展覧会が成立する

ため、他館の作品を借り受けた時にも、所蔵館にある時と同じ環

境で作品を保護しながら展示・公開することが可能であること、

すなわち、そのためのファシリティを有し、作品の適切な取り扱

い方法に習熟した専門職員を置いているということが、信頼ある

美術館の最低条件なのである。逆に言えば、他館の信用を失うよ

うな行為は作品のためのみならず、美術館にとっても自殺行為に

ほかならない。従って、作品保護の基準を「緩める」という画期的

な取り組みは、テート単独での動きではなく、Bizotグループとい

う欧米の主要な美術館の連合組織全体で検討されている課題

だという。Bizotグループとは、イレーネ・ビゾー(フランスの伯爵

婦人で、仏国立美術館連合の代表であった人物)の名に由来す

る、欧米の主要な美術館の連合組織である。ルーヴル、ポンピ

ドゥー、メトロポリタン、V&Aなど、60の美術館・博物館が所属

し、ここで決まることは、事実上、世界中の美術館に影響を及ぼ

すといっても過言ではない。その「世界を代表する美術館・博物

館」にとって目下の課題が”Sustainability”だというのだ。

 新たな温湿度基準策定に向けての動きが始まったのは2008

年のことで、穿った見方をすれば、世界的な不況が巻き起こった

時期と重なっている。さらにその翌年には、グループ参加館を

ヨーロッパとアメリカ合衆国以外、例えば日本、韓国、とりわけ中

国に求めて、”Diversity”(多様性)を採り入れようという議論も

起きているようだ。”Sustainability”をめぐる議論も”Diversity”

