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がん臨床における コミュニケーション 勤医協中央病院 精神科リエゾン科 田村 2011.8.26 リエゾンカンファレンス 資料

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がん臨床におけるコミュニケーション

勤医協中央病院 精神科リエゾン科

田村 修

2011.8.26 リエゾンカンファレンス 資料

コミュニケーションとは

コミュニケーションとは

• 語源:communicare 意味:共有する

• コミュニケーションの流れ

– 送り手が情報を発信

– 受け手が情報を受信

– 情報の理解

– 情報の理解を送り手に再発信

• 情報の種類:感情、意思、思考、知識など

• 臨床コミュニケーションも双方向の情報共有

コミュニケーションの種類

• 非言語的コミュニケーション

– 表情や動作、見た目、環境

• 準言語的コミュニケーション

– 語調、音調、スピード

• 言語的コミュニケーション

– フレーズ、内容、説明文

声の調子38%

言葉7%

表情・姿勢身振りなど

55%

Mehrabian 1971

コミュニケーションの背景

• 相手はどのような人なのか?– 判断力は十分か

– 知的レベルはどれくらいか

– 状況(病状)をどれくらい認識(理解)しているか

– どんな価値観や考えを持っているのか

– 取り巻く環境(家族・社会)の情報

• 自分とはどんな関係?– 過度に緊張/打ち解けている/仲が良すぎる

– 主従関係/対等な関係、関係が浅い/深い

– 同性/異性、年齢が近い/遠い

医師のコミュニケーション技術と関連する要因

1. がん患者の精神的苦痛 Mager et al.2002

2. がん患者の医療に対する満足感 Ishikawa et al. 2002

3. がん患者による重要な情報の開示 Maguire et al. 1996

4. 患者からの苦情 Tamblyn et al. 2007

5. 治療アドヒアランス 中川ら 2001

6. がん専門医の燃え尽き Ramirez et al. 1995

医師のコミュニケーションスキルが低いと・・・

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用

コミュニケーションは情報共有だけではない

1. がん患者の精神的苦痛 → 精神療法・メンタルケア

2. がん患者の医療に対する満足感 → 医療の質向上

3. がん患者による重要な情報の開示 → 意思決定支援

4. 患者からの苦情 → 病院のクレーム対策

5. 治療アドヒアランス → 適切な抗がん治療の提供

6. がん専門医の燃え尽き → 医師自身のケア

医師のコミュニケーションスキルが高くなれば・・・

悪い知らせのコミュニケーション

• 本当のインフォームド・コンセントとはなにか

• 倫理的問題をどう考えていくか

• 意思決定支援はどうあるべきか

• ・・・

その前に

患者と「真の話し合い」ができていない

つまり、自律を問う前提が欠如している

現在の大問題

どれがいいと思う?

• 患者さんと今後のことを話し合うとき– 病状が進行しており、今後の治療を決める

– 予後が限られており、今後の過ごし方を決める

• 次のどれがいいと思う?

どれがいいと思う?

A.患者本人に話す

(家族と一緒に話す を含む)

B.家族に許可をもらってから患者に話す

C.家族には全て話し、患者には話さない

(一部は話す、マイルドにして話す)

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用

このような問題はありませんか!?

A.まずは患者本人に話す– 本人は本当に知りたいと考えているのでしょうか?

– 家族は反対していませんか?

– 医療者の信念で行っていませんか?

B.家族に許可をもらってから患者に話す– 家族が「言わないで」と言ってきたらどうしますか?

– 本人は家族に伝えて欲しいと思っていますか?

C.家族には全て話し、患者には話さない– 本人の自律性、意思決定権を損なっていませんか?

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用

悪い知らせの定義

『患者の将来への見通しを根底から否定的に変えてしまうもの』

Buckman 1984

難治がん診断・告知

がんの再発・進行

抗がん治療の中止

終末期の話し合い

がん医療における悪い知らせ

がん医療において悪い知らせは避けて通れない

52万人/年 32万人/年闘病者300万人

Fallowfield & Jenkins 2004

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変

• 相手に苦痛をもたらすのではないかという懸念

• 教育を受けていないことをすることに対する心配

• 患者が感情的になるのではないかという心配

• 自分の感情を表現することの気恥ずかしさ

• 「わかりません」と言うことに対するためらい

• 自分自身の病気や死への恐れ

悪い知らせを伝えるのはなぜ難しいのか

自らの中にあるバリア(障壁)に気付くことは重要

Buckman, BMJ. 1984.

