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Title 離島産業の展開条件に関する研究-1 : 沖縄の黒真珠養殖業の事例

Author(s) 吉木, 武一

Citation 長崎大学水産学部研究報告, v.33, pp.93-103; 1972

Issue Date 1972-08

URL http://hdl.handle.net/10069/31079

Right

NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE

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離 島産業 の展開条件に関す る研究―I

― 沖縄の黒真珠養殖業の事例―

吉 木 武 一

Studies on Developmental Conditions of

Isolated Islands Industry-I

A Case of Black Pearl Farming in Okinawa

Takeichi YOSHIKI

1.序

現代 日本資本主義の離島問題は過疎化の進展,地 場産業の衰退,住 民生活圏=村 落共同体

の解体などに具現されている。

1960年 頃から開始されたわが国経済の高度成長は閉鎖的な経済構造を温存 してきた離島社

会を本土生産物の販売市場に繰 り込む一方,本 土産業の労働力給源地帯 として再編す るにい

たった。それはわが国産業構造のいち じるしい高度化をもた らしたが,こ の過程で狭隆な市

場 と低賃金労働力を存立基盤とする大方の離島地場産業は生産力的に対応す る術を知 らず,

衰微の一途をたどっている。永年,米 国の統治下にあって軍事基地依存の奇型的な経済体制

を強いられてきた沖縄でもすでに離島問題の発生をみている。それはとりわけ基地経済の直

接的恩恵によくさない離島辺境地におけるモノカルチユア農業 の衰退にもとず く労働力流出

が近年,離 島社会の崩壊を予見 しうるほどに激化 していることか ら明らかである。

1972年5月15日 を期 して沖縄は本土経済のインパ クトを直接,受 ける立場に立たされるに

いたった。本土産業はわが国最後の人的資源未開発地域である沖縄の労働力吸引に向 うであ

ろうし,本 土資本の進出は公害浄化力のある沖縄の立地環境や観光資源開発がその直接的誘

因をなすであろ う。輸送費 と流通マージンをかさ上げした本土商品が沖縄に氾濫するのも時

間の問題である。

沖縄経済がかかる現実を招来すれば少なくとも住民レベルでは"復 帰 しても地獄"で ある

ことはすでに予見されるところであ り,沖 縄が全島的規模で 「離島化」する危険す らある。

だとすれば沖縄経済の自立的発展は現代離島問題を克服す る方向にかすかにその展望がひら

けているともいえるであろう。

この小論の目的は,以 上の観点に立って沖縄における地場産業の展開条件を水産業の領域

において検討す ることである。ここで地場産業として沖縄ではもちろんわが国でもユニーク

な存在である南方系真珠養殖業を素材として取 り上げたのは,他 でもない,そ れが現代にお

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94 長崎大学水産学部研究報告 第33号(1972)

