在宅歯科医療の基礎 - members.ydca.jpmembers.ydca.jp/documents/12127237411.pdf · 28...

18
在宅歯科医療の基礎

Upload: others

Post on 08-Oct-2019

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

27

第2章

在宅歯科医療の基礎

28

第2章 在宅歯科医療の基礎

1 はじめての在宅歯科医療をスムーズに行うための基本

1)「生活の場」における歯科医療であることを理解する

在宅歯科医療は、歯科診療所という「医療の場」での歯科医療を在宅や施設等

の「生活の場」にどう持ち込むかという視点だけでは対応が難しいことを理解す

ることが必要である。診療所・病院等は「医療の場」であり、主は「医療関係

者」客は「患者」である。しかし、居宅・施設は医療法では医療提供の場に位置

づけられているものの、実態は「生活の場」であり、主は「患者・家族」であ

り、「医療関係者等」は客である。したがって、在宅や施設は「住まい」であり

「主・客が逆転する場」であり、その対応は診療所とはおのずと違ってくる。

「医療の場」での医療や指導等をそのまま、「生活の場」に持ち込むことは困難

であり、医療の視点だけでなく、生活者の視点に立った対応が必要である。この

ことの理解が不足していると、一方的な治療や指導等に終始し、結果として、患

者や家族との信頼関係の構築を難しくすることにつながることも想定される。患

者、家族との十分なコミュニケーションを前提とし、「場」の違いを踏まえた歯

科医療が必要であることを理解することが大切である。そのうえで、今後、在宅

医療における多分野融合型連携の中で、歯科の役割を果たしていくことが必要で

ある。

2)家族介護者の介護不安への対応を理解し、介護負担、不安の軽減の視点を

持つ

病院医療から在宅医療へ移行について、在宅で介護を担うことになる家族は、

果たして在宅で介護を続けていけるのだろうか? 急変した場合などはどうした

ら良いのだろうか?など大きな不安を抱いている。特に医療依存度が高い場合は

なおさらである。さらに、介護ストレス、自分自身の健康問題、家族との人間関

係、経済問題等で、現状維持で手一杯、介護に疲れているのが実情である。ま

た、介護を受ける患者に、摂食・嚥下障害があると、介護不安はさらに大きくな

る。食事時間の延長と疲労の増加、「むせ・せき・やせ」への不安、見えない障

害である摂食・嚥下障害の理解不足、残された摂食・嚥下機能に適した食形態の

調理と食事介助方法への不安、緊急時の対処方法への不安、また、具体的にそれ

を誰に相談したら良いのか?などがわからないなど、期待とあきらめ、介護負担

増への心配等が錯綜しており、常に、不安の中での介護を続けざるを得ない状況

29

1 はじめての在宅歯科医療をスムーズに行うための基本

である。これらの介護不安を少しでも解消するためにも、地域の支援体制とかか

りつけ歯科医等からの専門的アプローチが必要である。また、認知症高齢者の増

加、高齢者が高齢者を介護する(老・老介護)現場や独居のケースも多くなるこ

とも理解しておく必要があり、対応方法については、地域の社会的資源を把握す

ると共に、行政等と連携ができるようにしておくことが大切である。

3)口腔領域の把握は介護者では、困難なことが多いことを理解し、本人・家族

の意思(自己決定)、各々の家庭の生活習慣、価値観を尊重し、自立への取

り組みを考慮する

要介護高齢者は、口腔領域に何か問題があっても、我慢してしまう、あきらめ

てしまうことが多く、また認知症等により、口の中に異常があっても、家族介護

者などへうまく伝えられない、訴えの表出ができないケースもある。このため、

口の中は放置されることが多く、歯科訪問診療を困難にしている原因ともなって

いる。全身および、口腔機能が全く低下する以前に歯科の介入が必要であり、定

期的な口腔健診が望まれるところである。その意味では、急性期病院からの口腔

のケアが必要であり、かかりつけ歯科医などとの連携推進が求められる。

在宅歯科医療の導入時には、生活の場における歯科治療に対する患者本人、家

族の意思の把握や医療や介護の情報を収集すること大切であり、治療についての

