二人称代名詞「あなた」に関する一考察: 国会議事録の分析 …...the hearer...

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1 二人称代名詞「あなた」に関する一考察: 国会議事録の分析を通して * Yoko Yonezawa, The Australian National University [email protected] 要旨 This study aims to investigate the use of the second person pronoun anata 'you' in Japanese parliamentary discourse. Previously in the literature of Japanese linguistics, the function of anata has been treated in a contradictory manner: It is viewed as ‘polite’ (or ‘neutral’) in some studies, while it is seen as impolitein others. Many researches point out that in daily conversation anata is often avoided since its use is a matter of great delicacy. Contrary to the infrequent use of anata in daily conversation, Parliamentary discourse gives us an abundance of examples. This study analyses three different environments in the data drawn from the database ‘Diet Conference Minutes Retrieval System’. The first case is where anata is selected in reported speech to refer to non-specific individual in the described situation. Second is the occurrence of anata in aggressive debates. The third case is where anata is used together with a conventionalized address term such as Prime Minister. From analyzing the discourse, I draw the hypothesis that anata is a particular Japanese personal pronoun which does not index the social status of the hearer but absolutely specifies the second person in the conversational situation. It is the norm in Japanese society that the speaker indexes the relative social status with the hearer when addressing the second person (i.e. hearer). This study will demonstrate the use of anata to indicate the absolute specification of the hearer without implying the relative social status with the speaker and because of this property anata can be perceived as both positively and negatively. In addition, I will discuss the use of anata as an interpersonal involvement cue. キーワード あなた、純粋無色の二人称代名詞、社会的関係の非表示、コンテクスト、日本文化 1. はじめに 本稿の目的は、現代日本語における二人称代名詞「あなた」の本質について、国会議 録の会話データをもとに考察することである。日本語の人称詞は数が多く、話者は聞き * This paper was presented to the 18th Biennial Conference of the Japanese Studies Association of Australia at the Australian National University from 8th to 11th July 2013 and has been peer-reviewed and appears on the Conference Proceedings website by permission of the author who retains copyright. The paper may be downloaded for fair use under the Copyright Act (1954), its later amendments and other relevant legislation.

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二人称代名詞「あなた」に関する一考察:

国会議事録の分析を通して*

Yoko Yonezawa, The Australian National University

[email protected]

要旨

This study aims to investigate the use of the second person pronoun anata 'you' in Japanese

parliamentary discourse. Previously in the literature of Japanese linguistics, the function of anata

has been treated in a contradictory manner: It is viewed as ‘polite’ (or ‘neutral’) in some studies,

while it is seen as ‘impolite’ in others. Many researches point out that in daily conversation anata

is often avoided since its use is a matter of great delicacy.

Contrary to the infrequent use of anata in daily conversation, Parliamentary discourse gives

us an abundance of examples. This study analyses three different environments in the data drawn

from the database ‘Diet Conference Minutes Retrieval System’. The first case is where anata is

selected in reported speech to refer to non-specific individual in the described situation. Second is

the occurrence of anata in aggressive debates. The third case is where anata is used together with

a conventionalized address term such as “Prime Minister”. From analyzing the discourse, I draw

the hypothesis that anata is a particular Japanese personal pronoun which does not index the

social status of the hearer but absolutely specifies the second person in the conversational

situation. It is the norm in Japanese society that the speaker indexes the relative social status with

the hearer when addressing the second person (i.e. hearer). This study will demonstrate the use of

anata to indicate the absolute specification of the hearer without implying the relative social

status with the speaker and because of this property anata can be perceived as both positively and

negatively. In addition, I will discuss the use of anata as an interpersonal involvement cue.

キーワード

あなた、純粋無色の二人称代名詞、社会的関係の非表示、コンテクスト、日本文化

1. はじめに

本稿の目的は、現代日本語における二人称代名詞「あなた」の本質について、国会議

録の会話データをもとに考察することである。日本語の人称詞は数が多く、話者は聞き

* This paper was presented to the 18th

Biennial Conference of the Japanese Studies Association of

Australia at the Australian National University from 8th to 11th July 2013 and has been peer-reviewed and

appears on the Conference Proceedings website by permission of the author who retains copyright. The

paper may be downloaded for fair use under the Copyright Act (1954), its later amendments and other

relevant legislation.

