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日本の高齢者雇用 リクルートワークス研究所 所長 大久保 幸夫 2019/7/3 市町村セミナー 1

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Page 1: 日本の高齢者雇用 - mhlw新卒就職した会社で男性の「約3割」が定年を迎える 一斉に会社を卒業する=有望な労働市場??出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2018」

日本の高齢者雇用

リクルートワークス研究所

所長 大久保 幸夫

2019/7/3

市町村セミナー

1

Page 2: 日本の高齢者雇用 - mhlw新卒就職した会社で男性の「約3割」が定年を迎える 一斉に会社を卒業する=有望な労働市場??出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2018」

自己紹介

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大久保幸夫

リクルートワークス研究所所長 兼 株式会社リクルート 専門役員

(一社) 人材サービス産業協議会理事

(一社) 産業ソーシャルワーカー協会理事

文部科学省 中央教育審議会 生涯学習分科会委員

経済産業省 ダイバーシティ経営企業100選 運営委員

厚生労働省 ジョブカード推進協議会 委員

内閣府 地域働き方改革支援チーム 構成員

財務省 コンプライアンス推進会議 アドバイザー

著書として

『働き方改革 個を活かすマネジメント』(日本経済新聞出版社)

『日本の雇用』(講談社)

『日本型キャリアデザインの方法』(日本経団連出版) 他、多数

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小泉政権時に打ち出した「健康寿命80歳」

「現在は60歳までに老後の生活費を蓄えなければならないので、お金が必要な時、時間が必要な時、遊びたいとき、働きたいときの間でミスマッチが起きている。健康寿命80歳の生涯現役社会を想定することで、人材が流動化し、生き方の選択の幅を大きく広げることができる」

現在の健康寿命(2016年)

男性 72.14歳

女性 74.79歳

出所:「日本21世紀ビジョン」内閣府編 H17年

3

4歳

6.8歳

平均寿命

健康寿命

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高齢者の持つ専門性

4

2.6

10.2

17.8

26.731.1

37.241.2

44.6

0.8

1.1

2.8

4.7

6.5

11.4

12.8

16.0

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

18~24歳 25~29歳 30~34歳 35~39歳 40~44歳 45~49歳 50~54歳 55~59歳

第一人者として社会的

に認められている段階

自分の知識や技術が高

く評価されている段階

(%)

60.6%

出所:リクルートワークス研究所 ワーキングパーソン調査 2012

● 定年を迎える正社員の60%はプロレベルの知識・技術を持っている

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20.8

6.5 7.54.6 6.0 3.8 3.2 5.6 4.8 5.1 5.6 3.4 2.6 4.0

6.72.6 3.0 0.9 1.2 1.1 0.4

32.1

23.1 21.3

20.2 19.018.1 16.9

16.9 16.5 14.5 14.113.9 13.4 10.6

10.4

7.6 7.56.8 5.3 4.9

3.70

10

20

30

40

50

60

相手との間に信頼関係をつくる力

自分で決めたことをやり遂げる力

誰とでも協力的に仕事をする力

新しいことに挑戦する力

気持ちのゆとりをもって仕事と向きあう力

自ら率先して実行する力

実行計画をたてる力

事実や情報を、適切に集める力

簡単にあきらめない力

何が問題点かを明らかにする力

自分のやる気を高める力

目標を決める力

解決策を立案する力

相手の発言の真意を理解する力

よい第一印象を与える力

多くの人をたばねて、引っ張っていく力

人を励ましたり、助けたりする力

楽観的に考える力

よい習慣を身につける力

相手を説得する力

自分の感情を安定させる力

高齢者が強みとする基礎力

出所:リクルートワークス研究所 「シニアの就業意識調査」 2006年

■仕事に活かしていきたい能力(上位3つまで)■最も仕事に活かしていきたい能力

5

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新卒就職した会社で男性の「約3割」が定年を迎える

一斉に会社を卒業する=有望な労働市場??

