日本的昇進構造が果たした役割の再確認 ·...

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35 商学論集 第 83 巻第 4 号  2015 3 論 文 日本的昇進構造が果たした役割の再確認 ── キャリア・プラトー現象と時代的背景に着目して ── 櫻 田 涼 子 1. はじめに グローバル化により,多くの企業や組織が変化と新たな課題に直面している。このような流れの 中で,日本でもこれまで日本的経営を支えてきた人事制度,特に年功昇進・年功賃金に対してより 厳しい競争原理を導入しようという動きが盛んである。確かに,変わりゆく現状に対応するため, これまでの仕組みを変化させることは重要である。そして,実際に多くの組織が,この変化に対応 するために効果的な新たな仕組みづくりを行っている。他方で,周囲の動向に基づき,明確な目的 のないまま新たな仕組みを導入しようとする組織があることも否めない。昇進や昇格などの評価に かかわる問題は,その組織で働く多くの人びとに影響を与えるものであり,より慎重に検討するこ とも大切なのではなかろうか。 そこで,昇進や昇格ひいては報酬に関わる新たな動向や今後の方向性を検討するためにも,こ れまでの日本企業の中で重要な役割を果たしてきた昇進構造がどのような特徴を有し,いかなる 役割を果たしてきたのかを再確認する必要があると考える。特に,現在では,昇進に対して,よ り明確な形での競争原理を持ち込もうとする傾向があるが,果たしてこのような厳しい競争原理 は今までの日本企業内に存在しなかったのであろうか,年功による日本的経営が機能してきた頃 には誰もが厳しい競争もなく定年まで働くことが出来たのだろうか。 そこで本稿では,第一に,日本的雇用慣行である年功賃金と終身雇用が機能する中での昇進構造 の解明への関心が高まった 1980 年代後半から 1990 年代に実施された研究を中心に取り上げ,同時 期に行われたアメリカ企業を対象とした昇進研究である Rosenbaum 1984, 1986)と比較すること で,日本企業に独自に見られる昇進構造の特徴および機能を再検討する。 第二に,日本的経営が成立し得た時期に用いられた職能資格制度と職位階層の 2 本柱からなる日 本的昇進構造に着目する。組織内階層がデュアル・ラダーから構成されているのは,海外の仕組み と比較しても日本特有の仕組みの 1 つである。そこで,何故,日本企業では,このようなデュアル・ ラダーからなる昇進構造が構築されたのか,その理由や経緯を確認する。 第三に,昇進構造の中で生じ得るポスト不足や昇進から漏れた従業員の動機づけの問題をどのよ うに克服してきたのかをキャリア・プラトー現象の観点から考察する。キャリア・プラトー現象は, キャリアにおける停滞,特に昇進における頭打ちを表す現象であり,代表的な研究として Ference

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    櫻田 : 日本的昇進構造が果たした役割の再確認商学論集 第 83巻第 4号  2015年 3月

    【 論 文 】

    日本的昇進構造が果たした役割の再確認── キャリア・プラトー現象と時代的背景に着目して ──

    櫻 田 涼 子

    1. は じ め に

     グローバル化により,多くの企業や組織が変化と新たな課題に直面している。このような流れの中で,日本でもこれまで日本的経営を支えてきた人事制度,特に年功昇進・年功賃金に対してより厳しい競争原理を導入しようという動きが盛んである。確かに,変わりゆく現状に対応するため,これまでの仕組みを変化させることは重要である。そして,実際に多くの組織が,この変化に対応するために効果的な新たな仕組みづくりを行っている。他方で,周囲の動向に基づき,明確な目的のないまま新たな仕組みを導入しようとする組織があることも否めない。昇進や昇格などの評価にかかわる問題は,その組織で働く多くの人びとに影響を与えるものであり,より慎重に検討することも大切なのではなかろうか。 そこで,昇進や昇格ひいては報酬に関わる新たな動向や今後の方向性を検討するためにも,これまでの日本企業の中で重要な役割を果たしてきた昇進構造がどのような特徴を有し,いかなる役割を果たしてきたのかを再確認する必要があると考える。特に,現在では,昇進に対して,より明確な形での競争原理を持ち込もうとする傾向があるが,果たしてこのような厳しい競争原理は今までの日本企業内に存在しなかったのであろうか,年功による日本的経営が機能してきた頃には誰もが厳しい競争もなく定年まで働くことが出来たのだろうか。 そこで本稿では,第一に,日本的雇用慣行である年功賃金と終身雇用が機能する中での昇進構造の解明への関心が高まった 1980年代後半から 1990年代に実施された研究を中心に取り上げ,同時期に行われたアメリカ企業を対象とした昇進研究である Rosenbaum (1984, 1986)と比較することで,日本企業に独自に見られる昇進構造の特徴および機能を再検討する。 第二に,日本的経営が成立し得た時期に用いられた職能資格制度と職位階層の 2本柱からなる日本的昇進構造に着目する。組織内階層がデュアル・ラダーから構成されているのは,海外の仕組みと比較しても日本特有の仕組みの 1つである。そこで,何故,日本企業では,このようなデュアル・ラダーからなる昇進構造が構築されたのか,その理由や経緯を確認する。 第三に,昇進構造の中で生じ得るポスト不足や昇進から漏れた従業員の動機づけの問題をどのように克服してきたのかをキャリア・プラトー現象の観点から考察する。キャリア・プラトー現象は,キャリアにおける停滞,特に昇進における頭打ちを表す現象であり,代表的な研究として Ference

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    ら(1977)の研究が挙げられる1。キャリア・プラトー現象に関する研究は,1970年代以降,アメリカを中心に蓄積されてきたが,欧米諸国の企業も対象とされた結果,国に関係なく生じうる現象であることが確認されている。にもかかわらず,この現象は 2000年代に入るまで,日本では殆ど注目されてこなかった。そこで,日本でキャリア・プラトー現象が注目されなかった理由として考えられることは 2つある。第一に日本企業ではそもそもキャリア・プラトー現象は生じないという理由である。ただ,日本企業でも昇進構造が上に行くほど少ないピラミッド型構造をなしている点や,新卒採用をベースとして毎年のように新しい社員が入ってくるのに対して,長期雇用で途中退職する従業員が比較的少ない日本企業の雇用実態を考慮すると,皆が昇進できるという状態は不可能である。であるならば,第二にキャリア・プラトー現象自体は生じていたが,それを表出させない日本独自の仕組みを構築してきたという理由である。そこで,この第二の理由が実現することが可能であるのか否かを本稿では検討する。 第四に,これまでの日本的昇進構造でのキャリア・プラトー現象の状況を確認するために,本稿では職位と責任の関係に着目する。キャリア・プラトー現象が実際には生じているにもかかわらず,職位のみに着目することでその実態が分かりづらくなることを示す研究に Feldman (1988a, b)の研究がある。そこで,日本企業の昇進におけるキャリア・プラトー現象が生じ得なかった理由を,Feldmanが指摘した職位と責任の関係性に注目しながら検討する。 第五に,先行研究が対象とする時期に着目し,時代的背景が昇進構造に与えた影響を検討する。日本的昇進構造に関する先行研究は,特に 1980年代後半から 1990年代に集中している(櫻田,2014)。その点に言及している研究は管見ではほとんど見受けられないが,時代的背景は日本的昇進構造に影響を及ぼしていると考えるため,本稿ではこの点に着目する。 以上から,本稿では,Feldman (1988a, b)が着目した職位と責任の関係性の日本における動向とその時代的背景に着目し,日本企業独自の職位階層と資格階層のデュアル・ラダーによる昇進構造の意味をキャリア・プラトー現象の観点から考察する。

