事業地域の位置図 本事業により建設された鉄道橋( …6...

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ベトナム 南北統一鉄道橋梁緊急リハビリ事業(1)(2)(3) 評価者:2007 年度ベトナム・日本合同評価チーム 2007 1 現地調査:2007 12 1. 事業概要 事業地域の位置図 本事業により建設された鉄道橋(ビンディン省) 1.1 背景 ベトナムの鉄道は、19 世紀のフランス植民地時代の建設から始まった。ベトナムの鉄道網 は、7 つの幹線ルート 2 , で構成されており、すべて単線の軌道で、未電化線路である。 1935 年に完成した 3 ハノイ-ホーチミン線 4 は、北部、中部、南部を結ぶ総延長 1729kmベトナムで最も重要かつ最長の路線であり、ベトナム鉄道の全路線総延長の 3 分の 2 占めていた。 当時、橋梁、軌道、路盤、車両、信号および通信設備、保守設備などの鉄道インフラの 大部分は、ベトナム戦争(19591975 年)による被害や、設備投資、資機材、保守不足 のため、著しく劣化していた。ハノイとホーチミンシティの間には約 1300 カ所の鉄道橋梁( 総延長 2 8000 メートル)があり、1975 年の南北統一後、ベトナム政府による応急復旧 が行われたものの、その多くは老朽化し、損傷は著しいものであった。多くの鉄道橋梁で は時速 30km 以下の速度制限および重量制限が課されており、鉄道橋梁の老朽化は、 1 2007 年度ベトナム・日本合同評価チームでは、対象事業別に 3 つの作業部会を設け、各部会が担当事業 の評価を行った。本事業の事後評価を担当した鉄道部会のメンバーは、Mr. Nguyen Thanh BinMr. Le Va Mr. Cao MinhMr. Tong Quang VinhMr. Nguyen Ngoc Son(ベトナム鉄道)、Mr. Tran Duc ToanMr. Dang Viet Dung(計画投資省)、Mr. Nguyen Ngoc Hai (運輸省)、Mr. Do Trong Hieu(交通開発戦略研 究所)、Mr. Mai The Cuong(ベトナム経済大学)、宮崎慶司(OPMAC株式会社)であった。 2 ①ハノイ-ホーチミン線(1726km)、②ハノイ-ハイフォン線(102km)、③ハノイ-ラオカイ線(296km)、④ ハノイ-ランソン線(150km)、⑤ハノイ-クオンチェウ線(75km)、⑥ハノイ-ケプ-ハイチャイ線(170km)、お よび⑦ケプ-クオンチェウ線(55km)。 3 ハノイ-ホーチーミン線の建設工事期間は、ハノイ-ビン区間(18991905 年)、ビン-フエ区間(1913 1927 年)、フエ-ニャチャン区間(19301936 年)、ニャチャン-サイゴン(ホーチミンシティ)区間(19051913 年)であった。 4 以前はハノイ-サイゴン線と呼ばれていた。 1

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Page 1: 事業地域の位置図 本事業により建設された鉄道橋( …6 貨物輸送量の単位は「百万トン・km 」である。 3 がハノイ-ホーチミン線により輸送された。2007

ベトナム 南北統一鉄道橋梁緊急リハビリ事業(1)(2)(3)

評価者:2007 年度ベトナム・日本合同評価チーム 20071

現地調査:2007 年 12 月

1. 事業概要

事業地域の位置図 本事業により建設された鉄道橋(ビンディン省)

1.1 背景 ベトナムの鉄道は、19 世紀のフランス植民地時代の建設から始まった。ベトナムの鉄道網

は、7 つの幹線ルート 2 ,で構成されており、すべて単線の軌道で、未電化線路である。

1935 年に完成した3ハノイ-ホーチミン線4は、北部、中部、南部を結ぶ総延長 1729kmの

ベトナムで も重要かつ 長の路線であり、ベトナム鉄道の全路線総延長の 3 分の 2 を

占めていた。

当時、橋梁、軌道、路盤、車両、信号および通信設備、保守設備などの鉄道インフラの

大部分は、ベトナム戦争(1959~1975 年)による被害や、設備投資、資機材、保守不足

のため、著しく劣化していた。ハノイとホーチミンシティの間には約 1300 カ所の鉄道橋梁(

総延長 2 万 8000 メートル)があり、1975 年の南北統一後、ベトナム政府による応急復旧

が行われたものの、その多くは老朽化し、損傷は著しいものであった。多くの鉄道橋梁で

は時速 30km 以下の速度制限および重量制限が課されており、鉄道橋梁の老朽化は、

’ 1 2007 年度ベトナム・日本合同評価チームでは、対象事業別に 3 つの作業部会を設け、各部会が担当事業

の評価を行った。本事業の事後評価を担当した鉄道部会のメンバーは、Mr. Nguyen Thanh Bin、Mr. Le Va、Mr. Cao Minh、Mr. Tong Quang Vinh、Mr. Nguyen Ngoc Son(ベトナム鉄道)、Mr. Tran Duc Toan、

Mr. Dang Viet Dung(計画投資省)、Mr. Nguyen Ngoc Hai(運輸省)、Mr. Do Trong Hieu(交通開発戦略研

究所)、Mr. Mai The Cuong(ベトナム経済大学)、宮崎慶司(OPMAC株式会社)であった。 2 ①ハノイ-ホーチミン線(1726km)、②ハノイ-ハイフォン線(102km)、③ハノイ-ラオカイ線(296km)、④

ハノイ-ランソン線(150km)、⑤ハノイ-クオンチェウ線(75km)、⑥ハノイ-ケプ-ハイチャイ線(170km)、お

よび⑦ケプ-クオンチェウ線(55km)。 3 ハノイ-ホーチーミン線の建設工事期間は、ハノイ-ビン区間(1899~1905 年)、ビン-フエ区間(1913 年

~1927 年)、フエ-ニャチャン区間(1930~1936 年)、ニャチャン-サイゴン(ホーチミンシティ)区間(1905~

1913 年)であった。 4 以前はハノイ-サイゴン線と呼ばれていた。

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Page 2: 事業地域の位置図 本事業により建設された鉄道橋( …6 貨物輸送量の単位は「百万トン・km 」である。 3 がハノイ-ホーチミン線により輸送された。2007

鉄道輸送上の安全性、積載能力および全体的な効率性において重大な問題となってい

た。このような状況のもと、ベトナム政府は、ハノイ-ホーチミン線の鉄道橋梁の緊急リハ

ビリ事業を 優先に掲げていた。

1.2 目的 本事業の目的は、ハノイ-ホーチミン線において、安全上緊急に架け替えを必要とする 9カ所の橋梁の架け替えを行い、列車運行の安全性の確保および輸送効率の改善により、

