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BIO for Retail related column: Vol.004 投資対効果試算の考え方 2003.10.24 山本 泰史 日本 NCR 株式会社 テラデータ事業本部 流通事業部 マーケティング担当 ■ご利用にあたって 本ドキュメントの著作権に関して 本ドキュメントの内容は著作権によって保護されており、これらは全て日本 NCR 株式会社 に帰属します。商用目的での無断転用、転載を禁じます。 BIO とは BIO の位置付け 経営改善課題を意味します(Business Improvement Opportunities の頭文字をとっています)Teradata が全世界的に推進している各業界向けのプログラムで、実際に明細データを活用 して企業の経営課題を改善した例から、業界に共通する幾つかの課題をリストアップし、そ れぞれに対して目的、分析、行動、効果という 4 つのアプローチにまとめ直し、標準化したも のです。 1. 目的-課題改善の目的は何か?その上で選択可能な戦術オプションは? 2. 分析-目的達成の為にどんなデータをどのように分析するべきか? 3. 行動-分析した結果、何をするべきか?行動やプロセスがどう変わるのか? BIO のアプローチ 4. 効果-行動の結果、ビジネス上の成果がどう変わるのか? 目次 1.はじめに …Page2 2.投資の算出 2-A.システムに関する費用 …Page2 2-B. 社内において発生する費用 …Page3 2-C.将来計画に向けた考慮 …Page3 2-D.資産と経費の区分 …Page4 3.効果の算出 3-A.効果算出の考え方 …Page4 3-B. 売上の増大 1.(取引構造の改善) …Page5 3-C.売上の増大 2.(機会損失の改善) …Page5 3-D.売上原価及び回転率、キャッシュフロー …Page6 3-E.販売及び一般管理費 …Page7 3-F.顧客マーケティングとプロモーション …Page8 4.投資対効果の算出 3-A.投資対効果の考え方 …Page9 3-B.Payback Period(回収期間)…Page9 3-C.ROI(Return On Investment)…Page9 3-D.NPV(Net Present Value)…Page9 3-E.IRR(Internal Rate of Return)…Page11 3-F.算出にあたっての考慮 …Page12 5.おわりに …Page12

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BIO for Retail related column: Vol.004

投資対効果試算の考え方

2003.10.24山本 泰史

日本NCR 株式会社 テラデータ事業本部

流通事業部 マーケティング担当

■ご利用にあたって

本ドキュメントの著作権に関して 本ドキュメントの内容は著作権によって保護されており、これらは全て日本 NCR 株式会社

に帰属します。商用目的での無断転用、転載を禁じます。

■BIO とは

BIO の位置付け 経営改善課題を意味します(Business Improvement Opportunities の頭文字をとっています)。Teradata が全世界的に推進している各業界向けのプログラムで、実際に明細データを活用

して企業の経営課題を改善した例から、業界に共通する幾つかの課題をリストアップし、そ

れぞれに対して目的、分析、行動、効果という 4つのアプローチにまとめ直し、標準化したも

のです。

1.目的-課題改善の目的は何か?その上で選択可能な戦術オプションは?2.分析-目的達成の為にどんなデータをどのように分析するべきか?3.行動-分析した結果、何をするべきか?行動やプロセスがどう変わるのか?

BIO のアプローチ

4.効果-行動の結果、ビジネス上の成果がどう変わるのか?

目次

1.はじめに …Page22.投資の算出 2-A.システムに関する費用 …Page2

2-B.社内において発生する費用 …Page32-C.将来計画に向けた考慮 …Page32-D.資産と経費の区分 …Page4

3.効果の算出 3-A.効果算出の考え方 …Page43-B.売上の増大 1.(取引構造の改善) …Page53-C.売上の増大 2.(機会損失の改善) …Page53-D.売上原価及び回転率、キャッシュフロー …Page63-E.販売及び一般管理費 …Page73-F.顧客マーケティングとプロモーション …Page8

4.投資対効果の算出 3-A.投資対効果の考え方 …Page93-B.Payback Period(回収期間)法 …Page93-C.ROI(Return On Investment)法 …Page93-D.NPV(Net Present Value)法 …Page93-E.IRR(Internal Rate of Return)法 …Page113-F.算出にあたっての考慮 …Page12

5.おわりに …Page12

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BIO: Business Improvement Opportunities for Retail Industry関連ドキュメント 4:投資対効果試算の考え方

