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説〕 〔論 ドイツ環境法の発展と憲法 一一 1994 年以降の課題への対応 Die Entwicklungen des deutschen Umweltrechts und Grundrecht 幾久子 j 目次 1994 年以降のドイツ環境法の課題 個別環境法の発展 環境法典制定の進展状況 EU 環境法への対応問題と憲法 ドイツ環境法の発展と憲法改革 IEEWV 1994 年以降のドイツ環境法の課題 「ドイツは環境先進国」というイメージは,日本では広く巷に流布されて いる。そして,ドイツの環境問題およびそれに対する施策や民間の取り組み, 環境教育等に関しては,すでにさまざまな形で紹介され,書籍が出版されて いる。 筆者は,かつて,憲法,行政法を専門とするベルリン大学教授で,公法・ 環境法に関する優れた著作を数多く顕されている,クレップフア←教授の著 作である. ZurGeschichtedesdeutschen Umweltrechts の翻訳を試みたこ とがある(1)。この書名は. r ドイツ環境法の匿史J ということになる。そこ では,環境法とは,人間の自然との係わりを規制する何らかの法規範という, 大変・広い意味で使われている。 -31

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説〕〔論

ドイツ環境法の発展と憲法

一一1994年以降の課題への対応

Die Entwicklungen des deutschen Umweltrechts

und Grundrecht

幾久子野j青

目次

1994年以降のドイツ環境法の課題

個別環境法の発展

環境法典制定の進展状況

EU環境法への対応問題と憲法

ドイツ環境法の発展と憲法改革

I

E

E

W

V

1994年以降のドイツ環境法の課題

「ドイツは環境先進国」というイメージは,日本では広く巷に流布されて

いる。そして,ドイツの環境問題およびそれに対する施策や民間の取り組み,

環境教育等に関しては,すでにさまざまな形で紹介され,書籍が出版されて

いる。

筆者は,かつて,憲法,行政法を専門とするベルリン大学教授で,公法・

環境法に関する優れた著作を数多く顕されている,クレップフア←教授の著

作である.Zur Geschichte des deutschen Umweltrechtsの翻訳を試みたこ

とがある(1)。この書名は. rドイツ環境法の匿史Jということになる。そこ

では,環境法とは,人間の自然との係わりを規制する何らかの法規範という,

大変・広い意味で使われている。

-31ー

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法科大学院論集第9号

同書によれば, ドイツ環境法は,歴史的に発展し,かっ今日までその継続

性が強く認められるところに特色がある (2)0 r19世紀の環境法」である,

1845年のプロイセン営業令の規定およびその基礎となる考え方,例えば,工

場などの施設許可制度による環境保護は,幾多の改正を経.新しい法律に受

け継がれる形で,今日のドイツ環境法の中心部分を形成している。

ところで,同書は1994年時点の発行で、あった。この時期は, ドイツにおい

ては, 1970年から続く環境法の法制化はほぼその骨格というものを整えてお

り, 1991年には東西ドイツの統合も果たされ,その統一ドイツが,ヨーロツ

パ統合条約に加盟するなど,現代化の基礎はほぼ完成していた時期といえよ

う。しかも,この1994年という時点ではすでに, ドイツ国内法における環境

法の理論的形成や,連邦憲法裁判所の主要判決も出揃っていたことに鑑みる

と,現在のドイツ環境法理論の基礎を理解するうえで,クレップファー教授

の著書の重要性は増すことがあっても,減ることはない,ということになろ

つ。

しかし, 1994年という同書が著された時期からしての限界も忘れてはなら

ない。同書では最新のドイツ環境法の動きはフォローされていないことも事

実であるし,また,その後の環境問題の複雑化,グローパル化は,京都議定

書に代表されるような環境保護のグルーパル化への対応を支える理論(新た

な環境思想)構築の必要を,そして, 1993年のマーストリヒト条約発効に象

徴されるヨーロッパ統合のさらなる進展は, ドイツ環境法のヨーロッパ化対

応を要請している。

もっとも,これらの問題について,クレップファー教授自身は,同書で今

後のドイツ環境法の課題としてすでに次のように整理されていた(3)。

一 環境保護のいっそうの意義拡大

一 新たな種類の,特に経済的な手法の増加

- EU法や国際的機関による設定事項の影響増大

ー より進んだ整合化,統一化,標準化に向けての努力

このクレップファー教授の提起された課題を踏まえ,本稿では,まず,環境

-32一

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ドイツ環境法の発展と憲法

保護のいっそうの意義拡大や新たな手法を踏まえた,その後のドイツの個別

環境法の制定状況を紹介し(II), ドイツ環境法の整合化,統一化,標準化

に向けての努力の一環としての,環境法典制定の進展状況について述べ(ill),

さらに, EU法や間際的機関による設定事項の影響増大によるドイツ環境法

のヨーロッパ化への対応問題について論を進め (N),最後に,これらのド

イツ環境法の発展とドイツ憲法(改革)との関係につき,若干の私見を述べ

ることにする (V)0

E 個別環境法の発展

ここでは,前述したクレップファー教授のドイツ環境法史の分類区分に

倣って,大きな改正点や, トピックスを素描するo もとより, 日本ではドイ

ツ環境法への興味が高く,個別の法分野については多くの紹介がなされてい

るので,以下は, 1944年以降のドイツ環境法の発達の,アットランダムな概

観すぎないことを.お断りしておきたい。

ただ,憲法を研究する筆者の問題関心からして,環境法と憲法(ドイツで

は「碁本法J) との関係や,連邦憲法裁判所での判決については,必要最小

限の留意を払いたいと思う。このような前提の下で, ドイツ環境法につき,

1994年以降の発展を僻撤するに際し,全体として以下のことが重要であると

思われる。

まず, ドイツでは,環境保護への取り組みは, 1970年代以降,政治的論点

のーっとされてきたが, 1998年9月の連邦議会選挙の後には,この問題はに