    2. 日本的昇進構造の特徴

     日本企業を対象とした昇進・昇格に関する研究は,特に 1980年代以降盛んに行われてきた。そこで,本節では,日本企業を対象とした昇進構造解明への関心が高まった 1980年代後半から 1990年代に実施された研究を中心に取り上げ,かつ同時期に行われたアメリカ企業を対象とした昇進研究である Rosenbaum(1984, 1986)と比較することで,日本企業に独自に見られる昇進構造の特徴を明らかにすることを目的とする。

    1 この Ferenceらの研究では,特に職階上の停滞即ち昇進に焦点が当てられ,この職階上の停滞が生じる理由や,実際にこのキャリア・プラトー現象に陥っている人々がどのような状態にあるのかについての検討がなされている。しかし,その後キャリア・プラトー研究の中でも,単に職位上での移動だけではなく,職務上での移動(Veiga, 1981 ; Evans and Gilbert, 1984 ; Slocum, Cron and Yows, 1987 ; Slocum, Cron, Hansen and Rawl-ings, 1985)や Scheinが示したキャリアの中心性での停滞(Bardwick, 1986 ; Feldman, 1988a, b)にも,その対象は及んでいる。この点については,櫻田(2005)に詳しい。

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    櫻田 : 日本的昇進構造が果たした役割の再確認

     Rosenbaum (1984)は,アメリカ企業を対象とした調査を実施し,その結果トーナメント(tour-nament)型の競争モデルを提唱している2。彼によれば,トーナメント型競争モデルでは,基本的に敗者復活の余地は与えられず,かつ勝者に対しても次の競争に参加する権利が与えられるだけの厳しい競争原理である。トーナメント型競争モデルの昇進競争においては,「能力の低い者は早期に発見されるが,能力の高い者は早期には発見されず,その後も勝利を重ねていく過程でキャリアを形成しつつ昇進していく」〔Rosenbaum (1986)〕3ことになる。 このような厳しい競争原理に基づくアメリカの昇進構造に対して,終身雇用や年功制を特徴とする日本的経営が機能していた当時の日本企業の昇進構造は,年功制を基準とした競争のないものであるという認識がもたれていた。この一般的な認識に対して,実はこの時期の昇進においても,Rosenbaum同様のトーナメント型競争モデルを実証したのが,花田(1987)の研究である。一方で,日本企業の昇進における競争原理の特徴には,Rosenbaumが指摘した特徴とは異にする独自性があることも指摘されている(今田・平田,1995 ; 竹内,1995)。以下では日本的昇進構造を 1)アメリカ企業と共通点をもつ厳しい競争原理と2)日本企業独自の競争原理の2側面から整理分類する。

    (1) アメリカ企業と共通点をもつ厳しい競争原理に関する研究

     花田(1987)の研究4は,日本の昇進構造,特に年功序列や終身雇用による安定雇用が機能していたと考えられる高度経済成長時代においてさえも,Rosenbaumが提示したのと同様の厳しい競争原理であるトーナメント型の競争モデルが,存在していることを明らかにした。そして,それは単に官僚主義的人事制度を採用している保守的な企業においてだけではなく,昭和 40・50年代に大量採用を実施した企業においても,そして革新的人事制度を用いている企業においても,形を変えて存在していることを示している。すなわち,日本企業の昇進において,年功が昇進の必要十分条件であるという考えは誤っていることを示した点に花田研究の意義がある。 彼は Rosenbaumがトーナメント型競争モデルを実証した方法であるキャリアツリーの手法により,各企業の昇進・昇格体系をいくつかのパターンに分けた。その中で共通に示されたのは,課長への第一選抜に選抜されているか否かが,将来の昇進可能性の分岐点になっている点である。但し,企業が取り入れている人事方針によって,第一選抜で選抜されていることが,その後の昇進可能性をどれだけ確実なものにするのかという確率が異なっている。 例えば,伝統的企業における昭和 30年大卒男子のキャリアツリーを追うと,極めて保守的な昇進・昇格のシステムを採用しており,一度昇格に遅れた者が遅れていない者を追い抜く可能性は極めて

    2 トーナメント・モデルは,Rosenbaumが Turner (1960)の「庇護移動(sponsored mobility)」と「競争移動(contest mobility)」のモデルを基に提示したものである。この点や Rosenbaum (1984, 1986)に関する詳細な説明は八代(1987),今田・平田(1995),竹内(1995)に詳しい。

    3 邦訳は今田・平田(1995)『前掲書』9-10頁より引用。 4 花田(1987)では,花田(1984)での研究成果についても説明されており,それによるとある大手企業で部長になる確率,次長になる確率が,ともに 25%という結果に過ぎず,しかも,この部長・次長になれる可能性は,課長昇進への第 1次ないしは第 2次選抜に入っていなければ著しく低くなるという結果を報告している。さらに,この選抜に入れなかった社員が定年前に離職する確率は極めて高いことをあわせて報告している。

