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Title 脳肺吸虫症の2治験例
Author(s) 辻, 泰邦; 池水, 経雄; 橋口, 勝敏; 浦, 徳義; 野口, 恭一; 中村, 克己; 井上, 義邦; 松岡, 新二; 村田, 雄三郎; 小林, 昭智; 深町, 弘光
Citation 長崎大学風土病紀要 2(1), p.46-52, 1960
Issue Date 1960-03-23
URL http://hdl.handle.net/10069/3814
Right
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
46 長晴大学風土病紀要 欝2巻 第1号: 46-52頁1960年3月
脳肺吸虫症の2治験例
長崎大学医学部 第1外科教室 (主任 一薄 教授)
辻泰邦 池水経雄 橋口勝敏 浦徳義
野口恭一 中村克己 井上義邦 松岡新二
長胎大学医学部放射線科学教室(主任 玉木教授)
村田雄三郎 小林昭智
昆晴大学風土病研究所臨床部 (主任 片蜂教授)
深町弘光
Two Cases of Paragonimiasis cerebri. Yasukuni TSUZI, Tsuneo IKENAGA, Katsutoshi HASHIGUCHI,
Tokuyoshi URA, kyoichi NOGUCHI, Katsumi NAKAMURA, Yoshikuni INOUE and Shinji MATSUOKA,
Department, of Surgery (Prof. R. SHIRABE), Nagasaki University School of Medicine. Yuzaburo
MURaTa and Akitoshi KOBAYASHI, Department of Radiology (Prof. M. TAMAKI), Nagasaki University
School of Medicine. Hiromitsu FUKAMACHI, Clinical Department (Prof. D. KATAMINE), Research
Institute of Endemics,Nagasaki University.
緒言
本症は欧米の文献に殆んどなく,僅かに最近濠州の
Hooperが本庄の1例を報告して注意を若いているに
過ぎないが,本邦に於ては大谷の剖検例を塙矢とし,
今日迄に176例の多きに達する⑥但しその手術治験例
は比較的少く盲本邦文献から22例を蒐集し得たのみで
ある｡我々は最近2例の本症患者に関頭術を行い幸に
捻転せしめえたので-,これを報告すると共にー,記載の
明らかな本邦手術症例(我々の症例を合せて32例)に
つき若干の文献的考察を加えたいと思う②
症 例
症例ュ. 太O従0 18才 男子
住所:熊本県天草郡高浜
主訴ニ全身痙攣;視力障害ー,左半身麻韓
既往歴: 11才の時Ⅹ線検査により肺結核と診断され,
ストマイ.パスの治療を受けたが,当時咳嚇;暗抜;
発熱等のBl発症状は全くなかった.沢蟹を茄でて食べ
た事があるが;生食の経験はない.
顎病歴:約8年前,遊戯中に尾骨を強打し;その後
10日程して突然左手に始まり全身に及ぶ痙攣が約2分
間続き,爾来同様の発作が年に4～5回発現する様に
なった｡患者は左手指のシビレ感で痙攣発作を予感
しr,一同部を接みはぐすことによって匿ャ発作を回避で
きたという.
尚4～5年前から禎力の低下に気付いていたが;約
3カ月前,崖から転落し,その時は意識は明瞭であつ
たが-,爾来突発的に左の上下肢が動かなくなりi同時
に視力が辛うじて眼前指数を弁ずるまでに低下し;且
つ頭痛,曝吐を訴へる様になった.視力障害のため本
学眼科に入院し,脳腫蕩の疑いで日召和33年11月i9日外
科に転科した.
現症及び臨床所見:患者は右利きで,体格栄養は中等
良;意識は明瞭で精神障害,言語障害はない｡咳軌
啄疾はなく;聴打診上胸部に異常は認められない.顔
串良蛤大学風土病研究所業緯第335号
脳 肺 吸 虫 症 の 2 治 験 例 47
部に軽度の叩打痛があるが Mac Ewen氏徴候は陰
性.左半身顔面は知覚が鈍麻し,左上下肢は運動麻捧
に陥っている･但し顔面,舌運動は尋常･又,左の膝
蓋牒反射は軽度に充進しているが,病的反射は認めら
れない.対光反射,眼球運動は正常,眼底には異常所
見を認めないが,両側の視力は眼前手動である.
