lysis-filtration blood culture technique に関する 基礎的,臨...

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266 感染症学雑誌 第59巻 第3号 Lysis-Filtration Blood Culture Technique に関す る 基 礎 的,臨 床的研究 三重大学医学部小児科学教室 (昭和59年8月10日 受 付) (昭和59年10月11日 受理) Key words : Lysis-Filtration blood culture, Lysing Solution, Fever of unknown origin, Sepsis, Malignancy 小 児 悪 性 腫 瘍 の 経 過 上,弛 張 型 発 熱 等 の 敗 血 症 を 思 わ せ る症 状 を 呈 して も通 常 の 血 液 培 養 で は 原 因 菌 の 検 出 で きな い 場 合 が 多 い.私 は血 液 中 に存 在す る抗 体,補 体,食 細 胞,抗 生 剤 な どの 細 菌 発 育 阻 止 因 子 を 除 去 し,さ ら に 白血 球 を 溶 解 し て貧 食 され て い る菌 を 放 出 させ,membrane filtrationに よ り血液 の 菌 だ け を 取 り出 す こ とに よ り,菌 検 出 率 を 高 め る こ と を 特 徴 とす るLysis-Filtration血 液培養法を用 い て,検 討 を 行 い 以 下 の結 果 を 得 た. 1)Lysing SolutionのpH,含 有 す るProtease,Tween20の 比 率 を 決 め る た め種 々 な な細菌に対する影響および濾過能への影響を検討した.そ の 結 果Lysing SolutionはProtease 0.05~1.0%,Tween200.1~2.0%,pH6~10で 作 製 す る の が 最 適 で あ った. 2)作 製 後4℃ に て1年 間 保 存 したL.S.の 細 菌 お よ び 濾 過 能 に 対 す る影 響 は,作 製 直 後 のLS.と かわ りな く,緊 急 的 なneedに 対 して も 充 分 対 応 で き る. 3)L-F法 は 細 菌 発 育 阻 止 因 子 の 影 響 を 受 け ず 接 種 血 液 量 に 正 比 例 して 検 出 細 菌 数 が 増 加 す る の で,1 CFU/ml以 下 と著 明 に 少 な い菌 血 症 の 場 合 に よ り有 効 で あ る. 4)S.aurezlsを 使 った 人 工 菌 血 症 に お け る菌 検 出 率 の 比 較 で は,Broth法37.6%に 比 しLF法 56.5%と 有 意 に 高 く(p<0.05),1CFU/ml以 下 の 菌 血 症 の 場 合 に 特 に 著 明 で あ った((p〈0.01). を 使 っ た 場 合 も 同 様 にL-F法 の 菌 検 出 率 は 高 か った.ま た 抗 生 剤 の 影 響 をGMを 使 って検討 したが,特 にL-F法 の 優 位 性 を 見 い 出 す こ と は 出 来 な か っ た. 5)悪 性 腫 瘍 思 者 の 発 熱 例 延 べ163症 例 につ い て,LF法 と通 常 の 血 液 培 養 とを 同 時 に施 行 して 菌 検 出 率 を 比 較 し た.L-F法5.5%(9/163),Broth法4.9%(8/162)と 両 者 間 に 全 く有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た. 1.は じめに 小児悪性腫瘍の治療過程に於て細菌感染症は相 変 わ らず 重 要 な 問 題 で あ る が,特 に敗 血 症 の 診 断 は難 しい.臨 床的に明らかに敗血症を思わせる症 状 を 呈 して も,そ の診断根拠である通常の血液培 養 で 病 原 菌 の検 出 が 出来 な い場 合 が 多 々 あ り,大 変 困 窮 して い る 現 状 で あ る.近 年,菌 検出率の改 善 の た め 種 々 の研 究 が な さ れ て い るが,本 邦では 培地や培養条件に関する検討がなされているだけ で1)~3),画 期 的 な培 養 手 技 に関 す る報 告 は 皆 無 思 わ れ る.私 は問 題 解 決 の 一 方 法 と し て,血 液中 のbactericidal factorを 除去して菌の検出 高めることを特徴 と す るLysis-filtration b culture techniqueに つ き基 礎 的,臨 床的に検 加 えた の で報 告 す る. 別 刷 請求 先:(〒514)津 市 江 戸橋2丁 目174 三重大学医学部小児科学教室 荒井祥二朗

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  • 266 感染症学雑誌 第59巻 第3号

    Lysis-Filtration Blood Culture Technique に関す る

    基礎的,臨 床的研究

    三重大学医学部小児科学教室

    荒 井 祥 二 朗

    (昭和59年8月10日 受付)

    (昭和59年10月11日 受理)