もって南北間の物流を促進し、国民経済の発展に貢献することを目的とする。

事後評価に適用されたロジカルフレームワーク 上位目標 1. 南北間の物流の促進

2. ハノイ-ホーチミン線沿線の地域開発 3. 生活水準の向上

事業目的 1. ハノイ-ホーチミン線の列車運行の安全性と信頼性の向上 2. ハノイ-ホーチミン線の輸送効率の改善

アウトカム 1. 旅客貨物輸送量の増大 2. 運行数の増加 3. 所要時間の短縮 4. 橋梁の速度制限の向上 5. 鉄道事故件数の減少

アウトプット 1. ハノイ-ホーチミン線の老朽化した 9 カ所の橋梁の架け替えまたは補強 2. コンサルティング・サービス

インプット 事業期間:1994 年 1 月~1999 年 12 月(計画) 事業費:134 億 5600 万円(計画)

1.3 借入人/実施機関 ベトナム社会主義共和国/ベトナム鉄道公社(Vietnam Railways Corporation: VNR)

1.4 借款契約の概要 第 1 期(VNI-6) 第 2 期(VNII-6) 第 3 期(VNII-6) 借款承諾額/実行額 40 億 4200 万円/

39 億 8000 万円 5400 万円/

5300 万円 73 億 4100 万円/

52 億 9900 万円 交換公文締結日 / 借款契約調印日

1994 年 1 月 28 日/

1994 年 1 月 28 日 1995 年 4 月 18 日/

1995 年 4 月 18 日 1996 年 3 月 29 日/

1996 年 3 月 29 日 借款契約条件 - 金利 - 返済期間

(据置期間) - 調達

金利 1.0%

30 年 (10 年)

一般アンタイド

金利 1.8%

30 年 (10 年)

一般アンタイド

金利 2.3%

30 年 (10 年)

一般アンタイド 貸付完了 2002 年 2 月 7 日 2000 年 9 月 14 日 2005 年 7 月 26 日 本体契約 (10 億円以上のみ記

りんかい建設(日本)・松尾橋梁(日本)

・Civil Engineering Construction Corporation No.1(ベトナム)の共同

2

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載) 企業体、三井建設(日)・三井造船(日)・三井物産(日)

・Thang Long Construction Corporation(ベトナム)の共同企業体、 Civil Engineering Construction Corporation No.1(ベトナム)

・Thang Long Construction Corporation(ベトナム)の共同企業体 コンサルタント契約 (1 億円以上のみ記載

パシフィック・コンサルタンツ・インターナショナル(日本)・日本交通技

術(日本)の共同企業体、日本交通技術(日本)・パシフィック・コンサ

ルタンツ・インターナショナル(日本)・Vietnam Railway Research

and Design Institute(ベトナム)の共同企業体、Railway Investment&Construction Consultant Co.(ベトナム)・日本交通技術(日本)・

パシフィック・コンサルタンツ・インターナショナル(日本)の共同企業

体 事業化調査(フィージビ

リティ・スタディ:F/S)等 1993 年 9 月、国際協力銀行(JBIC)案件形成促進調査(SAPROF)

チーム

2. 評価結果(レーティング:A)

2.1 妥当性(レーティング:a)

本事業は審査時および事後評価時の双方において、ベトナム政府の開発政策・施策、

およびニーズに整合する形で計画・実施された。よって、当該事業の妥当性は高い。

2.1.1 ベトナム開発政策との整合性 本事業の目的は、審査時および事後評価時の双方において、同国の「社会経済開発計

画」、2020 年までのベトナム鉄道輸送セクター開発マスタープラン、および「包括的貧困

削減・成長戦略(CPRGS)」のめざす方向性と調和している。

2.1.2 ニーズとの整合性 審査時および事後評価時の双方で、鉄道輸送の安全性の問題および増大する旅客・貨

物需要の問題において、ハノイ-ホーチミン線の鉄道橋のリハビリに対するニーズが高い

ことが認められた。

審査時点では、ハノイ-ホーチミン線の鉄道橋は、建設から 60 年以上経過しているうえ

に、ベトナム戦争による損壊および不十分な投資や補修の結果、危険な状態であり、鉄

道システムの安全運行を脅かしていた。そのため鉄道橋のリハビリは急務であった。現在

でもハノイ-ホーチミン線にはまだ多くの老朽化し、脆弱化した橋があり、それらの橋梁に

対するリハビリまたは補強は引き続き急を要する課題となっている。

ハノイ-ホーチミン線は、ベトナム鉄道システムにおける旅客・貨物輸送でも重要な役割

を果たしてきた。審査時点ではベトナムの全鉄道システムの旅客の 82%5、貨物の 66%6

’ 5 旅客輸送量の単位は「百万人・km」である。 6 貨物輸送量の単位は「百万トン・km」である。

3

Page 4: 事業地域の位置図 本事業により建設された鉄道橋( …6 貨物輸送量の単位は「百万トン・km 」である。 3 がハノイ-ホーチミン線により輸送された。2007

がハノイ-ホーチミン線により輸送された。2007 年現在では、鉄道システム全体の旅客の

85%、貨物の 60%がハノイ-ホーチミン線により輸送されている。ベトナムの鉄道輸送シ

ステムにおけるハノイ-ホーチミン線の重要性

輸送能力を高めることは合理的な判断であ

った。現在でも本事業の継続事業として、日

本のODA

はきわめて高く、同線の旅客・貨物の鉄道

.2 効率性(レーティング:a)

事業期間は

.2.1 アウトプット なわち、9 カ所の鉄道橋

7により、ハノイ-ホーチミン線の老

朽化の激しい 44 カ所の鉄道橋の架け替え

が実施中である。

2事業規模の拡大により、実際の

遅れたが、当初計画の事業スコープの完成

に費やされた期間はおおむね計画どおりで

あり、実際の事業費は計画事業費を下回っ

た。よって、本事業の効率性についての評

価は中程度と判断される。

2計画アウトプット(す

梁のリハビリ)は、ビンロイ橋(Binh Loi)を除

きすべて完成し、事業費の余剰資金を利用

して追加アウトプット(すなわち、11 カ所の鉄道橋梁のリハビリおよび追加工事 が実施さ

れた(表 1)。11 カ所の鉄道橋梁の追加分のリハビリには、1998 年 11 月の洪水被害を受

けたダナンのバウタイ橋(Bau Tai)の復旧が含まれる。コンサルティング・サービスの作業

量も計画の 1034 M/M と比較して 1035 M/M 増加し、実際の作業量は 2069 M/M となり、

当初計画比の 2 倍(200%)であった。

図 1: 対象地地図

ビンロイ橋(Binh Loi)リハビリが取り止めとなった理由は、ホーチミン市マスタープラン8.の変更により、1996 年に行われた本事業の第 3 期事業の審査の際に、事業スコープから除