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手との社会的上下関係や年齢、距離などを考慮しながら人称詞を使い分けなければなら

ないということがよく知られている。様々な人称詞の中で、現代日本語の二人称代名詞

には「あなた」「おまえ」「きみ」「あんた」「きさま」などがあるが、これらの中から本

稿では「あなた」に焦点を当てて考察を進める。

興味深いことに、現代日本語における「あなた」の本質について、先行研究の中に矛

盾する見方が存在し、辞書の定義にもゆれが見られる。例えば、柴谷 (1990)、 金丸 (1997)

では「あなた」はフォーマルな言い方だと見做しているのに対し、三輪 (2005, 2010)、金

井 (2003, 2012) などでは失礼な言い方だとしている(先行研究に関する詳細は第2節を

参照)。しかし、なぜ一つの人称詞「あなた」という言葉に対し、このような相反する二

つの見方が存在するのかという点に関する明確な説明はなされていない。本研究では、

「あなた」の本質を考察するにあたり、この相反する二つの見方の解明も試みる。

筆者は本研究にとりかかる以前、考察のために日常的な自然会話が録音されたデータ

を概観した。ところが日常会話のデータにはあまり「あなた」を使う例が見つからず、

違うタイプのデータを見ていくうちに、国会議事録に「あなた」の使用が多くみられる

ことを発見した。そして、国会討論の会話データにおける「あなた」の使用環境を調べ、

現代日本語における「あなた」の性質について一つの仮説を立てるに至った。本稿では、

筆者が現段階で考える仮説について、実際に議事録に見られる使用例を挙げながら考察

を進めていきたい。

本稿の構成は次のとおりである。まず、次の第2節では「あなた」に関する先行研究

について述べる。第3節では国会議事録の特徴と、会話データとしての限界などについ

て簡単に触れる。第4節で国会議事録における「あなた」の使用環境を記述し、さらに、

なぜこのような環境に「あなた」がよく現れるのかについての考察を第5節で行う。そ

こで、筆者が仮説とする、現代日本語における「あなた」の本質について、一考察を述

べたい。

2. 先行研究

日本語人称代名詞の先行研究の中で、「あなた」という言葉のみに焦点を絞って総合的

に論じてあるものは、筆者の知る限り見当たらない。「貴様」については、辻村 (1968) が

この語に絞って歴史的な変遷を研究しているが、「あなた」はたいてい、いくつかの人称

詞とともに、または人称詞全般に関する論考の一部として言及されている。

興味深いことは、これらの先行研究には、「あなた」について、矛盾する二つの見方が

存在するということである。一つ目は、「あなた」は、どちらかというとフォーマルな人

称代名詞に属するか、あるいは標準的な二人称代名詞だというものである。こちらの見

方では、「あなた」は、ある程度敬意があり、使って失礼な言葉ではないという位置付け

になる。例えば、金丸 (1997: 17) は、「『アナタ』は、男女共通にフォーマルな場面で用

いられる」と述べている。柴谷 (1990: 371) はその著書で、一・二人称代名詞の敬意度を

表で示しているが、「きみ」「おまえ」「あんた」をインフォーマルなものと位置づけ、「あ

なた」は一人称の「わたくし」と同程度の、非常にフォーマルな人称代名詞として位置

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づけている。また、1952 年に国語審議会から出された建議『これからの敬語』には、「人

を指す言葉」として「『あなた』を標準の形とする」とあり、「あなた」は、それなりに

礼のある標準的な言葉として扱われている。

もう一方の見方とは、「あなた」という言葉には失礼さが伴うというものである。それ

ゆえにまた、使いにくく、避けられる傾向にあると言われる(鈴木, 1973: 三輪, 2005, 2010;

金井, 2003, 2012)。鈴木 (1973: 132) は、「たとえば自分の両親、兄や姉のような、家の中

のいわゆる目上の人に、『あなた』のような代名詞を使う人は先ずいないだろう。学校の

先生や、会社の上役と話す時も、先生とか課長(さん)などと言って、『あなた』とは普

通言わないものだ」と述べており、その他にも、多くの研究者が特に目上や社会的上位

者に向かって「あなた」が使えないことを、また使ってしまうとどうしてもどこか失礼

さを帯びてしまうことを論じている。

「あなた」の使用が失礼になる理由として、それが対話の相手という役割を指すとい

う直示の言葉であるがゆえ、直接的すぎるというものがある (金井, 2002: 三輪, 2005:

他)。例えば三輪 (2005: 70) は、「あなた」の持つ直示性は、ほかの人称代名詞とともに、

直接相手を指で差すような失礼さを持つと述べている。直示の機能は「あなた」に限ら

ず「きみ」や「おまえ」にしても同様であるので、二人称代名詞とされるものはすべて

目上には使用できないとする記述もある (田窪, 2003)。しかし「あなた」は、聞き手が同

い年や年下だからといって自由に使えるというわけでもない。「あなた」はいつどのよう

な時に使うことができ、またそれはなぜなのか、という点に関する理由はまだ明らかに

なっていない。

この点に関し、鈴木 (1973: 132)は、どこか矛盾する記述を残している。鈴木は、「あ

なた」は「きみ」「おまえ」「きさま」などと比較すると「敬語とまでいかずとも、品の

良いことばと受け取られているにもかかわらず、実際には目上に向かって使いにくいこ

とばなのである」と述べており、ここでその矛盾はなぜなのかという疑問が残る。先に

あげた柴谷 (1990) も、実はこれらの二人称代名詞のどれも、社会的に上位に当たる聞き

手には適当ではなく、同等か下位の者に使用するとしているが、その明確な理由は述べ

られていない。柴谷では、「きみ」「おまえ」「あんた」などはインフォーマルとして位置

づけられているため、これらの人称代名詞が社会的上位者に使えないというのは納得が

いくが、「あなた」だけは言葉としてはフォーマルなレベルに位置づけられながら、実際

は上位者には使えないとなると、やはりなぜだろうと考えざるを得ない。

以上、現代日本語の「あなた」の使用に関して、相反する二つの見方が存在すること

をまとめた。ここでまず思い浮かぶ疑問は、なぜ一つの言葉が、このように違った認識

を生み出すのかということである。先行研究でこの疑問を提議し解決案を提示したもの

は、筆者の知る限り見当たらない。先行研究の最も根本的な問題は、「あなた」という言

葉を敬意と直接的に関連づけ、「あなた」そのものに敬意があるかないか、あるいは「あ

なた」を誰に使うと失礼になるかといった、敬意の程度という観点から「あなた」の本

質をとらえようとしたことにある。これは、辞書での扱い方においても同じ事が言える。

例えば、陣内 (1998: 48) は「あなた」の敬意度に関連する辞書の記述は、3つのタイプ

に分かれると述べている。「敬意があるとするもの」「敬意がないとするもの」そして「従

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来は敬意があったが、近年それが薄れたとするもの」である。3つのタイプの違いはさ