についても、政治や世界経済の動きと連動する動きであるのは

言うまでもない。しかし、いずれの議論も未だ誠意検討中。特に、

非西欧圏からのメンバー受け入れについては異論も多く、メン

バー館と対等な議論をできる、アジア圏の力ある館長を探すこと

が課題になっているようだ。このように言われるのは日本の美術

館に勤める人間として悲しいことだが、ここで求められている

「対等な議論ができる」関係というのは、必ずしもBizotグループ

に入ることで得られるものでもないだろう。

 テートにおける”Sustainability”のための取り組みは、ひょっ

とすると今後の景気や環境の変化次第で、数年後には忘れられ

た議論になるのかもしれない。SAVE THE ARTSのプロジェクト

も、政府からは一顧だにされないかもしれない。しかし、こうした

活動を裏で支える原動力、その柔軟な思考としたたかさは、ぜひ

とも身につけていきたいと強く感じている。

 2010年、13年ぶりの政権交代の後、イギリスの新政権が打ち

出したのは25%カットという大規模な芸術関連の予算削減を伴

う財政再建案だった。これに対して、先頃インターネット上で

SAVE THE ARTS(http://savethearts-uk.blogspot.com/)とい

う抗議キャンペーンが始まった。参加しているのは、今回訪問し

たテートのような大型美術館からチゼンヘールのような小規模

のアートスペース、リチャード・ハミルトンなど大御所アーティス

トから若手作家まで。あらゆる機関と主要アーティストが参加す

るこのキャンペーンでは、アニメーション映像やポスターといっ

た「作品」を「抗議活動」の一環として順次ウェブ上で公開し、広く

世界中からの署名を募っている。この活動が現実に効を奏する

かどうかについてはさておき、規模や立場の異なる機関やアー

ティスト個々人が、一様に国の予算カットに危機感を抱き、ア

ピール活動のために一致団結する様はある種の驚きだった。日

本でも、民主党政権下での事業仕分けが美術の世界にも多少の

波紋をよんだものの、「仕分け」が対象とする問題は、大勢から見

れば重箱の角をつつくようなもので、業界全体を巻き込むほどの

大事件にはなっていない。日英の芸術に注がれる国家予算の規

模が桁違いであることを差し引いたとしても、日本の美術関係者

の厭世的な振る舞いには、自戒を込めつつ、当事者意識の低さ

を感じざるを得ない。

 2010年5月9日~18日、私たちが10日間の滞在プログラムに参

加したのは、アイスランドの火山噴火に伴う航空網の大混乱に続

いて、政権交代が起こるなど、イギリスが大きな混乱や変化に直

面した後のことだった。当初は渡航できるかすら危ぶんだもの

の、最終的にはロンドン、グラスゴー、ニューカッスル/ゲーツ

ヘッド、ノッティンガムの4都市で、プログラム外の訪問も含め

40以上の美術関係機関を訪れることができ、大規模な美術館か

ら小規模ながらも魅力的なプログラムを実施するアートスペース

まで、それぞれにとても有意義な情報交換の機会を得た。しか

し、中でも、プログラムの初日に訪問したテート・ブリテンのシニ

ア・キュレーター、ジュディス・ネスビット氏から聞いた美術館の

美術館は生き残れるか?―木村絵理子|横浜美術館

11 12

など、誇れる点も多数ある。しかし、今一度、そのミッションとは

何なのか、自分たちの活動を見直し、うまく「強調して」伝える、と

りわけ、指定管理者制度下にある美術館においては、教育活動

をひとつの「武器」として行政にアピールすること重要性を改め

て思い知った。

 それらのイギリスの美術の層の厚さに圧倒される中、ふと思い

立ち、ツアーの合間にロンドン漱石記念館という小さな博物館

を訪ねた。よく知られるように、漱石は当時の勤務先である五高

(現在の熊本大学)から、熊本に妻子を残したまま、約2 年の歳月

をこのロンドンで過ごした。今から110年前のことである。イギリ

スになじめず引きこもり、倹しい暮らしの中で書籍を買い集め、

その後、日本に戻って数々の傑作を残した漱石。その空気の一端

を感じとってみたくなり、熊本在住の大学教授が私財を投じて、

当時の漱石の下宿の向かいのアパートの1室を買いとった、ガイ

ドブックにも載っていない、この小さな空間に足を運んだのだ。

 そこには、シンプルな中にアール・ヌーヴォー調の装飾を施し

た、漱石こだわりの装丁による著作が並んでいた。漱石は、引きこ

もり生活の中でも、テートやダリッジ・ミュージアムに足を運び、

当時のいわば最先端の「現代美術」であったターナーや、ラファ

エル前派などにもよく親しんだ。その後の、『三四郎』『草枕』をは

じめとする代表作にも、イギリスでその一端をつちかったであろ

う美術的な描写がちりばめられている。

 そのように、いわば当時のイギリス美術の紹介者であった漱石

だが、自身の専門である英文学について、外国人である自分がそ

れを語ることの是非について、深い苦悩の中にいた。しかし、そこ

で漱石は「自己本位」という考え方に至る。その考え方とは、自己

が主にして、他者は賓、つまり、他国の文化についてよく学ぶが、

最終的には自分自身の考えがなくては、それは何のためにもなら

ない、ということである。

 果たして、日本の美術館は、漱石が約100年前に身を削るよう

