「血縁関係の推定-中妻貝塚の事例-」『縄文時代...

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西本豊弘2008「血縁関係の推定-中妻貝塚の事例-」『縄文時代の考古学』10 より 茨城県中妻貝塚(宮内他 1993、宮内他編 19951992 年取手市教育委員会により調査。フラスコ状土壙から96 体、 3~ 4 段に積み重なった状態で出土。 「これらの人骨の部位はほとんどが解剖学的に自然な位置関係にないことから、複葬と考えられる。ま た、頭骨を中心に丁寧に積み上げられていることから、投げ込まれたようなものではなく、意識的な人 骨の集積であったと思われる。人骨の中には椎骨や下顎骨が関節しているものが存在し、各固体の死亡 時期が異なっていたことがわかる」(山田康弘 2008 『出土人骨例にみる縄文の墓制と社会』同成社、 p195)。 出土土器から堀之内 1~ 2 もしくは加曽利B 1 式期。 このフラスコ上土壙で発見された人骨について mtDNA 分析を行った西本豊弘によると、分析が可能 であった 29 個体のうち 17 個体が同一のハプロタイプ(ハプロタイプ 1)に属し、つぎに多いハプロタ

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Page 1: 「血縁関係の推定-中妻貝塚の事例-」『縄文時代 …apefuchi.web.fc2.com/pdf/archaeology1-1.pdftype 1 type2 type3 type4 type5 type5 type6 type6 type6 type7 type8

西本豊弘2008「血縁関係の推定-中妻貝塚の事例-」『縄文時代の考古学』10より

茨城県中妻貝塚(宮内他1993、宮内他編1995)

1992年取手市教育委員会により調査。フラスコ状土壙から96体、3~4段に積み重なった状態で出土。

「これらの人骨の部位はほとんどが解剖学的に自然な位置関係にないことから、複葬と考えられる。ま

た、頭骨を中心に丁寧に積み上げられていることから、投げ込まれたようなものではなく、意識的な人

骨の集積であったと思われる。人骨の中には椎骨や下顎骨が関節しているものが存在し、各固体の死亡

時期が異なっていたことがわかる」(山田康弘2008『出土人骨例にみる縄文の墓制と社会』同成社、p195)。

出土土器から堀之内1~2もしくは加曽利B1式期。

このフラスコ上土壙で発見された人骨についてmtDNA分析を行った西本豊弘によると、分析が可能

であった29個体のうち17個体が同一のハプロタイプ(ハプロタイプ1)に属し、つぎに多いハプロタ

Page 2: 「血縁関係の推定-中妻貝塚の事例-」『縄文時代 …apefuchi.web.fc2.com/pdf/archaeology1-1.pdftype 1 type2 type3 type4 type5 type5 type6 type6 type6 type7 type8

イプ(ハプロタイプ3)が5個体、残り7個体がそれぞれ独立したDNA配列(ハプロタイプ2、4~9)

からなる。これを性別でみた場合、(基数:男性 20、女性 6、性別不明(若年個体)3)、女性では 6体

のうち5体(83%)が最多の同じDNA配列を持ち、男性ではこのDNA配列を持つものが10体(50%)、

二番目のDNA配列が4体(20%)、残り6体はそれぞれ異なるDNA配列を持つ(西本豊弘2008「血

縁関係の推定-中妻貝塚の事例-」『縄文時代の考古学』10、p38)。

千葉県下太田貝塚(菅谷編2003)

鈴木保彦(鈴木保彦2010「関東地方の縄文集落の葬墓制」雄山閣編集部編『シリーズ縄文集落の多様

性Ⅱ葬墓制』雄山閣)によると「人骨を多量に集積した土壙が3基検出されている。いずれの土壙から

も解剖学的に不自然な状況で人骨が検出されており、二次的な合葬墓と考えられている。時期は、堀之

内2式期以降の所産ととらえられている」(鈴木保彦2010「関東地方の縄文集落の葬墓制」雄山閣編集

部編『シリーズ縄文集落の多様性Ⅱ葬墓制』雄山閣、p183)。

西本によると、「13体の再埋葬人骨のうち、7個体はハプロタイプ 8に集中した」としている(西本

豊弘2008「血縁関係の推定-中妻貝塚の事例-」『縄文時代の考古学』10、p39)。

*現在ではDル-プ領域の配列データをもとに系統解析を行うことには危険がともなうことが知られている。Dループ領域の塩基配列は突然変異率が高いゆえに、

異なる系統に属するハプロタイプが非常によく似た塩基配列を示す場合があることが明らかになっている。そこで現在では集団の特性を検討する為には、ハプロ

タイプを比較するよりもハプログループの頻度データをもとに考察することが推奨されている(Yao et al.2003)。篠田謙一2008「縄文人骨のミトコンドリアDNA

分析」『縄文時代の考古学』10、p58。考古ではこのような同一土坑におさめられた集団を先の定義でいえば、同一出自とするのではないか。mtDNA分析とは異

なる。

*このハプロタイプ頻度による分析では、特定の血縁者によるデータのバイアスを避けるため、たがいに血縁関係のない個体をサンプリングすることから、同一

遺跡から出た同じハプロタイプの個体をあわせて1個体分と考えている。ここに個人骨分析の限界があるという(篠田謙一2008「縄文人骨のミトコンドリアDNA

分析」『縄文時代の考古学』10、p59)。