ける離島産業存立の範型をなしているとおもうからである。

2.宝飾品市場における南方系真珠の地位

 南方系養殖真珠にはシPチョウ貝およびクロヂヨウ貝を母語とする2系統の珠がある。こ

れらの南方系真珠は養殖真珠のなかでは最上位に格付けされる宝飾品である。

 アコヤ濃墨真珠との差別化要素として第1にあげられるのが,南方系真珠の稀少性である。

同じカルテヤード産業を母体としていながら,両者は産出のベースを全く異にしている。ち

なみに67年の真珠生産量をみるとアコヤ貝系の養殖真珠が127.5トソにたいしてシロチョウ

貝系の真円真珠が130キロで,後者は前者の0.1%の産出比率になっている。クロチヨウ貝系

の真珠にいたっては同年の浜才量がわずか500粒にすぎない。シロチョウ王系真円真珠がわ

が国の大手真珠会社数社によって南洋諸島で,クロチヨウ貝のそれが世界でただ1ケ所,沖

縄石垣島川平湾で生産されていることをみれば上記の産出比率も容易に首肯できよう。

 差別化要素の第2は珠のサイズ組成が異なることである。アコヤ貝系真珠では直径4~7

ミリの中小珠が中核サイズであるのにたいして南方系真円真珠の場合は10~13ミリの超大珠

が中心サイズになっている。だから,アコヤ貝系真珠はその大部分がグラジエーシヨンやチ

ョーカーといったネックレスに連組みされることによって,つまり多数の珠が集合してはじ

めて完成されたアクセサリー形態を獲得するが,南方系真珠はその1粒1粒がダイヤ,ルビ

ー,サファイヤと同じく指輪アクセサリーのごとき独立した宝飾品となりうるのである。

 差別化要素の第3として品格の違いを指摘できる。真珠の品質評価の3要素である色調,

光沢,巻厚において南方系真珠はアコヤ白系のそれより格段に優れている。過剰生産にとも

なう漁場環境の悪化によって全般的な品質低下が惹起され,加工処理しなければ商品価値を

もちえない粗悪なる「胴珠」「すそ珠」がアコヤ貝系養殖真珠を代表している今日では,天

然真珠とみまがうばかりの品性をもつ南方系養殖真珠とは較ぶべきもない。クロチヨウ今寺

のブラックを基調とする色合いは陳腐化しているホワイト・ピンク系のアコヤ貝真珠を色あ

せさせるほどの格調をもっているし,重厚にてり輝くシロチョウ貝真珠には巻きの薄いアコ

ヤ貝系のそれを圧倒するほどの巻厚がある。

 宝飾品市場において南方系真珠がアコヤ貝回真珠にたいして強力にその価格差別性を主張

しうる所以はダイヤモンド,エメラルド,ルビー,サファイヤといった貴石のなかに加えら

れるだけの奢f多的性格を具備しているからに他ならない。最近,わが国の著名宝石小売店で

売られているクφチョウ貝系養殖真珠の最高価格が,いわゆる指輪仕立てで250万円,最低

価格が10万円,その中心価格帯が20~30万円台であることが何よりその証左である。アコヤ

貝系の真珠ネックレスの国内小売価格が1~5万円台にその中心帯をおいていることと対比

すると一層その高価性が鮮明になる。

 それはまさに真珠アクセサウーの大衆消費時代が到来している今日でも,ステータス・シ

ンボルとなりうるだけの階層標示性を具備し,秋谷重男が『養殖真珠と国内市場一奢修商品

ノート』で正しく指摘しているように「剰余価値を主たる支払源泉とする階層・集団1)」に

よってしか消費対象にはなりえないような貴石であるといってよいであろう。

 沖縄の黒真珠養殖業はかかる高所得階層に依拠して展開しているのである。

1) 秋谷重男:国内市場と養殖真珠,漁業経済研究,第16巻第14号 P.16(1968)

