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後退確率微分方程式のLp解について
九州大学大学院数理学府数理学専攻
修士課程2年
泉 優行
指導教員:谷口説男教授
修士論文
平成24年1月23日
目次
目次
1 はじめに 1
2 準備 32.1 基本事項 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 3
定義 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 3不等式 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 5確率積分 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 6
2.2 記号および仮定 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 9記号 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 9仮定 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 10
3 リプシッツジェネレータの BSDE 103.1 存在と一意性 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 10
アプリオリ評価 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 10Lp解の存在と一意性 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 12
3.2 比較定理 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 13線型 BSDE : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 13比較定理 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 14
4 線型増大ジェネレータの BSDE 154.1 アプリオリ評価 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 154.2 Lp解の存在 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 19
線型増大関数の近似 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 19解の近似 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 21
4.3 Fan & Jiang [4]による証明 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 25
参考文献 29
i
後退確率微分方程式のLp解について
泉 優行
九州大学大学院数理学府数理学専攻修士課程 2年
概要
本論文では,通常の確率微分方程式における係数行列に相当するジェネレー
タが,それぞれリプシッツ条件を満たす場合と,リプシッツ条件は満たさない
が,線型増大条件を満たす場合の後退確率微分方程式の解の存在,一意性につ
いて考察する.ジェネレータがリプシッツ条件を満たす場合,不動点定理を適
用することによって Lp 解の存在と一意性を示すことができる.ジェネレータ
が単に線型増大条件を満たすのみである場合については,本論文中に掲げる比
較定理を用いるため,議論は 1次元方程式の場合に限定される.このときは,解の近似列を構成し,その列がコーシー列であることを証明することによって,
Lp 解の存在を示す.
キーワード: 後退確率微分方程式, Lp 解,線型増大ジェネレータ
1 はじめに
T > 0を定数,�を d 次元確率変数,W を原点を出発する n次元ブラウン運動 (定義 2.7参照),f を Œ0; T � � Rd � Rn�d で定義されたランダムなRd -値関数とする.本論文では,d 次元確率過程 Y とRn�d -値確率過程Zを求める,確率積分 (定義
2.11, 2.12参照)を含む次の d 次元方程式を考える:8<: Yt D Y0 �
Z t
0
f .s; Ys; Zs/ds C
Z t
0
Z�s dWs; 0 � t � T;
YT D �:
(1.1)
ただし,上付きの添字 “�” は行列の転置を表す.(1.1)のような方程式は,確率積分を形式的に次のような微分形;´
dYt D �f .t; Yt ; Zt/dt C Z�t dWt ; 0 � t � T;
YT D �
で表現することが多く,それゆえ確率微分方程式 (stochastic differential equation; SDE)と呼ばれる.通常,SDEにおいては時刻 t D 0での条件 (初期条件)を課すが,(1.1)では時刻 t D T での条件 (終端条件)を課している.そのため,方程式 (1.1)は通常
1
2 BSDEのLp解について
の SDEと区別して,後退確率微分方程式 (backward stochastic differential equation;BSDE)と呼ばれる.本論文では,(1.1)の 2つの式をまとめて,
Yt D � C
Z T
t
f .s; Ys; Zs/ds �
Z T
t
Z�s dWs; 0 � t � T (1.2)
とかく.BSDE (1.2)に対し,f をジェネレータ,�を終端条件といい,(1.2)を満たす,適合した確率過程の組 .Y; Z/をBSDEの解と呼ぶ�1).確率過程が適合であると
いうのは,現時点までに得られている情報が,その時点までのその確率過程の振る
舞いに関するすべての情報を有しているということである�2).通常,SDEにおいて解である未知の確率過程は 1つであるが,BSDEにおいては解は 2つの確率過程よりなる.これは,Y が終端条件に合致するよう,それまでに得られている情報を用
いて,Zによって Y をコントロールしていると捉えることができる.すなわち,望
まれる終端条件を達成せしむる Y とその戦略Zの組がBSDEの解である.BSDEを考える動機の 1つとしては,数理ファイナンスにおけるヘッジング問題が挙げられる.上場株式のように,ランダムに価格が推移する原資産に基づいて,
新たに作られた派生商品をデリバティブという.デリバティブには,それを売却す
る投資家と,それを購入する投資家とが存在するが,ここではデリバティブとして,
原資産価格に基づいて満期時のみに金銭の受け渡し (支払い)が発生するタイプのものを扱う�3).デリバティブを売却した投資家は,その得た資金でポートフォリオ (投資戦略)�4)を組み,市場で運用するが,満期時において支払額以上の資産�5)を用意し
なければ損失を出してしまう.満期時における原資産価格はランダムに決定される
ので,投資家はそれぞれの時点までの情報をもとに,満期時において損失を出さな
いような投資戦略によって資産を運用しなければならない.数理ファイナンスでは,
いくつかの仮定を置くことで,資産過程と投資戦略は,BSDEの解として記述される.すなわち,(1.2)との対応で見れば,それぞれ Y が資産過程,Zが投資戦略,そ
して終端条件 �が満期時においてデリバティブの購入者に支払われる金額に対応す
る.したがって,BSDEの解の存在を得ることができれば,投資家には損失を出さずに済む投資戦略が存在するということになる.
BSDE (1.2)の解についての最初の研究はPardoux & Peng [7]によるものである.彼らは,ジェネレータがリプシッツ条件を満たし,終端条件がL2である場合に,BSDEのL2解�6)の存在と一意性を示した.El Karouiらの論文 [3]では,Lp .p > 1/の場
1)詳しくは,定義 2.15参照.2)詳しくは,定義 2.2参照.3)このようなデリバティブの例として,ヨーロピアンコールオプションとヨーロピアンプットオプションがある.これらのデリバティブには権利行使価格というものがあり,デリバティブを購
入した投資家は,満期時の原資産価格が行使価格を上回った,あるいは下回った場合に,その差
額を受け取ることができる.前者がコール,後者がプットである.
4)ポートフォリオあるいは投資戦略とは,その時点で預金等安全資産と株式等危険資産にどれだけの資産を割り振っているかを表す量である.
5)資産とは,その時点における預金等安全資産と株式等危険資産の評価額の合計である.これを確率過程とみなしたものを,資産過程と呼ぶ.
6) Lp とは,適当な意味での p乗可積分性のことである.詳しくは,定義 2.15参照.
準備 3
合について,同様の結果が得られた.ここで,リプシッツ条件を緩めることができ
ないだろうかという疑問が生ずる.通常の SDEにおいては,Lp解の存在を保証す
る上で,リプシッツ条件は緩められることが知られている.線型増大条件はそのう
ちの 1つであり,BSDEについても同様であることが期待される.線型増大条件のもと,以下では 1次元の場合に得られている結果について述べる.終端条件がL2であるとき,Lepeltier & San Martin [6]は,ジェネレータをリプシッツ関数で近似するという方法で,解の近似列を構成し,L2解の存在を示した.さら
に,この方法を用いて,Chen [2]は,1 < p � 2である場合において,Lpにまで拡
張した同様の結果を得た.[2, 6]の方法では,構成した列がコーシー列であることを示すことによって,解を近似している.これとは別に,Fan & Jiang [4]は停止時刻を用いる議論によって,p > 2についてもLp解の存在を証明した.これらの先行結
果を踏まえると,[2, 6]の方法で構成した解の列が,p > 2においてもコーシー列で
あるかということは未解決である.本論文では,この列が p > 2の場合でも同様に
コーシー列であることを示し,その収束先としてLp解の存在を示す.