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1.はじめに

この資料では、データウェアハウス上に蓄積したデータを用いて分析を実施し、分析結果を元に行動やプロセスを変更し、結果

として表出する効果の項目と、それに伴って必要となるデータウェアハウスの総保有コストに関して整理し、これらを併せて投資

対効果として算出するにあたっての方法についてご紹介して行きます。データウェアハウスの価値は、従来までのコンピュータ

システムが標榜していたような処理の効率化で示されるものでは有りません。一部にそのような考え方も含まれるかもしれません

が、その大きな価値とは小売業の本業に対して視座を与え、マクロ的な戦略レベルから、極めて日常的な業務レベルまでに改

善機会を見つけだすことを可能とし、情報システム部門の費用や効率ではなく、企業全体の指標を改善することに有ります。ま

た同様に、これらの過程においてデータは組織全体で利用されることになり、コスト項目も企業全体で把握されるべきです。以

上の観点から、まずデータウェアハウス及びそれに付随して発生する費用、つまり総保有コストに関して概観します。次に各経

営改善課題毎のホワイトペーパーにてご紹介している効果項目に関して整理し、ビジネス上の観点からの効果に関して概観し

ます。最後に投資対効果という観点から投資項目、効果項目を取り纏めて試算を実施していく際の考え方をご案内します。

2.投資の算出

ここでは、投資に関連する要素を精査するためのポイントについて触れていきます。大きく分けて、システムそのものに対する費

用と、それを保有し運用していく費用、つまり主に社内の人件費に関連した費用を考慮する必要があります。いずれの場合にも、

ビジネスサイドの要件、つまりBIO:経営改善課題に基づいて必要な分析やデータが決定され、これに基づいて必要なアプリケー

ションやデータベースの要件が決定付けられ、この要件と利用者数、そして利用頻度に基づいてITとしての投資が定義付けられ

るべきでしょう。また、小売業がBIOのアプローチに沿って、対応するべきBIOを多くカバーしていくにつれ、必要な分析やデータ

も増加していきます。これらに順次対応していくのであれば、将来に渡っての投資計画が考慮されなければなりません。

(BIOについての詳細は、以下のURLを参照のこと。BIOの定義、そして各BIOに関してのホワイトペーパーをご紹介しています。)http://www.teradata-j.com/solution/sol2_0104.html

2-A.システムに関する費用

ソフトウェア及び開発に関する費用

BIO、特に分析に基づいて、アプリケーションに関する要件と、データベースに関する要件が設定されます。アプリケーションに

関する要件を分解していくと、大きく分けて、パッケージアプリケーション、データマイニングツールやOLAPツールのような分析

ツールを利用する場合と、開発を実施する場合に分けられます。もちろん中庸の場合も有ります。パッケージが提供する機能を

主に利用し、足りない部分を開発する場合も有り得るでしょうし、テンプレート的なアプリケーションを自社要件に適用させてカス

タマイズし、利用する場合も有るでしょう。いずれにしてもアプリケーションの要件が BIO の分析要件を満たすことが必要となり、

これに関する費用がアプリケーションの費用として発生します。

データベースに関する要件としては、BIO が必要とするデータ項目を網羅するデータベースモデルを構築する為の作業が必

要となります。そしてデータベースモデルに対して、基幹システム等からデータを抽出し、必要に応じたフォーマット等の変換、

データのクレンジングを実施してローディングをする為の仕組みを作成しなければなりません(システム的には一般に言われる

ETCL: Extract, Transform, Cleansing & Loading という処理を指します)。また、アプリケーション側の要件にも依存しますが、必要

に応じたサマリーテーブルの作成や計算等がロード後のデータの後処理として実施されるケースも有ります。

BIO から導き出される要件としては以上のような形となりますが、これに付随して稼動後のシステム監視や運用の為の仕組み作

りに関する費用、開発プロジェクトのマネジメント費用、またシステムテストやドキュメンテーション等の付随費用が考慮に入れら

れなければなりません。また、追加的にソフトウェアの保守に関連した費用が、ランニング費用として発生します。

ハードウェア及びプラットフォームに関する費用

上述したソフトウェア及び開発要件、そして利用人数や利用頻度に基づいて、必要なハードウェア及びプラットフォームのサイ

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ズ、そして費用が決定付けられます。サイジングに影響を与える要件としては、オンラインでの検索要件と、データローディング