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吉木:沖縄の黒真珠養殖業 95

 3. 黒真珠養殖業の展開過程

真珠がカルチベート産業によって産み出される以上,ダイヤモンドのごときシンジゲート

によってその生産・流通が強力にコントP一ルされないかぎり,宝飾品固有の稀少価値を保

持することは至難である。

 それはカルチヤt一一・・ド・パールがわが国の特産品であって欧米市場にその主たる価値実現の

場があるという需給条件が斯業に平均利潤を上回る超過利潤形成の与件をなすものであった

にもかかわらず,漁場の開放体制の下でこの領域へのおびただしい資本流入によって惹起さ

れた無政府的な生産拡大が,内にあっては利潤範疇そのものをも消滅させてしまうほどの経

営危機を招来し,外にあっては粗悪品の市場氾濫によって海外での声価を落とし,それが輸

出需要の減退となって価格崩落を導き,爆発的な恐慌にまで直進したことによってすでに証

明されたところである。

 わが国における近年の長期に亘る真珠恐慌が示唆しているのは・たとい丁丁品産業であっ

ても,それが生物生産であり,土地(漁場)が中小資本,小生産者多数に開放されているか

ぎり,生産調整は不可能に近いということである。

 とするならば南方系養殖真珠が稀少価値を保持しえているのは,この産業領域にはいぜん

として資本の参回障壁となる何物かが存在することになる。それが何であるかは,沖縄にお

ける黒真珠養殖業の発展経過をたどるうちに明白となるであろうから,差し当りここではそ

の参入障壁こそが南島地場産業の存立基盤でありうるとだけいっておこう。、

 さて,クロチヨウ貝を母指とする真珠養殖の企業化への試行はわが国でも戦前からみられ

ていた。戦前はパラオ島を中心にミクロネシアに8ケ所の南方真珠養殖場が存在したといわ

れ,沖縄では真珠養殖のパイオニアである御木本幸吉が大正9年に石垣島へ進出したのがそ

のこう矢をなしている。御木本は大正13年,石垣島川平湾に養殖場を移し,そこでクロチヨ

ウ貝真珠養殖を行なったが,真円真珠の技術確立をみるにいたらず,ついに昭和15年,同養

殖場を閉鎖し,本土へ引き上げている。

 戦後,沖縄では全島に7ケ所(沖縄本島運天1,慶良間1,宮古島2,石垣島名蔵湾1,

同論川平湾1,西表島1)の南方真珠養殖場ができたが,,川平湾の養殖場をのぞいていずれ

も企業化に失敗し,事業中止のやむなきにいたっている。だから現在は1企業体がその孤塁

を守っているにすぎない。今日,わが国の少数資本が南方で行なっている真珠養殖事業はシ

Pチョウ貝系のそれであるから,クロチヨウ貝を母貝とする真珠養殖場は世界中で石垣島川

平湾ただ1ケ所である。かりにその企業体をR社としておこう。

 R社は戦後,沖縄における民間ベースの外資導入第1号として51年12,月に設立された合弁

会社である。資本金は2万ドルで,大阪の真珠輸出商が40%,地元資本60%の出資比率であ

った。が,翌52年には事業の先行に不安を感じて本土資本は%で株を地元側に譲歩して引き

上げている。

 以来,今日までR社が文字どおりの苦難の道をあるいてきたことは第1表の諸数値が示す

とおりである。                     1

 52年から71年にいたる事業経過でまず注目されるのは歩留率の極端な低さである。つまり

施術貝数にたいする浜揚珠の最終歩留が全期間を通じて20%をこえる年は1年もない。漁場

環境条件の劣悪化いちじるしい長崎県の場合でも,アコヤ貝真珠養殖の最終歩留率が劣等漁

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96 長崎大学水産学部研究報告 第33号(1972)

第1表 川平湾におけるクロチョウ貝真珠養殖の推移 単位 ドル

年 次

91

2345678901234567890

5555555566666666667

買付ヒ禰繊月瞬数34,748

10,189

8,722

7,754

8,976

7,808

1,776

9,787

11,366

11,075

7,139

15,101

17,671

20,724

15,056

22,222

 6023,195

3,691

3,493

5,541

2,913

3,087

1,934

2,664

6,193

10,262

8,242

6,085

9,795

15,106

3,673

13,774

12,599

15,804

54

55.4

56.5

57.7

58.8

59.9

61.3

62L3

63.3

64.1

64.10

65.10

66.2

67.9

68.12

69.10

70.5

71.5 ’

 112

 119

 552

 372

 428

 435

 433

 207

 227

 394

 418

 461

 296

 503

 673

 260

1,630

2,408 ,

歩留率

679677075416914181

834074408645454719

1  11 111           11

売上高

 498 600 4,463

 2,485

 3,879

 3,942

 5,062

 3,400

 3,423

 6,035

 5,726

 6,273

 3,508

 4,496

16,421

 9,565

63,911

110,000

隔単価1売上原価原価率

40171174137699

45869916553318

      1可⊥1⊥て⊥111⊥24.4

36.6

39.2

45.7

4,844

5,383

5,598

5,740

5,565

5,412

5,349

5,412

3,026

 ?

7,723

7,972

7,028

8,829

9,496

6,979

7,919

11,836

10

P1

W0

S3

V0

V3

X5

U3

P3

H7479505173370729

一 一 一 一 一 一 一 一1  [ 一 一 【1189

差引損益

A 4,346

A 3,783

A 1,135

A 3,255

A 1,686

A 1,470

A 287△2ゆ12

  397  ?

