na2co3 還元糖の定量法 - j-stage home
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〔連載講座〕
還 元 糖 の 定 量 法
II
福 井 作 蔵
東京大学応用微生物研究所
II.鉄 試 薬(フ ェ リサ イ ア ナ イ ド,ferricyanide)
に よ る還 元 糖 の 定 量
アル カ リ性 下 でferricyanide(Fe+++)が 糖 の カ ー ボ
ニ ル基 に よ り還 元 されferrocyanide(Fe++)に な る反 応
を基 本 反 応 と した も の で,滴 定 法(Hanes法)お よび
比色 法(Park-Johnson法)が あ る.歴 史 的 に はHage-
dorn-Jensen*(1923~24)が 血糖 定 量 法 と してferri-
cyanideを 用 い る原 法 を 示 し,Hanes**(1929)が 現 在
の 滴 定 法 に 改 良 した.一 方,比 色 法 へ の誘 導 はFolinお
よびMalmros***(1929)やParkお よびJohnson****
(1949)に よ り,ferrocyanideをPrussian blueと し
て比 色 す る こ とに よっ て果 た され た.こ こに 適 用 され て
い る基 本 反 応 は,存 在 す る糖 量 と比 例 性 を示 す け れ ど も
定 量 性 は な い の で,銅 試 薬 を 用 い る場 合 と 同 じ く,定 量
値 は検 量 曲線 か ら算 定 しな くて は な らな い.ま た,こ の
基 本 反 応 は,遊 離 カ ー ボ ニル 基 に対 す る も の で,結 合 型
の糖 ・カ ー ボ ニ ルの 定 量 に は,あ らか じめ 水 解 す る 要 が
あ る.
滴 定 法(Hanes法)
アルカ リ性煮 沸条件下 で行 な う本法の基本反応の進行
は,上記 した ように存在糖量 と比例性 を示すので,反 応後
残存す るferricyanideを 定 量すれば,存 在 した糖量 と
の相関曲線す なわ ち 検量 曲線が 得 られ る.Hanes法 に
おける定量操作中の化学反応は次の ように要約 されるの
で,こ れ らに若干の解説 を加えてみ よう.
〔反 応〕
(1) K3Fe(CN)6+還 元糖Na2CO3
K4Fe(CN)6
(2) 2K3Fe(CN)6+2KIacetic acid
2K4Fe(CN)6+I2
(3) 2K4Fe(CN)6+3ZnSO4K2Zn3[Fe(CN)6]2↓+3K2SO4
(4) I2+2Na2S2O3 Na2S4O6+2NaI
〔試 薬〕
a) アル カリ性ferricyanide液 …ferricyanide(K3Fe
(CN)6)8.25g,無 水炭酸 ソーダ10.6gを1lの 蒸
留水に とかす.着 色瓶保存.
b) ヨウ度 カ リ硫酸亜鉛液 … ヨウ度 カリ12.5g,硫 酸亜
鉛25g,食 塩125gを 蒸留水に とかし500mlと す
る.貯 蔵 中に次第にI2を 遊離す るか ら2枚 の濾 紙を
通 してか ら用い る.
c) 酢酸液 …氷酢酸5mlを 蒸留水で100mlに 希釈す
る.
d) N/100チ オ硫酸 ソーダ液 … 結晶Na2S2O3・5H2O
2.48gを1lと す る.
e) 1%可 溶 性デンプン指示薬.
径の大 きい試験 管(た とえば30×200mm)に 試薬a
5mlと 試料5mlと をと り,キ ャ ップを して液層約10
cmの 沸騰水浴中に15分 保 って後流水 で冷却,次 いで試
薬bお よびcを それぞれ5mlと3mlず つ速やかに加
え,直 ちにN/100チ オ硫酸 ソーダで滴定する.試 薬bお
よびcの 添加は反応(2)を右へ完全かつ速 やかに進行 させ
るためで,ferrocyanideはK2Zn3[Fe(CN)6]2の 沈殿 と
して反 応系外に のぞかれ る.反 応(2)で生 じるI2は 残存
ferricyanide量 に相 当す るか ら,チ オ硫酸 ソー ダの滴定
量の盲検か らの差 が 消費ferricyanide量 に相当 し,試
料中の糖 量に対応す る ものである.