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用

悪い知らせを伝えるか否か

伝えることのメリット伝えないことのデメリット

伝えることのデメリット伝えないことのメリット

悪い知らせを伝えるか否か

伝えることのメリット伝えないことのデメリット

伝えることのデメリット伝えないことのメリット

伝えるか否か⇒いかに伝え、分かち合うか

悪い知らせを伝えるか否か

• 患者権利の社会的要求の高まり

– 知りたいと考えている人が増えている

• 既に医療者の倫理的慣習

• 家族-患者-医療者の協力関係の強化

– 苦難に対処し乗り越えることを支援するためには必要不可欠

患者の意向

• 治る見込みがない時に見通し(治療期間・余命)を知りたい:77%

• リビング・ウィル等により「患者の意思を尊重すること」に賛成:83.7%

厚生労働省 終末期医療に関する調査等検討会報告書 2008

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用

真の話し合い(関係性)

• 「知りたい」も「知りたくない」も含めた価値観を共有する作業

• 医師であれば判断が可能

– 多くの場合、精神科医の診断は不要

• 意思決定能力とは

– 情報を理解できる

– 筋道を通して解釈し決断できる

– 決断の意味を正しく理解している

– 理にかなった決断である

※あわせて抑うつ、せん妄のスクリーニングが必要

患者の意思決定能力の判断

Appelbaum and Grisso, N Engl J Med. 1988

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用

悪い知らせのコミュニケーション・スキル

コミュニケーションに対するがん患者の意向の構成概念:SHARE

• 対象:がん患者571名、医師7名• 方法:半構造化面接、質問紙調査• 解析:内容分析、および因子分析• 結果:619の発言内容から70項目、及び4つの構成要素

が抽出された

S upportive Environment

H ow to deliver the bad news

A dditional information

R eassurance and E motional support

Fujimori et al. 2005; 2007

SHARE

悪い知らせを伝えるコミュニケーション技術:SHARE

次回は重要な面談であることを伝える

家族の同席について触れる。場を準備する

オープンクエスチョンで気がかりを知り、気持ちを和らげる

経過を振り返り、病気に対する患者の認識を知る

心の準備の言葉掛け

悪い知らせをわかりやすくはっきりと伝える

気持ちを受け止める(沈黙、探索、保証、共感の言葉)

理解の確認

治療を含め今後のことについて話し合う

(治療、セカンドオピニオン、生活面への影響など)

理解の確認と保証

内富庸介・藤森麻衣子編(2007)『がん医療におけるコミュニケーションスキル』医学書院

起:面談までに準備する

• 事前に重要な面談であることを伝えておく

• 面談の重要性に対する患者の認識を高めるために家族の同席を促す「次回は検査結果をお伝えする大事なお話がありますので、ご家族の

方など、どなたかご一緒にいらしていただくこともできます」

• プライバシーが保たれた部屋、十分な時間を確保する

• 面談の中断を避けるため電話が鳴らないように配慮する

• 面談中に電話に出る場合には患者や家族に一言ことわりを述べる

• 身だしなみや時間遵守など基本的態度に留意する

注:初回診断、再発、積極的抗がん治療中止でポイントは異なる

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用SHARE

起:面談を開始する・・・

• 重要な面談に際して患者は緊張しているため、面談の始めからいきなり悪い知らせを伝えない

• あいさつ (時候の挨拶やオープン・クエスチョンで気持ちを和らげる)「今日は暑いですね」

「大変お待たせしました」

「この1週間いかがお過ごしでした?」

• 患者の気がかりを聞く

• 経過を振り返り、病気に対する患者の認識を知る「・・・ご家族の方にはどのように説明されましたか?」

「・・・その後病気についてどのようにお考えになりましたか?」

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用SHARE

・・・起:面談を開始する

• 患者が使う語彙に注意を向け、現実とのギャップの埋め方や何をどの程度伝えるかという戦略を立てる

• 家族にも留意する「ご主人も心配されたでしょうね」

• 医療者の同席がある場合は目的を伝え、予め了承を得る「一緒に○○さんを担当する看護師の△△です。後で質問や相談をして

いただけるように同席してもよろしいですか?」

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用SHARE

承:悪い知らせを伝える・・・

• 心の準備のための言葉をかける

「ご心配されていた結果かと思いますが」

「大変申し上げにくいのですが」

「残念な結果なのですが」

• 悪い知らせをわかりやすく明確に伝える

(がんを伝える際にはあいまいにせず「がん」という言葉を用いる)

• 写真や検査データを用いる、紙に書く

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用SHARE

・・・承:悪い知らせを伝える

• 患者の理解度を確認し、速すぎないか尋ねる

– 「ここまではご理解いただけましたか?」

– 「わからないことがあれば話の途中でもご質問くださいね」

• 質問や相談があるかどうか尋ねる

• 感情を受け止め、気持ちをいたわる言葉をかける(沈黙、探索、保証、共感の言葉)

– 「・・・(沈黙:5秒間)・・・どうお感じになりました?」

– 「・・・(沈黙)・・・大丈夫ですか?皆さん、混乱されます」

– 「・・・(沈黙)・・・とても驚かれたことでしょうね」

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用SHARE

転:今後のことについて話し合う

• 治療について話し合う標準的な治療法、その他の治療法、治療の危険性、有効性を説明した上で推奨する治療法を伝える

• 治る見込みについて話し合う「がんを完全に取り去り完治することは難しい状況ですが・・・現在の生活を

保つことが目標になります」

• セカンドオピニオンについて説明する

• 治療選択に誰が関わるか尋ねる

• 日常生活、家事、仕事など生活面への影響について話し合う

• 利用できるサービス (心理的援助、高額医療負担、訪問看護・・・)

