「尿路結石再発予防のまとめ」 -...
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「尿路結石再発予防のまとめ」
Medical Management to Prevent Recurrent Nephrolithiasis in Adults:
A Systema;c Review for an American College of Physicians Clinical Guideline
2016年4月 練馬光が丘病院 総合診療科
本田優希 監修 練馬光が丘病院 総合診療科 北村 浩一 総合診療科 濱田 治 総合診療科小坂 鎮太郎
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<2015年5月の午後外来> 57歳男性 【主訴】左側腹部痛 【現病歴】 来院当日の11時頃から徐々に左側腹部の痛みが出現した.13時頃痛みがピークになり(NRS 8/10),嘔気も出現したため受診した. 【既往歴】 尿管結石3回,HFrEF,OMI,左室心尖部血栓CKD G3 など 【内服薬】ワーファリン,プラビックス,ほか
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腹部CT:左尿管膀胱移行部に長径5mmの結石 両側腎盂に長径
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【診断】 左尿管結石
【方針】 長径5mmで水腎はなく, 自然排石されつつあるため, 飲水励行し, カロナール®頓用を処方して経過観察.
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症例の疑問
「尿路結石4回目かぁ.また起こすだろうなぁ.」
「結石の成分によって食事指導とか予防いろいろあった気がするけど覚えてないなぁ.」
「でも外来回さなきゃだし,自然排石しそうだし,まあいっか.」
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EBMの5STEP‼…の前に, まずは尿路結石について簡単に復習
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尿路結石の疫学
<日本人の上部尿路(腎,尿管)結石> • 年間罹患率は人口10 万人対134 人• 生涯罹患率は男性15.1%(約7人に1人),女性6.8%(約15人に1人)
• 結石成分は,シュウ酸カルシウム88%,尿酸8%,リン酸マグネシウムアンモニウム3%,その他1%
• 症候性尿路結石発症後の無治療での5年再発率は35-50%
Urology 2008;71:209-‐13, 尿路結石症診療ガイドライン2013
Ann Intern Med. 1989; 111:1006-‐9.
第5回尿路結石症全国疫学調査 2005年
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結石再発予防に用いられる薬剤と 作用機序
• サイアザイド • クエン酸塩 • アロプリノール
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サイアザイドによる予防機序
• サイアザイドは遠位尿細管に作用し,尿中Caを50%程度低下させ,カルシウム結石の形成を阻害
UpToDate Preven;on of recurrent calcium stones in adults
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クエン酸塩による予防機序
• クエン酸塩は肝臓のクエン酸回路で代謝され,重炭酸イオンを生成
• これが尿細管から排泄され,尿をアルカリ化➀近位尿細管でのクエン酸の再吸収率が下がり尿中クエン酸濃度上昇 →クエン酸は尿中でCaと結合し,カルシウム結石の形成を阻害 ②酸性尿の改善により,尿酸結石,シスチン結石の形成を阻害
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アロプリノールによる予防機序
• 血中尿酸値および尿中尿酸値を低下させる
• 高尿酸血症,高尿酸尿症は,尿酸結石だけでなくシュウ酸カルシウム結石の形成にも関与
尿中の尿酸濃度が一定の値を超えると,シュウ酸Caの溶解度を下げ,結晶が析出しやすくなる
Guidelines on Urolithiasis, European Associa;on of Urology, 2010
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〇予防的薬物療法の適応 Ø 新たな結石の産生 Ø もともとあった結石の増大 Ø 尿砂の排泄 Ø 3-‐6か月以上の食事療法で尿の性状が改善しない
〇尿の性状ごとに推奨される予防薬 Ø 高Ca尿(≧100-‐300mg/日 or ≧4mg/kg/日) サイアザイド Ø 低クエン酸尿(<260mg/日) クエン酸カリウム Ø 高尿酸尿(男≧800mg/日,女≧750mg/日) アロプリノールを考慮 ※すべて当院で検査可能(蓄尿・外注)
UpToDate Preven;on of recurrent calcium stones in adults
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では,ここからEBMの実践
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EBMの実践 5 steps
Step1 疑問の定式化(PICO)Step2 論文の検索Step3 論文の批判的吟味Step4 症例への適用Step5 Step1-4の見直し
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そもそもシステマティックレビューとは
• 特定の疑問に関して,数多くの研究を網羅的に再現性のある方法に従って集め,結果のまとめを行ったもの
➀現在利用可能なすべての研究データをまとめている ②各論文を批判的に評価している ③事前に定められた質評価基準を満たす研究のみを統合して結論が導かれている ※「メタアナリシス」は集められた複数の研究結果を統計学的手法を用いて統合したものを指す
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STEP1 疑問の定式化
PICO P 再発を繰り返す尿管結石患者 I 「結石再発予防薬」を内服する C 「結石再発予防薬」を内服しない O 結石再発率が減るか
「予防」の論文を検索する
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STEP2 論文の検索
