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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title 膀胱がんに対する制限増殖型アデノウイルスベクターを用いた新規治 療法の開発(助成研究報告) 著者 Author(s) 寺尾, 秀治 / 長屋, 寿雄 / 後藤, 章暢 掲載誌・巻号・ページ Citation 神戸大学医学部神緑会学術誌,28:70-71 刊行日 Issue date 2012-08 資源タイプ Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 版区分 Resource Version publisher 権利 Rights DOI JaLCDOI 10.24546/81006791 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81006791 Create Date: 2018-06-26

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Page 1: Kobe University Repository : Kernel - 神戸大学附属図書館Œ,T24,TCC-SUPではCARを検出できなかった. 一方,Ad35のターゲット分子であるCD46は全ての細

Kobe University Repository : Kernel

タイトルTit le

膀胱がんに対する制限増殖型アデノウイルスベクターを用いた新規治療法の開発(助成研究報告)

著者Author(s) 寺尾, 秀治 / 長屋, 寿雄 / 後藤, 章暢

掲載誌・巻号・ページCitat ion 神戸大学医学部神緑会学術誌,28:70-71

刊行日Issue date 2012-08

資源タイプResource Type Departmental Bullet in Paper / 紀要論文

版区分Resource Version publisher

権利Rights

DOI

JaLCDOI 10.24546/81006791

URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81006791

Create Date: 2018-06-26

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はじめに 浸潤性膀胱癌は再発率が高く,予後も不良であるため,より効果的な治療法が切望されている癌の一つである.癌に対する遺伝子治療臨床研究において,欧米を中心として 5 型アデノウイルスベクター(Ad5)を用いた遺伝子導入法の開発が進んでいる.Ad5の接着のターゲット分子である CAR はタイトジャンクションを構成するタンパク質であるが,正常細胞に比べて膀胱癌では,その発現は低くなることが知られており1),癌に対する Ad5を用いた遺伝子導入効率低下の要因となっている.そこで,我々は RGD 配列や35型アデノウイルスベクター(Ad35)のファイバーノブ

(F35)を導入したキメラ型アデノウイルスベクターを作製し,アデノウイルスベクターによる CAR 非発現癌細胞株への遺伝子導入効率の改善に成功した2,3). また,安全性の面から,癌細胞に遺伝子を特異的にかつ効率良く発現させるために,癌細胞内で特異的に活性化される腫瘍特異的プロモーターを用いた遺伝子治療法の開発も同時に行われている.我々は腫瘍特異的プロモーターの一つであるミドカイン(MK)プロモーターに着目し,膀胱癌細胞株で細胞融解性ウイルスベクターの抗腫瘍効果を明らかにした4). 今回の研究で,我々は,膀胱癌に対して高い遺伝子導入効率が期待されるファイバーノブ改変型 Ad5ベクターに腫瘍特異的プロモーターである MK プロモーターを組み合わせたキメラ型細胞融解性ベクターを作製し,その抗腫瘍効果について検討を行った.

方 法膀胱癌細胞株におけるCAR及びCD46発現の確認 ヒト膀胱癌細胞株5637,KK47,T24,TCC-SUP 細胞,コントロールとしてヒト胎児腎細胞株 HEK293細胞から細胞溶解液を作製し,ウェスタンブロット法に

て CAR 及び CD46の発現量を調べた.

キメラ型細胞融解性アデノウイルスベクターの作製 腫瘍特異的プロモーターである MK プロモーターの下流にアデノウイルス由来の E1遺伝子を繋いだMKp/E1を作製した.その MKp/E1をアデノウイルスベクター Ad5もしくは Ad5のファイバーノブをAd35のファイバーノブに置換したアデノウイルスベクター(Ad5F35)に導入することで,Ad5/MKp-E1及び Ad5F35/MKp-E1を作製した.

膀胱癌細胞に対するキメラ型細胞融解性アデノウイルスベクターの抗腫瘍効果の検討 Ad5/MKp-E1及び Ad5F35/MKp-E1を膀胱癌細胞株及びヒト胎児腎細胞株に10 virus particles/cells の濃度で感染させ, 5 日後の殺細胞効果を Alamar blue assay により測定した.アデノウイルスを感染させていない細胞を100として,Ad5/MKp-E1感染群及びAd5F35/MKp-E1感染群について Tukey 検定を用いて比較検討した.