血液所見:赤拍ー球数420万,血色/-ォ深量75%,白血球数
8800,好中球63%,好酸球2%,単球3%,リンパ球
32%;梅毒反応(ー)
暗抜:結核菌の塗抹,培養共に陰性,寄生虫卵(-),
糞便にも寄生虫卵を認めない.
髄液所見:液圧は側臥位で230mm H2O,水様透明Oli
eckenstedt正常,細胞数38 (分額不明ェ), Pandy (+
) , Nonne-Apelt (+),梅毒反応(-)乳香反応は
進行性麻棒型●
脳波所見:右側は左側に比べ Voltageが高く,徐披
が優性で,左右の差が著明,なお右側頭部で位相の逆
転が見られる･
頭部Ⅹ線所見:側面像で側頭部に胡桃大から訴豆大の
略々均等な石灰様濃度の陰影が6～8個重り合ってい
るのが見られる.前後像で此の陰影は右大脳半球にあ
ることがわかる..トルコ較の変形,敵背の破壊,縫合
のFl&開像は見られない. ()附図1)
附 図 1
脳血管造影所見:前後像で右側の前脳動泳は正常.中
脳動膝起始部は稍々内方に押上げられているが,その
分枝oェ)小血管には異常なく,又側頭部の中脳勤膝0)分
枝にも著変はみられない.
診断:右側頭,頭頂部の脳腫癌.陸癌は右側頭部を主
として, 1吾1jは頭頂部に及び可或り大きいにも拘ら
ず,頭蓋骨への影響が少く,脳血管像にも著変がみられ
ない点から,本態は不明であるが,良性で易U出可能と
思われた. (開国2)
附 図 2
手術所見: 11月28日オビスタン,アトロピンの基礎麻
酔に局所麻酔を追加し右側頭部に於て関頭,硬膜の1
部は側頭葉上部及び頭頂実に接して蜘網膜に癒着して
いるが,容易に剥離された.血管の怒張はなく,癒着
部の脳表は淡黄褐色でタ 拒で触れると弾力性硬,皮質
を切開すると;深さ0.5cmで表面平滑,灰褐色を呈す
る腫輝壁に達した.脳病は周囲脳実質と鮮明に境界さ
れ,胡桃大のもの2個,梅干大のもの1個を主とし,
執豆大から小豆大の腫療が糞脱して驚卵大となり, 1
部は側脳室に密接していた0)で,此等を1塊として
出した. (附図3)
i;1光j 図 3
48 辻 泰邦,村日]部ニー-三郎,深町 弘光 外8名
別出標本は重さ38g,附図4に示す様に各腫癖を緊満
して硬く 2mmの壁を有する割包で,互に結合
附 図 4
織様組織で癒合し,その内容は黄褐色乾酉各様粘土枝物
質で満たされていた｡術巾結核憧/ーi.疑ったが,結合
敵性の壁に囲まれた内容は壊死組織より成り,その中
に石灰沈着及び多数の肺吸虫卵が証明され,初めて木
症の診断が確認せられたo脳内及び腫癖内に成虫は発
見されなかったo (附図5)
附 図 5
術後経ーi追‥術後胸部Ⅹ塊根影を行ったところ,両iPl光U肺
門部に於ける肺紋班L')I)土Eェ一[[徹左<f!光Uでは肺尖野をl&き全
体に雲架状陰謬を認めたゅ
これは｢浸潤像｣を主とした肺吸虫症-5っⅩ線像に-
敦する｡経過はITーIfェ一ー1で.亘町有/< 唱吐は消失し,視力も
人の顔が見分けられる程に恢復し,動かせなかった左
上枝は左耳を自分で掴めるまでに改善され,術後45日
目に退院した｡
症例2, 深○ 剛 18才 男子
住所:長崎県西彼杵郡黒崎
主訴 頭痛,左半身麻樺,言語障害
既往歴:小学校3年の時高熱が続き脳膜炎と
診断され治療を受けた.幼時川で採れる蟹を
茄でたり,時に生で食べたという.