A 1,997

A 1,699

A 3,520

A 4,333

 6,925

 2,586

 55,992

 98,164

場で30~35%程度であることをみても,ク『ロチヨウ貝真珠養殖における歩留率の向上がいか

に技術的に難かしいかがわかる。

 62年浜揚時までは大体10~15%の歩留を維持しているが,それ以後69年浜揚時までの7年

間はそれが10%以下に落ち込み,4~6%の最低水準を停迷し,70年時にいたってようやく

10%台に回復し,71年惑乱時にはじ,めて20%o近くに達している。

 この歩留りの悪さは主として施術母貝の脱核によるものである。クロチヨウ貝の場合は施

術後60日以内に一三母貝の大半が核をはきだすといわれている。たとえば67年の施術後60日

経過後の脱核率は79.2%oに及び20.2%の核どまりであったが,2年後の69年浜揚時の最終歩

留は7.1,%となっている。60日経過すれば浜野時まで3割から5割は核どまりするから,要

は施術直後の脱核をどのようにして最小限にくいとめるかにある。

 が,最近は前核技術の向上によって徐々にではあるが歩留りは好転してきている。ちなみ

に68年は60日経過後の脱核率が72.9%で,最終歩留が11.8%の浜揚実績をあげたが,69年に

は半球率が57.9%に低下したことによって最終歩留が19.1%にまでアップしている。

 歩留りとならんで企業収益を直接,左右するものに品質程度がある。浜揚珠総体の品質水

準が時系列的にどの程度,向上したかは浜揚珠1粒当り単価の推移をみるとおよその見当は

つく。平均単価は浜揚初年度の54年から62年までは一貫して上昇傾向を示すが,63年から反

転して67年まで下降し,68年から再び大幅なアップをみている。これから67年頃までは品質

向上にほとんどみるべき成果をあげていないことが知られる。この間,64年にはR社が御木

本とブラック系真円真珠づくりの共同研究をやっているが,不成功におわり,さすがの御木

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吉木:沖縄の黒真珠養殖業 97

本もサジを投げている。

 クロチヨウ貝真珠養殖の場合,品質的に問題となるのは形状と色調である。

 浜揚珠の形状組成を第2表によってみると,53-60年時のそれは真円またはそれに近い円

形の珠が骨揚総数の10~20%程度であ.り,円の形をとりえないバロック珠が15~30%o,全く

形の定まらないものが35~40%,リングが15~35%の割合で浜揚げされている。値打珠であ

るラウンドの浜揚率がいちじるしく低い。そしてこの中にはむろん指輪珠には向かないキズ

物も含まれている。バロックやリングはアクセサリーとして使われはするが,ラウンドにた

いして格はぐんと落ちる。これらの諸数値はクPチョウ貝の場合,真円真珠をつくることが

いかに至難であるかを示唆しているといえよう。

 つぎに第3表によって同期間の江府珠のカラー組成をみると,ブラックの比率は5~7%

で,ペイル・ブラックを含めても15~20%程度でしかなく,ゴールド,ホワイト,シルー〈 一

がそれぞれ大体20~50%の割合で浜揚げされている。

 クロチヨウ貝真珠のオリジナル・カラーはむろんブラックである。これは’]Pチョウ貝系

真珠特有の色調であって,アコヤ貝真珠,シロチョウ貝真珠にはみられないものである。ブ

ラック系の珠はほとんど円形をなしているから,これこそが貴石にふさわしい品性をそなえ

ているのだといってよい。ゴールド,ホワイト,シルバーは色調としては真珠の場合はすで

に陳腐化している。ゴールドのごときは欧米ではもっとも忌み嫌らわれるカラーであって,

真珠業界では禁色となっているものであり,ホワイト,シルバー系はむしろシロチョウ貝養

殖真珠のメイン・カラーである。

第2表 クPチョウ貝養殖真珠の形状組成

浜揚年月

55.5

56.5

57.7

58.8

59.9

61.3

円- 形 バ ロ ッ ク

19 (15.9)

76 (14,6)

83 (22.3)

91 (21.3)

59 (13.6)

47 (10.9)

29 (24.4)

170 (32.6)

68 (18.3)

100 (23.4)

62 (14.3)

70 (16.Z)

不定形リング o計43 (36.1)

191 (36.6)

155 (41.7)

152 (35.5)

178 (40.9)

169 (39.0)

28 (23.5)

85 (16.3)

66 (17.7)

85 (19.9)

136 (31.3)

147 (33.9)

119(100.0)

522(100,0)

372(100.0)

428(100.0)

435(100.0)

433(100.0)

()は比率%を示す。

第3表 クロチョウ貝養殖真珠の色調組成

    1立詰潮激uラ・ク

55.5

57.7

59.9

61.3

2 (1.7)

26 (7.0)

26 (6.0)

23 (5,3)

ペイル・ブラック ゴールド  ホワイト

14(11.8)

49(13.2)

43 (9.9)

42 (9.7)

28 (23.5)

75 (20.2)

91 (20.9)

118 (27.3)

32(26.9)

45(12.1)

80(18.4)

87(20.1)

ミ ルノミー

43 (36.1)

177 (47.6)

195 (44.8)

163 (37.6)

119(100.0)

372(100.0)

435(100.0)

433(100.0)

()内は比率%を示す。

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98 長崎大学水産学部研究報告 第33号(1972)