次に本定量法 の長短所(特 徴 とい うべ きか)に ついて
のべ よう.(1)生 成ferrocyanideを 定量す るのに 残
存ferricyanideを 定量 し,差 し引 き しな くてはな らな
い.そ の うえに定量す るまでに4つ の反応 を経なければ
ならない点は,原 則的に面白 くない.し か しHanesの
実験結果は,き わめて再 現性 の高いことを示 してい るの
で,経 験的に納得せざるをえないであろ う.(2)糖 に よ
って,た とえば単糖類 と2糖 類に よって,そ れ ぞれ のカ
ーボニル基 は アルカ リ性ferricyanideに 対 し異な った
responseを 示す ので,定 量 しよ うとす る糖につい てそ
れぞれ検量 曲線 を画か な くてはな らない.0.0129Nfer-
ricyanide 1mlの 消費はグル コース0.42mgに マル ト
ース0.52mgに 相当す るとい う,Hanesの 実験結 果は
このことを明示 している.(3)本 法の基本反 応は反 応
液中の溶存酸 素で影響 を うけに くい ことで,よ い意味の
*Hagedorn-Jensen: Biochem . Z., 135, 46 (1923).
137, 92 (1923), 140, 538 (1924).**C . S. Hanes: Biochem. J. (London), 23, 99 (1929).***O . Folin, H. Malmros: J. Biol. Chem., 83, 115
(1929).****J . T. Park, M. J. Johnson: J. Biol. Chem.,181,
149 (1949).
36 (484) 化 学 と 生 物
特徴 である.銅 試薬 を用い る場合は,反 応液中に酸素を
飽 和 させたときと,ま った くのぞいた ときとで得 られる
還 元値 に約25%の 差が生 じるといわれ,こ れは生成 し
たCu2Oが 溶存酸 素で2CuOに 再酸化 され るためである.
したがって,本 法において径の大 きい試験管を使用する
のは,単 に滴定 を便利にす るためであ り,直 径の大 きさ
の統一 は要 しない.ま た加熱時間(鉄 試薬 との)は 一 応
15分 を基準 とす るが,多 少のずれが あ って も 差 しつか
えないのは,基 本反応の酸素に対す る不感性が もとにな
ってい るのか もしれない.(4)測 定範 囲が200~4,000γ
(グル コース)で,割 合に広い.
比 色 法(Park-Johnson法)
基 本反 応(ferricyanide+還 元 糖 →ferrocyanide)
で生 じたferrocyanideを,ferric-ferrocyanide (Fe4
[Fe(CN)6]3, Prussian blue, Berlin blue)に 導 い て 比
色 す る の がそ の骨 子 で,本 法 に 含 まれ る化 学反 応 は 次 の
と お り.
〔反 応〕
(1) K3Fe(CN)6+還 元糖Na2CO3
CN-K4Fe(CN)6
(2) 3K4Fe(CN)6+4Fe・NH4(SO4)2
Fe4[Fe(CN)6]3+6K2SO4+2(NH4)2SO4
〔試 薬〕
a) ferricyanide液 …ferricyanide 0.59を と り 蒸 留
水 で1lと し,着 色 瓶 に 保 存 す る.
b) carbonate-cyanide液 … 無水 炭 酸 ソ ー ダ5.3gと
KCN 0.659を 蒸 留 水 で1lと す る.
c) alum(鉄 明 バ ン)液 …alum (ferric-ammonium
sulfate 1.5gとSDS(Na-mono-laurylsulfate; Na-
dodecylsulfate)1gを0.05N硫 酸1lに とか す.
普 通 の太 さの 試 験 管(径18mm)に 試 料+水 を3ml
と り,こ れ に 試 薬aお よびbを1mlず つ 加 え て混 じ,
15分 間 沸 騰 水 中 に 保 った 後 流 水 で 冷 し,5mlの 試 薬c
を加 え室 温 に15分 放 置 して 発 色 を 完 全 に し,生 じた 青
色 を比 色 す る(690mμ).本 法 で は 試 薬aお よびbに よ
っ て ア ル カ リ性ferricyanideを 反 応 液 中 で 作 る こ とに
な るが,こ れ にcyanideの 含 ませ て あ るの は 試 薬cの
添 加 で生 ず るferric-ferrocyanideのcolor changeを
防 止 す る た め で あ る.ま た 試 薬c(ferric-ammonium
sulfate液)に 含 ませ て あ るSDSはferric-ferrocya-
nideの 析 出 を阻 止す る のに 役 だつ.
本 法 の 特 徴 は 次 の とお りで あ る.(1)Hanes法 と は異
な り,糖 に よ り還 元 的 に 生 成 したferrocyanide量 を 測
定 す る の で原 理 的 に す ぐれ て い る.し か し,反 応(2)の 定
量 性 に つ い ての 詳 細 な検 討 が な され て い な い の で,多 少
の不 安 が あ る.(2)Hanes法 の 場 合に も 記 した よ うに,
糖 に よ りア ル カ リ性ferricyanideに 対 す る 反 応 性 に 強
弱が あ る.た と えば,グ ル コ ース とキ シロ ー ス で は,グ
ル コ ー スの ほ うが 反 応 性 が 強 く検 量 曲線 の傾 斜 が 大 き い.