ておき、やはりここでも「あなた」に対する解釈は、主にこの言葉の持つ「敬意」の程

度という観点からなされている。

本研究は、「あなた」そのものに、あるレベルの敬意が内在するという観点を離れ、そ

れが使われるコンテキストを重視しながら「あなた」の本質について考えるものである。

そして、その本質と関連し、前述した相反する認識を生み出すメカニズムについて考察

を進めたい。

3. 会話データとしての国会議事録

分析に入る前に、会話データとしての国会議事録について少し言及しておきたい。国

会議事録はその名のとおり、国会の会議録で、終戦直後より現在に至るまでの国会の膨

大な会話記録である。2001 年よりインターネット上で「国会議事録検索システム」とし

て、国民がいつでも情報を入手できるように公開されており、資料の量、アクセスのし

やすさ、どれをとっても、日本語を研究する者にとって非常に有難い資料である。松田

(2008: v) はこのシステムを、言語研究者にとっての「夢のデータ」だと述べた。松田は

更に、これを実際に研究に使用するに当たっては、データの性格を知ることが重要であ

るとし、実際の発言から議事録に至る整文作業の分析を試みている。

そこで問題になるのは、この議事録が、実際の討論を一言一句違わず記録しているか

という点である。日本の外では、例えばイギリスにも議会の議事録 Hansard があるが、

これについて Ilie (2001) は、Hansard は完全な verbatim (一言一句そのままであること) で

はないという事実を指摘している。実は日本の国会議事録も同様で、完全な verbatim で

はない。松田 (2008) によると日本の国会議事録では「不規則発言」、つまりいわゆる「や

じ」が削除されていたり、「不穏当」とされる発言も取り消されていることがある。「不

穏当」な発言とは、例えば吉田茂首相のバカヤロウ発言、青島幸雄議員の男めかけ発言

などとされているが、発端となった発言自体は記録から削除されていても、後続する論

戦の中でその発言を取り上げる際はこの限りではないということである。その他、加工

に当たっての誤字脱字、言い誤り、フィラー、冗長性などといった自然談話的特徴が修

正されていることもある。松田 (2008: 25) はこのようなことから、国会議事録は口語的

特徴を多分に残しているとしながらも、「話し言葉と書き言葉の中間的性格を持つものと

位置づけるのが正しい」のではないかと述べている。しかし同時に、例えば国会議事録

によるフィラーや言い誤りの研究は無理であっても、国会議事録を使用しての談話分析

は様々な次元で可能であり、研究の種は無数にあるとも述べている。そして、呼称の研

究は無数の研究可能性の一つとして言及されている。

本研究では、平成二十四年六月から平成二十五年二月までの議事録を分析の対象にし

ている。以下、国会議事録の中で「あなた」がどのように使用されているかを見ていく。

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4. データに見られる「あなた」の使用環境

ここではまず、実際に国会議事録に現れる「あなた」の使用環境についてまとめる。

三種の使用環境が観察される。一つ目は「あなた」が引用句の中で使用される場合、2

つ目は、批判的な発言、対立的な議論において使用される「あなた」、3つ目は、慣例的

な役職名で相手を呼びつつも「あなた」を更に追加的に使用する場合である。これらの

使用環境は、「あなた」の本質を知る上で重要な示唆を与えている。

4.1. 引用句内の「あなた」

政治家が国会で何らかの制度や状況を説明しようとしたり、実際の、あるいは想定さ

れる場面を描写しながら発言を進めていく際に、「あなた」が引用句内で頻繁に使用され

る。例えば (1) は、議員 K の発言であるが、K は、東日本大震災の被災地を視察に訪れ

たとき、瓦礫処理の作業現場に人々が集まって、予想外に明るく作業をしている様子に

感銘を受け、そのときのことを描写している。

(1) K: 被災した自分たちの状況とか実情なんかをお互いに共有できるというんですね。

ああ、あなたもそういう津波を経験しましたか、あなたもですか、ああ、あな

たはおばさんを亡くして、私は身内をこういうふうに亡くしてと、そこでいろ

いろな話ができるんですね。

(参議員決算委員会: 2012 年 08 月 27 日)

この発話の中には「あなた」が三度出てくるが、どれも引用句の中で使用されている。

ここで引用句といっても、実際に誰かが全くこれと同じような発言をしたということで

はなく、議員 K が場面の状況をビジュアル化する手段として「会話風」の描写をしてい

るのである1。この中の「あなた」は、名指しできる特定の個人ではない。描写された場

面の中の、つまり作業現場に集まった被災者の中の「誰か」である。三つの「あなた」

はどれも違う人を指しているが、それらは言ってみれば単に人物 A、人物 B、人物 C を

表すという働きをしている。

次の例の「あなた」は、さらに一般化された人を指す。例 (2) は、議員 T が貸金業法

の総量規制について発言した時のものである。

(2) T : もっと厳しいのは実は総量規制でありまして、大体、経済人として人間はそれ

なりのパーソナリティーを持っているわけですから、あなたは幾らまでしか借

りられませんよと限定するのは極めて人権侵害じゃないかと思うぐらいちょっ

とひどい法律であると思いますが、

(衆議院財務金融委員会: 2012 年 6 月 15 日)

1 このような引用の方法についての詳細は、鎌田 (2000) や Tannen (1986) の “constructed dialogue” の研究

を参照されたい。

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ここでも「あなた」は引用句の形の中で使われているが、これも実際の会話ではなく、

個人がお金を借りる際にその総量に規制がある、という法律の条文を「会話風」にして

説明しているだけである。ここでの「あなた」は、人一般を指しているといってもいい

であろう。顔のない単なる「ある人」である。

このような「あなた」の使用例は、過去の研究では詳細に検討されていない。しかし、

この用法は「あなた」の性質を考える上で、非常に重要な意味を持っている。鎌田 (2000)

は、日本語における直接引用句を表示する要素として、「です・ます」や終助詞の使用と

共に、人称詞の使用も挙げているが、(1) や (2) の例は、「あなた」が直接引用の開始を

表示する機能を果たしている。その際、注目すべきことは、「あなた」はただ純粋に、想

定された場面の、誰と特定できない「二人称」を何の含みもなく指し示しているだけだ

ということである。

世界には、英語でいう ‘you’ に当たる二人称代名詞が、不特定の誰か、または不特定

多数の人々を表す用法を持つ言語がある。こういった用法は ‘impersonal you’, ‘generic

you’, ‘indefinite you’ などと呼ばれる (Laberge and Sankoff, 1979; Kitagawa and Lehrer,

1990)。Kitagawa and Lehrer (1990) によると、これらの用法を持つ言語には、英語をはじ

め中国語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ペルシャ語、現代ヘブライ語、Gulf Arabic