にして到達した「自己本位」に少しは近づけているだろうか。帰国

した漱石が、教師の職を辞して、自らの考えを「小説」というかた

ちで残し、それが今もなお日本で愛読されているように、このイ

ギリスで得た私の体験が、100年後の日本の美術館の活動の中

に、ささやかでも息づくような仕事を残していければと願う。

 このたびの研修を、私は現代のイギリス美術における「教育」

というやや違った角度から眺めながら、10日間を過ごした。ブリ

ティッシュ・カウンシルによってアレンジされた訪問先は、テー

ト・ブリテンのような大美術館から、先鋭的なホワイトチャペル、

バルチック・センター、小規模ながら質の高い企画を行うチセン

ヘール、そして、ホワイトキューブに代表される商業ギャラリー、

また、地域もロンドンに限らず、グラスゴー、ニューカッスル、ノッ

ティンガムと地方都市にわたり、幅広く目配りのきいた選択がな

されていた。最終的には、オフィシャルなものだけでも18ヶ所、個

人的に立ち寄った分も含めると、実に 30ヶ所以上をまわった結

果となり、管見ではあるが、現代のイギリス美術における一定の

パースペクティブを得る事ができたように思う。

 それらを通覧して感じたのは、イギリスの美術館における教育

活動が非常に「戦略的」に行われていた、ということだ。それは、

基本的に美術館が入場無料で、国家/地域の政府をはじめとす

る複数の機関からの助成が、活動資金源となる文化政策にも大

きく関わっている。世界中から観光客が押し寄せるテートは別格

としても、いわゆる観光客の来ないオルタナティヴ・スペースに

対しても継続して助成が行われている点に、「教育」という目に見

えない未来の「富」に対して積極的に資金を提供するイギリスと

いう国の懐の深さを感じた(そのディレクションのあり方、作品の

クオリティ、プログラムの内容に関して、厳しく審査する必要があ

るように感じたが)。他方で、オープンスタジオやアーティスト

トーク、ワークショップ、ティーチャーズ・デーなど、地域に対す

る教育活動は、それらの館やスペースが活動を継続していく生命

線となり、日本よりもはるかに切実に、そして館の活動の重要な

柱として位置づけられている。

 公立美術館中心で、その資金をほぼ100%ひとつの自治体の

税金によってまかなうことが多く、学芸員の分業化が少ない日本

では、「美術文化の振興」「地域おこし」「観光」「入場者数/収

益」「教育」が非常に複合的にあいまいに行われている。もちろ

ん、日本ならではのきめの細やかな運営やプログラムの質の高さ

戦略としての美術館教育

―100年後の「自己本位」のために―坂本顕子|熊本市現代美術館

BALTIC, Newcastle, Gateshead

”Sustainability”(持続可能性)に関する取り組みだけは、とりわ

け異彩を放っていた。それは帰国後耳にした予算カットのニュー

スとも相まって、徐々に私の中でその印象が増していった。

 テートでは現在、作品保護のため一定に保たれている展示室

の温湿度環境について、毎年莫大な金額に上る光熱費を抑える

ため、また、限りあるエネルギー資源を節約して環境に配慮する

という経済・環境両面の目的から、基準を緩めるための取り組み

を行っているという。コレクションを有する美術館では、通常、素

材毎に異なる基準の下、24時間365日、収蔵庫・展示室・輸送中

のトラックの中まで、温度と湿度を一定に保ち、さらに展示下で

は照度についても制限を加え、環境の変化に伴う作品の劣化が

最小限に留められるよう努力している。また、多くの美術館では、

互いの所蔵作品を貸し借りすることによって展覧会が成立する

ため、他館の作品を借り受けた時にも、所蔵館にある時と同じ環

境で作品を保護しながら展示・公開することが可能であること、

すなわち、そのためのファシリティを有し、作品の適切な取り扱

い方法に習熟した専門職員を置いているということが、信頼ある

美術館の最低条件なのである。逆に言えば、他館の信用を失うよ

うな行為は作品のためのみならず、美術館にとっても自殺行為に

ほかならない。従って、作品保護の基準を「緩める」という画期的

な取り組みは、テート単独での動きではなく、Bizotグループとい

う欧米の主要な美術館の連合組織全体で検討されている課題

だという。Bizotグループとは、イレーネ・ビゾー(フランスの伯爵

婦人で、仏国立美術館連合の代表であった人物)の名に由来す

る、欧米の主要な美術館の連合組織である。ルーヴル、ポンピ

ドゥー、メトロポリタン、V&Aなど、60の美術館・博物館が所属

し、ここで決まることは、事実上、世界中の美術館に影響を及ぼ

すといっても過言ではない。その「世界を代表する美術館・博物

館」にとって目下の課題が”Sustainability”だというのだ。

 新たな温湿度基準策定に向けての動きが始まったのは2008

年のことで、穿った見方をすれば、世界的な不況が巻き起こった

時期と重なっている。さらにその翌年には、グループ参加館を

ヨーロッパとアメリカ合衆国以外、例えば日本、韓国、とりわけ中

国に求めて、”Diversity”(多様性)を採り入れようという議論も

起きているようだ。”Sustainability”をめぐる議論も”Diversity”

