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1 2019 6 25 「画像誘導放射線治療の歴史と MR-Linac の物理」 エレクタ株式会社 オンコロジー事業部 リサーチフィジックス 岩井良夫 1.はじめに 放射線治療の技術的な進歩は,臨床標的体積(Clinical target volume: CTV)に対して,照 射体積を限局させることに集約される.CTV に対する照射位置の不確かさは,計画標的体 (Planning target volume: PTV)を拡大し,早期・晩期の障害増加につながってしまう. 画像誘導放射線療(Image guided radiation therapy: IGRT)は,照射直前に患者の画像を取 得し,照射位置精度を向上させる照射技術である.ターゲットの形状に合わせた線量分布を 形成できる強度変調放射線治療(Intensity modulated radiation therapy: IMRT)と組み合 わせることによって,リスク臓器の障害を増やすことなくターゲットへの線量増加を可能 にした.また,照射回数が少ない定位放射線治療(Stereotactic radio surgery/Stereotactic radiation therapy: SRS/SRT)でも,治療計画に対して高い照射位置再現性が求められるた め,IGRT が組み合わされることが多い. これまでに,さまざまな IGRT 機能を取り込みながら,リニアックは進化をしてきた.現 在は,X 線画像だけでなく,無被ばくの超音波画像及び体表面画像による IGRT が可能な リニアックも稼働している. MRI 画像は無被ばくで軟部組織の描出性能が高く,治療計画時には広く利用されている. 2000 年の ESTRO でユトレヒト大学の Lagendijk らが MRI とリニアックを一体化した MR-Linac を提案した 1) ,しかし,技術的に難しく,開発に時間を要していた.2017 年に ユトレヒト大学で MR-Linac での治療が実施された 2) MR-Linac は,MRI 画像による照 射位置決めだけでなく,照射毎に正確に腫瘍を描出して線量分布を最適化するオンライン 適応放射線治療(Adaptive radiation therapy: ART)を実現し,放射線治療の適応拡大・発展 に寄与すると期待されている. 本稿では, MR-Linac に至るまでの IGRT に関する歴史と MR-Linac を紹介する. IGRT 3,4) 及び MR-Linac 5-7) に関する review paper が複数出ており,参考にした.本稿で紹介する IGRT の手法及び MR-Linac に関する発表を Table 1 にまとめた. Table 1. Chronology of IGRT and MRgRT. Authors Contents Simpson et al., 1982 8) Mega voltage CT Aoki et al., 1987 12) In room CT Lattanzi et al., 1999 19) Ultrasound image Shirato et al., 1999 14) Real-time tumor tracking radiotherapy Lagendijk et al., 2000 1) Concept of MR-Linac Jaffray et al., 2002 17) Kilo voltage cone beam CT Sonke et al., 2005 18) Markerless 4D-CBCT Bert et al., 2005 22) Surface image guided radiotherapy Dempsey et al., 2006 31) MRI guided 60 Co -ray Karlson et al., 2009 33) MRI next to linac Jaffray et al., 2013 34) MRI on rails Raaymakers et al., 2017 2) First treat by MR-Linac

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2019 年 6 月 25 日

「画像誘導放射線治療の歴史と MR-Linac の物理」

エレクタ株式会社 オンコロジー事業部 リサーチフィジックス 岩井良夫

1.はじめに

放射線治療の技術的な進歩は,臨床標的体積(Clinical target volume: CTV)に対して,照

射体積を限局させることに集約される.CTV に対する照射位置の不確かさは,計画標的体

積(Planning target volume: PTV)を拡大し,早期・晩期の障害増加につながってしまう.

画像誘導放射線療(Image guided radiation therapy: IGRT)は,照射直前に患者の画像を取

得し,照射位置精度を向上させる照射技術である.ターゲットの形状に合わせた線量分布を

形成できる強度変調放射線治療(Intensity modulated radiation therapy: IMRT)と組み合

わせることによって,リスク臓器の障害を増やすことなくターゲットへの線量増加を可能

にした.また,照射回数が少ない定位放射線治療(Stereotactic radio surgery/Stereotactic

radiation therapy: SRS/SRT)でも,治療計画に対して高い照射位置再現性が求められるた

め,IGRT が組み合わされることが多い.

これまでに,さまざまな IGRT 機能を取り込みながら,リニアックは進化をしてきた.現

在は,X 線画像だけでなく,無被ばくの超音波画像及び体表面画像による IGRT が可能な

リニアックも稼働している.