(3)測 定 範 囲 は1~9γ/tubeで,検 量 曲線 か ら 定 量 値
を 算 出す る.(4)除 蛋 白剤 と してZn塩 を必 要 と しない
もの を用 い るべ きで,Znの 存 在 はferrocyanideと 不
溶 性 のK2Zn3[Fe(CN)6]2を 生 ず る(Hanes法 参 照 の こ
と)の で,ferrocyanideの 定 量 に は 都 合 が 悪 い.し た
が って,本 法 で は タ ング ス テ ン酸 法 で除 蛋 白す る(5).試
薬 の調 製 が 安 易か つ 安 価 で あ る.
III.ニ トロ試薬に よる還元糖の定量*
3,5-Dinitrosalicylic acid (DNS)ま た は3,4-dinitro-
benzoic acid(DNBA)が,ア ル カ リ性 に お い て 煮 沸 条
件 下 糖 類 の 還 元 基 と反 応 して 発す る色 を比 色 す る方 法 で,
反 応 に 定 量 性 は な い が 比例 性 は あ る.ま た 糖 に 対 す る選
択 性 は な く,広 く還 元 糖 と反 応 す るの で,一 見 興 味 を も
ちに くい 定 量 法 で あ る.
3,5-Dinitrosalicylic acid (DNS)法
定量の基本反応は下記の とお りで,還 元糖に よるニ ト
ロ基の ア ミノ基への還元反応を利用す る比色定量法であ
る.
す な わ ち,生 成 した3-amino-5-nitrosalicylic acid
の500mμ に お け る吸 光 度 か ら検 量 曲線 を画 き,こ れ よ
り定 量 値 を算 定 す る.
〔試 薬〕
3,5-Dinitrosalicylic acid(DNS)液:4.5%NaOH溶 液300
mlに,DNSの1%溶 液880mlお よび ロッセル塩255gを
加え る.別 に10%NaOH溶 液22mlに 結晶 フェノール10gを
加え,水 を追加 して溶解100mlと す る.こ の アル カ リ性フェ ノール液69mlにNaHCO3 6.9gを 加え てとかし,上 記DNS
液を注いで ロッセル塩が 充分 に溶解す るまでかきまぜ る.2日 放
置後,濾 過し着 色瓶に保存す る.
25mlに 標 線 の あ る 試験 管 に 試 料1.0ml(グ ル コー
ス0.2~2,0mg)を と り,DNS液3.0mlを 加 え て混 和
し,沸 騰 水 浴 中に5分 間保 った 後,水 冷 して水 で25ml
*3,5-dinitrosalicylic acid法
J. B. Sumner: J. Biol. Chem., 41, 5 (1921); 65, 393 (1925). F. Hostettler, E. Borel, H. Denel: Helv. Chim. Acta, 34,
2132 (1951). E. Borel, F. Hostettler, H. Denel: ibid., 35, 115 (1952).
3,4-dinitrobenzoic acid法
E. Borel, H. Denel: Helv. Chim. Acta, 36, 801 (1953).
竹 本,醍 醐,高 井:薬 誌,75,1024(1955).
Vol. 3, No. 9 (485) 37
に 希 釈 す る.盲 検 試 料 をreferenceと して500mμ に
て比 色 す る.25mlに 希 釈 す る か わ りに10mlに 希 釈
す れ ば100~500γ の グ ル コ ー スが 定 量 され る.
本 法 の 特徴 は次 の とお り.還 元 糖 に よ りDNSか ら還
元 生 成 され る3-amino-5-nitrosalicylic acidをOD500
か ら直 接 比 色 定 量 す るの で,原 理 的 に は す ぐれ て い る.
しか し,DNS試 薬 そ の もの の 吸 収 スペ ク トル が 問題 で,
極 大 は370mμ に あ る け れ ども500mμ に お け る 吸 光
度 も大 き い の で好 ま しくな い.ま たDNSの 還 元 は存 在
す る遊 離 還 元 基 数 と比 例 性 を 示 す が,ペ ン トー ス,ヘ キ
ソー ス,2糖 類 は そ れ ぞ れ グ ル ー プ と して 異 な っ た吸 光
度 を示 す.た とえば,呈 色 度(3-amino-5-nitrosalicylic
acid量)をOD500per μ mole sugarで 示 す と,ペ ン ト
ー ス(キ シロー ス,ア ラ ビ ノー ス)は0.42;ヘ キ ソー ス
(グ ル コー ス,ガ ラ ク トー ス,マ ンノ ー ス)は0.46;
2糖 類(マ ル トー ス,ラ ク トー ス)は0.65と な る.