    Key words : Lysis-Filtration blood culture, Lysing Solution, Fever of unknown origin,Sepsis, Malignancy

    要 旨

    小児 悪性 腫瘍 の経過 上,弛 張型発 熱等 の敗 血症 を 思わせ る症 状 を呈 して も通常 の血液 培 養 では原 因菌

    の検 出で きな い場合 が多 い.私 は血 液 中 に存 在す る抗 体,補 体,食 細胞,抗 生剤 な どの細 菌発 育阻 止 因

    子 を除 去 し,さ らに 白血球 を溶解 して貧 食 され て い る菌 を放 出 させ,membrane filtrationに よ り血液 中

    の菌 だけ を取 り出す こ とに よ り,菌 検 出率 を高 め る ことを特 徴 とす るLysis-Filtration血 液培 養 法 を用

    いて,検 討 を行 い以下 の結 果 を得 た.

    1)Lysing SolutionのpH,含 有す るProtease,Tween20の 比率 を決 め るた め種 々な条件 で,代 表 的

    な 細 菌 に 対 す る 影 響 お よ び 濾 過 能 へ の 影 響 を 検 討 し た.そ の 結 果Lysing SolutionはProtease

    0.05~1.0%,Tween200.1~2.0%,pH6~10で 作製 す るの が最適 で あ った.

    2)作 製後4℃ に て1年 間保 存 したL.S.の 細 菌 お よび濾過 能 に対す る影響 は,作 製 直後 のLS.と かわ

    りな く,緊 急的 なneedに 対 して も充分 対応 で き る.

    3)L-F法 は細菌 発育 阻止 因子 の影響 を受 けず接種 血液 量 に正比 例 して検 出細 菌数 が増 加す るの で,1

    CFU/ml以 下 と著明 に少 な い菌 血症 の場 合 に よ り有効 で あ る.

    4)S.aurezlsを 使 った 人 工 菌 血 症 に お け る菌 検 出 率 の 比 較 で は,Broth法37.6%に 比 しLF法 は

    56.5%と 有 意 に高 く(p

  • 昭和60年3月20日 267

    II.材 料 と方 法

    1.Lysing Solution(LS.と 略)の 作 製 方 法

    LS.は0.01Mのsodium phosphate buffer中 に

    0.25%(wt/vol)のProtease(Neutral,協 和 醗 酵

    工 業 株 式 会 社)と,0.7%(vol/vol)のTween20

    (polyoxyethylene sorbitan monolaurate:半 井

    化 学 薬 品 株 式 会 社)が 含 ま れ た 溶 液 で あ る.

    Protease2.5gをpH8.0,0.01Mのbuffer200ml

    に 溶 解 し,0.45μmの ミ リ ポ ア フ ィ ル タ 一

    (HAWPO4700)で 不 溶 部 分 を 除 去 し,得 ら れ た 濾

    液 を1NNaOHでpH8.0に 調 整 し た.次 に,0.22

    μmの メ ン ブ ラ ン フ ィル タ ー で 濾 過 滅 菌 し,

    Protease Solutionを つ く っ た.Protease Solu-

    tion 200mlと 滅 菌 し た0.01Mのbuffer 793m1と

    Tween 20 7m1を 混 合 し て1,000mlと し,よ く混

    ぜ て70mlの 滅 菌 し た ボ トル に45mlず つ 分 注 し て

    4℃ で 保 存 し た.

    2.Lysis-Filtration Blood Culture Technique

    (L・F法 と略)(Fig.1)

    無 菌 的 に 採 取 し た ヘ パ リ ン 化 血 液 をL.S.に 添

    加 し,37℃30分 間water bathでincubateし た の

    ち,そ の 混 合 液 をdisposable filter units(0.45μm

    pore size, 47mm diameter filter membrane,

    Falcon)へ 移 し,吸 引 濾 過 した.次 い で フ ィル タ ー

    を取 り出 し血 液 寒 天 に 静 置 し37℃ で 培 養 し,肉 眼

    的 に コ ロ ニ ーの 発 育 を14日 間 毎 日観 察 した.

    3.菌 液 の作 製 方 法

    使 用 した 菌 株 は,DIFCO Bactrol Disksの

    Enterobacter cloacae ATCC 23355, Escherichia

    coli ATCC 25922, Klebsiella pneumoniae ATCC

    13883, Proteus vulgaris ATCC 13315, Pseu-

    domonas aeruginosa ATCC 27853, Salmonella

    typhimurium ATCC 14028, Serratia marcescens

    ATCC 8100, Staphylococcus aureus ATCC 25923,

    Staphylococcus epidermidis ATCC 12228, Strepto-

    coccus pyogens ATCC 19615‚¨‚æ‚ÑStreptococcus

    faecalis ATCC 19433で あ る.菌 原 液 は 菌1Disk

    を10mlのHeart Infusion Brothで20時 間37℃ で

    培 養 後,3,000rpm10分 間 遠 心 し,沈 渣 を 生 理 食 塩

    水5m1に 浮 遊 させ て 作 製 した.原 液 よ り10-9倍 希

    釈 ま で10倍 希 釈 を 行 い,希 望 す る=濃度 の 菌 液 を 作

    製 した.