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    低い。但し,実際は第 1次選抜で次に進める従業員の比率は高く,敗者に選別さえされなければ,昇進ルートに残れる可能性があることを示している。それに対して,昭和 40年代,50年代に大量の社員を採用した企業の昭和 45年入社大卒男子のキャリアツリーからは,より厳しい競争原理が取り入れられていることが示されている。例えば,第 3レベルの主事まで昇格してきた者は第 1選抜で上がってきた者の 9%に過ぎず,第 1次選抜での昇格がそれ以降の確実な昇格を保証するものではない。一方で,革新的人事制度を採用している企業における昇進・昇格システムでは,組織的にしっかりとした敗者復活のコースが確保されており,一度の失敗を取り戻せる機会が組み込まれていた。これは,「要するに可もなく不可もなく,しかし大きな失敗はしていない者が自然に残っていくシステムとは違い,企業に対する貢献が要求されるシステムが採用されると考えるべきである」。しかし,最終的に最後のステージまで残っている人の数が他の会社と変わらず少ないことを考え合わせれば,各段階で厳しい絞込みが行われていることになり,敗者復活があるとはいえ厳しい競争原理が採用されていると考えられるだろう。 以上のように,花田の研究からは,アメリカの昇進構造にも見られたと同じような厳しい競争原理が,形は違えども伝統的な人事制度を有する企業にも,大量採用でエリート選抜的な人事制度を採用している企業にも,そして革新的人事制度を導入している企業にも,しかも高度経済成長を基盤とする安定雇用の時代であっても導入されていたことが示された。 ただ,この研究には,その他にも注目すべき重要な論点がいくつか含まれている。1つは,時代的背景との関係である。花田の分析に用いられたのは,昭和 30年(1955年)から昭和 45年(1970年)までの間に入社した,しかも大卒男性社員である。この時代は高度経済成長時代であり,花田も指摘している通り,当時の日本企業は拡大し,ポストも増えていた。そのため,本来であれば,それほど厳しい競争原理を働かせなくても昇進が機能し得た時代であったと考えられるが,その時代においても課長職になる入社後 13年頃に選抜が行われているという点である。次に,保守的企業と昭和 40年代から 50年代に大量採用した企業の違いに見られるように,昇進競争への参入者が多いほど,競争原理は厳しくなっている。この理由を花田は大量採用により同一年次に玉石混合の従業員がいる場合にはエリートのモラール保持するためと解釈している。つまり,競争への参加者が多くなれば,動機づけのために厳しい選抜がなされうるということになる。最後に,この研究では,役職と資格が緊密に対応しているという観点から,役職と資格階層はほぼ同等に扱われている。この点に関しては,昇進と昇格の関係において後に検討するが,少なくとも花田が昇進を研究した時代においては,役職と資格を同等に捉えられるほど緊密に対応していたことがみてとれる。

    (2) 日本企業独自の競争原理に関する研究

     (1)では,アメリカ企業にも見られたようなトーナメント型の厳しい競争原理が,高度経済成長期の日本的昇進構造の中にも存在していることが確認できたが,その後の昇進研究においては,日本独自の競争原理に関する指摘が行われるようになった。 その中で明らかになった日本的昇進構造の特徴として,主に 2点のことが確認された。第一に,日本的昇進構造は長期にわたる競争の中で行われている点である。第二に,その長期にわたる選抜では,単一の競争原理ではなくいくつかの競争原理が組み合わされた重層的構造が形成されている

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    櫻田 : 日本的昇進構造が果たした役割の再確認

    点である。 まず,日本の昇進構造が長期にわたって行われている点については,小池(1981)が「ゆっくりとした昇進」と評した。更に,岩田(1977)や今田・平田(1995)及び竹内(1995)でも確認されている。例えば,今田・平田(1995)や竹内(1995)のデータをみると,課長職にあたる頃までは,僅かな差しかつかない昇進形態である。特に,大卒に限定して見ると,竹内のデータでも今田・平田のデータ5でもその時期は入社から 12年から 14年頃の時期である。即ち,34歳から 37歳頃までは,目に見える大きな差は昇進においてつかないことが示されている。 次に,この長期にわたる昇進競争原理の実態を明らかにしたのが,今田・平田(1995)と竹内(1995)の研究である。今田・平田(1995)は,日本企業の昇進構造は花田が示したアメリカ型のトーナメント競争モデルではなく,1)一律年功モデル,2)トーナメント競争モデル,3)昇進スピード競争モデルの 3つの競争原理を従業員のキャリアの段階によって使い分ける「重層型昇進構造」であることを示した(図表 1)。即ち,日本の昇進ルールは単純な年功制でないだけではなく,単純なトーナメント競争でもない。今田らは,その組み合わせ方を次のように提示している。

    図表 1 日本企業における昇進構造の特徴

    (出所) 今田・平田(1995)『ホワイトカラーの昇進構造』日本労働研究機構,42頁を参考に筆者作成。

    1) 初期キャリア=一律年功型

     一律年功モデルとは,日本的経営の代表とされる年功制を最も単純化したモデルであり,「すべての人が例外なく一様に一定の勤続年数の経過後上位に昇進するというモデル」〔今田・平田(1995)6〕である。今田らのデータでは,入社から 5年目までの従業員にこのルールが適用されてお

    5 今田・平田(1995)では,対象企業の大学卒事務職・技術職・大学院卒技術職ごとの勤続年数別資格構成が比較されているが,本稿では他の昇進研究との比較するために大学卒事務職の年数について言及する。なお,本稿では昇進と昇格の混乱を生じさせないために,今田らが職位に近い意味で使用している資格を「 」つきの「資格」として表現している。

    6 今田・平田(1995)『ホワイトカラーの昇進構造』日本労働研究機構,7頁引用。

    5

    までは、目に見える大きな差は昇進においてつかないことが示されている。 次に、この長期にわたる昇進競争原理の実態を明らかにしたのが、今田・平田(1995)と竹内(1995)

    の研究である。今田・平田(1995)は、日本企業の昇進構造は花田が示したアメリカ型のトーナメント競争モデルではなく、1)一律年功モデル、2)トーナメント競争モデル、3)昇進スピード競争モデルの3つの競争原理を従業員のキャリアの段階によって使い分ける「重層型昇進構造」であることを示した(図表1)。即ち、日本の昇進ルールは単純な年功制でないだけではなく、単純なトーナメント競争でもない。その組み合わせ方としては、次のとおりである。

    図表1 日本企業における昇進構造の特徴

    (出所)今田・平田(1995)『ホワイトカラーの昇進構造』日本労働研究機構、42頁を参考に筆者作成。

    1)初期キャリア=一律年功型 一律年功モデルとは、日本的経営の代表とされる年功制を最も単純化したモデルであり、「すべて

    の人が例外なく一様に一定の勤続年数の経過後上位に昇進するというモデル」〔今田・平田(1995)6〕である。今田らのデータでは、入社から5年目までの従業員にこのルールが適用されており、この時期は個々人の差は表面化せず、同期組が一律に昇進する。 2)中期キャリア=昇進スピード競争型 昇進スピード競争型モデルとは、一律年功型とトーナメント競争型の折衷モデルである。このモ

    デルの特徴は、従業員の昇進時期に差が生じるが、仮に昇進が同期に比べて遅れたとしても、ある

    している。 6 今田・平田(1995)『ホワイトカラーの昇進構造』日本労働研究機構, 7頁引用。

    職位

    勤続年数

    昇進スピード競争型

    一律年功

    トーナメント競争

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    り,この時期は個々人の差は表面化せず,同期組が一律に昇進する。

    2) 中期キャリア=昇進スピード競争型

     昇進スピード競争型モデルとは,一律年功型とトーナメント競争型の折衷モデルである。このモデルの特徴は,従業員の昇進時期に差が生じるが,仮に昇進が同期に比べて遅れたとしても,ある一定の期間後には追いつくことが出来る点である7。これが当てはまるのが入社後 6年目から課長までの中期キャリアにみられる。この時期には,昇進スピードの差が目に見える形で生じるが,資格上の差で 1ランク以上はその差は開かず,一定期間後にはみな同一「資格」に横並びになる。その意味では敗者復活が可能な時期とも考えられる。