の要件からサイジングされたシステムの費用がまずベースとなります。オンラインでの検索要件としては、想定されるピークもしく

は平均での同時接続の利用者数とモデルとなるデータベースの構造とデータボリューム、そしてそこに対する標準的な検索条

件に基づいた検索が実施された場合の検索レスポンス時間が要件となります。またデータローディングの要件としてはバッチロ

ーディングの場合には上述したデータベースの構造とデータボリューム、そして必要に応じて追加的に実施される計算処理等

の時間を何時間で完了させるかという時間が要件となります。継続ローディングの場合には、オンラインの検索を実施している

状態で、実施する場合の処理時間が要件となります。

初期段階において設定したこのような要件に対して、実際の環境は常に変化するものです。分析を実施する利用者が増えれば、

それに応じて検索時間は低下します。また利用者が増えなくとも、検索回数や実施する分析が複雑になればこれも検索時間を

低下させる要因となりえます。そしてもう一つ検索時間に影響を与える要素としては検索を実施するデータベースのデータボリ

ュームも影響を与えることとなります。

また、システムのサイジングを検討する上では、データボリュームや対象とするデータの範囲の広範化も考慮に入れなければな

りません。データボリューム、もしくは対象とするデータの範囲が広範化するにつれて、必要なディスクサイズは増加し、データ

のローディングに関する時間も増加していきます。これに対して上述したデータローディングの要件を満たし続ける為には、コン

ピュータシステムのパフォーマンスも増加していかなければなりません。ちなみに対象となるデータ範囲の広範化の例としては、

店舗数が増加する(のに伴って取引件数が増加する)、保持年数が長くなる、今まで保持していなかったデータを追加する等が

挙げられます。

プラットフォームの費用として考えた場合には、オペレーティングシステム、データベース管理ソフト等の費用も上記同様の考慮

がなされなければなりません。また、利用者のパソコンやネットワークに関しては、通常の OA システムのキャパシティ範囲内で

利用するのであれば追加的な費用は発生しませんが、専用もしくは追加的にパソコンやネットワークへ投資されるのであればこ

れらも考慮すべきです。併せて、アプリケーションや OLAP 等を稼動させる中間サーバーを導入するのであればこの費用も考

慮します。

以上、これら上述したような点が初期費用として想定されます。これに対して、ハードウェア、ソフトウェアの保守費用が発生しま

す。またネットワークに関しては WAN であれば定量制、定額制かは別にしても利用料金が発生する形となります。

2-B.社内において発生する費用

ここまでで触れてきた費用項目は ITそのものに関する費用項目ですが、導入する企業にとっては、これに併せて社内において

発生する人件費も考慮に入れなければなりません。一つは主に IT 部門に関連する方の人件費です。システム管理、データベ

ース管理者等の費用が考慮されますが、例えば 3人でデータウェアハウスの管理運用をしていくことになれば、この 3人の年間

の給料と福利厚生等の費用が考慮対象となります。また例えば 1 人で管理運用をしていき、この方の時間配分として業務の半

分がデータウェアハウスの管理運用に関連する費用である場合には、年間の給料と福利厚生費の半額が考慮対象となります。

これ以外にも、トレーニングやヘルプデスク等の費用が発生するのであればこれも考慮に入れます。トレーニングのトレーナー

やヘルプデスク要員に関しては、上記同様給料及び福利厚生費が対象となります。また、これはトレーニングを受ける側に関し

ても同様ですが、これらの費用に関しては、一人あたりがトレーニングを受ける時間をベースに算出し、トレーニング対象者数を

かけ合わせると算出が容易となるでしょう。

2-C.将来計画に向けた考慮

将来に渡り、より多くの効果を導く為により多くの BIO に対応する形でデータウェアハウスを利用していくのであれば、対応する

BIO の増加に伴って、アプリケーションや分析、データ、そして利用者が増加していくこととなります。このニーズの増加に対応

する為には、追加的に上述したような投資を実行していかなければなりません。これを実施するためには、三つの点を考慮に入

れる必要があります。一点目は、どのタイミングでどの BIO に対応していくのかというロードマップを定義することです。これによ

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り、必要となる投資のカレンダライズが可能となり、同時に想定される効果のカレンダライズが可能となります。カレンダライズを