MRI 画像は無被ばくで軟部組織の描出性能が高く,治療計画時には広く利用されている.

2000 年の ESTRO でユトレヒト大学の Lagendijk らが MRI とリニアックを一体化した

MR-Linac を提案した 1),しかし,技術的に難しく,開発に時間を要していた.2017 年に

ユトレヒト大学で MR-Linac での治療が実施された 2).MR-Linac は,MRI 画像による照

射位置決めだけでなく,照射毎に正確に腫瘍を描出して線量分布を最適化するオンライン

適応放射線治療(Adaptive radiation therapy: ART)を実現し,放射線治療の適応拡大・発展

に寄与すると期待されている.

本稿では,MR-Linacに至るまでの IGRTに関する歴史とMR-Linacを紹介する.IGRT3,4)

及び MR-Linac5-7)に関する review paper が複数出ており,参考にした.本稿で紹介する

IGRT の手法及び MR-Linac に関する発表を Table 1 にまとめた.

Table 1. Chronology of IGRT and MRgRT.

Authors Contents

Simpson et al., 19828) Mega voltage CT

Aoki et al., 198712) In room CT

Lattanzi et al., 199919) Ultrasound image

Shirato et al., 199914) Real-time tumor tracking radiotherapy

Lagendijk et al., 20001) Concept of MR-Linac

Jaffray et al., 200217) Kilo voltage cone beam CT

Sonke et al., 200518) Markerless 4D-CBCT

Bert et al., 200522) Surface image guided radiotherapy

Dempsey et al., 200631) MRI guided 60Co -ray

Karlson et al., 200933) MRI next to linac

Jaffray et al., 201334) MRI on rails

Raaymakers et al., 20172) First treat by MR-Linac

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2.多様なIGRT

2.1. X線を用いたIGRT

2.1. 1.MV X線

Simpson らは,4 MV のリニアックの

対向版の位置に検出器を取り付け,治療

用の 4 MV の X 線を用いた MVCT によ

って,照射位置決めが可能であることを

示した 8).その後の汎用リニアックは,

ガントリーヘッドの対向の位置に,MV

用の 2D 検出器,electrophoretic image

display (EPID)が搭載されている(Fig.

1 参照).EPID で照射領域と照射野の 2

重露光した 2D 画像と治療計画時の

digitally reconstructed radiograph (DRR) を用いた照射位置照合は広く普

及している(Fig. 2 参照).MVCT は,

TomoTherapy (Accuray, Sunnyvale,

CA)9,10)及び Halcyon (Varian Medical

Systems, Palo Alto, CA)11)に搭載され

ている.

2.1.2. kV X線

MV CT の画像は,治療計画用 CT よりも軟部組織が低コントラストとなる.青木らは,

診断用の CT をリニアックと同室に設置し,寝台を回転させることで計画用 CT の画像を用

いた IGRT を実施した 12,13).現在,レールに沿って自走する CT とリニアックを組み合わ

せた CT-on-rails によって,治療計画と同じ CT 画像を用いた IGRT が可能である(Fig. 3 参

照).

空間内の位置を 3 次元的に同定するためには,CT のような 3D画像を用いるか,複数方

向から取得した 2D 画像が必要となる.呼吸性移動する腫瘍位置をリアルタイムで同定する

ためには,再構成に時間を要する CT を利用することはできない.そこで,白𡈽らは治療室

内に複数組の X 線管球と検出パネルを設置した.肺腫瘍近傍に留置した複数の金マーカー

をモニターすることで,ターゲットの位置を同定し,一定の空間内にターゲットが存在する

時間だけ照射する (Real-time tumor

tracking: RT-RT)を実施した 14).治療室

内に複数組の X 線管球と検出器を設置

し,動くターゲットをモニターしながら

の迎撃照射は,CyberKnife (Accuray,

Sunnyvale, CA)15)及び SyncTrax(島津

製作所,京都市,日本)16)が対応してい

る.

Jaffray らはリニアックのガントリー

ヘッドに直交する位置に kV X線管球と

2D 検出器が搭載し,照射位置で取得し

た kV CT 画像(Cone-beam CT: CBCT)

による IGRT を実現した 17)(Fig. 1 参

照).照射位置で CBCT を取得できるた

め,軟部組織内のターゲットに対し,寝

台の反転・移動を伴わず高い位置精度で

Fig. 2. Digitally reconstructed radiograph (DRR) and

MV double exposure images.