についても、政治や世界経済の動きと連動する動きであるのは

言うまでもない。しかし、いずれの議論も未だ誠意検討中。特に、

非西欧圏からのメンバー受け入れについては異論も多く、メン

バー館と対等な議論をできる、アジア圏の力ある館長を探すこと

が課題になっているようだ。このように言われるのは日本の美術

館に勤める人間として悲しいことだが、ここで求められている

「対等な議論ができる」関係というのは、必ずしもBizotグループ

に入ることで得られるものでもないだろう。

 テートにおける”Sustainability”のための取り組みは、ひょっ

とすると今後の景気や環境の変化次第で、数年後には忘れられ

た議論になるのかもしれない。SAVE THE ARTSのプロジェクト

も、政府からは一顧だにされないかもしれない。しかし、こうした

活動を裏で支える原動力、その柔軟な思考としたたかさは、ぜひ

とも身につけていきたいと強く感じている。

 2010年、13年ぶりの政権交代の後、イギリスの新政権が打ち

出したのは25%カットという大規模な芸術関連の予算削減を伴

う財政再建案だった。これに対して、先頃インターネット上で

SAVE THE ARTS(http://savethearts-uk.blogspot.com/)とい

う抗議キャンペーンが始まった。参加しているのは、今回訪問し

たテートのような大型美術館からチゼンヘールのような小規模

のアートスペース、リチャード・ハミルトンなど大御所アーティス

トから若手作家まで。あらゆる機関と主要アーティストが参加す

るこのキャンペーンでは、アニメーション映像やポスターといっ

た「作品」を「抗議活動」の一環として順次ウェブ上で公開し、広く

世界中からの署名を募っている。この活動が現実に効を奏する

かどうかについてはさておき、規模や立場の異なる機関やアー

ティスト個々人が、一様に国の予算カットに危機感を抱き、ア

ピール活動のために一致団結する様はある種の驚きだった。日

本でも、民主党政権下での事業仕分けが美術の世界にも多少の

波紋をよんだものの、「仕分け」が対象とする問題は、大勢から見

れば重箱の角をつつくようなもので、業界全体を巻き込むほどの

大事件にはなっていない。日英の芸術に注がれる国家予算の規

模が桁違いであることを差し引いたとしても、日本の美術関係者

の厭世的な振る舞いには、自戒を込めつつ、当事者意識の低さ

を感じざるを得ない。

 2010年5月9日~18日、私たちが10日間の滞在プログラムに参

加したのは、アイスランドの火山噴火に伴う航空網の大混乱に続

いて、政権交代が起こるなど、イギリスが大きな混乱や変化に直

面した後のことだった。当初は渡航できるかすら危ぶんだもの

の、最終的にはロンドン、グラスゴー、ニューカッスル/ゲーツ

ヘッド、ノッティンガムの4都市で、プログラム外の訪問も含め

40以上の美術関係機関を訪れることができ、大規模な美術館か

ら小規模ながらも魅力的なプログラムを実施するアートスペース

まで、それぞれにとても有意義な情報交換の機会を得た。しか

し、中でも、プログラムの初日に訪問したテート・ブリテンのシニ

ア・キュレーター、ジュディス・ネスビット氏から聞いた美術館の

美術館は生き残れるか?―木村絵理子|横浜美術館

11 12

有名だが、ウェブスター氏のしゃべりは比較的聞きやすく、語尾

を上げるようなイントネーションは、私の出身地である青森の訛

りとも何か共通するものを感じ、好感を抱いた。ブックショップの

ガラス棚になぜか『寺山修司の仮面画報』が大事そうに飾られて

いたことも私を嬉しがらせた。

 ウェブスター氏は、今開催しているジム・ランビーの展覧会のこ

とや抱えているアーティスト たち(30人を超える。内17名がグラ

スゴーのアーティスト)のことを丁寧に説明してくれた。その穏や

かでありながら、思いのこもった語り口には、10年以上にわたり、

この地に根ざして活動を続け、さまざまな変化を見てきた者とし

ての自信が感じられた。「グラスゴーに住むアーティストは増え続