    4.研 究 方 法

    1)LysingSolutionの 最 適 条 件 の検 討

    Fig. 1 Procedure of Lysis-Filtration Blood Culture Method

  • 268 感染症学雑誌 第59巻 第3号

    a)代 表 的 細 菌 に対 す る影 響

    (1)Proteaseの 種 々の 濃 度 に よ る影 響

    Proteaseの 濃 度 を0,0.05,0.1,0.25,0.5%

    に調 整 したLS.を 作 製 し,各 々のLS.45m1へ 約

    10℃FUの 菌 を添 加 して,直 後,30,60,120分 後

    に1m1ず つtriplicateで 検 体 を採 取 し,生 菌 数 を

    定 量 培 養 した.な お試 験 菌 に は,小 児 科 領 域 で よ

    く検 出 され るS.aureus,E.coli,P.aeruginosaを

    用 い た.

    (2)Tween20の 種 々 の濃 度 に よ る影 響

    Tween20の 濃 度 を0,0.1,0.5,0.7,1.0,2.0%

    に 調 整 したL.S.を 作 製 し,(1)と 同 様 に菌 を 添 加

    し,経 時 的 に 生 菌 数 を定 量 培 養 した.

    (3)種 々 のpHに 対 す る 影 響

    bufferのpHを6.0,7.0,8.0,9.0に 調 整 したL.

    S.を 作 製 し,(1)と 同 様 に菌 を 添 加 し,経 時 的 に 生

    菌 数 を定 量 培 養 した.

    b)濾 過 能 へ の影 響

    Proteaseの 濃 度 を0か ら1.0%ま で,Tween20

    の濃 度 を0か ら2.0%ま で 種 々 の 濃 度 に調 整 した

    L.S.を 作 製 し,L.S.45m1に ヘ パ リソ化 血 液5ml

    を 加 え て,37℃30分 間incubate後,吸 引 濾 過 し,

    そ れ に要 した 時 間 を 測 定 した.な おpH6.0~10.0

    のLS.で も 同様 に して,濾 過 時 間 を測 定 した.

    2)Lysing Solutionの 各 種 細 菌 に 対 す る影 響 の

    検 討

    前 述 の3種 の細 菌 以 外 に,小 児 悪 性 腫 瘍 に お い

    て 敗 血 症 の 起 炎 菌 と して 比 較 的 よ く検 出 さ れ る8

    種 の 細 菌 をL.S.に 添 加 し,前 述 の 如 く経=時的 に 生

    菌 数 を定 量 培 養 し,菌 に 対 す る影 響 を 調 べ た.

    3)Lysing Solutionの 時 間 的 経 過 に よ る変 性 の

    有 無 の検 討

    4℃ に て 保 存 して い たLS.を 使 って,1年 後 に

    細 菌 に対 す る影 響 の検 討 を 行 っ た.ま た 保 存3カ

    月,6ヵ 月,1年 後 に濾 過 能 力 の検 討 を 行 っ た.

    な お,そ の方 法 は前 述 の 如 くで あ る.

    4)Lysis-Filtration法 に よ る菌 検 出 率 の 検 討

    約50CFU/mlの=濃 度 の 人 工 菌 血 症 に な る よ う

    に,ヘ パ リソ化 血 液63mlに 細 菌 を添 加 し よ く混 和

    後,菌 添 加 血 液1.0,2.0,3.0,4.0,5.0,6.0mlを

    各 々3検 体 ず つL.S.へ 加 え,LF法 を 行 い メ ソ ブ

    ラ ン上 に 発 育 した コ ロ ニ ー数 を 定 量 し た.

