大切な人が (sad)になったら… · 2019-12-26 ·...
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社交不安症(SAD)への
理解を深めるために
知っておきたい病気の知識、
あなたにできることを
Q&A形式で紹介しています。
大切な人が社交不安症(SAD)になったら…
監修:北海道大学 名誉教授 小山 司 先生
ご家族・パートナーのためのサポートガイド
不安(症状)について詳しく知りたい方へ
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2015年11月作成 2015.11. 13882-1 52 GMJ5
1Q 社交不安症(SAD)って何?息子は人前に出て話すとき、極度に上がってしまい、字を書くときも震えてしまいます。本人の性格かと思っていましたが、最近、社交不安症(SAD)という病名があると聞きました。
「人前で話すとき、極度に上がってしまう、ひどく動悸がする」「人前で字を書くとき、手が震えてしまう」など、日常生活が送れなくなるほど人前で強い恐怖や不安を感じてしまう“こころの不調”は、気持ちの持ち方や自身の性格ではなく、社交不安症(SAD)※ の可能性があるといえます。
本人はその辛さを周囲に理解されず、自分の性格の問題だと思ってしまい、病院を受診することをためらってしまいがちです。
しかし、社交不安症(SAD)は、適切に治療をすれば改善します。脳の神経伝達物質のバランスが乱れていることが一因として考えられるため、お薬や精神療法を組み合わせながら治療を行っていきます。
社交不安症(SAD)の治療において、家族やパートナーのサポートは患者さんの大きな支えとなります。社交不安症
(SAD)への正しい理解を深めていきましょう。
※SAD:Social Anxiety Disorder社会不安障害、社交恐怖とも呼ばれることがあります。
社交不安症(SAD)を理解する
Q1.社交不安症(SAD)って何? 3
Q2.社交不安症(SAD)を疑う症状は? 4
Q3.社交不安症(SAD)になる原因は何? 6
Q4.社交不安症(SAD)が社会生活に与える影響は? 8
社交不安症(SAD)を治す
Q5.社交不安症(SAD)を治療する上で大切なことは? 10
Q6.本人が受診をためらってしまう場合は? 11
Q7.社交不安症(SAD)の治療法と治療の経過は? 12
Q8.社交不安症(SAD)で使われるSSRIってどんなお薬? 14
Q9. SSRIはいつまで服用する必要があるの? 15
本人との接し方・サポートできること
Q10.家族はどのように接したらいいの? 16
Q11.本人が人と接する場面でのサポートは? 17
Q12.家族だからできるサポートは? 18
あなた自身が疲れ果てないために 19
A
社交不安症(SAD)を理解する
contents
生活に支障が出るほどに、人前で極度に恐怖・不安を感じてしまう“こころの不調”は、もしかしたら社交不安症(SAD)かもしれません。
3
社交不安症(SAD)に特徴的な症状
社交不安症(SAD)を理解する
社交不安症(SAD)を疑う症状は?
A
2Q
周囲に人がいると用を足すことができない
社交不安症(SAD)には、不安や緊張、そしてそれに伴う回避によって、社会生活の妨げになる可能性がある下記のような症状があります。
あなたの大切な人にこのような症状が出ているか、確認してみることが重要です
人前で発表するのが極度に怖い・緊張する
人と接するのが極度に怖い・緊張する
周囲からの視線が極度に怖い
注目されると緊張で赤面する・汗をかく
人前で食事ができない 人前で文字を書くとき、手が震えて書けない
人前で電話をかけるのが怖い
4 5
健康な場合と社交不安症(SAD)の場合の神経伝達物質(セロトニン)の様子
社交不安症(SAD)を理解する
社交不安症(SAD)になる原因は何?
A
3Q
社交不安症(SAD)の人は不安な状況に対し、健康な人よりも脳の反応が過敏になっています。
また、脳内の神経伝達物質のバランスが乱れ、特に「恐怖・不安」を和らげる役目を果たすセロトニンの量が低下していると考えられます。
社交不安症(SAD)の人に多くみられる性格傾向
健康なときには、脳内の神経伝達物質(セロトニン)の量が一定に保たれています。
神経伝達物質(セロトニン)の量が少なく、神経伝達がうまくできません。
健康なとき
神経
神経
セロトニン
神経
神経
セロトニン
社交不安症(SAD)では
脳内の情報伝達信号の乱れ
社交不安症(SAD)は、適切な治療が必要な“こころの不調”であるとはいうものの、元々の気質として社交不安症(SAD)になりやすい性格傾向があることもわかっています。
心配性で完璧主義
人から良く思われたい
人との交流を求めない
人との交流が苦手
真面目で責任感が強い
原因1
不安を感じやすい性格傾向原因2
原因には大きく2つあり、「脳内の情報伝達信号の乱れ」と、本人に「不安を感じやすい性格傾向」があることです。また、複雑な人間関係が生じ、緊張や不安を感じやすくなる社会環境も背景にあるといえます。
6 7
社交不安症(SAD)による社会生活への影響
社交不安症(SAD)を理解する
社交不安症(SAD)が社会生活に与える影響は?