かれたためである。被災したバウタイ橋(Bau Tai)の復旧は、緊急措置として事業スコープ

に追加された。

7 円借款事業である「南北鉄道橋梁安全性向上事業(I)(II)」(2004~2012 年)。主要な事業概要は、(a)44ヵ所の鉄道橋の架け替えおよびアプローチ部分の改修工事、(b)踏切撤去と立体交差化等の付帯設備建設

、(c)運行・維持管理用設備の調達、(d)入札補助および施工管理にかかわるコンサルティング・サービス。総

事業費は 238 億 6800 万円(うち円借款額:117 億 3700 万円)である。 8 ホーチミン市のマスタープランは、交通渋滞に対処するため、サイゴン駅を市の中心部から移転することを

提案していたため、サイゴン駅近くに位置するビンロイ(Bin Loi)橋のリハビリが不要になったためである。ビン

ロイ橋のリハビリの取り止めは、ホーチミン市人民委員会により要請された。

4

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残りの追加アウトプットである 10 カ所の鉄道橋梁については、1993 年のJBICの調査9の

際にも調査対象となっていたこともあり、ベトナム鉄道の要請を受けて、優先度と緊急性の

観点から、余剰資金を利用してリハビリが実施された。コンサルタントの投入量の増加の

理由は、リハビリ対象の橋梁の数が増えたためであるが、詳細設計、入札・契約補助、施

工管理等のコンサルティング・サービスのスコープについては、変更はなかった。

表 1:事業アウトプットの計画および実績比較 計画 実際

橋梁のリハビリおよ

び架け替え(橋梁名

<9 橋梁> 1. Cho Thuong 橋 2. Chanh Hoa 橋 3. Bach Ho 橋 4. Gia Vien 橋 5. Truong Xuan 橋 6. Ganh 橋 7. Da Rang 橋 8. Song Cai 橋 9. Binh Loi 橋

<当初計画の 8 橋梁> 1. Cho Thuong 橋 2. Chanh Hoa 橋 3. Bach Ho 橋 4. Gia Vien 橋 5. Truong Xuan 橋 6. Ganh 橋 7. Da Rang 橋 8. Song Cai 橋

<追加分の 11 橋梁> 9. Bau Tai 橋

10. My Chanh 橋 11. Phu Bai 橋 12. Nong 橋 13. Phong Le 橋 14. Ky Lam 橋 15. Chiem Son 橋 16. Ru Ri 橋 17. Bong Son 橋 18. Song Chua 橋 19. Thach Tuan 橋 * 追加工事

コンサルタンティング

・サービス 合計:1,034 M/M

a) 外国人コンサル 218 M/M b) ローカルコンサル 816M/M

合計:2,069 M/M a) 外国人 393 M/M b) ローカル 1,676M/M

注)追加分に含まれる工事:橋梁スパンおよび橋脚の改修、自動警報システムおよびフェンスの設置、アンダーパスの建設

河川保護工事等。

2.2.2 事業期間: 本事業は、6 年間遅れ、計画期間比 200%の遅延であった。しかしながら、当初計画の事

業スコープに費やされた事業期間と計画事業期間との比較した場合、計画に対し 7 カ月

の遅れであり、計画期間比 110%であった。

表 2:計画と実際の事業期間比較 計画 実際

1994 年 1 月~1999 年 12 月(6 年) (1993 年の第 1 期(VNI-6)審査時点)

<当初計画スコープの事業期間> 1994 年 1 月~2000 年 12 月(6 年 7 カ月) * 計画に対し 6 カ月の遅れ(=110%) <当初計画スコープを含む全体事業期間> 1994 年 1 月~2005 年 12 月(12 年) * 計画に対し 6 年の遅れ(=200%)

注 1)事業期間は、契約調印から工事完了までとみなす。 2)以下のフェーズにおいて、借款契約の期限延長が行われた。

・第 1 期(VNI-6):1999 年 2 月 7 日から 2002 年 2 月 7 日まで 3 年延長。 ・第 3 期(VNIII-6):2001 年 7 月 26 日から 2005 年 7 月 26 日までの 4 年延長。

追加スコープを含む事業の遅延は、11 橋のリハビリのための追加工事の実施によるもの

であった。その他の理由は、①コンサルタントおよびコントラクターの調達手続きの遅れ、

②設計コンサルタントの能力不足による詳細設計の遅れ、③事業管理(プロジェクトマネ

’ 9 ベトナム社会主義共和国「南北統一鉄道橋梁緊急リハビリ事業に係る案件形成促進調査(SAPROF)」(

1993 年 9 月)。SAPROF調査では、緊急に補修が必要なハノイ-ホーチミン線の 18 カ所の鉄道橋梁のリハ

ビリに関するフィージビリティ・スタディが実施された。

5

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ジメント)の経験不足、JBIC借款手続き・ガイドライン

への不慣れなどに起因する鉄道事業管理局(RPMU)の事業実施・管理の諸手続きの遅れ、④事業実施

の 終段階におけるコントラクターの資金難による遅

れ 10、⑤悪天候および事業の実施中に発生した洪水

などの自然災害による影響、などであった。

上記の要因のうち、とりわけ追加 11 橋のリハビリは

大の遅延理由であり、この特殊性を考慮した結果、本

合同評価チームでは、当初事業スコープは効率的に実施されたと判断した。

Cho Thuong 鉄道橋 (ハッティン省)

2.2.3 事業費: 計画の 134 億 5600 万円に対

して、実際の事業費は 110 億

2000 万円で、計画事業費の

82%であった(表 3)。追加事

業費およびコンサルティング・

サービスの作業量の増加にも

かかわらず、実際の事業費は

計画よりも少なかった。そのお

もな理由は、①競争入札によ

る事業費節約効果、②費用見積りから事後評価までの期間のベトナムの通貨単位ドンに

対する円高による日本円表示の事業費の低減などであった。

表 3:事業費の計画と実際比較 計画

(百万円)

実際 (百万円)

1. 建設工事 10,058 8,3032. 予備費 1,109 03. コンサルタンティング・サービス 1,264 1,7914. 用地取得および住民移転 254 3205. 税金 771 1746. 一般管理費 0 433