わかに現実性を帯びたものとなったという, ドイツ閣内の政治的状祝の変化

をおさえる必要がある。同選挙で勝利した社会民主党は, ドイツの歴史上初

めて「エコロジーJ(4)を政策綱領に掲げる政党である「緑の党」との連立

政権を成立させたのである。

この連立政権の成立は,すでに実施されている法律やドイツ環境法の全般

的な原則に対して,改めて幅広い国民の眼を向けさせる作用を持ったにとど

-33一

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法科大学院論集第9号

まらず,原子力発電所の停廃止を含む原子力エネルギーよりの撤退(5) エ

ネルギー税の導入(6) 石油税の引上げなど一連の法改正を実現化させたの

である。

また,憲法との関係で震要な変化として,将来世代に対する責任を果たす

ためにも,人間存在の基盤としての,自然的生命基盤を,同家が保護する義

務を定めた,基本法20a条が追加されたことが特筆される(7)。

さらにEU環境法のドイツ国内法への影響の増大があげられる。 EU環境

法は, EUの指令等を通じてドイツ囲内法化されるのであり, ドイツ圏内環

境法は, もはや囲内法のみの問題ではなくなったことがあげられる。

最後に,京都議定書の批准に示されるように 環境問題および、それへの対

応の地球規模化=持続的発展への課題も大きな考慮要素となっていること

を,つけ加えておく。

1 インミッション防止ならびに気候変動防止

現在,環境と気候保護が, 21世紀の全世界的課題であるが,これに対処す

るため, ドイツでは,連邦インミッション防止法が,大気汚染,騒音,振動

防止のために,事業所の許可制をおくという制度が基本となっている (8)。

現在最大の問題である,施設,エネルギー,交通関連のインミッション防止

に関する連邦政府の措置の重点は,この間ずっとも,温室効果ガスCO2の排

出削減におかれており,一定の成果もあげている。ここでは,削減のための

「手段」が一つのポイントと思われるので,以下ではとの点にも留意して順

に説明する。

(1) 1997年には,新たな小型燃焼装置令(9)が発効になった。これは,セ

ントラ jレヒーテイングの煙突などに関する規定を集めたものであり,従

来の営業や産業における許可のいらない燃焼装置への規制とともに,と

りわけ家庭の燃焼装置(暖房装置)に照準を合わせた規定である。許可

された燃料の限定列挙 (3条),燃焼装置の効率と排ガスの熱損失の制

禦に関する規定 (11条)等 以前の規定に比べ,厳格さを増している。

-34一

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ドイツ環境法の発展と憲法

規定の遵守に関しては,建築直後とその後毎年,権限を有する地域の煙

突検査人によって検査される (12条以下)(10)。

(2) 1998年改正のエネルギー管理法(11)においては, r環境に調和したエネ

ルギー供給Jということが定められた(1条)。ここでは, 2つの重要

な観点が存するといわれる。 r1つは,新しいエネルギー源(太陽,風力,

水力,バイオマス,埋立地から発生するガスなど)を使用することによ

り,環境にやさしいエネルギー獲得を行うというものであり, 2つは,

エネルギー獲得による環境負荷.特に褐炭・石炭発電所から排出される

CO2インミッションを減らすために,エネルギーの節約をするJという

ものである。 (2)

(3) 道路交通に関するインミッション防止においては, 1998年にヨーロツ

パ自動車産業連合会 (ACEA)の,改正自動車義務付声明が出されたこ

とにより,かなりの進展がみられたとされる(13)。具体的には.自動車

のガソリン消費量の削減に関する製造物関連措置と並んで,補足的に,

有害物質の少ない自動車に対する税制所上の措置(自動車税法3条e,f,

道路交通許可令47条3項)がある。

(4) 1998年には,連邦インミッション防止法(14)40条a-e,62条a(いわゆる,

「オゾン法J) に基づき,夏スモッグ防止のための車両運行禁止令が発令

された。オゾン法は, r健康を害する地表近接オゾン濃度が,空気 1m3

あたり ,240マイクログラムになると,自動的に排出の著しい自動車に

対し,運行禁止令が発令されることを定めている。

しかし,連邦インミッション防止法40条dは,運行禁止について多数

の一般的例外を認めているうえ,実際の執行(規制)が難しいゆえに実

効性に欠けるので¥一般的には,象徴的規定として理解されている(15)

このような不十分な内容のオゾン法については 基本法に基づく保護義

務違反との申し立てがなされたが,連邦憲法裁判所はこれを却下してい

る(1610

(5) 2002年には,国家特続可能戦略が閣議決定されて,京都議定書の目標

-35一

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法科犬学院論集 合言9号

として,温室効果ガスを2010年までに1990年比で21%削減するこιを目

標としていたが2008年の時点で22.4%の削減量を達成していた(17)。

(6) これらのプログラムの目標達成のため,環境税制改革,コージ、ェネレー

ションの普及,再生可能エネJレギーの開発助成,ピJレの省エネ改善等の

さまざまな施策を講ずることとした。経済的手法である環境税について

は, 1998年に導入,翌年施行されている(18)。

(7) 温室効果ガス削減のためには,再生可能エネルギーの利用も重要であ

る。 2000年には再生可能エネルギ一法が制定されており (19)再生可能エ

ネルギ一利用促進のための市場刺激策が打ち出されている。2004年には,

再生可能ヱネルギーの電力消費に占める割合の目標僚が法定化きれ,

2010年までに,総エネルギ←消費における再生可能エネルギー源の割合

を2倍以上とするとされた。また 再生可能エネルギーの定義の見麗し

及び買い取り価格の変更が行われている。

(8) 環境税には,一定の軽減措置があるが,運輸業界が受けられる軽減折

置は,製造業におけるのに比べ非常に少なくなっている。

(9) 本分野における連邦憲法裁判所の判決として, 2004年4月20日の決定

がある。これは,冷凍倉庫会社2社および運送会社5社が, (ア)環境

税は市場をゆがめ,職業の自由(基本法12条l項),所有権の保障 (14

条l条)を侵害し, (イ)税の優遇措置をこれらの社が受けられないのは,

法の下の平等(3条l項)に反するとした事件で,連邦憲法裁判所は, (ア)

