「第13次 5か年計画」...第13次5か年計画 -...

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2016年10月 kpmg.com/cn 「第13次 5か年計画」 -中国経済の構造改革 と世界経済との融合 中国企業と外資系企業のビジネスチャンス に関する分析レポート

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Page 1: 「第13次 5か年計画」...第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

2016年10月

kpmg.com/cn

「第13次5か年計画」-中国経済の構造改革

と世界経済との融合

中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する分析レポート

Page 2: 「第13次 5か年計画」...第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

b 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

はじめに

第1章 第13次5か年計画とビジネスチャンス:新段階、新理念、新事業機会

1.1 中国経済の新たな成長段階及び潜在的なビジネスチャンス

1.2 「13・5計画」の成長戦略とビジネスチャンス

1.3 経済モデルに7つの側面:「13・5計画」期間のFDI及びODIを行うタイミング

第2章 イノベーション型の経済構造及び産業のアップグレード:新興工業とハイテクサ ービス業にビジネスチャンス

2.1 バイオ医薬品産業:技術協力と産業の再編にビジネスチャンス

2.2 新素材産業:先端素材グラフェンなどに注目

2.3 ハイエンド設備産業:主要分野を「5つ」から「8つ」へ変更、主要産業の新しいビジネスチャンスを強調

2.4 インターネット産業:黄金期を迎える国家戦略に盛り込まれたビックデータ

2.5 科学技術サービス業:新興産業の経済技術・金融が重点分野

第3章 集約型産業と構造転換:伝統的重化学工業及びサービス業にビジネスチャンス

3.1 資源産業:資源のクリーン利用促進及び参入障壁の緩和がもたらすビジネスチャンス

3.2 化学工業:安全・環境保全にビジネスチャンス

3.3 冶金産業:地場産業の高度化にビジネスチャンス

3.4 伝統設備製造業:製造インテリジェンス及びサービス指向製造分野にビジネスチャンス

3.5 伝統型サービス業:商業・貿易・流通業及び「インターネットプラス」で伝統型サービス業を高度化

第4章 協調型の地域成長モデルと開発の最適化:地域を跨ぐインフラ整備、都市群の 連結及び都市・農村部の建設にビジネスチャンス

4.1 地域を跨ぐインフラ整備:「3+1」地域発展戦略によるビジネスチャンス

4.2 都市間のインフラ産業:「20+1」都市圏の発展によるビジネスチャンス

4.3 新型都市インフラ整備:新型都市化及び新型中小都市の構築によるビジネスチャンス

4.4 農村のインフラ建設:美しい農村の建設及び新型農村建設がもたらすビジネスチャンス

第5章 グリーン成長戦略及び自然環境保全の優先策:グリーンサービス業、グリーン金 融業及びグリーン技術産業にビジネスチャンス

5.1 環境産業:水・大気・土壌関係のエコ産業に投資する余地が拡大

5.2 グリーン金融産業:グリーン信用貸付、債券、保険及びファンドが急成長

5.3 グリーン技術産業:新エネルギーカー及びグリーン建材市場の高成長

目次

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2

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 1b 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

第6章 共有型社会の構築及び国民生活水準の向上:消費財産業の高度化及 び安全性の向上並びに公共サービス産業にビジネスチャンス

6.1 ハイエンド消費財産業:電子商取引が高級ブランド品産業の新たな成長を推進

6.2 食品安全産業:食品の安全性検査及びトレーサビリティ市場の見通しが拡大

6.3 ヘルスケア産業:中国のヘルスケア行動計画に多くのビジネスチャンス

6.4 教育産業:民間資本が教育産業に集中参入

6.5 養老産業:養老市場の全面的な開放による新たな投資ブーム

6.6 ベビー・マタニティ産業:「2人っ子政策」がベビー・マタニティ産業の新たなビジネスチャンス

6.7 コミュニティサービス業:スマートコミュニティ・エコシステムを基盤とするサービス業の革新と成長

6.8 保険業:改革・促進が生み出すビジネスチャンス

第7章 海外に向けて開放された事業構造とグローバル化の進展:従来型製造 業、エネルギー・資源産業、工事請負事業及び海外農業事業の投資に ビジネスチャンス

7.1 従来型製造業:生産能力分野の国際協力によって国内外の企業提携のチャンスを創出

7.2 エネルギー・資源産業:対外直接投資企業(ODI)によるエネルギー・資源の拠点の建設推進

7.3 工事請負業:「一帯一路」のインフラ建設の「海外進出」を推進

7.4 農業・食品産業:海外農業資源のM&A及び外資系企業の中国農業への進出

第8章 成熟型経済体制と制度改革:寡占産業、戦略新興産業、 現代サービス業にビジネスチャンス

8.1 天然ガス産業:川下・川上の改革による相次ぐ開放で民間資本に明るいシグナル

8.2 石油・石油化学産業:価格の市場化と市場開放によって改革深化を促進

8.3 電力業:電力需給体制の重要改革が再始動

8.4 電気通信業:基礎電気通信サービスへ民間資本の参入規制を緩和

8.5 鉄道業:鉄道事業の市場化改革が民間資本から注目

8.6 金融業:金融体制の改革は民間資本にビジネスチャンス

第9章 おわりに:新たな出発点、計画及びビジョン

9.1 新たな出発点:中国の次の5か年成長の幕開け

9.2 新たな計画:構造転換の加速、改革の深化そして全面的な開放

9.3 新たなビジョン:市場の健全な発展のための政府職能を転換、ルールを遵守し世界経済に貢献

添付付録:中国の構造転換、産業分野、地域発展及び政策によるビジネスチャ ンス概観図

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はじめに

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 3

このたび、KPMG中国のグローバル・チャイナ・プラクティス(以下、“GCP”)は、第13次5か年計画の分析レポートのシリーズ第2弾となる「第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合 :中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する分析レポート」を発表しました。本報告書では、2016年から2020年の5年間に中国企業と外資系企業双方にビジネスチャンスが到来することについて踏み込んだ分析を行ないました。既に発表されているレポートのシリーズ第1弾では、「第13次5か年計画 ― 中国経済の構造改革及び世界経済との融合:計画要綱のスポットライト及び投資チャンスの発見」ⅰでは、「国民経済及び社会発展の第13次5か年計画の制定に関する中国共産党中央委員会の提案」ii を基に分析を行い、中国企業と外資系企業が、効率性の向上、地域経済の均衡的発展、環境保護、世界経済との融合加速、国民生の安定と向上、体制の改革推進という6つの提案から投資へのビジネスチャンスを探求すべきであることを述べました。今回は、「国民経済と社会発展の第13次5か年計画の要綱」iii から以下の7つの重点分野におけるビジネスチャンスについてさらに踏み込んだ解説を試みます。

1. 革新型経済構造への改善と産業のアップグレード: 次世代産業やハイテクサービス業への投資範囲の拡大

2. 産業構造改革の推進: 従来型の産業やサービス業に対する構造改革及び高度化に伴うさらなるビジネスチャンスの拡大

3. バランス型の新たな地域経済成長モデルの形成: 国内のインフラ整備及びサービス業にとって絶好の投資タイミング到来

4. グリーン成長の加速化、環境保護最優先の提唱: 環境産業、グリーン金融業及びグリーン技術産業の企業はさらに多くのビジネスチャンス

5. 共存型社会の構築、生活水準と質の向上: ハイエンド消費財産業、食品安全産業及び公共サービス産業のビジネスチャンスが顕著に増加

6. 対外開放水準の向上、世界経済との融合加速: 従来型の製造業、資源産業、建設業及び国際的農業にビジネスチャンス

7. 体制改革の促進、市場化に向けた改革の深化: 寡占産業、戦略的産業及び次世代型サービス産業へ参入する投資家に多くのチャンスを創出し、対中国直接投資(以下、FDI)及び中国企業の海外直接投資 (以下、ODI)を一層円滑に推進

中国の事業環境に対する懸念とこれほど大規模な改革プログラムを実施する難しさは私達も理解しています。しかし同時に、この13次5か年計画が中国の対内・対外双方向の直接投資活動にとっての黄金期をもたらすであろう可能性も強く認識しています。当然ながら、本報告書中で私達が試みている分析とその結果は、今後5年間に起こるであろうさまざまな事象、特に本報告書中で議論している大胆な改革の進展とそこから生じるであろう事業機会の有無などに強く左右されます。そのリスクを踏まえながら、我々の今回の分析は下記の3つの論点を提示するものです。これはその後の私達と中国政府当局者との議論からも裏付けられています。

論点#1、中国政府は、経済構造の改革の新たな牽引役の創出、次

世代産業の育成、新制度の確立、ニッチ市場の開拓に取り組んでい

る。これらの政策は、中国に投資する外資企業が新分野の開拓やよ

り良い事業環境の完備を図る助けになるだけでなく、海外進出を通じ

て獲得するリソースならびに技術・ノウハウを中国国内の新規事業の

開拓に応用しようとする国内企業に多くのチャンスをもたらす。

論点#2、中国の従来の寡占産業と公共事業ならびに公共サービス

産業は、外資や民間資本を含む社会資本の参入を誘致している。し

たがって、中国投資の機会拡大を図っている外資企業及び国内外で

事業活動の相互補完と整合を図る中国企業にとって格好のチャンス

となる。

論点#3、中国政府は引き続き双方向の開放政策を推し進め、相互

協力関係構築及び国際投資・貿易ルールに相応しい体制の枠組みを

整備する。また、中国あるいは世界の生産要素の秩序ある移動、リソ

ースの最適配置、市場統合の更なる進展などに貢献していく。このた

め、これらの施策は外資誘致及び中国企業の海外進出に一層多くの

メリットをもたらす。

サプライサイドの構造改革は、第13次5か年計画の最優先事項と位置付けられており、その他施策はサプライサイドの構造改革を軸に展開されています。全体的には、サプライサイドの構造改革は下記の3つのミッションと目標を含むため、多くの重要なビジネスチャンスが潜んでいます。

ミッション#1、商品の有効供給やミドルレンジ・ハイエンド製品の

供給を拡大し、産業構造をアップグレードさせ、経済的必要性・文

化的必要性・自然環境など多種多様な要求に応えられるように

する。これは、中国ハイエンド産業及び次世代産業に投資する外

資系企業及び海外進出や各国の先端技術及びビジネスモデル

の導入を図っている中国国内企業にチャンスを創出する。

ミッション#2、重点戦略分野や重要プロセスは、市場化への改

革を強化し、不適切な諸政策と制度を是正し、優勝劣敗を理念と

する公平な市場の枠組み整備を促進する。これによりマクロ経済

は最大限に活性化され、FDI及びODIの双方を促進する。

ミッション#3、過剰生産能力の削減、過剰な不動産在庫の消

化、金融リスクの予防・解消、企業のコスト削減をサポート、社会

発展に潜むリスクの是正という5つの目標を達成します。この達

成は、外資企業における中国事業の活動コストの削減、投資チャ

ネルの拡大及び投資リスクの低減に寄与します。

以上のことから、本報告書が、格好のビジネスチャンスを見つけ出し、中国経済成長のメリットを享受するために中国企業及び外資系企業 (大手多国籍企業、特定分野で優位な中小企業及びベンチャー企業を含む)のご参考になれば幸甚です。また、中国が、安定成長と産業のミドルレンジ・ハイエンドへのシフト、さらには高所得国へと躍進を図っている段階において、外資系企業の皆様にも中国の経済構造改革に貢献していただき、企業と国家が共に共存共栄の関係を実現できることを期待しています。本報告書の作成にあたっては、世界及び中国市場経済の研究機関として国家発展改革委員会市場経済・競争政策研究所の方々から多忙の中、貴重な意見や助言を頂きました。彼らは本報告書の読者が着実性、包括性、開放性を有する中国を十分理解できるように努力して下さいました。ここにご協力いただいた国家発展改革委員会市場経済・競争政策研究所の関係者の方々に心から敬意を表すとともに、深く感謝申し上げます。

i 「第13次5か年計画――中国経済の構造改革及び世界経済との融合:計画要綱のスポットライト及び投資チャンスの発見」 、KPMG中国、  2015年12月,    kpmg.com/cn/13fyp-report1-zh

ii 2015年10月に中国共産党第18回中央委員会第5回全体会議で採択されました。

iii 2016年3月に中華人民共和国第12回全国人民代表大会第4回会議で採択されました。

KPMG グローバル・チャイナ・プラクティス

グローバル・チェアマン

ヴォーン・バーバー

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 54 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

第1章 第13次5か年計画とビジネスチャンス

-新段階、新理念、新事業機会

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 5

図1-1 中国経済成長率

出所:1980~2014年のデータは過年度の「中国統計年鑑」から抜粋、2015年のデータは「中華人民共和国2015年国民経済及び社会発展の統計公報」から抜粋

注:ブラックライン以上のデータは各期間の平均成長率である。

1980

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8%

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7.7%

10.4%

8.4%

中国経済は、「第13次5か年計画」の実施期間中(以下、「13・5計画」期間)に、ニューノーマル・モデル(新常態)に移行して産業の高度化、社会的分業の最適化、経済構造合理化を推進する。そのため、中央政府は質の高い成長と経済的利益の向上を目標にしたイノベーション(創新)、協調、グリーン(緑色)、開放、共有(共享)という5つの発展理念の実践を加速させる計画である。また、サプライサイド(供給側)の構造改革を全力で推進し、有効供給を拡大し有効需要を満たす経済の安定成長(ニューノーマル・モデル)を牽引する体制作りを行う。中国はいまや新たな成長段階に差し掛かり、新たな成長理念を掲げたことから、産業には発展・成長のチャンスを創出し、外資系企業及び海外投資を図る中国企業にも、新たなビジネスチャンスを提示する。

1.1 中国経済の新たな成長段階及び潜在的なビジネス

チャンス

「13・5計画」期間は、「小康社会」(ややゆとりを実感できる社会)の全面的実現の正念場を迎える。このため中国の経済・社会の発展は新たな特徴を呈している。これらの特徴は、第13次5か年計画を制定する背景となり、「13・5計画」期間における中国の経済社会政策に大きく影響し、かつ対中直接投資(FDI)及び対外直接投資(ODI)のビジネスチャンスにも深く関係している。

経済の安定成長及び産業の高度化。中国経済は、この30年余りの急成長と工業化を経過して、いまや

相対的に成熟段階に入っている。中国は、多くの後発新興国と同

様に高所得国へ躍進する途中段階に差し掛かり、成長期に比べ

れば経済成長率は鈍化している。それと共に、中国の経済及び

産業は、ミドルレンジ・ハイエンド構造の最適化が進んでいること

から、高度化の傾向が顕著である。

中国経済は安定成長期に突入した。改革・開放後からすでに30

余年が経過した。非経済的要因による低成長期の1989年から

1990年を除き、中国経済は改革開放後から2009年まで年間10%

以上の成長率を維持してきた。これは世界の歴史においても類

まれな「奇跡的成長」(図 1-1)である。しかし、中国経済の成長は

2009年から減速し始めている。特に2015年の経済成長率は6.9%

まで下落して、25年ぶりの低水準となった。「13・5計画」期間中も

中国経済の潜在成長率はさらに落ち込み6.5%以下まで下落する

と予測されている1。このような予測から中国経済は安定成長期

に入ったことがわかる。しかし、中国経済が成長鈍化の段階に突

入したにもかかわらず、年間成長量の絶対値は依然として高い。

近年の中国GDP成長率の1ポイント増加による成長量は5年前の

1.5ポイント増加による成長量ならびに10年前の2.5ポイント増加

による成長量に相当する2。中国は依然、年間経済成長量の絶対

値が最も大きい国といえる。中国経済は世界でも類まれな成長を

実現したため、それに関連する国内投資需要も大規模さを維持し

ている。また、一人当たりGDPが8,000米ドルの大台を突破して以

降、国民の海外投資の意向は明らかに強まっている。このため、

「13・5計画」期間に、経済の安定成長を前提に、中国市場は一層

多くのFDI及びODIのチャンスが生まれると予想される。

1 「蔡昉:『第13次5か年計画』期間に中国経済の潜在成長率は6.2%に下落する見通し」、人民網、2016年3月19日、http://finance.people.com.cn/n1/2016/0319/c403268-28211208.html

2 「2016年政府活動報告書(全文)」、新華網、2016年3月5日、http://news.xinhuanet.com/fortune/2016-03/05/c_128775704.htm

GD

P成

長率

(%)

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 76 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

中国の経済構造はミドルレンジ・ハイエンド段階に向かっている。

経済成長が工業化の離陸段階から、工業化の途中段階へ移行

する中、中国の経済構造はミドルレンジ・ハイエンドへ進化してい

る。2015年に中国の第三次産業の対GDP構成比は、初めて50%

超(図1-2)となって第三次産業が経済成長の最大の牽引役と

なった。このうち、生産関連サービス業はこの数年で急成長して

おり、年間平均成長率は15%以上となり工業成長率を大きく上回

り、2015年の増加値対GDP比は20%近くにまで達した3。また、中

国のハイテク産業も飛躍的に成長しており、2015年の成長率は

10.2%4となって工業成長率を遥かに上回った。また、従来型の製

造業の対GDP比が年々下降している反面、先端製造業の対GDP

比は安定的に上昇しており、さらにその傾向が強まっている。こ

れらのデータから、「13・5計画」期間では、中国の次世代型サー

ビス産業及びハイテク産業の見通しは明るい。このため、外資企

業には投資分野の拡大、中国企業にとっては海外M&A(買収合

併)による国内技術力の増強など、更なる投資マーケットニーズ

に充分に応えることできるであろう。

「シナジー効果」を生み出す戦略政策:政府の役割転換及び市場化改革。政府の役割転換及び市場化改革の推進は、中国経済の過去30年

余りの高度成長期にとって重要な戦略であった。2000年以降は効

果は劣えたものの、1980年代及び1990年代の改革は、いずれも改

革実施後10年以上にわたりリターンを実現している。近年では、以

前の改革効果も薄まってきたことから、引き続いて経済成長を下支

えできる新たな改革政策を示すことが喫緊の課題であった。このた

め、2013年11月12日開催の中国共産党第18回中央委員会第3回

全体会議では、「改革の全面的深化における若干の重要問題に関

する中国共産党中央委員会の決定」が採択され、新改革深化への

幕が上がった。また、「国民経済及び社会発展の第13次5か年計

画要綱」(以下、「計画要綱」)では、政府介入の最小化を目指す市

場主義によって政府の役割転換政策を加速化させ、重点分野と重

要なプロセスの改革を拡大し、経済のニューノーマルモデルを後押

しする体制と成長モデルの構築の加速を掲げている。このことで、

「13・5計画」期間は、中国の新しい体制改革を実施する最も重要な

時期となった。政府の役割転換の加速化、行政手続の簡素化と地

方政府への権限委譲の促進と中央からの管理機能の併用、サー

ビス機能の最適化、行政手続の効率化など一連の推進は、外資

の直接投資及び中国企業の海外投資に利便性をもたらすとともに

投資規制も緩和されるため企業の投資コストを削減に貢献するだ

ろう。さらに、市場化改革の推進、共同所有制経済(シェアリングエ

コノミー)を発展させ、非公有制経済成長を推進させ、現代的な所

有権制度の構築、競争的な市場メカニズムなどを整備することも、

中国で市場競争に参入する外資企業にメリットをもたらし、また外

国に進出する中国企業のために良好な制度環境を整備することに

なるであろう。

出所:2002~2014年のデータは過年度の「中国工業統計年鑑」及び「中国第三次産業統計年鑑」から抜粋、2015年のデータは中国国家統計局HP(http://data.stats.gov.cn/index.htm) から抜粋。

注:生産関連サービスとは、中間投入によるその他企業に提供する生産活動を促進するためのサービスをいう。国家統計局の分類は生産関連サービス業が生産活動のために提供する研究開発設計及びその他の技術サービス、貨物の運送・保管サービス及び郵便速達サービス、情報サービス、金融サービス、省エネ及び環境保護サービス、生産関連リースサービス、ビジネスサービス、人事管理及びトレーニングサービス、卸売、ブローカー、代行、製造業向け支援サービスの10大分類、34中分類、135小分類に区分される。

図1-2 中国の産業構造

図1-3中国サービス業及び製造業の構造

出所: 1978~2014年のデータは過年度の「中国統計年鑑」から抜粋、2015年のデータは「中華人民共和国2015年国民経済及び社会発展の統計公報」から抜粋。

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4201

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80%

60%

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20%

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第一次産業 第二次産業 第三次産業

対G

DP

比(%)

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科学研究及び技術 サービス業

製造業

生産関連

サービス業

先端製造業

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2010 2011 20122013

20142015

対G

DP

比(%)

3 「中国統計年鑑」から抽出した2015年のデータに基づき計算した。

4 「2015年の中国経済成長率は6.9%」、新華網、2016年1月19日、http://news.xinhuanet.com/2016-01/19/c_1117822029.htm

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 7

経済構造転換の2つの柱:イノベーション・ベンチャーの創出及び消費者ニーズの牽引。中国経済は、さらに成長するために質的向上への構造調整段階

に差し掛かっている。経済の構造転換にあたり2つの状況が重要

である。一つは、長年にわたり成長を支えてきた中国の産業は強

固たる基盤を有し、技術力や研究開発力も蓄積したものの、産業

全体のイノベーション意識や技術の産業化能力はまだ十分では

ないこと。もう一つは、中国は高所得国の仲間入りを果たし、消費

が経済成長の最大の牽引役となることである。

2015年の最終消費額の経済成長寄与度は66.4%に達している(

図1-5)5。また消費の増加及び高品質化にともない教育や教養・

娯楽などの公共サービスのニーズは増え続けている(図1-6)。し

かし、国民消費、特に公共サービス消費の供給不足状態は深刻

化している。このため、「13・5計画」期間では、経済構造改革の2

つの柱として、イノベーション・ベンチャーの創出と有効消費の促

進が必要であるとしている。一つ目は、政府はイノベーション・ベ

ンチャーの促進を加速し、海外の技術獲得を目的とした海外進

出ばかりでなく、外資系企業の新興産業への参入を促進してい

ること。もう一つは、政府が引き続き消費拡大の加速化及び消費

の高品質化を促進し、公共財及び公共サービスの数量及び品質

を高めることである。これにより、外資系企業が中国国内市場を

開拓して公共サービス業に進出する際の利便性を図り、また、中

国国内企業が海外進出により外国の優良なサービス企業を買収

し、国内の消費及び公共サービスのニーズを満たす計画におい

ても良い事業機会をもたらすものと思われる。

図1-5中国消費支出の経済成長寄与度

出所:2001~2014年のデータは過年度の「中国統計年鑑」から抜粋、2015年のデータは「中華人民共和国2015年国民経済及び社会発展の統計公報」から抜粋。

図1-4中国の研究開発(R&D) 投資の対GDP比(%)

出所:2000~2014年のデータは過年度の「中国統計年鑑」から抜粋、2015年のデータは「中華人民共和国2015年国民経済及び社会発展の統計公報」から抜粋。

70%

60%

40%

50%

30%

20%

10%

0%

20012002

20032004

20052006

20072008

20092010 2011 2012

20132014

2015

2.5%

2.0%

1.5%

1.0%

0.5%

0.0%

20012000

20022003

20042005

20062007

20082009

2010 2011 20122013

20142015

GD

P成

長寄

与度

(%)

5 「2015年の消費総額の経済成長寄与度が66.4%に達する」、新華網、2016年2月23日、http://news.xinhuanet.com/fortune/2016-02/23/c_1118134304.htm

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 98 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

新型都市化と美しい農村建設。改革開放以来、中国の経済成長に貢献した最も主要な要因とし

て都市経済が挙げられる。中国は、都市化と工業の発展及び都

市の規模の拡大に伴い、農業社会から工業社会へと移行して

いる。2015年の中国常住人口の都市化率は約56.1%まで上昇し

(図1-7)、半分以上の人口が都市部に集中している。2020年まで

に常住人口の都市化率は60%を超えると見込まれている6。一方

で、中国の都市部と農村部における成長の不均衡及び都市化の

質的低下などの課題は、都市部と農村部の格差の縮小の妨げと

なっている。このため、「計画要綱」では、人を中心とした城鎮化

を重要政策に掲げ、都市郡(城市及び建制鎮)を主体として、都

市の総合収容能力を中心に体制の改善を図り、新しい都市化を

実現し、社会主義新農村の生活水準を引き上げ、さらに都市部と

農村部の格差を縮小させて都市部と農村部が協調的に発展する

ことを公約としている。これにより、外資系企業にとっては都市部

と農村部への投資機会と事業機会は拡大され、中国企業にとっ

ては外国で培ってきた建設技術を活かして国内での新型都市化

と美しい農村の実現に関与することなどの貢献が考えられる。

対外開放がもたらす「二つの事業機会」:貿易構造の高度化及び資本輸出の促進。中国の対外開放の新たな段階には、いくつかの特徴がある。

• 商品輸出から資本輸出へシフト

6 「データ:2020年までに中国常住人口の都市化率は60%に上昇と予測」、新華網、2014年3月17日、 http://news.xinhuanet.com/house/nj/2014-03-17/c_119792678.htm

7 「2014年度中国の海外直接投資統計公報」、商務部、国家統計局、 国家外貨管理局、北京: 中国統計出版社、2015年9月

8 商務部開催の定例記者会見、中華人民共和国商務部、 2016年1月20日、 http://www.mofcom.gov.cn/xwfbh/20160120.shtml

9 国務院新聞弁公室開催の「2015年度の中国海外直接投資統計公報」に関する発表会、国務院新聞弁公室、2016年9月22日、http://www.scio.gov.cn/xwfbh/xwbfbh/wqfbh/33978/35181/wz35183/Document/1492016/1492016.htm

図1-6中国国民消費支出構成比

出所:過年度の「中国統計年鑑」から抜粋

100%

80%

60%

40%

20%

0%

19931994

19951996

19971998

19992000

20012002

20032004

20052006

20072008

20092010 2011 2012

20132014

2015

食品 衣類 住居 家具・日常用品 保健医療 交通・通信 教育・教養娯楽 その他

対総

消費

支出

比(%)

2015年から物品輸出は2四半期連続のマイナス成長である

が、対外直接投資には2012年から年間15%程度の成長率を

維持している7。 対外投資は物品輸出貿易を代替するまで強

まっている。

ハイテク製品の輸出入額は、貿易総額のおよそ30%を占め

ている(図1-9)。そのうち、ハイテク製品の輸出額は輸出貿

易総額の35%以上である。また、クロスボーダー電子商取引

(越境EC)や政府調達協定などを利用した新型ビジネスモ

デルは、中国対外貿易の新たな成長ポイントになりつつあ

る。2015年の越境EC伸び率は30%以上に達し、政府調達協

定の利用による輸出業務の伸び率は70%を超えている8。

• 貿易構造の高度化

• 資本流入国から資本流出国への変換

中国の2015年の対外直接投資額(ODI)は、対中直接投資額

(FDI)を上回った(図1-10)9。

これらの変化は、外資系企業による中国ハイテク産業及び新型

ビジネス産業への投資を促すだけでなく、中国企業による海外投

資のペースを速めている。

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 9

図1-7中国都市化率 (都市居住人口対総人口比) (%)

出所:2000~2014年のデータは過年度の「中国統計年鑑」から抜粋、2015年のデータは「中華人民共和国2015年国民経済及び社会発展の統計公報」から抜粋

60%

50%

40%

30%

20%

10%

0%

20002001

20022003

20042005

20062007

20082009

2010 2011 20122013

20142015

図1-8中国の輸出入貿易

出所:2000~2014年のデータは過年度の「中国統計年鑑」から抜粋、2015年のデータは「中華人民共和国2015年国民経済及び社会発展の統計公報」から抜粋

5,000

4,000

3,000

2,000

1,000

0

十億

米ド

輸出入総額 輸出総額 輸入総額 貿易収支

20002001

20022003

20042005

20062007

20082009

2010 2011 20122013

20142015

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 1110 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

図1-9中国のハイテク製品貿易

出所:中華人民共和国科学技術部HPのデータベース、http://www.most.gov.cn/kjtj/

1,400 40%

30%

20%

10%

0%

1,200

1,000

800

600

400

200

0

十億

米ド

ハイテク製品輸出入総額 対全品目輸出入総額比

図1-10中国FDI及びODI

出所:2007~2014年のデータは、「2014年度の中国海外直接投資統計公報」及びCEICデータベースから抜粋、2015年のデータは国務院新聞弁公室開催の「2015年度の中国海外直接投資統計公報告」に関する発表会から抽出されたものである。国務院新聞弁公室、2016年 9月22日,http://www.scio.gov.cn/xwfbh/xwbfbh/wqfbh/33978/35181/wz35183/Document/1492016/1492016.htm

海外直接投資純額 外資利用額実績値

20022003

20042005

20062007

20082009

2010 2011 20122013

2014

1.2 「13・5計画」の成長戦略とビジネスチャンス

「計画要綱」は、イノベーション、協調、グリーン、開放、共有の5つの発展理念を掲げている。質の高い成長と経済的利益を増加させ、サプライサイドの構造改革を力強く推し進め、有効供給の拡大と有効需要を満たした経済の安定成長(ニューノーマル・モデル)を構築する。これらサプライサイドの改革推進、質の高い成長と経済的利益、5つの発展理念の徹底化は、「13・5計画」期間中における経済・社会の成長戦略の柱となっている。

サプライサイドの構造改革を推進し、有效供給及び有効需要への投資に注目。サプライサイドの構造改革は、「13・5計画」の最優先事項と位置

付けられ、他の施策はサプライサイドの構造改革を軸に展開され

る。その全容としてサプライサイドの構造改革は3つのミッション

及び目標を掲げている。その中には重要なビジネスチャンスが潜

んでいる。

第1は、商品の有効供給及びミドルレンジ・ハイエンド製品の供給

を拡大して産業構造のアップグレードを促し、国民の希望が大き

い経済面・文化面・自然環境面の多種多様なニーズを満たすこと

である。これは、中国ハイエンド産業及び次世代産業に投資する

外資系企業、海外進出で外国の先端技術及びビジネスモデル導

入を図る中国企業にとってチャンスとなる。

第2は、重点分野及び重要プロセスにおいて市場化改革を強化

し、不適切な諸政策及び制度を是正し、優勝劣敗を理念とする公

平な市場の仕組みを整備することである。これによりマクロ経済

を最大限に活性化させ、FDI及びODIの双方向投資を効果的に高

めることができる。

第3は、過剰生産能力の調整、過剰な不動産在庫の消化、金融

リスクの予防・解消、企業コスト削減の支援、社会発展に潜む弱

点の補足という5つの目標を達成することである。これら5つの目

標達成は、外資系企業の中国における事業活動にかかるコスト

の削減、投資チャネルの拡大及び投資リスクの低減に寄与する。

十億

米ド

200

150

100

50

0

20072008

2009201

02011 201

2201

3201

4201

5

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 11

質の高い成長及びその効果を向上させ、イノベーション産業及び高度化する消費財分野での投資を促進する。質の高い成長とその効果の向上は、「13・5計画」の基本目標とし

て、経済の安定成長の維持、イノベーション波及効果の向上、成

長均衡化の増強、国民の生活水準の向上、国民の資質及び社

会的な文明レベルのさらなる向上、自然環境全体の質的向上及

び諸制度の定着などに表れる。質の高い成長及びその効果の向

上に関する内容は下記の3つの需要を含む。

i) イノベーションによって経済成長を促進すること

ii) 投資の効率化を促進すること

iii) 消費の高度化を着実に定着させること

このため、外資系企業が中国で投資を行う際には、イノベーショ

ン産業、都市開発産業、公共財産業、自然環境産業、都市部と

農村部の消費分野、文化・教育分野、グリーン消費分野等により

深く注目すべきである。一方、国外に投資する中国企業は、上述

の分野フォーカスするほか、対外直接投資及びM&Aを加速させ

海外から技術及びビジネスモデルを導入して、国内産業の弱み

を補強し、ニッチ市場の開拓が必要である。

5つの発展理念の徹底:イノベーション、協調、グリーン、開放、共有からチャンスを見出す。「計画要綱」によると、成長目標の達成、成長課題の解決、優位

性の強化を実現するために、「イノベーション、協調、グリーン、開

放、共有」という5つの理念を確立し徹底させなければならない。

このうち、イノベーションは成長牽引の最大の原動力である。協

調は健全なる成長を維持する基本的要素である。グリーンは持

続的成長を実現するための必須条件であり、国民の健全な生活

追求には必須である。開放は国の繁栄と成長を実現するために

必ず通らなければならない道である。共有は中国の特色である

社会主義の根本的理念である。これら5つの発展理念は、「13・5

計画」期間あるいはそれ以降の中国の成長戦略、発展の方向

性、着眼点をまとめた集大成として、「13・5計画」期間の経済・社

会発展の各分野の横串を指す形になっている。

イノベーションによる成長モデルは、ハイテク産業及びインターネ

ットなどの新しい産業に大きな発展余地が見込めることを意味し

ている。協調発展のモデルは、地域間と都市・農村間の成長均

衡化に関する建設産業が有望な投資分野であることを意味して

いる。グリーン成長モデルは環境産業を育成しつつある。開放に

よる成長モデルは海外進出及び外資誘致の双方向投資による

利便性をもたらす。共有モデルは公共財及び公共サービス産業

の黄金期が間もなく到来することを意味している。このため、外資

系企業及び外国投資を行う中国企業は、これらの重要な理念に

基づいてビジネスチャンスを探るべきである。

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 1312 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