Total 13,456 11,020注記) 1) 計画事業費は 1996 年の第 3 期(VNIII-6)の審査を意味する。 2) 計画費用に使用された為替レート 1VND =0.01JPY (1993 年) 3) 実際の費用に使用された為替レート 1VND =0.008JPY (1994~2005 年

平均)

2.3 有効性(レーティング:a)

事業の実施は、ほぼ計画どおりの期待された成果を実現した。よって、本事業の有効性

は高いと判断される。

2.3.1 鉄道運行の安全性と信頼性の向上 所要時間の短縮、橋梁の速度制限の向上、列車事故件数、受益者調査等の結果を総

合的に評価した結果、事業目的の「ハノイ-ホーチミン間の鉄道運行の安全性及び信頼

性の向上」は達成されていると判断される。

’ 10 本事業は、ベトナムで初めての鉄道セクターに対する円借款事業であったため、多くの現地コントラクタ

ーが契約獲得をめざして激しい価格競争を行った。そのため、一部のコントラクターは資金難に陥り、事業実

施の 終段階でサービスの提供が困難になった。この責任の一部は、ベトナム鉄道が国際的基準および慣

行に基づく入札業務に対する経験不足にあると考えられる。

6

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表 4:事業対象橋梁の制限速度 橋梁

位置 (Km)

1994 (Km/H)

2007(Km/H)

1 Cho Thuong 橋 338+020 2 Chanh Hoa 橋 511+298 40 80 3 Bach Ho 橋 687+300 15 60 4 Gia Vien 橋 687+680 30 60 5 Bau Tai 橋 818+450 60 70 6 Truong Xuan 橋 926+648 15 70 7 Ganh 橋 1088+540 15 80 8 Da Rang 橋 1199+868 15 80 9 Song Song Cai 橋 1311+125 15 80

10 My Chanh 橋 561+084 30 70 11 Phu Bai 橋 706+752 30 70 12 Nong 橋 708+743 30 70 13 Phong Le 橋 800+639 30 70 14 Ky Lam 橋 817+037 15 70 15 Chiem Son 橋 819+082 15 70 16 Ru Ri 橋 838+191 30 80 17 Bong Son 橋 1017+953 15 70 18 Song Chua 橋 1198+645 15 80 19 Thach Tuan 橋 1212+227 30 80 出典:ベトナム鉄道

(1) 所要時間の短縮 ハノイとホーチミンシティ間の旅客列車の所

要時間は、1994 年の 36 時間から 2007 年に

は 29 時間になり、7 時間短縮された。事業

実施後、所要時間は約 20%短縮された。

(2) 橋梁での速度制限の向上 事業実施前に、大部分の事業対象の橋梁

では、時速 15~30kmに速度が制限されて

いたが、事業実施後は、大幅に向上して時

速 60~80kmとなった11。速度制限の向上は

ハノイとホーチミンシティ間の所要時間の短

縮に寄与している(表 4)。

(3) 列車事故の減少 ハノイ-ホーチミン線の事故件数は、

2004 年以降、減少傾向を示している

(図 2)。ベトナム鉄道の鉄道安全局

によると、大部分の事故原因は、危

険で、違法な横断によって起こる踏

切での対車両および対人列車衝突

である。また、列車の運転士のスピー

ドの出しすぎによる脱線も代表的な

原因のひとつである。そのような事故

の根本的原因は、軌道、橋梁、踏切

、信号システム、人的資源等の鉄道インフラの遅れにあると考えられる。ただし、ベトナム

鉄道によると、鉄道橋での事故発生は、事業実施の前も後においてもほとんどなかったと

のことである。

図 2: ハノイ-ホーチミン線の事故件数

出所:ベトナム鉄道

0

20

40

60

80

100

120

1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007

事故数

050100150200250300350400450500

死傷者数

事故件数 死亡者 負傷者

近年の鉄道事故が減少した要因は、2004 年以降、ベトナム鉄道が以下に示す安全対策

への取り組みを行ったことが大きい。すなわち、①メディアや出版物を通じ人々の鉄道安

全意識を高めるキャンペーンを行ったこと、②主要都市の危険な踏切にフェンスやバリア

を設置したこと、③青少年同盟や学生ボランティアの協力を得て、彼らを繁忙期に駅や踏

切等へ派遣し交通整理を行ったこと、④200 カ所に自動信号システムを設置し、また踏切

に立体交差やアンダーパスを建設するなど安全設備の改善を行ったこと。本事業対象の

’ 11 対象橋梁の設計速度は、旅客列車の場合時速 110kmとなっている。

7

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いくつかの橋梁でも、周辺住民のためにアンダーパスの建設が実施された。その意味に

おいて、本事業は鉄道事故の減少に対して直接的な影響を与えたと言えるが、その貢献

度については限定的であるように思われる。むしろ、2004 年以来、ベトナム鉄道による一

連の努力と取り組みが 近の列車事故の改善の 大要因である。

しかし、かつて危険な状態であった対象 19 橋梁の安全性と信頼性が本事業により確保さ

れたことは特筆すべきである。ハノイ-ホーチミン線の安全な運行を確保するという観点

から、本事業の貢献度は少なくない。

2.3.2 輸送効率 旅客・貨物輸送量、列車や機関車の本数、受益者調査等の結果を総合に評価した結果

、事業目的の「ハノイ-ホーチミン線の輸送効率の改善」は達成されていると判断される。

ハノイ-ホーチミン線は、ベトナムの旅客・貨物輸送で重要な役割を果たしてきた。

① 旅客・貨物輸送量の増加 ハノイ-ホーチミン線の旅客数に基づく旅客輸送量は、1994~2006 年の期間、1.6 倍に

増加し、同期間の年平均成長率は 3.9%であった。ハノイ-ホーチミン線の人・km 単位の

旅客輸送量は、1994~2006 年の期間、3.1 倍に増加し、同期間の年平均成長率は 9.9%であった(図 3)。図 3 は、ベトナムの旅客数に基づく列車旅客総数のほぼ半分がハノイ

-ホーチミン線で輸送されている一方、人・km 単位では、ベトナムの列車旅客の約 85%

が同路線で輸送されていることを示している。

旅客輸送量(百万人)

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

ハノイ-ホーチミン線 ベトナム鉄道全体

旅客輸送量(10億人・キロメートル)

0500

1,0001,5002,0002,5003,0003,5004,0004,5005,000

1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

ハノイ-ホーチミン線 ベトナム鉄道全体

出典:ベトナム鉄道公社 出典:ベトナム鉄道公社

図 3:旅客輸送量(1994~2006 年)