実施するためにはビジネス上の緊急度、獲得が想定される効果の高さ、データの取得可能性等を考慮に入れて優先順位付け

し、スケジュールに落としこむことが必要となります。当然ながら環境の変化に伴ってこのロードマップは変更される可能性はあ

りますが、これによってデータウェアハウスの活用計画に道筋をつけることになり、投資対効果のバランスを考慮に入れつつ導

入と活用の成熟を実現することが可能となります。二点目は、拡張可能なアーキテクチャを設計することです。例えばデータモ

デルに関しては、一つのデータが特定のアプリケーションに依存する形で保持されるのでは無く、複数の BIO をサポートできる

ような形で保持されなければなりませんし、データボリュームや利用者の増加に伴って拡張できるプラットフォームで無ければな

りません。三点目として挙げられるのが、システムキャパシティとニーズのバランスに対する指標値の定義と追跡となります。例

えば、標準的な検索パターンを実施した場合の検索レスポンスタイムやバッチ時間の要件、同時アクセスユーザー数等、システ

ムの利用度合い、パフォーマンスの逼迫度合いを測ることが可能な指標値を選定し、キャパシティとして許容できる値を定義し

ます。次にこの指標値を継続的に追跡していくことによって、この値を超えるようなシステムパフォーマンスが必要になってきた

場合には、追加的な投資を検討するというようなガイダンスを用意しておくことにより、投資計画に関する予測と基準を持つこと

が可能となります。当然ながらシステムパフォーマンスはコストに反映しますので、想定される効果を挙げていないにも関わらず

コストのみ増加させる訳にはいきません。従って効果の側面も考慮に入れた上でこのような指標値による管理を行う必要があり

ます。

2-D.資産と経費の区分

以上のようなポイントで、投資金額の大枠を把握する事が可能です。当然ながら個別の企業においては必要無いコスト項目や

追加的に必要となるコスト項目も有るかもしれませんので、これらは適時算出時に考慮されるべきです。ここまででリストされたコ

スト項目を資産として計上され、減価償却分として経費に計上されるが、実際には資産取得時にキャッシュアウトされるべき項目

と、経費として計上され、利益金額から差し引いた形で投資対効果に考慮されるべき項目に分類し、投資項目としての整理が完

了する形となります。ここまでで整理された結果が[5.投資対効果の算出]にて利用されることとなります。

3.効果の算出

3-A.効果算出の考え方

利益を最大化することが目標

ここでは、投資対効果の効果に関する部分について触れていきます。これはどのように P/L、そしてB/Sを改善するのかという点

に焦点が絞られるべきです。もちろん定量化できない、もしくは定量化までの道筋が明確ではない効果が存在することを否定は

しませんが、数値的な効果を導き出してこそ、その企業は投資に対する効果を正当化することが出来ます。そしてその効果は

利益金額をどれだけ生成したのかに集約されます。利益があって初めて投資をしてくれた株主に還元ができると共に、商売の

場である社会に対して税金という形での還元ができ、残存利益を利用して自らを存続させる基盤を構築することができることに

なります。そして何よりも利益は、商売の対象である顧客に対して価値を提供できたことの証となります。10 円で商品を仕入れ、

11円で販売することによって1円の利益を生成するのが商売であるとすれば、その商売を営む企業の存在価値は 1円であった

と言えるでしょう。逆に 10 円で商品を仕入れ、9 円で販売した場合、顧客にとっては 10 円の価値を 9 円で提供してくれる、お人

好しな存在かもしれませんが、株主にとっては自らの投資金額を回収できない存在であり、社会にとっては何の存在価値も無い

どころか、フィードバックを行うことの出来ない迷惑な存在でしかありません。もちろん必要以上の価値を獲得することは競合他

社との競争状態においては不可能です。例えば10円で商品を仕入れ、12円で販売するには、2円分の付加価値が提供されな

ければなりません。1 円の付加価値追加であるにも関わらず 12 円で販売しようとすれば、11 円で販売する競合他社に負けるこ

とになります。ここから、株主、社会、顧客、そして競合他社との関係の中で、価値を生成し、利益を最大化することが企業にとっ

ての目標となり、この目標達成の為に投資が行われることになります。

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利益生成の源泉

利益を最大化させる為には、売上を最大化させるか、コストを最小化させるかという二つの観点と、コスト効率を最大化させるか

という一つの観点があります。ここでは、データウェアハウスが主に利益生成に寄与するであろう項目に絞り、利益を獲得できる

チャンスをどこに見出すことが出来るかというシナリオ例をご紹介していきます。これは逆の言い方をすれば、自社が今どこで利

益を獲得できるチャンスを逃してしまっていて、獲得できる利益を逃す要因となっているボトルネックがどこにあるのかを理解す

る為のシナリオでもあります。当然ながら以下に記載したことのみがシナリオであるとは限りません。企業にとっての利益獲得チ

ャンスはデータウェアハウスがサポートできる部分のみに限りませんし、またデータウェアハウスがサポートできる利益獲得チャ

ンスでもまだ発見されていないシナリオもあるかもしれません。そして、投資項目同様、効果の項目も BIO に基づいて算出され

ます。企業がターゲットとする経営改善課題に基づいて、分析の結果得られる意思決定、それによる行動、そこから導き出され

る効果がどこにあるのかがその利益生成のシナリオとなります。つまりデータウェアハウスにおける投資対効果という観点からは、

分析によってどのように業務を改善できたのかが利益の生成の源泉となっているという事です。

3-B.売上の増大 1 (取引構造の改善)まず、最初に検討する項目は売上の増大です。二つのポイントが有る為、1と2に分けてご紹介します。小売業の年間売上高は、

基本的には、発行したレシートそれぞれの合計金額の総和です。従って、以下のような形で分解されます。

売上金額= レシート枚数 x 買上点数 x 商品単価

ここから、売上金額を増大させる為には、三つのオプションが与えられることとなります。一つはレシート枚数を増加させることで

す。来店してお買上頂ける回数もしくは人数を増加させることにより、売上金額の増加を図ることができます。またもう一つは買

上点数の増加です。一点でも多くのお買い物をして頂くことにより、売上金額を増加させることが可能です。最後は商品単価の

増加です。できる限り高く販売すると言ってしまうとちょっと誤解があるかもしれません。上述したように同じ価値の商品であれば、

価格が安いお店に顧客は流れるでしょう。従って低価格戦略とはレシート枚数や平均買上点数を上げる為の戦略であると言え

ます。ここでは顧客にとってのより高い価値を提供すると表現することが適切な表現ではないでしょうか。これら三つのオプショ

ンのどこにボトルネックがあるのか、逆にいえば改善のチャンスがあるのかを把握することにより、適切な行動とそれに伴う売上

の増加をもたらすことが可能となります。

ちなみに会員カードを発行して、顧客 ID とレシートを紐付けることが出来る場合は、上述したレシート枚数は、顧客数と来店購

入回数という形で分解して考えることが可能です。これにより顧客数を増加させるというオプションと、顧客一人あたりの来店購

入回数を増加させるというオプションを考慮することが可能となります。

3-C.売上の増大 2 (機会損失の改善)売上の増大に関するもう一つの考え方が、機会損失を捉えるということになります。機会損失が発生する要素としては様々なも

のが考えられますが、欠品による機会損失、無用な値下げによる機会損失、商品ロスによる機会損失、顧客の離反による機会

損失等が考えられます。また、欠品に関しては商品が存在しないという理由だけではなく、商品が品出しされていなかったり、売

場の見つけにくい場所に陳列してあったり、商品が存在しているにも関わらず価格が顧客にとっての合理性とかみ合わなかっ

た為に販売に至らなかったというような機会損失も考えられます。以下に、上述した機会損失毎の構成要素と算出のポイントを

挙げます。

欠品による機会損失

欠品による機会損失は、商品ベースで考えた際の販売予測数量、もしくは平均的な販売数量等をベースに考えます。これに対

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して、在庫が 0 になっていた期間をかけ合せることによって、欠品による機会損失数量を導き出すことができます。さらにこの商