出所:リクルートワークス研究所 「全国就業実態パネル調査2018」

○ 年齢階級別「退職0回」の割合

84.8

73.1

63.7

51.3

43.7

38.8 37.935.9

32.2

11.3

3.81.2

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

15~19歳 20~24歳 25~29歳 30~34歳 35~39歳 40~44歳 45~49歳 50~54歳 55~59歳 60~64歳 65~69歳 70歳~

(%)

6

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「定年後」に対しては準備不足

○定年後の準備をする習慣は根づいていない○次のキャリアの準備をするシニアは減少

2001 2005 2010 2015

老後も働いて収入が得られるように職業能力を高める

14.7 6.9 5.0 6.4

出所:内閣府「第8回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(2015年)

50代前半まで

50代後半

60代になってから

していない

現在の働き方について家族に相談をしはじめた

10.4 12.3 22.0 55.3

現在のような働き方ができる会社を探しはじめた

11.1 10.0 26.9 52.1

現在のような働き方を一緒にできる仲間を探しはじめた

9.7 3.6 7.8 78.8

現在の働き方に直接必要な知識や技能を学びはじめた

34.1 8.3 9.3 48.3

現在の働き方に必要な資金計画をはじめた

14.6 4.0 3.4 78.0

出所:リクルートワークス研究所「60代の就業に関する調査」(2011年)

7

○定年後のキャリアの見通しが開けていた?(55-59歳)

あてはまるどちらあというとあて

はまる

どちらともいえない

どちらかというとあてはまらない

あてはまらない

1.4 11.6 45.3 24.8 17.0

出所:リクルートワークス研究所 「全国就業実態パネル調査 2018」

%

13.0

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高齢者中途採用を促す要因と阻害する要因

8

≪促す要因≫

○構造的な労働力不足

○テクノロジーの進化

○健康寿命の延伸(人生100年)

○65歳以降の高齢者に対する雇用促進のための法改正

≪阻害する要因≫

● アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)

● マネジメントの難しさ

● 定年を迎えた社内高齢者の雇用確保義務

● 高齢者自身のセカンドキャリアの準備不足

≪両面性を持つもの≫ △定年制

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転職の成否を分けるのは60歳 ――60代の転職市場構造が鍵

9

● 2015年に未就業でかつ就業希望があった人のうち2016年に就業していた人の割合

出所:リクルートワークス研究所 「全国就業実態パネル調査」より『働き方改革の進捗と評価』2017年

60歳を超えると転職は難しくなる

55-59歳 60-64歳 65歳以上

41.1% 14.6% 14.3%

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高齢者の定年前後のキャリア・パス

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① 在籍企業でそのまま正社員として勤務(定年延長)

② 在籍企業で有期雇用に変更して再雇用

③ 転職

④ 独立・開業

⑤ 引退

⑥ 無業 引退という意思決定をしていないが、現実として就業できず引退状態に追い込まれている人たち

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高齢者の中途採用 ――会社・事業に対する効果

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55-64歳を中途採用した企業で、今後も採用意向があると回答した企業が会社・事業に対する効果として当てはまるものを複数回答した結果

① 人材を確保できたことで周囲のメンバーの負担軽減につながった 38.1%

② 新しい知識やものの見方を得られた 28.3%

③ 周囲のメンバーのスキルアップにつながった 24.8%

④ 社内の他の同世代の人への良い意味でのプレッシャーになっている 23.4%

⑤ 職場の雰囲気がよくなった 19.6%

は「今後採用意向がない」と回答した企業との差が大きいもの

出所:リクルート 「定年前後の転職者の採用・受け入れ実態調査」2019年

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高齢者の中途採用 ――成功のポイント

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55-64歳を中途採用した企業で、今後も採用意向があると回答した企業が職場で実際に工夫していることについて複数回答した結果

① 対応可能な仕事量を任せている 26.6%

② 周囲とのコミュニケーション状況をケアしている 26.2%

③ 転職者本人と不定期でよく話すようにしている 25.5%

④ 対応可能な仕事内容を任せている 25.2%

⑤ 体調面をケアしている 24.5%

は「今後採用意向がない」と回答した企業との差が大きいもの

出所:リクルート 「定年前後の転職者の採用・受け入れ実態調査」2019年

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次世代シニアが本当の高齢者になる前に対策を

生まれた年 年齢(2019年時点)

人口

次世代シニア

バブル大量採用世代(大学をバブル期に卒業)

1967-70年 49-52歳 734万人(大卒164万人)

団塊ジュニア世代(親が団塊世代)

1971-74年 45-48歳 792万人

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求められるシルバー人材センターの活性化

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① 市町村の委託事業に対する依存度が高く、仕事開拓が進んでいない

② 生きがいを得る就業に軸足があり、得られる収入額が不十分である

③ 高齢者雇用に関するノウハウの蓄積が進んでいない

④ 「臨時的かつ短期なもの」「軽易な業務」に限られている

⑤ 職務内容が偏り、ホワイトカラーとのミスマッチが発生している

シルバー人材センターは、全国の市町村ごとに設立されてる公益法人で1200以上あり、約70万人の会員がいるが――

① 民間企業からの求人開拓の促進

② データベースの活用

③ 広域斡旋の検討

④ 臨時・短期という制約の緩和(兵庫県・養父市の特区など)