につき,職業の自由や所有権の保障は,不確定要素のある将来の市場で

の成功までをも保障したものではなく,環境税は転嫁可能でもあるので,

これらの自由を侵害しないこと, (イ)につき,消費抑制のために課税

制限をもうけることも基本法には違反せず,また,税優遇措置が受けら

れるかどうかは,立法者の裁量の範囲内であるとして,合憲の判断を下

している(加)。

(イ)の判断においては税という 誘導的手段による環境目的達成

という経済的手法につき,合憲の判断が下されていることも注目される。

nhu

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ドイツ環境法の発展と憲法

2 原子力法ならびに放射線被爆防護法

この分野では. 1994年以降,原子力発電廃止決定という, ドラスティック

な変化があった。

2000年6月14日,社会民主党と90年連合・緑の党を政権与党とするドイツ

政府は,電力業界との聞で,新規の原子力発電所の建設を禁止し,圏内で稼

働中の19碁の原子力発電所(原発)の稼働期聞を32年とし,運転期聞を終え

た発電所から段階的に廃止するという内容を含む合意に達した(21)。このい

わゆる原発全廃の合意は, ドイツがヨーロッパ最大の経済国であることもあ

り,各界より大いに注目を集めた。

その後,多種多様な利害関係の錯綜の中で調整は困難を極めたが,翌2001

年6月11日に,ドイツ政府と大手電力 4杜は,この合意に正式署名した (1原

子力発電の取り扱いに関する取決めJ)。

2001年9月5日,この取り決めを法制化する原子力法改正法案が閣議決定

され(22)この改正案は,同年12月14日に与党・社会民主党と90年連合・緑の

党の賛成多数で可決され,ここに「段階的廃止」という, ドイツの脱・原発

政策が確定した。この脱・原発政策は,その後連立政権を組むことになった

社会民主党と緑の党が. 1998年の総選挙の時点で主要公約に掲げていたもの

である。

もっとも, 90年連合・緑の党が社会民主党と連立を組むにあたって条件と

していたのは,原発の即時全廃であったが,同党に所属するトリッテン環境

相(当時)によれば. 1もしこの段階的廃止を承認しなければ,野党のキリ

スト教民主同盟とキリスト教社会同盟を喜ばせるだけJということで,党大

会で賛成多数で段階的廃止を承認したとのことである。

廃止決定当時の最大野党であったキリスト教民主同盟は,原発廃止決定の

撤回を表明し,連邦議会の廃止決定の採決でも反対に回った。その後に行わ

れた2002年の 9月の選挙でも社会民主党が勝利し.90年連合・緑の党と再び

連立を組むことになったので,原子力廃止は,当面ドイツの重要な政治決定

-37ー

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法科大学院論集第9号

として存続していくことになった。

キリスト教民主同盟加税気候温暁化問題への対応や政治情勢の変化に伴

い.原発廃止に関する政策論は 新たに激しく戦わされている。 2009年に締

結された連邦政府の連立協定では核エネルギ}につき,再生可能エネルギー

に代替するまでの「つなぎ技術」と捉えられているので,現存する原発の既

続期間は,政府のエネルギーコンセプトによって規程されていくことになる。

3 計画策定と環境保護

環境法における計画策定手続制度は, ドイツに特徴的なものである (23)。

空港,高速道路,原子力発電所,廃棄物埋立て施設などのような大規模事業

案件に関しも. 1つの手続でまとめて許可をだすシステムがとられている

刷。許可手続においては,環境への影響を審査し,住民参加を踏まえる手

続きがとられている。なお. 2001年に. EUより環境影響評価指令が出され

ているが, ドイツでの本指令の圏内法化は.1990年制定の環境影響評価法制

に,環境評価を組み込んだ形で行われている。

これらの許可に対しては行政訴訟を提起できるが.民事訴訟での差止請求

は認められない。

4 水管理法

水管理法では,水の利用と排水を規定している。その執行は州が行う。

この分野では,水汚染対策の方策として,汚染された排水に課金する,排

水汚染された課金制度が法定されている。いわゆる,経済的手法である。

この分野における連邦憲法裁判所に係属した事件としては. 1995年11月7

日の取水賦課金事件が有名である。そこでは,ナト|法による取水賦課金の平等

違反性や所有権侵害性 (14条 l項).連邦制のあり方等が問われたが,連邦

憲法裁判所は,これらをいずれも,理由なしとし,合憲の結論を導いた(26)。

水質汚濁に関しては,排出者の無過失責任が定められている制。

水管理法については. 2007年5月10日のEC指令圏内化法律で改正されて

-38ー

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ドイツ環境法の発展と憲法

いる。

5 自然保護法

連邦自然保護法は,康史の古い連邦法であるが, 1994年以降は,大綱的立

法として,ナ1'1の自然保護法の大枠を規制していた倒。との大綱的立法の制

度は, 2006年の基本法改正を受けて廃止された。もっとも当初より団体訴訟

の規定は,大綱的立法ではなく,ナトlに直接に適用される法として,導入され

ていた。連邦自然保護法は, 2007年5月10日のEC指令圏内化法律で改正さ

れている。

連邦狩猟法は, 1952年に制定されているが (29)現行の狩猟法の基礎は1976

年改正法である。東西ドイツの統ーや,旧東ドイツの1984年の狩猟法廃止に

対処するため, 1996年に連邦狩猟法が改正され,目標の照射の禁止の廃止や,

従来刑罰対象ときれていた休猟期違反が秩序罰違反左されている(泊)。

自然保護は,基本法においてドイツの国家目楳とされているが(基本法

20a条参照 (30) 自然観の対立により,何を保護するのかという保護の客体

の議論が今日までくり広げられている。 2001年に成立した動物愛護法は,こ

の両者の争いに現時点での一つの決着をつけたものである。同法の成立に伴

い, 2002年には基本法も改正されている (31)。

6 廃棄物法

1994年に廃棄物循環経済法(32)が制定され, 1996年に施行ぎれている。 EU

法からの影響を受けた立法であった。この法は,発生抑制,次にリサイク jレ,

そしてそれで、も残った廃棄物を適正に処分するという三段階の仕組みになっ

ている。

また, 2003年l月1日より,ベットボトルや缶などの使い捨て型の包装容

器(以下「使い捨て型容器Jという)に入った,ビールやミネラルウォーター,

炭酸入り清涼飲料水などの販売に際して デポジット金の徴収ならびに使用

済み容器の引取等が義務づけられることになった (1998年の包装容器令制

-39一

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法科大学院論集第9号

8条参照。「強制デポジット制度」といわれる)(泊)。

デポジットとは,一般には商品の容器代などの「預かり金Jのことをさす

が,今回実施となったドイツの強制デポジット制度では,デポジット金の徴

収および償還のみならず,包装容器の引取りおよび再利用のシステム構築ま

でを義務づけている点に特色がある。

この強制デポジット制度導入に関しては,飲料業界等の関係事業者団体の

抵抗が根強く,最終的には導入の是非をめぐり連邦憲法裁判所へ訴えが係属

した(35)。また.2003年l月1日の導入を超えても法廷岡争が繰り広げられた。

事業者たちの主張の根拠は,強制デポジット制度導入による,職業の自由や

営業の自由の侵害であった(基本法12条l項・ 14条1項)。しかし連邦憲