現病歴:昭和29年夏から時折頭痛を覚え,同
年冬には頭痛が増強し更に耳鴨,喋気,畷吐
を訴える様になり, 30年2月A院に入院した
が, 2ヶ月後には症状が怪快して退院,その
後は旋盤工として働いていた. 32年本に同様
の症状でB院深ァニ入院,この時も約5ケ月で軽
快して復職したが, 33年9月に至り左半身の
シビレ感を覚え,食事中左手に持った茶桃を
落したり,左足を引きづって歩く様になり,
再びA院に入院した.入院中(34年1月)使
所で突然意識が消失し, 3日後に意識は恢復したが,
それ以来左上下肢の運動は全く不能となり,同時に言
葉が喋れなくなった･約2カ月後臥床中に突然左足よ
り全身に及ぶ痙攣が数回起り,脳腫癌を疑はれて34年
3月24日本科に入院した.
現症及び臨床所見:患者は右利き,体格,栄養は中等
皮,意識は明瞭であるが発語が全く不能,但し検者の
話は班解するらしく,肯いたり手を動かしたりして応
答する.姿勢は被動的背臥位で自ら起上町p.一一｢]Tニず,左顔
面麻軌 左上下肢の運動麻挿,右上下肢の軽度の不全
麻輝が認められるが,舌,礁下運動に障害はない,
左膝蓋贋反射は若明に克進し,足,膝に括鰯があり,
附 図 6
脳 肺 吸 虫 症 の 2 治 験 例 49
Babinski現象ほ陽性.
胸部所見:咳軌 噂抜
なく,聴打診上胸部に
著変を認めないが, Ⅹ
線像で右肺門部の紋理
増強,結節陰影及び右
肺門より上肺野に走る
来状陰影を認める.
眼所見:右眼では直接
対光反応が消失し,間
接反応は遅延する.又
動眼,滑車,外旋神経
も麻輝しているが,左
眼球の運動障害は軽度
.視力は両眼とも0.01
c演Tl定困難) ,視野は
左側の同名半盲あり,
眼壌に鮮血乳頭なく視神経萎縮像を示す.
血液所見:赤血球数440瓦血色亮量87%,白血球数
7800,好中球54%,好酸球3%,単球4%,リンパ球
35%,梅毒反応(-).
寄生虫卵:堵筑,糞使,髄液何れも陰性.
髄液所見:液圧は側臥位で150mmH2O,水様透明,
Oueckenstedt正常,細胞数6 (分類不明) pandy
(+),梅毒反応は陰性であるが,乳番反応は症例1
と同様に進行性麻樽型を示す.
脳波所見: -般に右側左側に比べVoltageが高く徐波
附 図 7
図 附 8
が出現し特に右側頭,後頭部に亘り徐波が優性で位相
の逆転が見られる･
頭部Ⅹ線所見:側面像で投背と後頭結節を結ぶ直線のト
中点の稍々上方に楕円形胡桃大の石灰様濃度の陰影が
あり,そのほゞ中央を横断する波状の線で上下2つの
部分に分けられている.正面像では,此の陰影は右大
脳半球にあつて,上下に相接した2つの示指頭大の陰
影からなっている(附図6)
脳血管造影所見:右側面像で Sylvian Group は挙
上伸展し,前大脳動線には膝部及び前頭葉部の上方偏
位が認められ, (附図7)同正面像で中大脳動泳起姶
部の上内方への偏位がみられるが,前大脳動腺の左単一
側への偏位はない.
肺吸虫皮内反応:陽性
診断:右側頭中部の脳肺吸虫症
手術所見: 4月16日右側頭部に於て関頭硬膜と蜘網~
膜は滴満性に癒着し,脂/者は淡褐色で混濁する●皮質
を切開すると約2cmの深さで灰白色,境界不鮮明の
肉芽腫様硬結を触れ,.これを品Tn出して割面を見ると一
部に灰白乾酪棟内容を認め,検鏡により多数の肺吸虫
卵を証明した. (附図8)更にこれより内下方に境界
鮮明,灰白色,被膜の比軟的薄い栂指頭大の嚢胞を認
め,これを-括創出した･脳内及び腰構内に成虫を
発見できなかった.