と呼ばれるペルシャ湾岸で話されるアラビア語の一種などがあるということだ。これら

の言語は、二人称代名詞の数が少なく、簡単に新しいものを加えることができない「閉

じたクラス」の人称詞を持つ言語だとされている。反対に、日本語や韓国語など、「開い

たクラス」の人称代名詞を持つ言語には、二人称代名詞の impersonal な用法はないとさ

れている(Kitagawa and Lehrer, 1990)。しかし、そうであるならば、 (1) と (2) で見たよ

うな引用の中で使われる「あなた」をどう解釈すればよいだろうか。引用という特別な

環境下ではあるが、やはりこれらの「あなた」は impersonal な用法と言わざるを得ない。

こういった用法の「あなた」からは、想定上の話し手と聞き手との社会的な関係性を特

定することはできない。これは日本語の「あなた」が、英語の ‘you’ のように「ただ純

粋に二人称を指し示す」のみの機能を有する可能性を示唆する。この可能性を念頭に入

れて、次の使用環境を検討する。

4.2. 批判、非難、対立的な議論で使われる「あなた」

国会という場は、その性質上、議論がたびたび対立的になる。相手を批判する際や、

議論が白熱して激論になり、喧嘩腰ともいえるような対話になる時さえある。こういっ

た批判的な発言や議論の場に「あなた」はよく現れる。まず例 (3) (4) を見てみよう。(3)

は、議員 Y が国務大臣に、円高対策について詰めた質問をしているときの発言である。

いくつかの質問に対し、国務大臣からは「為替の相場観についてはコメントを差し控え

たい」「いろいろな見方があると思う」などという煮え切らない返事が返ってくるため、

Y は苛立ちを隠せない。

(3) Y: いろいろな見方をきいているんじゃない、あなたの見方を聞いているんですよ。

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ほかの人の見方なんてどうでもいい。

(衆議院財務金融委員会: 2012 年 11 月 7 日)

(4) は、諫早干拓事業が海苔漁業に与える悪影響についての議論の中で、激昂した議員 I

が国務大臣政務官に向かって放った発言である。

(4) I: 何を言っているんですか、あなたは、寝ぼけたようなことを!

(衆議院農林水産委員会: 2012 年 11 月 8 日)

(3)、(4) の「あなた」は、実際の対話における特定の相手を指しており、どちらも一議

員が大臣を感情的に非難しているケースである。先にも述べたように、国会討論では、 聞

き手を強く批判したり、聞き手側の過ちを非難したり、相手の責任を明確にしようとし

たりする発言が非常に多い。たとえ口調が淡々としていてもその内容はしばしば相手の

責任追及や非難である。このような場面で「あなた」は典型的に現れる。それはなぜか。

先に 4.1.では、「あなた」に impersonal な用法があることを示した。そしてこの事実に

よって、日本語の「あなた」が英語の ‘you’ のように、ただ純粋に対話の相手、つまり

二人称を指し示すだけという性質をもっている可能性を示唆した。「あなた」のこのよう

な性質は、批判・非難・激論の際にこの言葉がよく現れることの根拠ともなりうる。つ

まり、例えば激昂すれば、発言者の態度は、相手が総理大臣であろうがなんであろうが、

そんなことは関係ない、といったものになるだろう。また、たとえ一見淡々と発言して

いても、聞き手に対する批判、非難、責任追及などの発話行為そのものが、話者の「与

えられた社会的上下関係はこの際無視して言わせてもらう」という態度を含む。こうい

った場合、「大臣」や「総理」など、役職や地位など諸々の社会関係を担っている慣例的

な呼称より、社会関係を明確に示さない「単なる二人称」を示す「あなた」を使用する

方が、聞き手との上下関係を顧みず、あるいは戦略的に無視し、言うべきことは言うと

いう態度表明にふさわしい言語手段になるのである。

4.3. 聞き手の役職名と共に使用される「あなた」

以上、「あなた」が二人称代名詞として単独で使用される例を検討した。ここでは「あ

なた」が、役職名を使った呼称と共に使用される例を見ていく。(5) では、議員 S が、

官邸前の国民デモに、与党の総理経験者が参加しマイクをもって政府を批判している光

景を奇異に思ったと述べ、国務大臣にも意見を聞いている。(6) は議員 O が総理大臣に

原発に関する決意を問うている場面である。

(5) S: 枝野大臣、あなたはこの風景を見て、どういうことを感じましたか。

(衆議院経済産業委員会: 2012 年 8 月 3 日)

(6) O: 安部総理、あなたに原発を使わない日本再生の決意がありますか。

(参議院本会議: 2013 年 2 月 1 日)