以上にのべてきた ような観点か らは,本 法に特徴あ る
利点をみいだ しえないが,ミ ロシナーゼ 活性の測定,す
なわち配糖体 と混ず るグルコースの定量に有効なのであ
る.つ ま り,基 質配糖体(シ ニグ リン)は 通常の糖定 量
法 に対 してresponseを 示 し還元値 を与 えるが,本 法 に
対 してはresponseを 示 さない.
3,4-Dinitrobenzoic acid (DNBA)法
E.Borelら(1953)の 原 法 で は,3,4-dinitrobenzoic
acid(DNBA)と 還 元 糖 と を アル カ リ性 下(Na2CO3)で
加 熱 反 応 させ,生 ず る3-nitro-4-hydroxylarnino ben-
zoic acidの 呈 す る紫 色(548mμ)を 測 定 して 検 量 曲 線
を 画 き,そ れ か ら糖 量 を求 め る.基 本 反 応 は 次 の とお り
で あ る.
DNBAか らの還 元 糖 に よ る 還 元 生 成 体 はnitroso-,
hydroxylamino-,お よびamino-誘 導 体 の3種 で あ る
が,本 法 は この 中 のhydroxylamino体 の 示 すOD548を
測 定 して糖 定 量 法 と した もの で あ るか ら,定 量 操 作 中 の
加 熱 条 件 に厳 密 な制 限 を加 え ね ば な らぬ こ と と,色 調 の
不 安 定 な こ とが 本 法 の 欠 点 で あ る.そ こで筆 者 は,む し
ろ3-nitro-4-aminobenzoic acidの 示 す450mμ の 吸
光 度 か ら検 量 曲線 を 求 め た ほ うが,す ぐれ た 方 法 に な る
の ではないか と考える.一 方,竹 本 ら(1955)は,Borel
の原法を改良 して比較 的再現性 の高 い方法 を案出 してい
る.す なわち,Borelの 原法で基本反応を進行 させ て後,
塩酸 酸性 と して反応 を止 め,黄 色 を呈す る反応液中の物
質(395mμ)を,イ ソア ミルアルコールに転溶 してOD395
か ら検量 曲線 を求めてい る.
〔試 薬〕
DNBA液:3,5-dinitrobenzoic acid (DNBA)2gと 無水
Na2CO3 31.8gを 水に とか し1lと す る.
試 料1mlとDNBA液1mlを 径15mmの 共 栓 付 試
験 管 に と り沸 騰 水 浴 中 に10分 保 って 後 水 冷,conc.HCl
0.2ml,次 い で イ ソア ミル ア ル コー ル6mlを 加 え て よ
く混 和 し,イ ソア ミル アル コー ル 層に 移 る呈 色 度 を測 定
す る.す な わ ち,イ ソア ミル ア ル コー ル層 は駒 込 ピペ ッ
トで 別 の 試 験 管 に 移 し,芒 硝0.05gを 加 え て脱 水,濾
過 後,比 色 す る(395mμ).
本法は還 元糖一般 の定量法 であるが,ア スコル ビン酸
に きわめて敏感 である.測 定範 囲は,グ ルコースとして
100~600γ.本 法の特徴は,3,5-dinitrosalicylic acid法
と同様にみ とめがたいが,ニ トロ基の還元を基 本反応と
す ることは本法におけ る特殊性をみいだす手がか りを与
えるであろ う.い ずれに しても本法 をtraceす る研 究
者が少 ないので,あ えて この ような方法 もあることを記
した次第で ある.
IV.ヨ ウ度 試 薬(次 亜 ヨ ウ素 酸)に よ る還 元 糖
の 定量(Willstatter-Schudel法)
本法はグル コースが一定 条件 の下,ア ルカ リ性 ヨウ度
液(NaIO,次 亜 ヨウ素酸)に よって 定量的 に 酸化 され
てグル コン酸になる反応 をアル ドース定量法 と して まと
めた もので,一 応 ケ トースには反応 しない とされている
(実際は多少反応す る).数 多い還元糖の定量法中,本 法
だけがそ の基本反応に定量性のみ とめ られる ことは特記
すべ きであるが,Willstatter-Schudelの 原法では あて
は まらない場合 もあ る.し か し,改 良法に おいては,ほ
とん どすべての アル ドースが化学量論 的にアル ドン酸に
酸化 される.定 量法中の化学 反応は下記 のとお りで,還
元糖の酸化に消費 されたI2量 か ら反応(1)に よ り糖量 を
算出す る.