術後経過:術後10日目の現在｢母さん小便｣ , ｢何ん
でもおいしく食べる｣等言葉が聞き取れる様になり,
動かなかった上肢の挙上伸展,下肢の屈曲伸展が可能
となった.
50 辻 泰邦,村田 雄三郎,深町 弘光 外8名
考 模
本症に対し初めて関頭術を行ったのは赤岩で,最初
の手術成功例は我が第1外科の隅田-森本の症例であ
る.現在我々の集め得た記載明らかな手術症例は表の
如く本症例を含めて32例に達する.
発生地域:本症は日本,朝鮮,中国,台湾等アジアの
温帯地方及び南方地域に主として発生し,南米,北米
の一部にも分布するといわれる.手術症例は九州15
例,近畿及び中国地方i2例,四国3例,其の他記載は
不明であるが清水外科の氏家例及び桂外科の鈴木例の
2例を近畿以東と仮定すると,発生頻度は圧倒的に近
畿以西の住民に多いこととなる.
感染経路:肺吸虫は一般に山間の渓流又は河川が海へ
注ぐ流域に棲息する淡水蟹を中間宿主とし,従って淡
水蟹を生食する者が本症に曜患するといわれる.脳内
寄生の成因に就いては,大谷,山極等の血行説,横川
,安藤等の非血行説に大別されるが,横川等は犬の実
ー験に於て頚動静腺の周囲粗髭組織内を母虫が上昇する
のを認め, ｢経口的に宿主の消化管に入った幼虫は小
腸上部で脱愛し,小腸中部で腸壁を穿通して腹腔内に
浸入し,肝上面より横隔膜を貫き肋膜面より肺実質内
に侵入しー,更に上行して脳内に侵入する｣とし,一般
にこの説が信ぜられている.
性別曜患率:男女の比は概ね4対1で男に多いといわ
れる.二手術症例に於ても, 32例中,男26例,女6例で
断然男子に多いo蟹食例の札男は12例で,女は1例
にすぎず,男子に寄生の機会が多い事を思わせる.
年令別曜患率:手術症例では最年少者4才,最年長者
は35才で, 20才以下が93.7%を占める.この様に年少
者に好発するのは,蟹食の機会が多く,且つ寄生経路
と考えられる頚部の血管,神経周囲組織が粗髭で肺吸
虫の脳内迷入が容易であるためと解される｡
病巣部位:大半が大脳で,稀に小脳,又′J＼数例に内裏
タ視床,側脳室,良,レンズ核等に見られている.辛
術症例では努4脳室の1例を除き他は全て大脳で,右
半球に多く前頭,側頭,後頭,頭頂実の順に発生して
いる.一般に病巣は多発性で,単発性と思はれるもの
でも相違なる小結節の集合より成り,病変は皮質下に
原発し,脳底より写経面に向って進行したと思はれる
知見を示している.
柄型:本症の脳病変は,脳に送入した幼虫が成虫とな
り脳内に産卵しつつ移動することによって起る.比較
的新鮮な病巣は脳質の軟化を主とし,陳旧なものは,
強靭な被膜を被った膿癌乃至嚢胞を形成し,更に時が
経つと内容が吸収されて嚢壁が硬化し,肉芽腫様の結
節を形成するに至るという.この為解剖或は手術時に
肉眼的には結核腫と誤認される事が多い.蒐集例の手
術所見では割包,膿療型が相半ばし,翠-の肉芽腫型
は見られず,嚢胞膿癌の混合型が少数に見られる.
我々の症例は,浅野症例と同様にレ線で石灰化像が
諸められ,嚢胞型に属するものであった.
症状:蒐集例中初発症状から入院までの期間は,短か
くて1カ月,長いのは21年であるが,大部分が3年以内
である.初発症状は頭痛20例(約%) ,痙攣9例(約
%) ,血族1例で,中には発熱が初発症状の如く思は
れる例もあるが,運動障害を初発する例は見られな
い.症状経過を見るに大多数例にジャクツン型慣潤が
発現し,その後に四肢の運動障害又は視力障害を釆た
している.その他病巣部位に応じて半日並びに言語,
聴力,味覚等の障害が見られる.本症には肺症状を伴
う事が多いといわれるが,手術症例には記載が少な
く,自覚的に血族を訴へたのは隅田-森本の1例のみ
で,胸部レ線所見で異常の認められたものは,隅田ー
森本,江本及び我々の4症例に過ぎない.