意思決定権を持つキーパーソンが誰であるか?の把握も重要である。患者本人の

意思決定が可能であれば良いが、意識障害や認知症などでそれが困難な場合に

は、患者の意思を代弁して意思決定ができるキーパーソンを把握することが必要

である。また、医療や介護の情報収集は、家族だけではなく、担当ケアマネ

ジャー、主治医、訪問看護師などの多方面から収集することが必要である。

永年、自分の歯科診療所に通院していた患者や家族であれば、歯科医療情報や

家族環境なども十分に把握されており、信頼関係がすでに構築されていることか

らも、かかりつけ歯科医として、通院歯科医療の延長線上にあると考え、在宅歯

科医療にもかかわっていくことがベストであることは言うまでもないことで

ある。

ケースによっては、患者本人と家族等のキーパーソンとで、歯科診療に対する

希望に相違がある場合もあり、本人の意思決定が可能であれば、それを尊重しな

がらも介護する側の負担、生活習慣についても配慮し、在宅療養や治療に関する

価値観を共有することが大切である。生活の場での「受け入れる医療」を実践す

るにあたり、常に口腔機能のリハビリテーションの視点を持ち、自立支援と介護

30

第2章 在宅歯科医療の基礎

負担の軽減を図りながら、医療提供者側の弾力性のある対応が求められるところ

である。

4)かかりつけ歯科医として、在宅歯科医療の実践方法を具体的に理解する

在宅歯科医療は生活の場での歯科医療であることから、実際の治療や指導には

歯科診療室とは異なる対応が必要となる。地域の保健、医療、福祉、介護等に関

心を持ち、地区歯科医師会などから情報を収集することから始め、地域で気軽に

相談できる、在宅歯科医療の経験を積んでいる歯科医師や地区歯科医師会などの

支援体制を把握することが大切である。地域医療、在宅医療などの研修会を受講

し、ベテラン歯科医師と共に同行訪問し、在宅現場での対応を学びながら、かか

りつけ歯科医の機能として「在宅歯科医療が可能な歯科医院」への体制づくりが

必要である。今後は、地域医療連携システムの充実と地域でOJT(On The Job

Training)の実践を前提とした「在宅歯科医療参入援助プログラム(仮称)」を

提供できる体制づくりが必要といえよう。訪問要請に即応できる体制を含め、1

週間の中で訪問に割くことのできる時間づくりと診療室から地域に出る間の診療

所の対応やスタッフの理解と協力を得ることが必要である。また、在宅歯科医療

においては、在宅主治医などとの連携はもちろん、高次歯科医療機関との連携は

不可欠であり、地域医療連携を踏まえた地域完結型歯科医療の診療体制を構築す

ることが大切である。

要介護者に対する口腔機能の継続的な維持管理として、在宅歯科医療は単なる

「歯科治療だけの往診」では不十分であり、呼吸器、消化器の入り口である口腔

のケアについての情報発信と共に、誤嚥性肺炎予防、摂食・嚥下障害への対応を

含めた、総合的な栄養管理サービスの一環として位置づけられることを理解して

おきたい。

また、在宅療養の状況を類型化し、それぞれのステージに対する在宅歯科医療

の内容、具体的支援を検討しておくことも大切である。

(1)導入期・移行期

・本人、家族との信頼関係の構築をめざし、キーパーソンの把握と在宅療養に関する価値観を共有する

・入院から在宅療養への円滑な移行のため、退院・退所時の医療情報の取得・退院時ケアカンファレンスへの参画・口腔内診査、口腔機能の評価、検査、診断、治療計画とインフォームド・コンセントを図る

31

1 はじめての在宅歯科医療をスムーズに行うための基本

・在宅主治医、訪問看護師、訪問薬剤師、ケアマネジャー等との連携構築・告知の有無の把握・在宅ケアカンファレンスへの参画・専門的口腔ケアの提供(口腔清掃、歯科治療、摂食機能療法等)・治療内容によっては、高次歯科医療機関の紹介・口腔ケアの必要性、重要性についての指導と啓発(誤嚥性肺炎予防、低栄養・脱水予防など)

・「食事」について介護面への支援、介護職との連携など(2)安定期・維持期

・継続した口腔機能の維持管理と自立支援・専門的口腔ケアの継続・介護関連職種との連携強化・緊急入院時における口腔領域の情報提供・介護保険施設等へのショートステイ、入居などにおける口腔領域の情報提供など