本論文の構成は以下の通りである.第 2節では,前半に確率論・確率解析での基本事項を扱う.ただし,これは主張を述べるにとどめる.そして,後半に本論文に
おいて用いられる記号・定義・仮定について述べる.第 3節では,主に [3]における結果である,リプシッツジェネレータの場合のLp解の存在と一意性について,そし
て第 4節で重要な役割を担う比較定理について述べる.第 4節では,線型増大ジェネレータの場合のLp解の存在について述べる.そこではまず,1 < p � 2の場合に
ついて,[2]に基づいて紹介する.そのあとで,本論文の主結果であるp > 2の場合
について述べる.この証明は [5]に基づいている.そして最後に,Fan & Jiang [4]による,停止時刻を用いた議論を紹介する.
2 準備
2.1 基本事項
以下では,.�; F ; P /を完備確率空間とする.
定義
定義 2.1 (フィルトレーション).
(1) F の部分 � -加法族の単調増大族 .Ft/t�0をフィルトレーションという.
(2) フィルトレーション .Ft/が右連続であるとは,Ft DT
">0 FtC" が成り立つ
ときをいう.
4 BSDEのLp解について
(3) フィルトレーション .Ft/が通常の条件を満たすとは,F0がF のすべてのP -零集合を含み,右連続であることである.
(4) Rd -値確率過程X D .Xt/t�0に対し,すべての 0 � s � tに対してXsを可測に
する最小の � -加法族
Ft WD ��¹X�1
s .A/jA 2 B.Rd /; 0 � s � tº�
に対し,.Ft/はフィルトレーションである.この .Ft/をXから生成された自
然なフィルトレーションといい,.F Xt /とかく.
定義 2.2 (適合,発展的可測). X を Rd -値確率過程,.Ft/をフィルトレーションと
する.
(1) 各 t � 0に対し,Xt がFt -可測であるとき,X は .Ft/-適合であるという.
(2) 各 t � 0とA 2 B.Rd /に対し,
¹.s; !/j0 � s � t; Xs.!/ 2 A º 2 B.Œ0; t �/ ˝ Ft
であるとき,Xは .Ft/-発展的可測であるという.ただし,“˝” は � -加法族の直積を表す.
定義 2.3(停止時刻). .Ft/をフィルトレーションとする.� W � ! Œ0; 1�が .Ft/-停止時刻であるとは,任意の t � 0に対し,¹� � tº 2 Ft が成り立つことである.
定義 2.4 (マルチンゲール). X を実数値確率過程,.Ft/をフィルトレーションとす
る.次の i)-iii) が成り立つとき,X を .Ft/-マルチンゲールという.
i) EŒjXt j� < 1; 8t � 0が成り立つ.
ii) X は .Ft/-適合である.
iii) 任意の 0 � s � t に対し,
EŒXt jFs� D Xs a.s.
が成り立つ.
iii) において,等号を “�”,“�” に置き換えたものをそれぞれ劣マルチンゲール,優マルチンゲールという.
X0 D 0 a.s.である 2乗可積分右連続マルチンゲールX全体をM2で表し,連続な
X 2 M2全体をM c2 で表す.
2.1 基本事項 5
定義 2.5 (局所マルチンゲール). .Ft/をフィルトレーション,X を .Ft/に適合した
実数値確率過程とする.�n % 1 a.s.なる .Ft/-停止時刻の列 .�n/1nD1 が存在して,
各 n � 1に対し,.Xt^�n/が .Ft/-マルチンゲールとなるとき,X を局所 .Ft/-マル
チンゲールという.ただし,t ^ �n WD min¹t; �nºである.
X0 D 0 a.s.なる連続な局所マルチンゲールX 全体をM c;locで表す.
定義 2.6 (2次変分過程). .Ft/を通常の条件を満たすフィルトレーションとし,X 2
M c;locとする.このとき,次を満たす適合連続確率過程 hXiが一意的に存在する:
� hXi0 D 0である.
� t 7! hXit は単調増加である.
� X2 � hXi 2 M c;locである.
この hXiをX の 2次変分過程という.
定義 2.7 (ブラウン運動). 確率過程W D .Wt/t�0が d 次元標準ブラウン運動である
とは,W0 D 0であり,かつ任意の n D 1; 2; : : :と任意の 0 � t0 < t1 < � � � < tn,任
意の �1; : : : ; �n 2 Rd に対し,
E
"exp
i
nXkD1
�k � .Wtk� Wtk�1
/
!#D
nYkD1
exp
��
.tk � tk�1/j�kj2
2
�が成り立つことである.ただし,i は虚数単位とする.
さらに,ブラウン運動W がフィルトレーション .Ft/に適合し,かつ任意の 0 �
s < t に対し,Wt � WsとFsが独立であるとき,W を .Ft/-ブラウン運動という.
不等式
命題 2.8. p � 1,G をFの部分� -加法族,Xを確率変数とする.このとき,X 2 Lp,
i.e. EŒjX jp� < 1ならば,
jEŒX jG �jp � EŒjX jpjG �; a.s.
である.特に,X を p乗可積分な .Ft/-マルチンゲールとすると,jX jp は .Ft/-劣マルチンゲールである.
命題 2.9 (Doobの不等式). p > 1とし,連続な非負実数値確率過程 X を p乗可積分
.Ft/-劣マルチンゲールとする.このとき,任意の T > 0に対し,
E
"sup
0�t�T
Xpt
#�
�p
p � 1
�p
EŒXpT �
が成り立つ.
6 BSDEのLp解について
命題 2.10(Burkholder-Davis-Gundyの不等式�7)). p > 0とし,cp; Cp を pのみに依
存する正定数とする.X D .X1; : : : ; Xd /を d 次元確率過程で,各Xk 2 M c;locと
し,hXit WDPd
kD1hXkit とする.また,� を停止時刻とする.このとき,
cpEhhXi
p2�
i� E
�sup
0�t��
jXt jp
�� CpE
hhXi
p2�
iが成り立つ.
確率積分
フィルトレーション .Ft/は通常の条件を満たし,W D .Wt/t�0を 1次元 .Ft/-ブラウン運動とする.
L2を実数値 .Ft/-発展的可測過程ˆ D .ˆt/t�0で,
kˆk22;t WD E
�Z t
0
ˆ2s ds
�< 1; t � 0
を満たすもの全体とし,ˆ 2 L2に対し,
kˆk2 WD
1XnD0
kˆk2;n ^ 1
2n
とする.ˆ; ˆ0 2 L2に対し,kˆ � ˆ0k2はL2に距離を定める.
L loc2 を実数値 .Ft/-発展的可測過程ˆ D .ˆt/t�0で,Z t
0
ˆ2s ds < 1; t � 0 a.s.
を満たすもの全体とする.