A
4Q
社交不安症(SAD)は適切な治療をすれば改善しますので、まずはご本人に病院に行くよう促してみることが大切です。
適切な治療
学校生活が可能に
仕事や社会生活がスムーズに
地域との交流を抵抗なく
適切な治療
適切な治療
進学・卒業が困難
就職・就労が困難
地域との交流が困難
治療を続け、症状が改善していくと、今まで恐怖心や不安で避けてきたような場面(人前で話をすることなど)でも落ち着いて対処できるようになっていきます。不安な状況に対処できる経験を多く積んで、本人が自信を持っていくことが大切です。
ドクターアドバイス
社交不安症(SAD)による強い不安感・緊張感を持ちながら社会生活を続けていくと、不安感や緊張感が生じる場面を避けるようになっていき、最終的に引きこもり、社会生活に大きな支障が出てくる可能性があります。
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社交不安症(SAD)を治す
社交不安症(SAD)を治療する上で大切なことは?
本人が受診をためらってしまう場合は?
適切な治療をすれば改善しますので早めに本人が病院を受診することが大切です。社交不安症(SAD)の患者さんは推計で国内に300万人以上いるともいわれており※、決して少ないわけではありません。しかし、「適切に治療すれば改善する“こころの不調”」であることが知られていないことと、
「本人の性格の問題である」と本人だけでなくご家族・パートナーも思いこんでいる面があり、なかなか病院を受診できないでいるというのが現状です。
しかし、本人が苦痛を抱えたままでいると、症状が慢性化する可能性がありますので、何よりもまず早めに病院を受診することが大切です。
社交不安症(SAD)を治療する診療科は「精神科」と「心療内科」になりますので、まずは近くの病院への受診を促してみましょう。ただし、本人は人前に出ることに恐怖心を感じているので、家族やパートナーが病院を探してあげることや一緒に病院に行ってあげることも本人にとって大切なサポートになります。
どうしても本人が受診を拒む場合は、「病気を治療しにいく」ということではなく、あくまで「先生から役に立つアドバイスをもらえるよ」といった抵抗感が少ないアプローチで受診を促してみるのが良いかもしれません。
くれぐれも、「このままだとダメだから病院に行こう」といった、本人の現状を否定するような誘い方はしないようにしましょう。
A “一緒に治療をしていこう”という気持ちで家族やパートナーが受診に付き添ってあげるのも大切なサポートの一つです。
A
5Q 6Q
※SADの 生 涯 有 病 率3~13%( A m e r i c a n Psyc h i a t r i c Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. Fourth Edition, A m e r i c a n P s y c h i a t r i c Association, Washington, D.C., 1994. より)に基づき、日本国総人口1.27億人(総務省統計局人口推計、平成15年10月1日分)より試算。
家族・パートナーの方が社交不安症(SAD)への理解を深めていくことも大切です。
ドクターアドバイス
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社交不安症(SAD)の治療の柱
お薬の服用
精神療法
社交不安症(SAD)を治す
社交不安症(SAD)の治療法と治療の経過は?
A
7Q
社交不安症(SAD)の治療の柱は「お薬の服用」と「精神療法」です。お薬の服用は、脳内の神経伝達物質のバランスを整え、恐怖や不安を和らげます。また、カウンセリングなどの精神療法によって今までの不安に陥りやすい思考パターンを修正し、別の見方もできることを認識していただきます。
適切な治療により社交不安症(SAD)の症状を改善
お薬の服用
お薬の服用と並行して認知行動療法や心理教育などを行い、不安に陥りやすい思考を別の見方ができるようにしていきます。
社交不安症(SAD)の治療経過
お薬はSSRI※の服用がベースになり、人によっては抗不安薬やβ遮断薬などを使用することもあります。※SSRI:Selective Serotonin Reuptake Inhibitor(選択的セロトニン再取り込み阻害薬) 治療で使用されるSSRIの効能・効果:社会不安障害(全てのSSRIに社会不安障害の
効能・効果があるわけではありません。)
SSRIの服薬期間中には主に●悪心 ●眠気 ●頭痛などの副作用があらわれることがあります。
実感できるまでには個人差があり、数週間~数ヵ月かかります。
我慢できないような不安が減ってきて、効果を実感できるようになってきます。
「正しい方法で飲み続ける」ことが大切なお薬です。
服用開始
効果発現
回復・改善維持
強い不安を感じることが少なくなり、通常の社会生活を送ることができるようになっていきます。
※治療経過は患者さんによって異なります。
SSRIという不安症状を改善するお薬の服用とカウンセリングなどの精神療法を行い、症状の改善をはかります。
カウンセリングなど
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SSRIの効果
社交不安症(SAD)を治す
社交不安症(SAD)で使われるSSRIってどんなお薬?
SSRIはいつまで服用する必要があるの?
