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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title グローバル競争における後発企業のキャッチアップ戦略 : 技術競争 とマーケティング資源ベースの競争(Catch-up Strategies of Latecomer in the Global Competition : Technology Race and Marketing-Resources Based Competition) 著者 Author(s) , リン 掲載誌・巻号・ページ Citation 国民経済雑誌,195(6):49-67 刊行日 Issue date 2007-06 資源タイプ Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 版区分 Resource Version publisher 権利 Rights DOI JaLCDOI 10.24546/00056160 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00056160 PDF issue: 2021-02-02

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Page 1: Kobe University Repository : Kernel · 一一技術競争とマーケティング資源ベースの競争一一 黄 隣 本論文の目的は,三星グループの中国市場での事業展開プロセスを記述すること

Kobe University Repository : Kernel

タイトルTit le

グローバル競争における後発企業のキャッチアップ戦略 : 技術競争とマーケティング資源ベースの競争(Catch-up Strategies ofLatecomer in the Global Compet it ion : Technology Race andMarket ing-Resources Based Compet it ion)

著者Author(s) 黄, リン

掲載誌・巻号・ページCitat ion 国民経済雑誌,195(6):49-67

刊行日Issue date 2007-06

資源タイプResource Type Departmental Bullet in Paper / 紀要論文

版区分Resource Version publisher

権利Rights

DOI

JaLCDOI 10.24546/00056160

URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00056160

PDF issue: 2021-02-02

Page 2: Kobe University Repository : Kernel · 一一技術競争とマーケティング資源ベースの競争一一 黄 隣 本論文の目的は,三星グループの中国市場での事業展開プロセスを記述すること

グローバル競争における

後発企業のキャッチアップ戦略一一技術競争とマーケティング資源ベースの競争一一

黄 隣

本論文の目的は,三星グループの中国市場での事業展開プロセスを記述すること

によって,マーケティング資源をベースにした後発企業のキャッチアップ戦略の特

徴を明らかにすることである。技術競争のレースにおいても中国市場への参入にお

いても後発であった三星は,グローパル競争のアリーナと化している中国市場で強

い市場地位を築き,現地企業が繰り広げている織烈な価格競争にも勝ち抜いている。

本論文において,中国における三星の市場参入,プランドづくりおよびコミュニケ

ーション活動のプロセスを詳細に調べることによって, Iマーケティング資源ベー

スの競争」という理論視点から後発企業のもつ技術など組織資源とマーケティング

資源との関係,現地市場での資源の獲得と蓄積を分析して,選択と集中,俊敏さお

よび差別化といったキャッチアッププロセスの特徴を明らかにしている。

キーワード 後発企業,マーケティング資源,キャッチアップ戦略,

関係 (Guanxi)管理

1 はじめに

本論文では,韓国企業の三星グループをケースとして取りあげる;三星グループの中国市

場における事業展開のプロセスを詳細に記述することによって,マーケティング資源をベー

スにした競争と後発企業のキャッチアップ戦略の特徴を明らかにすることがこの事例研究の

目的である。

韓国企業は90年代に入ってから中国市場に本格的に参入した。グローパルな技術競争のレ

ースにおいて,韓国企業が日米欧企業に遅れをとっていると一般的に評価されている。しか

しながら,技術競争においても中国市場への参入においても後発であった三星はなぜグロー

パル競争のアリーナと化している中国市場で強い市場地位を築き,現地企業が繰り広げてい

る織烈な価格競争にも勝ち抜くことができたのか。本論文では,中国市場における三星の市

場参入,プランドづくりおよびコミュニケーション活動の展開プロセスを詳細に調べること

によって,この間いに関する答えを見つけようとした。中国市場における韓国企業,とくに

その代表的な存在である三星グループを詳しく調べることによって,後発企業の海外事業展

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50 第 195巻 第 6 号

聞におけるマーケティング資源の重要性を明らかにし,後発企業のキャッチアップ戦略の特

徴を明確にすることができると考えている。

三星グループの中国事業の展開プロセスを分析するためには,後発企業のキャッチアップ

戦略に関する新しい理論視点が必要である。ここでいう新しい理論視点とは, Iマーケティ

ング資源ベースの競争」である。

従来の理論では,先発企業 CFirst-mover) とは技術競争のレースにおいてリードしてい

る企業であり,海外市場への参入においても,その技術的な優位をベースにして競争するこ

とが想定されている。また,後発企業(Latecomer)はリーダー企業を模倣し,効率的に学

習できるという後発優位によって先発企業をキャッチアップするとしている。今日の新興市

場においては,後発企業は技術優位をもっグローパル企業,そして低コストを武器にしたロ

ーカル企業との競争に直面する。後発企業は,後発優位に基づいた技術的なキャッチアップ

だけでなく,新しい次元での差別化によってキャッチアップすることも重要である。

後発企業に関する代表的な研究は,キャッチアップのプロセスを連続的な技術進歩の軌跡

における先発企業と後発企業のポジションの変化として捉えている。そこでは,技術競争の

レースにおける競争相手のポジションに変化をもたらす要因,あるいは後発企業の技術戦略

や研究開発マネジメントがその市場地位や競争力の変化との関係が分析の焦点となっている。

しかしながら,技術をベースにした競争という視点からのキャッチアップ戦略の研究は,後

発企業と市場環境との相E作用,後発企業のもつ多様な経営資源の間での相互作用,そのな

かで生まれてくる複数の次元での競争と多様なレースを明確に議論されていない。

三星グループの中国事業展開のケースは,技術のキャッチアップだけでなく多様な経営資

源による海外市場でのキャッチアップが可能であることを示している。つまり,技術という

コアの資源以外に,市場との相互作用のなかで生み出されたマーケティング資源,そして,

多様な資源の相互作用による差別化で強い市場地位を構築することができる。

以下では,まず韓国企業のキャッチアップに関する既存の代表的な研究を取りあげる。つ

ぎに,市場参入,ブランドづくりや市場地位の変化など三星のマーケティング資源の展開を

詳細に記述する。三星は独自の製品開発とデザインの資源と能力を移転し, I地域専門家制

度」や IVIPマネジメントJという関係 (Guanxi)管理の仕組みによって現地での関係的資

源を蓄積して,プランドメーカーとして中国で高い市場地位を確立した事業展開のプロセス

を明確にする。このような詳細な記述の目的は,フィールド調査で収集した実証的データに

よって本研究の主張を裏付けることである。最後では,マーケティング資源ベースの競争と

いう視点、からみたこの事例研究の理論的示唆および今後の課題について述べる。

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グローパル競争における後発企業のキャッチアップ戦略 51