    3) 後期キャリア=トーナメント競争型

     トーナメント・モデルは既に説明したが,リターンマッチのない昇進のモデルで,毎回行われる昇進選抜はその後の昇進競争への参加権を得るようなものであり,勝者には「最低限度」を敗者には「最高限度」を設定する。この競争モデルは課長以降の後期キャリアの昇進に見られる。つまり,課長以降の昇進では,昇進の早い者と遅い者が振り分けられ,かつ昇進が遅れてしまった者の中には上位へ昇進することなく滞留する者も出現する。

     日本企業の昇進においてキャリア毎に異なる競争原理が用いられていることは,竹内(1995)も指摘している。竹内のデータにおいても,課長の昇進年次までは選抜があまり実施されていないが,課長の昇進年次においては大きな差が生じていることを明らかにした。この課長職に第一選抜で上がる者が出るのが,入社 12年以降である。 さらに,竹内は同期入社の従業員の昇進に着目し,同期入社の従業員の昇進を選抜時間差の有無と昇進率の大小という 2つの観点から捉え 4つの昇進類型を提示した。この 4つとは,1)「同期同時昇進」(「同じ時期に全員を昇進させる」,2)「選抜」(「少数のものを同時期に昇進させる」),3)「選別」(「少数のものを第一選抜,第二選抜というように,昇進年の差をつけて昇進させる」),4)同期時間差昇進(「昇進期を一年あるいは半年刻みで行うが,最終的に同期のほとんどが昇進する」)である8。これを実際のデータに当てはめた場合,その企業の昇進パターンは 1)→ 4)→ 2)・3)であり,課長職の最初の資格までが 4)の同期時間差昇進であることが判明した。 この 2つの研究からは,ほぼ同じような特徴をもつ日本独自の昇進構造が確認された。すなわち,日本の昇進ルールは,キャリアの段階にあわせて,異なるいくつかの競争ルールを組み合わせることで形成されていること,その競争ルールの中では,入社後しばらくは同期入社の従業員が一律に昇進し,その後一定期間は同期時間差昇進となり,課長職を境にして厳しい競争原理である「選抜・

    7 今田・平田(1995)によれば,僅かな差が生じるという点では岩田のモデルと似ているが,岩田が,「大きな差をつけず,あったとしてもほんの僅かであり,これが長期にわたるにしたがい大きな格差へと拡大する」と差の拡大に焦点を当てているのに対し,このモデルの特徴は「差が出現しても遅れて昇進すること」(10頁)にある点で考え方が異なっている。

    8 竹内(1995)『日本のメリトクラシー─構造と心性─』東京大学出版会,166-168頁。

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    櫻田 : 日本的昇進構造が果たした役割の再確認

    選別」や「トーナメント競争」に移るということである。更に,この重層型の昇進構造からわかることは,同期入社の中での昇進競争が基本であり,次年度の者に抜かれることはなく,その意味では「年功」の「年」の部分が存在していることが確認される(竹内,1995)。しかしながら,課長職以降では,「功」の部分がより重要になり,そのため,この頃から競争ルールも厳しいものへと変化する。例えば,今田らがデータから確認したところ,「係長への昇進が早いか遅いかという分岐はその後に決定的な影響力を持たない」が,課長から次長への昇進では事情がかなり異なっており,課長への昇進が早いか遅いかということが課長以降の昇進を決定する重要事項になっていた。即ち,日本企業の昇進において,昇進の分岐点になるのは,課長職での昇進ということになる。

     以上(1)(2)から,日本企業の職位階層はピラミッド型構造を示しており,「年功制」と称され一見誰もが同等に企業で昇進することが出来るかのように考えられていた時代であっても,実は厳しい競争(選抜)が取り入れられていたことが確認された。この厳しい競争原理が存在しているという点では,同時代の昇進構造において日米間での共通点が見いだされたと言えよう。しかしながら,その後の昇進研究において,日本の昇進ルールは単純な年功制やトーナメント型ではなく,その点でアメリカの昇進構造とは異なる独自の特徴を有していることが確認された。特に,昇進スピードと敗者復活が可能かどうかにおいて顕著な違いがみられた。第 1に日本企業の昇進は,小池(1981)が「ゆっくりとした昇進」と称するように,長期にわたり昇進競争が行われる。第 2に,入社当時から一律に厳しい競争を行わせるのではなく,キャリアの段階に応じて異なる競争原理を適用する日本企業独自の重層型昇進ルールを有しており,特にその競争原理が厳しいものに代わる分岐点は課長職にある。したがって,日本の昇進構造はアメリカのそれと比較し,比較的多くの従業員が課長職の手前まで昇進することができる。第 3に,日本の昇進ルールでは,同期入社の従業員内での競争が行われているという点である。 ただ,ここではある論点が残された。それは何故このような独自の競争原理を構築する必要があったのか,即ちなぜキャリアに合わせて競争原理を変える必要があるのか,そしてそのようにして年功的基準に修正を加えるのは何故かという点である。そこで次節では昇進構造が果たす機能という点からこの日本独自の昇進構造の意味を考察する。

    3. 日本的昇進構造が果たしてきた 3機能とそれを支える仕組み

     そもそも日本企業における昇進は,どのような役割もしくは機能を果たすのだろうか。昇進(および昇格)が果たす機能として,基本的には 3つの機能があることが確認されている。第一の機能が「選抜」,第二の機能が「動機づけ」,第三の機能が「育成(もしくは能力開発)」である9。 例えば,「年功制」と称され一見誰もが同等に企業で昇進することが出来るかのように考えられていた時代であっても,実は厳しい「選抜」機能が働いていたことは,花田(1984, 1987)の研究およびその後の昇進研究で明らかにされている。さらに,組織内昇進を「効率」と「動機づけ」の

    9 櫻田(2009)(未公刊)では,昇進構造の逆機能とも考えられるキャリア・プラトー現象を手がかりに,先行研究を基に,昇進・昇格の機能を検討し,3機能が確認されている。

