化学品の分類および表示に関する世界調和システム286 付録b...

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285 付録 B 化学品の分類および表示に関する世界調和システム GHS (The Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals, 化学品の分類およ び表示に関する世界調和システム) は,化学品の使用者がその有害性,危険性を認知できるよう,国連 によってまとめられた分類およびその表示についてのシステムで,当該化学品がどのような危険性を有 するか,どの程度危険かを分かりやすく周知するために設けられた.日本国内でも化学品の GHS 準拠 SDS の提供義務化およびラベルなどへの表示が推奨されている.以下,GHS のラベル表示の概要に ついて簡単に解説する. ●●  B.1.1 危険有害性クラス ●● GHS における危険性および有害性を表示の対象は,以下の 30 項目である. 爆発性 可燃性/ 引火性ガス エアゾール 支燃性/ 酸化性ガス 高圧ガス 引火性液体 可燃性固体 自己反応性化学品 自然発火性液体 自然発火性固体 自己発熱性化学品 水反応可燃性化学品 酸化性液体 酸化性固体 有機過酸化物 金属腐食性 急性毒性 皮膚腐食性/ 刺激性 眼に対する重篤な損傷性/ 眼刺激性 呼吸器感作性 皮膚感作性 生殖細胞変異原性 発がん性 生殖毒性 特定標的臓器毒性-単回ばく露 特定標的臓器毒性-反復ばく露 吸引性呼吸器有害性 水生環境有害性、短期間 水生環境有害性、長期間 オゾン層への有害性 ●●  B.1.2 危険性有害性区分 ●● 上記 30 の項目それぞれについて,その危険性有害性の程度を物理的,化学的なデータをもとに,毒 性や物性,反応性の違いなどにより幾つかの区分に分類を行っている.これらの区分は,アラビア数字 やアルファベットなどで表記され,基本的には,数字の小さいものが危険性が高いと言うことができる. いくつの区分に分類するか,どのように分類するかは危険有害性クラスの種類に依存する.例えば,急 性毒性のクラスに属する化学品は,その半致死量 (LD 50 ) もしくは半致死濃度 (LC 50 ) に応じて,5 つの 区分に分類されている (B.1)

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Page 1: 化学品の分類および表示に関する世界調和システム286 付録B 化学品の分類および表示に関する世界調和システム 表B.1: クラス急性毒性の区分

285

付録B

化学品の分類および表示に関する世界調和システム

GHS (The Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals,化学品の分類および表示に関する世界調和システム)は,化学品の使用者がその有害性,危険性を認知できるよう,国連によってまとめられた分類およびその表示についてのシステムで,当該化学品がどのような危険性を有するか,どの程度危険かを分かりやすく周知するために設けられた.日本国内でも化学品の GHS準拠の SDSの提供義務化およびラベルなどへの表示が推奨されている.以下,GHSのラベル表示の概要について簡単に解説する.

●● B.1.1危険有害性クラス ●●GHSにおける危険性および有害性を表示の対象は,以下の 30項目である.

• 爆発性• 可燃性/引火性ガス• エアゾール• 支燃性/酸化性ガス• 高圧ガス• 引火性液体• 可燃性固体• 自己反応性化学品• 自然発火性液体• 自然発火性固体• 自己発熱性化学品• 水反応可燃性化学品• 酸化性液体• 酸化性固体• 有機過酸化物

• 金属腐食性• 急性毒性• 皮膚腐食性/刺激性• 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性• 呼吸器感作性• 皮膚感作性• 生殖細胞変異原性• 発がん性• 生殖毒性• 特定標的臓器毒性-単回ばく露• 特定標的臓器毒性-反復ばく露• 吸引性呼吸器有害性• 水生環境有害性、短期間• 水生環境有害性、長期間• オゾン層への有害性

●● B.1.2危険性有害性区分 ●●上記 30の項目それぞれについて,その危険性有害性の程度を物理的,化学的なデータをもとに,毒

性や物性,反応性の違いなどにより幾つかの区分に分類を行っている.これらの区分は,アラビア数字やアルファベットなどで表記され,基本的には,数字の小さいものが危険性が高いと言うことができる.いくつの区分に分類するか,どのように分類するかは危険有害性クラスの種類に依存する.例えば,急性毒性のクラスに属する化学品は,その半致死量 (LD50)もしくは半致死濃度 (LC50)に応じて,5つの区分に分類されている (表 B.1).