〔反 応〕
(1) CH2OH(CHOH)nCHO+I2+3NaOH
→CH2OH(CHOH)nCOONa+2NaI+2H2O
(2) I2+2Na2S2O3→Na2S4O6+2NaI
〔試 薬〕
a) .N/10ヨ ウ度液 … ヨウ度12.69gとKI40gを 少量
の蒸留水に とか した後1lに す る.
38 (486) 化 学 と生 粉
b) N/10NaOH液.
c) N/10H2SO4液.
d) N/10Na2S2O3液.
改良法における一例a) N/100ヨ ウ度 液.
b) 0.15MNa2CO3液.
c) N/5H2SO4液.
d) N/200Na2S2O3液 …N/10ま た はN/20Na2S2O3液
を そ の都 度 うす め て作 る.
一定量の試 料にN/10ヨ ウ度液10mlを 加え,次 いで
N/10 NaOH 15ml加 えて30分 間室温に 放置 し,反 応
(1)を進行 させる.こ の反応は アル ドースに特異的である
が糖の種類に より反応性 が異 なる.た とえば,マ ル トー
ス(2糖 類),グ ルコース,キ シロ ースに対 しては上記原法
の条件 で定量的 なアル ドン酸への酸化がみ とめ られるが,
マ ンノースに対 しては反応の定量性は とらえ られない.
その原因は反応(1)におけ るアルカ リ度の強す ぎる ことに
ある らしく,NaOHを うす くす るか,ま たは 緩衝能 の
強い炭酸塩 でアルカ リ性 を保つかすれば,マ ンノースを
は じめ,グ ルコース,ガ ラク トース,キ シロース,ア ラ
ビノースなどの定量的酸化が把 握され うる.反 応(1)によ
って消費 された ヨウ度量は,残 存 ヨウ度量 を盲検値か ら
差 し引いて求め る.ヨ ウ度の定量 には,反 応(1)の終了後,
反応液にN/10H2SO4液20mlを 加 えて硫酸酸性 と し,
Na2S2O3で 滴定す る.消 費N/10ヨ ウ度1mlは マル ト
ース17.1mg,グ ル コース9.0mgあ る いは キシロ ー
ス7.5mgに それぞれ相当す る.
本法の特徴は,な ん といって もアル ドースに対す る特
異性の高い ことで,と くに,近 年 注 目を うけた グルコー
スの フラク トースへの異性 化反応 の測定 に,す なわ ち,
グルコースとフラク トースの混 合系 におけるアル ドース
の定量法 と して採用 された ことは周知のとお りである.
しか しなが ら,前 記 した ように,フ ラク トースの混在量
が多 くな るとグル コースの定量値 が高 くなるので,こ の
点 を改良す るために2,3の 改 良法が提 出さ れてお.り,そ
の要点をWillstatter-Schudelの 原法 と比較表示 して
み よ う.な お,マ ンノースが定量的酸化を うけ るように
配慮 した改良法 も付加 してある(第3表).
これ ら諸方法におけ る共通の改良点は,ア ルカ リの種
類 とその濃度 および反応の時間 と温 度に対す る配慮 であ
り,条 件 が次第に厳密にな って きている ことは,糖 の ア
ルカ リに対す る不安定性か らすれば当然であろ う.こ の
ことは,銅 試薬,鉄 試薬,あ るいはニ トロ試 薬に よる定
量法に おいても充分留意 されていたことは,本 稿 をふ り
返 って検討 して くだ されば明 らかである.い ま,改 良法
に おいてみ られ るフラク トース混在下 のグルコース定量
に対す る2,3の 効果を記 してみ よう.小 曽戸 らの実験
では(条 件は第3表 に示す とお り),Na2CO3液 を アル カ
リとした場合,グ ルコースの5倍 量の フラク トースが含
まれ ていても+2%前 後の誤差で グル コースを 定量 し
うるのに対 し,NaOHを 用いる と同 じ糖混合系で約40
%の 誤差 を 生 じる.な おNa2CO3やN/10NaOHを ア
ルカ リと す る とN/100I2液1ml消 費は0.84~0.83
mgの グル コースに相 当 し,反 応の定量性を失 う(理 論
値0.90mg).ま た 貝沼 らの実験では反応温 度に 留意 し
て20℃ と限定 したが,グ ルコースの2倍 の フラク トー
スを含む混 合系で1~2%の 誤差 を生 じるとい っている.