図1-11 「13・5計画」期間の中国経済モデルの7側面

イノベーション型経済構造

集約型の産業構造

協調型の地域成長モデル

グリーン型成長モデル

共有型社会

対外開放体制

成熟化する経済体制

1.3 経済モデルに7つの側面:

「13・5計画」期間のFDI及びODIを行うタイミング

「計画要綱」は、「13・5計画」期間における経済・社会の発展の青写真を示している。そのため、経済、文化、社会及びエコロジーの建設に向けて統括的な取り組みを行い、期日通り「小康社会」を全面的に実現することが目的とされている。「13・5計画」期間の経済成長戦略からビジネスチャンスを見出すために、経済モデルの7つの側面、すなわちイノベーション型の経済構造、集約型の産業構造、協調型の地域成長モデル、グリーン型成長モデル、共有型社会、対外開放体制と成熟化する経済体制(図1-11)から、投資及び成長のチャンスを理解する必要がある。

イノベーション型の経済構造:産業の高度化。「計画要綱」によると、中国政府は「13・5計画」期間にイノベーショ

ン型の成長モデルに重点を置いて、科学技術のイノベーションを

コアにした人材育成を行い、科学技術を革新し、国民によるイノ

ベーション・ベンチャー企業を創出し、これまでの優位性を十二分

に活用できる産業を大規模に育成する。それと共に、IT(情報技

術)の改革及びインターネット進化の方向性を着実に把握して、

デジタル国家中国の建設に踏み出していく。国民によるイノベー

ション・ベンチャー企業の創出は、次世代産業の成長の原動力と

して大きな役割を果たす。また、ハイテクサービス業の役割も必

要である。これらは、「13・5計画」期間にイノベーション型の経済

構造を形成し、産業の高度化を加速させ、高付加価値のある産

業の規模を拡大することを示している。「13・5計画」期間の主たる

目標は、戦略的な次世代産業、インターネット関連産業及び戦略

的ハイテクサービス業の対GDP比を引き上げることである。その

うち、戦略的次世代産業の対GDP比の目標増加比率を15%以上

に設定する。このことから、戦略的な次世代産業、インターネット

関連産業及びハイテクサービス業は多くのビジネスチャンスに恵

まれるといえる。

集約型の産業構造:産業構造の転換。「計画要綱」によると、中国政府は、「13・5計画」期間において産

業構造の本格的な調整、実体経済の振興、従来型産業の高度

化、「強固なイノベーション力、高品質製品の生産、緊密な協力

関係、エコロジー」などの優位性を備えた戦略的な産業構造の構

築を加速化させる。また、次世代型サービス産業の成長促進の

取組み、サービス業の対外的な開放レベルを引き上げてサービ

ス業の経営環境を改善し、生産関連サービス業の専門化及びバ

リューチェーンのハイエンド分野への躍進を促し、生活関連サー

ビス業の高精細化と高品質化へのシフトを加速させる。また、製

造業を強化して国力強化戦略を実行し、工業基盤を固めるプロ

ジェクトを推進して、従来型重化学工業の構造転換、同じく従来

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 13

型の機械・設備製造業の高度化に取り組む。次世代型サービス

産業を展開して、従来型サービス業の業態転換かつモデル革新

を促進して集約型の産業構造を構築する。これらの措置は、中

国政府に「13・5計画」期間に従来型産業の高度化を加速させる

計画があることを示している。このように、従来型の重化学工業

や機械・設備製造業及び従来型サービス業の高度化に関するビ

ジネスチャンスは大いに期待される。

協調型の地域成長モデル:地域開発の最適化。「計画要綱」によると、中国政府は、「13・5計画」期間に人を中心

とした「新型都市化」を重点政策にしている。具体的には、戸籍人

口の都市化率を引き上げ、農村部と都市部の二元戸籍制度を撤

廃し、社会保障制度のもとで居住証制度を確立する。これにより

都市部と農村部の格差を縮小して、協調型の地域成長モデルを

実施する。

それと共に、地域成長戦略に基づき、「一帯一路」建設、京津冀

(北京市、天津市、河北省の総称)の共同発展、長江経済ベルト

の発展による沿海・沿江・沿線を中心とした経済ベルトを作り上

げることで、「秩序的な生産要素の自由な取引、主体的機能の有

効化、公共サービス基盤の平準化」という優位性を備えた環境に

やさしい地域成長モデルを確立する。

地域間の協調と発展の戦略的な目標は、地域、都市及び農村の

開発地域を最適化することである。地域を跨ぐ戦略の実施は、

地域を越えたインフラ整備に投資チャンスをもたらす。また、都市

群の建設は、都市施設に関連する産業の成長を促し、新型都市

化と美しい農村の建設は、都市部と農村部の建設への投資チャ

ンスとなる。こうした協調型の地域成長モデルのニーズから、中

国のインフラ整備に関連する投資期待とチャンスが拡大するだろ

う。

グリーン型の成長モデル:自然環境の保護を最優先する10。「計画要綱」によると、中国政府は、「13・5計画」期間に自然環境

の改善策を中心とした重要な環境問題への解決に取り組む。そ

のため、自然環境の保護と強化による資源の合理的な利用によ

って、国民に多くのグリーン商品を提供し、国民の生活レベルを

引き上げて美しくて豊かな国作りを目指している。

「自然環境を最優先する」という理念の基にエコ市場の開拓及び

環境産業を発展させ、自然環境保護と開発を両立した良好な自

然環境をつくるグリーン型の成長モデルを形成する。社会資本を

誘致して自然環境を保護し、グリーン経済に関わるサービス業の

投資チャンスをもたらす。資源利用の効率化、生産方式とライフ

スタイルのグリーン化、低炭素化の向上などで環境産業及び新

エネルギー産業のビジネスチャンスを創出する。

共有型社会の構築:生活水準の向上。「計画要綱」によると、中国政府は、「13・5計画」期間を公平性を

重要視して国民の基本的生活を保障し、教育と医療・衛生をレベ

ルアップさせ、文化と健康・教育の高まりで貧困を撲滅した社会

建設を目指し、国民の生活レベルの高い小康社会を全面的に実

現していく。生活水準と品質の向上は、「13・5計画」期間における

社会建設及び発展の基本となる。また、多様化する消費者ニー

ズを満たし、公共サービスの供給能力を向上させて社会的公平

を前提に、消費と公共サービスの水準を高めた共有型社会を構

築する。これにより、ハイエンド消費財産業、食品安全産業及び

公共サービス業に顕著なビジネスチャンスがもたらされる。

対外開放体制:世界経済との融合。「計画要綱」によると、中国政府は、「13・5計画」期間に「一帯一

路」建設を柱にした対外開放体制を活発化して高い水準を保ち

ながら戦略的信頼関係を構築する。投資・経済・貿易協力と民間

交流による互恵関係を深化させ、持続的に対外開放のための新

モデルを創出する。

「13・5計画」期間の対外開放体制の主たる目標は、国内外の市

場のニーズと輸出入産業の均衡化、「外資誘致」と「海外進出」の

両立、資本・技術・人材の導入、ハイレベルな開放経済、世界経

済との融合、共存共栄関係の構築などを推進して開放された経

済モデルを形成することである。

また、対外開放体制の中核は「一帯一路」戦略であり、海外市場

の開拓は中国の外需依存型の産業に大きなビジネスチャンスを

もたらす。国際的な生産能力を統合することで、企業の「海外進

出」戦略を深め、資源産業及びクロスボーダーサービス業に良好

なチャンスを創出する。

成熟化する経済体制。「計画要綱」によると、中国政府は「13・5計画」期間に経済体制の

改革推進効果を活かして、重点分野と重要なプロセスを見直し、

経済のニューノーマルモデルを後押しする体制と成長モデルの

構築を加速させる。また、「13・5計画」期間における体制改革の

方向性は、不適切な諸政策・制度を改めて、優勝劣敗を理念と

する公平な市場作りを行い、マクロ経済を最大化させることであ

る。この全体的な方向性は市場化改革であり、その実現のため

には政府の役割転換に伴う行政手続の簡素化と地方政府への

権限委譲を促して、サービスの最適化と知的所有権制度など市

場体制を整備しなければならない。このような措置は、中国で投

資する外資系企業及び海外投資を図る中国企業により利便性

の高い制度条件となる。その一方、各業界の成長にとって最も重

要な政策は、国有企業改革、共同所有制経済(シェアリングエコ

ノミー)の実現、金融システム及び価格メカニズムの確立などの

改革を実施して、社会資本を寡占産業、戦略的産業及び次世代

型サービス産業などに誘致することである。これにより、より多く

のビジネスチャンスが創出される。

10 「自然環境を最優先する」とは、社会・経済発展において、自然環境の保護を優先する、とりわけ自然環境の保護と経済成長に矛盾が生じる場合は工事建設などによる自然環境及び生態系への長期的な影響を優先的に考慮しなければならない。「名詞定義:生態優先」、北京市人民代表大会常務委員会HP、 2013年4月16日、http://www.bjrd.gov.cn/zt/jjsdbhtl/mcjs/201304/t20130416_116421.html

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 1514 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

第2章 イノベーション型の経済構造及び産業の

アップグレード

- 新興工業とハイテクサービス業に

ビジネスチャンス

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 15

中国は、「第13次5か年計画」期間に科学技術イノベーション総合戦略を基本とした新たな経済モデルを構築し、新経済成長を実現する科学・技術を牽引力とし、産業を融合させた先進的な製造技術と次世代型サービス産業を駆動力とするイノベーション型経済を構築する。また、イノベーション型起業を支援するために、新興産業の技術力の先端化・国際化を促し、デジタル情報化された経済効果を最大化させハイテクサービス業を育成・発展させる。

11 2013年中国バイオ医薬品の生産高は2兆人民元超、新華網、2014年3月24日、http://news.xinhuanet.com/local/2014-03/24/c_119919232.htm

12 中国証券監督管理委員会公表の上場会社一覧における開示情報に基づいて算出したものである。

13 「医薬品産業の健全発展を促進することに関する国務院弁公庁の指導意見」、国務院弁公庁、2016年3月11日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2016-03/11/content_5052267.htm

14 「新たな消費の牽引力強化及び新たな供給・駆動力の育成加速に関する国務院の指導意見」、国務院、2015年11月23日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2015-11/23/content_10340.htm

15 中国のバイオ医薬品産業の現状に対する分析、捜狐新聞、2016年6月20日、http://mt.sohu.com/20160620/n455320606.shtml

16 北京市、上海市、天津市などの都市では医薬研究開発のアウトソーシング・サービスを現地の生産性サービス業発展の重要内容に組み込んでいる。

17 「生物産業の発展計画の印刷・配布に関する国務院の通達」、国務院、2013年1月6日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2013-01/06/content_2754.htm

出所:2010~2014年のデータは智研数拠中心によるもの、2015年のデータは予想データ

図2-1中国のバイオ医薬品製造業売上高

十億人民元

2.1 バイオ医薬品産業:技術協力と産業の再編にビジ

ネスチャンス

バイオ医薬品産業はバイオ産業全体の中での重要な構成部分

である。そのため、「13・5計画」期間の戦略的新興産業の重点業

種として製薬化学、現代医療における漢方薬、バイオ医薬品、医

療機器などの業界に細分化されている。中国医療技術の高精度

化と高齢化社会の加速によって中国バイオ医薬業界は「13・5計

画」期間中にその急成長が期待されている。

バイオ医薬品産業は過去数年間で中国政府の重点支援を受け急成を遂げた。中国は、バイオテクノロジーを科学技術発展戦略の重点課題とし

て2010年にバイオ産業は戦略的新興産業の一つに位置づけら

れたことでバイオ医薬品産業は飛躍的な成長を遂げた。統計デ

ータによると、2010年から2014年のバイオ医薬品産業における

製造業の売上高の年平均成長率は23%以上(図2-1)にまで達し

た。また、2013年の中国バイオ医薬品産業における製造業と医

療機器製造業の生産高はそれぞれ2.1兆人民元と1,900億人民元

となり、いずれも前年同期比でおよそ18%増加した11。現在では、

バイオ医薬品産業は長江デルタ、環渤海経済圏、珠江デルタの

主要地域に集結している。2015年の中国医薬品業界の上場企

業173社のうち長江デルタ、環渤海経済圏、珠江デルタにおける

上場企業はそれぞれ43社、34社、19社が集まり、上場企業全体

の55.49%である12。その一方、バイオ医薬業界は、コア技術の対

外依存度が高く、産業構造の非合理性、研究開発効率の伸び悩

み、資源の利用効率の低さ、市場秩序の不安定さなど多くの課

題に直面している。また、業界の高い参入障壁や投資リスク、医

薬品開発期間の長さ、マクロ経済の低迷などマイナスの要因に

加え、政策が産業育成と拠点集約化に偏重していることから研究

開発と品質向上が軽視されてバイオ医薬品産業の足かせとなっ

ている。

「13・5計画」期間にバイオ医薬品産業のイノベーション発展、産業構造の最適化、外部組織との連携強化を大規模に推進する。「計画要綱」には「バイオ産業規模の倍増計画」が掲げられてお

り、「ゲノミクス研究などバイオテクノロジーの持つ可能性を全面

的に活かし、ネットワークを設計・構築して、中国で広がる個別化

医療と新型医薬品など次世代型のバイオテクノロジー製品と医

療サービスを急成長」させて、大規模に医療技術を応用していく

という、新しい産業発展の方向性を示した。また、「医薬品産業の

健全な発展の促進に関する国務院弁公庁の指導意見」は以下

の施策を提示している。すなわち、技術的難題の解決、医薬品産

業の強化、医療機器の高機能化、中国の医学の近代化などをコ

アにして技術革新力を高める。また、業種や分野を跨ぐ組織再編

及び地域を跨ぐ産業の移転を促進して、医薬品産業の生産基地

を集約化し産業構造を最適化する。さらに、「海外進出」と「外資

導入」を頼りにグローバル買収・合併(M&A)、アウトソーシング請

負、国際連携の深化を後押しして、バイオ医薬品産業の急成長と

ミドル・ハイエンドへの構造転換を図る13。このように、政府は技術

革新、産業構造の最適化、外部組織との連携などによってバイオ

医薬品産業を発展させようとしている。

外資系企業にはバイオ医薬品産業への技術協力と産業再編に事業機会がある。中国は現在、バイオ医薬品産業の分野の主要な消費市場となっ

ており、今後はバイオ医薬品及びヘルスケアの分野が成長して

消費構造を大きく変えていくと予想されている14。2020年には中国

のバイオ医薬品市場はアメリカに次いで世界第2位となるだろう15。

「バイオ産業発展計画」16に記載のバイオ産業年平均成長率を

20%で見積もると、2020年の中国バイオ医薬品産業の生産高は

7兆人民元である。中国バイオ医薬品産業はまだ発展の初期段

階にあり、技術に対する需要が高まっており、企業規模も小さく、

かつ産業基地の集約度も低いため、依然として巨大な潜在的事

業機会を有している。多国籍企業は、技術協力、外資導入、医薬

品研究開発のアウトソーシング17などの政府支援政策を受けて、

医療技術の共同研究と開発ならびに国家レベルのバイオ医薬品

プロジェクトに積極的に参画して、中国企業を指導し医薬品のオ

ープン・イノベーション・エコシステムの構築に主導的役割を果た

すことができる。外資系企業は、業界の合併と再編のチャンスに

着目し、高度な技術力と豊富な資金力をもとに産業の再編に積

極的に参画して中国市場を開拓することができる。また、ローカ

ル優良企業は、政府の支援策を十分活用して新製品、主要な技

術、製造販売許可証及び販売ルートを獲得して、外資系企業の

買収と株式投資により、研究開発、生産・販売のグローバル・ネッ

トワークを構築することができる。

300

400

200

0

100

2010 2011 20122013

20142015

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 1716 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

表2-1「第12次5か年計画」と「第13次5か年計画」における新素材産業主要分野比較

期間 出所 概要

「13・5」

「第13次5か年計画要綱」

形状記憶合金(SMA)と自己修復材料などのスマート材料、グラフェン(graphene)とメ

タマテリアル(metamaterial)などのナノ機能材料(nanomaterials)、リン化インジウム

(Indium phosphide)と炭化ケイ素(silicon carbide)などの次世代半導体材料、高機能炭

素繊維、バナジウムチタン(V-Ti)、超合金(superalloy)などの新型構造材料

「中国製造2025」特殊金属機能材料、高機能構造材料、機能性高分子材料、特殊用途の無機非金属材

料、先進複合材料

「12・5」

「第12次5か年計画における国家

戦略的新興産業の発展計画」

新機能性材料、先進構造複合材料、ナノ、超伝導、スマートに共通の金属材料の研究

及び工業化

「第12次5か年計画における新素

材産業の発展計画」

特殊機能性金属材料、ハイエンド金属構造材料、高分子先端材料、新型非金属材料、

高機能複合材料、最先端の機能材料

出所:2008~2013年のデータはCCIDコンサルティング会社及び関連するレポートから抜粋、2014~2015年のデータは見積数値である。

「13・5計画」期間に重点分野を定めて、コア競争力を強化し、技術基準整備とインフラの完備によって新素材産業の発展を促す。「計画要綱」で言及されている「ハイエンド材料行動計画」による

と、スマート材料、構造機能材料、次世代半導体材料、新型構

造材料、生分解性材料、生合成原料など6種類の新素材を新

たな主要課題と位置づけた(表2-1)。今後、新素材産業の重

点的施策を明確化して同分野の新たな発展を推進する。また、

政府機関公布の「国家標準化体系の構築及び発展計画(2016

~2020年)」22によると、新素材標準化による体系構築を全面的

に促進して、主に新機能材料、先進構造材料及び高機能複合材

料などの基準を検討・制定して最先端分野での先行技術を研究

する。このため、政府機関は新素材と主要部品の初回応用時の

保険料補償制度23の研究及び支援を提唱した。基準と制度の構

築及び改善は新素材産業の健全な発展を制度と政策によって

保障することになる。

最先端素材グラフェンは、新素材産業投資のホットスポットになる。新素材産業は、「13・5計画」期間中に20%以上の成長率を維持し

続け24、2020年には生産高が5兆人民元を超えると予想されてい

る。また、新素材分野は最初の巨大科学技術プロジェクトに盛り

込まれたことで世界の科学技術強国になるためのロードマップで

の5大プロジェクトの1つになるだろう。中国政府は、グラフェンに

関する研究開発成果が得られたことで研究開発費の増額、産業

イノベーション戦略連盟の設立、特色産業基地建設を行ってグラ

フェンの産業化を推し進める。また、新素材分野に関する基準制

定を加速させ、新超伝導材料、ナノ材料研究、グラフェン、バイオ

ベースマテリアルなど戦略的先端材料に関する先行研究も相次

いで始動させる。外資系企業は、新素材に関する技術研究開発

及び商品開発に参入するための奨励策を十分活用し、技術力と

資金力のメリットを発揮して、基準の制定と材料の研究・開発で

中国国内企業ならびに研究開発機関と連携・協力しながら、先

端材料市場を開拓できる。中国国内企業は、現地の巨大な潜在

的消費需要を利用して、世界の大企業もしくは有名機構と連携

し市場と知的財産権の収益を共有して国内外の市場で有利な立

場に立つことができる。

2.2 新素材産業:

先端素材グラフェンなどに注目

新素材産業は、7大戦略的新興産業の1つに留まらず、省エネ・

環境保護、次世代型情報技術、ハイエンド設備製造業などの戦

略的新興産業の基盤である。「第12次五か年計画における国家

の戦略的新興産業の発展計画」18では、新素材産業は、新エネル

ギー、新エネルギー自動車産業とともに「国民経済の先導産業」

であった。

新素材産業の急成長によって技術改善効果が目覚ましい。中国政府は、「新素材産業第12次5か年発展計画」19、「主要素

材の産業発展計画」20、「中国製造2025」などの戦略構想を相次

いで発表し、新素材産業の急成長を後押しし続けている。関連

データによると、新素材産業の2013年の生産高は、前年同期比

で25%増加の1.25兆人民元となった(図2-2)21。2015年からは高

機能構造材料、繊維を材料とした産業用資材、特殊機能材料の

グラフェンなどの新素材は急成長を遂げ、原材料産業の主要材

料の高機能化を加速させている。しかし、新素材産業は大規模

化、生産力の高度化、品種の多様化を実現する一方、技術レベ

ルの低さ、利益水準の低下、バリューチェーンが短いなどデメリ

ットも顕著である。主要材料の一部は主に輸入に依存しており、

イノベーション能力が低い。こうした原因は、一部の地方政府が

新素材産業をむやみに導入してしまうため、多数の企業が集ま

り、 低レベルな建設が重複していることに起因する。また、新素

材産業における教育・研究活動が生産活動から外れた分だけハ

イエンドな人材の不足となっている。

図2-2中国新素材産業の売上高及び成長率

18 「第12次5か年計画」国家戦略的新興産業の発展計画の印刷・配布に関する国務院の通達」、国務院、2012年7月20日、http://www.gov.cn/zwgk/2012-07/20/content_2187770.htm

19 「新素材産業の第12次5か年計画」(全文)、中国網、2012年2月22日、http://www.china.com.cn/policy/txt/2012-02/22/content_24698750.htm

20 「重要素材のグレードアップ・世代交代プロジェクトの実施計画の印刷・配布に関する通達」、国家発展改革委員会、財政部、工業情報化部、2014年10月31日、http://www.sdpc.gov.cn/gzdt/201410/t20141031_635673.html

21 「中国の新素材産業の年次発展報告(2014)」、工業情報化部原料工業司、北京:電子工業出版社、2014年9月

22 「国家標準化体系建設の発展計画(2016-2020年)の印刷・配布に関する国務院弁公庁の通達」、国務院弁公庁、2015年12月30日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2015-12/30/content_10523.htm

23 「2016年経済体制改革深化の重要事項に対する国家発展改革委員会の意見を通過・転送することに関する国務院の通知」、国務院、2016年3月31日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2016-03/31/content_5060062.htm

24 「第13次5か年計画」期間では、省エネの建築新素材の発展余地が大きい、慧聡消防網、2016年5月12日、http://info.finance.hc360.com/2016/05/121342904409.shtml

出所:関連資料に基づきまとめた。

百億人民元

生産高(百億人民元) 成長率

1,6002,000 40%

20%

30%

10%

0%

1,200800

0

400

200820102009

2011 20122013

20142015

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 17

2.3 ハイエンド設備産業:主要分野を「5つ」から「8つ」へ

変更、主要産業における新しいビジネスチャンスを

強調

ハイエンド設備製造業界は、バリューチェーンのハイエンドとサプ

ライチェーンの中心に位置付けられており、サプライチェーン全体

の競争力を決定する要素として「13・5計画」期間でも製造業のコ

ア競争力を高める重要産業である。

ハイエンド設備産業の基本構造は形成されているが、依然大きな成長の余地がある。中国のハイエンド設備製造業界は一定の規模を形成している

が、航空装備、衛星通信と応用システム、軌道交通設備、海洋

工学研究設備、ロボット技術応用設備の5大分野が急成長して

いることからコア技術特許権が次々に登録されている。ハイエ

ンド設備製造産業の売上高は、2012年に2.58兆人民元に達して

2010年の1.6兆人民元をおよそ1兆人民元上回り、年平均成長率

でもおよそ27%になった25。また、主要な分野である鉄道設備、航

空宇宙機器、海洋工学研究設備を合わせた3大業界の売上高

は、2009年から2015年までの年平均成長率はおよそ20%を維持

しており、2013年の売上高は2009年度と比較して倍増した(図2

-3)。しかしながら、例えば2013年の国内設備製造業の生産高

は世界設備製造業に占める割合で30%超26となったものの、ハイ

エンド設備製造業の発展レベルは国際社会との間にまだ大きな

格差があった。その原因は、対外依存度が高く、設備のコア部分

の「ブラックボックス化」に直面し、製品の信頼性も低く、インフラ

整備の遅れ、非合理的な産業構造などにある。さらに、インダス

25 全文:「ハイエンド設備製造業の第12次5か年計画」、能源観察網、2012年5月8日、http://www.chinaero.com.cn/rdzt/sewghzt/hygh/2012/05/119981.shtml,前瞻研究院による予測、 http://www.qianzhan.com/analyst/detail/220/151216-3db62cf2.html

26 中国の設備製造業の生産高は20兆人民元超、新華網、2014年4月3日、http://news.xinhuanet.com/energy/2014-04/03/c_126350451.htm

27 「設備製造業の標準化及び品質向上計画」の印刷・配布に関する3部門の通達、工業情報部、2016年8月2日、http://www.miit.gov.cn/n1146290/n4388791/c5180173/content.html

28 計算統計上の利便性をはかるため鉄道輸送設備製造業及び都市軌道交通設備業の2つのサブ業界を軌道交通設備に統合する。2012年以前(2012年を含む)の各細分化されたサブ業界の売上高は2013―2014年の該当細分化業界が専用設備製造業の生産高に占める比率の平均値により計算。

出所:過年度「中国工業統計年鑑」に基づいて算出する28、2014~2015年のデータは予想データ

図2-3中国ハイエンド設備製造業界売上高

400

500

300

200

0

100

分野 コア技術とタスク

航空宇宙機器 航空用エンジンとガスタービンエンジンのコア技術、航空宇宙機器の重要部品のコア技術

海洋工学研究設備とハイテク船 ハイテク船及び重要な付帯設備の集積化、知能化、モジュール化設計製造

先進的軌道交通設備 次世代高速、重荷重軌道交通設備システム

ハイエンドコンピュータ数値制御

(CNC)工作機械

精密、高速、柔軟性のあるコンピュータ数値制御工作機械、基礎製造設備及び集積製造シ

ステム

ロボット技術応用設備 精度減速機、高速・高機能コントローラ、高機能サーボモータ及び駆動装置など

現代農業用機器 大馬力トラクター及び食用農作物設備、商品作物収獲用設備

高性能医療器械コア治療用撮影装置、超伝導磁気共鳴画像診断装置、非侵襲的換気装置など診療用設備、

自動式生物化学分析装置、ハイスループットスクリーニング装置など体外診断設備

先進的化学工業プラント設備 石炭の分類、ガス化、浄化合成、エネルギー利用と廃水処理など主要分野の技術

表2-2 ハイエンド設備の革新発展工事におけるコア技術とタスク

十億

人民

軌道交通設備 航空宇宙機器及び設備

海洋工学設備

201020092011 2012

20132014

2015

出所:「計画要綱」

トリ4.0に代表される先進諸国の再工業化戦略によってハイエン

ド設備製造業の国内回帰が進んでいる。このため、中国のハイ

エンド設備製造業界は、先進諸国の世界市場制覇と地政学的リ

スクが重なり、依然として深刻な課題に直面している。

「13・5計画」期間中に技術的な難題の解決と品質向上を目指して、ハイエンド設備製造業界を先頭にした新型製造業の発展の後押しを行う。「計画要綱」では、製造強国戦略を実施するため、これから5年

間でハイエンド設備イノベーション発展プロジェクトを実施し、従

前からの5つの主要分野を8つに増やし(表2-2)、さらにコア技

術問題を解決して、独自のデザインレベルとシステムインテグレ

ーション力を向上させる。「中国製造2025」では、8つの主要プロ

ジェクトから10点を重点分野に指定して重要な技術項目とプロジ

ェクトを実行し、シンボリックかつ波及効果を持った重要な製品・

設備を開発して国際競争を勝ち抜いていく。また、「13・5計画」期

間中に「設備製造業の標準化と品質向上計画」27を実施して、基

準を制定し品質の向上を目指す。そのため、ハイエンド設備製造

業にクラウドコンピューティング、モノのインターネット(IoT)、産

業用インテリジェントロボット、付加製造技術を普及させハイエン

ド製造設備の自動化、デジタル化、知能化レベルなどを高める。

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 1918 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

29 中国は1万人労働者当たり23台ロボットを有し、日本・韓国の1割にも及ばない、人民網、2015年11月24日、http://it.people.com.cn/n/2015/1124/c1009-27849266.html

30 中国の2020年のハイエンド設備製造業の成長率は30%超、中国機床大全網、2016年1月23日、http://www.zgjcdq.com/news/show.php?itemid=3842

31 第12次5か年計画期間の中国インターネット発展の10大動向、中国互聯網信息中心、2015年10月29日、http://www.cnnic.net.cn/gywm/xwzx/rdxw/2015/201510/t20151028_52960.htm 及びChina’s digital transformation: The Internet’s impact on productivity and growth、McKinsey Global Institute、2014年7月、http://www.mckinsey.com/~/media/McKinsey/Industries/High%20Tech/ Our%20Insights/Chinas%20digital%20transformation/MGI%20China%20digital%20Full%20report.ashx

32 注記31と同じ

33 注記31と同じ

主要なプロジェクト調整により今後5年間のハイエンド設備製造業界にビジネスチャンスが生まれる。特に高機能ロボット用設備、CNC工作機械、現代農業用機器な

どは中国の経済成長に必要な要素である。ロボット産業を例にと

れば中国は2年連続して世界最大のロボット消費市場となってい

る。国際ロボット連盟(IFR)の統計データによると、2014年の中

国市場における産業用ロボット販売台数は、前年同期比で55%

増の5.7万台となり、世界販売台数の1/4を占めた。しかし、現在

中国は1万人当たりの産業用ロボット利用台数は僅か23台で世

界平均の半分にも及ばない。29外資系企業は、技術的な優位性

を軸にしてロボット設備、CNC工作機械、現代農業用機器などに

投資を行って子会社若しくは研究開発センターを設立し、技術協

力によって現地化した製品開発を行うことができる。また、中国

では都市軌道交通ならびに高性能医療用器械に対する市場の

ニーズはさらに増え続ける。中国のハイエンド設備製造産業の

2015年から2020年の売上高年平均成長率はおよそ20%に達する

とされており、2020年には売上高は13兆人民元を超えると予想

されている30。中国企業は、高速鉄道用設備、海洋工学研究設

備、原子力発電設備、現代農業用機器などの輸出力を強化し、

資本提携によって海外市場を開拓して、中国のハイエンド設備

製造業界のブランドを確立に取り組んでいる。

2.4 インターネット産業:黄金期を迎える国家戦略に盛り

込まれたビッグデータ

中国の現在のインターネット産業は最も注目されている産業のひ

とつである。今や、生活に関わるあらゆる分野で情報技術は新た

な社会インフラとして機能しており、中国IT業界の急成長が続い

ている。

インターネット産業の需要創造力は経済成長の重要.な駆動力である。インターネット経済のGDPに占める比率は上昇し続けてい

る。2014年にはアメリカを超え、7%まで上昇し、2013年より2.6ポ

イント増加した31。Baidu、Alibaba、Tencent(いわゆるBAT)の中

国インターネット企業3社は、検索エンジン、電子商取引、コンテ

ンツ及びデータ、金融、文化、エンターテインメントの分野に進出

してユニークなインターネット産業エコロジーを形成している。ま

た、インターネットの関連分野はベンチャーキャピタル投資のホッ

トスポットになっている(図2-4)。

第12次5か年計画期間における中国のインターネット小売業は

取引金額で世界1位に躍進した。2015年のインターネット通販売

上は3.5億人民元となり、2010年の7倍以上である。2010年から

2015年の年平均成長率は50%以上であった(図2-5)。

その一方で、インターネット金融業も急成長を遂げた。第12次5

か年計画期間におけるネットバンキング利用者数は前年同期比

で162%増加して3.59億人となった32。モバイルインターネットの飛

躍的な発展によって、中国のインターネット利用者数は大幅に増

加した。2014年のモバイルデータ及びインターネットの業務収入

は2,707.2億人民元まで成長した。第12次5か年計画期間と比べ

た年平均成長率は53.9%となった33。

インターネット産業は関連の電子情報産業、生活サービス産業

も急成長させた。中国インターネット産業の勃興は、膨大な需要

に支えられ、さらに世界的大企業による牽引、政府支援策の恩

恵を受けている。しかし、インターネット業界ではベンチャー・バ

ブル、情報セキュリティリスクやインフラの不備、市場秩序の混

乱、業界管理の不備などのリスクも潜んでいるため、これらの問

題の解決も急務である。

8

6

2

4

0

出所:CEICデータベース、CHINAVENTURE

図2-4 インターネット及び製造業の投資額比較

十億

米ド

20082011 2014

インターネット投資額 製造業投資額

記:C2Cは消費者間取引であり、B2Cは企業と消費者の間の取引である。

出所:KPMG2016年報告「2016の中国経済展望」

図2-5中国のネット通販売上

十億

人民

4,000

3,000

1,000

2,000

0

C2C B2C

2010 2011 20122013

20142015

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 19

「13・5計画」はインフラ改善、産業体系の構築、業界への監督・管理の強化、及び情報セキュリティの保障によりインターネット業界の健全な発展を後押しする。中国は、「ブロードバンド中国」戦略を引き続き推進し、次世代高