列 0 D t0 < t1 < � � � < tn < � � � ! 1と実数値確率変数列 .�i/1iD0で
supi;!
j�i.!/j < 1
を満たし,かつ各 �i がFti-可測であるものが存在して,
ˆt.!/ D �0.!/1tD0.t/ C
1XiD0
�i.!/1.ti ;tiC1�.t/
で表される実数値確率過程ˆ D .ˆt/t�0の全体をL0とする.
X 2 M2に対し,
X t WD®EŒX2
t �¯ 1
2 ; t � 0;
7)以後,本論文では BDG不等式と記す.
2.1 基本事項 7
X WD
1XnD1
X n ^ 1
2n
とする.X; Y 2 M2に対し, X � Y はM2に距離を定める.
また,
ˆt.!/ D �0.!/1tD0.t/ C
1XiD0
�i.!/1.ti ;tiC1�.t/
で表されるˆ 2 L0に対し,
I.ˆ/.t; !/ WD
1XiD0
�i.!/®Wt^tiC1
.!/ � Wt^ti.!/
¯; t � 0
とする.I.ˆ/ 2 M c2 である.
以上の定義の下,次が成り立つ:
(a) L0は距離 kˆ � ˆ0k2に関してL2で稠密である.
(b) M2は距離 X � Y に関して,完備距離空間であり,M c2 はM2の閉部分集合
である.
(c) I.ˆ/ D kˆk2.
定義 2.11(確率積分). 次の手順により,上で定めた写像 I を I W L2 ! M c2 にまで拡
張する:
1. ˆ 2 L2とすると,(a)により,L0の列 .ˆn/1nD1で,kˆ � ˆnk2 ! 0 .n ! 1/
となるものが取れる.
2. (c)より, I.ˆn/ � I.ˆm/ D kˆn � ˆmk2であるので,.I.ˆn//1nD1はM c
2 の
コーシー列である.
3. (b)により, I.ˆ/ � I.ˆn/ ! 0 .n ! 1/とする.
I.ˆ/ 2 M c2 をブラウン運動W に関するˆ 2 L2の確率積分といい,I.ˆ/.t; !/をZ t
0
ˆs.!/dWs.!/
とかく.
定義 2.12(確率積分). 次の手順により,定義 2.11の写像 I を I W L loc2 ! M c;locにま
で拡張する:
8 BSDEのLp解について
1. ˆ 2 L loc2 に対し,停止時刻の列 �n % 1を
�n WD inf
²t � 0
ˇ̌̌̌Z t
0
ˆ2s ds � n
³^ n; n D 1; 2; : : :
とする.このとき,各 nに対し,ˆn WD .1¹t��nºˆt/t�0 2 L2である.
2. n < mに対し, Z t^�n
0
ˆms dWs D
Z t
0
ˆns dWs
である.よって,
I.ˆ/.t/ D
Z t
0
ˆsdWs WD I.ˆn/.t/; 0 � t � �n
で定める. I.ˆ/.t ^ �n/ D I.ˆn/.t/ 2 M c2 より,I.ˆ/ 2 M c;locである.
I.ˆ/ 2 M c;locをブラウン運動W に関するˆ 2 L loc2 の確率積分という.
命題 2.13(マルチンゲール表現定理). W を d 次元 .Ft/-ブラウン運動とする.ただし,.Ft/は .F W
t /をF のP -零集合で拡張したもの,すなわち,N をP -零集合の族として,
Ft WD �.F Wt [ N /
とする.また,M 2 M c;locとする.このとき,d 次元 .Ft/-発展的可測過程 ˆ D
.ˆt/t�0で, Z t
0
jˆsj2ds < 1; 8t � 0 a.s.;
Mt D
Z t
0
ˆs � dWs; 8t � 0 a.s.
を満たすものがただ 1つ存在する.
命題 2.14(伊藤の公式). .Ft/を通常の条件を満たすフィルトレーションとし,W を
d 次元 .Ft/-ブラウン運動とする.また,Z t
0
¹jasj C jbsj2ºds < 1; 8t � 0; a.s.
を満たす,それぞれ実数値,Rd -値の .Ft/-発展的可測過程 a; bに対し,
Xt D X0 C
Z t
0
asds C
Z t
0
bs � dWs
とする.このとき,f WR ! Rに対して,導関数 f 0が存在して,かつ f 0が絶対連
続ならば,ルベーグ測度に関し a.e.で f 00が存在して,次が成り立つ:
f .Xt/ Df .X0/ C
Z t
0
f 0.Xs/asds C
Z t
0
f 0.Xs/bs � dWs
C1
2
Z t
0
f 00.Xs/jbsj2ds; t � 0; a.s.
2.2 記号および仮定 9
2.2 記号および仮定
記号
.Wt/0�t�T を完備確率空間 .�; F ; P /上で定義された n次元ブラウン運動とし,
フィルトレーション .Ft/は,.F Wt /をF のP -零集合で拡張したものとする�8).ま
た,P をすべての発展的可測�9)な確率過程が導く,B.Œ0; T �/ ˝ F に含まれる最
小の部分 � -加法族とし,ジェネレータ f を Œ0; T � � � � Rd � Rn�d で定義された,
P ˝B.Rd �Rn�d /=B.Rd /可測なRd -値関数とする.終端条件 �はFT -可測とする.p > 1の下で,S p
dを Rd -値連続適合過程 � D .�t/0�t�T で,
k�kS p
dWD
´E
"sup
0�t�T
j�t jp
#µ 1p
< 1
を満たすもの全体,H p
n�dをRn�d -値発展的可測過程 � D .�t/0�t�T で,
k�kH p
n�dWD
8<:E
24 Z T
0
j�sj2ds
!p2
359=;1p
< 1
を満たすもの全体とする.ここで,y 2 Rd に対し,jyjは Rd における Euclidノルムを表し,z 2 Rn�d に対しては,jzj D
ptrace.zz�/を表す.以後,記法の簡略化の
ため,特に必要がある場合を除き,S p
d; H p
n�dをそれぞれ単にS p; H pとかく.
k � kS p ; k � kH p はそれぞれ次の性質を満たす:
� k�n � �mkS p ! 0; n; m ! 1ならば,� 2 S pがただ1つ存在して,
k�n � �kS p ! 0; n ! 1,
� k�n � �mkH p ! 0; n; m ! 1ならば,� 2 H p がただ1つ存在して,
k�n � �kH p ! 0; n ! 1,
ここで,BSDE (1.2)の解は次のように定義される.
定義 2.15.ジェネレータ f と終端条件 � の組 .f; �/に関する BSDE (1.2) の解とは,d 次元連続適合過程 Y とRn�d -値発展的可測過程Zの組で,Z T
0
®jf .s; Ys; Zs/j C jZsj
2¯ds < 1 a.s.
と (1.2)を満たすものである.特に,.Y; Z/ 2 S p � H pなる解をLp解と呼ぶ.
8)命題 2.13中で述べたものである.9)通常,適合性・発展的可測性を論じる際,どのフィルトレーションに関するものかは明示されるべきであるが,本節以降においてフィルトレーションは .Ft /のみを用いるため,省略するこ
とにする.例えば “.Ft /-適合” は,単に “適合” と表す.