(3)終末期

・在宅主治医、訪問看護師との連携強化と本人、家族への配慮・緩和ケアの把握・QOLの向上を目的とした口腔機能の維持管理・精神的な支援と共に、苦痛となる口腔領域の問題の軽減・看取りへの対応・死別後の「悲嘆のケア:グリーフケア」への対応など

5)医療が生活の場(暮らしの中)へ移動することへ配慮し、安全の確保(リス

ク管理)を図る

生活の場での歯科医療は、診療所のような医療設備の整った環境ではなく、限

られた環境の中での治療となるので、その中で、安全、安心な歯科医療を提供す

るための対応が求められる。事前に必要な情報の把握や診療器材の準備が重要で

あると共に、リスク管理と在宅主治医や高次医療機関との緊密な連携体制の確保

が必要である。

(1)在宅歯科医療に必要な情報の収集を行う

・訪問依頼の具体的な内容と基礎疾患や療養状況、ADLなどの把握・在宅主治医、ケアマネジャー、訪問看護などの把握

32

第2章 在宅歯科医療の基礎

・過去に通院歴があればカルテ、レントゲン写真など・患者宅までの移動方法、アプローチの確認など

(2)患者、家族、キーパーソンへの医療面接とインフォームドコンセントを図る

患者、家族としっかりとした信頼関係の構築が、在宅歯科医療の成功の鍵と

言っても過言ではない。また、在宅での治療には、限界があることも、事前

に説明し理解して頂くことも大切である。在宅で行える歯科治療内容につい

ては、基礎疾患、全身状態、診療内容、治療による疲労度、術者の経験度、

マンパワー、患者や家族と信頼関係の状況などで異なり、画一的に決めるこ

とは困難であるが、一般に座位と開口が維持できれば、長時間になる治療や複

雑な観血処置などを除けば、治療は可能であるが、無理はしないようにする。

・口腔内診査、基礎疾患や療養状況の確認と治療計画の立案・歯科訪問診療の治療内容と費用などの説明と同意・歯科衛生士の紹介や役割の説明と同意・歯科治療を行う場の環境把握と診療時の姿勢の確保や電源の位置、吸引器の有無や必要な照明などの確認

・日常の生活状況、特に食事などの把握・ホームヘルパー、訪問入浴などの介護サービスの把握

(3)基礎疾患などについての病状紹介と高次医療機関との連携の確認や感染症対

策を行う

・在宅主治医への診療情報の提供と依頼、訪問看護師との連携・服薬している薬剤と服薬状況の把握、訪問薬剤師との連携・ケアマネジャーへの情報提供と連携・治療内容や状況に応じて高次歯科医療機関と連携することの説明と同意・摂食指導については、実際の食事評価が必要であり、訪問時間の調整や調理担当者の把握が必要である。また、VF、VEなどの摂食・嚥下機能検査が必

要な場合には、高次医療機関との連携などを考慮する

・感染症対策はしっかりと行い、複数の訪問の予定がある場合には、感染症のある方は最後に治療するなどの配慮が必要。感染を「持ち込まない、拡げな

い、持ち出さない」ことを常に、標準予防策(スタンダードプレコーショ

ン)を行うと共に、適切な医療廃棄物処理を行う

(4)歯科訪問診療上の注意事項

・事前に治療のシミュレーションを行い、器材などの忘れ物がないように気をつける

33

1 はじめての在宅歯科医療をスムーズに行うための基本

・可能であれば、歯科衛生士などを同行させる(複数の眼で確認する)・基礎疾患の状況とバイタルサインの確認(数日前からの変化の有無などを含める)

・治療内容、治療時間の確認・治療姿勢の保持、頭部固定、照明、吸引などの確保・治療中に必要に応じて血圧、酸素飽和度などの確認・術後の合併症への配慮・治療内容の説明と治療後のねぎらい、家族などへの配慮・緊急時の連絡先などの説明・後日、治療後の状況の確認を行う*詳細については(日本歯科医師会:在宅歯科保健医療ガイドライン、2001.3)