2 後発企業のキャッチアップ戦略

三星. LGや現代自動車など代表的な韓国企業は,モトローラ,ノキア,松下電器,東芝,

vwやホンダなどに比べて,中国市場に参入したのがかなり遅かったのである。海外市場で

の競争力という視点からみると,先発企業,とくに先進国のグローパル企業は技術的な優位

をベースに市場参入し,技術力の弱い後発企業は模倣,導入や学習などの戦略によってキャ

ッチアップしなければならない。後発企業がもっ資源と能力は,グローパル市場におけるそ

の競争力と市場地位に決定的な影響を与える。

先進国のリーダー的な企業は絶えず新しい技術や斬新的な製品を開発し,圏内の高い賃金

水準などのコストを吸収できるほど高い付加価値を生み出す必要がある。-s.新技術や新し

い製造法が標準化して製品が普及すると,グローパル競争の圧力のもとでは,コストが低い

海外生産拠点に製造活動が移転されることになる。

先発企業モデルにおいては,グローパル競争力を海外市場で維持するための戦略が独自の

技術,優れたアイデアや製品コンセプトの優位に基づくものだとしている。これに対して,

後発企業がいかに新しいアイデアやコンセプトを先発企業から吸収し,先進的な技術を適用

していくことがキャッチアップ戦略の主な課題になる。

日本企業はキャッチアップするために戦後アメリカなどから技術ライセンシングによる輸

入ないし技術導入の方法を多用したのに対して,韓国企業や台湾企業は,おもに OEM

(Original Equipment Manufacturing)とL、う方法で先進国の企業から技術を吸収し,学習す

る機会を得ていた。また,中国企業は海外からの直接投資を受け入れ.r市場と技術を交換

する」という戦略のもとで海外から資金,技術や経営ノウハウを圏内に導入した。このよう

に技術のキャッチアップ戦略が国や時代によって多様である。

OEMは企業間提携の一つの形態である。一般的には,プランドメーカーが提示した製品

企画に基づいて,サプライヤーが自社の製造設備で完成品を生産し,買手のプランドのもと

でその製品が販売される。 OEMの買手となるブランドメーカーは,サプライヤーの設備,

生産システム,製品設計,品質管理システムを調べ,製品のデザイン,スタイル,包装や品

質に対してさまざまな要求を出し,時にはアド、パイスもする。アメリカ自動車産業で広がっ

た OEMという企業間提携は,やがてパソコンなどのグローパル生産ネットワークに広がっ

ていた (Cyhn2002)。

国際 OEMでは,先進国のプランドメーカーは買手として,韓国企業や台湾企業などサプ

ライヤーの設備や生産能力を調べ,完成品の品質をチェックする。場合によっては,サプラ

イヤーの下請け企業についても調べる。プランドメーカーの要求が満足されれば,企業問提

携としてのパートナーシップが形成される。 OEM契約が成立すれば,多くの場合プランド

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52 第 195巻 第 6 号

メーカーの技術者が現地に派遣され,サプライヤーへの技術移転が起こる。 OEMが「相手

先プランド製造」と訳されているように「製造」が注目されるが,サプライヤーとなる企業

の製品開発能力も蓄積されることが重要な特徴である。

完成品はプランドメーカーの基準で検査されるが,品質などの問題があればサプライヤー

の責任で改善しなければならない。継続的な企業間提携の取引コストが高いため,プランド

メーカーは容易に OEMのサプライヤーを変更することができない。そして,サプライヤー

への技術指導,生産管理や品質管理へのアド.パイスを行うことでサプライヤーの製造技術や

製品技術が向上することを期待する。 OEMの契約内容にもよるが,国際生産ネットワーク

の中で企業聞の技術移転が起こる。韓国企業は OEMを中心にアメリカ企業や日本企業など

から技術吸収を進めてきた。

しかしながら.OEMでは,完成品がブランドメーカーに配達されれば,プランドメーカ

ーがマーケティング,販売,流通とアフターサービスなどの活動をすべて引き受けている。

OEMのサプライヤーとしての韓国企業が海外市場への自社プランド(OBM:Original Brand

Manufacturing)による参入には大きな障壁がある。これまでの研究では,韓国企業のキャ

ッチアップを財閥企業のコーポレートガパナンス構造,あるいは政府が与える補助金といっ

た要因によって説明していた。

Lall (1996)は,韓国企業の技術学習に関してその企業家精神と政府の干渉によるところ

が大きいと指摘している。韓国政府が財閥企業 (Chaebols)に対して輸出拡大へのさまざま

な補助金や優遇策を与え,その結果,財閥企業は積極的に資本集約産業と技術集約的な分野

へ投資した。韓国政府は,財閥企業の輸出拡大と技術学習のために長期間にわたってさまざ

まな補助金を与えただけでなく,企業への研究開発を支援するために多数の政府系研究機構

を設立した。谷 (2002)は三星電子の半導体事業の競争力を分析して,コーポレット・ガ、パ

ナンスの特異性,投資資本の獲得,技術的タイミング,政治的状況や円高などの要因を挙げ

ている。

韓国企業の技術キャッチアップに関するこれらの研究は,効率的な技術学習と技術能力の

向上に対する政府の役割や資本投資の特異性を強調している。政府による強い干渉および財

閥企業を中心とした産業構造とともに韓国政府と韓国企業の強L、輸出指向は,韓国企業がキ

ャッチアップのさまざまな障害を克服する原動力になったとしている。

Ernst (1994)や Kenney(1997)は,韓国企業が OEMと輸出志向によるキャッチアップ

がある程度成功したが,同時に大きな弱みをもっていると指摘している。第一の弱みは,韓

国企業は OEMによって海外のプランドメーカーから技術を吸収したが,韓国から輸出され

る製品のほとんどが大量生産の低利潤の標準品である。つぎに,財閥企業に対する政府の

「大きな財布 (Deeppocket) Jによって三星など大企業が急成長を遂げたが,中小企業が育

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グローパル競争における後発企業のキャッチアップ戦略 53

たなかったため,産業の裾野が狭く成長分野も限られている。韓国企業の OEMによるキャ

ッチアップに関する従来の研究の中で,とくに電子産業について批判的な見方が強L、。韓国

の電子産業は日本などからの中核部品の輸入に依存し,技術力の進化が起こっていないとし

ている。第三の弱みは, OEMが韓国の輸出額を大きく拡大させたが,それが韓国企業の固

有な技術や自社プランドによる事業展開に結びつかず,製品デザインやプランドなどの資源

の蓄積チャンスを失わせている。

3 グローパル競争とマーケティング資源

80年代から韓国企業,台湾企業,そして中国企業が先進国との OEM,ODM COwn Design Manufacturing) ,ジョイントベンチャーなどによって事業を拡大し,成長してきた。しかし