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    2側面から検討したのが,八代(1987)である。八代は日本企業の昇進の特徴として,1)ある段階まで同期入社の従業員間に処遇の差をつけないことで,2)正確な人事情報を収集するとともに,3)長期にわたり多くの従業員に昇進の機会を開き動機づけを行っていると述べている。また,昇進がインセンティブ(「動機づけ」)として機能するだけではなく「育成・能力開発」(伊藤は学習と表している)の機能から見ても重要であることを示す研究として,伊藤(1995)が挙げられる。伊藤では,日本特有の昇進構造すなわち幅広いキャリアと遅い昇進を理解するためには,学習とインセンティブの両側面から検討することが適合的であることが提示されている10。即ち,日本企業の昇進構造が,幅広いキャリアを構築させるとともに,年功を利用した遅い昇進の仕組みをとっている理由は,従業員を長期にわたり学習させ適材適所を図ると同時に動機づけるためであることを指摘している(伊藤,1995)。 このように,日本的昇進が 3機能を果たし,かつアメリカと同様のピラミッド型昇進構造を有していることは分かったが,そうであれば何故これまでの日本的昇進構造はキャリア・プラトー現象を生じさせなかったのだろうか。この疑問について,小池(1981)が「ゆっくりとした昇進」と称する長期にわたる選抜方式と,重層型昇進構造の 2点を中心として,更に詳細に先行研究の理論展開を追い,考察を加える。 今田らの研究では,日本企業の昇進構造が重層型である理由を,ピラミッド型の組織構造とそのための人員調整のためであると同時に,「段階的な選抜によってより多数の人材を育成し,時間をかけて選抜するという,人材の育成・選抜の方式として重要な機能を果たしている」(148頁)と説明し,日本的昇進構造が選抜やそのための調整機能だけではなく,育成機能からも捉えられている。即ち,今田らの研究からは,日本企業は独自の重層型昇進制度を構築することで,実際は花田も指摘するような比較的早い段階からの「選抜」が巧妙に行われているにもかかわらず,課長職になる辺りまでは同期入社の従業員はみな一律に昇進しているかのように認知させることで,昇進を「インセンティブ・システム」及び「育成および能力開発」として機能させていることが示された。更に,初期の一律年功型競争モデルの導入によって,組織への一体化や適応による定着も図られていることが指摘されている。 この日本的昇進構造の巧妙な仕組みを「加熱」,「冷却」そして「再加熱」の概念から説明したのが,竹内(1995)の研究である。竹内は「地位階層がピラミッド型的で,継続的に選抜がおこなわれれば,構造的にトーナメント型に帰結する」とし,選抜構造がトーナメント型であることではなく,その中で行われている日本型の加熱と冷却の構造から生み出される日本型選抜構造の特徴を見出すことが重要であると指摘している11。「加熱」とは従業員のアスピレーションを焚き付けることであり,「冷却」は動機づけにおいて基準を回避することで,投資からの撤退を行うことである。「再

    10 伊藤(1995)は,日本の昇進基準として年功が採用されているのは昇進スピードの上限を与えるためではないかと指摘している。その理由は日本企業が本人の潜在的能力だけではなく企業特殊的技能を蓄積することを求めているためである。さらに,関連する理由を年配者が,若年者に組織での地位を脅かされないようにすることで,若手に対して「技能や情報を円滑に伝え」かつ「公正に評価することが可能になる」ことにあると述べている。

    11 竹内(1995)『前掲書』155頁参照。

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    櫻田 : 日本的昇進構造が果たした役割の再確認

    加熱」とは選抜から漏れてしまっても意気消沈することなく,同じ領域での投資に再挑戦するよう励ますことである12。 竹内は,日本の昇進構造の特徴として重要なのは,「加熱」と「冷却」だけではなく「再加熱」をもうまく行っている点にあると主張する。即ち,日本企業では,課長職までは昇進においてはほとんど差がつけられていないが,実はこの僅かな差と同期入社による同期集団を比較準拠集団とする仕組みが,再加熱という点で大変重要だと言うのである。何故なら,同期集団内で比較することで,その差がたとえ僅かであっても従業員に正確に認知され「加熱」(本稿での「選抜」)へと導かれると同時に,差がわずかであるから取り返しも可能であるという再加熱の構造化が行われているからである。日本企業の昇進構造は,エリートとノン・エリートの選抜を行いながらも,長期にわたり少しずつ加熱を行う「細かな選別の網の目によって相対的位置を可視化する仕掛け」によって,ノン ・エリートに対しても長期にわたり競争意欲を持続させ,エリートには僅かな差しかないからすぐに追いつかれてしまうかもしれないという逆転の不安を抱かせることで競争を焚きつけ続ける(「再加熱」し続ける)のである(竹内,1995)。 今田らと竹内の研究から共通して導き出された点は,第一に,日本企業では同期入社集団を比較準拠集団として利用し日本人のもつ序列意識を刺激することで,僅かな差であっても昇進競争に「動機づけ」ている点である。第二に,アメリカ企業同様に適材を選抜しているにも関わらず,長期にわたり段階を踏んだ競争原理を用いることで,その選抜結果を表面化させない点である。つまり,日本企業の昇進構造では「選抜」と「動機づけ」の相反する機能を,長期的かつ同期入社集団を利用することで,表面化させずに達成してきたのである。そして,この表面化させないという点が,日本企業での昇進におけるキャリア・プラトー現象を生じさせない 1つの仕組みづくりであると言うことができる13。つまり,日本企業もピラミッド型構造である以上,昇進が頭打ちになることは避けられず,その意味ではキャリア・プラトー現象が生じているといえる14。しかしながら,同期入社集団を準拠集団とし長期にわたり僅かに差をつけること,かつ重層型の昇進競争モデルを構築することで,主観的にキャリア・プラトー化していることを認知させないような巧妙な仕組みが,日本的昇進構造には構築されていたと言えるだろう。 それでは,何故日本企業では,この僅かな差による動機づけが有効に機能し得たのか。これに関係する日本人独自の社会との関わり方を明らかにしたのが,岩田(1977)である。岩田はアメリカ人と日本人では,個人と社会の関係の捉え方が異なっていることに着目した。アメリカ人の場合は,個人と社会は契約による機能でつながっており,自分が所属している集団での地位自体が重要なのではなく,「その地位にともなう収入や権限が,より広い社会における階層的位置づけと重要なかかわりをもっている」点が重要なのである。それに対して,日本人の地位の意識は,「(1)自己の所属する集団の社会的威信と(2)その集団内部における自己の地位にむけられる」。この理由とし

    12 竹内(1995)『前掲書』76頁参照。13 ここで「1つの」としている理由は,日本的昇進構造がキャリア・プラトー現象が表出化させないための仕組みは,後で検討する昇進のデュアル・ラダーにもあると考えるからである。

    14 実際に,人員構成自体はピラミッド型構造ではないが,学歴や選抜方法によって絞り込みを行うことで,「資格」階層自体はピラミッド型になっている(今田・平田,1995)。