法裁判所は,この強制デポジット制度につき,憲法違反を認めなかった(36)。

7 危険物質法・化学製品法

危険物質法の分野については,従来から有害物質の排出者に対する無過失

責任が定められていた。これは 先に述べた水質汚染の分野において施行さ

れていたことと同様の論理による。

1990年に制定された環境責任法(37)では,大気汚染,土壌汚染などに関し

でも無過失責任の原理を取り入れた。そこでは,因果関係推定規定b 限定

的にではあるが,存在していた。

化学物質については,届出の義務付け,リスク審査による安全管理が問題

となる。ドイツでは,すでに1981年に化学製品法(38) が立法化されていたが,

立法化以前にすでに流通していた製品(既存物質)への規制が課題となって

いた。

1993年には既存物質規則(39)が制定され,その後, EUの規制枠組みを前提

として,官庁,産業界,学界,労働組合の協働による「既存物質諮問会議

(BUA)Jにより,リスク評価が実施されていた(40)が. 2007年には. EUの新

化学物質規則を囲内法化した,化学製品規則が了承されている。

-40一

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ドイツ環境法の発展と憲法

8 土壌保全法

工場跡地などで有害物質が大量に検出された場合に,その処理が問題とな

るが,ドイツでは特に旧東ドイツ地域でこの問題が大きかった。ドイツでは,

歴史的には警察法に基づく除去命令で対応していたが,誰の責任で,誰の費

用で処理するかが不明で、あり.紛争が絶えなかった分野である。

1998年に,連邦土壌保金法(41)が成立し,基本的に,原因者およびその包

括承継人(相続人含む)が浄化義務者とされ 特定承継人はその義務を負わ

ないとされた。所有者も状況責任を負うとされている (42)。

土壌汚染の状況責任の法的根拠については争いがあり不明確で、あるが,

2000年2月16日の連邦憲法裁判所決定は, 1所有権に内在する制約からくる

ものであり,基本法14条 l項に違反しないJとしている (43)。

9 環境情報法,環境責任法

1994年には環境情報公開法(叫)が制定されていたが,さらに, EU環境情報

指令 (2003/4/EC)を圏内法化するため, 2004年12月に環境情報法が改正さ

れ, 2005年2月14日に施行された。これにより, 1すべての」連邦行政機関

および,官庁のコントロールのもとに環境法関連の公的任務を遂行する一定

の民間機関に,環境情報公聞が義務付けられることになった。

なお,新j去の適用対象は 旧法と異なり連邦のみとなっているので,州お

よびゲマインデが,連邦と同等以上の環境情報法を立法化することが要請さ

れている (45)。

環境責任法は.2004年のEUの環境責任指令を受け,特定の施設操業者の

公法上の環境損害責任を規律する法として, 2007年に制定されている O

E 環境法典制定の進展状況

ドイツにおける,前節の多数の環境法令は,複雑で、透明性に欠け,統ーが

-41-

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法科大学院論集第9号

取れていないので,早くも. 1970年代中ばより,環境法を. 1つの環境法典

にまとめようとする政府・各界動きが続いてきた(46)。

環境法典は連邦の立法権限を強化することにもつながり,反対が多かった

が.2005年の保草連立政権の成立. 2006年の連邦制改革の憲法改正法律の制

定など.環境法典成立のための機運は高まり .2009年草案(47)も作成されたが,

立法過程で利害関係の調整が進まず,この草案も. 2009年2月に破棄となっ

た。以下では,この2009年草案を簡単にみておく。

環境法典総則立法化作業では,従来から展開されてきたドイツ環境法の原

則を法文化することも大きな課題とされてきた。具体的には,伝統的な原則

とされてきた,予防原則,原因者負担原則,協働原則の3つである。

環境法の法典化の目的として ドイツ環境庁の挙げていたものは次の10の

事項である(制。①2005年の連立協定に基づく政策上の責務であること,②

時期的に熟していること.③連邦制度改革との関係,必要,④環境法の簡易

化・整合化の確保と官僚主義の排除 ⑤統合的事業認可制度導入による認可

手続きの簡易化,⑤執行容易性の確保,⑦環境法の法的明確性,継続性,輪

郭設定の向上,③総体としての環境保全の強化,⑨EU環境法との整合化の

強化,⑬環境法の革新(現代化・未来像創造性)。

2009年草案の具体的内容は 以下のような構成となっている倒。

第l章総則

第 l節全環境法典の総則

第2節戦略的環境影響評価

第3節事業上の環境保全 :EMAS事業場に対する軽減措置

第4節 環境損害の発生抑制および浄化

第5節 環境上の重要事象に際しての法的救済

第6節参加団体の聴聞;行政規則

第2章統合的事業認可

第l節総則

第2節 認可

-42ー

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ドイツ環境法の発展と憲法

第3節計画認 可

第1款通則

第2款廃棄物最終処分場

第3款その他の事業

第4節環境影響評価

第5節手続

第l款申請

第2款官庁の参加

第3款公衆参 加

第4款手続終 結

第5款越境的参加

第6款 言十商認可の場合の特則

第7款簡易手 続

第6節干渉措置

第7節監視

第8節既存事業

第3章 終章

'N EU環境法への対応問題と憲法

1 EU環境法とドイツ環境法

Eの個別環境法の発展においても何度か言及してきたが,マーストリヒト

条約の批模以降, EU環境法制のドイツ環境法への影響の増大には著しいも

のがある。同条約批准当初, ドイツ圏内では, EUの権限増大(およびマー

ストリヒト条約でのさらなる発展)は,欧州委員会による過剰規制やヨーロッ

パ司法裁判所の厳格主義とも結びつき ドイツに過大な影響を及ぼすのでは

ないかとの懸念が表明されていた(日)。

しかしながら,現在,現実問題として, EUの構成田であるドイツには,

-43ー

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法科大学院論集第9号

EU立法からくる,多くの立法化義務が課されている。 EU立法は,規則,

指令,決定から構成されるが, EU環境法からドイツ環境法への影響の増大

として,近時著しいのは,このうち, EUから発される EC指令への対応に

関してである。

ところがこの局面において,従来のドイツの環境法のあり方.環境媒体ご

とに複雑に形成され,蓄積されてきたしたドイツ環境保護法制(52)の不通合

性が露呈された。 1996年にEUから出きれた, I環境汚染の統合的予防・低

減に関する指令J(53) (IVU指令)による法改正問題が具体例としてあげられ

る。また,この問題をさらに難しくしていたのは ドイツの環境保護の実体

法のあり方と,英米系におけるそれとが適合しないという法系の違いからく

る問題であった。

すなわち,この統合的環境管理指令の元になる考え方は,イギリスにおけ

る統合的環境汚染規制制度 (EnvironmentalProtection Act, 1990における

IPC)に範をとったもので, OECDにおける環境汚染の統合的予防・規制に

関する勧告 (1991,IPPC)にも基づくものである。

ちなみに,そこにおける「統合」の目的は,環境全体の保護とされ,環境

保護領域内の統合,環境媒体の統合,分野の統合,行政過程の統合.構想の

統合,環境保護主体の統合であるとされる。そして,環境保護利益と,ぞれ

以外のとりわけ経済的利益等について 環境保護というテーマへの統合する

試みであるといわれている (54)