ながら,グローパル市場への進出に関して韓国企業が後発者である。後発企業のキャッチア

ップに関する理論と先発企業モデルとの違いは,海外市場での事業展開プロセスに現れる。

とくに韓国企業に関して言えば,中国やインドなどの新興市場での事業展開において,後発

企業がとりうるキャッチアップ戦略の特徴をよく示している。 OBM戦略で新興市場に参入

した韓国企業は,日米欧企業との競争に直面すると同時に,現地企業との競争にも直面する。

そこで,われわれは韓国企業の新興市場での資源展開および能力蓄積のプロセスを調べ,と

くにその固有な資源と能力を明らかにする必要がある。

ここでは,企業の固有な資源を組識資源とマーケティング資源を理論的に区別することは

重要な意味がある。図 1のように,マーケティング資源とは,企業が市場環境との相互作用

.のなかで獲得した環境情報,他の企業との取引過程で形成された関係的資源,そして消費者

や顧客に蓄積された情報的資源を指す。

マーケティング資源のなかに,企業組織の外部に蓄積される取引相手の信用,消費者や顧

客が企業やそのプランドに関するイメージや忠誠心などの資源がある。企業組織の外部に蓄

積されているこれらの情報的資源は企業にとって利用可能であり,企業の成長にとって不可

欠なものである。 また,調達と販売の局面において,部品・原材料の供給業者,協力会社

や流通企業との聞で形成されている関係特定的な資源や長期的な協調関係なども競争優位の

基盤として企業にとって重要な資源である。

海外市場を開拓しようとする後発企業は,自社固有の資源を展開し,環境の変化とグロー

パル競争に耐えなければならなL、。自社プランドという OBM戦略による新興市場での事業

展開において,現地市場環境と相互作用のなかで企業内部での組織資源だけでは十分ではな

く,マーケティング資源の移転,獲得と蓄積がきわめて重要な課題になる。したがって,マ

ーケティング資源の展開と蓄積が海外市場で競争しようとする後発企業にとって解決しなけ

ればならない経営課題であることは,理論的に自明のように思える。しかしながら,これま

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54 第 195巻 第 6 号

図1 経営資源の分類

市場

資金的資源 情報フロー

情報ストック経験情報環境情報

信用・評判

プランド資産

では,後発企業がどのようにマーケティング資源を蓄積し,現地で必要な資源を獲得し,展

開しているのかについては,ほとんど研究されてこなかった。

新興市場での市場地位を確立するために,後発企業がこれまで企業組織内部に蓄積した組

織資源を移転し,現地で展開することは重要である。だが,現地での競争力を維持するため

には,資源の移転だけでは,十分でないことも明らかである。しばしば長期的な信頼関係,

評判やプランドイメージといった企業組識の外部に蓄積されるマーケティング資源の不足は,

後発企業の海外事業展開にとって最大の足伽になっている。技術競争のレースにおける後発

優位に比べて,マーケティング資源の獲得と蓄積は時間と忍耐を要する。要するに,グロー

パル競争における後発企業のキャッチアップ戦略を分析する際に,企業組織外部に蓄積する

マーケティング資源を認識する必要がある。

4 三星グループの中国事業の展開プロセス

日米欧企業に比べて,韓国企業が後発者として中国市場に参入した。韓国企業が後発者に

なったのは韓国と中国の外交関係が92年に正常化したことに原因がある。アメリカが1979年

に,日本がその七年前の1972年に中国と国交正常化をした。国交がないにもかかわらず,韓

国の大企業は1985年から中国事業を展開していた。

4. 1 市場参入

三星グループの李会長が中国進出を検討するトップマネジメントの会議を招集したのは

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グローパル競争における後発企業のキャッチアップ戦略 55

1985年の秋ごろであった。三星グループの中国市場参入の特徴のひとつは, トップダウンに

よって決定された「シングル三星」戦略である。

「その日,会議が終わった直後,グループは本格的な中国進出計画の立案に入った。グル

ープの関係会社が個別に中国進出を模索するのではなく<シングル三星>で事業を展開し

ろというのが会長の指示であった。そこで,三星物産の香港法人が単一の窓口に決定された」

(金 2006p. 18)。

1979年から,三星グループの各企業が中華圏貿易を展開していた。<シングル三星>戦略

のもとで中国事業のグループ総括窓口である三星物産の香港法人が稼動し始めたのが1985年

の後半であった。また, 1986年に三星は北京に「星進有限公司」という名前でグループ最初

の連絡事務所を開設した。外交関係がなかったため,香港にペーパーカンパニーを設立した

後で北京に連絡事務所を開設するという形態をとった。所長が韓国系アメリカ人の女性であ

るこの連絡事務所は,三星グループの中国事業の草創期における重要な拠点であった。三星

グループの中国事業の展開プロセスを大きく 3つの段階に分けることができる(金 2006pp.

42-44)。

第一の段階は1985年 1992年で現地市場を把握するための拠点確保と経験蓄積の期間であ

る。この時期の三星グループの中国事業の中心は中国向け輸出であった。 1985年に三星グル

ープの対中貿易の総額は1.97億ドルで,輸出がその76%を占めて1.5億ドルを超えていた。

1985年の韓国の対中貿易額が12.9億ドルであったため,三星一社でその15%以上を占めてい

~.