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    て,日本人は「集団を超えて存在する社会に対する関心が,乏しい」ことが挙げられている。 この日本人的地位意識については,筆者も賛同するところであるが,その理由が社会に対する意識の薄さという従来日本人がもつ独自の価値観のみに起因するものか否かについては,検討する余地があるのではないだろうか。これに対する明確な答えについては,筆者も研究途上であるが,社会的階層と企業内階層との関係に限定すれば,次のような職務を取り巻く制度の違いも影響しているのではないだろうか。例えば,岩出(2002)15によれば,アメリカでは労働省による 2万におよぶ「職務分類辞典」に基づく職務等級制度が存在している。これは即ち,社会全般にわたる職務基準が明確なため,どの組織に属していても,容易に外の職務基準との比較が行えることを示す。それに対して,日本には,このような社会全体として普遍化されている職務基準は存在しない。従って,自ずと職務基準の比較は,所属している組織内の類似の職務との比較にならざるを得ない。このように,社会全体に普遍化されている職務基準が明確にあるかないかということが,職務と社会の関わりに対する日米の差を生じさせているとも考えられる。逆に,岩田が示した各国の独自の心理特性の違いがある故に,米国では普遍的な社会的職務基準を作成し,日本では作成していない違いを生み出しているとも考えられる。したがって,制度と心理的特性の関係ついては,今後のより詳細な検討が待たれる。

    4. デュアル・ラダーからなる昇進構造とキャリア・プラトー現象の関係

     日本企業の昇進構造は,職位と資格制度から成るデュアル・ラダーで構成されている。資格制度とは,「課長」,「部長」などの名称で示される役職とは異なり,「理事」,「主事」,「参事」などの名称で示され,役職とは異なり全ての正規従業員に適用される序列や処遇のための制度である(八代,1987)。このデュアル・ラダーの昇進構造において昇進するためには,まず,職能資格等級上で一定の基準を満たし昇格することが必要になる。更に,この一定基準の資格に昇格した従業員の中から,厳正な審査手続きが行われ,管理職者として適性のある者だけが上位の職位に昇進することができる16。 日本の昇進構造は,アメリカと同様のピラミッド型の職位階層の中で厳しい選抜が行われているが,一方で準拠集団である同期の仕組みを利用することで,それを最初のうちはわずかな差として表出させることで長期にわたりより多くの従業員に対して,高い昇進への期待を抱かせることに成功し,この仕組みによって,昇進におけるキャリア・プラトー現象が表出するまでに,長い時間がかかることがわかった。但し,職位階層がピラミッド型を成していれば,いずれは昇進の期待と現実のポストとの間で矛盾が生じることにならないだろうか。また,職位階層のみの組織内階層構造だけで,事足りているのであるとすれば,何故日本企業はわざわざデュアル・ラダーの昇進構造を作り上げたのであろうか。 この疑問を解消すべく,本節では年功序列や終身雇用を基盤とした日本的経営17におけるデュア

    15 岩出著,森監修(2002)『LECTURE 人事労務管理[三訂版]』泉文堂,166頁参照。16 岩出(2002)『前掲書』174-182頁。17 以前に比べ「日本的経営」という表現が,用いられなくなって久しい。例えば,近年では,「日本的経営」

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    櫻田 : 日本的昇進構造が果たした役割の再確認

    ル・ラダーを職位と資格の関係性の変化に着目し,先行研究を整理するとともに,そのような変化が生じた理由をキャリア・プラトー現象の観点から考察する。 そもそも,何故職能資格制度が構築されたのか。この点について,八代は次のように言及している。日本企業においてもある段階(課長職昇進時)からは効率が重視され従業員の処遇間に差がつけられるが,日本人は特に地位序列に対して敏感である18ため,昇進選抜から漏れた従業員をいかに動機づけるかが重要な問題となる。そこで,この問題を解消するために,日本企業独自に構築されたのが職能資格制度である(八代,1987)19。そして,花田の研究から看取できるように,高度経済成長期には,役職と職能資格がほぼ同等に捉えられるほど緊密に対応していた。しかしながら,その後の時期を対象とした昇進研究を俯瞰すると,この職位と資格の関係に変化が生じていることが伺える。更には,職位と資格の関係を変化させている時期に共通点が見出された。そこで,先行研究における職能資格制度を,職位と資格の関係とその時代背景の 2つの視点から検討する。

    八代(1987)の指摘

     八代の研究は,昭和 40年代から昭和 50年代の初めにかけて資格制度を導入する企業が増加していることに着目し,導入時期によって職能資格制度が果たす役割が異なっていることを,データから明らかにしたことに意義が認められる。 昭和 40年代末までの職能資格制度は,職位階層での「効率」の結果,昇進に漏れてしまった従業員の「動機づけ」の機能を主に担っていた。即ち,役職昇進の選別と切り離し,年功的に従業員を格付けする20ことで,昇進での選抜に漏れてしまった従業員の序列意識を満足させてきた。さらに,資格制度と役職を完全に分離するのではなく,密接に対応させ,ある役職につくための「手形」として資格を用いることで,昇進へと「動機づけ」をすることができ,昇進で生じる「効率」と「動機づけ」の二律背反をうまく回避した。 しかし,昭和 50年代以降,資格制度は「動機づけ」の機能を強めるとともに「効率」の機能をも果たすようになってきた。機能を変化させた理由は,安定成長下での企業規模の鈍化や高年齢化 ・高学歴化により管理職ポストに就けない従業員が増加し,役職の初任年齢が遅れる21ことで,資格

    ではなく,より普遍的な意味合いを含んだ「日本型経営」という表現が一般的に用いられるようになっているが,本稿では日本の独自性を強調する意味で,日本的経営と表記する。

    18 日本人が序列に敏感であることを示す研究として,八代では中根(1967),岩田(1977)が取り上げられている。

    19 昇進の機会の調整方法としては職能資格制度以外にも,管理職ポストを増やす方法や企業外部に放出する方法が考えられる今田・平田(1955)。但し,管理職ポストを容易に増やすことは難しく企業自体が拡大することで管理職ポストを増やすしかない。また,あるいは管理職ポスト数以上の人材を企業外に放出することは,日本企業の慣行上難しい。

    20 このように職能資格制度が動機づけの機能を果たすための条件として,資格制度には供給制限が設けられていないことが重要であると八代は指摘している。

    21 役職初任年齢の遅れというのは,昇進の第 1選抜の遅れということを表しているが,日本企業は同期を同時昇進させるため,役職初任年齢の遅れは若年従業員全体の第 1選抜の遅れを表す。そのため,昇進におけるキャリア・プラトー現象の存在を証明するデータやキャリア・プラトー現象の若年化のデータとして使用されることが多い。