けているのですか」という問いに対して、氏はたぶんそうだと答

え、そこには美術大学の存在が大きいと話した。その後で、私た

ちは少しだけ立ち寄ったのだが、この街にはグラスゴー芸術大学

という由緒ある美術大学がある。しかし、大学があるだけで活動

の場がなければ卒業するとまもなく若者たちはロンドンへと出て

行ってしまうだろう。だから、彼らをここに留まらせる仕組みが必

要であり、そのために自分たちはここでやっているんだ、とウェブ

スター氏は述べていた。

 「ザ・モダン・インスティテュート」の後に訪れた非営利組織

「ザ・コモン・ギルド」のスタッフからは、さまざまな活動を展開し

ていく上で市(シティ・カウンシル)の助成がいかに大きいかを教

えられた。さらにその後に足を運んだ「ギャラリー・オブ・モダ

ン・アート(Goma)」という公的な美術館では新収蔵作品を紹介

する展覧会が開催されていた。

 アート活動を支援するための基金をもつ団体や助成金を出す

公的機関、そして美術学校、さらに「ザ・モダン・インスティテュー

ト」のような活発な商業ギャラリーや美術品の購入を継続的に

行う公的な美術館。これらの組織が相互に実り豊かな関係を結

ぶことで、この街にアートの生命が宿っている。そのことを目の

当たりにした一日だった。

 イギリスに入って、4日目、私たちは最初の訪問地であるロンド

ンだからスコットランドの都市グラスゴーへと移動した。グラス

ゴーを訪れるのは私にとってこれが二度目だ。一度目は確か90

年代半ばで、ロンドンから北上する旅の中でほんの少し立ち寄っ

たに過ぎず、あまり記憶に残っていない。だが今回、この街での

体験は視察旅行全体の中でもっとも印象深いものとなった。

 グラスゴーが都市の再生をかけて、芸術や文化の推進に力を

注ぎ始めたのは1980年代に入ってからだという。美術館やコン

サートホールといった文化施設を建設し、さまざまな文化的イベ

ントの招致を積極的に行った。1990年には、欧州文化首都の指

定を受けたことで、都市の活性化に一気に拍車がかかった。そし

て今や英国でもアートにかけてはもっともアツい都市として語ら

れるまでになっている。

 私たちが最初に訪れたのはそのグラスゴーのアートシーンの

立役者の一つである商業ギャラリー「ザ・モダン・インスティ

テュート」である。駅から数ブロック離れたあまり人気のない界

隈の一角にあるギャラリーに入ると、オーナーのトビー・ウェブス

ター氏が温かく迎えてくれた。グラスゴーは訛りがきついことで

グラスゴーでの一日―高橋しげみ|青森県立美術館

身は70年代に遡る。展示スペースを持たず、アーティストと共同

で、社会的な問題意識をベースにした公共空間におけるプロジェ

クトを数多く実践してきたオーガナイザーだ。視覚芸術の可能性

を、美術館やギャラリーの展示空間の制約から解き放ち、複数の

メディアを駆使して、社会的、政治的な文脈への積極的な接続を

図っていく。このように「作品」ではなく「束の間の出来事」を現

出させることに比重を置くかれらの活動のアーカイブには、当然

のことながら「出来事の記録」が蓄積されていくことになる(残念

ながら火事で多くが焼失)。その都度アーティストと議論しなが

ら批評的な視点を共有し、それを適当な場所と最善の方法に

よって表現していく柔軟さと、実現に向けてのしたたかな交渉能

力、そして「作品」として固定化させない頑固さは、バルチック開

館まで、現代美術の受け皿がなかったこの地でこそ育まれたもの

なのかもしれない。

 若手の台頭にも注目したい。アーティスト自身が経営するギャ

ラリーとして2005年にオープンしたワークプレイス・ギャラリー

が、まだ活動年数は短いものの、イギリス北東部出身の作家を国

際舞台に押し出す拠点となっている。ディレクターのマイルス・

サーロウは、作家、大学講師、そしてギャラリー経営者の三役をこ

なす。地元のアーティストが、ロンドンに移住せずとも、この地に

とどまって制作を続けていける環境を整えたいというのがギャ