次に本法における欠点は,ケ トン類,た とえば ピル ビン
酸,ア セ トンな どの醸酵生産物に よってinterfereを う
け ることであ る.ま たNH4に よって も同様 であるが,
揮 発性物質であれば前処理でのぞ くことができる.
V.硫 酸処理を基本とする還元糖の定量
還元糖は強い酸 と処理 るす と脱水 され てフルフラール
またはその誘導体 とな り,こ れが各種の試薬 と反応 して
呈色す るので,そ れ らを比色するのが本法 の原理 とされ
第3表 Willstatter-Schudel法 と そ の改 良 法
R. Willstatter, G. Schudel: Ber., 51, 780 (1918).
M. Ludtke: Ann., 456, 201 (1927).
大 槻;日 化,538(1934).
小 曾 戸,数 見,小 鷹,蔀:日 農 化,33,166(1959).
貝 沼,田 所,鈴 木:澱 粉工 業,12,57(1965)
Vol. 3, No. 9 (487) 39
ている.し か し,酸 との反応で生ずる物質がフルフ ラー
ル誘導体のみ であるとは考え られないので,定 量 の基本
反応はここに 明示 しないほ うが誤 りを伝 えない点で良心
的 なのか もしれない.い ずれに しても,糖 の分解生成物
と特殊試薬 との呈色反応を定量 法に応用 した ものである
か ら,糖 分解反応お よび生成物 と試薬 との呈色反応 の2
つ の基本反応が含 まれ ることは,系 の複雑性 を意味 し,
定量法 と しての短所 となる.し か し,応 用 しうる範 囲の
広 さは この欠点を補 って余 りがあ り,と きに は著 しい特
殊性 を示す こともあ るので,以 下にのべ るよ うに,多 く
の定量法が生 まれた.な お,強 酸処 理で多糖類 は一般に
単糖類に加水分解 され るので,本 法 では全還元基 の定量
が なされ ることになる.
強酸 として硫酸を用い る場 合,そ れ の糖 に対す る反応
性について知 ってお くべ きことは,硫 酸濃度 に最適条件
の あることで,高 濃度が必ず しも高い糖分解速度 を与 え
る とは限 らないのであ る.こ の ような反応性 を予備知識
と して,硫 酸処理を基本 とす る各種還元糖 の定量法 をご
らん願いたい.
フェノール硫酸法
本法が案 出された主な理 由は,ペ ーパークロマ トグラ
フ ィーの発達 で糖の混合系か ら各構成糖 の単離が可能 と
な り,そ れぞれ を溶 出定量す る必要が生 じた からである.
と くに糖 の分離に きわめて有効なフ ェノール系溶媒 では,
展開後,乾 燥に よるフェノールの除去が不完 全にな りや
す く,後 述す るアンスロ ン法な どの定量法 の適用 を不可
能 にす る 場合が しば しば 起 こるのである(フ ェノール
とア ンスロンが反応す ると 緑色を生ずる).M.Dubois*
(1951)は,単 糖類,メ チル化糖,オ リゴ糖,多 糖類 な
どの定性試薬 と して フェノール硫酸法を提示 し,あ わせ
て定量 の可能性 を推測 した.さ らにかれ ら(1956)は,
定量法 と しての条件,お よび次の諸溶 媒に対す る反応性
のないことを合わせ明 らかに し,前 処理(加 水分解)す
ることな しに多糖類の構成糖量 を測定 した.定 量に影響
を与えない 展開剤:フ ェノール系,BtOH・EtOH・ 水,
Et-aetate・acetic・ 水,methylethylketone・ 水な ど.
基 本反 応は不 明.
〔試 薬〕
a) 濃硫酸(特 級).
b) 80%フ ェノール液(w/w)ま たは5%フ ェノール液.
試 料2.0ml(10~70γ グ ル コ ース)を 内径16~20
mmの 試 験 管 に と り80%フ ェ ノ ール 液0.05mlを 加
え,濃 硫 酸5.0mlを 速 や か に(10~20秒 間 で)液 面
に 直 接 滴 下 す る よ うに 加 え10分 放 置 後 よ くまぜ,一 定
温 度(20~30℃)の 水 浴 中 に 一 定 時 間(10~20分)保
った 後,呈 す る黄 色 を比 色 す る.色 調 は 数 時 間安 定 で,
ヘ キ ソー ス は490mμ で,ペ ン トー ス お よび ウ ロ ン酸 は
480mμ で そ れ ぞ れ 測定 す る.な お80%フ ェ ノー ル液
0.05mlを 加 え る際 ミク ロ ピペ ヅ トを 用 い る が,そ のか
わ りに5%フ ェ ノ ー ル液1.0mlを 加 え て も よい.定
量 値 は検 量 曲線 か ら求 め る.