10 BSDEのLp解について
仮定
本論文においては,次の仮定 (H1)-(H5)のいずれかを用いる:
(H1)リプシッツ条件: 正定数 C が存在して,任意の .t; !/ 2 Œ0; T � � �; y1; y2 2
Rd ; z1; z2 2 Rn�d に対し,
jf .t; !; y1; z1/ � f .t; !; y2; z2/j � C.jy1 � y2j C jz1 � z2j/
が成り立つ.
(H2)R T
0jf .s; 0; 0/jds 2 Lp, i.e.,
E
" Z T
0
jf .s; 0; 0/jds
!p#< 1
である.
(H3)線型増大条件: 正定数 K と非負発展的可測過程 .gt/0�t�T が存在して,Z T
0
gsds 2 Lp; jf .t; !; y; z/j � gt.!/ C K.jyj C jzj/
8.t; !; y; z/ 2 Œ0; T � � � � Rd� Rn�d
が成り立つ.
(H4) 各 .t; !/ 2 Œ0; T � � �に対し,f .t; !; y; z/は .y; z/について連続である.
(H5) � 2 Lpである.
3 リプシッツジェネレータのBSDE本節では,(H1), (H2), (H5)の仮定の下でLp解の存在と一意性を示す.これらの
結果は不動点定理を適用することによって得られる.
3.1 存在と一意性
アプリオリ評価
Lp解は,次のようにアプリオリに評価することができる.後に示すように,この
評価式によって,Lp解の存在と一意性が得られる.
3.1 存在と一意性 11
命題 3.1. p > 1とし,Cpをpのみに依存する正定数とする.このとき,i D 1; 2に
対し,f i ; � i がそれぞれ (H2), (H5)を満たし,.Y i ; Zi/が .f i ; � i/に関するBSDEのLp解ならば,次が成り立つ:
kıY kpS p C kıZk
pH p � CpE
"jıYT j
pC
Z T
0
jıfsjds
!p#;
ただし,ıY WD Y 1 � Y 2; ıZ WD Z1 � Z2; ıfs WD f 1.s; Y 1s ; Z1
s / � f 2.s; Y 2s ; Z2
s /で
ある.
証明. 仮定より,.ıY; ıZ/は BSDE
ıYt D ıYT C
Z T
t
ıfsds �
Z T
t
ıZ�s dWs; 0 � t � T (3.1)
のLp解である.
ıZ 2 H pであることと BDG不等式により,sup0�t�T jR t
0ıZ�
s dWsj 2 L1である
ことが分かるので,R �
0ıZ�
s dWsはマルチンゲールである.したがって,(3.1)において,条件付き期待値を取ると,
ıYt D E
"ıYT C
Z T
t
ıfsds
ˇ̌̌̌ˇFt
#を得る.両辺を p乗して t に関する上限を取り,さらに命題 2.8を用いれば,
sup0�t�T
jıYt jp
� sup0�t�T
E
" jıYT j C
Z T
0
jıfsjds
!p ˇ̌̌̌ˇFt
#となる.この両辺で期待値を取ると,Doobの不等式より,pのみに依存する正定数
C1が存在して,
E
"sup
0�t�T
jıYt jp
#� C1E
"jıYT j
pC
Z T
0
jıfsjds
!p#(3.2)
を得る.
次に,ıZを評価する.(3.1)より,Z T
0
ıZ�s dWs D ıYT C
Z T
0
ıfsds � ıY0
である.ゆえに,pのみに依存する正定数C2を用いて,
E
"ˇ̌̌̌ˇZ T
0
ıZ�s dWs
ˇ̌̌̌ˇp#
� C2
´E
"jıYT j
pC
Z T
0
jıfsjds
!p#C E
"sup
0�t�T
jıYt jp
#µ
12 BSDEのLp解について
となる.これとさらにDoobの不等式,BDG不等式より,pのみに依存する正定数
C3が存在して,
E
24 Z T
0
jıZsj2ds
!p2
35� C2C3
´E
"jıYT j
pC
Z T
0
jıfsjds
!p#C E
"sup
0�t�T
jıYt jp
#µ(3.3)
となる.(3.2), (3.3)より,求める不等式を得る.
Lp解の存在と一意性
定理 3.2. p > 1とし,.f; �/に対し,(H1), (H2), (H5)を仮定する.このとき,.f; �/
に関する BSDE (1.2)のLp解が一意的に存在する.
証明. 証明には不動点定理を用いる.そのためにまず,写像S p � H p 3 .y; z/ 7!
.Y; Z/ 2 S p � H pを構成する.
今,.y; z/ 2 S p � H pを任意に取る.Yt をEŒ� CR T
tf .s; ys; zs/dsjFt �の連続な
修正とする.また,マルチンゲール表現定理により,
E
"� C
Z T
0
f .s; ys; zs/ds
ˇ̌̌̌ˇFt
#D Y0 C
Z t
0
Z�s dWs
なるZ 2 H pを取ることができる.定め方より,明らかに BSDE
Yt D � C
Z T
t
f .s; ys; zs/ds �
Z T
t
Z�s dWs; 0 � t � T
を満たす.
この写像が縮小写像であれば,証明は完了する.構成した写像により,i D 1; 2に
対し,.yi ; zi/ 2 S p � H pから .Y i ; Zi/ 2 S p � H pを得る.命題 3.1を用いると,pと f のリプシッツ係数C のみに依存する正定数Cp;C を用いて,
kıY kpS p C kıZk
pH p � CpE
" Z T
0
jf .s; y1s ; z1
s / � f .s; y2s ; z2
s /jds
!p#� Cp;C
�T p
kıykpS p C T
p2 kızk
pH p
�とできる.よって,max¹Cp;C T p; Cp;C T
p2 º < 1を仮定しておけば,構成した写像は
縮小写像となる.
3.2 比較定理 13
注意 3.3.定理 3.2の証明では,一見すると T が十分小さい場合しか示されてないよ
うに思える.しかし,T が十分な小ささを持っていない場合は,区間 Œ0; T �を必要
に応じて十分細かく有限個の小区間に分割し,分割されたそれぞれの小区間におい
て,解の存在と一意性を得る.そして,得られた解をそれぞれ繋ぎ合わせることに
よって,本来の区間 Œ0; T �における解の存在と一意性を得ることができる.
3.2 比較定理
ここでは,1次元BSDEについて考える.すなわち,S p D S p1 ; H p D H p
n�1で
ある.
比較定理は,ある種の単調性に関する主張である.すでに知られているように,通
常の 1次元SDEについては,比較定理は証明されている.そこで,BSDEについても同様の主張が成り立つだろうと期待されるが,これについては定理 3.5によって正しいことが分かる.そして,第 4節においては,近似列の単調性を得る目的で用いられる.
線型 BSDE
比較定理に入る前に,BSDEが線型な場合,すなわちジェネレータが線型な場合について述べる.この場合,BSDEの解は次の命題のように表現することができる.この表現によって,比較定理を得ることが可能となる.
命題 3.4. p > 1とする..ˇ; /を有界なR�Rn-値発展的可測過程とし,'を実数値
発展的可測過程で,EŒ.R T
0j'sjds/p� < 1を満たすとする.また,(H5)を仮定する.