ラリー設立の趣旨。同じ思いをもつ作家のネットワークをつくり

あげ、現代美術のための議論の場を提供すべく、マイルスの多方

面にわたる模索は続く。国際舞台で活躍する作家を育てたいと

いう夢は現実のものとなったが、さらなる発展のためにはまだ課

題も多い。作家の層の薄さ、現代美術を扱うギャラリーの不足、

観客の鑑賞スキルの未成熟、地元で流通する批評の欠如等。し

かし、目指すべきモデルとしてのグラスゴーとの距離を確かめな

がら、外部から植えつけられるのではなく自分たちのやり方で、

美術のすそ野を着実に広げつつある。ロンドンに対する反骨精

神に鍛えられた自主への気概、イギリス北東部のアート・シーン

には、そんな健全な「自由」の空気が流れていて心地よい。

 タイン川の南岸にたつランドマーク。分厚いレンガの外壁の間

に、ガラスと鉄の透明で軽やかな構造を挟み込んだ建物が、

2002年にオープンしたバルチック現代美術センター、ゲーツヘッ

ドだ。1950年代に建てられた小麦の製粉会社の穀物倉庫を現代

美術の拠点に改築しようというプロジェクトは1991年から始動。

内部を埋めるコンクリートで仕切られた倉庫は取り除かれ、南北

の重厚なレンガの壁だけが残った。そして外の景色をとりこんだ明

るい洗練された展示空間が、その壁の間に挿入されたのである。

 2億5000万ポンドもの巨額の予算が投入されたタイン河岸再

開発計画の目玉であるが、その期待に十分に応え、すでにこのエ

リアのシンボル的な存在感を示している。すくなくとも現時点ま

では、美術館を中心に据えた再開発の成功例といえよう。ただ

し、あくまでそれはここから発信される魅力的な展覧会の裏付

けがあってのこと。コレクションをもたないアート・センターとし

てのバルチックは、大小あわせて年間10数本の展覧会を開催し

ているが、現在公開中のジェニー・ホルツァー展は国際巡回展、6

月から始まるジョン・ケージ展はヘイワード・ギャラリーとの共同

事業と、国内外の美術館とのネットワークを活用しながら、良質

の企画を続けざまに打ちだしていることに驚いた。隣接する

ニューカッスルを含めても、この地方都市で現代美術展を来訪

する観客の数には限りがあるはずなのに、である。それでも資金

が集まっているのは、とかく孤立しがちな地方都市に、アートを

通して世界とつながっているという開放的な視野を提供するバ

ルチックの活動理念が、行政、市民、アーティストそれぞれに受け

入れられているからに違いない。

 バルチックがこのエリアを活性化したことは疑いえないとし

て、しかしそれだけでは「アート・シーン」と呼ばれるものが生ま

れるのには不十分だ。制作の源流にたつアーティストやオーガナ

イザーたちの活動の面的な広がりと底上げが必要である。そうい

う意味で、バルチックのカンフル剤が注入される以前から、この

地でしぶとい活動を繰り広げてきたローカス・プラスという組織

の存在は大きい。1993年に創立のローカス・プラスだが、その前

北東部の意気

(ニューカッスル/ゲーツヘッド)―鈴木勝雄|東京国立近代美術館

The Modern Institute, Glasgow

BALTIC, Newcastle, Gateshead The Common Guild, Glasgow

13 14

有名だが、ウェブスター氏のしゃべりは比較的聞きやすく、語尾

を上げるようなイントネーションは、私の出身地である青森の訛

りとも何か共通するものを感じ、好感を抱いた。ブックショップの

ガラス棚になぜか『寺山修司の仮面画報』が大事そうに飾られて

いたことも私を嬉しがらせた。

 ウェブスター氏は、今開催しているジム・ランビーの展覧会のこ

とや抱えているアーティスト たち(30人を超える。内17名がグラ

スゴーのアーティスト)のことを丁寧に説明してくれた。その穏や

かでありながら、思いのこもった語り口には、10年以上にわたり、

この地に根ざして活動を続け、さまざまな変化を見てきた者とし

ての自信が感じられた。「グラスゴーに住むアーティストは増え続