 かかる形状・色調の組成は現在にいたるまでほとんど変化していない。ということは,つ

まりブラック系真円真珠の油揚比率を大幅に高めるような技術のみるべき進歩がなかったこ

とを意味する。けれども67年頃からこの養殖場では全体的に質のよい珠が揚がりはじめ,ブ

ラック系真円真珠も6%の浜揚比率がコンスタントになったという。

 それが最終歩留の向上とあいまって平均単価の大幅上昇をもたらす結果になっているので

ある。つまり,川平養殖場は20年近くかかって,ようやく貴石にふさわしい真珠をつくる域

に到達したのである。その間のR社の経営的苦闘は筆舌につくしがたいものがあったとおも

われる。なにしろ年とともに増えこそすれ,減る気配のない累積赤字を繰越し,14年間も利

益をみずに経営をもちこたえてきたのであるから。

 その間の収益動向を端的に示すのが第1表に示した売上高対売上原価比率である。マイナ

スの値は売上高を売上原価が上回ったことを示す。そのマイナスは12期に亘るが,よい年で

原価の7,8割,わるい年には原価の苑の売上げしかない。

 こういう経営状態が持続すれば5年とたたないうちに倒産に追い込まれるのが資本制社会

における企業経営の常道である。かかる長期赤字経営の再生産を可能にしたのは長期低利資

金の導入と個人資産の動員であるのだが,’ 鮪鮪メの“幻の黒真珠“にかけた火の玉のような

報念がその基底にあったことを見落してはならないであろう。

 養殖真珠の生みの親である御木本幸吉は企業化を試みてから20年間かかって真珠養殖の技

術的めどをつけているが,R社が黒真珠養殖技術の開発に費した時間は奇しくもそれと一致

している。

 そして最近にいたって経営収支は大幅な黒字に転化した。70年には売上原価にたいして8

倍,71年には9.3倍という驚異的な売上高をマークするにいたった。沖縄の黒真珠養殖業を

になってきたこの経営は18年に亘って累積した4万ドル余の欠損金を一挙にしてふきとばす

ほどの収益力をもつにいたったのである。

 4.収益力の検討

 ここでは黒真珠養殖の経営分析を通じて,その収益力を検討する。

 第4表は長崎県真珠養殖経営階層のなかで中規模上層クラス2経営を抽出し,その財務,

損益内容をR社のそれと比較したものである。

 さて,長崎県のN1, N 2経営体の場合は67年以降の真珠恐慌の下で極度の財務状態悪化

をみており,収益性低下によって投下資本の回収不能におちいり,累積する赤字を借金につ

ぐ借金で埋め,支払利子が利益をくいつぶして,ついには倒産に追いこまれる,という近年

の本土真珠養殖経営の典型的タイプを示している。

 まず,69年期には売上高にたいする売上原価比率がN1,69.2%, N 2,81.6%といずれ

もいちじるしく高い。したがってN1では売上高総利益と一般管理費・販売費が同率で, N2

では前者を後者が大きく上回っており,その結果,売上高純利益率はそれぞれマイナス14.8

%o,マイナス21.3%と大幅赤字を計上するにいたっている。

 表示はしなかったが,N1は65年から71年まで純利益をみるにいたらず,6年間に約1,200

万円,N2は66-70年間に500万円の欠損を積上げている。つまり両経営とも60年代前半の好

況期にたたき出した利益を後半のリセッションで完全にすってしまい,自己資本をくいつぶ

してマイナスになっているのである。ついでにいうと売上高にたいする借入金の比率はN1

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吉木:沖縄の黒真珠養殖業 99

第4表真珠養殖経営の収益性指標 単位 N1, N2:千円, R:ドル

経  営  体

資産

負債・資本

流動資産固定資産

債債計

築島合

動定本

流固資

長 崎 県 沖 縄

Nl N2 R

経営指標

58,689(82.2)*

12,669(17.8)

60,207(84.4)

14,200(19.9)

A3,048(一4.3)

47,647(89.9)

5,317(10.1)

49,385(93.3)

 5,790(10.9)

A2,210(一4.2)

34,795(76.4)

10,770(23.6)

1,949( 4.3)

36,450(80.0)

7,166(15.7)

合 十曇口 71,359(100.0) i 52,965(100.0) 45,565(100.0)

高価益籟益益

面諭叛利利

上 総費 純

上上興業期

赤鳥二野営当

総資本回転率流 動 比 率

自己資本構成比率

総資本利益率売上高利益率

支払利子率借入金/売上高

26,106(100.0)

18,064(69.2)

 8,042(30.8)

 7,908(30.3)

 134( O.5)

A3,871(一14.8)

 36.6

 97.4

A 4.2

A 4.7

 30.8

 20.4

 252.1

19:1瀦181

 3,069(18.5)

