major histocompatibility complex 2014; 21 (3):...

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165 平成 26 年度 認定 HLA 検査技術者認定試験に関する報告 平成 26 年度 認定 HLA 検査技術者認定試験に関する報告 木村 彰方 1) ・石川 善英 2) ・一戸 辰夫 3) ・太田 正穂 4) ・田中 秀則 2) ・徳永 勝士 5) 成瀬 妙子 1) ・西村 泰治 6) ・平山 謙二 7) ・湯沢 賢治 8) ・下嶋 典子* 9) (日本組織適合性学会組織適合性技術者認定制度委員会紙面問題検討部会,*;問題解説協力者) 1) 東京医科歯科大学難治疾患研究所 2) 日本赤十字社血液事業本部中央血液研究所 3) 広島大学原爆放射線医科学研究所 4) 信州大学医学部 5) 東京大学大学院医学研究科 6) 熊本大学大学院生命科学研究部 7) 長崎大学熱帯医学研究所 8) 国立病院機構水戸医療センター 9) 奈良医科大学医学部 日本組織適合性学会 HLA 検査技術者・組織適合性指 導者認定制度による第 11 回認定制度試験を,第 23 回日 本組織適合性学会大会中の平成 26 9 13 日(土)に, 大会会場の長崎大学坂本キャンパス・ポンぺ会館 1 階セ ミナー室にて実施した。また,同時間帯に長崎大学坂本 キャンパス・良順開館 2 階ボードインホールにおいて, 同一問題を利用して模擬試験(受験者 51 名)を実施した。 模擬試験受験者の内訳は,検査技術者 41 名,研究者 5 名,その他 5 名であり,認定資格については,認定検 査技術者 24 名,認定組織適合性 3 名であった。HLA 査(または研究)従事歴は,5 年以下が 24 名,5 年以上 10 年以下が 11 名,それ以上が 14 名であった。 試験問題は全 50 問とした。模擬試験の点数分布は図 に示す通りであり,平均 26.6 点,標準偏差 6.2 点であっ た。模擬試験における各問の正答率は 7.8% から 94.1% とばらつき,平均 53.2%,標準偏差 22.9% であった。 なお,平成 25 年度試験問題については,模擬試験の 平均 26.2 点,標準偏差 6.2 点,各問正答率は 11.3% 100.0%,平均 52.6%,標準偏差 23.1% であったこと から,試験問題は例年ほぼ同程度の難易度を保っている と言える。 Major Histocompatibility Complex 2014; 21 (3): 165–180

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平成 26 年度 認定 HLA 検査技術者認定試験に関する報告

平成 26年度 認定 HLA検査技術者認定試験に関する報告

木村 彰方1)・石川 善英2)・一戸 辰夫3)・太田 正穂4)・田中 秀則2)・徳永 勝士5)・ 成瀬 妙子1)・西村 泰治6)・平山 謙二7)・湯沢 賢治8)・下嶋 典子*9)

(日本組織適合性学会組織適合性技術者認定制度委員会紙面問題検討部会,*;問題解説協力者)

1) 東京医科歯科大学難治疾患研究所2) 日本赤十字社血液事業本部中央血液研究所

3) 広島大学原爆放射線医科学研究所4) 信州大学医学部

5) 東京大学大学院医学研究科6) 熊本大学大学院生命科学研究部

7) 長崎大学熱帯医学研究所8) 国立病院機構水戸医療センター

9) 奈良医科大学医学部

日本組織適合性学会 HLA検査技術者・組織適合性指

導者認定制度による第 11回認定制度試験を,第 23回日

本組織適合性学会大会中の平成 26年 9月 13日(土)に,

大会会場の長崎大学坂本キャンパス・ポンぺ会館 1階セ

ミナー室にて実施した。また,同時間帯に長崎大学坂本

キャンパス・良順開館 2階ボードインホールにおいて,

同一問題を利用して模擬試験(受験者 51名)を実施した。

模擬試験受験者の内訳は,検査技術者 41名,研究者

5名,その他 5名であり,認定資格については,認定検

査技術者 24名,認定組織適合性 3名であった。HLA検

査(または研究)従事歴は,5年以下が 24名,5年以上

10年以下が 11名,それ以上が 14名であった。

試験問題は全 50問とした。模擬試験の点数分布は図

に示す通りであり,平均 26.6点,標準偏差 6.2点であっ

た。模擬試験における各問の正答率は 7.8%から 94.1%

とばらつき,平均 53.2%,標準偏差 22.9%であった。

なお,平成 25年度試験問題については,模擬試験の

平均 26.2点,標準偏差 6.2点,各問正答率は 11.3%か

ら 100.0%,平均 52.6%,標準偏差 23.1%であったこと

から,試験問題は例年ほぼ同程度の難易度を保っている

と言える。

Major Histocompatibility Complex 2014; 21 (3): 165–180

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MHC 2014; 21 (3) 平成 26年度 認定 HLA検査技術者認定試験に関する報告

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平成 26 年度 認定 HLA 検査技術者認定制度試験問題・正解と難問の解説

試験問題および正解は以下に示す通りである。また,模擬試験における各問の正答率と代表的な誤答を記載した。なお,

模擬試験正解率が 40%未満であった難問については,理解の助けとするために解説を加えた。

問題 1  MHCクラス II分子のα鎖とβ鎖が会合する細胞内小器官として最も適切なものを a~ eのうちから一つ選べ

a. ゴルジ装置

b. リボソーム

c. 滑面小胞体

d. 粗面小胞体

e. リソソーム

正解:d(正答率:7.8%,代表的な誤答:a, b)