けているのですか」という問いに対して、氏はたぶんそうだと答

え、そこには美術大学の存在が大きいと話した。その後で、私た

ちは少しだけ立ち寄ったのだが、この街にはグラスゴー芸術大学

という由緒ある美術大学がある。しかし、大学があるだけで活動

の場がなければ卒業するとまもなく若者たちはロンドンへと出て

行ってしまうだろう。だから、彼らをここに留まらせる仕組みが必

要であり、そのために自分たちはここでやっているんだ、とウェブ

スター氏は述べていた。

 「ザ・モダン・インスティテュート」の後に訪れた非営利組織

「ザ・コモン・ギルド」のスタッフからは、さまざまな活動を展開し

ていく上で市(シティ・カウンシル)の助成がいかに大きいかを教

えられた。さらにその後に足を運んだ「ギャラリー・オブ・モダ

ン・アート(Goma)」という公的な美術館では新収蔵作品を紹介

する展覧会が開催されていた。

 アート活動を支援するための基金をもつ団体や助成金を出す

公的機関、そして美術学校、さらに「ザ・モダン・インスティテュー

ト」のような活発な商業ギャラリーや美術品の購入を継続的に

行う公的な美術館。これらの組織が相互に実り豊かな関係を結

ぶことで、この街にアートの生命が宿っている。そのことを目の

当たりにした一日だった。

 イギリスに入って、4日目、私たちは最初の訪問地であるロンド

ンだからスコットランドの都市グラスゴーへと移動した。グラス

ゴーを訪れるのは私にとってこれが二度目だ。一度目は確か90

年代半ばで、ロンドンから北上する旅の中でほんの少し立ち寄っ

たに過ぎず、あまり記憶に残っていない。だが今回、この街での

体験は視察旅行全体の中でもっとも印象深いものとなった。

 グラスゴーが都市の再生をかけて、芸術や文化の推進に力を

注ぎ始めたのは1980年代に入ってからだという。美術館やコン

サートホールといった文化施設を建設し、さまざまな文化的イベ

ントの招致を積極的に行った。1990年には、欧州文化首都の指

定を受けたことで、都市の活性化に一気に拍車がかかった。そし

て今や英国でもアートにかけてはもっともアツい都市として語ら

れるまでになっている。

 私たちが最初に訪れたのはそのグラスゴーのアートシーンの

立役者の一つである商業ギャラリー「ザ・モダン・インスティ

テュート」である。駅から数ブロック離れたあまり人気のない界

隈の一角にあるギャラリーに入ると、オーナーのトビー・ウェブス

ター氏が温かく迎えてくれた。グラスゴーは訛りがきついことで

グラスゴーでの一日―高橋しげみ|青森県立美術館

身は70年代に遡る。展示スペースを持たず、アーティストと共同

で、社会的な問題意識をベースにした公共空間におけるプロジェ

クトを数多く実践してきたオーガナイザーだ。視覚芸術の可能性

を、美術館やギャラリーの展示空間の制約から解き放ち、複数の

メディアを駆使して、社会的、政治的な文脈への積極的な接続を

図っていく。このように「作品」ではなく「束の間の出来事」を現

出させることに比重を置くかれらの活動のアーカイブには、当然

のことながら「出来事の記録」が蓄積されていくことになる(残念

ながら火事で多くが焼失)。その都度アーティストと議論しなが

ら批評的な視点を共有し、それを適当な場所と最善の方法に

よって表現していく柔軟さと、実現に向けてのしたたかな交渉能

力、そして「作品」として固定化させない頑固さは、バルチック開

館まで、現代美術の受け皿がなかったこの地でこそ育まれたもの

なのかもしれない。

 若手の台頭にも注目したい。アーティスト自身が経営するギャ

ラリーとして2005年にオープンしたワークプレイス・ギャラリー

が、まだ活動年数は短いものの、イギリス北東部出身の作家を国

際舞台に押し出す拠点となっている。ディレクターのマイルス・

サーロウは、作家、大学講師、そしてギャラリー経営者の三役をこ

なす。地元のアーティストが、ロンドンに移住せずとも、この地に

とどまって制作を続けていける環境を整えたいというのがギャ

ラリー設立の趣旨。同じ思いをもつ作家のネットワークをつくり

