応用動物行動学(6)母親の遺伝物質を半分だけ確かに継承しているが,父親が誰かは保証できないので。養護行動で受益す...

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応用動物行動学(6) 誌名 誌名 畜産の研究 = Animal-husbandry ISSN ISSN 00093874 巻/号 巻/号 671 掲載ページ 掲載ページ p. 175-179 発行年月 発行年月 2013年1月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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応用動物行動学(6)

誌名誌名 畜産の研究 = Animal-husbandry

ISSNISSN 00093874

巻/号巻/号 671

掲載ページ掲載ページ p. 175-179

発行年月発行年月 2013年1月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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応用動物行 動 学 (6)

第 6章 母性行動

(maternal behaviour)

高等動物の生殖における最後の段階に後代の生

存条件を改善することによって,自分の遺伝子を無

駄にさせない「親養護行動(parentalbehaviour) Jが

ある。体内受精を行う高等動物では,生まれた子は,

母親の遺伝物質を半分だけ確かに継承しているが,

父親が誰かは保証できないので。養護行動で受益す

る遺伝子に間違いが生じないために,一夫一妻制以

外,養育行動をもっぱら母親が担う「母性行動Iに

進化することになった。恒温動物である鳥類が卵を

その体温で rgl際化(brooding)Jさせることによって

匹の体外発育を保証したことが,母性行動の始まり

である。噛乳動物では子を母体内に苧んで,ある程

度まで発育させてから出産し,その子が独立して採

食できるまで母乳で哨育する。この終了時点を「離

乳(weaning)Jと呼ぶ。人類では,父系社会になっ

てから,世界的に長男継承制を行うのも,受益遺伝

子の虞実の確率が高いからであろう。

第 1節母性行動の生物学

自然界には,なぜ母性行動を持つ種類が多く,父

性行動を持つ種類が稀で、あるか。この疑問に対する

DawkinsとCarlisle(1976)の解釈は,適応度を最大化

するために,両親はできるだけ養護の仕事を相手に

残し,自分は新しい配偶を探しに行くことが最高な

のだとした。筆者の考えとして,生殖の場では,先

に離れ去るのが雄であれば,養育行動は必然的に雌

の天職になる。魚類では,産卵後に雌が先に離れ去

るので,雄は産卵の上に射精した後,養護の一切を

担う。一夫一妻制の動物では,両親に養育行動がみ

られる。例えば,雄鳩は僻卵から雛の哨育まで,雌

鳩と同じ行動を示す。これを見れば,母性行動は親

の養護行動の一様式にすぎないことがわかる。

母性行動は,子の生存と成長を有利にする本能か

ら形成されている。その特徴を挙げると, (1)母性

行動の出現は突然で, しかも長く続く特性を持つ。

*東北農業大学教授 (ShianLi)