速光ファイバー・ネットワーク及びユビキタス・無線回線ブロード

バンド・ネットワークの整備ならびに次世代ネットワークの早期導

入によってスピード向上やコスト低減、「3つのネットワークの融

合」34及び規制緩和などを実施し、ネットワークインフラ環境の改

善を目指している。そのため、インターネット技術の応用により、

インターネットプラス(互聯網+)行動計画を軸に、生産方式と組

織構造の変革を促進し、ネットワーク化、スマート化、サービス

化、シナジー効果を実現する産業発展の新形態を実現する。ま

た、「インターネット金融の健全な発展を促すことに関する指導意

見」35によると、ネットワークシステムを通じて行われる支払、貸

借、株式投資型クラウドファンディング、保険信託などの金融活

動に対する監督管理の強化と潜在的な金融リスクの発現を未然

に防止する。また、「13・5計画」は情報セキュリティ産業を発展さ

せ、IT企業のデータ・リソースを活用し、承認メカニズムを確立す

ることにより、個人データの保護とネットワークの情報セキュリテ

ィ対策を強化する。

ビッグデータによる次世代産業と電子商取引(Eコマース)がIT産業の今後の重要な成長のポイントとなる。「計画要綱」では、中国ビッグデータ戦略計画が示された。「ビッ

グデータの発展促進に関する行動要綱」36に基づき、ビッグデー

タ産業は国家の戦略的レベルとなって経済の構造転換、国家競

争力の強化、政府の管理能力向上などで大きな役割を果たし

ていく。このため、ビッグデータは将来、経済活動、政府の意思

決定などの面で積極的に活用され、関連のビッグデータ技術開

発、データ取引、情報セキュリティ、規制の策定などの分野で多

くのニーズとビジネスチャンスが潜んでいるといえる。外資系企

業は、自社のビッグデータ分野における技術力及び管理上の強

みを活かして、関係政府機関や企業にビッグデータに関するコン

サルティング・サービスを提供できると思われる。また、中国のビ

ッグデータ産業及び取引市場の育成支援と政府機関及び企業

の協力による情報セキュリティ製品の開発が期待されている。な

お、農村部の電子商取引市場にはまだ成長の余地があり、今後

も成長が見込まれている。予測データによると、中国の電子商取

引規模は50兆人民元にまで達することから世界一の電子取引

市場に成長すると考えられる37。そのため、中国企業は投資と資

本の参加、海外における合併と買収などによって電子商取引の

海外展開を拡大し、巨大な内需市場を頼りにグローバルな電子

商取引ネットワークを構築・改善できる。

34 「3つのネットワークの融合」とは、電話網、放送網、インターネット網の3つ情報共有である。

35 「インターネット金融の健康発展に関する指導意見」、中国人民銀行などの10部門、2015年7月18日、http://www.gov.cn/xinwen/2015-07/18/content_2899360.htm

36 「国務院のビッグデータの発展行動要綱の印刷・配布に関する通達」、国務院、2015年9月5日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2015-09/05/content_10137.htm

37 「中国は2020年に世界一の電子取引市場となる見通し」、新華網、2014年8月6日、http://news.xinhuanet.com/fortune/2014-08/06/c_1111966552.htm

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 2120 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

図2-6中国の科学研究及び技術サービス業の増加値と成長率

2.5 科学技術サービス業:

新興産業の経済技術・金融が重点分野

科学技術サービス業は、生産者向けサービス業及び次世代型サ

ービス産業の一部を構成し、知識集約型で大きな付加価値を有

し、影響力も強いなどの特徴を持つため、「大衆による起業及び

万人によるイノベーション」計画を推進する重要な柱としてイノベ

ーション型国家建設にとって重要である。

科学技術サービス業の成長速度、規模及び品質が大きく向上したため、科学技術金融が重要となる。統計データーによると近年、科学研究と技術サービス業の付加

価値成長率38は鈍化していた。しかし2006年から2015年の平均

成長率は20%近くに戻り、2015年には業界規模は1.3兆人民元を

突破すると予想されている(図2-6)。ベンチャーキャピタル、プラ

イベート・エクイティ、エンジェル投資など科学技術金融サービス

各社は飛躍的に急成長している。関連データによると、2014年

のベンチャーキャピタル投資総額は1,270億米ドルに達し、2008

年の2.4倍となった39。また、ベンチャーキャピタル創業・成長期の

企業も投資率が急成長して好ましい状況(図2-7)に変化してい

ることから新興分野でのイノベーションと起業を促進した。同時

に、技術移転、クラウドアウトソーシング・ファンディング、「インキ

ュベーター+起業・投資」というサービスチェーン、イノベーション

型インキュベーター及び産業技術研究院などから新しいコンテン

ツ、モデル、組織などが大量に現れてきており、科学技術サービ

スの品質・レベルは安定的に向上している。科学技術サービス

業の急成長は、中国のイノベーション駆動型発展戦略の推進及

びイノベーション型の国家建設と直結している。とりわけ2014年

に公布された「国務院の科学技術サービス業の加速発展に関す

る若干意見」40を契機として科学技術サービス業の発展は市民

からの評価も高い。現状の中国科学技術サービス業は未だ発展

の初期段階である。そのため管理体制の不備、専門性の欠如、

ハイエンド業態の不足、業界環境の不備、マルチスペシャリスト

の欠乏など多くの問題を改革の深化によって解決しなければな

らない。

「13・5計画」期間に科学技術サービス業の発展に有利な政策・体制を整えて産業の専門化、先端化、クラスタ化を促進する。 中国は政策・体制の仕組みの刷新を目指している。「増値税改

革」の最適化を促進するため、増値税率の引下げや仕入税額控

除の対象範囲の見直しによって業界の税負担は軽減した。その

一方サービス業務の状況によって分類を行ってサービス業の専

門性を高めている。また、規制障壁を除去し、社会全体に科学

技術資源をいきわたらせ科学技術の体制改革を行う。中国は科

学技術サービスと金融の融合を促すため、ベンチャーキャピタル

業界を支援して科学技術・金融サービスの新しい融合を模索し

ている。このため、イノベーションチェーンのニーズは、科学技術

と金融サービスシステムを構築することであり、それが先端産業

を創出することになる。また「13・5計画」期間にすでに決定され

ている65か所の科学技術サービス業パイロット・エリアのほか41、

新たにパイロット・エリアを増設してさらに科学技術サービス業エ

リアを形成して国際的な競争力のある科学技術サービスクラス

ターを構築する。

新モデル・新業態及び科学技術金融サービスが将来の重点投資領域となる。中国の科学技術サービス産業の規模は2020年には8兆人民元

に達すると見込まれている42。科学技術サービス業は、インター

ネットと緊密に融合してクラウド・コンピューティング、ビッグ・デー

タの技術でサービスエリアを拡大させて研究開発のアウトソーシ

ング及び研究開発の設計プロセスのクラウドソーシング化・プラ

ットフォーム化を実現する。また、科学技術サービス業界の細分

化が進み、健康、教育、エネルギー、環境保全などのバリューチ

ェーンに関する科学技術コンサルティング企業や技術サービス

企業が立ち上るだろう。中国のベンチャーキャピタル業界は未だ

発展の初期段階ながらベンチャーキャピタルに対する需要が高

まっていることから潜在的な産業と機会は多大である。長期的な

見通しでは中国の科学技術関連産業向けのクラウドソーシング

プラットフォーム及びバリューチェーンに対する需要が伸びてい

る。このため高度な技術力を有しているローカル企業や多国籍

企業には科学技術サービス業への進出による事業機会が担保

されている。現地の優良企業は市場から大きな期待を得て多国

籍企業との合弁・連携を強化して、自社実力を高めて中国及び

世界で市場シェアを拡大できる。外資系企業は資金力と業務経

験を活かして中国のベンチャーキャピタル業に対する育成支援

と起業のためのイノベーション優遇措置を享受するため、中国で

ベンチャーキャピタル事業を起こして優秀な起業家を募ってビジ

ネスチャンスを掴む上で主導権を発揮すべきである。

38 科学技術サービス業は、「国家科学技術サービス業の統計分類(2015)」によって科学研究及び試験発展サービス、専門化技術サービス、科学技術のプロモーション及び関連サービス、科学技術情報サービス、科学技術金融サービス、科学技術の普及、ならびに宣伝教育サービス、総合科学技術サービスなど7種類を含む。公式の統計データが未だにないため旧例を一時的に援用して科学研究及び技術サ

ービス業に代替する。

39 データはCEICデータベース及び投中集団である。

40 「国務院の科学技術サービス業の加速発展に関する若干意見」、国務院、2014年10月28日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2014-10/28/content_9173.htm

41 開示資料によると、科学技術部により公布された第一期のパイロット・エリアは25箇所であり、第二期は40箇所である。

42 「国務院の科学技術サービス業の加速発展に関する若干意見」、国務院、2014年10月28日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2014-10/28/content_9173.htm

産業の増加値 増加値の成長率

出所:「中国統計年鑑」、2014、2015年は推測値である。

1,600 30%

20%

25%

15%

10%

5%

0%

1,200

800

400

0

201020092008

20072006

20052011 2012

20132014

2015

十億

人民

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 21

図2-7企業の成長段階別ベンチャーキャピタルの投資構造

出所:CEICデータベース、CHINAVENTURE

0 2 4 6 8 10 12 14

十億米ドル

創業期 発展期 拡張期 収益期

2014

2011

2008

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 2322 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

第3章 集約型産業および構造転換

-伝統的重化学工業及びサービス業に ビジネスチャンス

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 23

中国は日増しに深刻化している過剰生産及び供給過多の現状から脱却すべく、供給側の構造改革を加速させて

いる。伝統的産業の構造改革の促進及び集約型産業の発展体制を構築することで、本来の競争優位制を維持し

た上でより効果的な供給体制の拡大を目指している。省エネ・資源の浪費軽減、技術革新、「関停併転(廃業・休

業・合併・転業)」43、産業の統廃合によって市場における優勝劣敗を推進し、伝統的重化学工業及びサービス業

の技術、構造、ビジネスモデルを包括的かつ抜本的に改善して伝統産業の質と効果の向上を促進する。

図3-1 中国における採堀及び洗炭企業の数と生産能力

10 6

4

5

3

2

1

0

8

6

4

2

0

3.1 資源産業:資源のクリーン利用促進及び参入障壁

の緩和がもたらすビジネスチャンス

資源産業は、巨額の資金と生産要素の投入によって成長を遂

げ、中国経済の成長に大きく貢献してきた。生態環境保護意識へ

の関心の高まりから、経済の成長モデルは集約化し、資源産業

もその影響から構造転換を迫られている。

資源産業は調整期を迎えたが価格の軟調による損失が懸念されている。ここ数年、大量の資金が重化学工業など川上産業に流入してき

た。このため、資源産業は過剰採掘、非効率などの問題を抱えて

いる。石炭業界を例に挙げると、掘削業者数は2008年から2010

年にピークを迎え、大量の小規模石炭掘削業者が乱立して採炭

の安全性を確保できず、さらには不正炭鉱、違法採炭の問題が

浮き彫りとなった。なお、2010年以降に石炭業界は改善措置を講

じ、また、業界全体の低迷により掘削業者数は減少したが生産能

力は拡大している(図3-1)。中国は、鉄、銅、アルミニウムなどの

鉱物資源は長期間輸入に依存しており、経済の減速及び生産能

力の向上によって主要な資源産業の需給構造が変化してきた。

そのため一部の分野では資源不足の状況から生産過剰に陥っ

ている。また、コモディティ価格の暴落により資源産業は全体的

に利益が大幅に低下した。関連データによると、2014年には石炭

企業6,850社のうち1,919社が赤字となり、損失総額は700億人民

元以上となっている44。資源産業の構造転換は、中国のマクロ経

済の減速、資源価格の大幅下落に加え、中国のエコ経済社会構

築の推進、省エネ・排出削減策、構造転換・品質向上なども一因

となっている。経済の回復と商品価格の下げ止まりによって、技

術改善、ならびに買収・合併、業界再編が進み、資源産業の構造

改革は着実に進むと見込まれている。

「13・5計画」期間中には、石炭のクリーン利用促進、過剰生産の解消、所有制度改革の推進、生態環境の改善、資源産業の構造転換を加速させる。「計画要綱」によると、水・電気を合理的に開発し、大型炭鉱のク

リーン採掘及び革新を推進し、新技術による石炭発電を奨励し、

石炭のクリーンかつ効率的な利用を促進する。石炭業界は「13・5

計画」期間中に「石炭業界の過剰生産解消・苦境脱出・発展実現

に関する国務院の意見」45に基づき、奨励金・補助金の交付、従

業員の再就職支援策の実施、新規生産の厳格な抑制、立ち遅れ

た生産技術の淘汰、過剰生産の解消など11項目にわたる施策実

施によって、石炭業界の生産過剰問題を解消して苦境脱出の実

現を目指す。「改革の全面的な深化における若干の重要問題に

関する中共中央の決定」第1章統一46に基づき、中国政府は、自

然資源の所有権制度及び管理制度の構築に注力し、関連の自

然資源の所有権登記(確権登記)を実施する。また、資源の有償

利用制度及び生態補償システムを構築し、自然資源と関連する

製品の価格改定を加速させる。さらに、「13・5計画」期間中には、

国有林区及び国有林場管理体制を改革して林業資源の利用と

保全を促進する。これら政策・制度により資源産業の健全な発展

とエコ経済社会の構築を両立させる。

43 「関停併転」とは、企業の閉鎖、生産停止、合併、産業の転換、破産・倒産又は独自に継続経営が困難な企業及び品質が低く汚染レベルが高い生産拠点に対して整理を実施し、産業構造の改善を図ること。出所:新華網 「国務院が生産過剰業界への投資を厳格に規制」、2015年12月10日、 http://news.xinhuanet.com/fortune/2015-12/10/c_128515810.htm

44 中国経済網の業界データにより作成

45 出所:国務院 「石炭業界の過剰生産解消・苦境脱出・発展実現に関する国務院の意見」、2016年2月5日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2016-02/05/content_5039686.htm

46 出所:新華網 「改革の全面的な深化における若干の重要問題に関する中共中央の決定」、2013年11月15日、http://news.xinhuanet.com/politics/201311/15/c_118164235.htm

10万

トン

/社

201020092008

20072006

20052011 2012

20132014

企業数 平均生産能力

出所:中国経済網のデータに基づき算定、作成

千社

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 2524 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

図3-2 中国の化学工業生産の景気総合指数(2003年を100の基準値とする)

出所:「2015年度中国経済産業景気動向指数報告書」

100

99

98

97

96

11Q4

12Q1

12Q2

12Q3

12Q4

13Q1

13Q2

13Q3

13Q4

14Q1

14Q2

14Q3

14Q4

15Q1

15Q2

15Q3

15Q4

47 中国化工報 「2015年の化学工業付加価値額は前年同期比で9.3%増加」、2016年1月28日、 http://www.ccin.com.cn/ccin/news/2016/01/28/328787.shtml”cin/news/2016/01/28/328787.shtml

48 工業情報化部 「2015年石油化学工業の運営状況」、2016年2月5日、http://wap.miit.gov.cn/n4417404/n4417471/n4417493/c4636130/content.html

49 北京晨報 「化学工業:製品価格は上昇している」、2016年3月10日、http://bjcb.morningpost.com.cn/html/2016-03/10/content_390629.htm

3.2 化学工業:安全・環境保全にビジネスチャンス

資源のクリーンかつ効率的な利用と社会資本の参入制限の緩和によるビジネスチャンス到来。石炭資源のクリーンかつ効率的な利用は、構造改革と質・効果

の向上を促進させ、省エネ・排出削減目標の達成に貢献する。

「13・5計画」期間中に、中国は技術上の難題を解決して実用化促

進を目指す。また、資源分野では参入規制を段階的に緩和して

ゆき、社会資本を国有企業混合所有制改革に参入させるなど、

関連産業に参入させることを可能にする。全体的には、外資系企

業は技術面での優位性を活かし資源のクリーンかつ効率的な利

用による先進技術の研究開発を行い、経営と管理の優位性によ

って参入規制が撤廃された一部の分野への積極的な進出が可

能となる。これに対してローカル企業は、世界経済の不況とコモ

ディティ価格の低下により海外の鉱物資源に投資して多国籍パ

ートナー企業と市場・技術面での幅広い提携を展開し、ローカル

及びパートナー企業所在国以外の第三国の市場を共同開発する

ことができる。

石油化学工業、化学肥料・農薬、ゴム・プラスチックなどの化学工

業は基幹産業であり経済・社会と密接に関連している。化学工業

は、外部環境及び業界競争の影響から分業が活発化しており、

バリューチェーンの高付加価値活動への移行は企業のモデルチ

ェンジの重要な手段となっている。

産業成長の減速と経済成長の低下による生産過剰及び安全性に対するプレッシャーが顕在化。2012年以降市場のニーズは低迷し、また原油価格の継続的な下

落によって化学工業成長率は減少している。統計データによる

と、2015年の化学工業付加価値額は前年同期比で9.3%増加した

ものの成長率は2014年より1.2%ポイント低下した47。また、化学

工業生産高は、2012年から減少に歯止めがかからず2015年には

史上最低値を記録した(図3-2)。中国国内の化学品の大半は価

格が下落し、上昇は一部に留まっている。また、伝統的化学工業

品メーカーは、現在も過剰生産の解消と過剰在庫の消化に苦戦

している。サブセクターについて見てみると、化学工業の利益率

は低迷しており、石油加工業界はマイナス成長となっている(図

3-3)。さらに、2015年の石油化学工業の売上高と営業利益は、

それぞれ前年同期比で6.3%、18.3%まで減少した48。化学工業全体

の現在時価評価額は35.1倍であり、滬深300指数(CSI300指数)

に対するプレミアム率は217.07%と芳しくない49。また、同業界のエ

ネルギー利用効率が向上したものの、需給の不均衡、熾烈な同

出所:中国経済網

図3-3 中国の化学工業のセグメント別利益額

500

400

300

200

100

0

十億

人民

2010 2011 20122013

2014

化学繊維の製造  石油精製、コークス、核燃料処理

ゴム、プラスチックの製造 化学原料・製品の製造

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 25

50 工業情報化部 「『工業区の発展規範化の促進に関する工業情報化部の指導的意見』の印刷・配布」、2015年12月10日、http://www.miit.gov.cn/newweb/n1146295/n1652858/n1652930/n4509650/c4533643/content.html

51 国務院 「国内外企業間の生産能力及び設備製造の業務提携の促進に関する国務院の指導的意見」、2015年5月16日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2015-05/16/content_9771.htm”ent_9771.htm

質化競争、さらには生産性の安全問題が顕在化してきている。そ

のうち、生産過剰問題は以前から積み重なった問題ではあるが、

このほかバルク・ケミカル需要の冷え込み、イノベーション力の不

足も足かせとなっている。ここ数年の化学工業は化学品、とりわ

け危険化学品に対する規制の不整備と管理の未熟さから重大な

安全・環境事故が多発して社会問題となっている。

「13・5計画」期間中に、汚染・排出規制、安全生産の強化、化学工業の法制化及び合理的かつ健全な発展を促進する。「計画要綱」によると、河川流域のリン鉱石及びリン化学工業の

汚染除去を強化し、化学工業の環境汚染・排出を規制し、危険化

学品及び化学工業の生産、貯蔵の安全、環境保全、移転プロジ

ェクトを推進する。「13・5計画」期間中に、中国は「都市部人口密

集エリアにおけるハイリスク危険化学品生産メーカーの移転・改

築に関する推進案」の実施に注力し、危険化学品の移管を促進

し、危険化学品メーカーの立地選択の際に改善を求める。また、

化学工業企業が集中する化学工業団地の監視・管理を強化し、

「化学工業団地の発展の規範化に関する指導的意見」50に基づき

化学工業区を改築し、化学工業区の安全、環境保全及び同産業

の発展水準を向上させる。「生産能力・設備製造分野での国際協

力の推進に関する国務院の指導意見」51によると、化学工業の重

点分野への海外投資を促進することで市場ニーズを満たし、化

学工業の川下の精密加工を発展させ、それによってバリューチェ

ーンを拡大してグリーン生産拠点を構築し、中国プラントの輸出

を促進する。また、政府は化学工業の製造インテリジェンス及び

インテリジェント工場設立を試行し、化学工業の情報化・工業化を

融合することで産業基盤を固める。

安全・環境保全分野におけるビジネスチャンス。2016年のエネルギー価格は小幅ながら上昇した。米ドルの堅調

な推移とともに国内の細分化された業界における時代遅れな生

産技術は淘汰され、一部の化学工業の市場相場は持ち直し、業

界指数は回復してきている。また、マクロ経済の底打ち後の安定

化に伴い化学工業の反転上昇が見込まれている。企業は将来

的な産業発展の方向性を見極め、安全・環境保全分野でのビジ

ネスチャンスを掴むべきである。また、特殊化学品、ファインケミ

カル及び環境配慮型製品に注目し、外資系企業の優位性を活

かした安全・環境保全関連技術や、製品及びサービスの開発促

進を目指す。中国の中堅企業については、技術、基準及びサー

ビスを海外マーケットにアピールして国外投資、プロジェクトの請

負、技術提携、設備輸出などによって海外市場を開拓すべきであ

る。

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 2726 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

図3-4 中国の冶金製品の生産高成長率

出所:中国経済網データにより算定、作成

30%

25%

20%

15%

10%

5%

0%

-5%20102009

20082007

20062011 2012

20132014

2015

非鉄金属10種 鋼材 銑鉄粗鋼

52 工業情報化部 「2015年鉄鋼業界の運営状況及び2016年展望」、2016年2月6日、 http://www.miit.gov.cn/n1146285/n1146352/n3054355/n3057569/n3057572/c4636541/content.html”.html

53 中国証券網、「中国鋼鉄工業協会:鋼鉄業界の売上高は2015年に1,000億人民元超の損失を計上」 、2016年4月7日、http://www.cnstock.com/v_news/sns_bwkx/201604/3757506.htm”x/201604/3757506.htm

54 工業情報化部 「2015年非鉄金属業界の運営状況及び2016年展望」、2016年2月6日、 http://www.miit.gov.cn/n1146285/n1146352/n3054355/n3057569/n3057572/c4636604/content.html”.html

55 国務院 「鉄鋼業界の過剰生産解消・苦境脱出・発展実現に関する国務院の意見」、2016年2月4日、 http://www.gov.cn/zhengce/content/2016-02/04/content_5039353.htm”ent_5039353.htm

56 国務院 「国内外企業間の生産能力及び設備製造の業務提携の促進に関する国務院の指導的意見」、2015年5月16日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2015-05/16/content_9771.htm”ent_9771.htm

3.3 冶金産業:地場産業の高度化にビジネスチャンス

冶金産業は、計画経済の時代に大量の国有資本の受け皿となる

重要分野であったが、経済の市場化の移行に伴い、鉄鋼、非鉄

金属など冶金産業では市場経済化がより鮮明となり、伝統的企

業の構造改革・レベル向上により競争力を強めてきている。

冶金産業は全体的に生産過剰で収益力が低迷している。冶金産業の製品生産高は前年同期比で急速に落ち込んだ(図

3-4)。また消費量も2年間連続で減少した。中国国内の粗鋼見

掛消費量は、2015年は前年同期比で5.4%減少して1.4ポイント下

がった52。また、鉄鋼及び非鉄金属価格も大幅に下落した。中国

の冶金産業は消費量及び販売価格の下落によって甚大な損失

を被っている。中国鋼鉄工業協会のデータによると、同協会の会

員鉄鋼メーカーは連続12か月にわたる赤字で年間累計損失額は

1,000億人民元を上回り、赤字幅は前年同期では24倍にまで拡

大した。このため、鉄鋼業界の収益状況はまさに悪夢の1年とな

った53。また、一定規模以上の非鉄金属工業企業の利益は前年

同期比で13.2%下落し、所属企業全体の21%近くが赤字であった54

。冶金メーカーの「寒冬」は市場予測の見込み違い、無計画で非

効率な生産のほか組織体制の弊害の問題が根本的な原因であ

る。冶金企業はイノベーション力・モチベーション不足と余剰人員

問題が深刻化しているため生産規模の拡大で急場をしのぎ、そ

のため生産過剰問題を引き起こし、短期間での解決に困窮して

いる。

「13・5計画」期間中に、時代遅れな生産技術の淘汰、産業レベルの向上、冶金産業の過剰生産解消・苦境脱出・発展実現を加速。「鉄鋼業界の過剰生産解消・苦境脱出・発展実現に関する国務

院の意見」55によると、どのような名目と方式であっても新規鉄鋼

生産プロジェクトの届出は厳禁である。また、企業が環境保全、

エネルギー消費、品質、安全性、技術などの要件に合致していな

い場合、法に基づき廃業させられる。さらに、買収・合併、再編、

転業、移転及び国際協力、提携などによって過剰生産を解消す

る。政府は企業の事業改革及び従業員の再配置・再就職を支援

すべく、構造調整によって奨励金・補助金を拠出する。また、製造

インテリジェンス、ハイエンド製品の研究開発、消費の拡大・促進

により鉄鋼業界全体の構造改革推進を加速させる。さらに、「国

内外企業間の生産能力及び設備製造の業務提携の促進に関す

る国務院の指導的意見」56によると、製鉄所、製鋼所及び鋼材な

どの鉄鋼生産拠点を建設し、鉄鋼生産設備の輸出を推進し、海

外鉱物資源の開発によりバリューチェーンの川下産業を拡大す

ることで、銅、アルミニウム、鉛、亜鉛などの非鉄金属の製錬及び

精密加工を発展させ、プラント輸出を促進する。これにより、中国

の供給量と主要諸国の需要量のバランスを図って生産能力のグ

ローバル移転を促進することができる。

地場産業のレベル向上でのビジネスチャンス。中国は技術、製品及び消費の面から冶金産業のレベルアップに

傾注しているため、外資系企業にとってはビジネスチャンスであ

ると考えられる。外資系企業は、先進的な管理制度と最新技術

を活用し、中国の鉄鋼企業に技術コンサルティング及び研究開

発サービスなどを提供することで、高速鉄道、原子力発電、自動

車、船舶及び海洋工学に必要な高級鋼材の開発・提携が可能

となる。また、中国地場企業は資源が豊富で品揃えが充実して

いるため、市場潜在力の高い第三国を選定することで、プラント

輸出、投資、買収、プロジェクト請負などによって海外に研究・開

発、生産・製造及びサービス拠点の拡張が見込める。また、外資

系企業は海外進出を図る中国企業と緊密に提携し、共同で第三

国の新たな市場を開拓することが可能となる。

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 27

3.4 伝統設備製造業:製造インテリジェンス及びサービ

ス指向製造分野にビジネスチャンス

伝統設備製造業は、設備製造業の全体的水準に悪影響を及ぼ

す脆弱なセグメントである。ハイエンド設備製造業の成長促進と

ともに、伝統設備製造業のレベル向上・構造改革を強化すること

で、海外市場進出を積極的に進展させ、設備製造業のコア・コン

ピタンスの向上に取り組まなければならない。

伝統設備製造業は、マクロ経済の不況、コア・コンピタンスの劣化など様々な要因により、生産量及び利益が減少傾向にある。主要設備の大半は生産量が減少し、一部のみが増加し、増加幅

の縮小は顕著であり、一部においては構造的過剰の問題に直面

している。統計データによると、鉱物採掘用機械、金属切削工作

機械、発電ユニット、客車及び乗用車の生産量は大きく減少した

(図3-5)。これは昨今、大半の川下産業が大幅な需要減少の苦

境に陥ったことを反映している。一部のセグメントでは、販売不振

及びコストの高騰によりその売上高成長率が下落している。2014

年には汎用設備メーカー24,649社のうち2,544社が赤字経営であ

り、損失総額は2011年の約2.5倍の180.1億人民元となった57。な

お、翌年の2015年には中国の電気機器メーカーの売上高は僅か

4.8%のみの増加にとどまり、成長率の低下が続いた(図3-6)。伝

統設備製造業は、国内外経済の不況のほか、イノベーション力の

57 出所:中国経済網

58 出所:工業・情報化部、中国輸出入銀行 「重要技術設備に対する融資強化に関する若干の意見」、2015年1月4日、 http://www.miit.gov.cn/n1146295/n1652858/n1652930/n3757018/c3763335/content.html

図3-5 製品分類別の生産高成長率

出所:中国経済網 鉱物採掘用機械及び金属切削機械の2015年生産量は予測値である。

50%

40%

30%

20%

10%

0%

-10%

-20%

2010 2011 20122013

20142015

鉱物採掘用機械 金属切削機械 乗用車 発電ユニット / 設備

欠如、ローエンド製品の集中、熾烈な同質化競争などの問題に

加え、大手メーカーなど自社内でのサービス部門の保有がより深

化し、施設の大規模化や内製化を一方的に追求した結果、投入・

生産が非効率となってハイエンド製品の市場の需要を満たすこと

が困難となっている。

「13・5計画」期間中に、東北地域の設備製造の振興及び設備製造分野の工業化・情報化の融合を推進し、伝統設備製造のオートメーション化及びインテリジェント化を加速させる。「計画要綱」によると、産業の構造改革とレベルアップの模範エリ

アを構築し、先進的な設備製造業拠点及びコア技術設備戦略拠

点を建設し、東北地域の旧工業拠点の振興を加速する。また、中

国輸出入銀行は、「重要技術設備に対する融資支援の強化に関

する若干の意見」58に基づき、技術改善、産業化、輸入、技術導

入、海外進出に信用貸付、融資、担保など金融サービスを行う。

政府は「中国製造2025」に依拠して国内の建設に必要な重要技

術設備の研究・開発を加速させることで、コア部品製造のボトル

ネックを解決し、先進的な製造システム及び設備によってインテリ

ジェント設備・製品を進化させ、生産性の向上を促進する。

図3-6 中国の電気機械機器製造業のコアビジネスにおける売上高と成長率

出所:国家統計局

売上高 成長率

十億

人民

8,000 50%

30%

40%

20%

10%

0

6,000

4,000

2,000

0

201020092008

20072006

20052011 2012

20132014

2015

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 2928 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

伝統的設備製造業のレベル向上は、国内外の企業にとって新たなビジネスチャンスである。伝統的設備製造業は、技術力低下、品揃えの不備、低水準なイ

ンテリジェント化、コア部品及び基幹設備の不足等々多くの問題

を抱えている。2014年の中国工業企業のデジタル化研究開発設

計ツールの普及率と一定規模以上の工業生産のデジタル制御

化率は僅かに54%と30%であった。2020年には、それぞれ80%及び

50%に達する見込みである59。これにより、多国籍企業は、最新鋭

設備の巨大消費市場を開拓できるだけでなく、外資系企業は資

本、技術及び管理の優位性から、M&Aによって中国の伝統的設

備製造業の製造インテリジェンス及びサービス指向製造の構造

改革に参入するチャンスとなる。中国ローカル企業は、ファイナン

シャル・リースを利用し、環境が整備された海外に投資して工場

を設立し技術力を取得することで市場開拓が可能となる。また、

ブランド力、技術力及び市場の優位性を有する海外メーカーとの

包括的提携を実現させるなど、先進諸国で研究開発センターを

設立し、機械製造メーカーのブランド力を強化し、技術レベルを向

上させることができる。

3.5 伝統型サービス業:商業・貿易・流通業及び「インタ

ーネットプラス」で伝統型サービス業を高度化

伝統型サービス業は、インターネットを活用した新たなビジネスモ

デル、新業態の出現による打撃を受けた。しかしサービス形態・

方式をポジティブにとらえる事で集約度とサービスの品質を向上

させ、社会福祉に寄与することにより、ビジネスチャンスが訪れ

る。

伝統型サービス業の成長は減速したが、サービスの品質とレベルは向上した。現代サービス業の急成長と経済減速の板ばさみから伝統型サー

ビス業の経済に占める割合は縮小した。2015年の運輸、倉庫、

郵便、通信、卸売・小売及び飲食業などの伝統型サービス業が

第三次産業付加価値額に占める割合は31.8%で、2010年に比べ

2.7ポイント減少した60。また、構成上卸売・小売の占める割合は

従来と同じで最も高い(図3-7)。さらに、伝統型サービス業のサ

ービスの品質とレベルは、サブ業種のサービス形態の改革とサ

ービス分野の拡大によって向上している。ここ数年、飲食業は大

衆・精緻化しており、所得水準に見合った合理的な価格設定によ

って理性的な消費と文化的本質に立ち戻り、また、飲食業は、イ

ンターネットを利用した商品、サービス及び事業の一体化に注力

している。また、電子商取引、配車アプリなどの新業態は、伝統

型サービス業にある一定程度のマイナス影響を与えたかたちと

はなったが、伝統型サービス業のビジネスモデル及び経営形態

を改善させ、企業のオンラインとオフライン統合を促進させた。

しかし、伝統型サービス業は、開放程度の不足、従業員育成の

欠落のほか、市場規模が小さく、専門性の低さなどの諸問題が

あるため伝統型サービス業の将来性は極めて限定的である。

「13・5計画」期間中に商業貿易物流の発展及びオンラインとオフラインを統合して伝統型サービス業の良好な発展を促す。卸売、小売、宿泊、飲食、市民サービスなどの商業貿易サービス