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先に述べた先行研究の多くは、日本語において社会的上位者に対しては、「あなた」など

の人称代名詞の代わりに先生や課長などの役職を使うのが普通だとしている。例えば鈴

木 (1973: 155) は、「自分の先生や上役を『あなた』のような人称代名詞で呼ぶことはで

きない」と述べ、社会的に上位の人に対しては、「先生とか課長といった地位名称で呼ぶ

こと」が「普通」であるとしている。ここに挙げた (5) や (6) の例では、話者は一旦、

慣習に則って、「枝野大臣」「安部総理」と呼びかけながら、更に「あなた」を使用して

いる。これをどう解釈すればよいだろうか。

Spry (2005: 11-12) は、ある種の人称詞は「聞き手が抱いているかもしれない、自分の

方が上なのだという考えを取り除く意図」で使われると述べた。これらの例で、聞き手

は誰が見ても客観的にその社会的な地位がたいへん高い「大臣」や「総理」であり、常

識的には一議員より地位的に上位である。しかしここで一議員が「あなた」を使用する

ことによって、聞き手のほうが上なのだという認識を取り除く働きをしているといえな

いだろうか。

このように上記の例では、話し手は、社会から求められる、聞き手の社会的地位をは

っきりと示す規範的な呼称、自分と相手の上下関係を明確に示すことになる言葉を一旦

使用しつつ、直後には、一旦言及した社会的上下関係を「あなた」の使用によってリセ

ットしている。これは「あなた」という言葉に、諸々の社会的上下関係や社会的な地位

を取り外して、純粋に対話の相手という存在のみを指し示す性質があるからこそ可能に

なると考えられる。更に文末を見ると、どちらの例文も聞き手の感覚や決意を問うてい

る。慣例的な呼称と「あなた」の両方を使用することによって、前者では話者が聞き手

の社会的な位置を認識していることを示しつつ、後者ではそれを取り払った一人の人間

としての意見を聞きたいという話者の態度を表現しているのである。

5. 考察:純粋無色の二人称代名詞

ここまでは、国会討論において「あなた」が現れる言語環境を見てきたが、ここから

は現代日本語の「あなた」が有する根本的な性質について考察する。

5.1. 「あなた」の使用と文化的コンテクスト

すでに何度か言及したように、本稿では「あなた」は対話における純粋なる二人称を

指し示し、社会的関係を「示さない」二人称代名詞だということを示唆してきた。「あな

た」を特徴づけると、「純粋無色の二人称代名詞」ということになる。ここで「純粋無色」

とは、つまり、話者と聞き手の社会的な関係性を表示せず、ただ対話という言語活動に

おける他者を指すということで、言わば英語の ‘you’ のような性質である。

ではなぜ、このような「あなた」という言葉が、英語ではあらゆる場面で単に対話の

相手を指すだけの機能として使用できるのに、日本語では容易に使えないのか。また、

先行研究で見られるように、なぜフォーマルな言葉だと言われたり、失礼になる語だと

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言われたりと、相反する形で認識されるのであろうか。このメカニズムについては、純

粋な人称詞としての「あなた」の本質を、日本語人称詞の使用に関する規範との関係で

考えると解明出来る。

井出 (2006) は、「わきまえ」という概念2を用い、日本語の人称詞の使い方について、

次のような例を挙げて説明している。

社会の中で、学校あるいは大学の教師たち、医者、政治家などを「先生」と呼ぶ

が、それは、その人たちを尊敬しているから呼ぶのではなく、そのようにするも

のだから、呼ぶというものであろう。その社会がそのようにすることを期待して

いるので、それを使わなければ、わきまえに反する。そこで、慣例に従わないで

失礼となることのないようにする。そのような効果のポライトネスがわきまえの

ポライトネスである。

(井出, 2006: 73)