    5)Lysis-Filtration法 の有 効 性 の検 討(人 工 菌

    血 症 に お け るBroth法 お よ びPlate法 との 比 較)

    a)抗 生 物 質 無 添 加 の 場 合

    ヘ パ リン化 血 液 に 一一定 量 の 細 菌 を添 加 して,0.2

    か ら6.OCFU/mlの 種 々 の血 中 濃 度 の 人 工 菌 血 症

    をつ く り,37℃ に て0分 お よ び30分 か ら240分 ま で

    30分 毎 の 種 々 の 時 間 で 培 養 した.次 い で 以 下 に述

    べ る3種 の方 法 に よ っ て,0.5mlか ら10.0mlま で

    種 々 の 量 に て菌 添 加 血 液 を培 養 し比 較 した.(1)45

    m1のLS.に 接 種 し,LF法 を 行 い,メ ソ ブ ラ ン上

    の コ ロ ニ ー の 形 成 の 有 無 を 観 察 し た.(2)45mlの

    Brain Heart Infusion Brothに 接 種 し,そ の ま ま

    37℃ に て 培 養 し,肉 眼 的 に 菌 の増 殖 の 有 無 を観 察

    した(Broth法).(3)直 接 シ ャー レに 血 液 を接 種 し,

    生 菌 数 測 定 用 培 地(STD寒 天 培 地,栄 研)に て混

    釈 培 養 し生 菌 数 を 定 量 した(Plate法).

    b)Gentamicin添 加 の場 合

    まず 添 加 す るGMの 最 適 濃 度 の検 討 の た め,生

    食 お よ び ヘ パ リ ソ 化 血 液50m1に 濃 度 が 約200

    CFU/mlに な る よ うに細 菌 を 添 加 し,次 にGMの

    濃 度 が0.5か ら10.0μg/mlに な る よ うにGMを 加

    え,直 後,15,30分 後 にtriplicateで 検 体 を採 取 し

    生 菌 数 を定 量 培 養 した.

    次 い でGM添 加 に よ るLF法 の 有 効 性 の 検 討

    の た め,ヘ パ リン化 血 液 に血 中 濃 度 が1.0CFU/ml

    以 下 に な る よ うに細 菌 を添 加 した 人 工 菌 血 症 を つ

    く り,そ こへGMの 血 中 濃 度 がS.aureusに 対 し

    て は0.5お よ び1.0μg/ml,Eco〃 に 対 し て は5.0

    お よ び10.0μg/mlに な る よ うにGMを 添 加 し た

    の ち,1.0,2.0,3.0mlの 血 液 量 を そ れ ぞ れ,(1)L.

    S.,(2)ブ イ ヨ ン,(3)シ ヤ 「 レに接 種 して 上 述 の3

    種 の 方 法 に よ って 培 養 を 行 い比 較 した.

    6)Lysis-Filtration法 に よ る臨 床 症 例 の検 討

    急 性 白血 症 を 中 心 とす る小 児 悪 性 腫 瘍 患 者 の 発

    熱 で 臨 床 的 に 菌 血 症 が疑 わ れ た 症 例 か ら ヘ パ リソ

    化 静 脈 血 を3.0~5.0ml採 取 し,LF法 お よ び従 来

    の 血 液 培 養 法(好 気 性 お よ び嫌 気 性)に て培 養 を

    施 行 し,両 者 の陽 性 率 お よ び 手 技 上 の雑 菌汚 染 率

    につ き比 較 し,L-F法 の 臨 床 使 用 へ の 有 意 性 を 検

    討 した.

  • 昭和60年3月20日 269

    III.成 績

    1)Lysing Solutionの 最 適 条 件 の検 討

    a)代 表 的 細 菌 に対 す る影 響

    Proteaseの 濃 度 を0か ら0.5%ま で 変 え て 細 菌

    に 対 す る 影 響 を み た.Fig.2に 示 した よ う にS.

    aureusの 生 菌 数 を 経 時 的 に み る と,120分 後 の

    0.5%群 で は83%で あ っ た の に対 し,0%群 で は

    7%に 著 減 して お り,濃 度 が 低 い ほ ど毒 性 が 強 い

    Fig. 2 Influence of various concentrations of Protease to representative bacteria

    Fig. 3 Influnce of various concentrations of Tween 20 to representative bacteria

  • 270 感染症学雑誌 第59巻 第3号

    傾 向 が み られ た が,そ の 相 関 係 数 はr=0.851で 統

    計 的 に 有 意 差 は 認 め られ な か った.P.aeruginosa

    で は 逆 の 結 果 が 得 られ120分 後 の0%で は 生 菌 数

    71%に 対 して,0.5%で は30%に 減 少 し,濃 度 が 高

    い ほ ど毒 性 が 強 い 結 果 で あ った.こ れ らの 間 に は

    60分(r=-0.899),120分(r;-0.908)の 時 点 で

    有 意 水 準5%で 有 意 差 が 認 め られ た.