ハノイ-ホーチミン線のトン単位の貨物輸送量は、1994~2006 年の期間、1.6 倍に増加し

、同期間の年平均成長率は 4.1%であった。ハノイ-ホーチミン線のトン・km に基づく旅

客輸送量は、1994~2006 年の期間中、2.4 倍に増加し、同期間の年平均成長率は 7.6%であった(図 4)。同様に、図 4 は、ベトナムのトン単位の列車貨物総数量の約 35%がハ

ノイ-ホーチミン線で輸送されている一方、トン・km に基づくとベトナムの列車貨物の約

60%が同路線で輸送されていることを示している。

8

Page 9: 事業地域の位置図 本事業により建設された鉄道橋( …6 貨物輸送量の単位は「百万トン・km 」である。 3 がハノイ-ホーチミン線により輸送された。2007

② 運行数の増加 ハノイとホーチミンシティ間の旅客列

車の本数は、1993 年の 1 日あたり上

下列車 4 本から 2007 年には 1 日あ

たり上下列車 12 本に増加し、3 倍増

であった。ベトナム鉄道によると、着

実に増大している旅客需要に応える

ため、ハノイ-ホーチミン線の旅客列車の運行数の増加が優先された。しかし、長距離、

中距離、短距離を含むベトナム鉄道の全路線を見ると、1993 年の 1 日あたり上下列車 50本から 2007 年には 1 日あたり上下列車 70 本に増加した。

表 5:運行数(ハノイ-ホーチミン間)

1993 2007 旅客列車 1 日あたり上下列車 4 本 1 日あたり上下列車 12 本

貨物列車 1 日あたり上下列車 8 本 1 日あたり上下列車 6 本

出典:ベトナム鉄道公社 注:ベトナムでは、1 日あたり列車本数は、ハノイからとホーチミンシテ

ィ、ホーチミンシティからハノイの両方向の 1 日あたり列車本数で

計算される。

貨物輸送量(百万トン)

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

ハノイ-ホーチミン線 ベトナム鉄道全体

貨物輸送量(10億・キロメートル)

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

ハノイ-ホーチミン線 ベトナム鉄道全体

出典:ベトナム鉄道公社 出典:ベトナム鉄道公社

図 4:貨物輸送量(1994~2006 年)

ベトナム鉄道は、旧式機関車および旅客・貨物列車を交換し、 新設備を購入して輸送

能力の増強をはかってきた。1994~2006 年の期間に、機関車数(324 本)はわずかに減

少したが、同期間中に貨物列車(262 本)は増加した(表 6)。このことはハノイとホーチミン

シティ間の列車の本数の増加にも貢献している。

表:6 ベトナム鉄道所有の機関車および列車数 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007

機関車 371 349 359 361 339 392 398 427 385 382 371 330 336 336旅客列車 774 780 796 746 784 856 880 903 958 1,003 1,050 1,063 1,068 1,098

貨物列車 4,861 4,838 4,673 4,712 4,702 4,530 4,308 4,329 4,403 4,613 4,920 4,984 5,023 5,123

出典:ベトナム鉄道公社

2.3.3. 事業効果に対する受益者の意識12 ① 鉄道旅客の意識 鉄道サービスの満足度に関する鉄道旅客の受益者調査の結果によると、回答者の 10%

(回答者 4 名)が「非常に満足」と評価し、回答者の 69%が(回答者 27 名)「はい、一定の

満足」と回答した。鉄道旅客の満足度は高い(図 5)。全般的に見れば、インタビューを行

った旅客の 93%が現在の鉄道サービスに満足していた。

’ 12 受益者調査の概要については「囲み 1:受益者調査の概要」を参照。

9

Page 10: 事業地域の位置図 本事業により建設された鉄道橋( …6 貨物輸送量の単位は「百万トン・km 」である。 3 がハノイ-ホーチミン線により輸送された。2007

インタビューした旅客のほぼ全員が本

スにおけるプラスの変化を認識してい

た。72%の旅客が以前より所要時間

が短縮されたこと、または時間どおり

に運行されるようになったことを認識

していた。67%の旅客が列車の快適

事業について知らなかったが、 近の鉄道サービ

答は安全性(69%)、快適性(59

13が向上したと回答し、26%の旅客

が列車での移動は安全と感じたこと

を認識していた(図 6)。 鉄道を利用する理由に関し、大部分

の回

5:鉄道旅客の満足度

図 7:移動に鉄道を利用する理由

図 6:鉄道旅客の意識

10%

8%

0%

13%

69%

0 5 10 15 20 25 30

非常に満足

一定の満足

やや不満足

非常に不満足

不明

回答数(N=39)

13%

67%

72%

26%

0 5 10 15 20 25 30

所要時間が短縮した/定時性が向上した

快適性が向上した

安全性が向上した

変化なし/時々遅延する

回答数(N=39)

備考:複数回答

59%

69%

31%

26%

0 5 10 15 20 25 30

安全性

快適性

利便性

料金の安さ

回答数(N=39)

備考:複数回答

%)、利便性(31%)および比較的に

安い価格(26%)を挙げていた。これ

らの理由は、種々の輸送機関のなか

で、鉄道を利用する旅客にとって利

点と見なされる。特に、ベトナムで近

年増加し続ける道路交通事故といっ

た社会的問題は、安全に対する人々

の意識を変えつつある。すなわち輸

送手段を選択する際の条件として、

安全性が 優先されるようになってき

ている(図 7)。

② 省・市政府および企業の意識 インタビューを行った 5 つの省・市政府 14、貨物輸送会社 2 社、ベトナム商工会議所(

VCCI)ダナン支部は、安全性と信頼性の向上、所要時間の短縮、旅客・貨物輸送量の

増加等、事業の主要な効果についてよく認識していた。

13 快適さは、騒音や振動がなく、車内が清潔であること、列車の寝台設備(寝台車)の利用可能性、車窓か

ら見える景色、乗車券の買いやすさ、団体旅行の収容能力などといったことと関連している。 14 インタビューの対象となった省・市人民委員会は、クアンナム省、カインホア省、ビンディン省、ビントゥアン

省、およびホーチミンシティであった。

10

Page 11: 事業地域の位置図 本事業により建設された鉄道橋( …6 貨物輸送量の単位は「百万トン・km 」である。 3 がハノイ-ホーチミン線により輸送された。2007