【解説】リボソーム上で合成された HLAクラス II分子の α鎖と β鎖のポリペプチド鎖は,粗面小胞体内で会合してク

ラス II分子を形成する。その後,クラス II分子にはゴルジ装置内で糖鎖が付加され,エンドソーム内でペプチドを結合

し,細胞表面に移行する。

問題 2  MHCクラス I分子を模式的に表した最も適切なものを a~ eのうちから一つ選べ

正解:a(正答率:60.8%,代表的な誤答:b)

問題 3  組織適合性に関する研究業績に関して誤っている記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. George D. Snellはマウスの腫瘍細胞や皮膚の拒絶反応が遺伝的に制御されることを見出した(H-2座の発見)

b. Jean Daussetは頻回輸血を受けた患者血清による白血球傷害が遺伝的に制御されることを見出した(HLA座の発見)

c. Baruj Benacerrafはモルモットの種々の細胞(抗原)への抗体産生性が遺伝的に制御されることを見出した(Ir座の発見)

d. 多田富雄はニワトリで免疫抑制性 B細胞の機能が遺伝的に制御されることを見出した(I-J座の発見)

e. Johannes J. van Roodは妊婦血清を用いて,ヒト白血球表面抗原の特異性を分類した(HLA型の発見)

正解:d(正答率:22.0%,代表的な誤答:b, e)

【解説】MHCに関する研究でノーベル賞を受賞した Snell, Dausset, Benacerrafの 3名の業績は a, b, cに記載した通りで

ある。また,van Roodの功績も eに記載した通りである。多田富雄は,マウスの免疫抑制性 T細胞の機能がMHC領域

の I-J座によって遺伝的に制御されると報告したが,現在ではMHC領域内における I-J座の存在は完全に否定されている。

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平成 26年度 認定 HLA検査技術者認定試験に関する報告 MHC 2014; 21 (3)

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問題 4  集団中に表現型 A1, A2を支配する共優性複対立遺伝子 a1, a2があり,それぞれの遺伝子頻度が 0.25, 0.36である

とする。この集団において表現型 A1と A2のいずれも持たない頻度として最も近い値を a~ eのうちから一つ

選べ

a 15%

b 39%

c 40%

d 49%

e 89%

正解:a(正答率:36.0%,代表的な誤答:d)

【解説】平成 25年度にも出題した問題(正答率 26.4%)である。Hardy-Winberg法則を念頭に置き,複対立遺伝子の表現

型頻度を考える応用問題。問題設定から,複対立遺伝子 a1と a2のいずれでもない対立遺伝子(a3)を仮定すると,そ

の対立遺伝子の頻度は 0.39(1−0.25−0.36=0.39)となる。ここで,a1と a2のいずれでもない対立遺伝子が複数あること

も想定されるが,それらの対立遺伝子のすべてを含む仮想対立遺伝子を a3とすると,その頻度を 0.39であるとするこ

とが出来る(a1, a2を含むすべての対立遺伝子の頻度を合計すると 1になるため)。設問にある,この集団において表現

型 A1と A2のいずれも持たない個体とは,対立遺伝子 a3のホモ接合体である(上の定義から,a3を持たない個体は,

a1もしくは a2を持つ)ため,その頻度は約 15%(0.39× 0.39=0.1521)となる。

問題 5  HLA-A2抗原の遺伝子型に関して正しい記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. 日本人,白人,黒人のいずれでも HLA-A*02:01の頻度がもっとも高い

b. 白人に特徴的に認められるアリルは HLA-A*02:02である

c. 黒人に特徴的に認められるアリルは HLA-A*02:03である

d. 中国人に特徴的に認められるアリルは HLA-A*02:04である

e. 日本人に特徴的に認められるアリルは HLA-A*02:06である

正解:a(正答率:37.3%,代表的な誤答:b, e)

【解説】HLA-A2陽性のうち A*02:01が占める割合は,日本人(n=1,018)では 47.7%,中国人(n=618)では 49.1%,白

人(n=1,070)では 95.8%,黒人(n=2,411)では 67.0%,ヒスパニック(n=1,999)では 74.2%であり,いずれの人種・

民族においても A2陽性者では A*02:01の占める頻度が最も高い。A*02:02は黒人 A2陽性者の 22.6%,A*02:03は中国

人 A2陽性者の 7.5%であるが,他の人種・民族の A2陽性者ではいずれも 0.5%以下と稀である。また,A*02:04は中国

人とヒスパニックの A2陽性者のそれぞれ 1.2%と 1.1%に認められる。なお,A*02:06は日本人 A2陽性者の 35.8%に

認められるが,中国人 A2陽性者の 14.6%,ヒスパニック A2陽性者の 15.0%にも認められるため,日本人に特徴的であ

るとは言えない。

問題 6  HLAでは父母由来の対立遺伝子のどちらもが表現型として発現するが,このことを示す最も適切な語句を a~

eのうちから一つ選べ

a. エピスタシス(遺伝子間相互作用)

b. 多面的表現型

c. 共優性

d. 不完全劣性

e. 独立の法則

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MHC 2014; 21 (3) 平成 26年度 認定 HLA検査技術者認定試験に関する報告

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正解:c(正答率:70.6%,代表的な誤答:b)

問題 7  5'-AUGAAAUCCUAG-3'という配列の mRNAがある。この mRNAの鋳型となった DNAの配列を a~ eのうち

から一つ選べ

a. 5'-TACTTTAGGATC-3'

b. 5'-ATGAAATCCTAG-3'

c. 5'-GATCCTAAAGTA-3'

d. 5'-TACAAATCCTAG-3'

e. 5'-CTAGGATTTCAT-3'