Fig. 1. A modern linear accelerator (Versa HD). (1)

Gantry head, (2) kV X-ray tube, (3) 2D flat panel for

MV (EPID), and (4) 2D flat panel for kV.

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IGRT が実施できる.汎用リニアック

に は , Synergy (Elekta AB,

Stockholm, Sweden)に初めて搭載さ

れた.現在は,TrueBeam (Varian

Medical Systems, Palo Alto, CA)等,

多くの機種に標準搭載され,臨床利用

されている.

Sonke らは 2D 検出器で取得した画

像を解析することによって,Marker-

less で 4D-CBCT を取得する手法を開

発した 18).呼吸性移動に起因する横隔

膜などの周期的な頭尾方向の動きを画

像から検出し,呼吸位相ごとに CBCT

を再構成することで,Marker-less の

4D-CBCT を実現した(Fig. 4 参照).

現 在 , Versa HD (Elekta AB,

Stockholm, Sweden)では,治療前だけ

でなく,治療中も Marker-less 4D-

CBCT が取得可能となっている.

2.2.無被ばくのIGRT

2.2.1.超音波(US)

超音波を利用した IGRT は,リニア

ックにCBCTが搭載される以前から実

施されている.Lattanzi らは前立腺の

位置決めに B-Mode Acquisition and

Targeting (BAT) ultrasound system

(NOMOS Corporation, Sewickley,

PA)を利用した 19).プローブをガント

リーヘッドに取り付け,アイソセンタ

ーの位置を登録後,経腹部で前立腺を

撮像し,患者位置補正を実施した.前

立腺は,腸内のガス・便そして尿量に

よって移動することが知られている.

照射中の前立腺の位置を 3D でモニタ

ーするために,ロボティックアーム等

が研究・開発されてきた 20).Clarity

AutoScan Probe system (Elekta AB,

Stockholm, Sweden)は,治療寝台に設

置され,皮膚に接触するカバー内部の

プローブが自動的に首振りすること

で,経会陰で連続的に前立腺の 3D-US

画像を取得する(Fig. 5 参照)21).プロー

ブには複数の赤外線反射板がついてお

り,天井に固定されたカメラによって

取得した US 画像は治療室内の空間が

特定される.照射中も前立腺をモニタ

Fig. 3. CT on rails.

Fig. 4. Marker-less 4D-CBCT acquisition method.

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ーし,移動量が閾値を超えた場合,自

動で照射を中断することができる.

2.2.2.光学式3D体表面検出シス

テム

Bertらは,治療室の天井に固定さ

れた 2 つのビデオカメラで患者の皮

膚表面に投影された模様の画像を取

得・解析することで,3D体表面情報

での Surface IGRT (S-IGRT)を提案

した 22,23).取得した画像による IGRT

だけでなく,治療中のモニターとし

ても利用できる.現在は,AlignRT

(VisionRT , London , UK) ,

Catalyst / Catalyst HD (C-RAD AB,

Uppsala, Sweden),VOXELAN (浜

野エンジニアリング,川崎市,日本)が販売されている.天井に固定された 1~3 台のカメ

ラで構成されており,S-IGRT,患者モニタリング,及び,呼吸モニターの機能を有してい

る 24-26).一般的に IGRT は 3 軸及び 6 軸寝台補正によって剛体としての治療位置補正は可

能だが,患者姿勢の補正は固定具及び術者の技量等に依存する.Catalyst は治療計画時に

対する姿勢補正を interactive にサポートする 27).Non-rigid registration アルゴリズムに

よって,変形量と移動量を独立に算出し,プロジェクション機能によってその情報を患者体

表面に投影する(Fig. 6 参照).治療計画時から変形している部位にずれている方向を示す

光が投影されるため,術者は投影された光を参考に,患者から視線を離すことなく姿勢を補

正できる.また,治療位置までの移動量

は別に算出されているため,姿勢補正

作業は必ずしも治療位置で実施する必

要がない.

2.3.IGRTのまとめ

次の章で紹介する MRI も含めて,被

ばくの有無と設置場所で IGRT の手法

を分類し, Table 2 にまとめた.高精

度治療を実施している施設では,複数

の IGRT 手法に対応しているリニアッ

クが導入されている例が少なくない.

適切な手法を選択するために,それぞ

れの装置・手法の特徴を理解すること

が重要となる.