を参考にされたい。

6)終末期ケア(End of Life Care)における口腔管理について理解する

今後、看取りを前提とした在宅医療の推進により在宅で死を迎える患者が増加

することから、在宅歯科医療において、終末期の患者と向き合うことが多くなる

ことが推察される。従来、歯科の教育において「死」についての教育が多くはさ

れてこなかったことから、「死」を理解しなければ「生きること」を理解できな

いことにもなり、今後在宅歯科医療を担っていく歯科医師の人材養成においても

終末期ケアにおける口腔管理などについての指針が必要である。

終末期は治癒の見込みがないばかりでなく、死が間近に迫っている患者の状態

である。また、地域におけるがん医療の連携体制が推進されることからも緩和ケ

アが在宅で行われることも多くなり、末期患者の病態生理と心理状態ならびにそ

の推移の理解、身体的だけでなく、心理的、社会的立場に立っての対応も必要と

なる。主治医からの告知の有無の確認などは非常に重要であり、終末期ケアにお

ける歯科としてのかかわりについて、家族と十分なコミュニケーションを図るこ

とが大切である。終末期ケアにおける口腔のケアの重要性について、家族へ説明

し、苦痛となる口腔領域の問題の軽減と共に、精神的な支援を常に考えることが

重要である。治療や処置を行うというDoingだけではなく、専門家が「そばにい

て、なにか困ったらすぐ助けますよ」というBeingということも必要である。

(1)終末期ケア(End of Life Care)への口腔領域からの支援の考え方

・症状緩和(疼痛に代表される身体症状の緩和)を行い、生活を支える視点を持ちながら、納得死、満足死を迎えることができるような配慮が必要である。

34

第2章 在宅歯科医療の基礎

・人生を最後までその人らしく全うできるように支えることが大切であり、そのために必要な口腔領域のケアを考えていくことである。

(2)終末期ケア・緩和ケアにかかわる場合に、理解しておくべき基本的事項とし

て、以下の項目が挙げられる

・末期患者の病態生理(原疾患の状態)と心理状態ならびにその推移の理解・全人的苦痛(Total Pain)への対応は、身体的だけでなく、心理的、社会的さらに霊的・価値観的な立場からの理解も必要である

・在宅主治医からの患者やその家族への説明と同意等の理解。告知内容の把握は重要である

・家族への説明と支援:終末期ケアにおける口腔ケアの重要性について・患者と家族関係の理解と対応・緩和ケアの内容と口腔内に出現する症状と対応・在宅主治医、訪問看護ステーションとの連携確認・エンゼルケアや家族の悲嘆(グリーフワーク)についての理解今後、終末期ケア、緩和ケアにおける口腔領域のケアについて実践的な検討を

行うが必要がある。「生きる力を支援する生活の医療」を最も必要とする在宅な

どにおいて、歯科が他職種と連携協働しながら「食」を最後まで支え、患者が

「昨日食べたものが美味しかった」と言って逝かれるためにも、看取りの歯科医

療の確立をめざしていくことが必要である。

かかりつけ歯科医として、ライフサイクルに沿った継続的なプライマリ・ケア

を実践する範囲に、終末期ケアにおける役割もあり、在宅歯科医療から学んだ、

多くの情報を次の患者へ活かしていくことも、かかりつけ歯科医としての責務と

考える。

(細野 純)

35

2 医科との連携

制度改正により、医科と歯科の連携が進むものと思われる。要介護者の歯科治

療や口腔機能の回復と維持管理の重要性が、医師や看護師さらに介護職種に急速

に普及してきていることが背景にある。これからは医科の診療所、病院から歯科

訪問診療を求められる機会が増えることが予想される。

医療機関からの依頼のある歯科治療においても、異常な歯科疾患とか特殊な歯

科治療が求められることが多いわけではない。しかしながら、患者の病状や医師

の行っている治療等への配慮がことさら求められることになる。

医師との対診が、歯科診療の第一段階で出てくる。このことも歯科訪問診療を

行うことへの歯科医師の躊躇要素となることが推察される。しかしながら、東京

都の清瀬市をはじめ、在宅療養支援診療所が歯科診療所と頻繁に連携している実

例をみると、ごく自然な流れの中で連携と対診がなされていることがわかる。医

科との連携も、独立して歯科診療にあたることのできる診療能力のある歯科医師

であれば、ほとんどが支障なく実施できるということである。

1)連携の実例(清瀬市)