2.4 インパクト 2.4.1 ベトナムの南北間の物流の促進に対するインパクト 前項の「輸送効率」および図 3 と 4 で示したとおり、

1994 年~2006 年の期間に、ハノイとホーチミンシテ

ィとの間の旅客・貨物輸送は着実に伸びた。インタ

ビューした省・市政府の多くは、ハノイ-ホーチミン

線がベトナムの輸送で重要な役割を果たしてきたと

の見解であった。

ハノイ-ホーチミンシティ間において鉄道輸送貨物

の品目および種類については、いくつかの変化や多様化が認められた 15 。しかし、主要

商品の推移や多様化と本事業との関連性ははっきりしないが、「ベトナムの南北間の物流

の促進」に対するインパクトはプラスであるように思われる。

Gia Vien 鉄道橋(フエ)

同時に、さらに安全性の高い、高速の鉄道運行を実現するだけでなく、鉄道旅客・貨物

輸送の能力を高める余地があることが明らかになった。受益者調査の結果は、ベトナムの

鉄道旅客・貨物に対し多くの需要があることを示しているが、既存の老朽化し、脆弱化し

た鉄道橋 16、単線、貧弱な荷役設備、老朽化した貨車、主要港湾との接続の悪さ等、現

在の鉄道インフラが抱える制約条件を考えると、増大する需要に対してベトナム鉄道が対

応することは困難である。さらに、受益者調査ではベトナム鉄道のおそまつな経営が指摘

されている。これらの問題および制約は、ベトナム鉄道およびベトナム政府の双方の努力

によって解決される必要がある。

2.4.2 地域開発に対するインパクト 全般的に、これまでの 20 年間のハノイ

-ホーチミン線沿線の省・市の地域開

発はプラスであった。例えば、2000~

2003 年の期間、ハノイ-ホーチミン線

沿線の 21 省・市の平均 GDP は 7~13%であった。1995~2006 年の期間、省

・市の工業生産高の年平均成長率は

15~31%、省・市の農業生産高の年平

均成長率は 2~7%であった。ただし、ダナン((-0.1%)やホーチミンシティ(1.4%)等の

表7:ハノイ-ホーチミン線沿線の主要港湾貨物取扱量(単位:1,000 トン)

港湾地域 2003 2004 2005 2006 ハイフォン 12,732 13,207 14,043 17,207サイゴン 44,599 47,888 53,299 59,247ダナン 4,756 4,958 4,734 5,093ゲアン 849 1,018 1,375 1,310クイニョン 2,844 3,402 3,523 3,965ニャチャン 3,464 4,189 4,037 3,769カントー 676 1,010 1,365 1,183クアンニン 14,634, 19,387 22,717 28,100合計 84,556 95,060 105,094 119,874出典:ベトナム海運総局(Vinamarine)

’ 15 1991 年には、主要商品は、穀物(22%)、化学肥料(20%)、セメント(9%)、リン鉱石(7%)、石炭(6%)で

あった。公式な統計データはないが、ベトナム鉄道によると、現在、ハノイからホーチミンシティへ鉄道で輸送

されている主要商品は、ガラス粉末、化学肥料、一般消費財、セメントであり、ホーチミンシティからハノイへ

輸送されている商品は、米、一般消費財および魚醤などである。 16 ベトナム鉄道によると、ハノイとホーチミン間に約 1300 カ所の鉄道橋があるが、依然として 278 カ所の橋梁

は、老朽化し、脆弱化した状態であり、大規模なリハビリを要するとのことである。

11

Page 12: 事業地域の位置図 本事業により建設された鉄道橋( …6 貨物輸送量の単位は「百万トン・km 」である。 3 がハノイ-ホーチミン線により輸送された。2007

都市部を除く)。2003 年~2006 年の期間、ハノイ-ホーチミン線沿線の主要港湾の貨物

取扱量は増加した(表 7)。顕著な変化のひとつは、同地域の急速な工業開発である。現

在、ハノイ-ホーチミン線沿線の 21 省・市で、合計 46 の工業団地が操業中、24 の工業

団地が準備中または建設中である。

これらのめざましい業績は、多くの要因によるものである。たとえば、海外直接投資(FDI)促進や道路網、港湾、電力、電気通信等の経済・社会インフラに対する積極的な投資を

含む政府の経済・産業政策等である。鉄道インフラへの投資は、この業績の一因であっ

たと思われるが、本事業と地域開発との関連性は薄いように思われる。

しかし、本事業は、鉄道セクターであらたなビジネスチャンスを促進した。たとえば、2006年 12 月に、民間事業者により、ホーチミンシティとベトナム南部の有名なビーチリゾートで

あるニャチャン間のあらたな観光列車(5 スターエクスプレス)の就航が開始された。2006年には、鉄道セクターの自由化および民間の参入を促進することを目的とした新鉄道法

のもと、ベトナム鉄道との譲許的契約に基づき、民間セクターによるハノイとホーチミン間

の貨物輸送サービスが開始された。また、省・市政府に対するインタビュー調査により、カ

インホア省およびビントゥアン省等の南中央沿岸地域の観光開発が、鉄道および国道 17

がもたらした同地域とホーチミンシティ間の所要時間の短縮により促進されたことが判明し

た。

2.4.3 住民の生活水準の向上に対するインパクト ハノイ-ホーチミン線沿線の 21 省・市は、紅河デルタ、北中央沿岸、南東地域に位置し

ているが、2002 年から 2004 年までの期間、ベトナムのすべての地域において、貧困率の

改善が見られた。ベトナムおよび地域別の 1 人あたり平均所得も増えた。省・市政府への

インタビュー調査では、人々の経済状態および生活水準の向上が確認された。しかし、こ

れは、本事業のインパクトというよりは、おもに同国および各地域の経済成長・開発による

ものである。 表 8:貧困率

(単位: %)

表9:1人当たり平均所得 (単位:1,000 VND)

2002 2004 1999 2002 2004 国全体 28.9 19.5 国全体 295.0 356.1 484.4地域別 地域別

紅河デルタ 22.4 12.1 紅河デルタ 280.0 353.1 488.2北東部 38.4 29.4 北東部 210.0 268.8 379.9北西部 68.0 58.6 北西部 n.a. 197.0 265.7北中央沿岸部 43.9 31.9 北中央沿岸部 212.4 235.4 317.1南中央沿岸部 25.2 19.0 南中央沿岸部 252.8 305.8 414.9中央高原地帯 51.8 33.1 中央高原地帯 344.7 244.0 390.2東南部 10.6 5.4 東南部 527.8 619.7 833.0メコン河デルタ 23.4 19.5 メコン河デルタ 342.1 371.3 471.1

出典:ベトナム統計局(GSO)

出典:ベトナム統計局(GSO) 注:価格はコンスタントプライス表示。

’ 17 ランソンからカマルまでの国道 1 号線の道路と橋梁もJBIC、世界銀行、アジア開発銀行の協力により、リ

ハビリが実施された。

12

Page 13: 事業地域の位置図 本事業により建設された鉄道橋( …6 貨物輸送量の単位は「百万トン・km 」である。 3 がハノイ-ホーチミン線により輸送された。2007