ドイツはこの指令に対応するために,媒体ごとに形成された移しい圏内関

係法の改正に踏み切らざるを得なかヮた。この面では, EUへの対応問題は,

「ヨーロッパ環境法によるドイツ閣内法の組み直しJの問題であるといえよ

つ。

2 ドイツ積境法のヨーロッパ化問題

ところで,この間ドイツでは,長年の懸案であった環境についての統一的

な法である,環境法典 (SGB)の編纂作業が行われていたことは,前章班の

-44ー

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ドイツ環境法の発展と憲法

とおりである。この作業が順調に進めば従来,環境媒体ごとに個別環境法

が作られていたドイツにおいて. I統合的な」な環境法を作成し. EU環境

法にも対応できる統合的環境保護のための前提条件が創出できるはず、であっ

た。しかしながら.長年の努力にもかかわらず,連邦とナト|の立法権限の問題

もあって,法典編纂事業は頓挫してしまい(55) この面からも統合的環境保

護の法を作り対応する,ということが不可能な状況となっていた。

現有, ドイツ連邦議会における立法の半数は.EU法に関連するものであ

るといわれるが.環境法分野でも. EU法は最も優先されるべき重要な法源

であり.EUr:去を圏内法化するための立法は轄しい数にのぼる (56)。

しかし,他面. EC指令等のEU立法の圏内法化に最も問題を抱えている

分野が環境分野であることもまた,事実である。具体的には.ヨーロッパ環

境法を閣内法化する際にかかる. I時間の長さJの問題として現われた(57)。

この原因は, ドイツの取る統治構造の基本である,連邦制に帰せられる問題

であった。

最終的には, ドイツ環境法においては,上述したヨーロッパ環境法のドイ

ツ圏内法化のために,個別環境法の改正にとどまらず, ドイツ憲法自体のの

構造改革に踏み切らざるを得ないこととなった。これが,基本法改正による

ドイツの連邦制改革である。ここに室る流れをまとめると,次のようになる。

まず,前述した全ドイツに妥当する環境法典の頓挫である。これにより,

ドイツ環境法は,ひき続き,環境法の実体法に関して媒体ごとの構成をとる

ことになった。

加えて,当時のドイツにおいては,立法の制定に関して,基本法上競合的

立法や大綱的立法の制度が複雑に交錯し,そこでは,立法や執行をめぐって,

「連邦と州の複合的システム」ともいうべきものが存在していたことである。

そこにおいては両者の権限争いも行われていた。

そして,このような立法についての連邦と州との複雑な関係は,立法権限

問題として. EU環境法の圏内法化,圏内的実施に関して, とりわけ大きな

問題を生じていたことである。

-45ー

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法科大学院論集第9号

ここに, iEU環境法からの要請に応えるためには,基本法レベルでの対

応が必要で、ある」という事態が生じるのである。

3 ヨーロッパ化問題と基本法改正

上述の問題に基本法上で対処することを目指した改正が, 2006年の基本法

改正であった。同改正では,具体的には, EC指令(詳細な規定)の国内法

化手続を遅くする原因となっていた.連邦とナト|が複合的に立法する, i大綱

的立法J(邸)の制度の存続が最大の焦点となった。

本稿では, 1994年以降のドイツ環境法の発展をスケッチするという性格上,

2006年版基本法改正に向けて,学界で行なわれた議論について詳細に論じる

余裕はないが(59) 以下必要な限りで, 2006年の基本法改正以前の基本法の

条文構造とその問題状況につき述べておく。

ところで, EU法としてのEC指令への,ドイツの対応の困難さに関しては,

2つの場簡を分けて考えなければならない。 1つは, EC指令の発効に必要

な手続 (ECj法の国内法化または囲内実施Uebersetzungder Richtlinienの手

続)に係る問題であり, 2つは, ドイツの圏内法(この場合基本法)に係わ

る問題である。

lつ目に関していえば, EC指令は同規則とは異なり,原則的に直接適用

されないものなので,指令の発効のためには 囲内法化または圏内実施の手

続が必要であることである (60)。

2つ目は,との囲内法化の手続において,立法権限という,連邦制という

凶家体制を伝統的にとってきたドイツに特有な,立法をめぐる連邦と州との

係わりについてのルールから生じることがらである。

lつ目の囲内法化が必要であるというととは,規則ということからくる国

際法上のルールであり,各国に共通する問題である O ドイツにおいては,基

本法上これに支障にならないような仕組みはない。そこで,ドイツがヨーロツ

パからの要請にいかに応えるか,という観点からすると, ドイツにおける圏

内法化のために支障となっている 特殊ドイツにおける園内事情の克服とい

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ドイツ環境法の発展と憲法

う. 2つ自の問題が課題となるのである。

では,園内法化に支障となるドイツに特有の事情とは何か。歴史的に連邦

制をとるドイツにおいては,原則的に,立法権は州に存し,基本法が例外的

に定める事項および方法においてのみ,例外的に連邦は立法権限を付与され

ると言う,ドイツ連邦制を立法の面から支える仕組み (1立法権限」の仕組み)

がこれにあたる(基本法70条l項)(61)。

以下では. 2006年基本法改正以前の,連邦と州の立法権限につき,まず説

明する。基本法に明記されている「例外」として,連邦に立法権限が認めら

れる類型は,近時の立法権限改革をまとめられた服部高宏教授によれば,①

連邦専属立法(連邦のみが:専属的に立法権限を持つ。墓木法71条.73条).⑦

競合的立法(連邦が立法権限を行使すれば,州は立法権を持たない。 72条.74

条.1日74a条 (2006年改正で廃止)) .③枠組み立法(連邦が大綱的規定を定

める権限を持ち,ナト|がその具体化をはかる権限を持ち義務を負う。大綱的立

法とも言う。旧75条 (2006年改正で廃止))の 3つとされる (62)。ここに当て

はまらなければ,ナト|に立法権限が存するという「原則Jが妥当することにな

るのである。

このように,憲法の規定上は,連邦が立法権限を行使できる 3つの類型が

定められていたのであるが実際上は立法の内容によって,いずれの類型に

あてはまるかどうか争われたり,また,類型が定まったとしても,具体的事

例において連邦の立法権限行使の範囲について,立法管轄問題として,連邦

憲法裁判所で争われたりするととがあEを絶たなかったと言われる (63)

また,立法権限にかかわる困難さの2つ日は, とりわけ環境保護の分野に

おいては,基本法において,個別の環境分野ごとに立法権限が定められてい

たことにあった。

例えば,自然保護法の分野についての環境法制定に関しての立法権限につ

いては,基本法75条の連邦の大綱的立法権のもとにあるとされていた。すな

わち. 1連邦に基本的立法(枠組み権限)を与え連邦は,指示的・構造的規

範だけを発布し,そのうち形成手段を行使するかどうかは,各州、|に委ねられ

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法科大学院論集第9号

るJ(この仕組みは. I連邦の大綱的立法権限」とも言われる)が定められて

いた。これにより,実質的に州や市町村には相当の幅で立法することが認め

られていたともいえる。

これに対し,例えば,廃棄物法の分野に関しては,競合的立法の範囲に属

することが規定されていた(基本法第74条24号)。競合的立法とは,ナト|は,

当該立法に関し,連邦が立法権を行使しない範囲およびその限りで立法権を

有するとするもの(基本法72条)というものである。

このように, ドイツの環境法制度では環境法分野全体がさまざまな連邦法

に分割されるばかりでなく 連邦の法律と州の法律への分割もなされるので

あるから,さらに事態は複雑になり 対応すべき立法も増えるのである刷。

この複雑さゆえ,具体的にどのくらいの支障が生じていたのかについてで

あるが.2005年12月15日の欧州司法裁判所で判決がだされた事例が象徴的で

ある (65)。

同事件において問題となったのは2000年12月22日に発効した水政策の分野

における EC行動の枠組みを設定する EC指令 (2000/60/EC)であり.その

圏内法化についての期限は2003年12月22日であったところ(同指令24条).