なお,筆 者 の経験 では,試 料0.05mlに 対 し80%
フェノール0.05mlと 濃 硫酸5.0mlを 氷水冷 しなが ら
加 えるとき,ア ル ドースはほ とん ど発色 しない(490mμ)
が,ケ トースは前記方法 の場合 とほぼ等 しい吸光度を示
す.
本法の特徴は,(1)フ ェノールで妨害を うけない.
(2)操 作が簡単で,と くに加熱(煮 沸)を 要 しないこと
は多数の試料 を一挙に処理 し うる こ と を 示 し,た と え
ば,カ ラムク ロマ トグラフ ィーに よって単離 される糖類
の溶 出曲線 を画 くために きわめ て好都合であ る.(3)濃
硫酸 の滴加法に多少 の条件が付 されてい るが,と くに面
倒 な技術 を要 しない.(4)試 薬 は安価で しか も安定であ
る.(5)ピ ル ビン酸,ア セ トン その他の ケ トン 化合物
に対 しても強 い反応 を示 し黄色 を呈す る.糖 の うちデオ
キシ糖 とは反応が きわめ て弱い.
アンスロン法
F.Schutz**(1938)は,ア ンス ロ ンが グ リセ ロー ル
と反 応 す る こ と を の べ た が,そ の 後R.Dreywood***
(1946)は,同 試 薬 が セル ロ ース と反 応 して 緑 色 を 与 え
る こ と を知 り,さ らに 同 じ呈 色 反 応 が グ ル コー ス とそ の
多糖類,ペ ン トー ス,ペ クチ ン,ア ル ギ ン酸,フ ル フ ラ
ー ルに 対 して もみ られ る こ とを 示 した .次 い でD.L.
Morris****(1948)は これ を 次 に の べ る よ うに 定 量 法 化 し
た.定 量 の 基 本 反 応 は ア ル ドヘ キ ソー ス で はhydroxy-
methylfurfuralへ の,ま た ア ル ドペ ン トー スで はfur-
furalへ の脱 水反 応 と い わ れ て お り,こ れ ら生 成 物 と ア ン
ス ロ ン との 反 応 に よ り生 ず る緑 色 を比 色 す る.定 量 値 は
*M . Dubois, K. A. Gilles, J. K. Hamilton, P. A.
Rebers, F. Smith: Nature, 168, 107 (1951);
Anal. Chem., 28, 350 (1956).**F . Schutz: Papier-Fabr. (Tech. Tl.), 36, 55
(1938).***R . Dreywood: Anal. Chem., 18, 499 (1946).****D . L. Morris: Science, 107, 254 (1948).
40 (488) 化 学 と 生 物
第4表 アンスロン法 における反応条件 の比較
D. L. Morris: Science, 107, 254 (1948).
L. H. Koehler: Anal. Chem., 24, 1576 (1952). R. R. Bridges: ibid., 24, 2004 (1952).
検量 曲線 から求 める.ア ンスロン試薬の濃度や定量反応
の 条件 な どは定量すべ き糖の種類に よ り異なるので,い
くつ かの例 を第4表 に まとめてみた.な お,わ か りやす
くす るために,堀 越の示 した定量操作を以下に記 して参
考 と しよう.
氷水 中に冷却 した試験管に,あ らか じめ冷 したア ンス
ロ ン試 薬(表 を 参照の こと)5mlを 加 え,そ の層 の上
に試料0.5ml(グ ル コース5~50γ)を 静かに 注 ぐ.た
だ ちに混和,次 いで沸騰水浴中に正確 に10分 保 った後,
第5表 Anthrone factors
L. H. Koehler: Anal. Chem., 24, 1576 (1952); 26, 1914
(1954).
T. A. Scott, Jr., E. H. Melvin: ibid., 25, 1656 (1953).
堀 越:光 電 比 色 法 各 論2(化 学 の 領域,増 刊34),p.36.
J. R. Helbert, K. D. Brown: Anal. Chem., 28, 1098 (1956).
水で急冷す る.620mμ の吸光度を測定す る.
ア ンスロ ン法の特徴 または諸注意:(1)試 薬 は調製
がきわ めて容 易で あるが,不 安定であるので測定前にそ
の都度調製す る.古 い試薬は黒味をおびるとともに発色
能が低下す る.(2)各 糖はそれぞれちがった速 さで,ち
がったintensityで 発色 するが,そ の吸収 スペ ク トル
はほ ぼ同じ波長(620mμ 付近)に 極大を示す.一 方,
2-deoxy sugarや ウロン酸は ピンク 色 を 示 す(520~
550mμ).