    次 い でTween 20の 濃 度 を0か ら2.0%ま で 変

    えて み た.Fig.3の 如 くS.aureusで は 生 菌 数 が30

    分 でTween 20が0%で は101%,2.0%で は79%

    と減 少 した.ま た120分,Tween 20が0%で は96%

    に 対 して2.0%で は84%に 減 少 し,濃 度 が高 い ほ ど

    毒 性 が 強 い 結 果 で あ り,30分(r=-0.953),120分

    (r=-0.852)の 時 点 で そ れ ぞ れ 有 意 水 準1%,

    5%で 有 意 差 が 認 め られ た.ま たP.aeruginosa

    は濃 度 に 関 係 な く120分 で の 生 菌 数 は,50~70%に

    減 少 した.

    pHに 関 し て はFig.4に 示 した よ うに6.o~9.o

    で 検 討 した が,S.aureusは 生 菌 数 が120分,6.0で

    80%に 対 し て9.0で64%とpHが 高 い ほ ど生 菌 数

    が減 少 した(r=-0.821).ま たE.coliは 生 菌 数

    が120分,9.0で95%に 対 して6.0で83%とpHが 低

    い ほ ど生 菌 数 の 減 少 が 強 か った(r=0.925).P.

    aeraginosaは120分 でpHが 低 い ほ ど生 菌 数 の 強

    い減 少(r=0.898)が み られ た が,い ず れ に お い て

    も有 意 差 は認 め られ な か った.

    b)濾 過 能 へ の影 響

    Table 1に 示 した 如 く,Proteaseを 全 く添 加 し

    な い 場 合 に はTween 20の 濃 度 を2.0%ま で 上 げ

    て も濾 過 状 況 は不 良 で,10分 以上 か け て も混 合 液

    50mlの うち10~20ml程 度 し か 濾 過 出 来 な か っ

    た.し か しProteaseを0.05%添 加 す る と著 明 に

    改 善 され た.ま たTween20を 添 加 せ ずProtease

    の 濃 度 を1.0%ま で 上 げ て も濾 過 状 況 は 不 良 で,

    0.1%添 加 後 濾 過 状 況 は 良 好 とな った.pHに 関 し

    Table 1. Filtrative capacity of Lysing Solution

    with various concentrations of Protease and

    Tween 20

    -:Time for filtration,over 3 min.

    +:Time for filtration,1min.-3 min.

    廾:Time for fi1tration,30 secs, -1 min.

    卅:Time for filtration,within 30 secs.

    Fig. 4 Influence of various pH to representative bacteria

  • 昭和60年3月20日 271

    て は,6.0~10.0ま で の 範 囲 で は 影 響 を受 け な か っ

    た.

    以 上 細 菌 に 対 す る影 響 お よび 濾 過 能 へ の 影 響 の

    検 討 結 果 よ り,LS.の 条 件 と して はProtease 0.05

    ~1 .0%,Tween 20 0.1~2.0%,pH6.0~10.0

    の 条 件 を満 た せ ぽ よ い と考 え られ た が,特 に変 更

    の 必 要 性 も認 め られ な か った の で,原 法 に従 っ て

    Protease 0.25%,Tween 200.7%,pH 8.0と し

    た.

    2)Lysing Solutionの 各 種 細 菌 に対 す る影 響 の

    検 討

    K.pneumoniae,E.cloacaeな ど敗 血 症 の 起 炎

    菌 と し て比 較 的 よ く検 出 され る8種 の細 菌 に 対 し

    て のL.S.の 影 響 の 検 討 成 績 をFig.5に 示 した.

    120分 で は 多 少 の生 菌 数 の 増 減 は認 め られ た が,60

    分 まで で は特 に 問 題 とな る よ うな生 菌 数 の 減 少 は

    認 め られ な か った.

    3)Lysing Solutionの 時 間 的 経 過 に よ る変 性 の

    有 無 の検 討

    約1年 前 に 作 製 し4℃ に て 保 存 し て い たL.S.

    のS.aureusとE.coliに 対 す る影 響 を検 討 した.

    Fig.6に 示 した よ うにS.aurewsは120分 で59%と

    減 少 した が,60分 で は92%の 生 菌 数 が あ り,ま た

    E.coliに お い て も120分 まで で は特 に発 育 阻 止 傾

    向 は認 め られ ず,作 製 後 数 日以 内 に 使 用 した場 合

    と差 は 認 め られ な か った.

    ま た濾 過 状 況 を み て も,6ヵ 月,1年 の保 存 期

    Fig. 5 Influence of Lysing Solution to the growth

    curve of various bacteria

    間では障害は認め られず,30秒 以内で濾過可能で

    あ り,作製直後のL.S.と 差は認め られなかった.