ドイツのいくつかの州が,立法期限内に国内立法化を達成できなかったこと

である。それに対し.2005年12月15日,欧州司法裁判所は.ベルリン,ヘツ

セン,メクレンブルクフォアポンメルン,ノルトラインーヴ、ェストファーレ

ンおよびザクセンーアンハルトのドイツ 5州において.EC指令の囲内法化

がなされていないとする羽田年2月11日の欧州委員会の訴えを認め, ドイツ

の条約違反を認めた(的)。ドイツにおいては,この指令の国内法化にあたって,

連邦および、ナトほ含め,実に30を超える数の法律の制定あるいは改正が必要で

あったとされるが,これに対して,例えばデンマークでは 2つの法律のみを

必要としたとされる (67)このことは 連邦制をとるドイツのEU法対応の困難

さ,そこにおける深刻性を物語る。

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ドイツ環境法の発展と憲法

4 2006年基本法改正の内容

結局, EC指令の圏内法化の迅速化のためにドイツが選んだ道は,基本法

を改正して,大綱的立法の制度を全廃し,競合的立法の改編により環境法に

係わる連邦の権限を強化し(反対に,ナ/-,の権限を事実上縮小し),長年の権

限論争に終止符を打つことであった (2006年基本法改正)(68)。

(1) 2006年改正による立法権限の再編

この2006年基本改正の, I連邦とナト比の立法権限の再編」については,次

の2点にかかわる大規模な改革がなされたとされる。すなわち,①連邦か州、!

か,単独で立法を行える領域をそれぞれ拡大することにより,連邦と州の立

法権限の区分けをより明確化する,②連邦と州、!の双方に一定の領域で競合的

に立法権限が認められてきた領域においては,対象事項の性質に応じて区分

けされた,複数の異なる立法類型を導入する。(69)ことである。

①に関しでは, (a)大綱的立法が控全に廃止されるとともに, (b)連邦専属立

法および州専属立法の領域が拡大され,また,②に関しては,競合的立法が

さらに三つのタイプの立法へと下位区分された。競合的立法の新たな下位区

分を服部高宏教授は, I連邦優位型JI必須要件現JI完全競争型jと名付け

られている。同教授の区分・用語に伴い。今回の立法権限の改正を個別環境

法保護分野ごとにまとめると,以下のように整理することができるであろ

う(70)。

ア 狩猟制度(旧75条 l項3号)につき,①狩猟免許証に関するものは,

競合的立法(連邦優位型) (74条l項28号),②それ以外の狩猟制度は,

競合的立法(完全競争型) (74条l項28号, 72条3項 l号)

イ 自然保護および景観保全(旧75条 l項3号)につき,①自然保護のー

般的原則,種の保護の法,海洋自然保護の法に関するものは,競合的立

法(連邦優位型) (74条 l項29号),②それら以外の自然保護および景観

保全については,競合的立法(完全競争型) (74条 l項29号 72条3項

-49ー

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法科大学院論集第9号

2号)

ウ 国土計画(旧75条 l項4号)につき,競合的立法(完全競争型) (74

条 l項31号, 72条3噴4号)

エ水資源管理(旧75条 l項3号)につき ①物質及び、施設に係わる規律

は,競合的立法(連邦優位型) (74条 l項32号),②それ以外の水資源管

理については,競合的立法(完全競争型) (74条 l項32号, 72条 3項5号)

(2) 競合的立法についての改正

競合的立法につき,今回改正により 3つに分けられた[必須性要件型J,r連邦優位型J.r完全競争型jの内容を説明する。

まず「必須性要件型」である。 2006年基本法改正前は, 1994年の第42回基

本法改正において,全ての競合的立法について, ["連邦法律による規律の要

件の必須性を満たさなくてはならない」という,必須性の要件が課されてい

たのであるが,今回改正により,必須性の要件が課される適応範囲は, (新)

