医療機関の自立に向けて - medema reflection paper: risk based quality management in...
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医療機関の自立に向けて
日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 臨床評価部会
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平成28年度 治験推進地域連絡会議
治験依頼者が考える医療機関における理想的な 治験実施体制とは? 医療機関の治験に関する業務について自らの体制で一定の品質を担保して実施可能になること
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治験依頼者の責務 ・治験の準備、管理 ・適切なプロトコル・CRF作成 ・治験資材 ・モニタリング・監査 など
治験実施医療機関の責務 ・治験の実施 ・同意取得 ・原資料 ・正確な症例報告
依頼者と医療機関の役割
医療機関における品質管理の重要性 源流のデータの質が高くなければその先のデータの質が高くなるわけがない。治験データの源流である医療機関の品質管理は重要度を増している。
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患者=真実
患者の主訴
カルテ
CRF
患者
医療機関 (医師・CRC)
もし・・・ 医師の評価基準がプロトコル通りでなかったら・・? カルテに記載ミス、記載不十分があったら? ⇒CRF転記やCRF点検をいくら頑張ってもムダな作業になってしまう。
本日の内容
治験における品質とは? 治験における品質管理の変化
1.「出口管理」から「プロセス管理」へ 2.リスクに基づく品質管理
リスクに基づく品質管理への取り組み リスクに対する対応策
治験業務におけるマネジメント
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治験における品質とは?
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そもそも「品質」とは?
「品質」とは?? 品質とは、本来備わっている特性の集まりが要求事項を満たす程度(ISO 9000)
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製品を受け取る顧客が、製品の特性に対して持っているニーズまたは期待を満たす程度
ISO9000シリーズ:品質マネジメントシステム(Quality Management System:QMS)の国際規格
治験における「品質」とは? 治験における「製品」とは? 治験データ(CRF等)
「治験データに対して持っているニーズ、期待」とは? 被験者の人権・安全を確保している。 規制や手順を遵守している。 治験データ等は完全で原資料等の治験関連記録に照らして 再現でき、信頼性が確保されている。
⇒ GCP・プロトコルに則った治験実施
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これらが依頼者、当局の要求を どれだけ満たしているか
治験における「品質管理」とは?
GCP・プロトコルに則った治験実施 適切な同意取得 タイムリーかつ正確な原資料作成 タイムリーかつ正確なCRF作成 適切なSAE報告 問題事項に対する適切な対応 計画通り、実施予定症例数完遂・・・・・など
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治験における「品質管理」とは、治験の信頼性を 確保するための仕組み作り
これを達成する 仕組みづくり
治験における品質管理の変化
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治験における品質管理の考えの変化
厚労省:リスクに基づくモニタリングに関する基本的考え方について(事務連絡: 平成25年7月1日)
FDA Guidance: A Risk-Based Approach to Monitoring(August 2013)
EMA Reflection paper: risk based quality management in clinical trials (November 2013)
ICH-E6(ICH-GCP)の改定
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リスクベースドアプローチとプロセス管理による品質管理の 必要性
例えばモニタリングにおいては
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過去のモニタリングに関する認識 問題が発生した後の是正措置が中心で、問題を予測し、予防する作業過程を構築するプロセス管理が不十分。
頻回の訪問により全データのSDV等を行っても品質上の問題は解決していない。
現行のモニタリング手法(施設訪問中心)は、労力の割りに得られる成果が小さい。
Risk Based Monitoringの導入
「出口管理」から「プロセス管理」へ
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出口管理からプロセス管理へ
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検査重視 プロセス設計・管理重視
これから 今(これまで)
完成品
検査
プロセス重視!
手順A 手順B
手順C 手順D
手順E
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出口管理からプロセス管理へ(治験の例)
成果物が出来るプロセスを管理(誰が実施してもエラーが発生しにくい標準プロセスの策定、プロセスの状態を確認等)することにより、成果物の品質を管理する方法。
成果物そのものの品質を管理する方法。成果物が出来るプロセスを管理(標準プロセス策定、確認等)せず、成果物をチェックして、ダメな成果物を除いたり・対処する。 (問題が発生してから対処)
出口管理
プロセス管理
プロセスはBlack Box
成果物のチェック (チェックに注力した状態)
プロセス可視化(管理されている)
成果物のチェック
CRF
CRF
原資料
原資料
リスクに基づく品質管理
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リスクに基づく品質管理のプロセス構築
医療機関における リスクの特定
リスクアセスメント(リスクの大小)と発生原因の特定
リスクの大小に応じた リソースを使って、対策を講じる (見えるように標準手順化、ルール化)
定めた手順どおりの治験業務実行 リスクの再評価
手順の見直し
問題が発生してから対処するのではなく、事前にリスクを特定して予防のためのプロセスを構築する
リスクに基づく品質管理への期待
リスクに基づく品質管理により得られる効果 実施者や実施時期が異なっていても共通する手順が分かり、 業務の標準化ができる。
PDCAサイクルにより、よりよい手順、実施体制へと高めていける。 リスクの大きい部分(重要性が高く、エラーの頻度が高い)へ、より手厚い予防措置(対策、人的資源等)をとることにより、 重大なエラーを防止できる。
リスクに応じたメリハリのある業務が実施できる(業務最適化)
問題を未然に防ぎ、無駄な作業の排除、点検や問題対処に 関わる負荷を軽減できる。
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いつやるの?