• 患者が希望を持てる情報も伝える「痛みをとる治療はあります。我慢せずにおっしゃってください」

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用SHARE

結:面談をまとめる

• 要点をまとめる

「今日は○○についてお話しました・・・」

• 説明に用いた紙を渡す

• 責任を持って治療にあたること、見捨てないことを伝える

「私たちは最善の努力を続けます」

「ご希望があればいつでもおっしゃってください」

• 患者の気持ちを支える言葉をかける

「一緒にやっていきましょうね」

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用SHARE

コミュニケーションスキルを使う際の注意点

• 限定された状況で得られたコミュニケーションの「平均値」である

• 個別性が高いことに注意

– 「この範囲に入っていればOK」なのではない

– ≠ L/Dの正常範囲

• 方法を目的化しないこと

– (多くは無意識に)覚えたスキルと同じになるようにコミュニケーションを誘導していくことがある

参考文献

• バーナード・ロウ(著):医療の倫理ジレンマ.西村書店 2003

• 樋口範雄(監訳)、日本医師会発行:WMA医の倫理マニュアル.日本医事新報社 2007

• 吉武久美子(著):医療倫理と合意形成-治療・ケアの現場での意思決定.東信堂 2007

• ロバート・バックマン(著).真実を伝える-コミュニケーション技術と精神的援助の指針.診断と治療社 2000

• 赤林朗(編):入門・医療倫理Ⅰ.勁草書房 2005

• 藤川吉美(著):合意形成論.成文堂 2008

• 西條剛夫(著):構造構成主義とは何か‐次世代人間科学の原理.北大路書房 2005

• 斎藤清二、岸本寛史(著):ナラティブ・ベイスド・メディスンの実践.金剛出版 2003

• 西條剛夫、京極真、池田清彦(編):現代のエスプリ‐構造構成主義の展開.至文堂 2007

• Derek Doyle, et al.:Oxford Textbook of Palliative Medicine third edition. Oxford university press. 2004

• コンセンサス癌治療.vol.7 No.1 へるす出版 2008

• Yager J. :Specific components of bedside manner in the general hospital psychiatric consultation. Psychosomatics, 1989

• 内富庸介(監訳):緩和医療における精神医学ハンドブック. 星和書店 2001

• 小川朝生、内富庸介(編):精神腫瘍学クイックリファレンス.創造出版 2009

• 家族が「本人に言わないでほしい」と言ってきたらどうしたらよいか?

• 「どれくらい生きられますか」と聞かれたらどうしたらよいか?

• 患者に意思決定能力がないときにはどうしたらよいか?

• 治らないことを伝えたら患者が希望をなくしてしまうのではないか?

よくある質問

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用

• 家族に尋ねる

– どうして伝えてほしくないとお考えですか

– 今までに同様のご経験がございますか

• 家族に対して、患者にどのように伝えようとしているかを実演してみる

• 家族と共に患者に面談する

• 伝えること/伝えないことのメリット・デメリットを話す

「本人に言わないでほしい」

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用

• 患者になぜ予後を尋ねるのか聞いてみる

– もしよろしければ、どうしてお知りになりたいか伺ってもよろしいですか

– これからのことでどんなことがご心配ですか

– どれくらい詳しく知りたいとお考えですか

– これまで同じような体験をしたことがありますか

• 病気になった知人や家族のこと

• 亡くなられた知人や家族のこと

「どれくらい生きられますか」

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用

• 予後予測の限界:正確にはわからない

– 我々にも正確には予測はできないのです

• 最善の経過を期待し、最悪に備える

– 我々も最善の結果になるように願っています。一方で不測の事態にも対処できるよう準備も必要と考えています

「どれくらい生きられますか」

Back AL, Ann Int Med. 2003

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用

• 代理意思決定者が、『患者が望んでいること』を推定する作業を支援する

• 患者の信条や、どのような人生を歩んできたかが重要な意味を持つ

– (患者さんが)元気なときに、どのように考えていたか一緒に考えていきましょう

– 「意識がなくなったらこうして欲しい」などということを言っておられませんでしたか?

– 彼だったら、今どんなことを望むでしょう?

患者に意思決定能力がないとき

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用

• 「必ず治る」という希望

– 治療初期には大きな希望となる

– 病状が進行すると・・現実とのギャップが開く

– 将来への不確実さが不安や葛藤を生じる

– 苦しい(患者・家族・医療者)

治らないことを伝えたら患者が希望をなくす?

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用

• 問題指向型アプローチ

– 問題に対し解決することで希望が維持される

– 病状が進行すると、目の前の小さな問題を解決することに終始してしまう

• 目標指向型アプローチ

– 目標を持つことが希望となる

– 病状が進行しても、目標は変化させていくことができる。いくつかの目標を持つことができる

– “Hope for the Best, and Prepare for the Worst”

治らないことを伝えたら患者が希望をなくす?

Back AL, Ann Int Med. 2003

PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用