東京都の清瀬市では、平成11年に東京都の補助事業に基づき歯科医療連携推進

協議会を設置し、医療連携の普及に努めてきた。その結果、医師会をはじめ医療

機関の看護師、介護関連職種との連携が円滑に実施されるようになった。以下に

事例を示す。

(1)「要介護度4の65歳女性の右下顎が腫れて疼痛を訴え、歯みがきをさせない」

とヘルパーが訪問看護師に報告。訪問看護師は家族に歯科医師の訪問診療の

必要性を説明し、了解を得た後、主治医に「抜歯は可能」との指示を受け、歯

科医師に訪問診療を依頼し、この訪問看護師が同行して歯科医師による抜歯

が行われた。2日後訪問看護師は、疼痛が無くなり腫れも引き食事の摂取が

可能となったことを確認、歯科医師に報告した。1週間後歯科医師が抜歯窩

の治癒状況が良好であることを確認。

(患者は脊髄小脳変性症。下顎右側3、4の歯根膜炎を局麻で抜歯、圧迫止

血した)

(2)「認知症と大腿骨骨折で入院中の93歳男性、下顎前歯部腫脹疼痛で食欲低下」

のため歯科医院へ歯科訪問診療を依頼。下顎前歯部(3~3)残根状態、下口

2 医科との連携

36

第2章 在宅歯科医療の基礎

唇損傷、オトガイ部膿瘍、口腔底蜂窩織炎を担当医師の立ち会いと看護師の

補助のもと左側切歯を抜歯。止血確認後、投薬と管理を担当医師に依頼。翌

日と翌々日歯科医師が訪問し、抜歯窩洗浄。5日後に口腔ケア開始、7日後

解熱。8日後、口腔底蜂窩織炎治癒。13日後食事開始。

(3)知的障害者54歳男性、これまで歯科医にかかったことがなく、保健所の歯科

健診で歯科医療機関の受診を勧められるが受診せず。家族に指導し、市の健

康課窓口に診療申請をしてもらい、障害者通所施設の看護師が付き添って近

隣の歯科診療所を受診。歯科診療所で口腔清掃指導、歯石除去後、右下第1

大臼歯と左上第3大臼歯を抜歯。その後も看護師付添で通院し、本人のみで

の通院も可能となった。2カ月後、歯科医療機関への通院が可能であること

を家族が納得し、自宅近くの歯科診療所に転医し、看護師と家族と歯科医師

でその後の通院について相談。現在は自主的に定期受診をしている。

(4)知的障害者30歳女性、都立心身障害者口腔保健センターにて歯科治療を受け

ていたが、体調を崩し通所を中断した。障害者施設にて保健所の健診指導を

受け、かかりつけ歯科医の必要性を指摘された。市の健康課へ歯科診療の申

し込みを行い歯科診療所を紹介される。同時に都立心身障害者校区保健セン

ターへ情報提供を依頼し、これまでの治療経過を確認。これに基づき歯科診

療所は保護者と治療計画を立て治療を開始し現在も通院している。

このように、清瀬市では医科歯科連携、病診連携のみならず、介護・福祉施設

との連携も円滑になされ、市行政も機能を発揮している。全方位的にどこからで

も歯科医療を、安心安全な連携ネットの中で受けることができるようになって

いる。

2)連携の実例(あおぞら診療所)

あおぞら診療所上本郷の市川医師は、在宅患者さんの多くは簡単に外出でき

ず、嚥下困難な患者さんが多く、歯科医師・歯科衛生士の方に歯科治療、嚥下評

価、口腔ケアでかかわっていただくと誤嚥性肺炎の予防や栄養面でプラスに働く

ことが多く非常に重要であるとコメントされています。あおぞら診療所上本郷地

区の在宅患者から歯科医師への依頼ルートを図2-1に示します。

(1)医師会と歯科医師会との連携

上記のような医療連携がまだ機能していない地域においては、個々の医療機関

の努力のほかに、医師会と歯科医師会が連携して、かかりつけ医とかかりつけ歯

科医との連絡をとれるような方策を立てることが有効と思われる。患者を中心と

37

2 医科との連携

して、患者からかかりつけ医、あるいはかかりつけ歯科医を聞き出して相互に連

絡しあうという生活習慣を作り上げる一方、会相互に名簿を交換する等の方策を

実施し、さらに医科歯科の連携協議会といった組織を創設することも、連携推進

を支援するうえでの良策と思われる。

(石井拓男・恒石美登里)