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UpToDateだけでなく,日米の尿路結石ガイドラインでも 再発予防法の引用元の1つになっているメタアナリシス
ACPの尿路結石再発予防ガイドラインを作成するために行われた研究
Ann Intern Med. 2013;158(7):535-‐543. PMID:23546565
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論文のPICO
PICO RCTのメタアナリシスP 尿路結石(大半がCa結石)の既往がある患者
I 食事療法や薬物療法を行う
C 食事療法や薬物療法を行わない
O 尿路結石の再発率
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論文の背景
症候性尿路結石発症後の無治療での5年再発率は35-50%
これまでのシステマティックレビューで,飲水増量,サイアザイド,クエン酸は尿路結石の再発を減らすことが示されているが,他の薬物治療についてはエビデンスが不十分
再発予防治療のリスク・ベネフィットが不明瞭
Ann Intern Med. 1989; 111:1006-‐9.
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STEP3 論文の批判的吟味
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1.網羅的な研究検索が行われたか
①検索に用いた文献データベース Medline Cochrane Central Register of Controlled Trials Google Scholar ClinicalTrials.gov Web of Science databases ※調べていないデータベース EMBASE,CINAHL,CDSR
通常,システマティックレビューで検索するべきデータベース Medline,EMBASE CINAHL,CDSR,CENTRAL 各専門領域のデータベース など
The SPELL はじめてレビューシート
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②検索語,期間 urolith, urolithiasis, urinary calcul, kidney calcul renal calcul, kidney stone, renal colic, hypercalciuria hyperoxaluria primary, hyperoxaluria hyperuricemia, cys;nuria, hyperuricosuria hypercitraturia, calcium stone calcium phosphate stone, calcium oxalate stone uric acid stone, urate stone, cysteine stone struvite stone 2012年9月まで
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③研究の種類 比較試験,ランダム化比較試験,メタアナリシス,システマティックレビュー ④参考文献まで追跡したか 追跡した ⑤個々の研究者に連絡を取ったか 記載なし
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⑥出版されていない研究の検索 Clinical Trials. gov を参照しているが,出版バイアスがある可能性は除外できない ⑦同じ研究が複数報告されているか 記載なし ⑧英語以外で書かれた研究の検索 行っていない
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網羅的に集めようとしているが, 網羅的に集められたかは定かでない
• ファンネルプロットは示されておらず,網羅的に集められたか否かの記載もない.
<ファンネルプロット>
出版バイアスの有無の評価に用いる.
横軸を試験の治療効果,縦軸を治療効果の精度として,各臨床試験をプロット
理想的には漏斗を逆さまにしたような左右対称形になるはず しかし,治療効果が小さいとその試験結果自体が発表されにくくなるため,出版バイアスが生じる →ファンネルプロットの左下が欠ける →統合された結果は真の治療効果よりも高い評価になる
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2.複数の評価者によって評価されたか
• 2人の独立したreviewerが評価 • reviewer間でのくい違いは議論して合意を形
成
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3.明確な基準をもって評価されたか
• Cochrane Handbook for Systema;c Reviews of Interven;ons 5.0.1 の評価基準を使用
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• Review Manager, version 5.1 (The Nordic Cochrane Center)で解析
• tau2,I2統計量を使用
4.異質性は検討されたか
異質性: 研究のPICOのバラつき―臨床的異質性 研究手法の質のバラつき―方法論的異質性
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5.結果は統合されたか
• 最終的に何件の研究が残ったか 28件のRCT(8件が食事療法,20件が薬物療法) • 結果は統合されたか Random-‐effects model を用いて統合 統合されているのは,薬物療法のサイアザイド,クエン酸,アロプリノールのみ
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• 結果が統合されている,サイアザイド,クエン酸,アロプリノールについて評価
※他に,食事療法として飲水増量やソフトドリンク減量
など,薬物療法としてアセトヒドロキサム酸や薬剤の併用についても検討されているが,結果が統合されていないため今回は割愛
6.結果の評価
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フォレストプロット
・カイ二乗検定 p
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サイアザイド vs プラセボまたは対照群
対象:Ca結石(45,46,47) シュウ酸Ca結石(42) 研究内容が見られず不明(43)
有症状または画像的な結石再発を減らす. RR 0.52 [CI, 0.39 to 0.69]; 5 trials(42–43, 45–47)
異質性は低い.