品の単価をかけ合せることによって、欠品による機会損失金額を導き出すことが可能となります。当然ながら在庫がありさえすれ

ば上述した販売予測数量、もしくは平均的な販売数量を達成できたかはわかりません。しかしながらこれらの値を仮定で置くこと

により、自社もしくは自店がどの程度の欠品を発生させているのかを可視化させることが可能となります。

無用な値下げによる機会損失

無用な値下げによる機会損失は、値下げしなくとも販売できた、もしくはきちんとした配分等が実施されていれば値下げせずに

販売することが出来たケースにおける、値下げ幅が対象となります。商品を対象とした場合に、これらの無用な値下げで販売さ

れた商品の売上数量がその対象であり、これらの商品の本来販売するべき価格から、実際に販売された価格を差し引いた金額

をかけ合せることによって、自社もしくは自店が逃した機会損失金額を測ることが可能です。もちろんこれも現実に値下げをしな

かった場合の結果を正確に理解できるわけでは有りませんが、プロモーション等の販売数量増加の理由以外で値下げしたケー

スをこれに当てはめ、算出することによって、値下げしても消費者需要に変化をもたらすことが出来なかった値下げや、配分ミス

等から値下げを強いられたボリュームを金額的に理解することが可能となります。この金額を低減させることにより、売上金額を

本来有るべき結果に近づけることが可能となりますし、この金額の低減はそのまま利益金額の増加へと繋がります。

商品ロスによる機会損失

商品ロスによる機会損失は、商品が納品されてから、販売に至るまでのプロセスにおける商品そのものもしくは金銭のロスが対

象となります。商品が納品されてから販売に至るまでの間に、破損、汚損等により販売できない状態になってしまい販売しない

ままに終わってしまうケースも有り得ますし、紛失や、社員等による盗難により商品が無くなってしまうケースも有るでしょう。また

これは同様に店舗においても顧客による盗難、チェックアウトに関する不正等による金銭そのものの盗難や紛失も考えられます。

これらの中から数多く発生するポイントを分析によって見つけだし、改善策を講ずることにより、これらのロスを削減することが出

来れば、それらの商品はきちんと販売され、売上金額として獲得したはずの金額がレジに登録されていくことになります。例え

ば破損が特に多い商品を発見し、これらが起こるポイントが物流センターから店舗に納品される段階であると発見されれば、こ

のタイミングにおける配送方法を見直すことによって、ロスを改善できるかもしれません。このような売上金額を獲得する上での

ボトルネックとなっているポイントを発見し、改善策を講ずることにより、売上金額を獲得できることになります。

顧客の離反による機会損失

顧客の離反による機会損失は、今まで買い物をして頂いていた顧客が、競合店に奪取された等の何らかの理由により来店しな

くなってしまった顧客が対象となります。離反顧客は一定期間来店購入がなされなかった顧客として定義されます。そして、これ

らの顧客が一定期間に支払った金額が、来店購入されなくなることにより獲得不可能となると想定し、一定期間の支払金額を離

反による機会損失と定義するものです。当然ながら、引越し等のいかんともし難い理由で離反が発生するケースも有りますので

全ての離反を食い止めることは難しいですが、この離反率、つまり有効顧客数の中における離反顧客の割合を低減させること

により、上述したような機会損失金額を獲得し、売上金額を増加させることが可能となります。

3-D.売上原価及び回転率、キャッシュフロー

売上原価に関しては、コストを下げるという観点が必要であるのと同時に、コスト効率を高めるという観点を考えなければなりませ

ん。コストを下げるという考え方からは、取引先からの購買方法を検討する際に需要データや購買発注データを用いることにより

購買方法、つまりロットや購買タイミング、その他の購買条件等を改善したり、取引先や扱い商品を変更することにより、商品原

価をできる限り安く押さえることが一つ目として挙げられます。また何よりも重要な点は、需要に基づいて購買を実施することに

より、需要と無関係な、つまり最終的には不良在庫となってしまう商品を購買しないことです。これらを低減させることにより、結果

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的には粗利金額を逼迫させる要素を改善することが可能となります。また、実際に需要は店頭で発生するものです。チェーン内

における商品在庫を店頭需要に基づいて配分することにより、本来必要であった商品を不良在庫にしてしまう危険性を回避す

ることが可能です。極めてシンプルな表現をすれば”売れる商品を買う”ということを徹底させることが重要になります。そして、こ

れは小売業内の商品の動くプロセスに着目してボトルネックを改善していくことをテーマにしていますが、これはサプライチェー

ン全体にも言えることです。店頭需要をサプライチェーン全体のプレイヤーが共有し、これに基づいて生産及び配分が実施さ

れることにより、サプライチェーン内の本来は無駄な安全在庫が削減されれば、販売価格に上乗せされているこれらのコストを

低減させることが可能となります。但し、サプライチェーン自体は各プレイヤーの思惑が複雑に絡む為、ここからロジカルに利益

金額を導き出す為には、小売業の観点から考えた場合、取引先やメーカーとの強力なパートナーシップと信頼関係を構築し、

分析を実施し、共に実行に移していく必要があります。

次に効率性についての考慮になりますが、資産という観点から考えた際には、効率性、つまり回転率を向上させることが必要と

なります。単純に売上原価を下げるには商品を買わなければ良いという結論も導き出されてしまいます。売れない商品に関して

はそれで良いのですが、売れる商品に関しては売れるボリュームを用意することが必要であり、販売機会が多ければ多いほど

商品を多く買いつける必要があり、結果的に売上原価は増大します。しかし回転率及びキャッシュフローという観点から考えると、

このことは利益金額も増大させることになります。仮に10円で商品を買って1円の利益を上乗せし、11円で販売する商売を考え

てみましょう。商品を仕入れてから 1年間で販売できた場合と 1ヶ月で販売でき、これを 12ヶ月間連続で実施した場合には年間

の最終利益では 12-1=11円の利益金額の差額が生まれます。また、10円で商品を買うという事は、10円を取引先に支払わなけ

ればなりません。支払タイミングが来る前に販売できればそのまま10円を取引先に支払うことができ、利益として生成された1円を商品等に再投資することが可能となりますが、支払タイミングが来ても販売できていなければどこかから借金をしなければなり