Table 2. IGRT hardware configurations.

Gantry mounted Room mounted

Ionizing MV (2D, 3D)

kV (2D, 3D, 4D)

kV (2D)

CT on rails

Non-ionizing MR-Linac

Surface imaging

Ultrasound

MRI on rails

Fig. 6. Color map projection by Catalyst.

Fig. 5. Set up of Clarity AutoScan Probe.

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3.MR-Linac

3.1.臨床的特長

MRI画像は軟部組織でも高いコントラストが得られるため,治療計画で活用されている.また,

機能画像が取得可能であるため,リニアックと一体化したMR-Linacでは,

(1) 照射直前の腫瘍及びリスク臓器の正確な輪郭抽出

(2) MRI画像を用いた正確な照射位置決め

(3) 照射中の3D-MRI画像を用いた照射線量の積算

(4) 照射中の画像を用いた腫瘍及びリスク臓器の移動・変形による照射の中断

(5) 照射期間中の機能・解剖画像取得による,治療効果の検証

等が可能となる.既に臨床的な可能性を議論しているReview paperもありMR-Linacへの期待は高

い28-30).

3.2.MRI guided radiation therapy (MRgRT)

強い磁場中で微弱な電磁波(RF波)を検出するMRIと,ハイパワーのRF波を用いて磁場の影

響を受けやすい電子を加速するリニアックを一体化するMR-Linacは,技術的に難しい.その問

題を回避しながらMRI画像によるIGRT (MRI guided radiation therapy: MRgRT)の手法が提案され

ている.

Dempsey らは,2006 年の AAPM でリニアックではなく,60Co 線源を MRI と組み合わ

せた装置を開発中であることを発表した 31).マグネットによる治療ビームの吸収を防ぐた

め,マグネットを中央で 2 分割し,その空間からビームを照射する.米国では 2012 年より

0.35 T MRI と 3 個の 60Co 線源を組み合わせた放射線治療システム,MRIdian(ViewRay

Inc., Cleveland, OH)として販売され 32),国内にも導入されている.

MRI とリニアックを用いた MRgRT もある.Karlsson らはリニアックと MRI を隣室に

設置し,それぞれの寝台に接続できる独自の患者移動システムを開発した 33).また,Jaffray

らは,天井のレールからの吊り下げ可動式の MRI(IMRIS, Minnetonka, MN),ロボット

寝台,及び,汎用リニアック(TrueBeam)を組み合わせた 34,35).吊り下げ式ではあるが, MR-

on-rails と言える手法である.どちらも MRgRT ではあるが,寝台又は MRI の位置精度が

照射精度に影響し,また,照射中の MRI 画像は取得できない.

3.3.MR-Linacの開発

MRI と Linac を一体化する MR-Linac の構想は, Lagendijk らが 2000 年の ESTROで

発表した 1).その後,複数のグループが MR-Linac の開発をしており,それぞれの MR-Linac

の仕様を Table 3 にまとめた.

3.3.1.1.5 T MR-Linac

ユトレヒト大学(オランダ)は,Philips製の1.5 T MRIとElekta製の7 MVの加速器を組み合わせ

たMR-Linacを開発した36).強い静磁場を発生する,超電導コイルの外側に逆方向の磁場を生成

するコイルを配置してマグネットの外側の磁場をキャンセルする,active shield技術を用いてい

る.マグネットの外側に同心円状に磁場の弱い空間が作り出され,磁場の影響を受けやすいマ

グネトロン,電子銃をその同心円状の空間内に配置することで,1.5 TのMRIの磁場に対して,

直交するリニアックからの照射に成功した.Figure 7は1.5 T MR-Linacシステムの構造とactive

Table 3. Characteristics of the MRI-guided radiotherapy systems.

University Utrecht (Elekta) Florida (ViewRay) Alberta Sydney

Magnet type Close Split Open Open

Magnet field strength (T) 1.5 0.35 0.5 1.0

Clearance 70 cm bore 70 cm bore 60 cm gap 50 cm gap

Beam energy (MV) 7 FFF 6 FFF (60Co γ-ray) 6 6

Beam direction to

magnet field Perpendicular Perpendicular

Inline /

perpendicular

Inline /

perpendicular

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shieldによって制御された磁力線を

示している.電子線加速用のハイパ

ワーのRF波によるMRI画像悪化を防

ぐため,リニアック部分はRFシー

ルドの外に配置されている.超伝導

マグネットのケースは一体だが,内

部のマグネットは中央で分離してお

り,治療ビームが超伝導線材を照射

しない構造となっている.現在,Elekta Unity (Elekta AB, Stockholm,

Sweden) として販売されている.