,~。

1990年に三星グループが上海に最初の駐在員事務所を開設した。国交関係がないため,韓

国人ビジネスマンの中国ピザ取得が容易でない時代に,三星グループは上海,北京,広州や

青島など主要な大都市に貿易代表部を設置し,現地での拠点網を拡充した。社内では,中国

語を駆使できる人材を迎え入れ,中国専門担当組織を発足して中国市場の研究調査機能を強

化することに力を入れた。

第二の段階は1992年一2000年で中国への直接投資を積極的に進め,現地での生産拠点を拡

充する期間である。 1992年に変圧器を生産する三星コーニング天津と電気部品を生産する東

莞三星電気を筆頭に, VCR,プリンター,オディオ,半導体部品,カメラ/レンズ. CTY,

家電製品,毛紡織,紳士服,モニター,ブラウン管,ガラス, LCD,船舶部品,冷延鋼銀

加工など19の生産拠点が設立された。三星グループの中国への直接投資の特徴は,沿海部の

南北問わず,そして産業や業種,完成品や部品,組立て製品や素材を問わず,積極的に生産

拠点を中国に設立したことである。 2000年ごろになると,三星グループの中国での生産法人

がすべて黒字を記録し, 1998年に比べて投資総額が1.7倍,売上が3.4倍増加した(金 2006

p.44)。

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56 第 195巻 第 6 号

第三の段階は2000年以降であるが,この時期の三星グループの中国事業は携帯電話や液晶

テレビなどデジタル製品・ IT製品に重点を置き,プランドイメージの向上に主眼を置いて

いる。これまで三星グループがグローパル市場と中国市場で蓄積したマーケティング資源が

中国市場での競争力に大きく貢献し,市場地位とプランド価値が急速にあがった時期である。

4.2 市場地位

三星グループの中核的な会社は三星電子であるが,中国においても三星電子の事業規模は

グループ内のトップである。三星電子の生産拠点と販売サービス拠点は中国全土をカバーし

ている。三星電子の中国での事業展開は, 2000年ぐらいまでそれほど順調ではなく,現地市

場に関する知識も経験も不足していたため,経営業績が計画どおりに達成してなかった。と

くに1997年のアジア通貨金融危機は三星グループに大きなショックを与え, 2000年ごろまで

三星電子はそのマイナス影響を耐えて中国事業を拡大させた。

1992年8月,三星電子が中国南部の恵州に最初の生産法人である恵州三星電子有限公司を

設立し, 1993年に天津三星電子を設立した。 1996年までの三年間において三星電子の対中投

資額は急速に拡大し,アジア通貨金融危機後の1997年から1999年までの期間においても三星

電子は対中投資を拡大させていた。

表1に示しているように,三星電子は2006年まで中国にモニター,液晶ディスプレイ,

CDMA通信システム,携帯電話端末,プリンター,ファックス,家電など14社の生産法人,

8社の販売法人と 4つの研究開発機構,さらに多数の駐在員事務所や販売サービス拠点を設

立して,従業員の総規模が2.3万人 (2005年末)に達している。また,その生産・販売・サ

ービス・研究開発の現地拠点ネットワークは,北京,天津,山東(青島など),上海,江蘇,

漸江,広東,香港,台湾とグレートチャイナエリアに広がっている。

1997年のアジア通貨金融危機による市場環境の変化に対応するため,三星電子は全社の事

業構造を見直し,国内ではリストラを実行して,海外市場に関しては,新しいグローパル戦

略のもとで意思決定のスピードアップを図り,中国市場へのコミットメントを明確にして中

国への投資を積極的に行った。その結果, 2000年ごろから三星電子の中国市場での市場地位

の向上に伴って中国事業の収益性が上がった。中国の潜在市場規模の巨大さと収益の潜在可

能性に関する三星電子の認識が深まり,中国市場へのコミットメントを一層強めたのである。

図2は三星電子の海外市場での売上経常利益の推移を示しているが,ヨーロッパ市場の利

益規模の大きさ,あるいは北米市場の収益性の不安定さに比べて,中国市場の収益性は持続

的に拡大している。

2000年以降,新しいブランド戦略のもとで,三星電子の情報通信事業,液晶ディスプレイ

事業と半導体事業の成功は全社のブランドイメージの向上に大きく貢献している。移動通信

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グローパル競争における後発企業のキャッチアップ戦略 57

表 1 サムスン電子の中国現地法人 (2006年末)

投資会社 サムスン(中国)投資有限会社

天津通広サムスン電子有限会社

天津サムスン電子ディスプレイ有限会社

デジタルマルチメディア天津サムスン電子有限会社

山東サムスン通信設備有限会社

恵州サムスン電子有限会社

蘇州サムスン電子コンビュータ有限会社

生産企業天津サムスン通信技術有限会社

上海ベルサムスン移動通信有限会社

情報通信 サムスン(海南)光通信技術有限会社

杭州サムスン東信ネットワーク技術有限会社

深センサムスン科健移動通信技術有限会社

家 電 蘇州サムスン電子有限会社

半 導 体 サムスン(蘇州)半導体有限会社

液晶ディスプレイ 蘇州サムスン電子液晶ディスプレイ有限会社

サムスン(中国)投資有限会社北京支社

サムスン(中国〉投資有限会社瀦腸支社

サムスン(中国)投資有限会社上海支社

販売会社サムスン(中国)投資有限会社広州支社

サムスン(中国)投資有限会社成都支社

上海サムスン半導体有限会社

サムスン電子(香港)有限会社

台湾サムスン電子株式会社

北京サムスン通信技術研究有限会社

研究所サムスン中国デザイン設計研究所(上海〕

サムスン半導体(中国)研究開発有限会社(蘇州)

サムスン電子(中国)研究開発センター(南京)

(出所:h町:/l附 w.samsung.com.cn/about姐msung/:鈎msunggJobaljyxz.h加)

(CDMAシステム,携帯電話),デジタルディスプレイ (LCD),デジタルメディアのハイ

エンド製品を日米欧のライパル企業に先駆けて中国市場に導入し,また,研究開発と設計な

どの R&D機能も積極的に中国に移転している。

2002年末,サムスン電子の中国における累計投資額は26億ドルに達して,中国への直接投

資額が最大の韓国企業となった。 2003年に三星電子の中国での売上が67億ドルに達し,その

海外売上の17%を占めるようになった。 2004年の中国での売上高が160億ド、ルに急増し,そ

のうち韓国や第三国への輸出額が68億ドルに達した。そして, 2005年に売上高が176億ドル,

海外輸出が78億ドルである。 2000年以降,サムスン電子は海外投資額の 1/3分を中国に集

中させ, 2010年の中国での売上高目標を250億ドルとしている。

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58 第 195巻 第 6 号

図2 三星電子の売上経常利益額の推移

l!t'J 592

300

100

-100

-300 'l.¥¥¥¥¥¥ '1然、 'l.~ψ 'l.¥¥¥¥b..