ません。この支払タイミングが来てから実際に販売するまでの期間、借金をした分の金利と在庫維持コストを余分に支払わなけ

ればならず、またキャッシュフロー上もマイナスのタイミングが発生することになります。このような観点から、売れる商品と売れな

い商品を理解し、店頭需要に基づいて購買と配分を実施することにより、売上原価を低減しつつ、回転率を向上させ、キャッシ

ュフローを改善させることが可能となり、結果的に利益金額に対して好影響をもたらすことになります。

また、売上原価もしくは商品在庫からは外れますが、この効率性についての考え方は、商品以外の全ての資産、そしてその獲

得に利用した負債にも適用されることになります。資産効率を向上させることにより、または効率の高い資産へとシフトさせると共

に、資産獲得の為により安いコストで資金等を調達することにより、より少ない資金で同じ効果を達成する、もしくは同じ資金でよ

り高い効果を達成することが可能となります。これは例えば商品在庫以外にも、売掛金の回収を早めるといったこともシナリオの

対象となるでしょう。これにより、現在の資産からより多くの効果を達成する、もしくはより少ない資本で同じ効果を獲得すると共

に、手持ちのキャッシュを増大させ、再投資のオプションを広げることが可能となります。

3-E.販売及び一般管理費

販売及び一般管理費に関しても、コストそのものを削減すると共に、コスト効率を改善するという考え方の両方が考慮されなけれ

ばなりません。主な項目として、人件費や販促費、経費等が挙げられます。販促費に関しては後述しますが、まず無駄に使わ

れている費用を発見し、これらを改善することにより販売及び一般管理費を低減させることが必要となります。これは閑散期にお

ける店舗の人件費等が挙げられるでしょう。もちろんこれらは業務のほかのプロセスや分野に影響を与えないことが前提となりま

す。特に顧客に対して影響を与える点を削ってしまうことは良い影響を与えません。店舗の清掃費用や照明の費用をけちること

により店舗イメージが悪くなることは好ましくありません。

もう一つは同じコストをかけてもコストの利用先や配分を変更することによって効率性、つまり売上や利益の増加に寄与させるこ

とがテーマとなります。上述した人件費であれば、客足が集中する繁忙期に人件費を集中的に利用させることにより、接客や、

チェックアウトの生産性等、対顧客のサービスレベルを維持し、売上に貢献させることが可能となります。逆の言い方をすれば

繁忙期において逃していた売上金額を追加的に人件費を投入し、サービスレベルを維持することによって獲得することが可能

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になると言えるでしょう。

3-F.顧客マーケティングとプロモーション

ここまででご紹介してきた売上及びコストが複合されるシナリオを一つご紹介します。顧客マーケティングやプロモーションの効

果です。これらの効果を考える際には、売上とコストの両方の観点から考える必要があります。どの程度のボリュームの顧客に対

して案内を実施し、どの程度の顧客が来店し、どの程度の顧客が購買したのか、そして来店購買した顧客はどの程度の商品を

バスケットに入れ、どの程度の価格で購入したのかという点です。流れとしては以下のような形になります。

売上金額 = 購買顧客数(= 案内顧客数 x 流入率 x 購買転換率) x 買上点数 x 商品単価

これに対して、コストとしては、案内顧客数にかかる費用と、購買顧客数もしくは商品単価にかかる費用の二つが存在します。案

内顧客数にかかる費用としては、ダイレクトメールやチラシ、TVCMが考えられます。これらは来店してもらえるかどうかに関わら

ず、案内に対してかかる費用です。これに対して購買顧客、もしくは購買した商品に対してかかる割引や特典の費用が存在しま

す。販売及び一般管理費として計上されるか、単なる値引きとして売上金額から差し引かれるかは別として、これらは購買という

反応をしてくれた顧客に提供されることになります。全般的には顧客マーケティングやプロモーションの投資対効果は、これに

商品の売上原価を含めた形で計算されます。一方、どこにボトルネックがあったのかを理解する為には、上述した式における構

成要素の一つ一つを検証する必要があります。案内顧客数のボリューム自体はかけるコストに比例します。これは実施する顧客

マーケティングもしくはプロモーションの範囲を定義することになります。これに対して、来店された、もしくは何らかの関心を示

してくれた顧客の割合を流入率と定義します。この値が低いという事は実施している顧客マーケティングやプロモーションの魅

力がない、もしくは顧客の選定方法に誤りがあったという事になり、ここがボトルネックになっているという事になります。これに対

して購買転換率が低い場合には、折角来店頂いたにも関わらず購買頂けなかったことを示します。これは品揃え等マーチャン

ダイジング上の課題があるか、マーケティングとして案内したメッセージとのミスマッチが発生しているか、どちらかが原因となり、

ボトルネックになっていると言えます。更に、買上点数や商品単価が思わしくない場合には、陳列や品揃え、併買等の考慮に改

善の余地が有ることを示します。また上記は売上に焦点が置かれていますが、これに加えて粗利率、もしくは粗利金額を考慮に

入れ、最適な粗利ミックスを品揃え実施上考慮することで、商品、特に販促商品の収益性をプロモーションによって低下させて

も、顧客の購買レベルで収益性を維持することが期待できます。加えて、コストに関しては、ターゲットしていた顧客に対して案

内したコストが効率性の観点から適正な対象に対する適正なコストであったのかを理解し、必要に応じて是正することが必要と

なります。また特典に関しても適正なレベルのものであったのかを売上金額や来店客数の増加とのバランスで評価し、必要に

応じて是正する必要があります。無用な費用は低減されるべきであり、より高い効果を生み出すことが可能なポイントがあるので

あればそこに費用がシフトされるべきです。以上、これらのポイントのどこにボトルネックが発生しているのかを発見し、その原因

を理解し、改善することにより、最終的な利益幅を最大化させることが可能となります。

ちなみに補足となりますが、上述した流入率は、来店のみを特定できない場合には考慮されません。オンラインストアや、ダイレ

クトメール等の回収を実施しているプロモーションにおいてはこの値を測定可能です。将来的にはバスケットに無線タグのスキ

ャナ等が設置されれば物理店舗においても流入率、つまり買上に至ったかどうかではなく、来店数という観点からのデータの把

握ができるようになるでしょう。

以上のような形で、売上を増加させ、コストを低減させると共にコスト効率を上げることによって、利益金額を最大化させることが

可能となります。投資対効果の算出という観点からは、上述したような形でシナリオ化できる算出ロジックと、自社にとって分析に

より実現可能、改善可能と想定できる数値を置くことにより、利益金額をどの程度追加的に生成できるかを算出できれば、この値

が投資対効果の”効果”の数値として利用できることになります。

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4.投資対効果の算出

4-A.投資対効果の考え方

投資対効果の測定方法には、幾つかの方法があります。一般的に用いられている手法として以下の 4 つの手法をここで挙げま

す。それぞれに測定の単位、評価の軸、利用のメリット、デメリットが存在しますので、これらを合わせて利用する、または適切な

方法を選択して測定する必要があります。また通常企業においてポリシーとして選択している手法と評価基準があるはずです

ので、それに則って評価するべきでしょう。以下に簡単に説明を加えますが、詳細な理解を得たい方は、投資回収、または管理

会計の専門書をお読みになることをお奨めします。

4-B.Payback Period(回収期間)法Payback Period は、投資額に対して回収する利益額が等しくなるタイミングについて求める手法です。単位としては月、年等で