第72条2項の場合に定められる事項に限定されることになった。これが,rあらたな必須性要件型の競合的立法Jである。この型の立法においては,必須

性の要件を満たさなくてはならないことになる。環境保護に係わりのある分

野では,経済,土地,天然資源.道路交通等がこれにあたる。

この改正は,連邦法の優位を広げることになる改正である。

次に, r連邦優位型Jである。今回改正により 「必須性の要件による制約

という縛りを受けない競合的立法」という領域が新たに生じた。これが「連

邦優位型の競合的立法」といわれるものである。連邦優位型の競合的立法で

は,従来と異なり,必須性の要件が必要とされないにもかかわらず,連邦の

立法権限の行使tこは何らの制約も課されず しかも連邦が立法を行えば,そ

の限りで州は全く立法ができないことになる O その意味では, ["立法権限上

各州、|に対して連邦が完全に優位するタイプの競合的立法である。J(71)とされ

る。環境保護分野においては,廃棄物経済,大気汚染および騒音防止(生活

騒音からの保護を除く)などがこれにあたる。加えて,大綱的立法の廃止に

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ドイツ環境法の発展と憲法

より,この型の競合的立法が増大した。

この型の競合的立法の創設は,環境法分野における,連邦優位をもたらす

改正である。

これらに対して.1完全競争裂の競合的立法」は.72条3項新規定が定める,

従来は無かった全く新しい立法類型である。この型に属する立法に関しては,

連邦が連邦法律を制定しでも,州はそれとは別の内容の法律を制定すること

ができるので,連邦の立法権限の行使は,ナトlの立法活動に対し,時間・内容

のいずれの面においても阻止効果を一切持たないことになる。連邦と州の立

法権限はほぼ対等となり連邦と州は全くの競争 (Wettbewerb)関係に立つ

完全競争型では,州には,連邦の規律とは異なる州独特の考え方を州法律

の制定という形で実現し,各州、|それぞ、れの状況・事情への対応を図る可能性

が生まれる。この可能性を用いるか否か,別の規律を行わずに連邦の規律を

そのまま妥当させるか,もしくは,連邦と別な州法律を制定するかは,各州

立法者の費任ある政治的決定に委ねられることになる (73)。この立法類型に

属するのは,環境保護関連では,狩猟免許を除く狩猟制度や,国土計画,物

質および施設で関する規律を除く水管理等である。

この立法類型は, ドイツに特有な連邦と州との複合的立法システムを残し

つつ. EU法の圏内法化における,時間の問題を解決することを試みる類型

と整理できょう。

(3) 小結一連邦制改革への評価

2006年の基本法改正告に EU環境?去の閣内法化に係わるドイツ基本法の

EU対応という面で見た場合,そこで行われたことは,大綱的立法の廃止に

よる州の立法権限の一部縮小と,ナト!と連邦との立法権限の連邦優位的な改正

による,連邦の立法権限の一層の強化であったと整理できょう。

しかし他面で,完全競争型の競合的立法の新設により,州の独自性を生か

す方法も,限定的ながら担保された。

-51一

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法科大学院論集第9号

最後の完全競争型の競合的立法は EUからの指令の時間制限を解決しよ

うとする目論みも含んで、いた。特に.EC指令の国内法化の時間制限からして,

時間的間隙が出ないようにするという一つの工夫であった。

ここで改めて,基本法改正による立法権限の整理結果を一覧すると,そこ

では.合理性の観点、から,緊急性の高いもの,統一的に規律すべきものをい

かに連邦の立法管轄に組み込むか,という観点が見られ,また反面,従来基

本法上川に認められていた立法権限の分野に対し完全競争型の競合的立法

に関しては,最大限これを生かそうとする姿勢も見られた。

環境保護分野に係わる,連邦と州との従来なかったタイプの完全競争型の

競合的立法の実践においては,そのつみ重ねによって,個別環境法分野ごと

に,連邦の立法が優位のものと,そうでないものがわけられていくことによ

り,当該立法作用における連邦とナト比いう「二者間J関係にとどまらない。

EU.連邦,州、|という「三者間」関係における協働の形を新たに作り出す可

能性があると評価されよう。

V ドイツ環境法の発展と憲法改革

以上. 1994年以降のドイツ環境法の発展を,個別環境法の展開,環境法典

制定の進展状況. EU環境法への対応問題という 3つのテーマに着目して述

べてきた。これら全てに共通することがらは.EUから発される指令など.

EU環境法からドイツ環境法へ働く力が大変大きいものであることである。

ドイツ環境法の今日における発展は.EU環境法を原動力としているといっ

ても過言ではない。ここに.EU環境法とドイツ環境法との「協働的関係間」

を見て取ることもできるように思われる。

かかる環境法をめぐる[協働的関係」の維持において,結局ドイツは,個

別のドイツ環境法という. 1法律レベルの改正」のみならず, ドイツ基本法

の改正という.1憲法レベルでの大きな変更」を経ることになった。そこでは,

ドイツ連邦制国家に特有な,連邦と州との立法権限の改草という,統治構造

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ドイツ環境法の発展と憲法

に係わる大きな憲法改革が行われたことが特筆されよう。

このように,今日におけるドイツ環境法の研究は,ひとりドイツ環境法の

発展のトレースにとどまらない問題を内包する。それは,着々と進むEUお

よびEU法の新たな進展に伴い,地域共同体法である EU法の圏内実施のた

めの, ドイツにおけるさまざまな立法,施策や対応方法の研究であると同時

に,さらなる憲法改革を伴う可能性をもつものであり,今後とも,その動向

に目が離せない状況にあるといえるであろう。

〈註〉

(1) ミカエル・クレッパー/清野幾久子訳「ドイツ環境法の歴史J札幌法学

20-1 . 2 (2009)ー 155-290頁。

( 2 ) Michael Kloepfer・ unterMitarbeit von Claudio Franzius und Sigrid

Rein巴rt.Zur Geschichte des deutschen Umwe1trechts. (Duncker &

Humblot). 1994.

(3) Kloepfer. a.aO..S.l47.

(4 ) ドイツにおけるエコロジーの議論は複雑で錯綜しているが.rエコロジー」

中心主義と他の立場における環境保護についての理論構成の相違について,

さしあたり,浅川千尋「新たな基本法20a条をめぐ、る議論について」高田敏

先生古稀記念論集(法律文化社. 2007)所収を参照されたい。

(5) ドイツにおける原子力廃棄問題について,清野幾久子「ドイツにおける

原子力発電廃止決定の憲法問題」法律論叢76-126(2004) 79頁以下参照。

(6) 2003年6月11日ドイツの連邦通常裁判所は,再生可能エネルギ一法は基

本法と ECi去に合致するという判決を下し,同法の違法性を主張するエネル

ギー供給会社の訴訟を斥けた。また,この訴訟は,連邦憲法裁判所でも争

われ,そこでも合意性が認定された。註 (20)参照。

(7) 1994年の第42回基本法改正法律で追加。なお,基本法20a条は,国家目標

ともされている,

(8) 阿部泰隆・淡路剛久編『環境法(第三版補訂版H(有斐閣ブックス,

2006) 73頁[阿部泰隆執策]参照。

( 9 ) BGB!. 1 S. 490.

(10) Georg Lennartz rドイツ環境法とその基本原則の発展Jr環境問題の行方』

増刊ジュリスト (1999)352頁参照。

(ll) BGB!. 1 S. 730.

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法科大学院論集第9号

(12) Lennartz,前出, 352頁。

(13) Lennartz,前出, 352-353頁。

(14) BGBl. 1 S. 930.

(15) このようなオゾン法と国家の保護義務の関係につき.ディートリッヒ・

ムルスヴィーク/清野幾久子訳「環境法と基本法」法律論叢75-5・6(2003)

163-168頁参照。

(16) BVerfG (1.Kommer des Erstem Senats). Bschl. v. 29. 11. 1995.

(17) 現政権は.連立協定において, 2020年までに40%削減を目標にしている。

(18) これらの手法につき,さらに.永見靖「ドイツにおける気候保護プログ

ラム.排出量取引,環境税の動向」ジュリスト1296(2005) 68頁参照。なお,

産業界や電力業界には,排出量取引法に基づく,二酸化炭素枠の排出量取

引の制度がある。

(19) BGBl. 1 S. 305

(20) BVarfGE 110,274.

(21) Vereinbarung zwischen der Bundesregierung und den Energieversor-

gungsunternehmen vom 14. Juni 2000.この合意には,稼動中の運転制限(総

発電量と使用年限),残存期間の安全基準,再処理・廃棄物問題,原子力法

改正,雇用確保問題など原発停止後も視野に入れた多義にわたる項目が含

まれている。合意内容について, Umwelt Nr.7-8 (2000) Sonderteil m -XII参照。この合意においては,当時存していた19基の原発の稼働期間を32

年と期限付けしたのマ,原発は, 2021年には全て廃止されることになって

いた。 Vgl., Oliv巴rKlock, Der Atomaussteig im Kons巴ns-ein Pradefall

des umweltrechtlichen Kooperationsprinzips?, NuR 20m, S.1.ドイツ原子力

発電廃止決定については, r青野,註(5)参照。

(22) ここからもわかるように, ドイツの脱原発の決定は,政治決定の具体化

である。当時のドイツのエネルギ一政策と,社会民主党の原子力政策の変

選につき,首藤重幸「エネルギ一政策と原子力法制」渡辺重範編・ドイツ

ハンドブック(早稲旧大学出版会, 1997)193-213頁とりわけ203-209頁参照。

(23) 阿部,前出註 (8)73頁参照。

(24) 向上, 73-74頁。

(25) BGBl. 1 S. 205.