事前の準備と実施中の見直し、終了後の見直しが大事!
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治験実施前 各治験実施 準備時 実施中・実施後
多くの治験に共通 する部分(医療機関毎の標準的な部分)
当該治験固有な部分 定期的な見直し 実施状況、結果に応じた見直し
リスク評価の3ステップ
1. リスクの特定 2. リスクの分析 3. リスクの評価
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リスクの特定
リスクとは? 「事前に危害の発生を予測できる問題点」 (ICH Q9, ISOの定義とは異なります)
リスクの特定の観点 「被験者保護や治験データの信頼性に影響を及ぼすリスク」や「治験全体のスピードや労力に影響を及ぼすリスク」と考えられるものを抽出する。
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治験業務におけるリスクの例
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不適切な同意取得 重大な逸脱の発生 重篤な有害事象が適切に報告されない 選択/除外基準に合致しない被験者が登録される 正確かつ完全にCRFを記載していない 治験薬の取り違え 治験薬の保管が適切に行われていない 臨床検体の取り違え
リスクの分析・評価 リスクの大きさの見積もりと優先度の決定 問題が発生した時の重大性、発生頻度などによりリスクの大きさを見積もり、そこに検出困難度も加えて対応する優先度を決定する。
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問題の重大性が高い例 • 被験者の安全性に関する事項 • 同意に関する倫理的な事項 • 試験結果の信頼性を著しく損ねる事項(原資料、盲検性、重要データ)
問題発生頻度の高い例 • 施設の普段の業務や診療の手順・習慣と異なる手順 • 複雑な手順、煩雑な手順 • 同種の治験と異なる手順 検出が困難な問題の例 • 治験施設以外での情報(他院で処方された併用禁止薬) • 定量・定性が難しい事項(患者によって報告される治療効果の妥当性)
一般的なリスク評価手法の事例
リスクランキング(ICH Q9ブリーフィング・パック)
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低
中
高
重大性
確率
高 低 中 リスククラスI
リスククラスII
リスククラスIII
一般的なリスク評価手法の事例
リスクフィルタリング(ICH Q9ブリーフィング・パック)
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III
II
I
検出可能性
リスク分類
高 低 中 優先度高
優先度中
優先度低
リスクの発生原因の特定
根本原因の追究 リスクを回避するための対策を講じるため、リスクが発生する原因について分析する。
真の原因(根本原因)を分析するため、なぜ?なぜ?を5回繰り返す。
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「トヨタ生産方式」より
リスク対策(回避、低減策)
分析した真の原因をもとに、リスク回避策、リスク低減策、リスク発生の早期検出、状況を監視する策を検討する。
例:うっかりミス(エラー)防止 – 気付きやすくする:視覚的工夫 – 覚醒:声出し、指さし呼称 – アラーム、自動化
付箋による 注意喚起 重要な点を赤字
複数担当者による 相互確認
教育
整理整頓
手順化・習慣 (決めたことを守る)
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原因の特定と対策~同意説明文書の事例
事象:同意説明を古いVerの文書で実施した。
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原因1:「うっかり」古いVerの文書を持ってきた。
原因2:新旧の説明文書が混在して保管されていた。
原因3:保管場所、保管ルールが定まっていない。
対策:保管場所、保管ルールを定めよう
なぜ?
なぜ?
なぜ?