Figure 8にElekta Unityで撮像された

MR画像を示す.

3.3.2.0.35 T MR-Linac

ViewRay 社は MR-60Co マシン

発売後もMR-Linacの開発を続け,

電子銃,マグネトロン,加速管等の

リニアックの構成部品を透磁率の

高い金属製の磁場遮蔽ケースに入

れる,passive shield を用いて 6

MV のリニアックを開発した 37).

現在、0.35 T MR-Linac を販売し

ている.

3.3.3.Open magnet type MR-

Linac

Alberta 大学(カナダ)38,39)及び

Sydney 大学(オーストラリア)40)

はどちらも Open type のマグネッ

トを用いた MR-Linac を開発して

いる.磁場と平行に動く電子はロ

ーレンツ力を受けないため,磁力

線と平行に加速管を配置すること

で,リニアックへの磁場の影響を

最小限にすることができる.また,

磁場に対して直交方向から照射す

る場合でも,マグネットにリニア

ックを固定することで,照射方向

を変えても磁場の乱れを最小限に

できる.一方,リニアックとマグネ

ットの位置関係が固定されるた

め,照射方向を変えるためには,患

者の向きを変えるか,リニアック

が取り付けられたマグネット全体

を回転させる必要がある.現在,治

療実施をめざし開発中である.

3.4.Electron return effect (ERE)

Fig. 8. MR images by Elekta Unity.

Fig. 7. Schematic design of 1.5 T MR-Linac system.

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リニアックで生成された光子は,磁場の

影響を受けないが,空気及び物質中でコン

プトン散乱により生じた2次電子は磁場の

影響を受ける.電子が磁場を横切る方向に

動くとローレンツ力を受けて回転する

(Fig. 9 参照).MR-Linac で磁場に直交し

た光子ビームを照射すると,ビームの出射

側から空気中に出た2次電子がローレンツ

力を受けて回転し,出射部近傍に戻ってく

る.この現象は Electron return effect

(ERE)と呼ばれる 41).

3.4.1.ERE の真空中での回転半径

ここで,真空中の電子の回転半径 r (m)を求めてみる.電子が強度 B (T) の磁場中を直交

方向に速度を v (m/s) で進んでいるとすると,回転半径 r は

r=mv/qB Eq.1

で与えられる.ここで,m と q はそれぞれ,電子の質量 (kg)と電荷量 (C)である.電子の

静止質量 m (kg) は陽子及び中性子に比べて非常に小さく,電子の静止質量エネルギーEm

は光速 c を用いると

Em=mc2 Eq.2

で求められ,eV 単位で示すと 511 keV である.そのため,電子の運動エネルギーEk が 100

keV 以上では,相対論で考える必要がある.電子の運動エネルギーを Ek,合計のエネルギ

ーを ETとすると,

ET=Em+Ek Eq.3

となる.相対論での全エネルギーETは

𝐸𝑇 =𝑚𝑐2

√1−𝛽2 Eq.4

であたえられる.ここでβは電子の相対速度で

β=v/c Eq.5

なので,Eq. 2~5 より,

𝛽 = √1 − (𝐸𝑚

𝐸𝑚+𝐸𝑘)2 Eq.6

となるので,Eq. 1, 5, 6 から,

𝑟 =𝑚𝑐

𝑞𝐵√1 − (

𝐸𝑚

𝐸𝑚+𝐸𝑘)2

Eq.7

となる.磁場に直交する成分の電子

の運動エネルギーEk (MeV)に対する

真空中での回転半径 r を Fig. 10 に

示す.MR-Linac の X 線で生成され

る 2 次電子は真空中では 0.1 ~10

mm の半径で回転することがわか

る.この大きさは,イオンチェンバー

の有感領域と同程度となっている

(Table 4 参照)42).

Fig. 10. Radius of electron trajectory.

Fig. 9. An electron moving along a helical trajectory

with its axis parallel to the magnetic field .