現今では,本 法は一般還元糖 の定量法 と して最 も権威
第1図 ア ンス ロ ン法(Koehler)に お け る吸 光 度
の強 さ と変 化(L. H. Koehler: Anal. Chem., 24,
1516 (1952))
F: fructose, G: glucose, Sor: sorbose,
Man: mannose, X: xylose
Vol. 3, No. 9 (489) 41
第2図 ア ンス ロン法(Helbert-Brown)に お け る
フ ラ ク トー ス の発 色(50℃,15分)(J. B. Helbert,
K. D. Brown: Anal. Chem., 27, 1791 (1955)) F: fructose, Ar: arabinose
G: glucose, Man: mannose
あるものの1つ であるが,対 照 とす る糖 の種類に よって
発色の速 さや強さが異 なることのほかに,褪 変色 をも示
すので,一 見,定 量法 と して決定的 な欠点を もつ よ うで
あ る.し か しながら,な ぜ 多 くの研究者に よ り採用 され
ているのであろ うか.こ れに対 し,本 法は多 くの人たち
によって定量法 と しての詳細な検討が なされた結果,そ
の特徴的 な性格 が次第に 明らかに されて きたためであ ろ
うと筆 者は考えている.
い ま,発 色 ・変色の速 さお よび最大 吸 光 度 につい て
Koehler(1952)の 実験 をか りてのべてみ よう.試 薬 お よ
びその加 え方,反 応条件 は,第4表 のとお り,ア ル ドヘ
キ ソースは8分 間の加熱(in boiling bath)で 全発色 し,
呈色度お よび吸収極 大(620mμ)は 加 熱時 間13分 以 内
はほとん ど変わ らないのに対 し,ケ トヘキ ソースは発色
速度が きわめて大で,1~2分 の加熱で最高発色 を示 し,
それ以上の加熱で急激に変色す る.こ のよ うな著 しい吸
光度(620mμ におけ る)の 変化は アル ドペン トースに
お い て もみ られ る.そ こでKoelherは,最 大 吸 光 度 を
示 す に要 す る反 応 時 間 と そ の と き の 吸 光 度(anthrone
factorま た はA.F.)を 表 示 し(第5表),対 照 糖 の 種
類 に よる 適 正 な 加熱 時 間 と,試 薬 のsensitivityお よび
selectivityを 明 らかに した.
A.F.=Klett* scale reading
γ of carbohydrate per 5ml of solution
さらに,定 量反応に おける吸光度(620mμ)の 消長 を追
跡 してい る(第1図).
これ らの結 果か ら,Koehlerの 方法は アル ドヘキ ソー
スに対 し常に安定性ある良好 な数値 を与 えるので,た と
えばグル コースの定量法 と して表に示 された操作が決定
されているわけである.も ちろんペン トースが混存す る
場 合は補正を要す ることはい うまでもないが,比 較的小
さい補正値 です むことであろ う.
また一方,Morrisの 原法に おけ るような 反 応 条 件
(第4表 参照)で は,グ ル コース もフ ラク トース も ほ ぼ
同 じ強 さの吸光度を示す といわれ るので,ヘ キ ソースの
全量がえ られる ことに なる.
次 にHelbert & Brown(1955)の 実 験 結 果 を眺 め て
み る と,グ ル コー ス(ア ル ドヘ キ ソー ス)や ア ラ ピ ノー
ス(ア ル ドペ ン トー ス)の 共 存 下 に お け る フ ラ ク トー ス
(ケ トヘ キ ソー ス)の 定 量 の 可 能 性 が み い だ され る で あ
ろ う.す な わ ち,第4表 に お け るHelbertら の 反 応条
件 中,加 熱 温 度 を50℃ に,加 熱 時 間 を15分 とす れ ば,
第2図 か らア ル ドー ス共 存 下 の フ ラ ク トース 定 量 が 可 能
とな る.
以上,3つ の研究結果 をここに記 して参考 としたが,
筆 者のア ンス ロン法に対す る期待は混合糖系における構
成糖 の 分離定量 であ り,上 記 のHelbertら の方法 はそ
の顕著 な一例 と考 えた い.ま た,Koehlerのanthrone
factorや 反応時 間と 吸収 スペ ク トル との 関係図か ら,
デオキシ糖,メ チ ルペ ン トース,ウ ロン酸な どの定 量の
可能性 を導 き出す ことが できそ うであ る(つ づ く).
*米 国の著名な比色計で,た いへん広 く用 いられている
ので,そ の読み は1つ の標準 となっている.
42 (490) 化 学 と 生 物