世安本

例えば,産子前の母犬において,食物を食べる,*を

飲む,運動をするなどが正常で、あっても,分娩をする

と,突然全精力を子犬祇め,授乳,保護に集中し,

数日間巣から離れないようになお。母性以外の行動

についても,例えば攻撃行動も突然現れるが,母性

行動のように長続きすることはない。 (2)母性行動は,

子の独立生活能力に随って徐々に弱くなり消失する。

晴乳動物の母性行動は,妊娠後期の血液中のエスト

ロジェン(oes佐ugen),プロゲステロン(progesterone),

プロラクチン(prolactin)など、ホルモンの放出と深く

関係する。これは,分娩母鼠の血液を処女鼠に注入

し,数時間後に母性行動が現れる試験で証明された。

また,ほかのマウスとラットの試験で,子の吸乳も

母親の産乳および母性行動に対して重要な刺激で

あることが認められ,前者の結果を補足するものと

なった。

第 2節家畜の母性行動

母性行動は,直接子の生存に関わるので,畜産に

おける畜群の増殖と拡大に関わる要件となってい

る。母性行動には,分娩前の巣作り,産後の子祇め,

子の識別 p甫乳,保護などが含まれる。

群をなして生活する家畜では,分娩前の母畜は,

常に群を離れて隠れる場所を探す「産前行動Iを示

す。この行動は,分娩の安全と産後の母子相互の刷

り込みを保証するものとなる。

母畜は分娩後,数時間以内に,視覚,聴覚,嘆覚,

触覚,および,祇めるなどを通じて,産子を刷り込

みした後,産子を「自体の一部分」と見なして扱い

保護し,同時にほかの子を異分子として拒むだけで

なく,攻撃することもある。

母音が分娩後に産子を認め受け入れる期間は,通

常 1~数時間以内である。それを越えると子を受け

入れなくなる。ただし,生後に母畜によって嘆ぐと

誠めを得た個体は,数時間後に持ち戻しても,その

母畜はその個体を受け入れる。

母牛は分娩後,直ちに子牛を祇め,時々低い声を

出す。また,胎盤を食べる。この草食動物の行動は,

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肉食獣に血痕を残さないようにと進化の過程で獲

得したものであろう。中国では新生子牛が始めて試

みる「立つj 時のことを,俗に「四方を拝む」時と

いい,母牛はこの時に一番興奮する。アンガスやリ

ムジン種などの母牛は,この時の人の接近に対して

攻撃することがある。

母羊も分娩前,群から離れる。舎内産子では 1

時間の刷り込みが必要であり,密集飼育の場合,刷

り込みが不足すると,ほかの母羊に子羊を連れられ

ることになり,子羊の艶死率が高くなる。

母馬の分娩は夜間 (19時~翌日 7時)に多い。母馬

は胎盤を食べない。これは同じ草食動物でも分娩後

の移動速度と距離が牛と全く違うためではなし、か

と推察される。羊水に対しては,まれに嘆ぐ行動を

示す。母馬も子を祇める行動によって,母子結び付

きの関係を築く。産後 1週間,母馬には子馬を保護

する本能が強く現れる。危険がある場合,母馬は子

馬を中心として走り廻る行動を示す。初産母馬では,

産後の過度の興奮によって子罵の早過ぎる吸乳を

拒むことがある。

多胎動物であるブタ,ウサギ,ネズミ,イヌなど

では,みな産前行動として,巣作り行動が現れる。

母豚,母兎,母鼠は,産子に対して何の面倒も見

ないが,母犬は頻繁に産子を翫める。また,母犬と

母鼠は巣外の子をくわえて巣中に戻すが,母兎はそ

れをしない。

改良品種の豚では,巣作り本能が弱くなったO ブタ

の巣作りは乾草をくわえて集め,周囲の孔を塞ぐ行

動と鼻で地面に窪みを造る欲求を示す。

母兎は乾草の上に,自身の口で抜いた胸・腹部の

毛で柔らかい毛層を造り,産子をその中に埋め,昼

夜ただ一回,数十秒間の授乳をする。

母犬では,分娩前に前足で地面を掻き,窪みを造

る欲求を示す。母性が強く,気性の荒い母犬は,産

後の 4~5 日間巣を離れない。また,その産子に触

れることは,主人にも許さない。母犬は時々子犬の

腹部と尾根を祇め,その反射で排植させた糞と尿を

食べ,百氏めてきれいにする。産後 5週以後,子犬の

離乳に伴って,まれに母犬は半消化の食物を吐き出

し,子犬に食べさせることがある。

日甫手L動物はその名前の通り,基本的な母性行動は

授乳である。早成性産児の母親は,被捕食者に属す

るので,それらの授乳姿勢は,みな逃走に便利な

「立って授乳」を取る。しかし,晩成性産児の母親

自身は捕食者,あるいは,穴居動物であるので,横臥

授乳をする。白衛能力を持つ雑食類(例えば,ブタ)

では,産後早期には横臥授乳をするが,泌乳晩期に

は立って授乳をする。イヌにも同じような授乳姿勢

の移り変わりが見られる。

ブタの授乳は,母子双方から引き起こされる。母

豚は,求食に似た暗き芦で子豚を集めるが,飢えた

子豚は,母豚を囲んで一斉に騒ぎだして噛乳を要求

する。母豚が横臥すると,子豚はすぐに,各々の決

まった乳頭に着いて乳房を探む。わずか 10数秒の

放乳の間,子豚はみな耳を後ろにして不動の姿勢で

吸乳する。母豚は放乳の時,ゆっくりとした規則正

しい「コツ,コッ,コツj という低い声を出す。豚

舎内の暗乳音は,ほかの母子の噛乳行動を引き起こ

す作用がある。

「放乳CIetdown) Jとは,授乳の聞に,乳汁が突

然放出される現象を指す。これは,脳下垂体後葉か

ら分泌される「催乳ホルモン,オキシトシン

(oxytocin) J に支配される。したがって分娩後 1~2

日間,母親の乳頭からいつでも晴乳できるのは,分娩

ホルモンであるオキシトシンの後作用であり,初生

子の随時吸乳の都合に合わせた適応なのであろう。

放乳は母親の視覚および乳房の受けた機械的刺

激によっても引き起こされる。例えば,ヤクに対す

る原始的な搾乳法は,子牛を傍に繋いで,時々母牛

に吸乳させる合聞が搾乳時間となる。育種改良した

乳用品種の母牛では,ミノレカーを使っても放乳を引

き起こせる。精神的緊張と苦痛がオキシトシンの分

泌を抑えるので,泌乳牛に対する取り扱いは荒くて

はいけない。

織品.