このとき,次の線型 BSDE�10)
Yt D � C
Z T
t
.'s C ˇsYs C s � Zs/ds �
Z T
t
Zs � dWs; 0 � t � T
は一意のLp解 .Y; Z/を持ち,Y は次の式で与えられる:
Yt D E
"�� t
T C
Z T
t
� ts'sds
ˇ̌̌̌ˇFt
#; (3.4)
ここで,.� ts/は s � t に対し,1次元 SDE
d� ts D � t
s.ˇsds C s � dWs/; � tt D 1
10)これまでZには転置を表す “�” を用いてきたが,1次元においては通常の内積を表す中点 “ � ”を用いる.
14 BSDEのLp解について
によって定義される正値確率過程である�11).
さらに,�; ' � 0ならば,Y � 0である.
証明. ˇ; は有界なので,線型ジェネレータ f .t; y; z/ WD 't C ˇty C t � zは (H1),(H2)を満たし,�は (H5)を満たす.よって,定理3.2より,.f; �/に関する線型BSDEのLp解 .Y; Z/が一意的に存在する.
伊藤の公式より,
� tsYs D Yt C
Z s
t
� tu.Yu u C Zu/ � dWu �
Z s
t
� tu'udu; t � s � T
なので,.� tsYs C
R s
t� t
u'udu � Yt/t�s�T 2 M c;locである.ここで,ˇ; の有界性
により,任意の ˛ � 1に対し,EŒsupt�s�T j� ts j˛� < 1となる.したがって,Y 2
S p と EŒ.R T
0j'sjds/p� < 1より,Hölderの不等式を用いれば,supt�s�T j� t
sYs CR s
t� t
u'udu � Yt j 2 L1を得る.よって,.� tT Ys C
R s
t� t
u'udu � Yt/t�s�T はマルチン
ゲールである.したがって,� tT YT C
R T
t� t
u'udu � Yt のFt に関する条件付期待値
を取れば,(3.4)を得る.後半の主張は,(3.4)より明らかである.
比較定理
定理 3.5. i D 1; 2に対し,f i は (H1), (H2)を,� i は (H5)をそれぞれ満たすとし,.Y i ; Zi/は .f i ; � i/に関する BSDEのLp解とする.このとき,
�1� �2 a.s.;
f 1.t; Y 2s ; Z2
s / � f 2.t; Y 2s ; Z2
s / dt � dP -a.e.
ならば,Y 1 � Y 2 a.s.である.
証明. 以下,記号は命題 3.1と同じものを用いる..ıY; ıZ/は次の線型BSDEの解である:
ıYt D ıYT C
Z T
t
�ı2fs C �yf 1.s/ıYs C �zf 1.s/ � ıZs
�ds
�
Z T
t
ıZs � dWs; 0 � t � T;
11)SDEの一般論により,解は一意的に存在する.さらに � t は具体的に表現できて,
� ts D exp
²Z s
t
u � dWu C
Z s
t
�ˇu �
j uj2
2
�du
³; s � t
である.
線型増大ジェネレータの BSDE 15
ただし,
ı2fs WD f 1.s; Y 2s ; Z2
s / � f 2.s; Y 2s ; Z2
s /;
�yf 1.s/ WD
8̂<̂:
f 1.s; Y 1s ; Z1
s / � f 1.s; Y 2s ; Z1
s /
Y 1s � Y 2
s
; Y 1s ¤ Y 2
s
0 ; Y 1s D Y 2
s
;
�zf 1;i.s/ WD
8̂<̂:
f 1.s; Y 2s ; QZi�1
s / � f 1.s; Y 2s ; QZi
s/
Z1;is � Z
2;is
; Z1;is ¤ Z2;i
s
0 ; Z1;is D Z2;i
s
;
QZ0s WD Z1
s ; QZns WD Z2
s ;
QZis WD .Z2;1
s ; : : : ; Z2;is ; Z1;iC1
s ; : : : ; Z1;ns /; 1 � i � n � 1
であり,Z1;i ; Z2;i はそれぞれZ1; Z2の第 i 成分を表す.
仮定より,f 1は (H1)を満たすので,�yf 1; �zf 1は有界である.また,ıYT ; ı2fs �
0である.よって,命題 3.4により,結論を得る.
4 線型増大ジェネレータのBSDE本節では,本論文の主結果である,仮定 (H3)-(H5)の下での 1次元 BSDE
Yt D � C
Z T
t
f .s; Ys; Zs/ds �
Z T
t
Zs � dWs; 0 � t � T (1.2)0
のLp解の存在を示す.以下,3.2節同様,S p D S p1 ; H p D H p
n�1とする.
4.1 アプリオリ評価
第 3節同様,Lp解の存在を示す上で,アプリオリ評価は重要である.
命題 4.1. p > 1とする.
(i) Cpを pのみに依存する正定数とする.このとき,.Y; Z/がBSDE(1.2)0のLp
解ならば,
kY kpS p � CpE
"j�j
pC
Z T
0
jYsjp�1
jf .s; Ys; Zs/jds
#; (4.1)
kZkpH p � Cp
8<:E
24j�jp
C
Z T
0
jYsjjf .s; Ys; Zs/jds
!p2
35C kY kpS p
9=; (4.2)
16 BSDEのLp解について
である.さらに,f が (H3)を満たすならば,
kZkpH p � C.1 C kY k
p2
S p C kY kpS p/ (4.3)
である.ここで,C はp; K; T; EŒj�jp�; EŒ.R T
0gsds/p�のみに依存する正定数で
ある.
(ii) Cpをpのみに依存する正定数とする.このとき,i D 1; 2に対し,.Y i ; Zi/が
.f i ; � i/に関する 1次元 BSDEのLp解ならば,
kıY kpS p � CpE
"jıYT j
pC
Z T
0
jıYsjp�1
jıfsjds
#;
kıZkpH p � Cp
8<:E
24jıYT jp
C
Z T
0
jıYsjjıfsjds
!p2
35C kıY kpS p
9=;である.ここで,ıY WD Y 1 � Y 2; ıZ WD Z1 � Z2; ıfs WD f 1.s; Y 1
s ; Z1s / �
f 2.s; Y 2s ; Z2
s /である.