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    が手形として機能しなくなり,従業員の向上意欲が低下したことにある。 この状況を解消するため,昭和 50年以前から資格制度を導入していた企業では,それまで 1対1で対応させていた役職と資格を分離し,資格を細分化させることで「動機づけ」を維持した。同時に,資格と賃金の結びつきを強めることで,役職ポスト数を変えずに,資格制度によって管理職ポストにつけない有資格者の「動機づけ」と「効率」という機能を果たしたことが指摘されている。また,それまでに資格制度を導入していなかった企業でも,役職の初任年齢の遅れへの対処として,資格制度を導入し「ポストの乱発による組織効率の低下を防」22いだ。さらに,この頃の資格制度は重要な役割を果たすようになる。それが,「能力開発」である。企業は役職ポストへの配置を介して従業員に能力開発の場を提供し,従業員側も訓練の機会を得るために昇進したいと考えることで,よりインセンティブの側面を強くした。つまり,役職ポスト不足になり昇進による「能力開発」が難しくなることにより,この機能が職能資格制度に代替されるようになってきた。但し,職能資格制度が「能力開発」としての役割を代替するためには,機会の希少性が必要になるため,今後は職能資格自体が「効率」の役割を強化することになることが指摘されている。

    今田・平田(1995)の指摘

     役職と資格の関係の変化は,今田・平田でも指摘されている。彼女たちが研究対象とした企業は,1975年と 1986年の 2回にわたり役職と資格の関係を変化させている。1975年以前は役職と資格が不分離で緊密に結びついていた。しかし,「① 管理職の増大によって指揮命令系統が重層化して意思決定の非効率化が問題になってきた。② 高学歴の定期採用者が団塊を形成して管理職候補者になっており受け皿が対応できなくなってきた」(12頁)。さらに対象企業の成長動向も,1975年までは拡大基調にあったが,76年を転換点として停滞している。 このような状況の中で,1975年に資格と役職を分離してデュアル ・ラダーにしたが,その際に役職は簡素化され,同時に資格名に対外的に通用性のある課長格などの名称を用いた。更に,従来役職に結びつけていた手当てを廃止し,給与は資格に結び付けられた。しかしながら,この資格と役職の分離は,業務の効率化や能力主義の浸透というメリットをもたらした一方で,昇格と昇進が一体化しないことによる高資格者の増加や賃金の肥大化というデメリットももたらした。それに加えて,団塊世代が課長格や次長格への昇格を控えていることにより今後更なる問題を生む可能性があった。 そこで,1986年には給与と資格を更に分離し,賃金と結びつけるための新たな等級を設け,「役職は職務上の指揮命令系統での地位を表示し,等級は給与体系での位置づけを意味し,資格は名目的なステータスを表示する」(15頁)ことにした。

    職能資格制度にみるキャリア・プラトー現象

     上記の指摘を基に,役職と資格の結びつきの変化から,日本におけるキャリア・プラトー現象を考察する。キャリア・プラトー現象とは,様々な定義が存在しているが,ここでは簡単に昇進にお

    22 八代(1987)『三田商学研究』30巻 2号,107頁より引用。

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    櫻田 : 日本的昇進構造が果たした役割の再確認

    ける一時的な停滞もしくは昇進における頭打ちと理解していただきたい23。 両研究が指摘している点で,特に注目すべきは,1975年頃を基点とし,その前後における職位と資格の関係の変化に言及している点である。この 1975年頃はちょうど高度経済成長期が終わる頃であり,こういった時代的背景が,両研究の対象企業に色濃く表われているものと理解できる。この観点からみて八代や今田 ・平田の研究から確認できたのは,第一に,1970年代後半以降の経済の低迷が始まる中で,日本企業においても昇進におけるキャリア・プラトー現象が生じ始めていたということである。即ち,管理職層が増大し,かつ今後の管理職の増大が想定されるなかで,十分なポストが確保できず,それによって従業員の向上意欲が低下していたことが認められた。第二に,そのような事態を生じさせた原因として,高度経済成長期の終焉や高学歴世代の台頭といった社会的要因が見られ,この点はアメリカでのキャリア・プラトー現象の原因となった経済的要因及び社会的要因との共通点がみられる。第三に,そのような状況にもかかわらず,高度経済成長期以降,しばらくの間キャリア・プラトー現象が日本企業において表出かしなかった仕組みとして,職能資格と役職の分離によるデュアル ・ラダーを支える職能資格制度が機能してきた点である。すなわち,昇進に代わるものとして,高度経済成長期から安定期へと移行する辺りの時期(1975年頃)には,昇進が果たしてきた地位や承認の役割さらには賃金が職能資格に結びつけられ,組織内での地位の配分を職能資格制度に代替させただけではなく,「能力開発」の役割も果たしたという点である。 ただ,その後の過程において,職能資格制度を上限の制約を設けずに利用したことが,却って職能資格自体の希少性を薄め,職能資格制度による動機づけが弱められることにつながった。さらにこのことによって,職位の代替としての役割を果たしてきた職能資格制度そのものが指揮命令系統の混乱や人件費の高騰という企業へのデメリットを生じさせる原因となり,その後の「役職につかない管理職」(八代,2002)やキャリア・プラトー現象(山本,200124)の表出へとつながったと考えられる。 以上のように,職位と職能資格制度とのデュアル・ラダーによる昇進構造を構築することの意味をキャリア・プラトー現象との観点から考察した結果,職能資格制度が昇進におけるキャリア・プラトー現象を解消するために果たした役割は大きいことが判明した。ただ,職能資格制度が日本的昇進構造を支える仕組みとして機能し得たこととして,大きく 2つのことがその仕組みづくりの中で重要な意味をもっていたと筆者は考える。 第一に,昇進に代わる代替指標として,職務遂行能力による能力基準を構築したことである。能力は基本的に制限なく伸びることが想定されるので,能力を基準とすると資格等級には制約が生じない。また,このような物理的な意味だけではなく,企業での経験年数も加味される職務遂行能力

    23 本稿でのより明確なキャリア・プラトー現象の定義は,「一定の組織構造の内部において各人が移動する一連の職位・職務および部内者化の各段階で一時的に進歩が足踏みする状態」(櫻田,2005)であるが,この中でも特に,職位における一時的な足踏み状態を本稿では論じているため,簡単に昇進における頭打ちとして説明している。なお,キャリア・プラトー現象に関する詳細な説明は,櫻田(2005),鈴木(2001),山本(2006)に詳しい。

    24 山本の初版は 2000年に刊行されているが,筆者は改訂版の 2001年から以降のみ入手できたため,ここでは筆者が確認することができるもっとも古いものとして 2001年と表記している。

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    を能力基準にすることで,能力評価についても多少の柔軟さがうまれ従業員の過当競争を避け,かつチームワークを乱さないのではないかという点である。つまり,職能資格制度が基盤となる中で同期よりも高く評価されたいのであれば,自分の仕事に結びついた能力を高めることが最善の方法である。 第二に,職能資格を将来への昇進の手形として,職位階層と結びつけた点である。昇進や能力開発は直接的なインセンティブとしてだけではなく,今後,今の努力や業績が昇進という形で報われるという間接的なインセンティブとしても機能していることが示唆されている25。そこで,社会全般において普遍的に通用する職務基準が存在していない日本では26,職位階層という企業内序列と能力指標を結びつけることが,直接的だけではなく間接的インセンティブとしてもより有効に機能しうると考えられる。その結果,職能資格が企業内での自分の地位を計るための基準となり,より多くの従業員が積極的に能力開発に取り組むよう動機づけられていったことが想定される。 このように上昇志向が他者との軋轢を生むことなく,能力開発につなげられるような設計がなされていた点が,チームワークを基盤とする有機的集団による作業を必要とした日本企業の優れた昇進構造の仕組みであったと言えるのではないだろうか。

