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148 提言論文 Suggestion Paper 要 約 目 次 *1 提言論文 我が国の食と農の将来ビジョン 木附 誠一  勝本 卓   池田 佳代子  葦津 紗恵  瀬川 友史 関根 秀真  吉川 桃世  福原 弘太郎 近年、食と農を取り巻く環境は大きく変化している。世界的な食料問題として、 気候変動や水資源の枯渇などの食料生産条件の変化、食料資源由来のバイオ燃料の 増加など環境対策が必要になることの影響、さらには新興国の人口増加や食生活の 変化などの影響が先鋭化してきている。また、国内では、食料自給率の低下、農家 の後継者不足や耕作放棄地の増加など農業生産のポテンシャル減退が顕在化してい る。すなわち、施策においても食料安全保障や食料需給に係るグローバルな視点が より一層求められるとともに、国内では従来のような生産者や業界団体に軸足を置 いたものではなく、生活者視点での施策が不可欠となっている。 こうした状況において、2030 年の我が国の食と農のあるべき姿を描くにあたり、 まず食料の安定的確保と食生活に対する充足度を指数化して定量的に評価する分析 モデルを作成し、現状のトレンドで推移した場合のいわゆる“成り行きの未来”を 示した。次いで、これに対して、食の量と質の向上の観点から、それぞれのポテン シャルを高める構造改革のための施策を提言するとともに、これらの施策の実施に よって目指すべき将来への到達が期待できることを示した。 【本編】 1.日本のおかれた食農の状況 1.1 国際的な動向 1.2 国内の動向 2.生活者が望む食と農の姿 2.1 食農に関する消費者の意識 2.2 目指すべき将来への到達度の評価モデル 3.食と農の構造改革策の提言 3.1 4 つの施策による目指すべき将来への到達 3.2 提言:4 つの改革 3.3 目指すべき将来にかかる評価結果 4.おわりに 【モデル分析編】 1.食農未来分析モデル 2.現状及び成り行きの未来に係る分析結果 3.食と農の構造改革による目指すべき将来への到達 *1 本論文では、「食農共創社会」という基本理念の実現度を評価する軸として、「バランスのと れた食料を確保できる社会」及びそれを基盤にした「食の充足度が高い社会」を位置づけ、各々 の評価指標として『食農自立指数』『食の充足度』を定義した。 【モデル分析編】では、これら指標の定義・算出方法、『現状の指標値』及び『現状のまま推 移した場合の成り行きの未来(2030 年)の指標値』、さらに本編で提言する 4 つの改革を実 施することにより到達できる『目指すべき将来への到達度(指標値)』の算出結果を示している。

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Page 1: MRI | 所報 No.55 | 我が国の食と農の将来ビジョン · 148提言論文 Suggestion Paper 要 約 目 次*1 提言論文 我が国の食と農の将来ビジョン 木附

148 提言論文 Suggestion Paper

要 約

目 次*1

提言論文

我が国の食と農の将来ビジョン木附 誠一  勝本 卓   池田 佳代子  葦津 紗恵  瀬川 友史関根 秀真  吉川 桃世  福原 弘太郎  

近年、食と農を取り巻く環境は大きく変化している。世界的な食料問題として、気候変動や水資源の枯渇などの食料生産条件の変化、食料資源由来のバイオ燃料の増加など環境対策が必要になることの影響、さらには新興国の人口増加や食生活の変化などの影響が先鋭化してきている。また、国内では、食料自給率の低下、農家の後継者不足や耕作放棄地の増加など農業生産のポテンシャル減退が顕在化している。すなわち、施策においても食料安全保障や食料需給に係るグローバルな視点がより一層求められるとともに、国内では従来のような生産者や業界団体に軸足を置いたものではなく、生活者視点での施策が不可欠となっている。

こうした状況において、2030 年の我が国の食と農のあるべき姿を描くにあたり、まず食料の安定的確保と食生活に対する充足度を指数化して定量的に評価する分析モデルを作成し、現状のトレンドで推移した場合のいわゆる“成り行きの未来”を示した。次いで、これに対して、食の量と質の向上の観点から、それぞれのポテンシャルを高める構造改革のための施策を提言するとともに、これらの施策の実施によって目指すべき将来への到達が期待できることを示した。

【本編】1.日本のおかれた食農の状況 1.1 国際的な動向 1.2 国内の動向2.生活者が望む食と農の姿 2.1 食農に関する消費者の意識 2.2 目指すべき将来への到達度の評価モデル3.食と農の構造改革策の提言 3.1 4 つの施策による目指すべき将来への到達 3.2 提言:4 つの改革 3.3 目指すべき将来にかかる評価結果4.おわりに

【モデル分析編】1.食農未来分析モデル2.現状及び成り行きの未来に係る分析結果3.食と農の構造改革による目指すべき将来への到達

*1 本論文では、「食農共創社会」という基本理念の実現度を評価する軸として、「バランスのと

れた食料を確保できる社会」及びそれを基盤にした「食の充足度が高い社会」を位置づけ、各々

の評価指標として『食農自立指数』『食の充足度』を定義した。

【モデル分析編】では、これら指標の定義・算出方法、『現状の指標値』及び『現状のまま推

移した場合の成り行きの未来(2030 年)の指標値』、さらに本編で提言する4つの改革を実

施することにより到達できる『目指すべき将来への到達度(指標値)』の算出結果を示している。

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149我が国の食と農の将来ビジョン

Summary

Contents*1

Suggestion Paper

Future Vision on Food and Agriculture in Japan

Seiichi Kizuki, Taku Katsumoto, Kayoko Ikeda, Sae Ashizu, Yushi SegawaHozuma Sekine, Momoyo Yoshikawa, Kotaro Fukuhara

In recent years, the environment surrounding food and agriculture has changed dramatically. As global food problems, impacts of changes in food production conditions such as climate change and depletion of water resources, increase of biofuels derived from food resources that will require environmental measures and increase in population and change in food life in the developing countries have been increasingly manifest. Domestically, the decline in the food self-sufficiency rate and the decline in the potential for agricultural production such as the shortage of farmers7’ successors and increase in abandonment of cultivation have also increased. Therefore, in taking measures, global viewpoints on food security and demand and supply of food are now required more than ever before. Domestically, instead of conventional producers- or industrial organizations-oriented measures, measures taken from the general public's perspective are indispensable.

Under the above circumstances, in order to project the ideal image of food and agriculture for the year 2030 in our country, we first prepared an analysis model for indexing the sufficiency degree for stable food securement and food life for quantitative evaluation and showed the so-called “future-as-a-matter-of-course” on the assumption that the current trends would continue. Next, we suggested the structural reform measures, from the viewpoint of improvement of food quantity and quality, which increase the respective potentials and showed that we could expect attainment of the target future by implementing these measures.