 4,084(24.7)

Al,015(一6.1)

D-3,516(一21.3)

68,383(100.0)

17.385(26.4)

48,452(73.6)

21,074(32.0)

27,377(41.6)

24,858(37.8)

 31.3

 96.4

A 4.1

A 6.2

 18.5

 17.0

 209.8

 144.5

1,785.3

 15.7

 54.6

 73.6

 4.0 78.4

注N1, N2は69年度, Rは70年度の営業実績である。*比率%

が67年227%,68年221%,69年252%で,支払利子率も売上高のそれぞれ17.8,18.0,20.4

%と大きな割合を占めるにいたっている。N2の場合も同期間の売上高対借入金比率が142.2,

187.6,209.8%で,これにたいする支払利子率が11.1,11.6,17.O%と同じような傾向をみ

せている。

 つまり,売上高から売上原価を差っ引き,荒利益から金利を支払えば大体パーになりtt借

金を払うために借金する”という,他人資本全面依存の赤字経営に転落しているのである。

しかも真珠市況の悪化・停迷によって売上げが伸びないために総資本回転率は69年にN1,

36.6%,N2,31.3%oといちじ,るしく低率となっており,それと短期借入金の累増がたたっ

て流動資産を流動負債が上回るにいたり,その結果,流動比率がいずれも100%を割ってい

る。

 真珠養殖経営では固定資本部分にたいして流動資本部分のウエイトがきわめて大きく,し

かも投下資本は2,3年後にしか回収できない特質を有するので,かかる流動比率の低下が

そのまま財務状態の悪化につながることはみやすい道理である。かかる経営危機の背景には

漁場環境条件の悪化による歩留の低下とリセッションによる価格崩落がある。

 かくて本土の真珠養殖業は未曽有の真珠恐慌の下で全国的規模において経営危機を招来す

るにいたり,主産地三重県を中心に倒産旋風がまきおこっているのである。

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100 長崎大学水産学部研究報告 第33号(1972)