把握され、期間が短いほうが有利な投資対象となります。また、投資額に対して回収する利益金額が等しくならないということは、

投資回収が出来ない投資計画であるという判断が可能です。利用者はこの手法を用いることによって、投資した金額がいつ回

収されるのか、また逆に自社の基準に照らし合わせた際に妥当な回収期間なのかを判断することが可能となります。一方、この

手法では投資計画の全体期間の中で回収されるタイミングを求める為、その後の投資額と利益額の変化に伴うリスクが無視され

ていることになります。また、後述するNPV及び IRRに見られるような投資額を全て現在価値に換算して、時間的な価値の変化

を考慮に入れた計算をされていないという点が注意点として挙げられます。簡単なサンプルとしては以下の通りです。以下のサ

ンプルにおいて、投資額と利益額が等しくなるタイミングは、2年目の終わりということになり、Payback Periodとしては 2年、もしく

は 24 ヶ月ということになります。

年度 初期 1 年目 2 年目 3 年目

投資額 ¥1,000利益額 ¥500 ¥500 ¥500

4-C.ROI(Return On Investment)法ROI は、投資額に対して回収する利益額の割合を求める手法です。単位としては%で把握され、数値が高いほうが有利な投資

対象となります。また、ROIが100%以上とならないということは、投資回収が出来ない投資計画であるという判断が可能です。利

用者は、この手法を用いることによって、単純な収益性に関しての理解を得ることが可能となり、また、自社の基準に照らし合わ

せた際に妥当な収益率であるかを判断することが可能となります。この手法に関しても、Payback Period 同様、時間的な投資金

額の価値変化を考慮に入れていない為、この点を注意する必要があります。上述した Payback Period にて用意した簡単なサン

プルを用いた場合、3 年間での ROI は、以下の通り 150%の ROI となります。

ROI=[利益額]/[投資額]*100=[¥1,500]/[¥1,000]*100=150%

4-D.NPV(Net Present Value)法NPVは、一定期間におけるキャッシュフローに対して、時間的な金額価値の変化(割引率*)を考慮に入れた上で、キャッシュフロ

ーの合計値を求める手法です。単位としては金額で表され、金額が高いほうが有利な投資対象となります。また、NPV がプラス

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の値にならないということは、投資回収が出来ない投資計画であるという判断が可能です。利用者はこの手法を用いることにより、

プロジェクト計画の最終的な獲得利益額を時間的な金額価値の変化を考慮に入れた上で理解することが可能となり、また自社

の投資回収基準と照らし合わせて妥当な獲得利益額かを判定することが可能となります。一方、当初考慮した時間的な金額価

値の変化(割引率)は実際の経済環境等の様々な変化に伴って変動する為、算出時点での考慮が投資計画の実行、展開段階

において乖離してしまう危険性を持っています。

割引率*

ここで、割引率(Discount Rate)、つまり時間的な金額価値の変化を考慮に入れるための指標値について補足します。割引率は、

利益、もしくは調達する資金の価値が、数年後に変化することを想定し、その変化の度合いを示した率です。割引率は%で示さ

れ、現在の金額に対して割引率を掛け合わせた金額を足しこんだものが 1 年後の金額価値として導き出されます。反対に 1 年

後の獲得金額に対して、割引率を掛け合わせた金額を差し引いた金額が現在の金額価値ということになります。数式にて示す

と以下の通りです。

割引率の考え方

現在の金額は 1 年後どれだけの価値か?=[現在の金額]*(1+[割引率])=1 年後の金額価値

1 年後の獲得金額は現在どれだけの価値か?=[1 年後の金額]/(1+[割引率])=現在の金額価値

何故このような考え方をするのかを理解するために、銀行の金利を考えてみましょう。金利が年間で 10%付与される銀行に

1,000 円を預けると仮定した場合、1 年後に 100 円の金利が付与され、1,100 円を獲得することが可能となります。反対に 1 年後

の 1,100 円は今の段階においては付与される 100 円を獲得できない為、現在は 1,000 円の価値しかないということになります。

ここでいう金利である 10%が割引率と同等の意味を持ちますが、正確には割引率は金利と等しくありません。企業運営をしてい

く中で金額を時間的な概念を考慮に入れた上で評価する為に採用しているレートが割引率であり、金利だけでなく、物価の上

昇/下降、リスク等の様々な要素を考慮に入れて算出される値となります。通常、企業においては割引率を会計上のポリシーとし

て保持していますので、この値を投資対効果の試算においても利用することとなります。また割引率を理解するにあたっては、

二つの考え方があります。上述した銀行の金利と同様に、1,000円の金額に対しての割引率を10%として二つの例を考えてみま

しょう。まず投資額として 1,000 円を取得する際には、この割引率を念頭に置くと、1 年後に 1,100 円になることを考慮しなければ

なりません。1,000円を借り入れるとすると 1年後には利子も含めて 1,100円にて返済しなければならないと考えれば分かりやす

いかもしれません。ここから投資計画は1,100円以上の利益額を獲得しなければ回収したことにはならないということが言えます。

もう一方の考え方として、1年後に、1,100円を獲得できる投資計画であっても、それは1年後であるが故に、獲得できないかもし

れないリスクをはらんでいると言うことができます。その為、このリスクを 10%としてみて、その分を割引いて評価する必要が出て

きます。もっとも安全な投資が銀行預金の10%の利子であると仮定して、それよりもリスクを冒す価値があると判断する場合には、

1,100 円以上の利益を獲得する必要があると表現すれば分かりやすいでしょうか。従って、いずれの場合にも割引率は投資回

収を行う上でクリアしなければならないハードルであると言うことができるでしょう。割引率に利用される指標値の一つとして、

WACC: Weighted Average Cost of Capital があります。算出方法や数式は専門書等を参照頂きたいのですが、Cost of Capital(資本コスト)は資金調達に伴って発生するコストを示し、このコストの資金に対する割合を示します。Weighted Average は加重平均

