教師が日常的にictを利用した授業を行うため の、 …第33回 実践研究助成...

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33実践研究助成───89 研究課題 教師が日常的にICTを利用した授業を行うため の、研修プランパッケージの開発 副題 学校名 三好ICT授業研究会 所在地 778-0002 徳島県三好市池田町マチ2215 三好教育ネットワークセンター内 職員数/会員数 7研究代表者 中川 斉史 ホームページ アドレス http://www.mkk.ed.jp 1.はじめに 文部科学省(以下文科省)は「教員のICT活用指導力の基 準の具体化・明確化に関する検討会」において決定された 「教員のICT活用指導力のチェックリスト*1」(表1)を 2007年2月に公表し、同年3月にはこのチェックリストを基 に全国の教員に対して、調査を行った。 チェックリストは主に5項目からなり、全部で18項目にな る。このチェックリストは、次のようにAからEの大項目に 分かれており、それぞれの項目に分かれてチェックをするよ うになっている。 表1 教員のICT活用チェックリストの大項目 同年7月に発表されたそのチェックリストの結果によると、 B項目の数値が、他の項目に比べてやや低い数値というのが 特徴的となった。この調査は、自己申告に基づくものであり、 調査の数値は絶対的なものでないことを考慮した上で見る必 要があるが、B項目が「授業中にICTを活用して指導する能 力」についての調査である以上、授業を担任する者が、授業 の中でICTを活用しているかどうかを示した数値であること には違いない。 2.研究の目的 そこで、B項目の“授業中にICTを活用して指導する能 力”を高めるためにはどうすればよいのだろうか。学校現場 に機器が入った場合、機器を導入さえすればよいという行政 等の発想で、今まで活用されなかった機器も多い。それは、 機器の機能の説明以外に、それぞれの教員の持つ現段階での 能力と、それらを本当に活用するための研修とのズレがあっ たためではないかと思う。 今回の研究は、それらのズレを解消するような研修プラン を用意するところにある。そして、どの学校でも短時間に効 果の出るような形で研修プランをパッケージ化する。これら のパッケージは、Webで公開を予定しているため、今後の全 国の学校現場での利用が期待できる。 その結果、全国のいろいろな学校の普通教室で、ますます ICT活用が広がり、国のめざす“分かる授業のためにICT使う”という具体的目標によりいっそう近づけるものと思わ れる。 実践研究助成 小学校 A 教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力 B 授業中にICTを活用して指導する能力 C 児童・生徒のICT活用を指導する能力 D 情報モラルなどを指導する能力 E 校務にICTを活用する能力

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Page 1: 教師が日常的にICTを利用した授業を行うため の、 …第33回 実践研究助成 89 小学校 研究課題 教師が日常的にICTを利用した授業を行うため