⑤ 民営との事業連携によるフルタイム斡旋(松山市など)

参考文献:長島一由 「シルバー人材センターの現状と課題」(Works Review vol.10,30-43)

粗入会率が全国平均1.8%に過ぎず、高齢者に対する就業支援機関として十分な役割を果たせていない

<現状>

<改革の視点>

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タスクの細分化で就労の場を確保

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(事例)鳥羽市(三重県)の旅館業

鳥羽市は税収の8割を宿泊産業に依存しているが、地方宿泊業は労働力不足が深刻で客室稼働率が低下

旅館業に「プチ勤務」を導入し、仕事カタログを制作した。多様な地元人材とマッチングすべく職場見学ツアーも実施している(とばびと活躍プロジェクト)

労働時間、職業能力に制約がある人々とマッチング(たとえば一旦リタイアした高齢者)

業務(JOB)

細分化

職務(TASK)

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55-74歳のシニアをコア対象として、厚生労働省、県、市等の主催で実施。からだ測定プログラムはリクルートが開発・提供。「働いているから健康でいられる」の考えをベースに高齢者が自らの健康状態に自信をもって就業できるよう支援している。

「体力」

「処理力」

「個性(性格特徴)」

からだ測定

必要な能力を

明確にした求人情報

業務の細分化

30分で自分の能力とできる仕事が

わかる

「就業意欲なし」の2割も就業へ

適切な仕事をレコメンド

企業の人手不足解消

実施地域

岩手県大槌町

岩手県陸前高田市

岩手県釜石市

石川県金沢市

神奈川県小田原市

神奈川県鎌倉市

広島県福山市

千葉県柏市

測定結果と適合する求人票をセットで手渡し

●部品組み立ての適性検査

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「からだ測定」で高齢者雇用促進

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高齢者の学び直し支援政策(今後の検討課題)

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① キャリアパスを明示した訓練

「(中小企業の)経営幹部として活躍する」「プロとして経験と専門性を活かす」「創業もしくはフリーランサーをめざす」というようにキャリアパスを明確に設定してそのための訓練メニューを開発する

② ストリート・ナレッジの重視

経営幹部として活躍するためには、実践で使えるストリート・ナレッジが必要。中小企業経営者によって不可欠な、経営の数字に関する知識・技術や銀行との取引に関する知識などで、MBAで教えることとは根本的に異なる

③ アドオン(トッピング)学習の充実

プロとして持続的に活躍するためには、知識や技術のアップ・デイトや周辺知識の獲得が重要になる。白紙から学ぶプログラムではなく「ちょい足し」感覚が適している

④ 小規模事業運営ノウハウの学習

創業もしくはフリーランサーをめざす人のために、経営や税務等の知識や、ITスキルの習得機会を提供する。コミュニティ・ビジネスの後押しにつながる

⑤ 指導者としての在職者訓練

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定年を機に生まれる価値観

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長時間ではない 重い責任ではない 命令されない 不慣れではない

顧客のため 社会のため 仲間のため 若い人のため

無理なく

役に立つ

「イキイキと働いている」と新聞・雑誌で紹介された高齢者にインタビューし、たえざる比較を用いて、キーワードを抽出した

出所:福島さやか 「高齢者の就労ニーズ分析」(Works Review vol.1,8-21)

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高齢期の就労ニーズに合致する4つの就労モデル

若手とのデュアルスタッフィング型

グループによるジョブシェアリング型

専門分野トレーナー型

仲間同士のコミュニティビジネス型

重い責任ではない 若い人のため× =

長時間ではない 仲間のため× =

命令されない 社会のため× =

不慣れではない 顧客のため× =

無理なく 役に立つ× 就労モデル

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まとめ

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○ 高年齢者は、今後構造的人材不足が続くなかでは、重要かつ魅力的な人材市場であり、人生100年時代の生活設計を考慮すれば、働いて収入を得られる社会環境を整備することは急務である

○ しかしながら、高年齢者の外部労働市場(転職市場)は極めて未熟な状態にある

○ 一方、何から着手すれば良いのか、という方向性は見えつつあり、若干ではあるが事例も出はじめている

○ 各市町村が競って、高年齢者がイキイキと働く環境をつくっていただきたい