診断:末梢血,脳脊髄液中に好酸球増多を認め,啄
灰,糞便,更に脳脊髄液に肺吸虫卵を証明すれば本症
の有力な根拠となる.血液像の明らかな22例中末梢血
の好酸球5%以上は18例,その内大便中に肺吸虫卵が
証明されたものは3例で他の寄生虫陽性者が4例,秩
りの11例は寄生虫卵陰性者である･脳脊髄液中に好酸
球の出現を認められたものは3例あるが,肺吸虫卵の
証明せられたものは見られない.
脳脊髄液の乳香反応は脳膜炎型又は進行性麻棒型を
示すといわれるが,光野は最近進行性麻樽型を示す本
症の6例を報告し,診断に意義あることを強調してい
る.我々の2症例では血液,脳腎日,速液の梅毒反応は陰
性であるが,脳脊髄彼の乳香反応は何れも進行性麻棒
型を示した.
万納寺は肺吸虫症の皮反内応を考案し,光野,江本
等は此れを症例に施行して補助診断として本法の価値
を推奨しているが,我々の症例も陽性を示し,診断が
的中した.
又,内外の脳嘩癌統計によれば,年少者の真性脳腫
痴は小脳に多く大脳に少い.一方本症は,.年少者に多
く且つ大脳に好発する.従って年少者で大脳腫疲椋症
状を呈するものには,一応本症を疑い検索を行うべき
である●
本症は脳内に嘩樽を形成するので,臨床的には,脂
腫癌,脳膿療,脳結核l重,脳軟化症,頼滴,脳膜炎等
と類似の症状を呈し,此等との鑑別は容易でなく,本
脳 肺 吸 虫 症 の 2 治 験 例 51
症と診断されて手術が行はれたものは8例に過ぎな
い- しかし上述した本症の一般に就いて考慮すれば,
診断は必ずしも困難ではない.
予後:本症の生命に対るす予後は極めて不良で,陣
内,光野によれば脳症状が発現して3年以内に7～8
割が死亡するという.
治療:脳内寄生直後はエメチン,スチブナールを使用
して成虫を死滅させる事が出来るが;腫滞形成後は治
療効果が期待されない.外科的に易IJfflし,その後薬物
療法を追加するのが至当と考へられる.
手術に当っては,多発性であるから1箇所の腫宿刻
出に止まらず,他の病巣の検索に心掛け,成虫の除去
に努め,出来れば一塊として創出するのが望ましい
が,通常遅滞内に化膿菌は見られず,虫卵が脳内で貯
化することは先ずないと考えられるので,腫膚が大き
く完全別出が困難と思はれる時は部分的に別険し,残
存腫輝に対しては切開,内容吸引をなし,無菌的に処
置すれば術後脳膜炎の心配はない.徒らに削除を強行
して患者を危険に陥らしめない様に留意すべきであ
る.
手術成積:記載明らかな29例申,全治若しくは殆んど
全治12例,軽快12例,死亡5例で,死亡率は17.2%と
なり,必ずしも良好な成績とはいえないが,我々の2
症例は幸に完全削除に成功し共に拾愈せしめることが
出来た.
結 語
本症の手術治験2例を報告した･
本症は我国に於ては脳外科の対象として重要な1部
門であるが,診断上甚だ興味があり,適時に手術を行
えば拾辰せしめ得る疾患と考えるので,本邦手術症例
32例を中心として若干の考察を試みた.