3)かかりつけ医とかかりつけ歯科医との連携グッズ

(1)歯科訪問診療・口腔ケアを周知するためのパンフレット等

従来の歯科医療は、診療所での外来通院患者中心であった。しかし歯科訪問診

療を必要とする高齢者が増加している。その様な中で関係者に歯科訪問診療の必

要性やどのように行われているかを理解していただくための資料、また「口腔ケ

アによって口腔内を清潔に保ち、食事を美味しく・楽しく・味わえるように口腔

機能を維持・改善することが、自立や生活の向上に重要である。」ということ

を、医師をはじめとして関係者に理解および認識していただくためのパンフレッ

ト等が必要である。

その中において、在宅歯科診療の必要性を関係者に理解していただくための資

料が必要である。

(2)歯科訪問診療を必要とする高齢者の在宅患者連携指導に係る文書及び支援連

絡帳(医科・歯科・薬科・看護等の情報)

歯科訪問診療を必要とする高齢者に、在宅等において医療を行うにあたり、医

図2-1 あおぞら診療所上本郷     在宅患者さんからの歯科医師への依頼のルート

38

第2章 在宅歯科医療の基礎

図2-2 人口ピラミッドの変化(2005, 2030, 2055)

図2-3 年齢階級別歯科外来受診率と医科外来・入院受療率後期高齢者において歯科外来受診率は医科外来・入院受診率とは異なり減少している。

厚生労働省「患者調査(2005)」

39

2 医科との連携

図2-4 百レセプトあたりの歯科訪問診療件数百レセプトあたりの歯科訪問診療件数は増加している。(社会医療行為別調査)

図2-5 口腔ケアパンフレット

40

第2章 在宅歯科医療の基礎

図2-6

41

2 医科との連携

図2-7

(提供:石橋幸滋)

42

第2章 在宅歯科医療の基礎

療・介護に関与する職種のカンファレンスを行うことは不可欠である。この時、

効果的に医療を提供するために、日頃の本人および家族をはじめとして、利用者

の状況・希望を踏まえ、医師、歯科医師、薬剤師等からの情報を文書や在宅支援

連絡帳に記載し、この情報をもとに指導等を行うことが必要である。

図2-8 在宅支援連絡帳

図2-9 在宅支援連絡帳の内容例

43

2 医科との連携

(3)他職種と連携に有効なリスト類

・在宅診療、在宅歯科診療協力医の登録リスト・施設等の嘱託医、協力歯科医の登録リスト・退院時に在宅医療、歯科医療へシームレスに移行するための連携窓口(退院時カンファレンスへの関与も含めて)のリスト

  -急性期病院、回復期(療養)病院の地域連携室

  -高次医療機関、病院歯科の地域連携室

  -在宅療養支援診療所

・在宅診療における緊急時の連携病院、および全身管理が必要とする歯科治療における開放型病床のリスト

 例)市立甲府病院の開放型病床のシステム

全身的管理が必要な患者さんにたいして、かかりつけ医であり病院登録

医の先生は、病院主治医と協議し、開放病床に入院した患者さんを共同診療

する。

・摂食・嚥下障害患者受け入れ医療機関リスト嚥下造影検査(VF)、嚥下内視鏡検査(VE)等の検査が可能な診療所・病院

・他職種との連携窓口のリスト  -県・市町村相談窓口(福祉部健康衛生課等)

  -在宅介護支援事業所、地域包括支援センター

図2-10 在宅患者連携指導のイメージ

44

第2章 在宅歯科医療の基礎

(4)医師会と歯科医師会の連携協議会の必要性

現時点においては、各地域において医師会と歯科医師会の連携協議会について

は検討されている段階である。連絡協議会の開催に当たっては次に示す内容を検

討する必要がある。

・地域医師会と地域歯科医師会の在宅医療のための協力医会、協議会の組織化・各地域での相互の窓口(事務局)の設定・緊急時、地域的に対応出来ない場合を考慮して、二次・三次医療機関、口腔保健センターなどとの連携体制の確立

・医科(他職種)との合同研修会の実施・医科・歯科の情報を共有するためのホームページ等の活用

(花形哲夫)

図2-11 香川県における医療連携