証明. (ii)は (i)より従う.すなわち, Qf .t; y; z/ D f 1.t; Y 2t Cy; Z2
t Cz/�f 2.t; Y 2t ; Z2
t /
とおくと,ıft D Qf .t; ıYt ; ıZt/で,.ıY; ıZ/ 2 S p � H pは
ıYt D ıYT C
Z T
t
Qf .s; ıYs; ıZs/ds �
Z T
t
ıZs � dWs; 0 � t � T
を満たす.よって,(i)のみを示す.最初に Y を評価する.伊藤の公式より,
jYt jp
Cp.p � 1/
2
Z T
t
jYsjp�2 Q1.Ys/jZsj
2ds
D j�jp
C p
Z T
t
sgn.Ys/jYsjp�1f .s; Ys; Zs/ds
� p
Z T
t
sgn.Ys/jYsjp�1Zs � dWs; 0 � t � T; (4.4)
を得る.ここで,
Q1.y/ WD
´1¹y¤0º; 1 < p < 2
1; 2 � p; sgn.x/ WD
8̂<̂:
�1; x < 0
0; x D 0
1; x > 0
である.よって,
4.1 アプリオリ評価 17
sup0�t�T
jYt jp
� j�jp
C p
Z T
0
jYsjp�1
jf .s; Ys; Zs/jds
C 2p sup0�t�T
ˇ̌̌̌Z t
0
sgn.Ys/jYsjp�1Zs � dWs
ˇ̌̌̌(4.5)
を得る.BDG不等式より,正定数C1が存在して,
2pE
"sup
0�t�T
ˇ̌̌̌Z t
0
sgn.Ys/jYsjp�1Zs � dWs
ˇ̌̌̌#
� 2pC1E
24 Z T
0
jYsj2p�2 Q1.Ys/jZsj
2ds
! 12
35� 2pC1E
24 sup0�t�T
jYt jp2
Z T
0
jYsjp�2 Q1.Ys/jZsj
2ds
! 12
35�
1
2E
"sup
0�t�T
jYt jp
#C 2p2C 2
1 E
"Z T
0
jYsjp�2 Q1.Ys/jZsj
2ds
#(4.6)
となる.ここで,上の 3番目の不等式においては," D 1=2として,次の不等式
2ab � "a2C "�1b2; " > 0; a; b � 0 (4.7)
を用いた.
Hölderの不等式より,
E
24 Z T
0
jYsj2p�2 Q1.Ys/jZsj
2ds
! 12
35� E
24 sup0�t�T
jYt jp�1
Z T
0
jZsj2ds
! 12
35�
´E
"sup
0�t�T
jYt jp
#µ1� 1p
8<:E
24 Z T
0
jZsj2ds
!p2
359=;1p
< 1
であるので,.R t
0sgn.Ys/jYsj
p�1Zs �dWs/0�t�T はマルチンゲールである.よって,(4.4)の期待値を取れば,
p.p � 1/
2E
"Z T
0
jYsjp�2 Q1.Ys/jZsj
2ds
#� E
"j�j
pC p
Z T
0
jYsjp�1
jf .s; Ys; Zs/jds
#(4.8)
18 BSDEのLp解について
となる.(4.5), (4.6), (4.8)より,Y の評価を得る.
次にZの評価をする.(4.4)において p D 2とすると,Z T
0
jZsj2ds � j�j
2C 2
Z T
0
jYsjjf .s; Ys; Zs/jds C 2 sup0�t�T
ˇ̌̌̌Z t
0
YsZs � dWs
ˇ̌̌̌である.よって,C2を pのみに依存する正定数として, Z T
0
jZsj2ds
!p2
� C2
8<:j�jp
C
Z T
0
jYsjjf .s; Ys; Zs/jds
!p2
C sup0�t�T
ˇ̌̌̌Z t
0
YsZs � dWs
ˇ̌̌̌p2
9=; (4.9)
となる.BDG不等式より,C3を pのみに依存する正定数として,
C2E
"sup
0�t�T
ˇ̌̌̌Z t
0
YsZs � dWs
ˇ̌̌̌p2
#
� C2C3E
24 Z T
0
jYsj2jZsj
2ds
!p4
35� C2C3E
24 sup0�t�T
jYt jp2
Z T
0
jZsj2ds
!p4
35� 2C 2
2 C 23 E
"sup
0�t�T
jYt jp
#C
1
2E
24 Z T
0
jZsj2ds
!p2
35 (4.10)
となる.ここで,上の 3番目の不等式においては," D 1=2として,(4.7)を用いた.(4.9)と (4.10)より,Zの評価を得る.
最後に,(4.3)を示すが,そのためにはすでに示した (4.2)の第 2項を評価し直せば十分である.(H3)とHölderの不等式より,Cp;K ; Cp;K;T ; C 0
p;K;T をその添字の文字の
みに依存する正定数として,
E
24 Z T
0
jYsjjf .s; Ys; Zs/jds
!p2
35� Cp;K
8<:E
24 Z T
0
jYsjgsds
!p2
35CE
24 Z T
0
jYsj2ds
!p2
35C E
24 Z T
0
jYsjjZsjds
!p2
359=;
4.2 Lp解の存在 19
� Cp;K;T
8<:kY kp2
S p
´E
" Z T
0
gsds
!p#µ 12
CkY kpS p C E
24 Z T
0
�"�1
jYsj2
C "jZsj2�
ds
!p2
359=;� C 0
p;K;T
0@kY kp2
S p
´E
" Z T
0
gsds
!p#µ 12
C "�p2 kY k
pS p C "
p2 kZk
pH p
1Aとなる.ここで,上の 2番目の不等式においては,CpC 0
p;K;T "p2 D 1=2として (4.7)
を用いた.これより,求める評価を得る.
4.2 Lp解の存在
ここでは,S p � H pにおける収束列を構成し,その列が実際に解に収束するこ
とを示すことによって,その存在を得る.
線型増大関数の近似
次の補題で述べるように,線型増大関数はリプシッツ関数で近似される.すなわ
ち,ジェネレータ f が (H3), (H4)を満たすとき,
fn.t; y; z/ WD inf.u;v/2RdC1
¹f .t; u; v/ C n.jy � uj C jz � vj/º; n � K (4.11)
はリプシッツ関数であって,線型増大関数 f を近似する.ここで,Kは (H3)に現れる定数である.
補題 4.2. (H3), (H4)を仮定する.このとき,(4.11)は n � Kで定義され,次の i)-iv)が成り立つ:
i) 任意の .t; !; y; z/ 2 Œ0; T � � � � R � Rd に対し,
jfn.t; !; y; z/j � gt.!/ C K.jyj C jzj/
である.
ii) fn � fnC1 � f; n � Kである.
iii) 任意の .t; !/ 2 Œ0; T � � �に対し,
jfn.t; !; y1; z1/ � fn.t; !; y2; z2/j � n.jy1 � y2j C jz1 � z2j/
である.
20 BSDEのLp解について
iv) いかなる .t; !/ 2 Œ0; T ���に対しても,.yn; zn/ ! .y; z/ならば,fn.t; !; yn; zn/ !
f .t; !; y; z/である.
証明. t と!を固定し,さらに変数を 1つにまとめることで,f W Rm ! Rとしてよい.そして,仮定もそれに合わせて次を用いる:
(H3)0 正定数 g0; K 0が存在して,
jf .x/j � g0C K 0
jxj; x 2 Rm
が成り立つ.
(H4)0 f は連続である.
また,
fn.x/ WD infy2Rm
¹f .y/ C njx � yjº; n � K 0
とし,fnが n � K 0で定義され,さらに次の i0)-iv0);
i0) jfn.x/j � g0 C K 0jxj; x 2 Rm;
ii 0) fn � fnC1 � f; n � K 0;
iii 0) jfn.x/ � fn.y/j � njx � yj; x; y 2 Rm;
iv0) xn ! xならば,fn.xn/ ! f .x/
を満たすことを示す.