2.4.4 自然環境に対するインパクト 大部分の工事は、既存鉄道橋のリハビリであったため、事業実施中もその後も自然環境

に対する特段のマイナスの影響は認められなかった。

2.4.5 用地取得・住民移転に対するインパクト 計画どおり、本事業により総面積 32 万 9305m2 の用地が取得された。また、31 世帯

(Bach Ho橋周辺の 20 世帯およびGanh橋周辺の 11 世帯)が移転した。ベトナム鉄道によ

れば、移転手続きは、対象となった住民の生活水準の維持を考慮して、それぞれの法令

に基づき実施された。特段のマイナスの影響は報告されていない。

2.4.6 橋梁工事における作業者の能力強化に対するインパクト 本事業を通じて多くの新しい技術およびノウハウ18がベトナム側に導入され、約 20 人の技

術者の海外研修を含め、約 2500 名の技術者に対し専門的な業務の研修が行われた。

’ 18 本事業により導入された技術およびノウハウの例を以下に示す。①PMUを設置し、国際慣行に基づく事

業管理のノウハウ、②作業の質を向上させるための日本およびその他の国の処理、手順、技術基準、③大

口径埋め込み杭、PC桁、斜張橋、PC橋の架橋技術、深礎杭の設計・工法およびスーパーT桁など。

13

Page 14: 事業地域の位置図 本事業により建設された鉄道橋( …6 貨物輸送量の単位は「百万トン・km 」である。 3 がハノイ-ホーチミン線により輸送された。2007

囲み 1:受益者調査の概要 ベトナム政府と JBIC による合同事後評価チームは、ハノイ-ホーチミン線沿線の 5 つの省・市の人

民委員会、貨物輸送会社および旅客に対して下記の種類の受益者調査を実施した。 1) 各省の人民委員会に対する半構造的型インタビュー(SSI) クアンナム省、カインホア省、ビンディン省、ビントゥアン省およ

びホーチミンシティの 5 つの人民委員会へインタビューを行った

。インタビューを受けた人民委員会の多くは、所要時間の短縮

、高速化および信頼性の向上等、鉄道サービスのプラスの変化

を認めた。必ずしもインタビューを受けた方全員が各省における

事業の直接的影響を明確に認識しているわけではなかったが、

多くは、ベトナムの南北輸送網におけるハノイ-ホーチミン線の

重要な役割を認めていた。

ビントゥアン省人民委員会とのインタビュー

東南地域のビントゥアン省やホーチミンシティ等の省・市は、観光振興に対する本事業のプラスの

影響を認識していた。彼らは、ファンティエット(ビントゥアン省の省都で、ベトナム南部の有名なビ

ーチリゾート)とホーチミンシティ間の所要時間が 6 時間から 4 時間に短縮されたことによって、以前

より多くの旅行客が鉄道を利用するようになったと分析している。同時に、ランソンからカマルまで

延びる国道 1 号線の整備もこの地域の観光開発に多大な貢献をしたと考えられる。1 つのよい例と

して、民間鉄道事業者が、ベトナム鉄道のインフラを利用して、ホーチミンシティとニャチャン間で

豪華旅客列車の運行を開始したことが挙げられる。また、ビントゥアン省も鉄道会社と協力してファ

ンティエットの既存駅のリハビリおよび拡張を計画し、駅までのアクセス道路の建設に 2000 万~

2500 万 VND を投資する予定である。 2) 企業・団体との半構造的型インタビュー(SSI) 貨物輸送会社 2 社(そのうち 1 社はベトナム鉄道グループ傘下

の貨物輸送会社)およびベトナム商工会議所(VCCI)ダナン支

部とのインタビューが実施された。インタビューを受けた企業は

、安全性および鉄道サービスの信頼性の向上、所要時間の短

縮および旅行客の増加等の事業効果を確信していた。そのよう

な事業の利益を得て、事業を拡大し、より多くの顧客を獲得し、

収益を増やした。同時に、不十分な鉄道インフラおよび管理の

不備等、既存の鉄道システムの制約も指摘された。 ホーチミン市の貨物輸送会社との

インタビュー

3) 鉄道旅客との半構造的型インタビュー(SSI) ハノイ-ホーチミン線沿線の 4 つの主要な駅で総数 39 名の鉄道

旅客にインタビューした。内訳は、ハノイ駅で 10 名、フエ駅で 6名、ダナン駅で 13 名、サイゴン駅で 10 名であった。 当初は、受益者調査の一環として、ハノイ-ホーチミン線沿線の

いくつかの省の地域住民を対象にフォーカス・グループ(FG)を

行うことを計画していた。しかし、評価チームは、地域住民が必

ずしも鉄道利用者ではなかったことから、FG の実施が困難であ

ることがわかった。その代わりに、事業実施後の鉄道サービスの

直接的変化を把握するために、鉄道旅客に対する半構造的型

インタビューを実施した。

フエ駅での鉄道旅客とのインタビュー

14

Page 15: 事業地域の位置図 本事業により建設された鉄道橋( …6 貨物輸送量の単位は「百万トン・km 」である。 3 がハノイ-ホーチミン線により輸送された。2007