社交不安症(SAD)の治療では、お薬の服用が基本となります。お薬には頼りたくないという人もいますが、正しく使用すれば効果がみられますので、きちんと本人が服用することが大切です。SSRIには、脳の神経伝達物質のバランスを整える作用があり、不安症状を改善する効果があります。
SSRIは飲んだらすぐに効く・・・というわけではありません。ほとんどの場合、効き目はゆっくりで、効果を自覚できるまで数週間から数ヵ月かかります。また、症状がなくなってからも、症状の再発を抑えるために一定期間はお薬を飲み続ける必要があります。
A 再発を抑えるために、症状が良くなっても一定期間はお薬を飲み続ける必要があります。A
8Q 9Q
健康なときには、脳内の神経伝達物質(セロトニン)の量が一定に保たれています。
神経伝達物質(セロトニン)の量が少なく、神経伝達がうまくできません。
SSRIで治療することにより、セロトニンの量が増え、社交不安症(SAD)の症状が改善していきます。
健康なとき
神経
神経
セロトニン
神経
神経
セロトニン
神経
神経
セロトニン
社交不安症(SAD)では SSRIで治療すると
SSRIは、社交不安症(SAD)の治療のベースとなるお薬です。脳の神経伝達物質のバランスを整え、症状を改善します。
SSRIは正しく服用してこそ、十分な効果が得られます。患者さんご本人の判断で薬を飲むのをやめたり量を調整したりせず、心配なことや疑問がある場合には、必ず医師に相談するように促してください。
ドクターアドバイス
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10Q 11Q
本人との接し方・サポートできること
家族はどのように接したらいいの?夫は引っ込み思案で、人前では極度に緊張してしまうタイプです。本人の性格かと思っていましたが、病院で社交不安症(SAD)と診断されました。家族はこれから、どう接したらよいでしょうか。
本人が人と接する場面でのサポートは?社交不安症(SAD)の治療を続け、良くなってきている娘ですが、まだ人前に出る時には不安や緊張を感じているようです。家族はどこまで本人の代わりにサポートすればよいでしょうか。
なるべく、今までと同じように普段通り接していくことが大切です。患者さん本人と接していくときのポイントは、なるべく、今までと同じように普段通り接していくということです。不安を抱えている本人に対し、過度に心配しすぎたぎこちない態度で接してしまうと、その不自然さが、かえって本人にとって負担となってしまうことがあります。
本人の辛い気持ちを思いやりながら、日常生活でのコミュニケーションは普段通りにしていくことが大切です。
ただし、特に本人が人前に出る場面では、ご家族・パートナーの方のサポートが必要な場合もあるので、本人と話し合いながら、少しずつお互いの理解を深めて回復にむかっていきましょう。
本人の改善具合を見守りながら、その時その時に合った対処の仕方を一緒に考えていくことが大切です。社交不安症(SAD)の人は会議や会食、電話の受け答え、受付での手続きなど人前で接する場面が苦手です。治療中にそのような場面が本人に訪れた場合、どうしても本人が対処できない場合は、家族やパートナーの方が代わりにサポートしてあげるのもいいでしょう。
ただし、本人が社会生活をスムーズに送っていくためには、そのような人前での場面を自分自身で対処していく経験を積み重ねることも必要です。単に何でもサポートするということではなく、本人の改善具合を見守りながらその時その時に合った対処の仕方を一緒に考えていきましょう。
本人の代わりに対処をする
A A
人と接する場面での対処法
本人の改善具合を見ながら対処方法を一緒に考えましょうドクターアドバイス
本人と一緒に対処をする
本人だけで対処してもらう
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12Q
本人との接し方・サポートできること
家族だからできるサポートは?社交不安症(SAD)に苦しむ夫に何かしてあげたいのですが、何をしてあげたら良いかわかりません。アドバイスをお願いします。 あなた自身が疲れ果てないために
大切な人が十分にリラックスできる環境を整えてあげることが大きなサポートになります。社交不安症(SAD)では、病院での治療だけでなく、患者さん本人が規則正しい生活習慣を実践する“セルフケア”も重要です。不安を感じやすい患者さんが自分の生活リズムで毎日を送れるよう、十分にリラックスできる環境を整えてあげることも、患者さんが回復をしていく上で大きなサポートになります。
社交不安症(SAD)は適切な治療をすれば改善しますが、多くの場合、長期戦となります。患者さんとともに治療を続けていく中で、思うように改善しないと、家族やパートナーの負担も大きくなり、「なんでもっと早く気づけなかったのだろう」「私の接し方が悪いのではないか」と自分を責めてしまい、心身ともに疲れ果ててしまうことがあります。
家族・パートナーの方にとって一番のポイントは過度な期待をせず、“ゆっくり、待つこと”です。社交不安症(SAD)の治療には時間がかかることを念頭に置き、いずれ必ず良くなっていくことを信じて、自分自身の健康も大切にしてください。
A
最後に
ご自身の健康にも気を配りながら大切な人をサポートしてあげてください。
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