図 6-1 とはミルクの突然湧出である

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母性行動のもう一つの表現としては,子を連れる

親は外敵に対して勇ましく対応することである。母

馬は,直ちに子馬のそばに来て走りまわるか,子馬

を引き連れて逃げる。

母豚は危険がある時,口を阻鴫しながら開閉し

「パタ,パタ」と音を出す。母豚が「ホ,ホ,ホ,

ホ」の警戒声を発すると,子豚は,みな親の腹下に

逃げるか,あるいは,地上に伏せて不動姿勢を取る。

母豚は近くの隅に後退してから,自分が「後顧の心

配なし」の犬坐姿勢を取って対陣する。

肉食動物は,自然界の食物連鎖のトップに位置す

る天敵のない動物であり,外敵に出会えば,直接,

攻撃行動に取りかかる。ラットも攻撃行動を取る勇

ましい母親である。晩成性産子動物には,洞穴に住

む菌歯類がある。ウサギは,もともと穴居動物であ

る。放し飼いの母兎は,洞穴から外出する時,周囲

の土を押し集めて穴口を埋める。ウサギの昼夜 l回

だけの授乳は,この生態に合わせた適応であろう。

なお,野兎は穴居しないで,生まれてすぐに走るこ

とのできる早成性動物である。

図6-2 上段早成性のノウサギ初生児下段晩成性のウサギの初生児

各家畜の日甫乳期がその経済利用の寿命に占める

割合は,肉牛では 3分の 1,ブタでは 5分の 1,乳牛

では 20分の lである。このように,哨乳期の割合が

大きいほど,母性行動の経済的重要性も大きくなる。

「ヘテロシス (heterosis)Jの表現は, I活力(vigor)J

の増強である。雑種母畜の母性は純種母畜より g齢、

ことは周知の事実であるので,畜産では養豚と肉牛

業において,純粋品種を母畜に使う「二元交雑」か

ら雑種母畜を使う「三元交雑」の繁殖方式を取る

ことになった。しかし,アメリカ農業部が 1939年

から始めた 15年に渡る 4品種の乳牛の交雑実験の

結果は,今では文献に留められているにすぎない。

それは乳牛では,繁殖畜と生産畜の分業ができない

からである。肉畜では,雑種後代の雌雄全部が屠殺に

なるが,乳畜では,雌は分娩がなければ産乳しない

ので,雑種雌畜から生れた雌にはヘテロシスを失う。

第 3節家畜の母子関係

家畜が分娩後,母子聞の「結び付き」関係を築く

には,三つの条件を満足しなければならない。

(1)環境条件が適当であること。

(2)母子双方がともに健康であること。

(3)母子は互いに自由な接触ができること。

母子聞の結び付きでは,母は先に,子は後に互い

の認識がなされる。母親の確認は,主に嘆覚,視覚

および聴覚でなされる。しかし,動物には,数の概

念がなく,子の有無は発見できるが,その多少はわ

からない。仮母に里子をする時には,まず仮母の弁

別をだます方法を取り入れる。養蜂では,逆に後代

である働き蜂の母親(女王蜂)に対する弁別を造り

直す。いずれにせよ,このように栄養を供給する一

方の承認を得ることが原則である。

畜産における母性の最大な利用することは,人間

に飲めるミノレクの生産である。この目的で育種改良

された乳用ヤギと乳牛の産乳能力は子畜需要量の

10 傍と数 10倍に増加されたし,母馬,母ラクダ,

母トナカイなどもみな乳畜になれる。

養豚場では,産子数の少ない二頭の母豚の産子を

合わせて一頭の母豚に哨乳させ,もう一頭の母豚の

7日後の再交配を可能にする。その場合は,仮母の

糞か尿,あるいは,乳を里子の体に塗る。また,仮

母を分娩枠に固定する強制的な方法を取ることも

有効である。里子に傷害をあたえない草食類のウシ

とヒツジに対しては,通常,強制方法を取る。例え

ば,蹴られないように仮母を繋いで、問後足を縛り,

人の補助で里子に乳を飲ませる。この手続きを数回

経ると,里子の匂いも変わり,仮母も受け入れる態

度に変わる。実際,人間による,ウマ,ラクダ,ヤ

ク,ゼブ,スイギュウ,ラマ, トナカイなどに対す

る「搾乳」も,すべて強制に基づく作業である。

時として,異種動物を仮母に使うことがある。た

だし,行動パターンの近い種類聞に限る。例えば,

同じ肉食類である母犬を,ライオンの子,トラの子,

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ヒョウの子などの日甫乳に使う。しかし, 草食動物に

よって肉食動物の子を養うことはできない。同じ肉

食類に属する乳母里子関係においても,里子の行動