正解:e(正答率:54.9%,代表的な誤答:a)

問題 8  MHCの分子進化に関して誤っている記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. MHC分子のペプチド結合部位には非同義置換が同義置換より高頻度に認められる

b. MHC遺伝子にはしばしば種を越えた多型(アリルの共有)が認められる

c. 古典的MHCクラス I分子ではペプチドの N-,C-末端を固定する残基が種を越えて高度に保存されている

d. 古典的MHCクラス I遺伝子の数は,霊長類ではどの種でも同じく 3個である

e. HLA領域と遺伝子組成が類似した領域がヒト第 1, 9, 19番染色体上に存在するが,これらはゲノム重複の痕跡と考

えられている

正解:d(正答率:56.9%,代表的な誤答:a)

問題 9  アリル表記の第 2区域に関して正しい記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. HLAの抗原(血清学的抗原型)を区分するために使用する

b. HLAの同一抗原内で非同義置換であるアリルを区分するために使用する

c. HLAのスプリット抗原を記載し区分するために使用する

d. HLAの同一抗原内で同義置換であるアリルを区分するために使用する

e. HLAのイントロン内の多型を区別するために使用する

正解:b(正答率:58.0%,代表的な誤答:d)

問題 10  定常状態(サイトカイン等の刺激のない状態)での HLA-DRの発現に関して正しい記述を a~ eのうちから

一つ選べ

a. 皮膚の線維芽細胞は HLA-DRを発現する

b. 腸管上皮細胞は HLA-DRを発現する

c. 胸腺髄質の上皮細胞は HLA-DRを発現する

d. 血小板は HLA-DRを発現する

e. 角膜上皮細胞は HLA-DRを発現する

正解:c(正答率:43.1%,代表的な誤答:a, b)

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問題 11  HLAクラス IIβ鎖の遺伝子構造に関して正しい記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. 多型は主に第 3エクソンに存在する

b. 第 4エクソンは主に細胞外ドメインをコードする

c. プロモーター領域の多型は遺伝子発現量と無関係である

d. 細胞内ドメインの長さの違いを決める多型がある

e. DR, DQ, DPのいずれでも発現するβ鎖遺伝子は 1個である

正解:d(正答率:37.3%,代表的な誤答:b)

【解説】HLAクラス IIβ鎖遺伝子の多型は主に第 2エクソンに存在し,第 4エクソンは膜内ドメインをコードしている。

プロモーター領域にある多型の一部は転写因子の結合部位に存在し,遺伝子発現量と関連することが報告されている。

DRB遺伝子では DRB1以外にも,DRB3, DRB4, DRB5遺伝子が発現し,それぞれ DR52, DR53, DR51分子をコードする。

なお,DQβ鎖の細胞内ドメインは,DRβ鎖や DPβ鎖より 8アミノ酸短い。これは DRB遺伝子群や DPB1遺伝子では第

5エクソン(24塩基対,8アミノ酸をコード)が利用されるのに対し,DQB1遺伝子ではスプライシングアクセプター

サイトの変異のため,第 5エクソンが利用できず,結果として細胞内ドメインが 8アミノ酸だけ短いためである。とこ

ろが,DQB1アリルのうち DQB1*05:03と DQB1*06:01は,このアクセプターサイトの変異がないため,第 5エクソン

を利用可能である。また,DQβ鎖の mRNAを解析すると DQB1*05:03と DQB1*06:01では第 5エクソンを利用した

mRNAと利用していない mRNAがあり,細胞内ドメインが長い DQβ鎖と短い DQβ鎖がつくられている。このように,

DQB1遺伝子ではアリルによって細胞内ドメインの長さが違っている。

問題 12  HLAに関して正しい記述の組合せを a~ eのうちから一つ選べ

1. HLA遺伝子は第 9染色体の短腕上に存在する

2. 父親由来の HLA遺伝子は Y染色体上に存在する

3. 遺伝的多型が最も大きいのは HLA-DRAである

4. 異なる遺伝子座の HLA対立遺伝子が強い連鎖不平衡を示すことがある

5. β2ミクログロブリンは HLA遺伝子領域外にコードされる

a 1, 2  b 1, 5  c 2, 3  d 3, 4  e 4, 5

正解:e(正答率:78.4%,代表的な誤答:b)

問題 13  CD4陽性 T細胞に抗原を提示する HLAクラス IIのアロタイプ間でアミノ酸多型が集中している領域を a~ e

のうちから一つ選べ

a. βシートを構成する部分

b. 細胞質内の部分

c. CD4分子と結合する部位

d. 抗原ペプチドおよび T細胞受容体と接触する部分

e. α鎖,β鎖内に一様に散在し,どこにも集中していない

正解:d(正答率:60.8%,代表的な誤答:a, c)

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MHC 2014; 21 (3) 平成 26年度 認定 HLA検査技術者認定試験に関する報告

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問題 14  MIC遺伝子に関して正しい記述の組合せを a~ eのうちから一つ選べ

1. MICA,MICB遺伝子はどちらも 6個のエクソンにより構成されている。

2. MICA,MICB遺伝子はどちらも HLA領域の HLA-C座と HLA-B座の間に存在する。

3. MICA遺伝子の多型は主にエクソン 2~ 4に認められる。

4. MICB遺伝子のエクソン 5内には,GCT繰り返し構造が見られる。

5. HLA-B座よりも HLA-C座のアリルとの連鎖不平衡が強い。

a 1, 2  b 1, 3  c 2, 3  d 3, 4  e 4, 5

正解:b(正答率:12.0%,代表的な誤答:c, d)