業及び輸出入貿易に関連する物流サービスは、その発展が物流

コストを低下させ、伝統サービス業の発展に寄与している。また、

「計画要綱」によると、中国は商業貿易業界の対外開放を推進し

ており、河北省に国家現代商業貿易物流の重要拠点を構築す

る。また「商業貿易物流の発展促進の実施に関する商務部の意

見」61では、共同配送、電子商取引、情報共有・交換の促進によっ

て商業貿易物流と伝統型サービス業の連携を積極的に推進して

いる。また、オンラインとオフラインの統合は、伝統型サービス業

の発展の可能性をさらに拡大している。「オンラインとオフライン

の連携推進による流通の革新、構造改革・高度化の加速に関す

る国務院弁公庁の意見」62及び「『インターネットプラス』行動計画

の積極的な推進に関する国務院の指導意見」63によると、小売店

のオンラインとオフラインの連携強化を奨励し、インターネットによ

るオフライン体験、配送及びアフターサービスの品質向上を行う。

また、配車アプリの適正利用、オンライン賃貸住宅の普及などの

新業態の促進により、伝統型サービス業の競争レベル、生産性

及びサービス品質の向上を目指す。

商業貿易・物流及び「インターネットプラス」によって伝統型サービス産業に多くの投機が訪れる。商業貿易・物流は、伝統型サービス業の発展にとって極めて重

要で、将来飛躍的に成長すると見込まれている。現時点の中国

の商業貿易・物流業界は未だに立上げ段階にあり、分業化、専

門化及び国際化それぞれの程度を引き上げる必要がある。特筆

すべきは、政府は外資系企業の国家安全保障及び公共利益に

関する分野以外への参入規制を緩和し、外資系企業の都市交

通物流システム構築への参画を奨励する点である。外資系企業

は、独自の優位性を発揮し、都市型商業貿易流通業に投資する

ことができる。また、「一帯一路」の国内外の重要なノード及び港

で国際物流協力も可能となる。このうえ、外国の大手IT企業は、

伝統型サービス業のオフラインとオンラインの統合による新たな

ビジネスを模索し、買収、新規設立などによって「インターネット+

特定伝統型サービス業」という業態を構築できる。産業統合の加

速、「インターネットプラス」を実施することで、伝統型サービス業

の成長発展を推進し、業界間でのコラボレーションにより新たな

ビジネスモデルを創造する。また、中国の卸売・小売業、飲食業

は、国内外の商業貿易流通企業と積極的に提携してブランド力を

最大限利用することで海外進出を果たし海外市場の拡大実現も

夢ではない。

59 出所:経済日報 「ハイテク産業は急速に成長」 、2015年4月30日、http://www.ce.cn/xwzx/gnsz/gdxw/201504/30/t20150430_5246958.shtml”t20150430_5246958.shtml

60 出所:「中国統計年鑑」の2015年のデータにより算定

61 出所:商務部 「商業貿易物流の発展促進の実施に関する商務部の意見」、2014年9月22日、http://www.mofcom.gov.cn/article/b/fwzl/201409/20140900742047.shtml”zl/201409/20140900742047.shtml

62 国務院弁公庁 「オンライン・オフラインのインタラクションの推進及び商業貿易流通のイノベーション発展の構造転換・レベルアップの加速に関する国務院弁公庁の意見」、2015年9月29日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2015-09/29/content_10204.htm”ent_10204.htm

63 国務院 「『インターネットプラス』行動計画の積極的な推進に関する国務院の指導的意見、2015年7月4日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2015-07/04/content_10002.htm

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 29

出所:中国経済網

卸売業、小売業 宿泊業、飲食業 交通運輸業、物流業、郵便業

図3-7 中国の伝統的サービス産業のセグメント別の付加価値額

12

10

8

6

4

2

0

201020092008

20072006

2011 20122013

20142015

兆人

民元

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 3130 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

第4章 協調型の地域成長モデルと開発の最適化―地域を跨ぐインフラ整備、都市群の連 結及び都市・農村部の建設にビジネス チャンス

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 31

表4-1 「13・5計画」期間における協調型の地域成長モデルおよびインフラプロジェクト一覧

カテゴリー 地域 重要なプロジェクト

地域を跨ぐ発展戦略

京津冀地域

北京の新空港、天津国際水上輸送センター、効率的かつ集約的な路線交通

ネットワーク、幹線鉄道、都市間鉄道ネットワーク、市内(郊外)鉄道ネットワー

ク、高速道路ネットワーク、港湾間の連携

長江経済ベルト

長江デルタ都市圏の交通ネットワーク、長江中流域都市圏の交通ネットワー

ク、成都・重慶都市圏の交通ネットワークの建設、南京港までの長江12.5m深

水航路(チャネル)、宜昌-安慶の航路整備、三峡水利センターの新水運ルー

ト、三峡水利センターの総合交通輸送システム、武漢・重慶及び長江の中・上

流域の水上輸送センター、舟山の河川・海上提携輸送サービスセンター、長江

の船型標準化の推進、航空ハブ機能の強化、長江沿岸の石油・天然ガス幹線

パイプラインの建設

汎珠江デルタ経済圏

珠江デルタ都市群の交通ネットワーク、北部港湾都市圏の交通ネットワーク、

台湾海峡西岸都市圏の交通ネットワークの建設、海口-南寧・貴陽(経由)-

蘭州、贛州-深セン、重慶-昆明、涪陵-凱里(経由)-柳州、柳州-韶関、

西安-重慶・長沙(経由)-厦門、吉安-武夷山、貴陽-張家界、興義-永

州-郴州-贛州、臨滄-清水河などの鉄道プロジェクト、国家高速道路及び

国・省級幹線道路の建設及び更新・修繕、珠江の幹線支流の水運ルートの構

築、右江、北盤江-紅水河、柳江-黔江、湘桂運河などの水運ルート、瓊州

海峡水路プロジェクト、湛海鉄道輸送力増強計画プロジェクトの事前研究、国

際ハブ空港及びゲートウェイ空港の建設、汎珠江デルタ地域の国際物流基幹

ネットワーク

新型都市化戦略

新型都市

「3つの1億人」の都市化64、新型の中小都市圏の構築、特色ある小都市、スマ

ートシティ、グリーンシティ、エコガーデンシティ、フォレストシティ、スポンジシテ

ィ、地下パイプライン(ネットワーク)

美しい農村

農村におけるブロードバンド普及、老朽危険家屋の改築、水道水、照明、衛生

及び消防などに関連するインフラ整備、百万Km規模の農村道路の修繕、農村

の交通ネットワークのアップグレード、農村の水道飲用水の安全性向上

「13・5計画」期間において、主に地域戦略を実施することで、都市群の構築及び新型都市化を推進し、協調型の

地域成長モデルの構築を実現する。この施策は、地域を跨ぐ都市群のインフラ整備及び都市部と農村部の建設

へ参画予定の外資系企業にとって、絶好のビジネスチャンスである。

出所:「国民経済及び社会発展第13次5か年計画要綱」及び地域協調発展に関連する政府通達及び公示資料

4.1 地域を跨ぐインフラ整備:

「3+1」地域発展戦略によるビジネスチャンス

「13・5計画」期間における、3大戦略(京津冀一体化戦略、長江

経済ベルト戦略、「一帯一路」65)及び汎珠江デルタ経済圏戦略

(以下、「『3+1』地域発展戦略」)は、中国の4大地域発展戦略の

ため、国内外の多くの企業にとって、重要なビジネスチャンスであ

る。

京津冀一体化発展戦略の本格的な実施は、都市間交通施設の建設のビジネスチャンスである。京津冀一体化の推進は、「13・5計画」期間の地域発展戦略の重

要な構成部分である。「計画要綱」によると、北京を中心とする世

界レベルの都市圏を構築し、周辺の環渤海地域及び北部内陸地

域の発展を牽引する計画である。しかし、京津冀地域の交通一

体化の進行が遅れていることが京津冀一体化実現の最大の障

壁となっている。このため、京津冀一体化戦略に関するビジネス

チャンスは都市交通施設の構築に潜在している66。

また、「計画要綱」によると、京津冀地域の交通一体化について

は、効率的かつ集約的な路線交通ネットワークを構築し、幹線鉄

道の建設を強化し、都市鉄道及び都市内(郊外)鉄道を建設して

鉄道ネットワーク構築を促進する。既存の交通施設の輸送能力

を利用して、都市及び都市内(郊外)の列車運行を促進し、旅客

輸送専用路線によって京津冀地域の地級市以上の都市をカバ

ーする。さらに、高速道路ネットワークを整備して、国・省級幹線

の技術レベルを向上させる。一方、港湾間の分業・協力を促進

し、港湾の集配システムを改善し、海事統括監督管理の新モデ

ルを構築する。国際ハブ空港を建設し、航空輸送の連携システ

ムを構築する。2020年までに京津冀地域では北京を中心とする

半径50Kmから70Kmの「1時間圏路線交通ネットワーク」の構築を

完成させる計画である。

64 「3つの1億人」の都市化とは、約1億人の農民移転人口及びその他の常住人口が都市部に定住することを推進し、約1億人が居住するバラック密集地及び「城中村」(注:都市部の開発で取り残された農村地域)の改善を推進し、約1億人が中西部の都市近接地域に定住することを推進して都市化に導くことをいう。

65 「一帯一路」戦略によるビジネスチャンスは主に開放型の経済戦略を反映している。内容の詳細は、本報告書の第七章をご参照ください。

66 環境保全及び汚染対策は京津冀一体化戦略の重要な内容である。しかし、本章では、主に京津冀地域の都市間交通施設に関するビジネスチャンスについて検討する。環境産業のビジネスチャンスについては、本報告書の第五章をご参照ください。

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 3332 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

出所:北京市、天津市、河北省の「13・5計画」プロジェクトリスト

図4-1「13・5計画」期間の京津冀地域に関する重要なインフラプロジェクト一覧表

北京市

天津市

河北省

重点プロジェクト:

京張鉄道、京唐都市間特急などの幹

線鉄道、北京新空港(北京大興国際空

港)及び付随的な交通システム、都市

間鉄道及び地域を跨ぐ道路プロジェク

ト、交通・輸送サービス一体化のプロジ

ェクト

重点プロジェクト:

京濱、京唐、京承高速鉄道、京石鉄

道、天津港の改造及び付随的な交通シ

ステムなどのプロジェクト

重点プロジェクト:

京唐、京覇、廊涿都市

間特急及び白溝支線

等の鉄道、京衡旅客

輸送専用路線、河北

省内の北京新空港の

付随的な交通システ

ム、曹妃甸港湾の機

能転換プロジェクト

67 長江経済ベルト戦略を実施する際には、環境保全を最優先にしなければならない。このため、環境関連産業は長江経済ベルト戦略による重要な投資機会である。しかし、本章では、主に長江経済ベルトの総合的な立体交通回廊の建設による投資機会について検討する。環境関連産業による投資機会については、本報告書の第五章をご参照ください。

68 「長江経済ベルトの総合的な立体交通回廊計画」、国家発展改革委員会 、2014年9月25日、人民網、http://leaders.people.com.cn/n/2014/0925/c58278-25733885.html

69 「長江経済ベルト計画要綱の間近な公布により、数兆元の投資需要が形成される」、新華網 、2015年9月29日、http://news.xinhuanet.com/fortune/2015-09/29/c_128277048.htm

出所:「『13・5計画』期間の京津冀地域の国民経済及び社会発展計画」の大型プロジェクトのデータに基づき算定されたもの

北京市政府は、今後5年間で国際ハブ空港を建設し、冬季オリン

ピック大会のインフラ建設を契機に北京市と河北省及び天津市を

連結する交通施設の構築を加速させる。天津市と河北省両政府

は北京市への交通アクセス基盤の強化を継続し、各港湾のイン

フラ整備とサービス機能の構築を加速させ現代的津冀港湾群を

構築する。「『13・5計画』期間の京津冀地域の国民経済及び社会

発展計画」に関連する重点プロジェクトの試算によると、「13・5計

画」期間に、京津冀地域のインフラ一体化構築の投資需要は40

兆人民元を上回る見込みである(図4-2)。各地の大型プロジェク

トの投資需要は図4-1のとおりである。国内外の投資・融資型企

業、建設企業及び運営企業にとって、資本、技術及び建設面の

優位性を活かして京津冀地域のインフラプロジェクトに積極的に

参画するビジネスチャンスとなる。

長江経済ベルト戦略の効果的な実施は、長江沿岸の総合的な立体交通回廊の建設に関連したビジネスチャンスとなる。長江経済ベルトの建設は、「13・5計画」期間の中国の重要戦略

項目である。また、自然環境の保護とインフラ整備を結びつけ

ることは、長江経済ベルト戦略の主要内容でもある67。この戦略

の長江経済ベルトの総合的な交通ネットワーク構築の問題点

は、①長江の水上輸送能力が十分に発揮されていない、②東西

方向の鉄道及び道路の輸送能力不足、③交通ネットワークの不

完備、④各輸送施設の接続が完備されていない、⑤都市間の鉄

道建設遅滞である68。

このため、「計画要綱」によると、南京港までの長江流域の12.5m

深水航路を建設し、宜昌-安慶の航路整備を行い、三峡水利セ

ンターに新たな水運ルートの建設を推進し、三峡水利センターの

総合交通輸送システムを改善する。また、武漢・重慶及び長江

の中・上流域の水上輸送センター並びに南京の地域水運物流

センターの建設を加速し、集配システムの構築を強化し、河川と

海上の連携輸送及び水上と鉄道の連携輸送を発展させ、舟山

の河川・海上連携輸送サービスセンターを建設する。さらに、長

江の船型標準化を推進し、インテリジェント安全保障システムを

整備し、高速鉄道及び高等級道路(注:高速道路、1級道路及び

図4-2 「13・5計画」期間の京津冀一体化発展

戦略の投資需要予測

20162017 2018

20192020

2級道路の総称)の建設を加速させる。一方、空港のハブ機能を

強化し、支線空港の建設を推し進める(注:支線空港とは、年間

の利用者数を延べ50万人に設定して建設された空港を指し、800

~1500キロ以内の短距離輸送を主要業務とし、ボーイング737型

機の離着陸が可能な空港である)。

また、「13・5計画」期間に長江経済ベルトの総合的な立体交通回

廊の建設プロジェクトが巨大であるため、水路、鉄道、道路、都

市路線、空港、橋梁及びトンネル建設に多くのビジネスチャンス

がある(表4-2)。関連の試算データによると、2020年には、長江

経済ベルトの総合的な立体交通回廊の投資額は45兆人民元を

超え(図4-3)、長江デルタ地域内の高速鉄道、都市間鉄道の路

線総延長距離はそれぞれ9,000km、3,900kmに達する見込みであ

る。このうち、新規路線は動力分散式列車(MU)480両、都市間鉄

道列車2,500両の需要をもたらし69、既存の路線は旅客輸送量の

増加によって鉄道施設需要をさらに牽引する。インフラ施設の建

設と運営や交通施設の運営と管理、及びインテリジェント交通施

設の設計・建設・運営に従事する外資系企業にとって、ビジネス

チャンスとなる。

十億

人民

8,600

8,500

8,400

8,300

8,200

8,100

8,000

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 33

70 「汎珠江デルタ地域の都市間提携関係の強化に関する国務院の指導意見」、国務院、2016年3月15日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2016-03/15/content_5053647.htm

表4-2 「13・5計画」期間の揚子江経済圏総合的交通網の発展目標

指標 単位 2013年 2020年

内陸航路距離 千km 89 89

• 高等級の航路距離 千km 6.7 12

鉄道営業距離 千km 29.6 40

• 高速鉄道営業距離 千km 4 9

• 複線化率 % 49.8 60.7

• 電化率 % 69.7 88.5

道路営業距離 千km 1,888 2,000

• 国家高速道路営業距離 千km 32 42

• 郷鎮(村・町)道路のアスファルト舗装率 % 97.9 100

• 建制村(省・市級国家機関の承認を経て設置された村)道路のアスフ

ァルト舗装率% 84.7 100

石油・天然ガスパイプライン延長距離 千km 44 70

都市軌道の交通営業距離 km 1,089 3,600

民用空港数 箇所 74 100

長江の水上幹線橋梁(トンネルを含む)数 基 89 180

出所:「長江黄金水道による長江経済ベルトの発展に関する国務院の指導意見」、国務院弁公庁、2014年09月12日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2014-09/25/content_9092.htm

汎珠江デルタ経済圏の都市間提携の加速化によって、汎珠江デルタ地域内のインフラ整備関連産業にとって、多くのビジネスチャンスとなる。汎珠江デルタ地域提携戦略は、「13・5計画」期間の華中・華南地

域の重要な発展戦略である。この戦略は範囲が広域であり、多く

の提携の機会をもたらす。このため、国内外の企業にとっては大

きな投資価値を見出せる戦略である。「計画要綱」によると、珠江

デルタ地域を開放的かつ革新的な経済地域に建設することをサ

ポートし、深センの科学技術・産業イノベーションセンター建設を

加速し、汎珠江デルタ地域の都市間提携を推進し、珠江-西江

経済ベルトの急成長を後押ししなければならない。

珠江デルタ地域内のインフラ施設、特に交通施設の連結は汎珠

江デルタ地域提携戦略の重点項目である。「汎珠江デルタ地域

の都市間提携関係の強化に関する国務院の指導意見」による

と、現代的な総合交通輸送システムを構築するため、地域内の

各輸送方式の接続及び総合的な交通要衝の建設を強化し、安全

性・低炭素化・利便性を備えた総合交通輸送システムを構築し、

地域発展に対するサポート能力を強化し、汎珠江デルタ地域及

び周辺の省(市・区)、地域との連結を維持しなければならない70。

汎珠江デルタ経済圏のインフラ施設及び交通ネットワークを構築

するため、鉄道、道路、航路、港湾、空港及び交通サービスなど

のプロジェクトに対する投資が必要である(表4-3)。これは、国内

外の企業にとって非常に良いビジネスチャンスとなる。

図4-3  「13・5計画」期間の長江経済ベルト戦略の投資予測

9,500

9,000

8,500

8,000

20162017 2018

20192020

十億

人民

出所:長江経済ベルト戦略に関する大型プロジェクトのデータに基づき算定されたもの

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 3534 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

表4-3 「13・5計画」期間の汎珠江デルタ経済圏の交通インフラプロジェクト一覧表

鉄道

海口-南寧・貴陽(

経由)-蘭州鉄道、

瓊州海峡水上交通プ

ロジェクト、湛海鉄道

旅客輸送量増加プロ

ジェクト、贛州-深セ

ン、重慶-昆明、涪

陵-凱里(経由)-柳

州、柳州-韶関、西

安-重慶・長沙(経

由)-厦門、吉安-

武夷山、貴陽-張家

界、興義-永州-郴

州-贛州、臨滄-清

水河などの鉄道プロ

ジェクト

道路

国家高速道路及

び国・省級の幹線

道路の構築及び

アップグレードプ

ロジェクト、道路の

技 術 レ ベ ル 及 び

安全レベル向上プ

ロジェクト、各省間

の行き止まり道路

の接続プロジェク

ト、道路安全性向

上プロジェクト

港湾、航路

珠江の主要幹線支流

の高等級航路プロジ

ェクト、西江水運幹線

プロジェクト、右江、

北盤江-紅水河、柳

江-黔江などの航路

構築プロジェクト、湘

桂運河プロジェクト、

西南航路建設プロジ

ェクト、珠江水上輸送

システムの構築・改

善プロジェクト、珠江

水上輸送プロジェク

ト、瓊州海峡南北岸

RO-RO 船埠頭プロジ

ェクト

航空

国際ハブ空港及

びゲートウェイ空

港の建設プロジェ

クト、支線空港の

建設プロジェクト、

珠 江 デ ル タ 地 域

内の都市間空路・

フライト数増加プ

ロジェクト

交通サービス

複合輸送の貨物輸送ハブ

及び物流園区の建設プロジ

ェクト、ハブのセンターの集

配システムプロジェクト、汎

珠江デルタ地域のスワップ

ボディ式輸送ネットワーク・

プロジェクト、インテリジェン

ト物流ネットワーク・プロジェ

クト、交通・物流公共情報プ

ラットフォームプロジェクト、

東南アジア・南アジア地域向

けの国際物流公共情報プラ

ットフォームプロジェクト、汎

珠江デルタ地域の国際物流

基幹ネットワーク・プロジェク

ト、蓉欧国際快速鉄道など

の国際物流交通の建設プロ

ジェクト

出所:「汎珠江デルタ地域の都市間提携関係の強化に関する国務院の指導意見」、国務院、2016年03月16日、 新華網

4.2 都市間のインフラ産業:

「20+1」都市圏の発展によるビジネスチャンス

都市圏を主体とする新型都市化の推進は、「13・5計画」期間の地域発展戦略の重要な戦略構想である。「計画要綱」によると、陸橋交通71及び長江の沿岸交通を横軸と

して、沿海地域、京哈・京広線、包昆交通を縦軸として、大・中小

都市、小城鎮(町)の合理的な設置及び協調的な発展を目的とす

る「両横三縦」の都市化戦略実施を加速する。また、「13・5計画」

期間における都市圏戦略構想では、京津冀地域、長江デルタ地

域、珠江デルタ地域を世界レベルの都市に建設し、山東半島及

び海峡西岸の都市圏の開放水準を向上させる。さらに、東北地

域、中原地域、長江中流地域、成都・重慶地域、関中平野などの

都市圏を開拓し、北部湾地域、山西省中部、フフホト・包頭・オル

ドス・楡林、黔中、滇中、蘭州-西寧、寧夏の黄河沿岸地域、天

山北坂地域などの都市圏を発展させ、拉薩・喀什を中心とする都

市圏の発展を促進する(図4-4)。

外資系企業にとっては、都市圏内の交通施設プロジェクトがビジネスチャンスとなる。中国都市圏の交通施設は、この5年以内に都市圏交通ネットワ

ークの構築を加速する計画である。2020年には中国都市路線の

距離は約3,000km増加する72。都市圏の交通インフラプロジェクト

に関する重要内容及びビジネスチャンスは、主に①道路施設間

の連結、②都市間鉄道又は旅客輸送専用軌道の接続、③水上

航路の連結、④航空航路の連結、⑤交通サービスの一体化であ

る。「13・5計画」期間に中国の主要都市圏発展計画が相次いで

公布されるため、都市圏の交通施設プロジェクトに関するビジネ

スチャンスは急速に増加する。外資系企業は道路、鉄道、水上運

送、航空輸送、交通サービスなどの分野で建設、運営、管理に関

わることで中国のインフラストラクチャーに対する投資拡大が見

込まれる。

71 陸橋交通とは、中国東部の沿海地域及び西部の内陸地域を結びつける交通であり、東部地域の江蘇省港湾都市である連雲港市から、甘粛省蘭州市を経由し、西部地域の新疆ウイグル自治区の阿拉山口まで至る。

72 「13・5計画要綱(全文)」、新華網、2016年3月18日、http://sh.xinhuanet.com/2016-03/18/c_135200400.htm

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 35

4.3 新型都市インフラ整備:新型都市化及び新型中小

都市の構築によるビジネスチャンス

新型都市化の推進は「13・5計画」の重要戦略の1つである。「計

画要綱」によると、機能完備した特色ある新型中小都市を育成

し、特色ある自然資源、地理的優位性、及び文化的な機能を擁

する小城鎮(町)を発展させ、都市施設と公共サービス施設を改

善することで、住みやすく活発な特色ある都市を構築する。「13・5

計画」期間において、国内外企業の投資機会は、主に新型都市

及び地下パイプライン(ネットワーク)の建設にある。

スマートシティの建設に対する投資は急速に成長する見込みである。「計画要綱」によると、「13・5計画」期間に、現代的な情報インフラ

ストラクチャーの構築を強化し、ビッグデータ及びモノのインター

ネット(IoT)の推進を通じて、スマートシティを建設する。中国住宅

都市農村建設部により制定された「『13・5計画』期間のスマートシ

ティ特別計画」によると、今後5年間の中国スマートシティの投資

規模は5,000億人民元を上回る見込みである73。2014年に国家発

展改革委員会が公布した「『スマートシティの健全な発展の促進

に関する指導意見』の印刷・配布に関する通知」によると、フラン

チャイズ、サービス購入等の多種多様な方法を通じて、民間資本

をスマートシティの建設に導入し、要件を満たす企業が社債の発

行による資金調達を通じてスマートシティを建設することを奨励す

る74。外資系企業は、技術、運営及び管理の優位性を利用し、ス

マート政務、スマート産業及びスマートライフ等の分野において

中国のスマートシティ建設への関与が期待できる。

スポンジ都市の建設は、投資の全盛期を迎えるであろう。 「計画要綱」によると、「13・5計画」期間に、都市の水防、貯水量

調整、公園緑地などのエコインフラストラクチャー構築を強化し、

スポンジ都市の発展をサポートする。2015年の「スポンジ都市

の建設に関する国務院弁公庁の指導意見」75では、「13・5計画」

期間のスポンジ都市化建設を目標に設定した。当該目標による

と、2020年までに全国658箇所の都市面積20%以上が70%の雨水

を地中に吸収・利用することができるようになる。目標達成には、

毎年4,000億人民元の投資金額が必要となる。このため、今後5

年間で、約2兆人民元の投資需要が発生すると見込まれる76。ま

た、同意見によると、スポンジ都市の建設には、政府と民間資本

のリスク負担・収益共有の提携体制を構築し、経営的収益権の

明確化、政府の購買サービス、財政補助金などを通じて、民間資

本をスポンジ都市の建設投資及び運営管理に導入するよう奨励

する必要がある。このため、外資系企業は、雨水吸収システム及

び雨水パイプラインシステムの開発、公園緑地の建設、自然環

境の修復などの分野でスポンジ都市の建設に関与することが期

待できる。

73 「『13・5計画』期間のスマートシティの投資規模が5,000億人民元を上回る」、華夏時報、2015年12月19日、http://www.chinatimes.cc/article/52563.html

74 「『スマートシティの健全な発展の促進に関する指導意見』の印刷・配布に関する通知」、国家発展改革委員会、2014年8月27日、http://www.sdpc.gov.cn/gzdt/201408/t20140829_624003.html

75 「スポンジ都市建設推進に関する国務院弁公庁の指導意見」、国務院弁公庁、2015年10月16日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2015-10/16/content_10228.htm

76 「今後5年間のスポンジ都市プロジェクトは年間4,000億人民元の投資ニーズを牽引する」、経済参考報、2015年11月26日、http://jjckb.xinhuanet.com/2015-11/26/c_134855418.htm

図4-4 「13・5計画」期間における、中国「20+1」都市圏の基本状況

出所:「中華人民共和国国民経済及び社会発展第13次5か年計画要綱」及び中国政府の都市圏関連通達に基づき整理されたもの

長江デルタ都市群、珠江デルタ都市

群、京津冀都市群、長江中流地域都

市群及び成都・重慶都市群

哈長都市群、山東半島都市群、遼

中南都市群、海峡西岸都市群、関

中都市群、中原都市群、江淮都市

群、北部湾都市群及び天山北坂都

市群

拉薩(ラサ)・喀什(カシュガル)を中

心とする都市圏

フフホト・包頭・オルドス・楡林都市

群、晋中都市群、寧夏黄河沿い都

市群、滇中都市群及び黔中都市群

国家レベル都市群

地域都市群

地区都市群 地区

都市圏

• 従来の河川・湖沼などの水環

境を最大限に保全する。

• 都市開発前の水環境を維持す

る。

• 粗放型の建設プロジェクトによって

破壊された水資源生態環境を回

復させる。

• 一定比率で都市の自然環境地域

を保全し、「河長制」による水汚染

対策を普及させる。

• 開発の程度を合理的にコントロ

ールし、都市の自然環境に対す

る破壊を減少させる。

• 公園緑地用地を留めながら、水

域面積を増加させ、雨水の貯

蓄・浄化を推進する。

図4-5 スポンジ都市建設に関する基本ルート

自然環境保全 破壊された水資源生態環境の回復

低影響開発

出所:関連文献及び資料により整理されたもの

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他の都市のインフラ建設も加速している。「計画要綱」によると、中国政府は「13・5計画」期間において、都

市の給水施設の修繕・建設を加速し、都市の道路、駐車場、交通

安全などの関連施設及び都市における徒歩・自転車用の交通施

設を建設し、アクセシビリティ施設の構築、住居地域内の幼稚園

及び学校の建設を推進し、コミュニティーに付属する駐車場及び

充電設備を配置する計画である。外資系企業は、これらの分野

でのインフラ建設及び公共サービス運営に関するビジネスチャン

スを見出すことができる。

図4-6 「13・5計画」期間の地下パイプライン

(ネットワーク)建設の投資出所概略図

地下パイプラインの建設は投資ブームの幕開けとなる。「計画要綱」によると、都市パイプラインなどの地下インフラストラ

クチャーの改善・建設を強化し、地下パイプライン(ネットワーク)

の建設プロジェクトを推進する。2015年の「地下総合パイプライ

ン建設の推進に関する国務院弁公庁の指導意見」では、2020年

までに国際レベルの地下総合パイプラインを稼動させる計画で

ある。また、地表の掘削工事を繰り返す「道路ファスナー」問題を

解決し、パイプラインの安全性及び災害予防・対策能力を向上さ

せ、主要市街の「クモの巣」状の架空送電線網を撤去し、重要都

市の地表景観を美化する77。予測データによると、地下パイプライ

ンの建設は回廊と配管の2部分に分けられる。1km当たりの回廊

投資額はおよそ8,000万人民元、また1km当たり配管投資額はお

よそ4,000万人民元となり合計1.2億人民元となる。現時点の都市

化ペースからは、今後5年間に毎年およそ1兆人民元の投資需要

が発生し、5年間の投資需要は5兆人民元に達する78。民間資本

が地下パイプライン投資総額が仮に50%以上を占めるとすれば、

「13・5計画」期間の地下パイプライン建設は、国内外の企業に2.5

兆人民元の投資需要をもたらすと見込まれる。2015年に「都市地

下総合パイプラインの有償使用制度の実施に関する国家発展改

革委員会及び中国住宅都市農村建設部の指導意見」では、地下

パイプラインの建設に参入する民間資本のために重要な投資回

収システム及び政策上の保障を定めた79。外資系企業は地下パ

イプライン建設の重要な支援者であり、都市地下パイプライン(ネ

ットワーク)の建設・運営及び地下パイプライン(ネットワーク)建

設設備の供給などの分野でビジネスチャンスがある。

民間資本

地方財政

中央財政55%

29%

16%

出所:関連調査及び資料に基づき整理されたもの

4.4 農村のインフラ建設:

美しい農村の建設及び新型農村建設がもたらすビ

ジネスチャンス

「13・5計画」期間に中国政府は、都市・農村発展一体化及び都

市・農村間の格差縮小に向けてアクセルを踏む。都市・農村発展

一体化の最重要課題は農村インフラ建設の短所を補い、社会主

義の新型農村の建設レベルを向上させることである。美しい農村

のインフラ建設は国内外の企業に大きなビジネスチャンスを創出

する。

農村部の低水準なインフラ建設は、依然として都市・農村部の発展における課題として残っている。2020年までに中国の都市化率は60%まで高まるが、40%の人口は

まだ農村に住んでいると予測されている80。調査及び分析による

と、現在、中国の40%の農村は集中給水施設を持っておらず、大

部分の道路施設も未だに完備されていない。また、生活ごみの

処理及び生活汚水処理を行っている村はわずかに9%~35%にとど

まる81。農村の居住環境の改善は喫緊の課題である。

美しい農村建設計画は多分野のインフラ建設に及んでいる。「計画要綱」によると、「13・5計画」期間に美しくて住み心地の良

い農村建設を推進し、農村でのブロードバンド普及、老朽住宅、

道路、水道、照明、衛生、消防などの各施設を改善する。また、

農村送配電網の改善・更新及び水道水の安全性向上プロジェク

トの実施、生態文明82モデル農村の建設及び農村居住環境の整

備を行い、農村の住居環境を全面的に改善する。2014年に公布

された「農村居住環境の改善に関する国務院弁公庁の指導意

見」では、「13・5計画」期間に美しい農村を建設することを重要な

目標にした。具体的には、2020年までに全国の農村住宅、水道

水及び交通施設などの生活条件を顕著に改善し、農村の住居環

境を衛生的かつ便利にし、特色ある美しい農村の建設を完了さ

せる83。

美しい農村の建設計画は巨額のインフラ投資需要を生み出し、国内外の企業にビジネスチャンスを創出する。中国にはおよそ57万箇所の村がある。このため、美しい農村建

設計画の平均投資規模に基づいて試算すると、1村当たりの投

資額は約200万人民元と予測される。今後5年間で政府は、財政

投入で誘致する民間資本は十数兆人民元以上になる84。中国の

美しい農村建設計画は外資系企業にとって大きな投資のチャン

スをもたらす。また、「農村居住環境の改善に関する国務院弁公

庁の指導意見」では、民間資本による農村建設への参画を奨励

し、政府が委託、請負、財政支援を行い、民間企業による農村建

設計画の設計サービス、ゴミ処理、汚水処理、河川管理などの

公共サービスを提供する。昨今、幾つかの外資系企業は、既に

中国の農村建設プロジェクトに参画しており、政府統計データに

よると、外資系企業の投資総額は300億米ドルに達している。外

資系企業は、「13・5計画」期間において農村の送配電網、村内道

路、給排水施設、ゴミ・汚水処理施設、メタンガス施設、河川など

公共施設の建設、運営、管理及び保護、農村の環境保護や観光

開発などの分野での新たなビジネスチャンスが期待できる。

77 「地下総合パイプラインの建設の推進に関する国務院弁公庁の指導意見」、国務院弁公庁、2015年8月10日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2015-08/10/content_10063.htm