リスク対策ツールの紹介
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製薬協提言ツール URL リスクシート ◆個々の医療機関でのリスクを網羅的に把握することを補助するツール
医療機関主導の品質管理体制構築に向けて ~Risk based approachの導入の提案~
http://www.jpma.or.jp/information/evaluation/allotment/tf1.html
治験薬管理、Visit管理ツール、検査予定表等
医療機関におけるマネジメント業務の検討
http://www.jpma.or.jp/information/evaluation/allotment/management.html
原資料教育資料、データ記録プロセス確認リスト、CRF作成院内マニュアル、チェックシート等
治験の効率的実施に向けた品質管理プロセスに関する提言
http://www.jpma.or.jp/information/evaluation/allotment/chiken_process.html
治験実施チェックリスト - http://www.jpma.or.jp/information/evaluation/allotment/check/contents.html
症例報告書を英語で記載する場合の留意点
-
http://www.jpma.or.jp/information/evaluation/allotment/houkoku.html
リスクに対する対応策 プロセスの標準化 手順・ルールの文書化(見える化) トレーニングの実施
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治験プロセスの標準化
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治験での院内プロセスの把握
共通プロセス 治験毎のプロセス
リスクの特定、評価、対策
観察(不具合、逸脱等の確認)
プロセス改善、リスクの見直し
標準化
PDCAサイクルをまわす
院内プロセスの把握・標準化
プロセスの把握・理解 治験業務の進め方を把握する。
標準化 誰でも誤りなく確実に実行できるよう標準的な方法、判断基準を検討し院内標準として取り決める。
標準化の際は、リスクマネジメント、手順の文書化(見える化)、トレーニングも合わせて行う。
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どの方法、判断基準がベストか? それを院内標準としよう!
手順・ルールの文書化(見える化)
知識やノウハウを手順書等に表現 必ずしもSOPではない
重要なものから優先的に 何でもかんでもとりあえず、というわけでもない
文書化することで、他者への共有ができる(個人の知識や経験に頼るのではなく、誰が担当しても一定の対応が取れる)
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トレーニングの実施
トレーニングの実施 治験を実施するうえで必要な最新の規制(GCP等)や、各種手順書等の周知により「知らないこと」によるリスク軽減 教育体制の構築(教育推進者/推進チームの設置) 教育カリキュラムの作成(いつ、だれが、なにを、どうやって受講) トレーニングの必要性啓発(何のために?) 受講管理(トレーニング記録)
活用ツールの紹介 製薬協 医療機関トレーニング資料(2015年6月) http://www.jpma.or.jp/information/evaluation/allotment/training.html
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トレーニングの有効範囲
エラー
過失
知識不足
誤認知
故意
近道行動
手抜き
違反行為
無知,知識習得の機会がない 正確に伝わっていない 能力が不足 事実を誤って認識 事実を誤って判断 より楽な方法を選択 (禁止以外は違反でない)
手順通り業務をしない (全数調査を抜き取りで実施) 違反と知りつつ故意の不遵守
トレーニング
コミュニ ケーション
職場環境 ガバナンス
参考:http://www.humanerror.jp/classification.html
故意のエラー発生の原因
動機・プレッシャー
機会
正当化 Ex)過重なノルマ
Ex)不正が可能な環境
~不正のトライアングル~
Ex)・倫理観、知識不足による正当化 ・自分は悪くない、環境が悪いという意識
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治験業務の中で故意のエラー(不正)を防ぐために
CONFIDENTIAL
• 「不正防止の重要性(メッセージ)」を治験責任医師 (治験実施のリーダー)から発信
1.不正をしないマインドの醸成(姿勢・正当化)
• 治験担当医師-CRC間のコミュニケーションを良好に
• 軽微な逸脱に対して過剰に反応しない
• 被験者登録の過剰なノルマを課さない など
2.良好なコミュニケーションと適切な業務のノルマ(動機・プレッシャー)
• 複数名がデータ作成プロセスに関与する体制
• データの改竄ができないシステムの活用〔例:電子患者日誌(ePRO)〕
3.不正を行なえない体制作り(機会の認識)
治験業務のマネジメント
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マネジメントとは・・・
≪資源≫人、物、金、情報
成果
資源の量は同じ
より多くの成果
より高い品質
資源の最大効果 を導き出す 「工夫」
マネジメント
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治験業務マネジメントの3つのポイント
【ポイント③】 組織基盤を強化する
【ポイント②】 複数治験を 横断的に 最適化する
【ポイント①】 個々の治験を 最適化する
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個々の治験のマネジメントにおける 業務改善の着眼点
症例集積
品質確保
コスト
治験手続き
計画的に目標症例数を達成
GCP と治験実施計画書等を遵守し、 逸脱数を低減
CRF データの質向上(エラー率低減)
ムダ・ムラを排除し、効率化
費用算定ルールの 透明化と
協議の効率化
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共通プロセス(標準化した手順・ルール)を事前に取り決めておき、文書化する
Project A
Project B
Project C Project D
Project E
Project A
Project B
Project C Project D