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結果は何か
結石再発あり 再発なし
介入群 39/151(25.8%) 112/151(74.2%)
対照群 82/149(55.0%) 67/149(45.0%)
サイアザイド vs プラセボ
治療効果の大きさはどれくらいか ARR=55.0-‐25.8=29.2 NNT=100/29.2=3.4 RR=25.8/55.0=0.469 RRR=1-‐0.469=0.531
※厳密には各研究のWeightに応じて結果の重みが変わるので,単純にTotalの数値から計算すると結果がずれてしまう.
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結果を言葉にする
尿路結石(概ねカルシウム結石)再発患者に サイアザイド内服を行うと 4人治療すると1人尿路結石再発が減る 53.1%尿路結石再発が減少する
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クエン酸 vs プラセボまたは対照群
対象:Ca結石(48,52),シュウ酸Ca結石(34,49) 有症状または画像的な結石再発を減らす. RR 0.25 [CI, 0.14 to 0.44]; 4 trials(34, 48–49, 52) 異質性は低い.
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結果は何か
結石再発あり 再発なし
介入群 10/90(11.1%) 80/90(88.9%)
対照群 56/107(52.0%) 51/107(48.0%)
クエン酸 vs プラセボ
治療効果の大きさはどれくらいか ARR=52.0-‐11.1=40.9 NNT=100/40.9=2.4 RR=11.1/52.0=0.213 RRR=1-‐0.213=0.787
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結果を言葉にする
尿路結石(カルシウム結石)再発患者に クエン酸塩内服を行うと 3人治療すると1人尿路結石再発が減る 78.7%尿路結石再発が減少する
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アロプリノール vs プラセボまたは対照群
対象:シュウ酸カルシウム結石(53,56) 有症状または画像的な結石再発を減らす. RR 0.59 [CI, 0.42 to 0.84]; 2 trials (53, 56) しかし,53は再発数の少なさから,56はリスク予測の不正確さから,strength of evidence(SOE)は低い. 異質性は低い.
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結果は何か
結石再発あり 再発なし
介入群 26/78(33.3%) 52/78(66.6%)
対照群 41/74(55.4%) 33/74(44.6%)
アロプリノール vs プラセボ
治療効果の大きさはどれくらいか ARR=55.4-‐33.3=22.1 NNT=100/22.1=4.5 RR=33.3/55.4=0.601 RRR=1-‐0.601=0.399
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結果を言葉にする
尿路結石(シュウ酸Ca結石)再発患者に アロプリノール内服を行うと 5人治療すると1人尿路結石再発が減る 39.9%尿路結石再発が減少する
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STEP4 症例への適応
論文の結果が症例に適用できるか吟味する
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③結果を症例に適応できるか
患者にとって重要なアウトカムはすべて考慮されたか 研究患者は自身の診療における患者と似ていたか 見込まれる治療の利益は考えられる害やコストに見合うか
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患者にとって重要なアウトカムはすべて考慮されたか
症候性尿路結石の再発予防が重要であり,画像的再発のみでなく有症状の再発も含まれており,考慮されている.
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研究患者は自身の診療における患者と似ているか
本症例は,結石成分は不明だが頻度からはシュウ酸Ca結石の可能性が高く, 臨床症状を伴って再発した尿路結石であり, 研究対象患者に含まれる可能性が高い.