年度

-500 図ヨーロッパ 図アジア/中国 ・北米

出所 :r三星電子の年次報告書2005年度J

4.3 プランド戦略とマーケティング・コミュニケーション

三星グループのプランド戦略の特徴は,携帯電話など移動通信分野でもっとも明確になっ

ている。 三星電子は,韓国国内市場での激しい競争のなかで独自の研究開発とデザインの資

源と能力を蓄積した。また,北米市場やヨーロッパ市場で得た経験を中国市場での戦略展開

にも適用した。その結果, 2000年以降 iSAMSUNGJという企業プランドの価値がグローパ

ルに急速に上昇した。

4.3.1 半導体・液晶ノfネjレ・携帯電話への集中と先端的な企業イメージの確立

1998年に当時の三星グループ会長が新しいグ‘ローパル戦略を打ち出し,北米市場のスーパ

ーマーケ ットで販売される低価格の iSAMSUNGJブランドの商品供給を中止した。1996年

10月にアメリカ市場の CDMA事業に参入したことを機に,先端的なデジタル・ IT製品メー

カーのブランドイメージ構築に積極的に取り組みはじめた。1999年にヨーロッパと中国での

CDMA事業へ参入し,グローパルプランド戦略を本格的に展開した。海外市場における

OBM戦略への転換,そして,グローパル競争と蟻烈な価格競争が同時に繰り広げられてい

る中国市場でのプランドづくりは強い競争力の基盤を持たなければできなL、。

まず, 三星グループの競争力基盤のひとつとして,グループ全体の高い収益力をあげるこ

とができる。三星グループの連結営業利益は2002年から2004年の三ヵ年で約9000億円, 6300

億円,1.1兆円と巨額である。営業利益の 9割前後が DRAM,フラッシュメモリーの「半導

体J,大型液晶パネルの iLCDJ,そして携帯電話の 「通信」の三事業部門によって占めら

れている。しかも, 2000年から2004年までの五年間での営業利益額39兆ウォンの92.5%が韓

国本土の利益でその大半が韓国から海外に輸出される半導体と携帯電話の利益である(安積

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グローパル競争における後発企業のキャッチアップ戦略 59

表 2 DRAMと液晶パネルの上位メーカーの世界シェア

DRAMの出荷額シェア DRAMの世界シェア

順位 1998年 2000年

会社名 シェア(%) 会社名 シェア(%)

1 Samsung Electronics 20.1 サムソン電子 22.9 2 Hyundai 12.4 マイクロンテクノロジー 20.4 3 Micron 9.2 ハイニックス・セミコンダクター 18.9 4 NEC 9.1 インフィニオンテクノロジーズ 9.4 5 LG 8.4 NEC 6.4 6 Toshiba 7.9 東芝 6.3 7 Siemens 7.8 日立製作所 3.7 8 Mitsubishi 6.9 三菱電機 2.7 9 Hitachi 6.5 10 Fujitsu 5.9 その他 9.3

Others 5.8 Total 100.0 100.。

出所:IDC (1999) IDCジャパン調べ (2000年)

TFT-LCDの世界シェア 液品パネルの出荷額シェア

順位 2000年 2005年 シェア(%)

会社名 シェア(%) 会社名液晶

会社名 テレビ用パネル

1 Samsung 20.5 LG-Philips LCD 20.7 LG-Philips LCD 23.9 2 LG-Philips LCD 14.0 Samsung 20.3 Samsung 23.5 3 Hitachi 10.1 友達光電(台滞 14.1 Sharp 18.5 4 Sharp 7.6 奇美電子(台骨 10.8 ADI 17.1 5 Toshiba 6.8 中華映管(台湾) 7.0 Acer 11.9 6 NEC 6.6 反調電子(台湾) 5.7 Hitachi 1.3 7 Sanyo Electric 5.0 シャープ 4.8 8 IBM 4.6 9 Acer 3.6 10 ADI 3.1 その他 16.6 other 3.8

Others 18.1 Total 100.0 Total 100.0 Total 100.0

出所:EIAK (2001) Disp1ay Search, USA

2006)0 2006年の営業利益の最新データをみても,以上の財務構造が変わらず, DRAM,テ

レビー向け大型液晶パネル,携帯電話を中心とする情報通信が稼ぎ柱で,そして,利益の大半

が海外法人で稼ぐため,デジタルメディアを含めて各事業部門が黒字経営している。 2006年

通年の純利益が7.93兆ウォンで前年比 4%の増益になっている(日本経済新聞 2007.01.12)。

つぎに,三星グループの選択と集中の事業戦略は, 2000年ごろからパソコンや携帯端末の

世界的な生産基地となった中国と必然的に結びつくようになっていた。

1999年時点で, DRAMの約八割はパソコン向けだったが,表 2に示しているように,

1998年世界 DRAM市場における三星のシェアはトップで世界の20%を占めていた。ちょう

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60 第 195巻 第 6 号

ど同じ時期にデスクトップ PCの世界的な生産拠点は ASEAN,日本や韓国から中国やメキ

シコにシフトしていた。 2002年中国のデスクトップ PCの生産台数は世界の約三割を占める

ようになった。また, 2001年以降の台湾政府の政策変更により,ノートパソコンの生産輸出

拠点も中国に集中するようになった;このようなグローバルな市場変化のなかでパソコン向

けの汎用 DRAMのトップシェアをもっ三星電子は,中国市場へのコミットメントを強め,

韓国からの対中輸出と現地市場でのプランドイメージの確立に力を入れた。

また,液晶ノfネlレ,とくにテレビ、向けの大型液晶ノfネルに関しでも,三星電子が中国事業

を本格的に展開しようとした2000年ごろには,すでに世界のトップシェアを占めていた。

PC向けの半導体に比べて,テレビ向けの大型液晶パネルが三星プランドの中国市場でハイ

テクというイメージの確立に貢献している。しかしながら, iSAMSUNGJプランドの先端

的な企業イメージの構築にとって携帯電話事業の成功が決定的な役割を果たした。

4.3.2 製品開発・デザイン能力と市場導入のスピード

三星経済研究所のデータによれば, 2000年に韓国メーカーの携帯電話端末の世界市場シェ

アは CDMA方式で53.7%,GSM方式で10.1%, トータルでの世界市場シェアが22.1%に達

した。

三星電子は,日本企業が開発した最新機能のデバイスを輸入し,グループ企業の強みを発

揮して携帯電話端末の新機種を日本企業よりも先行して市場に投入できるようになうた。携

帯電話端末に関しては,従来言われたような標準品の大量生産から,製品デザイン能力を重

視した市場志向の戦略への転換が実現できた。圏内での激しい競争に対応していく過程で,

高機能かっ多種多様のモデルをすばやく開発して市場に投入する能力を構築することができ

た(今井・川上 2006pp. 15-39)。

中国において,三星電子は日米欧のライバル,そして現地企業に先行して,端末の小型化,

軽量化,省電力化,高機能化,動画撮影, 3Dゲーム,スライドフォンや横向き画面,デジ

タルテレビ放送の受信機能など,製品開発とデザインの面では世界市場の先駆者的な役割を

果たし,中国ではとくに CDMA市場での先発企業のイメージを構築した。

まず,中国でのブランド戦略の成功には,総合電機メーカーとグループ企業のシナジー効

果が発揮されていた。携帯電話の液晶デバイス,一部の RFデバイス,アプリケーション・

プロセッサおよびフラッシュメモリについては系列企業のサムスン電機とサムスンテックウ

ィンがカメラモジュールを開発生産した。

つぎに,デザイン面では,大規模の投資を行い,社内では500人規模(うち150人程度が携

帯電話端末を担当している)の「デザイン経営センターJ,海外市場ではロンドン,ロサン

ゼルス,サンフランシスコ,東京,上海にデザインセンターを開設した。ハイエンド路線を

採用しつつも多様な製品ラインナップを揃えるために,韓国内のデザインハウスへの開発委

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グローパル競争における後発企業のキャッチアップ戦略 61