(*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001)

結 果膀胱癌細胞株におけるCAR及びCD46発現の確認 膀胱癌細胞株において5637,KK47細胞株では Ad5のターゲット分子である CAR の発現を確認できたが,T24,TCC-SUP では CAR を検出できなかった.一方,Ad35のターゲット分子である CD46は全ての細胞株において,その発現を観察することができた(図1 ).

キメラ型細胞融解性アデノウイルスベクターの作製 遺伝子組換え操作により,表 1 のような MK プ

助 成 研 究 報 告

  兵庫医科大学 先端医学研究所 細胞・遺伝子治療部門

寺 尾 秀 治(平成13年卒,大学院,平成19年卒) 長 屋 寿 雄(広島大・薬,平成 8年卒,札幌医科大大学院,平成14年卒) 後 藤 章 暢(産業医科大,昭和62年卒,大学院,平成 4年卒)

膀胱がんに対する制限増殖型アデノウイルスベクターを用いた

新規治療法の開発

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神緑会学術誌 第 28 巻 2012 年

ロモーターによって E1遺伝子の発現が制御されるアデノウイルスベクター(Ad5/MKp-E1, Ad5F35/MKp-E1)を作製し,HEK293細胞を用いてそれらのベクターを大量に調製した.

膀胱癌細胞に対するキメラ型細胞融解性アデノウイルスベクターの抗腫瘍効果の検討 膀胱癌細胞株にアデノウイルスベクターを感染させたところ,KK47細胞では,Ad5/MKp-E1と Ad5F35/MKp-E1での違いを見出すことはできなかった.しかし,5637,T24,TCC-SUP 細胞において,Ad5F35/MKp-E1の殺細胞効果は Ad5/MKp-E1と比較して有意に上昇していた(図 2 ).

考 察 本研究では,ファイバーノブ改変型 Ad5による膀胱癌細胞に対する抗腫瘍効果について調べた.CAR非発現細胞株である T24,TCC-SUP 細胞において,ファイバーノブ領域を改変したアデノウイルスベクター Ad5 (Ad5F35/MKp-E1)の抗腫瘍効果はファイバーノブ領域を改変していないアデノウイルスベクター (Ad5/MKp-E1)に比べて有意に上昇していることを明らかにした.感染効率の鍵となる細胞表面の CAR,CD46の発現を膀胱癌細胞で調べたところ,T24,TCC-SUP 細胞では CAR タンパク質を検出でき

なかったが,5637,KK47細胞では CAR タンパク質を検出することができた.また,CD46 タンパク質は今回用いた全ての細胞株で検出することができた.これらの結果から,Ad35のファイバーノブを導入したアデノウイルスベクター(Ad5F35)が広範囲の膀胱癌細胞株に対して抗腫瘍効果を示すことがわかった. 本研究は再発率が高く予後も不良である浸潤性膀胱癌のより効果的な治療の開発に向けた基礎的研究となった. 謝 辞 本研究を行うにあたり,平成23年度の神緑会研究助成金を賜りましたことを,前田盛会長ならびに神緑会会員の皆様へ心より深謝いたします. 文 献1 ) Sachs MD, Rauen KA, Ramamurthy M et  al. 

(2002):  Integrin alpha(v) and coxsackie adenovirus receptor  expression  in  clinical  bladder  cancer. Urology, 60: 531-536.

2 ) Terao  S, Acharya B,  Suzuki T  et  al.  (2009): Improved gene transfer into renal carcinoma cells using  adenovirus vector  containing RGD motif. Anticancer Res, 29: 2997-3001.

3 ) Acharya B, Terao  S,  Suzuki T  et  al.  (2010): Improving gene transfer in human renal carcinoma cells. Exp Ther Med, 1: 537-540.

4 ) Terao  S,  Shirakawa T, Kubo  S  et  al.  (2007): Midkine promoter-based conditionally  replicative adenovirus for targeting midkine-expressing human bladder cancer model. Urology, 70: 1009-1013.

図 1 膀胱癌細胞株でのCARおよびCD46のタンパク質発現

表 1 制限増殖型アデノウイルスベクターの構造

ITR: adenovirus  inverted terminal repeat sequence, MKp: midkine  promoter,  pA:  polyadenylation  signal,  F5:  the fiber knob of  adenovirus  type 5, F35:  the  fiber knob of adenovirus type 35.

図 2 膀胱癌細胞株での制限増殖型アデノウイルスベクターによる殺細胞効果