[Main part]1.Current Situation of Food and Agriculture in Japan 1.1 International Trends 1.2 Domestic Trends2.Image of Food and Agriculture Desired by the General Public 2.1 Consumer’s Consciousness About Food and Agriculture 2.2 Evaluation Model for Attainment Degree of Target Future3.Suggestion of Structural Reform Measures for Food and Agriculture 3.1 Attainment of Target Future by Four Measures 3.2 Suggestion: Four Reforms] 3.3 Evaluation Result on Target Future4.Conclusion

[Model analysis]1.Future Analysis Model for Food and Agriculture2.Analysis Result of the Current Status and the Future-as-a-matter-of-course3.Attainment of Target Future by Structural Reform for Food and Agriculture

*1 Inthispaper,asthebasisofevaluationoftherealizationdegreeofthebasicprinciple“foodandagricultureco-creationsociety",a“societywherebalancedfoodcanbesecured"anda“societyhavingahighfoodsufficiencydegree"basedonasocietywherebalancedfoodcanbesecuredareestablishedandthe“foodandagricultureself-sufficiencyindex"andthe“foodsufficiencydegree"aredefinedastherespectiveevaluationindices.I n t h e[Modelanalysis]section,thedefinitionandcalculationmethodsoftheseindicesandthecalculationresultsofthe“currentindexvalues",“indexvaluesforfuture-as-a-matter-of-course(2030)inthecasewherethecurrentstatecontinues"andthe“attainmentdegree(indexvalue)forthetarget future"whichcanbeattainedby implementingthe fourreformssuggestedinthisreportarepresented.

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150 提言論文 Suggestion Paper

1.日本のおかれた食農の状況

1.1 国際的な動向世界的に食料問題を取り巻く環境は、以下の 3 つの要因が絡み合って大きく変化している。

■ 食料生産条件(水、土壌・農地、気象など)の変化

▼気候変動

▼水需要の増加

▼耕作地減少、他国耕作地買収

食料の計画生産の変動

■ 環境対策の影響

▼エネルギーとの競合

▼農業生産における環境負荷低減

国際的穀物相場が変動

■ 新興国(BRICsなど)の影響

▼人口増加

▼食生活の変化

▼GDPの国際的シェア低下

日本の国際的購買力が低下

第一の要因は、生産条件が大きく変化していることである。地球温暖化は農業生産に影響を与えている。必ずしもマイナス面だけとも限らないが、食料生産に大きな影響を与える気候変動(降雨や日照時間等)の予測がつきにくくなっているという点ではリスクが大きくなっている。また、都市化の進展などにより世界的に農地面積が減少している。経済成長が著しい中国の農地面積は、ここ 10 年間でおよそ 800 万 ha 以上も減少している。日本の耕地面積が 461 万 ha(2009 年)ということを考えると、その広大さがわかる。

第二の要因は、環境対策が必要になることによる影響である。食料生産において環境負荷を考慮した持続可能な生産方法がより一層求められてくる中、単に化学肥料を大量に投入して生産性を高めることや、生態系等に配慮せず、森林伐採などの開墾によって増産することに対する制約は厳しくなるであろう。また、環境対策に起因する食料とエネルギーの競合も無視できない。2007 年当時の米国のブッシュ政権当時に、トウモロコシ等食料を原料とするバイオエタノール等の大増産計画が施策として示され、食料価格の高騰を招いたのは、まだ記憶に新しい事例である。

第三の要因は、世界的な人口の増加や新興国の食生活の変化である。世界人口は 2050 年には 90 億人を超える見通しで急増しており、特に新興国の経済成長に伴い中産階級層の人口が増加するとともに、食生活が変化し肉類や水産物の需要が急増している。新興国の消費者の購買力の向上により、相対的に我が国の国際的な購買力の低下を招くことが懸念される。

今後、食料問題の解決は各国必須の課題といえ、中国・韓国や中東諸国等のように、すでに自国での生産に限界があると判断し、アフリカ等の土地を購入して海外で農地の確保に乗

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151我が国の食と農の将来ビジョン

り出すといった動きもみられる。こうした状況を考慮すると、食料需給は今後逼迫する可能性が高い。

図 1.中国の農地面積の推移

(千ha) 12年間で830万ha(日本の農地の約2倍)も減少135,000

130,000

125,000

120,000

115,000

110,000

105,000

100,000

1996年1億3,000万ha

2008年1億2,170万ha

作成:資料:中国農業部「中国農業発展報告」, 中国統計年表より三菱総合研究所

1.2 国内の動向国内の動向に目を向けてみると、いわゆる“食の川上から川下”に至るプロセスにおいて、

次に示すような状況がある。

■ 食料供給力の減退

▼農地の減少

▼担い手の高齢化、産業魅力度の低さ

▼農地の改廃

食料自給率の低下

■ 流通の非効率性

▼多段階流通による高コスト構造

▼コールドチェーンの寸断

▼食の安全安心対策が困難

▼消費者情報の伝達が困難

食に対する信頼の低下

■ 消費者の意識や行動vの変化

▼食の安全安心への関心

▼食生活の変化

▼GDPの国際的シェア低下

▼食の外部化、簡便化

▼健康意識の高まり

消費者ニーズの多様化

国内の動向:食料供給力の低下傾向と消費者動向の変化

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152 提言論文 Suggestion Paper

 我が国の農業の特徴を生産面からみると、就業者の 65 歳以上が 6 割を占める超高齢産業となっている。さらに担い手の高齢化とともに離農が進み、農業者の減少に歯止めがかからない状況である。経営耕地面積も減少の一途をたどっており、過去 20 年間で 20%以上減少している。また、農地の減少とともに耕作放棄地も増加の一途を辿っており、生産の場が急速に減少している。全国の耕作放棄地は、耕地面積全体の 1 割にも及び、農地の有効利用や地域の生活環境の保全などの面で、地域の大きな課題となっている。

図 2.経営耕地面積の推移

4,361

経営耕地総面積

4,7064,577

4,3614,120

3,734 3,693

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

4,500

5,000

1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2005年

(千ha)

作成:農林水産省「農林業センサス」をもとに三菱総合研究所

次に流通面での特徴としては、産地の出荷から消費に至る過程が多段階流通になっている点があげられる。多段階流通は、高コスト構造を引き起こしている。多段階流通の場合にはコールドチェーンを維持することが難しくなり、食品の品質管理面でもマイナス要因となる。さらには、消費者から生産者の顔が見えにくくなるため、消費者ニーズなどの情報が生産の場に届きにくくなる。

消費者については、近年多発する食品事件・事故などが起因となり、食の安全安心への関心が高まっている。また、食生活の欧米化が進展したことから、食の質が大きく変化するとともに、女性の社会進出などが契機となり、中長期的にみて外食・中食の利用も増加傾向にある。一方で、図 3 に示すように、食生活の欧米化と飽食がもたらす健康への影響増大も著しい。食生活と生活習慣の改善が望まれている中、日々の食事内容や食事方法などを気にかけるなど、健康意識の高まりも顕著になっている。

