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尿検体を用いた悪性腫瘍の 効率的な検出法 奈良県立医科大学 医学部 医学科 講師 島田啓司 教授 小西

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Page 1: 尿検体を用いた悪性腫瘍の 効率的な検出法 - JST...KU7, UMUC3 )に ユビキチン関連蛋白質の siRNA を遺伝子 導入して 72 時間後に TUNEL 法にてアポ

尿検体を用いた悪性腫瘍の 効率的な検出法

奈良県立医科大学 医学部 医学科 講師 島田啓司 教授 小西 登

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膀胱癌 • 10人 / 10万人 • 男 : 女= 3 : 1 • 60歳以降 腎盂尿管癌 • 膀胱癌の約1/20 • 男 : 女= 2 ~ 4 : 1 • 50~70歳台 ※腎盂癌>尿管癌、 尿管癌は下部尿管に多い。 検査:

超音波検査、膀胱鏡検査・腎盂尿管鏡、 尿細胞診、逆行性腎盂造影、静脈性尿路造影

膀胱癌

腎盂癌

尿管癌

はじめに

• 診断精度(感度、特異度、再現性 ---) • 利便性(簡便性、短時間で済むか) • 侵襲性(苦痛を伴うか?) • コストパフォーマンス

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膀胱癌

腎盂癌

尿管癌

尿中に癌細胞が出現する

尿中の細胞を観察して 診断する(尿細胞診)

泌尿器科悪性腫瘍(腎盂、尿管、膀胱癌) の診断では、 1)内視鏡用いて採取した病変の病理組織診断 長所:診断精度が高い 短所:機械操作が難しい 患者に与える苦痛が大きい 2)尿中に出現した癌細胞を検出する尿細胞診 長所:尿を用いるため苦痛は乏しい 短所:細胞数が少ないため感度が低い 診断者の知識、経験が影響する → 診断精度が低い

従来技術とその問題点

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尿細胞診(尿中に出現する癌細胞診断)の現状 長所) • 患者の負担が少なく、何度でも検査が可能である。 • 画像でとらえられない癌でも診断できる。 短所) • Underdiagnosis(癌であるのに、癌でないと診断してしまう) 細胞数が少ない、異型(悪性と判断するに足りる細胞形態の特徴)が乏しい

• Overdiagnosis(癌でないのに、癌と診断してしまう) 炎症などで変性が加わり、正常な細胞が癌と見間違うほどの異型を示す

• 医師、技師の経験や技量により診断精度が異なる。(不確定要素の存在)

異型とは? 正常細胞との隔たりを意味する。細胞や核が大きい、核クロマチンが増加している、などの特徴を示す。異型が強い場合、癌細胞と診断できるが、どの程度の異型で癌と診断するのか、という明確な判断基準がなく、「診断医や技師の経験、技量」が診断精度に大きく影響する。

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尿中に出現する癌細胞を、形態的所見だけでなく、より客観性の高い手法で拾い上げる。 癌細胞に特異的に発現する蛋白質を標識することで正常細胞と 区別する。

尿中に出現する癌細胞の検出法

具体的には、

我々は、ユビキチン関連蛋白が、膀胱・尿管・腎盂癌細胞において

安定、持続的に、高発現する一方、非腫瘍細胞ではほとんど発現

しないことを発見した。

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癌細胞

ユビキチン関連蛋白とは

◎膀胱・尿管・腎盂癌細胞は、非腫瘍細胞(正常細胞)と異なり、細胞内活性酸素種が高く産生されている。

◎活性酸素種は、癌細胞の生存を促進する一方、過剰に産生されると細胞毒性を発揮し、細胞を死滅する(活性酸素種の 2 面性)。

膀胱・尿管・腎盂癌細胞は、活性酸素種のメリットを享受しつつ、 デメリットから身を守る機能を有する。 癌細胞において、活性酸素種の細胞毒性を和らげる機能をもつ蛋白質 ユビキチン関連蛋白質

正常細胞(非腫瘍細胞)

活性酸素種↓~(-) 活性酸素種↑

メリット(細胞生存)