【解説】HLAクラス I領域では,テロメア側から HLA-A, HLA-C, HLA-B, MICA, MICB遺伝子の順に並んでいる。MICA,

MICB遺伝子とも多くのアリルがあるが,上記の位置関係からも分かるように,HLA-B座のアリルとの連鎖不平衡の方

がHLA-C座との連鎖不平衡よりも強い。MICA遺伝子の第 5エクソン内にはGCTが 4回~ 10回繰り返す構造があるが,

MICB遺伝子の対応部分には GCTの繰り返し構造はない。

問題 15  HLAクラス I分子の成熟過程にはシグナルペプチドの切断が必要であるが,この切断されたペプチドを結合し,

NK細胞や T細胞の CD94/NKG2受容体に提示する HLA分子を a~ eのうちから一つ選べ

a. HLA-DM

b. HLA-DO

c. HLA-E

d. HLA-F

e. HLA-G

正解:c(正答率:33.3%,代表的な誤答:a, d)

【解説】HLA-DM, DO分子は,エンドソームにおけるクラス II分子からの CLIPペプチドの解離と,他のペプチドのク

ラス II分子への結合を調節する。一方,HLA-G分子は細胞内ペプチドを結合し,NK細胞の ILT2, ILT4, KIR2DL4受容

体に提示する。HLA-F分子はペプチドを結合しない状態で,クラス I分子の open conformerと会合して,NK細胞の

KIR3DL2,KIR2DS4受容体に認識される。

問題 16  細胞傷害性 T細胞から放出され,ウイルス感染細胞の細胞膜に孔をあける物質として最も適切なものを a~ e

のうちから一つ選べ

a. グランザイム

b. パーフォリン

c. 細胞侵襲複合体(MAC)

d. エラスターゼ

e. ラクトフェリン

正解:b(正答率:56.9%,代表的な誤答:c)

問題 17  HLAに関して正しい記述の組合せを a~ eのうちから一つ選べ

1. クラス I分子は CD4分子と結合する

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2. クラス II分子は CD8分子と結合する

3. クラス I分子は細胞傷害性 T細胞に抗原提示を行う

4. クラス II分子はへルパー T細胞に抗原提示を行う

5. HLA型によって結合可能なペプチドが異なる

a 1, 2, 3  b 1, 2, 5  c 1, 4, 5  d 2, 3, 4  e 3, 4, 5

正解:e(正答率:68.6%,代表的な誤答:b)

問題 18  HLA遺伝子の多重性と多型性は,T細胞受容体の多様性の形成と関連している。これは T細胞が成熟する過

程で T細胞受容体が,HLA分子とペプチドの複合体と直接相互作用することにより起こる。このような T細

胞の選択が行われる最も適切な臓器を a~ eのうちから一つ選べ

a. 骨髄

b. 胸腺

c. リンパ節

d. 脾臓

e. 腸管粘膜組織

正解:b(正答率:86.3%,代表的な誤答:a)

問題 19  HLAクラス II欠損症は常染色体劣性遺伝形質として遺伝する。これは HLA-DR, DQ, DPの発現を制御する転

写因子の機能不全が原因である。この疾患で認められる異常を a~ eのうちから一つ選べ

a. ナチュラルキラー細胞の欠損

b. マクロファージの欠損

c. 低γグロブリン血症

d. 胸腺過形成

e. T細胞の枯渇

正解:c(正答率:45.1%,代表的な誤答:b)

【解説】平成 25年度にも出題した問題(正答率 39.4%)である。前回より正答率が上がったため改めて解説は加えないが,

正解は cである。

問題 20  NK細胞受容体 KIRのリガンドに関して正しい記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. クラス I(HLA-A, -B, -C)分子である

b. クラス II(HLA-DR, -DQ, -DP)分子である

c. クラス III分子である

d. CD1d上の糖脂質である

e. 非古典的クラス II(HLA-DM, -DO)分子である

正解:a(正答率:37.3%,代表的な誤答:d)

【解説】CD1dは糖脂質を結合し,NKT細胞の T細胞受容体によって認識されるが,KIR受容体には認識されない。KIR

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MHC 2014; 21 (3) 平成 26年度 認定 HLA検査技術者認定試験に関する報告

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受容体は HLAクラス II分子を認識しない。また,非古典的クラス II分子(HLA-DM, -DO)は,NK細胞のいかなる受

容体でも認識されない。

問題 21  自然免疫に関連する語句として最も適切なものを a~ eのうちから一つ選べ

a. 抗体産生

b. 免疫記憶

c. HLA

d. パターン認識受容体

e. リンパ球

正解:d(正答率:41.2%,代表的な誤答:a, b)

問題 22  アロ反応性に関して正しい記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. アロ反応性は自己細胞に対してのみおこる

b. アロ反応性はクラス I抗原に対してのみおこる

c. アロ反応性はクラス II抗原に対してのみおこる

d. アロ反応性はクラス III抗原に対してのみおこる

e. アロ反応性はクラス I抗原,クラス II抗原の両方に対しておこる

正解:e(正答率:74.5%,代表的な誤答:a)

問題 23  T細胞抗原レセプターに関して誤っている記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. αβ型とγδ型が存在する

b. 定常部のクラススイッチが起こる

c. MHC拘束性を示す

d. 遺伝子の再構成が起きる

e. 可変部と定常部がある

正解:b(正答率:41.2%,代表的な誤答:a, d)