あげ、現代美術のための議論の場を提供すべく、マイルスの多方

面にわたる模索は続く。国際舞台で活躍する作家を育てたいと

いう夢は現実のものとなったが、さらなる発展のためにはまだ課

題も多い。作家の層の薄さ、現代美術を扱うギャラリーの不足、

観客の鑑賞スキルの未成熟、地元で流通する批評の欠如等。し

かし、目指すべきモデルとしてのグラスゴーとの距離を確かめな

がら、外部から植えつけられるのではなく自分たちのやり方で、

美術のすそ野を着実に広げつつある。ロンドンに対する反骨精

神に鍛えられた自主への気概、イギリス北東部のアート・シーン

には、そんな健全な「自由」の空気が流れていて心地よい。

 タイン川の南岸にたつランドマーク。分厚いレンガの外壁の間

に、ガラスと鉄の透明で軽やかな構造を挟み込んだ建物が、

2002年にオープンしたバルチック現代美術センター、ゲーツヘッ

ドだ。1950年代に建てられた小麦の製粉会社の穀物倉庫を現代

美術の拠点に改築しようというプロジェクトは1991年から始動。

内部を埋めるコンクリートで仕切られた倉庫は取り除かれ、南北

の重厚なレンガの壁だけが残った。そして外の景色をとりこんだ明

るい洗練された展示空間が、その壁の間に挿入されたのである。

 2億5000万ポンドもの巨額の予算が投入されたタイン河岸再

開発計画の目玉であるが、その期待に十分に応え、すでにこのエ

リアのシンボル的な存在感を示している。すくなくとも現時点ま

では、美術館を中心に据えた再開発の成功例といえよう。ただ

し、あくまでそれはここから発信される魅力的な展覧会の裏付

けがあってのこと。コレクションをもたないアート・センターとし

てのバルチックは、大小あわせて年間10数本の展覧会を開催し

ているが、現在公開中のジェニー・ホルツァー展は国際巡回展、6

月から始まるジョン・ケージ展はヘイワード・ギャラリーとの共同

事業と、国内外の美術館とのネットワークを活用しながら、良質

の企画を続けざまに打ちだしていることに驚いた。隣接する

ニューカッスルを含めても、この地方都市で現代美術展を来訪

する観客の数には限りがあるはずなのに、である。それでも資金

が集まっているのは、とかく孤立しがちな地方都市に、アートを

通して世界とつながっているという開放的な視野を提供するバ

ルチックの活動理念が、行政、市民、アーティストそれぞれに受け

入れられているからに違いない。

 バルチックがこのエリアを活性化したことは疑いえないとし

て、しかしそれだけでは「アート・シーン」と呼ばれるものが生ま

れるのには不十分だ。制作の源流にたつアーティストやオーガナ

イザーたちの活動の面的な広がりと底上げが必要である。そうい

う意味で、バルチックのカンフル剤が注入される以前から、この

地でしぶとい活動を繰り広げてきたローカス・プラスという組織

の存在は大きい。1993年に創立のローカス・プラスだが、その前

北東部の意気

(ニューカッスル/ゲーツヘッド)―鈴木勝雄|東京国立近代美術館

The Modern Institute, Glasgow

BALTIC, Newcastle, Gateshead The Common Guild, Glasgow

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ブリティッシュ・カウンシル

日英キュレーター交流プログラム英国滞在レポート

2010年9月1日 ©

発行  ブリティッシュ・カウンシル

執筆  伊東豊子 (pp.3-6)

デザイン  樋口貞幸 (Arts NPO Link)

表紙写真  Metal Urbain installation by Jim Lambie

 at The Modern Institute Glasgow

 Courtesy Jim Lambie /

 The Modern Institute / Toby Webster Ltd

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