第33回 実践研究助成───89

小学校

研究課題

教師が日常的にICTを利用した授業を行うための、研修プランパッケージの開発

副題

学校名 三好ICT授業研究会

所在地 〒778-0002

徳島県三好市池田町マチ2215 三好教育ネットワークセンター内

職員数/会員数 7名

研究代表者 中川 斉史

ホームページ アドレス http://www.mkk.ed.jp

1.はじめに

文部科学省(以下文科省)は「教員のICT活用指導力の基

準の具体化・明確化に関する検討会」において決定された

「教員のICT活用指導力のチェックリスト*1」(表1)を

2007年2月に公表し、同年3月にはこのチェックリストを基

に全国の教員に対して、調査を行った。

チェックリストは主に5項目からなり、全部で18項目にな

る。このチェックリストは、次のようにAからEの大項目に

分かれており、それぞれの項目に分かれてチェックをするよ

うになっている。

表1 教員のICT活用チェックリストの大項目

同年7月に発表されたそのチェックリストの結果によると、

B項目の数値が、他の項目に比べてやや低い数値というのが

特徴的となった。この調査は、自己申告に基づくものであり、

調査の数値は絶対的なものでないことを考慮した上で見る必

要があるが、B項目が「授業中にICTを活用して指導する能

力」についての調査である以上、授業を担任する者が、授業

の中でICTを活用しているかどうかを示した数値であること

には違いない。

2.研究の目的

そこで、B項目の“授業中にICTを活用して指導する能

力”を高めるためにはどうすればよいのだろうか。学校現場

に機器が入った場合、機器を導入さえすればよいという行政

等の発想で、今まで活用されなかった機器も多い。それは、

機器の機能の説明以外に、それぞれの教員の持つ現段階での

能力と、それらを本当に活用するための研修とのズレがあっ

たためではないかと思う。

今回の研究は、それらのズレを解消するような研修プラン

を用意するところにある。そして、どの学校でも短時間に効

果の出るような形で研修プランをパッケージ化する。これら

のパッケージは、Webで公開を予定しているため、今後の全

国の学校現場での利用が期待できる。

その結果、全国のいろいろな学校の普通教室で、ますます

ICT活用が広がり、国のめざす“分かる授業のためにICTを

使う”という具体的目標によりいっそう近づけるものと思わ

れる。

実践研究助成

小学校

A 教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力

B 授業中にICTを活用して指導する能力

C 児童・生徒のICT活用を指導する能力

D 情報モラルなどを指導する能力

E 校務にICTを活用する能力

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90───第33回 実践研究助成

3.研究の方法

三好郡市内で情報教育を積極的に推進してきた教員の中か

ら、研究プログラムの作成について協力できるメンバーを募

り、校内研修で実施可能なプランを中心に検討を重ねていっ

た。そこでできあがったプランを基に、三好郡市内の学校で

の校内研修を実施し、実施している学校と実施していない学

校で、教師の

ICTスキルを比

較し、研修プロ

グラムの内容の

効果を測定した。

4.研究の内容

研修プランをユニットに分け、時間や対象によっていくつ

かのユニットを組み合わせて、実施することができるように

構成した。表2に本研究で開発した「ICTスキルキット」お

よび「全体研修キット」の一覧を示す。

開発したプランのうち、Aシリーズは個人的に自主学習し、

課題を解決するためのシートである。Bシリーズは、全体研

修の場面で全員

が同時に知識を

得たり、共感し

たり、考えたり

するために利用

するものである。

表2 開発したキット一覧

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第33回 実践研究助成───91

小学校

5.研究の経過

これらの作業の後、教師自らが、何をどのようにする方法

が分かっていなかったのかを意識するようになり、そのあと、

Aシリーズの自習用キットを使って、自分の習得したいスキ

ルを学習する流れとなる。

これらのキットは、印刷物は各校でいつでも手に取れる場

所に置き、説明データそのものは、校内サーバ上に置き、教

職員が自由に利用できるようにしておく予定である。(現在

準備中)

また、学校によっては、全員がよく似たスキル上の課題を

持っていることも少なくなく、そのときは、続けて一斉にこ

れらのキット内容をプレゼンすることもある。複数のパター

ンでの研修を次の9つの学校で実施し、研修プランの評価を

行った。

5月16日 井内小/5月24日 富田小/5月31日 川崎小

6月5日 辻小 /6月14日 白地小/11月1日 山城小

1月17日 千松小/1月29日 辻小 /2月21日 大野小

6.研究の成果と今後の課題

本年度の取り

組みとして、各

校内での研修プ

ランのキット化

とその効果を検

証する研究であ

ったので、本プ

ランの有効性に

ついて、年度末

の調査で研修キットの内容とスキル向上の関連性を測定した。

図2は、研修実施校と未実施校における「できるようにな

って1年未満のICT活用スキル」の調査である。これによる

と、最初に触れたB項目である授業中にICTを活用して指導

する能力に関係する項目にあてはまる具体的なスキルが、研

修実施校の方が向上していることが分かる。

単純に考えると、このプランで目標とした教師のICT活用

スキルが、研修をしている学校とそうでない学校でやや違い

があるという結果にみえる。しかしこれは、1年間という長

い期間の中で向上したICTスキルは、今回用意した研修キッ

トだけによってもたらされるようなものではなく、校内の雰

囲気をはじめとして、ネットワークセンターや情報部会など

図2 「できるようになって1年未満」のICTスキルの比較(研修実施校と未実施校)

(両該当校もN=39でサンプリング)

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92───第33回 実践研究助成

による情報提供、校内情報環境などが複雑に絡み合っている

状況によりもたらされる部分の方が多いのではないかという

ことである。

今回開発したキットでは、数枚の簡単なプレゼンシートで、

必要な内容を最小限にして、解説するようにしたが、無条件

にやってもらうことと、意味や理由を考えてやってもらうこ

との両方が必要である。ICT関係の機器は、機種が異なれば、

操作法は変わるものだが、簡単な仕組みを理解しておくこと

で、応用力が生まれ、どのような機器にでも対応できる能力

が向上するし、なにより授業設計の主体者として、ICTをど

のように生かしていくかを冷静に判断できるようになるので

はないかと思われる。

単なる機器の操作を身につけるのが目的ではなくて、その

操作ができることをベースとして、どのように生かしていく

かという部分を今後の授業研究の最大のテーマにしていくた

めの一つの方策が見えてきたものと考える。

*1 文部科学省(2007) 教員のICT活用指導力のチェック

リ ス ト 、 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/02/

07021604.htm(2008/3/17)

*2 文部科学省(2007)、学校における教育の情報化の実

態等に関する調査結果について-教員のICT活用指導力

に 関 す る 速 報 値 - 、 http://www.mext.go.jp/b_menu/

houdou/19/07/07071914.htm(2008/3/17)

・中川斉史(2005) 校内情報化推進リーダー支援システム

の構築 日本教育工学会研究報告集 JSET05-2 pp.11-

18

・村川雅弘・編(2005)ワークショップ型研修の手引きp.34

ジャストシステム

・情報教育の実践と学校の情報化(2002.6) ~新「情報教

育に関する手引」~

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/020706.htm

・石原一彦(2008) 教員に求められるICT活用指導力 100

の技術・技能(GSGスタンダード:技術・技能編)

http://www.ishihara-lab.jp/cgi-bin/form-GSG-t/form-

ict.html(2008/3/17)