また、人称詞の使用基準については、鈴木 (1973: 180-187) が明解に示したように、日

本社会では、目上に対して家族内なら「お父さん」などの親族名称や、社会の中では「部

長」「先生」などの役職名を使うなど、「日本語の自称詞および対称詞は、対話の場にお

ける話し手と相手の具体的な役割を明示し確認する」ことが期待される。鈴木はさらに、

その役割で重視されるのは上下の人間関係であると述べたが、こういった主に上下を示

す話し手と聞き手の社会的な関係を人称詞によって明示的に指し示していくことは、日

本という社会が期待するわきまえとしての言語使用を行っているということになる。

そうであるなら、聞き手の社会的上位を明示することが期待される関係、例えば教師

と生徒の関係、上司と部下の関係などで、話者と聞き手の社会的関係を「表示しない」

性質を持つ「あなた」を使用し、聞き手を純粋に対話の相手としてのみ指し示すことは、

文化社会的な期待として表示されるべきものを、あえて表示しないという言語行為を明

示的に行うことになる。結果として、ここでの「あなた」の使用は、期待される関係性

を瞬間的に断ち切るかのような行為となり、それゆえに失礼だと認識されてしまうので

ある。

国会では話し手と聞き手の社会的地位は明らかであり、「総理」「大臣」「委員長」など

ど相手を呼ぶことは慣習にかなっている。一議員が一国の首相や大臣を「あなた」と呼

ぶのは通常の会話では失礼であり、普通はないことであろう。しかし国会の中ではこう

いった例が多く見受けられる。前述したように、国会討論という場はその性質上、議論

が対立的で発言はしばしば相手の責任追及、批判、非難といったものになる。こういっ

た場では、相手との社会的関係を無視してただ純粋に対話における他者を指すことがで

きる「あなた」は、そのコンテクストにふさわしく、議論の瞬間瞬間に、典型的に現れ

るのである。それはある時は話者の戦略的なものであり、ある時は瞬間的な感情の表出

の結果である。

2 「わきまえ」の概念は英語の訳語は ‘discernment’ となるが、世界の言語学界では wakimae と日本語か

らの借用語として知られている。

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国会を離れて日常生活の会話に目を向けると、例えば子供が親に向って「お父さん/お

母さん」「パパ/ママ」などの親族呼称を使わず、関係性を示さない「あなた」を使った

なら、それは相手を遠ざける冷たいよそよそしい表現として解釈されるだろう。「あなた」

はここではまるで親子の関係を断ち切るかのような働きをする。また、小さな子供を「ケ

ンちゃん」などといつも名前で呼んでいる親が急に「あなた」を使った場合、どこか改

まったフォーマルな響きを持つということにもなろう。さらに家族外でも、例えばさん

付けで呼んでいる男女が「あなた」を使用することによって、これまでの関係のリセッ

トを指標し、それが恋愛の始まりとなる「感情ことば」(メイナード, 2001)3として機能

することもあろう。この場合「あなた」は親愛を表す言葉として認識される。

以上述べてきたように、「あなた」に対する相反する見方は、こういったメカニズムに

基づく認識の違いだといえるのではないだろうか。純粋無色の二人称代名詞「あなた」

を使用すると、コンテキストによりそれは失礼にもなり、フォーマルなニュアンスにも

なり、あるいは親愛の表現にもなる。前述したように、先行研究が抜け出せなかった問

題は、「あなた」を直接に敬意の程度と結びつけて定義しようとしたことにあったのであ

る。

純粋無色の二人称代名詞という仮説は、その他諸々の「あなた」の使用についても一

貫した説明を可能にする。例えば、不特定多数の人に向けて広告やコマーシャルなどで

使われる「あなた」、裁判などで被告や証人などに対して使われる「あなた」などである。

裁判の場などでは被告の社会的地位を示す必要はないものと認識できる。こういった「あ

なた」の使用法も、この二人称代名詞が、話し手と聞き手の社会的関係を示さない性質

を持つがゆえに、可能になるのだといえる。

5.2. 聞き手からの関与を高めようとする働き

ここでは、「あなた」の使用と、話者が聞き手に求める関与の程度との関係について述

べる。日本語は主語の省略が起こる言語であり、会話の中で、一人称二人称は特によく

省略される。日本語においては、主語や人称の認知は、敬語や感情動詞の人称制限など

日本語独特のルールにおいてなされるため、主語はそもそも明示されないほうがむしろ

一般的傾向で、逆に一人称二人称が省略可能な部分で、あえてそれらを明示的に示した

ときこそ、発話に何らかの影響が加わる4。

Arndt and Janney (1987) によると、発話の中に対話の相手が言及されるとき、そこには

相手からの involvementを高めようとする働きが生まれるという。InvolvementとはTannen

(1989; 12) の定義では “an interactional, even emotional connection individuals feel, which

binds them to other people as well as to places, things, activities, ideas, memories, and words”

「個人が他の人間、場所、事物、行為、概念、記憶、言語、などにたいして感じる内面 3 メイナードが情意に焦点を当てた言語学の可能性を論じたものとして『情意の言語学―「場交渉論」と