Page 2: 化学品の分類および表示に関する世界調和システム286 付録B 化学品の分類および表示に関する世界調和システム 表B.1: クラス急性毒性の区分

286 付録 B 化学品の分類および表示に関する世界調和システム

表 B.1: クラス急性毒性の区分

LD50 ≦ 5

LD50 ≦ 50

LC50 ≦ 100

LC50 ≦ 0.5

LC50 ≦ 0.05

吸入(気体)

経口経皮

吸入(蒸気)吸入(ミスト)

ppm

mg/kg 体重mg/kg 体重

mg/L

mg/L

< LD50 ≦5 50

< LD50 ≦50 200

< LC50 ≦100 500

< LC50 ≦0.5 2.0

< LC50 ≦0.05 0.5

< LD50 ≦50 300

< LD50 ≦200 1000

< LC50 ≦500 2500

< LC50 ≦2.0 10

< LC50 ≦0.5 1.0

< LD50 ≦300 2000

< LD50 ≦1000 2000

< LC50 ≦2500 20000

< LC50 ≦10 20

< LC50 ≦1.0 5

< LD50 ≦2000 5000

< LD50 ≦2000 5000

単位 区分1 区分2 区分3 区分4 区分5

●● B.1.3危険有害性シンボル ●●GHSでは,その危険性を分かりやすく表示するために, 9種のシンボルを用いる.この GHSで規定

された 9つのシンボルは,感嘆符のシンボルを除き,特定の危険性クラスおよび危険有害性区分と関連しており,その化成品が大まかにどのようなことに注意して取り扱いを行う必要があるかを判別することができるようになっている.例えば,可燃性が高く,火気注意が必要な化学品に付けられる炎のシンボルは,引火性液体や可燃性固体などのクラスに対応し,毒性を有することを示す髑髏のシンボルは,急性毒性のクラスに対応する.このように,絵を見ることで,大まかな危険性を判断することが可能になっている.なお,感嘆符のシンボルは,比較的危険度の低いものに対して注意喚起の意味で用いられる.

シンボル

名称

対応するクラス

シンボル

名称

対応するクラス

炎 円上の炎 爆弾の爆発 腐食性 ガスボンベ

髑髏 健康有害性 環境 感嘆符

可燃性/引火性ガス引火性液体可燃性固体など

急性毒性 水生環境有害性吸引性呼吸器有害性特定標的臓器毒性発がん性など

支燃性/酸化性ガス酸化性液体酸化性固体

爆発物自己反応性化学品有機過酸化物

高圧ガス皮膚腐食性/刺激性金属腐食性

眼刺激性

図 B.1: GHSシンボル

Page 3: 化学品の分類および表示に関する世界調和システム286 付録B 化学品の分類および表示に関する世界調和システム 表B.1: クラス急性毒性の区分

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●● B.1.4注意喚起語と危険有害性情報 ●●GHSでは,シンボルの他に幾つかの情報を文字で付記することになっている.それらの重要なものに

注意喚起語と危険有害性情報がある.注意喚起語は,危険性の重大さを表すもので,「危険」と「警告」の二つの表記に表記なしを加えた,三段階で表現される.危険有害性情報は,危険性の内容について記述したもので,例えば,急性毒性の経口摂取であれば,「飲み込むと生命に危険」,「飲み込むと有毒」,「飲み込むと有害」,「飲み込むと有害のおそれ」,皮膚腐食性/刺激性の場合は,「重篤な皮膚の薬傷・眼の損傷」,「皮膚刺激」,「軽度の皮膚刺激」などのように表記が変化する.危険有害性クラス,区分,シンボル,注意喚起語,危険有害性情報の関係を以下の表にまとめて示す.

