日本の財政と債務管理 - 財務省 · 日本は緊縮財政ではない...
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日本の財政と債務管理
土居 丈朗
(慶應義塾大学経済学部)
http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/
概 要
• 日本の政府債務は、ネットでみれば多くないから心配ない
• 日本銀行が、国債を大量に購入しており、国債金利はほぼゼロだから、今国債を増発しても問題ない
• 日銀が国債を保有し続ければ、将来にわたり財政負担は生じないから、後代へのつけ回しにならない
上記は、すべて誤解!
日本は、巨額の政府債務をどのようにコントロー
ルするか
© Takero Doi. 2
政府債務残高対GDP比
資料:OECD Economic Outlook © Takero Doi. 3
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日本 アメリカ イギリス
ドイツ フランス イタリア
カナダ ベルギー ギリシャ
出典:財務省資料© Takero Doi. 4
政府債務残高対GDP(GNP)比
ネットの政府債務残高対GDP比
資料:OECD Economic Outlook © Takero Doi. 5
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日本 アメリカ イギリス
ドイツ フランス イタリア
カナダ ベルギー ギリシャ
政府債務はグロスかネットか(1)
• 将来の社会保障給付が明らかでない(あるいは考慮に入れない)ならば、将来の財政負担と整合的な一般政府の債務規模は、グロスの政府債務が妥当である。
• 将来の社会保障給付を推計して考慮に入れれば、将来の財政負担と整合的な一般政府の債務規模は、ネットの政府債務プラス将来の社会保障給付(債務)の推計額と等しくなる。また、この額は、(社会保障給付債務を除く)グロスの政府債務とも等しくなる。
• 政府が保有する資産のうち、政府短期証券の見合いとして保有する資産は、負債と相殺するのが妥当である。しかし、それ以外の政府が保有する資産は、政府が事務事業を行う上でのバッファーとして保有するものとも考えられるから、相殺するのは適当でない可能性がある。
© Takero Doi. 6
政府債務はグロスかネットか(2)
• 年金積立金との見合いに負債は年金給付債務
• 年金積立金と相殺するなら、年金給付債務であるはず
• しかし、統計上では、年金給付債務は負債計上されていない
© Takero Doi. 7
年金積立金
その他
グロス政府債務
ネット政府債務
年金積立金
その他
グロス政府債務
相殺するなら?
年金給付債務現行の経済統計
出典:土居丈朗『入門|財政学』日本評論社
資料:日本銀行「資金循環統計」
国債残高に対する日本銀行の保有比率
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資料:内閣府「国民経済計算」、日本銀行「資金循環統計」© Takero Doi. 9
日銀以外が保有する国債残高
国債の大量購入とインフレ
民 間
政 府
日 本 銀 行
民 間
デフレ期(ゼロ金利下)
国債
インフレ期
償還
日本銀行
政 府 金融機関
通貨 プラスの金利
税負担 通貨
国債
ゼロ金利
国債買い入れ
デフレ脱却
出典:土居丈朗『入門|財政学』日本評論社を一部改編© Takero Doi. 10
デフレ脱却ができれば、日銀は国債を売却し、民間保有の国債には償還のための税負担が生じる
© Takero Doi. 11出典:土居丈朗『入門|財政学』日本評論社
構造的財政収支(対潜在GDP比)
日本は緊縮財政ではない
• 日本は、構造的財政収支が大きな赤字(他の先進国より赤字幅は大きい)
• 経済で潜在GDPが実現しても、財政収支は赤字
→ デフレから脱却しても、今の税制や歳出構造のままなら財政収支は黒字にならない
• 財政健全化目標の達成に向けて取り組むが、財政運営は決して緊縮財政とはいえない。「拡張したまま」というのがふさわしい
© Takero Doi. 12
財政健全化・財政の持続可能性
• 2020年度までに、国と地方の基礎的財政収支(プライマリー・バランス)を黒字化
• 政府債務対GDP比の発散を止める
政府債務 → 債務残高増加率 で増加
GDP → 経済成長率 で増加
• 経済成長率を国債利子率よりも高くすれば大丈夫
… という話では済まない
• 経済成長率が低くても確実に財政健全化を実行できる政策運営が必要
基礎的財政収支=税収マイナス一般歳出
© Takero Doi. 13
財政の持続可能性
• 持続可能性の条件
ボーンの条件
政府債務残高対GDP比がある水準以上に多く
なった状況において、前年度末(今年度初)政府債務残高対GDP比が上昇した際、基礎的財政収支対GDP比を改善させれば、財政は持続可能
© Takero Doi. 14
出典:土居丈朗『入門|財政学』日本評論社
財政の持続可能性を担保する財政運営
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財政の持続可能性を担保する財政運営
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出典:土居丈朗『入門|財政学』日本評論社
財政の持続可能性を担保する財政運営
基礎的財政収支 公債発行
赤字を拡大させる = 前年度よりも
① 財政運営 増加
公債残高対 GDP 比
大きく増加 ②
③公債残高対 GDP 比
増加抑制
④ 基礎的財政収支 公債発行
赤字を縮小させる = 前年度よりも
財政運営 減少
③や④のスタンスをとり続けることが重要!
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出典:土居丈朗『入門|財政学』日本評論社
注:西暦年下2桁を表示。特殊要因による収支変動の影響を除去している
日本の財政の持続可能性
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出典:土居丈朗『入門|財政学』日本評論社
異時点間の課税政策• 課税平準化政策…Barro (1979)現在から将来にかけて増減する政府支出を所与とし
て、資源配分に歪みを与える租税が存在するとき、異時点間の税率は、時間を通じて一定の税率で課すのが、課税に伴う超過負担(死荷重:経済活動を阻害する度合い)を最小化にできて望ましい。
課税による超過負担を抑制
→異時点間の資源配分を効率化
※課税に伴う超過負担(経済活動を阻害する度合い)の大きさは、(限界)税率の2乗に比例する
Barro, R., 1979, “On the Determination of the Government Debt,” Journal of Political Economy vol.87, pp.940‐971.
© Takero Doi. 19
課税平準化政策のイメージ
© Takero Doi. 20
出典:土居丈朗『入門|財政学』日本評論社