2.5 接続性(レーティング:b) 概して、実施機関ならびに運営・維持機関における制度上および技術上の能力について

の問題は見受けられないが、長期的なリスクとして維持管理予算の制約が挙げられる。事

業施設の現在の状況は良好である。したがって、当該事業の持続性は中程度であると判

断できる。

2.5.1 実施機関及び運行・維持管理機関 運営・維持機関の組織体制について、特段の問題はない。ベトナム鉄道本部のインフラ

管理部の監督下、鉄道管理会社(RMC)10 社が、ハノイ-ホーチミン線の事業対象橋梁

の維持管理に直接従事している。役割分担および意志決定の流れは明確で、政府の規

制に基づいている。

近、ベトナム鉄道は、2009 年までに現行の組織を以下の 5 つの会社グループに組織

改変することを計画している。すわわち、①ハノイおよびサイゴン鉄道旅客輸送会社グル

ープ、②貨物輸送株式会社グループ、③鉄道管理会社 20 社のグループ、④機関車製

造会社グループ、⑤建設会社や旅行会社を含む他の鉄道サービス会社グループ。残り

の既存組織および機能はベトナム鉄道本部に属する。将来の新組織においては、各会

社グループは、もっと独立した管理および商業ベースの組織を抱えることになる。本部は

会社グループ 5 社の持株会社として機能し、資本・財務管理によりグループを支配する。

鉄道管理会社グループは、引き続き事業対象橋梁の運行・維持管理の責任を担い、運

営・維持管理予算はベトナム鉄道本部を通してベトナム政府により配分される。

2.5.2 運営・維持管理技術能力 事業対象設備の維持管理のため、運営・維持管理要員に対し十分な研修が実施されて

いる。現在、総数 6505 名のスタッフが以下の 10 社の鉄道管理会社(RMC)で仕事をして

いる。内訳は、775 名(Ha Ninh)、640 名(Thanh Hoa)、749 名(Nghe Tinh)、579 名(

Quang Binh)、927 名(Quang Tri)、744 名(Quang Nam)、822 名(Nghia Binh)、518 名

(Thuan Hai)、869 名(Phu Khanh)、662 名(Sai Gon)。スタッフはベトナム鉄道の技術訓

練コースへの参加が義務づけられている。ベトナム鉄道の自己査定によると、RMC の現

在の技術的能力には特段の問題はないとのことである。

2.5.3 運営・維持管理の財政状態 必要な予算の約 60%が運行・維持管理に充当されている。おもに、維持管理資金の 90%は政府から支出され、残り 10%はベトナム鉄道の収益から出ている。維持管理資金に

使われる収益は、広告、民間事業者の賃借料、キオスク等の駅の設備の賃借料等の総

収益の 80%から生じたものである。旅客および貨物輸送サービスによる収益は、維持管

理資金との関連性はない。ベトナム鉄道によると、仕事に優先順位をつけ、限られた予算

のもとで運営・維持管理業務の実施を余儀なくさせられているが、予算の問題にはいつも

15

Page 16: 事業地域の位置図 本事業により建設された鉄道橋( …6 貨物輸送量の単位は「百万トン・km 」である。 3 がハノイ-ホーチミン線により輸送された。2007

直面している。これは、長期的にはベトナム鉄道の運行・維持管理能力の低下をもたらす

危険性がある。

2.5.4 運営・維持管理の状態 事業対象橋梁はすべて良好に保たれている。ベトナム鉄道の自己査定およびフィールド

調査中の評価チームによるいくつかの橋梁の目視点検によれば、対象 19 鉄道橋の状況

は良好に保たれている。ベトナム鉄道および RMC は、運輸省に定められた国内基準に

基づき、日常保守、定期保守、大規模補修および緊急保守を含む維持管理業務を実施

している。これまでのところ、維持管理計画の内容および実施に特段の問題は認められな

い。

3. 結論および教訓・提言 3.1 結論 以上により、本事業の評価はきわめて高いと言える。

3.2 教訓 3.2.1 投資準備および設計

本事業のフィージビリティ・スタディは、短期間で準備されたため、実施中の事業スコープ

の修正、変更、追加が数多く行われた。

3.2.2 調達 事業の円滑な実施および製品やサービスの質の確保のためには、能力のある適切なコン

サルタントおよびコントラクターの調達が鍵となる。

3.2.3 用地取得 事業用地の問題は、事業の遅れを引き起こす可能性のある重大な要素であり、その準備

・取得などは早い時期に解決すべきである。

3.2.4 手続きおよび規則 事業の実施において、関連するベトナム国内法規および手続き、およびドナーの規則と

ガイドラインを理解することがきわめて重要である。

3.3 提言 3.3.1 投資準備および設計 詳細設計の評価と審査期間を短縮するため、国際基準にあうようにベトナム鉄道の技術

基準を向上させるべきである。

16

Page 17: 事業地域の位置図 本事業により建設された鉄道橋( …6 貨物輸送量の単位は「百万トン・km 」である。 3 がハノイ-ホーチミン線により輸送された。2007

3.3.2 調達 ベトナム鉄道は、国際基準・慣行に基づく調達ガイドライン、手続きの開発、および職

員の研修により、調達業務能力を向上させる必要がある。

3.3.3 調和化 運輸省(MOT)、ベトナム鉄道および計画投資省(MPI)は、ベトナム国内法政策なら

びにODA事業の手続きをドナーのガイドラインと調和化させる必要があることを認識し

なければならない。

3.3.4 維持管理 持 続 性 を確 実 にするため、財 務 省 (MOF)と運 輸 省 (MOT)は、鉄 道 セクターの適 切

な維持管理予算を確保するよう継続的な努力を払う必要がある。

17

Page 18: 事業地域の位置図 本事業により建設された鉄道橋( …6 貨物輸送量の単位は「百万トン・km 」である。 3 がハノイ-ホーチミン線により輸送された。2007

当初と実際のスコープ比較

項 目 計 画 実 績

①アウトプット (a) 橋梁のリハビリお

よび架け替え

<対象橋梁:9橋 > 1. Cho Thuong橋 2. Chanh Hoa橋 3. Bach Ho橋 4. Gia Vien橋 5. Truong Xuan橋 6. Ganh橋 7. Da Rang橋 8. Song Cai橋 9. Binh Loi橋

<当初計画分:8橋 > 1. Cho Thuong橋 2. Chanh Hoa橋 3. Bach Ho橋 4. Gia Vien橋 5. Truong Xuan橋 6. Ganh橋 7. Da Rang橋 8. Song Cai橋 <追加分; 11橋 > 9. Bau Tai橋 10. My Chanh橋 11. Phu Bai橋 12. Nong橋 13. Phong Le橋 14. Ky Lam橋 15. Chiem Son橋 16. Ru Ri橋 17. Bong Son橋 18. Song Chua橋 19. Thach Tuan橋

(b) コンサルタンティ

ング・サービス

合計 : 1,034 M/M a) 外国人 : 218 M/M b) ローカル: 816M/M

合計 : 2,069 M/M a) 外国人 : 393 M/M b) ローカル: 1,676M/M

②事業期間 :

1994年 1月~1999年 12月 (6年)

注記)計画期間は、1993年の第 1期(VNI-6)審査時点に基づく。

<当初スコープ> 1994年 1月~2000年 7月

(6年 7カ月)

<追加アウトプットを含む> 1994年 1月~2005年 12月

(12年)

③事業費 : 外貨 現地通貨 合計 うち円款部分 換算レート

99億 8,000万円 34億 7,600万円

(3,476億 00百万 VND) 134億 5,600万円 114億 3,700万円 1 VND= 0.01円 (1993年現在)

注記)計画事業費は、1996年の第 3期(VNIII-6)審査時点に基づく。

55億 3,000万円 54億 9,000万円

(6,862億 5,000万 VND) 110億 2,000万円

93億 3,200万円 1 VND= 0.008円

(1994~2005年平均)

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