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153我が国の食と農の将来ビジョン

図 3.日本人の BMI 値の推移

14.6

29.5

35.9

32.4

29.4

25.5

11.4

14.7

20.0

10.6

23.323.3

0

5

10

15

20

25

30

35

40

20~29歳 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳 70歳以上

(%)

昭和55年度

平成20年度

19.319.3

注:BMI とは 体重(kg)÷{身長(m)×身長(m)}

作成:厚生労働省「国民健康・栄養調査」をもとに三菱総合研究所

2.生活者が望む食と農の姿

2.1 食農に関する消費者の意識食に関する消費者ニーズの多様性や食生活の状況、各国の消費者の意識の違いを把握する

とともに、後述する分析モデルのパラメータを設定することを目的として、アンケート調査を実施した。

表 1.アンケート調査概要

実施時期 2010年 7月実施

対象国 日本、英国、フランス、イタリア、米国、韓国

対象者 16〜69歳までの男女

サンプル数 日本(1,800サンプル)、海外各国(500サンプル)

分析の属性等 性別、年代別、家族構成、年収を把握し分析

(1)食事の取り方の理想と実態消費者の食事の取り方について理想と実態を聞いたところ、朝食、昼食、夕食、間食・夜

食のいずれについても、理想としては家族や恋人・友人と食べたいが、1 人で食べることが多いことがわかった。食事の際の孤食化が進む中、このような理想と実態のギャップが最も大きいのは朝食である(図 4)。

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154 提言論文 Suggestion Paper

図 4.食事の取り方の理想と実態

[問]あなたは、日頃、誰と食事をしていますか?   一週間のうち、誰と何日ぐらいかを0~7の数字で回答してください。

家族と食べる

恋人や友人と食べる

会社の同僚と食べる

一人で食べる

その他

朝食 昼食 夕食 間食・夜食

[問] あなたは、誰と食事をすることが理想ですか?    一週間のうち、誰と何日ぐらいかを0~7の数字で回答してください。

5.3 3.3 5.5 3.0

0.6 1.7 1.1 1.0

0.0 1.4 0.2 0.2

2.2 2.4 1.3 2.3

0.4 0.3 0.1 3.1

5.3 3.3 5.5 3.0

0.6 1.7 1.1 1.0

0.0 1.4 0.2 0.2

2.2 2.4 1.3 2.3

0.4 0.3 0.1 3.1

家族と食べる

恋人や友人と食べる

会社の同僚と食べる

一人で食べる

その他

朝食 昼食 夕食 間食・夜食

4.0 2.3 5.0 2.3

1.2 0.6 0.5

0.0 1.5 0.3 0.2

3.5 3.5 2.3 3.2

0.9 0.3 0.1 2.9

0.2

4.0 2.3 5.0 2.3

1.2 0.6 0.5

0.0 1.5 0.3 0.2

3.5 3.5 2.3 3.2

0.9 0.3 0.1 2.9

0.2

作成:三菱総合研究所

(2)食に対する考え方の国際比較我が国以外にも英国、フランス、イタリア、米国、韓国の消費者に対して、食に対する考

え方として、食への満足度や重要度また不安度について、それぞれの意識を確認した。食に対する満足度は、日本と韓国が低く、英国とイタリアが高い。重要度は、英国と米国が低く、他は高い。また不安度は、フランス、日本、イタリアの順に高い傾向にあることがわかった。

図 5.食に対する考え方の国際比較

51

84

26

72

55

14

67

82

32

75

86

22

65

56

16

49

83

14

0 20 40 60 80 100

満足度

重要度

不安度

「(総合)自身にとって望ましい食生活をすること」への回答比率(満足度、重要度は4または5、不安度は1または2の比率)

日本英国フランスイタリア米国韓国

(%)

作成:三菱総合研究所

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155我が国の食と農の将来ビジョン

(3)2030 年の日本の食と農に関する各種の課題・方向性に係る重要事項2030 年の我が国の食と農に関して、消費者が重要と考える事項として以下の 3 点が指摘

されている。・「食料自給率が高く、有事の際に食料が不足しないこと」・「安心して食べることのできる食品を安定して確保できること」・「農業に従事する人が充分にいて、農業が産業としての継続可能性をもっていること」 すなわち、安定した食生活の維持に対する期待が高いといえる。

図 6.2030 年の我が国の食と農に関して、消費者が重要と考える事項

[問]2030年の日本の食と農において、次の各事項は、重要な課題・方向性だと思いますか?

0.3

0.1

0.5

0.2

0.6

0.9

0.7

0.9

1.2

3.0

1.5

0.9

0.3

0.1

0.5

0.2

0.6

0.9

0.7

0.9

1.2

3.0

1.5

0.9

0 20 40 60 80 100

食料自給率が高く、有事(天候不順や疫病発生、戦争等)の際に食料が不足しないこと

安心して食べることのできる食品を安定して確保できていること

農業に従事する人が充分にいて、農業が産業としての継続可能性をもっていること

栄養的に充分な量の食料を確保できていること

複雑な食品流通を簡略化することによって、安全、安心、安価な食材供給ができるようにすること

高齢者や非介護者が質の高い生活を維持するため、さまざまな食生活支援を利用できること

農村と都市の交流が活発になり、農業体験等を通じた都市生活者の農への理解が深まること

健康な食生活に関する情報が普及し、実践しやすい環境が整うこと

食品について、誰がどこでどのように作ったものかを調べることができること

日本の食文化が海外で高い評価・尊敬を得ていること

高機能食材に関する研究が進み、簡単に健康維持ができる食品を日常的に取り入れられること

現在と同程度の多様な食材を世界各国から購入できていること

非常に重要な課題・方向性である 重要な課題・方向性である比較的重要な課題・方向性である あまり重要な課題・方向性ではない重要な課題・方向性ではない

39.4

38.8

38.3

26.7

25.3

25.2

22.0

20.1

15.9

15.5

15.2

12.2

39.4

38.8

38.3

26.7

25.3

25.2

22.0

20.1

15.9

15.5

15.2

12.2

40.9

42.6

41.3

49.3

46.3

44.2

44.9

44.9

40.7

36.8

38.8

43.1

40.9

42.6

41.3

49.3

46.3

44.2

44.9

44.9

40.7

36.8

38.8

43.1

2.6

1.4

1.8

2.4

2.9

3.9

4.4

5.3

7.8

10.2

10.0

9.2

2.6

1.4

1.8

2.4

2.9

3.9

4.4

5.3

7.8

10.2

10.0

9.2

16.8

17.1

18.1

21.3

24.9

25.9

28.0

28.8

34.4

34.4

34.4

34.7

16.8

17.1

18.1

21.3

24.9

25.9

28.0

28.8

34.4

34.4

34.4

34.7

(%)

作成:三菱総合研究所

(4)食生活における重要事項さらに、食生活において重視する事項は以下の通りである。・(食味)おいしいと思う食事をすること・(健康)栄養バランスの良い食事をすること・(安心・安全)安心で、安全な食品を食べること・(コミュニケーション)食事の時間を楽しむこと前述の安定した食生活、つまり「量の確保」だけではなく、食事の内容や取り方など「食