 倒産の危機に直面している長崎県真珠養殖経営N1, N2と対比するまでもなく,沖縄で黒

真珠養殖を経営するR社の70年期の財務状態はきわめて健全である。

 まず問題の流動比率は1785%と異常なほど高率だ。 これはR社が長期借入金を流動資本

部分に充当しているからで,流動負債項目に入る短期借入金が皆無であることによっている

(負債資本合計にたいする流動負債の割合がN1, N2では8.9割台であるのにたいしてR社

の場合は4.3%と低率であり,固定負債のそれは全く逆になっている)。

 かかる経営タイプにあっては損益動向が借入金によって直接的に規制されない。借金に追

いまくられることは少なく,大きな欠損を出しても支払利子率は比較的低位に押さえられう

る。長期に亘る赤字の累積が自己資本をくいつぶし,70年忌でも売上げの8割に及ぶ膨大な

負債をかかえているにもかかわらず,支払利子率は4%にすぎない。

 それはまた年間1,4回転という資本回転率の高位性とあいまって総資本利益率を54.6%

と大幅に押し上げる結果をもたらしている。かかる高利益率はとうぜん自己資本のウエイト

を高めるはずである。もっとも70年期はR社が創業18年にしてはじめて大幅黒字に転化した

時であり,それまでの繰越欠損が自己資本を縮減させて,構成比率15.7%oにとどまっている

が,この年の純利益が次年度には資本勘定に入るので,流動資本の相当部分を自己資本でま

かなえる位までアップすることは聞違いない。

 R社の黒真珠養殖経営における高収益は今後,長期に亘って維持される見通しなので,早

晩,負債・資本項目で自己資本が流動・個定負債にとってかわるであろう。R社は次年度の

71年も売上高対売上原価比率が92996にも達する大幅黒字を計上するにいたっている。それ

はR社の財務状態が偶発的に好転したのではなく,黒真珠養殖経営がようやく安定軌道にの

り,独占企業体にふさわしい高収益力を具有するにいたったことを示すものに他ならない。

 5.超過利潤の創出とその物的基礎

 黒真珠養殖の技術確立が当該経営資本に高利潤を保証するにいたったことはすでに述べた。

それがクロチヨウ貝系養殖真珠の供給独占によって生みだされているこというまでもない。

 超過利潤創出の物的基礎として第1に漁場独占がある。

 血汐に洗われ,リーフにかこまれている沖縄でも真珠養殖の適地は数えるほどしかないが,

その中でも石垣島の川平湾は最適地とされている。最大キャパシティ30万貝といわれるこの

漁場をR社が独占し,その}/10に当る3万貝程度を養殖しているにすぎない。したがってそ

の漁場利用形態はきわめて粗放であって,漁場の独占状態の下では当該資本は最大限利潤の

実現を目指して,漁場管理を徹底的に行ないうることのよい見本である。逆にいえぼ,漁場

が開放されるならば三重県英虞湾のごとく多数資本による利潤追求が不可避的に漁場豊度を

壊滅的に低下させるだろうことを暗示している。

 もし漁業権によってR社の漁場独占が制度的に保証されれば,今後,斯業に参入する資本

は劣等漁場に進出せざるをえなくなるであろう。そうなると川平湾のような優等漁場には差

額地代の発生をもみることになるであろう。つまり,それほど沖縄における黒真珠養殖漁場

は限定されており,豊度差が大きいのである。したがってそれは少なくとも現段階では資本

の参入障壁の1要素を形づくる自然的条件であるといえよう。

 第2に母貝資源の独占がある。クPチョウ貝を母貝とする真珠養殖業は現在,まだ天然母

貝に全面依存しており,その発展が原料条件に大きく制約されている。

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吉木:沖縄の黒真珠養殖業 101

 たとえば豊産地である八重山諸島の石垣島から西表島の北部リーフ海域におけるクロチヨ

ウ貝の採取可能量は年間2万貝といわれる。つまり,それ以上,採捕するとクロチヨウ貝資

源の再生産力が弱化するだろうということだ。対象漁場を全琉に拡大しても採取可能母無量

はたかがしれている。

 琉球水産研究所八重山支所では数年前から種苗生産技術の開発を行っているが,まだ量産

化の見通しはついていない。餌料生物資源に乏しい亜熱帯のいわゆる“死の海“ではたして

本土のアコヤ貝のような母鳥養殖の企業化が技術的コスト的に可能であるか,今後の技術発

展にまつ他はないが,当分はまだ天然母貝依存を脱却できないことだけは確かである。

 クロチヨウ貝は現在,八重山のダイバーが過り,それをR社が一手に買付けている。浜値

はキロ当り1~1,2ドルであった。いまは全くの買手市場なのであるが,クロチヨウ貝の

資源密度が小さいので,必要量を確保するためにR社は母貝買付価格の引上げを余儀なくさ

れているのである。

 いまこの業種に新たに資本が進出すると誌面需要の膨張によって価格高騰は避けられない。

それはとうぜん当該経営資本の原料費負担を大きくする。長期の採算割れを覚悟しなければ

ならぬ新規参入資本にとってこれは過重負担である。したがってまず原料面から資本の参入

がチエツクされることになる。人工種苗が開発されないかぎり,原料産地立地型の先発企業

R社の母貝資源独占が今後も強固に維持されることは間違いあるまい。

 近年ようやくペイ・ラインに達したR社は施術母貝数を大幅に増やし,養殖規模を拡大し

ていくのではなく,むしろ施術渦雷数はあまり増やさずに,養殖期間を2年半から3年へと

延長し,巻きを厚くすることによって,つまり良質珠生産への重点指向によって貝廻単価の

引上げをねらっている。R社のかかる経営展開が漁場および原料の独占によって可能となっ

ているこというまでもない。

 第3に技術独占がある。

 漁場が生産者多数に開放され,人工種苗の開発によって母貝の量産化が可能になったとし

ても,いま一つ最大の難関として養殖技術の問題がたちはだかっている。なにしろ沖縄で黒

真珠養殖が試みられてからすでに半世紀を経過しているにもかかわらず,クロチヨウ貝を母

貝とする真円真珠の養殖技術は遅々として進歩していない。

 それはR社が20年の歳,月を費して,やっと最終歩留2割,真円黒真珠浜弓率6%の技術水

準に到達していることからも容易に首肯できるであろう。かかる技術条件の下では,新規参

入企業はごくひかえめにみても10年以上の採算割れを覚悟の上で二業しなければならぬ。長

期に亘って投下資本の回収のめどがたたず,経営の拡大再生産が不能であるとすれば,参入

を見合わせるのが資本の論理である。とすれば先発企業R社の技術的優位性はここ当分,つ

いえさることはないであろう。

 クロチヨウ貝養殖真珠の供給独占が技術的独占の性格をまとっている所以である。

 以上のごとき漁場,原料,技術の独占に基づいて創出される高率利潤が独占利潤の範疇に

入るものであることは論をまたない。そして,これらの独占が強固な参入障壁を構築してい

るがゆえに,先発資本に長期安定的な超過利潤を保障するものであることも疑問の余地はな

いであろう。

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102 長崎大学水産学部研究報告 第33号(1972)