デメリット(細胞毒性)

ユビキチン関連蛋白質↑

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正常組織 癌組織

ヒト膀胱癌組織を用いた免疫組織化学的解析

ヒト膀胱癌摘出手術検体を用いて、ユビキチン関連蛋白質

の免疫組織染色を行った。 (発色:茶色) ◎正常細胞はユビキチン関連蛋白をほとんど発現しないの

に対し、癌細胞(尿路上皮癌)では顕著な発現を認める。

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0

20

40

60

80

100

p<0.001

p<0.001 (%) ユビキチン関

連蛋

白質

陽性

正常 組織

pTa pT1 ≧pT2 CIS

ヒト膀胱癌組織を用いた免疫組織化学的解析

膀胱癌細胞1000個あたりのユビキチン関連蛋白質陽性率

を計測して統計学的に解析したところ、癌細胞は正常細胞に

比べ、圧倒的に高い陽性率を示した。 同様の傾向を、尿管・腎盂癌でも認めた。

癌組織

pTa: 低悪性度、非浸潤癌

pT1, pT2: 高悪性度、浸潤癌

CIS: 高悪性度、上皮内癌

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ヒト自然尿検体を用いた免疫細胞化学的解析

病理組織標本 パパニコロー染色 ユビキチン関連 蛋白質染色 膀

胱癌

症例

胱炎

症例

膀胱癌、膀胱炎のいずれの症例においても異型細胞(矢頭)が出現しており、どちらが癌細胞でどちらが正常細胞か識別できない。このようなグレーゾーンの症例でもユビキチン関連蛋白質を標識すると良悪の識別が容易である。 右端は病理組織標本(HE染色)で、上段)膀胱癌、下段)膀胱炎と診断される。

※パパニコロー染色:一般的な細胞診染色法で、細胞異型を評価しやすい。

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尿検体を用いたユビキチン関連蛋白質標識による癌細胞診断

0

20

40

60

80

100

低悪性度 高悪性度

従来法

新技術

低悪性度癌 高悪性度癌

検出

感度

(%)

尿細胞診 (特異度 87%) ユビキチン関連 蛋白質標識診断 (特異度 96%)

22.7

86.4 86.4

100

インフォームド・コンセントにより同意が得られた全 147 症例(うち、膀胱・尿管・腎盂癌は 51 例)の自然尿検体を用いた解析を示す。 ◎ユビキチン関連蛋白質を標識することで、尿中に出現する癌細胞の診断精度が有意に改善された。特に低悪性度腫瘍(悪性度が低いため正常細胞との識別が難しい)の検出感度が顕著に上昇した。

◎疑診断(悪性か良性か鑑別できない)症例数は、従来法にて29例であったが、新技術の導入により4例に著減した。(疑診断は患者に不要な精密検査を求めることになり、身体的、精神的、経済的苦痛を与える)

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新技術の特徴・従来技術との比較

• ユビキチン関連蛋白質は、癌細胞に対する標識効率が良好で、尿中に出現する癌細胞を高感度で抽出し、非侵襲的で 精度の高い腎盂・尿管・膀胱癌診断を行うことができる。

• ユビキチン関連蛋白質は変性されにくく、サンプル操作や保管

に関しては従来技術のままで十分であり、導入障壁が低い。

• 現行の尿細胞診断は形態的特徴に依存するため、診断者の経験、技量など不確定要素に大きく影響されるが、ユビキチン関連蛋白質を標識することで、客観的で再現性の高い癌診断が可能となる。

• 尿細胞診専門医や専門技師が不在の医療・検査機関でも癌診断やスクリーニングが可能で、医療コストの軽減につながる。

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想定される用途(1) • 尿検体を用いた癌診断キットを開発する。 ☑患者尿検体に滴下して細胞を観察するだけで癌診断ができる。 ☑ユビキチン関連蛋白質を有する細胞が、ある一定数以上あれば 発光あるいは発色する。 • 尿検体を用いた自動癌診断装置の開発 ☑蛍光発色試薬と蛍光分析装置、フローサイトメトリー等を組み合わせ、