Project E
仕事量↓
複数治験を横断的に最適化する
ルール 標準化ルール
=
問題発生の可能性
問題検出の可能性 問題発生のリスク
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業務効率
組織・インフラ整備
人材の配置と教育
職場風土の活性化
手順の整備と改善活動
プロジェクトやプログラムが円滑に機能するために必要な組織体制や 院内インフラの整備、人材の配置・教育し、職場風土の活性化、各種 手順の整備や改善活動により、業務効率を高めることが可能
組織基盤を強化するためのマネジメント
コミュニケーション
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各ステークホルダーを特定し、それぞれとのコミュニケーション計画を定め、情報を配布するプロセスをあらかじめ定めておく 事例
ステーク ホルダー 関心度
影響力
関与度
対応 治験実施に際してのステークホルダーの関心事 支援を得るための戦略
院長 中 高 低 注意を払う 各治験の達成率 今年度の治験受託見通し
四半期に一度の経営会議で、各プロジェクトの進捗を報告
診療 部長 高 中 低 注意を払う 診療科のワークロードが増加しているか
医局の収益はどの程度か エントリー状況をレポート
事務 局長 低 高 中 満足な状態を保つ
治験受託することの病院経営への寄与 治験は収益を上げていないのではと考えている
正確な治験費用の見積もり
CRC 高 低 高 常に情報を伝える エントリー進捗度合い 依頼者からの指示がよく変わり、困惑している
依頼者への働きかけ
依頼者 高 低 高 常に情報を伝える エントリー進捗度合い 手続きの煩雑さ 他のプロジェクトの医療機関選定を行っている
進捗率をアピール 依頼者が望む症例背景について、勉強会を開催
コミュニケーションマネジメント
PMBOKガイド 第5版 プロジェクト・ステークホルダー・マネジメント(改編)
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例えば・・・
院内で治験を円滑に推進するために・・・
ステーク ホルダー 関心度
影響力
関与度
対応 治験実施に際しての ステークホルダーの関心事 支援を得るための戦略
院長 中 高 低 注意を払う 各治験の達成率 今年度の治験受託見通し
四半期に一度の経営会議で、各プロジェクトの進捗を報告
≪期待≫ 治験管理室/CRCの評価が変わる 組織改編、人材雇用等に対する提言が行いやすくなる など
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職場風土の活性化
自己表現が苦手な日本人においては、キャンペーン期間や感謝のテーマ設定等、仕組みが定着し活発化するための工夫が必要
サンキューカード
感謝したい方 にメッセージ を添えて提供
トレースカード
表彰など
サンキューカードとトレースカード
各種マネジメント体制の構築
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品質マネジメント
人的資源マネジメント
コストマネジメント
タイムマネジメント
設備マネジメント
リスクベースドアプローチ
各種マネジメント体制の構築
リソース、費用の管理 手順が整備され、トレーニングが十分であったとしてもリソース不足により十分な対応が取れないリスク軽減
活用ツールの紹介 医療機関におけるマネジメント業務の検討(2014年) リソース管理ツール http://www.jpma.or.jp/information/evaluation/allotment/management.html
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より良い医薬品をより早く 患者さんのもとに
ご清聴ありがとうございました。
参考資料
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No 参考資料 リンク 1 医療機関主導の品質管理体制構築に向けて
~Risk based approachの導入の提案~ http://www.jpma.or.jp/information/evaluation/allotment/tf1.html
2 医療機関におけるマネジメント業務の検討 http://www.jpma.or.jp/information/evaluation/allotment/management.html
3 治験の効率的実施に向けた品質管理プロセスに関する提言 http://www.jpma.or.jp/information/evaluation/allotment/chiken_process.html
4 医療機関向けトレーニング資料(2015年5月) http://www.jpma.or.jp/information/evaluation/allotment/training.html
5 治験実施チェックリスト http://www.jpma.or.jp/information/evaluation/allotment/check/contents.html
6 症例報告書を英語で記載する場合の留意点 http://www.jpma.or.jp/information/evaluation/allotment/houkoku.html
7 治験の効率的実施を目指した医療機関での品質管理 -治験依頼者の視点から-
http://www.jpma.or.jp/information/evaluation/allotment/chiken_hinshitsu.html
8 モニタリングの効率化に関する提言 -治験手続の電子化、リモートSDV、Risk based monitoring-
http://www.jpma.or.jp/information/evaluation/allotment/monitoring_02.html
9 リスクに基づくモニタリング(RBM)の導入上の課題と留意点 第1回 http://www.jpma.or.jp/about/issue/gratis/newsletter/archive_after2014/66t2.pdf
10 リスクに基づくモニタリング(RBM)の導入上の課題と留意点 第2回 http://www.jpma.or.jp/about/issue/gratis/newsletter/archive_after2014/67t4.pdf
11 【ホットな話題をわかりやすく解説】リスクに基づくモニタリングとは http://www.jpma.or.jp/about/issue/gratis/newsletter/archive_until2014/pdf/2013_157_03.pdf