    Fig. 6 Influence of stocked Lysing Solution to the growth curve of various

    bacteria

  • 272 感染症学雑誌 第59巻 第3号

    4)Lysis-Filtration法 に よ る菌 検 出 率 の検 討

    S.aureusとE.coliを 使 っ て人 工 菌 血 症 を つ く

    り,接 種 血 液 量 に比 例 して 細 菌 が 回 収 され る か ど

    うか を検 討 して み た.Fig.7に 示 した よ うに,1m1

    の 接 種 量 で 回 収 され た 生 菌 数 に対 す る比 率 で み る

    と,6m1の 接 種 量 で はS.aureusで は5.9倍,E.

    coliで は5.69倍 で あ り,1~6rn1ま で の 接 種 量 で は

    そ れ ぞ れ 相 関 係 数r=0.995,r=0.999で 有 意 水 準

    0.1%で 有 意 差 を 認 め た

    5)Lysis-Filtration法 の 有 効 性 の検 討

    a)抗 生 物 質 無 添 加 の場 合

    健 康 成 人 よ り採 血 した 血 液 にS.aureasとE.

    coliを 入 れ 人 工 菌 血 症 を 作 製 し,LF法,Broth法

    お よ びPlate法 に よ る 菌 検 出 率 を 比 較 検 討 し た

    (Table 2).S.aureusに よ る人 工 菌 血 症 につ い て

    は そ れ ぞ れ の方 法 で85回 の培 養 を施 行 し以 下 の結

    果 を 得 た.す な わ ちL-F法 で は48回(56.5%),

    Broth法 で は32回(37.6%),Plate法 では47回(55。3%)

    Fig. 7 Study of bacterial detection used by Lysis-Filtration blood culture tech-

    nique

    Table 2. Detection of bacteria by various concentrations of artificial bacteremia

    among Lysis-Filtration method, Broth method and Plate method

    *P

  • 昭和60年3月20日 273

    に わ た っ て菌 検 出 が で きた.ま たE.coliで は71回

    の 培 養 を実 施 し,L-F法40回(56.3%),Broth法

    26回(36.6%),Plate法36回(50.7%)の 菌 検 出 が

    で きた.以 上 の如 くLF法 はPlate法 とほ とん ど

    差 は 認 め られ な か った が,現 在 一 般 に実 施 され て

    い るBroth法 に比 べ て 有 意(p

  • 274 感染症学雑誌 第59巻 第3号

    た10)~12).しか し近 年,酵 素 をLS.の 成 分 と し て添

    加 す る こ とに よ り濾 過 時 間 が 短 縮 され,各 種 細 菌

    へ の 毒 性 も著 明 に 改 善 さ れ た13)14).今 回 私 は,

    Zierdtに よ るL.S.の 作 製 方 法14)を 参 考 に し て

    ProteaseとTween20お よ び0.01Mのbufferよ

    りな るL.S.を 作 製 した.LS.の 最 適 条 件 を 検 討 す

    るた めL.S.の 成 分 の 種 々 の濃 度 に つ き代 表 細 菌

    に 対 す る影 響 を 検 討 した と こ ろ,成 績 に示 した 如

    く菌 種 の異 い に よ り多 少 の 差 は認 め られ た が,L.

    S.が 菌 増 殖 を 抑 制 す る よ う な 結 果 は 得 ら れ な

    か った.ま た 濾 過 能 の 抑 制 も み られ な か っ た.し

    た が っ て 私 は,Protease 0.25%,Tween200.7%,

    pH8.0は 大 変 良 好 な条 件 で あ る と判 断 した.ま た

    こ のL.S.は 私 が 検 討 した 小 児 悪 性 腫 瘍 に 合 併 す

    る敗 血 症 の 起 炎 菌 と して よ く検 出 され る11種 の 細

    菌 に対 して,そ の 増 殖 を 抑 制 す る作 用 は認 め られ

    ず 使 用 に 耐 え る こ とが わ か った.ま た 液 の保 存 に

    つ い て も3)で 示 した 如 く,4℃1年 間 の保 存 で は

    代 表 的 細 菌 の検 出 に 対 す る 問 題 点 は 認 め な か っ

    た.し た が って 緊 急 的 なneedに 対 して も充 分 対

    応 で き る こ とが わ か った.

    次 にL-F法 の感 度 で あ る が,通 常 の血 液 培 養 で

    は血 液 中 に存 在 す る細 胞 発 育 阻 止 因子 の た め,接

    種 血 液 量 が 多 くな る と菌 の検 出が 悪 くな るの で,

    接 種 血 液 量 は 培 地 量 の 高 々10%以 内 と さ れ て い

    る15)16)のに 対 し,LF法 で は 細 菌 発 育 阻 止 因 子 を

    除 去 し細 菌 の み を と らえ るた め,接 種 血 液 量 の影

    響 は 受 けず,む し ろ菌 数 は 多 くな り検 出 率 は上 昇

    す る は ず で あ る.私 の 行 な った1m1~6mlの 接 種

    血 液 量 に よ る検 討 で は,相 関 係i数0.995~0.999で

    接 種 血 液 量 に 正 比 例 して 検 出細 菌 数 が 増 加 し た.