本症は若年男子の大脳に好発し,沢魔の生食に起因
することが多く, Ⅹ線優に石炭沈着を認めることもあ
り,髄液の乳香反応は多く進行性麻棒型を示し,肺吸
虫皮内反応が陽性に現われ'その術前診断は必ずしも
困難ではない.病巣刻除も比較的に容易で我々の2例
も幸にして完全削除に成功し,共に治施せしめること
が出来た･
(本論文の要旨は昭和33年1月24日欝241回長崎医
学会に於て報告した●終りに臨み御指導,御校閲の労
を賜わりました調教授,玉木教授,片峰教授に深厚な
る感謝を捧げます)
文 献
1) Hooper. R.S Cerebral paragonimias j.
Neurosurg II, ; 318, 1954.
2)赤岩JV郎, JV田 桐,林田 政幸:肺ヂストマ
虫の大脳寄生に因する,脳腫疲症状を呈し一症例に
就て.口外会誌. 32:695,昭6.
3)隅田 精- 森本 勉:長崎南高来郡に於ける肺
ヂスト.イの症例.vn巨に長崎地方に於ける本疾患の状況
につevて●長医会誌. 14 (4) :635,昭11.
4)鈴木 稔:脳腫癌として手術を施せる Parago-
nimus脳嚢腫の1例.日外社誌. 42:1684;昭16.
5)陣内伝之軌.山根 真平..肺臓ジストーqによる脳
腫蕩別出2治験例;外科12 (10) : 570昭25.
6)氏家 秋果:肺ヂストマの脳内移転1例.東京医
事新語. 62(12) -48,昭25.
7)戸田 孝:脳内肺ヂストマ症の手術治験4例.精
神神経学雑誌. 52(7) :40,昭25.
8)光野 孝雄:肺吸虫の脳内寄生に就いて.治療.34
C4;;359,昭27●
9)陣内伝之助:肺吸虫による脳腫癌の手術治験例へ
の追加.脳と神経. 4 (1) ;28,昭27.
1o)光野 孝雄:脳肺吸虫症の7追加症例.外科. 18
(7) 465?昭31●
ll) iェ本修治,竹内荘治,川村義-,天羽一夫,木津
新吉:脳内肺ヂストマ症の1例.臨床外科. 9 (4
�"211,昭29,
i2)浅野芳登:寄生虫による所謂脳偽腰痛.神経研究
の進歩. 2 (2):290,昭32.
13)西島早見,堀.;エ法彦:脳内肺吸虫症の1拾験例.
脳と神経. ll (2) :125;昭34.
14)芦沢和敢,首州滋,瀬尾武次:肺吸虫の異所寄生
例.臨床内科小児科. 14 (3) :51;昭34.
15)大谷周庵:肺ヂストマ病患者病歴及剖検記事.束
医会誌. 1 (8) '458.明22.
16)山極勝三郎●東医会誌,4 554;明23.
7)横州 定:肺ヂスト光<の終宿主体内に於ける伝播
路の研究.日新医. 6'-323学.大5
18)安藤 亮:肺ヂストマの研究.中外医事新報.
大6.
19)万納専ニ第20回目本番生虫学会発表,昭26.ズ
52 辻 泰邦,村田 雄三郎,深町 弘光 外8名
Summary
Up to date about 30 surgical cases of paragonimiasis cerebri had been reported in this
country. Recently 2 cases of this disease were successfully surgically treated in our
Surgical Department. The first case was relative to a 18 year old boy who comlained of
convulsive seizures, left hemiplegia and loss of vision. The second case was concerning a
19 year old boy with headach, left hemiplegia and impediment in speach.
In both cases calcific densities were observed on the plain craniograms and the cerebral
angiograms revealed a figure of displacement suggesting the presence of intracranial masses.
Although routine physical examination of the chest gave no particular findings, the X-ray
films suggested an infiltrative lesion of the lungs due to lung flukes. There were no parasite
eggs in the soutum and feces to be seen. Eosinophlia in the peripheral blood and spinal
fluid was not observed. The Wassermann reaction of the blood and spinal fluid was negative
but in the mastic test with the spinal fluid a reaction showing a type of progressive paralysis
was observed. In the second case the intradermal test with a Paragonimus Westermanii
antigen was tried with a positive reaction, by which a sure diagnosis was made ante
operationem. In the first case the test was not executed.
Received for publication February 3,1960
脳肺吸虫症の手術症例 (昭和34年4月現在)
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