託も積極的に進めた。

さらに,製品機種の多様化に対応した開発のプラットフォーム戦略を採用している。 2005

年時点で,三星電子は韓国圏内と世界各国に約200の携帯電話端末の機種を販売している。

製品機種開発のプラットフォーム戦略に関しては,三星はノキアやモトローラを模倣してい

る。三星電子が2003年に新発売した100余りの機種のうち,基本モデルと呼べる機種が78も

あり,開発期間も日本企業に比べてかなり短いといわれている。三星グループ内での製品開

発・デザイン能力の蓄積は,中国市場での成功を支えている。

4.3.3 プランドの文化的意味と価値上昇

中国市場においては,携帯電話端末が SAMSUNGプランドのマーケティング・コミュニ

ケーションのメディアとしての役割を果たしている。三星は,携帯電話端末のハイエンド戦

略を中国市場にも適用している。他のグローパル企業に先駆けて三星電子はダブル・スク

リーンの新機種 SGH-A288を中国市場に投入し,また2001年末にフリップアップデザイン

の SCH-X350を中国で発売して, 2005年には500メガのカメラ付きモデル SCH・M509を発

売している。フリップアップデザインの SCH3500は,韓国国内では必ずしも販売好調では

なかったが.2000年に米国で発売し,デザインと機能面で好評を博し,シェア確保に大きく

貢献した。

また,三星電子の中国で販売される製品ラインナップは比較的高価格の機種を中心にして

いる。もっとも安い端末 SGH-C158のネット販売価格が598元である。 2006年に販売して

いる42機種のうち, 1000元未満は 5機種, 2000元未満が10機種, 3000元未満が15機種, 6000

元未満が12機種と,三分のこの機種が高価格帯で端末の平均価格水準を2700元に設定してい

る。

三星の中国におけるマーケティング・コミュニケーションの中心的な課題は,新しいプラ

ンド認知の確立,そして,プランドイメージとプランドローヤリティーの向上である。単に

高性能,ハイテクや先端的デザインといった製品のプランドイメージだけでなく,顧客に新

しいライフスタイルの提案,そして,企業ブランドの文化的な価値を向上させるコミュニケ

ーション活動も展開している。

たとえば,北京にデジタル製品を体験するパビリオンを開設し,テレビ放送の全国ネット

にデジタル製品に関する番組一「三星電子杯Jを提供している。 2002年に上海で iAsia

CebitJの博覧会. 2003年に中国全土での「デジタルマンコンテストJ,2004年に「韓流文化

月」の開催, 2005年に北京オリンピックのプレイベントとしての「一万人市民マラソン」を

主催した。さらに,中国内陸農村部での「希望小学校」建設プロジェクトにこれまで総額

900万元寄付した。

図3のように, SAMSUNGプランドの価値は.2000年以降急速に上昇し,電子製品のプ

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号6 第第 195巻62

世界電子メーカーのプランド価値と SAMSUNGのプランド価値の推移図3

Brand vaJu巴 ofSamsung

16.0

14.0

12.0 C ω10.0 e命ロa

ロロv>

8.0

6.0

4.0

change (%)

-9 ・13-9

-15

n.a. -9 22 -17 -11

-15

卿叫山一郎

mMω叫川一日一日目“

2

h

E2

2

1

1

2001 brand value

35.0

18.0

15.0 12.4

9.5 7.1

6.4 5.5 4.9

3.8

Nokia

HP

Sony Compaq

Nintendo

Ericsson

5翌竺堕Apple Philips

Motorola

出所 Interband調べ

順位

単位:10億ドル

14η,uquA守

Fbno-mi一日UQunu

-

EA

2.0

0.0 2005 2004 2003 2002 2001 2000

ランドメーカーのなかでの順位が高くなってきている。中国市場においては,後発企業にも

三星が中国での携帯電話のトッププランドと

とくに rAny回 IIJという三星の携手帯電話端末の広告は中国全土で見

中国消費者協会の調査によれば,かかわらず,

して認知されている。

ることができる。

モトローラ,2000年ごろの中国の携帯電話市場においては,表3に示されているように,

フィリップス,松下電器とアルカテルが75%の生産シェシーメンズ,エリクソン,ノキア,

% 23.8 13.3

E 6.1 4.2

桑逮(中国 2.9迫比特(中国 2.2松下電器 1.9 康佳(中 国 1 .6アルカテル 1.6 科健(中 国 1 .6|三星電子 1.6 I

中国国産〆ーカ 6.4 その他 10.0 松下電器 (日本)その他 18.7 その他

推定生産台数(万台 5396 11500 圏内推定出荷台数(万台)

注.生産量シェアは中国信息産業部データを基に中聯富士経済諮前有限公司が推定市場シェアは,北京現代商報 (2006.5. 22),新聞辰報 (2006.5. 18),北京青年報 (2006.3.12), NNA (2006.3.1),総務省「平成17年通信利用動向調査J(2006. 5. 19)により算出。

4.1

intnDphυ

••

••

89qonLη'u

市場シヱア

2005年

会社名

ノキア(フィンランド)モトローラ (アメリカ)

|三星電子(韓国)波導(中国)夏新(中国)ソニーエリクソン(日本・スウェーデン)

連想=レノポ(中国)TCL (中国)康佳(中国)海爾(中国)

中国携帯電話の上位企業の生産量シェアと市場シェア表3

生産量シェア

tinLqυ44aqυ

% 28.5 25.7 9.1 5.4 4.7

2002年

会社名

モトローラノキアシーメンズ

波導(中国)TCL (中国)

Il--ム

a位。,U旬

i4q

i-

-

nψ/

一nHunγ白

dvnudnMU

-nyhM噌

EA

2000年

会社名

モトローラ (三社合計)ノキア(二社合計)エリクソン (二社合計)シーメンズフィリップス

順位

3.2 ソニーエリクソン7.9

7.8

松下篭器

アルカテル

6

t

n口

nunut-nLqd

守aA

Eム

唱Eム

4EA

2.1 NEC (日本〉

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グローパル競争における後発企業のキャッチアップ戦略 63