問題 24  T細胞に関して正しい記述の組合せを a~ eのうちから一つ選べ

1. 多能性造血幹細胞から分化する

2. リンパ節において正の選択と負の選択をうける

3. MHCクラス I-ペプチド複合体に親和性を示すものは CD4陽性細胞に分化する

4. 非自己認識 T細胞はMHC-外来ペプチド複合体に親和性を示す

5. CD4も CD8も発現していない分化段階の T細胞前駆細胞(胸腺細胞)が存在する

a 1, 2, 3  b 1, 2, 5  c 1, 4, 5  d 2, 3, 4  e 3, 4, 5

正解:c(正答率:52.9%,代表的な誤答:b)

【解説】平成 25年度にも出題した問題(正答率 37.7%)である。前回より正答率が上がったため改めて解説は加えないが,

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平成 26年度 認定 HLA検査技術者認定試験に関する報告 MHC 2014; 21 (3)

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正解は cである。

問題 25  感染症ワクチンに関して正しい記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. インフルエンザワクチンを接種するとあらゆるタイプのインフルエンザに罹患しない

b. B型肝炎ウイルスワクチンの 1回接種で 99%以上のヒトに十分量の中和抗体が出来る

c. エイズワクチンの有効性が証明され,2012年に実用化に向けた量産体制に入った

d. 天然痘が 1980年までに撲滅されたのは予防接種(種痘)の効果といえる

e. BCGはトリ型結核菌をもとにして作られた

正解:d(正答率:86.3%,代表的な誤答:e)

問題 26  リンパ球の免疫反応に関して正しい記述の組合せを a~ eのうちから一つ選べ

1. 細胞傷害性 T細胞のレセプターは,HLAクラス II抗原を認識する

2. 細胞傷害性 T細胞表面には CD4分子が存在する

3. T細胞レセプターは,自己 HLAとウイルス由来のペプチド結合物に反応する

4. 細胞傷害性 T細胞は,標的細胞の細胞死を誘導する

5. T細胞レセプターは,血清中の遊離抗原と反応する

a 1, 2  b 1, 3  c 2, 3  d 3, 4  e 4, 5

正解:d(正答率:37.3%,代表的な誤答:a, b, c)

【解説】細胞傷害性 T細胞には CD8分子が発現しており,T細胞レセプターは HLAクラス I抗原と非自己抗原ペプチド

の複合体を認識する。血清中の遊離抗原と反応するのは B細胞レセプター(B細胞表面の免疫グロブリン)であり,T

細胞レセプターではない。

問題 27  ワクチンには,細胞に感染できる弱毒化生ワクチンと感染増殖できない不活化ワクチンなどがあるが,一般的

に生ワクチンのほうがより効果が高いといわれる理由として最も適切な記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. 不活化ワクチンでは十分な抗体産生が得られない

b. 不活化ワクチンに加えるアジュバントの効果が弱い

c. 生ワクチンからは免疫賦活物質が産生される

d. 生ワクチンは不活化ワクチンより細胞傷害性 T細胞を活性化しやすい

e. 生ワクチンは不活化ワクチンより保存しやすい

正解:d(正答率:41.2%,代表的な誤答:a, c)

問題 28  臓器移植と HLA,ABO血液型に関して正しい記述の組合せを a~ eのうちから一つ選べ

1. 免疫抑制療法の進歩により,移植成績が向上し HLA適合度の重要性は軽減している

2. HLA-A, B, DRゼロミスマッチの予後は特に良好である

3. 親族からの小腸移植,肝移植では,HLAホモ接合体のレシピエントは移植片対宿主病(GVHD)のリスクが高い

4. O型のドナーから A, Bまたは AB型のレシピエントへの移植は ABO血液型不適合である

5. 死体移植では,ドナー,レシピエントの ABO血液型を一致,適合させる必要がある

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MHC 2014; 21 (3) 平成 26年度 認定 HLA検査技術者認定試験に関する報告

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a 1, 2, 3  b 1, 2, 5  c 1, 4, 5  d 2, 3, 4  e 3, 4, 5

正解:b(正答率:41.2%,代表的な誤答:a, d)

問題 29  死体からの臓器移植に関して誤っている記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. 腎臓移植は心停止ドナーと脳死ドナーから行われ,どちらも Tリンパ球クロスマッチ陰性が必要である

b. 脳死ドナーからの肝臓移植では HLA適合性もクロスマッチ陰性も必要とされていない

c. 心臓移植では,HLA適合性は問題にならないが,Tリンパ球クロスマッチ陰性であることが必要である

d. 膵臓移植(膵腎を含む)では HLA適合性が重要であるが,Tリンパ球クロスマッチ陰性である必要なない

e. 小児の心臓移植や肝臓移植では臓器サイズを合わせる必要がある

正解:d(正答率:45.1%,代表的な誤答:b)

問題 30  日本臓器移植ネットワークが行う業務に関して誤っている記述を一つ選べ

a. 臓器移植に関する知識の普及および啓発

b. 移植希望者の登録

c. 組織適合性検査の実施

d. 死後提供された臓器の斡旋

e. 臓器提供後の家族に対する支援

正解:c(正答率:60.8%,代表的な誤答:e)

問題 31  臓器移植後に発症する移植片対宿主病(GVHD)に関して正しい記述の組わせを a~ eのうちから一つ選べ

1. 皮疹・発熱に加え,重症例では汎血球減少を伴う

2. 移植片に含まれるドナーリンパ球がエフェクターとなる

3. 治療にはカルシニューリン阻害薬が有効である

4. 他臓器の移植と比較して腎移植での発症率が高い

5. 発症の予測に HLA抗体の測定が有用である

a 1, 2  b 1, 5  c 2, 3  d 3, 4  e 4, 5

正解:a(正答率:56.9%,代表的な誤答:b)

