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中田 亨 (産業技術総合研究所 Toru Nakata aist.go.jp ) ヒューマンファクターと機能安全 1

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Engineering


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Page 1: Nakata1503 jss

中田亨

(産業技術総合研究所 Toru Nakata aist.go.jp )

ヒューマンファクターと機能安全

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Page 2: Nakata1503 jss

人間の信頼性に頼ってしまう

無人運転の方が安全?

エレベータ、ゆりかもめ:無人万歳

完全自動飛行機、完全自動手術ロボット:まだ怖い

「人がいた方が安全な印象」はどこから生まれるか

システムの故障率が大きい場合は、人間にいてほしい

設計想定外の事態でも、人間なら対応できる?

人なら、効率のために安全規則を少し緩めてくれるし、うまくカバーして事故にはしない? 今時、手動の踏切での事故(2005年)

運転手に法的責任を持たすことができる?

つい、設計の不備を人にしわ寄せする?

「システムが故障しても人間が対処するから安全です」という逃げ口上

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人間は一人四役1. 監督者としての人間

目標を設定し、非常時には作業打ち切りの決断をする、最高権限者。

例:「私は自転車に乗ってAに行くぞ!」と決める人

2. 制御系としての人間

誤差を打ち消す人力の制御器

例:舵切り制御する、目・脳・腕

3. 被制御系(システム本体)としての人間

例:力を出す足

4. 外乱源としての人間

間違える、ふらつく。

例:道の間違い。フラフラ運転3

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人はこう使え

役割 望ましい姿 不適切な姿

監督者

熟慮できる環境 せわしない決断要求

安全優先の選択肢がある。事前に損切りラインを設定。

ジレンマばかりで選べない。事前想定なし。

十分な情報が与えられる 情報不足、知識不足

制御系

不器用でもOK 個人の技量に頼る

割り込み業務もこなせる 制御への専念が必要

安全規則は完全遵守 安全規則を人が緩める

被制御系変動、休憩を許す 定常出力を要求する

人しかできない仕事 機械の方が勝る仕事

外乱源 人間をなるべく隔離 人間を排除できるのにしない

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上記9項目を点付けし、SILと見合うかチェック

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人間のまちがえる確率は?

HEP: Human Error Probability

その逆は、HR: Human Reliability

まちがいのメカニズムは全く謎である。

羽生名人ですら一手頓死の大ポカ(2001年)

HEP見積もりの精度を求めるのは、むずかしいが、

代わりにこう考える

1. 確率的見積もりがいらない場合も多いぞ。

2. 見積もりが必要なら、故障樹分析等を使おう。

3. 一番大事なこと、それはコンセンサスだ。

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決定論的/確率論的

決定論的:「この状況なら、ああなる」とif-thenルールで決まること

「決定論的エラー」:再現性が高いエラー 「系統的エラー」ともいう。

「群馬県の県庁所在地は、タカサキでしょうか?タカザキでしょうか?」

「23-7=17-3=14」:小学生に多いミス

「両国国技館 東京都墨田区横網1-3-28」

確率論的:再現性が低いこと

「確率論的エラー」:予測がつきにくいエラー

文字の書き間違い、ダーツの的外し、等

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決定論的エラー

3秒以内に“O”の文字を探しなさい

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O

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

T

Q

P

S

Q

SA

Q

CO

SD

D

DQ

DVA

P

TD

S

C

D

D

VB

QB

WR

D

SC

RD

D

C

A

L

D

S

E

T

P

T

I

Q

F

Q

D

B

Y

R

V

X

T

Z

T

M

H

J

G

S

O

W

T

K

T

U

N

B

D

ほぼ100%成功する ほぼ100%で失敗成功確率は中庸で不明

成功するルールがはっきりしている。• 「はじっこなら」「字形が大きく違うなら」「整列なら」

If-thenルールで、エラー率ゼロと見積もっていいのでは。

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決定論/確率論の領域境界

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Hum

an r

elia

bili

ty

(人間の作業成功率

)

0%

100

作業の複雑度

決定論的見積もりで考えるべき

定量的評価が必要

そもそも設計がダメすぎる

100-e

%

d

ひざ点Knee point

ひざ点の設定方法は、実験による測定か、文献値か、設計者の直感。どれにするかは、コンセンサスの問題

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確率論的評価

「このタスクは100%成功としよう」とは言えない作業には必要となる。

各種技法がある。

Technique for Human Error Rate Prediction (THERP)など 同工異曲の技法が多すぎ?

人のエラー確率(HEP)は不明である。

実験でエラー確率を調べる。

文献値・典型値を使う。 THERPの本などに書いてある

精度や根拠は乏しいが、使用実績はある。

樹系図で考える

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Fault Tree Analysis (FTA)

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自動車走行中にドアが開く

運転手がドア開きに気付かない

運転手が発進時にアクセルを踏む

運転手が高速度であることを忘れ

運転手がドアを開ける

3 ∙ 10−3 3 ∙ 10−4

3.3 ∙ 10−3

1.00 1.003 ∙ 10−3(=1

365) 3 ∙ 10−4(=

0.1

365)

特定の事故が起こる条件と確率を逆算

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Event Tree Analysis (ETA)

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Yes

No

高速運転中の自動車

運転手が高速度を忘れない

運転手がドアを開けようとする

ドアロック作動

安全装置によりガソリン供給停止

9.9 ∙ 10−1

見積り確率

0.9997Yes

No

0.9997 0.9997 0.999999

3.0 ∙ 10−4

9.0 ∙ 10−8

9.0 ∙ 10−14

9.0 ∙ 10−8

3.0 ∙ 10−4 3.0 ∙ 10−4 3.0 ∙ 10−4 1.0 ∙ 10−6

1つのポカから起こりえる事故を広く予想

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評価の厳格度項目 厳格 簡略

情報の根拠使用実績、実験、信用のおける文献値

直感、定性値

被験者数 多い 4人以下

被験者特徴多様。老若男女。実際のユーザ

均一。社内人員

実験シナリオ 実際的シナリオ。混合 要素的シナリオ。単純

実験環境迫真。多様(夜間、悪天候、極寒地)。

実験室内。シミュレーション。

事故情報フィードバック

苦情情報回収体制あり

苦情情報が来ない

評価技法定量的。FTA, ETAなど

既存の構造的な手法を踏襲。

定性的。評価の構造が浅い。

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コンセンサス、それが求められる どのくらい厳格な手法を使えばいいのか?

厳格度の選択は、合意に依る

SILに応じて、合意の範囲を広げる

合意の範囲:設計者当人のみ、設計部署内、独立した検査部署、特定の買い手、公的機関、一般消費者

IEC規格は策定作業中である。

参考になるのは、UK DEF STAN 00-250 - Human Factors for Designers of Systems

しかし、事故は起きている。

いつ裁判に巻き込まれてもおかしくはない。

どこに出しても恥ずかしくない、公正明大なコンセンサス作りが必要。

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