化学療法の支持療法 · 2017-07-07 · 化学療法の副作用としての便秘対策...
TRANSCRIPT
化学療法の支持療法
初期研修医 田村 彩
はじめに
支持療法とは
• 支持療法とは、がんに伴う症状や治療による副作用を軽減する目的で行われる予防策や治療のこと。
• 特に抗がん剤・放射線照射を用いた治療では、嘔吐や貧血などさまざまな副作用が見られ、副作用の軽減はQOLを維持するためだけではなく、治療を順調に進めるためにも重要となっている。
化学療法の副作用
• 嘔気
• 便秘
• 下痢
• 骨髄抑制
→貧血、血小板減少
→白血球減少による感染
• 粘膜障害、口内炎
• 全身倦怠感
etc
副作用の種類と出現時期と出現期間
患者さんやご家族への情報提供•どんなことがおきるか
•いつごろおきるか
•予防方法、対処方法
副作用対策
• それぞれの副作用を対症療法的に軽減していく。
実際に病棟でよく出くわす症状について
○悪心・嘔吐
○便秘
○口内炎
○骨髄抑制による感染
○貧血
悪心・嘔吐
悪心・嘔吐
• 患者のQOL維持や治療継続のためには悪心・嘔吐の予防が第一で、適切な管理・コントロールが必要。
• 化学療法に関連した悪心・嘔吐は発症時期により急性、遅発性、予測性の3つに分類される。
• 抗悪性腫瘍薬の悪心、嘔吐のリスクに応じて制吐剤の予防的投与を行う。
予測性悪心・嘔吐 急性悪心・嘔吐 遅発性悪心・嘔吐
抗悪性腫瘍薬の投与前に発現
投与後24時間以降に発現し数日間
持続
投与後24時間以内に発現
悪心・嘔吐の治療
• リスクに応じて制吐剤の予防的投与を行う。
• 併用療法では最もリスクの高い抗悪性腫瘍薬にあわせて予防を行う。
①軽度・最小度催吐性リスクの抗がん剤に対する制吐療法
②中等度催吐性リスクの抗がん剤に対する制吐療法
癌診療ガイドラインより
③高度催吐性リスクの抗がん剤に対する制吐療法
便秘
化学療法の副作用としての便秘対策
• 化学療法中に便秘の症状を訴える患者さんはかなり多い!
• 抗がん剤の副作用によって末梢神経障害と自律神経障害が生じ、腸管の運動低下
➡便秘になる!
抗がん剤以外にも、制吐剤や抗がん剤治療に伴う生活の変化(食事・水分摂取の減少、運動量の低下)などによっても起こりやすい)
便秘を起こしやすい薬剤
国立がん研究センター がん情報サービスより
口内炎
口内炎
• 抗がん剤・放射線照射は細胞周期サイクルの早い細胞に作用しやすい!
➡口腔粘膜は7−14日程度のサイクルで再生し、血管も豊富であるため直接的な影響を受けやすい!
口内炎ができるメカニズムとしては・・・
○抗がん剤・放射線の直接作用による口腔粘膜障害
○骨髄抑制(好中球減少)による局所感染
さらに!長期にステロイド軟膏が使用されている場合には、口腔カンジダ症の発症や増悪を来す要因にも
• ウイルス性口内炎・カンジダ性口内炎の発症にも注意!
口内炎の対策口内炎自体が感染の原因になってしまう!
まずは予防する!
• 歯科にコンサルして口腔ケアを!
• 歯並び、入れ歯などが原因でできることも
• うがい:口腔内を清潔に保つ。水道水でOK
• 目安は2−3時間ごとに
• 口唇の保湿も忘れずに
• 禁煙も大事!
口内炎の対策
生理食塩水 うがい時の苦痛が少ない
アズレン、重曹(商品名:ハチアズレ)
炎症を抑え痛みを和らげる。爽快感も!