の質」に係るさまざまな観点を重視していることがわかる。

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156 提言論文 Suggestion Paper

図 7.食生活における重要事項

[問]次の食生活に関するさまざまな観点は、あなたにとって重要なことですか?気にしていないことですか?5段階で選択してください。

重要なことである 5 4 どちらともいえない 3 2 気にしていないことである 1

(食味)おいしいと思う食事をすること

(健康)栄養バランスの良い食事をすること

(安心・安全)安心で、安全な食品を食べること

(コミュニケーション)食事の時間を楽しむこと

(量の確保)充分な量の食料を食べること

(コスト)食事にあまりコストをかけずに済むこと

(機能性)美容や健康をサポートする成分を取ること

(バリエーション)豊富な選択肢から食事を選ぶこと

(簡便性)簡単に食事を済ませること

(総合)自身にとって望ましい食生活をすること

46.7

40.2

38.3

28.8

23.2

21.9

19.2

15.3

9.1

34.3

46.7

40.2

38.3

28.8

23.2

21.9

19.2

15.3

9.1

34.3

45.1

43.1

44.6

44.8

49.1

43.6

42.5

43.8

33.4

50.0

45.1

43.1

44.6

44.8

49.1

43.6

42.5

43.8

33.4

50.0

9.3

12.2

14.4

21.2

21.7

29.1

27.9

33.4

41.8

14.2

9.3

12.2

14.4

21.2

21.7

29.1

27.9

33.4

41.8

14.2

0.9

2.0

2.2

3.9

5.0

4.8

8.1

6.4

13.4

1.2

0.9

2.0

2.2

3.9

5.0

4.8

8.1

6.4

13.4

1.2

0.1

0.6

0.6

1.2

0.9

0.6

2.2

1.2

2.2

0.3

0 20 40 60 80 100(%)

作成:三菱総合研究所

2.2 目指すべき将来への到達度の評価モデル前述した社会トレンドから発生する、食農に対する社会ニーズや消費者の食についての意

識を踏まえ、本論文では、「食農共創社会」という基本理念の実現度を評価する軸として、「バランスのとれた食料を確保できる社会」及びそれを基盤にした「食の充足度が高い社会」を位置付けた。さらに各々についての評価指標として、頑健性を示す『食農自立指数』及び食生活の質に係る『食の充足度』を定義し、『現状』及び現状のまま推移した場合の 2030年の姿である『成り行きの未来』について指標値を試算した。その詳細については後述の

【モデル分析編】に示す。【食農自立指数】: 将来的な食の頑健性確保のためには、海外との関係強化が不可欠である。頑

健性を示す『食農自立指数』については、海外農業投資やフード・セキュリティ・ネットワークといった多国間の国際協力の仕組みなどグローバルな視点での戦略性も考慮した。また、「食料自給力」として、従来の必要エネルギー(カロリーベースの食料自給率)だけではなく、食料備蓄による確保、栄養素の PFC バランスなど多面的要因を考慮して指数化を行い評価した。

【食 の 充 足 度 】: 消費者アンケート調査結果から、「食の安全安心」「健康」「食味」「コミュニケーション」の満足度を高めるための取り組みという方向性を明確化した。

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157我が国の食と農の将来ビジョン

図 8.生活者視点での将来像

食農共創社会

バランスのとれた食料を確保できる社会

食の充足度が高い社会

現状分析及び社会動向分析より

~食農産業の持続的発展によるQOL向上~

「技術」を「価値」に転換する

▶▶食の充足度

「食料自給力」を高める

▶▶頑健性を示す食農自立指数

作成:三菱総合研究所

具体的な定義・算出方法及び試算の詳細は【モデル分析編】に譲るが、分析の結果、『食農自立指数』については、現状の指数値:71.5 ポイントが、成り行きの未来(2030 年)では 48.1 ポイントに悪化する。また、『食の充足度』についても、現状の指数値:84.8 ポイントが、成り行きの将来では 78.8 ポイントに悪化することとなった。

3.食と農の構造改革策の提言

3.1 4 つの施策による目指すべき将来への到達2 章 2 節に示したように、現状のまま推移した場合には、「食農共創社会」の実現度をは

かる指標値である『食農自立指数』『食の充足度』ともに悪化する。この流れを食い止め、目指すべき将来(成り行きの未来ではなく、将来のあるべき姿に対する意志を込めた「到達可能な将来」)に向けて、本論文では、食と農の構造改革として、以下に示す 4 つの改革を提言する。図 9 に示すように、『次世代マクロ経営マネジメント』及び『アグリフードスタイルの確立』は「食農自立指数」「食の充足度」両指標の向上に、『食農ギルド形成』は主に

「食の充足度」指標の向上に、また、『アグリフードベースの構築』はこれら 3 つの施策の下支えとしての貢献が期待できる。

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158 提言論文 Suggestion Paper

図 9.「到達可能な将来」の考え方

当社提案 概  要 効  果

次世代マクロ経営マネジメント

食農ギルド形成

食農自立指数

2030年成り行きシナリオ

アグリフードスタイルの確立

アグリフードベースの構築

異業種からの農~食サービスまでの参入を促す

食料確保(横軸)

・自給率向上17~18%・生産高度化10%・流通最適化7~8%

食の安全強化

多様な食の提供

・自給率向上7~8%・PFCバランス改善1.0

食による健康増進

食農分野の知の構造化により持続的なイノベーションを創出

充足度(縦軸)

食料確保(横軸)

充足度(縦軸)

食料確保(横軸)

充足度(縦軸)

既存生産者の経営強化策とブランド力向上

消費者のバランス食、ロス削減

上記3つの施策の下支え

食の充足度

到達可能な将来

2030年成り行きシナリオ

作成:三菱総合研究所

3.2 提言:4 つの改革(1)次世代マクロ経営マネジメント①概要

現在の農業生産は、兼業農家による零細・小規模の経営体が多く存在しており、経営状態の変動リスクへの対応が不十分である。また、経営規模が小さいため、大規模な投資や合理化が難しく、調達や出荷における価格交渉力や安定性に乏しい。加工や販売といった、他の産業への多角化も難しい状況である。

こうした状況に対して、大規模な経営体による事業展開を推進する必要がある。すなわち、生産から販売までのバリューチェーン全体を手がけるマクロ経営により、競争

力を強化することが重要となる。これにより、従来的な生産基盤維持策からバリューチェーン統合による生産基盤高度活用型への転換も促進される。

ここで規模とは経営規模であり、必ずしも生産規模を指すものではないが、多くのマクロ経営体は、生産規模についても一定以上の規模となっていることが必要とされる。

経営規模が大きいために、さまざまな合理化を図ることが可能となる。具体的には、大規模かつ計画的な生産が可能となり、資材調達や出荷における価格交渉力、中長期契約や需給調整による安定性などを追及できる。また、投資力を生かし、ロボット等の高度機械や ITの導入、高機能食品やブランド食品の開発など、効率化と高付加価値化を図るための投資が可能となる。生産・加工・販売の一体化等の経営の多角化・高度化により、さらなる効率化、高付加価値化が達成される。