(H3)0より,
f .y/ � �g0� K 0
jyj � �g0� K 0
jx � yj � K 0jxj; x; y 2 Rm
より,n � K 0ならば,
f .y/ C njx � yj � �g0� K 0
jxj C .n � K 0/jx � yj � �g0� K 0
jxj (4.12)
である.よって,fnは n � K 0で定義される.
i0), ii 0)は
f .x/ D f .x/ C njx � xj � fn.x/; x 2 Rm (4.13)
であることと (4.12)より得られる.また,fnの定義より,x; y; z 2 Rmに対し,
fn.x/ � f .z/ C njx � zj � f .z/ C njy � zj C njx � yj
であり,これを zについて下限を取れば,iii 0)を得る.
4.2 Lp解の存在 21
最後に iv0)を示す.xn ! x とする.ii 0)より,fn.xn/ � f .xn/である.よって,
(H4)0と合わせれば,lim sup
n!1
fn.xn/ � f .x/
となる.
次に,n � K 0に対し,
f .yn/ C njxn � ynj < fn.xn/ C1
n
なる列 .yn/を取る.よって,(4.12)より,
�g0� K 0
jxnj C .n � K 0/jxn � ynj � f .yn/ C njxn � ynj < fn.xn/ C1
n
� f .xn/ C1
n
である.ゆえに,.xn/と .f .xn//の有界性より,jxn � ynj ! 0であることが分かる.
したがって,yn ! xである.
f .yn/ � f .yn/ C njxn � ynj < fn.xn/ C1
n
であるので,
f .x/ � lim infn!1
fn.xn/
が分かる.したがって,
limn!1
fn.xn/ D f .x/
である.
解の近似
以下,p > 1とし,(H3)-(H5)を仮定しておく.また,煩雑さを避けるため,(H3)においてはK 2 Nとしておく.次の 2つの BSDEを考える:
Y nt D � C
Z T
t
fn.s; Y ns ; Zn
s /ds �
Z T
t
Zns � dWs; n � K; (4.14)
Ut D � C
Z T
t
¹gs C K.jUsj C jVsj/ºds �
Z T
t
Vs � dWs:
定理 3.2により,Lp解の存在と一意性が成り立つので,.Y n; Zn/と .U; V /は n � K
においてwell-definedである.さらに,定理 3.5,補題 4.2より,
Y n� Y nC1
� U; n � K: (4.15)
である.
22 BSDEのLp解について
定理 4.3. .Y n; Zn/はS p � H pにおけるコーシー列である.
証明. .Y n/は単調増加なので,極限 Y が存在する.(4.15)より,
Y K� Y n; Y � U; n � K;
となる.よって,max¹sup0�t�T jY K j; sup0�t�T jUt jº DW M 2 Lpとして,
jY n� j � M; jY�j � M; n � K; (4.16)
となる.よって,優収束定理より,
E
"Z T
0
jY ns � Ysj
p�1gsds
#! 0; E
"Z T
0
jY ns � Ysj
pds
#! 0
であり,したがって,
E
"Z T
0
jY ns � Y m
s jp�1gsds
#! 0; E
"Z T
0
jY ns � Y m
s jpds
#! 0;
as n; m ! 1 (4.17)
となる.
命題 4.1-(ii) より,
kY n� Y m
kpS p
� CpE
"Z T
0
jY ns � Y m
s jp�1
jfn.s; Y ns ; Zn
s / � fm.s; Y ms ; Zm
s /jds
#; (4.18)
kZn� Zm
kpH p
� Cp
8<:E
24 Z T
0
jY ns � Y m
s jjfn.s; Y ns ; Zn
s / � fm.s; Y ms ; Zm
s /jds
!p2
35C kY n
� Y mk
pS p
9=; (4.19)
である.
まず,(4.18)の右辺を評価する.補題 4.2-i)より,Fn;m.s/ WD jY ns jC jZn
s jC jY ms jC
jZms jとおくと,
E
"Z T
0
jY ns � Y m
s jp�1
jfn.s; Y ns ; Zn
s / � fm.s; Y ms ; Zm
s /jds
#
4.2 Lp解の存在 23
� 2E
"Z T
0
jY ns � Y m
s jp�1gsds
#C KE
"Z T
0
jY ns � Y m
s jp�1Fn;m.s/ds
#(4.20)
である.すでに (4.17)で見たように,(4.20)の第 1項は 0に収束するので,第 2項を評価する.
1 < p � 2のとき,Hölderの不等式より,
E
"Z T
0
jY ns � Y m
s jp�1Fn;m.s/ds
#
�
´E
"Z T
0
jY ns � Y m
s jpds
#µ1� 1p´
E
"Z T
0
¹Fn;m.s/ºpds
#µ 1p
�
´E
"Z T
0
jY ns � Y m
s jpds
#µ1� 1p
T 1�p2
8<:E
24 Z T
0
¹Fn;m.s/º2ds
!p2
359=;1p
(4.21)
である.ここで,(4.16)より,
supn�K
kY nkS p < 1
である.よって,(4.3)より,
supn;m�K
E
24 Z T
0
¹Fn;m.s/º2ds
!p2
35 < 1 (4.22)
が分かる.よって,(4.17), (4.18), (4.20), (4.21), (4.22)より,
kY n� Y m
kS p ! 0; as n; m ! 1 .1 < p � 2/
を得る.
p > 2のとき,Hölderの不等式と (4.7)より,
KE
"Z T
0
jY ns � Y m
s jp�1Fn;m.s/ds
#
� KE
24 Z T
0
jY ns � Y m
s j2p�2ds
! 12 Z T
0
¹Fn;m.s/º2ds
! 12
35� KE
24 sup0�t�T
jY nt � Y m
t jp2
Z T
0
jY ns � Y m
s jp�2ds
! 12 Z T
0
¹Fn;m.s/º2ds
! 12
35� "E
"sup
0�t�T
jY nt � Y m
t jp
#C "�1K2E
"Z T
0
jY ns � Y m
s jp�2ds
Z T
0
¹Fn;m.s/º2ds
#
24 BSDEのLp解について
� "kY n� Y m
kpS p
C "�1K2
8<:E
24 Z T
0
jY ns � Y m
s jp�2ds
! pp�2
359=;1� 2
p
�
8<:E
24 Z T
0
¹Fn;m.s/º2ds
!p2
359=;2p
� "kY n� Y m
kpS p
C "�1K2T2p
´E
"Z T
0
jY ns � Y m
s jpds
#µ1� 2p
�
8<:E
24 Z T
0
¹Fn;m.s/º2ds
!p2
359=;2p
(4.23)
となる.Cp" D 1=2なる "を取っておけば,(4.17), (4.18), (4.20), (4.22), (4.23)より,
kY n� Y m
kS p ! 0; as n; m ! 1 .p > 2/
となる.
最後に,(4.19)の右辺を評価する.補題 4.2-i)と Schwartzの不等式より,C を p
のみに依存する正定数として,(4.19)の第 1項について次の評価を得る:
E
24 Z T
0
jY ns � Y m
s jjfn.s; Y ns ; Zn
s / � fm.s; Y ms ; Zm
s /jds
!p2
35� C
8<:E
24 Z T
0
jY ns � Y m
s jgsds
!p2
35C E
24 Z T
0
jY ns � Y m
s jFn;m.s/ds
!p2
359=;� C
24kY n� Y m
kp2
S p
´E
" Z T
0
gsds
!p#µ 12
C Tp4 kY n
� Y mk
p2
S p
8<:E
24 Z T
0
¹Fn;m.s/º2
!p2
359=;12
375 :
よって,kY n � Y mkS p ! 0より,kZn � ZmkH p ! 0を得る.