ハチアズレ10g、グリセリン60mL 精製水500mlに溶解し含嗽する。
リドカイン 局所麻酔でのうがい リドカイン塩酸塩50ml、ハチアズレ5g、グリセリン60mL 精製水500mlに溶解し含嗽する。
オキシドール 舌苔の除去 10倍希釈で使用
口腔内保湿ジェル 乾燥をやわらげ保湿する 眠前に口腔内に使用
ステロイド軟膏 炎症おさえる デキサルチン軟膏orケナログ口腔用軟膏 塗布
骨髄抑制
骨髄抑制
•白血球減少(感染しやすくなる)
➡感染症対策・・・発熱性好中球減少症の対策
•赤血球減少(貧血)
•血小板減少(易出血)
発熱性好中球減少症:FN
入院・外来で化学療法を施行中の患者に頻発し、速やかな対応が必要。好中球数500/μl未満あるいは白血球数1000/μl未満で好中球500以下への減少が予想される+腋下37.5℃以上と定義
※白血球数と好中球数のかい離に注意!白血球が1000/μ以上あっても好中球数は実際にはほぼ0まで減少していることも!
発熱性好中球減少症
• 適切な処置をしないと敗血症をおこし致命的となる。
• 薬剤熱、腫瘍熱、アレルギーなどとの鑑別が必要ではあるが
初期治療を開始してから考える!
• 内科的エマージェンシーであり、迅速に経験的な抗菌薬をfull
doseで開始する
実際の白血球減少時の発熱の対応• 化学療法中、37.5度を超えたら・・・
➡血液培養2セット提出しておく
• 中心静脈カテーテルが留置されている場合
➡カテーテル内腔から1セット、末梢静脈から1セット
敗血症を考え血液中の細菌、真菌を検査しておく!
実際にはFNの血倍陽性率は10%程度ただし血培陽性=細菌量多い!よって血倍陽性の患者は予後不良
実際の白血球減少時の発熱の対応
• 血液、痰、尿、便培養、BDグルカン、Xp、CTで感染源検索を!
• 感染源になりそうな口腔内、肛門、傷、褥瘡、ルート、CVなどチェック!
実際の白血球減少時の発熱の対応
○抗菌薬の投与
➡緑膿菌までカバーする十分量の抗菌剤を投与する!
例)セフェピム(マキシピーム)4-6g/day 2分割でiv
メロペネム(メロペン)2-3g/day 2分割でiv
○カビ対策も!
➡5−7日以上フォーカス不明の発熱続いたら
例)アムホテリシンB:2.5mg/kg/day
ミカファンギン150mg/day
抗菌薬投与はいつまで?➡好中球が増えてくるまで!
起因菌が不明の場合は好中球が1000/μl超えて3日以上解熱続くまで!
貧血への対応
• 治療が長期化してくると貧血をきたす
➡すぐ輸血?
輸血以外の方法で治療可能な場合は原則として輸血行わない
輸血にはいろいろリスクあり!➡輸血量はなるべく最小限に
溶血性副作用(不適合輸血によるもの)
アレルギー反応:アナフィラキシーも輸血後GVHD 感染症TRALI TACO
鉄過剰症
輸血
• 赤血球の輸血開始の基準はHb:6−7g/dlを目安に
• ※ただし貧血の進行度、活動量、合併症の有無によって異なる!
• 検査値だけでなく臨床症状に応じて必要なHb値を設定する。
輸血:投与量の算定と効果の評価
• 投与後には投与前後の検査データと臨床所見の改善を評価する。
• 副作用の出現ないか観察
結語
• 癌治療に伴って生じる随伴症状には治療の継続に影響する様々な苦痛な症状がある。
• 癌治療の副作用・随伴症状は全ての人に同じように現れるわけではなく、基礎疾患、患者の状態、治療法、時期、患者のキャラクターによって異なる現れ方をする。
• 苦痛な症状の予防、症状の緩和のためにガイドラインに則した治療だけでなくケースバイケースでの対応も必要。