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159我が国の食と農の将来ビジョン

図 10.次世代マクロ経営マネジメントの概要

次世代マクロ経営に係る施策・取り組み 分散地の集積・流動化施策 高効率な生産技術の導入策(IT、ロボット等) 高度なマネジメント人材育成策 卸売市場の再構築 海外農業投資 …など

国内生産力の維持

海外輸入の安定化

流通効率化

次世代マクロ経営(事業主体例:大手食品製造業者、中食・外食業者、流通業者、商社等)

認定農業者

生産者 生産者

農業法人

農業法人

農業法人生産者生産者

集落営農組織

認定農業者

認定農業者

加工・製造

販売・

サービス流通

作成:三菱総合研究所

②重要な施策●“農地の所有から利用”に向けた土地利用政策が求められる。地権者側の貸し出し意思の

妨げにならないように配慮しながらも、借主側の権利の安定性にも配慮した施策が必要とされる。

●日本の農地の特性上、農地の集積は比較的容易であっても、農地の面的な集約は容易ではなく、地域横断的に分散する農地を管理するマネジメント手法の導入が重要である。

●マクロ経営を担う主体としては、中食・外食、食品製造、流通業界等、異業種からの参入が有望であり、こうした参入を促進する施策が重要である。農業経営基盤強化促進法の改正による農業参入形態の緩和、農業生産法人への出資比率の緩和など、自治体支援での参入促進が有効と考えられる。

●食・農分野においては、マクロ経営体の経営を担える人材は、現在は限定的である。そのスキル育成も個人に依存しているため、育成の仕組みを作る必要がある。

●既存の多段階の流通システムを再編し、コールドチェーン対策や食に係る情報の流れをスムーズにする。これにより、流通コストの低減や消費者とのコミュニケーションの向上が期待される。

●生産現場へのロボット等の高度機械や IT の導入については、さまざまな研究開発事例や試行事例はあるものの、多くは未だ萌芽段階にある。また、実際の導入のための運用基盤やビジネスモデルが十分に練られてはいないため、研究開発や実証実験を進めることで現場に導入可能な水準まで高めていくことが求められる。

●組織的なマクロ経営の発露としては、国内のみにとどまらず、海外での農業生産、加工や日本を含めたグローバルマーケットを対象にした輸出など、海外農業投資によるグローバルな展開も視野に入れた事業展開が期待される。

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160 提言論文 Suggestion Paper

(2)食農ギルドの形成①概要

食農ギルドとは、企業・経営体が有機的水平連携によって、同分野における共通課題の最小化及び共通メリットの最大化を実現する、いわゆるギルド的なビジネスモデルを指す。

食農ギルド形成の必要性は、次世代マクロ経営の必要性と同一の課題を出発点とするが、大手量販店、商社などが農業事業体を統括・マネジメントする次世代マクロ経営とは異なり、ポリシーを同じくする農業事業体同士が課題を共有し弱みを最小化し、協業することで個々の特長や利益を最大化するものである。

現在の農業法人(1 万件)、認定農業者(24 万件)、集落営農組織(1 万件)などの大部分は、前述の「次世代マクロ経営」ではなく、食農ギルド形成による構造転換を目指す。

協業による効果は、資材等の共同購入、経営ツールの共通化・標準化による生産性向上だけでなく、ブランド形成による付加価値向上も期待される。

また、地域内での協業の他、地域横断的なギルド形成も可能である。

図 11.食農ギルド形成の概要

農業法人認定農業者

農業法人

農業法人

食農ギルドの形成

【食農ギルド形成のイメージ】

集落営農組織

生産者 生産者

生産者 生産者

認定農業者

認定農業者

卸売業者

商社

JA

小売業者

食品製造業者 加工業者

外食企業中食企業

取引先の事業者

【事業手法の例】経営ポリシーの同調による協業経営ツールの共通化、標準化資材等の共同購入ブランディングによる付加価値向上

安全・安心+健康+食味安全・安心+健康+食味

生産技術基盤生産技術基盤

食農ギルド形成に係る施策・取り組み枠組み形成、人材育成技術に裏打ちされた魅力的な地域食品や農産物の創出、ブランド構築食農ファンド設立…など

作成:三菱総合研究所

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161我が国の食と農の将来ビジョン

②重要な施策●食農ギルドの形成:個々の強みを発揮した食農ギルドのあり方としては、環境保全型農業

ギルド、植物工場ギルド、地域食品ギルド、観光農園ギルド等、様々なタイプのギルド形成があげられる。地域内での協業の他、地域横断的なギルド形成も可能である。行政においては、これらの協業相手のマッチングの場を提供していく。

●リスクマネジメント手法の確立:協業する事業者間、協定を結ぶ地域間でのリスクマネジメント手法の導入が重要である。たとえば農業生産工程管理(GAP)の導入により、安全性向上に加えて品質管理や効率化を目指すこと等が考えられる。

●食農ギルド組織の法人化:農業法人や認定農業者同士の協定では、適時の積極的な意思決定が困難である。兼業農家を主体とする JA 組織とは異なる専門農協等の形態を通じてギルド組織を設立し、意思決定機能の強化を図る。また、現行の農業経営基盤強化促進法では、特定地域における単独の営農が前提となっている。地域横断的なギルド組織の設立を促進するためには法改正が必要である。

●事業多角化:食農ギルドは、個々の経営体は、次世代マクロ経営のような強い経営基盤に立脚しないため、流通・加工・販売事業への進出には時間を要するが、中長期的には、取引関係者との間でより有利な取引を実現させるため、生産・流通・加工・販売の一体的なシステム化を目指す(例:地域食品ギルド、観光農園ギルド)。

●金融支援:新規参入した大手資本を核とする次世代マクロ経営とは異なり、食農ギルドは小規模経営体の協業体であり、新規事業立ち上げに際しては金融支援による財務基盤の強化が必要となる。

(3)日本型アグリ・フード・スタイルの確立・展開①概要

都市型の生活者の間で食生活の欧米化が進んだ要因は、単に選択肢が多様化したということだけではなく、忙しい都市生活者の生活スタイルに合致した「簡便に食事をすることのできる食品・関連サービス」が発展しており、これが日本にも提供されたことも一因と考えられる。

一方で、欧米型の食生活は、従来の日本食に比べ動物性の脂肪が多く含まれるなど、メタボや糖尿病などの生活習慣病の増加要因になっている。

日本人の体質にあった従来の日本食の栄養バランスや、季節の食材を取り入れた豊かな食のイメージに合致した日本型食生活を「都市型生活者」や「核家族化した高齢者」のライフスタイルの中でも取り入れやすいように商品開発、サービス展開を行うことにより、持続可能で豊かな食生活が国内で根付いていくことが求められる。