(26) BverfGE 93, 38

(27) 水管理法22条参照。

(28) 2006年第52回基本法改正法律による,旧75条の削除。

(29) この改正につき,樺島博志「ドイツ連邦狩猟法J季刊環境研究 (2008)

-54一

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ドイツ環境法の発展と憲法

79頁参照。

(30) 1994年の第42囲碁本法改正法律で本条を追加。

(31) 2002年の第50回基本法改正法律で.基本法20a条の末尾に「及び動物」

の部分を追加。

(32) BGB!. 1 S. 2705.

(33) Verordnung ueber die Vermeidung von Verpackungsabfallen

(Verpackungsverordnung) v.27.8.l998 (BGB!. 1 S. 2379).

(34) 2003年 l月l日実施のドイツ強制デポジット制度は,このように,包装

容器の種類によってデポジット徴収金額が決まるという構造になっている。

ドイツにおいても,近時飲料の販売において,ピン入り飲料が減少し,ペッ

トボト Jレや「缶」入りの飲料が増えてきたことは,日本と同様である。強

制デポジットは,そのような風潮をねらい打ちしたともいえる。その意味で,

今回導入された強制デポジット制度は,象徴的に「缶デポジット」

Dosenpfandとも言われている。

(35) このデポジット制度の憲法問題について,清野幾久子「ドイツにおける

飲料包装容器『強制デポジット制度』導入の憲法問題」明治大学法科大学

院開設記念論文集 (2005)85・149頁。

(36) BVerfG (1. Kammer des Ersten Senats) ,Besch!. v. 20.l2.2002.

(37) BGB!. 1 S. 2634.

(38) BGB!. 1 S. 1718ff.

(39) Verordnung (EWG) Nr.793/93 des Rates zur Bewertung und Kontrolle

der Umweltrisiken chemischer Altstoffe d.23 3. 1193.

(40) Ginzky, ZUR 2000, S, 131.山田洋「既存化学物質管理の制度設計-EU'

ドイツの現状と将来」自治研究81-9(2005) 46頁以下参照。

(41) BGB!. 1 S, 502.

(42) この点,日本の土壌汚染対策法も同じような構造をもっている。

(43) BVerfGE 102, 1.

(44) BGB!. 1 S. 1490.

(45) BGB!. 1 S. 2631.

(46) Kloepfer. a.a.O.五149.

(47) UGB・2009. この草案につき,松村弓彦「ドイツ環境法典草案研究(1)J (平成20年度環境リスク研究会報告書) ((財)化学物質評価研究機構, 2010)

13頁以下参照。

(48) BUM,lO gute Gruende fuer ein Umweltgesetzbuch (Stand:November 2007).松村,向上. 16頁。

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法科大学院論集第9号

(49) 訳語を含め,松村,向上, 30頁以下(別紙ll)による。

(50) ここでは, EU環境法として, EU条約, EC条約並びにEC立法(規則,

指令(命令),決定)を含めたものを考える。 EU環境法と,これに対する

ドイツの行政法的対応について,山田洋『ドイツ環境行政法と欧州、lH信山社,1998)を参照。

(51) V gl., Kloepfer,a.aO,.S.l48.

(52) 典型としては,連邦インミッション防止法において個別になされる施設

許可制度があるo

(53) Richtung 96/61/EG des Rats vorn 24.9.1996 ueber di色 integrierte

Verrneidung und Verrninderung der Urnweltverschrnutzung巴nABl. Nr. 1.

257 S. 26任

(54) Uwe Volkrnann, Urnweltrechliches Integrationsprinzip und

Vorhabengenehrnigung, Verw Arch 1988,363 (3660.

(55) 本稿111参照。

(56) Vgl・,ReinhardSparwasser, Rudiger Engel, Andreas Vosskuehle,

Urnweltrecht: Grundzuege des oeffentlichen Urnweltschutzr巴chts(2003)

S.l2ff.

(57) Wahl/Rehbinder, Kornpetenzproblerne bei der Urnsetzung von

europaeischen Richtlinien, NVwZ 2002, S.22‘

(58) 大綱的立法は,複雑な経過をたどりながら, 1994年の基本法改正で,

2006年改正前の条文となった。これは,連邦制をとりつつも,ナト|で決めら

れることは,州、|で決めて実施するという補完性原則を,立法権の側面で制定

したものと説明することもできる。

(59) これについては,清野幾久子「憲法と国際協調主義の展望ードイツとヨー

ロッパとの「協働的関係」からの示唆J笹川紀勝編『日本国憲法の国際協

調主義の展望』所収 (2011年発刊予定)参照。

(60) EC条約249条は, ['達成すべき結果について,これが向けられたすべての

構成国を拘束するが,方法および手段の選定については,構成国の機関の

権限に任せるJと規定している。

(61) コントラート・ヘッセ/初宿正典・赤坂幸一訳『ドイツ憲法の基本的特質J(成文堂, 2006) 154頁以下等参照。

(62) 服部高宏「連邦法律の制定と州の関与一ドイツ連邦制改革後の同意法律」

法学論叢160-3・4(2006) 135頁参照。

(63) 具体的事例として,廃棄物処理に係わるカッセル市の包装税条例につい

ての, 1993年の連邦憲法裁判所の違憲判決をあげることができる。

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ドイツ環境法の発展と憲法

BVerfGE 98,106 (51711998).本判例についての判例評釈として,清野幾久

子「カッセル市包装税条例の違憲性J(1998年5月7日ドイツ連邦憲法裁判

所第2法廷判決) (ドイツ憲法判例研究95) 自治研究77-2 (2001) 126-

134頁を参照。

(64) WahllRehbinder, a. a. 0.. 23ff.

(65) Rechtsache C-67/05 Kommission VS. Deutschland, 12 Dezember 2005.

(66) 同判決の内容につき,中西優美子「ドイツ連邦制改革と EU法一環境分

野の権限に関するドイツ基本法改正を中心に」専修法学論集100(2007),

176頁参照。

(67) 中西,同前。

(68) 2006年 8月28日の第四回基本法改正, BGBl. IS. 2031.

(69) 服部高宏「連邦法律の制定と州の関与一ドイツ連邦制改革後の同索、法律J法学論叢160-3・4(2006) 138頁。

(70) 服部.向上, 141頁の[図表3]参照。

(71) 服部,同上, 144頁。

(72) BT叩Drucksache16/813S.ll田 12.服部,向上, 147頁。

(73) 服部,向上, 147頁参照。なお,完全競争型の競合的立法に係わる連邦法

律が発効するのは,その交付後六ヶ月以降とされている (72条3項 2文)が,

これは.連邦法律からの逸脱につき,熟慮、し決定する機会をナ['1に与えるた

めである。

(74) このような,ドイツ憲法と EU法との「協働的関係」につき,清野,註 (59)

論文を参照。

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