 5.供給独占と市場独占

.クロチヨウ貝養殖真珠は世界の宝飾品市場で流通しうる貴石であって,沖縄の特産品の中

でもきわめて特異な国際商品としての性格をもっている。しかし,現在はまだ生産量が僅少

で,浜揚州の一部が東京の宝石商を介して小売りされ,残りをR社が直売しているにすぎな

い0

 71年の浜揚珠数は2,408個で,1粒当りの平均単価は45.7ドルであったが,この年,420個

が本土へ輸出されており,その輸出単価は1粒当り152ドルであった。つまりクロチヨウ貝

養殖真珠の良質部分は大半が本土市場へ輸出されているのである。

 本土では,いわゆる“真珠御三家“のM店が,クロチヨウ貝系真珠の販売を独占している。

M店は真珠恐慌を契機に生産を縮小・休止し,そのネe一一一一ム・バリユt一一一一を活かして国内外に小

売店網を拡張し,養殖真珠の卸(輸出)・小売資本への転換をはかり,宝石小売商としても

一流の謄写をもつにいたっている(大手の一貫業者の中には真珠恐慌の深まりの中で,M店

のように生産を縮少して卸・小売部門の拡充へ向うものと生産過程のシェア拡大を図るもの

があらわれたが,リセッションの打撃をより強く受けたのはむろん後者である。同じ御三家

のT社はひと頃,施:国母貝数1千万貝をこえていたが,無理な生産拡大がたたって10億円を

こえる赤字を累積するにいたっている)。

 そのM店が沖縄特産のクロチヨウ貝系真珠を見逃すわけがない。地価1千万円をこえると

いわれる東京は銀座の中心部に宝石店舗をかまえているM店だからこそ貴石級の南方系真珠

を一手に引受けられるのであろう。国内で真珠の小売を行っている一貫業者はかなりいるけ

れども,クロチヨウ貝真珠をまとまって扱えるものはM店をおいて他にはないといわれる。

 かかる宝石小売資本の市場独占をベースにしてクロチヨウ貝養殖真珠の価値実現がまっと

うされているのである。71年浜中珠を例にとるとR社の売上高の5割のシェアをM店が占め

ている。つまり,R社は本土市場での販売をM店に完全に押さえられているのである。 M店

では,クロチヨウ貝養殖真珠の場合,ごくおおまかにいって,仕入値にたいして良質の真円

真珠には5倍,バロックやリングになると20倍位の掛値をして売っているという。つまり,

浜揚珠でもっとも品格の劣るリングの卸値は1個15~18ドル位であるが,それが金具をつけ

てM店の銀座店頭に飾られる時には10万円の小売値がついているというわけである。

 これからもクロチヨウ貝真珠の小売マージンの大いさが推察できるというものである。ク

ロチヨウ貝養殖真珠の場合,供給独占によって生みだされる膨大な超過利潤の相当部分が小                                売資本によって流通過程で吸い上げられているのである。ひゆ的にいうと供給独占者たるR

社は1万ドル単位の生産利潤をあげているにすぎないが,販売独占者たるM店は1千万円単

位の商業利潤を獲得しているのだ。

 いかに宝石小売商が低回転・高マージンのマーチャンダイジングを必要とし,それに過重

な地代負担がともなっているとしても,M店のR社にたいする価格収奪は苛酷にすぎる。

 M店はR社にたいして直売珠の価格引上げを要請しているという。こうしたM店の販売協

定への動きは本土復帰にともなって本土市場で格安の南方系真珠が売られることへの警戒で

あるともとれる。

 R社はまさに本土市場に直接販売の拠点をつくり,直販価格の引上げを図ることによって

宝石小売商の販売独占の基礎をほりくずす以外にM店の価格収奪から脱却する道はない。今

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吉木:沖縄の黒真珠養殖業 103

後,浜揚珠の品質が向上し,数量も増える見通しであるとすれば,本土市場に独自のマーケ

ツテング・チャンネルを敷設することが不可欠の要件となるであろう。

〔付 記〕

  本稿は昭和46年度:文部省科学研究費にもとずく試験研究「沖縄水産業の発展政策に関する研究」

 (代表九州大学産業労働研究所 中楯興教授)の成果の1部である。