こうしたスタイルを新世代の日本型アグリ・フード・スタイルとして発信していくことにより、海外にも日本の農産品、食生活スタイルを取り入れた商品・サービスを展開し、新たな日本の食農産業として育成することが可能となる。

ここで提案する「日本型アグリ・フード・スタイル」とは、健康維持に寄与する栄養バランスと自然共生型の農の考え方を基調としつつも、現代のライフスタイルに合致した食農の在り方(スタイル)である。

従来からの日本食の多様な食材、調理法を生かし、これまでに指摘されている動物性脂肪

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162 提言論文 Suggestion Paper

の取りすぎ予防、ビタミンやミネラルの摂取以外にも、医学的な観点からも研究を進め、健康維持に寄与する栄養バランスとおいしさの両立、ライフスタイルに合致した新世代にふさわしいメニューを提案する。

また、従来から日本食が持つ、自然の恵みをいただくという発想に拠る自然共生型の農産物を見直すなど、持続可能な農を再考する。短期的な効率性や価格優位のみに限定した農産物価値から、自然共生の価値を都市生活者と共有し、ライフスタイルとの共存を希求する。

さらに、これらにより構築されたスタイルを、国内のみならず、海外にも発信可能なコンテンツとして展開するとともに、関連技術・ノウハウや商品・サービスの国内外への戦略的展開を促進する。

図 12.日本型アグリ・フード・スタイルの確立・展開の概要

日本型アグリ・フード・スタイルの構築・展開国内外に訴求可能なように、日本型食生活が持つ健康増進・環境共生・コミュニケーションの要素を活かして、新世代の日本型スタイルを確立し、情報を整備・発信するとともに、実践をサポートする

商品・サービス市場を育成

関連する技術・ノウハウ(日本型アグリ・フード・スタイルをサポートする中食・

外食等フードサービス)

我が国の食農産業の市場拡大、すそ野の広がり(国内外への展開)

栄養バランス 食農の近接化健康増進

コミュニケーション環境共生

トレーサビリティ、安全管理技術の促進

機能性食品等の生産・製造

食育・食生活改善、食生活でのコミュニケーション

食農の近接化、環境配慮等によるロス削減…など

関連する付加価値商品(個々人の健康状態により異なる配慮事項(栄養バランス・含有成分)に対応した加工食品・情報提供サービス)

日本型アグリフードスタイルの確立に係る施策・取り組み

コミュニケーション

安全・安心+健康+食味

環境配慮型食生活

作成:三菱総合研究所

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163我が国の食と農の将来ビジョン

②重要な施策●心身の健康維持と食の栄養バランス、もしくは、「食の楽しみ」や「食も含む生活スタイ

ル」などの関係について、総合的・実証的な研究は行われていない。科学的に実証可能な形で、日本型の食の健康優位性を客観的にわかりやすく伝えられる研究・データ分析などによって体系化するとともに、食生活の改善が求められる。

● HACCP システムやトレーサビリティシステムを含めた、食の安全安心に係る安全管理技術の導入を促進する。

●海外に向けて情報を発信するにあたり、必要となる現地の食生活と健康に関する問題意識や、食生活実態を理解した上で、日本食に関する情報を体系化する。さらに農産物に含有される機能性成分の活用など、我が国の科学技術を生かした食品の生産・製造を促進する。

●国内において、人口の大半を占める都市生活者と農村との間には複雑な流通システムを解消し、季節のものを取り入れた食生活等、生活者との連携による自然共生的な農の重要性が充分に理解されやすいシステムにする。

(4)アグリ・フード・ベースの構築・展開①概要

食農産業の進展において必要となる地域資源(農産物等の生産、技術、人材等)は分散・単独化しており、事業者による産業活動への活用や有機的な連携によるシナジー効果の発揮等に結実していない。こうした食農産業に係るさまざまな地域資源を有効活用し、産業としての持続的・自立的に発展させるための価値基盤が必要とされる。

食農産業における持続可能なイノベーション基盤では、従来の地産地消等を目的とした「地域」に偏重した取り組みではなく、上述の根源的課題を解決するために必要な「機能」に着目した。各機能を連携させることで、食農産業に係る事業者の活動に必要となる多様な価値情報を、実用面を意識して体系的に集積するなど「知の構造化」が推進する。

さらに、これらの機能の連携において重要となるのが「目利き機能」である。研究・技術開発機能において提供される優位性の高い技術について、マーケティング戦略にもとづき商品・サービスの高付加価値を創出。技術を効果的に価値転換するなど、「知の実体化」を推進する。

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164 提言論文 Suggestion Paper

図 13.アグリ・フード・ベースの構築・展開

地域の良質な食材を生産・供給する。• 農業法人• 大規模生産者• 集落営農 …等

生産・出荷機能

製造・商品化機能素材の特長を活かした高付加価値の商品をつくる。• 食品製造業者• 外食・中食業者 …等

マーケティング機能生活者視点で魅力ある商品づくりを推進する。• 流通業者• 宅配・通販業者• 直売所 …等

コミュニケーション機能商品・サービスや取組等に関して多様なステークホルダーと双方向でのコミュニケーションを深める。

食と農に関する「機能」を連携・集積し、イノベーションによる産業創出・活性化

生活者への貢献

共働きで子育てをする家庭

一人でも独立した生活を望む高齢者

アジアの各地で生活する日本人

観光で日本を訪れる外国人

アレルギー・成人病等健康に課題を抱える人々

農業との関わりを深めたい人々

気候変動による農業環境変化への対応

人口急増する諸外国での食糧確保

課題解決先進国としての多様なソリューションの展開

「技術」を「価値」に転換する

“目利き機能”

研究・技術開発機能技術を基軸にしたイノベーションを創出する。• 公設研究機関• 大学• 企業の研究所 …等

基盤としての「アグリ・フード・ベース」の提唱 ICTを活用した情報・技術共有基盤の構築 食農産業に資する業界標準、規格化の確立・普及 実効性の高い事業マネジメント手法の構築・普及 消費者とのコミュニケーションシステムの構築 …など

知の構造化知の構造化

知の実体化知の実体化

作成:三菱総合研究所

②重要な施策●主に研究・技術開発機能に関係する機関の研究成果を有効活用する仕組みや、民間企業や

消費者などの市場の実需を十分に反映する産官学連携の実施スキームの構築。●地方自治体における地域資源の把握と地方自治体間の需給を結びつけるのに必要な情報共

有基盤の構築。地域の農産物等の生産、技術、人材等に係るリソースデータベースや消費者とのコミュニケーションを促進する仕組みづくりなど、ICT を活用した情報共有基盤の構築。