を意味しますが、これは企業における資金調達である負債と資本(株式会社におけるいわゆる株式資本)それぞれに関しての

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Cost of Capital の加重平均を算出することを意味します。割引率として WACC を利用する場合でも、その企業、そしてその企業

の財務担当者がポリシーとして保持している値を適用し、投資対効果の算定に利用します。

以上、補足が長くなりましたが、上述した Payback Period にて用意した簡単なサンプルを用い、割引率として 10%を適用した場

合、以下の通り約 243.4 円の NPV となります。

NPV=(-[初期投資額] )+[1 年目の利益額]/(1+[割引率])1

+[2 年目の利益額]/(1+[割引率])2

+[3 年目の利益額]/(1+[割引率])3

=(-1,000)+500/(1+0.1)1+500/(1+0.1)2+500/(1+0.1)3

=243.4

結果的には、1,500 円の利益合計額から 1,000 円の初期投資額を差し引いた 500 円よりも、現在価値に換算する為に割引され

ていることがお分かりいただけると思います。

4-E.IRR(Internal Rate of Return)法IRR は、NPV の考え方を利用して、投資計画の収益率について求める手法です。単位としては%で示され、値が高いほうが有

利な投資対象となります。IRRの比較対象はNPVにおいて利用される割引率であり、IRRの値が割引率よりも高くない場合は、

投資回収が出来ない投資計画であるという判断が可能です。利用者はこの手法を用いることによって、投資がどの程度の収益

性を持つかを理解し、また逆に自社の基準に照らし合わせた際に妥当な収益率なのかを、時間的な価値の変化も含めて判断

することが可能となります。一方で、収益率をベースに考える為、投資の絶対額が妥当であるかの判断をする際には注意が必

要となります。計算方法としては、まずNPVと同様の計算式を用います。しかし、NPVの計算式に用いていた割引率の代わりに

変数を置き(ここでは x と見立てます)、この場合の NPV=0 となる x の値を算出します。この x の値が IRR となります。PaybackPeriod にて利用したサンプルを当てはめると以下のようになります。

IRRNPV=(-[初期投資額] )+[1 年目の利益額]/(1+[x])1

+[2 年目の利益額]/(1+[x])2

+[3 年目の利益額]/(1+[x])3

=0

=(-1,000 )+[500]/(1+[x])1+[500]/(1+[x])2+[500]/(1+[x])3

=0

x=IRR

この計算は、実際には推論演算をして求めていくことになります。表計算ソフトの関数を利用して求めることが可能です。上記の

例において実際には IRR は約 23.38%となります。この値に対して、割引率が 10%であるとすると割引率よりも IRR が高い為、

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有利な投資計画であると判断することが可能です。分かりやすく考えれば、割引率と IRR を天秤にかけることによって判断して

いると言えるでしょう。割引率より高い収益率を得られなければ投資する価値がないとみなすことが出来ます。

4-F.算出にあたっての考慮

ここまでで、投資項目についての整理、効果項目についての整理、そして投資対効果の算出方法についての整理を行ってきま

した。最後に実際にこれらをどのように統合して、投資対効果を算出するかに付いて触れ、この資料のまとめとしたいと思います。

まず、投資項目に関しては、資産として計上されるべき項目と、経費として計上されるべき項目に分けられます。この中には資産

として計上した項目の減価償却分が含まれる必要があります。また、効果項目に関しては各 BIO 毎に導き出された利益金額ベ

ースでの効果を BIO 間で整合性がとれているかどうかを確認した上で足し合わせます。これらは投資、効果ともにカレンダライ

ズされます。どのようにカレンダライズするかはその企業によって異なりますが、1 年毎に 3 年もしくは 5 年のスパンでカレンダラ

イズするのが一般的です。このようにしてカレンダライズされた利益金額から、経費が差し引かれ、税引前利益が算出されます。

これに対して実効税率をかけ合わせた値を差し引き、税引後利益が導き出されます。次に実際に発生しない減価償却分を足し

こむことによって、税引後のキャッシュフローが導き出されます。この減価償却分に関しては、投資段階で実際には発生すること

になりますが、初期段階の投資であればこれをそのまま投資金額として適用可能です。追加的に投資される場合には、上述し

た割引率もしくは WACC を投資タイミングに応じて適用し、現在価値として算出した値(PV: Present Value)が投資金額として導き

出されます。このようにして導き出された投資金額と税引後キャッシュフローを上述したような算出方法/式に適用させることによ

り、投資対効果が算出されます。

5.おわりに

以上でどのような効果が導き出され、その収益性がどのような形になるのかを理解できることになりますが、重要な点は、これら

は想定に基づいた値であるという事です。言うまでもなく、ビジネス上の課題、つまりBIOに基づいて分析、行動がなされなけれ

ば実現されませんし、実際には完璧な形で分析と行動がなされたとしても様々な外部要因により、導き出される利益は変化する

ことでしょう。しかしながら、この不確実性に対して、理詰めで意思決定を行い、自信に基づいた行動へとつなげることによって、

少なくとも一日の終わりを悔いなく迎えることができる社員が多い企業は、不確実性の中から少しでも多くの確実な収益を獲得

することができるはずです。

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