アを占めていた。 2002年に,後発企業として,三星電子の生産シェアがわずか1.6%で13位

に位置していた。しかしながら, 2005年になると, SAMSUNGプランドの携帯電話が出荷

台数1.12億台という巨大な中国国内市場の9.6%を占めるようになり,中国国内メーカーと

日本勢を押さえて第3位に躍り出たのである。

三星の携帯電話での成功は単に市場シェアの上昇だけでなく,端末そのものがマーケティ

ング・コミュニケーションのメディアとして革新的で高品質,最先端の技術や斬新なデザイ

ンといった iSAMSUNGJの優れたプランド・イメージの確立に貢献している。

4.4 関係 CGuanxi)の管理と地域専門家制度

中国市場の際立つた特徴の一つは,中央政府や地方政府が外資系企業の経営活動に直接的

なかかわりを持って強い影響を与えていることにある。「関係 CGuanxi)Jは,さまざまなネ

ットワークに関する中国社会の文化的価値を示す言葉である。現地政府や現地社会との良好

な関係を構築することは,現地での経営活動にとってとくに重要なマーケティング資源の蓄

積につながる。このような関係を管理するためには,中国の現地社会や現地市場に関する深

い理解と経験的知識の蓄積が必要である。

三星の中国本社は大きく分けて 3つの機能を担っていた(金 2006p.84)。その第一の機

能は中国で三星グループを代表する顔の役割である。「各種の対外事業活動でグループを代

表して人脈を管理し,中国での事業戦略を樹立して支援する。事業過程で接触した人たちの

中から VIPを選別し,管理するのも重要な業務のひとつであった。」

三星は,現地政府や地元の重要人物との人脈は中国事業にとって必須条件であり, リベー

トなどで人脈を管理するのは結末が良くないということを認識している。人的ネットワーク

は中国事業での重要な要素であるとして,三星の中国本社の第二の機能である構想企画機能

を果たすさいにも,重要情報の収集,グループ全体の人脈管理,広報活動や対外協力が中心

的な業務になる。第三の機能は,要人との関係,税務,金融や情報処理など専門技能を通し

てグループ企業を支援する役割である。

三星グループは中国に 4つの事業部門一三星電子(携帯電話を中心とした通信), SDI

CLCD) ,デジタルメディアとデジタル家電を置いてあるが,それぞれの年間予算のなかで

PR活動や CSR活動を計画するが,既に述べたマーケティング・コミュニケーションの社

会的活動については,グループ全体で実施する。

「関係」管理の実態を示す具体的な例として,三星の中国での CDMA事業参入があげる

ことカまできる。

1996年の後半に中国政府は上海,北京,西安,広州で CDMA試験網事業の対象業者選定

に入り,三星はモトローラと一緒に入札資格を確保した。その後,モトローラと激しい入札

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64 第 195巻 第 6 号

交渉を繰り広げて,上海地域の試験事業を受注することができた(金 2006p.99)o 1996年

から rSprint-Samsung Jプランドでアメリカ市場に販売されていること, 1999年からヨーロ

ッパ市場での OBM戦略の展開,そして,三星の世界 CDMA端末市場の高いシェアをもっ

ていることなどが中国の現地政府やローカル企業に良い印象を与えていた。 1999年5月に河

北省の河北世紀移動通信の CDMA商用化ネットワークシステムを受注し, 2000年 1月に開

通式を迎えて, 2001年には河北省向けに端末の長期大量供給契約を結ぶことに成功した。ま

た, 2000年に中国聯通 (ChinaUnicom)の CDMAシステム入札に参加し, 2001年には聯通

から約2億ドルの CDMA基地局設備を受注して,同年12月には CDMA端末の生産認可を

得て,聯通に年間100万台規模の端末を生産供給することに成功した。 CDMA事業参入や

CDMA端末の生産認可においては,システムが上海テルと,端末の生産がローカルメーカ

ーの科健と提携している(今井・川上 2006p.33)。

河北省や中国聯通への CDMA通信システムと端末の供給は, SAMSUNGプランドのハイ

テク・最先端というイメージの構築に貢献している。ライバルのグローパル企業と競争しな

がら中国の CDMA事業に参入できたのは,三星グループの VIPマネジメントの「関係」管

理が機能していたことを意味している。

2006年6月に韓国圏内では高速移動通信サービスの rWiBroJを開始したが,三星中国は

許認可権をもっ中央政府の国家発展改革委員会や信息産業部などの関係部暑にアプローチを

し,同様なサービスの中国への導入を目指している。 VIPマネジメントは,広範囲の事業領

域をカバーする多彩な人脈を構築するために,企業関係者や政府要人だけでなく,舞踏家,

芸術家や体育関係者なども重要な管理対象にしている。

現地での人脈管理やネットワークの形成と同様に重要なのは,現地の社会,文化や市場に

関する経験的知識をもっ社内の人材を育成することである。三星グループの本社では, 1989

年から「地域専門家」制度をスタートした。 2006年末までに,三星の約3000人の社員がこの

研修プログラムを受け,世界各国での「地域専門家」となっている。この制度では,勤務経

験三年以上のある社員が誰でも希望できる。本社の事業部が研修予算を組み,派遣された社

員が現地の法人に在籍しながら約半年その国の言葉を習得し,そして,約半年かけて現地の

文化,社会と市場を体験するためにその国の各地を巡って旅をしながら,現地市場の特性や

環境条件に関するレポートを毎月一回提出する。

2006年三星グループの中国での従業員総数が約5万人,うち本社から派遣された社員は約

700人いるが,約七割の派遣者が「地域専門家」研修を受けた。これらの本社派遣社員が管

理職として流暢な中国語で社内コミュニケーションを行っている。社内コミュニケーション

の言葉が中国語と英語であるという点において,韓国企業と日本企業と大きな違いがある。

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グローパル競争における後発企業のキャッチアップ戦略 65