●各事業者の利益主導による部分最適化ではなく、俯瞰的・中長期的な視座で持続的にイノベーションを創出するような産官学連携による次世代型農業ビジネスモデルの具現化。

●連携する他の事業主体との目標の共有、PDCA によるモニタリングなど実効性の高い事業マネジメント手法の構築。

3.3 目指すべき将来にかかる評価結果グローバルな視点に立脚し、生活者の目線で何が求められているかを咀嚼した上で、網羅

的ではなく実効性の高い施策に取り組むことが重要である。3 章 2 節に示した 4 つの改革を実行することで、目指すべき将来への到達が期待できる。

後述の【モデル分析編】の 3 章に示すように、『食の頑健性(食農自立指数)』については、食生活の改善、食品ロスの低減、流通システムの最適化による自給率の向上等が促進さ

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165我が国の食と農の将来ビジョン

れ、104.3 ポイントに向上し、食の量の確保として「自立」を示す食農自立指数 100 以上に到達することが可能となる。

また、『食の充足度』は、生活者視点での食の安全・安心、健康、おいしさ(食味)、コミュニケーションといった、食生活やライフスタイルに直結する重視点に集約的に取り組むことで、86.3 ポイントとなり、現状以上のレベルを維持することが可能となる。

今回提案した施策と評価手法を活用し、今後の取組とその成果に対してモニタリングするとともに PDCA を導入することで、我が国の食と農に係る「成り行きの未来」ではなく「目指すべき将来」を具現化することが期待される。

図 14.目指すべき将来に係る評価結果

40 60 80

80

85

90

頑健性を示す食農自立指数100

95

フランス(現在)

イギリス(現在)

米国(現在)

韓国(現在)

食の充足度

イタリア(現在)

日本(現状)(71.5, 84.8)

日本(成り行き)(48.1, 78.8)

日本(到達可能な将来)(104.3, 86.3)

※ 米国と韓国については、食農自立指数に関するデータが得られなかったため、充足度のみ算出。

■ 食農自立指数:「自立」を示す100以上へ■ 食の充足度:重視点を改善し現状以上

作成:三菱総合研究所

4.おわりに食のボーダレス化が進展する中、「グローバルの視点において、中長期的スパンで、産業

として、どのように持続的に展開していくか」というビジョンが不可欠である。本論文では、我が国の食と農が抱える問題を明らかにするとともに、独自に構築した手法により、可能な限り客観的かつ定量的に分析を行った。また、現状の延長線上にある「成り行きの将来」に対して、将来に対する意志を込めた目指すべき姿の実現に向け、必要とされる施策について提言した。今後、産官学と生活者を巻き込んだ取り組みを活性化させ、実現に向けた効果的なアクションをとるとともに、今回提案した分析に係るデータの蓄積と手法の精緻化を図り、取り組みに対して PDCA による検証・改善とモニタリングを実施していくことが課題とされる。

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166 提言論文 Suggestion Paper

【モデル分析編】

1.食農未来分析モデル本編で述べたとおり、我が国の食と農の将来のあるべき姿として「バランスのとれた食料

を確保できる社会」及び「食の充足度が高い社会」を目標とした。本論文では、それぞれの評価指標として、頑健性を示す『食農自立指数』及び『食の充足度』を設定し、以下のとおり定義した。

1.1 食農自立指数食農自立指数とは、「食料の供給可能量(カロリー換算)に、1 人当たり摂取カロリー及

び栄養バランスの充足度を考慮して、頑健性を示す」指標であり、以下の計算方法により算出する。

図 1.食農自立指数の算出方法

食料供給可能量

国全体でどれくらいの食料が供給可能か(国内生産・輸入・備蓄 カロリーベース)

摂取カロリー充足度

国民1人当たりの摂取カロリーは十分か?

(0~1の係数)

栄養バランスがどれくらい充足しているか?

(0~1の係数)

栄養バランス充足度

頑健性を示す食農自立指数

作成:三菱総合研究所

【従来の食料自給率と異なる点】> 国内生産だけではなく、輸入・備蓄も考慮。> 輸入に関しては、輸入先の国ごとに変動係数を用いることで頑健性を考慮。> 一人当たり供給カロリーが十分な水準を満たしているかを考慮。> 栄養バランスがどの程度充足しているかを考慮。

■食料供給可能量「どれぐらいの食料が供給可能か?」国内生産量について、カロリーベース食料自給率の値を用いる。

・輸入量> 主要輸入品目 ( 小麦・食用植物油・食肉類等)ごとに、カロリーベースで輸入量を算出する。> 品目ごとに輸入元となる国の頑健性を示す係数(過去 10 年における輸出量の変動係数を

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167我が国の食と農の将来ビジョン

元に算出)を掛けて、総和を計算する。・備蓄量> 米や小麦、大豆等の備蓄分について、カロリーベースで値を算出する。仮に輸入が止まっ

たとしてもこれら備蓄によって代替可能であると見做し、その分だけは頑健であるとして、備蓄量を国内生産量、輸入量に加算する。例えば現在、日本はコメを 1.5 カ月分(約100 万トン)、小麦を 2.3 カ月分(約 120 万トン)、食用大豆を 0.5 カ月分(約 3 万トン)備蓄しており、これによって輸入小麦約 220 万トン、及び輸入大豆約 3 万トンを代替することが可能。カロリー換算で 5.4% 相当。

■摂取カロリー充足度:「1 人当たり摂取カロリーは十分か?」> 満たされるべき 1 日 1 人当たり摂取カロリーを 1800kcal として、充足率を計算する。

以下の計算式を採用する。     摂取カロリー充足度 = 国民 1 人当たり 1 日摂取カロリー/ 1800 なお、摂取カロリーが 1800kcal 以上の場合は、係数は 1.0 とする。■栄養バランス充足度:「栄養素のバランスがどれくらい取れているか?」> PFC バランスをもとに栄養バランス指数を算出する。・理想的な栄養バランス(カロリー比率):Protein15%, Fat:25%, Carbohydrate:60%

以下の計算式を採用する。 栄養バランス充足度 = 1 −(タンパク質、脂質、炭水化物の理想からの乖離度の平均値)

1.2 食の充足度食の充足度については、アンケート結果を活用し、以下の項目の回答結果から算出した。

【質問内容】(注:Q1、2、4 は、アンケートでの質問番号)Q1:現状の食生活に関してあなたは満足していますか?不満足ですか?Q2:Q1 の項目はあなたにとって重要ですか?気にしていないことですか?Q4:2030 年の食生活に関して、あなたは不安を持っていますか?安心していますか?