Page 4: 化学品の分類および表示に関する世界調和システム286 付録B 化学品の分類および表示に関する世界調和システム 表B.1: クラス急性毒性の区分

288 付録 B 化学品の分類および表示に関する世界調和システム

表 B.2: GHS分類および表示のまとめ

極めて可燃性/引火性の高いガス

空気に触れると自然発火するおそれ

極めて可燃性/引火性の高いエアゾール高圧容器:熱すると破裂のおそれ

可燃性/引火性の高いエアゾール高圧容器:熱すると破裂のおそれ

高圧容器:熱すると破裂のおそれ

爆発物;激しい飛散危険性

爆発物;火災、爆風、または飛散危険性

火災または飛散危険性

火災時に大量爆発のおそれ

極めて可燃性/引火性の高いガス

空気が無くても爆発的に反応するおそれ

可燃性/引火性の高いガス

空気が無くても爆発的に反応するおそれ

極めて可燃性/引火性の高いガス

圧力および/または温度が上昇した場合、空気が無くても爆発的に反応するおそれ

可燃性/引火性の高いガス

圧力および/または温度が上昇した場合、空気が無くても爆発的に反応するおそれ

高圧ガス;熱すると爆発するおそれ

高圧ガス;熱すると爆発するおそれ

高圧ガス;熱すると爆発するおそれ

深冷液化ガス;凍傷または傷害のおそれ

可燃性/引火性の高いガス

空気に触れると自然発火するおそれ

区分 1自然発火性ガス

区分 1

区分 1

区分 2 区分 3

区分 1

区分 1 区分 2

区分 2 区分 3 区分 4

区分 2A 区分 2B区分 1B区分 1A 区分 2自然発火性ガス

区分 1.1 区分 1.3 区分 1.4 区分 1.5 区分 1.6区分 1.2爆弾の爆発 爆弾の爆発 爆弾の爆発 爆弾の爆発 爆弾の爆発危険 危険 危険 危険 危険 危険警告