    この こ とは 実 際 に血 液 培 養 を実 施 す る に際 し,検

    出 の可 能 性 が 高 くな る こ とを意 味 す る も の と見 ら

    れ る.特 に 敗 血 症 時 の 血 液1m1あ た りの 菌 数 が1

    CFU/ml以 下 と著 明 に 少 な い こ との 多 いEnter-

    obacteriaceae,Strertococczcs spp.やPseudomo-

    nas spp.の 場 合17)18)には,菌 検 出 の た め に は 多 量

    の 血 液 を 必 要 とす る の でL.F法 が よ り有 効 と考

    え られ る.

    さてL-F法 は 通 常 の血 液 培 養 に 比 べ て 菌 の 検

    出 率 が 本 当 に高 い の で あ ろ うか.Zierdtら9)は ウ

    サギを使った人工菌血症で,延べ378回 の培養を施

    行 し,通 常法105回(27.8%)に 対 して,LF法205

    回(54.2%)の 菌検出率であったと報告 してお り,

    Sullivanら19)は 臨床的に明 らかに菌血症が疑われ

    る患者で延べ176回 の培養を実施し,L-F法29回,

    Broth法13回,Plate法18回 の菌検出ができた と

    報告 している.私 が人工菌血症を作 ってL-F法,

    Broth法,Plate法 を用いて比較を行った結果で

    は先に示 した如 く,いずれもL-F法 はBroth法 に

    比 し有意に高い検出率であったが,Plate法 とは

    差 は認められなかった.ま た この傾 向は1CFU/

    m1以 下の濃度の場合に特に強 く認められた.す な

    わちこの結果からみると,臨 床的に1CFU/ml以

    下の菌数の敗血症も存在すると考えた場合,通 常

    行っているBroth法 で血液培養を実施す るよ り

    もLF法 の方が菌の検出率は高 くなることはま

    ちがいないもの と考えられた.

    そこで実際の臨床例でこの理論が成立するかど

    うかを検討 してみた.悪 性腫瘍患者の発熱例延べ

    163症 例において,LF法 による血液培養 と通常の

    血液培養を同時に施行 して菌検出率を比較 した.

    しかしLF法5.5%(9/163),Broth法4.9%(8/

    162)と 残念ながら両者間に全 く有意差は認められ

    なかった.し かし通常の培養で検出できない菌を

    1例 検出できたことは,今 後に希望をつなぐもの

    と思われた.ま た悪性腫瘍患者の発熱の うち通常

    の方法にLF法 を併用 しても菌の検 出で きない

    不明熱は敗血症を否定できるかどうか,臨 床経過

    と合わせてさらに詳細な検討をしてゆ く所存であ

    る.

    また臨床ではすでに抗生剤による治療が開始さ

    れていることも多 く,そ の影響 も多いものと思わ

    れる.私 はGMを 人工菌血症に添加 して,3種 の

    血液培養方法でその影響を比較 したが,L-F法 が

    特に優れているとい う結果は得 られなかった.し

    かしL-F法 の原理から考 えると,血 液中に抗生物

    質が存在す る場合には通常の血液培養に比 して効

    果的であると考えられるので,今 後例数を増して,

    また添加する抗生剤の種類や濃度を考慮 してさら

    に検討を加えていきたい と考えている.

    またL-F法 は操作中雑菌汚染の機会が多 く,そ

  • 昭和60年3月20日 275

    の 防 止 の注 意 が 必要 で あ る.

    稿を終えるにあた り,御 指導御校 閲を賜わった桜井実教

    授に深謝いた します.ま た御教示いただ きました神谷斉助

    教授,井 上正和博士,御 協力 いただいた教室の諸先生に厚

    く御礼申 し上げ ます.

    なお本論文の一部 は,第26回 日本感染症学会 中 日本地方

    会(1983年,於 大津)に おいて発表 した.

    文 献

    1) 木村千恵子, 井上須美子, 野沢 豊子, 阿部美知子,

    高宮春男, 大谷英樹: 血液培養用培地に関す る検

    討. 機器 ・試薬, 4: 180-186, 1981.

    2) 坂 崎 利 一, 吉 崎 悦 郎: 血 液 培 養-カ ル チャー

    チューブお よびボ トルにつ いて-. 臨床 と細菌,

    5: 87-95, 1978.