5 結びに代えて

本社からの派遣社員の大半が「地域専門家」研修を受けて得た中国の言葉,文化,社会や

市場について経験的知識は,一般的に語る「ヒト」という経営資源とは異なって三星の社内

に蓄積したマーケティング資源の一種になっている。また.VIPマネジメントの「関係」管

理仕組みは現地での競争力を支えていることは明らかである。三星の中国事業展開に関する

ケース分析から,われわれが後発企業のキャッチアップ戦略についてどのような示唆を得ら

れたのか。

まず,技術などの組織資源とマーケティング資源を理論的に区別することが重要である。

これまでの研究は,技術進歩の連続的な軌道におけるキャッチアップに注目することが多か

った。三星の DRAM.LCDと通信(携帯電話)事業での成功に関しては,政府の役割,財

閥企業の経営制度,さらに小さい圏内市場に起因する輸出志向などに説明要因を求めていた。

しかしながら,グローパル競争が厳しい海外市場で高い市場地位を構築するためには,これ

らの要因は成功の十分条件ではなL、。技術的なキャッチアップはマーケティング資源をベー

スにした競争に勝つための固有な能力がなければ成功しえないことを,三星の中国事業展開

のケースが示唆している。

次に,技術競争とマーケティング資源をベースにした競争は相互離反的ではない。グロー

パル市場での後発企業のキャッチアッププロセスにおいて,技術など組織資源とマーケティ

ング資源との多様でダイナミックな関係を理解しながら,多様な次元で先発企業との差別化

を図ることができる。中国での CDMA事業への参入で蓄積した関係的資源と,グローパル

に蓄積した端末開発デザインの独自能力との相互作用は,三星電子の中国での成功を導いて

いる。技術とマーケティング資源とのダイナミックな関係に注目することによって,後発企

業のキャッチアッププロセスに関する豊かな理解と解釈が可能になる。

第三に,マーケティング資源をベースにした競争に注目することによって,後発企業が

OEMなどによる技術吸収と技術学習という段階から,グローパルなプランドメーカーに成

長することに関する新しい理解が得られる。三星の中国事業の成功から実践的なインプリケ

ーションも得ることができる。

選択と集中:後発企業はさまざまな障壁を乗り越えなければならない。もっとも有望な市

場分野を選択して,固有な資源と能力を蓄積できるように事業を集中させる必要がある。キ

ャッチアップのエッセンスはこの選択と集中の妙にある。

俊敏さ:選択した市場分野や事業において,先発企業を追い越せるような資源と能力の蓄

積が必要である。意思決定と資源展開の俊敏さ (agility)がキャッチアップにとってきわめ

て重要である。 CDMA通信市場での三星の成功からわかるように,技術での「世界初」や

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66 第 195巻 第 6 号

市場での「先発」というスピードのある動きは不可欠である。

差別化:日本企業が開発した最先端の機能やデバイスを導入して,いち早く市場に製品化

して付加価値を手にする能力は,三星の成功を支えている。後発企業にとって技術の模倣,

学習や改良が後発優位として相対的に容易であるが,技術のキャッチアップは大変難しい。

技術とマーケティング資源との相互作用のなかで生まれてくる多様な次元での差別化によっ

て,キャッチアップが成功する可能性がはるかに高い。

この論文では,三星の中国事業展開をケースにして後発企業のキャッチアップ戦略の特徴

を分析した。技術とマーケティング資源との相互作用は長い時間のなかでさまざまな段階が

考えられる。ここでは,おもに2000年以降の三星の中国事業展開に注目した。三星の

DRAM事業への参入は1974年の韓国半導体(株)の買収がきっかけであった。したがって,

キャッチアップのプロセスがより長い歴史の時間のなかで分析する必要がある。

また,財閥企業が中心になっている韓国の産業構造の影響は無視できない。マーケティン

グ資源をベースにした競争と後発企業のキャッチアップ戦略との関係をより深く理解するた

めには,台湾企業や中国企業のグローパル市場での事業展開も観察し分析する必要がある。

1)本論文では,紙面の制約により三星グループのみをとりあげる。三星のほかに,韓国の代表的

な企業である LGグループと現代自動車のケースについては, HUANG Lin (2007)‘Marketing Re-

sources Based Competition: Strategies for the Catch-up of South Korean Firms, the Latecomers in the

Chinese Market', in Sato, Y. and M. Kawakami ed. Competition and Cooperation among Asian Enter-

prises in China, Institute of Developing Economies, JETRO, March 2007 pp. 119-146.

2)三星の中国事業の展開については, 1985から2003年まで三星グループの中国事業を担当し,統

括した金 柳辰氏の著書(原文は韓国語,日本語訳の金 (2006))が詳しく記述している。また,

2006年8月には,韓国ソウルの三星本社で中国事業担当のマネージャー, KETRAと韓国産業研

究院の専門家,三星グループに詳しい大学教授などにインタビューし, 2006年11月に北京で三星

電子(中国〕のマーケティング‘担当マネージャー,中国政府系研究機関の専門家などにインタビ

ューを行った。現地調査の前に韓国の国立図書館やインターネットから入手可能な韓国語の資料

を日本語に訳し,中国語,日本語および英語の二次資料を収集した。

3)パソコンのハードディスクや DRAMなどに関するディスラップティプ (disruptive)技術モデ

ル,あるいは一種の連続的なタイムスパンを持った軌跡としている「製品トラジェクトリー」の

概念は,技術進歩のプロセスや技術競争のレースがー種の連続的な軌道であると想定している。

4) rマーケティング資源」という概念に関する詳細な議論については,黄 燐 (2003),pp.46-52

を参照してくださ L、。企業が「資源の集合」であるという理論視点については, Penrose (1959),

Itami (1987),そして, Johanson and Vahlne (1977)などを参照してくださ L、。

5)以下での記述は,金 (2006)による。著者の金柳辰氏は, 1985当時の会議に参加し, 1985か

ら2003年まで三星グループの中国事業を統括していた。

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グローパル競争における後発企業のキャッチアップ戦略 67

6) 日本企業が1985年から対中投資を進めて三星に比べて先発であった。東芝やキャノンなどが大

逮経済開発区に集積し,松下電器が北京にグループ初のブラウン管生産法人を1987年に設立して,

三洋電機が華南地域を選択したように,初期の直接投資と生産法人の設立は特定の地域に集中す

る傾向があった。また. 1992年郵小平の「南巡講和」以降,日本の代表的な家電・電子企業の中

国の沿海部への全面的な展開は,三星グループに比べて先行していたとは言えず,半導体部品,

毛紡織,ガラスや冷延鋼銀加工などの素材企業や}II上企業はむしろ三星グループよりも出遅れて

いた。さらに,中国で20社以上の生産拠点をもち. 2000年に現地生産法人がすべて黒字転換した

日本企業は一社もないといえる。日本企業の中国現地法人の経営業績に関する分析は,黄 燐

(2003). pp.328-344を参照してください。

7)アメリカの PC輸入データの分析結果によれば,米国市場向けのデスクトップ PCの生産拠点

は90年代前半のシンガポール・マレーシアから90年代後半の日本・韓国,そして1999年ごろから

メキシコ・中国へシフトしていた。また,ノートパ、ノコンは台湾, 日本,メキシコ,そして2001

年ごろから中国へのシフトしている(今井・川上 2006p.175)。中国国内の市場拡大と重なって

中国の PC生産台数の世界シェアが2000年ごろから急速に上昇した。

8) 三星電子(中国)は中国における企業の理念を【倣中国人民喜愛的企~.貢献子中国社会的企

~一中国人民に愛される企業,中国社会に貢献する企業】としている。新社長のもとで現地市場

と現地社会に溶け込んだ企業としての現地化を進めている。

9)中国での石油関連事業や保険市場への参入などは韓中政府の首脳も巻き込んだ形で成功してい

る(金 2006pp.l09-125)。

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