78 「中国政府が地下総合パイプラインを全面的に建設し、地下パイプラインプロジェクトを始動する」、新華網、2015年7月31日、http://news.xinhuanet.com/politics/2015-07/31/c_1116107711.htm

79 「都市地下総合パイプラインの有償使用制度の実施に関する国家発展改革委員会及び中国住宅都市農村建設部の指導意見」、国家発展改革委員会及び中国住宅都市農村建設部、2015年11月26日、http://www.sdpc.gov.cn/zcfb/ zcfbtz/201512/t20151209_761935.html

80 「2020年の中国常住人口の都市化率が60%に達する」、新華網、2014年3月17日、http://news.xinhuanet.com/house/nj/2014-03-17/c_119792678.htm

81 「農村居住環境の改善に関する指導意見」、中国政府網、2014年6月5日、http://www.gov.cn/xinwen/2014-06/05/content_2694296.htm

82 中国経済発展に伴う環境悪化に対応するため、胡錦涛主席は「生態文明」の概念を提唱し、節約・グリーン・サステナビリティな経済発展を推進することを目的とする。

83 「農村居住環境の改善に関する国務院弁公庁の指導意見」、国務院弁公庁、2014年5月29日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2014-05/29/content_8835.htm

84 「外資系企業による中国の農村居住環境の改善に対する1兆元以上の投資需要に注目」、新華網、2015年11月8日、http://news.xinhuanet.com/fie/2015-11/08/c_1117073527.htm

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 37

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第5章 グリーン成長戦略及び自然環境保全の優先策―グリーンサービス業、グリーン金融業及 びグリーン技術産業にビジネスチャンス

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 39

表5-1 「13・5計画」グリーン成長戦略及び環境保全体制に関するプロジェクトと政策

重要なプロジェクト又は政策:

水源地及び水質がIII類基準値又はそれ以上の基準値86に達する378箇所の河川・湖・ダムに対して厳

格な保全を実施し、汚染された農地1,000万ムーの修復及び4,000万ムーの農地の汚染防止措置を行

う。5か所の中・低レベル放射性廃棄物処分場及び1か所のハイレベル放射性廃棄物処分場の地下実

験室を建設する。チベット高原や黄土高原等にある重要な自然地域の修復を推進する。各自然保護エ

リアを接続するグリーンコリドーを建設する。辺境地域の土地リソースの総合開発、汚染防止及び修復

を推進する。また、27万平方キロメートルの土地に水土保全対策を実施する。

重要なプロジェクト又は政策:

グリーン金融体制を構築し、グリーン信用貸付及びグリーン債券業務を発展させてグリーン成長ファン

ドを設立する。

重要なプロジェクト又は政策:

新エネルギーカー普及計画の実施、パワーバッテリーのエネルギー密度や温度耐性等に関するコア

技術の更なる開発、充電施設ネットワークの構築、新エネルギーカーの廃バッテリー回収の促進。

環境汚染対策

グリーン金融業

グリーン技術産業

グリーン成長戦略及び環境保全体制の構築は、第13次5か年計画の重要な戦略課題である。この「計画要綱」は下

記の2つの重要ポイントを提示している。

1. 環境産業から得た利益の配分及び測定方法の制定を加速させ、環境保護による利益の市場化配置を実現す

る。

2. グリーン成長戦略の実施活動に民間資本を取り入れ、自然環境保護及び開発の市場化を推進し、世界と中国

人民のために高品質なエコ製品を生産する。

試算データによると、「13・5計画」期間のグリーン産業は毎年2兆元以上の資金が必要であり85、「12・5計画」期間の

約3倍に相当する。これは、中国のグリーン産業に進出しようとする国内外の企業に絶好のビジネスチャンスとなる。

出所:「国民経済及び社会発展第13次5か年計画要綱」及びグリーン成長に関する政府公文及び公表資料に基づき整理されたもの

5.1 環境産業:水・大気・土壌関係のエコ産業に投資す

る余地が拡大

環境汚染対策実施の加速化は、「13・5計画」期間における重要な

グリーン成長戦略である。「計画要綱」によると、環境汚染対策の

理念及び方法を見直し、最も厳格な環境保護制度を実施し、汚染

物を排出する事業者の主体責任を強化する。また、「政府・企業・

一般国民が一丸となって自然環境の保護に取り組む」体制を形成

し、環境の全体的な改善を実現する。このため、環境産業に投資

する余地は漸次拡大する見込みである。

「13・5計画」期間に環境産業への投資規模は急増する。

中国の2001~2015年の環境産業は急成長を遂げ、2001年の

1,106.6億元から2015年の9,576億元まで増加し、年間成長率は

15%以上となって固定資産投資の実質成長率を上回った87。政府

は環境汚染対策に注力したものの、自然環境の悪化は抜本的な

解決までには至っていない。2014年に、全国74の重要都市の中

大気汚染の年間平均環境基準に合格したのは、わずか8都市だ

けである。また、全国の地表水の10%近くは劣Ⅴ類88に該当し、水

質がⅠからⅡ類である地表水の割合は2013年に比べてさらに5.7

ポイント悪化した。このため、政府は「13・5計画」期間中に環境基

準を一層厳格化して環境保護対策の投資額を増加する計画であ

る89。「13・5計画」期間には、環境投資の年間成長率は20%以上と

なると予測される。2020年までに年間環境投資の総額は2.4兆元

に達し、2015年の2.5倍となると見込まれる。環境への投資規模

は急成長を迎えることになる。

85 「『13・5計画』期間のグリーン産業は年毎に少なくとも2兆元の投資」、21世紀経済記事、2015年11月5日、http://epaper.21jingji.com/html/2015-11/05/content_25257.htm

86 環境保護部が2002年に公布した「地表水環境品質基準」によると、水域環境の機能及び保護目標に基づき、地表水は5種類に大別される。そのうち、Ⅲ類基準に合致する地表水は主に集中式の生活飲用水・地表水源地の2級保護区、魚介類の越冬場、回遊経路、水産物養殖区等の漁業水域及び水泳区に適用される。

87 「2001年中国環境状況公報」コラム、中国網、2006年1月12日、http://www.china.com.cn/zhuanti2005/txt/2006-01/12/content_6090902.htm 2015中国環境産業の発展現状、中国産業情報網、2016年1月15日、http://www.chyxx.com/industry/201601/380396.html

88 Ⅴ類は水質評価基準の最低級のレベルである。

89 「 『第13次5か年計画』が引き続き環境保全の強化に注力する」、新華網、2015年11月30日、http://news.xinhuanet.com/fortune/2015-11/30/c_128482139.htm

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 4140 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

図5-1中国環境産業の投資状況と「13・5計画」の予想投資額

3,000

2,500

2,000

1,500

1,000

500

0

第三者による環境汚染対策モデルは、政府の投資不足を補う重要な役割を果たしている。政府の環境保護と環境汚染対策への投資の増加額は実績レベ

ルで毎年1,000億人民元以上であるが、環境汚染対策の実需要を

満たしていない。そのうち、政府投資の割合はわずか30~40%で

ある90。

「13・5計画」期間中に年間20%以上も増加する投資需要を満たす

には、政府の財政投入だけでは不十分である。このため、政府

が2014年に公布した「第三者による環境汚染対策の推進に関す

る国務院弁公庁の意見」によると、市場化・専門化・産業化を発

展方向として、有利な市場環境と支援措置を整備させ、政府の管

理・サービス機能を改善する。また、同「意見書」によると、中国政

府は引き続き環境産業市場の秩序及び監督体制を整備させ、民

間資本を誘致し、汚染廃棄物を排出する事業者に環境汚染対策

の費用を支払わせる体制、第三者による環境対策という新モデル

を構築することで、中国の環境汚染対策を強化する91。上述から、

「13・5計画」期間の中国環境産業は急成長すると予測される。

外資系企業にとって水・大気・土壌の環境対策及び地域環境の共同対策等の分野が格好の投資のチャンスとなる。産業セクターから見ると、水・大気・土壌対策は中国環境産業の

今後の重要分野である。2013年の「大気汚染防止・対策行動計

画」92、2015年の「水汚染防止・対策行動計画」93及び2016年の「土

壌汚染防止・対策行動計画」94によると、融資の多角化及び融資

チャネルの拡大を図り、外資系企業を含む民間資本の水・大気・

土壌関係の環境産業への参入を奨励する。現在の投資構成比

は、水及びガスの廃棄物産業への投資が最大の割合を占め、そ

れぞれ14.7%と75.4%である(図5-2)。専門家の試算データによる

と、「13・5計画」期間において「大気汚染防止・対策行動計画」95の

実施には新たに1.84兆元の投資が必要となり96、「水汚染防止・対

策行動計画」97の実施には新たに4~5兆元の投資が必要となる98。また、「土壌汚染防止・対策行動計画」99の実施には新たに2兆

元以上の投資が必要となる100。

前述の推計データによると今後、水・大気・土壌対策の投資規模

は年間でそれぞれ5%、15%、20%増加し、土壌及び大気対策の投

資の伸び率が最も大きくなる。地域別では、京津冀地域(北京市、

天津市、河北省を指す)及び長江経済ベルトが、「13・5計画」期間

の環境汚染対策実施の重要対象地域となっている。また、「計画

要綱」によると、京津冀地域の共同発展を推進し、大気汚染防止

策を強化し、大気汚染対策の重要な対象地域の大気汚染改善工

事を実施する。また、長江経済ベルトの沿岸グリーンコリドーを建

設するため、長江流域の水資源の保護及び水汚染対策を重点的

に推進する。このため、「13・5計画」期間に、外資系企業は水・空

気・土壌の3大分野及び京津冀地域や長江経済ベルト等の地域

で、環境産業に関する多くの投資のチャンスが期待できる。

90 「環境保全の経済学:3大政策は10兆元の投資を駆動」、新浪財経、2015年3月13日、http://finance.sina.com.cn/china/20150313/005921709924.shtml

91 「第三者による環境汚染対策の推進に関する意見」、国務院弁公庁、2015年1月14日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2015-01/14/content_9392.htm

92 「大気汚染防止・対策行動計画の印刷・配布に関する通知」、国務院、2013年9月12日、http://www.gov.cn/zwgk/2013-09/12/content_2486773.htm

93 「水汚染防止・対策行動計画の印刷・配布に関する通知」、国務院、2015年4月16日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2015-04/16/content_9613.htm

94 「土壌汚染防止・対策行動計画の印刷・配布に関する通知」、国務院、2015年5月31日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2016-05/31/content_5078377.htm

95 注釈92と同じ。

96 「『大気汚染防止・対策行動計画』の実施は1.84兆人民元の投資が必要」、新浪網、2015年11月23日、http://news.sina.com.cn/green/2015-11-23/doc-ifxkxfvn8977093.shtml

97 注釈93と同じ。

98 「3大汚染対策計画が民間資本の投入を嘱望」、捜狐財経、2015年12月28日、http://business.sohu.com/20151228/n432766087.shtml

99 注釈94と同じ。

100 「土壌汚染対策計画が公布、企業が1兆元規模の市場シェアを奪い合う」、網易新聞、2016年6月1日、http://news.163.com/16/0601/18/BOGE46M600014JB5.html

十億

人民

20052004

20032002

20012006

20072008

20092010 2011 2012

20132014

20152016E

2017E

2018E2019E

2020E

出所:2001~2015年のデータは中国環境保護部の「環境投資年報」によるもの、2016~2020年のデータは過去5年間の環境投資状況及び「13・5計画」期間の環境保全プロジェクトのデータに基づき試算された数値

図5-2中国環境汚染対策の投資構成比

廃ガス廃水

75.4%14.7%

他の項目

固体廃棄物騒音

8%

1.7% 0.2%

出所:中国環境保護部の「環境統計年報」データに基づき試算された数値

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 41

5.2 グリーン金融産業:

グリーン信用貸付、債券、保険及びファンドが急成

グリーン金融産業の拡大は、「13・5計画」期間の中国環境保全分

野における重要な施策である。「計画要綱」によると、グリーン金

融システムの構築、グリーン信用貸付及び債券産業の拡大、グリ

ーンファンドの設立を図る必要から、グリーン金融産業は外資系

金融機構の中国における新しい投資分野となる。

グリーン金融産業は漸次形成されつつある。「12・5計画」期間に中国のグリーン金融産業は着実な成長を遂

げ、とりわけグリーン貸付産業は急成長した。2015年までに中国

の主要銀行21行のグリーン信用貸付残高は7.59兆元(図5-3)に

達し、2010年の2.25倍となり年間伸び率は27%に達し、直近3年間

では30%以上の大きな上げ幅を維持している101。しかし、中国の

グリーン金融産業は依然、間接融資を主要業種としており債券、

株式、保険投資等の直接融資が少ない。これはグリーン融資の

コスト削減にマイナスとなる。それにも関わらず中国のグリーン金

融産業は、「12・5計画」期間に拡大して新しい成長分野となりつ

つある。

図5-3中国主要銀行 21行のグリーン信用貸付残高

9,000

6,000

3,000

0

2010

2011

2012

2013

2014

2015

十億

人民

出所:中国人民銀行金融研究所より出版された過年度「中国金融年鑑」のデータに基づき試算されたもの

中国のグリーン金融産業は「13・5計画」期間に急速に成長する。既定の環境保全計画と標準的なローレベル戦略によると、「13・5

計画」期間の中国の工業汚染対策、環境修復、持続可能なエネ

ルギー、環境インフラの整備、省エネ等の5大分野でグリーン融

資需要の金額は14.6兆人民元になると見込まれる。一方、環境

悪化の防止に向けたハイレベル戦略を実施する場合、資金需要

は30兆元に上る102。中国人民銀行は2016年からグリーン信用貸

付業務のほか、グリーン債券の発行を加速させている。浦発銀

行は2016年1月27日に中国初の200億元のグリーン金融債券を

発行することに成功した103。また、中国政府は「13・5計画」期間

に、下記の分野のグリーン債券発行を計画している。主に省エ

ネ・排出削減技術の改善、グリーン都市化、エネルギーの効率的

利用、新エネの開発・利用、リサイクルビジネスの成長、水資源

の節約、特殊な水資源の開発・利用、汚染対策、生態系農林業、

省エネ・エコ産業、低炭素産業、自然環境保全優先策の試行、低

炭素戦略のパイロットプログラム等のグリーンリサイクルである104。

試算データによると、2020年までに中国グリーン債券市場の残高

は5.7兆元に達する見込みである105。

外資系企業はグリーン金融商品の種類拡大及び成長モデルの革新からビジネスチャンスが期待できる。「13・5計画」期間に、中国政府はグリーン金融システムを構築す

ることで、民間資本がグリーン産業に参入することを奨励する計

画である。既存の計画によると、政府は今後数年間でグリーン債

券市場及びグリーン担保の仕組の構築を加速させ、グリーン産

業ファンド及びグリーン株価指数を設立し、グリーンプロジェクト

の資産の証券化を推進し、環境リスクの高い分野に対してグリー

ン保険の強制加入制度を制定する計画である106。また、これらの

措置は外資系企業及び金融機構にも適用される。そのため、外

資系商業銀行、外資系保険会社及び外資系投資銀行はこれら

の分野でより多くの投資及びビジネスチャンスとなる107。また、中

国の金融機関はこれらのチャンスを活用して中国グリーン金融産

業の国際化に拍車をかけ、海外での事業展開及び融資に期待し

ている。実務的には、政府はグリーン金融分野で国内外の企業

とクロスボーダー提携を開始している。2015年に開催された英中

経済財政金融対話で、中国と英国は、中国の企業及び金融機構

が英国でグリーン債券発行を推進することを明確にした。中国農

業銀行はロンドン証券取引所でグリーン債券を発行する中国初

の金融機構となった。その外に中国政府も様々な施策により多く

の世界グリーン投資家を中国のグリーン投資産業へ誘致してい

る。これは、中国グリーン産業に参入する国内外の企業にとって

千載一遇のチャンスとなる。

101 中国人民銀行金融研究所より出版された過年度の「中国金融年鑑」のデータに基づき試算されたもの。

102 「グリーン金融システムの構築を加速させ、『13・5計画』のグリーン成長を推進する」、中国高新技術産業導報、2015年10月19日、http://paper.chinahightech.com/html/2015-10/19/content_16385.htm

103 「浦発銀行が中国初のグリーン金融債券の発行に成功する」、新華網、2016年1月27日、http://news.xinhuanet.com/fortune/2016-01/27/c_128676217.htm

104 「グリーン債券発行ガイドライン」、国家発展改革委員会、2015年12月31日、http://www.sdpc.gov.cn/zcfb/zcfbtz/201601/t20160108_770871.html

105 「2020年の中国グリーン債券規模が5.7兆元に達する」、中国財経報、2016年2月2日、http://www.cfen.com.cn/dzb/dzb/page_7/201602/t20160202_1662578.html

106 「馬駿:『13・5計画』期間のグリーン金融産業の重点10分野」、新浪財経、2016年2月5日、http://finance.sina.com.cn/money/bank/bank_hydt/20160205/143824273161.shtml

107 「グリーン金融債券の発行に関する中国人民銀行の公告」「グリーン債券の奨励類公告目録(2015年版)」、中国人民銀行、2015年12月22日、http://www.pbc.gov.cn/

zhengwugongkai/127924/128038/128109/2997296/2015122918355461250.pdf ; http://www.pbc.gov.cn/zhengwugongkai/127924/128038/128109/2997296/2015122918450210643.pdf

十億

人民

図5-4「13・5計画」期間の中国グリーン債券発行額の予測

1,600

1,200

800

400

0

20162017 2018

20192020

出所:中国人民銀行の関連書類及び中国グリーン金融市場の予測データに基づき試算された数値

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5.3 グリーン技術産業:

新エネルギーカー及びグリーン建材市場の高成長

「13・5計画」期間は中国政府がエネルギー消費モデルの改革を

加速させる重要な時期である。「計画要綱」によると、エネルギー

利用方式を見直し、エネルギーの節約管理を強化し、エネルギー

の利用効率性を大幅に向上させ、グリーン成長というライフスタイ

ルを形成する。グリーン技術産業の発展動向を見ると、新エネル

ギーカー及びグリーン建材市場は成長スピードが最も速い2分野

となる可能性があり、国内外の企業がプロジェクト投資及び市場

開拓を行う重点分野となるだろう。

中国のグリーン技術産業は近年、急成長を遂げてきた。「12・5計画」期間に政府は新エネルギーカー産業の育成を加速さ

せ、建設業の省エネ化を推進し、この2産業は急成長した。具体

的には、新エネルギーカーの年間販売台数は2010年の7,200台

から2015年の33万台となり、45倍増加した(図5-5)。また、グリー

ン建材の年間売上高は2010年の1,837億元から2015年の6,698億

元となり、2.6倍増加した(図5-6)。

「13・5計画」期間のグリーン技術産業は爆発的な成長を迎える。「計画要綱」によると、新エネルギーカーの普及計画及び建設産

業の省エネ化を全面的に推進する。2012年公布の「省エネ及び

新エネルギーカー産業発展計画の印刷・配布に関する国務院の

通知」によると、2020年までに純電気自動車及びプラグインハイ

ブリッドカーの生産台数は200万台に達し、累計生産・販売台数

は500万台を超える108。KPMGの予測によると、2020年までに中

国の新エネルギーカーの累計販売台数は500万台を超える(図

5-7)。また、中国政府が相次いで公布した「グリーン建築評価基

準」(2014年版)、「グリーン建築用製品目録(2012年版)」等の基

準、また、国務院が2013年に公布した「グリーン建築行動方案」

によると、2020年までに北方採暖地域(注:地域暖房が用いられ

る中国北方地域)における改造を要する都市部住宅の省エネ改

造が完成し、これにより、グリーン建築物の新規建築物に占める

割合が30%を超え、建設産業のグリーン成長を推進する109。「13・5

計画」期間には、中国グリーン建材産業の市場規模は3.5兆元以

上(図5-8)となり、市場の見通しは非常に明るい。

国内外の企業は新エネルギーカー及びグリーン建材等のグリーン技術分野における環境産業に参入できる。「外商投資産業指導目録(2015年改訂版)」によると、新エネルギ

ーカーの基幹部品を新たに外商投資産業目録に組み入れ、省エ

ネ、エコロジー、リサイクル、軽量・高剛性、高性能、多機能など

の特徴を備える建材の開発・生産を従来と変わらず外商投資の

奨励類項目とする110。外資系企業は、新エネルギーカー及びグ

リーン建材市場の急成長の追い風に乗って中国市場に進出でき

る。中国の新エネルギーカー及びグリーン建材の技術は立ち遅

れている現状に鑑みて、これらの奨励措置は海外進出を図り、グ

リーン技術面の優位性を持つ外資系企業の買収を図る中国企業

にメリットをもたらし、中国の新エネルギーカー及びグリーン建材

市場の拡大に拍車をかけると予測される。.

図5-6中国のグリーン建材売上高

108 「省エネ及び新エネルギー自動車産業発展計画の印刷・配布に関する国務院の通知」、国務院、2012年6月28日、http://www.gov.cn/gongbao/content/2012/content_2182749.htm

109 「グリーン建築行動方案」、国家発展改革委員会、住房城郷建設部、2013年1月6日、 http://www.gov.cn/zwgk/2013-01/06/content_2305793.htm

110 「外商投資産業指導目録(2015年改訂版)」、国家発展改革委員会、中国商務部、2015年3月10日、 http://www.sdpc.gov.cn/zcfb/zcfbl/201503/t20150313_667332.html

図5-5中国の新エネルギーカー販売台数

出所:中国自動車協会の統計データに基づき計算された数値 出所:中国建築材料聯合会の統計データに基づき計算された数値

400

300

200

100

0

2010 2011 20122013

20152014

千台

800

600

400

200

0

2010 2011 20122013

20152014

十億

図5-7 「13・5計画」期間の中国新エネルギーカー販売台数予測

図5-8 「13・5計画」期間のグリーン建材市場

出所:中国の近年の新エネルギーカー販売データ及び政府計画の目標に基づき試算された数値 出所:中国の近年のグリーン建材販売データ及び政府計画の目標に基づき試算された数値

80

100120

60

40

20

0

20162017 2018

20192020

万台

750

800

850

700

650

600

20162017 2018

20192020

十億

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第6章 共有型社会の構築及び国民生活水準の向上―消費財産業の高度化及び安全性の向 上並びに公共サービス産業にビジネス チャンス

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 45

共有とは「13・5計画」期間の5つの重要理念の1つである。中国政府は、「適度に豊かな社会」を達成するための

最終段階にある中、制度の改善・整備、消費構造の最適化及び高品質な公共サービスの提供に重点を置いて

共有型社会を構築し、国民の生活水準を向上させる計画である。また、共有型社会の構築において生活の質の

不足を補うことは、豊かな社会を共に作り上げる過程の中から市民に大きな達成感をもたらすことになる。

6.1 ハイエンド消費財産業: 電子商取引が高級ブランド

品産業の新たな成長を推進

高級ブランド品は消費者の購買力及び社会的地位を象徴するだ

けでなく、品質及びファッションに対する消費者の飽くなき欲望の

的である。中国の高級ブランド品市場の成長及び国民の消費観

念の成熟化に伴い、高級ブランド品を主要な消費対象とするハイ

エンド消費行為は誇示するための消費からブランド・品質等を重

視する消費行動へ移行している。

この数年ハイエンド消費財産業の成長ペースは明らかに鈍化しており、一部の国際高級ブランド品の中国市場規模は萎縮の傾向を見せている。中国の高級ブランド品産業は急成長を経た後、成長鈍化の段階

に入った。統計データによると、2015年の中国の高級ブランド品

市場規模は約1,130億元であり、前年同期比で2%縮小し、その下

げ幅は1ポイント拡大した111。2014年からは2年連続で下落した。

世界トップクラスの高級ブランド企業の一部は、2015年から中国

大陸における一部の専門店を閉鎖し、他の高級ブランド企業は

消費者ニーズの減少に対応するために販売価格を引き下げた。

このような現象からハイエンド消費財産業は戦略的な調整及び

部分的な萎縮の傾向に向いているのがわかる。中国のハイエン

ド消費財産業の成長減速は、経済低迷、海外旅行と購入代行ブ

ームの台頭、消費行動の理性化、消費者層の若年化、政府役人

の腐敗と汚職撲滅などに緊密に関係している。中国の民間調査

会社「財富品質研究院」の統計によると、海外の購入代行規模が

拡大したため、2014年の中国国内の高級ブランド品消費額は250

億元減少し、前年同期比で11%減少となった112。数年来の海外旅

行ブームの爆発に加えて並行輸入政策の実施によって中国国内

で多くの越境ECプラットフォーム及び購入代行業者が登場し、多く

の消費者はオンラインで高級ブランド品を購入している(図6-1)。

現在、中国のハイエンド消費財産業は理性的かつ健全な成長に

変化しているが、中国国内の高級ブランドの不足、市場秩序の混

乱、偽造品の氾濫等の課題はまだ存在している。また、高級品の

消費行為をサポートするインフラ施設がまだ整備されていないこ

ともハイエンド消費財産業の更なる成長を阻害している。

中国政府は、「13・5計画」期間に新型消費モデルの普及に注力し、製品品質の向上及び海外へ流出した消費者の挽回を図ることで、ハイエンド消費による新たな消費行動の活動を推進させる。「計画要綱」によると、サービス消費の規模の拡大に重点を置くこ

とで消費構造の最適化を促進し、情報・グリーン・ファッション・品

質等の新型消費モデルの普及に注力して、オンラインとオフライ

ンの連携という新型消費モデルの成長を促進する。「新たな消費

の牽引力の強化及び新たな供給・新たな力の育成の加速に関す

る国務院の指導意見」によると、情報、ファッション、品質を重視

する消費行動は、地域・国境を越える消費行為、販売活動のオ

ンラインとオフラインの連携、体験・共有等の多種多様な消費モ

デルを含んでいる。そのうち、ファッション重視の消費行動は、フ

ァッション・ブランド品及びサービス、並びに空の旅やクルーズ客

船等の従来のハイエンド消費である。一方、品質を重視する消費

行動は、主にブランド品の消費行為である。また、同指導意見に

よると、消費財の品質向上措置を実施し、消費者権益を保護する

仕組みを強化し、消費者協会の役割を十分に発揮し、安心で便

利な消費体制を構築し、減税政策の活用、流通段階の簡素化、

ブランド会社の価格設定の規範化等により、海外に流出した消費

者ニーズを取り戻す。加えて、重要な旅行先都市を主要対象とし

て免税店の設置を最適化し、国際的なショッピングセンターの建

設を図り、ハイエンド消費財産業の成長を推進する。

電子商取引は高級ブランド品産業の景気回復を促し、企業に新たなビジネスチャンスとなる。「中国は2020年までに米国を抜いて世界一の高級ブランド品市

場となり、その市場規模はおよそ1,700億ユーロに上るという予測

がある113。消費者層を見ると、益々多くの人がオンラインで高級

ブランド品を購入するようになっている。KPMGが2015年に10,150

名の消費者を対象に行った調査結果によると、インタビューに応

えた3分の1はオンラインで高級ブランド品を購入している。2020

年までにはこの割合は50%にまで達すると思われる114。このため、

海外のブランド品メーカーは消費観念及び消費行動パターンの

変化に対応するため柔軟な戦略を推し進めて電子商取引プラット

フォームの構築に積極的に取り掛かり、ブランド品の販売ターゲ

ットを高級消費者から高級及び一般消費者の両立へ変更し、より

ファッショナブルなデザイン及びマーケティングによって若い消費

者を魅了することが望まれる。

111 データの出所:Bain & Company、http://www.bain.com/about/press/press-releases/China-Luxury-Report-2016-press-release.aspx

112 「2014年、中国の高級ブランド品消費の76%が海外で行われる」、環球網、2015年2月2日、 http://finance.huanqiu.com/roll/2015-02/5568111.html

113 「将来、中国における投資価値が最も高い10業種」、BWCHINESE中文網、2014年10月28日、http://www.bwchinese.com/article/1063289.html

114 「中国のオンラインショッピング新生世代」、KPMG、2015年10月、 https://assets.kpmg.com/content/dam/kpmg/pdf/2015/12/China-Connected-Consumers-201510-c.pdf

高級ブランド品の0-20%がオンライン購入

21%-50%がオンライン購入

51%-80%が オンライン購入

80%以上が オンライン購入

図6-1高級ブランド品のオンライン購買に関する調査

40%

30%

15%

15%

出所:KPMGの2015年レポート「中国のオンラインショッピング新生世代」

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115 「重要製品トレーサビリティ体制の構築を推進することに関する国務院弁公庁の意見」、国務院弁公庁、2016年1月12日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2016-01/12/content_10584.htm

図6-2中国食品安全検査産業の規模

6.2 食品安全産業:

食品の安全性検査及びトレーサビリティ市場の見通

しが拡大

食品の安全性の確保は国民生活を守る重要な一部である。近

年、食品に関する事件・事故が相次いで起きたため、国民の食品

の安全性に対する危険意識は日増しに高くなっている。食品安全

産業の成長は新技術、新生産技術及び新設備を利用して食品の

安全性の強化に役立つことになる。

食品安全産業が急成長する中、食品安全産業システムは形成されつつある。この数年で可塑剤混入事件、カドミウム米、「速成鶏」、毒入りカ

プセル、革靴ゼリー、鶏手羽やアヒル肉の加工食品から国家基

準値を上回る大腸菌が検出された等の食品に関する事件が頻

発し、食品に対する安全問題は深刻化している。そのため、政府

は食品安全法の関連規定を整備させ、安全基準を制定した。こ

れを背景に、中国の食品安全産業は急速に成長している。2013

年の食品安全産業の規模は260億人民元であり、2015年の規模

は406億人民元となり、2008年の5倍近くになった(図6-2)。現在、

中国は食品トレーサビリティ、食品安全検査及び無害代替品の

開発・応用という食品安全産業システムを形成した。そのうち、食

品トレーサビリティ産業は、食品バリューチェーン全体に関わり、

食品安全テストは主にバリューチェーンの川下に集中し、無害

代替品の開発は主にバリューチェーンの川上に集中して新型農

薬、肥料、食品添加剤等の開発に専念している。また、食品安全

業界は食品安全検査の非効率性、先端技術の欠如等の技術、

市場及び体制上の障壁に直面している。食品バリューチェーンの

川上における原材料生産は集約化が進んでおらず、監督・管理

を実施することが難しい。また、政府の食品安全監督システムの

効率性が低いため、各部門間の管理権限及び責任がまだ明確

化されていない。さらに、政府による監督及び処罰を適時に実施

できないため違法行為から発生するコストが低く、機能していな

い。上述の課題は食品安全のトレーサビリティ及びテスト等に難

題をもたらし、食品安全産業の成長を妨げている。

中国政府は「13・5計画」期間に食品安全制度の完備化に着手し、監督・管理等を強化し、食品安全産業の成長を支援する。「計画要綱」によると、食品安全戦略を実施することとなってい

る。法的整備では、食品安全制度に重点を置き食品安全基準を

高める。監督・管理面では、グリッド化監督を実施し、監督・検査

の頻度を高めてその範囲を拡大し、バリューチェーン全体でトレ

ーサビリティ可能な管理制度を実行する。また、食品に対する監

督・管理制度の改善を加速させ、社会全体での厳密かつ効率的

な食品・医薬品の安全管理システムを整備させ、農村部の食品、

ネットで販売される食品及び輸入食品の監督を重点的に強化す

る。「重要製品トレーサビリティ体制の構築の推進に関する国務

院弁公庁の意見」115によると、食用農産品の安全トレーサビリティ

体制を構築し、責任主体及び流通管理をコアとし、トレーサビリテ

ィ・コードによりトレーサビリティ管理体制及び市場参入制度の整

合性を推進し、食用農産品が生産段階から最終の消費段階まで

移動する全過程の追跡を実現する。監督・管理及びトレーサビリ

ティ体制の強化は、食品の安全性検査及びトレーサビリティ産業

などのサブセグメントの急成長を後押しし、食品安全産業の成長

を加速させることができる。

食品安全産業にビジネスチャンスが多数存在している。中国国内では、食品のトレーサビリティ、安全性検査及び無害代

替品の開発に巨大な潜在ニーズがある。また、中国の食品に対

する安全メーカーの技術が立ち遅れているため、外資系企業は

技術上の優位性を利用して、中国で第三者トレーサビリティ及び

安全検査業務を展開し、実験室用の計器・設備、迅速検査機器

及び消耗材を生産するほか、トレーサビリティサービス産業の開

発にも参入して、官民パートナーシップ(PPP)により、第三者トレ

ーサビリティ・プラットフォーム及びトレーサビリティ・グラウンド・サ

ービス・プラットフォーム等の構築にも関与することができる。中

国メーカーは食品安全分野に特化した外資系企業と技術及びサ

ービスの面で提携することができる。また、中国の食品安全を確

保するため、国内農業企業の海外進出、自然資源が豊富で生態

環境が優れた地域での農業生産を奨励し、安全食品の輸入及び

食品トレーサビリティ体制の強化を図る必要がある。

出所:「2014~2018年中国食品検査機器の市場分析及び投資戦略に関するアドバイザリーレポート」、中国情報産業網、2014年及び2015年のデータは試算されたものである。