不安定爆発物 爆発物

炎 炎 炎 炎

危険 警告 警告炎 炎 ‒

‒ ‒

危険発火または火災助長のおそれ;酸化性物質

円上の炎

圧縮ガス 液化ガス 深冷液化ガス 熔解ガス

警告 警告 警告 警告ガスボンベ ガスボンベ ガスボンベ ガスボンベ

危険 警告 警告危険極めて引火性の高い液体および蒸気

引火性の高い液体および蒸気

引火性液体および蒸気

引火性液体

危険 警告炎 炎

可燃性固体 可燃性固体

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

不安定爆発物

大量爆発危険性

危険 危険 危険 危険 警告 警告

炎 炎 炎

爆発物

可燃性/引火性ガス

エアゾール

支燃性/酸化性ガス

高圧ガス

引火性液体

可燃性固体

Page 5: 化学品の分類および表示に関する世界調和システム286 付録B 化学品の分類および表示に関する世界調和システム 表B.1: クラス急性毒性の区分

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表 B.3: GHS分類および表示のまとめ その2

危険有害性情報

区分シンボル

注意喚起語

危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語

危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語

危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語

危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語

危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語

危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語

危険有害性情報

区分シンボル

注意喚起語

タイプA

区分 1

区分 1

区分 1

区分 1

区分 2

区分 2 区分 3

区分 1 区分 2 区分 3

区分 1 区分 2 区分 3

タイプ B タイプ C,D タイプ E,F タイプ G

熱すると爆発のおそれ 熱すると火災または爆発のおそれ

熱すると火災のおそれ 熱すると火災のおそれ危険 危険 危険 警告

爆弾の爆破 爆弾の爆破炎 炎

炎 ‒ ‒

自己反応性物質

炎危険

空気に触れると自然発火

炎危険

空気に触れると自然発火

炎警告

炎危険

自己発熱;火災のおそれ 大量の場合自己発熱;火災のおそれ

危険水に触れると自然発火するおそれのある

可燃性/引火性ガスを発生水に触れると可燃性/引火性ガスを発生 水に触れると可燃性/引火性ガスを発生

危険 警告炎 炎 炎

危険 危険 警告円上の炎 円上の炎 円上の炎

火災または爆発のおそれ;強酸化性物質 火災助長のおそれ;酸化性物質 火災助長のおそれ;酸化性物質

危険 危険 警告円上の炎 円上の炎 円上の炎

火災または爆発のおそれ;強酸化性物質 火災助長のおそれ;酸化性物質 火災助長のおそれ;酸化性物質

危険 危険 危険 警告

爆弾の爆破 爆弾の爆破炎 炎 炎

熱すると爆発のおそれ 熱すると火災または爆発のおそれ

熱すると火災のおそれ 熱すると火災のおそれ

‒‒

自己発熱性物質

酸化性固体

有機過酸化物

水反応可燃性物質

酸化性液体

タイプ A タイプ B タイプ C, D タイプ E, F タイプ G

自然発火性液体

自然発火性固体

Page 6: 化学品の分類および表示に関する世界調和システム286 付録B 化学品の分類および表示に関する世界調和システム 表B.1: クラス急性毒性の区分

290 付録 B 化学品の分類および表示に関する世界調和システム

表 B.4: GHS分類および表示のまとめ その3

腐食性警告

金属腐食性のおそれ注意喚起語危険有害性情報

区分シンボル

金属腐食性物質区分 1

区分 1

区分 1

区分 1A

区分 1 区分 2A 区分 2B

区分 1B 区分 1B

区分 2

区分 2

区分 2 区分 3

区分 3

区分 3

区分 4

区分 4 区分 5

警告 警告危険 危険炎 炎 炎 炎

火災、爆風または飛散危険性;鈍感化剤が減少した場合には爆発の危険性の増加

火災または飛散危険性;鈍感化剤が減少した場合には爆発

の危険性の増加

火災または飛散危険性;鈍感化剤が減少した場合には爆発

の危険性の増加

火災危険性;鈍感化剤が減少した場合には爆発の危険性の

増加

重篤な皮膚の薬傷•眼の損傷

重篤な皮膚の薬傷•眼の損傷

重篤な皮膚の薬傷•眼の損傷

皮膚腐食性/刺激性

危険 危険 危険 警告髑髏 髑髏 髑髏 感嘆符 ‒

警告

区分シンボル注意喚起語

飲み込むと生命に危険 飲み込むと生命に危険 飲み込むと有毒 飲み込むと有害 飲み込むと有害のおそれ

皮膚に接触すると生命 皮膚に接触すると生命 皮膚に接触すると有毒 皮膚に接触すると有害 皮膚に接触すると有害の

吸入すると生命に危険 吸入すると生命に危険 吸入すると有毒 吸入すると有害 吸入すると有害のおそれ

(経口)

(経皮)

(吸入)

危険性有害性情報

危険 危険 危険 警告腐食性 腐食性 腐食性 感嘆符

皮膚刺激警告

軽度の皮膚刺激

感嘆符危険 警告警告腐食性

重篤な眼の損傷 強い眼刺激性 眼刺激性

呼吸器感作性区分 1A, 1B

区分 1A, 1B 区分 2

皮膚感作性区分 1A, 1B

危険健康有害性

警告感嘆符

アレルギー性皮膚反応を起こすおそれ

危険 警告健康有害性 健康有害性

遺伝性疾患のおそれ 遺伝性疾患のおそれの疑い

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

生殖細胞変異原性

呼吸器感作性または皮膚感作性区分シンボル注意喚起語危険有害性情報 吸入するとアレルギー、喘息または、

呼吸困難を起こすおそれ

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

に危険 に危険 おそれ

急性毒性

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

鈍感化爆発物

Page 7: 化学品の分類および表示に関する世界調和システム286 付録B 化学品の分類および表示に関する世界調和システム 表B.1: クラス急性毒性の区分

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表 B.5: GHS分類および表示のまとめ その4発がん性

生殖毒性

吸引性呼吸器有害性

水生環境有害性

オゾン層への有害性

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

区分シンボル注意喚起語危険有害性情報

区分 1A, 1B

区分 1

区分 1

区分 1

区分 1

区分 2

区分 2

区分 2

区分 3

区分 2

区分 1A, 1B 区分 2

危険 警告健康有害性 健康有害性

発がんのおそれ 発がんのおそれの疑い

危険 警告健康有害性 健康有害性

生殖能または胎児への悪影響のおそれの疑い 生殖能または胎児への悪影響のおそれの疑い

感嘆符危険 警告警告

健康有害性 健康有害性

臓器の障害 臓器の障害のおそれ 呼吸器への刺激のおそれ、または 眠気またはめまいのおそれ

特定標的臓器毒性‒単回暴露

特定標的臓器毒性‒反復暴露

危険 警告健康有害性 健康有害性

長期にわたる、または反復暴露による臓器の障害 長期にわたる、または反復暴露による臓器の障害のおそれ

危険 警告健康有害性 健康有害性

飲み込んで気道に侵入すると生命に危険のおそれ 飲み込んで気道に侵入すると有害のおそれ

環境 環境 環境警告 警告

水生生物に非常に強い毒性

水生生物に毒性 水生生物に有害 長期継続的影響により水生生物に非常に強い毒性

長期継続的影響により水生生物に毒性

長期継続的影響により水生生物に有害

長期継続的影響により水生生物に有害のおそれ

‒‒

‒‒

‒‒

‒‒‒

区分 急性 1 区分 急性 2 区分 急性 3 区分 慢性 1 区分 慢性 2 区分 慢性 3 区分 慢性 4

感嘆符警告

オゾン層を破壊し、健康および環境に有害