【解説】平成 25年度にも出題した問題(正答率 43.4%)である。前回より正答率が上がっており,正解は aである。

問題 32  抗アロ HLA抗体が検出される組合せとして適切なものを a~ eのうちから一つ選べ

1. 二卵性双生児

2. 複数回輸血を受けた人

3. ミスマッチを含む臓器移植を受けた人

4. 妊娠を経験した女性

5. 後天性免疫不全症候群

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平成 26年度 認定 HLA検査技術者認定試験に関する報告 MHC 2014; 21 (3)

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a 1, 2, 3  b 2, 4, 5  c 1, 2, 4  d 2, 3, 4  e 2, 3, 5

正解:d(正答率:92.2%,代表的な誤答:c)

問題 33  輸血に関して正しい記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. A型,B型,AB型患者に,O型ドナー由来の HLA適合血小板は使用できない

b. 抗 HPA抗体による血小板輸血不応状態患者には,HPA適合血小板を輸血できない

c. 赤血球抗原 Bgは赤血球膜の HLA抗原である

d. 血漿中の可溶性 HLAは免疫系に対する抗原感作の原因にならない

e. a~ dのいずれも正しくない

正解:c(正答率:39.2%,代表的な誤答:e)

【解説】赤血球膜の Bennett-Goodspeed-Sturgeon抗原(Bg抗原)は HlAクラス I分子が赤血球に発現したものとして知ら

れており,Bga, Bgb, Bgcはそれぞれ HLA-B7, -B17, -A28に対応する。

問題 34  輸血に関して正しい記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. 再生不良性貧血患者では,頻回輸血により抗 HLA抗体が産生されているため,「濃厚血小板 HLA」を使用すると副作

用を起こす

b. 輸血後移植片対宿主病(輸血後 GVHD)は,輸血血液中に含まれるリンパ球がレシピエントの HLA抗原を異物と認識

して攻撃,傷害することによって起こる

c. 同一の HLA抗原を持つドナーからの血小板輸血を繰り返すと,アナフィラキシーショックを起こす

d. 新鮮な血液より,期限まで冷蔵保存した血液の方が輸血後 GVHDを起こす危険が高い

e. ウイルス感染者からの輸血は,受血者の免疫力が高まることが期待される

正解:b(正答率:88.2%,代表的な誤答:d)

問題 35  日本人集団において,疾患感受性 DRB1-DQB1ハプロタイプがナルコレプシーと共通する疾患を a~ eのうち

から一つ選べ

a. I型糖尿病

b. 関節リウマチ

c. Vogt-小柳 -原田病

d. 全身性エリテマトーデス

e. インスリン自己免疫症候群

正解:d(正答率:11.8%,代表的な誤答:e)

【解説】日本人集団における疾患感受性 HLAハプロタイプは,ナルコレプシーでは DRB1*15:01-DQB1*06:02ハプロタイ

プである。I型糖尿病,関節リウマチ,Vogt-小柳 -原田病は,いずれもが DRB1*04:05-DQB1*0401ハプロタイプと関連

する。また,インスリン自己免疫症候群は DRB1*04:06-DQB1*03:02ハプロタイプと関連する。

問題 36  自己免疫性甲状腺疾患に関して正しい記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. グレーブス病(バセドウ病)では自己免疫機序で甲状腺刺激ホルモンの分泌が亢進する

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MHC 2014; 21 (3) 平成 26年度 認定 HLA検査技術者認定試験に関する報告

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b. 橋本病(慢性甲状腺炎)では自己免疫機序で甲状腺ホルモンの分泌が亢進する

c. グレーブス病も橋本病も,その疾患感受性は同じ HLAクラス IIアリルと相関する

d. グレーブス病における主な自己抗原は甲状腺ミクロゾームである

e. 橋本病では甲状腺に自己反応性 T細胞が浸潤している

正解:e(正答率:16.0%,代表的な誤答:a)

【解説】グレーブス病の主な自己抗原は甲状腺刺激ホルモン受容体であり,甲状腺刺激ホルモン受容体に対する自己抗

体による受容体刺激のため甲状腺ホルモンの分泌が亢進する。橋本病では甲状腺濾胞細胞が破壊されるため甲状腺ホル

モンの分泌が低下する。グレーブス病は DPB1*05:01と,橋本病は DRB4*01と関連する。

問題 37  HLAに連鎖した疾患に関して,正しい記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. LTA遺伝子の欠損変異は劣性遺伝する家族性心筋梗塞の原因となる

b. 先天性副腎過形成症候群は CYP21B遺伝子の欠損変異に起因する

c. 遺伝性ヘモクロマトーシスは HFE遺伝子の欠損変異に起因する優性遺伝性疾患である

d. TAP1遺伝子および TAP2遺伝子の欠損変異はいずれも免疫不全症の原因となる

e. MICAおよび MICB両遺伝子の欠損変異は免疫不全症の原因となる

正解:d(正答率:35.3%,代表的な誤答:c)