50

40

30

20

10

0

20082009

2010 2011 20122013

20142015

十億

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 47

「ヘルスケア・サービス業の発展を促進することに関する国務院

の若干意見」118によると、引き続き医療機構の開設に関する多角

化制度の構築を加速して、中国及び外国資本の提携による医療

機構の開設を許可し119、高齢者ヘルスケアや医療・保健等の多

種多様なヘルスケアサービスの発展を促進する。また、「漢方医

薬品に係るヘルスケアサービス発展計画(2015-2020)」120による

と、政府は漢方医学に関する保健産業、医療サービス業、特色

あるリハビリテーションサービス、高齢者ヘルスケアサービス等

の産業に注力し、漢方医薬品産業の応用範囲を高め、中国資本

に参入開放している漢方医薬品分野を外国資本に開放する計画

である。また、金融資本及び産業資本より共同設立されたヘルス

ケア産業投資ファンドの発展を推進し、財税政策を活用して漢方

医学産業の成長を支援する。「医薬品産業の健全な発展の促進

に関する国務院弁公庁の指導意見」121によると、中国政府は医

薬品及び医療機器の技術イノベーション、医薬品産業構造の最

適化、新たなスマート成長モデルの育成等にフォーカスすること

で、医薬品産業の高成長を後押しする計画である。

「健康中国行動計画」はヘルスケア産業の一連のビジネスチャンスを創出する。現在、ヘルスケア産業は中国消費構造の転換を実現する重要な

駆動力となっている。「健康中国行動計画」の実施に伴い、医療

衛生産業及びヘルスケア産業は成長の隆盛期に差し掛かると

予測されている。人口の増加、高齢化社会の深刻化、技術の進

歩、インターネットプラス、医療体制の改革等を背景に、中国ヘル

スケア産業は2020年には8兆人民元の大台を突破し、世界最大

のヘルスケア市場となる見込みである122。「健康中国行動計画」

は国家戦略であり、政府はヘルスケア産業の将来発展に注力し

て、多様化するヘルスケア需要を満たし、へルスケア産業の対外

開放レベルを高める計画である。外資系企業は、政策がもたらす

ビジネスチャンスを掴んで、医療サービス、健康保険産業、養老

産業及びインターネット医療等の分野に進出することが可能であ

る。「外商投資産業指導目録(2015年改訂版)」によると、奨励類

項目における医療機器・設備の購買範囲は一段と拡大され、同

時に「遺伝子組換え生物の研究・開発」という項目は外商投資産

業目録から削除された。そのため、外資系企業は健康情報サー

ビスやビッグデータ応用等の優位性を活用して中国で遠隔医療

事業及びスマート医療事業を展開できる。これに対して、中国メ

ーカーはローカル市場の優位性を活かすことで、世界のリーディ

ングカンパニーと技術や業務提携を展開し、自社の競争力を高

めることができる。

116 「中国ヘルスケア産業の規模が2兆人民元に達する」、新華網、2015年7月28日、http://news.xinhuanet.com/local/2015-07/28/c_128064713.htm

117 「『健康中国行動計画』が国家的戦略へ昇格、1兆元規模の投資機会が現れる」、上海証券報、2015年10月22日、http://www.cnstock.com/v_industry/sid_rdjj/201510/3596919.htm

118 「へルスケア・サービス業の発展を促進することに関する国務院の若干意見」、国務院、2013年9月28日、http://www.gov.cn/xxgk/pub/govpublic/mrlm/201310/t20131018_66502.html

119 「へルスケア・サービス業の発展を促進することに関する国務院の若干意見」によると、外資系企業と中国企業の共同出資による医療機構の開設規制をさらに緩和し、要件を満たす外国資本が外商独資の医療機構を設立するパイロットプログラムの適用範囲を漸次拡大する。しかし、「外商投資産業指導目録(2015年改訂版)」によると、外資系企業が医療機構に投資する場合は、中国企業と提携して合弁企業を設立することだけが可能である。

120 「漢方医薬品に係るヘルスケアサービス発展計画(2015-2020)の印刷・発布に関する国務院弁公庁の通知」、国務院弁公庁、2015年5月7日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2015-05/07/content_9704.htm

121 「医薬品産業の健全なる発展の促進に関する国務院弁公庁の指導意見」、国務院弁公庁、2016年3月11日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2016-03/11/content_5052267.htm

122 「ヘルスケア・サービス業の発展を促進することに関する国務院の若干意見」、国務院、http://www.gov.cn/zwgk/2013-10/14/content_2506399.htm

6.3  ヘルスケア産業:

中国のヘルスケア行動計画に多くのビジネスチャ

ンス

国民の経済的ゆとりの増加に伴い、国民の健康意識が高まって

いる。従来の医療サービス、個人向けのヘルスケアサービスのカ

スタマイズなど多岐にわたるサービスに対し、国民の需要は日増

しに増加している。そのため、ヘルスケア産業の発展は国民の生

活水準及び幸福感を向上させ、共有型社会を構築する重要な戦

略となっている。

中国のヘルスケア産業は急速に成長しており、5つの産業セグメントを形成している。現在、中国のヘルスケア産業は急成長の段階にあり、その産業

規模は2兆人民元に達した。2016年に入るとヘルスケア産業規

模は3兆人民元近くに上る予測である116。ヘルスケア産業は、主

に医療、医薬品、保健機能食品、健康管理サービス、高齢者ヘ

ルスケア産業という5つの産業セグメントを含んでいるが、医療観

光、栄養・保健機能食品の研究開発・生産、ハイエンド医療機器

の研究開発・製造等の新業態も形成されている。産業構造を見

ると、医薬品産業が依然として最大の割合を占める産業セクショ

ンであるが、高齢者ヘルスケア産業の急成長に伴い、医薬品産

業の割合は漸次低下すると予測されている。経済レベルの持続

的向上、国民の健康意識の高まり、中国の高齢化社会及び都

市化の進行により、ヘルスケアサービスに対する需要は増加し

続けている。これらが中国のヘルスケア産業の成長を後押しして

いる。しかし、中国のヘルスケア産業はまだ初期段階で留まって

いる。ヘルスケア産業の対中国GDP比はわずか4~5%であり、米

国の15%及びカナダ・日本などの10%を遥かに下回っている117。ま

た、ヘルスケア産業は幅広い分野に及んでいるため、この産業に

関する法規や基準がまだ完備されていない。既存の監督・管理

制度が産業の成長規模に見合わないことから、急成長している

ヘルスケア産業は市場混乱の状況に陥った。特に、保健機能食

品及び医薬品業界では、効果・効能の誇張、模倣品や偽造品の

氾濫など、悪質な事件の多発によってヘルスケア産業の健全な

成長が阻害されている。

中国政府は「13・5計画」期間に「健康中国行動計画」をガイドラインとして、ヘルスケア産業の持続的な成長を促進する。「計画要綱」によると、「健康中国行動計画」はスマート医療や国

民に対するスポーツ参加の普及(中国語:「全民健身」)等の8制

度が含まれる。また、「13・5計画」期間において、医薬品衛生体

制の改革を促進し、先端医療機器の開発・導入に注力し、漢方医

薬品産業を推進し、「全民健身」戦略を実施し、民間資本による

ヘルスケア・サービス業への参入を奨励し、非営利の私立病院と

公立病院に対して同等の優遇措置を実施する。これらの措置は

ヘルスケア産業に絶好のチャンスとなる。

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 4948 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

123 「重点分野の投資・融資制度の革新による民間投資への奨励に関する国務院の指導意見」、国務院、2014年11月26日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2014-11/26/content_9260.htm

6.4 教育産業:

民間資本が教育産業に集中参入

近年の中国教育リソースの供給不足は深刻化している。このた

め、既存の教育事業リソースは日々増加している需要を満たせ

なくなっている。教育産業を積極的に発展させ、多種多様な教育

サービスへ民間資本を導入することは、教育リソースの供給を増

加させ、より多くの人が高品質の教育サービスを享受できること

になる。

中国の教育産業は一定の規模を形成しており、教育サービスの品質は向上している。この数年で中国の教育産業は急成長した。2013年の教育トレー

ニング産業の市場規模は1兆人民元の大台を突破し、2009~2013

年の年間成長率は12.6%に達した(図6-3)。2014~2015年の年間

成長率は14%と予測されている。教育トレーニング事業を展開す

る主体は、初期段階では学校や教育業界の企業であったが、漸

次トレーニング機構又は個人等の民間資本にまで拡大している。

外資系企業の中国市場進出、及び留学者数の上昇に伴い、中

国の教育トレーニング市場、特に外国語トレーニング産業は大き

く成長した。新東方教育グループ等のリーディング教育機構が現

れ、中国教育産業の品質は日々向上している。教育機構の種類

では、トレーニング機構には外国語トレーニング、インターネット

教育、幼児教育、中等・高等教育、ITトレーニング及び電子刊行

物の出版社等が含まれる。また、教育サービスの研究・開発は、

語学サービス、電子閲覧サービス、補助教材、知育玩具等の商

品にまで及んでいる。IT技術の応用に伴いE-ラーニング産業は

急速に成長している。コンテンツプロバイダ及びプラットフォーム・

プロバイダは教育産業を支援する重要な事業者となった。しか

し、教育施設の玉石混交、市場秩序の混乱、同質的競争の深刻

化等の問題は教育産業の健全な成長を阻害している。

中国政府は「13・5計画」期間に民間資本の参入規制を緩和し、支援政策を実施して教育産業に民間資本を誘致する計画である。「計画要綱」によると、サービス別管理制度及び業種別支援政策

を制定し、民間資本による多種多様な教育サービスへの提供を

奨励する。「重点分野の投資・融資制度の革新による民間投資へ

の奨励に関する国務院の指導意見」123によると、政府は独資、合

弁、提携、共同経営、リース等の方法によって、外国資本を含む

民間資本に教育機構の開設を奨励し、民間教育産業の健全な成

長を推進している。これは、中国市場に進出計画中の外資系教

育企業にはチャンスである。「生活関連サービス業の発展を加速

させ消費構造の高度化を促進することに関する国務院弁公庁の

指導意見」によると、職業訓練や文化・芸術トレーニング等の教

育トレーニングは、消費構造の高度化を実現する重要な分野で

ある。これらの措置は民間資本の参入規制を緩和して民間教育

企業が投資リターンを取得するための支援政策となっている。

民間資本の教育サービス参入に関する奨励策は、外国及び中国の企業にビジネスチャンスをもたらす。今後5年間で中国の教育産業は爆発的な成長を遂げると予測さ

れている。外資の教育企業は、日々増加している巨大な教育サ

ービス・ニーズに応えるため、外国リソースの優位性を発揮して

中国正規教育体制外においての職業訓練機構を開設し、又は中

国企業と提携して最先端の教育理念を活用して中国受講生に適

した教育サービスを開発することができる。一方、中国の民営企

業は自社に有利な政策を利用することで世界トップクラスの教育

機構から最先端の教育理念、教育方法及び教育テクニックを取

り入れ、自社のコア競争力を高めるとともに地域コミュニティの教

育プロジェクトにフォーカスして、そこの住民に文化・芸術、科学

技術、幼児教育、養老・保健、レジャー、職業スキル等の教育サ

ービスを提供することができる。

図6-3中国教育トレーニング産業の規模及び成長率

18%

14%16%

12%10%8%

6%4%2%0%

1,400

1,200

1,000

1,600

800

600

400

200

0

2010 2011 20122013

20142015

中国教育トレーニング産業規模 中国教育トレーニング産業規模の上げ幅

出所:2010~2013年のデータは前瞻産業研究院より発表された報告書から抜粋、2014年及び2015年のデータは試算された数値である。

十億

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 49

6.5 養老産業:

養老市場の全面的な開放による新たな投資ブーム

中国の高齢化が進む中、人々の老後の生活保障は、調和のとれ

た社会の実現及び経済成長の成果の共有に関わる重要な課題

である。民間資本の力を借りて養老産業を発展させることは、養

老サービスの改善、高齢者の生活水準の向上、サービス業のグ

レードアップ化をもたらす。

政府は養老産業の急成長を実現し、養老サービスシステムを構築する計画である。近年、高齢者人口の継続的な増加、ならびに高齢化社会の加速

化に伴い、養老サービス市場のニーズは急増している。これに

より、養老産業の成長ペースは加速している。統計データによる

と、2014年までに、65歳以上の人口は1.37億人となり、初めて総

人口の10%以上に達し、2005年と比較して2.4ポイント増加した124。

CCIDコンサルティング会社の試算データによると、中国の養老産

業従事者は、2010~2030年の期間で、2,000万人から7,800万人ま

で激増すると見込まれる125。政府は家族扶養、コミュニティ扶養

及び養老機構の活用という3つの措置を基盤とする養老サービス

システムを構築し、高齢者消費市場を形成する計画である。しか

し、中国の養老産業の発展は遅れており、現時点での養老産業

は依然として政府主導である。このため、中国の養老産業は産

業化のレベルが低く、需要と供給のミスマッチ、バリューチェーン

の未成熟、産業集中度の低さ等の問題に直面している。

中国は「13・5計画」期間に健全な高齢者サービスシステムを着実に構築し、養老保障制度を改善し、民間資本を養老産業に誘致して養老産業の成長を加速化させる。「計画要綱」によると、「高齢者を敬い扶養する」という社会行動計

画の実施を提唱している。具体的には、老人ホーム等の養老施

設の整備を強化し、コミュニティの養老サービスプラットフォーム

を構築することにより、スマート養老及び養老サービスの普及等

を推進する。また、養老サービス市場の全面的な開放を明確に

提唱し、サービスの購買と資本提携等の方法によって養老サー

ビスの充実及び養老関連製品の供給を行う。これらの措置は養

老産業に投資する民間資本に進出し易い条件になる。国家発展

改革委員会が2014年に公布した「ヘルスケア及び養老サービス

の建設の加速化に関する通知」126によると、地方政府は民間資

本が独資、合弁、資本提携、共同経営、資本参加、リース等を通

じてPPP方式により医療、養老、体育施設の建設及び公立機構

改革へ参入することを奨励する。商務部及び民政部が同年に公

布した「外商直接投資による営利目的の養老機構の設立に関す

る公告」127によると、外国投資者が中国で単独出資、中国企業及

びその他の経済組織との合弁によって営利性養老機構を設立す

ることを奨励し、外資系の養老機構の設立要件及び設立手続に

ついてガイドラインを示した。また、「生活関連サービスの発展及

び消費構造のグレードアップの加速化に関する国務院弁公庁の

指導意見」によると、養老サービス及びその他産業との融合及び

成長モデルの革新を促し、生活介護、リハビリテーション、精神保

健、文化サービス、救急サービス、ホスピスケア等の高齢者サー

ビスの発展を推進する。また、民間資本を養老施設の設立に誘

致するほか、政府出資、民間企業への経営委託などの方法によ

って民間資本を高齢者サービス業に誘致する。これらの措置は

中国養老産業に進出する外資系企業に市場及び制度面のサポ

ートをすることになる。

養老市場の全面的な開放は民間資本に重要なビジネスチャンスをもたらす。今後5年間は高齢化社会に対応する制度構築に重要な時期であ

る。予測データによると、2025年に中国の60歳以上の高齢者人

口は総人口の20%以上となり、65歳以上の高齢者人口は約14%に

達する。上述のデータによると、高齢化社会に入った2000年から

起算して、中国はわずか25年で欧米の先進国と同じ人口高齢化

の課題に直面する(欧米先進国の人口高齢化は100年以上を経

過してきた)128。また、中国は2040年前後に超高齢社会に入ると

の見方もある129。中国高齢者業務委員会が公布した「中国養老

産業計画」によると、中国の高齢者人口の購買力は2014~2050

年で4兆人民元から106兆人民元まで増加し、対GDP比は8%から

33%に上昇すると予測されている130。政府は巨大な潜在需要に応

えるため、養老市場を全面的に開放する計画である。「外商投資

産業指導目録(2015年改訂版)」によると、政府は明確に「養老機

構」を投資の奨励類項目とし、養老産業に進出する各種の民間

資本、特に外資系企業に重要なビジネスチャンスを創出した。ま

た、外資系企業は「インターネットプラス」という国家戦略がもたら

すビジネスチャンスによって、スマート養老等の新型モデル及び

新業態の開発に注力することができる。

124 「2014年国民経済及び社会発展統計公報」、国家統計局、2015年2月26日、 http://www.stats.gov.cn/tjsj/zxfb/201502/t20150226_685799.html

125 「CCIDコンサルティング会社:中国の養老産業規模が今後10年間で10兆人民元以上に達する」、中国経営網、2014年12月3日、http://www.cb.com.cn/info/2014_1203/1099343.html

126 「ヘルスケア及び養老サービスの建設の加速化に関する通知」、国家発展改革委員会等の10部署、第10部、2014年9月18日、http://www.mca.gov.cn/article/zwgk/fvfg/shflhshsw/201409/20140900701503.shtml

127 「外商直接投資による営利的な養老機構の設立に関する商務部及び民政部の公告」、商務部及び民政部、2014年12月9日、http://www.mofcom.gov.cn/article/h/zongzhi/201412/20141200825168.shtml

128 「人口高齢化に積極的に対応する」、新浪財経、2016年4月7日、http://finance.sina.com.cn/roll/2016-04-07/doc-ifxrckae7573647.shtml

129 「中国高齢化社会及び養老保障発展報告書(2014)」、清華大学の就職及び社会保障センター、清華大学出版社、2015年10月

130 「養老産業の総規模は2030年に10兆人民元の大台を突破する見通し」、新浪財経、2016年2月15日、http://finance.sina.com.cn/chanjing/cyxw/2016-02-15/doc-ifxpmpqr4377809.shtml

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6.6 ベビー・マタニティ産業:

「2人っ子政策」がベビー・マタニティ産業の新たなビ

ジネスチャンス

中国は、労働力人口の減少に対応するため「一人っ子政策」から

「2人っ子政策」に変更して人口抑制政策を緩和させている。出生

率の上昇に伴い、ベビー・マタニティ用品の市場需要は旺盛にな

り、ベビー・マタニティ産業に新たなビジネスチャンスをもたらすだ

ろう。

中国のベビー・マタニティ産業の市場規模は拡大しつづけ、オンライン及びオフライン販売は二極化へ進行している。近年の中国経済の成長鈍化にも関わらず、中国のベビー・マタ

ニティ用品の市場規模はマイナス影響を受けていない。「中国ベ

ビー・マタニティ用品消費市場に関する2015年のCBME調査報告

書」によると、インタビューした世代別平均収入は9,606人民元で

ある。そのうち、月次育児支出は1,012人民元で世代収入の11%

を占めており、2014年の調査結果にほぼ並んでいる131。経済成

長は明らかに減速しているが育児への支出割合は変化していな

い。この事象から、育児支出は普遍的な実需であることがわか

る。また、ベビー・マタニティ用品の市場規模は2011年から2桁成

長を維持している(図6-4)。オンライン販売規模の成長ペースは

オフライン販売規模を下回ったが、オンライン販売の成長ペース

は前年同期比で低下しており(図6-5)、ベビー・マタニティ用品の

電子商取引は多くの問題が存在している。しかし、政府が人口抑

制政策を緩和したことでベビー・マタニティ用品の電子商取引は

多くの起業者及び投資者の人気を集めている。ベビー・マタニティ

産業の算入障壁は低く、さらに政府が「インターネットプラス」戦略

を推進していることから、多くの起業者は紙おむつ、乳児食品、マ

タニティサプリメント等のネット販売を事業のスタートにしている。

このため、ベビー・マタニティ用品の電子商取引業者が集中し、

製品の品質における大きな差やサービス同質化等の問題が存

在する。

外国製ベビー・マタニティ商品は中国市場で顕著な優位性を持っ

ている。このため、人口抑制政策の緩和は海外のベビー・マタニ

ティメーカーにメリットをもたらす。具体的な業種を見ると、「2人っ

子政策」は、主に粉ミルク等の乳児食品、紙おむつ、哺乳瓶、育

児用品等の乳幼児用品、小児用の医薬品、衣類及び玩具等の

ベビー・マタニティ商品及び育児商品の消費ニーズを牽引すると

見込まれる。外国メーカーは中国と自国が締結した貿易条約を

利用して、製品とサービスの併用によって中国のベビー・マタニテ

ィ用品市場を開拓することが望まれている。対して、中国メーカー

は海外進出の戦略を積極的に実施して、海外のリーディングカン

パニーと提携若しくは海外で製品の研究・開発及び製造拠点を

設立して原材料の調達ルートを獲得し、製品の技術力及び品質

を向上させることができる。

100%

80%

60%

40%

0%

20%

2011 20122013

20142015

オンライン販売規模の上げ幅

オフライン販売規模の上げ幅

出所:易観知庫

図6-5中国ベビー・マタニティ産業のオンライン・オフライン販売規模の成長率

図6-4中国ベビー・マタニティ産業規模及び成長率

中国ベビー・マタニティ産業規模

中国ベビー・マタニティ産業規模の上げ幅

出所:易観知庫

131 「中国ベビー・マタニティ用品消費市場に関する2015年のCBME調査報告書」、美通社、2015年11月11日、 http://www.prnasia.com/story/135875-1.shtml

2,500

2,000

1,500

1,000

500

0

2011 20122013

20142015

十億

18%16%14%12%10%8%6%4%2%0%

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 51

6.7 コミュニティサービス業: スマートコミュニティエコシス

テムを基盤とするサービス業の革新と成長

コミュニティサービス業は国民生活と緊密な関係にあり、コミュニ

ティサービスの品質は国民生活の利便性及び快適性に直接に影

響する。インターネットの普及に伴い、コミュニティサービス業はス

マートプラットフォームを通じて多種多様なサービスを提供するだ

けでなく、サービスの高度化及び効率化を促進して国民の生活

水準を向上させることができる。

中国のコミュニティサービス業は早くから開始されているが、成長スピードが遅い。政府は「インターネット+住民サービス」というモデルによってコミュニティサービス業の飛躍的な成長を実現する計画である。中国は1990年代にコミュニティサービス業の発展を提唱したが、

認識の不足によりコミュニティサービス業の成長は緩慢である。

また、コミュニティ管理制度の不備や不合理によって、コミュニテ

ィサービス業全体ではローエンド化及び非効率の問題が存在す

る。関連部署が1993年に「コミュニティサービス業の加速化に関

する意見」を公布してはじめてコミュニティサービス・センター、職

業訓練及び職業紹介センター、高齢者活動センター等の施設が

全国的に設立された。しかし、制度面の不備によりコミュニティサ

ービスは依然として政府主導型のため民間組織や民間企業はこ

の分野に参入することが難しい。そのため、管理機能及び権限

の不明確化、サービススタッフの高齢化又は資質の低下、運営

資金の政府財政への依存、住民のニーズを満たせないサービス

などの課題は顕在化している。IT技術の幅広い応用によって、コ

ミュニティサービス業はこの数年で目覚しい変化を見せている。

オンライン及びオフライン・サービスプラットフォームの融合によっ

て、従来のコミュニティサービス業は現代的なモデルへシフトしつ

つあり、住民と家庭サービス、物流配送サービス、コミュニティ医

療衛生、コミュニティ教育及びコミュニティ・ビジネスとの一体化、

エコ化、知能化の方向へ変化している。

中国は「13・5計画」期間にサービス・マネジメント・プラットフォームの完備化に注力し、コミュニティサービス関連のインフラ施設を建設し、コミュニティサービス業に参入する民間資本のために有利な制度環境を構築する計画である。具体的には、都市部及び農村部のコミュニティサービス・マネジメ

ント・プラットフォームを整備させ、公共サービス・住民サービス・

ボランティアサービスの整合を図ることでワンストップサービスシ

ステムを構築する。また、都市部のコミュニティサービス施設を普

及させ、農村部のコミュニティサービス施設の建設を推進する。

「新たな消費の牽引力の強化及び新たな供給・新たな力の育成

の加速に関する国務院の指導意見」によると、都市部及び農村

部のコミュニティに配送拠点を設置することで、配送先までの最

後の1キロメートルの配送の効率性を向上させる計画である。な

お、同意見では多くの重点分野でコミュニティサービス業の成長

を推し進め(図6-6)、コミュニティサービスの機能を強化し、国民

の生活水準を向上させる計画である。

スマートコミュニティ等の現代的なコミュニティサービス分野に多くのビジネスチャンスが潜んでいる。中国は現在、都市化の加速段階に置かれている。「計画要綱」に

よると、中国政府は「13・5計画」期間に、都市化指標を従来の常住

人口都市化率から戸籍人口都市化率に変更する計画である132。

また、「3つの1億人」という目標を設定した。すなわち、より多くの

常住人口の戸籍は都市戸籍に変更され、コミュニティサービス業

の対象範囲に収められる。現在、中国には改善する必要のある

旧コミュニティがまだ多く残されている。そのため、スマートコミュ

ニティの建設はコミュニティサービス業の基本となる方向性であ

り、コミュニティの増減を問わず大きなビジネスチャンスをもたらす

だろう。民間資本はスマートコミュニティの建設によってスマート

都市との融合を促進するだけでなく、安定的かつ長期的な投資リ

ターンを獲得することができる。

132 常住人口とは、1年以内にある地域で6か月間以上生活・勤務する人口を指す。戸籍人口とは、経常的な居住地の公安戸籍管理機関で戸籍登記を行った人口を指す。

図6-6コミュニティサービス業の重点分野

住民と家庭サービス ヘルスケア及び養老 コミュニティ教育 コミュニティ・ビジネス重点分野:

コミュニティサービス

の拠点を拡充させ、

多様な方法によって

不動産仲介、リース、

管理、引越し、掃除、

自動車メンテナンス・

修理等の生活関連サ

ービスを規範化する。

専門的な養老機構が

優位性を発揮してコミ

ュニティ養老機能及び

人員にトレーニングを

行うことを奨励する。医

療機構と養老機構の

提携を強化し、コミュニ

ティ・ヘルスケア産業を

発展させる。

コミュニティの住民に

文化・芸術、科学技

術、幼児教育、養老・

保健、レジャー、職業

訓練等のサービスを

提供する。

コンビニエンス・ストア

等をコミュニティに導

入して、公共料金及

び郵便物の収納代行

サービスを規範化す

る。

出所:「生活関連サービスの発展及び消費構造のグレードアップの加速化に関する国務院弁公庁の指導意見」

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 5352 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

6.8 保険業:

改革・促進が生み出すビジネスチャンス

現代保険サービス業の発展は、社会福祉の拡充、リスク回避、

経済補償金の取得、農民・農業支援政策の強化に寄与するだけ

でなく、さらに社会管理方式の刷新、社会秩序の安定性の維持、

社会セキュリティの向上、国民の生活水準の改善に貢献する。

中国の保険業はこの数年で急成長しており、中国はすでに世界3位の保険市場となった。世界経済の成長鈍化にも関わらず中国の保険業は成長を遂げ

た。公的統計データによると、中国保険業は、世界の保険市場で

成長率は1位となり、現在の業界規模はアメリカ・日本に次いで

世界3位の保険市場となった133。中国保険業は、世界1位の成長

率を維持するとともに良好な経済効果も得ている。関連データに

よると、保険業の2015年の純利益成長率はおよそ73%と予想され

たのに対して134、同年の銀行業の純利益成長率はわずか2.43%

に過ぎない135。生命保険は保険業務の保険料収入に占める割合

が最も大きいが、健康保険は最も高い成長率を遂げて成長し続

けている(図6-7)。「インターネットプラス行動計画」、保険業と金

融業の統合、保険サービス業の実体経済の成長を推し進める中

で、保険業のサービス分野が拡大し、サービス機能も向上してい

る。保険業が飛躍的に発展したのは、保険資金の投資収益、保

険業のサービス分野・機能、及び産業構造の転換の強化などが

重要視されているためである。

「13・5計画」期間に市場制度を整備し、農民・農業支援政策を強化し、参入規制を緩和することで、現代保険サービス業の発展を促進する。「計画要綱」によると、保険資産取引メカニズムの構築を模索し、

農業保険における大災害リスクを分散するメカニズムを改善し、

環境汚染強制責任保険を実施し、輸出取引信用保険を発展さ

せ、保険市場へのアクセスを拡大し、保険業の「海外進出」を支

援する。また、商業保険機構の医療保険業務への参入、ならび

に補充医療保険と商業健康保険の発展を奨励する。中国の保険

業は更なる経済社会発展のニーズに応えて現代保険サービス業

は発展の黄金期を迎えるだろう。また、「現代保険サービス業の

発展促進に関する国務院の若干意見」136によると、商業保険を社

会保障システムの柱として構築し、重病保険と重大災害保険に

関する制度を改善し、責任保険と信用保険などを積極的に普及

させる。「商業健康保険の発展促進に関する国務院弁公庁の若

干意見」137によると、競争入札などの方法で適格商業保険機構に

よる医療保険業務への参入を奨励し、医療、コミュニティ養老、健

康診断などのサービス機構を新たに設立し、商業保険に関連す

るサービスを請け負う。これらの措置は、民間資本が保険業に導

入され、商業健康保険を発展させて社会保障システムの構築に

参加するための重要な法的根拠となる。

商業保険機構が医療保険業務の許可と商業健康保険認可をすることにより企業はビジネスチャンスを掴むこととなる。

中国の商業健康保険料は2020年に7,000億~10,000億人民元に

達し、損害保険と生命保険をあわせて3大業務の1つになる見込

みである。政府は商業保険機構が医療保険業務の許可と商業健

康保険を認可したことで、外資系企業にビジネスチャンスとなる。

外資系健康保険会社などの民間資本は、専門的な健康保険会

社を設立して健康保険組織を拡張できる。また、外資系保険会社

は、農業災害補償制度について、支援政策を利用して中西部地

域及び農村地域の市場開拓を行うことができる。中国の保険会

社は、海外における中国企業にリスク保障を提供することができ

る。また、国際資本市場から資金を調達し、多様なチャンネルで

海外市場に進出、保険サービス業の海外市場の開拓に努める。

また、外資系保険会社と提携することで豊富な経験及び技術を

中国市場に導入することができる。

133 「2015年の中国保険業の逆襲」、国際金融報、2016年1月4日、http://paper.people.com.cn/gjjrb/html/2016-01/04/content_1644698.htm

134 「2015年の中国保険業の純利益成長率が約73%」、中国証券網、2016年1月13日、http://www.cnstock.com/v_news/sns_bwkx/201601/3680895.htm

135 「中国銀監会が2015年第4四半期の主な監督管理指標データを公布」、中国銀行業監督管理委員会、2016年2月15日、http://www.cbrc.gov.cn/chinese/home/docView/3534208F5F74422199B6B6AFC3F10EFD.html

136 「現代保険サービス業の発展を加速することに関する国務院の若干の意見」、国務院、2014年8月13日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2014-08/13/content_8977.htm

137 「商業健康保険の発展を加速することに関する国務院弁公庁の若干の意見」、国務院弁公庁、2014年11月17日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2014-11/17/content_9210.htm

138 「2020年の中国商業健康保険料が1兆人民元を超える」、上海証券報、2014年11月18日、http://caifu.cnstock.com/fortune/sft_bx/201411/3245907.htm

図6-7中国における一部元保険の保険料収入の成長率

60%

50%

30%

40%

20%

10%

0%

20132014

2015

財産保険 生命保険 健康保険 傷害保険

出所:中国保険監督管理委員会のウェブサイト

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 53

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第7章 海外に向けて開放された事業構造とグローバル化の進展 -従来型製造業、エネルギー・資源産業、 工事請負事業及び海外農業事業の投 資にビジネスチャンス

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 55

「13・5計画」の重点戦略の一つに、「一帯一路」の趣旨のもと、グローバル化を加速し、より高いレベルの開放型

経済体制の構築がある。「計画要綱」では、「一帯一路」構想を基に、対外開放の拡大と水準を向上させること、

関連国と企業間に戦略的な相互信頼、投資・貿易における連携、及び人材・文化交流の共同推進、高度な互恵

連携モデルを形成し、そして対外開放の新局面を切り開くことに努めるとされている。生産能力に関する国際協

力、外資導入の規制緩和及び海外投資水準の向上などの政策により、「外資導入と海外進出」のもと、特に従来

型製造業、エネルギー・資源産業、工事請負及び海外農業投資などの分野にビジネスチャンスの可能性が広が

っている。

7.1 従来型製造業:

生産能力分野の国際協力によって国内外の企業提

携のチャンスを創出

生産能力分野の国際協力は「13・5計画」期間における対外開放

の重要項目である。「計画要綱」によると、鉄鋼業、非鉄金属業、

建材業、鉄道業、電力業、化学工業、軽工業・紡績業、自動車

産業、通信業、建設機械製造業、航空宇宙産業、船舶業、海洋

工学などの業種に重点が置かれ、海外投資、工事請負、技術連

携、機械装置輸出などにおいて生産能力・設備製造分野の国際

協力を推進し、設備、技術、標準、サービスの「海外進出」を実現

するとされている。これは、国内外の従来の設備製造業に投資・

提携のチャンスをもたらすと見込まれている。

中国生産能力分野における国際協力への幕開け。2015年は、中国生産能力分野における国際協力元年となった。

国務院は、「生産能力・設備製造分野における国際協力の推進

に関する国務院の指導意見」139を公布し、海外生産能力の国際

協力を推進している。これにより、中国は「1軸両翼」地域におけ

る生産能力分野の国際協力体制を築いている。これは主要な周

辺諸国を中心軸(1軸)として、アフリカ、中東及び中東欧地域の

主要諸国を西翼に、ラテンアメリカの重点対象国を東翼に(これら

をもって両翼)、海外市場を開拓して国家間の互恵・利益関係の

構築を期している。2015年、中国の非金融分野における対外直

接投資額は1,180.2億米ドルとなり、前年同期比14.7%増加した。こ

のうち、設備製造業向けの投資額は70.4億米ドルとなり、154.2%

の増加となった140。このように、生産能力分野における国際協力

は初期段階で著しい成果を収めている。

「13・5計画」期間における中国生産能力分野の国際協力は急速な発展が見込まれる計画である。2015年公布の「生産能力・設備製造分野における国際協力の推

進に関する国務院の指導意見」によると、2020年までに重点対象

国との生産能力協力体制を確立するとされている。重要な生産

能力協力プロジェクトを大きく前進させ、海外生産能力協力にお

けるパイロット地域を複数箇所設立し、国際競争力及び市場開拓

能力の強い基幹企業を育成し、生産能力・設備製造の国際協力

による経済的効果及び社会的効果をさらに向上させ、国内経済

の成長及び産業構造の高度化を一層推し進める計画である141。

関連予測によると、「13・5計画」期間中に、中国の設備製造の対

外投資額は年平均成長率40%以上拡大する計画で、この5年間

の設備製造による対外投資総額は1,220億米ドル(図7-1)に達す

る見込みであり、生産能力・設備製造分野の国際協力の先行き

に希望を与えている142。

国内外企業による中国生産能力分野の国際協力への参加が加速される。生産能力・設備製造分野の国際協力は、中国の「13・5計画」にお

いて対外開放に関する重要な革新的施策となっている。本施策

は、中国企業の「海外進出」に対して政策上の優遇策を提供し、

利便性を向上させるものである。「計画要綱」によると、二国間又

は多国間で生産能力協力体制を構築し、先進諸国とともに、第三

者市場を開拓する。また、 2015年公布の「生産能力・設備製造分

野における国際協力の推進に関する国務院の指導意見」におい

ても、生産能力・設備製造分野の国際協力で中国企業がブラン

ド、技術及び市場優位性を有する海外企業と提携することを支持

する方針が示された143。このため、海外の優良企業は、これを機

に中国の従来型製造業の「海外進出」に関与できると見込まれて

いる。

139 「生産能力・設備製造業分野における国際協力に関する国務院の指導意見」、国務院、2015年5月16日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2015-05/16/content_9771.htm

140 商務部合作司担当者の2015年中国対外投資協力状況に対する見解、商務部、2016年1月15日発表。http://www.mofcom.gov.cn/article/ae/ai/201601/20160101235603.shtml

141 注記139と同じ。

142 2015年の設備製造対外投資データ及び成長率予測値に基づき算定する。

143 注記139と同じ。

図7-1中国の「13・5計画」における非金融類対外直接投資の設備製造業への推移予想

50

40

30

20

10

0

十億

米ド

20162017 2018

20192020

出所:中国の近年の対外投資トレンド分析によるものである。

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 5756 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

144 「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードの共同建設推進のビジョンと行動」、国家発展改革委員会・外交部・商務部、2015年3月28日、http://news.xinhuanet.com/2015-03/28/c_1114793986.htm

145 「2014年度の中国対外直接投資統計公報」、商務部・国家統計局・国家外貨管理局公布、北京:中国統計出版社、2015年9月。

146 「2014年度の中国海外資源投資統計」、中国鉱物連合会、2014年11月13日、http://www.chinamining.org.cn/index.php?m=content&c=index&a=show&catid=6&id=10788

図7-2 「13・5計画」期間における中国生産能力分野の国際協力のグローバル戦略 及び協力ポイント

中国・欧州

中国・ラテンアメリカ

中国・アフリカ

周辺国・地域

協力・投資ポイント:

中国の優れた生産能力と欧州の先進諸国のコア

技術を融合させて第三国のニーズを満たす事業

提携を行う。また、中国・欧州間の提携、中国・中

東欧諸国間の「16+1協力」を推進し、中国製設備

及び生産能力の欧州市場への進出を図る。

協力・投資ポイント:

中国・ラテンアメリカ間の「3×3」新モデルの下

で、物流、電力、情報などの重点分野を皮切り

に、企業、社会団体、政府機関などそれぞれの

積極性を発揮させ、ファンド、ローン、保険など

の融資ルートを確保する。また、ブラジル、ペル

ーなどの重点対象国にフォーカスして、中国・ラ

テンアメリカ間の生産能力分野の協力を促す。

協力・投資ポイント:

エチオピアを中国・アフリカ間の生産能力分野の

国際協力パイロット地域にすべく取り組み中。ま

た、ケニア、タンザニア、エジプト、南アフリカなど

の重点対象国にフォーカスして、鉄道、道路、航

空という「3大ネットワーク」を共同で構築する。ま

た、アフリカの工業化状況に合わせて、各業種

集中地域の建設をサポートし、中国製設備及び

生産能力の「海外進出」を推し進める。

協力・投資ポイント:

カザフスタンと第7回アーリーハーベストプログ

ラム(52件のプロジェクトで241億米ドル)に合

意し、複製・普及可能な二国間生産能力の協

力体制を構築する。

また、ロシア、パキスタン、インドネシア、マレー

シア、タイ、ラオス、ミャンマーとの間で、「一帯

一路」経済圏の建設を基に、生産能力分野の

国際協力に関する理念を周辺国において具現

化させる。

出所:中国政府の関連資料及び公開資料によるものである。

7.2 エネルギー・資源産業:対外直接投資企業(ODI)

によるエネルギー・資源の拠点の建設推進

「一帯一路」構想では、エネルギー・資源産業を国際協力の重要

対象分野に取り上げている。「シルクロード経済ベルトと21世紀

海上シルクロードの共同建設推進のビジョンと行動」によると、エ

ネルギー・資源国際協力を強化し、エネルギー・資源産地での加

工・変換を推進し、川上から川下までの一体型バリューチェーン

を形成する144。国内外企業は、「13・5計画」期間に中国のエネル

ギー・資源の海外拠点の建設における提携が期待されている。

この数年、中国の海外エネルギー・資源投資額は減少したが、1件当たりの投資額は増加し続けている。2007年以降、中国の海外エネルギー・資源投資規模は急速に拡

大した(図7-3)。2013年の中国の鉱業向け対外直接投資純額は

248億米ドルに達し、2007年比の5倍となった。2013年以降、中国

の鉱業向け対外直接投資純額は減少傾向にあるものの、依然と

して毎年100億米ドル以上の水準を維持している145。このように中

国の海外資源投資純額は減少したが、1件当たり投資金額は増

加している。ここ数年、取引額が10億米ドル以上あるいは10億米

ドル前後のM&Aが活発である。例えば、2014年には、五鉱資源

有限公司を筆頭に、国新国際投資有限公司及び中信金属有限

公司が共同参加した「中国五鉱連合体」は58.5億米ドルでグレン

コア・ピーエルシーのペルー・ラスバンバス銅鉱山のプロジェクト

を買収した。また宝鋼資源オーストラリア社はオーストラリアのオ

リゾン社と共同して、約11.4億豪ドルで鉄鉱石企業のアクイラリソ

ーシズ社の全株を買収した。さらに広晟有色金属股份有限公司

は14.6億豪ドルでオーストラリアの鉱物探査会社のパンオースト

の50.1%の持分を買収した146。このように、中国の海外資源への

投資は合併と持分買収の方式で行われている。また、中国の海

外資源向けのM&Aの1件当たり取引高も増加している。総じて中

国の海外資源への投資は従前の大規模な拡張段階から、M&A

取引の内容を重視する成熟段階に入った。

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 57

図7-3直近の中国の鉱物掘削分野への対外直接投資純額

3025

20

15

10

5

0

十億

米ド

十億

米ド

20072008

20092010 2011 2012

20132014

2015

出所:2007~2014年のデータは各年度の「中国統計年鑑」によるものであり、2015年のデータは中華人民共和国「2015年国民経済及び社会発展統計公報」によるものである。 出所:近年のデータ及びトレンド予測によるものである。

図7-4直近の中国の鉱物掘削・加工分野への対外直接投資純額

3025

20

1510

5

0

20162017 2018

20192020

中国は「13・5計画」期間にエネルギー・資源の海外拠点の建設を積極的に奨励する。「計画要綱」によると、中国はこの5年で一部のコモディティ海外生

産拠点及び協力工業区を建設、エネルギー・資源の産地での加

工・変換を推進、完備された海外資源バリューチェーンを構築す

る計画である。「13・5計画」期間に中国の鉱物掘削・加工分野の

対外直接投資純額の年平均成長率はおよそ20%増加し、2020年

までに270億米ドル以上になると見込まれている。このため、「13

・5計画」期間において鉱物掘削・加工投資純額は1,000億米ドル

前後になる計画となっており、大きなビジネスチャンスが期待され

ている(図7-4)。

国内外の企業に海外エネルギー・資源の掘削・加工拠点の建設参加が期待されている。中国は「13・5計画」期間に、国内企業がエネルギー・資源海外拠

点の建設事業に「進出」することを奨励している。これは対外投資

企業に海外資源掘削のビジネスチャンスをもたらすだけでなく、

これらの企業に海外資源産業のバリューチェーン形成に役立つ

ことになる。また、中国は当該分野で海外優良企業と連携して、

海外拠点の建設を推進し、第三国市場を共同開発する方針であ

る。これは、世界中の外資系企業が中国のエネルギー・資源海

外拠点の建設に参画する絶好のチャンスである。国内外企業は

鋼鉄、非鉄金属、石油化工、建材、軽工業・紡績業などの分野で

原材料拠点及び加工拠点の共同建設、海外市場の共同開拓な

どを行い、海外エネルギー・資源拠点の共同開発並びに、第三

者市場の開拓が期待できる。

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 5958 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

図7-5「13・5計画」期間の中国天然資源海外拠点建設に関する業界別見通し

鉄鉱、非鉄金属 石油化学工業 建材業 軽工業・紡績業業界:

重点目標:

鉱 物 掘 削 拠 点 の 建

設を加速し、製鉄、製

鋼、鋼材などの製錬

拠点を建設し、鉄鋼

製造設備の輸出を促

進 す る 。 ま た 、 国 外

の鉱物開発に合わせ

て、川下バリューチェ

ーンを延長させ、銅、

アルミニウム、鉛、亜

鉛などの非鉄金属の

製錬及び高度加工を

行う。

多種類の資源開発及

び産業投資の強化。石

油化学、肥料、農薬、

タイヤ、石炭化学など

の生産ラインの立ち上

げ、化学工業の川下産

業である高精度加工業

を発展させ、産業チェ

ーンを伸ばし、グリーン

生産拠点を建設する。

海外建材資源の調達

拠点の建設推進。設

計、建設工事、設備

供給と共にセメント、

板ガラス、建設・衛生

陶磁器、新建材、革

新的建造物の生産ラ

インを立ち上げ、所在

国の生産能力と現地

供給能力を向上させ

る。

海外農産品、牧畜業

資源拠点の建設を推

進し、紡績業、化学

繊維、家電品、食品

加工などの軽工業・

繊維製品の加工工場

を立ち上げ、川上か

ら川下まで連携を強

化して産業クラスター

を形成する軽工業製

品・繊維製品加工拠

点を建設する。

出所:「生活関連サービスの発展及び消費構造のグレードアップの加速化に関する国務院弁公庁の指導意見」

7.3 工事請負業:「一帯一路」のインフラ建設の「海外進

出」を推進

インフラの相互接続は「一帯一路」建設の優先分野であり、工事

請負業は中国企業の「海外進出」を実現するための重要分野で

ある。「13・5計画」期間における「一帯一路」建設は中国のインフ

ラ関連企業にとって「海外進出」の好機であり、同業界の海外優

良企業と「一帯一路」インフラの相互接続分野において事業提携

が期待できる。

中国の対外工事請負契約金額及び規模は安定して推移している。2006年以降の中国の対外工事請負高は安定的に成長している。

新規契約額は2006年の660億米ドルから2015年には2,100億米ド

ルまで増加し、年間平均成長率は14%以上となった(図7-6)。2015

年以降、「一帯一路」の沿線諸国のインフラ建設は、中国の対外

工事請負業の成長の重要な牽引力となっている。2015年の中国

の対外工事請負新規契約高は2,100.7億米ドルであった。このう

ち、「一帯一路」に関わる60か国との新規契約高は926.4億米ドル

となり、同時期の中国の対外工事請負契約総額の44.1%を占め、

完成工事高は692.6億米ドルで同時期の完成高総額の45%を占め

た147。今後数年間に「一帯一路」建設が進むに従って中国の対外

工事請負契約金額及び規模は安定して成長すると見込まれる。

図7-6近年の中国対外工事請負契約の締結状況

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

0

50

100

150

200

250

20002001

20022003

20042005

20062007

20082009

2010

2011 2012

2013

2014

2015

新規契約金額 新規契約件数

十億

米ド

ル 契約

件数

出所:各年度の「中国統計年鑑」及び商務部の「海外進出」公共サービス・プラットフォームデータベース(http://fec.mofcom.gov.cn/article/tjsj/tjgb/)

147 2015年度の「一帯一路」関連国との経済・貿易分野の連携状況、商務部合作司、2016年1月21日、http://fec.mofcom.gov.cn/article/fwydyl/tjsj/201601/20160101239838.shtml

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 59

図7-7 「13・5計画」期間の中国の対外工事請負新規契約高予測

0

400

300

200

100

500

十億

米ド

20162017 2018

20192020

出所:ここ数年のデータ推移及び「一帯一路」沿線経済回廊建設プロジェクト予測によるものである。

表7-1 「一帯一路」の6本の経済回廊及びその交通整備状況

経済回廊 交通建設

中国・モンゴル・ロシア経済回廊

中国・モンゴル・ロシアの三ヵ国を跨ぐ交通は2本ある。1本は華北京津冀(華北地域の北京・天津・河

北)―フフホト―内モンゴルの国境都市エレンホト―モンゴル国のウランバートル―ロシアを結ぶシベリア

鉄道である。他の1本は、中東鉄道を沿って、大連―瀋陽―長春―ハルビンーマンシュウリ―ロシアのチ

タを結ぶルートである。

新ユーラシア大陸ブリッジ経済回廊

中国東部にある江蘇省連雲港市からオランダのロッテルダム国際鉄道幹線までの全長10,900キロメート

ルを結ぶルートで世界30か国・地域を跨いでいる。現在、中国はロシア、ベラルーシなどの国とシルクロ

ード経済ベルトとユーラシア経済連合発展計画の連結に関する協議協定に合意した。

中国-中央アジア-西アジア経済回廊

新ユーラシア大陸ブリッジと重なる。新ユーラシア大陸ブリッジは阿拉山口―霍爾果斯(コルガス)から中

国国境を越えて、カザフスタン―ウズベキスタン―キルギスタン―タジキスタン―トルクメニスタン―イラ

ン―イラク―トルコを繋ぐ経済回廊を形成している。当該経済回廊はイラン、イラク、サウジアラビア、トル

コなど西アジア・北アフリカ地域まで延長される。

中国・パキスタン経済回廊

新疆カシュガルから、カラコルム峠を越えて、パキスタンのグワーダル港まで、北のカシュガルから南の

パキスタンのウーダル港までの経済大動脈を形成し、共同して新疆カシュガルからパキスタン西南部の

グワーダル港の道路、鉄道、石油ガス、光ケーブルが備わった「四位一体」の大型交通となる。

バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済回廊

中国雲南省昆明市からスタートし、瑞麗及び騰沖などの国家通関地経由で国境を越え、道路、鉄道をメ

インとした複合一貫輸送を行う。運輸交通は下記の3本である。

昆明市―マンダレ―チャウピュ 昆明市―マンダレ―ダッカ―コルカタ 昆明市―保山市―ミャンマーのミッチーナー―インドのグワーハーティー

中国-インドシナ半島経済回廊

珠江デルタ経済圏とインドシナ半島の国々を繋ぐ経済回廊であり、東の珠江デルタ経済圏から南広高速

道路、桂広高速道路に沿って南寧市、凭祥市、ベトナムのハノイを通ってシンガポールまで延長する。

出所:中国政府の関連規定及び公開資料によるものである。

「一帯一路」は中国の対外工事請負業の成長を加速させる。 「13・5計画」期間は「一帯一路」建設の実行段階となる。「計画要

綱」によると、周辺国のインフラの相互接続を推進し、アジアの各

地域及びアジア・欧州・アフリカを連結するインフラネットワークを

構築する。「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードの

共同建設推進のビジョンと行動」によると、沿線諸国とのインフラ

建設計画及び技術標準整備を連結し、国際的な幹線交通の建設

を共同推進する148。2015年の中国の対外工事請負新規契約高

は2,000億米ドルを突破した。今後5年間で「一帯一路」建設は中

国の対外工事請負業の成長に拍車をかけ、対外工事請負新規

契約額は年間平均成長率で14%以上になると見込まれている(図

7-7)。このように、中国の対外工事請負業は新たな成長期を迎

えている。

中国の対外工事請負企業にとって、国外での建設・経営及び国外企業との提携という新しいビジネスチャンスが到来している。 「一帯一路」のインフラ相互接続の目的は、アジアの各地域及び

アジア・欧州・アフリカを連結するインフラネットワークを構築する

ことである。また、「13・5計画」期間の重点業務は、欧州とアジア

を結ぶ橋(欧亜高速鉄道)、中国・モンゴル・ロシア、中国・中央ア

ジア・西アジア、中国・インドシナ半島、中国・パキスタン及びバン

グラデシュ・中国・インド・ミャンマーという6本の経済回廊(表7-1)

の建設である。中国の対外工事請負企業は国際的な基幹交通

建設の推進を契機に事業拡大を図ることができる。また、外資系

企業は経済回廊の建設をビジネスチャンスと捉え、製造設備の

供給、設計サービス、運営サービス及び融資サービスなどの分

野で「一帯一路」のインフラ整備に参入できる。さらに、国内外企

業は、「一帯一路」建設に基づいて、アフリカ及び南アフリカなど

のインフラ後進国と連携を強化し、共同してグローバルなインフラ

市場を開拓できる。

148 「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードの共同建設推進のビジョンと行動」、国家発展改革委員会・外交部・商務部、2015年3月28日、http://news.xinhuanet.com/2015-03/28/c_1114793986.htm

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 6160 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

図7-8中国農林畜産漁業のFDI及びODI

1,500

1,000

500

0

2,000

2,500

7.4 農業・食品産業:海外農業資源のM&A及び外資系

企業の中国農業への進出

農業の開放は中国の改革開放戦略の重要項目である。「計画要

綱」によると、農業は国際協力によって国内外の農業と相互補完

の関係を強化する。「13・5計画」期間に、農業に関わる中国の対

外投資企業は「海外進出」を加速させる。また、外資系企業にとっ

ても中国の農業分野へ進出のチャンスとなる。

中国農業の海外M&A取引は急増しており、国内農業の外国直接投資取引の成長は鈍化したものの依然として高水準にある。近年、中国は農業関連企業の「海外進出」を加速させているた

め、中国農業の対外投資は急成長している。

2014年の中国の農林畜産漁業の対外直接投資純額は20.4億米

ドルで、2009年から6.5倍増となった。また、農林畜産漁業の対外

直接投資純額は、2009年以降右肩上がりの成長を続けており、

伸び率が50%の年もあった。一方、直近の農林畜産漁業の実質

ベースによる外資直接投資の実行額は減少しているものの、依

然として毎年15億米ドル以上の高水準にあり、今後も上昇すると

予測されている(図7-8)149。

百万

米ド

20072008

2009201

02011 201

2201

3201

4

対外直接投資純額 外資直接投資の実行額

出所:ここのデータは各年度の「中国統計年鑑」によるものである。

149 農林畜産漁業のODIとFDIデータは各年度の「中国統計年鑑」によるものである。

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 61

図7-10中国の主要農産品別輸入額

0

510

1520

2530354045

「13・5計画」期間に中国企業は「海外進出」を加速させ、外資系企業は中国農業への投資を拡大する。「計画要綱」によると、「13・5計画」期間に農業の国際協力に積極

的に取り組み、大規模な海外生産・加工・貯蔵・輸送拠点を建設

し、国際的競争力を持つ農業多国籍企業を育成する。また、農業

の国際協力分野を特定し、多国・二国間の農業技術の連携を図

る。関連予測によると、「13・5計画」期間における中国農業のFDI

の成長余力は「12・5計画」期間のそれを上回り、農林畜産漁業

のFDIの年間平均成長率は5%を超えここ数年の伸び悩みから脱

却できると期待されている。また、農林畜産漁業の対外直接投資

純額は急増しており、年間平均成長率は15%(図7-9)以上となる

と予測されている。このように、「13・5計画」期間における中国の

農業企業の「海外進出」及び外国農業企業の「中国進出」のペー

スはさらに加速する見込みである。

中国農業の「海外進出」と「外資導入」の同時進行は国内外企業にビジネスチャンスとなる。「13・5計画」期間において、農業及び農産物は中国企業の「海外

進出」及び外資系企業による「中国進出」の重点分野である。中

国農業の対外投資企業の「海外進出」には2つの投資ルートが

ある。1つは、「一帯一路」を戦略的に推進し、発展途上国又は地

域に対する農業支援及び農業資源の開発協力を行い、発展途

上国の農産物自給力及び輸出力を強化することである。もう1つ

は豊富な農業資源を有する先進国と緊密に貿易・投資分野にお

いて協力し、積極的に農業の総合開発及びグローバルサプライ

チェーンの構築に参加し、多数のチャンネルから中国のエコ農産

物の安定供給を確保することである。また、外資系農業企業の「

中国進出」の対中投資の拡大方法は主に2つある。1つは、貿易

に代えて投資方式を採用し、中国で供給不足となる農産物(大豆

など)を対象にした種類別の大規模稲作経営を行うことであり、も

う1つは、中国農業企業と技術協力を一層強めて、自社の技術的

優位性を活かし、中国で買収・合併を行い、生産経営を拡大させ

ることである。このように国内外企業は今後5年間で農業分野に

おける提携関係を一層強化することで多くのビジネスチャンスを

創出すると見込まれている。

図7-9「13・5計画」期間の中国農林畜産漁業のFDIとODI予測

5

4

3

2

1

0

対外直接投資純額 外資直接投資の実行額

出所:近年の成長状況及び将来発展予測によるものである。

出所:ここのデータは各年度の「中国統計年鑑」によるものである。

20162017 2018

20192020

十億

米ド

ル十

億米

ドル

20002001

20022003

20042005

20062007

20082009

2010

2011 2012

2013

2014

穀物及び穀粉 小麦 籾(もみ)及び米 大豆 食用植物油

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第8章 成熟型経済体制と制度改革― 寡占産業、戦略新興産業、現代サービ ス業にビジネスチャンス

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 63

「13・5計画」期間は、改革を全面的に深化させて成果を出すための重要な時期である。中国は引き続き経済体

制の改革牽引役として、政府と市場の適切な処理を中心に、寡占産業、戦略新興産業の経済改革を一層推進

し、重点分野及び改革の重要な段階において確実に成果を上げるように努め、資源配分の役割を適切に果たす

成熟型経済体制を構築する。

8.1 天然ガス産業:川下・川上の改革による相次ぐ開放

で民間資本に明るいシグナル

化石燃料の中でも低炭素エネルギーである天然ガスは競争優位

性がある。このため、天然ガス産業の競争領域の改革推進は、

民間資本を活性化させ、天然ガス産業全体を効率化する。

天然ガス生産は緩やかに増加し、川上・川下の改革が行き詰まりを打破した。天然ガス業界の発展と天然ガスの普及・拡大は旧来から政府の

重要課題である。この数年の国際原油価格の急落とマクロ経済

不況の影響は天然ガスの川下市場の消費活力を落として供給

過剰をもたらした。しかし、生産量は小幅ながらも増加し続けてい

る。関連統計によると、2015年の天然ガス生産量は1,350億m³で

前年同期比では5.6%伸びた(図8-1)150。天然ガス産業はこの数年

の急成長から安定成長に移行している。しかし、2015年には天然

ガス産業の川上・川下の分野へ相次いで改革が実施され行き詰

った状態を打破し、注目を集めている。改革の1つは、2015年 4月

1日から各省の天然ガス増加分(前年消費量を上回る部分)の価

格上限を0.44/m³人民元に引き下げ、前年に消費した分の価格は

0.04/m³人民元に引き上げて増加分と前年分価格を通算した151。

他の1つは、国土資源部から2015年7月7日に公布された新疆石

油・天然ガス資源探査地域入札公告によって、新疆がパイロット

地域に指定され、石油・天然ガス産業の川上分野からの改革が

幕開けした。これによって中国石油・ガス産業の川上分野の国営

石油会社の独占状態から脱却することが期待されている152。この

ように、今後の天然ガス産業は、石油・天然ガス資源探査掘削分

野と都市ガス供給・販売市場において川上・川下の自由競争とな

る見込みである。しかし、川中のパイプライン運輸業はまだ独占

状態でかつ政府の厳格な監督管理下という産業構造を維持した

ままである。

「13・5計画」期間に天然ガス開発を継続させ、価格改定と参入の規制緩和により天然ガス分野への民間資本の参入を奨励する。 「計画要綱」によると、天然ガス分野の競争価格を市場化させて

民間資本の参入を図り、天然ガス産業の競争領域(パイプライン

の開放)を開放する。「2016年経済体制改革深化の重点課題に

関する意見」153によると、同年に一部の国有企業を混合所有制改

革パイロットプログラムに組み込んで、企業のグループ全体の上

場を推進する。また、要件を満たした上場企業には適格戦略投

資家の導入も奨励する。さらに、国有資本の機能を拡大し、国有

資本の最適な配置及び効率的な運用を図るため、「石油・天然ガ

ス体制改革の深化に関する若干の意見」及び関連のガイダンス

を公表する。国家発展改革委員会によると、天然ガスの市場化

改革を円滑に進めるため、上海市に天然ガス取引所を設立して

競争領域における価格の市場化を実現し、天然ガスを市場に導

入する。また、今後天然ガス市場の発展に応じて関連分野の価

格に対しても市場化を推進する。

川上・川下の改革による行き詰まりの打破によって民間資本の導入に様々な関連分野のルートが開放される。低炭素エネルギーの天然ガス市場の見通しは明るい。国家気候

変動対応計画(2014-2020年)」154によると、2020年には天然ガス

消費量は3,600億m³となり、一次エネルギー消費量の10%以上を

占める見込みである。このため、天然ガスの川上・川下分野は民

間投資家にとって大きな魅力である。民間資本は「政府資金及び

民間資本の協力に関する指導意見」155に基づいて、PPPモデル(

官民連携)によって天然ガスに関連するインフラプロジェクトに参

入できる。また、政府は「国有企業の混合所有制経済発展に関す

る国務院の意見」156によって、民間資本が天然ガス産業国有企

業の混合所有制改革に参加することを奨励する。

図8-1中国天然ガスの生産量伸び率

160 14%12%10%8%6%4%2%0%

80

120

40

140

60

100

200

2010

2011 2012

2013

2014

2015

天然ガス生産量 天然ガス生産量の伸び率

十億

出所:国家発展改革委員会の公式ウェブサイト:http://www.sdpc.gov.cn/jjxsfx/

150 「2015年天然ガス産業の発展状況」、国家発展改革委員会経済運営局、2016年1月、http://yxj.ndrc.gov.cn/gjyx/201601/t20160122_776235.html

151 「国家発展改革委員会は天然ガス増加分の価格を調整、企業のガスコスト削減に大きく寄与」、新華網、2015年3月2日、http://news.xinhuanet.com/environment/2015-03/02/c_1114480426.htm

152 「新疆石油・天然ガス探査掘削改革パイロットプログラムの稼働」、国土資源部、2015年7月7日、http://www.mlr.gov.cn/xwdt/jrxw/201507/t20150707_1358076.htm

153 「国家発展改革委員会の2016年経済体制改革深化の重点課題に関する意見に対する国務院の承認通知」、国務院、2016年3月31日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2016-03/31/content_5060062.htm

154 「国家の気候変動対応計画(2014-2020年)」、国務院ニュースオフィス、2014年11月25日、http://www.scio.gov.cn/xwfbh/xwbfbh/wqfbh/2014/20141125/xgzc32142/Document/1387125/1387125.htm

155 「政府資金及び民間資本の連携に関する指導意見」、国家発展改革委員会、2014年12月2日、http://www.sdpc.gov.cn/gzdt/201412/t20141204_651014.html

156 「国有企業の混合所有制経済発展に関する国務院の意見」、国務院、2015年9月24日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2015-09/24/content_10177.htm

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 6564 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

157 「2015年石油・石油化学産業の発展状況」、工業情報部、2016年2月5日、http://wap.miit.gov.cn/n4417404/n4417471/n4417493/c4636130/content.html

158 「2015年石油・天然ガス産業の発展概要及び2016年展望」、中国石油ニュースセンター、2016年1月26日、http://news.cnpc.com.cn/system/2016/01/26/001577225.shtml

159 「中国石油化工股份有限公司による子会社の中国石化銷售有限公司の増資における投資家導入進捗に関する公告」、中国石油化工、2015年3月6日、http://file.fie.sina.com.cn/211.154.219.97:9494/MRGG/CNSESH_STOCK/2015/2015-3/2015-03-07/1644359.PDF

160 「価格メカニズムの改革推進に関する中国共産党中央委員会・国務院の若干の意見」、中国共産党中央委員会・国務院、2015年10月15日、http://www.gov.cn/xinwen/2015-10/15/content_2947548.htm

161 「精製油の価格が調整、2020年に完全な市場化になる」、北京商報、2016年1月5日、http://www.bbtnews.com.cn/2016/0105/135328.shtml

8.2 石油・石油化学産業:価格の市場化と市場開放によ

って改革深化を促進

石油・石油化学産業は特殊な戦略性のため、長く中国の石油大

手3社(CNPC、Sinopec、CNOOC)の寡占状態にある。国有企業

の混合所有制改革の本格化に伴い、石油・石油化学産業は新た

な改革を迫られている。

産業全体の収益力は低下しているが体制の改革は一定の成果を上げた。マクロ経済の不況とコモディティ価格の急落によって石油・石油

化学産業の生産量は全体的に増加したものの収益力の悪化に

よって業界は不況である。関連データによると、2015年に石油産

業は供給過剰と消費の冷え込みから対外依存度も60%を初めて

割り込んだ。石油・石油化学産業の増加値(付加価値増加値に

相当)は前年同期比で7.2%伸ばしたが、売上高は前年同期比で

20.53%減少し、売上総利益は前年同期比で50.99%減少した157。政

府は立ち遅れた生産能力の大規模淘汰を断行したため、精製油

輸出額は3年連続で大幅に増加した158。また、石油・石油化学産

業の改革も一定の成果を上げている。Sinopec社は2015年3月6

日に25名の投資家による同社への増資が完了したと発表した。

これは石油製品販売に関する再編と資金導入がすべて完了した

ことを意味している159。さらに、2015年10月12日公布の「価格メカ

ニズムの改革推進に関する中国共産党中央委員会・国務院の

若干の意見」160によると、エネルギー価格の市場化を加速する

ため、必要に応じて精製油及び天然ガス販売価格を市場に委ね

る。これにより、市場主体の多元化競争を促進し、較差補填を適

切に処理・縮小させ、エネルギー製品の属性を還元させることが

できる。

「13・5計画」期間に石油・石油化学国有企業の混合所有制改革を推進し、精製油価格を市場化して石油・石油化学産業の経済体制改革を深化させる。「計画要綱」によると、石油産業の価格市場化を促して競争領域

をさらに開放する。国家発展改革委員会の徐紹史主任は、「13

・5計画」期間に価格形成に対する政府介入を最小限にして精製

油価格の完全な市場化を実現すべきであると述べた161。「計画要

綱」によると、2017年には競争分野や競争領域の価格市場化を

確立して、2020年までに市場の価格形成メカニズムを構築し、価

格調整決定メカニズムを整備する。これは、「13・5計画」期間に精

製油価格の完全市場化が実現することを意味している。

石油・石油化学産業改革の実施により特定分野に民間資本を導入する。石油・天然ガス産業の川上・川下の改革は同時並行的に進めて

きたことから、民間企業は買収・合併によって石油・石油化学企

業の石油・天然ガス資源や石油販売分野の資産或いはプロジェ

クトを統廃合・再編することができる。また、持分投資方式によっ

て国有企業グループの親会社の混合所有制改革に参加もでき

る。

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 65

年度 発電設備容量

(億KW)