    5. お わ り に

     本稿でまず着目したのは,日本の昇進構造がアメリカの昇進構造とは異なる独自の特徴をもっている点である。その独自の特徴としては,昇進競争が長期にわたっている点,いくつもの競争原理がキャリア段階に応じて使い分けられている点,そしてそれを支えるために職位と職能資格制度という 2本の職階から成るデュアル・ラダー型昇進構造になっている点を確認することができた。 次に,このような日本独自の昇進構造が構築された理由を昇進が果たす機能の観点から考察した。その結果,日本の昇進構造は,「選抜」や「動機づけ」の機能だけでなく「能力開発および育成」の機能も果たしていることが確認された。即ち,日本企業の昇進構造にもアメリカ同様の厳しい競争原理が取り入れられているが,アメリカと異なるのは「選抜」ルールをキャリアの段階に応じて変化させ,かつ「選抜」による差を徐々につける点にある。これにより,長期にわたりキャリア・プラトー現象の表出を防ぐと同時に,同期という比較準拠集団を意識させることで,勝者に対しては同期に追いつかれないように煽り,敗者には敗者復活の可能性を煽ることで,多くの従業員が長期にわたり「動機づけ」られることになる。それに加え,僅かな差をつけることは,徐々に「能力開発」の場を与えることでもあり,従業員は自分の能力を生かせる場を獲得するよう「動機づけ」られることにもなる。日本企業ではこのような独自の昇進構造を構築することで,「選抜」という

    25 この点については,Gibbons and Murphy (1992)がキャリア・コンサーンとして示している。キャリア・コンサーンとは,間接的なインセンティブ効果を示しており,現状での業績や努力が今すぐに直接的な報酬(インセンティブ)としては返ってこないが,将来における昇進見込みや将来における給与などの形で今後の業績や昇進に反映されるかもしれないという期待をもつことで間接的にインセンティブとして機能するというものである。

    26 岩田(1977)の指摘した日本人の心理性が,「組織の内部に,金銭よりも地位と承認を求めて激しく競い合うという行動形態を生み出している」とも合致する。

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    櫻田 : 日本的昇進構造が果たした役割の再確認

    企業の効率に関わることを達成しながらも,多くの従業員を「育成および能力開発」し「動機づけ」ることに成功したのである。 しかしながら,この巧妙な昇進構造は,高度経済成長期が終わる頃から,これまでのようには機能し得なくなったことが,先行研究が対象とする時期に着目したことで,より明確にみてとれた。特に,管理職ポストへの昇進で担ってきた「動機づけ」や「選抜」そして「育成」を職能資格制度を利用することで維持しようという方法が 1970年代後半以降顕著にみられた。具体的には,従来緊密に結びついていた役職と資格階層を分離し,役職階層で「選抜」を行いながら指揮命令系統を明確にし,それに対し資格階層を細分化することで能力によって少しずつ企業内での序列を昇り,かつ同期間で相対的な序列を意識することで「育成および能力開発」と「動機づけ」を補うという役割分担を行うという方法である。これにより,たとえ役職階層においてプラトー現象が生じても資格でプラトー化しないように運用したことが指摘できる。つまり,デュアル ・ラダーによる日本独自の昇進構造を構築することで,高学歴・高齢化と安定成長期というキャリア・プラトー現象を発生させる要因が生じてきた時期においても,キャリア・プラトー現象を表出させることなく乗り切ることができた。 このように高度成長期から安定成長期にかけての時期には有効に機能したデュアル・ラダーによる昇進のインセンティブ・システムであったが,1990年代以降更に深刻化する経済の低迷や従業員の高学歴化等が進行するにつれ様々な課題を生むことになる。例えば,当初は役職昇進階層で生じていた指揮命令系統の混乱や人件費の高騰,従業員のモティベーションの低下という問題を,資格制度そのものが抱えることとなる。これは,職能資格制度を用いたデュアル ・ラダーによる日本型昇進インセンティブ・システムでも,キャリア・プラトー現象を解消するのが難しくなったことを表している。その結果が,管理職相当の高資格を有しているにもかかわらず職位につけない管理職(八代が「役職につかない管理職」として捉えた現象)の増大やキャリア・プラトー現象の表出化をもたらしたと考えられる。以上のことから,日本企業において,昇進におけるキャリア・プラトー現象を検討する際には,職位階層だけではなく,資格等級制度にも着目して検討する必要性がある。 更に,本稿での議論を通じて,いくつかの論点が浮かび上がってきた。第一に,企業内の制度を検討する際に,外的な要因をどれだけ勘案すべきなのかという点である。これまで,企業内の人的資源管理の仕組みは,企業の内部の事情により焦点が当てられて議論される傾向があるが,外的環境の影響も含めながら捉えることで,より企業内の制度の意味が明確になることもある。例えば,本稿では経済などの企業の外的環境の変化も企業内の制度に影響を与えることが,職位と資格の関係から看取された。また,日本において昇進における新たな問題としてキャリア・プラトー現象が表出した理由を考えるにあたっても,この外的環境としての経済状況との関係を含めて検討したことで,経済状況に応じてキャリア・プラトー現象への対応の仕方が変化していたことがより明確になった。それによって,キャリア・プラトー現象は,2000年以降急に表出した問題ではなく,この問題の根幹は高度経済期以降,即ち 1970年代後半から実は徐々に日本企業内に生じていた課題に起因するものであると考えることができた。 第二に,企業や組織を取り巻く状況は大きく変化しており,今後も継続的に新たな昇進構造や新

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    たなインセンティブの仕組みを検討する必要があるが,その際に従来の仕組みとの継続性をそれだけ考えるかという論点である。例えば,昇進や賃金においてより明確な形での成果を求める成果主義賃金や役割等級制度,年俸制の導入などが実施されている。また,画一的なキャリアではなく自己選択型のキャリアの構築も促されている。そこで,これらの新たな人事制度を検討する際に,これまで日本的経営の中で蓄積されてきた要因や関係性をどれだけ残しながら変革するかというバランスを考える必要がある。この点は,それぞれの立場や見方によって,バランスの取り方は多様であるとは思うが,グローバル化への対応が求められる現代だからこそ,日本企業においてこれまで培ってきた独自性および強みを再認識し,それを生かす形での新たな経営スタイルを構築することが,企業の差異化を促し,日本企業の競争力を高めることにつながるのではないだろうか。

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