【解説】LTA遺伝子の欠損変異は知られていない。先天性副腎過形成症候群は CYP21A遺伝子の変異(欠損変異,終止変

異,ミスセンス変異など CYP21A遺伝子機能を低下・欠損する変異)による。なお,CYP21B遺伝子は偽遺伝子である。

遺伝性ヘモクロマトーシスでは HFE遺伝子のミスセンス変異が報告されているが,欠損変異は知られていない。HLA-

B*48にリンクしハプロタイプでは MICAおよび MICB遺伝子のいずれもが機能を欠損しているため,HLA-B*48のホモ

接合体には MICAおよび MICB両遺伝子の機能がまったくないが,免疫不全症の発症は報告されていない。

問題 38  父子鑑定を行うための遺伝マーカーとして,不適切なものを a~ eのうちから一つ選べ

a. 第 1染色体上の多型性遺伝子

b. X染色体上の多型性遺伝子

c. Y染色体上の多型性遺伝子

d. ミトコンドリア上の多型性遺伝子

e. a~ eのいずれでも父子鑑定が可能である

正解:d(正答率:60.8%,代表的な誤答:e)

問題 39  妊娠,特に胎児成長に関わる胎盤の機能維持には,母体の NK細胞から分泌される種々のサイトカインが重要で

あるが,これはどの抗原の認識により分泌されているか。もっとも適切な抗原をを a~ eのうちから一つ選べ

a. 胎盤トロホブラスト上の HLA-G

b. 胎盤トロホブラスト上の HLA-E

c. 母体樹状細胞上の HLA-E

d. 母体樹状細胞上の HLA-G

e. a~ dのいずれでもない

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正解:b(正答率:26.0%,代表的な誤答:a)

【解説】母体の NK細胞は,胎盤トロホブラストに発現した HLA-E分子(HLA-Gのシグナルペプチドを結合している

HLA-E)を,NKG2C/CD94(あるいは NKG2E/CD94)受容体で認識して活性化し,サイトカインを分泌する。また,

NK細胞は,胎盤トロホブラストが産生する可溶性の HLA-G分子を KIR2DL4受容体で認識し,活性化されてサイトカ

インを分泌するが,胎盤トロホブラスト上の(膜結合性)HLA-Gでは KIR2DL4を介した NK細胞の活性化・サイトカ

イン分泌は起こらない。母体樹状細胞は HLA-G分子を発現していない。また,母体樹状細胞は母親のクラス I由来の

シグナルペプチドを結合して HLA-Eを発現しているため,NKG2A/CD94(あるいは NKG2B/CD94)を介し NK細胞を

抑制する。

問題 40  最先端医療に関して最も適切な記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. ヒトゲノム配列をすべて調べると II型糖尿病の発症を 95%以上の確率で予測可能である

b. 妊婦血液を用いた胎児の遺伝子診断では妊婦血清中の胎児由来の白血球を集める

c. iPS細胞から分化した心筋細胞が拍動した場合,そのリズムは均一である

d. 異種移植における超急性拒絶反応は糖鎖抗原に対する獲得免疫による

e. a~ dのいずれもが誤りである

正解:e(正答率:39.2%,代表的な誤答:b)

【解説】平成 25年度にも出題した問題(正答率 58.5%)であるが,今年度の正答率は 39.2%であり,前年度に比べて著し

く低かった。模擬試験の受験者が違っているものの,正答率が低い原因として考えられることは,代表的な誤答 bの内

容が関連している可能性がある。すなわち,妊婦の血液検査で染色体異常症の出生前診断(新型遺伝子検査)が可能となっ

ている背景が関わっていることが考えられる。この新型遺伝子検査では,妊婦の血液から細胞成分を除去した後に,妊

婦血清中に含まれる DNAを検査するものであるが,そこには妊婦自身の白血球に由来する DNAと胎児由来の DNA(胎

児の白血球が妊婦のリンパ球によって破壊されたことに由来する)が含まれるのであり,妊婦の血液中に流れている白

血球を集めて検査している訳ではない。II型糖尿病の遺伝率は約 60%であるため,全ゲノムの配列を調べての発症予測

確率は最大でも 60%と見積もられる。但し,稀な II型糖尿病として小児で発症する遺伝性 II型糖尿病(MODY)がある。

MODYは単因子遺伝病であるため遺伝子診断で発症を予測できる可能性があるが,現時点で複数のMODY原因遺伝子

が見出されているものの,それらをすべて調べてもMODY症例の半数以下でしか病因変異が特定できない。従って,

MODYの原因遺伝子の全貌が解明されていないため,全ゲノムの配列を調べても発症予測確率は 50%に満たないと考

えられる。iPS細胞を分化させて心筋細胞を作製した場合,その拍動は個々の細胞ごとに異なっている。また,異種移

植における超急性反応は血管内皮等の糖鎖抗原に対する自然抗体反応であり,獲得免疫によるものではない。

問題 41  異種移植に関して正しい記述の組合せを a~ eのうちから一つ選べ

1. I型糖尿病に対するブタ膵ラ島移植の臨床試験が海外で始まっている

2. 主要異種抗原は,ブタに発現するαガラクトース(αGal)抗原である

3. 遺伝子組換えクローンブタの心臓,肝臓,腎臓を用いた異種移植実験では 3年以上の長期成績が得られている

4. ブタ内在性レトロウイルス(PERV)感染の危険性が指摘され,ヒトに対して多くの感染例がある

5. 抗 HLA抗体は,ブタのMHCである SLA(swine leukocyte antigen)に交差反応する

a 1, 2, 3  b 1, 2, 5  c 1, 4, 5  d 2, 3, 4  e 3, 4, 5

正解:b(正答率:19.6%,代表的な誤答:a, c)

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MHC 2014; 21 (3) 平成 26年度 認定 HLA検査技術者認定試験に関する報告

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【解説】I型糖尿病に対するブタ膵ラ島(ランゲルハンス島)移植では,ラ島細胞をカプセルに入れたものを移植してい