日本語表現のパトス』(2000) を参照されたい。 4 筆者は過去、文法的に一人称・二人称を省略するのが一般的傾向である箇所で、なぜあえて話者が人称

を明示的に表現するのかといった、日本語人称詞の「明示」の側面に着目し、その語用論的な意味を考察

した。詳細は Lee and Yonezawa (2008) を参照されたい。

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的、感情的つながり」(メイナード訳)となっている。

二人称の明示は、このような対話の参加者の感情的関わりを高めようとする機能があ

るといえる。ただどのような二人称詞を使うかによって話し手が聞き手に求める

involvement がどのような意味で高められるのかが違ってくる。本稿で先に挙げた例を、

ここでもう一度挙げて考察する。下の四つの例を比べてみてほしい。(Ø は二人称の省略

を示す)

(5a)’ Ø Ø この風景を見て、どういうことを感じましたか。

(5b)’ 枝野大臣、 Ø この風景を見て、どういうことを感じましたか。

(5c)’ Ø あなたは この風景を見て、どういうことを感じましたか。

(5d)’ 枝野大臣、 あなたは この風景を見て、どういうことを感じましたか。

他に involvement に関わる言語行動(例えば、音量や話し手の表情、視線など)がな

いという前提で、聞き手からの involvement を希求する程度が最も低いのは二人称代名

詞を省略している (5a)’である。(5b)’ と (5c)’ では、(5b)’ で話者は慣例に則った呼称「枝

野大臣」を使用し、(5c) は人称詞の「あなた」を使用しているが、involvement という観

点からは、大まかなところ、その程度はほぼ同じぐらいだと言えよう。最後に(5d)’ では、

「枝野大臣」と聞き手の注意を寄せた直後に「あなた」を使用することで、二重に

involvement を高めているということになる。

6. おわりに

本稿では国会議事録の中に見られる二人称代名詞「あなた」の使用環境を見ることに

より、現代日本語における「あなた」の根本的な性質とは何かについて考察した。要点

をまとめると次のようになる。

過去の研究には「あなた」に対して異なる見解が存在する。一方ではフォーマルな語、

またある程度の敬意があり標準的に使える二人称代名詞だという見方があり、もう一方

では、「あなた」は使用すると失礼になる言葉であるという見方がある。これらの矛盾す

る見解を生みだす「あなた」の根本的な性質について筆者は本稿で仮説を示した。その

仮説とは、「あなた」は「純粋無色の人称詞」であり、純粋に対話の相手つまり二人称を

指し示すのみの働きをし、相手との社会的関係を表示しない性質を持つというものであ

った。

この仮説を用いることにより、「あなた」がなぜ議事録に見られたような言語環境――

例えば引用句に見られるような「あなた」の impersonal な使い方、相手を非難したり議

論したりする際に、相手と自分との社会的関係を顧みない態度を表明する用法など――

に現れやすいかが説明可能になったと考える。

また本稿では、英語の 'you' のような性質とも言える純粋無色の二人称代名詞を日本

文化のコンテクストで使用すると、異なる効果を生み出してしまうということを示した。

日本語使用にあたっては、話者と聞き手の社会的な関係性を言語で明示的に表すことが

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求められる。そのような文化的コンテクストでは、「あなた」のような代名詞は、相手と

の関係性をあえて無視する働きを持ち、それがある時は失礼だと解釈されたり、またあ

る時は相手を遠ざけているように感じられたり、更に別のケースではフォーマルな響き

を帯びたり、親しすぎると受け取られたり、異なった形で認識されることになる。この

点が先行研究の矛盾する見方を生み出した原因であろう。過去の研究は「あなた」と敬

意の程度を直接に結び付けて考えようとしたが、敬意の高低を感じさせる現象の背後に

は、本稿で示したようなメカニズムがあるのだと筆者は考える。

最後に、「あなた」の明示的な使用、つまり相手との社会的関係をあえて示さないとい

う行為を言語で明示的に行うことで、話者が聞き手に求める involvement の程度が増すと

いう効果を生むことも示した。

謝辞

本稿執筆にあたり、オーストラリア国立大学の Duck-Young Lee 先生、Peter Hendricks 先

生、Timothy Hassall 先生、小木直美先生に貴重な助言を頂いた。また『国会議事録を使

った日本語研究』編者である松田謙次郎先生には、過去の資料を探してわざわざお送り

頂いた。この場をお借りして深く御礼申し上げたい。ただし本稿の記述・分析の最終的

な責任は全て筆者にあることを明記しておきたい。

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著者

米澤陽子はオーストラリア国立大学博士課程研究生である。語用論、談話分析、日本語

教育を研究分野とする。現在、日本語の人称代名詞について語用論的視点から研究を行

っている。