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3.4.2.絶対線量測定への影響

Meijsing らは,汎用リニアックを用いて磁場中での Farmer 型チェンバーの応答を測定

し,Monte Carlo simulation (MC)と比較した.磁場の軸に対して,直交して NE 2571 ( NE

Technology Limited, Berkshire, UK)を設置した場合,1 T 付近で磁場なしとの差が最大と

なり,約 8.3%となることを報告している 43).その後,1.5 T MR-Linac 設置施設から,実

測及び MC 計算の報告が複数出ている 44-47).O'Brien(2016)らは MC 計算により,磁場

に対するチェンバーの設置方向別に磁場補正係数 kBを算出した 44).Figure 11 に磁場とチ

ェンバーの関係及び空洞内の電子軌道の概略を示した.Farmer 型チェンバーPTW 30013

(PTW, Freiburg, Germany) の場合,磁場の無い状況(Fig. 11 (a))に対し,磁場に平行に

チェンバーを設置した場合(Fig. 11 (b))では,kB=0.994, 磁場に対して時計回りに 90 度回

転して直交した配置(Fig. 11 (c))では,kB=0.961, 磁場に対して半時計回りに 90 度回転して

直交した配置(Fig. 11 (d))では,kB=0.976 となり,磁場とチェンバーを平行に設置した場合

と直交して配置した場合では,大きな違いがでた.また,直交配置では回転方向による違い

がでた.この結果は,Figure 11 (c)及び(d)ではケーブル接続側及び中心電極がローレンツ力

に対して非対称なためだと考えられる.

さらに,O'Brien らは,水等価固体ファントムにチェンバーを挿入する際に生じる,ファ

ントムとチェンバー外壁との隙間の影響

(air gap effect)について,MC でシミュレ

ーションした 48).1.5 T の磁場と平行に設

置した,Farmer 型チェンバーPTW 30013

水等価固体ファントムに挿入し,チェンバ

ー外壁周囲の air gap の距離と偏りの影響

を検討した.チェンバー周囲の air gap が

対称の場合は,1 mm と大きくても air gap

無との差異は 0.5%以下なのに対し,非対

称の場合,air gap が 0.2 mm で 1.6%の差

異が出た.水等価固体ファントムを用いる

際は,水などを注入し air gap を埋めるな

Table 4. Size and materials of cylindrical ionization chambers42).

Chamber type Ionization cavity Wall of ionization cavity Central electrode

Volume (cm3) Length (mm) Radius (mm) Material Thickness (g/cm2) Material

NE 2571 0.6 24.0 3.2 Graphite 0.065 Al

PTW 30013 0.6 23.0 3.05 PMMA 0.057 Al

IBA CC13 0.13 3.0 3.0 C-552* 0.07 C-552*

IBA CC01 0.01 1.0 1.0 C-552* 0.088 Steel

*C-552: air equivalent prelatic

Fig. 11. Schematic of the electrons tracks in ion

chamber. (a) no magnetic field, (b) chamber is

parallel to the magnetic field, and (c) and (d)

chambers are clockwise and counter clockwise

perpendicular to the magnetic field, respectively.

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どの注意が必要となる.

3.4.2.線量分布への影響

MR-Linac では,ERE の影響で治療ビー

ムが通過した出射側付近での皮膚線量が高

くなる.しかし,対向 2 門又は多門のビー

ムを用いることで,キャンセルされ,ほと

んど影響がなくなることが示されている

41).

また,強い磁場は真空・空気中だけでな

く,物資中の線量分布にも影響を与える.Figure 12 に 1.5 T 磁場中の 7 MV の FFF ビー

ムの OCR の一例を示す.強磁場中では物資中の 2 次電子もローレンツ力の影響を受けるた

め,磁場に平行な in plane のプロファイルが対称であるのに対し,垂直な cross plane は非

対称となっている.1.5 T MR-Linac のビームデータについては,複数の施設から報告がで

ている 49,50).

治療計画時には,磁場の影響を考慮した MC 線量計算アルゴリズムが必須となる.IMRT

のような inverse plan では,磁場の影響も考慮してプランが最適化されるため,通常のリ

ニアックのプランと同等のプランが作成される 51).

4. 最後に

IGRT をキーワードに MR-Linac にいたる放射線治療の進化を振り返り,MR-Linac に関

するトピックとして ERE を紹介した.MR-Linac を安全に使用するためには,これまで以

上に物理の素過程を理解しておくことが重要となる.参考文献は,2019 年 6 月 25 日現在,

Open access であるものは明示した,本稿が MR-Linac への興味につながれば,幸甚であ

る.

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