発育と仮母の母性行動との聞に矛盾が出る前まで

に限られる。

通常,母子関係は離乳まで続く。その間,母畜の

母性と授乳衝動は,子畜の独立採食能力の発達に

伴ってだんだんと弱くなる。

あらゆる種類の動物は,幼い時可愛し、「幼稚特徴」

を備える。例えば晴乳類では,頭が大きくて体が小

さい,額が大きくて顔が小さい,目が大きく耳が垂

れる。鳥類の雛では,紙毛で包まれ,晩成性の雛の

噴は黄色いふちで固まれ,開くと目立つ菱形の受食

口になる。これらは,成年動物には見られない,性

を超えた超性別幼稚信号になる。また,幼齢動物の

鳴き声も成年動物と違い,また,不同の状態では,

不同の声を出す。子犬は生まれて 1週間後には,別々

の声で,安心,飢え,寒い,痛い,苦しい, 寂しい

などの感覚を表現する。

図 6-3 ブタの分娩枠と離乳前の立ってH甫乳(左下)

現代の畜産においては,多くの母性行動が人工的に

補助され,あるいは,代えられた。例えば,家禽の人

工僻化と育雛,養豚の分娩枠,早期離乳,乳牛の人工

哨育と自動哨育などである。また,技術の進歩につれ

て,人工へと代る範囲はますます拡大している。われ

われにとって,幼畜の声の意味がよく分かれば,それ

らの欲求とストレスの原因を究明することができる。

また,母性行動に対する細かな観察も有用となる。例

えば,母鶏の抱卵行動では,巣を離れる時聞が僻卵後

期になるとだんだん長くなる。これは匹胎発育に伴う

自らの熱発生と相適合している。したがって,電気解

化における全期恒温(99.5~10ぴ F) は,正しいやり方

とはいえない。中国で発明した人工鮮化法は,温度計

を使わない。筆者も電気瞬卵の後期,民間の険(まぶ

た)接触検温法を取り入れて高い解化率を得た。

第 4節異常の母性行動

母性行動の異常は,常に自然に背く条件から引き

起こされる。その結果は生まれた子を死亡に導く。

その表出は,以下の三つに分けることができる。

1.母性の欠乏

産前に母性行動が現れない。例えば,母兎が産前

巣作りをしない,あるいは,自身の毛を抜かないな

どであり,また,分娩後に産子の面倒を見ない,子

を吉正めない,あるいは,授手しを拒むなどである。

遺伝的原因として,近親交配から生まれた動物に

は,通常,母性不足の傾向がある。後天的原因と し

て,極度の不安,飲水の不足,蛋白質の不足,人に

よる過度の干渉などのス トレスがある。このほか,

現代畜産の分業化により,将来の種用母畜を繁殖群

から早く離して育成し,その生涯に子畜を見たこと

がないなども母性欠乏の原因となる可能性がある。

E 母性の異常

母性異常の母羊は,産子前にほかの子羊を盗む。

このことにより自分の子羊を生む時には,抗体に富

む「初乳(co[ostrum)Jがすでになくなり,産子は,

受動免疫の保護を受けられず死亡率が高くなる。

図 6-4 幼稚特徴は中性(別)信号として雌雄共に可愛がる

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図 6-5 多山のスイスでは毎年 9月に乳用ヤギの共進会が行ない,ヤギのミルクは特種チーズの原料となる

母豚では,まれに,分娩時に興奮のあまり側臥姿

勢を取らないために,子豚の踏死が起こる。母豚を

分娩枠に入れて分娩させれば,これを防止すること

ができる。

神経質な初産母馬は,産後多くの外来参観者など

がある場合に,子馬の吸乳を拒むことがある。

旧共食い(子殺し)

草食類のウ、ン,ウマ,ヒツジには,産子を食べる

ことはできないが,肉食類のイヌとミンクでは, 食

子は稀な現象ではない。雑食性のブタと草食性のウ

サギにも食子現象が見られる。経済動物のブタでは,

食子の母豚を分娩枠に入れて,その産子をほかの母

豚の里子として預けて晴育させる。このような母豚

は淘汰しないと,子豚が顔の前に来ると,母豚は獲

物のように子豚を食べることになる。

イヌの食子は,過度の興奮,不安,あるいは,極

度の渇などによって起きる。イヌでは,飼し、主が分

娩を見守り,素早く産児を取り出し,男IJの箱に暫く入

れておく。全頭産出後,母犬は疲れて静かになる。

その時,母犬を横臥させて,全産児を一緒に乳房に

つける方法が有効である。ただし分娩の間,母犬の

口を紐でゆるく縛り,産子を翫めることはできても,

くわえること のできないようにすることが肝要で

ある。

参考文献

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