前年同期比

(%)

年間の総発電量

(万KW・h)

前年同期比

(%)

2010年 9.62 10.07 4.23 14.95

2011年 10.56 9.77 4.72 11.58

2012年 11.44 8.33 4.98 5.51

2013年 12.47 9.00 5.35 7.43

2014年 13.60 9.06 5.54 3.55

2015年 14.60 7.35 5.73 3.43

8.3 電力業:電力需給体制の重要改革が再始動

電気料金は常に電力業界改革の重要課題である。電力体制改

革は2015年に再始動した。2002年の改革と比較して今回はさら

に重要課題が多いことからより多くの改革の成果が期待されてい

る。

電力供給に余裕があるため体制の改革を再始動する。2014年の電力供給は電力需要の減少と供給能力の向上によっ

て潤った。中国電力企業連合会(CSEE)データによると、発電設

備容量及び年間総発電量はいずれも増加したが、伸び率は鈍化

している(表8-1)。2015年に電力体制改革が13年ぶりに再始動

した。国務院は2015年3月22日に「電力体制改革の一層の深化

に関する若干の意見」を公布した。今回の改革では、電気料金改

革、発電所と送電システムの独立運営、市場開放など一連の重

要課題に触れている。具体的には、送配電事業以外の電気料規

制の緩和、公益的な調整以外の発電計画の規制緩和、新規電

力送配・販売市場の自由化、及び取引機構の独立性である。今

回の改革は、電力業界の利益配分に関わるため、国情に相応し

た実行可能な計画を採用し、市場のニーズを送配電気料に反映

させる。このため、今回の改革は実利を伴う改革である。なお、現

在のパイロットプログラムは6つの省レベルの送配電網、7つのパ

イロット地域をカバーしている。

「13・5計画」期間に電力業界の市場化のランクを引上げインフラ整備を強化する。「計画要綱」によると、電力業界の競争領域における価格の市場

化を図り、電力など自然独占の状態になりやすい業界の競争領

域を開放する。また、分散型エネルギーの発展及び多様な消費

者ニーズに応じるため、電力需要側の管理を最適化させスマー

ト電力ネットワークの建設を加速し、電力ネットワークと発電側・

需要側間の連携を強化する。「中発[2015]9号の趣旨の徹底と送

配電価格の改革推進に関する通知」162及び「省・地域を跨ぐ電力

取引価格形成メカニズムの関連問題に関する通知」163に基づい

て電力体制改革は一層推進する。また、国家エネルギー局公布

の「水力発電所の建設における民間資本の活用に関する指導意

見」164によると、中国は水力発電所の建設に民間資本を導入す

る。このため開発・管理、財務・税務コンサルティング料、投資リタ

ーンなどの政策綱領を整備する。

IOTを利用したエネルギー分野は電力体制の改革で注目度が高い。電力体制改革計画によると、2017年までに電力産業の競争分

野・競争領域における価格の市場化を整備する。政府の価格決

定は重要な公共事業、公益的なサービス事業、ネットワーク関連

など自然独占になりやすい分野に限定されている。2020年までに

市場の価格決定メカニズムを完備する。これは、精製油価格と同

様に送配電価格が「13・5計画」期間内に完全に市場化されること

を意味している。これにより、電気料金は本来市場で決定される

ため分散型エネルギーの発展にはメリットとなる。電力体制改革

の更なる推進と「送配電事業以外の電気料規則の緩和、公益な

調整以外の発電計画の規制緩和、新規電力の送配・販売市場

の自由化、及び取引機構の独立性」という方針の確実な実行に

伴い、IOTを利用したエネルギー・電力事業の改革はスピードを

加速させ民間資本の高い注目を集めるであろう。

表8-1 中国の発電設備容量及び総発電量

出所:中国電力企業連合会(http://www.cec.org.cn/guihuayutongji/tongjxinxi/)、2015年のデータは予測されたデータである。

162 「中発[2015]9号の趣旨の徹底及び送配電価格改革推進に関する通知」、国家発展改革委員会、2015年4月13日、http://www.sdpc.gov.cn/fzgggz/jggl/zcfg/201504/t20150416_688234.html

163 「省・地域を跨ぐ電力取引価格形成メカニズムの関連問題に関する通知」、国家発展改革委員会、2015年5月5日、http://www.sdpc.gov.cn/gzdt/201505/t20150507_691137.html

164 「水力発電所の建設における民間資本の活用に関する指導意見」、国家能源局、2015年1月12日、http://zfxxgk.nea.gov.cn/auto87/201501/t20150116_1881.htm

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 6766 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

8.4 電気通信業:基礎電気通信サービスへ民間資本の

参入規制を緩和

電気通信業界は現在、深刻な寡占状態である。そのため、市場

化改革の深化と民間資本を導入して電気通信業のポテンシャル

を活かして資源の配置効率を向上させなければならない。

電気通信業は安定成長しているが、改革は依然創造性に欠く。2015年に実施された「増値税改革」、「スピード向上及びコスト低

減」、「通信料金引下げ」及び「データ通信翌月繰越」などの措置

は電気通信業収入にも一定の影響を及ぼした。中国3大電気通

信2015年次報告書によると、3社の営業利益は2014年と比較して

もほぼ変わらず微増であった。そのうち、ネット使用量及びデータ

センターなどの新規業務の収益は増加して、インターネット及び

監督管理に対する政策変化の影響を補った。しかし、電気通信

業の改革ペースは全体的に足踏み状態にある。

「13・5計画」期間に「ブロードバンド中国」など巨大な情報化プロジェクトに関連して、価格の市場化と民間資本の導入を進め、スピードアップとコストダウンによって電気通信業の成長を促進する。「計画要綱」によると、「ブロードバンド中国」など重要な情報化プ

ロジェクトを実施して第4世代(4G)通信網を配備し、次世代技術

を進化させ、需要のある地域での全面的普及を実現させる。改革

によって電気通信業界の競争領域と価格の市場化を実行し、民

間資本を基礎電気通信業界に導入してインフラの共同建設・共

有化、サービスの向上など競争原理が機能する市場メカニズム

を形成する。スピードアップ、コストダウン、及び通信料設定の簡

素化により、電気通信業務のコストパフォーマンスを向上させる。

付加価値電気通信業務及び基礎電気通信業務のビジネスチャンスに注目すべきである。「外商投資産業指導目録(2015訂正版)」に基づき、中国の電気

通信業界は外資参入が規制されている。しかし、付加価値電気

通信業務及び基礎電気通信業務は規制緩和の対象分野であ

る。ただし、前者の外資比率は50%を超えてはならない(電子商取

引を除く)が、後者の外資比率は49%を超えてはならない。また、

民間資本の場合は出資比率の規制要件を緩和できるため、主に

ブロードバンド市場が注目である。外資及び民間資本は持分投

資などの方法で国有電気通信企業の混合所有制改革に参加で

きる。

8.5 鉄道業:鉄道事業の市場化改革が民間資本から注

近年、鉄道業界の発展と改革が進み、特に市場化改革では著し

い成果を収め、従来の鉄道業管理と運営を刷新した。これによ

り、鉄道業界は市場経済の発展ニーズにさらに適応している。

鉄道建設は目覚しい発展を遂げて市場化改革を成功させた。鉄道建設は大きく進展し、主要指標で世界トップクラスとなった。

統計データによると、「12・5計画」期間の鉄道固定資産投資額は

3.58兆人民元となり、新線の建設距離は3.05万km、「11・5計画」

期間からそれぞれ47.3%及び109%延長された。投資額と新線の

キロ数はいずれも史上最高を更新した。現在、中国はすでに「四

縦四横」(高速鉄道を国土に縦4本、横4本建設)の旅客専用線を

中核とした高速道路網を形成している。中国の営業中の高速道

路は1.9万kmとなり、世界の高速道路総延長キロ数の60%以上を

占め、世界1位となった165。中国の鉄道業界は、「12・5計画」期間

に巨大な改革プロジェクト、市場化改革を行って市場経済に適応

した管理と運営体制を構築した。例えば、中国鉄路総公司の設

立によって「政企分離」(行政府の企業生産経営への不介入)を

実現し、旅客・貨物運輸改革を推進して鉄道輸送の近代化を促

した。とりわけ、投資・融資体制の改革、鉄道沿線の土地開発及

び民間資本の誘致によって、関連分野の活発化と体制の改善が

進展した。「鉄道投資・融資体制の改革による鉄道建設推進の

加速に関する国務院の意見」166に基づき、中央政府は、地方政

府及び民間資本に対し都市鉄道、市内(郊外)鉄道、資源開発型

鉄道・鉄道支線の所有権、経営権を移譲し、外資を含む民間資

本による鉄道建設投資を促進する。中央政府の財政資金を元手

にして外資を含む民間資本を誘致し、鉄道建設ファンドを設立す

る。

「13・5計画」期間に鉄道事業の市場化改革を引き続き推進し、民間資本の鉄道建設へ投資を図る。「計画要綱」によると、鉄道事業の市場化改革を推進し、鉄道業

界の競争領域での規制を緩和する。鉄道運賃は鉄道体制改革

の最も敏感な問題であるため、国家発展改革委員会は2014年に

「一部の鉄道運賃の市場化に関する通知」167を公布し「2つの自

由化」を提言した。1つは、一部の貨物運賃の自由化である。これ

はバルク運賃と梱包貨物運賃について市場調整価格を実行す

る。他の1つは民間資本の新線の貨物運賃への参入自由化であ

る。すなわち民間資本による新線の貨物運賃と旅客専用線運賃

へ投資を募り市場化調整を行う。「13・5計画」期間には一部の鉄

道運賃の市場化を踏まえて鉄道の市場化改革を一層推進させ、

柔軟な運賃設定メカニズムの構築を図ると予測されている。

市場化改革は民間資本の鉄道建設参加のチャンスである。中国は現在、都市化戦略を推し進め、都市群の牽引力を積極的

に活用し経済社会の発展を推進させる。「政府資金と民間資本の

連携に関する指導意見」168によって外資を含む民間資本は鉄道、

都市鉄道などの交通インフラ建設に参画できる。とりわけ都市鉄

道、市内(郊外)鉄道、資源開発型鉄道及び鉄道支線などのイン

フラ建設ニーズには多くのビジネスチャンスがある。

165 「2015年鉄道に関する7つのキーワード」、人民鉄道網、2016年1月18日、http://www.peoplerail.com/rail/show-456-252444-1.html

166 「鉄道投資・融資体制の改革による鉄道建設推進の加速に関する国務院の意見」、国務院、2013年8月16日、http://www.gov.cn/zhengce/content/2013-08/16/content_3712.htm

167 「一部の鉄道運賃の市場化に関する通知」、国家発展改革委員会、2014年12月23日、http://www.sdpc.gov.cn/zcfb/zcfbtz/201501/t20150104_659292.html

168 「政府資金及び民間資本の連携に関する指導意見」、国家発展改革委員会、2014年12月2日、http://www.sdpc.gov.cn/gzdt/201412/t20141204_651014.html

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 67

8.6 金融業:金融体制の改革は民間資本にビジネスチ

ャンス

近年、金融業は資本市場の急激な変動、潜在的なリスクの増

加、要素配置の不均衡などの問題を抱えているため金融体制の

改革の推進は社会全体の共通認識となっている。

金融業は急成長を遂げ改革効果が現れた。マクロ経済は持続的な不況ながら金融業は比較的速いペース

で成長している。関連統計によると、2015年の金融業の増加値

は前年同期比で23.2%増加して、2014年より10%伸びた。金融業

のGDPに対する貢献率も8.5%近くである(図8-2)。「12・5計画」期

間に多層な資本市場が急成長したが直接金融はとりわけ成長し

た。また、ビッグデータ、クラウドコンピューティングなどの新興技

術は日々進化しており、インターネット金融を代表とする金融イ

ノベーション業務は盛栄し業界の成長と改革を促進している。ま

た、「12・5計画」期間に市場化した金融体制は大きく成長した。具

体的には民間金融機関の設立、金利の市場化、人民元為替レー

ト形成メカニズムの改善、多層な資本市場の構築・完備である。

民間資本の金融業への参入規制も緩和され、損益自己負担の

民間金融機関の設立が可能となった。また、国有銀行の混合所

有制改革に合わせ、民間資本による国有銀行への持分投資も可

能となった。金利の市場化改革はすでに完了し、金利コリドーを

形成している。為替レートの市場化改革はまだ進行中であり、人

民元レート中間値(基準値)を参考に人民元の対通貨バスケット

の安定性を確保している。総じて、これら一連の改革は、市場化

改革の趣旨と合致し、金融業の健全な発展に積極的な役割を果

たしている。

「13・5計画」期間に金融機関システムの充実、金融市場体制と金融監督管理メカニズムの健全化を図り、金融体制改革によって金融業の健全な発展を促進する。「計画要綱」によると、現代的な金融体制構築の重点は、金融要

素供給側の構造改革、金融業のコントロールシステムの整備、

金融分野のマクロ・プルーデンス政策の枠組み構築の5つの項目

である。また、幅広い範囲で多層的かつ差異性のある金融組織

体制を構築して民間資本の銀行業への参入を拡大し、金融包摂

(Financial Inclusion)を促進する。

金融の市場化改革は外資系金融機関の中国進出にチャンスである。近年、中国は国内市場を順次開放しており、QFI I、滬港通

(Shanghai-Hong Kong Stock Connect)によって香港、マカオ、台

湾及び海外の専門投資機関の中国進出にビジネスチャンスを創

出した。また、国務院の「『中華人民共和国外資銀行管理条例』

の改正に関する決定」169によると、外資系金融機関による営利法

人の設立に対する規制が撤廃された。これは外資系金融機関が

中国で金融ライセンスを取得出来ると共に、業務展開に大きなメ

リットとなる。

169 「『中華人民共和国外資銀行管理条例』の改正に関する決定」、国務院、2014年12月20日、http://www.gov.cn/zhengce/2014-12/20/content_2795314.htm

図8-2中国金融業の増加額及び対GDP比率

0%1%2%

3%4%5%

6%7%8%

9%

0

2,000

1,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

20002001

20022003

20042005

20062007

20082009

2010

2011 2012

2013

2014

2015

十億

人民

中国金融業増加額 中国金融業増加額対GDP比率

データ出所:中国経済網

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 6968 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

第9章 おわりに ― 新たな出発点、計画及びビジョン

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 69

9.1 新たな出発点:中国の次の5か年成長の幕開け

中国経済が「13・5計画」期間に停滞すれば、中国の高所得国入

りと「ポスト金融危機時代」における世界経済の回復に支障をき

たす。中国は、自国の経済発展に対する「13・5計画」期間の重要

性を認識し、また、中国経済の健全で持続的な安定成長が世界

経済にとって重要であることを認識している。「計画要綱」の内容

が示すとおり、中国経済は「13・5計画」期間に新段階に入り、将

来5年で中・高速で成長し、ミドルレンジ・ハイエンドへと飛躍し、

高所得国となる新たな出発点にある。このため、中国は「13・5計

画」期間を2つ目の30年の「中国の奇跡」を創造する新5か年と見

なしている。

中・高速の成長を実現する新たな出発点。中国経済は30年以上の高度成長を経て、「11・5計画」期間の成

長率10%前後から、「12・5計画」終盤の6%台に落ち着いた。しか

し、40年近くスピード成長したにもかかわらず、経済発展のスター

トが遅れているため、中国の2015年の一人当たりGDPは8,016米

ドル170にとどまりアメリカの14%に過ぎない171。中国は世界先進国

との間に大きな所得格差があり、「13・5計画」期間でも経済成長

を抑制することなく高度成長を維持しなければならない。このた

め、「計画要綱」によると、「13・5計画」期間に中国経済の成長は

6.5%から7%のレンジ幅を維持するとされている。この成長率は、

世界経済の不況と成長鈍化を考えれば高い成長率である。この

ことから、中国経済は今後5年も中・高速の成長段階にあり、依然

として世界経済の成長を牽引し、グローバル企業にとって大きな

ビジネスチャンスをもたらすだろう。

ミドルレンジ・ハイエンドに飛躍する新たな出発点。この数年で中国は経済発展のエンジンの転換期に入った。この

ことは、サービス業及びハイテク・先端産業などが経済の成長牽

引役産業となって消費購買力を拡大し、また中国企業による海外

投資が経済発展の主要な開放モデルとなった点などに表れてい

る。中国経済はサービス化した経済、新経済、消費主導型経済

及び資本輸出型経済へ転換してミドルレンジ・ハイエンド経済へ

と向かっている。この転換期において、中国の技術開発の立ち遅

れ、ビジネス・モデルの陳腐化、海外投資の経験不足といった要

素が中国企業と外資系企業との提携を更に大きなチャンスに変

える。また、中国企業は「海外進出」戦略によって技術力を獲得

し、新たなビジネス・モデルの導入により中国経済を高度化し、ミ

ドルレンジ・ハイエンドへの移行を促進する。また、外資系企業も

生産技術、ビジネス・モデル、経営管理などの強みを活かして中

国進出を加速させ、中国経済のミドルレンジ・ハイエンド化の重要

なサポート役となるだろう。この過程は、中国企業と外資系企業

「13・5計画」期間は、中国にとって小康社会実現の最終段階である。また「2つ目の百年」目標と「中華民族の偉

大な復興」というチャイナ・ドリームの実現の基盤固めの期間である。「13・5計画」要綱は、世界に向けた、中国

の包括的でオープンな、成熟期に入った経済成長の青写真といえる。中国企業と外資系企業は、中国の改革の

深化と開放拡大による多くのビジネスチャンスを見出し、「チャイナ・ドリーム」と2つ目の30年の「中国奇跡」の創

造に参画することにより、国家の繁栄、国民の幸福、企業の発展という目標の達成に貢献することが期待されて

いる。

にとって提携・共存共栄関係を築くチャンスであり、中国経済のミ

ドルレンジ・ハイエンド化の駆動力となり得る。

高所得国に向かう新たな出発点。2015年の中国の一人当たりGDPはおよそ8,000米ドルであり、2020

年までに10,000米ドルを突破する目標である172。予測によると、中

国は2022年までに中高所得国になる。近年の中国の都市・農村

の住民所得の成長率はGDP成長率を超えて世界上位にランクイ

ンした。2015年の中国の中流階級層は1.09億人に達し、アメリカの

9,200万人を超えて世界一となった173。中国の市場規模は一人当

たりの所得の急成長と中流階級の拡大に伴い膨張しており、中国

企業と外資系企業に巨大な市場を提供している。「13・5計画」期

間は中国市場の拡大加速の新たな出発点であり、中国企業と外

資系企業にとって世界一の市場での大きなビジネスチャンスとな

るだろう。

170 林毅夫:中国は2020年に高所得国になる見通し、新京報、2016年3月22日、http://www.bjnews.com.cn/finance/2016/03/22/397801.html

171 国際通貨基金のデータによると、2015年のアメリカの一人当たりのGDPは55,805米ドルである。

172 注記170と同じ。

173 「Global Wealth Report (2015)」、クレディ・スイス研究院、2015年10月13日、https://publications.credit-suisse.com/tasks/render/file/?fileID=F2425415-DCA7-80B8-EAD989AF9341D47E

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9.2 新たな計画:構造転換の加速、改革の深化そして全

面的な開放

中・高速の成長、ミドルレンジ・ハイエンドへの移行、中・高所得国

入りを実現するため、改革の深化及び構造転換を加速させ、より

寛容な姿勢で全面的な開放を推進しなければならない。これによ

り、経済学者たちが提唱する「中所得国の罠」を回避でき、新た

な発展を実現することができる。「13・5計画」はこの認識に基づい

て、停滞することなく積極的に構造転換、改革深化及び開放拡大

を促進する。「13・5計画」は構造転換、改革及び開放の計画であ

る。

「13・5計画」期間に構造転換を加速する。構造転換は「13・5計画」の中心機軸である。「計画要綱」による

と、発展を至上価値として革新、協調、グリーン、開放、共有とい

う発展理念を強固に樹立し、発展の質と利益の向上を目指して

いく。構造転換により従来の産業をグレードアップさせて先端産

業を育成し、地域間の相互協調のもとで都市と農村の一体化を

促進し、エコ建設によって環境に配慮した産業を育成し、国民生

活を保障することを目的に公共サービス業を発展させる。これが

中国が推進する構造転換の内容であり、中国企業と外資系企業

の両方にとって新たなビジネスチャンスを創出するだろう。

「13・5計画」期間に改革を深化する。改革は「13・5計画」の中心である。「計画要綱」によると、供給側

の構造改革を主体とした経済発展のニューノーマルを牽引するメ

カニズムと発展を加速させる。中国は今後5年間、改革の方向性

を計画経済時代に戻すのではなく、市場化改革を推進する。その

ため、労働力、土地、テクノロジー、金融などに関連する体制の

改革を加速させ、市場化システムの構築を強化することにより、

中国の市場化レベルを向上させる。これは外資系企業の中国事

業だけでなく、中国企業の「海外への進出」にも貢献することにな

る。

「13・5計画」期間に全面的に開放する。開放は「13・5計画」の重要項目である。「計画要綱」によると、中

国経済が世界経済全体の流れに順応するため、よりハイレベル

な開放型経済を発展させるとされている。中国は今後5年で開放

ルールを改善し、国内外の秩序ある経済要素の流動性、資源配

置の最適化、市場の緊密な融合を促進し、「一帯一路」戦略によ

り関係国・地域と広域的に共存共栄の連携を図る。これは外資

系企業にとって中国国内経済でのビジネスチャンスとなるばかり

か、中国企業にとっても「海外進出」の加速に良好な制度環境が

整うことを意味している。商品・経済要素の相互流通、企業の相

互提携など双方方向の「開放された中国」によって中国企業と外

資系企業の双方に多くのビジネスチャンスがもたらされるだろう。

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 71

9.3 新たなビジョン:市場の健全な発展のため政府機能

を転換、ルールを遵守し、世界経済に貢献

「13・5計画」は、構造転換、改革、開放の計画であり、この5年間

さらにはそれ以降の長期間にわたり中国経済に大きな影響を与

えるだろう。対中直接投資及び中国企業の海外投資の状況か

ら、「13・5計画」期間は政府が企業のために機能を果たすよう努

め、市場がルールを遵守し、中国が世界経済に深く溶け込む期

間であると予測している。

政府による、市場化促進。「13・5計画」期間によると、政府は役割転換を加速して、ルール

に則った機能を全面的に履行し、政府手続きを簡素化させ、権限

を委譲して、緩和と管理を融合した行政サービスを向上する。さら

に改革の継続によって行政の効率化を高め、政府機能を管理型

からサービス提供型へ大きく転換させ、市場の活力と社会の創

造性に刺激を与える。将来の一定期間において、政府は財政支

援を規範化してインフラ構築と公共サービスに注力し、市場への

監督管理とサービスを重点的に行う。中国政府は機能の転換に

よって法に基づいた市場への監督管理を実施し、中国企業と外

資系企業に高品質な公共サービスを提供することで経済と産業

の健全な発展を促進させる。

市場ルールの遵守。「計画要綱」によると、統一的で開放的で競争秩序のある市場体

系をスピード感をもって形成する。公平な競争メカニズムを構築

し、地域格差や業界の独占状況をなくし、市場への参入障壁の

取り除き、商品取引の自由な秩序ある流通と平等な交換を促進

する。また、市場システムの健全化、公平な競争の維持、価格形

成メカニズムの改革を推進して、一部業界への民間資本と新た

な産業への参入を緩和し、独占状況をなくして、業界基準をさら

に厳格に執行し、安全環境保護基準をより厳格に定める。市場

制度の構築により、外資系企業の中国での事業環境の整備にと

ってメリットとなり、中国企業の「海外進出」のための制度保障とも

なる。

中国の世界融合。「計画要綱」によると、中国市場と世界市場が協調するため、対

外開放を果たし、国内の資源、市場、制度の強みを活用し、国

内外の経済の連動効果を発揮して、2つの市場と2つの資源を利

用し、共存共栄の関係で共同発展する。中国企業と外資系企業

は、中国と世界が融合する過程で、利便性の高い投資を行い、

積極的に連携し、交流を活発化させる。このことは、質の高いFDI

の流入をもたらすだけでなく、さらに良質なODIの海外進出に貢

献し、優良な中国企業と外資系企業に多くのビジネスチャンスを

もたらす。

中国は今後の5年間も依然として世界経済の成長とビジネス発

展の主力エンジンであり続けるだろう。健全な発展を継続できる

中国経済は、中国国内ならびに世界各国の企業に多くのビジネ

スチャンスをもたらす。「13・5計画」は国家戦略であり、中国が世

界に公表した「構造転換、改革、開放」を柱にした「発展の呼びか

け」である。「13・5計画」は世界経済の回復及び世界各国の発展

に新たな希望をもたらし、さらには中国企業と外資系企業にも新

たなビジネスチャンスを提示する。

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 7372 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

Source: Interviews with the Chinese Government; KPMG analysis

添付付録:中国の構造転換、産業分野、地域発展及び政策によるビジネスチャンス概観図

経済モデル及び産業分

野と地区発展

政策による好機 財政の直接

支援

インフラ建設

の強化

市場の参入

障壁の低減

市場監督管

理の最適化

革新型経済構造

バイオ医薬品産業 √

新素材産業 √ √

先端設備産業 √ √

IT産業 √

科学技術サービス産業 √ √

集約型産業体系

資源産業 √ √

化学工業産業 √

冶金産業 √

伝統型設備製造産業 √ √

伝統型サービス産業 √ √

協調型地区システム

地域を跨いだインフラ √

都市間のインフラ √

スマート都市 √ √ √

スポンジ都市 √ √ √

地下共同溝 √ √ √

都市における公共施設 √ √

農村におけるインフラ √

緑色型発展方式

第三者による汚染処理産

業 √ √

グリーン金融産業 √

グリーン技術産業 √

共有型社会形態

高級消費産業

食品安全産業 √

ヘルスケア産業 √ √

教育産業 √ √ √

養老介護産業 √ √ √

母子保健産業

コミュニティサービス業 √ √ √

保険産業 √ √

開放型対外構造

伝統型製造業 √

資源型産業 √

工事請負業

農業・食品産業 √

成熟型経済体制

ガス業 √ √

石油・石油化学業 √

電力業 √

電信・通信業 √ √ √

鉄道業 √ √

金融業 √ √ √

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 73

経済モデル及び産業分

野と地区発展

政策による好機 財政の直接

支援

インフラ建設

の強化

市場の参入

障壁の低減

市場監督管

理の最適化

革新型経済構造

バイオ医薬品産業 √

新素材産業 √ √

先端設備産業 √ √

IT産業 √

科学技術サービス産業 √ √

集約型産業体系

資源産業 √ √

化学工業産業 √

冶金産業 √

伝統型設備製造産業 √ √

伝統型サービス産業 √ √

協調型地区システム

地域を跨いだインフラ √

都市間のインフラ √

スマート都市 √ √ √

スポンジ都市 √ √ √

地下共同溝 √ √ √

都市における公共施設 √ √

農村におけるインフラ √

緑色型発展方式

第三者による汚染処理産

業 √ √

グリーン金融産業 √

グリーン技術産業 √

共有型社会形態

高級消費産業

食品安全産業 √

ヘルスケア産業 √ √

教育産業 √ √ √

養老介護産業 √ √ √

母子保健産業

コミュニティサービス業 √ √ √

保険産業 √ √

開放型対外構造

伝統型製造業 √

資源型産業 √

工事請負業

農業・食品産業 √

成熟型経済体制

ガス業 √ √

石油・石油化学業 √

電力業 √

電信・通信業 √ √ √

鉄道業 √ √

金融業 √ √ √

独占価格制

限撤廃

コア技術・ビ

ジネスモデル

の刷新

質と基準の

向上

過剰生産の

解消及び難

題解決

安全環境保

護基準の

向上

輸出奨励 輸入規制の

緩和

「海外進出」

√ √ √

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 7574 第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート

KPMGについてKPMG中国は北京、北京中関村、成都、重慶、仏山、福州、広州、杭州、南京、靑島、

上海、瀋陽、深セン、天津、アモイ、香港特別行政区とマカオ特別行政区に合計17事

務所を設立し、約10,000名のプロフェッショナル(パートナー及びスタッフ)を擁していま

す。KPMGは、効率的かつ迅速に各分野の専門化によるチームを構成して、お客様に価

値あるサービスを提供するため、統一的な経営手法により、中国での業務管理を行い

ます。

また、KPMGは、監査、税務、アドバイザリーサービスを提供するプロフェッショナルファ

ームのグローバルネットワークです。世界155カ国・地域のメンバーファームに約174,000

名のプロフェッショナルを擁し、サービスを提供しています。KPMGネットワークには独立

した各メンバーファームはスイスの組織体であるKPMG International Cooperative (

「KPMGインターナショナル」)に加盟しています。KPMGの各メンバーファームは、法律上

独立の組織形態です。

KPMGの中国本土への進出は1992年で、この年、合弁の形で中国大陸部で開業許可を

得た初の国際会計事務所となりました。また、2012年8月1日にKPMGは世界4大会計事

務所の中でも中外合弁の形態から、Special General Partnership(SGP)に転換した初

めての会計事務所となりました。香港には、既に1945年に事務所を設立しており、率先

して中国市場へ進出し、常に品質の維持向上に努め豊富な業界経験を蓄積してきまし

た。また、KPMGは、業界のリーディングファームとして、長期にわたり中国の多くの有名

企業に対して専門サービスを提供しています。

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第13次5か年計画 - 中国経済の構造改革と世界経済との融合:中国企業と外資系企業のビジネスチャンスに関する解析レポート 75

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© 2016 KPMG Huazhen LLP — a People’s Republic of China partnership, KPMG Advisory (China) Limited — a wholly foreign owned enterprise in China, and KPMG — a Hong Kong partnership, are member firms of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved. Printed in China. The KPMG name and logo are registered trademarks or trademarks of KPMG International.

Publication number: HK-GCP16-0003

Publication date: October 2016

お問合せ先ヴォーン・バーバー

グローバル・チェアマン

KPMGグローバル・チャイナ・プラクティス

[email protected]

電話番号:+86 10 8508 7071

更に詳しい情報をお求めの場合は、お気軽にお問い合わせください。

KPMG’s Global China Practice

お客様の成功をサポート

北京に本部を置くKPMG のGlobal China Practice (GCP)は、中国企業の海外投資(ODI)及び外資系企業の中

国進出と事業拡大の支援とサービスを提供することに努めています。近年、海外進出に取り組む中国企業が増

え続ける中、KPMGはこれらの企業に高品質なサービスを提供するため、GCPを設立することで、「一帯一路」の

沿線国・地域を含む60か所近くのホットな投資地域で専門家チームを組織して、サービスを提供しています。現

在、KPMGのサービスチームは、中国企業の重要な海外投資プロジェクトの支援と実績を蓄積してきたほか、中

国企業の海外進出の円滑化を図るため、これらの企業に優良な提携先を推薦することも行っています。

国際社会は、中国が世界の主要な対外直接投資国になったことに注目しています。それとともに、中国政府が公

布した第13次5か年計画は、今後の5年間の国民経済及び社会発展をリードするものであり、外国資本の利用水

準を引き上げる中国政府の決意を反映しています。この計画は、これまで長年にわたって中国で活躍している外

資系企業及び中国進出を検討している外資系企業にとって絶好のビジネスチャンスを創出します。これにより、

中国企業と外資系企業の提携関係は新たな時代の幕開けを迎えるでしょう。中国の市場への参加者は、中国

経済のニューノーマル・モデルから成功を収めることに努めています。外資系企業は新たなビジネスチャンスを

掴み、大きなチャレンジに対応するため、バリュープロポジションを見直し、中国経済の構造改革に貢献すると共

に、中国事業の経営戦略を適切に調整するようご提案いたします。

KPMGは、GCPを通じて、中国国内外のお客様と二人三脚でビジネスを進めます。複雑に変化する事業環境に

着実に対応し、独自の優位性を存分に活かし、最適な提携パートナーを探し出し、現地化戦略の徹底及び持続

可能なビジネス成長戦略の策定と実行を支援いたします。GCPは、積極的に中国政府及び業界団体と提携を図

り、共同して高精度の業界分析報告書を出版することで、国内外の企業の皆様に価値ある分析とガイドラインを

提供します。

海外進出に取り組む中国企業、或いは中国ニッチ市場の開拓を図り、中国国内外のビジネスチャンスを掴もうと

する外資系企業に対して、KPMGは鋭い洞察と豊富な実務経験ならびに良質なリソースを活用して、常にお客様

の成功をご支援する所存です。

QRコード又は

kpmg.com/cn/13fyp-report1-zhへアク

セスしてGCP刊行の「第13次5か年計画」

に関する分析報告書シリーズの第1弾を

ご入手ください。(中国語・英語のみ)

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へアクセスして「2016年中国見通

し」をご入手ください。(中国語・英語

のみ)