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見込まれる治療の利益は考えられる害やコストに見合うか 害=副作用の分析 コスト=医療経済の分析
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副作用の分析
• いずれの薬剤においても本研究内で明らかな有害事象は報告されていない.
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ヒドロクロロチアジド®の副作用重大な副作用(いずれも頻度不明) • 再生不良性貧血 • 壊死性血管炎 • 間質性肺炎,肺水腫 • 全身性紅斑性狼瘡の悪化 • アナフィラキシー • 低Na血症 • 低K血症 • 急性近視,閉塞隅角緑内障
ヒドロクロロチアジド®添付文書
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ウラリット®の副作用
ウラリット®添付文書
重大な副作用 • 高カリウム血症(0.21%)
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ザイロリック®の副作用
重大な副作用(いずれも頻度不明) • 中毒性表皮壊死融解症(TEN) • 皮膚粘膜眼症候群(Stevens-‐Johnson症候群) • 剥脱性皮膚炎 • 過敏症症候群 • 過敏性血管炎 • ショック,アナフィラキシー様症状 • 再生不良性貧血,汎血球減少,無顆粒球症,血小板減少 • 劇症肝炎等の重篤な肝機能障害,黄疸 • 腎不全,腎不全の増悪,間質性腎炎を含む腎障害 • 間質性肺炎 • 横紋筋融解症
ザイロリック®添付文書
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医療経済の分析• サイアザイド ヒドロクロロチアジド(ニュートライド®)50mg/日を3年間とする研究が多い. 25mg錠が5.6円,結石再発予防に対するNNT=4 →5.6円×2錠×365日×3年×NNT4=49,056円 で1人の3年間の再発を予防
• クエン酸 60mEq/日を3年間とする研究が多い. ウラリット®配合錠(クエン酸K・Na配合剤)13錠で59mEq相当 1錠が10.9円,結石再発予防に対するNNT=3 →10.9円×13錠×365日×3年×NNT3=465,483円 で1人の3年間の再発を予防
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医療経済の分析
• アロプリノール300mg/日を6か月~5年→他の薬剤と合わせて3年間とする.後発品100mg錠が7.7円,結石再発予防に対するNNT=5 →7.7円×3錠×365日×3年×NNT5=388,660円 で1人の3年間の再発を予防
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結石再発あるいは残存の場合の治療
ESWL 合併症 いずれも稀ではあるが
・腎被膜下血腫 ・stone street(破砕片による尿管の閉塞) ・膵炎
費用 約27万円 + 入院費,検査費・・・
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STEP5 STEP1-‐4の見直し
・論文にたどりつくまでに多大な時間を使っていないか?→〇 ・時間を費やし過ぎてはいないか?→〇 ・患者の価値観を十分に理解できたか?→× ・自分の価値観を押し付け過ぎてはいないか?→不明
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論文のまとめ
一度尿路結石を発症すると,無治療での5年再発率は35-‐50%と高い.
Ca結石再発予防の薬物治療として,サイアザイド,クエン酸,アロプリノールが有用
中でもサイアザイドは費用対効果から医療経済的にも優れていると考えられる.
網羅的検索に漏れの可能性があるが,結果に一定の信頼性はあると考える.
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選択したマネジメント
すでに帰宅させてしまっていたため,再発予防薬の処方は行っていないが, 当院定期通院患者であるため外来主治医に患者との相談を依頼する.
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Take Home Message・繰り返す尿路結石患者を診たら,排石治療だけでなく再発予防も考える. ※基礎疾患の検索,治療も重要
・Ca結石の再発予防治療として,サイアザイド,クエン酸,アロプリノールが有用
・飲水励行や食生活への介入を行った上で,結石成分や尿所見,費用対効果などを踏まえて再発予防薬を使い分けられると良い. ※適応病名にも留意
有効な結石成分 尿所見 3年間1人の Ca結石再発予防費用
サイアザイド Ca(シュウ酸+リン酸) 高Ca尿 5万円
クエン酸製剤 Ca(主にシュウ酸) 尿酸,シスチン
低クエン酸尿 47万円
アロプリノール シュウ酸Ca,尿酸 高尿酸尿 39万円