【設定項目】 5 段階評価( 安心・安全 ) 安心で、安全な食品を食べること( 簡 便 性 ) 簡単に食事を済ませること( 健 康 ) 栄養バランスの良い食事をすること( 食 味 ) おいしいと思う食事をすること( 機 能 性 ) 美容や健康をサポートする成分を取ること( バリエーション ) 豊富な選択肢から食事を選ぶこと( コミュニケーション) 食事の時間を楽しむこと( コ ス ト ) 食事にあまりコストをかけずに済むこと

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168 提言論文 Suggestion Paper

【現在】の食の充足度算出方法現状の満足度(Q1)と重要度(Q2)の重ね合わせから算出した。

図 2.食の充足度算出方法

N(回答者数)

重要度のヒストグラム

満足度のヒストグラム

重要度の面積重複面積充足度=

作成:三菱総合研究所

2.現状及び成り行きの未来に係る分析結果1 章に示した計算方法により、「現状」及び現状のまま推移した場合の「成り行きの未来

(2030 年)」について試算した結果は以下のとおりである。

2.1 食農自立指数人口の自然減、少子高齢化による需要減があるものの、食の西洋化・簡便化傾向が続くこ

とで輸入食料への依存傾向は続き、食品ロスも依然として減らない。また、現状のトレンドで担い手・農地面積が減少していくことで国内供給力も減退していき、カロリーベース自給率は 34.0% まで低下する。

1 人当たり摂取カロリーについては、今後も十分に量が確保できる(高齢化の進展に伴って微減する)(1.0 ポイント)。また PFC バランスについては、食の簡便化・外食依存が進む一方で食事内容への関心や健康志向はさほど高まらず、コメの消費が若干増大するとはいえ、全体として現状のトレンドに沿って悪化する(現状 0.90 ⇒成り行きの未来 0.81 ポイント)。

食料輸入量は若干減少するが、新興国の需要増大や気候変動の影響等のため、輸入先からの安定的調達が困難となる(現状 33.1 ⇒成り行きの未来 20.0%)。また、備蓄については、現在の水準(コメ 1.5 ヶ月分、小麦 2.3 カ月分等)がそのまま維持されるとする(5.4%)。

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169我が国の食と農の将来ビジョン

図 3.現状及び成り行きの未来における食農自立指数

成り行きの未来

現状

▶ 食生活の欧米化が更に進み、PFCバランスが悪化(0.81)

▶現状のPFCバランス (0.90)

・カロリーベース自給率34%まで低下

・現状のカロリーベース自給率

・安定的空輸が困難となる

・頑健性を考慮した現状の輸入量

・備蓄は変化なし

国内生産(34.0)

国内生産(40.9)

輸入(20.0)

輸入(33.1)

備蓄(5.4)

・現状の備蓄水準備蓄(5.4)

(34.0+20.0+5.4)×1.0×0.81=48.1

(40.9+33.1+5.4)×1.0×0.90=71.5

・供給力の減退・消費構造の悪化

・人口減少・少子高齢化

-16.9

+10

いずれの場合も、国民全員が十分なカロリー(180kcal/day以上)を摂取することが可能

→いずれも係数1.0を掛ける(変化なし)

作成:三菱総合研究所

2.2 食の充足度「成り行きの未来」については、現状の満足度(Q1)に将来に対する安心度(Q4)を付

加して、重要度(Q2)との重ねあわせから算出した。・現状:Q1 × Q2・将来:(Q1 を Q4 で加工)× Q2Q4 で「不安である」「やや不安である」と回答した回答者の満足度を、1 ランク下げる。

安心 やや安心 どちらともいえない やや不安 不安

将来の満足度は現在と変わらず

将来の満足度は現在と変わらず

将来の満足度は現在と変わらず

将来の満足度は現在から1つ下がる

将来の満足度は現在から1つ下がる

重要度と満足度との重ね合わせにより算出

現在に対して、成り行きの未来における食の充足度は、4 つの指標すべてにおいて減少する結果となった。特に食の安全・安心に係る低下が著しい。

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170 提言論文 Suggestion Paper

表 1.わが国の食の充足度(現在と成り行き未来)

日本(現在) 日本(成り行き)

安心・安全 84.9% 76.2%

健康 80.9% 74.8%

食味 86.8% 82.2%

コミュニケーション 86.8% 81.8%

平均 84.8% 78.8%

70.0%

80.0%

90.0%

70.0%

80.0%

90.0%

安心・安全

健康

食味

コミュニケーション

日本(現在) 日本(成り行き)

作成:三菱総合研究所

3.食と農の構造改革による目指すべき将来への到達以下では、本編で提言する 4 つの施策を実行することによって指標値がどのように変化す

るのか、すなわち『食と農の構造改革による目指すべき将来への到達度』としての指標値変化を試算した。

3.1 食農自立指数人口の自然減や少子高齢化に加え、食生活の改善、食品ロスの減少等の消費構造の改善、

流通システムの最適化、農業法人の増大や農地集積、技術革新による生産性向上等の取り組みによって、カロリーベース食料自給率を 65% まで増大させることを目指す。

日本型アグリ・フード・スタイルの確立等によって人々の食への関心を高めることで、食生活が改善されて PFC バランスを理想に近い形とすることを目指す。なお、高齢化に伴って 1 人当たり摂取カロリーは現在に比べ微減する。ともに 1.0 ポイントで、1.0 x 1.0 = 1.0ポイント(最大値)を目指す。

「食の充足度」として採用

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171我が国の食と農の将来ビジョン

食料確保を念頭に置いた対外農業支援、日本企業の海外での農業生産展開を促進する。約200 万ヘクタールの海外農地から、安定的な輸入を行うことを目指す(25%)。また、スイスの事例(国家が小麦 6 カ月分を常備)をモデルとして、戦略的にコメを 6 カ月分、小麦を3 カ月分備蓄して頑健性を高め、貧困国への食料援助にも活用する(14.3%)。

図 4.目指すべき将来における食農自立指数の向上

現状

目指すべき将来

▶現状のPFCバランス (0.90)

(40.9+33.1+5.4)×1.0×0.90=71.5

(65.0+25.0+14.3)×1.0×1.0=104.3

・人口減少・少子高齢化・食生活の改善・食品ロスの減少・流通システムの最適化

+10+5~8+4~5+2~3

いずれの場合も国民全員が十分なカロリー(1800cal/day以上)を摂取することが可能

→いずれも係数1.0を掛ける(変化なし)

・現状のカロリーベース自給率

・上記取り組みによって、カロリーベース支給率を65%まで上昇させる

・頑健性を考慮した現状の輸入量

国内生産(40.9)

国内生産(65.0)

輸入(33.1)

海外農地確保等を進めて、より頑健な輸入を目指す

(輸入量自体は減少)

・米及び小麦等の備蓄水準を高める

輸入(25.0) 備蓄(14.3)

・現状の備蓄水準

備蓄(5.4)

▶食への関心を高める  ことで、理想的PFC  バランスを実現する (1.0)

作成:三菱総合研究所

3.2 食の充足度「成り行きの将来」において存在する「不満」「やや不満」という回答者が、目指すべき

将来ではいなくなるものと想定し、目指すべき将来における『食の充足度』を算出した。

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172 提言論文 Suggestion Paper

表 2.目指すべき将来における食の充足度の向上

日本(成り行き) 日本(目指す)

安心・安全 76.2% 84.7%

健康 74.8% 83.5%

食味 82.2% 87.0%

コミュニケーション 81.8% 90.2%

平均 78.8% 86.3%

安心・安全

健康

食味

コミュニケーション

成り行きの将来 目指す将来

70.0%

80.0%

90.0%

70.0%

80.0%

90.0%

作成:三菱総合研究所

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