    3) 笠原和恵, 森安惟一郎, 堀 雅子, 大塚絵理, 田

    部順子, 村 田明子, 高田真治: 血液培養条件 に関

    す る検討. 岡山済生会病院誌, 10: 101-106, 1978.

    4) Mauer, A. M.: Therapy of acute lymphoblas-

    tic leukemia in childhood. Blood, 56: 1-10,1980.

    5) Sutow, W. W. Malignant Solid Tumors inChildren. Raven press, New York, 1980.

    6) 荒井祥二朗, 神谷 斉, 桜井 実, 井上正和: 小

    児悪性腫瘍 における発熱 と感染の臨床的検討. 小

    児科, 25: 379-386, 1984.

    7) 荒井祥二朗, 神谷 斉, 桜井 実, 井上正和: 小

    児科入院患者 における血液培養. 感染症誌, 57:

    956-963, 1983.

    8) 荒井祥二朗: 血液培養に於け る菌検出率の改善に

    関する研究. 感染症誌, 投稿中.

    9) Zierdt, C. H., Peterson, D. L., Swan, J. C. &MacLowry, J. D.: Lysis-Filtration blood cul-ture versus conventional blood culture in a

    bacteremic rabbit model. J. Clin. Microbiol.,15: 74-77, 1982.

    10) Braun, W. & Kelsh, J.: Improved method for

    cultivation of Brucella from the blood. Proc.Soc. Exp. Biol. Med., 85: 154-155, 1954.

    11) Tidwell, W. L. & Gee, L. L.: Use of membrane

    filture in blood cultures. Proc. Soc. Exp. Biol.Med., 88: 561-563, 1955.

    12) Winn, W. R., White, M. L., Carter, W. T.,Miller

    A. B. & Finegold, S. M.: Rapid diagnosis ofbacteremia with quantitative differential-mem-brane filltration culture. J. Am.Med. Assoc.,

    197: 539-548, 1966.13) Zierdt, C. H., Kagan, R. L. & MacLowry, J. D.:

    Development of a lysis-filtration blood culture

    technique. J. Clin. Microbiol., 5: 46-50, 1977.14) Zierdt, C. H.: Blood lysing solution nontoxic

    to pathogenic bacteria. J. Clin. Microbiiol., 15:172-174, 1982.

    15) 富 岡 一, 藤 山 順豊, 増 田 剛太, 小 林芳 夫: 敗血

    症, 細 菌性 心 内膜 炎 の 化学 療 法. 臨 床 成 人病, 6:

    33-43, 1976.

    16) 安 達 桂 子, 島 田 馨: 臨 床細 菌 検 査, 菌 血 症, 敗

    血 症. 臨床 検 査, 27: 1302-1305, 1983.

    17) Kiehn, T. E., Wong, B., Edwards, F. F. & Arm-strong, D.: Comparative recovery of bacteria

    and yeasts from lysis-centrifugation and aconventional blood culture system. J. Clin.Microbiol., 18: 300-304, 1983.

    18) Dorn, G. L., Burson, G. G. & Haynes, J. R.:

    Blood culture technique based on centrifuga-tion. Clinical evaluation. J. Cliin. Microbiol., 3:258-263, 1976.

    19) Sullivan, N. M., Sutter, V. L. & Finegold, S. M.:Practical aerobic membrane filtration bloodculture technique, Clinical blood culture trial.

    J. Clin. Microbiol., 1: 37-43, 1975.

  • 276 感染症学雑誌 第59巻 第3号

    Fundamental and Clinical Studies on Lysis-Filtration Blood Culture Technique

    Shojiro ARAI

    Department of Pediatrics, Mie University School of Medicine

    On the course of treatment for children with malignancies, we have often experienced so-called

    sepsis like symptomes. From these cases, it is very difficult to detect pathogenic microorganisms by

    conventional blood culture methods. In this report, I discussed about the Lysis-Filtration blood culture

    technique which was first described by Zierdt et al. and I tried to reform some important points.

    The following results were obtained.

    1) The optimal condition of Lysing Solution (L.S.) was determined for both bacterial toxicity and

    lysing capability. The L.S. was satisfied by the condition with concentrations ranging from 0.05 to 1.0%

    of Protease, ranging from 0.1 to 2.0% of Tween 20 and ranging from 6.0 to 10.0 of pH.

    2) There were no specific changes in the nature of L.S. when stocked at 4•Ž for one year.

    3) As the antibactericidal factors of the blood are removed before cultibation, the detected CFU of

    bacteria was correlated with inoculated blood volume. This is the reason why L-F method was more

    effective as the lower level bacteremia with less than 1 CFU/ml.

    4) The L-F method is higher than the broth method regarding the detection rate of bacteria in

    artificial bacteremia by S. aureus (p