定理 4.3より,.Y n; Zn/のS p � H pでの極限 .Y; Z/が存在する.
定理 4.4. .Y; Z/は BSDE(1.2)0のLp解である.
4.3 Fan & Jiang [4]による証明 25
証明. すでに示したように,
kY n� Y kS p ! 0; as n ! 1
である.
また,BDG不等式より,
sup0�t�T
ˇ̌̌̌Z t
0
.Zns � Zs/ � dWs
ˇ̌̌̌! 0 in Lp, as n ! 1
である.
kY n � Y kS p ! 0; kZn � ZkH p ! 0より,必要ならば適当な部分列を取って,
Y nt ! Yt ; 0 � t � T a.s.;
Zn! Z; dt � dP -a.e.
としてよい.よって,補題 4.2-iv)より,
fn.t; Y nt ; Zn
t / ! f .t; Yt ; Zt/; dt � dP -a.e.
である.今,補題 4.2-i)より,
jfn.t; Y nt ; Zn
t /j � gt C K.jY nt j C jZn
t j/
である.Hölderの不等式より,dt � dP に関して Y n ! Y; Zn ! Z in L1であるの
で,.Y n/n�Kと .Zn/n�KがdtT
� dP に関して一様可積分であることが分かる.した
がって,.fn.�; Y n� ; Zn
� //n�KもdtT
� dP に関して一様可積分である.ゆえに,Z T
0
jfn.s; Y ns ; Zn
s / � f .s; Ys; Zs/jds ! 0 in L1
となり,したがって,(4.14)において n ! 1とすれば,(1.2)0を得る.
4.3 Fan & Jiang [4]による証明
ここでは,Fan & Jiang [4] による証明を再構築し,Lp解の存在を示す.彼らの方
法は,停止時刻を用いた確率論らしい方法であり,pでの場合分けの必要もない.た
だし,p D 2とした定理 4.4は既知として話を進める.なぜならば,BSDEの解に関する研究の歴史的経緯により,まず L2解の存在が示され,そして一般の pに拡張
したいというのがその動機であるためである.
定理 4.5. BSDE(1.2)0はLp解を持つ.
26 BSDEのLp解について
証明. .Y n; Zn/は (4.14)で定義されるものとする.各 k 2 Nに対し,停止時刻 �kを
�k WD inf
²t 2 Œ0; T �
ˇ̌̌̌EŒM jFt � C
Z t
0
gsds � k
³^ T (4.24)
で定める.ただし,M は (4.16)におけるものである.また,�k % T は明らかである.
(4.14)より,
Y nt^�k
D Y n�k
C
Z T
t
1s��kfn.s; Y n
s^�k; 1s��k
Zns /ds �
Z T
t
1s��kZn
s � dWs (4.25)
である.ここで,(4.24)より,各 kに対して,
�R T
01s��k
gsds 2 L2かつ
j1t��kf .t; !; y; z/j � 1t��k
gt.!/ C K.jyj C jzj/
8.t; !; y; z/ 2 Œ0; T � � � � R � Rn;
� 各 .t; !/ 2 Œ0; T � � �に対し,1t��kf .t; !; y; z/は .y; z/について連続である,
� 0 � t � T に対し,jY nt^�k
j � k,したがって,Y n�k
2 L2
が成り立つ.これらより,定理 4.3, 4.4と同様の議論で,.Yk; Zk/ 2 S 2 � H 2がた
だ 1つ存在して,
kY n�^�k
� YkkS 2 ! 0; k1¹���kºZn� � ZkkH 2 ! 0; asn ! 1
であり,かつ
Yk.t/ D Yk.�k/ C
Z T
t
1s��kf .s; Yk.s/; Zk.s//ds �
Z T
t
Zk.s/ � dWs (4.26)
を満たす.
1t��k1t��kC1
Y nt D 1t��k
Y nt ;
1t��k1t��kC1
Znt D 1t��k
Znt
なので,n ! 1すれば,
1t��kYkC1.t/ D Yk.t/;
1t��kZkC1.t/ D Zk.t/
を得る.よって,t � �kのとき,
Yt WD Yk.t/; Zt WD Zk.t/
4.3 Fan & Jiang [4]による証明 27
で定めると,これらはwell-definedである.そして,各! 2 �に対し,kを十分大きく
取れば,定め方より,Y が連続であることが分かる.また,Zが発展的可測過程であ
ることは,その定め方から明らかである.(4.26)と Yk.t ^ �k/ D Yt^�k; Yk.�k/ D Y�k
より,
Yt^�kD Y�k
C
Z �k
t^�k
f .s; Ys; Zs/ds �
Z �k
t^�k
Zs � dWs (4.27)
となる.ここで,
P
Z T
0
jZsj2ds D 1
!D P
Z T
0
jZsj2ds D 1; �k D T
!C P
Z T
0
jZsj2ds D 1; �k < T
!� P
�Z �k
0
jZk.s/j2ds D 1
�C P.�k < T /
なので,この不等式において k ! 1とすると,R T
0jZsj
2ds < 1 a.s.を得る.よって,(4.14)と Y の定め方から,limk!1 Y�k
D �に注意して,(4.27)において k ! 1
とすれば,(1.2)0を得る.
最後に,(4.16)より,Y 2 S pであるが,Z 2 H pかどうかは定かではない.以
下,Z 2 H pであることを示す.
k 2 Nに対し,停止時刻 �kを
�k WD inf
²t 2 Œ0; T �
ˇ̌̌̌Z t
0
jZsj2ds � k
³^ T
とおく.�k % T は明らかである.(1.2)0より,.Y�^�k; 1¹���kºZ�/は次のBSDE
Yt^�kD Y�k
C
Z T
t
1s��kf .s; Ys^�k
; 1s��kZs/ds �
Z T
t
1s��kZs � dWs (4.28)
を満たす.各 kに対し,sup0�t�T jYt^�kj � sup0�t�T jYt jより,Y�^�k
2 S pであり,
�kの定義より,1¹���kºZ� 2 H pである.BSDE (4.28)のジェネレータは (H3)を満たすので,(4.3), (4.16)により,p; K; T; EŒ.
R T
0gsds/p�; kY kS p のみに依存する正定数
C が存在して,
E
"�Z �k
0
jZsj2ds
�p2
#� C
である.この左辺において,k ! 1とすれば,単調収束定理より,Z 2 H pが分
かる.
28 謝辞
謝辞
本論文は筆者が九州大学大学院数理学府数理学専攻修士課程に在籍中の研究成果
をまとめたものである.指導教員である九州大学大学院数理学研究院教授谷口説男
先生には,本研究に取り掛かる機会を与えていただき,そして本研究を進めるにあ
たっては,ご多忙中にも関わらず,数多くの熱心なご指導,ご助言をいただいた.ま
た,本論文作成にあたっては,その細部にわたり,数学的な内容のみならず,幅広
くご指導いただいた.ここに深謝の意を表する.
参考文献 29
参考文献
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