るが,このカプセルはインスリンや血液は通すが細胞を通さないため異種移植の拒絶反応が抑制される。遺伝子組換え

クローンブタとしてもっともよく研究されているのは α1,3ガラクトシル転位酵素の産生を抑制したノックアウトブタ

であり,サルへの移植実験(心臓,肝臓,腎臓)が行われているが,いずれも臓器生着は 1か月未満である。また,ブ

タ内在性レトロウイルス感染の危険性が指摘されているが,現在までにヒトへの感染報告はない。

問題 42  HLA検査に用いる細胞傷害試験で必要なものの組合せを a~ eのうちから一つ選べ

1. ヒツジ赤血球

2. ウサギ補体

3. 中性ホルマリン溶液

4. ブロメリン

5. 蛍光標識抗体

a 1, 2  b 1, 3  c 2, 3  d 3, 4  e 4, 5

正解:c(正答率:68.6%,代表的な誤答:a)

問題 43  血清学的 HLA検査法と直接関連しない記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. ナイロンウールカラム

b. エオジン

c. バフィーコート

d. 倒立位相差顕微鏡

e. アガロース

正解:e(正答率:80.4%,代表的な誤答:a)

問題 44  リンパ球混合培養反応(MLR)に関して正しい記述の組合せを a~ eのうちから一つ選べ

1. MLRは,mixed lymphocyte reactionの略称である

2. MLRにより検出される抗原は,MLR遺伝子(HLA-A)と命名された

3. MLRで陽性となる場合は,HLA-C抗原が異なっている

4. MLRを 2回行う primed lymphocyte test(PLT)により,HLA-DP抗原がタイプされる

5. MLRで見つけられた HLA抗原の一群を,クラス I抗原と呼んでいる

a 1, 3  b 1, 4  c 2, 3  d 2, 5  e 4, 5

正解:b(正答率:66.7%,代表的な誤答:a, d)

問題 45  DNAタイピングに関して誤っている記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. PCR-SSP法は HLA遺伝子検査の中でも簡便な方法である

b. PCR-SSP法は大量検体処理に向いている

c. PCR-RFLP法では DNA切断に制限酵素を用いる

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平成 26年度 認定 HLA検査技術者認定試験に関する報告 MHC 2014; 21 (3)

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d. PCR-rSSO法(リバース SSO)は大量検体処理に向いている

e. PCR-SBT法はシークエンサー等の装置を必要とする

正解:b(正答率:84.3%,代表的な誤答:d)

問題 46  DNAタイピングに関して最も適切な記述の組合せを a~ eのうちから一つ選べ

1. 異なる 2法での判定結果が一致しない場合には,最初に行った方法の結果を重視する

2. PCRによる DNA増幅が確認できない場合は,目的の遺伝子は陰性と判断する

3. 判定時に対立遺伝子の候補が複数ある場合には,番号の大きい順に 3番目までを採用する

4. 目的に合った DNAタイピング法を選択することが重要である

5. 対立遺伝子の判定には,被験者の人種・民族情報が役立つ場合がある

a 1, 3  b 1, 4  c 2, 4  d 3, 5  e 4, 5

正解:e(正答率:94.1%,代表的な誤答:d)

問題 47  LCT法におけるクロスマッチに関して誤っている記述を a~ eのうちから一つ選べ

a. 補体依存性の細胞傷害性抗体を検出できる

b. 補体非依存性の細胞傷害性抗体を検出できる

c. T細胞傷害陽性の場合,HLA class I抗体の存在が考えられる

d. B細胞傷害陽性の場合,HLA class Iおよび II抗体の存在が考えられる

e. 抗 HLA抗体陽性血清(陽性対照)および陰性血清(陰性対照)を同時に検査する

正解:b(正答率:74.5%,代表的な誤答:d)

問題 48  FCXM法におけるクロスマッチに用いる機器や試料の正しい記述の組合せを a~ eのうちから一つ選べ

1. ルミネックス

2. フロ-サイトメトリ-

3. テラサキプレ-ト

4. 患者血漿

5. 患者血清

a 1, 4  b 1, 5  c 2, 4  d 2, 5  e 3, 5

正解:d(正答率:80.4%,代表的な誤答:c)

問題 49  抗 HLA抗体検査に関して誤っている記述の組合せを a~ eのうちから一つ選べ

1. LCT法で抗 HLA抗体の特異性を同定するには,HLA型既知のパネルリンパ球が必要である

2. パネルリンパ球と患者血清の反応が認められた場合を,PRA陽性という

3. ドナーの HLAと反応する抗体を患者が保有する場合を,DSA陽性という

4. 精製抗原試薬で抗 HLAクラス II抗体を検査する場合,患者血清をプール血小板で吸収処理する

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5. ICFA法で抗 HLAクラス II抗体を測定する場合,抗 HLAクラス I抗体の測定と分けて検査する

a 1, 2  b 1, 4  c 2, 3  d 3, 5  e 4, 5

正解:e(正答率:82.4%,代表的な誤答:d)

問題 50  HLAと疾患との関連をケース・コントロールスタディで検討する場合に関して正しい記述の組合せを a~ e

のうちから一つ選べ

1. 疾患感受性の強さはオッズ比で示される

2. 検定は t検定で行われる

3. 検定はχ二乗検定で行われる

4. 有意性の指標である P=0.05は 200回の検定で 1回の擬陽性が生じることを示す

5. 多重検定を補正する場合には,調べた遺伝子座の数を乗じる

a 1, 2  b 1, 3  c 2, 3  d 3, 4  e 4, 5

正解:b(正答率:60.0%,代表的な誤答:a)