カットオフ値を設定する。 • 生体内腫瘍イメージングへの応用 ☑生体使用可能な蛍光試薬と組み合わせて、内視鏡下に腫瘍を視覚化し、

腫瘍の数、サイズや辺縁を正確に把握する。診断、スクリーニング精度や手術治療成績の向上に役立つ。

• 尿中からユビキチン関連蛋白質に陽性を示す癌細胞を抽出し、

その遺伝子解析結果を治療に応用する(オーダメイド治療)。

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• ユビキチン関連蛋白質を標的とした新規治療薬の開発(創薬) ☑ユビキチン関連蛋白質をノックダウンすると、癌細胞傷害 (アポトーシスの誘導)が認められる。

想定される用途(2)

アポトーシス アッセイ ヒト尿路上皮癌細胞株(KU7, UMUC3)にユビキチン関連蛋白質のsiRNAを遺伝子導入して 72 時間後に TUNEL 法にてアポトーシス細胞の割合を算出した。 siRNA 導入により蛋白発現は約 80%減少した。

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• ユビキチン関連蛋白質を標的とした新規治療薬の開発(創薬) ☑ユビキチン関連蛋白質をノックダウンすると、小胞体ストレスによる癌細胞傷害が増強されることを見出した。ユビキチン関連蛋白質やその関連経路を遮断することで、抗癌剤の感受性獲得につながる可能性がある。

☑ユビキチン関連蛋白質と組み合わせたミサイル療法を構築する。

想定される用途(3)

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想定される用途(3)

正常組織 癌組織

食道癌 (扁平上皮癌)

子宮頸癌 (扁平上皮癌)

免疫組織化学的解析により、ユビキチン関連蛋白質は、子宮頸癌や

食道癌でも高く発現する一方、正常細胞の発現はきわめて乏しい。 腎盂・尿管・膀胱癌と同様に、「食道癌、子宮頸癌における診断、治

療」にも応用することができると考える。

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実用化に向けた課題

• 尿中に出現した細胞から、ユビキチン関連蛋白質に陽性を示す癌細胞を検出するシステムは開発済みである。しかし、結果が得られるまでに数時間を要するため、感度の高い標識化合物と組み合わせて、より短時間で診断可能なシステムを構築する。

• 癌診断基準としての「カットオフ値」を設定する。 (癌と診断できるユビキチン関連蛋白質の発色(染色)強度を設定するため、今後条件設定を行っていく。)

• 創薬に必要なユビキチン関連蛋白質の分子生物学的、臨床病理学的検討を行う必要がある。

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企業への期待

• 高感度で生体にも使用可能な標識化合物を特定し、標識方法にも工夫を加え、生体内腫瘍イメージングを可能にする試薬や尿検体を用いた癌診断キットを開発する。また、カットオフ値を設定し、標識シグナルを認識できるシステムを構築すれば、尿検体を用いた自動癌診断装置も開発できると考えている。 これらに関しては、関連企業との共同開発を希望している。

• 製薬関連会社との共同研究により、ユビキチン関連蛋白を標的とした癌治療に関する基礎的研究を行い、創薬への足掛かりとする。

• 泌尿器系悪性腫瘍だけでなく、食道癌や子宮頸癌についても、

内視鏡を用いた癌診断や治療を補助する試薬やキットを開発できると考えている。

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ユビキチン関連蛋白 尿

診断(細胞診断)

泌尿器科腫瘍

血液, リンパ節 (微小癌病巣の検出) 体腔液 (胸水、腹水)

腫瘍イメージング(内視鏡診断・治療) 腫瘍マーカー 治療薬

子宮頸癌、食道癌 前立腺癌、乳癌

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産学連携の経歴

• 2010年 JST A-STEP (FSステージ探索タイプ)に採択 課題名:活性酸素種に着目した非侵襲的膀胱癌診断 システムの開発

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お問い合わせ先

奈良県立医科大学

産学官連携推進センター

特任教授 大野 安男

TEL 0744-22-3051(内線2481)

FAX 0744-29-4746

e-mail [email protected]